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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2022/04/06

ゼブラフィッシュ仔魚の脊髄運動ニューロンにおける光遺伝学を用いたTDP-43の相転移誘導

論文タイトル
Optogenetic Phase Transition of TDP-43 in Spinal Motor Neurons of Zebrafish Larvae
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ仔魚の脊髄運動ニューロンにおける光遺伝学を用いたTDP-43の相転移誘導
DOI
10.3791/62932
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (180), e62932
著者名(敬称略)
浅川 和秀 他
所属
国立遺伝学研究所 遺伝形質研究系 発生遺伝学研究室

抄訳

神経変性疾患には、凝集したタンパク質が蓄積するという特徴と、ある特定の神経細胞のタイプが変性するという特徴がある。この二つの特徴の因果関係は、理論的には、疾患に対して脆弱な神経細胞において疾患に関連するタンパク質を相転移させることで検証可能であると考えられるが、実際にはそのような実験手法は限られている。この論文で我々は、小型熱帯魚ゼブラフィッシュの脊髄運動ニューロンにおいて、DNA/RNA結合タンパク質TDP-43の相転移を誘導することで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの変性をモデル化する手法を紹介する。ゼブラフィッシュ仔魚は身体組織の透明性が高いために、光を吸収すると相転移を起こす光遺伝学型TDP-43を脊髄運動ニューロンで発現させた仔魚に向かって青色のLED光を照射するだけで、TDP-43の相転移や凝集体の形成を誘導することができる。このプロトコルを用いれば、ALSに対して脆弱な細胞環境において進行するTDP-43の相転移の研究が可能になり、異常なTDP-43の相転移が、運動ニューロンや身体運動に与える影響をより詳しく解析できるようになると期待される。

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2022/04/05

術前診断に成功した肝臓内嚢胞性病変IPNB with invasive carcinomaの一例

論文タイトル
Intraductal papillary neoplasm of bile duct with invasive carcinoma as an intrahepatic cystic lesion, with successful preoperative diagnosis
論文タイトル(訳)
術前診断に成功した肝臓内嚢胞性病変IPNB with invasive carcinomaの一例
DOI
10.1136/bcr-2021-245918
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 No.1 (2022)
著者名(敬称略)
高崎 哲郎
所属
東京ベイ・浦安市川医療センター 消化器内科

抄訳

胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)は稀な疾患であり、症状も非特異的である。嚢胞性病変の形態を呈する場合、他疾患との鑑別が困難なことがあるが、近年の研究により、IPNBは胆管癌の前癌病変であることが明らかになっており、疾患概念を深く理解することは重要である。ムチンを産生するIPNBは、胆管閉塞が起こり、胆管炎を来しやすい。ムチン産生腫瘍では、他に粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)が鑑別に挙がる。本報告では82歳の男性が心窩部痛、発熱症状により救急外来を受診した。腹部造影CT検査により、肝臓左葉外側区に35mm大の嚢胞性病変を認め、病変に連続する胆管の拡張および内部に結節を認めた。ERCP検査の際に粘液の排出も確認したために、IPNB嚢胞感染の診断に至った。高齢ではあるものの、周術期リスクは許容範囲内であったため、切除手術を実施した。病理検査ではtype1 IPNBの所見であり、一部に浸潤癌を認めた。嚢胞感染を契機に受診した症例をIPNBと診断し、早期のうちに治療することができた。

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2022/03/30

制御されたネクローシス細胞からのDAMPs放出の制御機構

論文タイトル
Regulation of the release of damage-associated molecular patterns from necroptotic cells
論文タイトル(訳)
制御されたネクローシス細胞からのDAMPs放出の制御機構
DOI
10.1042/BCJ20210604
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.5 (677-685)
著者名(敬称略)
中野 裕康、村井 晋、森脇 健太
所属
東邦大学 医学部医学科 生化学講座

抄訳

Danger-associated molecular patterns (DAMPs)は、細胞膜の崩壊に伴い細胞内から放出される様々な分子の総称である。DAMPsは本来は細胞内で生理的な機能を持っているものの、一度細胞外に放出されると、本来の細胞内での働きとは異なり、炎症、細胞増殖、組織修復などの様々な生体応答を誘導する。これまでDAMPsは、細胞内でのATPの枯渇や物理的あるいは化学的な障害によって生じた受動的な細胞膜障害の結果、放出されると考えられてきた。しかし最近の研究から早期に細胞膜の崩壊をきたす複数の細胞死(ネクロプトーシス、パイロプトーシス、フェロプトーシス)の存在が報告され、それらの細胞死に伴うDAMPs放出のメカニズムの解明が飛躍的に進展した。本総説では、ネクロプトーシスに伴い生じる細胞膜崩壊がどの様に誘導されるかについての最新の知見の紹介し、さらに我々が最近開発したネクロプトーシスをライブセルでイメージングするためのFRET(Forester Resonance Energy Transfer)バイオセンサー、および1細胞レベルでDAMPsを可視化することを可能にした改変型のLCI-S(Live Cell Imaging for Secretion activity)システムについて紹介した。

