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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2023/03/20

β-グルコシルセラミドによって直接活性化されたミクログリアが神経細胞を異常貪食し、ゴーシェ病を悪化させる。

論文タイトル
Direct activation of microglia by β-glucosylceramide causes phagocytosis of neurons that exacerbates Gaucher disease
論文タイトル(訳)
β-グルコシルセラミドによって直接活性化されたミクログリアが神経細胞を異常貪食し、ゴーシェ病を悪化させる。
DOI
10.1016/j.immuni.2023.01.008
ジャーナル名
Immunity
巻号
Immunity Volume 56 Issue 2
著者名(敬称略)
清水隆 山崎 晶  他
所属
大阪大学 微生物病研究所 分子免疫制御分野

抄訳

ゴーシェ病(GD)はGBA遺伝子の変異により、β-グルコシルセラミド(β-GlcCer)が蓄積することで発症する小児難病である。しかしながら、β-GlcCerが致死性の神経症状を引き起こすメカニズムは明らかになっておらず、有効な治療法も存在しない。今回我々は、GDで蓄積したβ-GlcCerがmacrophage-inducible C-type lectin(Mincle)を介してミクログリアを活性化し、神経細胞の貪食を誘導することで神経症状を悪化させることを発見した。活性化ミクログリアから放出されるTumor necrosis factor(TNF)は神経細胞を貪食されやすくすることで、この過程を増悪させていた。この特徴的な病態はGD患者でも観察された。既に別の用途で用いられているFood and Drug Administration(FDA)承認薬によりこの経路をブロックすることで、神経細胞は保護され神経症状が改善した。ミクログリア活性化を既存の薬剤で阻害することで(ドラッグリポジショニング)、致死性の神経GD患者に対して速やかに臨床応用可能な治療選択肢を提供できる可能性が示唆された。

 

 

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2023/03/17

エタノールは卵巣顆粒膜細胞でFSH刺激により引き起こされる変化を増強する

論文タイトル
Ethanol potentiates follicle-stimulating hormone action in ovarian granulosa cells
論文タイトル(訳)
エタノールは卵巣顆粒膜細胞でFSH刺激により引き起こされる変化を増強する
DOI
10.1530/JOE-22-0254
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 257: Issue 1 e220254
著者名(敬称略)
笠原 佑太 岸 裕司 他
所属
東京慈恵会医科大学産婦人科学講座

抄訳

ラット卵巣顆粒膜細胞の初代培養系を用い、エタノールが及ぼす影響に関して以下の検討を行った。
卵巣顆粒膜細胞は生殖年齢の個体において、エストロゲン分泌の主座であるが、その合成酵素(アロマターゼ)は、FSH刺激により誘導される。エタノールの添加はFSHによるアロマターゼ発現をmRNAおよび蛋白のレベルで有意に増強した。また、基質となるアンドロゲン存在下では、顆粒膜細胞によるエストロゲン分泌増加も観察された。FSH刺激は顆粒膜細胞の分化も誘導するが、これはLH受容体の発現に良く反映される。エタノールは、FSHによるLH受容体発現をmRNAおよび蛋白のレベルで増強した。
FSH刺激の主たる2ndメッセンジャーであるcAMPを定量したところ、エタノール添加によりFSH誘導性cAMPの増加が認められた。エタノールによるadenylyl cyclaseの活性化はこれまでに報告があるが、FSH刺激下の顆粒膜細胞でもこれが確認された。
飲酒女性で血中エストロゲン値が上昇する事はこれまでにも報告されており、乳がんや子宮筋腫等のエストロゲン関連疾患では、飲酒は増悪因子として知られている。今回の結果はこれらの機序に関与している可能性があると考えている。

 

 

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2023/03/13

マングローブ根圏から分離した放線菌の新種Arthrobacter mangrovi

論文タイトル
Arthrobacter mangrovi sp. nov., an actinobacterium isolated from the rhizosphere of a mangrove
論文タイトル(訳)
マングローブ根圏から分離した放線菌の新種Arthrobacter mangrovi
DOI
10.1099/ijsem.0.005749
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology Volume 73, Issue 2
著者名(敬称略)
浜田盛之 他
所属
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター

