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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2021/09/15

玄米摂取はZucker ratにおいて非アルコール性脂肪肝の発症をレチノイン酸生合成経路の活性化によって抑制する

論文タイトル
Brown Rice Inhibits Development of Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Obese Zucker (fa/fa) Rats by Increasing Lipid Oxidation Via Activation of Retinoic Acid Synthesis
論文タイトル(訳)
玄米摂取はZucker ratにおいて非アルコール性脂肪肝の発症をレチノイン酸生合成経路の活性化によって抑制する
DOI
10.1093/jn/nxab188
ジャーナル名
Journal of Nutrition
巻号
Journal of Nutrition Vol.151 Issue 9 (2705–2713)
著者名(敬称略)
松本 雄宇, 山本 祐司 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科栄養生化学研究室

抄訳

 肥満は、脂質異常症、高血圧、2型糖尿病の原因となるばかりでなく非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の原因であります。放置すると肝硬変、肝癌へと変遷することが知られておりますが、基本的に食事カロリーの制限と運動の推奨が治療戦略であり、積極的な治療方法はまだ確立されていないのが現状です。
 本研究ではNAFLDを発症することが報告されているZucker fatty ラットにAIN-93Gを基本飼料として飼料中の炭水化物源を白米や玄米に置き換えた飼料を調製し100日間与えたところ、AIN-93Gを給餌したラットは脂肪肝を発症したにもかかわらず、白米、特に玄米で置き換えを行った飼料群では、脂肪肝の形成の抑制がみられました。解析の結果、玄米摂取により肝臓中のビタミンAの活性本体であるレチノイン酸生合成経路が上昇していたことがわかりました。レチノイン酸は核内受容体を介して、脂肪酸の分解(β酸化)に関わる因子の遺伝子発現を制御することから玄米に含まれる未知成分がレチノイン酸生合成を高め、脂質代謝改善を促すことでNAFLDの改善効果が現れたものと考察しています。著者らは、肥満によるNAFLD発症が、玄米をたべることで、予防・抑制できることと、その作用機序がこれまで報告例のない「ビタミンA代謝を亢進」することで脂質代謝を改善することを明らかにしました。

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2021/09/07

小児肺移植後の吸気筋トレーニングの効果

論文タイトル
Effects of inspiratory muscle training after lung transplantation in children
論文タイトル(訳)
小児肺移植後の吸気筋トレーニングの効果
DOI
10.1136/bcr-2020-241114
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 7 (2021)
著者名(敬称略)
山鹿 隆義 山本 周平 酒井 康成 市山 崇史
所属
健康科学大学健康科学部理学療法学科

抄訳

肺移植後の患者に呼吸リハビリテーションは重要とされている。しかし、肺移植後の呼吸リハビリテーションは確立しておらず、小児肺移植後の吸気筋トレーニングの効果は不明である.我々は,肺移植後の小児患者に吸気筋トレーニングを導入し、呼吸機能と呼吸困難を改善できるかどうかを検討した.症例は13歳の男児で、再生不良性貧血に対する同種骨髄移植後に移植片対宿主病による肺病変により、両側生体肺移植を実施された。その後、自宅退院したが、肺機能検査の値は年齢予測値と比較し、低値であり、日常生活は呼吸困難により制限があった。この症例に最大吸気圧の約30%の強さの吸気筋トレーニングを1日2回、2カ月間実施した。その結果、最大吸気圧の向上だけでなく、肺機能検査の値や呼吸困難の改善を認めた。小児肺移植後の吸気筋トレーニングは、呼吸機能や呼吸困難の改善に役立つ可能性を示した。

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2021/09/07

ペリセントロメア領域のノンコーディングRNAはCTCFの機能を阻害し、炎症性遺伝子群の発現を亢進させる

論文タイトル
Pericentromeric noncoding RNA changes DNA binding of CTCF and inflammatory gene expression in senescence and cancer
論文タイトル(訳)
ペリセントロメア領域のノンコーディングRNAはCTCFの機能を阻害し、炎症性遺伝子群の発現を亢進させる
DOI
10.1073/pnas.2025647118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS August 31, 2021 118 (35) e2025647118
著者名(敬称略)
宮田 憲一、高橋 暁子 他
所属
公益財団法人 がん研究会 がん研究所 細胞老化プロジェクト

