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2024/05/20

頭蓋底腫瘍に対するdistal balloon protection techniqueを用いた内頸動脈由来栄養動脈の塞栓術について

論文タイトル
Tumor Embolization via the Meningohypophyseal and Inferolateral Trunk in Patients with Skull Base Tumors Using the Distal Balloon Protection Technique
論文タイトル(訳)
頭蓋底腫瘍に対するdistal balloon protection techniqueを用いた内頸動脈由来栄養動脈の塞栓術について
DOI
10.3174/ajnr.A8169
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology May 2024, 45 (5) 618-625
著者名(敬称略)
山城 慧 他
所属
福岡大学 医学部 脳神経外科
(研究時所属:藤田医科大学 岡崎医療センター 脳神経外科)
著者からのひと言
頭蓋底腫瘍の多くは腫瘍摘出によって治療されますが、血流豊富な腫瘍では腫瘍摘出前に栄養動脈を塞栓することがあります。本論文では頭蓋底腫瘍に対する腫瘍塞栓術の中でも、特に塞栓が難しく合併症リスクの高い内頸動脈由来腫瘍栄養動脈の塞栓術に関する新しい手術方法について論じています。本論文の方法を用いることで、頭蓋底腫瘍における術前塞栓の適応が広がることが期待されます。

抄訳

【目的】頭蓋底腫瘍はしばしばmeningohypophyseal trunk (MHT)やinfelolateral trunk (ILT)由来の栄養血管を有しているが、通常これらの血管は強く蛇行しており、マイクロカテーテルの挿入が難しい。我々は以前より、MHTやILTに対してカテーテル挿入ができない場合でも対応できるようdistal balloon protection techniqueを用いて腫瘍塞栓術を行ってきた。本研究ではその有効性と合併症リスクについて報告する。
【方法】2010年から2023年の間に藤田医科大学で頭蓋底腫瘍に対してdistal balloon protection techniqueを用いてMHTまたはILTの術前塞栓術を行った患者を対象とした。この手技では、眼動脈分岐部でバルーンを用いて内頸動脈を一時的に閉塞させた上でマイクロカテーテルをMHTまたはILT近傍まで誘導して塞栓粒子を対象血管に向けて注入し、内頸動脈に逆流した塞栓粒子を吸引した後に内頸動脈遮断を解除した。
【結果】21回の手術で合計25本のMHTとILTが塞栓された。これら25本の動脈のうちマイクロカテーテルが挿入できたのは9本(36.0%)のみであったが、全例(100%)で効果的な塞栓が確認された。永続的合併症は1例(4.8%)のみで、ILT塞栓例で網膜中心動脈が閉塞し視野欠損が生じた。塞栓性脳梗塞に起因する永続的合併症は観察されなかった。
【結論】Distal balloon protection techniqueを用いることで対象血管にカテーテルを挿入しなくても十分な塞栓効果が得られ、本法はMHTやILTにカテーテルが挿入できない場合のsalvage techniqueとして有用と考えられる。 

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2024/05/17

フェルラ酸から一段階でバニリンを生成する酵素の開発

論文タイトル
Engineering a coenzyme-independent dioxygenase for one-step production of vanillin from ferulic acid
論文タイトル(訳)
フェルラ酸から一段階でバニリンを生成する酵素の開発
DOI
10.1128/aem.00233-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
藤巻 静香 古屋 俊樹 他
所属
東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科
著者からのひと言
バニラの甘い香り成分であるバニリンを、植物由来のフェルラ酸から一段階で生成する酵素の開発に成功しました。米ぬかや小麦ふすま等の農産廃棄物から豊富に得られるフェルラ酸を、開発した酵素と常温で混ぜるだけでバニリンを生成できるため、確立した技術は簡便かつ環境にやさしい香料化合物生産手法を提供することができます。

抄訳

バニラアイスクリームやシュークリームの上質な甘い香りの主成分は、ラン科のバニラ属植物から得られるバニリンという化合物である。さまざまなスイーツの香料や香粧品などに広く使用されており、世界的に需要の高い化合物だが、植物からの抽出により得られる量は限られているため価格高騰がしばしば問題となる。本研究では、植物由来のフェルラ酸から一段階でバニリンを生成する酵素の開発に成功した。フェルラ酸をバニリンに変換する酵素の創製を試行錯誤する中で、フェルラ酸と部分構造が類似するイソオイゲノールという化合物を変換する酵素に着目した。この酵素タンパク質を分子進化させたところ、3つのアミノ酸残基を変えるだけでフェルラ酸をバニリンに変換するようになることを発見した。原料のフェルラ酸は米ぬかや小麦ふすま等の農産廃棄物から豊富に得られる化合物である。このフェルラ酸と開発した酵素を常温で混ぜるだけでバニリンを生成できるため、確立した技術は簡便かつ環境にやさしい香料化合物生産手法を提供することができる。

