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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2021/05/10

腎臓におけるアンモニアトランスポーターRhcgのアルドステロンによる発現調節機序の検討

論文タイトル
Regulation of Rhcg, an ammonia transporter, by aldosterone in the kidney
論文タイトル(訳)
腎臓におけるアンモニアトランスポーターRhcgのアルドステロンによる発現調節機序の検討
DOI
10.1530/JOE-20-0267
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 249 Issue 2 (95–112)
著者名(敬称略)
江口 剛人, 泉 裕一郎 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野

抄訳

腎臓の役割の一つに酸(H+)排泄があり、生体の酸塩基平衡の維持に重要である。H+はアンモニア(NH3)とともにアンモニウムイオン(NH4+)として尿中へ排泄される。その調節はアルドステロンとカリウム(K+)によるとされるが、詳細な機序は分かっていない。NH3は、集合尿細管間在細胞に発現するトランスポーターRhesus C glycoprotein (Rhcg)により排泄される。今回、アルドステロンによるRhcgの発現調節機序について検討した。C57BL/6Jマウスにアルドステロンを持続皮下投与すると、尿細管細胞膜上のRhcgの発現が増加した。アルドステロンとともに塩化カリウム(KCl)の飲水投与によりK+を負荷すると、Rhcg発現の増加が抑制された。次に、副腎摘出マウスに塩化アンモニウム(NH4Cl)の飲水投与によるH+負荷を施した上で、アルドステロンまたはvehicleを持続皮下投与した。副腎摘出はH+負荷により誘導されるRhcgの発現を阻害し、アルドステロンはRhcgの発現を回復させた。さらに、間在細胞由来細胞株(IN-IC細胞)を用いてRhcgの発現調節の機序について検討した。アルドステロンはRhcgの細胞膜上の発現を増加させ、ミネラロコルチコイド受容体阻害薬とPKC阻害薬はそれぞれアルドステロンの作用を阻害した。また、細胞外K+濃度の上昇はアルドステロンの作用を阻害した。
今回の検討により、腎臓におけるRhcgを介した酸排泄調節機序の一端が明らかとなった。

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2021/05/10

ヒト血清中可溶型T-カドヘリンの同定と臨床パラメーターとの関連

論文タイトル
Identification and Clinical Associations of 3 Forms of Circulating T-cadherin in Human Serum
論文タイトル(訳)
ヒト血清中可溶型T-カドヘリンの同定と臨床パラメーターとの関連
DOI
10.1210/clinem/dgab066
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.106 Issue5 (1333–1344)
著者名(敬称略)
福田 士郎, 喜多 俊文 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学

抄訳

T-カドヘリン(T-cad)は、アディポネクチンによるエクソソームの生合成と分泌を媒介し、心臓血管組織を保護し、筋肉の再生を促進し、移植間葉系幹細胞による治療的心保護作用を発揮するGPIアンカー型カドヘリンです。GWAS研究では、T-cad遺伝子座が、心血管疾患のリスクとグルコース恒常性に加えて、血漿アディポネクチンレベルに強く影響すること知られています。
新規にモノクローナル抗体を作出することで、血中には130kDa体、100kDa、および30kDaの3種の可溶型T-cadが存在することを明らかにしました。新しく開発したELISAシステムを使用してそれらを同時に測定すると、アディポネクチンとの結合は認められなかったものの、130kDa体T-cadが血漿アディポネクチン値と正の相関があることがわかりました(r = 0.28、p <0.001)。また、30kDa体T-cadは、糖尿病患者のいくつかの臨床パラメーターと関連していました。疾患マーカーおよびバイオマーカーとしての重要性や生理活性についてさらに研究する必要があると考えています。

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2021/05/06

アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインの資化性のために必要なBifidobacterium longum subsp. longumの新規糖質分解酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase

論文タイトル
Novel 3-O-α-d-Galactosyl-α-l-Arabinofuranosidase for the Assimilation of Gum Arabic Arabinogalactan Protein in Bifidobacterium longum subsp. Longum
論文タイトル(訳)
アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインの資化性のために必要なBifidobacterium longum subsp. longumの新規糖質分解酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase
DOI
10.1128/AEM.02690-20
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology May 2021; volume 87,issue 10
著者名(敬称略)
佐々木 優紀、藤田 清貴 他
所属
鹿児島大学農学部食料生命科学科 食品機能科学コース応用糖質化学研究室

