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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2019/11/19

小胞体膜タンパク質複合体はロドプシンの後続膜貫通ヘリックスの挿入に必要である

論文タイトル
ER membrane protein complex is required for the insertions of late-synthesized transmembrane helices of Rh1 in Drosophila photoreceptors
論文タイトル(訳)
小胞体膜タンパク質複合体はロドプシンの後続膜貫通ヘリックスの挿入に必要である
DOI
10.1091/mbc.E19-08-0434
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 30, No 23
著者名(敬称略)
平松 直樹、佐藤 卓至 他
所属
広島大学 総合科学部 総合科学研究科 人間科学部門

抄訳

  ER膜上のリボソームにより合成される複数回膜貫通型タンパク質は、翻訳と同時にトランスロコンによりER膜に挿入され、適切に折りたたまれ機能的なタンパク質となるが、その挿入・折りたたみの過程はよく分かっていない。私達は、小胞体膜タンパク質複合体(EMC)がロドプシンを含む複数膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質の生合成に必要であり、その欠損が網膜変性を引き起こすことを報告していた(Satoh et al., 2015 eLife)。本研究では、EMCの機能を詳細に解析し、EMCがロドプシンの生合成とはじめの3つのヘリックスの挿入には必要がないが、それにひき続いて合成されるヘリックスの挿入に必要であることを示した。この結果は、EMCが複数膜貫通タンパク質の膜への挿入過程において、トランスロコンからの離脱が困難な膜貫通ヘリックスを認識し離脱を促進することによって、後方のヘリックスにトランスロコンを開放し、適切に挿入が行われることを可能にしていることを示している。

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2019/11/19

バンコマイシン感受性腸球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌によるマウス眼内炎に対するバクテリオファージ硝子体投与の治療効果

論文タイトル
Therapeutic Effects of Intravitreously Administered Bacteriophage in a Mouse Model of Endophthalmitis Caused by Vancomycin-Sensitive or -Resistant Enterococcus faecalis
論文タイトル(訳)
バンコマイシン感受性腸球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌によるマウス眼内炎に対するバクテリオファージ硝子体投与の治療効果
DOI
10.1128/AAC.01088-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 11
著者名(敬称略)
岸本 達真、福田 憲 他
所属
高知大学医学部眼科学講座

抄訳

  内眼手術後の腸球菌性眼内炎は,進行が早く、視力予後が不良な重篤な疾患である。またバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による術後眼内炎も増加している。バクテリオファージは細菌特異的に感染し溶菌させるウイルスである。我々は、マウス腸球菌眼内炎モデルに対しファージ硝子体投与の治療効果について検討した。
  バンコマイシン感受性腸球菌あるいはVREを硝子体に投与し眼内炎を誘導すると、24時間後には眼内炎が生じ,眼底は出血や硝子体混濁で透見不能となり、網膜電図での網膜機能は消失し、病理学的検討では網膜剥離を認めた。感染6時間後にファージを硝子体に投与すると,臨床スコア,生細菌数すべて有意に低下し、病理学的に網膜構造は保たれ、網膜電図でも網膜機能は維持されていた。
  ファージの硝子体投与は,薬剤感受性あるいは耐性に関わらずマウス眼内炎に対する治療効果があり,抗菌薬非依存性の新規治療法となる可能性が示唆された。

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2019/11/18

基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子の環境リザーバーとしての流入下水:キメラ型β-ラクタマーゼ CTX-M-64およびCTX-M-123の検出

論文タイトル
Wastewater as a Probable Environmental Reservoir of Extended-Spectrum-β-Lactamase Genes: Detection of Chimeric β-Lactamases CTX-M-64 and CTX-M-123
論文タイトル(訳)
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子の環境リザーバーとしての流入下水:キメラ型β-ラクタマーゼ CTX-M-64およびCTX-M-123の検出
DOI
10.1128/AEM.01740-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 22
著者名(敬称略)
田中 隼斗、長野 則之 他
所属
信州大学大学院 医学系研究科 保健学専攻

抄訳

国内における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌およびESBL遺伝子拡散における水系環境の役割はほとんど知られていない。我々は長野県内の4箇所の下水処理場より採取した流入下水の実態調査の目的で、ESBL産生Escherichia coliの検出、薬剤耐性遺伝子の同定、一部の株のNGS解析などを行った。ESBL産生E. coli 50株は多様なST型に属していたが、主にblaCTX-M-15blaCTX-M-14blaCTX-M-27などの臨床上重要なESBL遺伝子を保有していた。特に全施設からヒト腸管外感染症に関連するB2-ST131クローンが分離されたこと、さらに、国内起源のヒト、食肉、畜産動物、環境由来株からこれまでに分離報告がないキメラ型ESBL遺伝子blaCTX-M-64およびblaCTX-M-123が検出されたことが注目された。NGS解析によりblaCTX-M-64保有E. coliではISEcp1介在性のblaCTX-M-64の染色体への転移が確認された。本研究からヒト臨床上重要な流行クローンやキメラ型ESBL産生株が流入下水中に存在していることが判明し、公衆衛生上重要な問題を提起している。

