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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2020/05/18

日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴

論文タイトル
Characterization of blaCTX-M-27/F1:A2:B20 Plasmids Harbored by Escherichia coli Sequence Type 131 Sublineage C1/H30R Isolates Spreading among Elderly Japanese in Nonacute-Care Settings
論文タイトル(訳)
日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴
DOI
10.1128/AAC.00202-20
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 3
著者名(敬称略)
松尾 奈緒、野々垣里奈、川村 久美子 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻 病態解析学講座

抄訳

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌においては、CTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rクローンの世界的蔓延が問題視されているが、そのプラスミドの特徴や拡散プロセスについては未だ不明な点が多い。
 本研究では高齢者介護施設入所者由来のCTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するプラスミドの全塩基配列を特定し、健常人由来のそれと比較することで、blaCTX-M-27保有プラスミドの特徴を明らかにすることを目的とした。
 高齢者由来プラスミドのMLSTは多くがF1:A2:B20に属しており、その特徴から3つのグループに分類することができた。1つめは耐性遺伝子としてblaCTX-M-27のみを有し、senB遺伝子を含む約30kbpの領域を欠くもの、2つめはblaCTX-M-27以外にテトラサイクリンやストレプトマイシンなど数種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、タイで分離されたプラスミドに類似するもの、3つめはさらにアミノグリコシド耐性遺伝子など9種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、ドイツで報告された臨床分離株由来のプラスミドと高い類似性(100% query coverage, >98% nucleotide identity)を示すものであった。
 このように、我が国の介護施設で生活する高齢者の間にも、すでに海外で広まっているblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドと基本構造が類似する複数のプラスミドが広まっていることが明らかとなった。さらなる研究として、blaCTX-M-27保有プラスミド拡散プロセスを明らかにすることが必要であると考える。

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2020/04/27

ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である

論文タイトル
TGFβ receptor endocytosis and Smad signaling require synaptojanin1, PI3K–C2α-, and INPP4B-mediated phosphoinositide conversions
論文タイトル(訳)
ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である
DOI
10.1091/mbc.E19-11-0662
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 5(319-396)
著者名(敬称略)
安藝 翔, 多久和 陽
所属
金沢大学医薬保健研究域 医学系 血管分子生理学分野

抄訳

 膜動現象の作動には形質膜や細胞内小器官膜の適所におけるグリセロリン脂質ホスホイノシタイド (PPI)の産生と分解が必要である。3’リン酸化PPIの合成酵素PI3KにはI〜III型の3クラスが存在し、最も研究の進んでいるI型PI3KはPI(3,4,5)P3を産生して細胞遊走や細胞増殖に関与し、III型PI3K-Vps34はPI(3)Pを産生してオートファジーを制御する。
 一方、主としてPI(3,4)P2を産生するII型PI3Kの機能は、著者らがPI3K-C2α KOマウスの致死性血管新生障害の表現型を報告するまで不明の点が多かった。血管内皮細胞において血管新生因子TGFβは形質膜でPI3K-C2α依存的にPI(3,4)P2産生を誘導し、Smadシグナル活性化した。
 TGFβによるSmadシグナル活性化はクラスリン依存的なTGFβ受容体エンドサイトーシスに依存し、エンドサイトーシスには、PI3K-C2αの他に5’-ホスファターゼsynaptojanin1 (Synj1) および4’-ホスファターゼINPP4Bが必要であった。TGFβはTGFβ受容体I型サブユニットALK5活性化を介してSynj1による形質膜PI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換を引き起こし、次いで産生されたPI(4)PはPI3K-C2αによりPI(3,4)P2に変換され、さらにPI(3,4)P2はINPP4BによってPI(3)Pに変換された。TGFβ受容体エンドサイトーシスとSmad活性化には、Synj1、PI3K-C2α、INPP4Bのすべてが必要であった。TGFβはALK5を介してSynj1の形質膜への移行をひきおこしたが、興味深いことにSynj1の形質膜移行およびPI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換にはPI3K-C2αが必要であり、形質膜でSynj1とPI3K-C2αは共局在した。
 以上から、PI3K-C2αはSynj1、INPP4Bと共同してPPIカスケードを賦活し、このカスケードはTGFβ受容体エンドサイトーシスとその後のエンドソームでのシグナリングに必須であった。また、TGFβはALK5を介したPI3K-C2α依存的な機構によって、Synj1の形質膜移行とPPIカスケード活性化を惹起することが明らかとなった。