抄訳

アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインはビフィズス菌B. longumの特定の菌株だけに利用される食物繊維であることが分かっていましたが、どのような仕組みで利用されているのか不明でした。私たちはアラビアガムの分解のために必要な鍵酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase(GAfase)を発見しました。GAfaseはアラビアガムの末端の二糖を切断する酵素です。この酵素によって切り出されたオリゴ糖を利用することでビフィズス菌が増えるだけではなく、本来アラビアガムの分解能力を持たないB. longumの増殖も促進することを明らかにしました。これは、GAfaseの作用によってアラビアガムの複雑な糖鎖構造の一部が分解され、他の酵素が作用しやすくなったためです。本研究は、アラビアガムの複雑な糖鎖構造を分解する能力が、ビフィズス菌の特定の菌株が持つ鍵酵素に依存したものであることを詳細に解析したものであり、この分解によって生ずる残渣が他の腸内細菌との共生関係にも影響していることを明らかにしたものです。

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2021/04/28

蛍光相関分光法 (FCS)を用いたタンパク質凝集体の検出

論文タイトル
Detection of Protein Aggregation using Fluorescence Correlation Spectroscopy
論文タイトル(訳)
蛍光相関分光法 (FCS)を用いたタンパク質凝集体の検出
DOI
10.3791/62576
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (170), e62576, doi:10.3791/62576 (2021)
著者名(敬称略)
北村 朗 他
所属
北海道大学 大学院先端生命科学研究院 細胞機能科学研究室

抄訳

タンパク質の凝集体は,筋萎縮性側索硬化症(ALS),アルツハイマー病(AD),パーキンソン病(PD),ハンチントン病(HD)など神経変性疾患における特徴である.可溶性あるいは拡散性のタンパク質のオリゴマーや凝集体を検出・解析するために,単一分子感度を有し,拡散速度や一粒子輝度を検出できる蛍光相関分光法(FCS)が用いられてきた.しかしながら,FCSを用いてタンパク質の凝集体を検出するための適切な手順やノウハウは,依然広く共有されているとは言えない.ここでは,凝集タンパク質であるALS関連TDP-43タンパク質の25kDa C末端断片 (TDP25) とスーパーオキシドディスムターゼ1 (SOD1) の拡散特性を,細胞破砕液,または生細胞中で解析するための標準的なFCS法の手順を示す.典型的な結果として,マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞で発現させた緑色蛍光タンパク質(GFP)標識TDP25の凝集体由来の高輝度粒子が,細胞破砕液の可溶性画分に含まれていた.また,GFPで標識したALSに関連変異型SOD1を生細胞内で測定すると遅い拡散速度を示した.このように本論では,FCSを用いてタンパク質凝集体をその拡散特性から検出する手順を紹介する.

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2021/04/28

結晶構造から明らかになったシゾロドプシンの内向きプロトン輸送機構

論文タイトル
Crystal structure of schizorhodopsin reveals mechanism of inward proton pumping
論文タイトル(訳)
結晶構造から明らかになったシゾロドプシンの内向きプロトン輸送機構
DOI
10.1073/pnas.2016328118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS April 6, 2021 118 (14) e2016328118
著者名(敬称略)
樋口 昌光、志甫谷 渉 他
所属
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻

抄訳

シゾロドプシン(SzR)は、真核生物の起源に最も近いアスガルドアーキアから発見されたロドプシンであり、水素イオンを細胞内へ運ぶ機能を持つ。アスガルドアーキアが真核生物へと変化する過程で、太陽光や酸素のある環境に順応するために、SzRによる水素イオンの取込みが関わっている可能性がある。しかし、SzRが水素イオンを、どの様にして効率的に細胞内に運ぶのか、そのメカニズムは不明だった。我々はX線結晶構造解析によりSzRの立体構造を決定した。SzR構造を他のロドプシンと比較することで、従来不明だったロドプシンの分子進化におけるSzRの位置づけを明らかにした。また、SzRは細胞内側の膜貫通領域が短く、水素イオンをタンパク質の細胞内側に放出しやすい構造をしており、細胞の外から取り込んだ水素イオンを細胞内側の溶媒へ直接放出するという、既知のロドプシンとは異なる水素イオンの輸送機構が明らかになった。

