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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2020/03/26

妊娠ウシにおける子宮内エクソソームのIFNT非依存的な効果

論文タイトル
IFNT-independent effects of intrauterine extracellular vesicles (EVs) in cattle
論文タイトル(訳)
妊娠ウシにおける子宮内エクソソームのIFNT非依存的な効果
DOI
10.1530/REP-19-0314
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Vol.159 No.5 (503-511)
著者名(敬称略)
中村 圭吾, 草間 和哉 他
所属
東京薬科大学  薬学部 薬理学教室

抄訳

子宮内に存在するエクソソームを始めとした細胞外小胞(EVs)は胚着床期の胞胚と子宮内膜の相互作用に関与している。しかしながら、これらEVsは、ウシの妊娠認識物質であるIFNTを含むため、それにより効果がマスクされ、その詳細な作用が不明である。本研究では、胚由来EVsの子宮内膜へのIFNT非依存的な効果を調べるため、非妊娠または妊娠子宮内EVs、さらにIFNTを初代培養ウシ子宮内膜細胞に処置し、それぞれの遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に調べた。3群の比較により、IFNT非依存的に変化する82の遺伝子を同定し、その多くがTNF関連因子であった。さらに、妊娠子宮内EVsにはTNFファミリーであるCD40Lが多く存在しており、これが子宮内膜のCD40と結合することでNF-kBシグナリングを活性化させることを示した。これらの結果から、ウシ妊娠着床期における胚由来EVsは、子宮内膜に作用し、IFNT非依存的に炎症反応を起こすことで、子宮内膜の受容能の調節と、胚着床を誘導することが示唆された。

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2020/03/25

門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関する画像予測因子の評価

論文タイトル
Portal Vein Embolization: Radiological Findings Predicting Future Liver Remnant Hypertrophy
論文タイトル(訳)
門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関する画像予測因子の評価
DOI
10.2214/AJR.19.21440
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology
巻号
Vol.214 Number. 3 687-693
著者名(敬称略)
光野 重芝, 磯田 裕義 他
所属
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)

抄訳

門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関して、様々な予測因子が報告されているが、これまでに塞栓術前のCT画像からの予測因子は報告されていない。本研究の目的は、肝右葉切除前に施行される門脈塞栓術の術前CTから得られる画像所見のうち、塞栓術後の予定残肝肥大率に関連しうる因子を評価することであった。対象は門脈右枝塞栓術をうけた79人の患者で、塞栓術前のCT画像から得られる因子として、塞栓手技を困難にする所見(肝右葉における前区域の容積率、門脈前区域枝・後区域枝の近位分枝数、主門脈の分岐破格)と、門脈血流低下を示唆する所見(腫瘍による門脈浸潤、肝実質の早期濃染像)を選択した。潜在的交絡因子としては、年齢、塞栓術前の予定残肝容積率、indocyanine green clearance rate、塞栓術前の最大血清ビリルビン値、化学療法歴を選択し、これら10つの因子と門脈塞栓術後の予定残肝肥大率との相関を評価した。結果は、門脈前区域枝・後区域枝の近位分枝数、主門脈の分岐破格、腫瘍による門脈浸潤、肝実質の早期濃染像の4つの画像因子と予定残肝肥大率の間に有意な相関がみられ、門脈塞栓術の適応決定への有用性が示唆された。

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2020/03/23

アルドステロン濃度とカリウム所見に基づくPA診断手順の簡素化

論文タイトル
Role of Aldosterone and Potassium Levels in Sparing Confirmatory Tests in Primary Aldosteronism
論文タイトル(訳)
アルドステロン濃度とカリウム所見に基づくPA診断手順の簡素化
DOI
10.1210/clinem/dgz148
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.105 No.4 (dgz148)
著者名(敬称略)
馬越 洋宜, 坂本 竜一 他
所属
九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学講座 (第三内科)

