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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2023/09/05

abalone asfa-like virusの病原性、ゲノム解析と構造:Asfarviridae科に分類される証拠

論文タイトル
Pathogenicity, genomic analysis and structure of abalone asfa-like virus: evidence for classification in the family Asfarviridae
論文タイトル(訳)
abalone asfa-like virusの病原性、ゲノム解析と構造:Asfarviridae科に分類される証拠
DOI
https://doi.org/10.1099/jgv.0.001875
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Vol 104 Issue 8
著者名(敬称略)
松山 知正 他
所属
国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所 養殖部門 病理部

抄訳

アワビ類に対して高病原性を示すabalone asfa-like virus(AbALV)は、部分ゲノム配列解析から豚に強い伝染性と致死性を示すアフリカ豚熱ウイルス(ASFV)との近縁性が報告されていた。ASFVは既知の二本鎖DNAウイルスの中で、節足動物内で増殖し脊椎動物に伝播する唯一の種である。また、近縁種が見つかっておらずAsfarviridae科に属する唯一のウイルスである。本論文では全ゲノム解析と粒子形態に基づき、AbALVをAsfarviridae科に分類する根拠を示した。AbALVのゲノムは約281kbpの直鎖状で309遺伝子が予測され、ASFVと同様に両端には繰り返し配列が存在した。両ウイルスのゲノム中央領域のシンテニーは保存的であった。ビリオンの大きさは約200 nmで形態的にASFVと類似した。ゲノム構造とビリオン形態が類似すること、いずれも前口動物に感染することから、AbALVはAsfarviridae科に分類されることが示唆された。AbALVの特性解析は、アワビ養殖における感染症被害の軽減に貢献するだけでなく、進化的起源が不明確なASFVの理解を進める新たな視点を提供するだろう。

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2023/08/23

高水圧によって誘起されるSaccharomyces cerevisiaeのCWI経路活性化は、アクアグリセロポリンFps1を介したグリセロールの排出を促進する

論文タイトル
Activation of CWI pathway through high hydrostatic pressure, enhancing glycerol efflux via the aquaglyceroporin Fps1 in Saccharomyces cerevisiae
論文タイトル(訳)
高水圧によって誘起されるSaccharomyces cerevisiaeのCWI経路活性化は、アクアグリセロポリンFps1を介したグリセロールの排出を促進する
DOI
10.1091/mbc.E23-03-0086
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 9
著者名(敬称略)
阿部 文快 他
所属
青山学院大学理工学部 化学・生命科学科 分子遺伝学研究室

抄訳

真菌の細胞壁は、浸透圧の変化や毒物、あるいは物理的なストレスから細胞を守る最初のバリアとして機能する。私たちは、高水圧にさらされた出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeが、浸透圧調節機構と細胞壁完全性(CWI)経路を活性化し、高水圧ストレスに適応するメカニズムを明らかにした。25MPa(約250 kg/㎠)という高水圧下で酵母が増殖するためには、膜貫通型メカノセンサーWsc1が不可欠であることをつきとめた。すなわち、水圧上昇に伴う水の過剰流入によって細胞が膨潤すると、Wsc1がCWI経路を活性化する。その後、下流のMAPキナーゼSlt2がアクアグリセロポリンFps1をリン酸化することで、グリセロールの排出が促進し、細胞への水の流入が停止する。このようにして浸透圧調節が適切に行われ、酵母は高水圧下で破裂するのを回避していたのである。CWI経路を介した高水圧適応のメカニズムは、真菌だけでなくほ乳動物細胞に適用できる可能性もあり、細胞のメカノセンシングに関する新たな洞察を提供するものと期待される。

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2023/08/17

Stenotrophomonas属のblaL1-like遺伝子多様性:公開ゲノムデータに基づく洞察

論文タイトル
Diversity of bla L1-like genes in Stenotrophomonas species: insights from genome analysis of publicly available genome sequences
論文タイトル(訳)
Stenotrophomonas属のblaL1-like遺伝子多様性:公開ゲノムデータに基づく洞察
DOI
10.1128/aac.00673-23
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy 16 August 2023 e00673-23
著者名(敬称略)
山田 景土 他
所属
東邦大学 医学部微生物・感染症学講座