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2021/04/26

酢酸リンゲル液とレミマゾラムベシル酸塩の配合変化により静脈カテーテルが完全に閉塞した一例

論文タイトル
Incompatibility of remimazolam besylate with Ringer’s acetate infusion resulting in total occlusion of an intravenous catheter
論文タイトル(訳)
酢酸リンゲル液とレミマゾラムベシル酸塩の配合変化により静脈カテーテルが完全に閉塞した一例
DOI
10.1136/bcr-2021-241622
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 4 (2021)
著者名(敬称略)
松尾 光浩
所属
富山大学 学術研究部医学系 麻酔科学講座

抄訳

超短時間作用型のベンゾジアゼピン誘導体であるレミマゾラムベシル酸塩と輸液との配合変化は不明な点が多い。症例は65歳男性で,高位脛骨骨切り術を受けた。レミマゾラム溶液(5 mg/mL)を用いて全身麻酔を導入した後,酢酸リンゲル液(Physio140®)点滴に接続した点滴チューブの内腔が沈殿物で完全に閉塞されていることに気付いた。In vitroでレミマゾラム溶液(5 mg/mL)とPhysio140®溶液を混合すると、直ちに沈殿物が生成された。核磁気共鳴分析により,この沈殿物がレミマゾラムそのものであることが判明した。紫外分光光度計で調べたところ,レミマゾラム溶液に対するPhysio140®の比率が高い溶液では,pHの上昇とともにレミマゾラムの溶解度が著しく低下した。沈殿物の生成を避けるためには,レミマゾラム濃度と輸液のpHを考慮することが重要と考えられる。

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2021/04/22

Shewanella oneidensis MR-1株による電極上へのバイオフィルム形成を促進するジグアニル酸シクラーゼの同定

論文タイトル
Identification of a Diguanylate Cyclase That Facilitates Biofilm Formation on Electrodes by Shewanella oneidensis MR-1
論文タイトル(訳)
Shewanella oneidensis MR-1株による電極上へのバイオフィルム形成を促進するジグアニル酸シクラーゼの同定
DOI
10.1128/AEM.00201-21
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology May 2021; volume 87,issue 9
著者名(敬称略)
松元陽歩、高妻篤史 他
所属
東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室

抄訳

ジグアニル酸シクラーゼ(DGC)によって合成される環状ジグアノシン一リン酸(c-di-GMP)は、多くの細菌においてバイオフィルム形成の制御に関与するセカンドメッセンジャーとして機能している。これまでの研究により、Shewanella oneidensis MR-1株による電気化学活性バイオフィルム(EABF)の形成にもc-di-GMPが関与していることが示唆されていたが、このプロセスに関与するDGCの同定には至っていなかった。本研究では、SO_1646遺伝子(dgcS)にコードされるタンパク質(DgcS)がMR-1株において主要なDGCとして機能していることを明らかにした。まず、DgcSタンパク質を精製し、in vitroでの活性を測定した結果、DgcSがGTPからのc-di-GMP合成を触媒することが示された。また、dgcS破壊株(∆dgcS)では細胞内c-di-GMPレベルが野生株よりも低下しており、EABFの形成量と電気化学活性(電流生成量)も減少していた。以上の結果から、DgcSはMR-1株による電極上へのバイオフィルム形成において重要な役割を果たしていることが示された。

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2021/04/14

無石性胆嚢炎による閉塞性黄疸: “Mirizzi-like syndrome”

論文タイトル
Obstructive jaundice due to acute acalculous cholecystitis: ‘Mirizzi-like syndrome’
論文タイトル(訳)
無石性胆嚢炎による閉塞性黄疸: “Mirizzi-like syndrome”
DOI
10.1136/bcr-2020-239564
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 3 (2021)
著者名(敬称略)
坂本 貴志
所属
東京ベイ・浦安市川医療センター

