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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2020/01/10

ユリアーキアPyrococcus furiosus由来、エンドヌクレアーゼQの基質認識

論文タイトル
Molecular Basis of Substrate Recognition of Endonuclease Q from the Euryarchaeon Pyrococcus furiosus
論文タイトル(訳)
ユリアーキアPyrococcus furiosus由来、エンドヌクレアーゼQの基質認識
DOI
10.1128/JB.00542-19
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Volume 202, Issue 2
著者名(敬称略)
白石 都 他
所属
大阪大学 大学院基礎工学研究科

抄訳

エンドヌクレアーゼQ (EndoQ) は2015年に発見されたDNAエンドヌクレーゼである。EndoQはDNA中のウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、脱塩基部位を認識し、その5′側のDNA主鎖にニックを入れる。このためEndoQは一部のアーキア、真正細菌においてDNA修復に関与すると考えられているが、EndoQの基質認識機構については未だに理解が乏しい。我々は生化学的手法を用いて、EndoQの基質特異性の範囲とその選択性、損傷塩基の対塩基による活性への影響を調べた。これらの結果より、P. furiosus由来のEndoQは変異原性の損傷塩基に特徴的なイミド構造を認識し、損傷塩基の認識は自然発生的な塩基のフリップアウトが重要であることが示唆された。さらに、上述の損傷塩基に加え、新たにEndoQが5,6-ジヒドロウラシル、5-ヒドロキシウラシル、5-ヒドロキシシトシンに対して活性を示すことが明らかとなった。

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2019/12/23

嫌気性繊毛虫とそのヒドロゲノソームに付随する2つの細胞内共生体、ホロスポラ類縁α- Proteobacteriaとメタン生成アーキアからなる3者間共生系

論文タイトル
Tripartite Symbiosis of an Anaerobic Scuticociliate with Two Hydrogenosome-Associated Endosymbionts, a Holospora-Related Alphaproteobacterium and a Methanogenic Archaeon
論文タイトル(訳)
嫌気性繊毛虫とそのヒドロゲノソームに付随する2つの細胞内共生体、ホロスポラ類縁α- Proteobacteriaとメタン生成アーキアからなる3者間共生系
DOI
10.1128/AEM.00854-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
竹下 和貴、新里 尚也
所属
琉球大学・熱帯生物圏研究センター

抄訳

嫌気性繊毛虫の多くは細胞内にメタン生成アーキアとバクテリアを細胞内共生させているが、培養による維持が難しいためにその生理や生態について解析が進んでいない。本研究では、排水処理施設より嫌気性繊毛虫GW7株の安定培養株を確立し、電子顕微鏡観察とドメイン特異的な蛍光 is situ ハイブリダイゼーション(FISH)により、GW7株が細胞質内にアーキアとバクテリアの細胞内共生体を保持していることを明らかにした。これらの細胞内共生体は、嫌気環境下で水素とATPを生産する細胞内小器官であるヒドロゲノソームにそれぞれ付随しており、16S rRNA遺伝子のクローン解析や共生体特異的なFISHにより、細胞内共生アーキアはMethanoregula属のメタン生成アーキアであり、これは以前にGW7株とは系統的に離れたMetopus属繊毛虫の細胞内共生体として報告されていたものに近縁であった。細胞内共生バクテリアは、様々な繊毛虫の細胞内共生体が含まれるα-ProteobacteriaのHolosporaceae科に属していた。本研究では、この細胞内共生体について、Candidatus Hydrogenosomobacter endosymbioticusとして新属、新種提案を行った。

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2019/12/20

真核生物由来のピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素の触媒ドメインとシトクロムドメインの結晶構造解析

論文タイトル
Crystal Structure of the Catalytic and Cytochrome b Domains in a Eukaryotic Pyrroloquinoline Quinone-Dependent Dehydrogenase
論文タイトル(訳)
真核生物由来のピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素の触媒ドメインとシトクロムドメインの結晶構造解析
DOI
10.1128/AEM.01692-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
武田 康太、中村 暢文 他
所属
東京農工大学 工学部生命工学科

