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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2021/05/26

仮想現実技術ガイド下リハビリテーションが功を奏した小脳性運動失調の1例

論文タイトル
Case of cerebellar ataxia successfully treated by virtual reality-guided rehabilitation
論文タイトル(訳)
仮想現実技術ガイド下リハビリテーションが功を奏した小脳性運動失調の1例
DOI
10.1136/bcr-2021-242287
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 5 (2021)
著者名(敬称略)
瀧本 和大
所属
医療法人えいしん会 岸和田リハビリテーション病院

抄訳

症例は40歳代の男性。右小脳および脳幹梗塞後の運動失調に対するリハビリテーション目的で当院転院となった。転院後3週間の理学療法的介入で患者の日常生活動作はFunctional Impedance Measure で101から124に改善した。しかしながら、フォークリフト運転手としての業務に必要なバランス機能の向上には至らなかった。この改善目的に仮想現実(VR)技術を用いたリハビリテーション用医療機器、mediVRカグラ🄬ガイド下でのバランス訓練(VR訓練)を導入した。VR訓練を平日に約40分間、2週間行ったところ、運動失調の評価尺度であるScale for the Assessment and Rating of Ataxiaは5点から1点に、Functional Balance Scale は48点から56点に、Mini-Balance Evaluation Systems Test は20点から28点に改善した。体幹動揺は臨床的に消失し、患者は職場復帰を果たした。

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2021/05/26

カルシウムの経口投与は消化管でのカルシウム感知受容体活性化によるPYY分泌促進を介してラットの摂食量を減少させる

論文タイトル
Acute Oral Calcium Suppresses Food Intake Through Enhanced Peptide-YY Secretion Mediated by the Calcium-Sensing Receptor in Rats
論文タイトル(訳)
カルシウムの経口投与は消化管でのカルシウム感知受容体活性化によるPYY分泌促進を介してラットの摂食量を減少させる
DOI
10.1093/jn/nxab013
ジャーナル名
Journal of Nutrition
巻号
Journal of Nutrition Volume 151 Issue 5 (1320–1328)
著者名(敬称略)
五十嵐 晶帆, 比良 徹 他
所属
北海道大学大学院農学研究院 基盤研究部門生物機能化学分野 食品栄養学研究室

抄訳

ヒトや実験動物においてカルシウムを補足した食事を摂取する事で体重や摂食量が減少することが報告されているが、その作用機序は明らかになっていない。本研究では、ラットにカルシウムを単回経口投与することによる食欲への影響とその作用機序について、消化管ホルモンの観点から検討した。塩化カルシウム溶液を経口投与すると、その後の摂食量が減少した。ペプチド-YY(PYY)は、食欲抑制作用をもつ消化管ホルモンであり、PYYのブロッカーとの共投与によってカルシウム投与による摂食量の減少はキャンセルされた。また、十二指腸内への液体飼料投与による門脈中PYY濃度上昇は、カルシウムの添加によって増強され、この増強作用はカルシウム感知受容体(CaSR)のアンタゴニストによってキャンセルされた。以上から、カルシウムの経口投与が消化管のCaSRを活性化し、それに伴うPYY分泌増強を介して食欲が抑制される可能性が示された。

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2021/05/25

地下生息する齧歯類、ハダカデバネズミにおけるミネラルコルチコイド受容体の重複と多様化

論文タイトル
Diversification of mineralocorticoid receptor genes in a subterranean rodent, the naked mole-rat
論文タイトル(訳)
地下生息する齧歯類、ハダカデバネズミにおけるミネラルコルチコイド受容体の重複と多様化
DOI
10.1530/JME-20-0325
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology Volume 66 Issue 4 (299–311)
著者名(敬称略)
岡 香織, 三浦 恭子 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学講座

