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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2023/06/23

骨形成不全症2型の乳児に対するパミドロネート治療の有効性

論文タイトル
Cyclic intravenous pamidronate for an infant with osteogenesis imperfecta type II
論文タイトル(訳)
骨形成不全症2型の乳児に対するパミドロネート治療の有効性
DOI
10.1136/bcr-2022-252593
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 5
著者名(敬称略)
深堀 響子 長崎 啓祐
所属
新潟大学医学部 小児科学教室

抄訳

論文要旨:骨形成不全症(OI)2型は、周産期致死型と言われていた最重症型で、生後1ヶ月までに呼吸不全などにより90%以上が死亡する。現在、OIに対して骨折頻度の減少および骨痛の改善目的に、パミドロネート治療が行われるが、OI 2型に対する使用例はほとんど報告がなく、その安全性や有効性など明らかではない。我々は、OI 2型の乳児に対してパミドロネートの静脈内投与を行い、長期生存している例を報告する。在胎17週に胎児の大腿骨短縮を指摘され、在胎28週におこなった胎児CTの所見からOI 2型が疑われていた。出生後、呼吸困難のため気管内挿管を行い、人工呼吸器管理を行った。COL1A1のヘテロ接合性バリアント(c.1679G>T,p.Gly358Val)が確認され、OI 2型と診断した。生後41日目にパミドロネートの静脈内投与を開始し、投与量を調整しながら1ヶ月毎に投与した。生後7ヶ月で抜管に成功し、高流量鼻カニューレを使用して呼吸状態は安定している。生後12ヶ月現在、出生後の新規骨折はなく、NICUで在宅に向けて管理中である。OI 2型に対する集学的な呼吸器管理やパミドロネート治療により生命予後が改善する可能性がある。

患者の視点(両親の声) 私たちは、出生前に致死性の骨系統疾患と診断されたとき、混乱と不安に襲われました。この診断で元気に生活している人はいるのか」「頭や両上下肢の形が良くなる可能性はあるのか」「出産する母体にリスクはないのか」等々、医療スタッフに質問をたくさんしました。しかし、私たちは医師に何を言われても妊娠を継続すると決めていたので、中絶という選択肢はなかったです。羊水検査はリスクを伴うので希望しませんでしたし、その結果が私たちの決断を左右することはないとわかっていました。妊娠中、赤ちゃんが生きているかどうか常に心配でした。何が起こってもいいように準備はしていましたが、同時に彼の生命力を信じたいという気持ちもありました。 出産後、赤ちゃんが無事に生まれてきてくれて本当によかったと思いました。赤ちゃんに触れることができたことも嬉しかった。私たち二人とも、心肺蘇生法を含む最善かつ最も積極的な管理を望みました。出産後、お母さんのお腹の中で骨折したと聞かされ、私たちはショックを受けました。まるで私たちのせいのようでした。パミドロネート治療については、正直、副作用が怖かった。しかし、治療をしなければ何も良くならないので、治療を受けさせました。現在、骨が強くなっているのを実感しており、励みになっています。今は、病気に関係なく、兄と同じようにたくさんの愛情を注いであげたいと思っています。大きな信念と希望を持って、私たちは彼の生きる意志を信じています。

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2023/06/20

キチン添加土壌から分離されたメチオニン要求性のキチン分解新奇細菌Lysobacter auxotrophicusのビタミンB12要求性とゲノム解析

論文タイトル
Physiological and genomic analyses of cobalamin (vitamin B12)-auxotrophy of Lysobacter auxotrophicus sp. nov., a methionine-auxotrophic chitinolytic bacterium isolated from chitin-treated soil
論文タイトル(訳)
キチン添加土壌から分離されたメチオニン要求性のキチン分解新奇細菌Lysobacter auxotrophicusのビタミンB12要求性とゲノム解析
DOI
10.1099/ijsem.0.005899
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 5
著者名(敬称略)
齋藤明広、道羅英夫、浜田盛之、森内良太、小土橋陽平、森浩二
所属
静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科

抄訳

キチンは,真菌の細胞壁に含まれる直鎖状の多糖です。土壌にキチンを添加すると,真菌を病原とする植物病が低減されることが報告されてきました。キチン添加によって増加するキチン分解細菌が病害低減効果の一要因と考えられています。前報では、キチン添加土壌から分離したキチン細菌Lysobacter sp. 5-21aTがメチオニン (Met) 要求性を示すことを報じました(Iwasakiら2020)。本論文では,5-21aTがビタミンB12(VB12) 要求株であることを示すとともに、その遺伝的背景を探るために行ったゲノム解析の結果を報告しています。また、近縁株とのゲノム相同性の比較や,化学分類学的,表現型および系統学的データに基づいて,5-21aTがLyobacter属の新種であることを提唱し,Lyobacter auxotrophicus と命名しました。VB12要求性が5-21aTの近縁株にも共通した性質であること,VB12依存性Met合成酵素の遺伝子しか持たないために5-21aTのMet合成にはVB12が必要であると考えられること,また,5-21aTがVB12合成の上流 (コリン環合成) 経路の遺伝子を持っていないためにVB12de novo合成できないことがわかりました。 