抄訳

1960年代のピロロキノリンキノン(PQQ)の発見以来、多くのPQQ依存性酵素が原核生物で見出されてきた。一方で、真核生物におけるPQQ依存性酵素の存在は長らく疑問視されていたが、2014年に真核生物で初となる、担子菌Coprinopsis cinerea由来のPQQ依存性ピラノース脱水素酵素を我々が報告した。本酵素はPQQドメインに加え、シトクロムドメインとセルロース結合性ドメインを有したキノヘモプロテインである。本研究ではPQQドメインとシトクロムドメインの立体構造を決定することに成功し、構造学的な証拠をもって、このピラノース脱水素酵素の補酵素がPQQであることを証明した。アミノ酸配列の相同性が低いにもかかわらず、既知のPQQ依存性酵素と同じく6枚羽根のスーパーバレル構造であった。シトクロムドメインでは、ヘムプロピオン酸近傍の正電荷を有するアルギニン残基の存在が本酵素の特徴であった。

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2019/12/18

IncP-9群分解プラスミドの接合伝達には未解析だったmpfK遺伝子が必要; mpfKホモログは様々なMPFT型プラスミドに良く保存されている

論文タイトル
Conjugative transfer of IncP-9 catabolic plasmids requires a previously uncharacterized gene, mpfK, whose homologs are conserved in various MPFT-type plasmids
論文タイトル(訳)
IncP-9群分解プラスミドの接合伝達には未解析だったmpfK遺伝子が必要; mpfKホモログは様々なMPFT型プラスミドに良く保存されている
DOI
10.1128/AEM.01850-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
岸田 康平・津田 雅孝 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科

抄訳

細菌プラスミドの接合伝達は、プラスミド支配で供与菌細胞表層に構築される4型分泌装置(T4SS)を介して起きる。ただ、接合特異的T4SS形成に必須な最小遺伝子セットが実験的に提示されたプラスミドは数例に限定される。我々は、ナフタレン分解プラスミドNAH7の接合伝達に、T4SS形成のいわゆる最小遺伝子セットに加え、未解析だったmpfKの必須性を見出した。MpfKはペリプラズムに局在し、MpfK内のシステイン残基間ジスルフィド結合がプラスミドの効率的伝達に必要だった。mpfKホモログは多様な不和合性群由来のプラスミド上に存在するものの、いずれのプラスミドともMPFT型のT4SSを有していた。当該プラスミドのうち、NAH7と同一のIncP-9群pWW0のmpfKホモログは自身の接合伝達に必要だったが、他不和合性群のR388やR751のホモログは各々の接合伝達に不必要だった。一方で、後3者のmpfKホモログはいずれもNAH7 mpfK変異体の接合伝達欠損を相補可能という特色があった。

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2019/12/16

2014年から2016年の間に本邦の82医療施設で分離されたClostridioides difficileの薬剤感受性および全ゲノム解析による特徴付け

論文タイトル
Antimicrobial Susceptibility and Molecular Characterization Using Whole-Genome Sequencing of Clostridioides difficile Collected in 82 Hospitals in Japan between 2014 and 2016
論文タイトル(訳)
2014年から2016年の間に本邦の82医療施設で分離されたClostridioides difficileの薬剤感受性および全ゲノム解析による特徴付け
DOI
10.1128/AAC.01259-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 12
著者名(敬称略)
青木 弘太郎 他
所属
東邦大学医学部 微生物・感染症学講座

抄訳

全国の医療施設で実施されたバンコマイシン (VCM) 対照二重盲検無作為化並行群間比較フィダキソマイシン (FDX) 第三相試験に参加した成人Clostridioides difficile感染症 (CDI) 患者から治療前後に分離されたC. difficileについて、薬剤感受性測定ならびに全ゲノム解析による分子生物学的特徴づけを行った。全285株のC. difficileが82施設の患者から分離され、うち188株が治療前に分離された。さらにそのうち87株がFDX、101株がVCM治療群だった。治療前に分離された菌株はFDXに低感受性あるいはバンコマイシンに耐性を示さなかった。それらの菌株は32のsequence types (STs)に分けられ、最も高率に検出されたのはST17 (n=61 [32.4%])であり、次いで ST8 (n=26 [13.8%])、ST2 (n=21 [11.2%])だった. コアゲノム分子系統解析の結果、各施設におけるアウトブレイク発生は否定的だった。トキシンA+B+バイナリトキシン-の遺伝子型の菌株が最も多かった (n=149 [79.3%])。FDX治療群87症例のうち6症例でFDX低感受性株が分離された。それら6症例の治療前後に分離された菌株のFDX標的酵素アミノ酸配列を比較した結果、FDX感受性低下に寄与する既知の変異RpoB Val1143Leu/Gly/AspあるいはRpoC Arg89Glyおよび未報告の変異RpoB Gln1149ProあるいはRpoC Arg326Cysが検出された。アリル組換え実験は実施しなかった。本邦のFDX治験参加患者において、FDX使用前にはFDX低感受性株は分離されなかったが、同薬剤の使用後にはFDX低感受性変異株が検出された。

