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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2024/04/15

レジオネラ肺炎において喀痰培養のレジオネラ属菌検出率は非膿性痰と膿性痰で同等である

論文タイトル
Identification rate of Legionella species in non-purulent sputum culture is comparable to that in purulent sputum culture in Legionella pneumonia
論文タイトル(訳)
レジオネラ肺炎において喀痰培養のレジオネラ属菌検出率は非膿性痰と膿性痰で同等である
DOI
10.1128/jcm.01665-23
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Vol. 62, No. 4
著者名(敬称略)
伊藤 明広 他
所属
大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 呼吸器内科
著者からのひと言
レジオネラ肺炎患者は喀痰を症状として訴えることが少なく、これまで喀痰の質による培養検査の有用性は検討されてきませんでした。本検討結果より、非膿性痰であっても抗レジオネラ活性の抗菌薬投与前あるいは投与24時間以内であれば50%以上でレジオネラ属菌を検出可能であったことが判明し、臨床的に非常に重要な結果であると思います。そのため、レジオネラ肺炎を疑う際には抗レジオネラ活性抗菌薬投与とともに喀痰の質にはこだわらず可能な限り喀痰採取の上レジオネラの培養を提出していただきたいと思います。

抄訳

レジオネラ属菌は、重症肺炎の主要な起炎菌のひとつであり、早期診断による適切な治療が予後改善のために重要である。レジオネラ肺炎の早期診断において、尿中抗原検査キットが頻用されているが、レジオネラ肺炎診断のゴールドスタンダードは喀痰培養からのレジオネラ属菌の検出である。これまでレジオネラ肺炎における喀痰の質と喀痰の質別でのレジオネラ検出率に関する報告はなかった。本検討では、喀痰検査を提出したレジオネラ肺炎患者104名において、膿性痰であるGeckler 4/5の患者は8名と少なく、喀痰の質別のレジオネラ検出率はGeckler 1/2で57.1%、Geckler 3/6で50.0%、Geckler 4/5で50.0%と有意差を認めず同等の検出率であった(P=0.86)。レジオネラ属菌の検出率に影響する因子を多変量解析で検討したところ、喀痰培養前の抗レジオネラ活性を有する抗菌薬の投与(OR 0.26, 95%CI 0.06-0.91)、肺炎重症度分類のPSI class IV以上(OR 2.57, 95%CI 1.02-6.71)、ICU入室(OR 3.08, 95%CI 1.06-10.09)が有意に影響していた。また、抗レジオネラ活性を有する抗菌薬投与から喀痰検査提出までの時間とレジオネラ属菌検出率を検討したところ、抗菌薬投与なしあるいは抗菌薬投与24時間以内では24時間以降と比較し有意に検出率が高かった(55.8% vs 11.1%, P=0.04)。レジオネラ肺炎を疑う場合、可能な限り喀痰を採取し検体の質によらず培養を行うべきである。

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2024/04/04

オートファジーは保存期間中のシロイヌナズナ種子の胚乳の品質を管理し発芽能力を維持する

論文タイトル
Autophagy maintains endosperm quality during seed storage to preserve germination ability in Arabidopsis
論文タイトル(訳)
オートファジーは保存期間中のシロイヌナズナ種子の胚乳の品質を管理し発芽能力を維持する
DOI
10.1073/pnas.2321612121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol. 121 No. 14
著者名(敬称略)
篠崎 大樹 吉本 光希 他
所属
明治大学 農学部生命科学科 環境応答生物学研究室
著者からのひと言
種子が保存中に受けるダメージに適応するための新規機構を明らかにし、発芽能力が失われる要因について新たな一面を見出しました。発芽能力を保ったまま種子を長期保存する技術は、農業的に重要なテクノロジーです。高い発芽活性を有した種子を保存しておくことは、食糧危機への対策として有効です。また、多種多様な種子を保存しておくことは遺伝資源の確保に繋がり、新規品種作出の際に貴重な研究リソースとなります。本研究の成果をさらに発展させることで、種子を長期間保存する技術開発につながることが考えられ、地球と人類社会への貢献が期待されます。

抄訳

植物の種子が長期間の保存の後にも発芽するためには、保存中に受けるストレスに対処する必要があります。本研究では、細胞内自己成分分解系「オートファジー」が種子の発芽能力維持に寄与していることを明らかにしました。長期間保存した種子の発芽率を調べ、オートファジー不能植物 (atg変異体) の種子は、野生型に比べ発芽能力が大幅に低下することを見出しました。興味深いことに、この発芽出来なくなったatg変異体の種子において、周囲を覆う胚乳と種皮を除去すると、その胚は成長できることが明らかになりました。続いて、保存期間中に胚乳でオートファジーが行われていることが判明しました。また、長期保存したatg変異体種子の胚乳は8割以上が死細胞であったのに対し、野生型ではその値が1割未満にとどまっていることが明らかになりました。オートファジーは保存中の種子の胚乳細胞を正常な状態を保てるようにメンテナンスすることで、発芽能力の維持に貢献していると考えられます。