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2020/04/22

Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法

論文タイトル
A Simple Method To Detect Point Mutations in Aspergillus fumigatus cyp51A Gene Using a Surveyor Nuclease Assay
論文タイトル(訳)
Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法
DOI
10.1128/AAC.02271-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 4
著者名(敬称略)
新居 鉄平、渡辺 哲 他
所属
千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野

抄訳

深在性真菌症、とくにアスペルギルス症は増加傾向にある。本症は極めて重篤で致死率も高く、医療上の問題となっている。主要な原因菌はAspergillus fumigatusであり、治療の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬である。一方、近年アゾール耐性A. fumigatusの増加が世界的に深刻化している。耐性の主要なメカニズムは、アゾール標的分子Cyp51Aのhot spotアミノ酸変異による薬物親和性の低下であると考えられている。この研究では、2本鎖DNA内のミスマッチ箇所を特異的に切断するendonuclease であるSurveyor Nucleaseを用い、cyp51Aの変異検出方法の開発を試みた。cyp51Aに点変異を有するアゾール耐性株(変異株)17株と同遺伝子に変異を持たないアゾール感性株(野生株)31株とを使用して、検出法の性能を検証した。Surveyor Nuclease assayによって、cyp51A変異株と野生株とは明確に区別可能で、単一のプライマーセットで複数の変異を検出できた。Surveyor Nuclease assayは、cyp51Aの変異を簡便迅速に検出でき、アスペルギルス症の適切な治療薬の選択に寄与しうる検査法である。

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2020/04/22

地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証

論文タイトル
Screening tool for identifying adults with excessive salt intake among community-dwelling adults: a population-based cohort study
論文タイトル(訳)
地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証
DOI
10.1093/ajcn/nqaa003
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.111 No.4 (814–820)
著者名(敬称略)
佐々木 彰 福間 真悟 他
所属
飯塚病院 腎臓内科/臨床研究支援室
京都大学大学院 社会健康医学系専攻 医療疫学分野

抄訳

塩分過剰摂取は、高血圧や血管イベントなどの原因となりうるため重要な因子であることが広く知られている。一方で、地域住民レベルでの減塩は未だ十分ではない。減塩を推進するためには、塩分摂取量を測定し塩分過剰摂取の対象を抽出するのが効率的であり、尿からの1日塩分摂取量の測定が一般的に実施されている。しかし、尿検査には、検査機器および尿検体が必須であり、コストも要するため、検査を広く実施するには制約が多いのが問題であった。今回、我々は、Delphi法を用いて作成した質問紙を用い、福島県の棚倉町で住民を対象とした調査を経て、塩分過剰の可能性の高い対象を抽出するための簡便なスクリーニングツールを開発し妥当性を検証した。質問紙の内容は、国や地域で変わりうるが、本スクリーニングツール作成のプロセスは、他地域でも比較的容易に実装可能と考えられる。

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2020/04/10

RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する

論文タイトル
The Rho-guanine nucleotide exchange factor Solo decelerates collective cell
migration by modulating the Rho-ROCK pathway and keratin networks
論文タイトル(訳)
RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する
DOI
10.1091/mbc.E19-07-0357
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 8
著者名(敬称略)
磯崎友亮、大橋 一正 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科

抄訳

細胞の集団移動は組織形態形成や創傷治癒、癌の浸潤などに重要な働きをする細胞の振る舞いであるが、その分子機構は不明な点が多い。私たちは、これまで、RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSolo (別名ARHGEF40)が、細胞への張力負荷によるRhoAの活性化とケラチン8/18(K8/K18)繊維の細胞質における正常な配置に必要であることを明らかにしていた。本論文では、上皮細胞の集団移動に注目しSoloの機能解析を行った。腎上皮由来MDCK細胞においてSoloを発現抑制した場合、集団移動の速度が有意に加速し、一方、ばらばらな状態では個々の細胞の移動速度に影響しないことを発見した。また、Soloは、集団移動時の細胞の前後の細胞間接着部位に集積し、K8/K18繊維束の細胞前方への集積に必要であった。さらに、ROCKの阻害、K18やデスモソーム蛋白質のプラコグロビンの発現抑制によっても集団移動速度が上昇した。これらの結果から、Soloは、デスモソームを含む細胞間接着部位において、ケラチン繊維とRho-ROCK経路を介して前方の細胞を引っ張り返す力の発生に寄与し、集団移動のブレーキとして機能すると考えられる。