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2019/11/28

健常および肥満の肝G6pcレポーターマウスにおけるSGLT2阻害剤の単回および長期投与に対する肝糖新生応答

論文タイトル
Hepatic Gluconeogenic Response to Single and Long-Term SGLT2 Inhibition in Lean/Obese Male Hepatic G6pc-Reporter Mice
論文タイトル(訳)
健常および肥満の肝G6pcレポーターマウスにおけるSGLT2阻害剤の単回および長期投与に対する肝糖新生応答
DOI
10.1210/en.2019-00422
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.12 (2811–2824)
著者名(敬称略)
稲葉 有香、橋内 咲実 他
所属
金沢大学新学術創成研究機構栄養・代謝研究ユニット

抄訳

 ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤(SGLT2i)は、2型糖尿病患者の血糖値を持続的に低下させる。一方で、肝糖新生酵素遺伝子発現・肝糖産生を増加させることが報告されている。本研究は、肝糖新生応答に対するSGLT2iの作用、及びそのメカニズムを解明することを目的とした。
 肝糖新生応答の経時的モニタリングを行うため、肝糖新生酵素遺伝子であるG6pcのプロモーター制御により、分泌型ルシフェラーゼ(GLuc)が肝特異的に発現するレポーターマウスを作出した。本レポーターマウスに対し、SGLT2iの単回または長期投与を行い、肝糖新生応答を検討した。健常マウスへの単回投与は、血糖値・インスリンを低下させ、GLuc活性を上昇させた。自由摂餌下で、肥満マウスのGLuc活性は、健常時の約10倍に増強した。肥満マウスへの単回投与は、血糖値・インスリン値を低下させたが、GLuc活性には影響しなかった。健常マウスで認められた、インスリンの低下に伴う肝Aktリン酸化の減弱が、肥満マウスでは認められなかった。健常マウスへのSGLT2i長期投与は、GLuc活性を上昇させたが、肥満マウスでは、投与開始後3週間からGLuc活性を減少させた。この時、肥満マウスのSGLT2i群では、肝Aktリン酸化が、対照と比較し増強した。
  本研究により、1)健常マウスへのSGLT2iの単回投与による肝糖新生応答の増加が、肥満マウスでは認められないこと、2)肥満マウスへの長期投与は、インスリンシグナル伝達障害を改善させ、肥満誘導性の肝糖新生応答の増加を軽減させること、を明らかにした。

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2019/11/25

日本人集団におけるビタミン摂取量,ABCA1遺伝子のDNAメチル化率,脂質指標との関連

論文タイトル
Associations between dietary vitamin intake, ABCA1 gene promoter DNA methylation, and lipid profiles in a Japanese population
論文タイトル(訳)
日本人集団におけるビタミン摂取量,ABCA1遺伝子のDNAメチル化率,脂質指標との関連
DOI
10.1093/ajcn/nqz181
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.110 Issue 5
著者名(敬称略)
藤井 亮輔、鈴木 康司 他
所属
藤田医科大学 医療科学部 臨床検査学科

抄訳

 本研究では、HDLコレステロールの生成に重要な役割を果たしているATP-binding cassette protein A1(ABCA1)という分子に注目した。近年の研究によって、ABCA1遺伝子のDNAのメチル化によって血清HDLコレステロール値が低下し、循環器疾患を発症していることは明らかになっていた。その一方で、どのような生活習慣によってABCA1のDNAメチル化が変化するか、はそれほど明らかになっていなかった。  そこで、ABCA1 DNAメチル化を変化させる生活習慣として、野菜の摂取とりわけビタミン摂取量に着目した。これらの摂取量とABCA1 DNAメチル化率との関連、さらにそれを介したHDLコレステロール値との関連を約230名の日本人集団を対象として媒介分析によって検討した。その結果、ビタミンCの摂取量が多い人は、ABCA1 DNAメチル化低値を介して、血清HDLコレステロール値が有意に高いということが明らかになった。今回の研究成果は、ビタミンCの循環器疾患に対する予防的な効果をABCA1のDNAメチル化が媒介している可能性を示唆するものであり、一般的な日本人集団においての循環器疾患予防について新たな分子メカニズムとなり得ると考えている。