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2023/06/20

血清中のMac-2結合タンパク質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は2型糖尿病の発症率と関連する

論文タイトル
Serum Mac-2 Binding Protein Glycosylation Isomer Concentrations Are Associated With Incidence of Type 2 Diabetes
論文タイトル(訳)
血清中のMac-2結合タンパク質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は2型糖尿病の発症率と関連する
DOI
10.1210/clinem/dgad011
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 7, July 2023, Pages e425–e433
著者名(敬称略)
東岡 真由, 二宮 利治 他
所属
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野

抄訳

血清Mac-2結合蛋白質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は、慢性肝障害や線維化の指標となることが知られている。本研究では、糖尿病を発症していない40~79歳の地域日本人住民2,143人を7年間追跡した成績を用いて、血清M2BPGi濃度と2型糖尿病発症との関連を検討した。追跡開始時の血清M2BPGi濃度の5分位値を用いて対象者を5群に分類した: Q1 ≦0.37、Q2 0.38-0.49、Q3 0.50-0.62、Q4 0.62-0.80、Q5 ≧0.81 (単位 cutoff index)。 解析にはCox比例ハザードモデルを用いた。追跡期間中、219名が2型糖尿病を発症した。2型糖尿病の年齢・性別調整後の累積発症率は、血清M2BPGi値の上昇とともに有意に増加した(p for trend < 0.01)。さらに、潜在的な交絡因子で調整しても有意な関係を認めた(p for trend = 0.04)。一方、血清高感度C反応性タンパク質やHOMA-IR(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)を追加で調整したところ有意な関連は消失した。
このように、わが国の地域住民において、血清M2BPGi濃度と糖尿病リスクは正の関連を有することが明らかとなった。炎症とインスリン抵抗性は、血清M2BPGi濃度が高い人の糖尿病リスク上昇に関与することが示唆された。

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2023/06/16

Fezf2は中枢性免疫寛容に必要な胸腺自己抗原発現を制御する

論文タイトル
Fezf2 Orchestrates a Thymic Program of Self-Antigen Expression for Immune Tolerance
論文タイトル(訳)
Fezf2は中枢性免疫寛容に必要な胸腺自己抗原発現を制御する
DOI
10.1016/j.cell.2015.10.013
ジャーナル名
Cell
巻号
Vol.163 No.4(p975-987)
著者名(敬称略)
高柳 広
所属
東京大学大学院医学系研究科

抄訳

T細胞は胸腺において分化・成熟する。その過程では、抗原を認識するタンパク質であるT細胞抗原受容体がランダムに作られるため、自己抗原に反応するT細胞が必然的に生まれてしまう。そのような自己反応性のT細胞は胸腺内で除去される(負の選択)。本論文では、胸腺に発現し、自己反応性T細胞の選別に関わる自己抗原発現を制御する転写因子Fezf2を見いだした。Fezf2は、既知の転写制御因子Aireとは独立して自己抗原を誘導する。Fezf2を持たない遺伝子改変マウスを調べたところ、自己抗体の産生や自己の組織を破壊するといった自己免疫疾患様の症状が見られた。この結果は、Fezf2が中枢性免疫寛容に必須の分子であり、自己免疫疾患の発症を抑えていることを示している。Fezf2の発見は、高等生物の獲得免疫システムの基本原理の理解につながるだけでなく、自己免疫疾患の発症機序の解明や新たな治療法の確立に役立つと考えられる。 

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2023/06/08

遺伝的親子関係から予測されるスズメの社会的つがい関係における子育貢献の雌雄差

論文タイトル
Genetic Parent-Offspring Relationships Predict Sexual Differences in Contributions to Parental Care in the Eurasian Tree Sparrow
論文タイトル(訳)
遺伝的親子関係から予測されるスズメの社会的つがい関係における子育貢献の雌雄差
DOI
10.2326/osj.22.45
ジャーナル名
Ornithological Science
巻号
Ornithological Science Volume 22, Issue 1
著者名(敬称略)
坂本 春菜、高木 昌興、他
所属
北海道大学大学院理学研究院・多様性生物学講座