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2019/11/18

国内の下水処理施設流入下水に由来する家禽病原性大腸菌関連病原遺伝子保有Escherichia coliによるプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1の獲得

論文タイトル
Acquisition of mcr-1 and Cocarriage of Virulence Genes in Avian Pathogenic Escherichia coli Isolates from Municipal Wastewater Influents in Japan
論文タイトル(訳)
国内の下水処理施設流入下水に由来する家禽病原性大腸菌関連病原遺伝子保有Escherichia coliによるプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1の獲得
DOI
10.1128/AEM.01661-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 22
著者名(敬称略)
林 航、長野 則之 他
所属
信州大学大学院 総合医理工学研究科 医学系専攻

抄訳

コリスチン(CL)は多剤耐性グラム陰性桿菌感染症の最後の砦的治療薬であるが, プラスミド性CL耐性遺伝子mcrの拡散が世界的な問題となっている。mcrのリザーバーとして家畜が注目されているが, 国内の水系環境におけるmcrの実態は不明である。本研究では長野県内の下水処理場3施設の流入下水より検出されたCL耐性E. coli全7株を対象に, NGS解析を行った。その結果, 全株からmcr-1が認められ, 5株でIncX4プラスミド上に, 2株でIncI2プラスミド上に担われていた。これらのプラスミド全塩基配列は, 国内や中国をはじめとする海外で検出されたヒト臨床材料及び家畜由来CL耐性E. coliが保有するプラスミド全塩基配列と完全一致又は高い相同性を示した。さらに7株中5株がコリシンを含む家禽病原性大腸菌/新生児髄膜炎起因大腸菌関連病原遺伝子を同時に保有していた。そのうち4株でこれらがIncF typeのColVプラスミドに担われていたことが注目された。近年の異常気象による豪雨で地上への下水の溢水が頻繁化している。IncX4及びIncI2プラスミドはmcrの世界的な拡散に関与しており, 市中における薬剤耐性菌の拡散リスクの観点から水系環境の監視の重要性が示唆された。

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2019/11/18

もやもや病患者におけるベイズ推定法を用いた脳灌流MRIの脳血流量評価: 15OガスPETとSVD法との比較

論文タイトル
Bayesian Estimation of CBF Measured by DSC-MRI in Patients with Moyamoya Disease: Comparison with 15O-Gas PET and Singular Value Decomposition
論文タイトル(訳)
もやもや病患者におけるベイズ推定法を用いた脳灌流MRIの脳血流量評価: 15OガスPETとSVD法との比較
DOI
10.3174/ajnr.A6248
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 40, No. 11 (1894-1900)
著者名(敬称略)
原 祥子 他
所属
東京医科歯科大学 脳神経外科

抄訳

【目的と背景】Singular value decomposition (SVD)法による脳潅流MRI(DSC)解析では、もやもや病患者の脳血流量(CBF)は不正確になることが知られている。ベイズ推定法によるDSC解析(ベイズ法)は最近考案され、平均通過時間(MTT)や脳血液量(CBV)を従来のSVD法より正確に算出可能と報告されている。本研究の目的は、もやもや病患者におけるベイズ法のDSC-CBFを、gold standardである15Oガスを用いたPET、および従来のSVD法と比較し、その有用性を検討することである。
【対象と方法】60日以内にDSC-MRIと15OガスPETを施行した19名のもやもや病患者(女性10名、22-52歳)を後方視的に解析した。DSCを3つのSVD法(standardと2つの block-circulant)およびベイズ法で解析し、CBFマップを作製した。DSC-MRIのCBFマップとPETのCBFを比較し、定性的・定量的評価を行った。
【結果】定性的な視覚評価において、ベイズ法のCBFはPETのCBFの低下をよく反映し(感度62.5%, 特異度100%, 陽性的中率100%, 陰性的中率78.6%)、SVD法(2つのblock-circulant)より有意に優れていた(特異度以外P < .03)。定量的評価において、ベイズ法のCBFとPETのCBFの絶対値の相関は3つのSVD法と同程度で(ρ = 0.46, P < .001)、ベイズ法のCBFはPETのCBFを過大評価した(平均+47.28 mL/min/100 g)。しかし、小脳比の相関をみると、ベイズ法のCBFはPETのCBFをよく反映しており(ρ = 0.56, P < .001)、3つのSVD法より有意に優れていた (P < .02)。
【結語】もやもや病患者において、ベイズ法によるDSC-CBF解析は、従来のSVD法よりも定性的・定量的に優れていた。