抄訳

海洋環境由来の放線菌は新規生理活性物質の探索源として注目されている。著者らは、沖縄県の八重山諸島の海岸やマングローブ環境における放線菌の多様性を明らかにすることを目的に各種海洋環境試料から放線菌の分離を試みた。その過程で得られた放線菌のうち、石垣島のマングローブ根圏から分離したHIs16-36株が、最近縁種Arthrobacter crystallopoietesと98.56%の16S rRNA遺伝子塩基配列相同性しか示さず、Arthrobacter属の新種である可能性が示唆された。本研究では、当該菌株の分類学的位置を明らかにすることを目的に、多相分類学的手法を用いて特徴付けを行った。その結果、HIs16-36株の主要な化学分類学的性状はArthrobacter属の特徴と一致するものの、生理生化学的性状は最近縁種のそれとの間でいくつかの差異が見られることが明らかとなった。また、全ゲノム配列に基づく分類学的比較手法として用いられるANIやdDDHの値も、HIs16-36株が最近縁種とは異なる種であることを示した。よって、HIs16-36株(=NBRC 112813)をArthrobacter属の新種Arthrobacter mangroviと命名して提唱した。

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2023/03/13

日本のハウスダストとハチミツから分離された好乾性コウジカビ属の新種

論文タイトル
Aspergillus verrucosus sp. nov., a xerophilic species isolated from house dust and honey in Japan
論文タイトル(訳)
日本のハウスダストとハチミツから分離された好乾性コウジカビ属の新種
DOI
10.1099/ijsem.0.005727
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology Volume 73, Issue 2
著者名(敬称略)
萩生田遼(筆頭著者)、広瀬 大(連絡著者) 他
所属
日本大学 薬学部 薬学科 病原微生物学研究室

抄訳

真菌は一般的に水分活性の高い湿潤な環境を好むが、好乾性真菌とよばれる水分活性の低い環境で良好に菌糸成長する特殊な生理的特性をもつ菌群がしられている。Aspergillus 属(コウジカビ属)Restricti 節は好乾性真菌の代表的な分類群の一つで、その中には食品衛生や文化財劣化の点で重要な菌種が複数含まれている。著者らは日本国内のハウスダストと蜂蜜に棲む好乾性真菌の多様性調査を進める中で、本分類群の未記載種と考えられる菌株を獲得した。複数遺伝子を対象とした分子系統学的解析の結果、これらの菌株は本分類群の祖先的種としてしられるAspergillus halophilicusと姉妹群となることが分かった。形態学的観察を行った結果、A. halophilicusと同様ホモタリックで子嚢果を形成したが、子嚢果の大きさと子嚢胞子の表面構造において両者の間で違いがみられた。また、A. halophilicusと異なり培地上で無性胞子の形成を誘導することができなかった。これらの結果に基づき今回我々が獲得した菌株に対し新種 Aspergillus verrucosus を提唱した。

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2023/03/01

肥満マウスの脂肪沈着と耐糖能におけるSphingosine 1-phosphate受容体1, 2 (S1P1, S1P2)の背反する役割

論文タイトル
Opposing Roles of Sphingosine 1-Phosphate Receptors 1 and 2 in Fat Deposition and Glucose Tolerance in Obese Male Mice
論文タイトル(訳)
肥満マウスの脂肪沈着と耐糖能におけるSphingosine 1-phosphate受容体1, 2 (S1P1, S1P2)の背反する役割
DOI
10.1210/endocr/bqad019
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 3, March 2023, bqad019
著者名(敬称略)
浅野 元尋, 梶田 和男 他
所属
岐阜女子大学 家政学部 健康栄養学科

抄訳

Sphingosine 1-phosphate (S1P)は、様々な細胞活動を5つの受容体(S1P1-S1P5)によって制御している。我々は以前、高脂肪食負荷を行ったS1P2欠損マウスにおいて、脂肪細胞肥大化、耐糖能障害が抑止されたこと、S1P2阻害薬JTE-013は脂肪細胞への分化を抑制し、S1P1/3阻害薬VPC23019はこれを促進したことを報告した。今回我々はS1P1作動薬SEW-2871の、肥満糖尿病を呈するob/obマウスへの影響を検討した。SEW-2871、JTE-013の経口投与は、体重、傍精巣脂肪重量、傍精巣脂肪/鼠径脂肪サイズを減少させ、耐糖能、脂肪組織の炎症を改善させ、傍精巣脂肪のTNFα、Cd11cのmRNAを減少させ、CD206、adiponectinのmRNAを増加させた。SEW-2781とVPC23019の同時投与により、SEW-2781の効果は打ち消された。この結果から内因性のS1PはS1P2の作用により肥満/糖尿病を引き起こすが、外因性のS1PはS1P1を介してそれを阻止すると考えられた。

