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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2021/07/29

視床下部腹内側核(SF1細胞)におけるCRTC1欠損は高脂肪食に対して過食と肥満を誘導する

論文タイトル
Loss of CREB Coactivator CRTC1 in SF1 Cells Leads to Hyperphagia and Obesity by High-fat Diet But Not Normal Chow Diet
論文タイトル(訳)
視床下部腹内側核(SF1細胞)におけるCRTC1欠損は高脂肪食に対して過食と肥満を誘導する
DOI
10.1210/endocr/bqab076
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Volume 162 Issue 9 (bqab076)
著者名(敬称略)
松村 成暢 他
所属
大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科栄養療法学専攻

抄訳

CREB-regulated transcription coactivator-1(CRTC1)は、細胞内cAMPの上昇に伴い活性化されるCREBのcoactivatorである。 これまでCRTC1の全身性の欠損は過食とエネルギー消費の減少により肥満を引き起こすことが報告されている(Altarejos et al., Nat Med. 2008)。 CRTC1は脳神経細胞で脳の広範にわたり発現しているためCRTC1によるエネルギー代謝調節メカニズムは不明であった。我々は視床下部腹(SF1細胞)特異的にCRTC1を欠損させたマウス新たに作成し、このマウスに高脂肪食を摂取させると肥満すること、耐糖能が悪化することを発見した。視床下部腹内側核より切り出したサンプルのRNAシーケンス解析により、CRTC1の欠損は特定の遺伝子群の発現レベルを有意に変化させることが明らかとなった。これらの結果より、CRTC1は視床下部腹内側核において遺伝子発現を制御し、高脂肪食の摂取調節および糖代謝を制御しているという新たな経路が示唆された。

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2021/07/28

電子顕微鏡観察における生物試料のすぐれた微細構造保持のためのサンドイッチ凍結法

論文タイトル
Rapid Freezing using Sandwich Freezing Device for Good Ultrastructural Preservation of Biological Specimens in Electron Microscopy
論文タイトル(訳)
電子顕微鏡観察における生物試料のすぐれた微細構造保持のためのサンドイッチ凍結法
DOI
10.3791/62431
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (173), e62431
著者名(敬称略)
山口正視 他
所属
千葉大学・真菌医学研究センター

抄訳

生物試料の電子顕微鏡観察には、これまで、主に化学固定法による超薄切片法が用いられてきたが、この方法では、様々なアーティファクトが生じることが知られている。これを回避するために、近年、急速凍結・凍結置換固定法が用いられるようになった。サンドイッチ凍結法は、熱伝導のよい2枚の銅板に薄い試料をはさんで、液体プロパンに素早く投入することによって、氷晶のないガラス状凍結を得るすぐれた急速凍結法の一つである。この方法により、これまで、生きた酵母、真菌、細菌の高解像の自然な微細構造が観察されてきた。最近、サンドイッチ凍結法は、グルタルアルデヒド固定した培養細胞、動物細胞、ヒト組織でも、すぐれた微細構造の保持に有効であることがわかり、応用範囲が格段に広がった。
この論文は、最近、マリン・ワーク・ジャパン(株)が商品化した「サンドイッチ凍結装置」の使い方について、酵母や培養細胞などの細胞懸濁液、動物組織、およびウイルス試料のそれぞれの場合について、ビデオで手順を解説しものである。サンドイッチ凍結法は、30μmまでの生きた細胞懸濁液、0.2 mm までのグルタルアルデヒド固定した動物組織を無氷晶で凍結でき、高圧凍結法にかわるすぐれた方法となりうる。この論文では、凍結後の凍結置換、樹脂包埋、超薄切、切片染色の方法についても解説を行っている。

 

 

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2021/07/19

肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を伴った特発性肺へモジデローシスが疑われたびまん性肺胞出血

論文タイトル
Diffuse alveolar haemorrhage with suspected idiopathic pulmonary hemosiderosis and decrease in lung diffusing capacity and chronic respiratory failure
論文タイトル(訳)
肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を伴った特発性肺へモジデローシスが疑われたびまん性肺胞出血
DOI
10.1136/bcr-2021-242901
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 7 (2021)
著者名(敬称略)
岩崎 広太郎
所属
東邦大学医療センター 佐倉病院 呼吸器内科