抄訳

加齢に伴い体内に蓄積した老化細胞は様々な炎症性蛋白質を分泌するSASP (Senescence-Associated Secretory Phenotype)をおこすことで、周囲の組織に炎症や発がんを誘発する。そのため、超高齢化社会を迎えた我が国においてSASP制御機構の解明が重要な課題とされている。本研究ではエピゲノム解析の結果から、老化細胞ではゲノムの反復配列(ペリセントロメア領域)の染色体が開き、この領域からノンコーディングRNA(サテライトII RNA)の転写が亢進していることを見出した。また、サテライトII RNAは適切な染色体構造の維持に重要なCTCFと結合し、その機能を阻害することで染色体間相互作用を変化させ、炎症性遺伝子群(SASP遺伝子群)の転写を促すことを明らかにした。さらに、がん微小環境においてがん細胞だけでなく、がん関連間質細胞(CAFs: Cancer Associated Fibroblasts)においてもサテライトII RNAが高発現しがんの悪性化に寄与していることが示唆された。これらの結果より、サテライトII RNAによる新たなSASP制御機構が解明され、サテライトII RNAが加齢性疾患の新規治療標的となりうる可能性が示唆された。

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2021/09/03

SPATA33はカルシニューリンをミトコンドリアに局在させることにより精子運動性を制御する

論文タイトル
SPATA33 localizes calcineurin to the mitochondria and regulates sperm motility in mice
論文タイトル(訳)
SPATA33はカルシニューリンをミトコンドリアに局在させることにより精子運動性を制御する
DOI
10.1073/pnas.2106673118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS August 31, 2021 118 (35) e2106673118
著者名(敬称略)
宮田 治彦 伊川 正人 他
所属
大阪大学 微生物病研究所・附属遺伝情報実験センター 遺伝子機能解析分野

抄訳

カルシニューリンはカルシウム依存性の脱リン酸化酵素であり、免疫応答を含む様々な生命現象に関わっている。精子特異的なカルシニューリン (精子カルシニューリン) は、受精に必要な精子の運動性を制御しており、男性避妊薬の有望な標的だと考えられている。しかし、精子カルシニューリンと免疫細胞のカルシニューリンはアミノ酸配列が類似しており、精子カルシニューリンを阻害すると免疫機能も抑制されてしまう可能性がある。そのため、精子特異的にカルシニューリンの機能を制御する機構の解明が望まれていた。本研究では、カルシニューリンとの相互作用に関わるPxIxIT配列を含み、且つ精巣特異的に発現する遺伝子をin silicoで探索した。同定した3つの遺伝子のノックアウト (KO) マウスを作製したところ、SPATA33が精子カルシニューリンと相互作用することを見つけた。Spata33のKOマウスは、精子カルシニューリンのKOマウスと同様に精子運動性と生殖能力の低下を示した。さらに、Spata33のKO精巣ではカルシニューリンがミトコンドリアから消失していた。SPATA33はカルシニューリンをミトコンドリアに局在させることにより精子の運動性を制御していると考えられる。SPATA33を標的にすることで、精子特異的にカルシニューリンの機能を阻害する男性避妊薬の開発が期待される。

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2021/09/01

ヒトパルボウイルスB19感染症による全身性浮腫

論文タイトル
Generalised edema with human parvovirus B19 infection
論文タイトル(訳)
ヒトパルボウイルスB19感染症による全身性浮腫
DOI
10.1136/bcr-2021-243130
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 7 (2021)
著者名(敬称略)
早野 聡史 押川 英仁
所属
熊本赤十字病院

抄訳

46歳女性が14日前からの全身浮腫と息切れにて来院した。彼女は1週間で6kgの体重増加を認めた。1ヶ月前に先行する発熱・倦怠感があり、関節痛はなかったが、体幹や四肢に紅斑を認めていた。身体所見では、両側性の下腿の圧痕性浮腫を認めた。また、胸部X線検査では、両側の胸水が貯留していた。その後、ヒトパルボウイルスB19(B19V)IgM(9.80)が陽性だったため、B19Vによる全身性浮腫と診断した。浮腫は少量の利尿薬の内服で改善を認めた。 B19V感染症による心不全や腎不全を伴わない全身浮腫の症例が報告されている。胎児と違って、成人のB19V感染症では心不全や溶血などは起こりにくく、本症例では、心筋炎・心外膜炎などを疑う所見はなく、心不全徴候も認めなかった。病因はまだ解明されておらず、発症から浮腫の期間は多くの場合、4-13日ほどであり、体重は2.5-7kg程度増加する。成人の急性発症の全身浮腫を認めた場合、B19V感染症も鑑別に挙げる必要がある。