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2023/03/01

ヒトパルボウイルス B19粒子のペプチドタグによる標識と生体膜による被膜ウイルス粒子の同定

論文タイトル
Tracking of Human Parvovirus B19 Virus-Like Particles Using Short Peptide Tags Reveals a Membrane-Associated Extracellular Release of These Particles
論文タイトル(訳)
ヒトパルボウイルス B19粒子のペプチドタグによる標識と生体膜による被膜ウイルス粒子の同定
DOI
10.1128/jvi.01631-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology February 2023  Volume 97  Issue 2  e01631-22
著者名(敬称略)
石田 幸太郎 森田 英嗣 他
所属
弘前大学 農学生命科学部分子生命科学科細胞分子生物学分野

抄訳

ヒトパルボウイルスB19(B19V)は母子感染による胎児水腫・流産の原因として知られている。B19Vは外被膜を持たない非エンベロープウイルスであり、細胞溶解を介して細胞外に放出されると考えられてきたがその実態は不明であった。この研究では、まず、B19V粒子を形成する構造タンパク質: VP2に、粒子形成に影響を与えずに高感度検出用ペプチドタグ:HiBiTを挿入可能な箇所を同定し、高感度にてウイルス粒子を検出可能な実験系を確立した。培養上清に分泌されるVLPは、界面活性剤処理依存的に検出されること、また、電子顕微鏡解析により多数の膜小胞と共に検出されることからウイルス粒子は生体膜によって被膜され細胞外へ分泌されている可能性が示唆された。また、微小管重合阻害剤ノコダゾール処理により被膜VLP分泌が増加すること、さらに、蛍光標識VLPの蛍光ライブイメージング観察にて細胞分裂に伴い核から細胞質への移行が確認されたことから、一部のB19V粒子は、細胞分裂を介した核外移行と細胞外小胞を介した経路によって分泌されていることが示された。

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2023/02/24

単鎖抗体のペリプラズム内発現増強をもたらすN端アミノ酸配列

論文タイトル
Specific N-terminal amino acids potentiate the periplasmic expression of single-chain variable fragments in
Escherichia coli
論文タイトル(訳)
単鎖抗体のペリプラズム内発現増強をもたらすN端アミノ酸配列
DOI
10.2144/btn-2022-0107
ジャーナル名
BioTechniques
巻号
BioTechniques Ahead of Print
著者名(敬称略)
羽生 義郎、 加藤 三恵子
所属
産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 (株)バイオピーク 生化学研究部

抄訳

抗体は研究・診断・治療に必須のタンパク質であり、大腸菌を用いた安価で簡便な生産方法が求められている。大腸菌で機能的抗体断片を発現させる場合、N端にペリプラズム移行シグナルペプチドを付加し、酸化的環境にあるペリプラズムに移行させ、S-S結合をもった正しい立体構造で発現させる必要がある。ペリプラズム画分はホスト由来のタンパク質が少なく、浸透圧ショックにより抽出できるため、目的抗体断片の精製に大変有利であるが、発現量が少ないという欠点がある。我々は、このペリプラズム移行シグナルペプチドに隣り合うアミノ酸配列、すなわち単鎖抗体のN端アミノ酸配列による大腸菌ペリプラズム内単鎖抗体発現の変化を調べた。この部分に3アミノ酸からなるランダム配列ライブラリーを挿入し、ダイレクトクローニング法 [1] を用いて、スクリーニングを行い、もっとも発現を高くする配列の同定を試みた。その結果、単鎖抗体のペリプラズム内発現を2倍以上に高めるN端ペプチド配列の同定に成功した。
[1] Hanyu Y, Kato M. Screening antibody libraries with colony assay using scFv-alkaline phosphatase fusion proteins. Molecules. 25(12) (2020).