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2024/03/26

IL-27はミトコンドリア代謝の最適化を介して濾胞性ヘルパーNKT細胞の分化を制御する

論文タイトル
IL-27 regulates the differentiation of follicular helper NKT cells via metabolic adaptation of mitochondria
論文タイトル(訳)
IL-27はミトコンドリア代謝の最適化を介して濾胞性ヘルパーNKT細胞の分化を制御する
DOI
10.1073/pnas.2313964121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.121 No.9
著者名(敬称略)
上井 康寛 林﨑 浩史 金城 雄樹 他
所属
東京慈恵会医科大学 細菌学講座
著者からのひと言
肺炎球菌タンパク質・糖脂質ワクチン接種後早期におけるGr-1陽性細胞のIL-27産生は、糖脂質刺激により活性化したNKT細胞が産生するインターフェロンγ(IFNγ)に依存していました。NKTFH細胞への分化の誘導が活性化NKT細胞自身によって制御されていることは興味深い機序と思われます。NKT細胞の活性化は他のワクチンへの応用も可能と考えられ、感染症のみならず、他の疾患の予防や治療への応用の可能性も期待されます。

抄訳

肺炎球菌は肺炎や髄膜炎の主な起炎菌である。近年、現行ワクチンに含まれない血清型の感染が増加していることから、幅広い感染防御効果をもたらすワクチンが求められている。私達は肺炎球菌に幅広く発現するタンパク質をワクチン抗原とし、ナチュラルキラーT(NKT)細胞を活性化する糖脂質をアジュバントとした新規ワクチンの免疫応答を解析した。NKT細胞は糖脂質刺激により、一部が濾胞性ヘルパーNKT(NKTFH)細胞となりB細胞の抗体産生を増強するが、NKTFH細胞の分化機構は解明されていなかった。本研究にて、ワクチン投与後にNKT細胞近傍に局在するGr-1陽性細胞がNKT細胞増殖とNKTFH細胞分化に寄与することを明らかにした。また、Gr-1陽性細胞はワクチン投与後早期にインターロイキン-27(IL-27)を産生することを見出し、IL-27がNKT細胞のミトコンドリア代謝を促進することで、NKTFH細胞分化に必要なエネルギー獲得をもたらすことが分かった。さらに、IL-27によるNKTFH細胞の誘導は本ワクチンによる肺炎球菌感染防御において重要であることを示した。NKT細胞による免疫応答の増強効果を活かした新規肺炎球菌ワクチン開発への応用が期待される。

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2024/02/22

生きたマウス脳における内在性神経伝達物質受容体の生体直交型化学標識

論文タイトル
Bioorthogonal chemical labeling of endogenous neurotransmitter receptors in living mouse brains
論文タイトル(訳)
生きたマウス脳における内在性神経伝達物質受容体の生体直交型化学標識
DOI
10.1073/pnas.2313887121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.121 No.6
著者名(敬称略)
野中 洋 浜地 格 他
所属
京都大学 大学院工学研究科 合成・生物化学専攻
著者からのひと言
本技術は、原理的にはマウスだけでなく、他の生物種に対しても適用可能です。遺伝学的な方法論では標識困難なマーモセットなどの霊長類を含めた多くの生物種に対しての展開も期待できます。さらに、これまでに確立されたモデル動物実験系にそのまま適用可能であり、病態と受容体動態の関連性などが明らかになることも期待できます。また本技術は、たんぱく質の動態や寿命の解析にとどまらず、今後さまざまな機能性分子の導入により、動物個体内における天然のたんぱく質の機能解明に役立つとも考えられ、研究を進めています。

抄訳

研究グループは、これまで遺伝子操作を必要としない、内在性タンパク質の化学標識法である「リガンド指向性化学」を開発してきました。本法は、リガンドとタンパク質との相互作用と化学反応とを組み合わせた共有結合による標識が可能です。今回、この手法が生きたマウスの脳でも綺麗に進行することを実証し、遺伝子操作なしにマウス脳内の内在性神経伝達物質受容体(AMPA、NMDA、mGlu1、GABA受容体)を化学標識することに初めて成功しました。標的受容体を蛍光色素で標識した後に、透明化処理し全脳3Dイメージングや、膜表面に出ている活性な受容体の分解寿命の解析が可能となりました。さらに、本手法を用いて、生後発達期マウス脳内のAMPA受容体をパルスチェイス解析することで、一度機能を果たしたAMPA受容体が別の異なった役割を果たすシナプスに移動し再利用されていることを、初めて明らかにしました。