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2020/03/30

Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制

論文タイトル
Immunosuppression in Cows following Intramammary Infusion of Mycoplasma bovis
論文タイトル(訳)
Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制
DOI
10.1128/IAI.00521-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
権平 智、樋口豪紀 他
所属
酪農学園大学 獣医学類 獣医衛生学ユニット

抄訳

Mycoplasma bovisはウシに甚大な経済的損失を招来する病原体である。M. bovis感染症における病態形成過程での免疫応答には不明な点が多く、その詳細は明らかとなっていない。本研究ではM. bovisによる代表的な疾患である乳房炎に着目し、M. bovis乳房炎に対する免疫応答の解明を目的として、ウシ乳腺腔内にM. bovisを注入することで乳房炎モデルを作出しその免疫応答性を評価した。M. bovis注入により乳汁中の体細胞数は顕著に増加し、乳腺腔内で免疫応答が発動することが認められた。しかしながら、M. bovis再刺激による末梢血および乳房リンパ節における単核球の増殖反応は認められなかった。末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析から、自然免疫応答に関連する因子の減少が認められ、また、末梢血および乳汁の単核球においてM. bovis感染により免疫疲弊化因子が増加することが明らかとなった。M. bovisはウシ単核球に対して免疫応答の抑制および免疫抑制因子を増加させることが示唆され、M. bovis感染症におけるウシの病態形成には免疫抑制が要因となることが考えられた。

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2020/03/30

シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割

論文タイトル
Twin-Arginine Translocation System Is Involved in Citrobacter rodentium Fitness in the Intestinal Tract
論文タイトル(訳)
シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割
DOI
10.1128/IAI.00892-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
大竹 剛史、三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部 微生物学教室

抄訳

タンパク質分泌システムのTat(twin-arginine translocation)は細菌に特有であり、病原細菌の病原性発現に関与することから、Tatは感染症治療の新たなターゲットとして期待される。我々は腸管出血性大腸菌(EHEC)や腸管病原性大腸菌(EPEC)感染症のマウスモデル病原菌であるシトロバクターロデンティウムの腸感染におけるTatの役割を明らかにした。Tatが機能不全であるシトロバクターロデンティウム株(Tat変異株)は野生株と比較して、持続的に腸管内に定着した。これは、Tat変異株により誘導される炎症レベルの低下が原因であり、Tat変異株の感染マウスでは腸管内からの本菌の排除に重要な役割を担う好中球の腸粘膜上皮への遊走量が減少した。さらに、Tat変異株は胆汁酸に対する抵抗能が減弱し、また、腸管内胆汁酸レベルの調節によりシトロバクターロデンティウムの腸管内定着量が制御されることを見出した。本研究の結果より、EHECやEPEC感染症に対する新たな感染制御法として、Tatや胆汁酸レベルの制御が期待される。

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2020/03/27

小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路

論文タイトル
Glutamine-induced signaling pathways via amino acid receptors in enteroendocrine L cell lines
論文タイトル(訳)
小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路
DOI
10.1530/JME-19-0260
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Vol.64 No.3 (133–143)
著者名(敬称略)
中村 匠, 原田 一貴, 神谷泰智, 坪井 貴司 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

 小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1: GLP-1)は、膵β細胞からのグルコース依存的に起こるインスリン分泌を増強し、グルコース代謝の重要な役割を担う。GLP-1分泌は、消化管管腔内のグルコースや脂質、そしてアミノ酸などの栄養素により誘導される。この分泌には、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)とcAMP濃度([cAMP]i)上昇が重要であるが、アミノ酸によるGLP-1分泌制御機構は不明である。
 本研究では、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株内での、L-グルタミンによる[Ca2+]iと[cAMP]i上昇機構について解析した。細胞外Na+濃度を低下させ、ナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による[Ca2+]i上昇は観察されなかった。一方、taste receptor type 1 member 3(TAS1R3)の阻害剤投与は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を抑制した。CRISPR/Cas9を用いて、TAS1R3と、それとヘテロ二量体を形成するTAS1R1の変異GLUTag細胞株を樹立した。TAS1R1変異GLUTag細胞株は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を示した。一方、一部のTAS1R3変異GLUTag細胞株では、[cAMP]i上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、TAS1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。

