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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2022/05/20

メゾスコピックスケールからミクロスコピックスケールの神経細胞イメージングに対応した組織透明化技術

論文タイトル
A Tissue Clearing Method for Neuronal Imaging from Mesoscopic to Microscopic Scales
論文タイトル(訳)
メゾスコピックスケールからミクロスコピックスケールの神経細胞イメージングに対応した組織透明化技術
DOI
10.3791/63941
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (183), e63941
著者名(敬称略)
山内 健太(筆頭著者)、日置 寛之(連絡著者)
所属
順天堂大学大学院 医学研究科 脳回路形態学講座 (山内 健太、日置 寛之)

抄訳

我々は、メゾスコピックスケールからミクロスコピックスケールの組織構造の可視化に強みを持つ組織透明化技術、ScaleSF法の開発に成功している(Furuta, Yamauchi et al., iScience; 25:103601)。ScaleS法の改変法であるScaleSF法は、組織透明化に必要不可欠な反応以外を削ぎ落とすことにより組織の透明化と組織構造の保持の両立を可能とした。ScaleSF法では、三つの水溶性溶液と反応させることにより、1 mm厚の脳組織を15時間以内に透明にすることができる。本論文では、ScaleSF法を用いたメゾスコピックからミクロスコピックのスケールの神経細胞のイメージングの詳細を動画付きで紹介する。本論文で示す一連の手法は、神経回路構造を解き明かし、神経系の情報処理基盤を明らかにする上で極めて有用である。

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2022/05/19

SOX2発現細胞での古代レトロウイルスのゲノム転移

論文タイトル
Movements of Ancient Human Endogenous Retroviruses Detected in SOX2-Expressing Cells
論文タイトル(訳)
SOX2発現細胞での古代レトロウイルスのゲノム転移
DOI
10.1128/jvi.00356-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Volume 96  Issue 9  e00356-22
著者名(敬称略)
門出 和精 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座

抄訳

ヒト内在性レトロウイルス(HERVs)はヒトゲノムの8%以上を占めている。HERVsは初期胚細胞で発現し、胎盤形成、ウイルス感染阻止などの生理的役割を担っている。一方、HERVsは、癌や統合失調症などの疾患にも関与すると考えられている。HERVsは、宿主との長い共存の間に、変異や欠損が蓄積し、複製能は消失したと考えられてきた。本研究では、HERVsの一種であるHERV-Kの発現機構とゲノム転移の可能性について解析を行った。その結果、HERV-Kの転写にSOX2が必須であることが明らかとなった。SOX2は初期胚などで発現するが、iPS細胞樹立の必須因子ということで注目されている。本研究で樹立したiPS細胞では、HERV-Kが高発現するだけでなく、ゲノムを転移していることが示唆された。ゲノム転移したHERV-Kは一過性で、すぐに消失することから稀な現象であることも示唆された。しかし、転移する場所によっては持続する可能性もあると考えている。化石ウイルスと思われていたHERV-Kがゲノムを動くことで、近傍遺伝子の発現パターンを変えるのであれば、疾患との関連、生物進化との関連について今後詳しく検討していく必要がある。

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2022/05/19

ポリエチレンイミンナノパーティクルによるmicroRNA-mimic/inhibitorの腎へのデリバリーおよび治療効果

論文タイトル
Delivery of Exogenous Artificially Synthesized miRNA Mimic to the Kidney using Polyethylenimine Nanoparticles in Several Kidney Disease Mouse Models
論文タイトル(訳)
ポリエチレンイミンナノパーティクルによるmicroRNA-mimic/inhibitorの腎へのデリバリーおよび治療効果
DOI
10.3791/63302
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (183), e63302
著者名(敬称略)
矢内克典、森下義幸
所属
自治医科大学附属さいたま医療センター 腎臓内科