抄訳

 Stenotrophomonas属は土壌など環境に広く分布するグラム陰性桿菌であり、Stenotrophomonas maltophiliaは同属の代表的な菌種である。S. maltophiliaは種得意的なメタロβラクタマーゼ(L1)を産生し、多くのβラクタム系抗菌薬に耐性を示す。このL1をコードする遺伝子(blaL1)は同一種の中でも、配列多様性を示すとされていた。この研究では、この多様性を示す理由を探る為、公開データベースで利用可能なゲノム配列を用いて分子系統解析を行った。その結果、これまで、S. maltophiliaと考えらていた菌種が、多くの未登録の類縁菌種からなる"S. maltophilia complex"であることが確認された。blaL1の多様性は、この種の多様性に関連している事が明らかになり、加えて、blaL1はゲノム配列よりも塩基配列の相同性が低い事が明らかになった。以上より、blaL1の多様性は種の多様性およびblaL1の進化速度に起因している可能性が示された。

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2023/08/07

日本人乳児と高齢者におけるRSウイルスに関連した入院および外来費用

論文タイトル
Inpatient and outpatient costs associated with respiratory syncytial virus in Japanese infants and older adults
論文タイトル(訳)
日本人乳児と高齢者におけるRSウイルスに関連した入院および外来費用
DOI
10.2217/fvl-2023-0069
ジャーナル名
Future Virology
巻号
Future Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
五十嵐 中 他
所属
横浜市立大学 医学群 健康社会医学ユニット、東京大学大学院 薬学系研究科 医薬政策学

抄訳

目的:日本におけるRSウイルス(RSV)感染症に対する医療費を分析する。
方法:JMDCとMDVの2つの商用レセプトデータベースを用いて、RSVと診断された乳児(12カ月未満)と高齢者(60歳以上)のコホートにおける医療費、入院期間および集中治療室滞在期間を後ろ向きに評価した。また、RSVに感染していない乳児を含めた全乳児のコホートでパリビズマブの使用量と費用を分析した。
結果:入院患者の平均医療費は、JMDCの乳児(n=13,752)、MDVの乳児(n=22,142)、MDVの高齢者(n=165)で、それぞれ369,767円、373,480円、865,723 円であった。生後1カ月未満、危険因子あり、または重症RSVの乳児はより高い医療費を要した。乳児(JMDC)におけるパリビズマブの12カ月未満までの平均累積費用は890,259円であった。
結論:RSVは乳児および高齢者に多大な経済的負担をもたらす。

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2023/07/26

肝線維化のメカニズム解明に向けたヒトiPS細胞由来肝臓モデルの開発

論文タイトル
Using human induced pluripotent stem cell-derived liver cells to investigate the mechanisms of liver fibrosis in vitro
論文タイトル(訳)
肝線維化のメカニズム解明に向けたヒトiPS細胞由来肝臓モデルの開発
DOI
10.1042/BST20221421
ジャーナル名
Biochemical Society Transactions
巻号
Biochem Soc Trans (2023) 51 (3): 1271-1277.
著者名(敬称略)
厚井 悠太、木戸 丈友
所属
東京大学 定量生命科学研究所 附属高度細胞多様性研究センター

抄訳

肝臓には実質的な機能を担う肝細胞に加えて、肝非実質細胞(肝類洞内皮細胞、肝星細胞など)が存在する。これらの肝非実質細胞は、肝線維化の進行において重要な役割を果たしている。特に肝星細胞は、種々の肝障害に応答し、コラーゲン等の細胞外基質を産生して線維化を誘導し、病態の進行に直接的に影響を与える細胞である。線維化の病態を正しく理解して新たな治療法を開発するために、我々を含めた研究グループは、ヒトiPS細胞から肝非実質細胞を作製するシステムを構築してきた。また、これらの細胞を用いたヒト肝臓モデルを開発し、肝線維化のメカニズム解析や新たな治療薬のスクリーニングを実施してきた。本論文では、ヒトiPS細胞から肝非実質細胞への分化誘導系のこれまでの動向、並びに、肝非実質細胞を用いたヒト肝臓モデルの有用性と今後の展望について概説している。

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2023/07/25

BAG6は、RhoAのユビキチン依存的分解を介してストレスファイバーの形成を制御する

論文タイトル
BAG6 supports stress fiber formation by preventing the ubiquitin-mediated degradation of RhoA
論文タイトル(訳)
BAG6は、RhoAのユビキチン依存的分解を介してストレスファイバーの形成を制御する.
DOI
10.1091/mbc.E22-08-0355
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 4
著者名(敬称略)
宮内 真帆、川原 裕之 他
所属
東京都立大学理学部生命科学科 細胞生化学研究室

