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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2024/01/25

時計遺伝子BMAL1はヒト顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御する

論文タイトル
BMAL1 positively correlates with genes regulating steroidogenesis in human luteinized granulosa cells
論文タイトル(訳)
時計遺伝子BMAL1はヒト顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御する
DOI
10.1530/REP-23-0225
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 167: Issue 2
著者名(敬称略)
河村 ともみ、戴 易丹、小野 政徳 他
所属
東京医科大学産科婦人科学分野
著者からのひと言
これまでストレスや体重減少による性ステロイド分泌異常が報告されてきました。今回、時計遺伝子異常によって性ステロイド分泌異常が起こることが明らかとなりました。本研究は、概日リズムの乱れが不妊症や月経不順に繋がるメカニズムの一端を明らかにした点で重要な学術的意義があります。

抄訳

【背景】
概日リズムは生体機能維持に重要な役割を担う。そしてBrain and muscle arnt-like protein-1 (BMAL1)、Circadian locomotor out cycles kaput (CLOCK)、Period Circadian Regulator (PERIOD)、Cryptochrome Circadian Regulator (CRY)などの時計遺伝子は生殖器官にも発現している。これまでにBmal1全身ノックアウトマウスは不妊であることが報告されたが、ヒトにおける不妊症と時計機能異常に関する研究は限られていた。本研究では、ヒト顆粒膜細胞における時計遺伝子の発現と性ステロイド生合成を解析した。
【方法】
生殖補助医療で採取された余剰卵胞液中から顆粒膜細胞を分離した。また、ヒト顆粒膜細胞腫由来の細胞株KGNと、不死化ヒト顆粒膜細胞HGL5をin vitroモデルとして使用した。低分子干渉RNA (siRNA)を用いて、BMAL1発現を抑制あるいは強制発現し、性ステロイド生合成への影響を解析した。
【結果】
BMAL1は性ステロイド生合成関連遺伝子発現と正の相関を認めた。BMAL1を抑制すると、ステロイド合成酵素の発現が有意に低下し、性ステロイド分泌も抑制された。一方、BMAL1を強制発現させると、ステロイド合成酵素の発現が有意に増加した。これらの結果は、BMAL1が顆粒膜細胞における性ステロイド生合成を制御していることを示している。
【結語】
BMAL1がヒト顆粒膜細胞におけるステロイド生合成を制御することが明らかとなった。

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2024/01/23

VP2トランス供給によるレポーター遺伝子が組み込まれた感染性ネズミノロウイルスの作製

論文タイトル
Production of infectious reporter murine norovirus by VP2 trans-complementation
論文タイトル(訳)
VP2トランス供給によるレポーター遺伝子が組み込まれた感染性ネズミノロウイルスの作製
DOI
10.3174/ajnr.A5927
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
石山涼翔、吉田和夫、及川和樹、芳賀慧、片山和彦 他
所属
北里大学 大村智記念研究所 ウイルス感染制御学
著者からのひと言
我々の発見は、同様のプラスミドベースリバースジェネティックスシステムを有するHuNoVだけで無く、カリシウイルス科に属するウイルス研究に広く応用可能だと思われます。本研究で、作出したレポ-ター遺伝子を内包させた感染性ウイルスは、安定して継代可能な初めてのノロウイルスです。今後、小動物感染モデルの体内動態、細胞への侵入機構の解明などの研究進展への貢献が期待されます。

抄訳

ヒトノロウイルス(HuNoV)は、感染性胃腸炎の原因ウイルスとして知られていますが、効率良くHuNoVを増殖培養可能な株化培養細胞が無く、効果的な治療法やワクチンの開発が遅れています。ネズミノロウイルス(MNV)は株化培養細胞で増殖培養が可能なノロウイルスで、感染モデル動物としてマウスを利用可能なため、HuNoVの構造および機能的な特性を解明するためのモデルウイルスとして頻繁に使用されています。我々が開発したプラスミドベースのMNVリバースジェネティックスシステムは、簡便に組換えウイルスを作製することが可能です。本研究では、MNVゲノムのORF3(VP2コード領域)の5‘側約1/3〜2/3の領域を任意の外来性遺伝子で置き換え、VP2をトランス供給することで、外来性遺伝子がゲノムに組み込まれた感染性ウイルスを作製することに成功しました。この組換えウイルスは、VP2がトランス供給された細胞では、複製増殖が可能で、安定した大量生成が可能ですが、VP2をトランス供給しないと複製増殖できず、一度しか感染できません。我々の発見は、ノロウイルスのライフサイクルにおけるVP2の機能解明に利用可能であるとともに、外来性遺伝子を導入したレポーターウイルス作製の他、高度弱毒化生ウイルスワクチンやドラッグデリバリーシステム開発に有用です。