抄訳

【背景】原発性アルドステロン症(PA)は、スクリーニング陽性例に対して機能確認検査を施行し、確定診断に至る。近年のガイドラインでは、血漿アルドステロン濃度(PAC)やカリウム所見に応じて機能確認検査が省略可能とされるが、ガイドライン毎に省略可能条件が異なり、根拠となるエビデンスも乏しい。
【目的】PACとカリウム所見に基づき機能確認検査が省略可能となる条件を明らかにする。
【方法】2007年1月から2019年4月に当院でアルドステロン・レニン比>200かつ血漿レニン活性<1 ng/ml/hでカプトプリル試験(CCT)を施行した327例を対象とした。PAの診断はCCT結果に基づいて行い、PAC基礎値と低カリウム血症の有無からPA・非PAを分類した。
【結果】327例中252例がPAと診断された。PAC>30ng/dLを示した61例は全例がPAと診断された。20≦PAC≦30 ng/dLでは低カリウム血症を有する例は全例PA (26/26)と診断されたが、有さない例には非PA (11/29)が含まれていた。PAC<20ng/dLではカリウム所見に関わらず非PAが含まれていた。
【結語】PAC>300 pg/ml、または200≦PAC≦300 pg/mlかつ低カリウム血症を有する例では機能確認検査を省略できることが示唆された。

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2020/03/19

FDG-PET/CTの定量指標を用いた血管肉腫患者の予後予測

論文タイトル
Prognostic Value of Quantitative Parameters of 18F-FDG PET/CT for Patients With Angiosarcoma
論文タイトル(訳)
FDG-PET/CTの定量指標を用いた血管肉腫患者の予後予測
DOI
10.2214/AJR.19.21635
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology
巻号
Vol.214 Number.3 649-657
著者名(敬称略)
加藤 彩子 中本 裕士 他
所属
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)

抄訳

血管肉腫の組織学的グレード分類および全生存率におけるFDG-PET/CT上の定量指標を評価することを目的とした。組織学的に血管肉腫と診断され、治療前にFDG-PET/CT検査を受けた16人の患者を解析した。原発巣における1ピクセルあたりの最大SUV(pSUVmax)、一定のSUV以上を示す全病変の腫瘍容積、全病変における腫瘍内のSUVの総和、pSUVmaxと血液のSUVの比(TBR)、全病変における腫瘍血液比の総和、の5つの定量指標を算出した。腫瘍は病理所見に基づき、high gradeとlow gradeに分け、各定量指標との関連を調査した。またこれらの定量指標と臨床病理要因に対して、全生存率の予後予測能をCox比例ハザードモデルにて解析した。組織学的検討によりhigh gradeは10例、low gradeは6例であった。定量指標の中でpSUVmaxとTBRの2つがhigh grade腫瘍で有意に大きかった。追跡期間中10人の患者が死亡し、いずれの定量指標も大きい患者で有意に予後不良であった。初診時の単発病変および根治手術が行われたかは予後良好を示す強い要因であったが、組織学的グレードは有意な予後予測因子ではなかった。結論として、血管肉腫はhigh grade腫瘍でFDG-PET/CT上のpSUVmaxおよびTBRが有意に高く、5つの定量指標はいずれも全生存率に対する有意な予後予測因子であった。

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2020/03/16

GIP分泌の欠損が、加齢性肥満やインスリン抵抗性を軽減する

論文タイトル
Absence of GIP secretion alleviates age-related obesity and insulin resistance
論文タイトル(訳)
GIP分泌の欠損が、加齢性肥満やインスリン抵抗性を軽減する
DOI
10.1530/JOE-19-0477
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Vol.245 No.1 (13-20)
著者名(敬称略)
金丸 良徳, 原田 範雄, 稲垣 暢也 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

glucose-dependent insulinotropic polypeptide (GIP)は、栄養素の摂取によって腸管内分泌K細胞から分泌されるインクレチンである。栄養素の中で脂質はGIP分泌を強く刺激し、GIP分泌の亢進は高脂肪食摂取下の肥満やインスリン抵抗性の形成に関与する。加齢においてもGIP分泌の亢進が認められるが、GIP分泌の亢進が体重増加やインスリン感受性への影響については不明である。本研究では、野生型マウスに比較してGIP分泌が欠損および半減しているGIPホモ欠損 (GIP-/-) 、 ヘテロ欠損 (GIP+/-) マウスを用いて、加齢に伴う体重増加やインスリン抵抗性形成へのGIPの影響について検討した。総エネルギーの12%に相当する脂肪を含有する通常食摂取下では、野生型 (WT)マウスに比較してGIP-/-マウスは38週齢以降に有意な体重の低下を認めた。一方で、WTマウスとGIP+/-マウスの体重に有意な差を認めなかった。GIP-/-マウスの内臓脂肪と皮下脂肪量は、WTおよびGIP+/-マウスに比較して有意に減少した。経口ブドウ糖負荷試験時の血糖値は、3群間で有意な差を認めなかった。しかしインスリン値は、WTおよびGIP+/-マウスに比較してGIP-/-マウスで有意な低下を認めた。インスリン負荷試験では、GIP-/-マウスのインスリン感受性が最も高く、WTマウスとGIP+/-マウス間で有意な差を認めなかった。これらの結果から、GIPが加齢に伴う肥満やインスリン抵抗性に関与すること、そしてGIP分泌の阻害が加齢性の脂肪量増加やインスリン抵抗性の軽減に作用することが明らかとなった。

