本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2023/10/20

ヒト腸内から分離されたデオキシコール酸を産生する新菌種Claveliimonas bilisSellimonas monacensisの再分類

論文タイトル
Claveliimonas bilis gen. nov., sp. nov., deoxycholic acid-producing bacteria isolated from human faeces, and reclassification of Sellimonas monacensis Zenner et al. 2021 as Claveliimonas monacensis comb. nov.
論文タイトル(訳)
ヒト腸内から分離されたデオキシコール酸を産生する新菌種Claveliimonas bilisSellimonas monacensisの再分類
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006030
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 9
著者名(敬称略)
久富 敦、坂本 光央 他
所属
国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

抄訳

健康な日本人の糞便から分離された嫌気性桿菌の3株はSellimonas monacensis(97.5%)および'Lachnoclostridium phocaeense'(97.2%)と最も高い16S rRNA遺伝子配列類似性を示した。また分離株は、デオキシコール酸を産生するEubacterium sp. c-25と単系統のクラスターを形成していた。分離株およびEubacterium sp. c-25株間のDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)値および平均ヌクレオチド同一性(ANI)値は、種の閾値よりも高く、これらは同一種であることが示された。一方、これらの菌株のdDDH値およびANI値は、他の菌株に対する種判定の閾値よりも低く、さらに、これらの菌株間の平均アミノ酸同一性値は属境界の閾値よりも高かった。収集されたデータによると、分離株は、Lachnospiraceae科の新属に属すると考えられ、Claveliimonas bilisを提案した。

論文掲載ページへ

2023/10/20

Faecalibacterium hominisはFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムである

論文タイトル
Faecalibacterium hominis Liu et al. 2023 is a later heterotypic synonym of Faecalibacterium duncaniae Sakamoto et al. 2022
論文タイトル(訳)
Faecalibacterium hominisはFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムである
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005995
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 8
著者名(敬称略)
坂本 光央、遠藤 明仁 他
所属
国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

抄訳

最近承認されたFaecalibacterium hominisの1株は、Faecalibacterium duncaniaeの基準株と16S rRNA遺伝子配列において99.0%の類似性を有していた。本研究の目的は、F. hominisF. duncaniaeの分類学的関係を評価することである。F. duncaniae JCM 31915TF. hominis JCM 39347Tと73.0%のDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)値を示した。また、この2株間の平均塩基同一性(ANI)値は96.7%であった。これらの結果から、F. duncaniae JCM 31915TF. hominis JCM 39347Tは同種であることが示された。これらのデータに基づき、我々はFaecalibacterium hominisFaecalibacterium duncaniaeの後の異型シノニムとして提案する。また、このシノニムの説明文に修正を加えた。

論文掲載ページへ

2023/10/17

ダプソン誘発性Heinz小体型溶血性貧血

論文タイトル
Dapsone-induced Heinz-body haemolytic anaemia
論文タイトル(訳)
ダプソン誘発性Heinz小体型溶血性貧血
DOI
http://dx.doi.org/10.1136/bcr-2023-256775
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 10
著者名(敬称略)
豊島 孝幸, 原田 侑典 他
所属
市立奈良病院総合診療科

抄訳

90代男性患者がふらつき、脱力感、混濁尿を主訴に受診した。全身の搔痒性紅斑のため1か月前からダプソンを服用していた。診察および血液検査で溶血性貧血を示す所見を認め、末梢血液塗抹標本でbite cellとHeinz小体の凝集を認めた。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)欠損症を疑ったが異常はなく、その他の溶血性貧血の原因を示唆する所見にも乏しく、ダプソン誘発性溶血性貧血と診断した。酸化的溶血性貧血はG6PD欠損症を伴わない場合にも発症することがあり、末梢血液塗抹標本でbite cellやHienz小体を発見することが診断に重要である。

論文掲載ページへ

2023/10/10

マウスDNA/RNAヘリカーゼSenataxinの新しい対立遺伝子が減数分裂停止と不妊を引き起こす

論文タイトル
New allele of mouse DNA/RNA helicase senataxin causes meiotic arrest and infertility
論文タイトル(訳)
マウスDNA/RNAヘリカーゼSenataxinの新しい対立遺伝子が減数分裂停止と不妊を引き起こす
DOI
10.1530/REP-23-0166
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-23-0166
著者名(敬称略)
藤原 靖浩 (筆頭著者兼連絡著者) 
所属
東京大学定量生命科学研究所病態発生制御研究分野