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2024/01/19

転移性/切除不能の消化管間質腫瘍やその他のがんの治療におけるピミテスピブ

論文タイトル
Pimitespib for the treatment of advanced gastrointestinal stromal tumors and other tumors
論文タイトル(訳)
転移性/切除不能の消化管間質腫瘍やその他のがんの治療におけるピミテスピブ
DOI
10.2217/fon-2022-1172
ジャーナル名
Future Oncology
巻号
Ahead of Print
著者名(敬称略)
土井 俊彦 他
所属
国立がん研究センター 東病院

抄訳

ピミテスピブ(TAS-116)は、日本で初めて承認された選択的Heat Shock Protein 90(HSP90)阻害剤であり、イマチニブ、スニチニブ及びレゴラフェニブの治療後に増悪した消化管間質腫瘍(GIST)の治療薬である。このレビューでは、ピミテスピブの基礎研究と臨床研究から、その作用機序や薬物動態、臨床的な抗腫瘍活性、安全性について概説する。イマチニブ、スニチニブ及びレゴラフェニブに不応又は不耐の転移性/切除不能GIST患者を対象とした第III相試験(CHAPTER-GIST-301試験)では、ピミテスピブはプラセボと比較して主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(PFS中央値:ピミテスピブ群2.8ヶ月 vs プラセボ群1.4ヶ月、ハザード比0.51:95% CI 0.30-0.87、p = 0.006)。ピミテスピブ群の主な副作用は、下痢、食欲減退、血中クレアチニン増加、倦怠感、悪心、眼障害であった。ピミテスピブはその他のがんや、他の抗がん剤との併用においてもその有効性と安全性を検討する臨床試験が実施中であり、今後の開発が期待される。

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2024/01/17

日本産ハチミツから分離された好乾性真菌の新種Talaromyces mellisjaponici

論文タイトル
Talaromyces mellisjaponici sp. nov., a xerophilic species isolated from honey in Japan
論文タイトル(訳)
日本産ハチミツから分離された好乾性真菌の新種Talaromyces mellisjaponici
DOI
10.1099/ijsem.0.006212
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74, Issue 1
著者名(敬称略)
広瀬 大 他
所属
日本大学 薬学部 薬学科

抄訳

ハチミツは水分活性が極端に低い(0.5–0.7)極限環境の1つである。著者らは日本国内のハチミツ中の真菌の多様性調査を進める中でTalaromycesTrachyspermi節に属する未記載種と思われる菌株を複数分離した。4遺伝子領域の部分塩基配列を用いた分子系統解析を行った結果、これらの菌株はTalaromyces affinitatimellis、Talaromyces basipetosporus、Talaromyces speluncarumと近縁であることが明らかになった。形態学的観察を行った結果、3種類の平板培地における菌糸成長が近縁種よりも良いことが分かった。またスクロース濃度0–80%の培地で菌糸成長が可能であり、スクロースを添加した培地で菌糸成長及び胞子形成が促進されたことから、ハチミツ内の環境に適応していることが示唆された。これらの結果に基づき今回筆者らが分離した菌株について新種Talaromyces mellisjaponiciを提案した。

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2024/01/12

新型コロナウイルス排出と粘膜抗体の関係を解明 ~呼吸器ウイルスのヒト間伝播を制御・予防する第一歩~

論文タイトル
Infectious virus shedding duration reflects secretory IgA antibody response latency after SARS-CoV-2 infection
論文タイトル(訳)
新型コロナウイルス排出と粘膜抗体の関係を解明 ~呼吸器ウイルスのヒト間伝播を制御・予防する第一歩~
DOI
10.1073/pnas.2314808120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.52
著者名(敬称略)
宮本 翔 鈴木 忠樹 他
所属
国立感染症研究所

