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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2016/06/27

エストロゲンは骨格筋と筋幹細胞の機能維持に重要である

論文タイトル
Estrogens maintain skeletal muscle and satellite cell functions
論文タイトル(訳)
エストロゲンは骨格筋と筋幹細胞の機能維持に重要である
DOI
10.1530/JOE-15-0476
ジャーナル名
Journal of Endocrinology BioScientifica
巻号
J of Endocrinology Vol.229 No.6 (2016) 267-275
著者名(敬称略)
北島 百合子、小野 悠介
所属
長崎大学原爆後障害医療研究所 幹細胞生物学研究分野(原研幹細胞)

抄訳

エストロゲンは,全身を通して組織や臓器に広く作用し,生体恒常性を維持している。そのため,エストロゲン分泌を減少させる過酷なダイエットによるエネルギー不足や閉経による卵巣機能低下は,骨粗鬆症を含む様々な病態の引き金となる。骨格筋はエストロゲン受容体を発現するが,骨格筋の機能維持におけるエストロゲンの役割は詳しくわかっていない。我々は,若齢雌性マウスの卵巣を摘出し,長期のエストロゲン欠乏状態が骨格筋に与える影響を検証した。その結果,エストロゲン欠乏により,筋力低下,筋萎縮,筋線維型の速筋化が観察された。さらに,骨格筋の修復・再生に欠かせない筋幹細胞を調べたところ,エストロゲン欠乏により,その数に変化は認められなかったものの,増殖・分化・自己複製などの幹細胞としての機能が著しく低下していた。薬剤により筋損傷を誘導したところ,エストロゲン欠乏マウスは不完全な筋再生を呈した。以上の結果から,エストロゲンは,骨格筋のみならず筋幹細胞にも作用し,筋力維持や筋再生に重要な役割を果たしていることが明らかになった。本研究は,女性特有の骨格筋の機能維持メカニズムの存在を示す所見である。

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2016/06/20

到達運動の学習を推進する運動野からもたらされる誤差の信号

論文タイトル
Error Signals in Motor Cortices Drive Adaptation in Reaching
論文タイトル(訳)
到達運動の学習を推進する運動野からもたらされる誤差の信号
DOI
10.1016/j.neuron.2016.04.029
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron Volume 90, Issue 5, p1114?1126, 1 June 2016
著者名(敬称略)
井上 雅仁 北澤 茂 他
所属
大阪大学 大学院 生命機能研究科 ダイナミックブレインネットワーク研究室

抄訳

目標に手を伸ばす運動は,プリズムにより視野をずらしたり外乱をあたえたりすると誤差を減らすように順応する。大脳皮質の運動野が誤差の信号を提供するという仮説が提唱された一方で,ヒトの脳機能イメージング法においては頭頂葉の連合野だけが誤差を表現すると報告されてきた。運動野は本当に誤差の信号を提供して学習を推進するのだろうか。筆者らは,サルを用いて1次運動野および運動前野が到達運動の終点の誤差の情報を表現することを確かめた。さらに,運動の直後に微小な電気刺激をあたえることにより,誤差は試行を重ねるごとに徐々に蓄積し,その残効は徐々に減少することが明らかにされた。これらの結果から,運動野から発せられる到達運動の誤差の信号は順応を推進することが明確に示された。

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2016/06/07

大域的に伝播する波に埋め込まれた神経の瞬間的な同期活動が安静時機能結合の元になっている

論文タイトル
Transient neuronal coactivations embedded in globally propagating waves underlie resting-state functional connectivity
論文タイトル(訳)
大域的に伝播する波に埋め込まれた神経の瞬間的な同期活動が安静時機能結合の元になっている
DOI
10.1073/pnas.1521299113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print May 16, 2016
著者名(敬称略)
松井 鉄平 他
所属
東京大学大学院医学系研究科統合生理学教室 (著者の方の了解をいただき、所属URLは九州大学にリンクしております)