抄訳

 RhoA低分子量GTPaseは、ストレスファイバー形成の調節を介して、細胞の形態・接着・移動・浸潤などを制御する。これまでの研究から、RhoAタンパク質はCUL3ユビキチンリガーゼにより分解誘導されうることが知られていたが、このプロセスがどのように調節されているかは明らかではなかった。本論文で我々は、RhoAの安定性はBAG6シャペロンにより支えられていることを見出した。BAG6ノックダウンはCUL3ユビキチンリガーゼによるRhoAの認識と分解を促進し、ストレスファイバーやフォーカルアドヒージョンの減少、ひいては細胞遊走の低下を誘導する。重要なことに、これらの表現型はRhoAの過剰発現、あるいはCUL3ノックダウンなどによりレスキューされた。さらに、BAG6によるRhoA認識は疎水性相互作用を介していることも判明した。BAG6による疎水領域の認識は、構造不良タンパク質の認識メカニズムと共通していることから、BAG6を介したタンパク質品質管理系とアクチンファイバー構築の制御系にはクロストークがありうることが本論文で初めて示唆された。

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2023/07/25

コレステロールとアクチンの視点から見た細胞膜:シンガー・ニコルソン流動モザイクモデル50周年を記念した新しい細胞膜モデル

論文タイトル
Cholesterol- and actin-centered view of the plasma membrane: updating the Singer–Nicolson fluid mosaic model to commemorate its 50th anniversary
論文タイトル(訳)
コレステロールとアクチンの視点から見た細胞膜:シンガー・ニコルソン流動モザイクモデル50周年を記念した新しい細胞膜モデル
DOI
10.1091/mbc.E20-12-0809
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 34, Issue 5
著者名(敬称略)
楠見 明弘 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 膜協同性ユニット

抄訳

 細胞膜の理解に関して、全く違った二つの視点が存在する。一つは、細胞膜は元来のシンガー・ニコルソンの流動モザイクモデルによって記述される単純な流体、というものである。他方は、細胞膜は、数千の分子種が互いに様々な相互作用をすることで形成され、かつ常に変化するクラスタとドメインからなっており、細胞膜の構造と分子動態を説明する単純な規則は存在しないとするものである。現在では、後者の見方が一般的である。しかし、何らかの規則は見いだせないものであろうか? 本総説で、我々は、細胞膜の二つのもっとも主要な構成要素であるコレステロールとアクチン線維の観点から細胞膜を見ることが、細胞膜の組織化、動態、および機能の作動機構を理解するための優れた視点を提供すると提案する。特に、細胞膜内で共存するアクチンによる区画(仕切り)と脂質ラフトドメイン、および、それらの相互作用が細胞膜の構成に重要であり、それらがどのように細胞膜の機能を遂行するかについて述べる。この視点から、流動モザイクモデルをさらに発展させた新しい細胞膜モデルを提案する。

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2023/07/21

ATM依存性のCHD7リン酸化は、放射線被ばく胎児における形態形成とカップルしたDSBストレス応答を制御している

論文タイトル
ATM–dependent phosphorylation of CHD7 regulates morphogenesis-coupled DSB stress response in fetal radiation exposure
論文タイトル(訳)
ATM依存性のCHD7リン酸化は、放射線被ばく胎児における形態形成とカップルしたDSBストレス応答を制御している
DOI
10.1091/mbc.E22-10-0450
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume. 34, Issue. 5
著者名(敬称略)
野田 朝男 他
所属
放射線影響研究所 分子生物科学部

抄訳

放射線で生じるゲノム損傷のうち、修復が困難なDNA二重鎖切断 (DSB)は細胞に重大な影響を及ぼします。このような損傷を持つ細胞に特徴的な遺伝子発現を調べる過程で、転写因子CHD7 (Chromodomain Helicase DNA binding protein 7) がATM依存的にリン酸化されていることを今回見つけました。CHD7はユビキタスな転写因子ですが、胎児発生期においては、神経冠細胞から目、口、耳や脳などの神経感覚器官や心臓の形態形成を司る転写因子として機能します。この形態形成転写因子タンパク質が放射線によりリン酸化され、ゲノム中の修復が困難なDSB部位に集積するという結果から、形態形成期には転写とカップルしたDSB修復機構が存在するのではないかと思われます。形態形成・器官形成という不可逆でcriticalな生物過程を遂行するために、この転写因子は自身がDSB修復機能も持つように進化してきたのではないでしょうか。              CHD7のハプロ不全は胎児に広範な先天性形成異常1 (congenital malformation) を誘発する事が知られています。放射線でも胎児の形態形成異常2が誘発されます。胎児の放射線被ばくにおいて、CHD7がDSB修復反応に優先的に動員された場合は、形態形成活性の一時的な低下(ハプロ不全のような状況)が予想されます。これが放射線誘発胎児形態形成異常の原因のひとつになっているのではないかと私たちは考えています。つまり、軽度・中程度のゲノム損傷の場合、CHD7は傷の修復と神経冠形態形成を同時にうまくやりくりして危機的状況を乗り越えることができるが、もしもゲノム損傷が多すぎると、形態形成がおろそかになり先天性形成異常が起こりやすくなる、ということと理解します。 注1:以前は「奇形」と言う言葉が使われました。 注2:胎児は「被ばく一世(胎内被ばく)」です。遺伝影響(親の生殖細胞被ばくによる二世影響)とは区別して考える必要があります。