抄訳

国立感染症研究所 感染病理部の鈴木 忠樹 部長、宮本 翔 研究員らの研究グループは、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の岩見 真吾 教授らとの共同研究でオミクロン感染者の臨床検体を数理科学的に分析することで、粘膜表面における分泌型Ig-A(S-IgA)抗体の誘導が早い症例ほど感染性ウイルス排出期間が短くなる傾向を明らかにしました。The first few hundred調査と呼ばれるオミクロン感染者の積極的疫学調査で得られたデータと試料を倫理審査委員会の承認を得て二次利用し合計122人のデータを分析すると、S-IgA抗体は鼻粘膜検体において他の抗体(IgG抗体やIgA抗体)よりもウイルス量や感染性を強く抑制する傾向も見られました。なお、新型コロナウイルスへの感染歴やワクチン接種歴がある感染者ほどS-IgA抗体の誘導時間が短くなることも明らかになりました。本研究は、呼吸器ウイルス感染症において分泌型粘膜抗体が感染性ウイルス排出を抑制する可能性をヒトで示した世界で初めての報告となります。 現在、mRNAワクチンによりCOVID-19による重症化や死亡のリスクは著しく低減されました。一方で、呼吸器ウイルスによるパンデミックでは、ヒト間伝播を制御・予防する課題が浮き彫りになっています。本研究成果により、粘膜免疫を標的とした次世代のワクチン開発が加速され、将来、呼吸器系ウイルスによるヒト間伝播を予防し、パンデミックを制御するための新たな戦略を与えることが期待されます。

内容の詳細は下記よりご覧ください。
掲載記事:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/12/post-603.html
プレスリリース:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20231219_sci.pdf

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2024/01/12

半自動運転における行動協調実験:互恵性の発生と崩壊

論文タイトル
Emergence and collapse of reciprocity in semiautomatic driving coordination experiments with humans
論文タイトル(訳)
半自動運転における行動協調実験:互恵性の発生と崩壊
DOI
10.1073/pnas.2307804120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.51
著者名(敬称略)
白土 寛和 他
所属
Carnegie Mellon University

抄訳

概要:近年、機械知能は、その発展に伴い、人々の集団行動での利用が増加しています。これにより、個人の利便性は向上する一方、社会規範や互恵性といった人々が協力して行動するために築いてきた価値観が影響を受ける可能性があります。

本研究では、社会協調のゲーム理論に基づき、インターネットを介した遠隔操作で複数の小型ロボット車を協調させる実験を行いました。300人の被験者を用い、機械知能による支援が人々の互恵性に与える影響を調査しました。

実験の結果、緊急時の自動操舵支援システムを搭載した車を「運転」すると、人々が自分の利益にのみ焦点を当て、道の譲り合いといった互恵性が抑制されることが明らかになりました。この行動変容は、人と人との間にある社会規範を損なうため、自動操舵支援がなくなった後もすぐには回復しないことが追加実験で確認されました。

研究の結果から、機械知能が人間の意思決定に介入することで、利他的な社会規範が崩れる可能性が示唆されます。人々は、集団行動における困難に対処するため、様々な社会規範や価値観を築いてきました。しかし、機械知能がそうした黙約を考慮せず人の集団行動に関与した場合、人々の持つ社会性が影響を受けることが懸念されます。

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2024/01/12

メダカの生殖腺発達の概年リズムを支える転写プログラム

論文タイトル
A transcriptional program underlying the circannual rhythms of gonadal development in medaka
論文タイトル(訳)
メダカの生殖腺発達の概年リズムを支える転写プログラム
DOI
10.1073/pnas.2313514120
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.120 No.52
著者名(敬称略)
吉村 崇 他
所属
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)