抄訳

Mirizzi syndromeは胆嚢内に嵌頓した結石が総肝管の圧迫を引き起こす急性胆嚢炎で、胆嚢摘出術によって治療されるが、各タイプに応じて総胆管や肝胆管に追加の処置が行われる。無石胆嚢炎は、重症患者に見られる稀な胆嚢炎であり、胆嚢管は開通しており、胆石は確認されない. 無石性胆嚢炎は外因性閉塞性黄疸の原因となることが報告されているが、その病態は明らかになっておらず、最適な治療法は確立されていない. 本報告では,外因性閉塞性黄疸を伴う無石性胆嚢炎-”Mirrizi-like syndrome”-に対して経皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD)を行い、肝管狭窄が速やかに改善した症例を紹介する. 78歳女性, クモ膜下出血で入院中に, 腹痛と閉塞性黄疸を発症. CT検査では急性胆嚢炎の所見と肝内管の拡張が認められた。内視鏡的逆行性胆管造影(ERCP)では、腫大した胆嚢による圧迫で肝管狭窄が認められた. 総肝管には結石は見られず、胆嚢管は開存していた。閉塞性黄疸に対して,内視鏡的逆行性胆道ドレーンを留置し, 一方で無石性胆嚢炎に対して, PTGBDを行った. PTGBDの19日後に行われたERCPでは,肝管狭窄は改善していた。Mirizzi-like syndrome "を非手術で治療することは妥当であると思われる。

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2021/04/07

ヒト胃からのヘリコバクター・スイスの培養に成功
-ピロリ菌だけでなく、ヘリコバクター・スイスもヒト胃における病原細菌であることを証明-

論文タイトル
Isolation and characterization of Helicobacter suis from human stomach
論文タイトル(訳)
ヒト胃からのヘリコバクター・スイスの培養に成功
-ピロリ菌だけでなく、ヘリコバクター・スイスもヒト胃における病原細菌であることを証明-
DOI
10.1073/pnas.2026337118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 30, 2021 118 (13) e2026337118
著者名(敬称略)
林原絵美子、鈴木仁人、徳永健吾松井英則
所属
国立感染症研究所細菌第二部
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
杏林大学医学部総合医療学教室
北里大学・大村智記念研究所

抄訳

ヘリコバクター・スイスは豚を自然宿主とし、ヒト胃にも感染するが、ヒト胃からの分離培養の成功例はなく、その病原性には不明な点が多かった。本研究では胃マルトリンパ腫患者を含む複数の胃疾患患者からのヘリコバクター・スイスを人工培地で分離培養することに世界で初めて成功した。得られたヒト胃由来ヘリコバクター・スイスを用いたマウス感染実験により胃での病態発症を確認し、病態組織から菌の再分離にも成功したことから、コッホの原則に従い、ヘリコバクター・スイスがヒト胃における病原細菌であることが証明された。ヒト胃から分離されたヘリコバクター・スイス株のゲノムは豚由来株のゲノムに類似しており、豚に感染しているヘリコバクター・スイスがヒトにも病原性を有する人獣共通感染症の起因菌である可能性が強く示唆された。今後、ヘリコバクター・スイスの病態発症機構の解明や診断法の開発などが期待される。

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2021/04/06

自己免疫性肝疾患を合併したウイルス性肝疾患に対して二重濾過血漿交換療法で有効な早期ウイルス除去が奏功した症例

論文タイトル
Successful treatment of positive-sense RNA virus coinfection with autoimmune hepatitis using double filtration plasmapheresis
論文タイトル(訳)
自己免疫性肝疾患を合併したウイルス性肝疾患に対して二重濾過血漿交換療法で有効な早期ウイルス除去が奏功した症例
DOI
10.1136/bcr-2020-236984
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 3 (2021)
著者名(敬称略)
上村 博輝 寺井 崇二
所属
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野

