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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2020/02/27

自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義

論文タイトル
Autoimmune Pituitary Disease: New Concepts With Clinical Implications
論文タイトル(訳)
自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義
DOI
10.1210/endrev/bnz003
ジャーナル名
Endocrine Reviews
巻号
Vol.41 No.2 (bnz003)
著者名(敬称略)
山本 雅昭, 高橋 裕 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病内分泌内科学

抄訳

リンパ球性下垂体炎やACTH単独欠損症などの下垂体疾患は自己免疫が示唆されているが、その機序は明らかではない。
抗PIT-1抗体症候群(抗PIT-1下垂体炎)は最近報告された下垂体炎の亜型であり、後天性に下垂体ホルモンの中でGH, PRL, TSHの特異的欠損をきたす新しい疾患概念である。その原因として胸腺腫や悪性腫瘍が、GH, PRL, TSH産生細胞に特異的な転写因子であるPIT-1を異所性に発現し、免疫寛容破綻を生じることが示されている。そしてマーカーとして血中に自己抗体である抗PIT-1抗体を認めるとともに、PIT-1タンパクを認識する細胞障害性T細胞が下垂体細胞を特異的に障害することが明らかになった。
最近、ACTH単独欠損症に肺大細胞神経内分泌癌を合併した症例が報告された。興味深いことに、腫瘍がACTHを異所性に発現しており、血中には抗POMC(ACTHの前駆体)抗体とPOMC特異細胞障害性T細胞を認めたことから、傍腫瘍症候群特に傍腫瘍性神経症候群と同様の機序で発症したことが示された。
これらの結果は、原因不明の自己免疫性下垂体疾患の少なくとも一部の成因が傍腫瘍症候群であることを示しており、本総説ではこれらの新しい疾患概念とともにその臨床的意義を解説する。

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2020/02/25

援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から

論文タイトル
Contents and Intensity of Services in Low- and High-Fidelity Programs for Supported Employment: Results of a Longitudinal Survey
論文タイトル(訳)
援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から
DOI
10.1176/appi.ps.201900255
ジャーナル名
Psychiatric Services
巻号
Psychiatric Services Published online 3 Jan 2020
著者名(敬称略)
山口創生
所属
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部

抄訳

目的 援助付き雇用プログラムにおけるサービス密度とプログラムの再現性との関連については検証が不十分である。本研究は、ある施設が科学的に効果的とされる援助付き雇用プログラムを実践する際に、どの程度再現しているかについて得点化するフィデリティ尺度を用いて、低再現グループと高再現グループにおけるサービス内容と密度を比較し、日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度の妥当性を検証することを目的とした。
方法 13施設の援助付き雇用プログラムにおける統合失調症を持つ利用者51名を対象とした。12ヵ月間に渡って、彼らの就労アウトカムとサービス受給データを収集した。本研究は、低再現グループ(7施設のプログラム, 29名)と高再現グループ(6施設のプログラム, 22名)における就労アウトカムやサービス内容、サービス密度を比較した。
結果 両グループにおいて、サービス全体の70%が、就労支援サービスの開始後の最初の6ヵ月間に提供されていた。また、低再現グループの就労率(38%)と比較し、高再現グループは高い就労率(68%)を有していた。高再現グループの就労支援員は施設外の職場開発に最も大きなエフォートを費やしていたが、低再現グループは集団サービスにより多くの時間を費やしていた。加えて、低再現グループと比べ、高再現グループの利用者は、就労前に施設外での支援(アウトリーチサービス)や施設内での就労相談などの個別サービスをより集中的に受けていた。しかしながら、就労後の定着支援について、グループ間のサービス密度の差は観察されなかった。
結論 再現性の高い援助付き雇用プログラムは、特に利用者が就職する前に、施設内外で集中的な個別支援を提供していた。今後の課題として、フィデリティ尺度が計測する組織レベルのサービスの質と個人レベルの定着支援の量、利用者の個別ニーズとの関連を検証することがあげられる。

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2020/02/18

ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –

論文タイトル
Histamine receptor agonist alleviates severe cardiorenal damages by eliciting anti-inflammatory programming
論文タイトル(訳)
ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –
DOI
10.1073/pnas.1909124117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 11, 2020 117 (6) 3150-3156
著者名(敬称略)
野口 和之、石田 純治、深水 昭吉 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 深水研究室(ゲノム情報生物学)