抄訳

 多くの鳥類は一夫一妻のつがいで繁殖します。それはヒナを育て上げるための餌運びの労働コストが非常に大きく、つがいで繁殖することが有利だからです。しかしつがいの巣には、つがい外のオスとの交尾に由来するヒナ(つがい外父性)やつがい外のメスの托卵によって産み込まれた卵に由来するヒナ(種内托卵)を含むことがあります。オスはできるだけ多くのヒナを残し、メスは生産性の高い子を残すための繁殖戦略の一側面です。一方で自らと血縁関係にはないヒナのために餌を運ぶことは、自身の生存率を下げ、またその後の繁殖に悪影響を与えます。そのため、つがいのオスとメスはヒナの血縁関係と労働の配分という複雑な駆け引きをします。このような背景から自らの巣内に血縁関係のないヒナが存在すると、巣の持ち主である親はヒナへの子育て投資を減少させると推察されます。しかしこのような研究に適した材料がなく、実証は困難な状況にありました。本研究では、一夫一妻で繁殖するスズメにおいて、つがいの巣内につがい外父性や種内托卵の双方を含むことを発見しました。さらに巣内に自らと血縁関係にないヒナが多くなると、子育ての労力を減少させることを実証しました。 

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2023/06/07

GLP-1は齧歯類において食事タンパク質の熱産生作用に関与する

論文タイトル
Glucagon-Like Peptide-1 is Involved in the Thermic Effects of Dietary Proteins in Male Rodents
論文タイトル(訳)
GLP-1は齧歯類において食事タンパク質の熱産生作用に関与する
DOI
10.1210/endocr/bqad068
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 6, June 2023, bqad068
著者名(敬称略)
落合 啓太, 比良 徹 他
所属
北海道大学 大学院農学研究院 基盤研究部門 生物機能化学分野 食品栄養学研究室

抄訳

タンパク質の摂取は、強力に体温を上昇、エネルギー消費を増大させるが、そのメカニズムは十分に解明されていない。Glucagon-like peptide-1(GLP-1)は食後に分泌される消化管ホルモンであり、タンパク質摂取はその分泌を強力に促進する。本研究では、食事タンパク質誘導性の熱産生作用におけるGLP-1の関与を、ラット及びマウスを用いて検討した。ラットの直腸温測定により、タンパク質の経口投与による熱産生作用が、炭水化物や脂質の作用よりも大きいことが観察された。また、5種類の食事タンパク質(カゼイン、ホエイ、米、卵、大豆)の中で、大豆タンパク質が最も直腸温を上昇させた。さらに、大豆タンパク質の熱産生作用は、GLP-1受容体アンタゴニスト処理およびGLP-1受容体欠損マウスでは完全に消失した。これらの結果は、ラット及びマウスにおける食事タンパク質誘導性の熱産生作用にGLP-1シグナルが必須であるという新たなメカニズム、ならびに消化管ホルモンGLP-1の新たな生理的役割を提唱するものである。

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2023/06/02

ヤツメウナギ初期胚からの高純度なtotal RNA抽出法

論文タイトル
High-quality total RNA extraction from early-stage lamprey embryos
論文タイトル(訳)
ヤツメウナギ初期胚からの高純度なtotal RNA抽出法
DOI
10.2144/btn-2023-0004
ジャーナル名
BioTechniques
巻号
BioTechniques, Ahead of Print
著者名(敬称略)
菅原 文昭(筆頭、連絡著者)、Juan Pascual-Anaya
所属
兵庫医科大学生物学

抄訳

 高純度のtotal RNAの抽出は、近年のトランスクリプトーム解析においてバイアスのない結果を得るために不可欠な技術である。ヤツメウナギは現代に生き残る無顎類の一種であり、脊椎動物の進化発生学(EvoDevo)研究において重要な系統的位置を占める動物である。ヤツメウナギから人工受精によって胚を得ることは比較的容易だが、原腸陥入前の初期胚から不純物のないtotal RNAを抽出すことはこれまで困難であった。例えばAPGC法にイソプロパノール沈殿を組み合わせた従来の手法では多量のコンタミネーションが生じ、O.D.260/280の値が極めて低くなる。また、QIAGEN社のRNeasyなどシリカメンブレンフィルターを用いた抽出法では、RNAがフィルターに結合せず収量が大幅に低下する。今回我々は、抽出前の遠心分離操作の追加とイソプロパノール沈殿時の塩濃度の調整により、収量と純度の大幅な改善に成功したので、その手法を報告する。また、RNA抽出に伴う上記の問題は、孵化前後に徐々に解消されていくことも明らかになった。このことから、孵化に伴う胚の変化(卵膜の有無、卵黄の量)に関係する何らかの物質が初期胚のRNA抽出を妨げている可能性が示唆される。