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2023/07/18

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスORF67.5は、ターミナーゼ複合体構成因子として機能する

論文タイトル
Kaposi’s Sarcoma-Associated Herpesvirus ORF67.5 Functions as a Component of the Terminase Complex
論文タイトル(訳)
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスORF67.5は、ターミナーゼ複合体構成因子として機能する
DOI
10.1128/jvi.00475-23
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology June 2023  Volume 97  Issue 6  e00475-23
著者名(敬称略)
祝迫 佑紀 藤室 雅弘 他
所属
京都薬科大学 細胞生物学分野

抄訳

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は感染者の免疫不全時にカポジ肉腫やB細胞性リンパ腫を引き起こすヒトヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルスやヒトサイトメガロウイルス等の他のヘルペスウイルスと異なり、KSHVのカプシド形成はほとんど解明されていない。特に、複製後の前駆体ウイルスDNAのプロセッシング(ターミナルリピート部分での切断)に関わると推測されているKSHVのターミナーゼ複合体は不明な点が多い。他のヘルペスウイルスとの相同性から、KSHVターミナーゼ複合体はKSHVがコードするORF7、ORF29、ORF67.5遺伝子産物によって構成されると推測される。我々は以前、ORF7欠損KSHVは、正常なウイルス産生を行うことができず、さらに新規形態の未成熟カプシドを形成することを報告し、これを”Soccer ball-like capsid”と名付けた。本論文では、ORF67.5欠損KSHVもまた、”Soccer ball-like capsid"を形成することを証明した。さらに、ORF67.5はターミナルリピートの切断、感染性ウイルスの産生、およびORF7とORF29の相互作用の増強に必要であった。ORF67.5には、ヒトヘルペスウイルスホモログ間で高度に保存された領域がいくつかある。これら保存領域はウイルス産生に必要であり、ORF67.5とORF7との相互作用にも必要であることを明らかにした。これらの結果はAIにて予測したKSHVターミナーゼ複合体構造モデルによっても支持された。本論文は、ORF67.5がKSHVターミナーゼ複合体の形成と前駆体ウイルスDNAのターミナルリピート部位での切断に必須であることを示す初めての報告である。

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2023/07/11

アミノ酸源の添加が最少培地におけるShewanella oneidensis MR-1株の発酵増殖を促進する

論文タイトル
Supplementation with Amino Acid Sources Facilitates Fermentative Growth of Shewanella oneidensis MR-1 in Defined Media
論文タイトル(訳)
アミノ酸源の添加が最少培地におけるShewanella oneidensis MR-1株の発酵増殖を促進する
DOI
10.1128/aem.00868-23
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology 27 June 2023 e00868-23
著者名(敬称略)
池田壮汰 高妻篤史 他
所属
東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室

抄訳

Shewanella oneidensis MR-1株は環境細菌の多様なエネルギー代謝能力を解明するためのモデルとしてよく研究されており、金属酸化物やフマル酸などの様々な電子受容体を利用できることが知られている。一方、本株は乳酸発酵に必要な遺伝子を備えているにも関わらず、電子受容体を含まない最少培地中では糖を発酵して増殖することができない。本論文ではなぜMR-1株が糖発酵により増殖できないのかを明らかにするために、電子受容体(フマル酸)存在下と非存在下でのトランスクリプトームを比較した。その結果、電子受容体非存在下(発酵条件)では、細胞増殖に必要な炭素代謝(TCAサイクルやアミノ酸合成等)に関与する多くの遺伝子の発現が抑制されていた。また、最少培地中にアミノ酸源(トリプトンやアミノ酸混合液)を添加した培地では、本株が糖発酵により増殖できることも明らかになった。以上の結果から、MR-1株は電子受容体が欠乏した際にエネルギー消費を最小化するために環境中からアミノ酸を取り込むように代謝を制御しており、そのために最少培地における発酵増殖が阻害されていることが示唆された。