抄訳

「心腎連関」は、心臓と腎臓それぞれの障害が相互作用し、両臓器の機能が低下することに由来する概念です。しかし、腎臓の機能低下による心臓血管病の発症リスクの増加や、心臓血管病患者が高率に腎機能障害を引き起こす仕組みの詳細は未解明です。我々は、血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの投与(A)、片腎摘出(N)、食塩水負荷(S)によって心不全を誘導するマウス(ANSマウス)を用い、ANSマウスが心不全に加え、腎臓の糸球体濾過機能の低下やタンパク尿、尿細管障害など、慢性腎臓病様の病態を示すことを見出しました。また、ANSマウスの血中で低分子アミンであるヒスタミンが増加していること、ANSマウスへのヒスタミン受容体阻害剤の投与や、遺伝的にヒスタミンを産生できないANSマウスでは、心腎障害が悪化したのに対し、ヒスタミンH3受容体アゴニストのイメトリジン(Imm)がANSマウスの心腎連関障害に保護的に作用することを突き止めました。さらに、ANSマウスで急性期炎症が生じていることが判明しましたが、網羅的な遺伝子発現解析から、ANSマウスの腎臓では炎症関連遺伝子の発現が有意に亢進し、これらの変化はImmの投与で軽減したことから、Immの抗炎症作用が証明されました。今後、心腎連関の発症メカニズムの理解や薬剤開発の促進が期待されます。

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2020/02/17

多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定

論文タイトル
In Vitro Derivation of Fluoroquinolone-Resistant Mutants from Multiple Lineages of Haemophilus influenzae and Identification of Mutations Associated with Fluoroquinolone Resistance
論文タイトル(訳)
多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定
DOI
10.1128/AAC.01500-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 2
著者名(敬称略)
本田 宏幸、佐藤 豊孝 他
所属
札幌医科大学 医学部 微生物学講座

抄訳

Haemophilus influenzaeは呼吸器感染症を引き起こす病原菌であるが、β-lactam系抗菌薬耐性、特にβ-lactamase-negative high-level ampicillin-resistant H. influenzae (high-BLNAR)の増加が問題となっている。また、その治療薬となるフルオロキノロンに耐性を示す株も報告されている。本薬剤耐性の出現メカニズムの解明の為、我々は、フルオロキノロン感受性臨床分離株29株をモキシフロキサシン存在下(0.03~128 mg/L)で継代培養し本耐性変異株を選択した。17株(58.6%)がモキシフロキサシに感受性低下を示し、その内10株(34.5%)が、CLSIのbreakpoint(MIC >1mg/ L)を超えた(10株中7株はhigh-BLNAR)。これら変異株から既知のキノロン耐性決定領域(QRDR)での遺伝子変異に加え、45の遺伝子に56の新規な遺伝子変異を同定した。その中で、GyrA のGlu153Leu、ΔGlu606、GyrBのSer467Tyr、Glu469Asp、そしてOmpP2変異がフルオロキノロン耐性に関与していることを見出した。以上から、本研究ではH. influenzaeは複数の新規変異を伴いフルオロキノロン耐性を獲得し、本耐性はhigh-BLNARに高頻度に付与されることを明らかにした。high-BLNARが増加している背景から、臨床現場でのフルオロキノロン耐性H. influenzaeの動向には注視する必要がある。

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2020/01/31

Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能

論文タイトル
Visualization of Nigrosome 1 from the Viewpoint of Anatomic Structure
論文タイトル(訳)
Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能
DOI
10.3174/ajnr.A6338
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 41, No. 1 (86-91)
著者名(敬称略)
荒井 信行 他
所属
名古屋市立大学病院 診療技術部 放射線技術科

抄訳

黒質緻密部に存在するnigrosome1は,MRIにおいてパーキンソン病の進行例では描出されにくくなるが,健常者やパーキンソン病の軽度進行例においても本来描出されるべきnigrosome1が描出不良となったり左右非対称に描出されることがあり,鑑別が困難となることがある.今回われわれは静磁場方向に対する頭部の傾きと魔法角,さらに磁化率に着目し,nigrosome1の解剖学的な傾斜構造を考慮した描出不良の原因について初めてアプローチした.9点マルチエコーのスポイルド型3D-GRE法を使用し,魔法角の影響を調べるために静磁場方向に対して健常ボランティアの頭部を右傾斜,左傾斜,0°に設定し,傾斜角度と左右のnigrosome1の描出能の関係と磁化率の関係,さらに局所磁場の影響について調べた.頭部を右傾斜,左傾斜にした方が0°の時よりも有意にコントラストが上昇した.そして0°の時は魔法角の影響が顕著であり,これは磁化率強調像で裏付けられた.nigrosome1の解剖学的な傾斜構造は,磁気双極子相互作用による魔法角と干渉し,これによりnigrosome1は非対称の描出,もしくは描出不良となることがある.

