抄訳
piRNA(PIWI-interacting RNA)は、動物の生殖巣においてトランスポゾンの発現抑制に機能する小分子RNAである。piRNAは、成熟型より少し長い前駆体RNAがPIWIタンパク質に取り込まれ、その3'末端が削りこまれることによりつくられる。piRNA前駆体を成熟型の長さまで削るヌクレアーゼ「Trimmer(トリマー)」の存在はこれまで予想されていたが、分子実体は不明であった。
本研究ではpiRNAを発現するカイコ卵巣由来の培養細胞BmN4を用いた生化学的解析から、PNLDC1(PARN (polyA specific ribonuclease) -like domain containing 1)をカイコTrimmerとして同定した。Trimmerは、PARNと相同性のあるヌクレアーゼドメインを有する機能未知のタンパク質で、先行研究においてトリミングへの関与が示唆されていたPIWIタンパク質結合因子Papiと相互作用する。Trimmerには膜貫通ドメインが予測され、ミトコンドリア画分に存在することから、Papiと同様にミトコンドリア外膜タンパク質だと考えられた。興味深いことにTrimmerは単独では機能できず、piRNA前駆体のトリミングにはPapiを必要とすることが明らかとなった。また、PapiのPIWIタンパク質結合能およびRNA結合能がトリミングに必要であることから、PapiはpiRNA前駆体を取りこんだPIWIタンパク質をTrimmerにリクルートする役割があると考えられた。さらにpiRNA前駆体の3'末端が削りこまれ成熟型になることが、piRNAの安定性や機能発揮に重要であることを見出した。上記の結果は、ミトコンドリア膜上でTrimmerとPapiが協働してpiRNA前駆体の末端を削りこむというトリミングの分子機構とその意義を明らかにしたものである。