抄訳

不妊に関わる新規遺伝子同定を目的としたスクリーニングにより、spcar3変異表現型が同定された。spcar3変異は、R-loop構造を解消する機能を持つDNA/RNAヘリカーゼであるSenataxinをコードするSetx遺伝子の新たな対立遺伝子であることが明らかとなった。Setxspcar3突然変異マウスは雄性不妊を示すが、その原因は精細管に精子細胞と成熟精子が存在しないことである。Setxspcar3突然変異精母細胞の染色体標本を解析したところ、相同染色体の対合は正常にもかかわらず、常染色体における異常なDNA損傷形成、性染色体クロマチンの形成不全が生じていることが明らかになった。さらに、Setxspcar3突然変異マウスの精巣細胞は、Rループの異常蓄積を示した。これらの結果から、Senataxinが正常な減数分裂と精子形成に必要であることが確認されただけでなく、R-loop形成制御とゲノム恒常性維持における役割を解析するための新たなリソースが得られた。

論文掲載ページへ

2023/09/06

2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者への少量スピロノラクトン投与の有効性と安全性

論文タイトル
Efficacy and Safety of Low-dose Spironolactone for Chronic Kidney Disease in Type 2 Diabetes
論文タイトル(訳)
2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者への少量スピロノラクトン投与の有効性と安全性
DOI
10.1210/clinem/dgad144
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 9, September 2023, Pages 2203–2210
著者名(敬称略)
大岩 亜子 他
所属
信州大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌代謝内科

抄訳

レニンアンジオテンシン系阻害薬へミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のスピロノラクトンを追加投与すると、2型糖尿病を有する慢性腎臓病患者において、尿中アルブミン排泄量が減少することはこれまで多く報告されてきたが、高カリウム血症などの副作用のリスクが増加するため汎用されるには至っていない。今回私達は、スピロノラクトンの通常処方の最小量である25 mg/dayのさらに半量である12.5 mg/dayを24週間投与し、その効果と安全性を他施設非盲検ランダム化比較試験にて検討した。結果は、少量スピロノラクトン群では、コントロール群に比して尿中アルブミン排泄量は38%減少し(P=0.007, Wilcoxon rank-sum test とt-test)、血清カリウム値に関しては、24週の時点で 5.5 mEq/L以上になった参加者はいなかった。さらに、スピロノラクトン投与前の血清カリウム値が高い患者ほど、血清カリウム値の増加量は少なく(estimate, -0.37, analysis of covariance)、高カリウム血症のリスクは低いことが示された。MRAの中では最も古くから使用され、非常に安価であるスピロノラクトンを、「少量投与」という新たな視点で見直すべきだと考える。

論文掲載ページへ

2023/09/05

abalone asfa-like virusの病原性、ゲノム解析と構造:Asfarviridae科に分類される証拠

論文タイトル
Pathogenicity, genomic analysis and structure of abalone asfa-like virus: evidence for classification in the family Asfarviridae
論文タイトル(訳)
abalone asfa-like virusの病原性、ゲノム解析と構造:Asfarviridae科に分類される証拠
DOI
https://doi.org/10.1099/jgv.0.001875
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Vol 104 Issue 8
著者名(敬称略)
松山 知正 他
所属
国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所 養殖部門 病理部

抄訳

アワビ類に対して高病原性を示すabalone asfa-like virus(AbALV)は、部分ゲノム配列解析から豚に強い伝染性と致死性を示すアフリカ豚熱ウイルス(ASFV)との近縁性が報告されていた。ASFVは既知の二本鎖DNAウイルスの中で、節足動物内で増殖し脊椎動物に伝播する唯一の種である。また、近縁種が見つかっておらずAsfarviridae科に属する唯一のウイルスである。本論文では全ゲノム解析と粒子形態に基づき、AbALVをAsfarviridae科に分類する根拠を示した。AbALVのゲノムは約281kbpの直鎖状で309遺伝子が予測され、ASFVと同様に両端には繰り返し配列が存在した。両ウイルスのゲノム中央領域のシンテニーは保存的であった。ビリオンの大きさは約200 nmで形態的にASFVと類似した。ゲノム構造とビリオン形態が類似すること、いずれも前口動物に感染することから、AbALVはAsfarviridae科に分類されることが示唆された。AbALVの特性解析は、アワビ養殖における感染症被害の軽減に貢献するだけでなく、進化的起源が不明確なASFVの理解を進める新たな視点を提供するだろう。