抄訳

ハダカデバネズミはアフリカのサバンナの地下に生息する小型齧歯類である。水にアクセスできない環境に暮らすことから、飲水はせず、水分摂取は餌に頼っている。我々はハダカデバネズミの浸透圧調節機構を明らかにするため、体液恒常性に関わる遺伝子の発現制御に重要な遺伝子、ミネラルコルチコイド受容体(nuclear receptor subfamily 3 group C member 2、MR)のクローニング及び機能解析を行なった。ほとんどの脊椎動物は単一のMRホモログを持つが、興味深いことにハダカデバネズミでは遺伝子重複が起き、2種類のMR遺伝子が生じていた。このうちMR1は他生物種のMRと高い相同性を持ち、発現パターンも類似していたのに対し、もう一方のMR2はDNAやリガンドとの結合に必要なドメインを欠損し、ホルモン産生に関わる組織などに高い発現が見られた。MR2は単独では転写活性化能を持たないものの、MR1と共発現することでその転写活性を亢進することが明らかとなった。MRの遺伝子重複はこれまでフタコブラクダでしか報告がなく、水の乏しい環境におけるMRシグナル伝達の調節に第二のMRが関わっている可能性が示唆される。

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2021/05/20

ヒト造血幹細胞の静止期維持培養法

論文タイトル
A Culture Method to Maintain Quiescent Human Hematopoietic Stem Cells
論文タイトル(訳)
ヒト造血幹細胞の静止期維持培養法
DOI
10.3791/61938
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (171), e61938
著者名(敬称略)
小林 央, 田久保 圭誉
所属
国立国際医療研究センター研究所 生体恒常性プロジェクト

抄訳

造血幹細胞は分化した細胞を継続的に補充しながらヒトの造血機能を生涯にわたって維持しています。造血幹細胞は運命決定した前駆細胞と比べて細胞周期が静止していることが大きな特徴です。従来、ヒト造血幹細胞研究は表面マーカーで単離した造血幹細胞を免疫不全マウスに移植することで幹細胞活性を評価されてきました。しかし、移植をすると造血幹細胞は静止期性が失われ、定常状態での挙動と異なることが最近の研究からわかってきて、より生理的条件下での造血幹細胞の挙動を理解する実験モデルが求められていました。本プロトコルでは、骨髄の微小環境(低酸素かつ脂質に富む)を模倣し、サイトカインの濃度を最適化することで、培養下で未分化かつ静止状態を維持する方法を示します。これにより試験管内での造血幹細胞の静止状態を再現することで、造血幹細胞の定常状態の特性に対する理解が深まり、造血幹細胞を実験的に操作することが可能になります。

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2021/05/20

妊娠ヒツジ栄養膜細胞と子宮上皮の密着部位におけるフィブリン形成

論文タイトル
Formation of fibrin at sights of conceptus adhesion in the ewe
論文タイトル(訳)
妊娠ヒツジ栄養膜細胞と子宮上皮の密着部位におけるフィブリン形成
DOI
10.1530/REP-20-0531
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 161 Issue 6 (709–720)
著者名(敬称略)
松野 雄太, 今川 和彦 他
所属
東海大学 総合農学研究所

抄訳

哺乳類の妊娠には着床が必須である。着床には胚・栄養膜細胞の子宮上皮への接着とそれに続く密着が必要であり、様々な分子が関与している。しかし、その接着や密着を維持する分子は十分に明らかにされていない。本研究では、ヒツジの胚・栄養膜細胞が分泌するタンパク質において,接着や密着を維持する新たな候補を同定することを目的とした。
着床期の妊娠ヒツジから採取した胚・栄養膜細胞と子宮内膜のRNAシークエンス(RNA-seq)解析と、子宮灌流液のiTRAQ解析を実施した。mRNA発現とタンパク質発現の網羅的解析によって、胚・栄養膜細胞から分泌されるタンパク質を同定し、凝固(coagulation cascade)の遺伝子オントロジーに関連するタンパク質に富むことを明らかにした。また、胚・栄養膜細胞における凝固因子、フィブリノーゲン、線溶因子の転写産物の発現量は、接着前や接着直後に比べて密着後で有意に高く、in situ hybridization法、ウェスタンブロット法、免疫組織化学染色法による解析でも支持された。さらに、胚・栄養膜細胞と子宮上皮の密着部位にフィブリンが形成されることを明らかにした。
本研究によって、フィブリン形成が胚・栄養膜細胞と子宮上皮の密着を維持する新たな候補であることが示された。

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2021/05/18

ユビキチン化CK5/6の細胞質内蓄積により印環細胞形態を示した基底細胞癌の一例

論文タイトル
Basal cell carcinoma with signet ring cell morphology accumulating the ubiquitinated cytokeratin 5/6
論文タイトル(訳)
ユビキチン化CK5/6の細胞質内蓄積により印環細胞形態を示した基底細胞癌の一例
DOI
10.1136/bcr-2021-241993
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 4 (2021)
著者名(敬称略)
渡邊 理子、榎本克彦 他
所属
秋田赤十字病院 形成外科