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2024/02/19

ハムスターモデルにおけるレプトスピラの骨格筋への直接侵入が引き起こす非化膿性筋炎

論文タイトル
Non-purulent myositis caused by direct invasion of skeletal muscle tissue by Leptospira in a hamster model
論文タイトル(訳)
ハムスターモデルにおけるレプトスピラの骨格筋への直接侵入が引き起こす非化膿性筋炎
DOI
https://doi.org/10.1128/iai.00420-23
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity, Ahead of Print
著者名(敬称略)
宮原 敏 他
所属
産業医科大学 医学部 微生物学
著者からのひと言
レプトスピラ症は、世界中で報告される人獣共通感染症です。1915年に病原体であるLeptospira interrogansが日本で発見されましたが、病態や病原因子については未だ不明な点が多く残されています。本研究は、レプトスピラ症の筋病変について、免疫応答ではなく、細菌の直接感染によって筋肉が破壊されることを明らかにしました。筋病変は腎障害をもたらすため、レプトスピラ症の主な死因である腎不全の予防に、早期の抗菌薬投与が重要であることを示しています。

抄訳

筋肉痛はレプトスピラ感染症の一般的な症状である。剖検では、筋線維の変性・壊死や、マクロファージ、リンパ球主体の炎症細胞浸潤が報告されているが、詳細な病態は不明である。本研究は、レプトスピラが筋肉に直接感染するのか、また浸潤した炎症細胞が筋線維の破壊に関与しているのかを、ハムスターモデルを用いて検証した。Leptospira interrogans serovar Manilae UP-MMC-SM株を皮下感染させたハムスターは、接種部位に隣接する大腿部にヒトと同様の非化膿性筋炎を示した。免疫蛍光染色により、損傷した筋線維を取り囲むレプトスピラが認められた。感染したハムスターにクロドロン酸を投与すると、組織内の菌量に影響を与えることなく、筋組織へのマクロファージ浸潤が減少した。クロドロン酸で処理した感染ハムスターでは筋壊死が依然として観察され、血清クレアチンキナーゼ値はコントロールと比較して有意な変化はなかった。これらの結果は、レプトスピラが接種部位から筋組織に侵入すると筋線維を破壊し、非化膿性筋炎を引き起こすが、浸潤マクロファージは筋破壊には寄与しないことを示唆している。

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2024/02/19

東南極ドロンニングモードランドのインホブデから発見された、異常な爪を持ち有性生殖するオニクマムシ類の新種

論文タイトル
A New Species of Bisexual Milnesium (Eutardigrada: Apochela) Having Aberrant Claws from Innhovde, Dronning Maud Land, East Antarctica
論文タイトル(訳)
東南極ドロンニングモードランドのインホブデから発見された、異常な爪を持ち有性生殖するオニクマムシ類の新種
DOI
https://doi.org/10.2108/zs220085
ジャーナル名
Zoological Science
巻号
Zoological Science, 40(3):246-261 (2023)
著者名(敬称略)
鈴木 忠 他
所属
慶應義塾大学医学部・生物学教室
著者からのひと言
こんなに枝分かれした爪を持つオニクマムシは東南極からしか見つかっておらず非常に珍しいのです。じつは第5次南極地域観測隊(1960–62)による生物調査の頃から、その存在は知られていたのですが、60年以上経過して、やっと新種として発表できました。本種を含む南極産オニクマムシのいくつかは、系統樹の中程に現れます。その祖先種はジュラ紀にゴンドワナ大陸の真ん中で生まれたようです。ゴンドワナの分裂と大陸移動に伴って、オニクマムシ類が多種に分かれ、全世界に拡散していったという歴史が見えてきました。

抄訳

南極昭和基地の南西約120 kmに位置するインホブデ露岩域の生物調査(2015)において発見されたオニクマムシの1新種をMilnesium rastrumとして記載した。オニクマムシ類は4対の各肢先に2本の細長い爪(第1爪)と2本の短い爪(第2爪)を持つ。これまで世界中から記載された40種以上の第2爪は通常2〜3本に分枝した鉤爪となり、2種のみが4分枝を持つが、今回記載された種では4〜7本に分枝する。また、オスの1標本が得られたことと、1頭のメスの100日以上にわたる飼育中に産卵を伴わない2度の脱皮が観察されたことから、本種の繁殖はオスを必要とする有性生殖であることが示唆された。本種から得られた遺伝子配列(18S rRNA, 28S rRNA, ITS-2, COI)とデータベースから得られるMilnesium類の遺伝子配列を用いて生物系統地理的な解析を行なった。

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2024/02/02

中枢性尿崩症治療薬、デスモプレシン口腔内崩壊錠の1日投与量に影響する臨床的要因

論文タイトル
Clinical Factors Affecting Daily Dosage of Desmopressin Orally Disintegrating Tablets in Arginine Vasopressin Deficiency
論文タイトル(訳)
中枢性尿崩症治療薬、デスモプレシン口腔内崩壊錠の1日投与量に影響する臨床的要因
DOI
10.1210/clinem/dgad694
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, dgad694
著者名(敬称略)
星野 良朋 竹下 章 他
所属
虎の門病院 内分泌代謝科(内分泌部門)

