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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2019/11/01

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明



論文タイトル

Steroid Degradation in Comamonas testosteroni TA441: Identification of the Entire β-Oxidation Cycle of the Cleaved B Ring

論文タイトル(訳)

Comamonas testosteroni TA441 によるステロイド化合物の分解:開裂したB環のβ酸化による分解全体の解明

DOI

10.1128/AEM.01204-19

ジャーナル名

Applied and Environmental Microbiology

巻号

Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 20

著者名(敬称略)

堀之内 正枝 他

所属

理化学研究所 加藤分子物性研究室


抄訳


  Comamonas testosteroni TA441 は、ステロイド化合物のA,B環をA環の芳香環化を経て開裂し、生成した9,17-dioxo-1,2,3,4,10,19-hexanorandrostan-5-oic acidを主にβ酸化により完全分解する。本研究では、ScdE (3-hydroxylacyl CoA-dehydrogenase)及びScdF (3-ketoacyl-CoA transferase)をコードする遺伝子の単離、解析により、CD環開裂に必須な、B環由来側鎖のβ酸化サイクルによる分解全体を明らかとした。ステロイド分解遺伝子はクラスターを形成しており、β酸化に関わる遺伝子群に類似の遺伝子群は、Mycobacterium tuberculosis H37Rv等、多くの細菌に見いだされる。これらクラスターの構造の違いが、細菌のステロイド分解遺伝子群の進化の解明の手がかりとなる可能性も考えられる。


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2019/10/30

優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による

論文タイトル
Decreased Activity of the Ghrhr and Gh Promoters Causes Dominantly Inherited GH Deficiency in Humanized GH1 Mouse Models
論文タイトル(訳)
優性遺伝性GH1遺伝子異常症モデルマウスのGH分泌不全は、GhrhrおよびGhプロモーター活性の低下による
DOI
10.1210/en.2019-00306
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.11 (2673–2691)
著者名(敬称略)
有安 大典, 荒木 喜美 他
所属
熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野

抄訳

 優性遺伝性GH1遺伝子異常症(本症)における、exon 3が欠失した変異型GH(Δ3 GH)による優性阻害効果の詳細は不明である。我々は、Cre-変異loxによる遺伝子置換システムを用いて、マウス内在性Gh遺伝子の両アリルを、ヒトGH1遺伝子に置換したモデルマウスを作製した。作出した本症モデルマウスは、健常コントロールモデルと比べて明らかな成長障害を呈し、ヒト本症の臨床像を再現した。各種検討の結果、Δ3 GHによる優性阻害効果はGH1 mRNAが低下することにより発揮されていた。さらに、LacZノックインマウスを用いた検討により、小胞体に局在するΔ3 GHにより、Ghrhr遺伝子のpromoter活性が低下することが明らかになった。最後に我々は近年同定されたCREB3ファミリーに着目し、Δ3 GHによる小胞体ストレスにより核内に移行するCREB3L2が低下することが、GhrhrおよびGh promoter活性低下に関与することを突き止めた。1994年の初報以来不明であった本症GH分泌不全の解明のためのモデルマウスの重要性について、先行研究結果と共に考察を加える。

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2019/10/18

4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする

論文タイトル
4-Amino-2-Sulfanylbenzoic Acid as a Potent Subclass B3 Metallo-β-Lactamase-Specific Inhibitor Applicable for Distinguishing Metallo-β-Lactamase Subclasses
論文タイトル(訳)
4-amino-2-sulfanylbenzoic acidはサブクラスB3メタロ-β-ラクタマーゼ特異的阻害剤であり、メタロ-β-ラクタマーゼのサブクラス識別を可能とする
DOI
10.1128/AAC.01197-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 10
著者名(敬称略)
和知野 純一、荒川 宜親 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学

抄訳

近年、「最後の切り札」とされるカルバペネム系薬に耐性を獲得した病原細菌の蔓延が問題となっている。病原細菌における主要なカルバペネム耐性機構は、カルバペネム系薬を分解するmetallo-β-lactamase(MBL)の産生である。著者らは、4-amino-2-sulfanylbenzoic acid (以下ASB)がMBLの1つであるSMB-1を強く阻害することを見出した。ASBはチメロサール(ワクチンの防腐剤の一種)の代謝物であるチオサリチル酸を基に改良された化合物である。著者らは、ASBがカルボキシル基とチオール基を介し、MBLの活性中心にある2つの亜鉛イオンに結合することをX線結晶構造解析によりあきらかにした。また、ASBはMBLの中でもサブクラスB3に属するMBLを特異的に阻害することがわかった。これらの結果から、ASBの特異性を利用し、MBLのサブクラス識別が可能であると考えられた。さらに、マウス全身感染モデルを用いた実験結果から、メロペネムなどのカルバペネム系薬とASBの併用が、MBL産生菌による感染症の治療に有用である可能性が示唆された。

