抄訳
内臓知覚過敏と大腸透過性の亢進は,過敏性腸症候群(IBS)の病態に関与していると考えられているが,その詳細は明らかではない.我々は,ラットで大腸伸展に伴う腹筋収縮をとらえることにより,またエバンスブルーの大腸吸収量を定量することにより,これらの機序を検討した.Corticotropin-releasing factor(CRF)の末梢投与は大腸透過性を亢進させ,それはCRF1受容体を介する反応で,CRF2の刺激はそれを抑制した.TLR4拮抗薬のeritoran,IL-1受容体拮抗薬のanakinraは,CRFによる内臓知覚過敏と透過性亢進を阻止した.IBSのモデルであるLPSあるいは反復水回避ストレスによる内臓知覚過敏及び透過性の亢進は,CRF受容体拮抗薬,eritoranあるいはanakinraで阻止された.以上より,ストレスによって誘導される内臓知覚過敏,大腸透過性の亢進は,末梢CRF受容体を介し,CRFはCRF1依存性にTLR4,サイトカインを介してこれらの変化を惹起している.またCRF2の刺激は反応を抑制する.CRFは免疫機能を制御することで内臓機能変化を誘導し,IBSの病態に関わっていると考えられる.