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2023/06/02

骨芽細胞由来Sema3Aはアンドロゲン非依存的に骨恒常性を制御する

論文タイトル
Osteoblast Lineage Cell-derived Sema3A Regulates Bone Homeostasis Independently of Androgens
論文タイトル(訳)
骨芽細胞由来Sema3Aはアンドロゲン非依存的に骨恒常性を制御する
DOI
10.1210/endocr/bqac126
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 163, Issue 10, October 2022, bqac126
著者名(敬称略)
山下祐、林幹人、斎藤充、中島友紀
所属
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学

抄訳

 骨の動的な恒常性は、破壊と形成のバランスにより保たれ、常に骨を新しく作り替えている。セマフォリン3A(Sema3A)は、破骨細胞による骨吸収を減少させ、骨芽細胞による骨形成を増加させることで骨保護因子として機能する(Nature 2012)。さらに、女性ホルモンであるエストロゲンが、Sema3Aの発現を調整していることもヒトおよびマウスにて実証された(Cell Metab 2019)。しかしながら、男性ホルモンによる骨恒常性の分子機構は、いまだ詳しく解明されていなかった。
 本研究では、Sp7-Creを使用したSema3A欠損マウスは椎体の骨量が正常である一方、Bglap-Creを使用した骨芽細胞系統の細胞で特異的なSema3A欠損マウスでは長管骨と椎体の両方の骨量減少が見出された。さらに、アンドロゲン欠乏により誘導される男性骨粗鬆症は、骨芽細胞系譜特異的なSema3A欠損マウスでも同様に認められた。すなわち、骨芽細胞系譜の細胞が発現するSema3Aが、アンドロゲン非依存的に長管骨や椎骨の骨恒常性を制御していることが明らかになった(Endocrinology 2022)。

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2023/05/30

成人XLHにおいて従来療法が歯科合併症・異所性骨化に与える影響

論文タイトル
Effect of Conventional Treatment on Dental Complications and Ectopic Ossifications Among 30 Adults With XLH
論文タイトル(訳)
成人XLHにおいて従来療法が歯科合併症・異所性骨化に与える影響
DOI
10.1210/clinem/dgac732
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 6, June 2023, Pages 1405–1414
著者名(敬称略)
加藤 創生, 伊東 伸朗 他
所属
東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科

抄訳

X連鎖性低リン血症性くる病 (X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)では従来治療が成人期の歯科合併症を予防することが報告されているが、その予防効果が前歯や臼歯などの歯種によって異なるかどうかは不明である。また、異所性骨化に対する従来治療の予防効果に関する報告も少ない。今回我々は、成人XLH30例のパノラマX線画像、脊椎CT、股関節・膝関節X線画像の結果を後方視的に解析し、5歳未満から治療を開始した早期従来療法開始群(早期群)と5歳以降に治療を開始した後期従来療法開始群(後期群)の2群に分けて歯科合併症・異所性骨化重症度を比較した。後期群では、早期群と比較して健全歯数が有意に少なく、齲歯全体の重症度の指標であるDMF指数が有意に高かった。その一方で、前歯と臼歯の歯科合併症の重症度、脊柱靭帯骨化や股関節・膝関節周囲骨棘の重症度・頻度は、両群間で有意差はなかった。本検討によって、早期に治療を開始することにより、骨石灰化障害と同様、歯科合併症も予防が可能であることが示唆された。一方で、腱付着部症は骨や歯と異なり早期に治療を開始しても予防が不可能であった。従って、異所性骨化は低リン血症やFGF23高値が直接影響し惹起されているのではない可能性が高い。

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2023/05/26

褐色脂肪組織発生の経時的マルチオミクスアトラス

論文タイトル
A Multiomics Atlas of Brown Adipose Tissue Development Over Time
論文タイトル(訳)
褐色脂肪組織発生の経時的マルチオミクスアトラス
DOI
10.1210/endocr/bqad064
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 6, June 2023, bqad064
著者名(敬称略)
熊谷 雄太郎 他
所属
産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門

抄訳

褐色脂肪組織(BAT)は、栄養摂取、カロリー制限、運動、環境温度などの生理的変化に対して、エネルギーを消費して熱を発生させることで恒常的なエネルギー収支を調節しており、肥満や代謝疾患にとって重要な器官となっている。我々は、マウスBATの発生過程を時系列的に把握するため、胚から成体まで、トランスクリプトームとメタボロームによる統合的な特徴づけを行った。その結果、BATに特異的な2つの発生上の不連続な変化があることを明らかにした。また、転写因子の結合部位を調べ、発生の時間経過に重要な転写因子を発見した。また、他の臓器発生におけるトランスクリプトームおよびメタボロームデータと比較した結果、BATに特異的なトランスクリプトームおよびメタボロームのパターンを発見した。これらの結果は、マウスBATの発生の概要を示すとともに、BATの発生および機能制御に関する示唆を与える。