抄訳

安静時機能結合(FC)は非侵襲的な脳のネットワークの研究に広く使われるツールであり、離れた脳部位における血流信号(HemoS)の相関により測られる。機能的結合の空間的なパターンは、血流信号の背後にある神経活動の空間パターンを反映するものと考えられている。これまでの自発的神経活動の研究では、大脳皮質全体を伝播する波のような活動から、解剖学的に繋がった脳領野の瞬間的な同期発火まで、様々な時空間パターンが見つかってきた。しかしながら、これらの様々なパターンが互いにどのような関係にあるのかは良く分かっていなかった。また、これら種々の時空間パターンが機能的結合に寄与するかどうかも不明であった。我々は今回このような問題を解決するために、マウスの大脳皮質全体において、神経活動由来のカルシウム信号(CaS)と血流信号を高時空間解像度で同時記録した。我々は二つの異なって見える活動パターン(大域的に伝播する活動の波と機能的結合の高い脳部位の瞬間的な同期活動)が、実は互いに関係していることを発見した。大域的な活動伝播の中では、それぞれが強い機能的結合で結ばれているような脳部位の組み合わせのうち、異なる組み合わせが異なる瞬間において同期発火しており、このことは機能的結合の持つ空間的な情報は大域的な活動伝播の位相情報として埋め込まれていることを示唆する。更に我々は、CaSで見た同期活動の空間パターンが、そのままHemoSでの空間パターンに反映されていること、そしてこのような同期活動がHemoSで見た機能的結合の空間パターンを作るのに必要なことを示した。これらの結果は、大域的に脳を伝播する自発的神経活動の波が、どのようにして血流信号における機能的結合を生み出すかを説明する。

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2016/05/18

ウマ子宮内膜における PGF分泌自己増幅機構の証明

論文タイトル
Evidence for a PGF2α auto-amplification system in the endometrium in mares
論文タイトル(訳)
ウマ子宮内膜における PGF分泌自己増幅機構の証明
DOI
10.1530/REP-15-0617
ジャーナル名
Reproduction BioScientifica
巻号
Vol.151 No.5 (73-82)
著者名(敬称略)
香西 圭輔、奥田 潔 他
所属
岡山大学農学部 環境生命科学研究科 動物生殖生理学研究室

抄訳

ウマにおいて、子宮内膜から分泌される prostaglandin F (PGF) は主要な黄体退行因子である。ウシやヒツジなど他の家畜において、PGFがPGF産生を刺激する自己増幅機構の存在が報告されている。本研究において、我々はウマ子宮内膜においてもPGF 自己増幅機構が存在するかどうかを調べた。黄体中期のウマへPGF製剤cloprostenol を投与し、血中 progesterone(P4) およびPGFmetabolite (PGFM) 濃度への影響を調べた。血中 P4濃度は cloprostenol 投与 45 分後減少し始め、24 時間後まで減少し続けた (P<0.05)。一方、血中 PGFM 濃度は cloprostenol 投与 4 時間後増加し始め、72 時間後まで増加し続けた (P<0.05)。子宮内膜におけるPGF receptor (PTGFR) mRNA 発現は黄体後期において、黄体初期および黄体退行期に比べ有意に高かった (P<0.05)。PGF は子宮内膜組織ならびに子宮内膜上皮および間質細胞におけるPGF 産生を有意に刺激した (P<0.05)。さらに、PGF は子宮内膜上皮および間質細胞におけるPGF 合成関連酵素PTGS2 mRNA 発現を有意に刺激した (P<0.05)。本研究の結果より、ウマ子宮内膜におけるPGF 自己増幅機構の存在が強く示唆された。

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2016/04/28

Paenibacillus sp. IK-5キトサナーゼ/グルカナーゼに存在するCBM32糖質結合モジュールのキトサン認識機構

論文タイトル
Mechanism of chitosan recognition by CBM32 carbohydrate-binding modules from a Paenibacillus sp. IK-5 chitosanase/glucanase
論文タイトル(訳)
Paenibacillus sp. IK-5キトサナーゼ/グルカナーゼに存在するCBM32糖質結合モジュールのキトサン認識機構
DOI
10.1042/BCJ20160045
ジャーナル名
Biochemical Journal Biochemical Society
巻号
Vol.473 No.8 (1085-1095)
著者名(敬称略)
新家 粧子、深溝 慶 他
所属
近畿大学 農学部 バイオサイエンス学科 バイオ分子化学研究室