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2019/10/17

変異毒素性ショック症候群毒素-1ワクチン免疫記憶T細胞が産生するインターロイキン-10 (IL-10)はIL-17産生を低下させ黄色ブドウ球菌感染に対する防御効果を消失させる

論文タイトル
Interleukin-10 (IL-10) Produced by Mutant Toxic Shock Syndrome Toxin 1 Vaccine-Induced Memory T Cells Downregulates IL-17 Production and Abrogates the Protective Effect against Staphylococcus aureus Infection
論文タイトル(訳)
変異毒素性ショック症候群毒素-1ワクチン免疫記憶T細胞が産生するインターロイキン-10 (IL-10)はIL-17産生を低下させ黄色ブドウ球菌感染に対する防御効果を消失させる
DOI
10.1128/IAI.00494-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Volume 87, Issue 10
著者名(敬称略)
成田 浩司、中根 明夫 他
所属
弘前大学大学院 医学研究科 感染生体防御学講座

抄訳

長期免疫記憶はワクチンの予防効果に必須である。著者らは、黄色ブドウ球菌 (S. aureus)の産生するスーパー抗原毒素である毒素性ショック症候群毒素-1の弱毒変異タンパク質(mTSST-1)で免疫したマウスにおいて、獲得免疫成立早期のS. aureus感染に対し17型ヘルパーT (Th17)細胞依存性にワクチン効果が認められることを報告した。Th17細胞には可塑性があるため、本研究では、mTSST-1免疫による長期記憶期のワクチン効果を検討したところ、S. aureus感染に対するワクチン効果は認められなかった。この時期の脾臓由来CD4+T細胞とマクロファージをmTSST-1刺激すると、サイトカイン応答はIL-17AからIL-10に変換していた。そこで、抗IL-10抗体添加の影響を見たところ、IL-17A産生が回復した。また、S. aureus感染前のmTSST-1免疫マウスに抗IL-10抗体を投与すると、脾臓のIL-17mRNA発現とワクチン効果が回復した。これらの結果から、mTSST-1免疫マウスの長期記憶期ではIL-10産生が主体となりIL-17A依存性感染防御を抑制することが理由で、ワクチン効果が発揮されないことが示唆された。

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2019/10/16

糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連

論文タイトル
Relationship Between Number of Multiple Risk Factors and Coronary Artery Disease Risk With and Without Diabetes Mellitus
論文タイトル(訳)
糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連
DOI
10.1210/jc.2019-00168
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.104 No.11 (5084–5090)
著者名(敬称略)
山田 万祐子, 藤原 和哉 他
所属
新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科

抄訳

リアルワールドデータを用い、糖尿病の有無別に、冠動脈疾患のリスク因子(血圧、LDLコレステロール、HbA1c、喫煙)の管理目標の達成状況、および管理目標の達成状況とその後の冠動脈疾患発症の関連を検討した。対象は日本全国からなる220,894名。健診結果とレセプトデータを用いて、血圧、HbA1c、LDLコレステロール、喫煙の管理目標の達成状況と冠動脈疾患発症の関連を検討した。糖尿病・非糖尿病群ともに、2つ管理目標を達成していた対象の割合が最も多かった(39.6%、36.4%)。糖尿病の有無に関わらず、管理目標を2つ達成している群と比較して、1つ達成している群、いずれも達成していなかった群では、冠動脈疾患発症リスクがそれぞれ2倍、4倍上昇した。管理目標を2つ達成した非糖尿病群と比較して、血圧、HbA1c、LDLコレステロール、喫煙のいずれの管理目標も達成していなかった糖尿病群では冠動脈疾患発症リスクが約9.4倍上昇していたが、一方で、4つ全ての管理目標を達成することで、冠動脈発症リスクは同程度まで低下していた。糖尿病の有無に関わらず、修正可能なリスク因子の管理目標を達成することは冠動脈疾患発症の抑制に有用な可能性があり、糖尿病患者で4つ全ての管理目標を達成することで、非糖尿患者で2つ管理目標を達成している群と同等までリスクが低下する可能性あることが示唆された。

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2019/10/16

みかんの皮より分離されたシュードフルクトフィリック乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株の特徴解析

論文タイトル
Pseudofructophilic Leuconostoc citreum Strain F192-5, Isolated from Satsuma Mandarin Peel
論文タイトル(訳)
みかんの皮より分離されたシュードフルクトフィリック乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株の特徴解析
DOI
10.1128/AEM.01077-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 20
著者名(敬称略)
前野 慎太朗、遠藤 明仁 他
所属
東京農業大学 生物産業学部 食香粧化学科