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2023/05/18

ESR1遺伝子イントロン6の微細欠失は停留精巣と尿道下裂の発症感受性因子である

論文タイトル
Microdeletion at ESR1 Intron 6 (DEL_6_75504) Is a Susceptibility Factor for Cryptorchidism and Hypospadias
論文タイトル(訳)
ESR1遺伝子イントロン6の微細欠失は停留精巣と尿道下裂の発症感受性因子である
DOI
10.1210/clinem/dgad187
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 10, October 2023, Pages 2550–2560
著者名(敬称略)
増永 陽平, 緒方 勤 他
所属
浜松医科大学 医学部

抄訳

エストロゲン受容体α遺伝子ESR1のイントロン6に存在する2,244 bp微細欠失(∆ESR1)が停留精巣 (CO) や尿道下裂 (HS) の遺伝的感受性因子であることを明らかとした。これは、(1) 日本人とイタリア人のハプロタイプ解析により、同一の34 kb以上の連鎖不平衡 (LD)ブロックと4つのハプロタイプ、AGATCハプロタイプとCO・HSの強固な相関が見出されたこと、(2) 全ゲノム解析により、日本人とイタリア人のAGATCハプロタイプから、マイクロホモロジーに介在される同一の∆ESR1が同定されたこと、(3) ∆ESR1が停留精巣・尿道下裂と強い連鎖を示したこと、(4) ∆ESR1あるいはこの領域上の唯一の機能因子であるCTCF-BSをホモで欠失させた乳がん由来細胞が野生型乳がん由来細胞よりESR1を多く発現し、エストロゲン様物質添加後のdown-regulationをほとんど示さなかったことに基づく。以上の成績は、∆ESR1がESR1発現量増加を招くことでCO・HSの感受性因子として作用することを示すものである。また、∆ESR1がAGATCハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示したことから、∆ESR1は、進化の初期には極めて稀であったマイナーアレルの組み合わせから成るAGATCハプロタイプを持つ創始者に形成され、ESR1発現量増加に伴う適応度向上を介して世界中に広がってきたきたと推測される。

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2023/04/25

微生物の菌体外多糖α-グルカンに作用する糖質加水分解酵素の立体構造と機能

論文タイトル
Glycoside hydrolases active on microbial exopolysaccharide α-glucans: structures and function
論文タイトル(訳)
微生物の菌体外多糖α-グルカンに作用する糖質加水分解酵素の立体構造と機能
DOI
10.1042/EBC20220219
ジャーナル名
Essays in Biochemistry
巻号
Essays Biochem (2023) 67 (3): 505-520.
著者名(敬称略)
宮崎 剛亜
所属
静岡大学 グリーン科学技術研究所 生物分子機能研究コア

抄訳

グルコースは自然界に最も多く存在する単糖であり、生物にとって重要なエネルギー源である。グルコースは主にオリゴマーやポリマーとして存在し、生物はそれを分解して摂取する。澱粉は植物由来のα-グルカンであり、これを分解する酵素はよく研究されている。一方で細菌や真菌の中には、澱粉とは異なるグルコシド結合を持つα-グルカンを生成するものがあり、その構造は非常に複雑で、十分に解明されていない。また、澱粉を分解する酵素に比べて、これらの微生物のα-グルカンを分解する酵素の生化学的および構造生物学的研究は限定的である。本総説では、α-(1→6)、α-(1→3)、α-(1→2)結合をもつ微生物α-グルカンに作用する糖質加水分解酵素に焦点を当てる。近年、微生物ゲノムの情報が蓄積され、これらの結合に特異的に作用するα-グルカン加水分解酵素が発見されるようになった。これは、微生物が外部からエネルギーを得るための戦略を明らかにすることに繋がるだけでなく、α-グルカン分解酵素の構造解析により、その基質認識機構が明らかになり、複雑なα-グルカンの構造を理解するためのツールとしての可能性が広がっている。本総説では、微生物のα-グルカン分解酵素の先行研究に触れながら、最近の構造生物学的研究の進展をまとめている。

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2023/04/24

進行性前立腺がんにおけるゲノムワイド関連研究:KYUCOG-1401-A試験

論文タイトル
Genome-wide association studies in advanced prostate cancer: KYUCOG-1401-A study
論文タイトル(訳)
進行性前立腺がんにおけるゲノムワイド関連研究:KYUCOG-1401-A試験
DOI
10.1530/ERC-23-0044
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer ERC-23-0044
著者名(敬称略)
塩田 真己 他
所属
九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