抄訳

Paenibacillus sp. IK-5キトサナーゼ/グルカナーゼに存在する二つのCBM32糖質結合モジュール (DD1とDD2) のキトサン認識機構を明らかにするために、NMRおよびX線結晶構造解析によってそれらの構造を決定した。これらのモジュールは両方ともにβ−サンドイッチ・フォールドをコアとしてもち、コア構造の上下にはいくつかのループが存在していた。NMR滴定実験やDD2-キトサンオリゴ糖複合体結晶構造に基づいて、キトサンオリゴ糖はその非還元末端糖残基を、モジュール上部のループ部分と接触させながら、直立して結合することがわかった。その際、DD2のGlu14、Arg31、Tyr36、Glu61がキトサンとの相互作用を担っており、このうち、Ty36はDD1ではGlu36に置換されていた。そこで、DD1のGlu36をTyrに、DD2のTyr36をGluに変異させてキトサンとの親和性を調べた。その結果、36番目のアミノ酸はキトサンとの親和性を支配し、とりわけ、Glu側鎖とキトサンの非還元末端残基に存在する遊離アミノ基との静電的相互作用は重要であることがわかった。

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2016/04/06

卵巣の卵胞局所におけるレチノイン酸合成が排卵準備を完結させ,雌の妊孕性を担保する

論文タイトル
De novo-synthesized retinoic acid in ovarian antral follicles enhances FSH-mediated ovarian follicular cell differentiation and female fertility
論文タイトル(訳)
卵巣の卵胞局所におけるレチノイン酸合成が排卵準備を完結させ,雌の妊孕性を担保する
DOI
10.1210/en.2015-2064
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
Endocrinology Online: March 29, 2016
著者名(敬称略)
川合智子,矢中規之,JoAnne S. Richards,島田昌之
所属
広島大学 大学院生物圏科学研究科 生殖内分泌学,広島大学インキュベーション研究拠点 RCAS

抄訳

ビタミンA欠乏は,雌の繁殖(生殖)能力を減退させることが知られているが,卵巣における役割はほとんど解明されていない.我々は, 発情期において,顆粒膜細胞でFSH依存的にRA合成酵素群の発現が上昇し,それがRA受容体を介して遺伝子発現を誘導することを見いだした. さらに,RA合成抑制剤投与により,新規合成されるRAが排卵刺激を感受するLH受容体(Lhcgr)の顆粒膜細胞での発現を誘導し,それが排卵だけでなく卵成熟,受精および胚発生いずれをも促進することを明らかとした.ビタミンA欠乏飼料を給餌されたマウスにおいても,排卵抑制により発情期が延長する繁殖障害を呈した.これらの異常はRA投与により改善されたことから,雌の繁殖能力は,卵巣の卵胞局所におけるRA新規合成に依存することがはじめて明らかとなった.この成果は,ビタミンA欠乏のみでなくそれをRAに変換する酵素群の発現あるいは活性異常が,ヒトの不妊症や家畜の繁殖障害を引き起こす可能性を示している.

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2016/03/25

哺乳類の睡眠時間におけるカルシウム依存的過分極の関与

論文タイトル
Involvement of Ca2+-Dependent Hyperpolarization in Sleep Duration in Mammals
論文タイトル(訳)
哺乳類の睡眠時間におけるカルシウム依存的過分極の関与
DOI
10.1016/j.neuron.2016.02.032
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron Online March 17
著者名(敬称略)
多月文哉 上田泰己 他
所属
東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野