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2020/01/31

CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo-EM Structures of Centromeric Tri-nucleosomes Containing a Central CENP-A Nucleosome
論文タイトル(訳)
CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1016/j.str.2019.10.016
ジャーナル名
Structure
巻号
Structure, Volume 28, Issue 1, P44-53.E4, January 07, 2020
著者名(敬称略)
滝沢 由政、何 承翰、立和名 博昭、胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学定量生命化学研究所 胡桃坂研究室

抄訳

ヒストンH3のバリアントであるCENP-Aは、セントロメアを規定するために必要不可欠なエピジェネティックマーカーである。CENP-Aを含むヌクレオソームは、特徴的な構造を有し、セントロメアクロマチンの高次構造を形成すると考えられている。しかし、CENP-Aを含むヌクレオソームによるセントロメアクロマチンの高次構造は、未だ不明な点が多い。本研究では、CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアクロマチンを模倣した試験管内再構成トリヌクレオソームを作製し、三次元構造をクライオ電子顕微鏡解析により決定した。得られた構造より、H3-H3-H3トリヌクレオソームとH3-CENP-A-H3トリヌクレオソームは、それぞれリンカーDNAパスが異なり、中心に位置するCENP-Aヌクレオソームの配向は、同じ位置のH3ヌクレオソームの配向と比べて大きく異なることが分かった。興味深いことに、このCENP-Aヌクレオソームの配向の違いにより、凝集したクロマチンの中で、CENP-Aヌクレオソームは溶液中に露出されることが示唆された。これらの結果は、CENP-Aを含むクロマチンの三次元構造を理解し、多数のH3 ヌクレオソームが存在するセントロメアクロマチンにおいて、セントロメアタンパク質がどのようにCENP-Aヌクレオソームを標的とするのかを説明できるかもしれない。

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2020/01/27

ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立

論文タイトル
Reverse Genetics System for a Human Group A Rotavirus
論文タイトル(訳)
ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立
DOI
10.1128/JVI.00963-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 94, Issue 2
著者名(敬称略)
川岸 崇裕、小林 剛 他
所属
大阪大学微生物病研究所 ウイルス免疫分野

抄訳

 ロタウイルスは11分節のRNAゲノムを有し、乳幼児に重篤な急性胃腸炎を引き起こすウイルスである。最近、我々はサルロタウイルスにおいて、11分節のウイルスゲノムを発現するプラスミドDNAから任意の組換えウイルスを人工合成できるリバースジェネティクス(RG)系の開発に成功した。しかし、サルロタウイルスとヒトロタウイルス間ではウイルス学的性状が異なる部分も多く、ヒトロタウイルスの増殖機構や病態発現機序をより理解するためには、ヒトロタウイルスのRG系の確立が望まれていた。
 本研究において、我々は世界的に流行している遺伝子型の一つであるG4P[8]型に属するヒトロタウイルスOdelia株のRG系の開発に成功した。さらに、Odelia株のRG系を用いて、免疫抑制活性を有するロタウイルスNSP1タンパク質における変異ウイルスを作製し、解析を行った。その結果、ヒトロタウイルスNSP1のC末端側166アミノ酸残基の領域がウイルス複製において重要な役割を担っていることが明らかとなった。本技術の開発により、ヒトロタウイルスの性状解析や予防・治療法開発の進展が期待される。

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2020/01/22

スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖

論文タイトル
Single-cell transcriptomics reveals expansion of cytotoxic CD4 T cells in supercentenarians
論文タイトル(訳)
スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖
DOI
10.1073/pnas.1907883116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS November 26, 2019 116 (48) 24242-24251
著者名(敬称略)
橋本浩介、広瀬信義、ピエロカルニンチ 他
所属
理化学研究所生命医学研究センター トランスクリプトーム研究チーム

