抄訳
過食や飢餓状態はともに生殖能を低下させることが知られているが、食事と生殖能をつなぐ分子機構は明らかにされていなかった。我々は、食事と男性の生殖能の関係に着目し研究を進めた。本研究では、摂食により小腸上部から分泌される消化管ホルモンGastric inhibitory polypeptide (GIP)の受容体がマウス精子細胞に発現し、受精に必須とされる卵側の因子CD9に結合するPSG17の発現を正に制御すること、PSG17が精子頭部に発現し、GIPシグナルを遮断したマウスの精子が野生型マウスの精子と比較して有意に卵との受精能が低いことを報告する。また、摂食によってGIPの血中濃度は上昇し、精巣でのPsg17発現も増加するが、長期間高脂肪食を負荷すると精巣のGIP受容体発現量が著明に低下し、GIP抵抗性が生じることも明らかになった。これらの結果は、飢餓によるGIP血中濃度の低下や、過食によるGIP受容体の発現量低下によってもたらされるGIPシグナルの低下が受精能を低下させることを示唆する。また、精巣におけるGIP抵抗性は、肥満症・糖尿病における男性不妊の一因と考えられることから、GIP抵抗性の改善が、肥満症・糖尿病における男性不妊の新たな治療法となることが期待される。