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2024/05/16

進行卵巣癌を疑い施行した審査腹腔鏡で結核性腹膜炎と診断した一例

論文タイトル
Tuberculous peritonitis diagnosed following laparoscopic examination for suspected advanced ovarian cancer
論文タイトル(訳)
進行卵巣癌を疑い施行した審査腹腔鏡で結核性腹膜炎と診断した一例
DOI
10.1136/bcr-2023-257973
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.17 Iss.3 (2024)
著者名(敬称略)
野中 みづき  石田 洋昭
所属
東邦大学医療センター 佐倉病院 産婦人科
著者からのひと言
近年は、初回で切除困難と判断された進行卵巣癌は病理組織検査と遺伝学的検査を実施する目的で審査腹腔鏡を実施する機会が増えています。結核性腹膜炎は卵巣癌と類似しており、術前の診断が困難な疾患で、術後の病理組織診断で結核と診断される事も少なくありません。今回の症例を後方視的に検討し、術前に結核性腹膜炎を鑑別疾患に入れる事が可能か否か、結核性腹膜炎の卵巣癌との類似点を考察しました。

抄訳

腹腔内探索および組織サンプリングのための腹腔鏡検査は、最初の手術で完全な腫瘍縮小を達成することが難しいと考えられる進行卵巣がんに有用です。これは、進行性卵巣がんの疑いがある患者で腹腔鏡検査を受け、後に病理学的に結核性腹膜炎と診断された症例の報告です。便秘を訴える50代女性。 画像検査で大量の腹水が示されたため、さらなる評価のために紹介されました。 我々は当初、大量の腹水と複数の腹膜結節の存在により進行卵巣がんを疑いました。しかし、審査腹腔鏡での病理組織検査の結果、結節は結核であることが判明し、結核性腹膜炎と診断されました。結核性腹膜炎は誤診されたり、進行卵巣がんと間違われたりする可能性があることに注意することが重要です。結核性腹膜炎の術前診断は多くの場合困難です。術中所見でびまん性の結節性播種性病変が見られる場合は、結核性腹膜炎を考慮する必要があります。

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2024/05/14

牛舎排泄物処理メタン発酵槽から分離した新種の通性嫌気性プロピオン酸生成細菌Brooklawnia propionicigenes

論文タイトル
Brooklawnia propionicigenes sp. nov., a facultatively anaerobic, propionate-producing bacterium isolated from a methanogenic reactor treating waste from cattle farms
論文タイトル(訳)
牛舎排泄物処理メタン発酵槽から分離した新種の通性嫌気性プロピオン酸生成細菌Brooklawnia propionicigenes
DOI
10.1099/ijsem.0.006320
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74, Issue 4
著者名(敬称略)
秋田康弘(筆頭著者)、上木 厚子(連絡著者) 他
所属
山形大学農学部
著者からのひと言
再生可能エネルギーであるメタン(バイオガス)を未利用バイオマスから回収できる有機性廃水の嫌気処理に関する技術開発が進んでいる。嫌気処理では初めに多種の嫌気性細菌が有機物を分解して酢酸やプロピオン酸等の短鎖脂肪酸を生成するが、プロピオン酸は高濃度で蓄積して発酵槽のpHを低下させる要因になり易い。本研究で明らかになったBrooklawnia propionicigenesの生理的性質とその多様性は、メタン発酵系におけるプロピオン酸の動向を探る上での重要な知見と共に、ビタミンB12の微生物的工業生産に関わる新たな情報を提供する。