抄訳

睡眠を制御する因子は主にハエを用いたフォワードジェネティクスによる探索で、体内時計に関係した遺伝子を中心に複数特定されてきた。しかしながら、体内時計とは別に睡眠時間を直接制御している遺伝子(睡眠時間制御因子)は未解明のままであった。フォワードジェネティクスは表現型から遺伝子に遡るため、多くの時間とコストを要し、従来の睡眠測定法も脳波測定用の電極を頭蓋骨に装着する手術が必要であるため、侵襲が大きく、多くの時間とコストがかかっていた。近年、本研究グループは、遺伝子と表現型を直接結びつけることができるリバースジェネティクスに注目し、高速に遺伝子改変動物を作製することができる技術(トリプルCRISPR法)と、高速に睡眠表現型を解析することができる手法(SSS)を開発した(Sunagawa et al., 2016)。今回、本研究グループは神経細胞のコンピュータシミュレーションにより睡眠時間制御因子を絞り込み、トリプルCRISPR法で作成された候補遺伝子のKOマウスの睡眠をSSSで測定することで検証を行った。その結果、Cacna1g, Cacna1h (電位依存性カルシウムチャネル)、Kcnn2, Kcnn3 (カルシウム依存性カリウムチャネル)、Camk2a, Camk2b (カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)KOマウスが顕著な睡眠時間の減少を示す一方で、Atp2b3 (カルシウムポンプ)ノックアウトマウスは顕著な睡眠時間の増加を示し、カルシウムイオン関連経路が睡眠時間制御因子の役割を担うことを明らかにした.

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2016/03/25

淡水湖から分離された新属新種Sulfurirhabdus autotrophica

論文タイトル
Sulfurirhabdus autotrophica gen nov sp nov isolated from a freshwater lake
論文タイトル(訳)
淡水湖から分離された新属新種Sulfurirhabdus autotrophica
DOI
10.1099/ijsem.0.000679
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology Microbiology Society
巻号
Int J Syst Evol Microbiol, January 2016 66: 113-117
著者名(敬称略)
渡邉 友浩、小島 久弥、福井 学
所属
北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野

抄訳

Sulfuricellales目を代表する唯一の属であるSulfuricellaは、化学合成独立栄養性の硫黄酸化細菌Sulfuricella denitrificansのみから構成される。本論文では、本属に近縁な新規硫黄酸化細菌を分離し、その形態的、生理生化学的、化学分類学的な特徴を報告する。BiS0株は琵琶湖の堆積物から限界希釈法によって分離された。細胞形態は桿状(1.4−4.6×0.4−0.7 µm)でグラム染色陰性だった。二酸化炭素の固定と酸素を電子受容体とした無機硫黄化合物の酸化によって生育した。温度0−32℃、塩化ナトリウム濃度0−546.4 mM、pH 5.2−8.1で生育が認められ、至適な生育条件は温度15−22℃、塩化ナトリウム濃度0-66.7 mM、pH6.1−6.3だった。16S rRNA遺伝子配列に基づく系統解析の結果、本菌株は最も近縁な純粋培養株Sulfuricella denitrificansと96.3%の配列相同性を示した。本研究結果に基づき、BiS0株を代表とする新属新種Sulfurirhabdus autotrophicaを提唱する。

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2016/03/15

がん細胞のフェロトーシスにはリソソームの機能が必要である

論文タイトル
An essential role for functional lysosomes in ferroptosis of cancer cells
論文タイトル(訳)
がん細胞のフェロトーシスにはリソソームの機能が必要である
DOI
10.1042/BJ20150658
ジャーナル名
Biochemical Journal Biochemical Society
巻号
Vol.473 No.6 (769-777)
著者名(敬称略)
鳥居 征司 他
所属
群馬大学 生体調節研究所 分泌制御分野 生体情報シグナル研究センター