抄訳

スーパーセンチナリアンは110歳に到達した特別長寿な人々のことを指し、自立的な生活を送る期間が長いことから、理想的な健康長寿のモデルと考えられている。我々は、スーパーセンチナリアン7人と50~80歳の5人から採血を行い、末梢血単核球を抽出して1細胞レベルのトランスクリプトーム解析を行った。合計で約6万細胞を調べたところ、スーパーセンチナリアンでは、通常あまり存在しないCD4陽性キラーT細胞が増加していることが明らかになった。これらのT細胞はCD4陽性でありながらCD8陽性キラーT細胞に似た遺伝子発現パターンを示す。更に、2人のスーパーセンチナリアンについて、T細胞受容体の配列を1細胞レベルで解析した。その結果、多くのCD4陽性キラーT細胞が同一の受容体を持つことが明らかになり、特定の抗原に対してクローン性増殖を起こしたことが示唆される。今後の研究によって、CD4陽性キラーT細胞が老化や長寿において果たす役割の解明が期待される。

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2020/01/22

多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例

論文タイトル
A Case of Hashimoto’s Thyroiditis with Multiple Drug Resistance and High Expression of Efflux Transporters
論文タイトル(訳)
多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例
DOI
10.1210/clinem/dgz073
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.105 No.2 (dgz073)
著者名(敬称略)
吉田 知彦, 田中 知明
所属
千葉大学大学院医学研究院・分子病態解析学講座

抄訳

【背景】甲状腺機能低下を伴う橋本病患者では通常、合成甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の経口投与で甲状腺機能が正常化されるが、一部の患者で効果が得られない場合があり、その原因は不明である。一方、癌や感染症の治療における薬剤耐性機構に薬剤排泄に機能するABCトランスポーターが関わることが知られている。今回、レボチロキシン補充療法に重度の治療抵抗性を示す橋本病患者を経験した。そのメカニズムに小腸におけるABCトランスポーター高発現が関与することを明らかにした。 【症例】本症例は橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、難治性高血圧を合併し、様々な経口薬剤の高用量投与にもかかわらず薬理効果が十分に得られない状態が続いていた。患者リンパ球を用いた解析では、健常者に比べてABCG2/BCRPの発現亢進と薬剤排泄能の亢進を認めた。そして、その特徴はABCG2/BCRPの特異的阻害薬Fumitremorgin Cによって阻害された。小腸上皮におけるこれらの薬剤排泄トランスポータの発現亢進も認めた。更に、レボチロキシン・降圧薬ロサルタンの粉砕投与後には、薬剤耐性の改善を認めた(血中TSH値と平均血圧の低下効果)。 【結語】薬剤耐性を示す橋本病患者の病態において、小腸でのABCG2/BCRPの高発現ならびに機能亢進が関与し、薬剤の粉砕投与が有効である可能性が示唆された。

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2020/01/20

食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する

論文タイトル
Dysregulation of Intestinal Microbiota Elicited by Food Allergy Induces IgA-Mediated Oral Dysbiosis
論文タイトル(訳)
食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する
DOI
10.1128/IAI.00741-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 1
著者名(敬称略)
片岡 嗣雄 他
所属
朝日大学 口腔感染医療学講座 口腔微生物学分野

抄訳

食物アレルギーは、生命を脅かす過剰な免疫応答であり、その発症には、腸内細菌叢の病的な構成変化(ディスバイオーシス)が関与していることが知られている。しかし、その詳細なメカニズム、ならびに食物アレルギーが口腔内細菌叢に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、卵白アルブミンを抗原として食物アレルギーモデルマウスを作製し、その糞便中の生菌をMALDI-ToF-MS法(バイテックMS)で解析して、Citrobacter菌群が顕著に増加していることを発見した。この菌は、マウス腸管上皮細胞株からTh2応答を促進するサイトカインであるIL-33の発現を誘導していた。以上より、食物アレルギーによって腸内で増殖したCitrobacterが、IL-33の産生を介して症状を増悪させていることが示された。また、同マウス口腔内ではIgAとそれに結合する細菌が増加しており、食物アレルギーによって口腔細菌叢も変化することが示唆された。

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2020/01/20

1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ

論文タイトル
Type 1 Innate Lymphoid Cells Protect Mice from Acute Liver Injury via Interferon-γ Secretion for Upregulating Bcl-xL Expression in Hepatocytes
論文タイトル(訳)
1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ
DOI
10.1016/j.immuni.2019.11.004
ジャーナル名
Immunity
巻号
Immunity, Volume 52, Issue 1, P96-108.E9, January 14, 2020
著者名(敬称略)
鍋倉 宰、渋谷 彰 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究(TARA)センター、医学医療系、革新的創薬開発研究センター