抄訳

特発性肺へモジデローシスは繰り返すびまん性肺胞出血をきたす原因不明の疾患である. 50代の男性は過去6年間喀血を繰り返し, 肺拡散能の低下と慢性呼吸不全を呈していた. 原因不明で精査希望なく6年間経過観察していたが, 突然の呼吸不全増悪と喀血の増悪をきたして入院となった. 胸部CTではびまん性肺陰影を呈しており, 気管支肺胞洗浄液ではヘモジデリン貪食マクロファージを認めた. それらの所見からびまん性肺胞出血と診断した. 特発性肺へモジデローシス以外のびまん性肺胞出血をきたす疾患は否定的であり, 特発性肺へモジデローシスが疑われた. ステロイドとアザチオプリンの併用療法によって喀血と慢性呼吸不全は改善したが, 肺拡散能低下は改善しなかった. ステロイドとアザチオプリンの併用療法では成人発症の特発性肺へモジデローシスに対して呼吸不全と喀血は改善するが, 肺拡散能は改善しない可能性がある.

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2021/07/15

Rnd2は脳の白質に多く発現し、脳白質のミエリン構造の維持に関わる

論文タイトル
Rnd2 differentially regulates oligodendrocyte myelination at different
developmental periods
論文タイトル(訳)
Rnd2は脳の白質に多く発現し、脳白質のミエリン構造の維持に関わる
DOI
10.1091/mbc.E20-05-0332
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 8(769-787)
著者名(敬称略)
宮本 幸、山内 淳司 他
所属
国立成育医療研究センター研究所 薬剤治療研究部

抄訳

 脳の白質は、ミエリンに富む構造である。ミエリンを構成する細胞はグリア細胞と呼ばれ、脂質を多く含む絶縁体として働き、神経細胞を保護すると同時に神経伝達信号を効率よく伝える役割をもつ。ミエリンは、比較的再生能力が高いものの、ミエリンが変性している時期が長期に及ぶと、その再生能力が低下すると言われているため、ミエリン形成のメカニズムの根本を解明することが、ミエリン変性疾患等の治療薬の開発につながると考えられる。
 当該研究では、Rnd2が脳内のグリア細胞に高発現していることを見いだし、ミエリン化において重要な分子の一つであるRho kinaseを介して、ミエリン化の過程を厳密に制御していることを明らかにした。本研究結果から、ミエリン変性を呈する様々な疾患において、Rnd2の活性を調整することでミエリン組織を再生できる可能性が生まれ、治療薬の開発につながることが期待される。

 

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2021/07/13

成熟精巣内での胎児セルトリ細胞の分化

論文タイトル
Differentiation of fetal sertoli cells in the adult testis
論文タイトル(訳)
成熟精巣内での胎児セルトリ細胞の分化
DOI
10.1530/REP-21-0106
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 162 Issue 2 (141–147)
著者名(敬称略)
横西 哲広 他
所属
川崎医科大学 解剖学教室

抄訳

未熟なセルトリ細胞は、性決定後から思春期までの間、増殖しながら成熟する。成熟したセルトリ細胞は、一生涯にわたり精子形成を支持する。胎児精巣の組織培養実験や、成熟マウスの腎皮膜下への移植実験では、胎児セルトリ細胞は精細管を形成し、精子形成を支持することが知られている。しかし、成熟した精巣内での非同期性・同所性移植における挙動については調べられていない。我々は、性成熟したマウスのセルトリ細胞を薬剤により除去し、E12.5、 E14.5とE16.5の胎児精巣細胞を移植した。移植2ヶ月後に、ドナー胎児由来のセルトリ細胞、ライディッヒ細胞や筋様細胞が、宿主精巣に定着しているのを認めた。定着した胎児セルトリ細胞は、宿主の精子形成を支持したことから、非同期性・同所性移植においても胎児セルトリ細胞は成熟することがわかった。近年、iPS細胞を用いたセルトリ細胞などの精巣体細胞への分化誘導法が報告されている。本研究は、これらの細胞の機能アッセイにも応用ができると期待される。

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2021/07/06

ペグフィルグラスチムによる大血管炎を来した1例

論文タイトル
Pegfilgrastim-induced large vessel vasculitis
論文タイトル(訳)
ペグフィルグラスチムによる大血管炎を来した1例
DOI
10.1136/bcr-2021-243757
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 6 (2021)
著者名(敬称略)
齋藤 寛晃 須田 烈史
所属
金沢市立病院 消化器内科

