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2004/02/28:第139号電子ジャーナルのレトロ・デジタイゼーション (Retrodigitisation)
 

電子ジャーナルのレトロ・デジタイゼーション (Retrodigitisation)
 最近、学術出版業界において、学術ジャーナルを創刊号から電子化し、アーカイブとして提供する、"Retrodigitisation"が盛んに行われている。従来は、古い文献を閲覧するには、膨大な量の印刷物やマイクロフィルムなどのストックから探し出すしか手立てが無かったが、初号から電子アーカイブ化されることで、コンピュータ上で全ての文献を検索・閲覧することが可能となり、研究者には大幅な時間削減をもたらすことになる。実際、ロンドン市立大学の研究グループであるCiberから、「電子ジャーナルのアーカイブ化が進むと、そのサイトへのアクセスが大幅に増える」という研究結果が報告されている。

 英国王室化学会(Royal Society of Chemisty: RSC)では、1841年に刊行された"Memoirs and Proceedings of the Chemical Society"の初号から、電子ジャーナルとしてすでに提供を開始している。RSCが有する他のジャーナルも初号から1996年まで全てアーカイブ化し、合計で約1200万ページもの文献を電子化するという巨大プロジェクトに発展する。

 電子ジャーナルのアーカイブ化は、学術論文の保存責任の観点からも議論されてきた。近年の学術研究における全面的な電子化の中で、研究成果を世界に普及させる出版社が、電子出版物の保存において責任を持つ必要があるのか、またそのような責任を持てるのかが問われている。仮に出版社が買収されたり倒産してしまった場合、保有している電子ジャーナルへのアクセスはどのように保障されるのだろうか?もし出版社のデータベースサーバが世界貿易センターに置かれていたとしたら?

 このような問題を解決するため、出版社と図書館などが共同で様々なプロジェクトを進めている。Elsevierは2002年からオランダ国立図書館と共同事業を立ち上げ、外部アーカイブの構築に努めている。また、米国の国立医学図書館(National Library of Medicine)に属する全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)は、医学関連ジャーナルのアーカイブサイト、PubMed Centralを2000年から運営している。現在、86誌におよぶジャーナルのフルテキストを無料で公開しており、"Bulletin of the Medical Library Association"は1911年の初号から収録されている。

 今後、各出版社による"Retrodigitisation"がさらに進み、電子ジャーナルにおける保存責任および中立的管理などの問題は、一層表面化すると思われる。アーカイブへの永続的なアクセスを保障するため、商業的枠組みを超えた各出版社による協力体制の構築が期待される。


<参考資料>
・Karen Hunter, "Digital archiving at Elsevier",
SCONUL(Society of College, National and University Libraries)
Newsletter - Number 28 Spring 2003
http://www.sconul.ac.uk/pubs_stats/newsletter/28/ART13.PDF

・Royal Society of Chemistry: Journals Archive Project
http://www.rsc.org/is/journals/retrodigitisation.htm

・Pubmed Centralホームページ
http://pubmedcentral.nih.gov/

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