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2019/11/22

ウイルスポリメラーゼであるPB1のTyr82残基に変異を導入した組換えインフルエンザウイルスは、Mutator株(高頻度変異導入株)として機能する

論文タイトル
Tyr82 Amino Acid Mutation in PB1 Polymerase Induces an Influenza Virus Mutator Phenotype
論文タイトル(訳)
ウイルスポリメラーゼであるPB1のTyr82残基に変異を導入した組換えインフルエンザウイルスは、Mutator株(高頻度変異導入株)として機能する
DOI
10.1128/JVI.00834-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 93, Issue 22
著者名(敬称略)
内藤 忠相 他
所属
川崎医科大学 微生物学教室

抄訳

 インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節化された1本鎖RNAであり、ウイルス由来RNAポリメラーゼであるPB1蛋白質(Polymerase Basic Protein 1)によって複製されるが、新規合成されたRNAゲノム内には1万塩基あたり約1個の頻度で変異が生じる。
 著者らは、PB1ポリメラーゼを構成するアミノ酸の中で、82番目のTyr残基がゲノム複製忠実度の制御に重要であることを明らかにした。具体的には、インフルエンザウイルス実験室株(PR8株:A/Puerto Rico/8/1934/H1N1株)を用いて、PB1のTyr82残基をCys残基に置換した組換えウイルス(PR8-PB1-Y82C株)を作出して変異導入効率を算出した結果、PR8野生株より約2倍の頻度で複製エラーが起きやすいことがわかった。このような組換えPB1-Y82Cウイルスを高頻度変異導入株(Mutator株)として利用することで、実験室内においてウイルス進化速度を加速させることが可能となり、将来的に市中流行株として出現の可能性がある“抗原変異株”や“抗ウイルス薬耐性株”を先回りして予測するシステムの開発が期待できる。

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2019/11/19

小胞体膜タンパク質複合体はロドプシンの後続膜貫通ヘリックスの挿入に必要である

論文タイトル
ER membrane protein complex is required for the insertions of late-synthesized transmembrane helices of Rh1 in Drosophila photoreceptors
論文タイトル(訳)
小胞体膜タンパク質複合体はロドプシンの後続膜貫通ヘリックスの挿入に必要である
DOI
10.1091/mbc.E19-08-0434
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 30, No 23
著者名(敬称略)
平松 直樹、佐藤 卓至 他
所属
広島大学 総合科学部 総合科学研究科 人間科学部門

抄訳

  ER膜上のリボソームにより合成される複数回膜貫通型タンパク質は、翻訳と同時にトランスロコンによりER膜に挿入され、適切に折りたたまれ機能的なタンパク質となるが、その挿入・折りたたみの過程はよく分かっていない。私達は、小胞体膜タンパク質複合体(EMC)がロドプシンを含む複数膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質の生合成に必要であり、その欠損が網膜変性を引き起こすことを報告していた(Satoh et al., 2015 eLife)。本研究では、EMCの機能を詳細に解析し、EMCがロドプシンの生合成とはじめの3つのヘリックスの挿入には必要がないが、それにひき続いて合成されるヘリックスの挿入に必要であることを示した。この結果は、EMCが複数膜貫通タンパク質の膜への挿入過程において、トランスロコンからの離脱が困難な膜貫通ヘリックスを認識し離脱を促進することによって、後方のヘリックスにトランスロコンを開放し、適切に挿入が行われることを可能にしていることを示している。

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2019/11/19

バンコマイシン感受性腸球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌によるマウス眼内炎に対するバクテリオファージ硝子体投与の治療効果

論文タイトル
Therapeutic Effects of Intravitreously Administered Bacteriophage in a Mouse Model of Endophthalmitis Caused by Vancomycin-Sensitive or -Resistant Enterococcus faecalis
論文タイトル(訳)
バンコマイシン感受性腸球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌によるマウス眼内炎に対するバクテリオファージ硝子体投与の治療効果
DOI
10.1128/AAC.01088-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 11
著者名(敬称略)
岸本 達真、福田 憲 他
所属
高知大学医学部眼科学講座

抄訳

  内眼手術後の腸球菌性眼内炎は,進行が早く、視力予後が不良な重篤な疾患である。またバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による術後眼内炎も増加している。バクテリオファージは細菌特異的に感染し溶菌させるウイルスである。我々は、マウス腸球菌眼内炎モデルに対しファージ硝子体投与の治療効果について検討した。
  バンコマイシン感受性腸球菌あるいはVREを硝子体に投与し眼内炎を誘導すると、24時間後には眼内炎が生じ,眼底は出血や硝子体混濁で透見不能となり、網膜電図での網膜機能は消失し、病理学的検討では網膜剥離を認めた。感染6時間後にファージを硝子体に投与すると,臨床スコア,生細菌数すべて有意に低下し、病理学的に網膜構造は保たれ、網膜電図でも網膜機能は維持されていた。
  ファージの硝子体投与は,薬剤感受性あるいは耐性に関わらずマウス眼内炎に対する治療効果があり,抗菌薬非依存性の新規治療法となる可能性が示唆された。