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2023/02/07

タバコ煙はミトコンドリアDNA損傷とcGAS-STING経路の活性化を誘発する:動脈硬化のバイオマーカーへの応用

論文タイトル
Cigarette smoke induces mitochondrial DNA damage and activates cGAS-STING pathway: application to a biomarker for atherosclerosis
論文タイトル(訳)
タバコ煙はミトコンドリアDNA損傷とcGAS-STING経路の活性化を誘発する:動脈硬化のバイオマーカーへの応用
DOI
10.1042/CS20220525
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Clin Sci (Lond) (2023) 137 (2): 163-180.
著者名(敬称略)
上田 桂太郎 石田 万里 他
所属
広島大学大学院 医系科学研究科 心臓血管生理医学

抄訳

喫煙は動脈硬化の主要なリスクファクターである。血管内皮細胞は炎症を調節することから、本研究では喫煙が内皮細胞の自然免疫を活性化する機構をDNA損傷の観点から明らかにし、診断への臨床応用の可能性を探索した。タバコ煙抽出物(CSE)は、ヒト内皮細胞において、核およびミトコンドリアのDNA損傷を誘発し、その結果として蓄積した細胞質DNA断片がcyclic GMP-AMP synthase(cGAS)-stimulator of interferon genes(STING)経路の活性化を介した炎症を惹起することを示した。ミトコンドリアおよび核DNA損傷の結果である血漿中cell-free DNA (cfDNA)は、ミトコンドリア由来cfDNA、核由来cfDNAとも動脈硬化患者において増加しており、特にミトコンドリアcfDNAが動脈硬化のリスクと有意に関連していることを明らかにした。本研究成果は、喫煙をはじめとする種々の動脈硬化危険因子がcfDNAを増加させることを示唆し、cfDNAが動脈硬化の有用な新規バイオマーカーである可能性を示した。

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2023/02/03

感覚器の可能性のある背面突起を持つ新種の無腸類

論文タイトル
A New Species of Acoela Possessing a Middorsal Appendage with a Possible Sensory Function
論文タイトル(訳)
感覚器の可能性のある背面突起を持つ新種の無腸類
DOI
10.2108/zs210058
ジャーナル名
Zoological Science
巻号
Zoological Science Volume 39, Issue 1
著者名(敬称略)
浅井 仁、中野 裕昭、他
所属
筑波大学 下田臨海実験センター

抄訳

 無腸類は非常に単純な体制を持つ海産無脊椎動物であり、その研究から左右相称動物の祖先や進化について新たな知見が得られると期待されている。しかし、その研究は進んでおらず、日本国内には100種程度生息すると推測されているものの約10種しか報告されていない。
 本研究では、背面中央のアンテナ状の突起という他の無腸類にはみられない特徴を持つ、体長3mm程の無腸類の一種を日本沿岸複数箇所から採集した。観察の結果、この背面突起は水流などを感じる感覚器であり、この無腸類の獰猛な捕食行動の際に利用されていることが示唆された。
 この無腸類の形態・行動・発生の観察、および分子系統解析の結果から本種は未記載種であると判断し、背面突起を鬼のツノに見立ててAmphiscolops oni(和名:オニムチョウウズムシ)という学名で新種として報告した。
 今後は、背面突起が本当に感覚器なのか、本種がどのようにこの新奇器官を獲得したのかなどの研究を進める予定である。

 

 

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2023/02/02

アオコを形成する有毒シアノバクテリア、ミクロキスティス・エルギノーサに感染する広域および狭域宿主ウイルスの生態学的挙動

論文タイトル
Ecological Dynamics of Broad- and Narrow-Host-Range Viruses Infecting the Bloom-Forming Toxic Cyanobacterium Microcystis aeruginosa
論文タイトル(訳)
アオコを形成する有毒シアノバクテリア、ミクロキスティス・エルギノーサに感染する広域および狭域宿主ウイルスの生態学的挙動
DOI
10.1128/aem.02111-22
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology 23 January 2023 e02111-22
著者名(敬称略)
森本 大地 吉田 天士 他
所属
京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻海洋分子微生物学分野

抄訳

シアノバクテリア・ミクロキスティスは肝臓毒生産能を有し、世界中の湖沼で異常増殖してアオコを形成するため、生態学的に極めて重要な生物種と位置付けられています。本種は全遺伝子の約3割を多様なウイルス耐性遺伝子が占め、多種多様なウイルスと環境中で相互作用すると示唆されてきました。本研究では、以前に分離・メタゲノム解析により見出した本種感染ウイルスについて、宿主域の違いに着目しました。定量PCR法ならびにアンプリコン解析を確立し、広域および狭域宿主ウイルスがミクロキスティスの種内個体群に与える影響を評価しました。その結果、狭域宿主ウイルスは調査期間を通じて存在量が大きく変化しないのに対し、広域宿主ウイルスはミクロキスティスの生物量増加に伴い、存在量が増加することが示されました。一方で、ミクロキスティスの種内個体群は同期間中に組成が大きく変動することが明らかとなりました。広域宿主ウイルスによる感染が拡大するにも関わらず、ミクロキスティスがその生物量を拡大・維持できるのは、その卓越したウイルス耐性機構に依ることが強く示唆されました。