抄訳

熱帯以外の地域では季節によって環境が大きく変動します。自然界の生物にとって、この環境の季節変化に上手に適応できるか否かは死活問題です。生物は毎年繰り返される季節の変化に積極的に適応するために、概ね(おおむね)1年の内因性のリズムを刻む体内時計「概年(がいねん)時計」を進化の過程で身に着けました。概年時計は繁殖活動や渡り、冬眠などのタイミングを制御していますが、その仕組みはいかなる生物においても謎に包まれていました。
今回の研究では、まずメダカに概年時計が存在することを示しました。また数年間にわたる網羅的な遺伝子発現解析の結果、1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を同定することに成功するとともに、脳内での細胞分裂、細胞分化が1年という長期的な「時」を刻むのに重要である可能性を示しました。ヒトにおいても様々な疾患に季節変化が存在します。今後、それらの季節性疾患の分子機構のほか、様々な生物にみられる季節にまつわる営みの分子機構が明らかになることが期待されます。

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2023/12/27

ヒト胎盤栄養膜細胞におけるプロゲステロン受容体膜構成因子1(PGRMC1)の発現低下は、分化・融合を促進する

論文タイトル
Downregulation of PGRMC1 accelerates differentiation and fusion of a human trophoblast cell line
論文タイトル(訳)
ヒト胎盤栄養膜細胞におけるプロゲステロン受容体膜構成因子1(PGRMC1)の発現低下は、分化・融合を促進する
DOI
10.1530/JOE-23-0163
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology JOE-23-0163 01 Nov 2023
著者名(敬称略)
津留 涼也 吉江幹浩 他
所属
東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室

抄訳

胎盤絨毛に存在する細胞性栄養膜細胞は、絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やプロゲステロンを産生する多核の合胞体栄養膜細胞へと分化・融合する。この分化・融合の障害は、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などの原因となる。本研究では、ヘム結合性膜貫通タンパク質PGRMC1が、妊娠初期胎盤の栄養膜細胞において分化・融合と共に発現が減少することを発端とし、ヒト栄養膜様細胞株におけるPGRMC1阻害薬及び発現抑制がhCG産生を指標とする分化を促進すること、さらにスプリットルシフェラーゼを利用した定量的な細胞融合評価系を確立し、PGRMC1阻害及び発現抑制が細胞融合を促進することを明らかにした。また、妊娠高血圧症候群と胎児発育不全を併発した胎盤ではPGRMC1の高発現を確認した。これらの知見から、胎盤栄養膜細胞におけるPGRMC1発現の減少は、分化・融合を促進し、胎盤形成や妊娠維持に寄与することが推察された。

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2023/12/05

担子菌酵母の新種であるHannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.,は油脂生産能を有する

論文タイトル
Hannaella oleicumulans sp. nov. and Hannaella higashiohmiensis sp. nov., two novel oleaginous basidiomycetous yeast species
論文タイトル(訳)
担子菌酵母の新種であるHannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.,は油脂生産能を有する
DOI
10.1099/ijsem.0.006027
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 9
著者名(敬称略)
谷村あゆみ、島 純 他
所属
龍谷大学 農学部

抄訳

滋賀県の土壌から3株の油脂生産性を有する酵母を分離した。ITS領域及びリボゾームRNAをコードするD1/D2領域の塩基配列を決定した。その結果、それらの酵母株はHannaella属の担子菌酵母であることが示唆された。分子系統解析の結果、38-3株及び8s1株はHannaella oryzaeに近縁であることがわかった。しかし、これらの株では多数の塩基置換がおきており、ギャップも観察された。そこで、これらの株を新種酵母Hannaella oleicumulans sp. nov. 及び Hannaella higashiohmiensis sp. nov.として提案する。

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2023/11/09

著明な左室流出路狭窄を伴うたこつぼ心筋症におけるランジオロール経静脈投与がもたらす循環動態への影響

論文タイトル
Haemodynamic effects of acute intravenous landiolol in Takotsubo cardiomyopathy with dynamic left ventricular outflow tract obstruction
論文タイトル(訳)
著明な左室流出路狭窄を伴うたこつぼ心筋症におけるランジオロール経静脈投与がもたらす循環動態への影響
DOI
10.1136/bcr-2023-255987
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
曺 叡智、井上 健司 他
所属
順天堂大学医学部附属順天堂醫院 循環器内科