抄訳

【背景】 中枢性尿崩症(AVP欠乏症:AVP-D)の治療に、デスモプレシン口腔内崩壊錠(ODT)が広く使用されている。しかし、その効果には個人差があり、投与量は通常、開始用量に対する効果に基づき漸増され決定されている。
【目的】様々な臨床所見とODTの1日投与量との関係を検討し、ODT投与量に影響を及ぼす因子を明らかにする。
【方法】 この後方視的研究では、AVP-Dの成人患者209例を対象とした。患者には患者用指導箋を用いてODTを舌下服用後30分間は飲食を制限するよう指導した。ODTの用量漸増は入院下に行われ、尿量、体重、血清Na値を綿密にモニタリングした。退院時のODTの1日投与量に関連する臨床因子を同定するために、多変量線形回帰分析を実施した。また、退院後、当院でフォローした134例の1年後の投与量を評価した。
【結果】 退院時のODTの1日投与量の中央値は90μg(IQR 60-120μg)であった。多変量解析にて、性別・年齢・推定クレアチニンクリアランス(eCCr)が1日投与量に関連する有意な因子であり、eCCrが最も強い影響を及ぼすことが明らかとなった。退院後、当院でフォローアップを行った患者134例中AVP-Dが軽快した患者を除く114例を対象とすると81例(71%)が1年後も同じ投与量を継続していた。
【結論】 安全かつ安定したAVP-Dの補充療法を行うため、患者教育による適切な舌下投与のもと、性別・年齢・eCCrを考慮しODTの1日投与量を決定することが大切である。

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2024/01/30

Decitn-2欠損はマクロファージからの炎症性サイトカイン分泌を促進し、グルコース応答性インスリン分泌を障害する

論文タイトル
Dectin-2 Deficiency Promotes Proinflammatory Cytokine Release From Macrophages and Impairs Insulin Secretion
論文タイトル(訳)
Decitn-2欠損はマクロファージからの炎症性サイトカイン分泌を促進し、グルコース応答性インスリン分泌を障害する
DOI
10.1210/endocr/bqad181
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 165, Issue 1, January 2024, bqad181
著者名(敬称略)
藤田 政道 宮澤 崇 他
所属
九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学講座

抄訳

膵島炎症は糖尿病の発症に重要な役割を果たしている。我々は膵島炎症に重要な役割を果たす膵島マクロファージに、C型レクチン受容体の一つであるDectin-2(D2)が発現することを見出した。糖代謝におけるD2の役割を明らかにするため、D2欠損マウスの表現型を解析した。D2欠損マウスは、野生型(WT)マウスと比較して耐糖能異常を呈し、単離膵島のグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)が有意に低下し、β細胞機能障害を認めた。また、D2欠損マウスの膵島では炎症が起こり、マクロファージの浸潤が増加した。D2欠損マウスのマクロファージは炎症性の形質を示し、IL-1αやIL-6などの炎症性サイトカインの分泌が増加しており、特にIL-1シグナル経路を介してβ細胞機能不全とGSIS低下をもたらすことを明らかにした。本研究は、D2が膵島炎症の病態形成に関与する可能性を示唆している。

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2024/01/25

時計遺伝子BMAL1はヒト顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御する

論文タイトル
BMAL1 positively correlates with genes regulating steroidogenesis in human luteinized granulosa cells
論文タイトル(訳)
時計遺伝子BMAL1はヒト顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御する
DOI
10.1530/REP-23-0225
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 167: Issue 2
著者名(敬称略)
河村 ともみ、戴 易丹、小野 政徳 他
所属
東京医科大学産科婦人科学分野
著者からのひと言
これまでストレスや体重減少による性ステロイド分泌異常が報告されてきました。今回、時計遺伝子異常によって性ステロイド分泌異常が起こることが明らかとなりました。本研究は、概日リズムの乱れが不妊症や月経不順に繋がるメカニズムの一端を明らかにした点で重要な学術的意義があります。