抄訳

症例は71歳の女性。肝内胆管癌に対する化学療法中に, 発熱性好中球減少症の予防目的にペグフィルグラスチム3.6mgを投与された。しかし,投与7日後より全身倦怠感, 胸背部痛, 発熱を認めた。 血液検査では,白血球やCRPの高値を呈した。造影CTでは, 大動脈炎を示唆する大動脈弓部の壁肥厚を認めた。 膠原病関連の自己抗体は陰性であった。鑑別疾患として巨細胞性動脈炎と高安動脈炎が挙げられたが, 診断基準に合致しなかった。 臨床経過よりペグフィルグラスチムによる大血管炎と診断し, ステロイドによる治療を開始した。ステロイド投与によって速やかな症状消失,血液検査での炎症反応の低下,造影CTでの壁肥厚の改善を認めた。また, 治療開始前の血液検査でIL-6は高値を呈していたが, 治療後に正常範囲内へ低下した。ペグフィルグラスチムによる大動脈炎は稀だが, 大動脈解離などの重篤な副作用が報告されているため, その認識は重要である。 診断のための画像検査とステロイドによる適切な治療が必要である。

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2021/07/06

滑走するフラボバクテリアの単層集合運動が生み出す動的回転を伴う巨大渦

論文タイトル
Large-Scale Vortices with Dynamic Rotation Emerged from Monolayer Collective Motion of Gliding Flavobacteria
論文タイトル(訳)
滑走するフラボバクテリアの単層集合運動が生み出す動的回転を伴う巨大渦
DOI
10.1128/JB.00073-21
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 203, No. 14
著者名(敬称略)
中根 大介 他
所属
電気通信大学 基盤理工学専攻

抄訳

自己駆動型粒子の集団運動は、物理学や生物学において魅力的なテーマである。洗練された巨視的な行動は、何千、何百万ものバクテリア細胞の集団が、べん毛の回転や走化性反応によって自らを推進することで現れる。今回、私たちは非べん毛性の棒状土壌細菌Flavobacterium johnsoniaeの連続的な相転移に伴う一連の集団運動を発見した。この集団運動は、滑動運動として知られる表面細胞の動きによって引き起こされていた。低栄養条件では細菌群は寒天上で自発的な渦パターンを示し、それらは左回りに旋回しながら巨大化した。単独の細胞ではランダムな方向に動くが、細胞同士がつながっているものは、飢餓状態では左回りに偏った軌道を示すことが明らかになった。この運動モードは細菌が栄養分を効率的に見つけ出すための戦略なのかもしれない。

本論文に関連するビデオが下記でご覧になれます。

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2021/07/02

術前画像で観察された、生検経路に生じた乳癌播種

論文タイトル
Breast cancer seeding in the biopsy route observed on preoperative imaging
論文タイトル(訳)
術前画像で観察された、生検経路に生じた乳癌播種
DOI
10.1136/bcr-2021-242741
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 6 (2021)
著者名(敬称略)
藤本 章博
所属
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科

抄訳

乳房針生検では稀に腫瘍の播種が問題となる。術前の画像診断で生検経路への播種が観察された症例を報告する。71歳女性。左乳房の18 mm腫瘤に対し吸引式乳房組織生検(VAB)を施行し、浸潤性乳癌と診断した。生検後33日目に、穿刺部位に発赤を伴う皮膚結節が出現した。超音波では、生検経路に血流信号増加を伴う紐状の低エコー領域を認め、PET-CT、造影MRIでも同様な病変が認められ、生検経路への播種が示唆された。術後病理所見では浸潤長径は84 mmに及び、生検経路にリンパ管腫瘍塞栓を主成分とする癌病変を認め、原因は腫瘍の播種と考えられた。通常コア針生検(CNB)よりも太い針を使用するVABは、組織採取量が豊富で診断能が高いと考えられるが、吸引圧が生じることや、針路内での腫瘍の拡散により播種を生じる可能性があり注意を要する。生検前の画像で播種リスクを予測することは困難であり、本症例のような合併症を避けるにはCNBの方が安全かもしれない。逆にVABの場合は、生検経路全体の切除が可能な部位から穿刺することが重要である。