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2020/03/11

アクネ菌における新規マクロライド・クリンダマイシン耐性遺伝子erm(50)をコードする転移性多剤耐性プラスミドの発見

論文タイトル
Transferable Multidrug-Resistance Plasmid Carrying a Novel Macrolide-Clindamycin Resistance Gene, erm(50), in Cutibacterium acnes
論文タイトル(訳)
アクネ菌における新規マクロライド・クリンダマイシン耐性遺伝子erm(50)をコードする転移性多剤耐性プラスミドの発見
DOI
10.1128/AAC.01810-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 3
著者名(敬称略)
青木 沙恵、中瀬 恵亮 他
所属
東京薬科大学 薬学部 病原微生物学教室

抄訳

 薬剤耐性アクネ菌 (Cutibacterium acnes) は、世界中で出現および流行している。アクネ菌における主要なマクロライドおよびクリンダマイシン耐性因子として、23S rRNA変異およびerm(X)遺伝子の獲得が知られている。我々は、2008年および2013-2015年にそれらの耐性因子を有さない8株の高度マクロライド・クリンダマイシン耐性アクネ菌を異なるざ瘡患者から分離した。そこで、新規の耐性因子を同定するための研究を行った。Whole genome sequenceにより、新規の薬剤耐性遺伝子であるerm(50)とtet(W)をコードする新規のプラスミドpTZC1 (length, 31,440 bp) を見出した。pTZC1は耐性因子が認められなかった8株すべてから検出され、これらの株はマクロライド・クリンダマイシンに高度耐性を示した (MIC, ≥256 μg/ml)。また、pTZC1はアクネ菌株間を接合伝達で伝播し、マクロライド・クリンダマイシン耐性およびテトラサイクリン耐性を付与した。
 本研究では、アクネ菌で転移する多剤耐性プラスミドを初めて発見した。本プラスミドの流行は、ざ瘡の抗菌薬治療における大きな脅威となりうる。

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2020/03/10

大腸菌細胞内におけるメタン生成アーキアMethanosarcina mazei由来「アーキア型」メバロン酸経路の再構築

論文タイトル
Reconstruction of the “Archaeal” Mevalonate Pathway from the Methanogenic Archaeon Methanosarcina mazei in Escherichia coli Cells
論文タイトル(訳)
大腸菌細胞内におけるメタン生成アーキアMethanosarcina mazei由来「アーキア型」メバロン酸経路の再構築
DOI
10.1128/AEM.02889-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 86, Issue 6
著者名(敬称略)
吉田 稜、邊見 久 他
所属
名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 応用酵素学研究室

抄訳

  メバロン酸経路は、天然物医薬品などの有用化合物を数多く含むイソプレノイドの前駆体供給経路である。我々は最近、Crenarchaeota門に属する超好熱性アーキアから、大半のアーキアが持つと推定される変形メバロン酸経路(「アーキア型」メバロン酸経路)を発見した。同経路は一般のメバロン酸経路に比べてATP消費量が少ないため、有用イソプレノイドの生物生産への応用が期待される。本研究では、Euryarchaeota門に属するメタン生成アーキアMethanosarcina mazeiから同経路の推定遺伝子群を単離し、カロテノイド色素の生産経路とともに大腸菌に導入した。同株を準嫌気的条件下で培養したところ、メバロン酸経路を持たない株に比べてカロテノイド生産量が大幅に向上した。この結果は、「アーキア型」メバロン酸経路が幅広い分類群で保存されており、かつ大腸菌内でも機能しうることを示すものである。

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2020/03/10

C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)投与治療は欠損酵素補充治療を併用することでムコ多糖症Ⅶ型マウスの成長障害を回復させる