論文掲載ページへ

2023/08/23

高水圧によって誘起されるSaccharomyces cerevisiaeのCWI経路活性化は、アクアグリセロポリンFps1を介したグリセロールの排出を促進する

論文タイトル
Activation of CWI pathway through high hydrostatic pressure, enhancing glycerol efflux via the aquaglyceroporin Fps1 in Saccharomyces cerevisiae
論文タイトル(訳)
高水圧によって誘起されるSaccharomyces cerevisiaeのCWI経路活性化は、アクアグリセロポリンFps1を介したグリセロールの排出を促進する
DOI
10.1091/mbc.E23-03-0086
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 9
著者名(敬称略)
阿部 文快 他
所属
青山学院大学理工学部 化学・生命科学科 分子遺伝学研究室

抄訳

真菌の細胞壁は、浸透圧の変化や毒物、あるいは物理的なストレスから細胞を守る最初のバリアとして機能する。私たちは、高水圧にさらされた出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeが、浸透圧調節機構と細胞壁完全性(CWI)経路を活性化し、高水圧ストレスに適応するメカニズムを明らかにした。25MPa(約250 kg/㎠)という高水圧下で酵母が増殖するためには、膜貫通型メカノセンサーWsc1が不可欠であることをつきとめた。すなわち、水圧上昇に伴う水の過剰流入によって細胞が膨潤すると、Wsc1がCWI経路を活性化する。その後、下流のMAPキナーゼSlt2がアクアグリセロポリンFps1をリン酸化することで、グリセロールの排出が促進し、細胞への水の流入が停止する。このようにして浸透圧調節が適切に行われ、酵母は高水圧下で破裂するのを回避していたのである。CWI経路を介した高水圧適応のメカニズムは、真菌だけでなくほ乳動物細胞に適用できる可能性もあり、細胞のメカノセンシングに関する新たな洞察を提供するものと期待される。

論文掲載ページへ

2023/08/17

Stenotrophomonas属のblaL1-like遺伝子多様性:公開ゲノムデータに基づく洞察

論文タイトル
Diversity of bla L1-like genes in Stenotrophomonas species: insights from genome analysis of publicly available genome sequences
論文タイトル(訳)
Stenotrophomonas属のblaL1-like遺伝子多様性:公開ゲノムデータに基づく洞察
DOI
10.1128/aac.00673-23
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy 16 August 2023 e00673-23
著者名(敬称略)
山田 景土 他
所属
東邦大学 医学部微生物・感染症学講座

抄訳

 Stenotrophomonas属は土壌など環境に広く分布するグラム陰性桿菌であり、Stenotrophomonas maltophiliaは同属の代表的な菌種である。S. maltophiliaは種得意的なメタロβラクタマーゼ(L1)を産生し、多くのβラクタム系抗菌薬に耐性を示す。このL1をコードする遺伝子(blaL1)は同一種の中でも、配列多様性を示すとされていた。この研究では、この多様性を示す理由を探る為、公開データベースで利用可能なゲノム配列を用いて分子系統解析を行った。その結果、これまで、S. maltophiliaと考えらていた菌種が、多くの未登録の類縁菌種からなる"S. maltophilia complex"であることが確認された。blaL1の多様性は、この種の多様性に関連している事が明らかになり、加えて、blaL1はゲノム配列よりも塩基配列の相同性が低い事が明らかになった。以上より、blaL1の多様性は種の多様性およびblaL1の進化速度に起因している可能性が示された。

論文掲載ページへ

2023/08/07

日本人乳児と高齢者におけるRSウイルスに関連した入院および外来費用

論文タイトル
Inpatient and outpatient costs associated with respiratory syncytial virus in Japanese infants and older adults
論文タイトル(訳)
日本人乳児と高齢者におけるRSウイルスに関連した入院および外来費用
DOI
10.2217/fvl-2023-0069
ジャーナル名
Future Virology
巻号
Future Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
五十嵐 中 他
所属
横浜市立大学 医学群 健康社会医学ユニット、東京大学大学院 薬学系研究科 医薬政策学