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2019/11/18

基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子の環境リザーバーとしての流入下水:キメラ型β-ラクタマーゼ CTX-M-64およびCTX-M-123の検出

論文タイトル
Wastewater as a Probable Environmental Reservoir of Extended-Spectrum-β-Lactamase Genes: Detection of Chimeric β-Lactamases CTX-M-64 and CTX-M-123
論文タイトル(訳)
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子の環境リザーバーとしての流入下水:キメラ型β-ラクタマーゼ CTX-M-64およびCTX-M-123の検出
DOI
10.1128/AEM.01740-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 22
著者名(敬称略)
田中 隼斗、長野 則之 他
所属
信州大学大学院 医学系研究科 保健学専攻

抄訳

国内における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌およびESBL遺伝子拡散における水系環境の役割はほとんど知られていない。我々は長野県内の4箇所の下水処理場より採取した流入下水の実態調査の目的で、ESBL産生Escherichia coliの検出、薬剤耐性遺伝子の同定、一部の株のNGS解析などを行った。ESBL産生E. coli 50株は多様なST型に属していたが、主にblaCTX-M-15blaCTX-M-14blaCTX-M-27などの臨床上重要なESBL遺伝子を保有していた。特に全施設からヒト腸管外感染症に関連するB2-ST131クローンが分離されたこと、さらに、国内起源のヒト、食肉、畜産動物、環境由来株からこれまでに分離報告がないキメラ型ESBL遺伝子blaCTX-M-64およびblaCTX-M-123が検出されたことが注目された。NGS解析によりblaCTX-M-64保有E. coliではISEcp1介在性のblaCTX-M-64の染色体への転移が確認された。本研究からヒト臨床上重要な流行クローンやキメラ型ESBL産生株が流入下水中に存在していることが判明し、公衆衛生上重要な問題を提起している。

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2019/11/18

国内の下水処理施設流入下水に由来する家禽病原性大腸菌関連病原遺伝子保有Escherichia coliによるプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1の獲得

論文タイトル
Acquisition of mcr-1 and Cocarriage of Virulence Genes in Avian Pathogenic Escherichia coli Isolates from Municipal Wastewater Influents in Japan
論文タイトル(訳)
国内の下水処理施設流入下水に由来する家禽病原性大腸菌関連病原遺伝子保有Escherichia coliによるプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1の獲得
DOI
10.1128/AEM.01661-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 22
著者名(敬称略)
林 航、長野 則之 他
所属
信州大学大学院 総合医理工学研究科 医学系専攻

抄訳

コリスチン(CL)は多剤耐性グラム陰性桿菌感染症の最後の砦的治療薬であるが, プラスミド性CL耐性遺伝子mcrの拡散が世界的な問題となっている。mcrのリザーバーとして家畜が注目されているが, 国内の水系環境におけるmcrの実態は不明である。本研究では長野県内の下水処理場3施設の流入下水より検出されたCL耐性E. coli全7株を対象に, NGS解析を行った。その結果, 全株からmcr-1が認められ, 5株でIncX4プラスミド上に, 2株でIncI2プラスミド上に担われていた。これらのプラスミド全塩基配列は, 国内や中国をはじめとする海外で検出されたヒト臨床材料及び家畜由来CL耐性E. coliが保有するプラスミド全塩基配列と完全一致又は高い相同性を示した。さらに7株中5株がコリシンを含む家禽病原性大腸菌/新生児髄膜炎起因大腸菌関連病原遺伝子を同時に保有していた。そのうち4株でこれらがIncF typeのColVプラスミドに担われていたことが注目された。近年の異常気象による豪雨で地上への下水の溢水が頻繁化している。IncX4及びIncI2プラスミドはmcrの世界的な拡散に関与しており, 市中における薬剤耐性菌の拡散リスクの観点から水系環境の監視の重要性が示唆された。

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2019/11/18

もやもや病患者におけるベイズ推定法を用いた脳灌流MRIの脳血流量評価: 15OガスPETとSVD法との比較

論文タイトル
Bayesian Estimation of CBF Measured by DSC-MRI in Patients with Moyamoya Disease: Comparison with 15O-Gas PET and Singular Value Decomposition
論文タイトル(訳)
もやもや病患者におけるベイズ推定法を用いた脳灌流MRIの脳血流量評価: 15OガスPETとSVD法との比較
DOI
10.3174/ajnr.A6248
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 40, No. 11 (1894-1900)
著者名(敬称略)
原 祥子 他
所属
東京医科歯科大学 脳神経外科