抄訳

基底細胞癌にはいくつかの亜型が存在するが、印環細胞形態を示す基底細胞癌は極めて稀である。われわれは79歳男性の頬に生じた印環細胞形態を示す基底細胞癌を経験し病理組織学的検討を行った。腫瘍は基底細胞癌に特徴的な胞巣辺縁の柵状配列を示し、柵状配列内側の腫瘍細胞の多くに細胞質内の好酸性細顆粒状物質の貯留により核が細胞辺縁に圧排される、いわゆる印環細胞形態を認めた。これまでの英文症例報告17例では印環細胞の細胞質内にケラチンあるいは筋上皮分化を示す物質貯留が報告されている。免疫染色で本症例では筋上皮マーカーの貯留は確認されず基底細胞ケラチンであるCK5/6が陽性を示した。さらにCK5/6貯留部位に一致してユビキチンプロテアソームタンパク質分解システムの構成要素であるユビキチンの発現を認めた。角化細胞のケラチン分子の分解にはユビキチンプロテアソームシステムが関与している。したがって、本症例でみられたユビキチン化CK5/6細胞質内蓄積による印環細胞形態は、癌化により基底細胞ケラチンであるCK5/6分解系に異常が生じていることを示唆している。

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2021/05/10

腎臓におけるアンモニアトランスポーターRhcgのアルドステロンによる発現調節機序の検討

論文タイトル
Regulation of Rhcg, an ammonia transporter, by aldosterone in the kidney
論文タイトル(訳)
腎臓におけるアンモニアトランスポーターRhcgのアルドステロンによる発現調節機序の検討
DOI
10.1530/JOE-20-0267
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 249 Issue 2 (95–112)
著者名(敬称略)
江口 剛人, 泉 裕一郎 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野

抄訳

腎臓の役割の一つに酸(H+)排泄があり、生体の酸塩基平衡の維持に重要である。H+はアンモニア(NH3)とともにアンモニウムイオン(NH4+)として尿中へ排泄される。その調節はアルドステロンとカリウム(K+)によるとされるが、詳細な機序は分かっていない。NH3は、集合尿細管間在細胞に発現するトランスポーターRhesus C glycoprotein (Rhcg)により排泄される。今回、アルドステロンによるRhcgの発現調節機序について検討した。C57BL/6Jマウスにアルドステロンを持続皮下投与すると、尿細管細胞膜上のRhcgの発現が増加した。アルドステロンとともに塩化カリウム(KCl)の飲水投与によりK+を負荷すると、Rhcg発現の増加が抑制された。次に、副腎摘出マウスに塩化アンモニウム(NH4Cl)の飲水投与によるH+負荷を施した上で、アルドステロンまたはvehicleを持続皮下投与した。副腎摘出はH+負荷により誘導されるRhcgの発現を阻害し、アルドステロンはRhcgの発現を回復させた。さらに、間在細胞由来細胞株(IN-IC細胞)を用いてRhcgの発現調節の機序について検討した。アルドステロンはRhcgの細胞膜上の発現を増加させ、ミネラロコルチコイド受容体阻害薬とPKC阻害薬はそれぞれアルドステロンの作用を阻害した。また、細胞外K+濃度の上昇はアルドステロンの作用を阻害した。
今回の検討により、腎臓におけるRhcgを介した酸排泄調節機序の一端が明らかとなった。

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2021/05/10

ヒト血清中可溶型T-カドヘリンの同定と臨床パラメーターとの関連

論文タイトル
Identification and Clinical Associations of 3 Forms of Circulating T-cadherin in Human Serum
論文タイトル(訳)
ヒト血清中可溶型T-カドヘリンの同定と臨床パラメーターとの関連
DOI
10.1210/clinem/dgab066
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.106 Issue5 (1333–1344)
著者名(敬称略)
福田 士郎, 喜多 俊文 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学