抄訳

【背景】microRNA(miRNA)は腎障害進展に関与し、人工合成したmiRNA-mimic/ inhibitorは腎臓病の新規遺伝子治療になる可能性がある。本研究ではカチオン性ポリマーのポリエチレンイミンナノパーティクル[(PEI-NPs(non-viralキャリア)]を用いて、代表的な腎疾患モデルマウス(糖尿病性腎症、片側尿管狭窄誘導腎線維化、虚血再灌流AKI)においてPEI-NPsのmiRNAの腎へのデリバリー効果と、標的miRNAのoverexpression/knockdownおよび腎疾患治療効果について検討した。
【方法】PEI-NPsとCy3標識miRNA複合体を作成し、miRNAのデリバリー効果を蛍光顕微鏡で検討した。次にmicroarray、過去の報告、データベース(miRbase)から選出した、治療効果が期待できると予想したPEI-NPs-miRNA-mimic/inhibitor (N/P比=6)を各腎疾患モデルに尾静脈投与し、腎でのmiRNAのoverexpression/knockdown効果をqRT-PCRで検討し、治療効果を組織、qRT-PCR、免疫染色、microarray、Western blottingで検討した。
【結果】PEI-NPsは各腎疾患モデルマウスでmiRNAを腎にデリバリーし、overexpression/knockdown可能であり、PEI-NPs-miRNA-mimic/inhibitorにより腎障害抑制効果を認めた。
【結語】PEI-NPsはmiRNA-mimic/inhibitorのin vivoでの腎へのデリバリーに有効であり、PEI-NPs-miRNA-mimic/inhibitorは腎疾患の新規遺伝子治療法となる。

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2022/05/19

テルミサルタンは脂肪細胞からPPARαを介してアディポネクチン分泌を増加させる最も有効なARBである

論文タイトル
Telmisartan is the most effective ARB to increase adiponectin via PPARα in adipocytes
論文タイトル(訳)
テルミサルタンは脂肪細胞からPPARαを介してアディポネクチン分泌を増加させる最も有効なARBである
DOI
10.1530/JME-21-0239
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology Volume 69: Issue 1 259–268
著者名(敬称略)
服部 尚樹 他
所属
立命館大学薬学部 薬学科

抄訳

降圧薬として広く用いられているアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)(アジルサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、バルサルタン)の中で、テルミサルタンが最もヒト白色脂肪細胞からのアディポネクチン分泌を増加させ、イルベサルタンがそれに次いだ。いずれもレプチン分泌には影響しなかった。テルミサルタンとイルベサルタンによるアディポネクチン分泌促進作用はPPARγ antagonistのGW9662で抑制されず(むしろ増加)、PPARα antagonistのGW6471とPPARα siRNAで抑制されたことから、両薬物によるアディポネクチン分泌刺激作用はPPARγではなく、PPARαを介することが初めて明らかとなった。テルミサルタンとイルベサルタンは、本来の降圧作用の他、動脈硬化を促進するレプチン分泌に影響せず、抗炎症作用や細胞死の抑制によって多くの疾病の発症予防効果を示すアディポネクチン分泌を促進するという付加価値を有するARBであることが示唆された。

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2022/05/19

バセドウ病における甲状腺機能亢進症は交感神経活性に関連した睡眠障害をきたす

論文タイトル
Hyperthyroidism in Graves Disease Causes Sleep Disorders Related to Sympathetic Hypertonia
論文タイトル(訳)
バセドウ病における甲状腺機能亢進症は交感神経活性に関連した睡眠障害をきたす
DOI
10.1210/clinem/dgac013
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 107, Issue 5, May 2022, Pages e1938–e1945
著者名(敬称略)
松本 和久, 伊澤 正一郎 他
所属
鳥取大学医学部 循環器・内分泌代謝内科学分野

抄訳

甲状腺機能亢進症は睡眠障害をきたすが、治療による睡眠障害の改善効果は報告されていない。一方で甲状腺機能亢進症は交感神経を活性化すること、交感神経活性化が睡眠障害をきたすことが報告されている。本研究はバセドウ病 (GD) において甲状腺機能亢進症による交感神経活性と睡眠障害の関係を解明することを目的とした。本研究は横断的検討を伴う前向き研究である。ピッツバーグ睡眠質問票を用いて22人の甲状腺機能亢進症のGD患者と20人の甲状腺機能の正常化したGD患者、30人の健常人を比較し、さらに14人の甲状腺機能亢進症の患者において治療前後での睡眠障害の変化を比較した。結果、甲状腺機能亢進症で他の2群よりも睡眠障害特に睡眠困難や睡眠効率が悪化し、交感神経活性の増強も認めた。治療により睡眠障害特に睡眠の質、睡眠困難と交感神経活性の改善を認めた。甲状腺機能亢進症が交感神経活性を増強させ、睡眠困難や睡眠の質に関連した睡眠障害をきたすことが考えられた。