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2022/03/29

日本の転移・再発乳がん治療におけるパルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングのリアルワールドデータ

論文タイトル
Real-world treatment patterns of palbociclib and blood count monitoring in patients with advanced breast cancer in Japan
論文タイトル(訳)
日本の転移・再発乳がん治療におけるパルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングの
リアルワールドデータ
DOI
10.2217/fon-2021-1448
ジャーナル名
Future Oncology
巻号
Future Oncology / Ahead of Print
著者名(敬称略)
澤木 正孝 他
所属
愛知県がんセンター 乳腺科部

抄訳

目的:日本の実臨床における、パルボシクリブの治療パターンと血液検査モニタリングのリアルワールドデータを明らかにすること
対象と方法:2017年から2020年にパルボシクリブを処方された転移・再発乳がん患者の匿名化データを日本の大規模診療データベース (Medical Data Vision; 東京、日本) から抽出した。
結果、結論:当該期間に1,074名にパルボシクリブが使用され、2017-2018年はセカンドライン以降で主に処方されていたが、徐々にファーストラインでの処方が増加していた。治療ラインに関わらずフルベストラントが最も多い併用薬であった(57-66%)。この点は米国と異なっていた。開始用量は、ほとんどの症例に125mgで処方されていたが、半数以上の患者では投与開始8週以内に減量されていた。血液検査は定期的に行われていたものの、血液検査が行われていない症例も一部みられた。安全面への懸念を最小限にし、治療早期における中止を避けるため、血液検査モニタリングは適切に行うべきである。

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2022/03/01

卵白タンパク質はロイシン含有量非依存的にラットの骨格筋成長を促進する

論文タイトル
Egg White Protein Promotes Developmental Growth in Rodent Muscle Independently of Leucine Content
論文タイトル(訳)
卵白タンパク質はロイシン含有量非依存的にラットの骨格筋成長を促進する
DOI
10.1093/jn/nxab353
ジャーナル名
The Journal of Nutrition
巻号
The Journal of Nutrition Vol. 152 Issue 1 (117–129)
著者名(敬称略)
木戸 康平, 川中 健太郎 他
所属
福岡大学スポーツ科学部

抄訳

ロイシン摂取が筋タンパク質合成の促進に寄与することを踏まえると、ロイシンを多く含むタンパク質の摂取が筋量の維持・増進に重要であると推測できる。しかしながら、ロイシン含有率がタンパク質の質を規定する唯一の因子であるかは不明である。そこで本研究では、それぞれ8.3%、7.7%、6.7%でロイシンを含有するカゼイン、卵白タンパク質、アルブミンを成長期の雄性ラットに14日間与え、骨格筋の成長に及ぼす影響を確認した。その結果、予想に反し、卵白タンパク質食を与えられたラットの長趾伸筋重量が最大となった。そこで次に、卵白タンパク質による筋成長促進作用の原因因子を同定するため、成長期の雄性ラットに対してカゼイン・卵白タンパク質・アルブミンを単回投与(0.3g/ 100g体重)し、投与1・3時間後の長趾伸筋に含まれる代謝物をメタボロミクスにて網羅的に解析した。その結果、タンパク質摂取による筋内アルギニン濃度の上昇が、カゼイン群と比較して卵白タンパク質群で有意に高いことが明らかになった。さらに、カゼインにアルギニンを添加し、卵白タンパク質とカゼインのアルギニン含有率を統一した飼料をラットに与えたところ、アルギニン無添加のカゼイン食より、アルギニンを添加したカゼイン食の方が長趾伸筋の成長を促進することが明らかになった。これらの結果から、卵白タンパク質は、カゼインよりラット骨格筋の成長を促進し、この成長促進効果がアルギニンによって一部説明できることが明らかになった。

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2022/02/25

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬カナグリフロジンは非糖尿病マウスの遅筋および速筋に異なる影響を及ぼす

論文タイトル
Differential effect of canagliflozin, a sodium–glucose cotransporter 2 (SGLT2) inhibitor, on slow and fast skeletal muscles from nondiabetic mice
論文タイトル(訳)
ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬カナグリフロジンは非糖尿病マウスの遅筋および速筋に異なる影響を及ぼす
DOI
10.1042/BCJ20210700
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.3 (332–342)
著者名(敬称略)
大塚 裕子 横溝 久 小川 佳宏 他
所属
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学(第3内科)
九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科