抄訳

目的:日本におけるRSウイルス(RSV)感染症に対する医療費を分析する。
方法:JMDCとMDVの2つの商用レセプトデータベースを用いて、RSVと診断された乳児(12カ月未満)と高齢者(60歳以上)のコホートにおける医療費、入院期間および集中治療室滞在期間を後ろ向きに評価した。また、RSVに感染していない乳児を含めた全乳児のコホートでパリビズマブの使用量と費用を分析した。
結果:入院患者の平均医療費は、JMDCの乳児(n=13,752)、MDVの乳児(n=22,142)、MDVの高齢者(n=165)で、それぞれ369,767円、373,480円、865,723 円であった。生後1カ月未満、危険因子あり、または重症RSVの乳児はより高い医療費を要した。乳児(JMDC)におけるパリビズマブの12カ月未満までの平均累積費用は890,259円であった。
結論:RSVは乳児および高齢者に多大な経済的負担をもたらす。

論文掲載ページへ

2023/07/26

肝線維化のメカニズム解明に向けたヒトiPS細胞由来肝臓モデルの開発

論文タイトル
Using human induced pluripotent stem cell-derived liver cells to investigate the mechanisms of liver fibrosis in vitro
論文タイトル(訳)
肝線維化のメカニズム解明に向けたヒトiPS細胞由来肝臓モデルの開発
DOI
10.1042/BST20221421
ジャーナル名
Biochemical Society Transactions
巻号
Biochem Soc Trans (2023) 51 (3): 1271-1277.
著者名(敬称略)
厚井 悠太、木戸 丈友
所属
東京大学 定量生命科学研究所 附属高度細胞多様性研究センター

抄訳

肝臓には実質的な機能を担う肝細胞に加えて、肝非実質細胞(肝類洞内皮細胞、肝星細胞など)が存在する。これらの肝非実質細胞は、肝線維化の進行において重要な役割を果たしている。特に肝星細胞は、種々の肝障害に応答し、コラーゲン等の細胞外基質を産生して線維化を誘導し、病態の進行に直接的に影響を与える細胞である。線維化の病態を正しく理解して新たな治療法を開発するために、我々を含めた研究グループは、ヒトiPS細胞から肝非実質細胞を作製するシステムを構築してきた。また、これらの細胞を用いたヒト肝臓モデルを開発し、肝線維化のメカニズム解析や新たな治療薬のスクリーニングを実施してきた。本論文では、ヒトiPS細胞から肝非実質細胞への分化誘導系のこれまでの動向、並びに、肝非実質細胞を用いたヒト肝臓モデルの有用性と今後の展望について概説している。

論文掲載ページへ

2023/07/25

BAG6は、RhoAのユビキチン依存的分解を介してストレスファイバーの形成を制御する

論文タイトル
BAG6 supports stress fiber formation by preventing the ubiquitin-mediated degradation of RhoA
論文タイトル(訳)
BAG6は、RhoAのユビキチン依存的分解を介してストレスファイバーの形成を制御する.
DOI
10.1091/mbc.E22-08-0355
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 4
著者名(敬称略)
宮内 真帆、川原 裕之 他
所属
東京都立大学理学部生命科学科 細胞生化学研究室

抄訳

 RhoA低分子量GTPaseは、ストレスファイバー形成の調節を介して、細胞の形態・接着・移動・浸潤などを制御する。これまでの研究から、RhoAタンパク質はCUL3ユビキチンリガーゼにより分解誘導されうることが知られていたが、このプロセスがどのように調節されているかは明らかではなかった。本論文で我々は、RhoAの安定性はBAG6シャペロンにより支えられていることを見出した。BAG6ノックダウンはCUL3ユビキチンリガーゼによるRhoAの認識と分解を促進し、ストレスファイバーやフォーカルアドヒージョンの減少、ひいては細胞遊走の低下を誘導する。重要なことに、これらの表現型はRhoAの過剰発現、あるいはCUL3ノックダウンなどによりレスキューされた。さらに、BAG6によるRhoA認識は疎水性相互作用を介していることも判明した。BAG6による疎水領域の認識は、構造不良タンパク質の認識メカニズムと共通していることから、BAG6を介したタンパク質品質管理系とアクチンファイバー構築の制御系にはクロストークがありうることが本論文で初めて示唆された。