抄訳

 フルクトフィリック乳酸菌 (FLAB) は花や果物といったフルクトース豊富な環境に生息および適応している乳酸菌である。筆者らがみかんの皮から分離した乳酸菌 Leuconostoc citreum F192-5 株は他の L. citreum 菌株と大きく異なり、一般的な生物が生育基質として最も好むグルコースをほとんど代謝しない一方で、フルクトースを好むという FLAB 様の特徴を菌株特異的に示す。既知の FLAB は糖代謝関連遺伝子の特異的欠損を含むゲノムレベルでの退行的進化を行っていることを我々はこれまでに報告しているが、当該菌株ではこのゲノムレベルでの退行的進化は見られなかった。
 FLAB はアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素の活性を有する二機能性タンパク質 (AdhE) をコードする遺伝子 adhE を欠損させているために細胞内の酸化還元バランスを欠き、グルコースを代謝しないことが知られている。しかし、本菌株は adhE を有しているもののプロモーターの欠落により当該遺伝子が発現していないため、グルコースを代謝することができない事を明らかにした。FLAB はフルクトースを代謝することでグルコース代謝時よりも効率よくエネルギーを生産することが知られていることから、本菌株の菌株特異的な特徴は、多様な生息域を有する乳酸菌の生存戦略の一環であると考えられた。

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2019/10/10

パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する

論文タイトル
Parkinson’s disease-associated iPLA2-VIA/PLA2G6 regulates neuronal functions and α-synuclein stability through membrane remodeling
論文タイトル(訳)
パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する
DOI
10.1073/pnas.1902958116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS October 8, 2019 116 (41) 20689-20699
著者名(敬称略)
森 聡生, 今居 譲 他
所属
順天堂大学医学研究科パーキンソン病病態解明研究講座

抄訳

パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで罹患率の高い神経変性疾患である。その病変部位にはレヴィ小体と呼ばれる神経封入体が蓄積する。レヴィ小体の形成には前シナプスタンパク質α-Synucleinの凝集・線維化が関わっており、その凝集・線維化が神経変性を引き起こすと考えられている。しかし、パーキンソン病発症の最初のステップであるα-Synucleinの凝集のメカニズムは不明である。PARK14遺伝子座にリンクするパーキンソン病は、レヴィ小体の病理が顕著に認められる。PARK14の責任遺伝子PLA2G6/iPLA2-VIAはホスホリパーゼA2をコードし、その変異の違いにより脳の鉄沈着を伴う遺伝性神経変性疾患(NBIA)の原因にもなる。我々は、iPLA2-VIAノックアウトハエが発生初期から神経伝達の障害、ドーパミン神経を含む脳神経細胞の進行性の変性を示すことを見出した。ハエの脳の脂質解析から、iPLA2-VIA活性の喪失でアシル基の短縮が起こること、アシル基短縮がリン脂質膜の平衡状態を攪乱し小胞体ストレスを惹起することが明らかとなった。
ミトコンドリア-小胞体の接点に局在するC19orf12の変異もNBIAの原因となる。iPLA2-VIAノックアウトハエにおいて、ヒトiPLA2-VIAやC19orf12の過剰発現は、脂質変化、小胞体ストレス、ドーパミン神経変性の表現型を改善した。一方、疾患型のヒトiPLA2-VIA A80Tはこれらの表現型を改善しなかった。さらに、iPLA2-VIAノックアウトハエへのリノール酸の投与によって脂質異常が改善し、ノックアウトハエでみられるα-Synuclein凝集の促進が抑制できた。これらの結果から、iPLA2-VIAによる生体膜のリモデリング(アシル基の短縮抑制)が、ドーパミン神経の生存性だけでなくα-Synucleinの凝集抑制に必要であることが示唆された。

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2019/10/07

アンジオテンシン1-7は加齢による筋力と骨量の低下を改善するが、ACE2欠損マウスにおける老化の亢進には関連しない。

論文タイトル
Angiotensin 1-7 alleviates aging-associated muscle weakness and bone loss, but is not associated with accelerated aging in ACE2-knockout mice
論文タイトル(訳)
アンジオテンシン1-7は加齢による筋力と骨量の低下を改善するが、ACE2欠損マウスにおける老化の亢進には関連しない。
DOI
10.1042/CS20190573
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Vol.133 No.18 (2005-2018)
著者名(敬称略)
野里 聡子, 山本 浩一 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学