抄訳

【目的と背景】Singular value decomposition (SVD)法による脳潅流MRI(DSC)解析では、もやもや病患者の脳血流量(CBF)は不正確になることが知られている。ベイズ推定法によるDSC解析(ベイズ法)は最近考案され、平均通過時間(MTT)や脳血液量(CBV)を従来のSVD法より正確に算出可能と報告されている。本研究の目的は、もやもや病患者におけるベイズ法のDSC-CBFを、gold standardである15Oガスを用いたPET、および従来のSVD法と比較し、その有用性を検討することである。
【対象と方法】60日以内にDSC-MRIと15OガスPETを施行した19名のもやもや病患者(女性10名、22-52歳)を後方視的に解析した。DSCを3つのSVD法(standardと2つの block-circulant)およびベイズ法で解析し、CBFマップを作製した。DSC-MRIのCBFマップとPETのCBFを比較し、定性的・定量的評価を行った。
【結果】定性的な視覚評価において、ベイズ法のCBFはPETのCBFの低下をよく反映し(感度62.5%, 特異度100%, 陽性的中率100%, 陰性的中率78.6%)、SVD法(2つのblock-circulant)より有意に優れていた(特異度以外P < .03)。定量的評価において、ベイズ法のCBFとPETのCBFの絶対値の相関は3つのSVD法と同程度で(ρ = 0.46, P < .001)、ベイズ法のCBFはPETのCBFを過大評価した(平均+47.28 mL/min/100 g)。しかし、小脳比の相関をみると、ベイズ法のCBFはPETのCBFをよく反映しており(ρ = 0.56, P < .001)、3つのSVD法より有意に優れていた (P < .02)。
【結語】もやもや病患者において、ベイズ法によるDSC-CBF解析は、従来のSVD法よりも定性的・定量的に優れていた。

 

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2019/11/18

ヒートショックプロテイン90(HSP90)は風疹ウイルスp150タンパク質の機能性を担保して、ゲノム複製を支援する。

論文タイトル
Heat Shock Protein 90 Ensures the Integrity of Rubella Virus p150 Protein and Supports Viral Replication
論文タイトル(訳)
ヒートショックプロテイン90(HSP90)は風疹ウイルスp150タンパク質の機能性を担保して、ゲノム複製を支援する。
DOI
10.1128/JVI.01142-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 93, Issue 22
著者名(敬称略)
坂田 真史 他
所属
国立感染症研究所 ウイルス第三部 第二室

抄訳

 風疹ウイルス感染細胞には、ゲノム複製を担う2種の非構造タンパク質、p150とp90が発現する。これらウイルスタンパク質は宿主細胞の様々な因子を利用して、ゲノム複製を行なっていることが予想される。本研究では、宿主細胞のタンパク質恒常性維持を担う分子シャペロンHSP90と非構造タンパク質の関連性を解析した。
 p150とp90は、前駆体ポリプロテインp200がp150領域に位置するウイルスプロテアーゼによって開裂されることにより生成される。この開裂は、ゲノム複製の進行に必須である。我々は、種々の分子生物学的手法を用いて、HSP90がp150領域と相互作用して開裂に関与すること、HSP90のシャペロン活性が開裂後のp150の安定性に寄与することを明らかにした。本知見より、HSP90とp150の相互作用がゲノム複製に重要であることが示唆された。

 

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2019/11/15

GATA2とPU.1は異なる分子機序によってマウス高親和性IgE受容体ベータサブユニット遺伝子(Ms4a2)の発現を制御する

論文タイトル
GATA2 and PU.1 Collaborate To Activate the Expression of the Mouse Ms4a2 Gene, Encoding FcεRIβ, through Distinct Mechanisms
論文タイトル(訳)
GATA2とPU.1は異なる分子機序によってマウス高親和性IgE受容体ベータサブユニット遺伝子(Ms4a2)の発現を制御する
DOI
10.1128/MCB.00314-19
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology  Volume 39, Issue 22
著者名(敬称略)
大森 慎也、大根田 絹子 他
所属
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 人材育成部門 ゲノム予防医学分野