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2021/09/01

成人XLH25例における合併症の頻度

論文タイトル
Incidence of Complications in 25 Adult Patients With X-linked Hypophosphatemia
論文タイトル(訳)
成人XLH25例における合併症の頻度
DOI
10.1210/clinem/dgab282
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.106 Issue9 (e3682–e3692)
著者名(敬称略)
加藤 創生, 伊東 伸朗 他
所属
東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科

抄訳

X連鎖性低リン血症性低リン血症性くる病 (X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)では成人期に骨軟化症以外の合併症を呈するが、頻度・重症度についてのまとまった報告は少ない。
今回我々は、成人XLH25例の脊椎CT、股関節・膝関節・アキレス腱Xp、腹部超音波検査、聴力検査の結果を後方視的に解析し、骨軟化症以外の合併症についてまとめた。前縦靭帯・後縦靭帯・黄色靭帯骨化症の重症度評価にOA・OP・OY indexを用い、OA/OP/OY indexの合計をOS indexとして脊柱靭帯骨化症の重症度の指標とした。また、股関節・膝関節の骨棘評価にはKellgren-Lawrence (KL) gradeを用いた。25例中20例(80%)で脊柱靭帯骨化を認め、OA/OP/OY/OS indexの中央値(range)はそれぞれ2(0-22), 0(0-15), 6(0-13), 12(0-41)であった。股関節骨棘・膝関節骨棘はそれぞれ24例(96%)、17例(68%)で認め、KL gradeの中央値はそれぞれ3および2であった。アキレス腱付着部症、腎石灰化、聴力障害はそれぞれ、17例(72%)、17例(72%)、8例(32%)で認めた。本検討によって、成人XLHの異所性骨化の頻度は一般人口と比較して高く、また重症であることが明らかとなった。今後は若年成人の脊柱靭帯骨化症や関節骨棘、および年齢にかかわらずそれらが顕著な症例では、未診断のXLHが背景にある可能性を考慮したい。

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2021/08/31

S1PR3-G12バイアスド作動薬ALESIAによるがん飢餓療法の可能性

論文タイトル
S1PR3–G12-biased agonist ALESIA targets cancer metabolism and promotes glucose starvation
論文タイトル(訳)
S1PR3-G12バイアスド作動薬ALESIAによるがん飢餓療法の可能性
DOI
10.1016/j.chembiol.2021.01.004
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Volume 28, Issue 8, August 19, 2021
著者名(敬称略)
萩原 正敏 豊本 雅靖
所属
京都大学大学院医学研究科・医学部 形態形成機構学

抄訳

がん組織は周辺の正常組織に比べて、組織重量あたりのグルコース量が著しく低下している。この現象は、がん細胞がワールブルグ効果によって多量のグルコースを消費していることに起因する。そこで我々は、低グルコース環境下のみでがん細胞増殖阻害を示す化合物を表現型スクリーニングで見出し、その化合物の標的分子と作用機序を解明した。本化合物はスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体S1PR3に結合するが、内因性リガンドのS1Pとは異なるバイアスド作用によって一酸化窒素産生を促進し、がん細胞のプログラム細胞死を引き起こすことが判明した。本化合はXenograftモデルマウスにおいても抗腫瘍作用を示し、がん細胞だけをグルコース飢餓で死滅させる副作用の少ない新しい抗がん剤として期待できるため、ALESIA; Anti-cancer Ligand Enhancing Starvation-Induced Apoptosisと命名した。