抄訳

T-カドヘリン(T-cad)は、アディポネクチンによるエクソソームの生合成と分泌を媒介し、心臓血管組織を保護し、筋肉の再生を促進し、移植間葉系幹細胞による治療的心保護作用を発揮するGPIアンカー型カドヘリンです。GWAS研究では、T-cad遺伝子座が、心血管疾患のリスクとグルコース恒常性に加えて、血漿アディポネクチンレベルに強く影響すること知られています。
新規にモノクローナル抗体を作出することで、血中には130kDa体、100kDa、および30kDaの3種の可溶型T-cadが存在することを明らかにしました。新しく開発したELISAシステムを使用してそれらを同時に測定すると、アディポネクチンとの結合は認められなかったものの、130kDa体T-cadが血漿アディポネクチン値と正の相関があることがわかりました(r = 0.28、p <0.001)。また、30kDa体T-cadは、糖尿病患者のいくつかの臨床パラメーターと関連していました。疾患マーカーおよびバイオマーカーとしての重要性や生理活性についてさらに研究する必要があると考えています。

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2021/05/06

アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインの資化性のために必要なBifidobacterium longum subsp. longumの新規糖質分解酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase

論文タイトル
Novel 3-O-α-d-Galactosyl-α-l-Arabinofuranosidase for the Assimilation of Gum Arabic Arabinogalactan Protein in Bifidobacterium longum subsp. Longum
論文タイトル(訳)
アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインの資化性のために必要なBifidobacterium longum subsp. longumの新規糖質分解酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase
DOI
10.1128/AEM.02690-20
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology May 2021; volume 87,issue 10
著者名(敬称略)
佐々木 優紀、藤田 清貴 他
所属
鹿児島大学農学部食料生命科学科 食品機能科学コース応用糖質化学研究室

抄訳

アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインはビフィズス菌B. longumの特定の菌株だけに利用される食物繊維であることが分かっていましたが、どのような仕組みで利用されているのか不明でした。私たちはアラビアガムの分解のために必要な鍵酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase(GAfase)を発見しました。GAfaseはアラビアガムの末端の二糖を切断する酵素です。この酵素によって切り出されたオリゴ糖を利用することでビフィズス菌が増えるだけではなく、本来アラビアガムの分解能力を持たないB. longumの増殖も促進することを明らかにしました。これは、GAfaseの作用によってアラビアガムの複雑な糖鎖構造の一部が分解され、他の酵素が作用しやすくなったためです。本研究は、アラビアガムの複雑な糖鎖構造を分解する能力が、ビフィズス菌の特定の菌株が持つ鍵酵素に依存したものであることを詳細に解析したものであり、この分解によって生ずる残渣が他の腸内細菌との共生関係にも影響していることを明らかにしたものです。

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2021/04/28

蛍光相関分光法 (FCS)を用いたタンパク質凝集体の検出

論文タイトル
Detection of Protein Aggregation using Fluorescence Correlation Spectroscopy
論文タイトル(訳)
蛍光相関分光法 (FCS)を用いたタンパク質凝集体の検出
DOI
10.3791/62576
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (170), e62576, doi:10.3791/62576 (2021)
著者名(敬称略)
北村 朗 他
所属
北海道大学 大学院先端生命科学研究院 細胞機能科学研究室

抄訳

タンパク質の凝集体は,筋萎縮性側索硬化症(ALS),アルツハイマー病(AD),パーキンソン病(PD),ハンチントン病(HD)など神経変性疾患における特徴である.可溶性あるいは拡散性のタンパク質のオリゴマーや凝集体を検出・解析するために,単一分子感度を有し,拡散速度や一粒子輝度を検出できる蛍光相関分光法(FCS)が用いられてきた.しかしながら,FCSを用いてタンパク質の凝集体を検出するための適切な手順やノウハウは,依然広く共有されているとは言えない.ここでは,凝集タンパク質であるALS関連TDP-43タンパク質の25kDa C末端断片 (TDP25) とスーパーオキシドディスムターゼ1 (SOD1) の拡散特性を,細胞破砕液,または生細胞中で解析するための標準的なFCS法の手順を示す.典型的な結果として,マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞で発現させた緑色蛍光タンパク質(GFP)標識TDP25の凝集体由来の高輝度粒子が,細胞破砕液の可溶性画分に含まれていた.また,GFPで標識したALSに関連変異型SOD1を生細胞内で測定すると遅い拡散速度を示した.このように本論では,FCSを用いてタンパク質凝集体をその拡散特性から検出する手順を紹介する.