論文掲載ページへ

2023/07/25

コレステロールとアクチンの視点から見た細胞膜:シンガー・ニコルソン流動モザイクモデル50周年を記念した新しい細胞膜モデル

論文タイトル
Cholesterol- and actin-centered view of the plasma membrane: updating the Singer–Nicolson fluid mosaic model to commemorate its 50th anniversary
論文タイトル(訳)
コレステロールとアクチンの視点から見た細胞膜:シンガー・ニコルソン流動モザイクモデル50周年を記念した新しい細胞膜モデル
DOI
10.1091/mbc.E20-12-0809
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 5
著者名(敬称略)
楠見 明弘 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 膜協同性ユニット

抄訳

 細胞膜の理解に関して、全く違った二つの視点が存在する。一つは、細胞膜は元来のシンガー・ニコルソンの流動モザイクモデルによって記述される単純な流体、というものである。他方は、細胞膜は、数千の分子種が互いに様々な相互作用をすることで形成され、かつ常に変化するクラスタとドメインからなっており、細胞膜の構造と分子動態を説明する単純な規則は存在しないとするものである。現在では、後者の見方が一般的である。しかし、何らかの規則は見いだせないものであろうか? 本総説で、我々は、細胞膜の二つのもっとも主要な構成要素であるコレステロールとアクチン線維の観点から細胞膜を見ることが、細胞膜の組織化、動態、および機能の作動機構を理解するための優れた視点を提供すると提案する。特に、細胞膜内で共存するアクチンによる区画(仕切り)と脂質ラフトドメイン、および、それらの相互作用が細胞膜の構成に重要であり、それらがどのように細胞膜の機能を遂行するかについて述べる。この視点から、流動モザイクモデルをさらに発展させた新しい細胞膜モデルを提案する。

論文掲載ページへ

2023/07/21

ATM依存性のCHD7リン酸化は、放射線被ばく胎児における形態形成とカップルしたDSBストレス応答を制御している

論文タイトル
ATM–dependent phosphorylation of CHD7 regulates morphogenesis-coupled DSB stress response in fetal radiation exposure
論文タイトル(訳)
ATM依存性のCHD7リン酸化は、放射線被ばく胎児における形態形成とカップルしたDSBストレス応答を制御している
DOI
10.1091/mbc.E22-10-0450
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume. 34, Issue. 5
著者名(敬称略)
野田 朝男 他
所属
放射線影響研究所 分子生物科学部

抄訳

放射線で生じるゲノム損傷のうち、修復が困難なDNA二重鎖切断 (DSB)は細胞に重大な影響を及ぼします。このような損傷を持つ細胞に特徴的な遺伝子発現を調べる過程で、転写因子CHD7 (Chromodomain Helicase DNA binding protein 7) がATM依存的にリン酸化されていることを今回見つけました。CHD7はユビキタスな転写因子ですが、胎児発生期においては、神経冠細胞から目、口、耳や脳などの神経感覚器官や心臓の形態形成を司る転写因子として機能します。この形態形成転写因子タンパク質が放射線によりリン酸化され、ゲノム中の修復が困難なDSB部位に集積するという結果から、形態形成期には転写とカップルしたDSB修復機構が存在するのではないかと思われます。形態形成・器官形成という不可逆でcriticalな生物過程を遂行するために、この転写因子は自身がDSB修復機能も持つように進化してきたのではないでしょうか。              CHD7のハプロ不全は胎児に広範な先天性形成異常1 (congenital malformation) を誘発する事が知られています。放射線でも胎児の形態形成異常2が誘発されます。胎児の放射線被ばくにおいて、CHD7がDSB修復反応に優先的に動員された場合は、形態形成活性の一時的な低下(ハプロ不全のような状況)が予想されます。これが放射線誘発胎児形態形成異常の原因のひとつになっているのではないかと私たちは考えています。つまり、軽度・中程度のゲノム損傷の場合、CHD7は傷の修復と神経冠形態形成を同時にうまくやりくりして危機的状況を乗り越えることができるが、もしもゲノム損傷が多すぎると、形態形成がおろそかになり先天性形成異常が起こりやすくなる、ということと理解します。 注1:以前は「奇形」と言う言葉が使われました。 注2:胎児は「被ばく一世(胎内被ばく)」です。遺伝影響(親の生殖細胞被ばくによる二世影響)とは区別して考える必要があります。

