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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2024/09/11

膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する

論文タイトル
CREB activates the MafA promoter through proximal E-boxes and a CCAAT motif in pancreatic β-cells
論文タイトル(訳)
膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する
DOI
10.1530/JME-24-0023
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JME-24-0023
著者名(敬称略)
會田 侑希 片岡 浩介
所属
横浜市立大学 生命医科学研究科 生体機能医科学研究室
著者からのひと言
本論文では、MafA遺伝子の転写制御を調べる中で、転写因子CREBが本来の結合配列CREに依存せずに転写を活性化することを見出し、報告しました。β細胞では、CREBはCREに加えてNF-Yにも依存するようで、そのような遺伝子としてIslet1やNkx6.1を見出しました。これらもβ細胞で重要な転写因子で、それらの発現がインクレチンによって制御される仕組みにアプローチできたと考えています。

抄訳

InsulinやGlut2遺伝子を標的とする転写因子MafAは、β細胞の機能に必須である。二型糖尿病に伴うβ細胞の機能不全は、MafAの発現低下によって起きると考えられている。一方、二型糖尿病の治療薬でもあるインクレチンは、転写因子CREBを活性化してMafAの発現上昇を促すが、その詳細は不明であった。ChIP-seqによるとCREBはMafA遺伝子の遠位β細胞エンハンサーとプロモーターの両方に結合していた。エンハンサーにはCREBの結合配列CREがあり、活性化に必須なことをレポーターアッセイで示した。一方でプロモーターにはCRE配列がなく、β細胞転写因子NeuroD1の結合配列E-boxとユビキタスな転写因子NF-Yの結合配列CCAATの両方が活性化に必要であった。ゲノム全体でもCREBはCCAAT配列の近傍に結合しており、NF-Yを介したDNAへのアクセスも重要なことが示唆された。

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2024/09/10

医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例

論文タイトル
Discrepant serum creatinine concentrations caused by paraprotein interference preceding diagnosis of monoclonal gammopathy of undetermined significance
論文タイトル(訳)
医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例
DOI
10.1136/bcr-2023-256242
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol.17 Iss.4 (2024)
著者名(敬称略)
小原 幸、稲葉 亨、中田 徹男、的場 聖明
所属
京都薬科大学 病態薬科学系 - 臨床薬理学分野
著者からのひと言
クレアチニン値に乖離を認めたことより、精査の結果MGUSが診断された症例を経験しました。本ケースは自動検体測定装置からのアラート発出も無く、偽検査結果も極端な基準値からの逸脱でなかったことより、偽結果がそのまま患者本人に返却されました。臨床医は、血液検査結果に乖離を認めた際、本症例の様なパラプロテイン干渉による偽結果も念頭に置き、診療に携わる必要があると考えられました。

抄訳

かかりつけ医療機関と他医での健康診断の際の血清クレアチニン値に乖離が生じており、精査の結果パラプロテイン干渉による検査値異常が見いだされ、MGUSの診断に至った一例を経験した。 症例は70歳代男性。労作性狭心症等で内服薬による加療を受けていた。健康診断を別医療機関で受診し、クレアチニン高値 (1.75 mg/dL)により、腎機能障害を指摘された。かかりつけ医療機関でのクレアチニン値(0.87 mg/dL)と乖離が見られたため、臨床検査部、検査試薬企業検査部とともに精査をすすめた。患者同一検体を用いて、2医療機関で使用されたクレアチニン測定キットを含む複数のキットでの測定結果を、リファレンスとして測定した液体クロマトグラフィーによる結果と検証した。クレアチニン値の測定キットは全て酵素法であったが、検診時の採用キットのみ測定の第一過程で検査試薬添加時に検体の混濁が認められ、最終検査結果に影響を与えたと考えられた。パラプロテイン干渉が疑われ、Mタンパク血漿(monoclonal γgl 0.3 g/dL, IgG-λ)が認められ、MGUSと診断された。検査機関により、血液検査結果に乖離がある場合、パラプロテイン血症による偽結果も念頭におき診療する必要があると考えられる。