抄訳

 1型自然リンパ球(ILC1)は肝常在性のILCとして発見され、インターフェロン-g(IFN-g)産生能を持つ免疫細胞である。しかし肝臓におけるILC1の生理的・病理的な役割は未だ明らかになっていない。我々は、四塩化炭素(CCl4)投与による急性肝障害マウスモデルにおいて、肝ILC1が活性化しIFN-gを産生する事を見出した。この時、肝NK細胞は活性化していなかった。これら活性化した肝ILC1はCCl4誘導性急性肝障害の軽快に寄与し、このILC1による急性肝障害の保護作用はIFN-g依存的である事が示された。CCl4誘導性急性肝障害の発症時、肝ILC1の活性化とIFN-g産生には活性化受容体DNAM-1が必要である事が示された。また、細胞外ATPがインターロイキン(IL)-12によるILC1のIFN-g産生を促進する事が明らかとなった。更に、活性化ILC1から産生されるIFN-gは、Bcl-xLの発現上昇を介して肝細胞の生存に寄与する事が明らかになった。以上の結果は、ILC1が急性肝障害において保護的な役割を持つ事を示している。

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2020/01/16

フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析

論文タイトル
Environmental Presence and Genetic Characteristics of Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae from Hospital Sewage and River Water in the Philippines
論文タイトル(訳)
フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析
DOI
10.1128/AEM.01906-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 86, Issue. 2
著者名(敬称略)
鈴木由希、矢野寿一 他
所属
奈良県立医科大学 微生物感染症学講座

抄訳

 薬剤耐性菌対策の一環として、ヒト・動物・環境を包括的に捉えた取り組みが必要とされている。私たちは、フィリピンの環境調査により分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科(CPE)について、その分子遺伝学的特徴を明らかにした。
 2016年~2018年の期間に、フィリピンの病院排水(7病院)、河川水より計83検体を採取し、分離されたCPEについて、薬剤感受性試験、遺伝子解析による耐性遺伝子およびプラスミド型別、MLSTを実施した。耐性遺伝子の伝達能評価として、大腸菌を受容株とした接合伝達試験を行った。
 採取した検体より、Enterobacter属やKlebsiella属、大腸菌等51株のCPEが分離された。耐性遺伝子は、フィリピンのヒト臨床で多く分離されるNDM型が39株と最も多く、その他KPC型、OXA-48型なども検出された。MLST解析では、大腸菌11株のうち6株は、ヒトや動物などから広く検出されるclonal complex 10に属した。プラスミドはIncX3が多く検出され、CPE 51株中24株が大腸菌J53に伝達可能であった。
 本研究により、フィリピンの環境におけるCPEの存在が明らかとなった。ヒトから検出報告のある耐性菌の耐性遺伝子、ゲノム型と同様のものが検出され、ヒト由来耐性菌の環境への流出や、環境中での広がり、環境からヒトへの伝播の可能性が推察された。

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2020/01/10

ユリアーキアPyrococcus furiosus由来、エンドヌクレアーゼQの基質認識

論文タイトル
Molecular Basis of Substrate Recognition of Endonuclease Q from the Euryarchaeon Pyrococcus furiosus
論文タイトル(訳)
ユリアーキアPyrococcus furiosus由来、エンドヌクレアーゼQの基質認識
DOI
10.1128/JB.00542-19
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Volume 202, Issue 2
著者名(敬称略)
白石 都 他
所属
大阪大学 大学院基礎工学研究科

抄訳

エンドヌクレアーゼQ (EndoQ) は2015年に発見されたDNAエンドヌクレーゼである。EndoQはDNA中のウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、脱塩基部位を認識し、その5′側のDNA主鎖にニックを入れる。このためEndoQは一部のアーキア、真正細菌においてDNA修復に関与すると考えられているが、EndoQの基質認識機構については未だに理解が乏しい。我々は生化学的手法を用いて、EndoQの基質特異性の範囲とその選択性、損傷塩基の対塩基による活性への影響を調べた。これらの結果より、P. furiosus由来のEndoQは変異原性の損傷塩基に特徴的なイミド構造を認識し、損傷塩基の認識は自然発生的な塩基のフリップアウトが重要であることが示唆された。さらに、上述の損傷塩基に加え、新たにEndoQが5,6-ジヒドロウラシル、5-ヒドロキシウラシル、5-ヒドロキシシトシンに対して活性を示すことが明らかとなった。