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2021/04/28

結晶構造から明らかになったシゾロドプシンの内向きプロトン輸送機構

論文タイトル
Crystal structure of schizorhodopsin reveals mechanism of inward proton pumping
論文タイトル(訳)
結晶構造から明らかになったシゾロドプシンの内向きプロトン輸送機構
DOI
10.1073/pnas.2016328118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS April 6, 2021 118 (14) e2016328118
著者名(敬称略)
樋口 昌光、志甫谷 渉 他
所属
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻

抄訳

シゾロドプシン(SzR)は、真核生物の起源に最も近いアスガルドアーキアから発見されたロドプシンであり、水素イオンを細胞内へ運ぶ機能を持つ。アスガルドアーキアが真核生物へと変化する過程で、太陽光や酸素のある環境に順応するために、SzRによる水素イオンの取込みが関わっている可能性がある。しかし、SzRが水素イオンを、どの様にして効率的に細胞内に運ぶのか、そのメカニズムは不明だった。我々はX線結晶構造解析によりSzRの立体構造を決定した。SzR構造を他のロドプシンと比較することで、従来不明だったロドプシンの分子進化におけるSzRの位置づけを明らかにした。また、SzRは細胞内側の膜貫通領域が短く、水素イオンをタンパク質の細胞内側に放出しやすい構造をしており、細胞の外から取り込んだ水素イオンを細胞内側の溶媒へ直接放出するという、既知のロドプシンとは異なる水素イオンの輸送機構が明らかになった。

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2021/04/26

酢酸リンゲル液とレミマゾラムベシル酸塩の配合変化により静脈カテーテルが完全に閉塞した一例

論文タイトル
Incompatibility of remimazolam besylate with Ringer’s acetate infusion resulting in total occlusion of an intravenous catheter
論文タイトル(訳)
酢酸リンゲル液とレミマゾラムベシル酸塩の配合変化により静脈カテーテルが完全に閉塞した一例
DOI
10.1136/bcr-2021-241622
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 4 (2021)
著者名(敬称略)
松尾 光浩
所属
富山大学 学術研究部医学系 麻酔科学講座

抄訳

超短時間作用型のベンゾジアゼピン誘導体であるレミマゾラムベシル酸塩と輸液との配合変化は不明な点が多い。症例は65歳男性で,高位脛骨骨切り術を受けた。レミマゾラム溶液(5 mg/mL)を用いて全身麻酔を導入した後,酢酸リンゲル液(Physio140®)点滴に接続した点滴チューブの内腔が沈殿物で完全に閉塞されていることに気付いた。In vitroでレミマゾラム溶液(5 mg/mL)とPhysio140®溶液を混合すると、直ちに沈殿物が生成された。核磁気共鳴分析により,この沈殿物がレミマゾラムそのものであることが判明した。紫外分光光度計で調べたところ,レミマゾラム溶液に対するPhysio140®の比率が高い溶液では,pHの上昇とともにレミマゾラムの溶解度が著しく低下した。沈殿物の生成を避けるためには,レミマゾラム濃度と輸液のpHを考慮することが重要と考えられる。

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2021/04/22

Shewanella oneidensis MR-1株による電極上へのバイオフィルム形成を促進するジグアニル酸シクラーゼの同定

論文タイトル
Identification of a Diguanylate Cyclase That Facilitates Biofilm Formation on Electrodes by Shewanella oneidensis MR-1
論文タイトル(訳)
Shewanella oneidensis MR-1株による電極上へのバイオフィルム形成を促進するジグアニル酸シクラーゼの同定
DOI
10.1128/AEM.00201-21
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology May 2021; volume 87,issue 9
著者名(敬称略)
松元陽歩、高妻篤史 他
所属
東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室

抄訳

ジグアニル酸シクラーゼ(DGC)によって合成される環状ジグアノシン一リン酸(c-di-GMP)は、多くの細菌においてバイオフィルム形成の制御に関与するセカンドメッセンジャーとして機能している。これまでの研究により、Shewanella oneidensis MR-1株による電気化学活性バイオフィルム(EABF)の形成にもc-di-GMPが関与していることが示唆されていたが、このプロセスに関与するDGCの同定には至っていなかった。本研究では、SO_1646遺伝子(dgcS)にコードされるタンパク質(DgcS)がMR-1株において主要なDGCとして機能していることを明らかにした。まず、DgcSタンパク質を精製し、in vitroでの活性を測定した結果、DgcSがGTPからのc-di-GMP合成を触媒することが示された。また、dgcS破壊株(∆dgcS)では細胞内c-di-GMPレベルが野生株よりも低下しており、EABFの形成量と電気化学活性(電流生成量)も減少していた。以上の結果から、DgcSはMR-1株による電極上へのバイオフィルム形成において重要な役割を果たしていることが示された。