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2024/09/06

脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価

論文タイトル
Image Quality Evaluation for Brain Soft Tissue in Neuro -endovascular Treatment by Dose-reduction Mode of Dual-axis “Butterfly” Scan
論文タイトル(訳)
脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価
DOI
10.3174/ajnr.A8472
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
Accepted Manuscripts
著者名(敬称略)
細尾 久幸 他
所属
筑波大学附属病院 脳卒中科/筑波大学 医学医療系 脳卒中予防治療学講座
著者からのひと言
同一平面上のみならず垂直方向の振り子状の動きも加わった撮像法Butterfly CBCTは、従来のCBCTと比較し画質が向上した。本撮像法は、若干高線量であったため、今回線量低減モードを用いた。結果、線量が減ってもアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト改善がみられた。これら結果から、例えば早期脳虚血性変化検出には通常モード、出血性合併症検出には70%線量、複数回治療や小児では50%線量を選択するなど、目的に応じた使い分けを提案する。

抄訳

【背景】脳血管内治療において出血性合併症を検出のため、Flat panel CBCTによるCT like imageの撮像は必須である。従来のCBCTと比較し、1軸平面に加え、垂直方向の振り子様の動きも加わったButterfly CBCTでは、画質が向上したが若干高線量だった。本研究では、線量を低減したButterfly CBCTの画質を評価した。【方法】予定脳血管内治療症例で、70%線量と50%線量Butterfly CBCTに振り分け、従来のCBCTと画質を比較した。【結果】20例ずつ計40例。従来のCBCTと比較し70%線量Butterflyではアーティファクト軽減、コントラストおよび皮髄境界識別能改善がみられた。50%線量ではアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト軽減は認めたが、皮髄境界識別能は改善なかった。【結論】線量を低減しても、Butterfly CBCTの軌道により、アーチファクト軽減、コントラスト向上、皮髄境界識別能の改善を認めた。しかし、特に骨の干渉のある後頭部においては、コントラストや皮髄境界識別能に、線量低減の影響がみられた。

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2024/08/20

加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する

論文タイトル
SDHAF1 confers metabolic resilience to aging hematopoietic stem cells by promoting mitochondrial ATP production
論文タイトル(訳)
加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する
DOI
10.1016/j.stem.2024.04.023
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Cell Stem Cell Volume 31 Issue 8
著者名(敬称略)
綿貫慎太郎、小林 央、田久保圭誉 他
所属
東北大学大学院医学系研究科、国立国際医療研究センター研究所
著者からのひと言
この論文の最初の着想は、加齢造血幹細胞が解糖系を欠失した状況でも生存可能という現象の発見でした。そこから足かけ6年以上かかりましたが、単一細胞ATP測定技術や少数細胞の同位体トレーサー解析など総力を結集して、当初のきっかけであった解糖系に留まらない加齢造血幹細胞の生存を優位にさせる代謝プログラムを明らかにし、幹細胞の老化の新たな一面を明らかにできたと考えています。

抄訳

幹細胞は加齢に伴って数と機能が低下すると一般に考えられていますが、血液を産生する造血幹細胞(HSC)は、加齢により数が増加するという一見矛盾する挙動を示します。本研究では、加齢マウスを用いた実験で、HSCが老化に伴い、通常であれば細胞死を招くような様々な代謝ストレスに対して耐性を持ち、生存優位性を獲得することを発見しました。さらに、加齢HSCでは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体の活性を上昇させるSDHAF1が蓄積し、その結果、酸化的リン酸化によるATPの産生が増強され、代謝ストレスに対する耐性が向上することが判明しました。実際に、若齢HSCにSDHAF1を過剰発現させると、加齢HSCと同様の代謝特性や細胞死耐性が見られました。これらの研究結果から、加齢HSCは単なる機能低下した細胞ではなく、エネルギー代謝の観点から見ると“強い”HSCであることが明らかになりました。この知見に基づき、加齢に関連する血液異常を改善する新たな治療法の開発が期待されます。

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2024/08/16

細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する

論文タイトル
Lipid-orchestrated paracrine circuit coordinates mast cell maturation and anaphylaxis through functional interaction with fibroblasts
論文タイトル(訳)
細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2024.06.012
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 57 Issue 8
著者名(敬称略)
武富 芳隆, 村上 誠 他
所属
東京大学 大学院医学系研究科