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2022/05/18

TRAF6はMYCの癌遺伝子としての機能活性を直接的に標的とすることで骨髄系腫瘍において腫瘍抑制因子として機能する

論文タイトル
TRAF6 functions as a tumor suppressor in myeloid malignancies by directly targeting MYC oncogenic activity
論文タイトル(訳)
TRAF6はMYCの癌遺伝子としての機能活性を直接的に標的とすることで骨髄系腫瘍において腫瘍抑制因子として機能する
DOI
10.1016/j.stem.2021.12.007
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Volume29, Issue2
著者名(敬称略)
武藤 朋也 他
所属
千葉大学 医学部附属病院血液内科

抄訳

クローン性造血とは、加齢による遺伝子変異を伴った造血細胞のクローン性増殖により特徴づけられた現象である。クローン性造血は骨髄系腫瘍の発症のリスク因子であることが判明していることから前白血病細胞とも表現されることがあり、前白血病状態から白血病への進展には付加的な異常が必要であると考えられている。そこで、前白血病細胞から白血病への進展において協調的に機能するシグナルを同定するために、今回我々はin vivo RNAiスクリーニングによるアプローチを用いた。スクリーニングの結果、ユビキチンリガーゼであるTRAF6を同定すると共に、マウス前白血病細胞におけるTRAF6欠損が癌遺伝子MYC依存性に骨髄性白血病を引き起こすことを見出した。重要なことに、TRAF6は一定割合でヒト骨髄性白血病患者細胞においても発現が低下していることから、TRAF6シグナルの抑制がヒト白血病発症に寄与していると思われた。分子学的機序の発見として、TRAF6はMYCをユビキチン化することで同修飾部位のアセチル化を抑制すると共に、MYCタンパクの安定化には関与せず転写因子活性を抑制することを見出した。

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Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism

2022/05/18

切除不能進行・再発食道がん治療におけるペムブロリズマブ

論文タイトル
Pembrolizumab for the treatment of advanced esophageal cancer
論文タイトル(訳)
切除不能進行・再発食道がん治療におけるペムブロリズマブ
DOI
10.2217/fon-2022-0108
ジャーナル名
Future Oncology
巻号
Volume.18 No.18(2022)
著者名(敬称略)
原田 健太郎 加藤 健 他
所属
国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科

抄訳

 食道がんは解剖学的、生物学的な特徴から治療に難渋するがんで、特に切除不能進行・再発例の予後は約10ヶ月と限られ、かつ有効な薬剤も少ない状況である。
 そのような中、抗PD-1抗体薬であるペムブロリズマブの開発が食道がんで行われた。食道がんの2次治療例を対象としたKEYNOTE-181試験(ペムブロリズマブ vs 化学療法)において、事前に規定した集団ではペムブロリズマブの優越性は証明できなかったが、CPS10以上かつ扁平上皮癌の集団において、有望な結果が認められた。FDAは2019年7月に同集団に限り、ペムブロリズマブを承認した。また、食道がんの1次治療例を対象としたKEYNOTE-590試験(ペムブロリズマブ+2剤併用化学療法 vs プラセボ+2剤併用化学療法)において、副次的集団を含む全ての対象でペムブロリズマブ併用化学療法の優越性が証明された。この結果からFDAは2021年3月に1次治療においてペムブロリズマブ併用化学療法を承認した。
 しかし未だに食道がんの予後は12ヶ月程度と限られ、さらなる予後の改善のため、扁平上皮癌を対象に、ペムブロリズマブ併用化学療法に、レンバチニブの上乗せを検証するLEAP-014試験が進行中である。また免疫チェックポイント阻害剤に関する臨床的有用性の高いバイオマーカー探索も希求されており、今後の開発が期待される。

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2022/05/16

ヒト胚性ゲノム活性化は1細胞期で開始する

論文タイトル
Human embryonic genome activation initiates at the one-cell stage
論文タイトル(訳)
ヒト胚性ゲノム活性化は1細胞期で開始する
DOI
10.1016/j.stem.2021.11.012
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Volume29, Issue2
著者名(敬称略)
浅見 真紀 他
所属
バース大学