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2021/04/14

無石性胆嚢炎による閉塞性黄疸: “Mirizzi-like syndrome”

論文タイトル
Obstructive jaundice due to acute acalculous cholecystitis: ‘Mirizzi-like syndrome’
論文タイトル(訳)
無石性胆嚢炎による閉塞性黄疸: “Mirizzi-like syndrome”
DOI
10.1136/bcr-2020-239564
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 3 (2021)
著者名(敬称略)
坂本 貴志
所属
東京ベイ・浦安市川医療センター

抄訳

Mirizzi syndromeは胆嚢内に嵌頓した結石が総肝管の圧迫を引き起こす急性胆嚢炎で、胆嚢摘出術によって治療されるが、各タイプに応じて総胆管や肝胆管に追加の処置が行われる。無石胆嚢炎は、重症患者に見られる稀な胆嚢炎であり、胆嚢管は開通しており、胆石は確認されない. 無石性胆嚢炎は外因性閉塞性黄疸の原因となることが報告されているが、その病態は明らかになっておらず、最適な治療法は確立されていない. 本報告では,外因性閉塞性黄疸を伴う無石性胆嚢炎-”Mirrizi-like syndrome”-に対して経皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD)を行い、肝管狭窄が速やかに改善した症例を紹介する. 78歳女性, クモ膜下出血で入院中に, 腹痛と閉塞性黄疸を発症. CT検査では急性胆嚢炎の所見と肝内管の拡張が認められた。内視鏡的逆行性胆管造影(ERCP)では、腫大した胆嚢による圧迫で肝管狭窄が認められた. 総肝管には結石は見られず、胆嚢管は開存していた。閉塞性黄疸に対して,内視鏡的逆行性胆道ドレーンを留置し, 一方で無石性胆嚢炎に対して, PTGBDを行った. PTGBDの19日後に行われたERCPでは,肝管狭窄は改善していた。Mirizzi-like syndrome "を非手術で治療することは妥当であると思われる。

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2021/04/07

ヒト胃からのヘリコバクター・スイスの培養に成功
-ピロリ菌だけでなく、ヘリコバクター・スイスもヒト胃における病原細菌であることを証明-

論文タイトル
Isolation and characterization of Helicobacter suis from human stomach
論文タイトル(訳)
ヒト胃からのヘリコバクター・スイスの培養に成功
-ピロリ菌だけでなく、ヘリコバクター・スイスもヒト胃における病原細菌であることを証明-
DOI
10.1073/pnas.2026337118
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS March 30, 2021 118 (13) e2026337118
著者名(敬称略)
林原絵美子、鈴木仁人、徳永健吾松井英則
所属
国立感染症研究所細菌第二部
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
杏林大学医学部総合医療学教室
北里大学・大村智記念研究所

抄訳

ヘリコバクター・スイスは豚を自然宿主とし、ヒト胃にも感染するが、ヒト胃からの分離培養の成功例はなく、その病原性には不明な点が多かった。本研究では胃マルトリンパ腫患者を含む複数の胃疾患患者からのヘリコバクター・スイスを人工培地で分離培養することに世界で初めて成功した。得られたヒト胃由来ヘリコバクター・スイスを用いたマウス感染実験により胃での病態発症を確認し、病態組織から菌の再分離にも成功したことから、コッホの原則に従い、ヘリコバクター・スイスがヒト胃における病原細菌であることが証明された。ヒト胃から分離されたヘリコバクター・スイス株のゲノムは豚由来株のゲノムに類似しており、豚に感染しているヘリコバクター・スイスがヒトにも病原性を有する人獣共通感染症の起因菌である可能性が強く示唆された。今後、ヘリコバクター・スイスの病態発症機構の解明や診断法の開発などが期待される。