抄訳

マスト細胞の成熟はアレルギー感受性と関連する。線維芽細胞のSCFとマスト細胞のSCF受容体(Kit)のシグナル伝達に加え、接着因子やIL-33などがマスト細胞成熟に関わることが示唆されてきたが、その分子機序は不明であった。脂質関連分子の欠損マウスの表現型スクリーニングを通じ、リン脂質分解酵素PLA2G3、PGD₂の合成酵素L-PGDSと受容体DP1、リゾリン脂質LPAの受容体LPA₁がマスト細胞成熟不全とアナフィラキシー低応答性を示すことを見出した。PLA2G3はマスト細胞から分泌され、細胞外小胞のリン脂質を分解し、線維芽細胞由来のLPA産生酵素ATXと協調してLPAを動員した。LPAは線維芽細胞のLPA₁受容体を活性化し、インテグリンによる細胞接着、IL-33シグナル、PGD₂-DP1受容体シグナル、ATX-LPA₁の発現を統括することにより、マスト細胞成熟を誘導した。このことから、本経路を標的とした創薬はマスト細胞が関連するアレルギー疾患の予防治療に有効であることが期待される。

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2024/08/13

放射光X線µCTを用いた非破壊・3次元可視化によるグラニュール汚泥の微生物・空隙分布の解明

論文タイトル
Nondestructive and three-dimensional visualization by identifying elements using synchrotron radiation microscale X-ray CT reveals microbial and cavity distributions in anaerobic granular sludge
論文タイトル(訳)
放射光X線µCTを用いた非破壊・3次元可視化によるグラニュール汚泥の微生物・空隙分布の解明
DOI
10.1128/aem.00563-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
浦崎 幹八郎 諸野 祐樹 久保田 健吾 他
所属
東北大学 大学院環境科学研究科
著者からのひと言
微生物は多様な環境に生息しています。その群集構造に影響を与える要因の一つが、周囲の物理的環境です。本研究では、従来のアプローチでは難しかったバイオフィルム中の微生物分布を、放射光X線μCTを用いて3次元的に非破壊検出することに成功しました。この技術では、約200nmのボクセルサイズにより個々の微生物細胞を識別可能で、微生物とその生息環境との関係解明に有用だと考えています。

抄訳

微生物とその周囲の生息環境の関係を理解するために、放射光X線µCTを利用した非破壊3次元微生物可視化法を開発した。全ての微生物細胞をオスミウム染色するためにオスミウム・チオカルボヒドラジド・オスミウム法を、特定の系統群の微生物を金標識するためにgold in situ hybridization法を、それぞれ採用した。染色したサンプルは、エポキシ樹脂に包埋しCT撮影を行った。L3吸収端前後の撮影画像を用いた減算法により、オスミウムと金のシグナルをそれぞれ可視化した。Escherichia coliとComamonas testosteroniの混合物を用いてプロトコルを最適化したところ、オスミウム染色した細胞は検出できたが、金標識した細胞は検出できなかった。次に、嫌気性グラニュール汚泥にも本技術を適用し、微生物細胞と細胞外高分子物質の分布を可視化した。その結果を基に汚泥中の空隙分布を可視化したところ、大きさの異なる多数の独立した空隙が確認された。開発した方法は、他の様々な環境サンプルにも適用可能である。

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2024/08/01

単純ヘルペスウイルス1型のICP22とFACTの相互作用がウイルス遺伝子発現および病原性に与える影響

論文タイトル
Impact of the interaction between herpes simplex virus 1 ICP22 and FACT on viral gene expression and pathogenesis
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型のICP22とFACTの相互作用がウイルス遺伝子発現および病原性に与える影響
DOI
10.1128/jvi.00737-24
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
劉 少聰、丸鶴 雄平、川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ICP22欠損ウイルスの表現型から、ICP22がHSV-1の効率的な遺伝子発現に必要であることは長く知られていましたが、その機能発現機構には不明な点が多く残されていました。この論文によりICP22とFACTの相互作用がHSV-1の遺伝子発現に貢献することが明らかになったことで、「ICP22はFACTの機能を制御し、HSV-1遺伝子の転写を促進する」という、ICP22の機能発現機構の一端を明らかにすることができました。