抄訳

 卵子と精子由来のそれぞれのゲノムは、受精後にリプログラミングされ、新たな個体発生に不可欠と考えられる胚性ゲノムの活性化(EGA:embryonic gene activation)が起こる。従来の知見では、ヒトにおいては受精直後の遺伝子発現は静止状態にあり、EGAは8細胞期胚頃までに起こると考えられてきたが、哺乳類におけるその詳細なタイミングやプロファイルには、未だ不明な点が多く残されている。 本研究では、7人のドナー由来の卵子と、異なる人種背景の6カップル由来の正常1細胞期受精卵(2pn)を実験試料として、単一細胞レベルでのpoly(A)+mRNA非選択的なscRNA-seqを行い、統計的に意義のある1細胞期胚遺伝子発現プロファイリングを得ることに成功した。解析の結果、ヒトEGAは1細胞期において起こり、成熟mRNAを産物としているという新たな知見を提示した。バイオインファマティクス解析により、1細胞期胚EGA遺伝子群の多くは、2〜4細胞胚期まで発現が維持されたのち、8細胞期胚までに顕著に減少すること。また、EGAの上流制御遺伝子候補にMYC, MYCN, RABL6, E2F4等が含まれることを明らかにした。更に、1細胞期胚EGAは正常受精卵特有の発生制御機構を担っていることをも示唆した。

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Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism

2022/05/13

イオンポンプ様イオンチャネル型ロドプシンChRmineによるイオン受動輸送の構造基盤

論文タイトル
Structural basis for channel conduction in the pump-like channelrhodopsin ChRmine
論文タイトル(訳)
イオンポンプ様イオンチャネル型ロドプシンChRmineによるイオン受動輸送の構造基盤
DOI
10.1016/j.cell.2022.01.007
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume185, Issue4
著者名(敬称略)
岸孝一郎、福田昌弘、加藤 英明 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 先進科学研究機構

抄訳

 光遺伝学は神経細胞の活動を光により制御する革新的技術である。光遺伝学には光駆動性イオンチャネルであるチャネルロドプシンが利用されており、中でも近年自然界から発見されたChRmineは、イオンポンプ型ロドプシンと類似の配列を持つにも関わらず、高い光感受性とチャネル活性、長波長光により活性化されるという強力な性質を有するイオンチャネルとして働くことが報告されており、その理由に注目が集まっていた。本研究では、ChRmineのクライオ電子顕微鏡構造を決定し、ChRmineがイオンチャネルとして機能する構造基盤の一端を明らかにした。また、得られた構造情報を用い、励起波長・キネティクス特性を向上させた改変型ChRmineを開発し、さらには3色の可視光を利用して複数の神経細胞集団を同時に光操作・計測するという発展的光遺伝学実験を成功させた。本研究成果は、ChRmineがイオンチャネルとして機能する仕組みの一端を解明しただけでなく、新規ロドプシンの設計や創製に対する道標、そして神経科学分野へ強力なツールを提供したという点で、神経科学、医療の発展につながると期待される。

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Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism

2022/05/12

間葉系前駆細胞と筋幹細胞間のシグナル伝達が機械的負荷の増加に対する筋幹細胞応答を保証する

論文タイトル
Relayed signaling between mesenchymal progenitors and muscle stem cells ensures adaptive stem cell response to increased mechanical load
論文タイトル(訳)
間葉系前駆細胞と筋幹細胞間のシグナル伝達が機械的負荷の増加に対する筋幹細胞応答を保証する
DOI
10.1016/j.stem.2021.11.003
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Volume29, Issue2
著者名(敬称略)
金重 紀洋,深田 宗一朗 他
所属
大阪大学大学院 薬学研究科

抄訳

筋力トレーニング(筋トレ)のように骨格筋への力学的負荷を増加させると,骨格筋は適応し筋量・筋力が増大する。この筋量増大(筋肥大)には増殖した筋幹細胞(MuSC)から供給される筋線維(骨格筋の実質多核細胞)核の増加が必須である。しかし, MuSCが力学的負荷依存的に増殖するメカニズムは解明されていなかった。本研究では,外科的な筋トレマウスモデルにおいて,骨格筋固有の間葉系前駆細胞が力学的負荷に応答し,MuSCの増殖を刺激することを明らかにした。その機構として,間葉系前駆細胞内のYap/Tazが力学的負荷依存的に核に集積し,トロンボスポンジン-1(Thbs1)の産生を誘導,その後Thbs1がMuSC上の受容体CD47を介してMuSCの増殖が促進することが明らかとなった。またCD47を介したMuSCの増殖には,MuSCの静止期シグナルであるカルシトニン受容体 (CalcR) の発現低下が必須であり,MuSC特異的なCalcR欠損マウスにCD47 agonistを投与すると,損傷も運動もない条件下で人工的にMuSCの増殖・筋線維核の増加を誘導できた。