論文タイトル
C-Type Natriuretic Peptide Restores Growth Impairment Under Enzyme Replacement in Mice With Mucopolysaccharidosis VII
論文タイトル(訳)
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)投与治療は欠損酵素補充治療を併用することでムコ多糖症Ⅶ型マウスの成長障害を回復させる
DOI
10.1210/endocr/bqaa008
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.161 No. 2 (bqaa008)
著者名(敬称略)
山下 貴史, 藤井 寿人 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

【背景・目的】ムコ多糖症(MPSs)はグリコサミノグリカン(GAG)を分解する酵素の欠損により引き起こされるライソソーム病であり、GAGの蓄積により全身の臓器が障害され様々な症候を呈するが、既存の治療である欠損酵素の補充療法では成長障害は改善しない。本研究ではMPSⅦ型の成長障害に対する強い成長促進作用があるCNPの効果を調べる事を目的とした。
【方法・結果】6週齢のMPSⅦ型モデルであるGusbmps-2jマウスに対し、ハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いてGUSB補充とCNP投与のモデルを作成した。成長曲線からGUSB群およびCNP群では体長の有意な伸長は認めなかったが、GUSB/CNP共発現群では有意な体長の伸長が得られ、4週間後に野生型マウスと同等の体長となった。
【考察】MPSⅦ型の成長障害を酵素補充療法とCNPの併用により治療できることが示唆され、患者数が多いⅠ型やⅡ型への応用も期待される。

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2020/02/27

自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義

論文タイトル
Autoimmune Pituitary Disease: New Concepts With Clinical Implications
論文タイトル(訳)
自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義
DOI
10.1210/endrev/bnz003
ジャーナル名
Endocrine Reviews
巻号
Vol.41 No.2 (bnz003)
著者名(敬称略)
山本 雅昭, 高橋 裕 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病内分泌内科学

抄訳

リンパ球性下垂体炎やACTH単独欠損症などの下垂体疾患は自己免疫が示唆されているが、その機序は明らかではない。
抗PIT-1抗体症候群(抗PIT-1下垂体炎)は最近報告された下垂体炎の亜型であり、後天性に下垂体ホルモンの中でGH, PRL, TSHの特異的欠損をきたす新しい疾患概念である。その原因として胸腺腫や悪性腫瘍が、GH, PRL, TSH産生細胞に特異的な転写因子であるPIT-1を異所性に発現し、免疫寛容破綻を生じることが示されている。そしてマーカーとして血中に自己抗体である抗PIT-1抗体を認めるとともに、PIT-1タンパクを認識する細胞障害性T細胞が下垂体細胞を特異的に障害することが明らかになった。
最近、ACTH単独欠損症に肺大細胞神経内分泌癌を合併した症例が報告された。興味深いことに、腫瘍がACTHを異所性に発現しており、血中には抗POMC(ACTHの前駆体)抗体とPOMC特異細胞障害性T細胞を認めたことから、傍腫瘍症候群特に傍腫瘍性神経症候群と同様の機序で発症したことが示された。
これらの結果は、原因不明の自己免疫性下垂体疾患の少なくとも一部の成因が傍腫瘍症候群であることを示しており、本総説ではこれらの新しい疾患概念とともにその臨床的意義を解説する。

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2020/02/25

援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から

論文タイトル
Contents and Intensity of Services in Low- and High-Fidelity Programs for Supported Employment: Results of a Longitudinal Survey
論文タイトル(訳)
援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から
DOI
10.1176/appi.ps.201900255
ジャーナル名
Psychiatric Services
巻号
Psychiatric Services Published online 3 Jan 2020
著者名(敬称略)
山口創生
所属
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部