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2023/07/10

免疫細胞の浸潤研究に適した血液脳関門構成内皮細胞の分化誘導

論文タイトル
Differentiation of Human Induced Pluripotent Stem Cells to Brain Microvascular Endothelial Cell-Like Cells with a Mature Immune Phenotype
論文タイトル(訳)
免疫細胞の浸潤研究に適した血液脳関門構成内皮細胞の分化誘導
DOI
10.3791/65134
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (195), e65134
著者名(敬称略)
松尾欣哉 西原秀昭 他
所属
山口大学大学院医学系研究科臨床神経学講座
山口大学医学部 神経・筋難病治療学講座

抄訳

血液脳関門 (blood-brain barrier:BBB) の破綻は種々の神経疾患でみられる病理所見だが,患者由来BBB検体の入手が困難であることが研究の障壁であった.我々はヒト人工多能性幹細胞 (human induced pluripotent stem cell:hiPSC)から脳微小血管内皮細胞様細胞を誘導する手法を開発し,患者由来BBBモデルを用いた研究を可能にした.まずWnt/β-cateninシグナルを活性化しhiPSCを内皮前駆細胞に分化させ,磁気ビーズを用いた細胞選別でCD31陽性細胞を採取した.一定の割合で含まれる平滑筋様細胞を複数回の継代によって分離し,BBBの特性をもった純粋な内皮細胞を得た.本モデルは,ヒト初代培養細胞同等のバリア機能を有し,既存のhiPSC 由来 in vitro BBB モデルと比べ,形態および発現遺伝子が高純度な内皮細胞の性質を有することと,適切な接着分子が発現している利点があり,BBBと免疫細胞との相互作用の研究に有効なモデルである.

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2023/07/07

ラット間における腹部異所性心移植の手術手技の改良と新規大動脈弁逆流モデルの開発

論文タイトル
Modified Heterotopic Abdominal Heart Transplantation and a Novel Aortic Regurgitation Model in Rats
論文タイトル(訳)
ラット間における腹部異所性心移植の手術手技の改良と新規大動脈弁逆流モデルの開発
DOI
10.3791/64813
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (196), e64813
著者名(敬称略)
辻 重人 嶋田 正吾 他
所属
東京大学医学部附属病院 心臓外科

抄訳

50年以上前からマウスやラット間における腹部異所性心移植が報告されており、様々な改良がなされてきた。今回我々は、移植手技において心筋保護を強化する改良を行うことで、移植心の機能を維持し、初学者でも高い成功率を達成できる手術手技を確立した。①心臓摘出前にドナーの腹部大動脈を切開・瀉血してドナー心の負荷軽減を図ること、②心筋保護液をドナー心の冠動脈に注入すること、③吻合操作中にドナー心の持続的な局所冷却を行うこと、の3点が手技のポイントである。
加えて、右頚動脈からカテーテルを挿入し、エコーガイド下で大動脈弁を穿刺する従来の大動脈弁逆流モデルとは異なる、腹部異所性心移植を用いた新たな大動脈弁逆流モデルを開発した。ドナー心摘出後に腕頭動脈からガイドワイヤーを挿入し、大動脈弁を穿刺して大動脈弁逆流を作成した上でレシピエントへ移植する方法である。既存のモデルと比較して穿刺手技が容易であり、また大動脈弁逆流を作成したドナー心はレシピエントの循環に直接影響しないため、既存のモデルと比較してより重度な大動脈弁逆流モデルが作成可能と考えている。

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2023/07/06

Alicyclobacillaceae科の新属新種の土壌細菌Collibacillus ludicampi

論文タイトル
Collibacillus ludicampi gen. nov., sp. nov., a new soil bacterium of the family Alicyclobacillaceae
論文タイトル(訳)
Alicyclobacillaceae科の新属新種の土壌細菌Collibacillus ludicampi
DOI
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005827
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 5
著者名(敬称略)
城島 透、森 美穂
所属
近畿大学 農学部 環境管理学科

抄訳

新規な中程度好熱性、好気性細菌TP075株は、日本の運動場の土から単離された。TP075株は桿菌であり、好気性で芽胞を形成し、水酸化カリウム法によりグラム陽性と判定された。増殖の最適pHは4.0-5.0、最適温度は47-50℃であった。ドラフトゲノム配列から、GC含量は46.5%と判明した。主要な脂肪酸は、分岐鎖脂肪酸(iso-C15:0, anteiso-C15:0, and iso-C16:0)であった。16SリボソームRNA遺伝子による分子系統解析の結果、TP075株は、Alicyclobacillaceae科の細菌であり、Effusibacillus consociatus CCUG53762T (92.6%)、およびTumebacillus soil CAU11108T (92.5%)に対して最も高い類似性を示した。ゲノム解析の結果、TP075株は、Effusibacillus pohliae DSM 22757に対して最も高い類似性を示し、average amino acid identity (AAI)は62.7%、average nucleotide identity (gANI)は70.86%であった。以上の結果より、TP075株は、新属の新種であり、Collibacillus ludicampi、基準株はTP075株(JCM34430=TBRC15186)として提案された。