抄訳

C型肝炎ウイルス(HCV)の治癒率は現在95%を超えます。インターフェロンフリーの直接作用型抗ウイルス剤が利用できるようになったことは、過去数十年の臨床医学分野において革新的な進歩で2020年度には関係者がノーベル医学生理学賞を受賞されています。 一方,多臓器に影響を及す重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を原因とするCoronavirus Disease 2019 (COVID-19)の治療戦略について有効性のあるものがまだ定まっていません。1本鎖プラスRNAウイルスはゲノム本体そのものがmRNAとして働き、ウイルス蛋白質を作り出します。細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製し、SARS-CoV-2、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス等が含まれます。このためC型肝炎の治療で得られた症例の知見は貴重です。 二重濾過血漿交換療法Double filtration plasmapheresis (DFPP)は、血漿成分フィルターを用いて高分子量物質を選択的に除去する方法です。DFPPは2008年から2015年頃までC型慢性肝炎ウイルス(HCV)の治療に日本国内では保険承認された治療でした。2次膜に平均孔径30nmをもつDFPP を用いた自己免疫性肝炎合併のC型慢性肝炎(粒子径:55–65nm)の治療成功症例について、早期のウイルス除去が証明できたこと、また本方法がSARS-CoV-2 (粒子径:80–220nm)に効果を持ち、 COVID-19 重症例において、サイトカインストームにも有効な治療であったことが世界的に報告されていることを引用文献として概説、DFPPの機序についての図解を付記した症例報告です。

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2021/03/23

副腎における脂肪酸合成およびステロイド合成に対するChrebp遺伝子欠失の効果

論文タイトル
Effects of ChREBP deficiency on adrenal lipogenesis and steroidogenesis
論文タイトル(訳)
副腎における脂肪酸合成およびステロイド合成に対するChrebp遺伝子欠失の効果
DOI
10.1530/JOE-20-0442
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 248 Issue 3 (317–324)
著者名(敬称略)
鷹尾 賢, 飯塚 勝美 他
所属
岐阜大学大学院医学系研究科 分子・構造学講座 内分泌代謝病態学分野

抄訳

ChREBPは肝における脂肪酸合成遺伝子の発現を調節する転写因子である。今回我々は副腎ChREBPの脂肪酸合成、ステロイド合成における役割を検討した。本研究では、マウス副腎においてChrebpが発現すること、Chrebp ホモ欠損マウス(Chrebp-/-)では脂肪酸合成低下の結果、細胞内脂肪滴の減少とともに副腎トリグリセリド含量が低下することを明らかにした。また、副腎では血液中から取り込んだコレステロールを利用して、コルチコステロンを合成する。Chrebp -/-では血中コレステロール濃度の低下が見られるため、副腎ステロイド合成・分泌能が低下すると考えた。しかし、コレステロール合成や取り込みを調節する転写因子Srebf2の発現増加により副腎コレステロール含量は不変であり、副腎コルチコステロン含量やコルチコステロン分泌能も不変であった。以上から、副腎ChREBPは脂肪酸合成を調節するものの、コルチコステロン合成・分泌能には影響しないことを明らかにした。

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2021/03/22

Luscan-Lumish症候群の機序として示唆された成長ホルモンシグナルの亢進

論文タイトル
A Case of Luscan-Lumish Syndrome: Possible Involvement of Enhanced GH Signaling
論文タイトル(訳)
Luscan-Lumish症候群の機序として示唆された成長ホルモンシグナルの亢進
DOI
10.1210/clinem/dgaa893
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.106 Issue3 (718–723)
著者名(敬称略)
隅田 健太郎, 高橋 裕 他
所属
奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座

抄訳

ヒストンメチル基転移酵素のSET domain-containing protein 2SETD2)遺伝子変異によって、過成長症候群の一つであるLuscan-Lumish症候群(LLS)が引き起こされるが、その機序は不明である。今回、過成長症候群をきたし下垂体腫瘍を認めなかった20歳男性において全エクソーム解析を行ったところ、新規のSETD2 de novo変異(c.236T> A、p.L79H)を同定しLLSと診断した。患者由来の皮膚線維芽細胞では、ヒストンのメチル化は変化していない一方で、成長ホルモン(GH)シグナル分子であるSTAT5bリン酸化・転写活性の増強、IGF-1発現の増加とともに増殖能が亢進していた。これらの結果から、LLSの新たな発症機序としてGHシグナルの亢進が過成長の原因である可能性が示唆された。またLLSは下垂体腫瘍を認めない巨人症において鑑別診断として考慮すべきである。

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2021/03/22

12α水酸化一次胆汁酸は肝臓鉄濃度を低下させる

論文タイトル
Primary 12α-Hydroxylated Bile Acids Lower Hepatic Iron Concentration in Rats
論文タイトル(訳)
12α水酸化一次胆汁酸は肝臓鉄濃度を低下させる
DOI
10.1093/jn/nxaa366
ジャーナル名
Journal of Nutrition
巻号
Journal of Nutrition Vol.151 Issue3 (523–530)
著者名(敬称略)
堀 将太, 石塚 敏 他
所属
北海道大学大学院農学研究院食品栄養学研究室