抄訳

ACE2-アンジオテンシン1-7(A1-7)-A1-7受容体(Mas)軸はレニン-アンジオテンシン(RA)系において、アンジオテンシンIIによるAT1活性化に対して拮抗的に作用する。我々は最近ACE2欠損マウスが早期から握力の低下と骨格筋における老化指標の亢進を認めること、A1-7が高齢マウスの筋力低下を改善させることを報告した(2018 J Cachexia Sarcopenia Muscle.)。本研究ではACE2欠損マウスの生理的老化の亢進がA1-7の産生低下に関連するか検討する目的でACE2欠損マウスとMas欠損マウス、野生型マウスの比較実験を行った。結果として、ACE2欠損マウスでは早期の骨格筋機能低下や骨格筋老化指標の亢進に加え、皮下脂肪組織の加齢性の減少の亢進を認めたが、MAS欠損マウスではそのような変化を認めなかった。一方、A1-7投与は高齢野生型マウス、ACE2欠損マウスに対しては筋力低下の抑制に加え、筋サイズや骨量の増加をもたらしたが、Mas欠損マウスではそのような効果を認めなかった。本研究の結果からA1-7はMasを介して高齢マウスの筋機能や骨量を改善させるが、ACE2欠損マウスに認めた老化の亢進はA1-7-Masに関連しないことが示唆される。ACE2はRA系以外にも多彩な機能を有しており、ACE2が生体老化に及ぼす影響に関しては更なる検討が必要である。

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2019/09/19

ピロリシルtRNA合成酵素PylRS-AF変異体による、嵩高い非天然型リジン誘導体を利用した遺伝暗号拡張の構造的基盤

論文タイトル
Structural Basis for Genetic-Code Expansion with Bulky Lysine Derivatives by an Engineered Pyrrolysyl-tRNA Synthetase
論文タイトル(訳)
ピロリシルtRNA合成酵素PylRS-AF変異体による、嵩高い非天然型リジン誘導体を利用した遺伝暗号拡張の構造的基盤
DOI
10.1016/j.chembiol.2019.03.008
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Vol.28 Iss.7 (July 18,2019)
著者名(敬称略)
柳沢 達男 他
所属
理化学研究所・生命機能科学研究センター・非天然型アミノ酸技術研究チーム(研究当時)

抄訳

近年天然アミノ酸にはない機能を発揮する人工アミノ酸をタンパク質に導入する技術の開発が進んでいる。筆者等が開発したピロリシルtRNA合成酵素(PylRS)のY306A/Y384F変異体(AF変異PylRS)は、様々な官能基をもつ大きなサイズの人工アミノ酸を認識できることから世界中でタンパク質への導入に利用され、抗体医薬の作製などさまざまな用途に用いられて来た。一方でAF変異PylRSが多様な人工アミノ酸を取り込むメカニズムについては不明であった。筆者等は14種類の人工アミノ酸がAF変異PylRSにどのように結合しているかX線結晶構造解析で詳しく調べることにより、AF変異PylRSがそれぞれの人工アミノ酸に特異的に対応し、1結合型、2結合型、3結合型という異なる結合様式で人工アミノ酸を認識していることを明らかにした。AF変異PylRSの構造情報を元に設計された人工アミノ酸でタンパク質を高機能化することにより、医療や産業分野への展開が期待できる。

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2019/09/18

一酸化窒素による消化管制御の進化

論文タイトル
Evolution of nitric oxide regulation of gut function
論文タイトル(訳)
一酸化窒素による消化管制御の進化
DOI
10.1073/pnas.1816973116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 19, 2019 116 (12) 5607-5612
著者名(敬称略)
谷口 順子、谷口 俊介
所属
筑波大学 生命環境系下田臨海実験センター

抄訳

 バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)を用いて、その幼生期の胃腸において、幽門の開口は一酸化窒素によって制御されており、その近傍には神経型一酸化窒素合成酵素を発現している内胚葉由来の神経様細胞が存在していることを明らかにしました。
 ヒトを含む脊椎動物では、神経堤細胞由来の腸管神経が胃や腸といった消化管の機能を制御しています。しかし、神経堤細胞は脊椎動物でしか見られないため、消化管制御の仕組みが動物進化の過程でどのように獲得され、多様化してきたのかを議論することが不可能でした。そこで、脊椎動物と同じ後口動物に属しながら、神経堤細胞を持たない無脊椎動物である棘皮動物のウニ幼生の消化管に着目し、特に幽門の開閉がどのように制御されているのかを明らかにすることを試みました。その結果、ウニ幼生の幽門付近に神経様細胞が存在しており、そこで生産されている一酸化窒素が幽門の開口を制御していることが明らかになりました。さらに、この神経様細胞の由来を調べてみると、内胚葉由来であることが明らかになりました。このことは、ヒトを含む脊椎動物においても、消化管制御に関わる内胚葉由来の神経が新たに発見される可能性や、幽門開口の制御システムが進化の過程でどのように神経堤細胞由来のシステムへと移行していったのかを議論する上で重要なヒントを与える成果です。

