抄訳
腸管出血性大腸菌(以下、EHEC)は溶血性尿毒素症候群などの重症例を伴う感染症を引き起こす、臨床上重要な病原性細菌である。EHECの多くは、宿主細胞への感染に直接に関与する3型分泌装置をコードするLEEと呼ばれる病原性遺伝子群をもつ。このLEEの発現が活性化するとき、べん毛をコードするべん毛遺伝子群の発現が抑制される。この遺伝子発現制御の意義は、宿主細胞への感染の際、宿主側の免疫系を活性化するべん毛の発現を抑制することで、免疫系の誘導を回避することにあると考えられる。本研究は、低分子RNAであるEsr41が、LEEの主要な転写活性化因子をコードするlerを転写後段階で抑制すること、lerの転写活性化因子をコードするpchの転写を間接的に抑制することでLEEの発現を抑制し、EHECの宿主細胞への接着性を低下させることを示した。さらに、Esr41がべん毛特異的シグマ因子をコードするfliAの転写を間接的に活性化させることで、べん毛遺伝子群の発現を上昇させることを示した。これらの結果は、LEEとべん毛遺伝子群間における逆相関の発現制御においてEsr41が重要な役割を担うことを示唆する。