 

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2019/11/18

ヒートショックプロテイン90(HSP90)は風疹ウイルスp150タンパク質の機能性を担保して、ゲノム複製を支援する。

論文タイトル
Heat Shock Protein 90 Ensures the Integrity of Rubella Virus p150 Protein and Supports Viral Replication
論文タイトル(訳)
ヒートショックプロテイン90(HSP90)は風疹ウイルスp150タンパク質の機能性を担保して、ゲノム複製を支援する。
DOI
10.1128/JVI.01142-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 93, Issue 22
著者名(敬称略)
坂田 真史 他
所属
国立感染症研究所 ウイルス第三部 第二室

抄訳

 風疹ウイルス感染細胞には、ゲノム複製を担う2種の非構造タンパク質、p150とp90が発現する。これらウイルスタンパク質は宿主細胞の様々な因子を利用して、ゲノム複製を行なっていることが予想される。本研究では、宿主細胞のタンパク質恒常性維持を担う分子シャペロンHSP90と非構造タンパク質の関連性を解析した。
 p150とp90は、前駆体ポリプロテインp200がp150領域に位置するウイルスプロテアーゼによって開裂されることにより生成される。この開裂は、ゲノム複製の進行に必須である。我々は、種々の分子生物学的手法を用いて、HSP90がp150領域と相互作用して開裂に関与すること、HSP90のシャペロン活性が開裂後のp150の安定性に寄与することを明らかにした。本知見より、HSP90とp150の相互作用がゲノム複製に重要であることが示唆された。

 

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2019/11/15

GATA2とPU.1は異なる分子機序によってマウス高親和性IgE受容体ベータサブユニット遺伝子(Ms4a2)の発現を制御する

論文タイトル
GATA2 and PU.1 Collaborate To Activate the Expression of the Mouse Ms4a2 Gene, Encoding FcεRIβ, through Distinct Mechanisms
論文タイトル(訳)
GATA2とPU.1は異なる分子機序によってマウス高親和性IgE受容体ベータサブユニット遺伝子(Ms4a2)の発現を制御する
DOI
10.1128/MCB.00314-19
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology  Volume 39, Issue 22
著者名(敬称略)
大森 慎也、大根田 絹子 他
所属
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 人材育成部門 ゲノム予防医学分野

抄訳

造血系転写因子GATA2とPU.1は、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)において、ともに高親和性IgE受容体ベータ鎖(Ms4a2)の遺伝子発現を正に制御する。本研究ではその分子機序を解明するため、薬剤誘導性ノックアウトまたはsiRNA導入によって、BMMCsでのGATA2またはPU.1の欠失効果を比較した。その結果、両者は欠失によりほぼ同程度にMs4a2の発現量を低下させたが、両者の同時欠失による相乗的/相加的な効果は観察されなかった。クロマチン免疫沈降では、Ms4a2 +10.4 kbp領域にGATA2、PU.1とクロマチンループ因子LDB1が結合し、転写開始点付近(-60 bp)にはGATA2のみが結合していた。これらのGATA2の結合はPU.1の欠失により低下した。さらにゲノム編集によって+10.4 kbp領域を除去するとMs4a2の発現は完全に失われ、マスト細胞表面の高親和性IgE受容体の発現も消失した。以上の結果から、+10.4 kbp領域はMs4a2の発現に必須のシス領域であることが示された。また、GATA2はMs4a2プロモーターを活性化し、PU.1とLDB1はループ形成などクロマチン高次構造の形成と維持に関与することが示唆され、両者の分子機能は異なっていると考えられた。

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2019/11/13

日本におけるKlebsiella pneumoniae血流感染症の臨床像と分子疫学:高病原性株の医療関連感染症への関与

論文タイトル
Clinical and Molecular Characteristics of Klebsiella pneumoniae Isolates Causing Bloodstream Infections in Japan: Occurrence of Hypervirulent Infections in Health Care
論文タイトル(訳)
日本におけるKlebsiella pneumoniae血流感染症の臨床像と分子疫学:高病原性株の医療関連感染症への関与
DOI
10.1128/JCM.01206-19
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology  Volume 57, Issue 11
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
藤田医科大学 医学部 感染症科