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Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism

2022/05/11

日本人非定型大腿骨骨折のエクソーム解析

論文タイトル
The Contribution of Deleterious Rare Alleles in ENPP1 and Osteomalacia Causative Genes to Atypical Femoral Fracture
論文タイトル(訳)
日本人非定型大腿骨骨折のエクソーム解析
DOI
10.1210/clinem/dgac022
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.107, Issue5, May 2022, Pages e1890–e1898
著者名(敬称略)
古川 宏 他
所属
独立行政法人国立病院機構東京病院リウマチ科

抄訳

非定型大腿骨骨折(AFF)は非外傷性に大腿骨骨幹部に起きる骨折であり、アジア人での発症率が高く、遺伝要因の関与が疑われている。近年アレル頻度1%以下のレアバリアントが多くの疾患の発症に関わっていることが明らかになってきた。そこで、日本人AFF患者のエクソーム解析を行い、骨軟化症に関わる遺伝子群の有害なレアバリアント頻度を、日本人健常人と比較した。ENPP1 の有害なレアバリアント頻度はAFFで高く、骨軟化症の発症に関わる遺伝子群の有害なレアバリアント頻度もAFFで高かった。有害なレアバリアントを持つAFF症例は自己免疫疾患を伴っていなかった。これらの結果から、日本人では骨軟化症の発症に関わる遺伝子群がAFFの発症に重要な役割を果たしていると考えられる。

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Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism

2022/04/28

ビロードキンクロ(Melanitta fusca)から分離された鳥類ロタウイルスA株の特性解析:鳥類ロタウイルスの世界的拡散における渡り鳥の役割

論文タイトル
Characterization of an avian rotavirus A strain isolated from a velvet scoter (Melanitta fusca): implication for the role of migratory birds in global spread of avian rotaviruses
論文タイトル(訳)
ビロードキンクロ(Melanitta fusca)から分離された鳥類ロタウイルスA株の特性解析:鳥類ロタウイルスの世界的拡散における渡り鳥の役割
DOI
10.1099/jgv.0.001722
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Journal of General Virology,Volume 103, Issue 2
著者名(敬称略)
藤井 祐至、伊藤 直人 他
所属
岐阜大学 応用生物科学部 共同獣医学科 人獣共通感染症学研究室

抄訳

 G18P[17]遺伝子型の鳥類ロタウイルスA(RVA)がハトや一部の哺乳動物に対して病原性を示した事例が、様々な国や地域で報告されている。しかし、これらの鳥類RVA株がどのようにして世界的に拡散したのかについては、不明な点が多い。本研究では、鳥類RVAの拡散における渡り鳥の役割を明らかにするために、渡り鳥であるビロードキンクロ由来RVA RK1株の全遺伝子配列を解読し、既知の株と比較した。その結果、RK1株は、世界各地で検出されたG18P[17]株と遺伝的に近縁な関係にあることが判明し、G18P[17]株の広域伝播に渡り鳥が関与した可能性が示された。さらに、RK1株は哺乳マウスに下痢を誘発したことから、渡り鳥RVAの中には哺乳動物に対して病原性を示すウイルス株が存在することが示された。以上より、哺乳動物に病原性を有する鳥類RVA株が、渡り鳥を介して世界的に拡散する可能性が明らかとなった。

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2022/04/27

牛第一胃内から分離された新規細菌種Prevotella lacticifex

論文タイトル
Prevotella lacticifex sp. nov., isolated from the rumen of cows
論文タイトル(訳)
牛第一胃内から分離された新規細菌種Prevotella lacticifex
DOI
10.1099/ijsem.0.005278
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology,Volume 72, Issue 3
著者名(敬称略)
真貝 拓三 他
所属
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構  畜産研究部門