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2023/01/25

POU1F1/Pou1f1 c.143-83A > Gバリアントはpre-mRNAの分岐部位を破壊し、成長障害を引き起こす

論文タイトル
POU1F1/Pou1f1 c.143-83A > G Variant Disrupts the Branch Site in Pre-mRNA and Leads to Dwarfism
論文タイトル(訳)
POU1F1/Pou1f1 c.143-83A > Gバリアントはpre-mRNAの分岐部位を破壊し、成長障害を引き起こす
DOI
10.1210/endocr/bqac198
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 164, Issue 2, February 2023, bqac198
著者名(敬称略)
秋葉 和壽, 鳴海 覚志 他
所属
国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部

抄訳

POUクラス1ホメオボックス1(POU1F1/Pou1f1)は、下垂体特異的な転写因子であり、機能喪失変異により複合型下垂体ホルモン欠乏症を引き起こす。POU1F1/Pou1f1は、α/βアイソフォームの2つのアイソフォームを有する。近年、βアイソフォーム特異的領域(βドメイン)とそのエキソン-イントロン境界付近に病原性変異が複数報告された。しかし、その機序は不明であった。本研究では、Pou1f1 c.143-83A>G置換を持つマウスを作製した。ホモマウスは出生後の成長不全、下垂体前葉低形成、インスリン様成長因子1およびサイロキシンの欠乏を示した。さらに下垂体Pou1f1 mRNA解析により、スプライシングの異常(αアイソフォームの減少、βアイソフォームの増加、エキソンスキップ体の出現)を認めた。そこで、POU1F1全長およびスプライシングの分岐部位候補を置換した人工遺伝子をHEK293細胞に一過性発現させたところ、c.143-83A>Gのみがホモマウスと同様の結果を示した。本研究は、c.143-83A>G変異体がスプライシング異常により、下垂体の形態的・機能的異常を起こすことを世界で初めて明らかにした。

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2023/01/19

Dダイマー陰性であったが、リスクスコアが高リスクであり診断に至った大動脈解離の症例

論文タイトル
Aortic dissection diagnosed with the aortic dissection detection risk score of 2 without D-dimer elevation
論文タイトル(訳)
Dダイマー陰性であったが、リスクスコアが高リスクであり診断に至った大動脈解離の症例
DOI
10.1136/bcr-2022-250680
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 Issue 12
著者名(敬称略)
斎藤 佳菜子 相馬 俊介
所属
青森県立中央病院 救命救急センター 総合診療部

抄訳

急性大動脈解離の診断の見逃しは致死的であり、Dダイマー陰性から除外診断を行うことがしばしば行われている。しかし、Dダイマー陰性の急性大動脈解離を経験したため報告する。70歳代の男性が腰背部痛で救急外来を受診した。Dダイマーは1.0μg/mL以下と陰性であったが、突然発症かつ疼痛部位も移動していたため、急性大動脈解離を強く疑った。両上肢の収縮期血圧にも左右差を認め、造影CTにてStanford B型急性大動脈解離と診断された。直ちに心臓血管外科へコンサルトを行い、厳格な血圧管理によって臓器虚血症状などの合併症なく退院となった。急性大動脈解離には診断予測ツールであるAortic dissection detection risk score(ADD-RS)があり、身体所見、疼痛の性状、患者背景の3項目からなり、本症例は高リスクであった。急性大動脈解離の除外診断を行う際には、D-ダイマーの結果だけに頼るのではなく、病歴からリスクを評価した上で用いる必要があることが改めて示唆される。

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2023/01/18

胃瘻造設後に胃壁内気腫をきたした一例

論文タイトル
Gastric emphysema after percutaneous endoscopic gastrostomy placement
論文タイトル(訳)
胃瘻造設後に胃壁内気腫をきたした一例
DOI
10.1136/bcr-2022-253374
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 Issue 12
著者名(敬称略)
馬渕 沙弥佳    和足 孝之
所属
飯南町立飯南病院・来島診療所 総合診療科