抄訳

   Klebsiella pneumoniae(Kp)の一部は莢膜の過剰産生や細菌細胞の鉄取り込みと関連する病原遺伝子を保有する高病原性株(hvKp)であり、市中発症の重症感染症と関連していることが主に東アジア諸国から報告されている。
   今回、日本全国23医療機関におけるKp血流感染症140例の起因菌株の全ゲノム解析結果と臨床情報を対比した。140例のうち26例(18.6%)がhvKpであり、hvKp感染症は肺炎、肝膿瘍、播種性感染症の頻度が有意に高かった(単変量解析)。さらに、他国の報告とは異なり、hvKp血流感染症の半数以上は医療関連あるいは院内感染症として発症しており、院内伝播を背景としたと推測される症例も認められた。hvKpのクローンは多様であり、K1-ST23、K2-ST86などのよく知られたものとともに、K57-ST218, K62-ST36などのこれまではあまり認識されていなかったものも認められた。

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2019/11/11

バロキサビル・マルボキシル(BXM)の馬インフルエンザウイルス(EIV)に対する効果および低感受性ウイルスの検出

論文タイトル
Mutated influenza A virus exhibiting reduced susceptibility to baloxavir marboxil from an experimentally infected horse
論文タイトル(訳)
バロキサビル・マルボキシル(BXM)の馬インフルエンザウイルス(EIV)に対する効果および低感受性ウイルスの検出
DOI
10.1099/jgv.0.001325
ジャーナル名
Journal of General Virology  Microbiology Society
巻号
Journal of General Virology Volume 100, Issue 11
著者名(敬称略)
根本 学、田村 周久 他
所属
日本中央競馬会 競走馬総合研究所

抄訳

 BXMは新規抗インフルエンザウイルス薬であり、ウイルスのPAタンパクの機能を阻害することによって、抗ウイルス効果を発揮する。人医療において2018年から用いられているが、低感受性ウイルスが比較的高率に検出されており問題となりつつある。本研究ではBXMのEIVに対する効果、およびBXM投与馬から低感受性ウイルスが検出されるかを調査した。EIVを6頭の馬に実験感染させ、3頭にBXMを投与し(投与群)、残り3頭は無処置とした(無処置群)。その結果、投与群では臨床症状の軽減および鼻咽頭スワブ中のウイルス量の低下が観察された。このことからBXMはEIVに対して有効であると考えられた。投与群から検出されたウイルスのPA遺伝子を解析したところ、1頭から38番目のアミノ酸がイソロイシンからスレオニンに変異しているウイルスが検出された。変異ウイルスは、通常のウイルスと比較してウイルス増殖抑制のために16倍量のBXMを必要とした。この変異による感受性の低下はヒトインフルエンザウイルスでも観察されている。この結果から、BXM投与によってEIVにおいても低感受性ウイルスが容易に誘導される可能性があるといえる。

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2019/11/01

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明



論文タイトル

Steroid Degradation in Comamonas testosteroni TA441: Identification of the Entire β-Oxidation Cycle of the Cleaved B Ring

論文タイトル(訳)

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明

DOI

10.1128/AEM.01204-19

ジャーナル名

Applied and Environmental Microbiology

巻号

Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 20

著者名(敬称略)

堀之内 正枝 他

所属

理化学研究所 加藤分子物性研究室


抄訳


  Comamonas testosteroni TA441 は、ステロイド化合物のA,B環をA環の芳香環化を経て開裂し、生成した9,17-dioxo-1,2,3,4,10,19-hexanorandrostan-5-oic acidを主にβ酸化により完全分解する。本研究では、ScdE (3-hydroxylacyl CoA-dehydrogenase)及びScdF (3-ketoacyl-CoA transferase)をコードする遺伝子の単離、解析により、CD環開裂に必須な、B環由来側鎖のβ酸化サイクルによる分解全体を明らかとした。ステロイド分解遺伝子はクラスターを形成しており、β酸化に関わる遺伝子群に類似の遺伝子群は、Mycobacterium tuberculosis H37Rv等、多くの細菌に見いだされる。これらクラスターの構造の違いが、細菌のステロイド分解遺伝子群の進化の解明の手がかりとなる可能性も考えられる。


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2019/10/30

優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による

論文タイトル
Decreased Activity of the Ghrhr and Gh Promoters Causes Dominantly Inherited GH Deficiency in Humanized GH1 Mouse Models
論文タイトル(訳)
優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による
DOI
10.1210/en.2019-00306
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.11 (2673–2691)
著者名(敬称略)
有安 大典, 荒木 喜美 他
所属
熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野