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2021/08/17

頭頸部傍神経節腫の遺伝子変異の鑑別におけるMR画像とCTの評価

論文タイトル
Assessment of MR Imaging and CT in Differentiating Hereditary and Nonhereditary Paragangliomas
論文タイトル(訳)
頭頸部傍神経節腫の遺伝子変異の鑑別におけるMR画像とCTの評価
DOI
10.3174/ajnr.A7166
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 42 No.7
著者名(敬称略)
太田 義明 他
所属
ミシガン大学神経放射線

抄訳

背景: 頭頸部の傍神経節腫は,コハク酸脱水素酵素ファミリーの遺伝子変異と関連することが報告されている。本研究は、頭頸部の傍神経節腫におけるコハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子変異を従来型C TとM R Iの画像的特徴や拡散強調画像により検出できるかどうかを評価したものである。 方法: 2015年1月から2020年1月の観察期間で、48病変(コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子変異陽性30病変、コハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子変異陰性18病変を対象とした。従来型CTとMRIの画像的特徴とADC値を上記2群間で比較した。診断性能における2群間の差はt-testを用いて評価した。P値<.05を有意とした。 結果: ADCの平均値と最大値、正規化されたADCの平均値と最大値に2群間で統計的な有意差が認められた。従来型C TとM R Iの画像的特徴やA D Cの最小値、正規化されたADC値には有意差は認められなかった。 結論: ADC値は、頭頸部のコハク酸デヒドロゲナーゼ変異陽性を検出できる画像バイオマーカーである。

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2021/08/13

正常肝患者における左下横隔静脈の血管造影解剖
―門脈圧亢進症の治療戦略へのインパクト―

論文タイトル
Anatomy of Left Inferior Phrenic Vein in Patients Without Portal Hypertension
論文タイトル(訳)
正常肝患者における左下横隔静脈の血管造影解剖 ―門脈圧亢進症の治療戦略へのインパクト―
DOI
10.2214/AJR.20.23106
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology
巻号
American Journal of Roentgenology Vol.217 No.2
著者名(敬称略)
荒木 拓次 他
所属
山梨大学医学部放射線医学講座

抄訳

左下横隔静脈は門脈圧亢進症の胃静脈瘤の排血路となりうる静脈であるが、正常肝患者での血管解剖はまとまった報告がない。今回、副腎静脈側からの左下横隔静脈造影血管解剖を分類評価した。逆行性左下横隔静脈造影を行った214例が対象。血管造影分類1型:造影剤が横隔膜下水平枝に到達71.5% (153/214); 1a:1本の主静脈で連続22.4% (48/214)、1b: 数本の細い静脈が吻合しながら到達49.0% (105/214)、2型: 造影剤が横隔膜下水平枝に到達しない28.5% (61/214); 2a: 非常に細く未発達6.5% (14/214)、2b:吻合枝から体循環静脈に流出11.2% (24/214)、2c: 門脈に流出10.7% (23/214)であった。門脈の描出は2c型以外にも1ab型などで17.3%(37/214)で認められ、門脈の吻合は28.0% (60/214)で確認された。左下横隔静脈は複雑な解剖的形態を持ち、門脈との吻合が28%で認められた。この吻合が胃静脈瘤の原型となると推測された。

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2021/08/06

多成分系であることがクモ糸高機能発現に必須である。

論文タイトル
Multicomponent nature underlies the extraordinary mechanical properties of spider dragline silk
論文タイトル(訳)
多成分系であることがクモ糸高機能発現に必須である。
DOI
10.1073/pnas.2107065118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS August 3, 2021 118 (31) e2107065118
著者名(敬称略)
河野 暢明, 荒川 和晴 他
所属
慶應義塾大学先端生命科学研究所

抄訳

ジョロウグモ亜目のクモ牽引糸は、優れた伸縮性と引張強度を兼ね備えた比類のない強靭さが特徴であり、持続可能なバイオポリマー素材としての産業応用が期待されている。本研究では、クモ牽引糸の分子組成を明らかにするとともに、その機械的特性の発現における構成要素の役割を明らかにすることを目的として、ジョロウグモ亜目の4種のクモを対象に、高品質なゲノム配列の決定、絹糸腺のトランスクリプトミクス、牽引糸タンパクのプロテオミクスを組み合わせたマルチオミクス解析を行った。その結果、ジョロウグモ亜科に特有のクモ糸遺伝子スピドロインであるMaSp3Bと、スピドロイン以外のいくつかのSpiCEタンパク質が一貫して存在していることが確認された。これらの成分を人工的に合成し、in vitroで組み合わせたところ、従来考えられていたMaSp1とMaSp2に加えて、新規に見つかったMaSp3BとSpiCEを持つ多成分系であることがクモ牽引糸の機械的特性を実現するために不可欠であることがわかった。