抄訳

目的 援助付き雇用プログラムにおけるサービス密度とプログラムの再現性との関連については検証が不十分である。本研究は、ある施設が科学的に効果的とされる援助付き雇用プログラムを実践する際に、どの程度再現しているかについて得点化するフィデリティ尺度を用いて、低再現グループと高再現グループにおけるサービス内容と密度を比較し、日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度の妥当性を検証することを目的とした。
方法 13施設の援助付き雇用プログラムにおける統合失調症を持つ利用者51名を対象とした。12ヵ月間に渡って、彼らの就労アウトカムとサービス受給データを収集した。本研究は、低再現グループ(7施設のプログラム, 29名)と高再現グループ(6施設のプログラム, 22名)における就労アウトカムやサービス内容、サービス密度を比較した。
結果 両グループにおいて、サービス全体の70%が、就労支援サービスの開始後の最初の6ヵ月間に提供されていた。また、低再現グループの就労率(38%)と比較し、高再現グループは高い就労率(68%)を有していた。高再現グループの就労支援員は施設外の職場開発に最も大きなエフォートを費やしていたが、低再現グループは集団サービスにより多くの時間を費やしていた。加えて、低再現グループと比べ、高再現グループの利用者は、就労前に施設外での支援(アウトリーチサービス)や施設内での就労相談などの個別サービスをより集中的に受けていた。しかしながら、就労後の定着支援について、グループ間のサービス密度の差は観察されなかった。
結論 再現性の高い援助付き雇用プログラムは、特に利用者が就職する前に、施設内外で集中的な個別支援を提供していた。今後の課題として、フィデリティ尺度が計測する組織レベルのサービスの質と個人レベルの定着支援の量、利用者の個別ニーズとの関連を検証することがあげられる。

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2020/02/18

ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –

論文タイトル
Histamine receptor agonist alleviates severe cardiorenal damages by eliciting anti-inflammatory programming
論文タイトル(訳)
ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –
DOI
10.1073/pnas.1909124117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 11, 2020 117 (6) 3150-3156
著者名(敬称略)
野口 和之、石田 純治、深水 昭吉 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 深水研究室(ゲノム情報生物学)

抄訳

「心腎連関」は、心臓と腎臓それぞれの障害が相互作用し、両臓器の機能が低下することに由来する概念です。しかし、腎臓の機能低下による心臓血管病の発症リスクの増加や、心臓血管病患者が高率に腎機能障害を引き起こす仕組みの詳細は未解明です。我々は、血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの投与(A)、片腎摘出(N)、食塩水負荷(S)によって心不全を誘導するマウス(ANSマウス)を用い、ANSマウスが心不全に加え、腎臓の糸球体濾過機能の低下やタンパク尿、尿細管障害など、慢性腎臓病様の病態を示すことを見出しました。また、ANSマウスの血中で低分子アミンであるヒスタミンが増加していること、ANSマウスへのヒスタミン受容体阻害剤の投与や、遺伝的にヒスタミンを産生できないANSマウスでは、心腎障害が悪化したのに対し、ヒスタミンH3受容体アゴニストのイメトリジン(Imm)がANSマウスの心腎連関障害に保護的に作用することを突き止めました。さらに、ANSマウスで急性期炎症が生じていることが判明しましたが、網羅的な遺伝子発現解析から、ANSマウスの腎臓では炎症関連遺伝子の発現が有意に亢進し、これらの変化はImmの投与で軽減したことから、Immの抗炎症作用が証明されました。今後、心腎連関の発症メカニズムの理解や薬剤開発の促進が期待されます。

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2020/02/17

多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定

論文タイトル
In Vitro Derivation of Fluoroquinolone-Resistant Mutants from Multiple Lineages of Haemophilus influenzae and Identification of Mutations Associated with Fluoroquinolone Resistance
論文タイトル(訳)
多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定
DOI
10.1128/AAC.01500-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 2
著者名(敬称略)
本田 宏幸、佐藤 豊孝 他
所属
札幌医科大学 医学部 微生物学講座

抄訳

Haemophilus influenzaeは呼吸器感染症を引き起こす病原菌であるが、β-lactam系抗菌薬耐性、特にβ-lactamase-negative high-level ampicillin-resistant H. influenzae (high-BLNAR)の増加が問題となっている。また、その治療薬となるフルオロキノロンに耐性を示す株も報告されている。本薬剤耐性の出現メカニズムの解明の為、我々は、フルオロキノロン感受性臨床分離株29株をモキシフロキサシン存在下(0.03~128 mg/L)で継代培養し本耐性変異株を選択した。17株(58.6%)がモキシフロキサシに感受性低下を示し、その内10株(34.5%)が、CLSIのbreakpoint(MIC >1mg/ L)を超えた(10株中7株はhigh-BLNAR)。これら変異株から既知のキノロン耐性決定領域(QRDR)での遺伝子変異に加え、45の遺伝子に56の新規な遺伝子変異を同定した。その中で、GyrA のGlu153Leu、ΔGlu606、GyrBのSer467Tyr、Glu469Asp、そしてOmpP2変異がフルオロキノロン耐性に関与していることを見出した。以上から、本研究ではH. influenzaeは複数の新規変異を伴いフルオロキノロン耐性を獲得し、本耐性はhigh-BLNARに高頻度に付与されることを明らかにした。high-BLNARが増加している背景から、臨床現場でのフルオロキノロン耐性H. influenzaeの動向には注視する必要がある。