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2021/06/29

患者由来がんオルガノイドを用いたin vitroハイスールプットアッセイ

論文タイトル
High-Throughput In Vitro Assay using Patient-Derived Tumor Organoids
論文タイトル(訳)
患者由来がんオルガノイドを用いたin vitroハイスールプットアッセイ
DOI
10.3791/62668
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (172), e62668
著者名(敬称略)
比嘉 亜里砂1、高木 基樹2 他
所属
1. 富士フイルム和光バイオソリューションズ株式会社
2. 福島県立医科大学 医療-産業トランスレーショナルリサーチセンター

抄訳

患者由来の腫瘍オルガノイド(PDO)は、従来の細胞培養モデルよりも疾患の再現性に優れた前臨床がんモデルとして期待されています。PDOは、腫瘍組織の構造や機能を正確に再現し、さまざまなヒト腫瘍から樹立することに成功しています。しかし、PDOはサイズが不均一で、培養中に大きなクラスターを形成するため、抗がん剤を評価する際に96ウェルや384ウェルプレートを用いたハイスループットアッセイシステム(HTS)や細胞解析には適していません。また、これらの培養やアッセイでは、マトリゲルなどの細胞外マトリックスを用いて腫瘍組織の足場を作る必要があります。そのため、PDOはスループットが低く、コストも高いため、適切なアッセイシステムを開発することが困難です。この問題を解決するために、我々が樹立したF-PDOを用いて、抗がん剤や免疫療法の効果を評価可能で、よりシンプルで精度の高いHTSを確立しました。

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2021/06/25

胸部単純X線写真で病変と誤解されうる先天性肋骨癒合

論文タイトル
Congenital costal fusion can be misinterpreted as lesions on chest X-ray
論文タイトル(訳)
胸部単純X線写真で病変と誤解されうる先天性肋骨癒合
DOI
10.1136/bcr-2021-242834
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 6 (2021)
著者名(敬称略)
多胡 雅毅
所属
佐賀大学医学部附属病院総合診療部

抄訳

67歳の男性が、1週間続く発熱、咽頭痛、食欲不振のために当院を受診した。喫煙者で、他に既往歴はなかった。発熱はなく、身体所見に異常を認めなかった。胸部単純X線写真で、右第5肋間に腫瘤影を認め、骨原性腫瘍や転移性病変を疑った。胸部CTで右第5・6肋骨の癒合を認め、先天性肋骨癒合と診断した。 肋骨癒合は0.3%の頻度で見られ、その多くは無症状で、しばしば本症例のようにX線写真で偶発的に指摘される。肋骨奇形は胸腰部の側弯を伴うことが多く、肋骨癒合は第1肋骨と第2肋骨に多く発生し、胸郭出口症候群の原因となりうる。すぐにCT検査を行うのではなく、まず身体診察とX線写真で肋間と胸郭の左右差を慎重に確認する必要がある。また側弯の有無、胸郭出口症候群の症状も診断の参考となる。本症例では、X線写真で右の第5肋間が左に比べて狭小化していた。内科医は決して稀ではない肋骨癒合に関する正しい知識を持つべきである。

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2021/06/22

神経ネットワークの動的構造を捉える高速・高解像度・広視野 2光子顕微鏡

論文タイトル
Fast, cell-resolution, contiguous-wide two-photon imaging to reveal functional network architectures across multi-modal cortical areas
論文タイトル(訳)
神経ネットワークの動的構造を捉える高速・高解像度・広視野 2光子顕微鏡
DOI
10.1016/j.neuron.2021.03.032
ジャーナル名
Neuron
巻号
Neuron VOLUME 109, ISSUE 11, P1810-1824.E9, JUNE 02, 2021
著者名(敬称略)
太田 桂輔 村山 正宜
所属
理化学研究所 脳神経科学研究センター 触知覚生理学研究チーム