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2021/08/05

後脳におけるグルコース利用率の低下により活性化する、後脳グルコースセンサーと視床下部を結ぶ神経伝達経路の形態学的解析

論文タイトル
Morphological Analysis of the Hindbrain Glucose Sensor-Hypothalamic Neural Pathway Activated by Hindbrain Glucoprivation
論文タイトル(訳)
後脳におけるグルコース利用率の低下により活性化する、後脳グルコースセンサーと視床下部を結ぶ神経伝達経路の形態学的解析
DOI
10.1210/endocr/bqab125
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Volume 162 Issue 9 (bqab125)
著者名(敬称略)
佐藤 真梨萌, 松田 二子 他
所属
東京大学 大学院 農学生命科学研究科 獣医学専攻 獣医繁殖育種学研究室

抄訳

後脳には、低栄養を感知し、糖新生や摂食、生殖機能を制御する機構が存在する。これまでのin vitro実験により、後脳の第4脳室(4V)を裏打ちする上衣細胞が、グルコースセンサーである可能性が示唆されてきた。本研究では、4V上衣細胞がグルコース利用率の低下を感知することをin vivoで証明すると同時に、低栄養時に生理機能を制御する、4V上衣細胞を起点とした神経伝達経路を同定することを目的とした。グルコース代謝阻害剤を雄ラットの4Vに0.5時間投与すると、4V上衣細胞が最初に活性化することを組織学的手法により明らかにした。また、1時間投与した場合は、血糖値上昇、摂食量増加及び血中テストステロン濃度低下が生じるほか、4V上衣細胞に加え、後脳のカテコールアミン神経細胞及びニューロペプチドY(NPY)神経細胞、視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン神経細胞及びNPY神経細胞が活性化することを発見した。以上の結果から、4V上衣細胞はグルコース利用率の低下を感知し、後脳の神経細胞ならびに視床下部の神経細胞を介して、生理機能を制御する可能性が示唆された。

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2021/08/02

稀な初発症状である視神経周囲炎と後腹膜脂肪織炎で発症したベーチェット病の一例

論文タイトル
Optic nerve perineuritis and retroperitoneal panniculitis: rare first presentations of Behçet’s disease
論文タイトル(訳)
稀な初発症状である視神経周囲炎と後腹膜脂肪織炎で発症したベーチェット病の一例
DOI
10.1136/bcr-2021-243997
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 7 (2021)
著者名(敬称略)
吉岡 克宣  森田 英子
所属
四天王寺病院 内科

抄訳

症例は46歳女性。高熱と腰痛のため入院となった。CTでは大動脈周囲の脂肪織濃度の上昇がみられ、後腹膜脂肪織炎が疑われた。翌日患者は下腿痛、口内痛、排尿時痛、および眼球運動によって増強する右眼痛を訴えた。診察上、下腿結節性紅斑・アフタ性口内炎・陰部潰瘍を認めた。眼科的検索では視力は両眼とも正常であったが、軽度の右視神経乳頭浮腫を認めた。ガドリニウム造影MRIでは右視神経周囲の著明な造影効果を認め、視神経周囲炎が疑われた。以上からベーチェット病と診断した。プレドニンおよびコルヒチンによる治療にて臨床症状、CT, MRIでの異常所見は速やかに改善した。視神経周囲炎は特発性に生じることもあるが、ベーチェット病などの自己免疫疾患に伴って生じる事もある。視神経周囲炎を示唆する初期徴候は眼球運動によって増強する眼痛である。視力低下の後遺症を残さないためにも、その様な症例では視神経周囲炎を疑い速やかに造影MRIを施行する事が重要である。