抄訳

【背景】
概日リズムは生体機能維持に重要な役割を担う。そしてBrain and muscle arnt-like protein-1 (BMAL1)、Circadian locomotor out cycles kaput (CLOCK)、Period Circadian Regulator (PERIOD)、Cryptochrome Circadian Regulator (CRY)などの時計遺伝子は生殖器官にも発現している。これまでにBmal1全身ノックアウトマウスは不妊であることが報告されたが、ヒトにおける不妊症と時計機能異常に関する研究は限られていた。本研究では、ヒト顆粒膜細胞における時計遺伝子の発現と性ステロイド生合成を解析した。
【方法】
生殖補助医療で採取された余剰卵胞液中から顆粒膜細胞を分離した。また、ヒト顆粒膜細胞腫由来の細胞株KGNと、不死化ヒト顆粒膜細胞HGL5をin vitroモデルとして使用した。低分子干渉RNA (siRNA)を用いて、BMAL1発現を抑制あるいは強制発現し、性ステロイド生合成への影響を解析した。
【結果】
BMAL1は性ステロイド生合成関連遺伝子発現と正の相関を認めた。BMAL1を抑制すると、ステロイド合成酵素の発現が有意に低下し、性ステロイド分泌も抑制された。一方、BMAL1を強制発現させると、ステロイド合成酵素の発現が有意に増加した。これらの結果は、BMAL1が顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御していることを示している。
【結語】
BMAL1がヒト顆粒膜細胞におけるステロイド生合成を制御することが明らかとなった。

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2024/01/23

VP2トランス供給によるレポーター遺伝子が組み込まれた感染性ネズミノロウイルスの作製

論文タイトル
Production of infectious reporter murine norovirus by VP2 trans-complementation
論文タイトル(訳)
VP2トランス供給によるレポーター遺伝子が組み込まれた感染性ネズミノロウイルスの作製
DOI
10.3174/ajnr.A5927
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
石山涼翔、吉田和夫、及川和樹、芳賀慧、片山和彦 他
所属
北里大学 大村智記念研究所 ウイルス感染制御学
著者からのひと言
我々の発見は、同様のプラスミドベースリバースジェネティックスシステムを有するHuNoVだけで無く、カリシウイルス科に属するウイルス研究に広く応用可能だと思われます。本研究で、作出したレポ-ター遺伝子を内包させた感染性ウイルスは、安定して継代可能な初めてのノロウイルスです。今後、小動物感染モデルの体内動態、細胞への侵入機構の解明などの研究進展への貢献が期待されます。

抄訳

ヒトノロウイルス(HuNoV)は、感染性胃腸炎の原因ウイルスとして知られていますが、効率良くHuNoVを増殖培養可能な株化培養細胞が無く、効果的な治療法やワクチンの開発が遅れています。ネズミノロウイルス(MNV)は株化培養細胞で増殖培養が可能なノロウイルスで、感染モデル動物としてマウスを利用可能なため、HuNoVの構造および機能的な特性を解明するためのモデルウイルスとして頻繁に使用されています。我々が開発したプラスミドベースのMNVリバースジェネティックスシステムは、簡便に組換えウイルスを作製することが可能です。本研究では、MNVゲノムのORF3(VP2コード領域)の5‘側約1/3〜2/3の領域を任意の外来性遺伝子で置き換え、VP2をトランス供給することで、外来性遺伝子がゲノムに組み込まれた感染性ウイルスを作製することに成功しました。この組換えウイルスは、VP2がトランス供給された細胞では、複製増殖が可能で、安定した大量生成が可能ですが、VP2をトランス供給しないと複製増殖できず、一度しか感染できません。我々の発見は、ノロウイルスのライフサイクルにおけるVP2の機能解明に利用可能であるとともに、外来性遺伝子を導入したレポーターウイルス作製の他、高度弱毒化生ウイルスワクチンやドラッグデリバリーシステム開発に有用です。

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2024/01/19

転移性/切除不能の消化管間質腫瘍やその他のがんの治療におけるピミテスピブ

論文タイトル
Pimitespib for the treatment of advanced gastrointestinal stromal tumors and other tumors
論文タイトル(訳)
転移性/切除不能の消化管間質腫瘍やその他のがんの治療におけるピミテスピブ
DOI
10.2217/fon-2022-1172
ジャーナル名
Future Oncology
巻号
Ahead of Print
著者名(敬称略)
土井 俊彦 他
所属
国立がん研究センター 東病院

抄訳

ピミテスピブ(TAS-116)は、日本で初めて承認された選択的Heat Shock Protein 90(HSP90)阻害剤であり、イマチニブ、スニチニブ及びレゴラフェニブの治療後に増悪した消化管間質腫瘍(GIST)の治療薬である。このレビューでは、ピミテスピブの基礎研究と臨床研究から、その作用機序や薬物動態、臨床的な抗腫瘍活性、安全性について概説する。イマチニブ、スニチニブ及びレゴラフェニブに不応又は不耐の転移性/切除不能GIST患者を対象とした第III相試験(CHAPTER-GIST-301試験)では、ピミテスピブはプラセボと比較して主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(PFS中央値:ピミテスピブ群2.8ヶ月 vs プラセボ群1.4ヶ月、ハザード比0.51:95% CI 0.30-0.87、p = 0.006)。ピミテスピブ群の主な副作用は、下痢、食欲減退、血中クレアチニン増加、倦怠感、悪心、眼障害であった。ピミテスピブはその他のがんや、他の抗がん剤との併用においてもその有効性と安全性を検討する臨床試験が実施中であり、今後の開発が期待される。

