抄訳
海藻藻場やサンゴ群集は重要な生態系の構成要素だが、近年、温帯の海藻藻場が衰退しサンゴ群集に置き換わる現象が生じている。本研究は60年以上にわたる生物出現記録の文献を収集・精査し、国内の温帯で進行している海藻藻場の分布縮小と造礁サンゴ群集の分布拡大の全貌を明らかにした。さらに気候変動と海流輸送、海藻を食害する魚類の影響を組み込んだ解析を行い、海藻藻場からサンゴ群集への置き換わりが進行する機構を解明した。海流を利用した移動分散に長けた食害魚類やサンゴは、温暖化によって新たに生息可能になった海域へとより早く分布を拡大するが、移動分散能力の低い海藻は徐々にしか分布を更新できなかった。このため魚類による食害とサンゴの加入によって分布が縮小し、次第にサンゴ群集へと置き換わることが分かった。さらに今後も温帯では海藻藻場の減少とサンゴ群集の増加が進行すると予測され、生態系機能・サービスも大きく変化すると予想される。