抄訳

 優性遺伝性GH1遺伝子異常症(本症)における、exon 3が欠失した変異型GH(Δ3 GH)による優性阻害効果の詳細は不明である。我々は、Cre-変異loxによる遺伝子置換システムを用いて、マウス内在性Gh遺伝子の両アリルを、ヒトGH1遺伝子に置換したモデルマウスを作製した。作出した本症モデルマウスは、健常コントロールモデルと比べて明らかな成長障害を呈し、ヒト本症の臨床像を再現した。各種検討の結果、Δ3 GHによる優性阻害効果はGH1 mRNAが低下することにより発揮されていた。さらに、LacZノックインマウスを用いた検討により、小胞体に局在するΔ3 GHにより、Ghrhr遺伝子のpromoter活性が低下することが明らかになった。最後に我々は近年同定されたCREB3ファミリーに着目し、Δ3 GHによる小胞体ストレスにより核内に移行するCREB3L2が低下することが、GhrhrおよびGh promoter活性低下に関与することを突き止めた。1994年の初報以来不明であった本症GH分泌不全の解明のためのモデルマウスの重要性について、先行研究結果と共に考察を加える。

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2019/10/18

4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする

論文タイトル
4-Amino-2-Sulfanylbenzoic Acid as a Potent Subclass B3 Metallo-β-Lactamase-Specific Inhibitor Applicable for Distinguishing Metallo-β-Lactamase Subclasses
論文タイトル(訳)
4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする
DOI
10.1128/AAC.01197-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 10
著者名(敬称略)
和知野 純一、荒川 宜親 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学

抄訳

近年、「最後の切り札」とされるカルバペネム系薬に耐性を獲得した病原細菌の蔓延が問題となっている。病原細菌における主要なカルバペネム耐性機構は、カルバペネム系薬を分解するmetallo-β-lactamase(MBL)の産生である。著者らは、4-amino-2-sulfanylbenzoic acid (以下ASB)がMBLの1つであるSMB-1を強く阻害することを見出した。ASBはチメロサール(ワクチンの防腐剤の一種)の代謝物であるチオサリチル酸を基に改良された化合物である。著者らは、ASBがカルボキシル基とチオール基を介し、MBLの活性中心にある2つの亜鉛イオンに結合することをX線結晶構造解析によりあきらかにした。また、ASBはMBLの中でもサブクラスB3に属するMBLを特異的に阻害することがわかった。これらの結果から、ASBの特異性を利用し、MBLのサブクラス識別が可能であると考えられた。さらに、マウス全身感染モデルを用いた実験結果から、メロペネムなどのカルバペネム系薬とASBの併用が、MBL産生菌による感染症の治療に有用である可能性が示唆された。

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2019/10/17

変異毒素性ショック症候群毒素-1ワクチン免疫記憶T細胞が産生するインターロイキン-10 (IL-10)はIL-17産生を低下させ黄色ブドウ球菌感染に対する防御効果を消失させる

論文タイトル
Interleukin-10 (IL-10) Produced by Mutant Toxic Shock Syndrome Toxin 1 Vaccine-Induced Memory T Cells Downregulates IL-17 Production and Abrogates the Protective Effect against Staphylococcus aureus Infection
論文タイトル(訳)
変異毒素性ショック症候群毒素-1ワクチン免疫記憶T細胞が産生するインターロイキン-10 (IL-10)はIL-17産生を低下させ黄色ブドウ球菌感染に対する防御効果を消失させる
DOI
10.1128/IAI.00494-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Volume 87, Issue 10
著者名(敬称略)
成田 浩司、中根 明夫 他
所属
弘前大学大学院 医学研究科 感染生体防御学講座

抄訳

長期免疫記憶はワクチンの予防効果に必須である。著者らは、黄色ブドウ球菌 (S. aureus)の産生するスーパー抗原毒素である毒素性ショック症候群毒素-1の弱毒変異タンパク質(mTSST-1)で免疫したマウスにおいて、獲得免疫成立早期のS. aureus感染に対し17型ヘルパーT (Th17)細胞依存性にワクチン効果が認められることを報告した。Th17細胞には可塑性があるため、本研究では、mTSST-1免疫による長期記憶期のワクチン効果を検討したところ、S. aureus感染に対するワクチン効果は認められなかった。この時期の脾臓由来CD4+T細胞とマクロファージをmTSST-1刺激すると、サイトカイン応答はIL-17AからIL-10に変換していた。そこで、抗IL-10抗体添加の影響を見たところ、IL-17A産生が回復した。また、S. aureus感染前のmTSST-1免疫マウスに抗IL-10抗体を投与すると、脾臓のIL-17mRNA発現とワクチン効果が回復した。これらの結果から、mTSST-1免疫マウスの長期記憶期ではIL-10産生が主体となりIL-17A依存性感染防御を抑制することが理由で、ワクチン効果が発揮されないことが示唆された。