抄訳

気腫性胃炎と胃壁内気腫は異なる疾患だが、どちらも稀な疾患であり、気腫性胃炎は死亡率も55%と高いことからしばしば区別されずに治療される。胃瘻造設後は気腫性胃炎よりも胃壁内気腫がみられることが多く、胃壁内気腫は自然治癒する疾患なので抗生剤投与などの治療は不要である。また画像診断を行うにあたり、CTはわずかなガス産生の検出にも有効であるため胃壁内気腫・気腫性胃炎どちらにおいてもよく用いられている。しかしその後のフォローアップにも用いるとなると被爆量が懸念される。今回我々は胃瘻造設後に胃壁内気腫を認めた92歳男性の一例を経験した。ガス消失確認目的のフォローアップにはレントゲンが有効で、抗生剤投与などの特別な治療は一切行わなかった。過剰な検査や治療を避けるためにも、やはり胃壁内気腫と気腫性胃炎は区別する必要がある。

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2023/01/05

こどもの社会形成を促すプレーパークの各斜面を活かした4つの仮設置式のウォータースライダー

論文タイトル
Four Temporary Waterslide Designs Adapted to Different Slope Conditions to Encourage Child Socialization in Playgrounds
論文タイトル(訳)
こどもの社会形成を促すプレーパークの各斜面を活かした4つの仮設置式のウォータースライダー
DOI
10.3791/64235
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (190), e64235
著者名(敬称略)
Zhudi Hua 小柴 満美子 他
所属
山口大学工学部附属ものづくり創成センター

抄訳

こどもが多様な自然・屋外で仲間とコミュニケーションしながら将来、多様な課題を乗り越える複雑な学びを遊びを介して育む。しかし、現代は都市化が進み、自然環境や屋外での仲間どうしの交流ができなくなっている。その解決を目指した都市部の街区公園や小学校庭が有す斜面や階段を活かして、斜面がなければ簡易な斜面をつくり、こどもからおとなまでの市民が一体となって用意し片づける簡易仮設置式のウォータースライダーのデザイン・作成法を4つの事例を伴い紹介する。1-2時間の開催中、多数のこどもたちがひっきりなしに遊び、分け隔てのないダイバーシティなふれあいが生まれ、社会相互作用が育まれた。行動定量分析を伴い、こども全員がよく連携して高速で次々と滑るパターンなどが生まれたことが、認められた。こどもの小さなリスク体験は大事な学びであり、成人社会で進むリスク回避で抑制してしまったこどもの自主的課題発見と協働し克服する術を学ぶ補完が、こどもたちによってこれらの動画に表現された。

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2022/12/23

ダイナミック造影MRIパラメータと正規化ADC値による上咽頭癌と頭蓋底骨髄炎の鑑別

論文タイトル
Dynamic Contrast‐Enhanced MRI Parameters and Normalized ADC Values Could Aid Differentiation of Skull Base Osteomyelitis from Nasopharyngeal Cancer
論文タイトル(訳)
ダイナミック造影MRIパラメータと正規化ADC値による上咽頭癌と頭蓋底骨髄炎の鑑別
DOI
10.3174/ajnr.A7740
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
December 2022
著者名(敬称略)
馬場 亮 他
所属
ミシガン大学放射線科神経放射線部門/東京慈恵会医科大学放射線医学講座

抄訳

背景と目的
頭蓋底骨髄炎と上咽頭癌との鑑別は時に困難である。本研究ではダイナミック造影MRIと正規化ADC値を用いて頭蓋底骨髄炎と上咽頭癌の違いを検討することを目的とした。
材料と方法
本研究では治療前にダイナミック造影MRIと拡散強調像が施行された頭蓋底骨髄炎8例と上咽頭癌12例を対象とした。
関心領域におけるダイナミック造影MRIの定量的パラメータとADC値を解析した。正規化ADC値は病変部の値を正常脊髄の値で割ることによって算出した。
結果
頭蓋底骨髄炎の1分間あたりの細胞外血管外腔と血漿の間の移行速度定数(Kep)は上咽頭癌より有意に低かった(中央値0.43 vs 0.57; p = 0.04)。Kepの最適カットオフ値は0.48であった(曲線下面積0.78; 95%信頼区間0.55−1)。頭蓋底骨髄炎の正規化平均ADC値は上咽頭癌よりも有意に高かった(中央値1.9 vs 0.87; p < 0.001)。正規化平均 ADC値 の最適カットオフ値は 1.55 であった(曲線下面積0.96; 95%信頼区間0.87−1)。
ダイナミック造影MRI(Kepと細胞外血管外腔の割合[Ve])の組み合わせの曲線下面積は0.89(95%信頼区間0.73-1)、ダイナミック造影MRIのパラメータと正規化平均ADC値の組み合わせの曲線下面積は0.98(95%信頼区間0.93-1)であった。
結論
ダイナミック造影MRIの定量的パラメータと正規化ADC値は頭蓋底骨髄炎と上咽頭癌の鑑別に有用な可能性がある。ダイナミック造影MRIの定量的パラメータと正規化ADC値の組み合わせはそれぞれを単独で使用した場合よりも優れていた。