抄訳

たこつぼ心筋症(TCM)は、6-20%の症例で左室流出路(LVOT)狭窄に伴う心原性ショックをきたす。病態としてはLVOT狭窄が収縮期僧帽弁前方運動による僧帽弁閉鎖不全症を引き起こし、収縮能低下に加えて循環動態の破綻をきたす。本稿では、LVOT狭窄による循環不全に対してランジオロール投与が効果的だった3例のTCM症例を報告する。ランジオロールは短時間作用型β遮断薬のため血圧、心拍数をモニタリングしながら適宜容量を調節できる。その際できるだけ高容量を用いることで左心室-大動脈圧較差の解消を目指す。著明な流出路狭窄は、循環動態破綻の主要な予測指標(Odd ratio 4.6)であるため、血圧低下を伴う症例に対して積極的にランジオロールを用いることが有効な治療戦略と考える。

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2023/11/08

コイル塞栓術中の血栓塞栓症に対する血栓溶解剤のバルーン補助下動脈内局所注入

論文タイトル
Local thrombolytics via balloon-assisted intra-arterial infusion as rescue therapy for thromboembolism during endovascular coil embolisation
論文タイトル(訳)
コイル塞栓術中の血栓塞栓症に対する血栓溶解剤のバルーン補助下動脈内局所注入
DOI
10.1136/bcr-2023-256134
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
府賀 道康
所属
東京慈恵会医科大学 脳神経外科

抄訳

頭蓋内動脈瘤に対するコイル塞栓術において、血栓塞栓症は最も頻度の高い合併症である。血栓塞栓症は脳梗塞の原因となり、重篤な神経学的後遺症や死亡につながることから、適切な救済療法が重要である。今回我々は、未破裂後交通動脈瘤に対するコイル塞栓術中に発生した血管の急性閉塞に対して、バルーン補助下での血栓溶解剤の局所注入によって、閉塞血管を再開通させることに成功した。 本手法は、閉塞血管のすぐ遠位でマイクロバルーンを拡張させた状態で、閉塞血管の近位に留置したマイクロカテーテルから血栓溶解剤を注入する方法である。この手法により、局所的な薬剤濃度が上昇することによって、閉塞血管の再開通率が上昇する可能性がある。さらに、あらゆる種類の血栓溶解剤にも適用可能であり、全身的な薬剤の投与量を減らすことができることから、出血性合併症が低下する可能性がある。 頭蓋内動脈瘤に対するコイル塞栓術中に発生した閉塞血管に対するバルーン補助下での動脈内血栓溶解剤の局所注入法は,従来の血栓溶解剤の投与方法では血栓塞栓症が改善しなかった場合に,検討すべき救済療法である。

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2023/11/08

ウイルスゲノム様人工遺伝子を利用した安定的二本鎖RNAウイルスベクターの構築

論文タイトル
Genetic engineering strategy for generating a stable dsRNA virus vector using a virus-like codon-modified transgene
論文タイトル(訳)
ウイルスゲノム様人工遺伝子を利用した安定的二本鎖RNAウイルスベクターの構築
DOI
10.1128/jvi.00492-23
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology October 2023  Volume 97  Issue 10  e00492-23
著者名(敬称略)
金井 祐太 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 ウイルス免疫分野

抄訳

RNAウイルスには様々な細胞を標的とする多様なウイルスが含まれ、ウイルスベクターの魅力的なプラットフォームであるが、ウイルスゲノム複製のためのRNAポリメラーゼが校正活性を欠くため、継代を繰り返す過程でウイルスゲノムに挿入された外来遺伝子が欠失することが知られている。本研究では、分節型二本鎖RNAをゲノムとして持つレオウイルス科のロタウイルス(RV)をウイルスベクターとして使用した際の外来遺伝子の安定性向上のため、ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc、Akaluc)および蛍光タンパク質遺伝子(ZsGreen、AsRed)を元に、ロタウイルスNSP1遺伝子のコドン使用頻度に類似するよう塩基配列を改変した人工遺伝子をデザインした。未改変の外来遺伝子を発現するRVベクターは感染継代後に外来遺伝子の欠損が高確率に認められたが、RVゲノム様に改変した人工遺伝子は安定的に保持されることが明らかとなった。同様にレオウイルス科の哺乳類レオウイルス(MRV)ベクターにおいても、外来遺伝子の塩基配列をMRVゲノム様に改変することで安定性が顕著に上昇することが確認されたことから、本手法が様々なRNAウイルスベクターに広く利用できる可能性が示唆された。