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2020/01/31

Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能

論文タイトル
Visualization of Nigrosome 1 from the Viewpoint of Anatomic Structure
論文タイトル(訳)
Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能
DOI
10.3174/ajnr.A6338
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 41, No. 1 (86-91)
著者名(敬称略)
荒井 信行 他
所属
名古屋市立大学病院 診療技術部 放射線技術科

抄訳

黒質緻密部に存在するnigrosome1は,MRIにおいてパーキンソン病の進行例では描出されにくくなるが,健常者やパーキンソン病の軽度進行例においても本来描出されるべきnigrosome1が描出不良となったり左右非対称に描出されることがあり,鑑別が困難となることがある.今回われわれは静磁場方向に対する頭部の傾きと魔法角,さらに磁化率に着目し,nigrosome1の解剖学的な傾斜構造を考慮した描出不良の原因について初めてアプローチした.9点マルチエコーのスポイルド型3D-GRE法を使用し,魔法角の影響を調べるために静磁場方向に対して健常ボランティアの頭部を右傾斜,左傾斜,0°に設定し,傾斜角度と左右のnigrosome1の描出能の関係と磁化率の関係,さらに局所磁場の影響について調べた.頭部を右傾斜,左傾斜にした方が0°の時よりも有意にコントラストが上昇した.そして0°の時は魔法角の影響が顕著であり,これは磁化率強調像で裏付けられた.nigrosome1の解剖学的な傾斜構造は,磁気双極子相互作用による魔法角と干渉し,これによりnigrosome1は非対称の描出,もしくは描出不良となることがある.

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2020/01/31

CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo-EM Structures of Centromeric Tri-nucleosomes Containing a Central CENP-A Nucleosome
論文タイトル(訳)
CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1016/j.str.2019.10.016
ジャーナル名
Structure
巻号
Structure, Volume 28, Issue 1, P44-53.E4, January 07, 2020
著者名(敬称略)
滝沢 由政、何 承翰、立和名 博昭、胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学定量生命化学研究所 胡桃坂研究室

抄訳

ヒストンH3のバリアントであるCENP-Aは、セントロメアを規定するために必要不可欠なエピジェネティックマーカーである。CENP-Aを含むヌクレオソームは、特徴的な構造を有し、セントロメアクロマチンの高次構造を形成すると考えられている。しかし、CENP-Aを含むヌクレオソームによるセントロメアクロマチンの高次構造は、未だ不明な点が多い。本研究では、CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアクロマチンを模倣した試験管内再構成トリヌクレオソームを作製し、三次元構造をクライオ電子顕微鏡解析により決定した。得られた構造より、H3-H3-H3トリヌクレオソームとH3-CENP-A-H3トリヌクレオソームは、それぞれリンカーDNAパスが異なり、中心に位置するCENP-Aヌクレオソームの配向は、同じ位置のH3ヌクレオソームの配向と比べて大きく異なることが分かった。興味深いことに、このCENP-Aヌクレオソームの配向の違いにより、凝集したクロマチンの中で、CENP-Aヌクレオソームは溶液中に露出されることが示唆された。これらの結果は、CENP-Aを含むクロマチンの三次元構造を理解し、多数のH3 ヌクレオソームが存在するセントロメアクロマチンにおいて、セントロメアタンパク質がどのようにCENP-Aヌクレオソームを標的とするのかを説明できるかもしれない。

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2020/01/27

ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立

論文タイトル
Reverse Genetics System for a Human Group A Rotavirus
論文タイトル(訳)
ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立
DOI
10.1128/JVI.00963-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 94, Issue 2
著者名(敬称略)
川岸 崇裕、小林 剛 他
所属
大阪大学微生物病研究所 ウイルス免疫分野