抄訳

骨格筋はグルコースのホメオスタシスを制御する主要な代謝器官であり、収縮特性に基づいて遅筋線維と速筋線維で構成される。遅筋線維は速筋線維に対して2~3倍のミトコンドリアを有してミオグロビンや酸化酵素が豊富で脂肪酸酸化によるエネルギー産生が効率的であり、持続的な活動に適する一方で、速筋線維は解糖系代謝が特徴で瞬発的な活動に適する。肥満、糖尿病では遅筋線維の減少が報告される一方で、加齢やサルコペニアでは速筋線維の減少が知られているが、遅筋と速筋を制御する機序は十分に解明されていない。SGLT2阻害薬は腎近位尿細管でのグルコースの尿中排泄を促進する経口血糖降下剤である。SGLT2阻害時の負のエネルギーバランスは、体重および脂肪量の減少に繋がる一方で、骨格筋においては筋萎縮やサルコペニアの誘発が懸念される。本研究では、非糖尿病C57BL/6JマウスにVehicleまたはSGLT2阻害薬カナグリフロジン(CANA)を自由摂餌下で投与して遅筋と速筋に及ぼす影響を検討した。SGLT2阻害時には、摂餌量増加に伴って速筋機能が亢進したが、遅筋機能は影響を受けず、遅筋・速筋の重量は維持された。CANA投与群の摂餌量をVehicle投与群の摂餌量に制限すると、CANA投与群の速筋の重量と機能が低下したが、遅筋への影響はみられなかった。メタボローム解析において自由摂餌下でSGLT2阻害時に速筋では解糖系代謝産物およびATPが増加し、遅筋では解糖系代謝産物が減少したがATPは維持された。アミノ酸と遊離脂肪酸はSGLT2阻害時に遅筋で増加したが、速筋では変化しなかった。更に遅筋と速筋の代謝物への影響は摂餌量制限で顕著となった。本研究はSGLT2阻害薬が糖代謝障害とは独立して遅筋と速筋に及ぼす影響の違いを明らかにすることで、サルコペニアのリスクが高い糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用について新しい知見を提供することが示唆される。

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2022/02/21

p53の標的因子であるビタミンB2輸送体SLC52A1はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化することで細胞老化を抑制する

論文タイトル
Riboflavin transporter SLC52A1, a target of p53, suppresses cellular senescence by activating mitochondrial complex II
論文タイトル(訳)
p53の標的因子であるビタミンB2輸送体SLC52A1はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化することで細胞老化を抑制する
DOI
10.1091/mbc.E21-05-0262
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 21
著者名(敬称略)
長野 太輝, 鎌田 真司 他
所属
神戸大学バイオシグナル総合研究センター

抄訳

 細胞老化はDNA損傷などのストレスにより誘導される永続的な分裂停止状態である。細胞老化の誘導には転写因子であるp53が重要な役割を担っているが、p53の標的遺伝子の中に細胞老化の抑制に働くものがあるかどうかは不明である。私たちはビタミンB2(リボフラビンとも呼ばれる)の輸送体であるSLC52A1(GPR172B/RFVT1)が細胞老化誘導ストレスに応答してp53依存的に発現誘導されることを以前報告したが、SLC52A1と細胞老化との関連は未解明であった。今回、私たちはSLC52A1がビタミンB2を細胞内に取り込むことで細胞老化を抑制することを見出した。取り込まれたビタミンB2はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化させることにより、ミトコンドリア機能低下時に細胞老化を誘導するAMPK-p53経路を抑制することがわかった。本研究により、SLC52A1はp53の負のフィードバック制御により過剰な細胞老化を抑制することが示された。

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2022/02/16

細胞外ATPによるT細胞の細胞死にXk-Vps13a リン脂質スクランブラーゼが関与

論文タイトル
Requirement of Xk and Vps13a for the P2X7-mediated phospholipid scrambling and cell lysis in mouse T cells
論文タイトル(訳)
細胞外ATPによるT細胞の細胞死にXk-Vps13a リン脂質スクランブラーゼが関与
DOI
10.1073/pnas.2119286119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 15, 2022 119 (7) e2119286119
著者名(敬称略)
領田 優太 長田 重一 他
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫・生化学