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2023/07/06

イメグリミンとメトホルミンの併用療法はdb/dbマウスにおいて膵β細胞保護作用を示す

論文タイトル
Protective Effects of Imeglimin and Metformin Combination Therapy on β-Cells in db/db Male Mice
論文タイトル(訳)
イメグリミンとメトホルミンの併用療法はdb/dbマウスにおいて膵β細胞保護作用を示す
DOI
10.1210/endocr/bqad095
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 8, August 2023, bqad095
著者名(敬称略)
西山 邦幸, 白川 純 他
所属
群馬大学 生体調節研究所 代謝疾患医科学分野

抄訳

本研究では、糖尿病治療薬であるイメグリミンとメトホルミンとの併用療法の、2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスにおける効果を検証した。イメグリミンとメトホルミンとの併用療法により、インスリン分泌のグルコース応答性回復、膵β細胞増殖促進、および膵β細胞アポトーシス抑制が認められた。膵島の網羅的遺伝子発現解析により、イメグリミンとメトホルミンの併用は、アポトーシス関連遺伝子群の発現を制御することが示された。db/dbマウスの単離膵島や膵β細胞株に直接イメグリミンとメトホルミンを添加しても、同様にアポトーシスが抑制された。以上より、イメグリミンとメトホルミンの併用は、直接作用により膵β細胞保護効果を有し、膵β細胞機能や量を維持する2型糖尿病治療に有用であることが示唆された。

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2023/07/03

細胞の成長ゆらぎがクローン集団をより速く成長させる

論文タイトル
Noise-driven growth rate gain in clonal cellular populations
論文タイトル(訳)
細胞の成長ゆらぎがクローン集団をより速く成長させる
DOI
10.1073/pnas.1519412113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 22, 2016 vol. 113 no. 12 3251–3256
著者名(敬称略)
橋本幹弘 若本祐一他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系

抄訳

同じ遺伝情報をもつクローン細胞を同じ環境に置いたとしても、個々の細胞のさまざまな性質(表現型)には、しばしば大きなばらつきが観察されます。このような「表現型ゆらぎ」は遺伝情報と異なり子孫細胞に安定に継承されないため、これまでその進化的意義については十分に理解されてきませんでした。今回のこの論文では、大腸菌のクローン細胞集団を1細胞レベルの精度で100世代以上の長期にわたって連続観察可能な計測システムを開発し、これを用いることで、細胞レベルの成長ゆらぎが大きいほど、それら細胞によって構成される細胞集団がより速く成長できることを定量的に明らかにしました。この結果は、表現型ゆらぎの明確な進化的意義を示すとともに、細胞集団の成長能が細胞の平均的な成長能と定量的には必ずしも一致しないという興味深い事実を実験的に確認するものです。さらにこの論文では、異なる環境条件下での成長ゆらぎの間に成立する新たな定量的法則も発見し、この法則に基づいて、成長ゆらぎの情報から各生物種の成長率の原理的上限を知ることができる可能性も示唆しています。

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2023/06/23

骨形成不全症2型の乳児に対するパミドロネート治療の有効性

論文タイトル
Cyclic intravenous pamidronate for an infant with osteogenesis imperfecta type II
論文タイトル(訳)
骨形成不全症2型の乳児に対するパミドロネート治療の有効性
DOI
10.1136/bcr-2022-252593
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.16 Issue 5
著者名(敬称略)
深堀 響子 長崎 啓祐
所属
新潟大学医学部 小児科学教室

抄訳

論文要旨:骨形成不全症(OI)2型は、周産期致死型と言われていた最重症型で、生後1ヶ月までに呼吸不全などにより90%以上が死亡する。現在、OIに対して骨折頻度の減少および骨痛の改善目的に、パミドロネート治療が行われるが、OI 2型に対する使用例はほとんど報告がなく、その安全性や有効性など明らかではない。我々は、OI 2型の乳児に対してパミドロネートの静脈内投与を行い、長期生存している例を報告する。在胎17週に胎児の大腿骨短縮を指摘され、在胎28週におこなった胎児CTの所見からOI 2型が疑われていた。出生後、呼吸困難のため気管内挿管を行い、人工呼吸器管理を行った。COL1A1のヘテロ接合性バリアント(c.1679G>T,p.Gly358Val)が確認され、OI 2型と診断した。生後41日目にパミドロネートの静脈内投与を開始し、投与量を調整しながら1ヶ月毎に投与した。生後7ヶ月で抜管に成功し、高流量鼻カニューレを使用して呼吸状態は安定している。生後12ヶ月現在、出生後の新規骨折はなく、NICUで在宅に向けて管理中である。OI 2型に対する集学的な呼吸器管理やパミドロネート治療により生命予後が改善する可能性がある。