抄訳

進行前立腺癌の治療には、アンドロゲン除去療法(ADT)が広く用いられている。しかし、予後や有害事象は患者によって異なる。本研究は、ゲノムワイド関連研究(GWAS)を行い、ADTの予後や有害事象発生を予測する一塩基多型(SNP)を同定することを目的とした。KYUCOG-1401試験で進行性前立腺癌に対してADTを施行した日本人患者を開発コホートとした。検証コホートとして、ADTで治療された別の進行前立腺癌患者を組み入れた。開発コホートにおいて、1年後の画像上の無増悪生存期間および有害事象(糖尿病発症、関節痛、脂質異常症発症)と関連するSNPをGWASにより同定した。その後、検証コホートで遺伝子型の解析を行った。GWASに続いて行われた検証研究では、ADTにおける全生存期間と関連するSNPとして、PRR27のrs76237622とMTAPのrs117573572が同定された。これらのSNPを用いた予後予測モデルは、ADTにおける無増悪生存期間と全生存期間に対して優れた予測効果を示した。さらに、GWASにより、ADTにおける糖尿病発症、関節痛、脂質異常症発症に複数のSNPが関連していることが示された。本研究では、ADTにおける転帰と相関する新規の複数のSNPを同定した。今後、ADTを併用した各種治療における治療効果に関する研究が進めば、個別化医療の発展への貢献が期待される。

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2023/04/18

VGF nerve growth factor inducibleによる膵β細胞保護作用

論文タイトル
VGF nerve growth factor inducible has the potential to protect pancreatic β-cells
論文タイトル(訳)
VGF nerve growth factor inducibleによる膵β細胞保護作用
DOI
10.1530/JOE-22-0267
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号

著者名(敬称略)
開田 光 嶋澤 雅光 他
所属
岐阜薬科大学生体機能解析学大講座 薬効解析学研究室

抄訳

VGF nerve growth factor inducible (VGF) は、代謝調節に関与する神経ペプチド前駆体である。VGF由来のペプチドは、2型糖尿病患者やモデルマウスの血漿中においてインスリン分泌を調節することが示唆されている。しかしながら、糖尿病モデルにおける膵β細胞に対するVGFの保護効果は十分には明らかにされていない。そこで本研究では、VGF過剰発現マウスを用いたストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病モデルにおけるVGFの膵β細胞保護効果及びVGF誘導作用を有するSUN N8075による治療効果を検討した。その結果、STZ誘発糖尿病モデルのVGF過剰発現マウスでは、野生型マウスに比べて血糖値の改善及びβ細胞量の維持、耐糖能の向上が確認された。また、SUN N8075は、膵島におけるVGFの発現を増加させ、血糖値の上昇を抑制した。さらに、in vitroにおいてVGF由来ペプチドであるAQEE-30及びSUN N8075はSTZ誘発β細胞死を抑制した。以上のことから、VGF及びその誘導剤は、β細胞を保護し糖尿病に対する治療効果を発揮する可能性が示された。

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2023/04/14

自閉スペクトラム症と前部帯状皮質におけるミトコンドリア複合体Ⅰの利用能低下:PETによる研究

論文タイトル
Lower Availability of Mitochondrial Complex I in Anterior Cingulate Cortex in Autism: A Positron Emission Tomography Study
論文タイトル(訳)
自閉スペクトラム症と前部帯状皮質におけるミトコンドリア複合体Ⅰの利用能低下:PETによる研究
DOI
10.1176/appi.ajp.22010014
ジャーナル名
American Journal of Psychiatry
巻号
American Journal of Psychiatry Vol. 180, No. 4
著者名(敬称略)
加藤 康彦  山末 英典
所属
浜松医科大学 精神医学講座

抄訳

目的:死後脳や末梢検体による先行研究から、自閉スペクトラム症病態へのミトコンドリア機能障害の関与が示唆されていた。筆者らは、自閉スペクトラム症者の生体脳内でもミトコンドリア機能障害が存在するか、どの部位に存在し、臨床的相関も認められるか、検討した。
方法:他の精神疾患の併発や知的障害がなく向精神薬の服薬もしていない自閉スペクトラム症と診断された23名の成人男性と、年齢と知能および両親の社会経済的背景に差がない定型発達を示した24名の男性が研究に参加し、ミトコンドリア複合体Ⅰに結合する[18F]BCPP-EFを用いたPET撮像を受けた。診察と血液検査から参加者のミトコンドリア病診断を除外した。
結果:過去に死後脳研究でミトコンドリア機能障害が報告されていた部位の中で、定型発達者に比べて自閉スペクトラム症者では、前部帯状皮質に特異的な[18F]BCPP-EFの利用能低下を認めた。さらに、この前部帯状皮質における[18F]BCPP-EF利用能が低下しているほど社会的コミュニケーションの困難さが深刻であるという相関を認めた。
結論:本研究は、自閉スペクトラム症病態と社会的コミュニケーションの困難に生体脳内のミトコンドリア機能障害が結びついていることを直接的に示し、ミトコンドリア複合体Ⅰが自閉スペクトラム症中核症状に対する新しい治療標的となり得ることを支持した。