抄訳

本来細胞外には存在しないATP は炎症部位やがん組織で上昇し、ATP 受容体P2X7 を介して免疫応答を活性化する。この際、細胞膜の内層・外層間で⾮対称的に分布していたリン脂質はスクランブラーゼの作⽤によりその分布が変化し、細胞は速やかに死滅する。この過程でのリン脂質スクランブリングの責任分⼦を同定するため、CRISPR sgRNA ライブラリーによる遺伝⼦スクリーニングを⾏った。その結果、神経有棘⾚⾎球症の原因遺伝⼦であるXk 及びVps13a が同定された。そしてXk とVps13a は細胞膜上で複合体を形成していること、どちらを⽋損させてもP2X7 活性化に伴う細胞膜でのリン脂質スクランブリングが抑制され、細胞が死滅しないことを⾒出した。Xk はスクランブラーゼXkr8 のホモログであり、Vps13aはオルガネラ間のリン脂質輸送を担うタンパク質として報告されている。以上より、Xk-Vps13a 複合体がP2X7より何らかのシグナルを受けて活性化され 細胞膜上でリン脂質のスクランブリングを起こすと結論した。

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2022/02/16

無痛性の孤立性上腸間膜動脈自然解離

論文タイトル
Painless isolated spontaneous dissection of the superior mesenteric artery
論文タイトル(訳)
無痛性の孤立性上腸間膜動脈自然解離
DOI
10.1136/bcr-2021-248122
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 No.12 (2021)
著者名(敬称略)
大高 行博 小和瀬 桂子
所属
群馬大学大学院医学系研究科 総合医療学

抄訳

上腸間膜動脈(SMA)の孤立性自然解離は稀であるが、主な初発症状が腹痛であることから急性腹症の鑑別疾患の一つとなる。加えて、文献上は無症候性(6.7〜35.7%)または無痛性(19.7%)の孤立性SMA自然解離の症例報告も散見され、腹痛を伴わずに受診する場合もあることには注意が必要である。自験例は60代前半の男性で、高血圧症と10年来の2型糖尿病治療歴があり、突然の嘔気と嘔吐により緊急受診となった。腹部造影CTにて偽腔開存型の孤立性SMA解離を同定した(Sakamoto分類II型)。さらにカラー・ドプラー超音波検査では、偽腔の陰陽徴候を伴う渦巻き状エコーを認め、偽腔内血流の前後運動が示唆された。絶食および降圧療法のみで保存的に治療し、腹部症状は軽快し解離の進行もなかった。本症例では長期の糖尿病罹患に伴う痛覚鈍麻により、消化器症状のみを伴う無痛性SMA解離を生じたと考えられた。無痛性の孤立性SMA自然解離は稀ではあるものの、代謝疾患や神経障害による感覚鈍麻を有する場合には見落とす可能性があるので留意したい。

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2022/02/16

ヒトiPS細胞から分化させた下垂体前葉におけるプロラクチン(PRL)産生細胞の機能評価

論文タイトル
Functional Lactotrophs in Induced Adenohypophysis Differentiated From Human iPS Cells
論文タイトル(訳)
ヒトiPS細胞から分化させた下垂体前葉におけるプロラクチン(PRL)産生細胞の機能評価
DOI
10.1210/endocr/bqac004
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Vol. 163 Issue 3 (bqac004)
著者名(敬称略)
三宅 菜月, 永井 孝,須賀 英隆 他
所属
須賀 英隆:名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学
三宅 菜月, 永井 孝:名古屋大学大学院医学系研究科 産婦人科学

抄訳

 これまでヒトiPS細胞から下垂体前葉を分化誘導し、機能的な副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞を作成する方法を報告してきたが、PRL産生細胞については検討していなかった。PRLは乳汁分泌に関与するホルモンで、主に下垂体前葉で産生、分泌される。また、高PRL血症は月経異常や不妊の主な原因の一つである。今回、ヒトiPS細胞から分化誘導した下垂体前葉オルガノイドにおけるPRL産生細胞の機能を評価した。
 下垂体前葉に分化誘導した凝集体からPRLの分泌が確認され、経時的に分泌能力が増加した。蛍光免疫染色および免疫電子顕微鏡法でPRL産生細胞の存在を確認した。PRL分泌は、種々のPRL分泌促進薬によって亢進し、ブロモクリプチンによって抑制された。また細胞塊中心部の視床下部組織にはドパミン作動性神経が存在し、PRL産生細胞への接続が示唆されたことから、ドパミンによる調節機構も再現できている可能性が示された。
 ヒトiPS細胞からヒト生体内と同様の分泌反応性を示す下垂体PRL産生細胞を作成した。今後、創薬研究や腫瘍化のメカニズムの研究などに活用できるとともに、下垂体の再生医療へとつながることが期待される。

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