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2020/03/26

妊娠ウシにおける子宮内エクソソームのIFNT非依存的な効果

論文タイトル
IFNT-independent effects of intrauterine extracellular vesicles (EVs) in cattle
論文タイトル(訳)
妊娠ウシにおける子宮内エクソソームのIFNT非依存的な効果
DOI
10.1530/REP-19-0314
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Vol.159 No.5 (503-511)
著者名(敬称略)
中村 圭吾, 草間 和哉 他
所属
東京薬科大学  薬学部 薬理学教室

抄訳

子宮内に存在するエクソソームを始めとした細胞外小胞(EVs)は胚着床期の胞胚と子宮内膜の相互作用に関与している。しかしながら、これらEVsは、ウシの妊娠認識物質であるIFNTを含むため、それにより効果がマスクされ、その詳細な作用が不明である。本研究では、胚由来EVsの子宮内膜へのIFNT非依存的な効果を調べるため、非妊娠または妊娠子宮内EVs、さらにIFNTを初代培養ウシ子宮内膜細胞に処置し、それぞれの遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に調べた。3群の比較により、IFNT非依存的に変化する82の遺伝子を同定し、その多くがTNF関連因子であった。さらに、妊娠子宮内EVsにはTNFファミリーであるCD40Lが多く存在しており、これが子宮内膜のCD40と結合することでNF-kBシグナリングを活性化させることを示した。これらの結果から、ウシ妊娠着床期における胚由来EVsは、子宮内膜に作用し、IFNT非依存的に炎症反応を起こすことで、子宮内膜の受容能の調節と、胚着床を誘導することが示唆された。

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2020/03/25

門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関する画像予測因子の評価

論文タイトル
Portal Vein Embolization: Radiological Findings Predicting Future Liver Remnant Hypertrophy
論文タイトル(訳)
門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関する画像予測因子の評価
DOI
10.2214/AJR.19.21440
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology
巻号
Vol.214 Number. 3 687-693
著者名(敬称略)
光野 重芝, 磯田 裕義 他
所属
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)

抄訳

門脈塞栓術後の予定残肝肥大率に関して、様々な予測因子が報告されているが、これまでに塞栓術前のCT画像からの予測因子は報告されていない。本研究の目的は、肝右葉切除前に施行される門脈塞栓術の術前CTから得られる画像所見のうち、塞栓術後の予定残肝肥大率に関連しうる因子を評価することであった。対象は門脈右枝塞栓術をうけた79人の患者で、塞栓術前のCT画像から得られる因子として、塞栓手技を困難にする所見(肝右葉における前区域の容積率、門脈前区域枝・後区域枝の近位分枝数、主門脈の分岐破格)と、門脈血流低下を示唆する所見(腫瘍による門脈浸潤、肝実質の早期濃染像)を選択した。潜在的交絡因子としては、年齢、塞栓術前の予定残肝容積率、indocyanine green clearance rate、塞栓術前の最大血清ビリルビン値、化学療法歴を選択し、これら10つの因子と門脈塞栓術後の予定残肝肥大率との相関を評価した。結果は、門脈前区域枝・後区域枝の近位分枝数、主門脈の分岐破格、腫瘍による門脈浸潤、肝実質の早期濃染像の4つの画像因子と予定残肝肥大率の間に有意な相関がみられ、門脈塞栓術の適応決定への有用性が示唆された。

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2020/03/23

アルドステロン濃度とカリウム所見に基づくPA診断手順の簡素化

論文タイトル
Role of Aldosterone and Potassium Levels in Sparing Confirmatory Tests in Primary Aldosteronism
論文タイトル(訳)
アルドステロン濃度とカリウム所見に基づくPA診断手順の簡素化
DOI
10.1210/clinem/dgz148
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.105 No.4 (dgz148)
著者名(敬称略)
馬越 洋宜, 坂本 竜一 他
所属
九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学講座 (第三内科)

抄訳

【背景】原発性アルドステロン症(PA)は、スクリーニング陽性例に対して機能確認検査を施行し、確定診断に至る。近年のガイドラインでは、血漿アルドステロン濃度(PAC)やカリウム所見に応じて機能確認検査が省略可能とされるが、ガイドライン毎に省略可能条件が異なり、根拠となるエビデンスも乏しい。
【目的】PACとカリウム所見に基づき機能確認検査が省略可能となる条件を明らかにする。
【方法】2007年1月から2019年4月に当院でアルドステロン・レニン比>200かつ血漿レニン活性<1 ng/ml/hでカプトプリル試験(CCT)を施行した327例を対象とした。PAの診断はCCT結果に基づいて行い、PAC基礎値と低カリウム血症の有無からPA・非PAを分類した。
【結果】327例中252例がPAと診断された。PAC>30ng/dLを示した61例は全例がPAと診断された。20≦PAC≦30 ng/dLでは低カリウム血症を有する例は全例PA (26/26)と診断されたが、有さない例には非PA (11/29)が含まれていた。PAC<20ng/dLではカリウム所見に関わらず非PAが含まれていた。
【結語】PAC>300 pg/ml、または200≦PAC≦300 pg/mlかつ低カリウム血症を有する例では機能確認検査を省略できることが示唆された。