論文掲載ページへ

2023/07/18

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスORF67.5は、ターミナーゼ複合体構成因子として機能する

論文タイトル
Kaposi’s Sarcoma-Associated Herpesvirus ORF67.5 Functions as a Component of the Terminase Complex
論文タイトル(訳)
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスORF67.5は、ターミナーゼ複合体構成因子として機能する
DOI
10.1128/jvi.00475-23
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology June 2023  Volume 97  Issue 6  e00475-23
著者名(敬称略)
祝迫 佑紀 藤室 雅弘 他
所属
京都薬科大学 細胞生物学分野

抄訳

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は感染者の免疫不全時にカポジ肉腫やB細胞性リンパ腫を引き起こすヒトヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルスやヒトサイトメガロウイルス等の他のヘルペスウイルスと異なり、KSHVのカプシド形成はほとんど解明されていない。特に、複製後の前駆体ウイルスDNAのプロセッシング(ターミナルリピート部分での切断)に関わると推測されているKSHVのターミナーゼ複合体は不明な点が多い。他のヘルペスウイルスとの相同性から、KSHVターミナーゼ複合体はKSHVがコードするORF7、ORF29、ORF67.5遺伝子産物によって構成されると推測される。我々は以前、ORF7欠損KSHVは、正常なウイルス産生を行うことができず、さらに新規形態の未成熟カプシドを形成することを報告し、これを”Soccer ball-like capsid”と名付けた。本論文では、ORF67.5欠損KSHVもまた、”Soccer ball-like capsid"を形成することを証明した。さらに、ORF67.5はターミナルリピートの切断、感染性ウイルスの産生、およびORF7とORF29の相互作用の増強に必要であった。ORF67.5には、ヒトヘルペスウイルスホモログ間で高度に保存された領域がいくつかある。これら保存領域はウイルス産生に必要であり、ORF67.5とORF7との相互作用にも必要であることを明らかにした。これらの結果はAIにて予測したKSHVターミナーゼ複合体構造モデルによっても支持された。本論文は、ORF67.5がKSHVターミナーゼ複合体の形成と前駆体ウイルスDNAのターミナルリピート部位での切断に必須であることを示す初めての報告である。

論文掲載ページへ

2023/07/11

アミノ酸源の添加が最少培地におけるShewanella oneidensis MR-1株の発酵増殖を促進する

論文タイトル
Supplementation with Amino Acid Sources Facilitates Fermentative Growth of Shewanella oneidensis MR-1 in Defined Media
論文タイトル(訳)
アミノ酸源の添加が最少培地におけるShewanella oneidensis MR-1株の発酵増殖を促進する
DOI
10.1128/aem.00868-23
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology 27 June 2023 e00868-23
著者名(敬称略)
池田壮汰 高妻篤史 他
所属
東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室

抄訳

Shewanella oneidensis MR-1株は環境細菌の多様なエネルギー代謝能力を解明するためのモデルとしてよく研究されており、金属酸化物やフマル酸などの様々な電子受容体を利用できることが知られている。一方、本株は乳酸発酵に必要な遺伝子を備えているにも関わらず、電子受容体を含まない最少培地中では糖を発酵して増殖することができない。本論文ではなぜMR-1株が糖発酵により増殖できないのかを明らかにするために、電子受容体(フマル酸)存在下と非存在下でのトランスクリプトームを比較した。その結果、電子受容体非存在下(発酵条件)では、細胞増殖に必要な炭素代謝(TCAサイクルやアミノ酸合成等)に関与する多くの遺伝子の発現が抑制されていた。また、最少培地中にアミノ酸源(トリプトンやアミノ酸混合液)を添加した培地では、本株が糖発酵により増殖できることも明らかになった。以上の結果から、MR-1株は電子受容体が欠乏した際にエネルギー消費を最小化するために環境中からアミノ酸を取り込むように代謝を制御しており、そのために最少培地における発酵増殖が阻害されていることが示唆された。