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2021/07/29

視床下部腹内側核(SF1細胞)におけるCRTC1欠損は高脂肪食に対して過食と肥満を誘導する

論文タイトル
Loss of CREB Coactivator CRTC1 in SF1 Cells Leads to Hyperphagia and Obesity by High-fat Diet But Not Normal Chow Diet
論文タイトル(訳)
視床下部腹内側核(SF1細胞)におけるCRTC1欠損は高脂肪食に対して過食と肥満を誘導する
DOI
10.1210/endocr/bqab076
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Volume 162 Issue 9 (bqab076)
著者名(敬称略)
松村 成暢 他
所属
大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科栄養療法学専攻

抄訳

CREB-regulated transcription coactivator-1(CRTC1)は、細胞内cAMPの上昇に伴い活性化されるCREBのcoactivatorである。 これまでCRTC1の全身性の欠損は過食とエネルギー消費の減少により肥満を引き起こすことが報告されている(Altarejos et al., Nat Med. 2008)。 CRTC1は脳神経細胞で脳の広範にわたり発現しているためCRTC1によるエネルギー代謝調節メカニズムは不明であった。我々は視床下部腹(SF1細胞)特異的にCRTC1を欠損させたマウス新たに作成し、このマウスに高脂肪食を摂取させると肥満すること、耐糖能が悪化することを発見した。視床下部腹内側核より切り出したサンプルのRNAシーケンス解析により、CRTC1の欠損は特定の遺伝子群の発現レベルを有意に変化させることが明らかとなった。これらの結果より、CRTC1は視床下部腹内側核において遺伝子発現を制御し、高脂肪食の摂取調節および糖代謝を制御しているという新たな経路が示唆された。

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2021/07/28

電子顕微鏡観察における生物試料のすぐれた微細構造保持のためのサンドイッチ凍結法

論文タイトル
Rapid Freezing using Sandwich Freezing Device for Good Ultrastructural Preservation of Biological Specimens in Electron Microscopy
論文タイトル(訳)
電子顕微鏡観察における生物試料のすぐれた微細構造保持のためのサンドイッチ凍結法
DOI
10.3791/62431
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (173), e62431
著者名(敬称略)
山口正視 他
所属
千葉大学・真菌医学研究センター

抄訳

生物試料の電子顕微鏡観察には、これまで、主に化学固定法による超薄切片法が用いられてきたが、この方法では、様々なアーティファクトが生じることが知られている。これを回避するために、近年、急速凍結・凍結置換固定法が用いられるようになった。サンドイッチ凍結法は、熱伝導のよい2枚の銅板に薄い試料をはさんで、液体プロパンに素早く投入することによって、氷晶のないガラス状凍結を得るすぐれた急速凍結法の一つである。この方法により、これまで、生きた酵母、真菌、細菌の高解像の自然な微細構造が観察されてきた。最近、サンドイッチ凍結法は、グルタルアルデヒド固定した培養細胞、動物細胞、ヒト組織でも、すぐれた微細構造の保持に有効であることがわかり、応用範囲が格段に広がった。
この論文は、最近、マリン・ワーク・ジャパン(株)が商品化した「サンドイッチ凍結装置」の使い方について、酵母や培養細胞などの細胞懸濁液、動物組織、およびウイルス試料のそれぞれの場合について、ビデオで手順を解説しものである。サンドイッチ凍結法は、30μmまでの生きた細胞懸濁液、0.2 mm までのグルタルアルデヒド固定した動物組織を無氷晶で凍結でき、高圧凍結法にかわるすぐれた方法となりうる。この論文では、凍結後の凍結置換、樹脂包埋、超薄切、切片染色の方法についても解説を行っている。

 

 

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2021/07/19

肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を伴った特発性肺へモジデローシスが疑われたびまん性肺胞出血

論文タイトル
Diffuse alveolar haemorrhage with suspected idiopathic pulmonary hemosiderosis and decrease in lung diffusing capacity and chronic respiratory failure
論文タイトル(訳)
肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を伴った特発性肺へモジデローシスが疑われたびまん性肺胞出血
DOI
10.1136/bcr-2021-242901
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 7 (2021)
著者名(敬称略)
岩崎 広太郎
所属
東邦大学医療センター 佐倉病院 呼吸器内科