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2020/03/19

FDG-PET/CTの定量指標を用いた血管肉腫患者の予後予測

論文タイトル
Prognostic Value of Quantitative Parameters of 18F-FDG PET/CT for Patients With Angiosarcoma
論文タイトル(訳)
FDG-PET/CTの定量指標を用いた血管肉腫患者の予後予測
DOI
10.2214/AJR.19.21635
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology
巻号
Vol.214 Number.3 649-657
著者名(敬称略)
加藤 彩子 中本 裕士 他
所属
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)

抄訳

血管肉腫の組織学的グレード分類および全生存率におけるFDG-PET/CT上の定量指標を評価することを目的とした。組織学的に血管肉腫と診断され、治療前にFDG-PET/CT検査を受けた16人の患者を解析した。原発巣における1ピクセルあたりの最大SUV(pSUVmax)、一定のSUV以上を示す全病変の腫瘍容積、全病変における腫瘍内のSUVの総和、pSUVmaxと血液のSUVの比(TBR)、全病変における腫瘍血液比の総和、の5つの定量指標を算出した。腫瘍は病理所見に基づき、high gradeとlow gradeに分け、各定量指標との関連を調査した。またこれらの定量指標と臨床病理要因に対して、全生存率の予後予測能をCox比例ハザードモデルにて解析した。組織学的検討によりhigh gradeは10例、low gradeは6例であった。定量指標の中でpSUVmaxとTBRの2つがhigh grade腫瘍で有意に大きかった。追跡期間中10人の患者が死亡し、いずれの定量指標も大きい患者で有意に予後不良であった。初診時の単発病変および根治手術が行われたかは予後良好を示す強い要因であったが、組織学的グレードは有意な予後予測因子ではなかった。結論として、血管肉腫はhigh grade腫瘍でFDG-PET/CT上のpSUVmaxおよびTBRが有意に高く、5つの定量指標はいずれも全生存率に対する有意な予後予測因子であった。

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2020/03/16

GIP分泌の欠損が、加齢性肥満やインスリン抵抗性を軽減する

論文タイトル
Absence of GIP secretion alleviates age-related obesity and insulin resistance
論文タイトル(訳)
GIP分泌の欠損が、加齢性肥満やインスリン抵抗性を軽減する
DOI
10.1530/JOE-19-0477
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Vol.245 No.1 (13-20)
著者名(敬称略)
金丸 良徳, 原田 範雄, 稲垣 暢也 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

glucose-dependent insulinotropic polypeptide (GIP)は、栄養素の摂取によって腸管内分泌K細胞から分泌されるインクレチンである。栄養素の中で脂質はGIP分泌を強く刺激し、GIP分泌の亢進は高脂肪食摂取下の肥満やインスリン抵抗性の形成に関与する。加齢においてもGIP分泌の亢進が認められるが、GIP分泌の亢進が体重増加やインスリン感受性への影響については不明である。本研究では、野生型マウスに比較してGIP分泌が欠損および半減しているGIPホモ欠損 (GIP-/-) 、 ヘテロ欠損 (GIP+/-) マウスを用いて、加齢に伴う体重増加やインスリン抵抗性形成へのGIPの影響について検討した。総エネルギーの12%に相当する脂肪を含有する通常食摂取下では、野生型 (WT)マウスに比較してGIP-/-マウスは38週齢以降に有意な体重の低下を認めた。一方で、WTマウスとGIP+/-マウスの体重に有意な差を認めなかった。GIP-/-マウスの内臓脂肪と皮下脂肪量は、WTおよびGIP+/-マウスに比較して有意に減少した。経口ブドウ糖負荷試験時の血糖値は、3群間で有意な差を認めなかった。しかしインスリン値は、WTおよびGIP+/-マウスに比較してGIP-/-マウスで有意な低下を認めた。インスリン負荷試験では、GIP-/-マウスのインスリン感受性が最も高く、WTマウスとGIP+/-マウス間で有意な差を認めなかった。これらの結果から、GIPが加齢に伴う肥満やインスリン抵抗性に関与すること、そしてGIP分泌の阻害が加齢性の脂肪量増加やインスリン抵抗性の軽減に作用することが明らかとなった。