論文掲載ページへ

2023/07/10

免疫細胞の浸潤研究に適した血液脳関門構成内皮細胞の分化誘導

論文タイトル
Differentiation of Human Induced Pluripotent Stem Cells to Brain Microvascular Endothelial Cell-Like Cells with a Mature Immune Phenotype
論文タイトル(訳)
免疫細胞の浸潤研究に適した血液脳関門構成内皮細胞の分化誘導
DOI
10.3791/65134
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (195), e65134
著者名(敬称略)
松尾欣哉 西原秀昭 他
所属
山口大学大学院医学系研究科臨床神経学講座
山口大学医学部 神経・筋難病治療学講座

抄訳

血液脳関門 (blood-brain barrier:BBB) の破綻は種々の神経疾患でみられる病理所見だが,患者由来BBB検体の入手が困難であることが研究の障壁であった.我々はヒト人工多能性幹細胞 (human induced pluripotent stem cell:hiPSC)から脳微小血管内皮細胞様細胞を誘導する手法を開発し,患者由来BBBモデルを用いた研究を可能にした.まずWnt/β-cateninシグナルを活性化しhiPSCを内皮前駆細胞に分化させ,磁気ビーズを用いた細胞選別でCD31陽性細胞を採取した.一定の割合で含まれる平滑筋様細胞を複数回の継代によって分離し,BBBの特性をもった純粋な内皮細胞を得た.本モデルは,ヒト初代培養細胞同等のバリア機能を有し,既存のhiPSC 由来 in vitro BBB モデルと比べ,形態および発現遺伝子が高純度な内皮細胞の性質を有することと,適切な接着分子が発現している利点があり,BBBと免疫細胞との相互作用の研究に有効なモデルである.

論文掲載ページへ

2023/07/07

ラット間における腹部異所性心移植の手術手技の改良と新規大動脈弁逆流モデルの開発

論文タイトル
Modified Heterotopic Abdominal Heart Transplantation and a Novel Aortic Regurgitation Model in Rats
論文タイトル(訳)
ラット間における腹部異所性心移植の手術手技の改良と新規大動脈弁逆流モデルの開発
DOI
10.3791/64813
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (196), e64813
著者名(敬称略)
辻 重人 嶋田 正吾 他
所属
東京大学医学部附属病院 心臓外科

抄訳

50年以上前からマウスやラット間における腹部異所性心移植が報告されており、様々な改良がなされてきた。今回我々は、移植手技において心筋保護を強化する改良を行うことで、移植心の機能を維持し、初学者でも高い成功率を達成できる手術手技を確立した。①心臓摘出前にドナーの腹部大動脈を切開・瀉血してドナー心の負荷軽減を図ること、②心筋保護液をドナー心の冠動脈に注入すること、③吻合操作中にドナー心の持続的な局所冷却を行うこと、の3点が手技のポイントである。
加えて、右頚動脈からカテーテルを挿入し、エコーガイド下で大動脈弁を穿刺する従来の大動脈弁逆流モデルとは異なる、腹部異所性心移植を用いた新たな大動脈弁逆流モデルを開発した。ドナー心摘出後に腕頭動脈からガイドワイヤーを挿入し、大動脈弁を穿刺して大動脈弁逆流を作成した上でレシピエントへ移植する方法である。既存のモデルと比較して穿刺手技が容易であり、また大動脈弁逆流を作成したドナー心はレシピエントの循環に直接影響しないため、既存のモデルと比較してより重度な大動脈弁逆流モデルが作成可能と考えている。

論文掲載ページへ

2023/07/06

Alicyclobacillaceae科の新属新種の土壌細菌Collibacillus ludicampi

論文タイトル
Collibacillus ludicampi gen. nov., sp. nov., a new soil bacterium of the family Alicyclobacillaceae
論文タイトル(訳)
Alicyclobacillaceae科の新属新種の土壌細菌Collibacillus ludicampi
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005827
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 5
著者名(敬称略)
城島 透、森 美穂
所属
近畿大学 農学部 環境管理学科