抄訳

脳はさまざまな領域の集合体であり、領域間の相互作用により脳機能が発現すると考えられている。しかしながら、多領域から神経細胞の活動を計測できる顕微鏡は存在せず、広域ネットワークの機能的構造は不明であった。今回、我々は低倍率かつ高開口数を満たす大型対物レンズ、大口径・高感度・高出力光検出器を開発することで、広視野・高解像度・高速撮像・高感度・無収差を同時に満たす2光子顕微鏡「FASHIO-2PM(fast-scanning high optical invariant two-photonmicroscopy)」を開発した。マウス大脳皮質2層に存在する1万6000個以上の神経細胞の活動を、9mm2(従来の36倍)の単一視野面から7.5Hzの撮像速度で高感度に測定することに成功した。単一神経細胞の活動に基づくネットワークを解析したところ、脳はスケールフリーネットワークではなくスモールワールドネットワークであることが明らかになった。同時に長距離の機能的結合も含め100以上の細胞と協調的に活動する非常にレアなハブ細胞(存在確率は1%未満)の存在も明らかにした。

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2021/06/21

体細胞核移植に伴うエピジェネティクス異常

論文タイトル
25th ANNIVERSARY OF CLONING BY SOMATIC-CELL NUCLEAR TRANSFER: Epigenetic abnormalities associated with somatic cell nuclear transfer
論文タイトル(訳)
体細胞核移植に伴うエピジェネティクス異常
DOI
10.1530/REP-21-0013
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 162 Issue 1 (F45–F58)
著者名(敬称略)
小倉 淳郎 他
所属
理化学研究所バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室

抄訳

体細胞核移植(Somatic Cell Nuclear Transfer, SCNT)は、1個の体細胞核からクローン胚やクローン個体を作り出す技術である。成体の体細胞核移植によって生まれた最初の哺乳動物、クローンヒツジDollyの報告(Nature 1997)からすでに25年が経過しようとしている。この間、SCNT関連の研究は飛躍的に進み、クローン動物の生産効率の向上に貢献するとともに、SCNTによるエピゲノム異常が次々と明らかになっている。これらの研究を通じて、ドナー体細胞のエピゲノム情報には卵子で再プログラムできるものとできないものがあることが明らかになってきた。現在では、ドナー体細胞ゲノムに含まれるゲノム刷込み情報(片親依存性遺伝子発現制御)は、典型ゲノム刷込み(DNAメチル化依存性)および非典型ゲノム刷込み(ヒストン修飾H3K27me3依存性)とも、SCNTでは再プログラム化されないことがわかっている。したがって、SCNT由来のクローン胚には、ドナー細胞の刷込み記憶パターンがそのまま引き継がれている。前者の典型ゲノム刷込みは、ドナー細胞でも基本的に正常なパターンが保たれており、クローン胚でも問題になることは少ない。一方、後者の非典型ゲノム刷り込みは、ドナー細胞で失われているために、クローン胚において正常な片アレル(父方)発現が破綻し、両アレル発現となり、主な発現器官である胎盤での過剰発現と表現型異常をきたす。また、刷込み記憶以外の体細胞エピゲノム記憶のうち、ヒストンアセチル化やH3K9me3などは不十分な再プログラム化が知られており、これがクローン胚の発生不全につながっている。SCNTから得られるエピゲノム情報は、体細胞クローン技術の改善への基盤となるとともに、エピゲノム異常の発生への影響を理解する上でも重要な知見をもたらす。

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2021/06/18

ウィスキーもろみ由来および発酵乳由来 Lactobacillus helveticus 菌株の生息域特異的な環境適応

論文タイトル
Niche-specific adaptation of Lactobacillus helveticus strains isolated from malt whisky and dairy fermentations
論文タイトル(訳)
ウィスキーもろみ由来および発酵乳由来Lactobacillus helveticus 菌株の生息域特異的な環境適応
DOI
10.1099/mgen.0.000560
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Volume 7 Issue 4
著者名(敬称略)
城戸 良彦 遠藤 明仁 他
所属
東京農業大学 生物産業学部 食香粧化学科 食の化学研究室

抄訳

L. helveticus はチーズを含む様々な発酵乳製品の製造に利用される代表的な発酵乳乳酸菌であり、その保健効果を利用したプロバイオティクス乳製品も多数開発されている。一方で、本菌はウィスキー発酵中のもろみからも見いだされることが知られている。この2つの生息域は微生物が生息するにあたり、栄養面及び環境ストレス面で大きく異なる。そこで本研究ではこの2つの環境から分離されたL. helveticus 菌株の生理学的性状及びゲノム性状を比較解析した。その結果、ウィスキー由来株はアルコール耐性を有しているのに対し、発酵乳由来株には見られなかった。また、麦芽糖であるマルトースや植物由来糖であるセロビオース、スクロースなどの代謝能はウィスキー由来株だけに特異的にみられた一方で、乳由来の糖であるラクトースやその構成糖であるガラクトースの代謝は発酵乳由来株だけに特異的にみられた。この糖代謝能の違いは比較ゲノム解析データからも完全にフォローされ、L. helveticus は環境にゲノムレベルで適応することで表現性状を大きく変化させていることが明らかとなった。また、進化学的研究により、L. helveticus は本来穀物発酵物中に生息していたものが乳環境中に適応していったことが示唆された。