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2022/12/16

げっ歯類を対象とした空間ナビゲーション試験の再現性を高めるための再構成可能な迷路システムの活用法

論文タイトル
Utilizing a Reconfigurable Maze System to Enhance the Reproducibility of Spatial Navigation Tests in Rodents
論文タイトル(訳)
げっ歯類を対象とした空間ナビゲーション試験の再現性を高めるための再構成可能な迷路システムの活用法
DOI
10.3791/64754
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (190), e64754
著者名(敬称略)
澤谷 郁哉、髙橋 晋 他
所属
同志社大学大学院脳科学研究科システム神経科学分野認知行動神経機構部門

抄訳

げっ歯類の空間ナビゲーション能力や行動表現型を調べるために、様々な形状の迷路が用いられてきた。ところが、各迷路試験には異なる構成の個別の迷路装置が必要であるため、単一の環境下で様々な迷路試験を実施することや、それらの迷路形状の再現性を確保することは困難であった。再構成可能迷路は、この制限を解決するために開発された迷路システムで、様々な形状の迷路を迅速かつ柔軟に構成し、再現性の高い実験を単一の物理環境で実施できる。この迷路システムは連結した走路で構成され、給餌箱、トレッドミル、可動式壁、遮断センサーを備えている。本稿では、再構成可能迷路がT字型、十字型、W字型、8の字型などの既存の迷路を再現できることを示す。また、本稿で紹介する迷路試験プロトコルは、標準化された部品を段階的に追加することで、動物が学習する段階に合わせ迷路を拡張できる柔軟性を説明している。再構成可能迷路は、げっ歯類の空間ナビゲーション行動を系統的かつ精確に評価できる環境を提供する。

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2022/12/15

閉塞性大腸癌における大腸ステント留置後の化学療法

論文タイトル
Chemotherapy following endoscopic colonic stenting in the management of obstructive colorectal cancer
論文タイトル(訳)
閉塞性大腸癌における大腸ステント留置後の化学療法
DOI
10.2217/crc-2022-0005
ジャーナル名
Colorectal Cancer
巻号
Colorectal Cancer Vol.11 No.1(2022)
著者名(敬称略)
花畑 憲洋、 松坂 方士 他
所属
青森県立中央病院 消化器内科

抄訳

閉塞性大腸癌における大腸ステント留置術は術前減圧や緩和医療において良好な成績が報告されているが、ステント留置後の化学療法については穿孔などのリスクがあり賛否が分かれるところである。本論文では閉塞症状を有する結腸直腸癌患者55症例において、手術を先行した症例と大腸ステントを留置してから化学療法を施行した症例を後方視的に比較することにより大腸ステント後化学療法症例の長期予後、安全性について検討した。大腸ステント留置術の技術的・臨床的成功率は100%で、大腸ステント長期留置に伴う偶発症は逸脱、閉塞が多いものの無処置もしくは内視鏡的再ステント留置を行うことでほとんどコントロールが可能だった。長期予後は手術先行と大腸ステント群の間に差を認めず大腸ステント症例では化学療法後に原発巣を切除したほうがステントのみで手術を行わない症例や手術先行群に比べ長期の生存が得られていた。大腸ステント後の化学療法は閉塞性大腸癌治療において選択肢の一つとなりうる。

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2022/12/12

雌ラットへのリポポリサッカライド子宮内投与による弓状核キスペプチン遺伝子発現,黄体形成ホルモンパルス,および卵巣機能抑制

論文タイトル
Intrauterine LPS inhibited arcuate Kiss1 expression, LH pulses, and ovarian function in rats
論文タイトル(訳)
雌ラットへのリポポリサッカライド子宮内投与による弓状核キスペプチン遺伝子発現,黄体形成ホルモンパルス,および卵巣機能抑制
DOI
10.1530/REP-22-0047
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 164: Issue 5 207–219
著者名(敬称略)
真方文絵 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医繁殖育種学研究室