抄訳

 ロタウイルスは11分節のRNAゲノムを有し、乳幼児に重篤な急性胃腸炎を引き起こすウイルスである。最近、我々はサルロタウイルスにおいて、11分節のウイルスゲノムを発現するプラスミドDNAから任意の組換えウイルスを人工合成できるリバースジェネティクス(RG)系の開発に成功した。しかし、サルロタウイルスとヒトロタウイルス間ではウイルス学的性状が異なる部分も多く、ヒトロタウイルスの増殖機構や病態発現機序をより理解するためには、ヒトロタウイルスのRG系の確立が望まれていた。
 本研究において、我々は世界的に流行している遺伝子型の一つであるG4P[8]型に属するヒトロタウイルスOdelia株のRG系の開発に成功した。さらに、Odelia株のRG系を用いて、免疫抑制活性を有するロタウイルスNSP1タンパク質における変異ウイルスを作製し、解析を行った。その結果、ヒトロタウイルスNSP1のC末端側166アミノ酸残基の領域がウイルス複製において重要な役割を担っていることが明らかとなった。本技術の開発により、ヒトロタウイルスの性状解析や予防・治療法開発の進展が期待される。

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2020/01/22

スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖

論文タイトル
Single-cell transcriptomics reveals expansion of cytotoxic CD4 T cells in supercentenarians
論文タイトル(訳)
スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖
DOI
10.1073/pnas.1907883116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS November 26, 2019 116 (48) 24242-24251
著者名(敬称略)
橋本浩介、広瀬信義、ピエロカルニンチ 他
所属
理化学研究所生命医学研究センター トランスクリプトーム研究チーム

抄訳

スーパーセンチナリアンは110歳に到達した特別長寿な人々のことを指し、自立的な生活を送る期間が長いことから、理想的な健康長寿のモデルと考えられている。我々は、スーパーセンチナリアン7人と50~80歳の5人から採血を行い、末梢血単核球を抽出して1細胞レベルのトランスクリプトーム解析を行った。合計で約6万細胞を調べたところ、スーパーセンチナリアンでは、通常あまり存在しないCD4陽性キラーT細胞が増加していることが明らかになった。これらのT細胞はCD4陽性でありながらCD8陽性キラーT細胞に似た遺伝子発現パターンを示す。更に、2人のスーパーセンチナリアンについて、T細胞受容体の配列を1細胞レベルで解析した。その結果、多くのCD4陽性キラーT細胞が同一の受容体を持つことが明らかになり、特定の抗原に対してクローン性増殖を起こしたことが示唆される。今後の研究によって、CD4陽性キラーT細胞が老化や長寿において果たす役割の解明が期待される。

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2020/01/22

多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例

論文タイトル
A Case of Hashimoto’s Thyroiditis with Multiple Drug Resistance and High Expression of Efflux Transporters
論文タイトル(訳)
多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例
DOI
10.1210/clinem/dgz073
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.105 No.2 (dgz073)
著者名(敬称略)
吉田 知彦, 田中 知明
所属
千葉大学大学院医学研究院・分子病態解析学講座

抄訳

【背景】甲状腺機能低下を伴う橋本病患者では通常、合成甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の経口投与で甲状腺機能が正常化されるが、一部の患者で効果が得られない場合があり、その原因は不明である。一方、癌や感染症の治療における薬剤耐性機構に薬剤排泄に機能するABCトランスポーターが関わることが知られている。今回、レボチロキシン補充療法に重度の治療抵抗性を示す橋本病患者を経験した。そのメカニズムに小腸におけるABCトランスポーター高発現が関与することを明らかにした。 【症例】本症例は橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、難治性高血圧を合併し、様々な経口薬剤の高用量投与にもかかわらず薬理効果が十分に得られない状態が続いていた。患者リンパ球を用いた解析では、健常者に比べてABCG2/BCRPの発現亢進と薬剤排泄能の亢進を認めた。そして、その特徴はABCG2/BCRPの特異的阻害薬Fumitremorgin Cによって阻害された。小腸上皮におけるこれらの薬剤排泄トランスポータの発現亢進も認めた。更に、レボチロキシン・降圧薬ロサルタンの粉砕投与後には、薬剤耐性の改善を認めた(血中TSH値と平均血圧の低下効果)。 【結語】薬剤耐性を示す橋本病患者の病態において、小腸でのABCG2/BCRPの高発現ならびに機能亢進が関与し、薬剤の粉砕投与が有効である可能性が示唆された。

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2020/01/20

食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する

論文タイトル
Dysregulation of Intestinal Microbiota Elicited by Food Allergy Induces IgA-Mediated Oral Dysbiosis
論文タイトル(訳)
食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する
DOI
10.1128/IAI.00741-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 1
著者名(敬称略)
片岡 嗣雄 他
所属
朝日大学 口腔感染医療学講座 口腔微生物学分野