抄訳

反芻動物の第一胃では植物バイオマスの分解や発酵が行われており、プレボテラ属細菌はこのプロセスに重要な役割を担っている。プレボテラ属は遺伝系統学的に50を超える細菌種から構成されるが、その生理機能は細菌種によって異なる。このため、プレボテラ属細菌をより詳しく理解するためには、遺伝系統学的な多様性とともに、細菌種レベルでのゲノム・生理特性を詳しく明らかにしていく必要がある。本研究では、プロピオン酸産生の多い第一胃内発酵特性を持つホルスタイン種乳用牛の第一胃からグラム陰性、嫌気性の細菌株を分離し、同定した。分離代表株R5019株は、16S rRNA遺伝子配列に基づく系統解析によりプレボテラ属に分類された。R5019株と最近縁種との16S rRNA遺伝子の相同性、ゲノム全体の一致度、および類似性を判別するANI値、およびデジタルDNA–DNAハイブリダイゼーション値は同種とされる閾値を超えていた。またR5019株の生化学的・生理的特徴からも本細菌種がプレボテラ属に属する新菌種と考えられ、乳酸産生の特徴からPrevotella lacticifexと命名提案した。

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2022/04/20

大腸菌のL-アラニン排出輸送体AlaEの基質排出活性とオリゴマー形成における第4膜貫通領域の重要性

論文タイトル
Importance of transmembrane helix 4 of l-alanine exporter AlaE in oligomer formation and substrate export activity in Escherichia coli
論文タイトル(訳)
大腸菌のL-アラニン排出輸送体AlaEの基質排出活性とオリゴマー形成における第4膜貫通領域の重要性
DOI
10.1099/mic.0.001147
ジャーナル名
Microbiology
巻号
Microbiology Volume 168, Issue 3
著者名(敬称略)
伊原 航平、金 世怜、安藤 太助、米山 裕
所属
東北大学大学院農学研究科 生物産業創成科学専攻

抄訳

AlaEは細胞内に過剰に蓄積したL-アラニンを細胞外に排出することで細胞の恒常性を維持する機能を担う。AlaEの構造に関する情報は少なく、基質排出のメカニズムは明らかになっていない。また、AlaEは149のアミノ酸残基からなる小さい輸送体であるため、オリゴマーを形成する可能性が考えられる。本研究では、架橋試薬による修飾実験やプルダウンアッセイを実施し、AlaEがホモオリゴマーを形成することを示した。また、これまでの研究でAlaEの第4膜貫通領域(TM4)上に存在するGxxxGモチーフが機能に重要である可能性が示唆されていた。本研究ではTM4の重要性を明らかにするため、TM4のアミノ酸残基をアラニン残基に置換した変異体を作製して活性を評価した。その結果、GxxxGモチーフ周囲のアミノ酸残基の置換体は低いL-アラニン排出活性を示し、TM4のGxxxGモチーフが基質の排出に重要であることが明らかとなった。次に、このモチーフがオリゴマー形成に関与するかどうかをプルダウンアッセイで評価した結果、AlaE変異体は依然としてオリゴマーを形成した。以上より、TM4のGxxxGモチーフはAlaE活性に不可欠な役割を果たすが、AlaEオリゴマーの形成には関与しないことが示された。

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2022/04/20

糖尿病雌ラットの視床下部kisspeptin/KNDyニューロンに関する組織化学的解析

論文タイトル
Hypothalamic KNDy neuron expression in streptozotocin-induced diabetic female rats
論文タイトル(訳)
糖尿病雌ラットの視床下部kisspeptin/KNDyニューロンに関する組織化学的解析
DOI
10.1530/JOE-21-0169
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 253 (2022): Issue 1 (Apr 2022) Pages: 39–51
著者名(敬称略)
榎本 弘幸、岩田 衣世 他
所属
日本医科大学 大学院医学研究科 解剖学・神経生物学分野

抄訳

糖尿病は女性では不妊や月経異常を引き起こすことが報告されている。脳の前腹側室周囲核(AVPV)のkisspeptinニューロンは黄体形成ホルモン(LH)サージを介して排卵に関わり、弓状核のkisspeptin/neurokinin B/dynorphin(KNDy)ニューロンは、GnRH/LHのパルス状分泌を介して卵胞発育に関わっていると考えられている。本研究では糖尿病の雌ラットの脳内のkisspeptin/KNDyの発現について組織化学的に解析した。膵島β細胞を特異的に破壊するstreptozotocin(STZ)を使用し、投与方法や投与量をかえることで重症度の異なる糖尿病ラットを作成した。重症度は血糖値と血中ケトン体濃度を指標とした。糖尿病ラットでは性周期が乱れ、重症度に比例して弓状核のKNDyニューロンの発現が抑制されていた。一方、排卵に関わるAVPVのkisspeptinニューロンの発現には糖尿病の影響はみられなかった。このことから女性の糖尿病では、脳内のKNDyニューロンの発現が抑制されることで卵胞発育が抑制され、その結果、月経異常や不妊を引き起こす可能性が示唆された。