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2021/04/06

自己免疫性肝疾患を合併したウイルス性肝疾患に対して二重濾過血漿交換療法で有効な早期ウイルス除去が奏功した症例

論文タイトル
Successful treatment of positive-sense RNA virus coinfection with autoimmune hepatitis using double filtration plasmapheresis
論文タイトル(訳)
自己免疫性肝疾患を合併したウイルス性肝疾患に対して二重濾過血漿交換療法で有効な早期ウイルス除去が奏功した症例
DOI
10.1136/bcr-2020-236984
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 Issue 3 (2021)
著者名(敬称略)
上村 博輝 寺井 崇二
所属
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野

抄訳

C型肝炎ウイルス(HCV)の治癒率は現在95%を超えます。インターフェロンフリーの直接作用型抗ウイルス剤が利用できるようになったことは、過去数十年の臨床医学分野において革新的な進歩で2020年度には関係者がノーベル医学生理学賞を受賞されています。 一方,多臓器に影響を及す重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を原因とするCoronavirus Disease 2019 (COVID-19)の治療戦略について有効性のあるものがまだ定まっていません。1本鎖プラスRNAウイルスはゲノム本体そのものがmRNAとして働き、ウイルス蛋白質を作り出します。細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製し、SARS-CoV-2、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス等が含まれます。このためC型肝炎の治療で得られた症例の知見は貴重です。 二重濾過血漿交換療法Double filtration plasmapheresis (DFPP)は、血漿成分フィルターを用いて高分子量物質を選択的に除去する方法です。DFPPは2008年から2015年頃までC型慢性肝炎ウイルス(HCV)の治療に日本国内では保険承認された治療でした。2次膜に平均孔径30nmをもつDFPP を用いた自己免疫性肝炎合併のC型慢性肝炎(粒子径:55–65nm)の治療成功症例について、早期のウイルス除去が証明できたこと、また本方法がSARS-CoV-2 (粒子径:80–220nm)に効果を持ち、 COVID-19 重症例において、サイトカインストームにも有効な治療であったことが世界的に報告されていることを引用文献として概説、DFPPの機序についての図解を付記した症例報告です。

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2021/03/23

副腎における脂肪酸合成およびステロイド合成に対するChrebp遺伝子欠失の効果

論文タイトル
Effects of ChREBP deficiency on adrenal lipogenesis and steroidogenesis
論文タイトル(訳)
副腎における脂肪酸合成およびステロイド合成に対するChrebp遺伝子欠失の効果
DOI
10.1530/JOE-20-0442
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Journal of Endocrinology Volume 248 Issue 3 (317–324)
著者名(敬称略)
鷹尾 賢, 飯塚 勝美 他
所属
岐阜大学大学院医学系研究科 分子・構造学講座 内分泌代謝病態学分野

抄訳

ChREBPは肝における脂肪酸合成遺伝子の発現を調節する転写因子である。今回我々は副腎ChREBPの脂肪酸合成、ステロイド合成における役割を検討した。本研究では、マウス副腎においてChrebpが発現すること、Chrebp ホモ欠損マウス(Chrebp-/-)では脂肪酸合成低下の結果、細胞内脂肪滴の減少とともに副腎トリグリセリド含量が低下することを明らかにした。また、副腎では血液中から取り込んだコレステロールを利用して、コルチコステロンを合成する。Chrebp -/-では血中コレステロール濃度の低下が見られるため、副腎ステロイド合成・分泌能が低下すると考えた。しかし、コレステロール合成や取り込みを調節する転写因子Srebf2の発現増加により副腎コレステロール含量は不変であり、副腎コルチコステロン含量やコルチコステロン分泌能も不変であった。以上から、副腎ChREBPは脂肪酸合成を調節するものの、コルチコステロン合成・分泌能には影響しないことを明らかにした。

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2021/03/22

Luscan-Lumish症候群の機序として示唆された成長ホルモンシグナルの亢進

論文タイトル
A Case of Luscan-Lumish Syndrome: Possible Involvement of Enhanced GH Signaling
論文タイトル(訳)
Luscan-Lumish症候群の機序として示唆された成長ホルモンシグナルの亢進
DOI
10.1210/clinem/dgaa893
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.106 Issue3 (718–723)
著者名(敬称略)
隅田 健太郎, 高橋 裕 他
所属
奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座