抄訳

造血系転写因子GATA2とPU.1は、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)において、ともに高親和性IgE受容体ベータ鎖(Ms4a2)の遺伝子発現を正に制御する。本研究ではその分子機序を解明するため、薬剤誘導性ノックアウトまたはsiRNA導入によって、BMMCsでのGATA2またはPU.1の欠失効果を比較した。その結果、両者は欠失によりほぼ同程度にMs4a2の発現量を低下させたが、両者の同時欠失による相乗的/相加的な効果は観察されなかった。クロマチン免疫沈降では、Ms4a2 +10.4 kbp領域にGATA2、PU.1とクロマチンループ因子LDB1が結合し、転写開始点付近(-60 bp)にはGATA2のみが結合していた。これらのGATA2の結合はPU.1の欠失により低下した。さらにゲノム編集によって+10.4 kbp領域を除去するとMs4a2の発現は完全に失われ、マスト細胞表面の高親和性IgE受容体の発現も消失した。以上の結果から、+10.4 kbp領域はMs4a2の発現に必須のシス領域であることが示された。また、GATA2はMs4a2プロモーターを活性化し、PU.1とLDB1はループ形成などクロマチン高次構造の形成と維持に関与することが示唆され、両者の分子機能は異なっていると考えられた。

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2019/11/13

日本におけるKlebsiella pneumoniae血流感染症の臨床像と分子疫学:高病原性株の医療関連感染症への関与

論文タイトル
Clinical and Molecular Characteristics of Klebsiella pneumoniae Isolates Causing Bloodstream Infections in Japan: Occurrence of Hypervirulent Infections in Health Care
論文タイトル(訳)
日本におけるKlebsiella pneumoniae血流感染症の臨床像と分子疫学:高病原性株の医療関連感染症への関与
DOI
10.1128/JCM.01206-19
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology  Volume 57, Issue 11
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
藤田医科大学 医学部 感染症科

抄訳

   Klebsiella pneumoniae(Kp)の一部は莢膜の過剰産生や細菌細胞の鉄取り込みと関連する病原遺伝子を保有する高病原性株(hvKp)であり、市中発症の重症感染症と関連していることが主に東アジア諸国から報告されている。
   今回、日本全国23医療機関におけるKp血流感染症140例の起因菌株の全ゲノム解析結果と臨床情報を対比した。140例のうち26例(18.6%)がhvKpであり、hvKp感染症は肺炎、肝膿瘍、播種性感染症の頻度が有意に高かった(単変量解析)。さらに、他国の報告とは異なり、hvKp血流感染症の半数以上は医療関連あるいは院内感染症として発症しており、院内伝播を背景としたと推測される症例も認められた。hvKpのクローンは多様であり、K1-ST23、K2-ST86などのよく知られたものとともに、K57-ST218, K62-ST36などのこれまではあまり認識されていなかったものも認められた。

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2019/11/11

バロキサビル・マルボキシル(BXM)の馬インフルエンザウイルス(EIV)に対する効果および低感受性ウイルスの検出

論文タイトル
Mutated influenza A virus exhibiting reduced susceptibility to baloxavir marboxil from an experimentally infected horse
論文タイトル(訳)
バロキサビル・マルボキシル(BXM)の馬インフルエンザウイルス(EIV)に対する効果および低感受性ウイルスの検出
DOI
10.1099/jgv.0.001325
ジャーナル名
Journal of General Virology  Microbiology Society
巻号
Journal of General Virology Volume 100, Issue 11
著者名(敬称略)
根本 学、田村 周久 他
所属
日本中央競馬会 競走馬総合研究所

抄訳

 BXMは新規抗インフルエンザウイルス薬であり、ウイルスのPAタンパクの機能を阻害することによって、抗ウイルス効果を発揮する。人医療において2018年から用いられているが、低感受性ウイルスが比較的高率に検出されており問題となりつつある。本研究ではBXMのEIVに対する効果、およびBXM投与馬から低感受性ウイルスが検出されるかを調査した。EIVを6頭の馬に実験感染させ、3頭にBXMを投与し(投与群)、残り3頭は無処置とした(無処置群)。その結果、投与群では臨床症状の軽減および鼻咽頭スワブ中のウイルス量の低下が観察された。このことからBXMはEIVに対して有効であると考えられた。投与群から検出されたウイルスのPA遺伝子を解析したところ、1頭から38番目のアミノ酸がイソロイシンからスレオニンに変異しているウイルスが検出された。変異ウイルスは、通常のウイルスと比較してウイルス増殖抑制のために16倍量のBXMを必要とした。この変異による感受性の低下はヒトインフルエンザウイルスでも観察されている。この結果から、BXM投与によってEIVにおいても低感受性ウイルスが容易に誘導される可能性があるといえる。