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2023/11/02

子宮筋腫の発生・病態におけるMED12変異の役割

論文タイトル
RISING STARS: Role of MED12 mutation in the pathogenesis of uterine fibroids
論文タイトル(訳)
子宮筋腫の発生・病態におけるMED12変異の役割
DOI
10.1530/JME-23-0039
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology Volume 71: Issue 4 e230039
著者名(敬称略)
石川博士 他
所属
千葉大学大学院医学研究院生殖医学

抄訳

子宮筋腫は大量の細胞外マトリックスを含み、性ステロイド依存性発育を示す。子宮筋腫のドライバー遺伝子変異で最も頻度の高いMED12変異は、筋腫の50-80%にみられる。このMED12変異は機能獲得型変異と考えられており、アフリカ系アメリカ人に多く、多発性筋腫では比較的小さな筋腫にもみられる。MED12変異筋腫は特有の遺伝子発現プロファイル、DNAメチローム、トランスクリプトーム、プロテオームを持つ。また細胞外マトリックス関連遺伝子の発現が上昇しており、メディエーター複合体のキナーゼ活性とWnt/βカテニンシグナル経路に異常がみられる。臨床的にはMED12変異の有無でGnRHアナログ製剤や選択的プロゲステロン受容体モジュレーターであるウリプリスタル投与による縮小効果が異なる。MED12変異筋腫の特徴を理解し、MED12変異の筋腫形成への関与を明らかにすることは、MED12を標的にした子宮筋腫に対する新たな治療法の開発につながると考えられる。

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2023/10/24

GLP-1受容体作動薬投与と腎移植後2型糖尿病患者の移植腎機能に対する効果の可能性

論文タイトル
Possible Advantage of Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists for Kidney Transplant Recipients With Type 2 Diabetes
論文タイトル(訳)
GLP-1受容体作動薬投与と腎移植後2型糖尿病患者の移植腎機能に対する効果の可能性
DOI
10.1210/clinem/dgad177
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 10, October 2023, Pages 2597–2603
著者名(敬称略)
佐藤 哲彦 他
所属
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 糖尿病•内分泌内科

抄訳

【背景】GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は2型糖尿病患者の腎機能に対して有益であることが知られている。しかしながら、GLP-1RAが腎移植後の移植腎機能に及ぼす効果について十分検討されていない。
【方法】本研究は単施設の後方視的観察研究として、2012年より腎移植後1か月後より安定した移植腎機能を有し、24か月以上経過観察された該当する全ての2型糖尿病腎移植患者を対象とした。 4か月間40%以上の推定糸球体濾過量低下を腎イベントと定義し、GLP-1RA投与群と非投与群における腎イベントリスクの関連性を、傾向スコア逆数重き付け(IPTW)で補正し解析した。
【結果】73例のGLP-1RA投与群と73例の非投与群を同定し、観察期間中に腎イベントはそれぞれ1名、6名認められた。IPTWにてリスク補正し、GLP-1RA投与は腎イベントのオッズ比0.105 (p<0.05)と、非投与群に比し有意に腎イベントリスク低下と関連した。また感度分析としてその後追跡し、2021年12月までに腎イベントを有した全症例で移植腎機能廃絶を認めた。なお観察期間中の移植腎機能を有したままの死亡症例を認めなかった。
【結論】GLP-1RA投与は、腎移植後2型糖尿病の移植腎機能保持に有用である可能性が示唆された。

