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USACO News:詳細

2020/07/31:第318号 プレプリントと出版社
 

プレプリントと出版社

 査読前の草稿論文であるプレプリントをめぐる動静が再び活発化している。高エネルギー物理分野でプレプリントを登録・公開するarXiv(アーカイブ)が1991年に初のプレプリントサーバとして誕生し,その数年後に立ち上がった社会科学分野のSSRNとともに,関連する研究コミュニティーに定着した。その後,しばらくは他の分野への広がりは見られなかったが,2013年に生物学分野のBioRxivが登場し,その後2016年を中心に多くのプレプリントサーバが新設され小欄(1)でもその状況を紹介した。学術論文の出版では査読・編集プロセスに時間を要することが多いが,プレプリントサーバは研究コミュニティーに知見を迅速に公開し,先取権を確保するという補完的な役割を提供してきた。

 5月27日付の学術出版協会(SSP)の公式ブログScholarly Kitchenに,Ithaka S+RのRoger C. Schonfeld 氏とOya Y. Rieger氏が,この数年間の主要な商業出版社によるプレプリントの取り組みについて各出版社への取材と同氏らの洞察を織り込んだ記事「Publishers Invest in Preprints(2)」を寄せた。そこに報告された大手4社分の内容を抜粋し紹介する。

1.Springer Nature
 2018年に始動したResearch Square(3)は,2020年5月現在20,000以上のプレプリントを擁する世界的にも急成長を遂げたプレプリントプラットフォームだ。Springer Natureはこのサービスの重要な投資家になっていて,Springer Natureの前オープンアクセス責任者Rachel Burley氏がResearch Squareの社長に就いている。昨年,Research SquareはSpringer Natureの選択されたタイトルに投稿された論文を搭載する「In Review(4)」と呼ばれるイニシアティブを開始した。

 In Reviewは,投稿時にオンライン公開するか否かのオプションを与え,著者と読者がピアレビュー中にその進捗情報にアクセスできるようにする。もし原稿が不採用の場合はプラットフォームに登録は残るがジャーナルのブランディングや投稿実績などの情報が消去される。In Reviewは今のところSpringerOpenとBioMed Centralのみを対象としているが,今後拡大する可能性がある。In ReviewはElsevierに買収されたAries Systems社のオンライン投稿・査読システムEditorial Managerを使っており,このことが今後どう影響していくか興味深い。

2.Wiley
 Wileyはプレプリントプラットフォーム「Under Review(5)」のパイロットを行っている。同社のオープンアクセス,ハイブリッド,従来型の購読誌合わせて37ジャーナルに投稿された原稿が,著者が希望すればレビュー期間中にWiley傘下のAtypon社Authoreaで公開が可能となっている。もし論文がアクセプトされない場合は,プレプリントのメタデータは該当ジャーナルの投稿プロセスから取り除かれる。現在,パイロット対象誌の3分の1強の投稿におけるプレプリントが収録され,その多くはパンデミックに関する研究成果となっている。Anthoreaが,Wiley以外の多くの出版社に使われていることを考えると,今後,Under Reviewがどのような発展を遂げるか興味深い。

3.Elsevier
 同社は2016年にプレプリントサーバSSRNを買収したが,これにより単にプラットフォームだけでなく,該当する分野の研究コミュニティーも手中に収めた。当初のSSRNがホストするコミュニティーは社会科学中心だったが,買収によって拡大し50以上に達している。

 Elsevierは2018年に出版ワークフローソリューション群を提供するAries Systems社を買収し,そのオンライン投稿・査読システムのワークフローを使い着実にSSRNのプレプリントとのシステム統合を進めている。まずSSRNにFirst Look(6)と呼ばれる,ジャーナルに投稿されたプレプリントをそのジャーナルのブランドサイトから閲覧する仕組みを作った。First Lookの対象は60数誌ありCell PressやLancetサイトには多くのパンデミック関連の原稿が公開されている。

 SSRNはMendeley,Mendeley Data,Pure,PlumなどElsevierの他の構成要素とも一体化する。2017年に買収したbepressの機関リポジトリサービスDigital Commonsとの統合化パイロットも進行中だ。

4.Taylor & Francis
 Taylor & Francis (以下T&F)は2020年1月に大胆な編集プロセスの変更をもたらす可能性を秘めたF1000 Research(以下F1000 )を買収した。F1000は出版後のオープンピアレビューモデルや,ウェルカム財団,ゲイツ財団,最近では欧州委員会などの助成機関向けにプラットフォームを提供したことで注目されてきた。著者が原稿を投稿すると,剽窃チェックなどのベーシックなエディトリアルレビューを経て出版され,その後にオープンピアレビュープロセスが始動する。著者は公開レビューを受け取り改訂することができるというモデルだ(7)。