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2023/04/10

枯草菌における細胞壁テイコ酸修飾の可視化

論文タイトル
Visualization of Wall Teichoic Acid Decoration in Bacillus subtilis
論文タイトル(訳)
枯草菌における細胞壁テイコ酸修飾の可視化
DOI
10.1128/jb.00066-23
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology 03 April 2023 e00066-23
著者名(敬称略)
小谷野 裕、山本 博規 他
所属
信州大学繊維学部応用生物科学科

抄訳

枯草菌のペプチドグリカンを修飾する細胞壁テイコ酸(WTA)は、細胞の形態維持と増殖に必須である。私たちは蛍光標識レクチンを用いて、新たに合成されたWTAのペプチドグリカンへの付着が、側壁部分の細胞膜近傍でパッチ状に行われることを見出した。同様に、エピトープタグを融合したWTA生合成酵素も細胞円筒部にパッチ状に局在し、WTAトランスポーターTagHはWTAポリメラーゼTagF、WTAリガーゼTagT、アクチンホモログMreBとそれぞれ高頻度で共局在していた。さらにグラム陽性細菌の厚い細胞壁レイヤーがどのように形成されるのか観察した結果、新たに合成されたWTAが細胞側壁の下部にパッチ状に挿入され、約30分後にようやく細胞壁の最外層に到達することが明らかになった。本研究では、新たに合成されたWTAを検出することにより、グラム陽性細菌の厚い細胞壁の形成過程を可視化することに成功した。

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2023/04/07

組織中のムコール菌症に対する熱処理および過ヨウ素酸での酸化によるグロコット染色手順の修正:ムコール種を検出する方法

論文タイトル
Modification of Grocott's staining procedure with heat treatment and oxidation by periodic acid for mucormycosis in tissue: a method to detect Mucor spp.
論文タイトル(訳)
組織中のムコール菌症に対する熱処理および過ヨウ素酸での酸化によるグロコット染色手順の修正:ムコール種を検出する方法
DOI
10.2144/btn-2022-0063
ジャーナル名
BioTechniques
巻号
Biotechniques, Ahead of Print
著者名(敬称略)
川端 弥生 五十嵐 久喜 椙村 春彦
所属
光尖端医学教育研究センター 先進機器共用推進部|国立大学法人 浜松医科大学 (hama-med.ac.jp)
光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部|国立大学法人 浜松医科大学 (hama-med.ac.jp)

抄訳

近年、真菌症が、人類の脅威とまでいわれるようになり、若干センセーショナルな書かれ方もする(最も危険な「真菌類」、WHOが優先順位リストを発表, FORBES Japan)。しかし、病理現場などでも確かに診断にも治療にも難渋して死に至るケースは少なくない。さて、そのように重篤な転帰をもたらす深在性真菌症であるが、4大原因真菌には、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、ムコールがある。半世紀以上前から、これら真菌などを組織内で証明するには銀粒子を使った特殊染色が用いられ、現在でも汎用されているのはグロコット染色といわれる手技である。真菌に含まれる多糖をクロム酸で酸化し、遊離したアルデヒド基にメセナミン銀を反応させて菌体を染め出すのだが、菌壁が薄く隔壁を持たないムコール菌の場合、酸化力の強いクロム酸では他の真菌に比べてカルボキシル基にまで酸化が進みメセナミン銀との反応が不十分になり、判別が困難であった。そこで、比較的酸化力の弱い過ヨウ素酸処理を行ったところ、ムコール菌の染色を増強させることを可能にした。加えて、免疫組織化学染色で多用される熱処理を行うことで結合組織、血液細胞などへの共染反応が抑制され、菌体の判別が容易になった。一方、ムコール菌のRhizopus抗体による免疫染色での検出率は70%(7/10例)であり、しかも、その多くは弱陽性で判定は困難であった。このことからも、疑われる真菌に対応した染色手技(本例はグロコット染色の変法)を併用することが有用である。

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2023/04/07

胃癌に対する免疫療法と分子標的治療の近年の進歩

論文タイトル
Recent advances in immunotherapy and molecular targeted therapy for gastric cancer
論文タイトル(訳)
胃癌に対する免疫療法と分子標的治療の近年の進歩
DOI
10.2144/fsoa-2023-0002
ジャーナル名
Future Science OA
巻号
Future Science OA, Ahead of Print
著者名(敬称略)
善浪 佑理 庄司 広和 他
所属
国立がん研究センター中央病院 消化管内科