抄訳

Facilitates chromatin transcription(FACT)は、ヌクレオソームと相互作用し、RNAポリメラーゼII (pol II)の下流および上流でヌクレオソームの解離と再構成を制御することで転写を促進する。先行研究では、HSV-1(単純ヘルペスウイルス1型)タンパク質ICP22が感染細胞においてFACTと相互作用し、FACTをウイルスDNAにリクルートすることが報告されていたが、ウイルス生活環における両者の相互作用の意義は不明であった。本研究は、ICP22がFACTと効率的に相互作用する為に必要な最小ドメインとして、ICP22内の5つの塩基性アミノ酸から成るクラスターを同定した。この塩基性アミノ酸クラスターにアラニン置換変異を導入した組換えHSV-1は、感染細胞におけるUL54、 UL38、 及びUL44のmRNA量、ウイルスDNAにおけるpol II結合量、感染マウスの致死率が野生株と比較して有意に低下した。更に、FACT阻害剤であるCBL0137はHSV-1感染によるマウスの致死率を有意に低下させた。これらの結果は、ICP22とFACTの相互作用が効率的なHSV-1遺伝子発現と病原性に必要であり、FACTがHSV感染症の治療標的となることを示唆する。

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2024/07/31

白色か褐色か ―機械学習を使って木材腐朽菌を糖関連酵素の遺伝子数から分類してみた―

論文タイトル
Random forest machine-learning algorithm classifies white- and brown-rot fungi according to the number of the genes encoding Carbohydrate-Active enZyme families
論文タイトル(訳)
白色か褐色か ―機械学習を使って木材腐朽菌を糖関連酵素の遺伝子数から分類してみた―
DOI
10.1128/aem.00482-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol.90 No.7
著者名(敬称略)
長谷川 夏樹 五十嵐 圭日子 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
著者からのひと言
木材腐朽菌(きのこ)は、地球上で最も強力な分解者であると言われていますが、あのように硬い木を、どのようにして常温常圧で分解するのかは未だに理解されていません。この仕組みが分かれば、木の成分から燃料やプラスチック等の様々な物質を作ることができるようになります。今回の研究ではAIを用いて、これまで人間の目では解析しきれなかったその仕組みに迫ることができたと考えています。

抄訳

一般的に「きのこ」と総称される糸状菌の大部分は「木材腐朽菌」と呼ばれる担子菌類に分類されますが、木材腐朽菌はさらに腐朽した後の木材の色の違いによって「白色腐朽菌」と「褐色腐朽菌」とに大別されます。白色腐朽菌は、木材の三大成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンを一様に分解するのに対して、褐色腐朽菌は主に多糖(セルロースとヘミセルロース)を選択的に分解することから、これまで両者の違いはリグニンの分解性の違いによって説明されてきました。そこで本研究では、232種類の木材腐朽菌ゲノムに含まれる11万4千の糖関連酵素遺伝子の数を、ランダムフォレストという機械学習アルゴリズムを用いて学習させ、それらの遺伝子数の違いが腐朽様式の違いに与える影響を調べました。その結果、糖加水分解酵素(GH)ファミリー7に属するセロビオヒドロラーゼ(Cel7)やリグニン分解酵素として代表的なAAファミリー2のペルオキシダーゼも両腐朽様式を見分けるために重要とされましたが、もっとも重要であったのがセルロースの表面を酸化して他のセルロース分解酵素の働きを助けるLPMOであることが分かりました。この発見は、昨今多糖の分解での機能が注目されてきたLPMOが、リグニンの分解にも関与している可能性を示唆するとともに、人間が見つけることができない両腐朽様式での違いを、機械学習で発見できることを明らかにしました。木材腐朽菌は地球上で唯一木材を単独で分解できる生き物であることから、このような生物種によって木の成分がどのように利用されているかを知ることで、より高度なバイオマスの利用法が期待できます。