抄訳

特発性肺へモジデローシスは繰り返すびまん性肺胞出血をきたす原因不明の疾患である. 50代の男性は過去6年間喀血を繰り返し, 肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を呈していた. 原因不明で精査希望なく6年間経過観察していたが, 突然の呼吸不全増悪と喀血の増悪をきたして入院となった. 胸部CTではびまん性肺陰影を呈しており, 気管支肺胞洗浄液ではヘモジデリン貪食マクロファージを認めた. それらの所見からびまん性肺胞出血と診断した. 特発性肺へモジデローシス以外のびまん性肺胞出血をきたす疾患は否定的であり, 特発性肺へモジデローシスが疑われた. ステロイドとアザチオプリンの併用療法によって喀血と慢性呼吸不全は改善したが, 肺拡散能低下は改善しなかった. ステロイドとアザチオプリンの併用療法では成人発症の特発性肺へモジデローシスに対して呼吸不全と喀血は改善するが, 肺拡散能は改善しない可能性がある.

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2021/07/15

Rnd2は脳の白質に多く発現し、脳白質のミエリン構造の維持に関わる

論文タイトル
Rnd2 differentially regulates oligodendrocyte myelination at different
developmental periods
論文タイトル(訳)
Rnd2は脳の白質に多く発現し、脳白質のミエリン構造の維持に関わる
DOI
10.1091/mbc.E20-05-0332
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 8(769-787)
著者名(敬称略)
宮本 幸、山内 淳司 他
所属
国立成育医療研究センター研究所 薬剤治療研究部

抄訳

 脳の白質は、ミエリンに富む構造である。ミエリンを構成する細胞はグリア細胞と呼ばれ、脂質を多く含む絶縁体として働き、神経細胞を保護すると同時に神経伝達信号を効率よく伝える役割をもつ。ミエリンは、比較的再生能力が高いものの、ミエリンが変性している時期が長期に及ぶと、その再生能力が低下すると言われているため、ミエリン形成のメカニズムの根本を解明することが、ミエリン変性疾患等の治療薬の開発につながると考えられる。
 当該研究では、Rnd2が脳内のグリア細胞に高発現していることを見いだし、ミエリン化において重要な分子の一つであるRho kinaseを介して、ミエリン化の過程を厳密に制御していることを明らかにした。本研究結果から、ミエリン変性を呈する様々な疾患において、Rnd2の活性を調整することでミエリン組織を再生できる可能性が生まれ、治療薬の開発につながることが期待される。

 

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2021/07/13

成熟精巣内での胎児セルトリ細胞の分化

論文タイトル
Differentiation of fetal sertoli cells in the adult testis
論文タイトル(訳)
成熟精巣内での胎児セルトリ細胞の分化
DOI
10.1530/REP-21-0106
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 162 Issue 2 (141–147)
著者名(敬称略)
横西 哲広 他
所属
川崎医科大学 解剖学教室

抄訳

未熟なセルトリ細胞は、性決定後から思春期までの間、増殖しながら成熟する。成熟したセルトリ細胞は、一生涯にわたり精子形成を支持する。胎児精巣の組織培養実験や、成熟マウスの腎皮膜下への移植実験では、胎児セルトリ細胞は精細管を形成し、精子形成を支持することが知られている。しかし、成熟した精巣内での非同期性・同所性移植における挙動については調べられていない。我々は、性成熟したマウスのセルトリ細胞を薬剤により除去し、E12.5、 E14.5とE16.5の胎児精巣細胞を移植した。移植2ヶ月後に、ドナー胎児由来のセルトリ細胞、ライディッヒ細胞や筋様細胞が、宿主精巣に定着しているのを認めた。定着した胎児セルトリ細胞は、宿主の精子形成を支持したことから、非同期性・同所性移植においても胎児セルトリ細胞は成熟することがわかった。近年、iPS細胞を用いたセルトリ細胞などの精巣体細胞への分化誘導法が報告されている。本研究は、これらの細胞の機能アッセイにも応用ができると期待される。

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2021/07/06

ペグフィルグラスチムによる大血管炎を来した1例

論文タイトル
Pegfilgrastim-induced large vessel vasculitis
論文タイトル(訳)
ペグフィルグラスチムによる大血管炎を来した1例
DOI
10.1136/bcr-2021-243757
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 6 (2021)
著者名(敬称略)
齋藤 寛晃 須田 烈史
所属
金沢市立病院 消化器内科