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2020/03/11

アクネ菌における新規マクロライド・クリンダマイシン耐性遺伝子erm(50)をコードする転移性多剤耐性プラスミドの発見

論文タイトル
Transferable Multidrug-Resistance Plasmid Carrying a Novel Macrolide-Clindamycin Resistance Gene, erm(50), in Cutibacterium acnes
論文タイトル(訳)
アクネ菌における新規マクロライド・クリンダマイシン耐性遺伝子erm(50)をコードする転移性多剤耐性プラスミドの発見
DOI
10.1128/AAC.01810-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 3
著者名(敬称略)
青木 沙恵、中瀬 恵亮 他
所属
東京薬科大学 薬学部 病原微生物学教室

抄訳

 薬剤耐性アクネ菌 (Cutibacterium acnes) は、世界中で出現および流行している。アクネ菌における主要なマクロライドおよびクリンダマイシン耐性因子として、23S rRNA変異およびerm(X)遺伝子の獲得が知られている。我々は、2008年および2013-2015年にそれらの耐性因子を有さない8株の高度マクロライド・クリンダマイシン耐性アクネ菌を異なるざ瘡患者から分離した。そこで、新規の耐性因子を同定するための研究を行った。Whole genome sequenceにより、新規の薬剤耐性遺伝子であるerm(50)とtet(W)をコードする新規のプラスミドpTZC1 (length, 31,440 bp) を見出した。pTZC1は耐性因子が認められなかった8株すべてから検出され、これらの株はマクロライド・クリンダマイシンに高度耐性を示した (MIC, ≥256 μg/ml)。また、pTZC1はアクネ菌株間を接合伝達で伝播し、マクロライド・クリンダマイシン耐性およびテトラサイクリン耐性を付与した。
 本研究では、アクネ菌で転移する多剤耐性プラスミドを初めて発見した。本プラスミドの流行は、ざ瘡の抗菌薬治療における大きな脅威となりうる。

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2020/03/10

大腸菌細胞内におけるメタン生成アーキアMethanosarcina mazei由来「アーキア型」メバロン酸経路の再構築

論文タイトル
Reconstruction of the “Archaeal” Mevalonate Pathway from the Methanogenic Archaeon Methanosarcina mazei in Escherichia coli Cells
論文タイトル(訳)
大腸菌細胞内におけるメタン生成アーキアMethanosarcina mazei由来「アーキア型」メバロン酸経路の再構築
DOI
10.1128/AEM.02889-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 86, Issue 6
著者名(敬称略)
吉田 稜、邊見 久 他
所属
名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 応用酵素学研究室

抄訳

  メバロン酸経路は、天然物医薬品などの有用化合物を数多く含むイソプレノイドの前駆体供給経路である。我々は最近、Crenarchaeota門に属する超好熱性アーキアから、大半のアーキアが持つと推定される変形メバロン酸経路(「アーキア型」メバロン酸経路)を発見した。同経路は一般のメバロン酸経路に比べてATP消費量が少ないため、有用イソプレノイドの生物生産への応用が期待される。本研究では、Euryarchaeota門に属するメタン生成アーキアMethanosarcina mazeiから同経路の推定遺伝子群を単離し、カロテノイド色素の生産経路とともに大腸菌に導入した。同株を準嫌気的条件下で培養したところ、メバロン酸経路を持たない株に比べてカロテノイド生産量が大幅に向上した。この結果は、「アーキア型」メバロン酸経路が幅広い分類群で保存されており、かつ大腸菌内でも機能しうることを示すものである。

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2020/03/10

C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)投与治療は欠損酵素補充治療を併用することでムコ多糖症Ⅶ型マウスの成長障害を回復させる

論文タイトル
C-Type Natriuretic Peptide Restores Growth Impairment Under Enzyme Replacement in Mice With Mucopolysaccharidosis VII
論文タイトル(訳)
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)投与治療は欠損酵素補充治療を併用することでムコ多糖症Ⅶ型マウスの成長障害を回復させる
DOI
10.1210/endocr/bqaa008
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Vol.161 No. 2 (bqaa008)
著者名(敬称略)
山下 貴史, 藤井 寿人 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