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2021/06/16

18F-FDG-PET集積を示す良性副腎皮質腫瘍の病理学的・遺伝子学的特徴

論文タイトル
Characteristics of benign adrenocortical adenomas with 18F-FDG PET accumulation
論文タイトル(訳)
18F-FDG-PET集積を示す良性副腎皮質腫瘍の病理学的・遺伝子学的特徴
DOI
10.1530/EJE-20-1459
ジャーナル名
European Journal of Endocrinology
巻号
European Journal of Endocrinology Vol.185 Issue 1 (155–165)
著者名(敬称略)
石渡 一樹, 鈴木 佐和子 他
所属
千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学

抄訳

18F-FDG-PET (PET) 集積で発見される良性副腎皮質腺腫が増えている。我々はその特徴を明らかにする目的で、PET を施行したコルチゾール産生腫瘍 30例 (26例の副腎腺腫と4例の副腎皮質癌)の臨床病理学的解析および遺伝子学的解析を行った。その結果、良性副腎皮質腺腫でも 65%と比較的高率にPET集積を認め、PET集積が高い症例は肉眼的に黒色調のblack adenomaが多く含まれていた。Black adenomaは脂肪成分が少ないため、PET集積を認める副腎皮質腺腫は、CT値が高く、MRIではT1・T2強調画像ともに高信号、opposed phaseで信号低下を認めず、131I-アドステロールシンチでは集積が減弱していた。Black adenomaの細胞内には障害を受けたミトコンドリアが豊富で、摘出副腎組織のRNA sequenceではLysosome pathwayやAutophagy pathwayに加えて、18F -FDGの取り込みに関与するGLUT 1.3を含むglycolysis pathwayをはじめとしたmetabolic pathwayが増加していた。PET集積を認める脂肪成分含有の少ない副腎腫瘍はBlack adenomaも念頭におき総合的な診断・治療決定が望まれる。

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2021/06/15

シロイヌナズナの全身性傷害シグナルを可視化する広視野リアルタイムイメージング法

論文タイトル
Wide-Field, Real-Time Imaging of Local and Systemic Wound Signals in Arabidopsis
論文タイトル(訳)
シロイヌナズナの全身性傷害シグナルを可視化する広視野リアルタイムイメージング法
DOI
10.3791/62114
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (172), e62114
著者名(敬称略)
上村 卓矢,豊田 正嗣 他
所属
埼玉大学 理学部 分子生物学科 理学部3号館

抄訳

傷害や害虫による食害を受けた植物では、被害局所のみならず遠く離れた未被害部位においても抵抗性反応が誘導される。私たちは傷害によって細胞外(アポプラスト領域)に放出されるグルタミン酸(Glu)がグルタミン酸受容体(GLR)を活性化し、それにより発生する長距離で高速なカルシウム(Ca2+)シグナルが全身性傷害応答の引き金となることを明らかにした。本プロトコルではGFP型のCa2+バイオセンサーとGluバイオセンサーを発現させたシロイヌナズナと広視野蛍光顕微鏡を用いて、傷害による全身性の高速Ca2+シグナルと細胞外のGlu濃度変化を可視化するリアルタイムイメージング法について示す。また長距離Ca2+シグナルを誘導するGluの処理方法についても紹介する。本システムを用いることで、植物のストレス応答機構における長距離シグナルネットワークを時空間的に理解することが可能となる。

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2021/06/15

上顎第二大臼歯周囲に4歯の過剰歯を認めた1例

論文タイトル
Four erupted supernumerary teeth around the maxillary second molar
論文タイトル(訳)
上顎第二大臼歯周囲に4歯の過剰歯を認めた1例
DOI
10.1136/bcr-2020-241213
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 5 (2021)
著者名(敬称略)
冨永 浩平 佐々木 亮 岡本 俊宏
所属
東京女子医科大学病院 歯科口腔外科