抄訳

必須微量元素の1つである鉄はヘモグロビン等の生命活動に必須な代謝酵素の構成因子として重要であるが、生体内の鉄濃度を調節する内因性因子の情報は限られている。本研究では、肥満や糖尿病等の代謝異常性疾患で増加する12α水酸化胆汁酸(12OH)が鉄代謝に及ぼす影響についてラットを用いて調べた。肝臓で合成される一次胆汁酸、かつ12OHとして知られるコール酸を飼料に添加すると、摂取鉄量や鉄の吸収率とは無関係に肝臓鉄濃度が低下した。肝臓鉄代謝に関わる因子の解析では、12OH濃度の上昇に伴い鉄運搬タンパクであるリポカリン2(LCN2)が血中で増加した。すなわち、12OHはLCN2を介して肝臓鉄を細胞外に輸送することで肝臓における鉄濃度を低下させる可能性が示された。腸内細菌による二次胆汁酸生成を抗生物質で抑制した場合でも、12OHは血中リポカリン2濃度の上昇および肝臓鉄濃度の低下を誘導した。これらのことは、肝臓で合成される12OHが新規の肝臓鉄濃度調節因子である可能性を初めて示した。

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2021/03/15

重症肺炎カニクイザルモデルを用いたH7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスに対するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とノイラミニダーゼ阻害薬の有効性評価

論文タイトル
Efficacy of a Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor and Neuraminidase Inhibitors against H7N9 Highly Pathogenic Avian Influenza Virus Causing Severe Viral Pneumonia in Cynomolgus Macaques
論文タイトル(訳)
重症肺炎カニクイザルモデルを用いたH7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスに対するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とノイラミニダーゼ阻害薬の有効性評価
DOI
10.1128/AAC.01825-20
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy March 2021; volume 65,issue 3
著者名(敬称略)
鈴木 紗織、伊藤 靖 他
所属
滋賀医科大学病理学講座疾患制御病態学部門

抄訳

H7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスが日本の空港検疫で押収されたカモ肉より分離された。このウイルス株のカニクイザルにおける病原性と抗ウイルス薬の有効性を解析した。このウイルス株をカニクイザルに感染させると発熱と高度の肺炎がみられ、またウイルスが気道で複製し、カニクイザルにおいて病原性を示すことが判明した。感染させたサルでは、サイトカイン反応が起きた。さらに血液中には免疫チェックポイント分子PD-1、TIGITを発現するTリンパ球が増加し、ウイルス排除反応を抑制する可能性が示唆された。このウイルス株を感染させたサルにキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬バロキサビルを投与すると、気道のウイルス量は薬剤を投与しないサルより低く、バロキサビルは有効であった。バロキサビルを投与されたサルではPD-1、TIGIT陽性Tリンパ球の割合は治療されないサルより低く、ウイルス排除反応の抑制が軽度であることが推測された。

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2021/03/10

アフリカツメガエルにおいてDNAの量は細胞核のサイズ制御に影響を与える

論文タイトル
DNA content contributes to nuclear size control in Xenopus laevis
論文タイトル(訳)
アフリカツメガエルにおいてDNAの量は細胞核のサイズ制御に影響を与える
DOI
10.1091/mbc.E20-02-0113
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 24(2631-2747)
著者名(敬称略)
平城 裕子, 原 裕貴 他
所属
山口大学 理学部 生物・化学科 進化細胞生物学研究室

抄訳

 真核生物の細胞は、生物進化や細胞周期により生じるDNA量の変化に適応するために、DNA機能の場である細胞核(以降「核」とする)のサイズを調節する。しかし、「DNAの量」により核のサイズを制御する仕組み理解されていなかった。そこで我々は、アフリカツメガエル卵抽出液の無細胞再構成系を利用し、実験的に核内DNAやクロマチンの物理特性を操作することで、DNAが核サイズ制御に与える影響を評価した。まずDNA複製の薬剤阻害、ならびに異なるゲノムサイズを有する異生物種のゲノムDNAを核の材料として用いることで、核再構成時のDNA量を実験的に変化させた。その結果、核のサイズ増大速度と最大サイズがDNA量依存的に変化する特徴を発見した。さらに、核内クロマチンの凝縮度や核膜とクロマチンの相互作用の強度を操作すると、核のサイズ増大速度が変化することを見出した。以上の結果より、DNA配列そのものやコードする遺伝子とは無関係に、ゲノムの量やクロマチンの凝縮度などの核内DNAの物理特性依存的に核サイズを制御する新規モデルを提案する。