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2019/10/16

糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連

論文タイトル
Relationship Between Number of Multiple Risk Factors and Coronary Artery Disease Risk With and Without Diabetes Mellitus
論文タイトル(訳)
糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連
DOI
10.1210/jc.2019-00168
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.104 No.11 (5084–5090)
著者名(敬称略)
山田 万祐子, 藤原 和哉 他
所属
新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科

抄訳

リアルワールドデータを用い、糖尿病の有無別に、冠動脈疾患のリスク因子(血圧、LDLコレステロール、HbA1c、喫煙)の管理目標の達成状況、および管理目標の達成状況とその後の冠動脈疾患発症の関連を検討した。対象は日本全国からなる220,894名。健診結果とレセプトデータを用いて、血圧、HbA1c、LDLコレステロール、喫煙の管理目標の達成状況と冠動脈疾患発症の関連を検討した。糖尿病・非糖尿病群ともに、2つ管理目標を達成していた対象の割合が最も多かった(39.6%、36.4%)。糖尿病の有無に関わらず、管理目標を2つ達成している群と比較して、1つ達成している群、いずれも達成していなかった群では、冠動脈疾患発症リスクがそれぞれ2倍、4倍上昇した。管理目標を2つ達成した非糖尿病群と比較して、血圧、HbA1c、LDLコレステロール、喫煙のいずれの管理目標も達成していなかった糖尿病群では冠動脈疾患発症リスクが約9.4倍上昇していたが、一方で、4つ全ての管理目標を達成することで、冠動脈発症リスクは同程度まで低下していた。糖尿病の有無に関わらず、修正可能なリスク因子の管理目標を達成することは冠動脈疾患発症の抑制に有用な可能性があり、糖尿病患者で4つ全ての管理目標を達成することで、非糖尿患者で2つ管理目標を達成している群と同等までリスクが低下する可能性あることが示唆された。

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2019/10/16

みかんの皮より分離されたシュードフルクトフィリック乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株の特徴解析

論文タイトル
Pseudofructophilic Leuconostoc citreum Strain F192-5, Isolated from Satsuma Mandarin Peel
論文タイトル(訳)
みかんの皮より分離されたシュードフルクトフィリック乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株の特徴解析
DOI
10.1128/AEM.01077-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 20
著者名(敬称略)
前野 慎太朗、遠藤 明仁 他
所属
東京農業大学 生物産業学部 食香粧化学科

抄訳

 フルクトフィリック乳酸菌 (FLAB) は花や果物といったフルクトース豊富な環境に生息および適応している乳酸菌である。筆者らがみかんの皮から分離した乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株は他の L. citreum 菌株と大きく異なり、一般的な生物が生育基質として最も好むグルコースをほとんど代謝しない一方で、フルクトースを好むという FLAB 様の特徴を菌株特異的に示す。既知の FLAB は糖代謝関連遺伝子の特異的欠損を含むゲノムレベルでの退行的進化を行っていることを我々はこれまでに報告しているが、当該菌株ではこのゲノムレベルでの退行的進化は見られなかった。
 FLAB はアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素の活性を有する二機能性タンパク質 (AdhE) をコードする遺伝子 adhE を欠損させているために細胞内の酸化還元バランスを欠き、グルコースを代謝しないことが知られている。しかし、本菌株は adhE を有しているもののプロモーターの欠落により当該遺伝子が発現していないため、グルコースを代謝することができない事を明らかにした。FLAB はフルクトースを代謝することでグルコース代謝時よりも効率よくエネルギーを生産することが知られていることから、本菌株の菌株特異的な特徴は、多様な生息域を有する乳酸菌の生存戦略の一環であると考えられた。

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2019/10/10

パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する

論文タイトル
Parkinson’s disease-associated iPLA2-VIA/PLA2G6 regulates neuronal functions and α-synuclein stability through membrane remodeling
論文タイトル(訳)
パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する
DOI
10.1073/pnas.1902958116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS October 8, 2019 116 (41) 20689-20699
著者名(敬称略)
森 聡生, 今居 譲 他
所属
順天堂大学医学研究科パーキンソン病病態解明研究講座