抄訳

過剰歯の発生頻度は約1%であり、上顎前歯部が半数を占め、1歯ないし2歯の発生がほとんどである。4歯以上の過剰歯は鎖骨頭蓋異骨症やGardner症候群などに発生することが報告されているが、症候群を伴わない3歯以上の過剰歯は稀であり、そのうち片側片顎臼歯部に発生した症例は数少ない。 患者は26歳男性で、遺伝性疾患を示唆する所見はなく、過剰歯や大腸腫瘍などの家族歴は認めなかった。左側上顎第二大臼歯口蓋側に1歯、頬側に3歯の過剰歯を認めた。過剰歯はいずれも矮小歯で、歯冠の形態は不定型であった。歯根は単根で湾曲していた。過剰歯の約75%は埋伏しているが、本症例では全て萌出していた。過剰歯の発生には様々な説があるが、本症例では第二大臼歯、第三大臼歯との癒合はなく、発生時期も独立していることから歯胚・歯堤の過剰形成によるものと考えられた。

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2021/06/15

尿路病原性大腸菌の外膜蛋白質OmpXは、本菌の病原性と鞭毛発現に寄与する

論文タイトル
Roles of OmpX, an Outer Membrane Protein, on Virulence and Flagellar Expression in Uropathogenic Escherichia coli
論文タイトル(訳)
尿路病原性大腸菌の外膜蛋白質OmpXは、本菌の病原性と鞭毛発現に寄与する
DOI
10.1128/IAI.00721-20
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Volume 89 • Number 6 • May 2021
著者名(敬称略)
平川 秀忠 他
所属
群馬大学 大学院医学系研究科細菌学講座

抄訳

尿路病原性大腸菌(UPEC)は、尿路感染症を引き起こす主要な起因菌である。本菌は、尿路系細胞に侵入しマイクロコロニーを形成する。本菌のマイクロコロニーは、様々な抗菌薬や宿主の免疫系に対して耐性を示すため、これがUPEC感染症の難治化につながると考えられている。本論文では、UPECの外膜蛋白質の1つであるOmpXが、腎臓に対する病原性に寄与することを明らかにした。ompX遺伝子を欠損させると、腎臓上皮細胞内におけるマイクロコロニー形成能が大きく低下し、それに伴って経尿道感染マウスの腎臓への感染が低減された。一方で、ompX欠損株は、野生型と比較して、鞭毛の発現量が低下しており、その結果不完全な運動性が見られた。鞭毛の構成成分であるフラジェリン蛋白質をコードする遺伝子fliCを欠損させると、ompX欠損株と同様、腎臓上皮細胞内におけるマイクロコロニー形成能が大きく低下した。さらに、fliC欠損株からompXを欠損させても、さらなるマイクロコロニー形成能の低下は観察されなかった。以上の結果から、UPECの鞭毛は、腎臓上皮細胞に対する病原性に関与すること、そしてOmpXはその鞭毛の発現に寄与することが示された。本研究結果は、UPECのOmpXが、新たな病原性因子であり、本菌による感染症に対する治療標的になりうる可能性を示唆している。

 

 

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2021/06/08

CX3CL1-CX3CR1シグナルの欠損は、肥満による慢性炎症とインスリン抵抗性を増悪させる

論文タイトル
CX3CL1-CX3CR1 Signaling Deficiency Exacerbates Obesity-induced Inflammation and Insulin Resistance in Male Mice
論文タイトル(訳)
CX3CL1-CX3CR1シグナルの欠損は、肥満による慢性炎症とインスリン抵抗性を増悪させる
DOI
10.1210/endocr/bqab064
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Vol.162 Issue 6 (bqab064)
著者名(敬称略)
永島田 まゆみ 他
所属
金沢大学医薬保健研究域保健学系 医療科学領域 病態検査学講座