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2024/01/17

日本産ハチミツから分離された好乾性真菌の新種Talaromyces mellisjaponici

論文タイトル
Talaromyces mellisjaponici sp. nov., a xerophilic species isolated from honey in Japan
論文タイトル(訳)
日本産ハチミツから分離された好乾性真菌の新種Talaromyces mellisjaponici
DOI
10.1099/ijsem.0.006212
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74, Issue 1
著者名(敬称略)
広瀬 大 他
所属
日本大学 薬学部 薬学科

抄訳

ハチミツは水分活性が極端に低い(0.5–0.7)極限環境の1つである。著者らは日本国内のハチミツ中の真菌の多様性調査を進める中でTalaromycesTrachyspermi節に属する未記載種と思われる菌株を複数分離した。4遺伝子領域の部分塩基配列を用いた分子系統解析を行った結果、これらの菌株はTalaromyces affinitatimellis、Talaromyces basipetosporus、Talaromyces speluncarumと近縁であることが明らかになった。形態学的観察を行った結果、3種類の平板培地における菌糸成長が近縁種よりも良いことが分かった。またスクロース濃度0–80%の培地で菌糸成長が可能であり、スクロースを添加した培地で菌糸成長及び胞子形成が促進されたことから、ハチミツ内の環境に適応していることが示唆された。これらの結果に基づき今回筆者らが分離した菌株について新種Talaromyces mellisjaponiciを提案した。

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2024/01/12

新型コロナウイルス排出と粘膜抗体の関係を解明 ~呼吸器ウイルスのヒト間伝播を制御・予防する第一歩~

論文タイトル
Infectious virus shedding duration reflects secretory IgA antibody response latency after SARS-CoV-2 infection
論文タイトル(訳)
新型コロナウイルス排出と粘膜抗体の関係を解明 ~呼吸器ウイルスのヒト間伝播を制御・予防する第一歩~
DOI
10.1073/pnas.2314808120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.52
著者名(敬称略)
宮本 翔 鈴木 忠樹 他
所属
国立感染症研究所

抄訳

国立感染症研究所 感染病理部の鈴木 忠樹 部長、宮本 翔 研究員らの研究グループは、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の岩見 真吾 教授らとの共同研究でオミクロン感染者の臨床検体を数理科学的に分析することで、粘膜表面における分泌型Ig-A(S-IgA)抗体の誘導が早い症例ほど感染性ウイルス排出期間が短くなる傾向を明らかにしました。The first few hundred調査と呼ばれるオミクロン感染者の積極的疫学調査で得られたデータと試料を倫理審査委員会の承認を得て二次利用し合計122人のデータを分析すると、S-IgA抗体は鼻粘膜検体において他の抗体(IgG抗体やIgA抗体)よりもウイルス量や感染性を強く抑制する傾向も見られました。なお、新型コロナウイルスへの感染歴やワクチン接種歴がある感染者ほどS-IgA抗体の誘導時間が短くなることも明らかになりました。本研究は、呼吸器ウイルス感染症において分泌型粘膜抗体が感染性ウイルス排出を抑制する可能性をヒトで示した世界で初めての報告となります。 現在、mRNAワクチンによりCOVID-19による重症化や死亡のリスクは著しく低減されました。一方で、呼吸器ウイルスによるパンデミックでは、ヒト間伝播を制御・予防する課題が浮き彫りになっています。本研究成果により、粘膜免疫を標的とした次世代のワクチン開発が加速され、将来、呼吸器系ウイルスによるヒト間伝播を予防し、パンデミックを制御するための新たな戦略を与えることが期待されます。

内容の詳細は下記よりご覧ください。
掲載記事:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/12/post-603.html
プレスリリース:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20231219_sci.pdf

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2024/01/12

半自動運転における行動協調実験:互恵性の発生と崩壊

論文タイトル
Emergence and collapse of reciprocity in semiautomatic driving coordination experiments with humans
論文タイトル(訳)
半自動運転における行動協調実験:互恵性の発生と崩壊
DOI
10.1073/pnas.2307804120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.51
著者名(敬称略)
白土 寛和 他
所属
Carnegie Mellon University

抄訳

概要:近年、機械知能は、その発展に伴い、人々の集団行動での利用が増加しています。これにより、個人の利便性は向上する一方、社会規範や互恵性といった人々が協力して行動するために築いてきた価値観が影響を受ける可能性があります。

本研究では、社会協調のゲーム理論に基づき、インターネットを介した遠隔操作で複数の小型ロボット車を協調させる実験を行いました。300人の被験者を用い、機械知能による支援が人々の互恵性に与える影響を調査しました。

実験の結果、緊急時の自動操舵支援システムを搭載した車を「運転」すると、人々が自分の利益にのみ焦点を当て、道の譲り合いといった互恵性が抑制されることが明らかになりました。この行動変容は、人と人との間にある社会規範を損なうため、自動操舵支援がなくなった後もすぐには回復しないことが追加実験で確認されました。