抄訳

パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで罹患率の高い神経変性疾患である。その病変部位にはレヴィ小体と呼ばれる神経封入体が蓄積する。レヴィ小体の形成には前シナプスタンパク質α-Synucleinの凝集・線維化が関わっており、その凝集・線維化が神経変性を引き起こすと考えられている。しかし、パーキンソン病発症の最初のステップであるα-Synucleinの凝集のメカニズムは不明である。PARK14遺伝子座にリンクするパーキンソン病は、レヴィ小体の病理が顕著に認められる。PARK14の責任遺伝子PLA2G6/iPLA2-VIAはホスホリパーゼA2をコードし、その変異の違いにより脳の鉄沈着を伴う遺伝性神経変性疾患(NBIA)の原因にもなる。我々は、iPLA2-VIAノックアウトハエが発生初期から神経伝達の障害、ドーパミン神経を含む脳神経細胞の進行性の変性を示すことを見出した。ハエの脳の脂質解析から、iPLA2-VIA活性の喪失でアシル基の短縮が起こること、アシル基短縮がリン脂質膜の平衡状態を攪乱し小胞体ストレスを惹起することが明らかとなった。
ミトコンドリア-小胞体の接点に局在するC19orf12の変異もNBIAの原因となる。iPLA2-VIAノックアウトハエにおいて、ヒトiPLA2-VIAやC19orf12の過剰発現は、脂質変化、小胞体ストレス、ドーパミン神経変性の表現型を改善した。一方、疾患型のヒトiPLA2-VIA A80Tはこれらの表現型を改善しなかった。さらに、iPLA2-VIAノックアウトハエへのリノール酸の投与によって脂質異常が改善し、ノックアウトハエでみられるα-Synuclein凝集の促進が抑制できた。これらの結果から、iPLA2-VIAによる生体膜のリモデリング(アシル基の短縮抑制)が、ドーパミン神経の生存性だけでなくα-Synucleinの凝集抑制に必要であることが示唆された。

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2019/10/07

アンジオテンシン1-7は加齢による筋力と骨量の低下を改善するが、ACE2欠損マウスにおける老化の亢進には関連しない。

論文タイトル
Angiotensin 1-7 alleviates aging-associated muscle weakness and bone loss, but is not associated with accelerated aging in ACE2-knockout mice
論文タイトル(訳)
アンジオテンシン1-7は加齢による筋力と骨量の低下を改善するが、ACE2欠損マウスにおける老化の亢進には関連しない。
DOI
10.1042/CS20190573
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Vol.133 No.18 (2005-2018)
著者名(敬称略)
野里 聡子, 山本 浩一 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学

抄訳

ACE2-アンジオテンシン1-7(A1-7)-A1-7受容体(Mas)軸はレニン-アンジオテンシン(RA)系において、アンジオテンシンIIによるAT1活性化に対して拮抗的に作用する。我々は最近ACE2欠損マウスが早期から握力の低下と骨格筋における老化指標の亢進を認めること、A1-7が高齢マウスの筋力低下を改善させることを報告した(2018 J Cachexia Sarcopenia Muscle.)。本研究ではACE2欠損マウスの生理的老化の亢進がA1-7の産生低下に関連するか検討する目的でACE2欠損マウスとMas欠損マウス、野生型マウスの比較実験を行った。結果として、ACE2欠損マウスでは早期の骨格筋機能低下や骨格筋老化指標の亢進に加え、皮下脂肪組織の加齢性の減少の亢進を認めたが、MAS欠損マウスではそのような変化を認めなかった。一方、A1-7投与は高齢野生型マウス、ACE2欠損マウスに対しては筋力低下の抑制に加え、筋サイズや骨量の増加をもたらしたが、Mas欠損マウスではそのような効果を認めなかった。本研究の結果からA1-7はMasを介して高齢マウスの筋機能や骨量を改善させるが、ACE2欠損マウスに認めた老化の亢進はA1-7-Masに関連しないことが示唆される。ACE2はRA系以外にも多彩な機能を有しており、ACE2が生体老化に及ぼす影響に関しては更なる検討が必要である。

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2019/09/19

ピロリシルtRNA合成酵素PylRS-AF変異体による、嵩高い非天然型リジン誘導体を利用した遺伝暗号拡張の構造的基盤

論文タイトル
Structural Basis for Genetic-Code Expansion with Bulky Lysine Derivatives by an Engineered Pyrrolysyl-tRNA Synthetase
論文タイトル(訳)
ピロリシルtRNA合成酵素PylRS-AF変異体による、嵩高い非天然型リジン誘導体を利用した遺伝暗号拡張の構造的基盤
DOI
10.1016/j.chembiol.2019.03.008
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Vol.28 Iss.7 (July 18,2019)
著者名(敬称略)
柳沢 達男 他
所属
理化学研究所・生命機能科学研究センター・非天然型アミノ酸技術研究チーム(研究当時)