患者の視点(両親の声) 私たちは、出生前に致死性の骨系統疾患と診断されたとき、混乱と不安に襲われました。この診断で元気に生活している人はいるのか」「頭や両上下肢の形が良くなる可能性はあるのか」「出産する母体にリスクはないのか」等々、医療スタッフに質問をたくさんしました。しかし、私たちは医師に何を言われても妊娠を継続すると決めていたので、中絶という選択肢はなかったです。羊水検査はリスクを伴うので希望しませんでしたし、その結果が私たちの決断を左右することはないとわかっていました。妊娠中、赤ちゃんが生きているかどうか常に心配でした。何が起こってもいいように準備はしていましたが、同時に彼の生命力を信じたいという気持ちもありました。 出産後、赤ちゃんが無事に生まれてきてくれて本当によかったと思いました。赤ちゃんに触れることができたことも嬉しかった。私たち二人とも、心肺蘇生法を含む最善かつ最も積極的な管理を望みました。出産後、お母さんのお腹の中で骨折したと聞かされ、私たちはショックを受けました。まるで私たちのせいのようでした。パミドロネート治療については、正直、副作用が怖かった。しかし、治療をしなければ何も良くならないので、治療を受けさせました。現在、骨が強くなっているのを実感しており、励みになっています。今は、病気に関係なく、兄と同じようにたくさんの愛情を注いであげたいと思っています。大きな信念と希望を持って、私たちは彼の生きる意志を信じています。

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2023/06/20

キチン添加土壌から分離されたメチオニン要求性のキチン分解新奇細菌Lysobacter auxotrophicusのビタミンB12要求性とゲノム解析

論文タイトル
Physiological and genomic analyses of cobalamin (vitamin B12)-auxotrophy of Lysobacter auxotrophicus sp. nov., a methionine-auxotrophic chitinolytic bacterium isolated from chitin-treated soil
論文タイトル(訳)
キチン添加土壌から分離されたメチオニン要求性のキチン分解新奇細菌Lysobacter auxotrophicusのビタミンB12要求性とゲノム解析
DOI
10.1099/ijsem.0.005899
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 73, Issue 5
著者名(敬称略)
齋藤明広、道羅英夫、浜田盛之、森内良太、小土橋陽平、森浩二
所属
静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科

抄訳

キチンは,真菌の細胞壁に含まれる直鎖状の多糖です。土壌にキチンを添加すると,真菌を病原とする植物病が低減されることが報告されてきました。キチン添加によって増加するキチン分解細菌が病害低減効果の一要因と考えられています。前報では、キチン添加土壌から分離したキチン細菌Lysobacter sp. 5-21aTがメチオニン (Met) 要求性を示すことを報じました(Iwasakiら2020)。本論文では,5-21aTがビタミンB12(VB12) 要求株であることを示すとともに、その遺伝的背景を探るために行ったゲノム解析の結果を報告しています。また、近縁株とのゲノム相同性の比較や,化学分類学的,表現型および系統学的データに基づいて,5-21aTがLyobacter属の新種であることを提唱し,Lyobacter auxotrophicus と命名しました。VB12要求性が5-21aTの近縁株にも共通した性質であること,VB12依存性Met合成酵素の遺伝子しか持たないために5-21aTのMet合成にはVB12が必要であると考えられること,また,5-21aTがVB12合成の上流 (コリン環合成) 経路の遺伝子を持っていないためにVB12de novo合成できないことがわかりました。 

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2023/06/20

血清中のMac-2結合タンパク質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は2型糖尿病の発症率と関連する

論文タイトル
Serum Mac-2 Binding Protein Glycosylation Isomer Concentrations Are Associated With Incidence of Type 2 Diabetes
論文タイトル(訳)
血清中のMac-2結合タンパク質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は2型糖尿病の発症率と関連する
DOI
10.1210/clinem/dgad011
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 108, Issue 7, July 2023, Pages e425–e433
著者名(敬称略)
東岡 真由, 二宮 利治 他
所属
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野