【背景・目的】ムコ多糖症(MPSs)はグリコサミノグリカン(GAG)を分解する酵素の欠損により引き起こされるライソソーム病であり、GAGの蓄積により全身の臓器が障害され様々な症候を呈するが、既存の治療である欠損酵素の補充療法では成長障害は改善しない。本研究ではMPSⅦ型の成長障害に対する強い成長促進作用があるCNPの効果を調べる事を目的とした。
【方法・結果】6週齢のMPSⅦ型モデルであるGusbmps-2jマウスに対し、ハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いてGUSB補充とCNP投与のモデルを作成した。成長曲線からGUSB群およびCNP群では体長の有意な伸長は認めなかったが、GUSB/CNP共発現群では有意な体長の伸長が得られ、4週間後に野生型マウスと同等の体長となった。
【考察】MPSⅦ型の成長障害を酵素補充療法とCNPの併用により治療できることが示唆され、患者数が多いⅠ型やⅡ型への応用も期待される。

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2020/02/27

自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義

論文タイトル
Autoimmune Pituitary Disease: New Concepts With Clinical Implications
論文タイトル(訳)
自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義
DOI
10.1210/endrev/bnz003
ジャーナル名
Endocrine Reviews
巻号
Vol.41 No.2 (bnz003)
著者名(敬称略)
山本 雅昭, 高橋 裕 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病内分泌内科学

抄訳

リンパ球性下垂体炎やACTH単独欠損症などの下垂体疾患は自己免疫が示唆されているが、その機序は明らかではない。
抗PIT-1抗体症候群(抗PIT-1下垂体炎)は最近報告された下垂体炎の亜型であり、後天性に下垂体ホルモンの中でGH, PRL, TSHの特異的欠損をきたす新しい疾患概念である。その原因として胸腺腫や悪性腫瘍が、GH, PRL, TSH産生細胞に特異的な転写因子であるPIT-1を異所性に発現し、免疫寛容破綻を生じることが示されている。そしてマーカーとして血中に自己抗体である抗PIT-1抗体を認めるとともに、PIT-1タンパクを認識する細胞障害性T細胞が下垂体細胞を特異的に障害することが明らかになった。
最近、ACTH単独欠損症に肺大細胞神経内分泌癌を合併した症例が報告された。興味深いことに、腫瘍がACTHを異所性に発現しており、血中には抗POMC(ACTHの前駆体)抗体とPOMC特異細胞障害性T細胞を認めたことから、傍腫瘍症候群特に傍腫瘍性神経症候群と同様の機序で発症したことが示された。
これらの結果は、原因不明の自己免疫性下垂体疾患の少なくとも一部の成因が傍腫瘍症候群であることを示しており、本総説ではこれらの新しい疾患概念とともにその臨床的意義を解説する。

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2020/02/25

援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から

論文タイトル
Contents and Intensity of Services in Low- and High-Fidelity Programs for Supported Employment: Results of a Longitudinal Survey
論文タイトル(訳)
援助付き雇用の低再現プログラムと高再現プログラムにおけるサービスの内容と密度:縦断調査の結果から
DOI
10.1176/appi.ps.201900255
ジャーナル名
Psychiatric Services
巻号
Psychiatric Services Published online 3 Jan 2020
著者名(敬称略)
山口創生
所属
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部

抄訳

目的 援助付き雇用プログラムにおけるサービス密度とプログラムの再現性との関連については検証が不十分である。本研究は、ある施設が科学的に効果的とされる援助付き雇用プログラムを実践する際に、どの程度再現しているかについて得点化するフィデリティ尺度を用いて、低再現グループと高再現グループにおけるサービス内容と密度を比較し、日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度の妥当性を検証することを目的とした。
方法 13施設の援助付き雇用プログラムにおける統合失調症を持つ利用者51名を対象とした。12ヵ月間に渡って、彼らの就労アウトカムとサービス受給データを収集した。本研究は、低再現グループ(7施設のプログラム, 29名)と高再現グループ(6施設のプログラム, 22名)における就労アウトカムやサービス内容、サービス密度を比較した。
結果 両グループにおいて、サービス全体の70%が、就労支援サービスの開始後の最初の6ヵ月間に提供されていた。また、低再現グループの就労率(38%)と比較し、高再現グループは高い就労率(68%)を有していた。高再現グループの就労支援員は施設外の職場開発に最も大きなエフォートを費やしていたが、低再現グループは集団サービスにより多くの時間を費やしていた。加えて、低再現グループと比べ、高再現グループの利用者は、就労前に施設外での支援(アウトリーチサービス)や施設内での就労相談などの個別サービスをより集中的に受けていた。しかしながら、就労後の定着支援について、グループ間のサービス密度の差は観察されなかった。
結論 再現性の高い援助付き雇用プログラムは、特に利用者が就職する前に、施設内外で集中的な個別支援を提供していた。今後の課題として、フィデリティ尺度が計測する組織レベルのサービスの質と個人レベルの定着支援の量、利用者の個別ニーズとの関連を検証することがあげられる。