抄訳

肥満による慢性炎症とインスリン抵抗性の発症・遷延化において、骨髄から脂肪組織、肝臓等へ単球・マクロファージ等の炎症細胞を浸潤・集積させるケモカインは重要な役割を果たす。40種以上のケモカインの多くは肥満の進展に伴い発現が増加するが、我々は、唯一持続的に発現が減少するケモカインCX3CL1(fractalkine)を見出した。今回、CX3CL1の受容体CX3CR1を欠損したマウスに、高脂肪食による肥満を誘導し(DIO-KO)、慢性炎症、及びインスリン抵抗性の形成におけるCX3CL1-CX3CR1シグナルの役割を検討した。
DIO-KOの代謝表現型解析から、CX3CL1-CX3CR1シグナルの欠損は、脂肪組織に浸潤するマクロファージの極性を抗炎症性M2から炎症惹起性M1優位へとダイナミックにシフトさせ、脂肪組織の炎症を誘導、遷延化し、インスリン抵抗性を増悪させることが明らかとなった。また、肥満に伴い低下したCX3CL1-CX3CR1シグナルの回復は、インスリン抵抗性を減弱させた。以上のことからCX3CL1-CX3CR1シグナルは、肥満における慢性炎症やインスリン抵抗性の発症に深く関与することが示された

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2021/06/01

胃腺腫と亜急性連合性脊髄変性症を合併した自己免疫性胃炎の一例

論文タイトル
Autoimmune gastritis concomitant with gastric adenoma and subacute combined degeneration of the spinal cord
論文タイトル(訳)
胃腺腫と亜急性連合性脊髄変性症を合併した自己免疫性胃炎の一例
DOI
10.1136/bcr-2021-242836
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 5 (2021)
著者名(敬称略)
谷口 正浩 仲瀬 裕志
所属
札幌医科大学 医学部 消化器内科学講座

抄訳

自己免疫性胃炎(AIG)は、自己免疫機序による壁細胞の破壊、胃底腺領域の萎縮を特徴とする慢性胃炎である。AIGは胃腫瘍やビタミンB12欠乏を引き起こし、後者は悪性貧血や神経障害の原因となりうる。今回、胃腺腫と亜急性連合性脊髄変性症(SCD)を合併したAIGの一例を経験した。 症例は62歳の女性で、貧血精査のため当科に紹介となった。血液検査で軽度の大球性貧血、ビタミンB12低値を認め、上部消化管内視鏡検査(EGD)で胃体部優位の萎縮性胃炎と胃体部に扁平隆起を認めた。AIGによるビタミンB12欠乏及び早期胃癌を疑い、追加検査の結果判明後にビタミンB12投与と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を予定した。EGDの数日後から歩行障害が出現し、神経内科での神経診察、MRI検査の結果、SCDと診断された。ビタミンB12投与で神経症状、貧血は改善し、抗壁細胞抗体及び抗内因子抗体陽性、血清ガストリン高値、ペプシノーゲンI低値を認めたことからAIGと診断した。その後、胃腫瘍に対しESDを施行し、病理組織検査は腺腫の診断であった。胃腺腫とSCDを合併したAIGは稀であり、AIGの早期診断と合併症に対する適切な対応の重要性が示唆された一例と考え報告する。

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2021/05/26

仮想現実技術ガイド下リハビリテーションが功を奏した小脳性運動失調の1例

論文タイトル
Case of cerebellar ataxia successfully treated by virtual reality-guided rehabilitation
論文タイトル(訳)
仮想現実技術ガイド下リハビリテーションが功を奏した小脳性運動失調の1例
DOI
10.1136/bcr-2021-242287
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 5 (2021)
著者名(敬称略)
瀧本 和大
所属
医療法人えいしん会 岸和田リハビリテーション病院

抄訳

症例は40歳代の男性。右小脳および脳幹梗塞後の運動失調に対するリハビリテーション目的で当院転院となった。転院後3週間の理学療法的介入で患者の日常生活動作はFunctional Impedance Measure で101から124に改善した。しかしながら、フォークリフト運転手としての業務に必要なバランス機能の向上には至らなかった。この改善目的に仮想現実(VR)技術を用いたリハビリテーション用医療機器、mediVRカグラ🄬ガイド下でのバランス訓練(VR訓練)を導入した。VR訓練を平日に約40分間、2週間行ったところ、運動失調の評価尺度であるScale for the Assessment and Rating of Ataxiaは5点から1点に、Functional Balance Scale は48点から56点に、Mini-Balance Evaluation Systems Test は20点から28点に改善した。体幹動揺は臨床的に消失し、患者は職場復帰を果たした。

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