抄訳

牛舎からの排泄物や廃水を嫌気処理するメタン発酵槽から分離し、その系統や生理的特徴等を調べた発酵性嫌気性細菌株のうち、16S rRNA遺伝子塩基配列がほぼ同じで同種とみなされた通性嫌気性プロピオン酸生成細菌4菌株について、ゲノム解析を含む包括的な特徴づけを行った。これらの菌株の最近縁種はBrooklawnia cerclae BL-34T (配列類似性96.4%)だった。細胞はいずれもグラム陽性多型桿菌で、増殖に伴って大きな凝集塊を作る菌株があった。どの菌株も糖類を発酵して酢酸、プロピオン酸、乳酸を生成したが、プロピオン酸生成量は菌株により異なった。主要な菌体脂肪酸はanteiso-C15:0やC15:0等で、メナキノンMK-9(H4)を持っていた。SH051T株のゲノムは大きさが3.21 Mb、G+C 含量は 65.7 mol%で、プロピオン酸生成経路のWood-Werkman pathway全遺伝子とその経路に必須のビタミンB12合成系関連の多数の遺伝子を持っていた。SH051T (= NBRC 116195T = DSM 116141T)株を基準菌株として、これらの菌株を新種のBrooklawnia propionicigenesと命名した。

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2024/05/09

加齢性繊毛退縮:メラノコルチン4型受容体を持つ神経細胞一次繊毛の退縮は肥満を起こす

論文タイトル
Age-related ciliopathy: Obesogenic shortening of melanocortin-4 receptor-bearing neuronal primary cilia
論文タイトル(訳)
加齢性繊毛退縮:メラノコルチン4型受容体を持つ神経細胞一次繊毛の退縮は肥満を起こす
DOI
10.1016/j.cmet.2024.02.010
ジャーナル名
Cell Metabolism
巻号
Volume 36 Issue 5
著者名(敬称略)
大屋愛実、中村和弘 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科統合生理学

抄訳

加齢に伴う肥満のメカニズムは不明である。メラノコルチン4型受容体(MC4R)は視床下部のレプチン–メラノコルチン抗肥満シグナルを仲介する。本研究で我々は、視床下部ニューロンのMC4R陽性一次繊毛の長さが加齢とともに徐々に退縮し、加齢に伴う代謝低下や体脂肪率増加と相関することをラットで発見した。この加齢性繊毛退縮は、過栄養によるレプチン–メラノコルチンシグナルの亢進によって促進され、摂食制限やCILK1遺伝子ノックダウンによって抑制または改善(伸長)した。視床下部ニューロンのMC4R陽性一次繊毛を強制退縮させると、メラノコルチンに対する感受性が損なわれ、褐色脂肪熱産生や代謝が低下するとともに食欲が亢進して、肥満とレプチン抵抗性を発症した。従って、慢性的なレプチン–メラノコルチンシグナル亢進は、加齢に伴うMC4R陽性一次繊毛の退縮を促進することで太りやすさを高める。本研究は、メタボリックシンドロームのリスクを高める加齢性肥満の本質的メカニズムを提示するものである。

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2024/04/24

新型コロナウイルスの感染が、ハムスターの下気道へ広がる性質に関する遺伝子と適応進化

論文タイトル
Genes involved in the limited spread of SARS-CoV-2 in the lower respiratory airways of hamsters may be associated with adaptive evolution
論文タイトル(訳)
新型コロナウイルスの感染が、ハムスターの下気道へ広がる性質に関する遺伝子と適応進化
DOI
10.1128/jvi.01784-23
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
高田 光輔 渡辺 登喜子 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 分子ウイルス分野 渡辺研究室

抄訳

新型コロナウイルスのオミクロン株は、パンデミック発生当初の武漢株と比べて、下気道への侵襲性が低く、重症化率が低いことが報告されている。本研究では、下気道へ感染が広がる性質に関与するウイルス遺伝子領域を明らかにするために、ヒトでの自然感染を模倣した少量接種システムを用いて、武漢株、オミクロン株ならびに、各株の一部遺伝子を組換えたキメラウイルスをそれぞれハムスターに経鼻接種し、肺でのウイルスの増殖効率を比較した。その結果、ORF3aより下流の遺伝子が、新型コロナウイルスの肺での増殖に重要であることが明らかとなった。さらに、新型コロナウイルスの分子進化解析を行ったところ、ORF3aより下流の遺伝子(MとE遺伝子)で正の淘汰が検出され、それらの変異は他の近縁のコウモリコロナウイルスでは認められなかった。本研究によって、下気道へ感染が広がりづらいオミクロン株の性質にはORF3aより下流の遺伝子が関与すること、ならびに、それらがヒトに適応的な変化である可能性が示唆された。