抄訳

近年天然アミノ酸にはない機能を発揮する人工アミノ酸をタンパク質に導入する技術の開発が進んでいる。筆者等が開発したピロリシルtRNA合成酵素(PylRS)のY306A/Y384F変異体(AF変異PylRS)は、様々な官能基をもつ大きなサイズの人工アミノ酸を認識できることから世界中でタンパク質への導入に利用され、抗体医薬の作製などさまざまな用途に用いられて来た。一方でAF変異PylRSが多様な人工アミノ酸を取り込むメカニズムについては不明であった。筆者等は14種類の人工アミノ酸がAF変異PylRSにどのように結合しているかX線結晶構造解析で詳しく調べることにより、AF変異PylRSがそれぞれの人工アミノ酸に特異的に対応し、1結合型、2結合型、3結合型という異なる結合様式で人工アミノ酸を認識していることを明らかにした。AF変異PylRSの構造情報を元に設計された人工アミノ酸でタンパク質を高機能化することにより、医療や産業分野への展開が期待できる。

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2019/09/18

一酸化窒素による消化管制御の進化

論文タイトル
Evolution of nitric oxide regulation of gut function
論文タイトル(訳)
一酸化窒素による消化管制御の進化
DOI
10.1073/pnas.1816973116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 19, 2019 116 (12) 5607-5612
著者名(敬称略)
谷口 順子、谷口 俊介
所属
筑波大学 生命環境系下田臨海実験センター

抄訳

 バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)を用いて、その幼生期の胃腸において、幽門の開口は一酸化窒素によって制御されており、その近傍には神経型一酸化窒素合成酵素を発現している内胚葉由来の神経様細胞が存在していることを明らかにしました。
 ヒトを含む脊椎動物では、神経堤細胞由来の腸管神経が胃や腸といった消化管の機能を制御しています。しかし、神経堤細胞は脊椎動物でしか見られないため、消化管制御の仕組みが動物進化の過程でどのように獲得され、多様化してきたのかを議論することが不可能でした。そこで、脊椎動物と同じ後口動物に属しながら、神経堤細胞を持たない無脊椎動物である棘皮動物のウニ幼生の消化管に着目し、特に幽門の開閉がどのように制御されているのかを明らかにすることを試みました。その結果、ウニ幼生の幽門付近に神経様細胞が存在しており、そこで生産されている一酸化窒素が幽門の開口を制御していることが明らかになりました。さらに、この神経様細胞の由来を調べてみると、内胚葉由来であることが明らかになりました。このことは、ヒトを含む脊椎動物においても、消化管制御に関わる内胚葉由来の神経が新たに発見される可能性や、幽門開口の制御システムが進化の過程でどのように神経堤細胞由来のシステムへと移行していったのかを議論する上で重要なヒントを与える成果です。

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2019/09/17

中鎖脂肪酸(8:0,10:0)はサルコペニアの改善に期待される栄養素である:無作為化比較試験

論文タイトル
Medium-chain triglycerides (8:0 and 10:0) are promising nutrients for sarcopenia: a randomized controlled trial
論文タイトル(訳)
中鎖脂肪酸(8:0,10:0)はサルコペニアの改善に期待される栄養素である:無作為化比較試験
DOI
10.1093/ajcn/nqz138
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.110, No.3 (652–665)
著者名(敬称略)
阿部 咲子, 江崎 治 他
所属
昭和女子大学 生活科学研究専攻 女性健康科学研究所

抄訳

高齢フレイル入所者に、ロイシン、ビタミンD強化サプリメントと中鎖脂肪酸(MCT)6gを夕食に加えて3ケ月間摂取した群(LD+MCT群)では、筋力や筋肉機能の増加が認められている。本研究では、MCTのみの効果を調べた。介護老人保健施設の入所者(平均86歳)64人を登録し、LD + MCT群、MCT6gのみのMCT群、LCT6gのみのLCT群の3群にて3ケ月間の介入試験を実施した。ベースライン、介入開始後1.5ケ月・3ケ月(介入時)、介入終了後1.5ケ月の4回、筋力や筋肉機能、ADLを測定し、各測定項目のベースラインからの変化量を従属変数とし、群、測定時期、群と測定時期の交互作用を固定因子とし、ベースライン時の各測定値、年齢、性、BMI、握力、ADLを交絡固定因子として調整し、線形混合モデルで解析した。介入3ケ月においてベースラインからの変化量は、下肢反復開閉回数(10秒間)では、LD + MCT群2.70回、MCT群 2.28回、 LCT群 -0.59回であり、機能的自立度評価(FIM)スコア(総点126点)では、LD + MCT群6.9点、MCT群 5.6点、LCT群 -6.6点と変化した。介入開始後1.5ケ月より3ケ月でより増加し、介入終了後1.5ケ月後で減少した。MCT6g摂取のみでも、高齢者の筋力や筋肉機能、ADLを高めた。

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