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2019/11/01

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明



論文タイトル

Steroid Degradation in Comamonas testosteroni TA441: Identification of the Entire β-Oxidation Cycle of the Cleaved B Ring

論文タイトル(訳)

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明

DOI

10.1128/AEM.01204-19

ジャーナル名

Applied and Environmental Microbiology

巻号

Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 20

著者名(敬称略)

堀之内 正枝 他

所属

理化学研究所 加藤分子物性研究室


抄訳


  Comamonas testosteroni TA441 は、ステロイド化合物のA,B環をA環の芳香環化を経て開裂し、生成した9,17-dioxo-1,2,3,4,10,19-hexanorandrostan-5-oic acidを主にβ酸化により完全分解する。本研究では、ScdE (3-hydroxylacyl CoA-dehydrogenase)及びScdF (3-ketoacyl-CoA transferase)をコードする遺伝子の単離、解析により、CD環開裂に必須な、B環由来側鎖のβ酸化サイクルによる分解全体を明らかとした。ステロイド分解遺伝子はクラスターを形成しており、β酸化に関わる遺伝子群に類似の遺伝子群は、Mycobacterium tuberculosis H37Rv等、多くの細菌に見いだされる。これらクラスターの構造の違いが、細菌のステロイド分解遺伝子群の進化の解明の手がかりとなる可能性も考えられる。


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2019/10/30

優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による

論文タイトル
Decreased Activity of the Ghrhr and Gh Promoters Causes Dominantly Inherited GH Deficiency in Humanized GH1 Mouse Models
論文タイトル(訳)
優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による
DOI
10.1210/en.2019-00306
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.11 (2673–2691)
著者名(敬称略)
有安 大典, 荒木 喜美 他
所属
熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野

抄訳

 優性遺伝性GH1遺伝子異常症(本症)における、exon 3が欠失した変異型GH(Δ3 GH)による優性阻害効果の詳細は不明である。我々は、Cre-変異loxによる遺伝子置換システムを用いて、マウス内在性Gh遺伝子の両アリルを、ヒトGH1遺伝子に置換したモデルマウスを作製した。作出した本症モデルマウスは、健常コントロールモデルと比べて明らかな成長障害を呈し、ヒト本症の臨床像を再現した。各種検討の結果、Δ3 GHによる優性阻害効果はGH1 mRNAが低下することにより発揮されていた。さらに、LacZノックインマウスを用いた検討により、小胞体に局在するΔ3 GHにより、Ghrhr遺伝子のpromoter活性が低下することが明らかになった。最後に我々は近年同定されたCREB3ファミリーに着目し、Δ3 GHによる小胞体ストレスにより核内に移行するCREB3L2が低下することが、GhrhrおよびGh promoter活性低下に関与することを突き止めた。1994年の初報以来不明であった本症GH分泌不全の解明のためのモデルマウスの重要性について、先行研究結果と共に考察を加える。

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2019/10/18

4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする

論文タイトル
4-Amino-2-Sulfanylbenzoic Acid as a Potent Subclass B3 Metallo-β-Lactamase-Specific Inhibitor Applicable for Distinguishing Metallo-β-Lactamase Subclasses
論文タイトル(訳)
4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする
DOI
10.1128/AAC.01197-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 10
著者名(敬称略)
和知野 純一、荒川 宜親 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学

抄訳

近年、「最後の切り札」とされるカルバペネム系薬に耐性を獲得した病原細菌の蔓延が問題となっている。病原細菌における主要なカルバペネム耐性機構は、カルバペネム系薬を分解するmetallo-β-lactamase(MBL)の産生である。著者らは、4-amino-2-sulfanylbenzoic acid (以下ASB)がMBLの1つであるSMB-1を強く阻害することを見出した。ASBはチメロサール(ワクチンの防腐剤の一種)の代謝物であるチオサリチル酸を基に改良された化合物である。著者らは、ASBがカルボキシル基とチオール基を介し、MBLの活性中心にある2つの亜鉛イオンに結合することをX線結晶構造解析によりあきらかにした。また、ASBはMBLの中でもサブクラスB3に属するMBLを特異的に阻害することがわかった。これらの結果から、ASBの特異性を利用し、MBLのサブクラス識別が可能であると考えられた。さらに、マウス全身感染モデルを用いた実験結果から、メロペネムなどのカルバペネム系薬とASBの併用が、MBL産生菌による感染症の治療に有用である可能性が示唆された。

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