研究の結果から、機械知能が人間の意思決定に介入することで、利他的な社会規範が崩れる可能性が示唆されます。人々は、集団行動における困難に対処するため、様々な社会規範や価値観を築いてきました。しかし、機械知能がそうした黙約を考慮せず人の集団行動に関与した場合、人々の持つ社会性が影響を受けることが懸念されます。

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2024/01/12

メダカの生殖腺発達の概年リズムを支える転写プログラム

論文タイトル
A transcriptional program underlying the circannual rhythms of gonadal development in medaka
論文タイトル(訳)
メダカの生殖腺発達の概年リズムを支える転写プログラム
DOI
10.1073/pnas.2313514120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.52
著者名(敬称略)
吉村 崇 他
所属
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)

抄訳

熱帯以外の地域では季節によって環境が大きく変動します。自然界の生物にとって、この環境の季節変化に上手に適応できるか否かは死活問題です。生物は毎年繰り返される季節の変化に積極的に適応するために、概ね(おおむね)1年の内因性のリズムを刻む体内時計「概年(がいねん)時計」を進化の過程で身に着けました。概年時計は繁殖活動や渡り、冬眠などのタイミングを制御していますが、その仕組みはいかなる生物においても謎に包まれていました。
今回の研究では、まずメダカに概年時計が存在することを示しました。また数年間にわたる網羅的な遺伝子発現解析の結果、1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を同定することに成功するとともに、脳内での細胞分裂、細胞分化が1年という長期的な「時」を刻むのに重要である可能性を示しました。ヒトにおいても様々な疾患に季節変化が存在します。今後、それらの季節性疾患の分子機構のほか、様々な生物にみられる季節にまつわる営みの分子機構が明らかになることが期待されます。

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2023/12/27

ヒト胎盤栄養膜細胞におけるプロゲステロン受容体膜構成因子1(PGRMC1)の発現低下は、分化・融合を促進する

論文タイトル
Downregulation of PGRMC1 accelerates differentiation and fusion of a human trophoblast cell line
論文タイトル(訳)
ヒト胎盤栄養膜細胞におけるプロゲステロン受容体膜構成因子1(PGRMC1)の発現低下は、分化・融合を促進する
DOI
10.1530/JOE-23-0163
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology JOE-23-0163 01 Nov 2023
著者名(敬称略)
津留 涼也 吉江幹浩 他
所属
東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室

抄訳

胎盤絨毛に存在する細胞性栄養膜細胞は、絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やプロゲステロンを産生する多核の合胞体栄養膜細胞へと分化・融合する。この分化・融合の障害は、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などの原因となる。本研究では、ヘム結合性膜貫通タンパク質PGRMC1が、妊娠初期胎盤の栄養膜細胞において分化・融合と共に発現が減少することを発端とし、ヒト栄養膜様細胞株におけるPGRMC1阻害薬及び発現抑制がhCG産生を指標とする分化を促進すること、さらにスプリットルシフェラーゼを利用した定量的な細胞融合評価系を確立し、PGRMC1阻害及び発現抑制が細胞融合を促進することを明らかにした。また、妊娠高血圧症候群と胎児発育不全を併発した胎盤ではPGRMC1の高発現を確認した。これらの知見から、胎盤栄養膜細胞におけるPGRMC1発現の減少は、分化・融合を促進し、胎盤形成や妊娠維持に寄与することが推察された。

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2023/12/05

担子菌酵母の新種であるHannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.,は油脂生産能を有する

論文タイトル
Hannaella oleicumulans sp. nov. and Hannaella higashiohmiensis sp. nov., two novel oleaginous basidiomycetous yeast species
論文タイトル(訳)
担子菌酵母の新種であるHannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.,は油脂生産能を有する
DOI
10.1099/ijsem.0.006027
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 9
著者名(敬称略)
谷村あゆみ、島 純 他
所属
龍谷大学 農学部

抄訳

滋賀県の土壌から3株の油脂生産性を有する酵母を分離した。ITS領域及びリボゾームRNAをコードするD1/D2領域の塩基配列を決定した。その結果、それらの酵母株はHannaella属の担子菌酵母であることが示唆された。分子系統解析の結果、38-3株及び8s1株はHannaella oryzaeに近縁であることがわかった。しかし、これらの株では多数の塩基置換がおきており、ギャップも観察された。そこで、これらの株を新種酵母Hannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.として提案する。