抄訳

食物アレルギーは、生命を脅かす過剰な免疫応答であり、その発症には、腸内細菌叢の病的な構成変化(ディスバイオーシス)が関与していることが知られている。しかし、その詳細なメカニズム、ならびに食物アレルギーが口腔内細菌叢に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、卵白アルブミンを抗原として食物アレルギーモデルマウスを作製し、その糞便中の生菌をMALDI-ToF-MS法(バイテックMS)で解析して、Citrobacter菌群が顕著に増加していることを発見した。この菌は、マウス腸管上皮細胞株からTh2応答を促進するサイトカインであるIL-33の発現を誘導していた。以上より、食物アレルギーによって腸内で増殖したCitrobacterが、IL-33の産生を介して症状を増悪させていることが示された。また、同マウス口腔内ではIgAとそれに結合する細菌が増加しており、食物アレルギーによって口腔細菌叢も変化することが示唆された。

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2020/01/20

1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ

論文タイトル
Type 1 Innate Lymphoid Cells Protect Mice from Acute Liver Injury via Interferon-γ Secretion for Upregulating Bcl-xL Expression in Hepatocytes
論文タイトル(訳)
1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ
DOI
10.1016/j.immuni.2019.11.004
ジャーナル名
Immunity
巻号
Immunity, Volume 52, Issue 1, P96-108.E9, January 14, 2020
著者名(敬称略)
鍋倉 宰、渋谷 彰 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究(TARA)センター、医学医療系、革新的創薬開発研究センター

抄訳

 1型自然リンパ球(ILC1)は肝常在性のILCとして発見され、インターフェロン-g(IFN-g)産生能を持つ免疫細胞である。しかし肝臓におけるILC1の生理的・病理的な役割は未だ明らかになっていない。我々は、四塩化炭素(CCl4)投与による急性肝障害マウスモデルにおいて、肝ILC1が活性化しIFN-gを産生する事を見出した。この時、肝NK細胞は活性化していなかった。これら活性化した肝ILC1はCCl4誘導性急性肝障害の軽快に寄与し、このILC1による急性肝障害の保護作用はIFN-g依存的である事が示された。CCl4誘導性急性肝障害の発症時、肝ILC1の活性化とIFN-g産生には活性化受容体DNAM-1が必要である事が示された。また、細胞外ATPがインターロイキン(IL)-12によるILC1のIFN-g産生を促進する事が明らかとなった。更に、活性化ILC1から産生されるIFN-gは、Bcl-xLの発現上昇を介して肝細胞の生存に寄与する事が明らかになった。以上の結果は、ILC1が急性肝障害において保護的な役割を持つ事を示している。

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2020/01/16

フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析

論文タイトル
Environmental Presence and Genetic Characteristics of Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae from Hospital Sewage and River Water in the Philippines
論文タイトル(訳)
フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析
DOI
10.1128/AEM.01906-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 86, Issue. 2
著者名(敬称略)
鈴木由希、矢野寿一 他
所属
奈良県立医科大学 微生物感染症学講座

抄訳

 薬剤耐性菌対策の一環として、ヒト・動物・環境を包括的に捉えた取り組みが必要とされている。私たちは、フィリピンの環境調査により分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科(CPE)について、その分子遺伝学的特徴を明らかにした。
 2016年~2018年の期間に、フィリピンの病院排水(7病院)、河川水より計83検体を採取し、分離されたCPEについて、薬剤感受性試験、遺伝子解析による耐性遺伝子およびプラスミド型別、MLSTを実施した。耐性遺伝子の伝達能評価として、大腸菌を受容株とした接合伝達試験を行った。
 採取した検体より、Enterobacter属やKlebsiella属、大腸菌等51株のCPEが分離された。耐性遺伝子は、フィリピンのヒト臨床で多く分離されるNDM型が39株と最も多く、その他KPC型、OXA-48型なども検出された。MLST解析では、大腸菌11株のうち6株は、ヒトや動物などから広く検出されるclonal complex 10に属した。プラスミドはIncX3が多く検出され、CPE 51株中24株が大腸菌J53に伝達可能であった。
 本研究により、フィリピンの環境におけるCPEの存在が明らかとなった。ヒトから検出報告のある耐性菌の耐性遺伝子、ゲノム型と同様のものが検出され、ヒト由来耐性菌の環境への流出や、環境中での広がり、環境からヒトへの伝播の可能性が推察された。

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