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2024/04/22

経口ブドウ糖負荷試験において稀な血糖曲線を呈する者の特徴と糖尿病発症リスク

論文タイトル
Characteristics and Risk of Diabetes in People With Rare Glucose Response Curve During an Oral Glucose Tolerance Test
論文タイトル(訳)
経口ブドウ糖負荷試験において稀な血糖曲線を呈する者の特徴と糖尿病発症リスク
DOI
10.1210/clinem/dgad698
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 109, Issue 3, March 2024, Pages e975-e982
著者名(敬称略)
辰巳 友佳子 他
所属
帝京大学 医学部衛生学公衆衛生学講座
著者からのひと言
この稀な曲線に気づいた際は、糖負荷後に血糖値が下がるなどあり得ないと思い、長年何かのエラーであると判断していた。人間ドックや他の疫学研究でも同様のことに気づいていた医師、研究者はいたようであるが著者と同じく見ないようにしていた、もしくは検査エラーと認識していたようである。今回一度向き合ってみようと決心した結果が、糖代謝の新たな知見として今後の研究に役立てば幸いである。

抄訳

糖負荷後血糖値が空腹時より低い者の特性を明らかにすることを目的に、非糖尿病者7495名(平均57歳、男性53%)の経口ブドウ糖負荷試験データを分析した。空腹時と比べ、30・60分後血糖値ともに高い者を一般曲線群、30分値は高く60分値が低い者を低60分群、30分値が低い者を低30分群とし、多項ロジスティック回帰分析より関連因子を探索した。結果、一般曲線群、低60分群、低30分群の順に年齢、男性割合、BMI、高血圧・脂質異常症治療割合、尿酸値、γ-GTP、糖尿病家族歴有割合が低かった。約1年後(中央値:366日)のデータを分析すると、同じ血糖曲線群に分類された割合は、一般曲線群で89.1%、低60分値群28.0%、低30分値群19.4%であった。さらにCox回帰分析より一般曲線群を基準に糖尿病発症ハザード比を推定したところ(平均5.8年追跡)、糖尿病発症率(/1000人年)は、一般曲線群21、低60分群5、低30分群0で、低60分群のハザード比は0.3(95%信頼区間0.2-0.5)であった。以上より空腹時よりも30・60分後血糖値が低い者は、若年で女性が多く、健康的で糖尿病発症リスクは低いことが示唆された。

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2024/04/22

福島第一原子力発電所における放射性元素を含む滞留水中の細菌群集構造解析

論文タイトル
Microbiome analysis of the restricted bacteria in radioactive element-containing water at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
論文タイトル(訳)
福島第一原子力発電所における放射性元素を含む滞留水中の細菌群集構造解析
DOI
10.1128/aem.02113-23
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 90, No. 4
著者名(敬称略)
藁科 友朗、金井 昭夫 他
所属
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
慶應義塾大学 先端生命科学研究所
著者からのひと言
2号機原子炉建屋トーラス室に由来する高い放射線物質を含む滞留水を例に取り、細菌の種類を判別できる16S rRNAの塩基配列を解読することで、同環境に生息する細菌の種類と割合を網羅的に明らかにすることができました。その結果、トーラス室水は近隣の海などに比べて細菌の多様性は低いものの、わずかながらも限定された細菌が生息する環境であることが明らかとなりました。また、放射線に強い耐性を有するような細菌は見出されませんでした。これらの細菌の群集としての特徴を理解することで、ダメージを受けた原子炉を含め原子力施設の解体を考える上での安全管理や廃棄物処理の効率化への活用が期待されます。

抄訳

本研究では、福島第一原子力発電所の原子炉建屋地下の半閉鎖的環境に約9年間滞留したと考えられるトーラス室水に生息する細菌叢の同定および、その生息環境の解析を行った。トーラス室水 (1×109 Bq 137Cs/kg)は、東京電力により最下層部から0.3 - 1mの間 (TW1)と最下層部 (TW2)の2地点から採取された。TW1ではチオ硫酸塩酸化細菌であるLimnobacter属を、TW2ではマンガン酸化細菌であるBrevirhabdus属を中心とする細菌群集が確認され、両者を構成する主要な属は類似していた。これらの細菌群の多様性は福島近隣の海水のそれと比較して低く、トーラス室水から同定された細菌属の約70%が金属腐食に関連するものであった。また、トーラス室水は自然環境である海洋性細菌群と人工環境であるリアクターなどに生息する細菌群との混合環境あることが推定された。