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2023/11/09

著明な左室流出路狭窄を伴うたこつぼ心筋症におけるランジオロール経静脈投与がもたらす循環動態への影響

論文タイトル
Haemodynamic effects of acute intravenous landiolol in Takotsubo cardiomyopathy with dynamic left ventricular outflow tract obstruction
論文タイトル(訳)
著明な左室流出路狭窄を伴うたこつぼ心筋症におけるランジオロール経静脈投与がもたらす循環動態への影響
DOI
10.1136/bcr-2023-255987
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
曺 叡智、井上 健司 他
所属
順天堂大学医学部附属順天堂醫院 循環器内科

抄訳

たこつぼ心筋症(TCM)は、6-20%の症例で左室流出路(LVOT)狭窄に伴う心原性ショックをきたす。病態としてはLVOT狭窄が収縮期僧帽弁前方運動による僧帽弁閉鎖不全症を引き起こし、収縮能低下に加えて循環動態の破綻をきたす。本稿では、LVOT狭窄による循環不全に対してランジオロール投与が効果的だった3例のTCM症例を報告する。ランジオロールは短時間作用型β遮断薬のため血圧、心拍数をモニタリングしながら適宜容量を調節できる。その際できるだけ高容量を用いることで左心室-大動脈圧較差の解消を目指す。著明な流出路狭窄は、循環動態破綻の主要な予測指標(Odd ratio 4.6)であるため、血圧低下を伴う症例に対して積極的にランジオロールを用いることが有効な治療戦略と考える。

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2023/11/08

コイル塞栓術中の血栓塞栓症に対する血栓溶解剤のバルーン補助下動脈内局所注入

論文タイトル
Local thrombolytics via balloon-assisted intra-arterial infusion as rescue therapy for thromboembolism during endovascular coil embolisation
論文タイトル(訳)
コイル塞栓術中の血栓塞栓症に対する血栓溶解剤のバルーン補助下動脈内局所注入
DOI
10.1136/bcr-2023-256134
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
府賀 道康
所属
東京慈恵会医科大学 脳神経外科

抄訳

頭蓋内動脈瘤に対するコイル塞栓術において、血栓塞栓症は最も頻度の高い合併症である。血栓塞栓症は脳梗塞の原因となり、重篤な神経学的後遺症や死亡につながることから、適切な救済療法が重要である。今回我々は、未破裂後交通動脈瘤に対するコイル塞栓術中に発生した血管の急性閉塞に対して、バルーン補助下での血栓溶解剤の局所注入によって、閉塞血管を再開通させることに成功した。 本手法は、閉塞血管のすぐ遠位でマイクロバルーンを拡張させた状態で、閉塞血管の近位に留置したマイクロカテーテルから血栓溶解剤を注入する方法である。この手法により、局所的な薬剤濃度が上昇することによって、閉塞血管の再開通率が上昇する可能性がある。さらに、あらゆる種類の血栓溶解剤にも適用可能であり、全身的な薬剤の投与量を減らすことができることから、出血性合併症が低下する可能性がある。 頭蓋内動脈瘤に対するコイル塞栓術中に発生した閉塞血管に対するバルーン補助下での動脈内血栓溶解剤の局所注入法は,従来の血栓溶解剤の投与方法では血栓塞栓症が改善しなかった場合に,検討すべき救済療法である。

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2023/11/08

ウイルスゲノム様人工遺伝子を利用した安定的二本鎖RNAウイルスベクターの構築

論文タイトル
Genetic engineering strategy for generating a stable dsRNA virus vector using a virus-like codon-modified transgene
論文タイトル(訳)
ウイルスゲノム様人工遺伝子を利用した安定的二本鎖RNAウイルスベクターの構築
DOI
10.1128/jvi.00492-23
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology October 2023  Volume 97  Issue 10  e00492-23
著者名(敬称略)
金井 祐太 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 ウイルス免疫分野

抄訳

RNAウイルスには様々な細胞を標的とする多様なウイルスが含まれ、ウイルスベクターの魅力的なプラットフォームであるが、ウイルスゲノム複製のためのRNAポリメラーゼが校正活性を欠くため、継代を繰り返す過程でウイルスゲノムに挿入された外来遺伝子が欠失することが知られている。本研究では、分節型二本鎖RNAをゲノムとして持つレオウイルス科のロタウイルス(RV)をウイルスベクターとして使用した際の外来遺伝子の安定性向上のため、ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc、Akaluc)および蛍光タンパク質遺伝子(ZsGreen、AsRed)を元に、ロタウイルスNSP1遺伝子のコドン使用頻度に類似するよう塩基配列を改変した人工遺伝子をデザインした。未改変の外来遺伝子を発現するRVベクターは感染継代後に外来遺伝子の欠損が高確率に認められたが、RVゲノム様に改変した人工遺伝子は安定的に保持されることが明らかとなった。同様にレオウイルス科の哺乳類レオウイルス(MRV)ベクターにおいても、外来遺伝子の塩基配列をMRVゲノム様に改変することで安定性が顕著に上昇することが確認されたことから、本手法が様々なRNAウイルスベクターに広く利用できる可能性が示唆された。

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