抄訳

血清Mac-2結合蛋白質糖鎖異性体(M2BPGi)濃度は、慢性肝障害や線維化の指標となることが知られている。本研究では、糖尿病を発症していない40~79歳の地域日本人住民2,143人を7年間追跡した成績を用いて、血清M2BPGi濃度と2型糖尿病発症との関連を検討した。追跡開始時の血清M2BPGi濃度の5分位値を用いて対象者を5群に分類した: Q1 ≦0.37、Q2 0.38-0.49、Q3 0.50-0.62、Q4 0.62-0.80、Q5 ≧0.81 (単位 cutoff index)。 解析にはCox比例ハザードモデルを用いた。追跡期間中、219名が2型糖尿病を発症した。2型糖尿病の年齢・性別調整後の累積発症率は、血清M2BPGi値の上昇とともに有意に増加した(p for trend < 0.01)。さらに、潜在的な交絡因子で調整しても有意な関係を認めた(p for trend = 0.04)。一方、血清高感度C反応性タンパク質やHOMA-IR(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)を追加で調整したところ有意な関連は消失した。
このように、わが国の地域住民において、血清M2BPGi濃度と糖尿病リスクは正の関連を有することが明らかとなった。炎症とインスリン抵抗性は、血清M2BPGi濃度が高い人の糖尿病リスク上昇に関与することが示唆された。

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2023/06/16

Fezf2は中枢性免疫寛容に必要な胸腺自己抗原発現を制御する

論文タイトル
Fezf2 Orchestrates a Thymic Program of Self-Antigen Expression for Immune Tolerance
論文タイトル(訳)
Fezf2は中枢性免疫寛容に必要な胸腺自己抗原発現を制御する
DOI
10.1016/j.cell.2015.10.013
ジャーナル名
Cell
巻号
Vol.163 No.4(p975-987)
著者名(敬称略)
高柳 広
所属
東京大学大学院医学系研究科

抄訳

T細胞は胸腺において分化・成熟する。その過程では、抗原を認識するタンパク質であるT細胞抗原受容体がランダムに作られるため、自己抗原に反応するT細胞が必然的に生まれてしまう。そのような自己反応性のT細胞は胸腺内で除去される(負の選択)。本論文では、胸腺に発現し、自己反応性T細胞の選別に関わる自己抗原発現を制御する転写因子Fezf2を見いだした。Fezf2は、既知の転写制御因子Aireとは独立して自己抗原を誘導する。Fezf2を持たない遺伝子改変マウスを調べたところ、自己抗体の産生や自己の組織を破壊するといった自己免疫疾患様の症状が見られた。この結果は、Fezf2が中枢性免疫寛容に必須の分子であり、自己免疫疾患の発症を抑えていることを示している。Fezf2の発見は、高等生物の獲得免疫システムの基本原理の理解につながるだけでなく、自己免疫疾患の発症機序の解明や新たな治療法の確立に役立つと考えられる。 

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2023/06/08

遺伝的親子関係から予測されるスズメの社会的つがい関係における子育貢献の雌雄差

論文タイトル
Genetic Parent-Offspring Relationships Predict Sexual Differences in Contributions to Parental Care in the Eurasian Tree Sparrow
論文タイトル(訳)
遺伝的親子関係から予測されるスズメの社会的つがい関係における子育貢献の雌雄差
DOI
10.2326/osj.22.45
ジャーナル名
Ornithological Science
巻号
Ornithological Science Volume 22, Issue 1
著者名(敬称略)
坂本 春菜、高木 昌興、他
所属
北海道大学大学院理学研究院・多様性生物学講座

抄訳

 多くの鳥類は一夫一妻のつがいで繁殖します。それはヒナを育て上げるための餌運びの労働コストが非常に大きく、つがいで繁殖することが有利だからです。しかしつがいの巣には、つがい外のオスとの交尾に由来するヒナ(つがい外父性)やつがい外のメスの托卵によって産み込まれた卵に由来するヒナ(種内托卵)を含むことがあります。オスはできるだけ多くのヒナを残し、メスは生産性の高い子を残すための繁殖戦略の一側面です。一方で自らと血縁関係にはないヒナのために餌を運ぶことは、自身の生存率を下げ、またその後の繁殖に悪影響を与えます。そのため、つがいのオスとメスはヒナの血縁関係と労働の配分という複雑な駆け引きをします。このような背景から自らの巣内に血縁関係のないヒナが存在すると、巣の持ち主である親はヒナへの子育て投資を減少させると推察されます。しかしこのような研究に適した材料がなく、実証は困難な状況にありました。本研究では、一夫一妻で繁殖するスズメにおいて、つがいの巣内につがい外父性や種内托卵の双方を含むことを発見しました。さらに巣内に自らと血縁関係にないヒナが多くなると、子育ての労力を減少させることを実証しました。 

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