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2019/09/17

中鎖脂肪酸(8:0,10:0)はサルコペニアの改善に期待される栄養素である:無作為化比較試験

論文タイトル
Medium-chain triglycerides (8:0 and 10:0) are promising nutrients for sarcopenia: a randomized controlled trial
論文タイトル(訳)
中鎖脂肪酸(8:0,10:0)はサルコペニアの改善に期待される栄養素である:無作為化比較試験
DOI
10.1093/ajcn/nqz138
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.110, No.3 (652–665)
著者名(敬称略)
阿部 咲子, 江崎 治 他
所属
昭和女子大学 生活科学研究専攻 女性健康科学研究所

抄訳

高齢フレイル入所者に、ロイシン、ビタミンD強化サプリメントと中鎖脂肪酸(MCT)6gを夕食に加えて3ケ月間摂取した群(LD+MCT群)では、筋力や筋肉機能の増加が認められている。本研究では、MCTのみの効果を調べた。介護老人保健施設の入所者(平均86歳)64人を登録し、LD + MCT群、MCT6gのみのMCT群、LCT6gのみのLCT群の3群にて3ケ月間の介入試験を実施した。ベースライン、介入開始後1.5ケ月・3ケ月(介入時)、介入終了後1.5ケ月の4回、筋力や筋肉機能、ADLを測定し、各測定項目のベースラインからの変化量を従属変数とし、群、測定時期、群と測定時期の交互作用を固定因子とし、ベースライン時の各測定値、年齢、性、BMI、握力、ADLを交絡固定因子として調整し、線形混合モデルで解析した。介入3ケ月においてベースラインからの変化量は、下肢反復開閉回数(10秒間)では、LD + MCT群2.70回、MCT群 2.28回、 LCT群 -0.59回であり、機能的自立度評価(FIM)スコア(総点126点)では、LD + MCT群6.9点、MCT群 5.6点、LCT群 -6.6点と変化した。介入開始後1.5ケ月より3ケ月でより増加し、介入終了後1.5ケ月後で減少した。MCT6g摂取のみでも、高齢者の筋力や筋肉機能、ADLを高めた。

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2019/09/13

オミックス解析で明らかになった有毒アオコ原因ラン藻ミクロキスティス・エルギノーサ感染性広域および狭域宿主ウイルスの共在

論文タイトル
Cooccurrence of Broad- and Narrow-Host-Range Viruses Infecting the Bloom-Forming Toxic Cyanobacterium Microcystis aeruginosa
論文タイトル(訳)
オミックス解析で明らかになった有毒アオコ原因ラン藻ミクロキスティス・エルギノーサ感染性広域および狭域宿主ウイルスの共在
DOI
10.1128/AEM.01170-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 18
著者名(敬称略)
森本 大地, 吉田 天士 他
所属
京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻海洋分子微生物学分野

抄訳

ラン藻ミクロキスティスは肝臓毒生産能を有し、世界中の湖沼で異常増殖してアオコを形成するため、重要な生物種と捉えられています。本種は極めて多くのウイルス耐性遺伝子を有し、多種多様なウイルスと環境中で相互作用すると示唆されてきましたが、本種感染ウイルス分離例は当研究室保有のMa-LMM01に限られていました。本研究では京都府広沢池にてウイルスメタゲノム解析をおこない、24時間に渡ってミクロキスティスとウイルスの包括的転写解析をおこないました。その結果、大きく3つのグループから成る15の新規本種感染ウイルスゲノムを明らかにしました。また環境中にはMa-LMM01のような非常に限られたミクロキスティス株にのみ感染可能な狭域宿主ウイルスと、様々なミクロキスティス株に感染可能な広域宿主ウイルスが共存することを見出しました。包括的転写解析より、ミクロキスティスは特に後者による感染に応じてウイルス耐性遺伝子を発現させることが示唆されました。

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2019/09/06

劇症1型糖尿病における膵の炎症性病変の特徴

論文タイトル
Unique Inflammatory Changes in Exocrine and Endocrine Pancreas in Enterovirus-Induced Fulminant Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
劇症1型糖尿病における膵の炎症性病変の特徴
DOI
10.1210/jc.2018-02672
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.104 No.10 (4282–4294)
著者名(敬称略)
滝田 美夏子, 小林 哲郎 他
所属
冲中記念成人病研究所