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2020/02/18

ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –

論文タイトル
Histamine receptor agonist alleviates severe cardiorenal damages by eliciting anti-inflammatory programming
論文タイトル(訳)
ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –
DOI
10.1073/pnas.1909124117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 11, 2020 117 (6) 3150-3156
著者名(敬称略)
野口 和之、石田 純治、深水 昭吉 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 深水研究室(ゲノム情報生物学)

抄訳

「心腎連関」は、心臓と腎臓それぞれの障害が相互作用し、両臓器の機能が低下することに由来する概念です。しかし、腎臓の機能低下による心臓血管病の発症リスクの増加や、心臓血管病患者が高率に腎機能障害を引き起こす仕組みの詳細は未解明です。我々は、血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの投与(A)、片腎摘出(N)、食塩水負荷(S)によって心不全を誘導するマウス(ANSマウス)を用い、ANSマウスが心不全に加え、腎臓の糸球体濾過機能の低下やタンパク尿、尿細管障害など、慢性腎臓病様の病態を示すことを見出しました。また、ANSマウスの血中で低分子アミンであるヒスタミンが増加していること、ANSマウスへのヒスタミン受容体阻害剤の投与や、遺伝的にヒスタミンを産生できないANSマウスでは、心腎障害が悪化したのに対し、ヒスタミンH3受容体アゴニストのイメトリジン(Imm)がANSマウスの心腎連関障害に保護的に作用することを突き止めました。さらに、ANSマウスで急性期炎症が生じていることが判明しましたが、網羅的な遺伝子発現解析から、ANSマウスの腎臓では炎症関連遺伝子の発現が有意に亢進し、これらの変化はImmの投与で軽減したことから、Immの抗炎症作用が証明されました。今後、心腎連関の発症メカニズムの理解や薬剤開発の促進が期待されます。

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2020/02/17

多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定

論文タイトル
In Vitro Derivation of Fluoroquinolone-Resistant Mutants from Multiple Lineages of Haemophilus influenzae and Identification of Mutations Associated with Fluoroquinolone Resistance
論文タイトル(訳)
多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定
DOI
10.1128/AAC.01500-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 2
著者名(敬称略)
本田 宏幸、佐藤 豊孝 他
所属
札幌医科大学 医学部 微生物学講座

抄訳

Haemophilus influenzaeは呼吸器感染症を引き起こす病原菌であるが、β-lactam系抗菌薬耐性、特にβ-lactamase-negative high-level ampicillin-resistant H. influenzae (high-BLNAR)の増加が問題となっている。また、その治療薬となるフルオロキノロンに耐性を示す株も報告されている。本薬剤耐性の出現メカニズムの解明の為、我々は、フルオロキノロン感受性臨床分離株29株をモキシフロキサシン存在下(0.03~128 mg/L)で継代培養し本耐性変異株を選択した。17株(58.6%)がモキシフロキサシに感受性低下を示し、その内10株(34.5%)が、CLSIのbreakpoint(MIC >1mg/ L)を超えた(10株中7株はhigh-BLNAR)。これら変異株から既知のキノロン耐性決定領域(QRDR)での遺伝子変異に加え、45の遺伝子に56の新規な遺伝子変異を同定した。その中で、GyrA のGlu153Leu、ΔGlu606、GyrBのSer467Tyr、Glu469Asp、そしてOmpP2変異がフルオロキノロン耐性に関与していることを見出した。以上から、本研究ではH. influenzaeは複数の新規変異を伴いフルオロキノロン耐性を獲得し、本耐性はhigh-BLNARに高頻度に付与されることを明らかにした。high-BLNARが増加している背景から、臨床現場でのフルオロキノロン耐性H. influenzaeの動向には注視する必要がある。

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