抄訳

ヒストンメチル基転移酵素のSET domain-containing protein 2SETD2)遺伝子変異によって、過成長症候群の一つであるLuscan-Lumish症候群(LLS)が引き起こされるが、その機序は不明である。今回、過成長症候群をきたし下垂体腫瘍を認めなかった20歳男性において全エクソーム解析を行ったところ、新規のSETD2 de novo変異(c.236T> A、p.L79H)を同定しLLSと診断した。患者由来の皮膚線維芽細胞では、ヒストンのメチル化は変化していない一方で、成長ホルモン(GH)シグナル分子であるSTAT5bリン酸化・転写活性の増強、IGF-1発現の増加とともに増殖能が亢進していた。これらの結果から、LLSの新たな発症機序としてGHシグナルの亢進が過成長の原因である可能性が示唆された。またLLSは下垂体腫瘍を認めない巨人症において鑑別診断として考慮すべきである。

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2021/03/22

12α水酸化一次胆汁酸は肝臓鉄濃度を低下させる

論文タイトル
Primary 12α-Hydroxylated Bile Acids Lower Hepatic Iron Concentration in Rats
論文タイトル(訳)
12α水酸化一次胆汁酸は肝臓鉄濃度を低下させる
DOI
10.1093/jn/nxaa366
ジャーナル名
Journal of Nutrition
巻号
Journal of Nutrition Vol.151 Issue3 (523–530)
著者名(敬称略)
堀 将太, 石塚 敏 他
所属
北海道大学大学院農学研究院食品栄養学研究室

抄訳

必須微量元素の1つである鉄はヘモグロビン等の生命活動に必須な代謝酵素の構成因子として重要であるが、生体内の鉄濃度を調節する内因性因子の情報は限られている。本研究では、肥満や糖尿病等の代謝異常性疾患で増加する12α水酸化胆汁酸(12OH)が鉄代謝に及ぼす影響についてラットを用いて調べた。肝臓で合成される一次胆汁酸、かつ12OHとして知られるコール酸を飼料に添加すると、摂取鉄量や鉄の吸収率とは無関係に肝臓鉄濃度が低下した。肝臓鉄代謝に関わる因子の解析では、12OH濃度の上昇に伴い鉄運搬タンパクであるリポカリン2(LCN2)が血中で増加した。すなわち、12OHはLCN2を介して肝臓鉄を細胞外に輸送することで肝臓における鉄濃度を低下させる可能性が示された。腸内細菌による二次胆汁酸生成を抗生物質で抑制した場合でも、12OHは血中リポカリン2濃度の上昇および肝臓鉄濃度の低下を誘導した。これらのことは、肝臓で合成される12OHが新規の肝臓鉄濃度調節因子である可能性を初めて示した。

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2021/03/15

重症肺炎カニクイザルモデルを用いたH7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスに対するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とノイラミニダーゼ阻害薬の有効性評価

論文タイトル
Efficacy of a Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor and Neuraminidase Inhibitors against H7N9 Highly Pathogenic Avian Influenza Virus Causing Severe Viral Pneumonia in Cynomolgus Macaques
論文タイトル(訳)
重症肺炎カニクイザルモデルを用いたH7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスに対するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とノイラミニダーゼ阻害薬の有効性評価
DOI
10.1128/AAC.01825-20
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy March 2021; volume 65,issue 3
著者名(敬称略)
鈴木 紗織、伊藤 靖 他
所属
滋賀医科大学病理学講座疾患制御病態学部門

抄訳

H7N9高病原性鳥インフルエンザウイルスが日本の空港検疫で押収されたカモ肉より分離された。このウイルス株のカニクイザルにおける病原性と抗ウイルス薬の有効性を解析した。このウイルス株をカニクイザルに感染させると発熱と高度の肺炎がみられ、またウイルスが気道で複製し、カニクイザルにおいて病原性を示すことが判明した。感染させたサルでは、サイトカイン反応が起きた。さらに血液中には免疫チェックポイント分子PD-1、TIGITを発現するTリンパ球が増加し、ウイルス排除反応を抑制する可能性が示唆された。このウイルス株を感染させたサルにキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬バロキサビルを投与すると、気道のウイルス量は薬剤を投与しないサルより低く、バロキサビルは有効であった。バロキサビルを投与されたサルではPD-1、TIGIT陽性Tリンパ球の割合は治療されないサルより低く、ウイルス排除反応の抑制が軽度であることが推測された。

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