抄訳

  変異Ras発現がん細胞に対する抗腫瘍化合物の開発により、細胞内の遊離鉄に依存する新しいタイプの細胞死「フェロトーシス」が見出され、注目されている。本研究でフェロトーシスの分子機序の解析を進めたところ、オートファジー・リソソーム関連阻害剤が細胞死を抑制することを見つけた。蛍光プローブを用いて細胞中の活性酸素種(ROS)を解析すると、Ras発現がん細胞においてROSはミトコンドリアに加えリソソームに検出された。また細胞死の主因とされる脂質過酸化も、エンドソーム周辺領域からの拡散が観察された。リソソーム関連阻害剤は細胞内外からの鉄供給を抑えることで、リソソーム由来のROS産生を抑制し、結果としてフェロトーシスを阻害することが判明した。 本研究結果は、がん細胞が示す鉄取り込みやオートファジー機能の亢進がROS発現(酸化ストレス)を高め、抗癌剤によるフェロトーシス感受性に関わることを示している。

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2016/03/10

日本国内と周辺における水産生物資源の放射性同位体汚染のリスク評価

論文タイトル
Risk assessment of radioisotope contamination for aquatic living resources in and around Japan
論文タイトル(訳)
日本国内と周辺における水産生物資源の放射性同位体汚染のリスク評価
DOI
10.1073/pnas.1519792113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print February 29, 2016
著者名(敬称略)
岡村 寛 他
所属
国立研究開発法人 水産総合研究センター 中央水産研究所

抄訳

福島第一原発事故によって放出された放射性物質による日本産水産物の汚染度の定量化を行った。厚生労働省のデータベースを利用し,20114月から20153月の放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)の測定値を使用した。県と魚種(養殖魚等を除く)の組み合わせで,1646の異なる水産物のデータを使用した。しかし,データには検出限界値未満とされたものが多くあり,従来の方法では汚染度の評価が困難であった。我々が新しく開発した統計モデルを利用することにより,検出限界値未満が多いデータに対しても汚染度の評価が可能となった。その結果,汚染度は全体に低く,海産魚の汚染は従来考えられているほど高くないことが分かった。しかし,天然の淡水魚の汚染は相対的に高いことから,今後も引き続きモニタリングを継続することが重要である(ただし,市場に流通する淡水魚の多くは養殖魚であり,汚染度の高い淡水魚が一般家庭で食べられる可能性は低いであろう)。

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2016/03/02

piRNA前駆体の3'末端を削りこむカイコTrimmerの同定と機能解析

論文タイトル
Identification and Functional Analysis of the Pre-piRNA 3′Trimmer in Silkworms
論文タイトル(訳)
piRNA前駆体の3'末端を削りこむカイコTrimmerの同定と機能解析
DOI
10.1016/j.cell.2016.01.008
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
Cell Vol.164 No.5 (2016/Feb./25) p962-973
著者名(敬称略)
泉 奈津子 , 泊 幸秀 他
所属
東京大学 分子細胞生物学研究所

抄訳

 piRNA(PIWI-interacting RNA)は、動物の生殖巣においてトランスポゾンの発現抑制に機能する小分子RNAである。piRNAは、成熟型より少し長い前駆体RNAがPIWIタンパク質に取り込まれ、その3'末端が削りこまれることによりつくられる。piRNA前駆体を成熟型の長さまで削るヌクレアーゼ「Trimmer(トリマー)」の存在はこれまで予想されていたが、分子実体は不明であった。
 本研究ではpiRNAを発現するカイコ卵巣由来の培養細胞BmN4を用いた生化学的解析から、PNLDC1(PARN (polyA specific ribonuclease) -like domain containing 1)をカイコTrimmerとして同定した。Trimmerは、PARNと相同性のあるヌクレアーゼドメインを有する機能未知のタンパク質で、先行研究においてトリミングへの関与が示唆されていたPIWIタンパク質結合因子Papiと相互作用する。Trimmerには膜貫通ドメインが予測され、ミトコンドリア画分に存在することから、Papiと同様にミトコンドリア外膜タンパク質だと考えられた。興味深いことにTrimmerは単独では機能できず、piRNA前駆体のトリミングにはPapiを必要とすることが明らかとなった。また、PapiのPIWIタンパク質結合能およびRNA結合能がトリミングに必要であることから、PapiはpiRNA前駆体を取りこんだPIWIタンパク質をTrimmerにリクルートする役割があると考えられた。さらにpiRNA前駆体の3'末端が削りこまれ成熟型になることが、piRNAの安定性や機能発揮に重要であることを見出した。上記の結果は、ミトコンドリア膜上でTrimmerとPapiが協働してpiRNA前駆体の末端を削りこむというトリミングの分子機構とその意義を明らかにしたものである。