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2023/10/23

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症:高フェリチン血症のまれな原因

論文タイトル
Isolated ACTH deficiency: an uncommon cause of hyperferritinaemia
論文タイトル(訳)
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症:高フェリチン血症のまれな原因
DOI
10.1136/bcr-2023-256049
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
磯田 淳 他
所属
医療法人星医院、独立行政法人国立病院機構渋川医療センター

抄訳

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症(Isolated ACTH Deficiency; IAD)はまれな疾患であり、高フェリチン血症の原因としてはほとんど知られていない。私たちは、軽度の貧血(Hb 11.3g/dL)と高フェリチン血症(1796μg/L)を呈したIADの症例について報告する。患者は70歳代男性で、正常腎機能にも関わらず血清エリスロポエチン値の相対的低下(14.2 IU/L)と血清ヘプシジン-25値の上昇(91.7μg/dL)を認めた。IAD診断後、ヒドロコルチゾンの補充(15mg/日)により、貧血は速やかに改善し、血清ヘプシジン-25値と血清フェリチン値は正常化した。本症例では、副腎不全に伴うグルココルチコイド欠乏が、赤血球造血と抗炎症活性を抑制し、血清ヘプシジン-25値の上昇と高フェリチン血症の発症に関与したと考えられた。IADの初期症状は、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、血液量の減少など非特異的であるため、診断が遅れる可能性がある。原因不明の貧血と高フェリチン血症を持つ患者においては、IADを含む副腎不全の可能性を鑑別診断として考慮すべきである。

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2023/10/20

ヒト腸内から分離されたデオキシコール酸を産生する新菌種Claveliimonas bilisSellimonas monacensisの再分類

論文タイトル
Claveliimonas bilis gen. nov., sp. nov., deoxycholic acid-producing bacteria isolated from human faeces, and reclassification of Sellimonas monacensis Zenner et al. 2021 as Claveliimonas monacensis comb. nov.
論文タイトル(訳)
ヒト腸内から分離されたデオキシコール酸を産生する新菌種Claveliimonas bilisSellimonas monacensisの再分類
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006030
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 9
著者名(敬称略)
久富 敦、坂本 光央 他
所属
国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

抄訳

健康な日本人の糞便から分離された嫌気性桿菌の3株はSellimonas monacensis(97.5%)および'Lachnoclostridium phocaeense'(97.2%)と最も高い16S rRNA遺伝子配列類似性を示した。また分離株は、デオキシコール酸を産生するEubacterium sp. c-25と単系統のクラスターを形成していた。分離株およびEubacterium sp. c-25株間のDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)値および平均ヌクレオチド同一性(ANI)値は、種の閾値よりも高く、これらは同一種であることが示された。一方、これらの菌株のdDDH値およびANI値は、他の菌株に対する種判定の閾値よりも低く、さらに、これらの菌株間の平均アミノ酸同一性値は属境界の閾値よりも高かった。収集されたデータによると、分離株は、Lachnospiraceae科の新属に属すると考えられ、Claveliimonas bilisを提案した。

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2023/10/20

Faecalibacterium hominisはFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムである

論文タイトル
Faecalibacterium hominis Liu et al. 2023 is a later heterotypic synonym of Faecalibacterium duncaniae Sakamoto et al. 2022
論文タイトル(訳)
Faecalibacterium hominisはFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムである
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005995
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 8
著者名(敬称略)
坂本 光央、遠藤 明仁 他
所属
国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

抄訳

最近承認されたFaecalibacterium hominisの1株は、Faecalibacterium duncaniaeの基準株と16S rRNA遺伝子配列において99.0%の類似性を有していた。本研究の目的は、F. hominisF. duncaniaeの分類学的関係を評価することである。F. duncaniae JCM 31915TF. hominis JCM 39347Tと73.0%のDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)値を示した。また、この2株間の平均塩基同一性(ANI)値は96.7%であった。これらの結果から、F. duncaniae JCM 31915TF. hominis JCM 39347Tは同種であることが示された。これらのデータに基づき、我々はFaecalibacterium hominisFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムとして提案する。また、このシノニムの説明文に修正を加えた。