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2024/07/12

ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性

論文タイトル
Unraveling emergent network indeterminacy in complex ecosystems: A random matrix approach
論文タイトル(訳)
ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性
DOI
10.1073/pnas.2322939121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Vol. 121 No. 27
著者名(敬称略)
川津 一隆
所属
東北大学 大学院生命科学研究科
著者からのひと言
「風が吹けば桶屋が儲かる」は因果の連鎖が意外な結果を引き起こすことの例えとしてよく知られています。ですが、実生活でこのような体験が頻繁に起こることはないのではないでしょうか?本研究では「桶屋が儲かる」が事前に分かる条件、すなわち「どんなネットワークでどんな風が吹いたか」を理論的に明らかにしたもので、生態学のみならず人間社会全般でインパクトを与える結果になると考えています。

抄訳

第三者を介した間接的な相互作用は、「敵の敵は味方」のように、直接的な種間関係からは予期できない結果を引き起こす。特に、複雑なネットワークでは、膨大な数になる間接効果が撹乱の影響を予測困難にすると考えられてきた。しかしながら、このネットワーク不確定性がどのような生態系で生じるかについてはほとんど分かっていなかった。そこで著者はランダム行列理論と呼ばれる数学理論を応用し、多様な種間関係のバランスが不確定性を創発する鍵であることを世界で初めて明らかにした。具体的には、不確定性は上位捕食者が卓越する食物網で一般的なのに対し、従来の予測に反して競争/協力関係を多く擁する群集では起こりにくいことが分かった。本研究で提示した生態系応答の予測可能条件は、生物多様性保全に重要な示唆を与えるほか、結果から因果関係を推定するネットワーク同定の逆問題にも応用でき、医学などの他分野への貢献も期待される。

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2024/07/10

酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する

論文タイトル
Yeast Rim11 kinase responds to glutathione-induced stress by regulating the transcription of phospholipid biosynthetic genes
論文タイトル(訳)
酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する
DOI
10.1091/mbc.E23-03-0116
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 1
著者名(敬称略)
安川 泰史 野田 陽一 他
所属
安川 泰史:三菱商事ライフサイエンス株式会社
野田 陽一:東京大学大学院 農学生命科学研究科・応用生命工学専攻
著者からのひと言
この論文は、代表的な抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の量が、細胞内で一定の範囲内で制御される仕組みの解明に迫るものです。出芽酵母を用いた類似の先行研究では、過剰量のGSHで還元ストレスと増殖遅延が引き起こされ、その後小胞体ストレス応答(UPR)によって増殖が回復することが報告されています(C. Kumar, 2011)。今回興味深いことに、Rim11がUPRとは別経路で機能することも分かりました。システイン化合物であるGSHを細胞がどのようにして「手なずけている」のか、このメカニズムの解明は、GSH高生産細胞の作出にも応用できると期待されます。

抄訳

グルタチオン(GSH)はγ-Glu-Cys-Glyで構成され、活性酸素種の消去や蛋白質の立体構造化に関与する。GSH欠乏の報告は多数存在する一方、高レベルのGSHに対する細胞生理学的研究は少ない。本研究では、S. cerevisiaeにGSH膜輸送体Hgt1経由で過剰量のGSHを細胞内に流入させ増殖遅延を誘導し(この状態をGSHストレスと定義する)、この遅延を抑圧する多コピーサプレッサーをゲノムワイドに探索した。その結果、糖飢餓応答因子として知られるリン酸化酵素RIM11が取得された。表現型解析の結果、RIM11が自己リン酸化活性を通じてGSHストレス応答で機能することを見出した。次にRNA-seq解析より、糖濃度の感知に関わるHXT1/2(低/高親和性ヘキソース輸送体)およびリン脂質生合成遺伝子の転写量が、Rim11活性に正に依存する知見を得た。さらにリピドミクス解析より、GSHストレス誘導によってホスファチジルコリン/セリン/エタノールアミンが減少し、ホスファチジルイノシトールは増加した。ここにRIM11を過剰発現させると、これらリン脂質が一様に増加に転じ、GSHストレスを抑圧する効果が見られた。しかし,RIM11 K68Aの過剰発現では、この効果は得られなかった。以上より我々は、Rim11が糖飢餓応答を活性化させ、GSHストレス誘導によるリン脂質構成の不均衡を部分的に解除することで、GSHストレスを減弱化させるモデルを提唱する。

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