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2016/03/01

CD8+CD122+CD49dlow制御性T細胞は、Fas/FasLを介した細胞傷害によって活性化T細胞を殺すことでT細胞の恒常性を維持する。

論文タイトル
CD8+CD122+CD49dlow regulatory T cells maintain T-cell homeostasis by killing activated T cells via Fas/FasL-mediated cytotoxicity
論文タイトル(訳)
CD8+CD122+CD49dlow制御性T細胞は、Fas/FasLを介した細胞傷害によって活性化T細胞を殺すことでT細胞の恒常性を維持する。
DOI
10.1073/pnas.1525098113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print February 11, 2016,
著者名(敬称略)
赤根 和之、鈴木 治彦 他
所属
名古屋大学 大学院医学系研究科 分子細胞免疫学

抄訳

Fas/FasL経路は古くから知られるアポトーシス経路であるが、生体内でどのタイミング、どの細胞集団で働いているかの詳細は不明であった。我々は、細胞増殖の制御を測定するin vitro細胞培養実験系を構築し、さらにはin vivoのアッセイを行い、CD8+T細胞のどの分画が制御活性を持つかを検討した結果、in vitro、in vivoともにCD8+CD122+CD49dlow分画に制御活性が高いことを発見した。Fas分子の働かないlprマウスとFasLの働かないgldマウスを用い、Fas/FasL経路に異常があるとこの制御経路が働かないことをin vitroとin vivo双方において証明した。この結果、Fas及びFasLは活性化T細胞とCD8+CD122+CD49dlow制御性T細胞との間で働き、免疫反応の収束時に活性化T細胞にアポトーシスを誘導して数を減らす作用が重要とわかった。さらに、MHC class I分子を欠損するCD8+T細胞はこの抑制作用を受けないことから、CD8+制御性T細胞が働くにはTCRとMHC class Iとの相互作用が必要であることが証明された。

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2016/02/25

代謝型グルタミン酸受容体mGluR1は発達期小脳における平行線維シナプス除去とそれによる異種入力支配のテリトリー化を駆動する

論文タイトル
Territories of heterologous inputs onto Purkinje cell dendrites are segregated by mGluR1-dependent parallel fiber synapse elimination
論文タイトル(訳)
代謝型グルタミン酸受容体mGluR1は発達期小脳における平行線維シナプス除去とそれによる異種入力支配のテリトリー化を駆動する
DOI
10.1073/pnas.1511513113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Published online before print February 8
著者名(敬称略)
市川 量一 他
所属
札幌医科大学 医学部 医学科 解剖学第一講座

抄訳

発生初期の神経系では、過剰でしかも重複する神経回路が多く見られる。しかし、生後早期の神経活動の亢進がシナプス回路の選択的強化と除去を引き起こし、それによってその冗長な神経回路は機能的な神経回路へと改築される。これまで、骨格筋を支配する脊髄運動神経や小脳プルキンエ細胞を支配する登上線維などで、入力線維が競合することにより多重支配から単一支配へ移行し、その結果として適正な神経回路が形成されることが明らかにされた。プルキンエ細胞には興奮性線維としてもう一種類、平行線維が入力する。しかし、そのシナプス回路がどのような発達変化を遂げるのかは不明であった。本研究により、以下の点が明らかになった。生後早期のマウスのプルキンエ細胞では樹状突起の全域に渡って平行線維シナプスが形成されるが、生後15-20日の間にて樹状突起の近位部から平行線維シナプスが除去されることで成体でみられるようなシナプス分布が完成する。具体的には、近位部に局在する登上線維シナプステリトリーと遠位部に局在する平行線維シナプステリトリーとに、シナプス分布が分離することである。また、この平行線維シナプスの除去作用には、プルキンエ細胞に発現する代謝型グルタミン酸受容体mGluR1-PKCgamma系が重要な役割を果たしていることが判明した。