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2019/12/23

嫌気性繊毛虫とそのヒドロゲノソームに付随する2つの細胞内共生体、ホロスポラ類縁α- Proteobacteriaとメタン生成アーキアからなる3者間共生系

論文タイトル
Tripartite Symbiosis of an Anaerobic Scuticociliate with Two Hydrogenosome-Associated Endosymbionts, a Holospora-Related Alphaproteobacterium and a Methanogenic Archaeon
論文タイトル(訳)
嫌気性繊毛虫とそのヒドロゲノソームに付随する2つの細胞内共生体、ホロスポラ類縁α- Proteobacteriaとメタン生成アーキアからなる3者間共生系
DOI
10.1128/AEM.00854-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
竹下 和貴、新里 尚也
所属
琉球大学・熱帯生物圏研究センター

抄訳

嫌気性繊毛虫の多くは細胞内にメタン生成アーキアとバクテリアを細胞内共生させているが、培養による維持が難しいためにその生理や生態について解析が進んでいない。本研究では、排水処理施設より嫌気性繊毛虫GW7株の安定培養株を確立し、電子顕微鏡観察とドメイン特異的な蛍光 is situ ハイブリダイゼーション(FISH)により、GW7株が細胞質内にアーキアとバクテリアの細胞内共生体を保持していることを明らかにした。これらの細胞内共生体は、嫌気環境下で水素とATPを生産する細胞内小器官であるヒドロゲノソームにそれぞれ付随しており、16S rRNA遺伝子のクローン解析や共生体特異的なFISHにより、細胞内共生アーキアはMethanoregula属のメタン生成アーキアであり、これは以前にGW7株とは系統的に離れたMetopus属繊毛虫の細胞内共生体として報告されていたものに近縁であった。細胞内共生バクテリアは、様々な繊毛虫の細胞内共生体が含まれるα-ProteobacteriaのHolosporaceae科に属していた。本研究では、この細胞内共生体について、Candidatus Hydrogenosomobacter endosymbioticusとして新属、新種提案を行った。

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2019/12/20

真核生物由来のピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素の触媒ドメインとシトクロムドメインの結晶構造解析

論文タイトル
Crystal Structure of the Catalytic and Cytochrome b Domains in a Eukaryotic Pyrroloquinoline Quinone-Dependent Dehydrogenase
論文タイトル(訳)
真核生物由来のピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素の触媒ドメインとシトクロムドメインの結晶構造解析
DOI
10.1128/AEM.01692-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
武田 康太、中村 暢文 他
所属
東京農工大学 工学部生命工学科

抄訳

1960年代のピロロキノリンキノン(PQQ)の発見以来、多くのPQQ依存性酵素が原核生物で見出されてきた。一方で、真核生物におけるPQQ依存性酵素の存在は長らく疑問視されていたが、2014年に真核生物で初となる、担子菌Coprinopsis cinerea由来のPQQ依存性ピラノース脱水素酵素を我々が報告した。本酵素はPQQドメインに加え、シトクロムドメインとセルロース結合性ドメインを有したキノヘモプロテインである。本研究ではPQQドメインとシトクロムドメインの立体構造を決定することに成功し、構造学的な証拠をもって、このピラノース脱水素酵素の補酵素がPQQであることを証明した。アミノ酸配列の相同性が低いにもかかわらず、既知のPQQ依存性酵素と同じく6枚羽根のスーパーバレル構造であった。シトクロムドメインでは、ヘムプロピオン酸近傍の正電荷を有するアルギニン残基の存在が本酵素の特徴であった。

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2019/12/18

IncP-9群分解プラスミドの接合伝達には未解析だったmpfK遺伝子が必要; mpfKホモログは様々なMPFT型プラスミドに良く保存されている

論文タイトル
Conjugative transfer of IncP-9 catabolic plasmids requires a previously uncharacterized gene, mpfK, whose homologs are conserved in various MPFT-type plasmids
論文タイトル(訳)
IncP-9群分解プラスミドの接合伝達には未解析だったmpfK遺伝子が必要; mpfKホモログは様々なMPFT型プラスミドに良く保存されている
DOI
10.1128/AEM.01850-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 85, Issue 24
著者名(敬称略)
岸田 康平・津田 雅孝 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科