抄訳

新規な中程度好熱性、好気性細菌TP075株は、日本の運動場の土から単離された。TP075株は桿菌であり、好気性で芽胞を形成し、水酸化カリウム法によりグラム陽性と判定された。増殖の最適pHは4.0-5.0、最適温度は47-50℃であった。ドラフトゲノム配列から、GC含量は46.5%と判明した。主要な脂肪酸は、分岐鎖脂肪酸(iso-C15:0, anteiso-C15:0, and iso-C16:0)であった。16SリボソームRNA遺伝子による分子系統解析の結果、TP075株は、Alicyclobacillaceae科の細菌であり、Effusibacillus consociatus CCUG53762T (92.6%)、およびTumebacillus soil CAU11108T (92.5%)に対して最も高い類似性を示した。ゲノム解析の結果、TP075株は、Effusibacillus pohliae DSM 22757に対して最も高い類似性を示し、average amino acid identity (AAI)は62.7%、average nucleotide identity (gANI)は70.86%であった。以上の結果より、TP075株は、新属の新種であり、Collibacillus ludicampi、基準株はTP075株(JCM34430=TBRC15186)として提案された。

論文掲載ページへ

2023/07/06

イメグリミンとメトホルミンの併用療法はdb/dbマウスにおいて膵β細胞保護作用を示す

論文タイトル
Protective Effects of Imeglimin and Metformin Combination Therapy on β-Cells in db/db Male Mice
論文タイトル(訳)
イメグリミンとメトホルミンの併用療法はdb/dbマウスにおいて膵β細胞保護作用を示す
DOI
10.1210/endocr/bqad095
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 8, August 2023, bqad095
著者名(敬称略)
西山 邦幸, 白川 純 他
所属
群馬大学 生体調節研究所 代謝疾患医科学分野

抄訳

本研究では、糖尿病治療薬であるイメグリミンとメトホルミンとの併用療法の、2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスにおける効果を検証した。イメグリミンとメトホルミンとの併用療法により、インスリン分泌のグルコース応答性回復、膵β細胞増殖促進、および膵β細胞アポトーシス抑制が認められた。膵島の網羅的遺伝子発現解析により、イメグリミンとメトホルミンの併用は、アポトーシス関連遺伝子群の発現を制御することが示された。db/dbマウスの単離膵島や膵β細胞株に直接イメグリミンとメトホルミンを添加しても、同様にアポトーシスが抑制された。以上より、イメグリミンとメトホルミンの併用は、直接作用により膵β細胞保護効果を有し、膵β細胞機能や量を維持する2型糖尿病治療に有用であることが示唆された。

論文掲載ページへ

2023/07/03

細胞の成長ゆらぎがクローン集団をより速く成長させる

論文タイトル
Noise-driven growth rate gain in clonal cellular populations
論文タイトル(訳)
細胞の成長ゆらぎがクローン集団をより速く成長させる
DOI
10.1073/pnas.1519412113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 22, 2016 vol. 113 no. 12 3251–3256
著者名(敬称略)
橋本幹弘 若本祐一他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系

抄訳

同じ遺伝情報をもつクローン細胞を同じ環境に置いたとしても、個々の細胞のさまざまな性質(表現型)には、しばしば大きなばらつきが観察されます。このような「表現型ゆらぎ」は遺伝情報と異なり子孫細胞に安定に継承されないため、これまでその進化的意義については十分に理解されてきませんでした。今回のこの論文では、大腸菌のクローン細胞集団を1細胞レベルの精度で100世代以上の長期にわたって連続観察可能な計測システムを開発し、これを用いることで、細胞レベルの成長ゆらぎが大きいほど、それら細胞によって構成される細胞集団がより速く成長できることを定量的に明らかにしました。この結果は、表現型ゆらぎの明確な進化的意義を示すとともに、細胞集団の成長能が細胞の平均的な成長能と定量的には必ずしも一致しないという興味深い事実を実験的に確認するものです。さらにこの論文では、異なる環境条件下での成長ゆらぎの間に成立する新たな定量的法則も発見し、この法則に基づいて、成長ゆらぎの情報から各生物種の成長率の原理的上限を知ることができる可能性も示唆しています。

論文掲載ページへ