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2023/10/17

ダプソン誘発性Heinz小体型溶血性貧血

論文タイトル
Dapsone-induced Heinz-body haemolytic anaemia
論文タイトル(訳)
ダプソン誘発性Heinz小体型溶血性貧血
DOI
http://dx.doi.org/10.1136/bcr-2023-256775
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
豊島 孝幸, 原田 侑典 他
所属
市立奈良病院総合診療科

抄訳

90代男性患者がふらつき、脱力感、混濁尿を主訴に受診した。全身の搔痒性紅斑のため1か月前からダプソンを服用していた。診察および血液検査で溶血性貧血を示す所見を認め、末梢血液塗抹標本でbite cellとHeinz小体の凝集を認めた。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)欠損症を疑ったが異常はなく、その他の溶血性貧血の原因を示唆する所見にも乏しく、ダプソン誘発性溶血性貧血と診断した。酸化的溶血性貧血はG6PD欠損症を伴わない場合にも発症することがあり、末梢血液塗抹標本でbite cellやHienz小体を発見することが診断に重要である。

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2023/10/10

マウスDNA/RNAヘリカーゼSenataxinの新しい対立遺伝子が減数分裂停止と不妊を引き起こす

論文タイトル
New allele of mouse DNA/RNA helicase senataxin causes meiotic arrest and infertility
論文タイトル(訳)
マウスDNA/RNAヘリカーゼSenataxinの新しい対立遺伝子が減数分裂停止と不妊を引き起こす
DOI
10.1530/REP-23-0166
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-23-0166
著者名(敬称略)
藤原 靖浩 (筆頭著者兼連絡著者) 
所属
東京大学定量生命科学研究所病態発生制御研究分野

抄訳

不妊に関わる新規遺伝子同定を目的としたスクリーニングにより、spcar3変異表現型が同定された。spcar3変異は、R-loop構造を解消する機能を持つDNA/RNAヘリカーゼであるSenataxinをコードするSetx遺伝子の新たな対立遺伝子であることが明らかとなった。Setxspcar3突然変異マウスは雄性不妊を示すが、その原因は精細管に精子細胞と成熟精子が存在しないことである。Setxspcar3突然変異精母細胞の染色体標本を解析したところ、相同染色体の対合は正常にもかかわらず、常染色体における異常なDNA損傷形成、性染色体クロマチンの形成不全が生じていることが明らかになった。さらに、Setxspcar3突然変異マウスの精巣細胞は、Rループの異常蓄積を示した。これらの結果から、Senataxinが正常な減数分裂と精子形成に必要であることが確認されただけでなく、R-loop形成制御とゲノム恒常性維持における役割を解析するための新たなリソースが得られた。

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2023/09/06

2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者への少量スピロノラクトン投与の有効性と安全性

論文タイトル
Efficacy and Safety of Low-dose Spironolactone for Chronic Kidney Disease in Type 2 Diabetes
論文タイトル(訳)
2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者への少量スピロノラクトン投与の有効性と安全性
DOI
10.1210/clinem/dgad144
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 9, September 2023, Pages 2203–2210
著者名(敬称略)
大岩 亜子 他
所属
信州大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌代謝内科

抄訳

レニンアンジオテンシン系阻害薬へミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のスピロノラクトンを追加投与すると、2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者において、尿中アルブミン排泄量が減少することはこれまで多く報告されてきたが、高カリウム血症などの副作用のリスクが増加するため汎用されるには至っていない。今回私達は、スピロノラクトンの通常処方の最小量である25 mg/dayのさらに半量である12.5 mg/dayを24週間投与し、その効果と安全性を他施設非盲検ランダム化比較試験にて検討した。結果は、少量スピロノラクトン群では、コントロール群に比して尿中アルブミン排泄量は38%減少し(P=0.007, Wilcoxon rank-sum test とt-test)、血清カリウム値に関しては、24週の時点で 5.5 mEq/L以上になった参加者はいなかった。さらに、スピロノラクトン投与前の血清カリウム値が高い患者ほど、血清カリウム値の増加量は少なく(estimate, -0.37, analysis of covariance)、高カリウム血症のリスクは低いことが示された。MRAの中では最も古くから使用され、非常に安価であるスピロノラクトンを、「少量投与」という新たな視点で見直すべきだと考える。

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