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2022/04/15

震災後の相馬井戸端長屋で独居高齢者の孤独死を防げた事例

論文タイトル
Promoting independent living and preventing lonely death in an older adult: Soma Idobata-Nagaya after the 2011 Fukushima disaster
論文タイトル(訳)
震災後の相馬井戸端長屋で独居高齢者の孤独死を防げた事例
DOI
10.1136/bcr-2021-243117
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 No.2 (2022)
著者名(敬称略)
伊東 尚美、木下 ゆり、森田 知宏、坪倉 正治
所属
福島県立医科大学 放射線健康管理学講座

抄訳

この女性の事例は、震災後の孤立対策としての施策「相馬井戸端長屋(以下、長屋)」における、独居高齢者が孤独な死を回避することができた典型的な事例である。 2011年の東日本大震災で家と土地を失い、家族と離れて住むことになった80代女性が選んだのは、「長屋」だった。血のつながりが何よりも大事とされ、三世代同居が当たり前の日本の地方の社会において、災害後の避難や転居が家族の機能を揺るがした。災害後の生活再建が課題である当地において、震災後の長屋建設は、住み慣れた土地で部落の顔見知りの人たちと暮らすという新しい生活スタイルを提供した。長屋に関連する管理人やお弁当配食などの公的なサポートも高齢者の自立生活を支えていた。同時に、長屋の住民同士のインフォーマルなサポートは有効であった。急変時身近で世話をしたのは長屋内のお隣さんで、本人の望む医療へアクセスでき、孤独死を免れ、離れて住む家族の負担も最小限であったその最期の在り方は注目に値する。家族でなければできないと思われていたサポートが、災害後の地域のコミュニティ形成の中でできていた。災害のみならず、高齢化と孤立化が進むこれからの社会で、新しい暮らし方として提案できるだろう。

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2022/04/06

ゼブラフィッシュ仔魚の脊髄運動ニューロンにおける光遺伝学を用いたTDP-43の相転移誘導

論文タイトル
Optogenetic Phase Transition of TDP-43 in Spinal Motor Neurons of Zebrafish Larvae
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ仔魚の脊髄運動ニューロンにおける光遺伝学を用いたTDP-43の相転移誘導
DOI
10.3791/62932
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (180), e62932
著者名(敬称略)
浅川 和秀 他
所属
国立遺伝学研究所 遺伝形質研究系 発生遺伝学研究室

抄訳

神経変性疾患には、凝集したタンパク質が蓄積するという特徴と、ある特定の神経細胞のタイプが変性するという特徴がある。この二つの特徴の因果関係は、理論的には、疾患に対して脆弱な神経細胞において疾患に関連するタンパク質を相転移させることで検証可能であると考えられるが、実際にはそのような実験手法は限られている。この論文で我々は、小型熱帯魚ゼブラフィッシュの脊髄運動ニューロンにおいて、DNA/RNA結合タンパク質TDP-43の相転移を誘導することで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの変性をモデル化する手法を紹介する。ゼブラフィッシュ仔魚は身体組織の透明性が高いために、光を吸収すると相転移を起こす光遺伝学型TDP-43を脊髄運動ニューロンで発現させた仔魚に向かって青色のLED光を照射するだけで、TDP-43の相転移や凝集体の形成を誘導することができる。このプロトコルを用いれば、ALSに対して脆弱な細胞環境において進行するTDP-43の相転移の研究が可能になり、異常なTDP-43の相転移が、運動ニューロンや身体運動に与える影響をより詳しく解析できるようになると期待される。

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2022/04/05

術前診断に成功した肝臓内嚢胞性病変IPNB with invasive carcinomaの一例

論文タイトル
Intraductal papillary neoplasm of bile duct with invasive carcinoma as an intrahepatic cystic lesion, with successful preoperative diagnosis
論文タイトル(訳)
術前診断に成功した肝臓内嚢胞性病変IPNB with invasive carcinomaの一例
DOI
10.1136/bcr-2021-245918
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 No.1 (2022)
著者名(敬称略)
高崎 哲郎
所属
東京ベイ・浦安市川医療センター 消化器内科