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2021/03/08

IFT-A複合体とIFT-B複合体の協同による繊毛内逆行性タンパク質輸送とGタンパク質共役受容体の繊毛内移行の調節

論文タイトル
Cooperation of the IFT-A complex with the IFT-B complex is required for ciliary retrograde protein trafficking and GPCR import
論文タイトル(訳)
IFT-A複合体とIFT-B複合体の協同による繊毛内逆行性タンパク質輸送とGタンパク質共役受容体の繊毛内移行の調節
DOI
10.1091/mbc.E20-08-0556
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 1(45-56)
著者名(敬称略)
古林 拓也, 加藤 洋平, 中山 和久 他
所属
京都大学大学院薬学研究科生体情報制御学分野

抄訳

 繊毛内タンパク質輸送装置(IFT装置)は、繊毛タンパク質の順行輸送と逆行輸送に加えて、繊毛ゲートを越えるタンパク質の繊毛内への移行および繊毛外への排出も仲介している。IFT装置は、IFT-A複合体とIFT-B複合体という2つのマルチサブユニット複合体から成るが、この2つの複合体がどのように協同して繊毛内タンパク質輸送を仲介しているのかについてはほとんどわかっていない。本研究では、IFT-A複合体のIFT144–IFT122とIFT-B複合体のIFT88–IFT52が、複合体同士の相互作用を媒介していることを発見した。IFT88ノックアウト(KO)細胞にIFT-A複合体との相互作用が減弱したIFT88(Δα)変異体を発現させると、IFT88-KO細胞で見られた繊毛形成不全が部分的に回復した。しかし、IFT88(Δα)発現細胞では、IFT-A複合体の繊毛内への侵入障害、IFT-Bタンパク質の繊毛先端への異常蓄積、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の繊毛内移行障害が見られた。さらに、繊毛先端部に過剰に蓄積したIFTタンパク質は細胞外小胞として放出されていた。これらの表現型はIFT144-KO細胞の表現型に類似していた。以上の観察結果から、IFT-A複合体はIFT-B複合体と協同することによって、繊毛先端からの逆行輸送だけでなく、GPCRの繊毛内移行も仲介していることが明らかになった。

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2021/03/08

小腸の絨毛構造は上皮細胞を均一に脱落させる

論文タイトル
Intestinal villus structure contributes to even shedding of epithelial cells
論文タイトル(訳)
小腸の絨毛構造は上皮細胞を均一に脱落させる
DOI
10.1016/j.bpj.2021.01.003
ジャーナル名
Biophysical Journal
巻号
Biophysical Journal Vol.120 Issue 4 (February 16, 2021)
著者名(敬称略)
甲斐 悠斗
所属
九州大学大学院医学研究院 系統解剖学分野

抄訳

小腸粘膜には、絨毛と呼ばれる上皮細胞に覆われた無数の突起が存在し、それぞれの絨毛は陰窩と呼ばれるくぼみで囲まれている。 腸上皮細胞の代謝回転(ターンオーバー)では、陰窩内で増殖した細胞が陰窩から絨毛へと移動し、絨毛を登り、最終的に絨毛の 頂点から腸管内腔に脱落する。本研究では、絨毛がターンオーバーに与える影響を理論的に検討し、絨毛がターンオーバーを厳密 に制御していることを提案した。絨毛の指のような形状は、細胞が増殖する陰窩から細胞が脱落する絨毛頂点を遠ざけることにより、 細胞が早期に脱落したり、上皮内に長期間滞在したりしないようにしていることを確率モデルやシミュレーションによって示した。 この結果は、脱落する細胞齢をおよそ一定に維持することにより、絨毛が小腸の恒常性維持に寄与していることを示唆している。