抄訳

症例は71歳の女性。肝内胆管癌に対する化学療法中に, 発熱性好中球減少症の予防目的にペグフィルグラスチム3.6mgを投与された。しかし,投与7日後より全身倦怠感, 胸背部痛, 発熱を認めた。 血液検査では,白血球やCRPの高値を呈した。造影CTでは, 大動脈炎を示唆する大動脈弓部の壁肥厚を認めた。 膠原病関連の自己抗体は陰性であった。鑑別疾患として巨細胞性動脈炎と高安動脈炎が挙げられたが, 診断基準に合致しなかった。 臨床経過よりペグフィルグラスチムによる大血管炎と診断し, ステロイドによる治療を開始した。ステロイド投与によって速やかな症状消失,血液検査での炎症反応の低下,造影CTでの壁肥厚の改善を認めた。また, 治療開始前の血液検査でIL-6は高値を呈していたが, 治療後に正常範囲内へ低下した。ペグフィルグラスチムによる大動脈炎は稀だが, 大動脈解離などの重篤な副作用が報告されているため, その認識は重要である。 診断のための画像検査とステロイドによる適切な治療が必要である。

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2021/07/06

滑走するフラボバクテリアの単層集合運動が生み出す動的回転を伴う巨大渦

論文タイトル
Large-Scale Vortices with Dynamic Rotation Emerged from Monolayer Collective Motion of Gliding Flavobacteria
論文タイトル(訳)
滑走するフラボバクテリアの単層集合運動が生み出す動的回転を伴う巨大渦
DOI
10.1128/JB.00073-21
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 203, No. 14
著者名(敬称略)
中根 大介 他
所属
電気通信大学 基盤理工学専攻

抄訳

自己駆動型粒子の集団運動は、物理学や生物学において魅力的なテーマである。洗練された巨視的な行動は、何千、何百万ものバクテリア細胞の集団が、べん毛の回転や走化性反応によって自らを推進することで現れる。今回、私たちは非べん毛性の棒状土壌細菌Flavobacterium johnsoniaeの連続的な相転移に伴う一連の集団運動を発見した。この集団運動は、滑動運動として知られる表面細胞の動きによって引き起こされていた。低栄養条件では細菌群は寒天上で自発的な渦パターンを示し、それらは左回りに旋回しながら巨大化した。単独の細胞ではランダムな方向に動くが、細胞同士がつながっているものは、飢餓状態では左回りに偏った軌道を示すことが明らかになった。この運動モードは細菌が栄養分を効率的に見つけ出すための戦略なのかもしれない。

本論文に関連するビデオが下記でご覧になれます。

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2021/07/02

術前画像で観察された、生検経路に生じた乳癌播種

論文タイトル
Breast cancer seeding in the biopsy route observed on preoperative imaging
論文タイトル(訳)
術前画像で観察された、生検経路に生じた乳癌播種
DOI
10.1136/bcr-2021-242741
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 6 (2021)
著者名(敬称略)
藤本 章博
所属
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科

抄訳

乳房針生検では稀に腫瘍の播種が問題となる。術前の画像診断で生検経路への播種が観察された症例を報告する。71歳女性。左乳房の18 mm腫瘤に対し吸引式乳房組織生検(VAB)を施行し、浸潤性乳癌と診断した。生検後33日目に、穿刺部位に発赤を伴う皮膚結節が出現した。超音波では、生検経路に血流信号増加を伴う紐状の低エコー領域を認め、PET-CT、造影MRIでも同様な病変が認められ、生検経路への播種が示唆された。術後病理所見では浸潤長径は84 mmに及び、生検経路にリンパ管腫瘍塞栓を主成分とする癌病変を認め、原因は腫瘍の播種と考えられた。通常コア針生検(CNB)よりも太い針を使用するVABは、組織採取量が豊富で診断能が高いと考えられるが、吸引圧が生じることや、針路内での腫瘍の拡散により播種を生じる可能性があり注意を要する。生検前の画像で播種リスクを予測することは困難であり、本症例のような合併症を避けるにはCNBの方が安全かもしれない。逆にVABの場合は、生検経路全体の切除が可能な部位から穿刺することが重要である。

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