抄訳

胃癌は世界で4番目に多い悪性腫瘍であり、死因の第4位である。 切除不能進行・再発胃癌に対して殺細胞性薬剤を用いた化学療法による治療が確立されているが、生存期間中央値は12〜15ヶ月と限られている。近年、がんの分子生物学的特性や、がんゲノムに関する理解が深まり、胃癌においても各治療ラインで化学療法と分子標的薬との併用療法や、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の臨床試験が数多く行われている。2021年にはCheckMate-649試験で化学療法とニボルマブの併用療法の良好な成績が示され、本邦における新たな一次治療として化学療法+ニボルマブ療法が承認された。さらに現在では抗PD-1抗体と、抗CTLA-4抗体などの他の免疫チェックポイント阻害薬との併用、マルチキナーゼ阻害薬との併用、そしてキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法、Bispecific T-cell Engager (BiTE)抗体など、胃癌を対象とした新規臨床試験が進行中である。本総説では、胃癌に対する免疫療法および分子標的治療開発の近年の進歩にスポットを当て、報告する。

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2023/04/06

オオコウモリ細胞におけるCA依存性レトロウイルス感染抑制活性の解析

論文タイトル
Characterization of Megabat-Favored, CA-Dependent Susceptibility to Retrovirus Infection
論文タイトル(訳)
オオコウモリ細胞におけるCA依存性レトロウイルス感染抑制活性の解析
DOI
10.1128/jvi.01803-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology March 2023 Volume 97 Issue 3 e01803-22
著者名(敬称略)
大倉 定之 他
所属
日本医科大学 微生物学・免疫学分野

抄訳

オーストラリアのオオコウモリ細胞株がガンマレトロウイルスに対して感受性である一方で、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染を抑制することが報告され、コウモリのレトロウイルスに対する感受性に関心が寄せられている。本研究ではコウモリ種間でレトロウイルス感受性を比較するために、11種のコウモリに由来する12細胞株を解析した。オオコウモリ細胞はココウモリ細胞と比較してHIV-1に対して感染性が低く、定量的PCR、細胞融合およびHIV-1カプシド(CA)の点突然変異により感染性を詳細に解析した結果、オオコウモリ細胞ではウイルス複製はウイルスゲノムの核内移行前後で阻害され、感染抑制はCA依存性であった。しかし推測される既知の感染抑制因子のコウモリホモログは抗HIV-1活性を示さなかったことから、本研究はオオコウモリでは霊長類とは異なる新規の宿主因子がHIV-1感染を抑制する可能性を示唆した。

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2023/04/03

糸状性細菌Leptothrixの鞘形成に必須な推定糖転移酵素ファミリー8タンパク質をコードする遺伝子lthBの同定

論文タイトル
Identification of lthB, a Gene Encoding a Putative Glycosyltransferase Family 8 Protein Required for Leptothrix Sheath Formation
論文タイトル(訳)
糸状性細菌Leptothrixの鞘形成に必須な推定糖転移酵素ファミリー8タンパク質をコードする遺伝子lthBの同定
DOI
10.1128/aem.01919-22
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology March 23, 2023 e01919-22
著者名(敬称略)
久能 樹、 山本達也 他
所属
筑波大学 生命環境系

抄訳

糸状性細菌は細胞が連なり糸状に伸長する細胞鎖伸長と、その周りを覆う微小繊維からなる鞘形成を特徴とする細菌である。近年、細胞外シグナルを介した糸状性細菌の細胞鎖伸長制御が注目されているが、細胞鎖伸長と鞘形成における基本的な理解は未だ得られていない。本論文では、糸状性細菌Leptothrix cholodnii SP-6の自然突然変異株を取得し、次世代ゲノムシークエンスによる変異解析を行い、微小繊維分泌に関わる新たな推定糖転移酵素として、Lcho_0972遺伝子にコードされるLthBを同定した。lthB破壊株と、以前に我々が同定した別の糖転移酵素、LthAの破壊株との表現型を比較した。いずれの破壊株も微小繊維分泌に異常がみられ鞘形成はできなかったが、細胞鎖伸長に差異がみられた。lthA破壊株は細胞増殖するものの、細胞鎖は形成されず、個々の細胞がバラバラの状態であった。一方、lthB破壊株は鞘形成を行わないにも関わらず、野生型株と同様に糸状の細胞鎖伸長が見られた。これらのことから、細胞鎖伸長には鞘が必要ないことが示唆された。また、鞘の消失による細胞鎖の切断を誘導する細胞外カルシウム枯渇は、LthAの発現のみを阻害したことから、これらの糖転移酵素は異なるシグナル制御下で微小繊維分泌に協調的に関与していると考えられる。このような分子制御に関する知見は、糸状性菌の生態をより深く理解するために不可欠であり、ひいては工業施設における糸状性菌の制御戦略の改善に役立つと考えている。

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