 F1000では前述の3つの出版社が提供しようとしているプレプリントのワークフローの多くを代替することができる。現状T&Fは従来からの出版事業に採用していないが,Emerald社などはOA出版ワークフローの基盤として使っている。今後,T&FがF1000のワークフローだけでなく蓄積された技術をどのように活用するか興味深い。


 Scholarly Kitchenのプログの著者は,プレプリントプラットフォームの開設や既存の出版プロセスに統合するためには相応の投資が必要だが,見合うリターンが得られるかは不明確との見方を示している。ただ,刊行最終版の出版ビジネスを守るために出版ワークフローのコントロールを強化するための機会としての意義は大きい。

 以前より,査読によって生じる成果公開の遅延を最小化することは学術出版の課題として認識され,新型コロナ危機により今まで以上に喚起されている。一方で,論文の信頼性が担保できるかという懸念もあり,査読前論文の公開に対する慎重論も根深い。従来からのプレプリントサーバの潮流と,大手商業出版社によるプレプリントプラットフォームの動きが今後どのように位置づけられ,研究コミュニティーがどう反応するか今後の進展を注視したい。


<参考>
(1)ユサコニュース 第276号 プレプリントサーバをめぐる動き
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=169&dispmid=605#un01

(2)Scholarly Kitchen:Publishers Invest in Preprints
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2020/05/27/publishers-invest-in-preprints/

(3)Research Square
https://www.researchsquare.com/

(4)In Review [プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー
https://www.springernature.com/jp/news/20190425-pr-in-review-sn-jp/17272488

(5)Under Review
https://authorservices.wiley.com/author-resources/Journal-Authors/submission-peer-review/wiley-under-review.html

(6)First Look
https://www.ssrn.com/index.cfm/en/first-look/

(7)第2回 SPARC Japanセミナー2018ジャーナルを超えた動き: 出版者、資金提供者、機関の変わりゆく役割 Rebecca Lawrence
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2018/pdf/20181025_doc3.pdf

ユサコ:設立70周年記念セミナー開催

 弊社は2020年6月15日に設立70周年を迎える事ができました。多くの皆様に支えていただいたことを深く御礼申し上げます。この節目を記念して無料オンラインセミナーを開催します。ご多忙とは存じますが,是非参加をご検討くださいますようお願いいたします。

▼オンラインセミナー詳細・お申し込みはこちらから
*先着300名様にオリジナルノベルティ(エコバッグ)をプレゼントいたします。

●開催概要
セミナー名称 ユサコ設立70周年記念オンラインセミナー
日時 2020年9月16日(水) 9:00-11:30
Zoomウェビナーによるオンラインセミナーです

演題1 「COVID-19後の学術コミュニケーション」(仮題)
講師  Meagan Phelan氏
 Science Press Package Executive Director
 American Association for the Advancement of Science (AAAS)

演題2 「研究論文の評価指標の今後」(仮題)
講師  棚橋 佳子氏
 VP 戦略パートナーシップ統括
 クラリベイト

クラリベイト:JCR 2020年版リリース

 クラリベイトはジャーナル評価分析ツール「Journal Citation Reports(以下,JCR)の2020年版をリリースしました。JCR 2020年版では最新のジャーナル・インパクトファクター(以下,JIF)2019を参照できます。2020年版JCRの主なハイライトは以下のとおりです。

収録対象ジャーナルについて:
・5大陸83カ国から12,000誌以上のジャーナルを収録
・完全なオープンアクセス誌  1,600誌以上
・新規追加ジャーナル 351誌(うち178誌がオープンアクセスジャーナル)
・科学・社会科学分野の236の研究カテゴリー

オープンアクセスに関する新たなデータを追加:
各ジャーナルの論文をアクセスモデル別に表示できるようになりました。
また,JCRに収録されている 7,487誌のハイブリッドジャーナルについては,利用者は以下の情報を迅速かつ容易に識別することができるようになりました。
 -従来の購読モデルで発行された論文数
-クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで出版された論文数

ジャーナル選択の客観性の担保:
 掲載ジャーナルの0.27%に相当する33のジャーナルが今年のJCRから削除されました。JCRは,ジャーナルの過剰な自己引用や引用の積み重ねの証拠がある場合など,不自然な引用を示すジャーナルを監視し,除外しています。さらにJIF分子への貢献度が不自然に高く,ジャーナル全体の被引用数が特定の論文に集中しているような論文が一つでもある15のジャーナルに 対しては,Editorial Expression of Concern(懸念表明)を提示しています。

<参考>
クラリベイト ニュースリリース
https://clarivate.jp/news-release/2020/JCR

JoVE:サイトリニューアルと教育用コンテンツ無料開放

 このたびJoVEのサイトがリニューアルされ,各サービスが研究用・教育用に分類されました。それに伴い,各コンテンツの名称や構成も変更となりました。

■研究用コンテンツRESEARCH (JoVE VIDEO JOURNALから名称変更)
- JoVE Journal:ビデオ学術誌
- JoVE Encyclopedia of Experiments:実験のビデオ百科事典