抄訳

劇症1型糖尿病(FT1DM)では発症時、膵外分泌酵素の上昇に加え、膵臓の腫大を伴う症例も報告されており、急激なβ細胞破壊と外分泌の炎症とともにおこっている可能性を裏付ける。本研究ではFT1DM膵臓の免疫組織学的および病理学的変化を検討することを目標とし、3例のFT1DM膵と17例の非糖尿病患者膵を比較検討した。CD45、CD3、CD8、CD4、CD20、CD11c、CD68陽性細胞、VP1(エンテロウイルスカプシド蛋白)、CXCL10、そのレセプターであるCXCR3を染色し、膵島および周辺の外分泌腺組織(Exo)の各免疫細胞数を計測した。膵島およびExoの各免疫細胞数はFT1DM膵ではコントロール群と比較し有意に増加し、特にCD8、CD11c、CD68陽性細胞数が高値であった。VP1はFT1DM膵では膵島、外分泌腺、膵管上皮細胞、十二指腸粘膜で陽性であった。また、FT1DM膵では膵島および外分泌腺にCXCL10陽性細胞を認め、周囲にCXCR3陽性T細胞を認めた。以上のことからFT1DM膵では膵島、外分泌腺、膵管、十二指腸粘膜のウイルス感染に伴って樹状細胞やマクロファージが浸潤することが明らかとなった。またサイトカインやケモカインを介して活性化した自己反応性T細胞によって外分泌腺の炎症が惹起され、β細胞死に陥る可能性が示唆された。

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2019/09/04

両側性アルドステロン症において非機能性と診断される副腎腫瘍からも微量のコルチゾール自律分泌があり予後に影響する

論文タイトル
Latent Autonomous Cortisol Secretion From Apparently Nonfunctioning Adrenal Tumor in Nonlateralized Hyperaldosteronism
論文タイトル(訳)
両側性アルドステロン症において非機能性と診断される副腎腫瘍からも微量のコルチゾール自律分泌があり予後に影響する
DOI
10.1210/jc.2018-02790
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.104 No.10 (4382–4389)
著者名(敬称略)
大野 洋一, 曽根 正勝 他
所属
京都大学医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科

抄訳

本研究では原発性アルドステロン症(PA)において非機能性と診断された副腎腫瘍がPA患者に与える影響を検討した。日本全国29施設共同で作成したPA患者データベース(JPAS)の内、副腎静脈サンプリングで両側性と診断された527例を、診断基準上非機能性の副腎腫瘍がある群とない群に分け、両群の患者背景とホルモン値の比較を行った。すると、腫瘍あり群はなし群と比べ、糖尿病及び蛋白尿の有病率が有意に高く、年齢、性別といった患者背景を調整した上でも、1mgデキサメサゾン抑制試験(DST)後コルチゾール値が有意に高かった。さらに腫瘍サイズは1mgDST後コルチゾール値と有意な正相関を認めた。これまで1mgDSTでコルチゾール値1.8 µg/dL以下に抑制される副腎腫瘍は非機能性と考えられていたが、本研究によって、コルチゾール自律産生能がないと診断された副腎腫瘍であっても、微量なコルチゾール産生能が存在し、糖尿病や蛋白尿を引き起こす可能性が示唆された。

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2019/09/04

原発性アルドステロン症患者における腎障害は、血漿アルドステロン濃度と密接に相関している

論文タイトル
Renal impairment is closely associated with plasma aldosterone concentration in patients with primary aldosteronism
論文タイトル(訳)
原発性アルドステロン症患者における腎障害は、血漿アルドステロン濃度と密接に相関している
DOI
10.1530/EJE-19-0047
ジャーナル名
European Journal of Endocrinology
巻号
Vol.181 No.3 (339–350)
著者名(敬称略)
川島 彰透, 曽根 正勝 他
所属
京都大学医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科

抄訳

【目的】原発性アルドステロン症 (PA)はしばしば腎障害を合併する.PAにおける腎障害の有病率と,そのオッズ比を増加させる因子を解析した.
【デザイン】日本におけるPA患者の多施設共同研究 (JPAS)のデータベース,および本態性高血圧症 (EHT)患者のデータを後ろ向きに解析した.
【方法】PA患者のchronic kidney disease (CKD),蛋白尿,推算糸球体濾過量(eGFR)低下の有病率を調査し、年齢,性別、収縮期血圧,罹病期間をマッチさせたEHT患者と比較した.また,これら腎障害のオッズ比を増加させる因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析した.
【結果】2366人のPA患者のうち,腎障害の有病率は,CKD 19.7%,蛋白尿 10.3%, eGFR低下 11.6%であった.背景因子をマッチさせたEHT患者との比較では,PA患者で蛋白尿が有意に多かったが (16.8% vs 4.4%, p = 0.002),CKD,eGFR低下は有意差を認めなかった (28.9% vs 19.1%, p = 0.079, 17.2% vs 15.0%, p = 0.628).多変量ロジスティック回帰分析では,既存のリスク因子で調整しても,血漿アルドステロン濃度 (PAC)はCKD,蛋白尿,eGFR低下のオッズ比を増加させた. 【結論】PA患者における腎障害はPACと密接に相関していた.同じJPASのデータベースを用いた研究で,我々は,PA患者における脳卒中・虚血性心疾患などの心血管合併症はPAC自体との直線的な相関を認めないと報告しており,PA患者における腎障害は大血管合併症とは異なる機序が想定された.