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2021/03/04

敗血症性DIC患者に対する低用量IgGの有用性の研究

論文タイトル
Study of usefulness of low-dose IgG for patients with septic disseminated intravascular coagulation
論文タイトル(訳)
敗血症性DIC患者に対する低用量IgGの有用性の研究
DOI
10.2217/bmm-2020-0204
ジャーナル名
Biomarkers in Medicine
巻号
Biomarkers in Medicine Vol.14, No.13 (2020)
著者名(敬称略)
高橋 学 他
所属
岩手医科大学 救急・災害・総合医学講座 岩手県高度救命救急センター

抄訳

背景:敗血症患者を対象とした大規模な多施設ランダム化比較試験では、静脈内免疫グロブリンG(IVIG)による予後の改善効果は証明されていません。ただし、敗血症性播種性血管内凝固症候群(DIC)の場合の有効性は十分に研究されていません。 結果/方法論:敗血症性DIC患者80例の重症度スコアと28日生存率に対するIVIGの効果を後方視的に評価しました。感染関連マーカー、凝固関連マーカー、重症度スコア、および28日生存率の変化を、IVIG治療群と未治療群の間で比較しました。 考察/結論:IVIG治療は、28日死亡率は低下させたものの、有意差は認めませんでした。しかし臓器不全評価スコアとDICスコアを有意に減少させ、血小板数を有意に増加させました。

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2021/03/04

単回使用滅菌手術用手袋のエンドトキシン汚染

論文タイトル
Endotoxin contamination of single-use sterile surgical gloves
論文タイトル(訳)
単回使用滅菌手術用手袋のエンドトキシン汚染
DOI
10.2217/fmb-2020-0153
ジャーナル名
Future Microbiology
巻号
Future Microbiology Vol.15, No.15 (2020)
著者名(敬称略)
高橋 学 他
所属
岩手医科大学 救急・災害・総合医学講座 岩手県高度救命救急センター

抄訳

体内に挿入される医療用のインプラントやカテーテルには、厳格なエンドトキシン規格値が設定されています。しかし単回使用滅菌手術用手袋には標準的な規格値は設定されていません。そこで日本国内で販売されている4種類の手袋を生理食塩水に浸し、そのエンドトキシンレベルを測定しました。その結果、4種類の手袋のうち3種類からエンドトキシンを検出しました。 また、エンドトキシンの汚染が強度であった手袋では陰イオン界面活性剤の混入も認めました。さらにエンドトキシンの汚染が確認された手袋を健常人から採取した全血に浸しサイトカインの値を検討したところ、これらの手袋でサイトカインの上昇を確認しました。検出されたエンドトキシンが手術中に体内に入る程度については議論の余地がありますが、単回使用滅菌手術用手袋には厳密なエンドトキシンの規格値を確立する必要があると考えます。

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2021/03/04

加温したデキストランを用いて作成した多白血球検体によるエンドトキシン測定の臨床応用の検討

論文タイトル
A dextran-based warming method for preparing leukocyte-rich plasma and its clinical application for endotoxin assay
論文タイトル(訳)
加温したデキストランを用いて作成した多白血球検体によるエンドトキシン測定の臨床応用の検討
DOI
10.2144/btn-2020-0005
ジャーナル名
BioTechniques
巻号
BioTechniques Vol.68, No.6 (2020)
著者名(敬称略)
高橋 学 他
所属
岩手医科大学 救急・災害・総合医学講座 岩手県高度救命救急センター

抄訳

ヒトの血液中のエンドトキシン測定では比濁時間分析法が保険収載されていますが、その精度の低さが問題視されています。エンドトキシンは血液忠では白血球に結合したり取り込まれて存在していることが多く、我々は測定検体に白血球の豊富な検体を用いています。今回この白血球の豊富な検体を作成するにあたり、デキストランを用いた方法を開発し、さらに検体を得るための最適温度を見つけるために、37°Cおよび0°Cで調製したサンプルを使用して測定結果を比較しました。検体の分離時間は、温度が0°Cよりも37°Cの方が大幅に短縮されることが分かりました。またエンドトキシンの測定値は、2つの温度で強い相関関係を示し、37°Cで作成された検体の多くは0°Cでの測定値を超えていました。グラム陰性菌感染の診断精度は、37°Cで作成された方が優れており、感度と特異度はそれぞれ96.8%と100%でした。

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