抄訳

炎症性子宮疾患は、ヒトおよび家畜の生殖機能を低下させる。本研究は、子宮の炎症を引き起こす細菌毒素であるリポポリサッカライド(LPS)の子宮内投与が卵巣機能に及ぼす影響を検証した。雌ラットへの子宮内LPS投与によって子宮の炎症を誘発したところ、投与後48時間まで血漿中のLPS濃度が上昇したとともに、発情周期の乱れが生じた。LPS群では投与後3日における成熟卵胞数と血漿エストラジオール濃度が減少したとともに、投与後4日では排卵率および血漿プロジェステロン濃度が低下した。LPS群のうち排卵しなかったラットの卵巣において、インターロイキン1βおよび腫瘍壊死因子の遺伝子発現が上昇しており、炎症反応の亢進が認められた。卵巣摘出ラットでは、LPS投与後24時間において視床下部弓状核のキスペプチン遺伝子発現細胞数および黄体形成ホルモン(LH)パルス頻度が減少した。以上の結果から、子宮内の LPS は血中に移行し、卵巣の炎症反応を誘起するとともに、キスペプチン遺伝子発現および LH 分泌を抑制することで卵巣機能を低下させる可能性が示された。

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2022/11/30

クッシング症候群のモデル動物

論文タイトル
Animal Models of Cushing's Syndrome
論文タイトル(訳)
クッシング症候群のモデル動物
DOI
10.1210/endocr/bqac173
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 163, Issue 12, December 2022, bqac173
著者名(敬称略)
西山 充 他
所属
高知大学 保健管理センター

抄訳

クッシング症候群は副腎グルココルチコイドの過剰により特徴的な症候や合併症を呈する病態である。内因性クッシング症候群は下垂体性と副腎性に大別されるが、近年これらの原因となる遺伝的背景が明らかにされてきた。一方で、グルココルチコイド治療に伴う外因性クッシング症候群もよく見られる。本論文では、クッシング症候群の病態解明や治療法開発を目的として作出されたモデル動物について概説する。外因性クッシング症候群の誘導は最も簡便な方法であり、飲水中へのコルチコステロン混入が広く行われているが、最近我々はコルチコステロン・ペレットをマウス皮下に埋め込む方法を考案した。発生工学的手法を用いて、Crh過剰発現およびPrkar1a欠損によるクッシング症候群モデルマウスも作出された。ヌードマウスへのAtT20細胞移植による方法も確立されており、下垂体性クッシング病に対する治療法開発の際に用いられる。本論文では、これらのモデル動物を用いて解明されたグルココルチコイド過剰に伴う病態(11beta HSD-1発現、肥満・過食、糖尿病、骨粗鬆症)の分子機構についても概説する。

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2022/11/29

複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失

論文タイトル
Loss of tolerance to multiple environmental stresses due to limitation of structural diversity of complex sphingolipids
論文タイトル(訳)
複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失
DOI
10.1091/mbc.E22-04-0117
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 12
著者名(敬称略)
古賀 綾乃, 谷 元洋 他
所属
九州大学大学院 理学研究院 化学部門

抄訳

 真核生物の生育に必須な膜脂質である複合スフィンゴ脂質は、複雑な構造バリエーションを持ち、この構造多様性は複合スフィンゴ脂質が多彩な生理機能を発揮するための重要な分子基盤であると考えられている。しかしながら、その全体像は殆ど不明である。我々は、出芽酵母を用いて様々な複合スフィンゴ脂質サブタイプが抜け落ちた複合スフィンゴ脂質構造多様性破綻ライブラリーを構築し、複合スフィンゴ脂質の構造多様性が限定されればされるほど、多面的な環境ストレス耐性能が低下することを見出した。また、複合スフィンゴ脂質が一種類のみとなった変異株では、Slt2 MAP kinaseや転写因子Msn2/4が、細胞壁および形質膜のインテグリティーの補填をすることで、複合スフィンゴ脂質多様性破綻によって引き起こされるストレス耐性能低下を抑制していることがわかった。これらの結果より、複合スフィンゴ脂質の多様性の限定は、細胞壁、形質膜といった細胞表面環境の異常を介して多面的ストレス高感受性をもたらすことが考えられた。 

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