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2019/09/03

ストレスによって引き起こされる母乳タンパク質の低下には、乳腺由来のノルアドレナリンによる作用が関与している。

論文タイトル
Stress-Induced Suppression of Milk Protein Is Involved in a Noradrenergic Mechanism in the Mammary Gland
論文タイトル(訳)
ストレスによって引き起こされる母乳タンパク質の低下には、乳腺由来のノルアドレナリンによる作用が関与している。
DOI
10.1210/en.2019-00300
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Vol.160 No.9 (2074–2084)
著者名(敬称略)
千葉 健史 他
所属
北海道科学大学薬学部薬学科 臨床薬学部門 臨床薬剤学分野

抄訳

授乳期のストレスは、母乳タンパク質等の母乳成分や、母乳産生量の低下を引き起こすことが知られている。本研究では、始めに、ヒト母乳中にノルアドレナリン(NA)が存在していること、乳腺上皮がNAを合成し、母乳中へ分泌していることを明らかにした。また、マウスモデルを用いた実験により、ストレス負荷マウスでは、乳腺上皮におけるNA合成律速酵素のチロシン水酸化酵素の発現や母乳中NA濃度が上昇すること、その一方で母乳タンパク質の一つであるβ-カゼイン濃度は減少することが明らかとなった。さらに、マウス乳腺上皮の頂端膜側(母乳側)にはアドレナリンβ2受容体が発現していることが明らかとなった。一方、NAで処理した正常ヒト乳腺上皮細胞HMECにおけるβ-カゼインの発現量はNA濃度依存的に減少し、β2刺激薬サルブタモールで処理した非腫瘍性ヒト乳腺上皮細胞MCF-12Aにおけるβ-カゼインの発現量もサルブタモール濃度依存的に減少した。これらの結果は、ストレスによる母乳タンパク質の減少には、上昇した母乳中NAによるアドレナリンβ2受容体を介した作用が関与していることを示唆している。

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2019/08/29

マウスにおけるオートファジー基礎活性欠損は、甲状腺濾胞上皮細胞死を誘導する。

論文タイトル
Basal Autophagy Deficiency Causes Thyroid Follicular Epithelial Cell Death in Mice
論文タイトル(訳)
マウスにおけるオートファジー基礎活性欠損は、甲状腺濾胞上皮細胞死を誘導する。
DOI
10.1210/en.2019-00312
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.9 (2085–2092)
著者名(敬称略)
蔵重 智美, 永山 雄二 他
所属
長崎大学原爆後障害医療研究所 細胞機能解析部門 分子医学研究分野

抄訳

この論文は、細胞内蛋白分解機構の1つであるオートファジーの甲状腺特異的ノックアウトマウスを作出して、甲状腺機能・形態の変化を検討したものである。Atg5flox/floxマウス(ATG5はオートファジーに必要な蛋白の1つ)とTPO-Creマウス(甲状腺のみでCreを発現)を交配して作出したノックアウトマウスでは、ATG5の発現が消失し、LC3の点状集積消失とp62の集積が認められたことから、オートファジー機能欠損が確認された。1年間の観察期間を通じてノックアウトマウスの甲状腺機能は正常であったが、4か月齢マウスで、活性酸素の増加によると考えられるDNA損傷マーカー(8-OHdGと53BP1集積)の増加とユビキチン化蛋白の集積が認められ、8~12か月齢マウスでは、アポトーシス細胞死による濾胞上皮細胞の減少と、それによる濾胞上皮細胞の菲薄化、さらに異常形態濾胞(瓢箪型)の出現が観察された。これらの結果から、オートファジー基礎活性が甲状腺濾胞上皮細胞の生存・ホメオスターシス維持であることが明らかとなった。

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2019/08/27

プラディミシンのマンノース認識機構と菌細胞表面イメージングへの応用

論文タイトル
Molecular Basis of Mannose Recognition by Pradimicins and their Application to Microbial Cell Surface Imaging
論文タイトル(訳)
プラディミシンのマンノース認識機構と菌細胞表面イメージングへの応用
DOI
10.1016/j.chembiol.2019.03.013
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Vol.26 Iss.7 (July 18,2019)
著者名(敬称略)
中川 優 他
所属
名古屋大学 大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 生物活性分子研究室