抄訳

細菌プラスミドの接合伝達は、プラスミド支配で供与菌細胞表層に構築される4型分泌装置(T4SS)を介して起きる。ただ、接合特異的T4SS形成に必須な最小遺伝子セットが実験的に提示されたプラスミドは数例に限定される。我々は、ナフタレン分解プラスミドNAH7の接合伝達に、T4SS形成のいわゆる最小遺伝子セットに加え、未解析だったmpfKの必須性を見出した。MpfKはペリプラズムに局在し、MpfK内のシステイン残基間ジスルフィド結合がプラスミドの効率的伝達に必要だった。mpfKホモログは多様な不和合性群由来のプラスミド上に存在するものの、いずれのプラスミドともMPFT型のT4SSを有していた。当該プラスミドのうち、NAH7と同一のIncP-9群pWW0のmpfKホモログは自身の接合伝達に必要だったが、他不和合性群のR388やR751のホモログは各々の接合伝達に不必要だった。一方で、後3者のmpfKホモログはいずれもNAH7 mpfK変異体の接合伝達欠損を相補可能という特色があった。

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2019/12/16

2014年から2016年の間に本邦の82医療施設で分離されたClostridioides difficileの薬剤感受性および全ゲノム解析による特徴付け

論文タイトル
Antimicrobial Susceptibility and Molecular Characterization Using Whole-Genome Sequencing of Clostridioides difficile Collected in 82 Hospitals in Japan between 2014 and 2016
論文タイトル(訳)
2014年から2016年の間に本邦の82医療施設で分離されたClostridioides difficileの薬剤感受性および全ゲノム解析による特徴付け
DOI
10.1128/AAC.01259-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 63, Issue 12
著者名(敬称略)
青木 弘太郎 他
所属
東邦大学医学部 微生物・感染症学講座

抄訳

全国の医療施設で実施されたバンコマイシン (VCM) 対照二重盲検無作為化並行群間比較フィダキソマイシン (FDX) 第三相試験に参加した成人Clostridioides difficile感染症 (CDI) 患者から治療前後に分離されたC. difficileについて、薬剤感受性測定ならびに全ゲノム解析による分子生物学的特徴づけを行った。全285株のC. difficileが82施設の患者から分離され、うち188株が治療前に分離された。さらにそのうち87株がFDX、101株がVCM治療群だった。治療前に分離された菌株はFDXに低感受性あるいはバンコマイシンに耐性を示さなかった。それらの菌株は32のsequence types (STs)に分けられ、最も高率に検出されたのはST17 (n=61 [32.4%])であり、次いで ST8 (n=26 [13.8%])、ST2 (n=21 [11.2%])だった. コアゲノム分子系統解析の結果、各施設におけるアウトブレイク発生は否定的だった。トキシンA+B+バイナリトキシン-の遺伝子型の菌株が最も多かった (n=149 [79.3%])。FDX治療群87症例のうち6症例でFDX低感受性株が分離された。それら6症例の治療前後に分離された菌株のFDX標的酵素アミノ酸配列を比較した結果、FDX感受性低下に寄与する既知の変異RpoB Val1143Leu/Gly/AspあるいはRpoC Arg89Glyおよび未報告の変異RpoB Gln1149ProあるいはRpoC Arg326Cysが検出された。アリル組換え実験は実施しなかった。本邦のFDX治験参加患者において、FDX使用前にはFDX低感受性株は分離されなかったが、同薬剤の使用後にはFDX低感受性変異株が検出された。

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2019/11/28

健常および肥満の肝G6pcレポーターマウスにおけるSGLT2阻害剤の単回および長期投与に対する肝糖新生応答

論文タイトル
Hepatic Gluconeogenic Response to Single and Long-Term SGLT2 Inhibition in Lean/Obese Male Hepatic G6pc-Reporter Mice
論文タイトル(訳)
健常および肥満の肝G6pcレポーターマウスにおけるSGLT2阻害剤の単回および長期投与に対する肝糖新生応答
DOI
10.1210/en.2019-00422
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.160 No.12 (2811–2824)
著者名(敬称略)
稲葉 有香、橋内 咲実 他
所属
金沢大学新学術創成研究機構栄養・代謝研究ユニット