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2024/04/18

海洋由来放線菌培養液からの新規 MAC 症治療薬マビントラマイシンの発見

論文タイトル
Mavintramycin A is a promising antibiotic for treating Mycobacterium avium complex infectious disease
論文タイトル(訳)
海洋由来放線菌培養液からの新規 MAC 症治療薬マビントラマイシンの発見
DOI
10.1128/aac.00917-23
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Vol. 68, No. 3
著者名(敬称略)
細田 莞爾、茂野 聡、大城 太一、供田 洋 他
所属
北里大学 薬学部 微生物薬品製造学教室
著者からのひと言
Mycobacterium avium complex (MAC) 症は、罹患者数、死亡者数ともに増加傾向にあり、我が国の Priority Pathogens Lists で最も緊急性の高い Priority 1 に指定されるなど、公衆衛生上の問題として注目されている感染症です。一方で、MAC 症のみを対象とした治療薬はなく、新薬開発も十分ではありません。今回私たちが発見したマビントラマイシンは、MAC 菌選択的な抗菌スペクトルを示し、in vivo でも有効性を示しました。本物質は、MAC 症治療薬シードとして社会実装に向けた創薬展開が期待されます。

抄訳

Mycobacterium avium complex (MAC) 症は、非結核性抗酸菌である M. avium および M. intracellulare により引き起こされる感染症である。その治療薬は限定され、それらの 1 年以上の併用投与から耐性菌の出現も問題となり、新規治療薬の開発が強く求められている。本研究では、スクリーニング方法として、抗 MAC 活性を示した微生物培養液を LC-MS ネットワークを用いて既存化合物と重複の少ない候補培養液を選択する手法を用いた。その結果、海洋由来放線菌の培養抽出液より、新規マビントラマイシン (mavintramycin) 群を発見した。特に、成分A (MMA) は既存の MAC 症治療薬に匹敵する抗菌活性を示し、さらには薬剤耐性菌を含む M. avium 臨床分離株に対しても優れた抗菌活性を示した。作用機序解析より、MMA は M. avium の 23S リボソームを標的とし、タンパク質合成を阻害した。また、カイコおよびマウスを用いた in vivo 感染モデルでも、MMA の有効性を確認した。このように MMA は、既存薬とは異なる作用機序を有し、in vivo でも有効性を示したことから、新たな MAC 症治療薬シードとして有望であり、今後の創薬展開が期待される。

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2024/04/16

コルチコトロフ腫瘍における、腫瘍浸潤免疫細胞(TIICs)に対するコルチゾール暴露環境の影響

論文タイトル
Effects of the Cortisol Milieu on Tumor-Infiltrating Immune Cells in Corticotroph Tumors
論文タイトル(訳)
コルチコトロフ腫瘍における、腫瘍浸潤免疫細胞(TIICs)に対するコルチゾール暴露環境の影響
DOI
10.1210/endocr/bqae016
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 165, Issue 4, April 2024, bqae016
著者名(敬称略)
神澤 真紀 福岡 秀規 他
所属
神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科

抄訳

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫関連副作用により生じる下垂体炎ではACTH単独障害が多いことから、ACTH産生細胞はリンパ球による細胞障害を受けやすい事が推測される。このことに着目し、我々はACTH産生下垂体腫瘍(ACTHoma)にICIを用いた腫瘍免疫治療が期待できると仮説をたて、その効果を予測する腫瘍浸潤免疫細胞(TIICs)について、手術検体病理標本を免疫組織化学的に検討した。しかしACTHomaは他の下垂体腫瘍と比較してもCD8陽性細胞浸潤が少なかった。これが高コルチゾール環境による影響かを明らかにするため、術前メチラポン投与による高コルチゾール是正の有無と、コルチコトロフ由来非機能性腫瘍の3郡で比較検討したところCD4陽性細胞は特に高コルチゾール環境で抑制されていることが示された。一方ACTHomaに浸潤する腫瘍関連マクロファージはほとんどがM2マクロファージであり、その数はコルチゾールレベル、腫瘍サイズと正の相関を示した。本研究で我々は、ACTHomaは高コルチゾール血症非依存性に免疫学的”cold”な状態であることを明らかにした。一方で、腫瘍浸潤CD4陽性細胞数およびM2マクロファージ数はコルチゾール環境の影響を受けていることを見出した。ACTHomaに対してICI治療は抵抗性を示す可能性が高いが、高コルチゾールも考慮した更なる打開策を考える必要がある。

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