抄訳

プラディミシン A (PRM-A) は,マンノース (Man) と特異的に結合するユニークな天然物である。現時点において,水中でManを特異的に認識する低分子化合物は他に存在しないことから,PRM-Aは極めて貴重な糖鎖研究用ツールとなる可能性を秘めている。しかしながら,PRM-Aの発見以来約30年間そのMan認識機構は不明であり,実用的なツール分子の開発に成功した例はなかった。  本研究では,X線結晶構造解析と固体NMR解析を用いてPRM-AによるMan認識メカニズムの概要を初めて明らかにするとともに,その知見に基づいてMan認識能を保持したままアジド基を導入したPRM-A誘導体 (PRM-Azide) を開発した。さらに,PRM-Azideを用いて真菌Candida rugosaの細胞壁マンナン (Manを構成糖とする多糖) を蛍光染色できることを実証した。本結果は,PRM-AzideがManを有する糖鎖を蛍光染色するツール分子として利用できる可能性を示唆するものである。

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2019/08/21

オールドキノロン系薬は小児患者から分離されるキノロン低感受性インフルエンザ菌の識別に有用である

論文タイトル
Earlier generation quinolones can be useful in identifying Haemophilus influenzae strains with low susceptibility to quinolone isolated from paediatric patients
論文タイトル(訳)
オールドキノロン系薬は小児患者から分離されるキノロン低感受性インフルエンザ菌の識別に有用である
DOI
10.1099/jmm.0.001027
ジャーナル名
Journal of Medical Microbiology
巻号
Journal of Medical Microbiology Vol 68 Issue 8 (2019) 1227-1232
著者名(敬称略)
田中 愛海、輪島 丈明 他
所属
東京薬科大学 薬学部 病原微生物学教室

抄訳

 近年、日本では小児領域において、キノロン系薬に対し感受性が低下したインフルエンザ菌(キノロン低感受性株)が出現している。キノロン低感受性株は、小児用量における最高血中濃度のキノロン系薬曝露後でも生存可能であるにも関わらず、通常の感受性試験では「感受性」と判定される。そこで、本研究では、ディスク拡散法を用いた低感受性株の簡易的かつ低価格な識別法の確立を目的とした。ディスク拡散法には、33株の臨床分離株と感受性基準株を使用した。薬剤は、レボフロキサシン、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、ピぺミド酸を用いた。それぞれの阻止円とキノロン耐性決定領域(QRDR)のアミノ酸置換の相関を評価したところ、すべての株がレボフロキサシンとノルフロキサシンに対し、明瞭な阻止円を形成した。一方で、低感受性株では、ナリジクス酸に対する阻止円が認められなかった。さらに、QRDRに2つのアミノ酸置換を有する低感受性株では、ピぺミド酸に対する阻止円も認められなかった。これは、オールドキノロン系薬に対する阻止円の有無で、遺伝子解析なしでも、高感度にキノロン低感受性株を検出可能であることを示している。本検出法は、キノロン系薬の不適切な使用を減らすことに貢献できると考えられる。

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2019/07/29

6日連続の朝食欠食が若年健常者のエネルギー代謝と血糖値の変動に及ぼす影響

論文タイトル
Effect of skipping breakfast for 6 days on energy metabolism and diurnal rhythm of blood glucose in young healthy Japanese males
論文タイトル(訳)
6日連続の朝食欠食が若年健常者のエネルギー代謝と血糖値の変動に及ぼす影響
DOI
10.1093/ajcn/nqy346
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
The American Journal of Clinical Nutrition Vol.110 Issue.1
著者名(敬称略)
緒形 ひとみ 他
所属
広島大学 大学院総合科学研究科 行動科学講座

抄訳

大規模疫学調査等によって、朝食欠食は肥満や生活習慣病と関連していることが報告され、また一過性の食事介入実験でも平均血糖値に影響を及ぼすことが明らかとなっている。本研究では、健康な男性10名を対象に1日の摂取エネルギー量は等しい6日間の食事介入(1日3食摂取または1日2食(朝食欠食))実験を行い、朝食欠食が生体に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。食事介入期間中は持続血糖測定を行い、介入6日目にはエネルギー代謝を測定した。その結果、就寝前の血糖値は朝食欠食試行で有意に高値を示し、食事介入1日目のみ昼食後の血糖値が大きく上昇した。また、食事介入6日目は座位安静を保ってエネルギー代謝測定を行ったため、平均血糖値が高いという結果となった。24時間のエネルギー消費量や酸化基質に違いは認められなかった。安静と朝食欠食が血糖値の上昇をもたらすことが示され、血糖コントロールにおける身体活動と朝食摂取の必要性が示唆された。

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