抄訳

胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)は稀な疾患であり、症状も非特異的である。嚢胞性病変の形態を呈する場合、他疾患との鑑別が困難なことがあるが、近年の研究により、IPNBは胆管癌の前癌病変であることが明らかになっており、疾患概念を深く理解することは重要である。ムチンを産生するIPNBは、胆管閉塞が起こり、胆管炎を来しやすい。ムチン産生腫瘍では、他に粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)が鑑別に挙がる。本報告では82歳の男性が心窩部痛、発熱症状により救急外来を受診した。腹部造影CT検査により、肝臓左葉外側区に35mm大の嚢胞性病変を認め、病変に連続する胆管の拡張および内部に結節を認めた。ERCP検査の際に粘液の排出も確認したために、IPNB嚢胞感染の診断に至った。高齢ではあるものの、周術期リスクは許容範囲内であったため、切除手術を実施した。病理検査ではtype1 IPNBの所見であり、一部に浸潤癌を認めた。嚢胞感染を契機に受診した症例をIPNBと診断し、早期のうちに治療することができた。

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2022/03/30

制御されたネクローシス細胞からのDAMPs放出の制御機構

論文タイトル
Regulation of the release of damage-associated molecular patterns from necroptotic cells
論文タイトル(訳)
制御されたネクローシス細胞からのDAMPs放出の制御機構
DOI
10.1042/BCJ20210604
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.5 (677-685)
著者名(敬称略)
中野 裕康、村井 晋、森脇 健太
所属
東邦大学 医学部医学科 生化学講座

抄訳

Danger-associated molecular patterns (DAMPs)は、細胞膜の崩壊に伴い細胞内から放出される様々な分子の総称である。DAMPsは本来は細胞内で生理的な機能を持っているものの、一度細胞外に放出されると、本来の細胞内での働きとは異なり、炎症、細胞増殖、組織修復などの様々な生体応答を誘導する。これまでDAMPsは、細胞内でのATPの枯渇や物理的あるいは化学的な障害によって生じた受動的な細胞膜障害の結果、放出されると考えられてきた。しかし最近の研究から早期に細胞膜の崩壊をきたす複数の細胞死(ネクロプトーシス、パイロプトーシス、フェロプトーシス)の存在が報告され、それらの細胞死に伴うDAMPs放出のメカニズムの解明が飛躍的に進展した。本総説では、ネクロプトーシスに伴い生じる細胞膜崩壊がどの様に誘導されるかについての最新の知見の紹介し、さらに我々が最近開発したネクロプトーシスをライブセルでイメージングするためのFRET(Forester Resonance Energy Transfer)バイオセンサー、および1細胞レベルでDAMPsを可視化することを可能にした改変型のLCI-S(Live Cell Imaging for Secretion activity)システムについて紹介した。

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2022/03/29

日本の転移・再発乳がん治療におけるパルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングのリアルワールドデータ

論文タイトル
Real-world treatment patterns of palbociclib and blood count monitoring in patients with advanced breast cancer in Japan
論文タイトル(訳)
日本の転移・再発乳がん治療におけるパルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングの
リアルワールドデータ
DOI
10.2217/fon-2021-1448
ジャーナル名
Future Oncology
巻号
Future Oncology / Ahead of Print
著者名(敬称略)
澤木 正孝 他
所属
愛知県がんセンター 乳腺科部

抄訳

目的:日本の実臨床における、パルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングのリアルワールドデータを明らかにすること
対象と方法:2017年から2020年にパルボシクリブを処方された転移・再発乳がん患者の匿名化データを日本の大規模診療データベース (Medical Data Vision; 東京、日本) から抽出した。
結果、結論:当該期間に1,074名にパルボシクリブが使用され、2017-2018年はセカンドライン以降で主に処方されていたが、徐々にファーストラインでの処方が増加していた。治療ラインに関わらずフルベストラントが最も多い併用薬であった(57-66%)。この点は米国と異なっていた。開始用量は、ほとんどの症例に125mgで処方されていたが、半数以上の患者では投与開始8週以内に減量されていた。血液検査は定期的に行われていたものの、血液検査が行われていない症例も一部みられた。安全面への懸念を最小限にし、治療早期における中止を避けるため、血液検査モニタリングは適切に行うべきである。

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