■教育用コンテンツEDUCATION (JoVE SCIENCE EDUCATIONから名称変更)
- JoVE Science Education:分野別シリーズ
- JoVE Core:ビデオテキストブック
- JoVE Lab Manual:実験プロトコル集
※下2つはJoVE Science Educationから独立

各サービスの詳細は弊社JoVE紹介ページを参照ください。

 新型コロナウイルス拡大の影響で遠隔授業に対応した教材の需要がとりわけ高まっています。教育用コンテンツであるEDUCATIONは実験方法を解説するだけでなく教科書のように概要説明にもご使用いただけることから,その需要に応える教材となっています。
 JoVEは教育用コンテンツの無料開放を一旦6月15日で終了しましたが,感染拡大がおさまらない状況を鑑み,12月末まで延長して再度提供することにしました。ご希望の際は営業担当または弊社HPお問い合わせフォームからお知らせください。

 またJoVEでは,それぞれの教育機関のシラバスに合わせた教育ビデオの選定サービスであるシラバスマッピングも行っております。シラバスをいただければカリキュラムに沿ったビデオの選定を行いますので,こちらもお気軽にご相談ください。

・シラバスマッピング 分野別ビデオ選定例
・リモート学習向けの特設サイト(セットアップ方法など)

Third Iron:機能拡張

 学術図書館のための電子ジャーナル閲覧支援システムを提供するThird Iron社の「LibKey」がアップデートされました。「LibKey」は,機関の内外から,PCのみならずタブレットやスマホからのフルテキストアクセスを円滑にするサービスです。

 今回のアップデートの内容は下記のとおりです。

1)LibKey Nomadのブラウザエクステンション機能がWeb of Science及びScopusでも利用可能となりました。LibKey NomadをChromeブラウザにインストール頂くことで,カバーイメージの利用,article in contextへのリンク,ご希望のPDF資料へのワンクリックアクセスが可能となります。

2)LibKey Link及びLibKey.ioの2つのサービスが正式にリリースされました。主な機能は以下の通りです。
※このサービスはThird Iron Complete及びLibKey Suiteをご契約いただいている方であれば追加チャージなしでご利用頂けます。

LibKey Link
購読ジャーナルの情報やアクセス認証を一元化しWeb of Science,Scopus,Google ScholarなどのデータベースからPDF・HTML論文にワンクリックアクセスが可能

LibKey.io
DOIもしくはPMIDを検索窓に入力するだけで検索からPDFやHTML論文へのワンクリックアクセスが可能(購読データがない場合はOpenAccessへ誘導)

<参考>
・弊社「LibKey」紹介ページ
https://www.usaco.co.jp/product/detail.html?pdid=307

EndNote:無料オンラインセミナー

 EndNoteの無料オンラインセミナーを下記の通り開催いたします。これから使い始める方やご購入を検討中の方など初心者向けの内容となります。受講後アンケートに回答いただくと録画版を提供いたします。

▼オンラインセミナー詳細・お申し込みはこちら
 http://www2.usaco.co.jp/shop/pages/en_nvivo_webinar.aspx

● 開催概要:
日時:
【EndNote】
 2020年8月6日(木)17:00 - 18:00
 2020年8月26日(水)17:00 - 18:00
 
場所を問わず気軽に参加できるオンラインセミナーをぜひご利用ください。

【オンラインセミナーに関するお問い合わせ】
ユサコ株式会社 アカデミア事業部 EC Sales
shop@usaco.co.jp

皆様のご参加をお待ちしております。

Quertle: Qinsight ™アップデート

 このたびQuertle社は,AIベースのドキュメント検索プラットフォーム「Qinsight ™」のアップデートを実施しました。

1. Power Termをヒエラルキーによる表示に変更
 Power Termリストが、ヒエラルキー(階層構造)による表示に変更されました。メインサーチボックスの下にあるリンク「Power Term」をクリックすると, Power Termが階層構造で表示され, 以前と比較し,どのPower Termを選択すべきかがより分かりやすくなっています。

2. Category Map : カテゴリを追加
 Category Map に新たなカテゴリとして「Risk Factors」が追加されました。これにより「Age Group(年齢層)」や「Body Weight(体重)」,「Smoking Status(喫煙状況)」などの危険因子による絞り込みを視覚的に行うことが可能になりました。Category Mapは検索結果リストのドキュメントをユーザーの興味に応じ,事前に設定されたトピック別に絞り込みを行う視覚分析機能のひとつです。

詳細は弊社までお問い合わせください。

弊社Qinsight ホームページ
https://www.usaco.co.jp/product/detail.html?pdid=305

展示・セミナーのご案内

下記イベントは当初6月18日~20日の開催が予定されていましたが延期となりました。
※延期に伴い展示スペースが無くなったため、弊社の出展はありません※
・日本精神神経学会学術総会
(仙台国際センター)
 2020年9月28日(月)~9月30日(水)

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