抄訳

 ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤(SGLT2i)は、2型糖尿病患者の血糖値を持続的に低下させる。一方で、肝糖新生酵素遺伝子発現・肝糖産生を増加させることが報告されている。本研究は、肝糖新生応答に対するSGLT2iの作用、及びそのメカニズムを解明することを目的とした。
 肝糖新生応答の経時的モニタリングを行うため、肝糖新生酵素遺伝子であるG6pcのプロモーター制御により、分泌型ルシフェラーゼ(GLuc)が肝特異的に発現するレポーターマウスを作出した。本レポーターマウスに対し、SGLT2iの単回または長期投与を行い、肝糖新生応答を検討した。健常マウスへの単回投与は、血糖値・インスリンを低下させ、GLuc活性を上昇させた。自由摂餌下で、肥満マウスのGLuc活性は、健常時の約10倍に増強した。肥満マウスへの単回投与は、血糖値・インスリン値を低下させたが、GLuc活性には影響しなかった。健常マウスで認められた、インスリンの低下に伴う肝Aktリン酸化の減弱が、肥満マウスでは認められなかった。健常マウスへのSGLT2i長期投与は、GLuc活性を上昇させたが、肥満マウスでは、投与開始後3週間からGLuc活性を減少させた。この時、肥満マウスのSGLT2i群では、肝Aktリン酸化が、対照と比較し増強した。
  本研究により、1)健常マウスへのSGLT2iの単回投与による肝糖新生応答の増加が、肥満マウスでは認められないこと、2)肥満マウスへの長期投与は、インスリンシグナル伝達障害を改善させ、肥満誘導性の肝糖新生応答の増加を軽減させること、を明らかにした。

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2019/11/25

日本人集団におけるビタミン摂取量,ABCA1遺伝子のDNAメチル化率,脂質指標との関連

論文タイトル
Associations between dietary vitamin intake, ABCA1 gene promoter DNA methylation, and lipid profiles in a Japanese population
論文タイトル(訳)
日本人集団におけるビタミン摂取量,ABCA1遺伝子のDNAメチル化率,脂質指標との関連
DOI
10.1093/ajcn/nqz181
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.110 Issue 5
著者名(敬称略)
藤井 亮輔、鈴木 康司 他
所属
藤田医科大学 医療科学部 臨床検査学科

抄訳

 本研究では、HDLコレステロールの生成に重要な役割を果たしているATP-binding cassette protein A1(ABCA1)という分子に注目した。近年の研究によって、ABCA1遺伝子のDNAのメチル化によって血清HDLコレステロール値が低下し、循環器疾患を発症していることは明らかになっていた。その一方で、どのような生活習慣によってABCA1のDNAメチル化が変化するか、はそれほど明らかになっていなかった。  そこで、ABCA1 DNAメチル化を変化させる生活習慣として、野菜の摂取とりわけビタミン摂取量に着目した。これらの摂取量とABCA1 DNAメチル化率との関連、さらにそれを介したHDLコレステロール値との関連を約230名の日本人集団を対象として媒介分析によって検討した。その結果、ビタミンCの摂取量が多い人は、ABCA1 DNAメチル化低値を介して、血清HDLコレステロール値が有意に高いということが明らかになった。今回の研究成果は、ビタミンCの循環器疾患に対する予防的な効果をABCA1のDNAメチル化が媒介している可能性を示唆するものであり、一般的な日本人集団においての循環器疾患予防について新たな分子メカニズムとなり得ると考えている。

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2019/11/22

ウイルスポリメラーゼであるPB1のTyr82残基に変異を導入した組換えインフルエンザウイルスは、Mutator株(高頻度変異導入株)として機能する

論文タイトル
Tyr82 Amino Acid Mutation in PB1 Polymerase Induces an Influenza Virus Mutator Phenotype
論文タイトル(訳)
ウイルスポリメラーゼであるPB1のTyr82残基に変異を導入した組換えインフルエンザウイルスは、Mutator株(高頻度変異導入株)として機能する
DOI
10.1128/JVI.00834-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 93, Issue 22
著者名(敬称略)
内藤 忠相 他
所属
川崎医科大学 微生物学教室

抄訳

 インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節化された1本鎖RNAであり、ウイルス由来RNAポリメラーゼであるPB1蛋白質(Polymerase Basic Protein 1)によって複製されるが、新規合成されたRNAゲノム内には1万塩基あたり約1個の頻度で変異が生じる。
 著者らは、PB1ポリメラーゼを構成するアミノ酸の中で、82番目のTyr残基がゲノム複製忠実度の制御に重要であることを明らかにした。具体的には、インフルエンザウイルス実験室株(PR8株:A/Puerto Rico/8/1934/H1N1株)を用いて、PB1のTyr82残基をCys残基に置換した組換えウイルス(PR8-PB1-Y82C株)を作出して変異導入効率を算出した結果、PR8野生株より約2倍の頻度で複製エラーが起きやすいことがわかった。このような組換えPB1-Y82Cウイルスを高頻度変異導入株(Mutator株)として利用することで、実験室内においてウイルス進化速度を加速させることが可能となり、将来的に市中流行株として出現の可能性がある“抗原変異株”や“抗ウイルス薬耐性株”を先回りして予測するシステムの開発が期待できる。

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