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2016/02/19

Gtr1-Gtr2によるTORC1-Gtr1/Gtr2-Ego1/2/3複合体の局在調節

論文タイトル
Dynamic relocation of the TORC1?Gtr1/2?Ego1/2/3 complex is regulated by Gtr1 and Gtr2
論文タイトル(訳)
Gtr1-Gtr2によるTORC1-Gtr1/Gtr2-Ego1/2/3複合体の局在調節
DOI
10.1091/mbc.E15-07-0470
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society of Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell January 15, 2016 vol. 27 no. 2 382-396
著者名(敬称略)
吉良 新太郎, 野田 健司 他
所属
大阪大学 歯学研究科 口腔科学フロンティアセンター, 生命機能研究科(兼)

抄訳

TORC1プロテインキナーゼ複合体は、細胞増殖制御に中心的役割を果たす分子であり、真核生物に広く保存されています。TORC1の活性調節分子として低分子量Gタンパク質であるGtr1/Gtr2、またその足場タンパク質としてEgo複合体が知られています。本論文では、1. Ego複合体の新規サブユニットEgo2の同定 2.TORC1-Gtr1/Gtr2-Ego複合体は、Gtr1/Gtr2により局在が制御されていること、の2点を報告しています。出芽酵母において、これらの分子群は液胞膜及びそれに付随した輝点として観察されます。Gtr1GTP型のとき、これらの分子は液胞膜全体に局在し、それに付随する輝点は減少しました。一方Gtr1GDP型の時は、これらの分子は液胞に付随する輝点上への局在が増加しました。このことからGtr1GTP/GDPサイクルにより、これらの分子の局在が制御されることが明らかになりました。さらに、TORC1が液胞近傍の輝点上に局在するGtr1-GDP型発現時に、TORC1を人為的に液胞膜全体に局在化させる系を用いた時、TORC1の液胞膜全体への局在化はGtr2存在下で阻害されました。このことからGtr2TORC1の液胞近傍輝点局在を正に制御していると考えられました。Gtr1-GDP型発現時にTORC1は液胞近傍の輝点に局在化し、このときTORC1は不活性化するため、TORC1の液胞近傍への輝点局在がTORC1の不活性化に関与する可能性が示唆されます。

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2016/02/17

脂肪体のメチオニン代謝によるショウジョウバエ成虫原基修復の遠隔調節

論文タイトル
Tissue nonautonomous effects of fat body methionine metabolism on imaginal disc repair in Drosophila
論文タイトル(訳)
脂肪体のメチオニン代謝によるショウジョウバエ成虫原基修復の遠隔調節
DOI
10.1073/pnas.1523681113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2016 113 (7) 1835?1840
著者名(敬称略)
樫尾宗志朗、小幡史明、三浦正幸 他
所属
東京大学 大学院薬学系研究科・遺伝学教室

抄訳

傷害を受けた組織が修復する機構に関して、これまでに傷害組織に内在したメカニズムが多く研究されてきた。近年、組織傷害に対して傷害部位とは異なる組織が応答する全身性創傷応答が様々な生物で見出され注目されている。本研究では、高い組織修復能と再生能とを持つショウジョウバエ翅成虫原基をモデルとして用い、組織修復に関わる組織間相互作用を解析した。温度感受性ジフテリア毒素を翅成虫原基に発現させ、飼育温度を29度から18度に変化させることによって一過的に組織傷害をおこし、その後29度に戻すことで組織修復と再生が見られる実験系を構築した。組織傷害後におこる全身性の応答を解析すると、傷害部位から離れた脂肪体でメチオニン代謝が変動することが明らかになった。ショウジョウバエの脂肪体はヒトの肝臓と白色脂肪組織に相当する。遺伝学的にメチオニン代謝に関わる酵素遺伝子を脂肪体で操作すると翅成虫原基の組織修復と再生が著しく阻害された。メチオニン代謝経路はショウジョウバエとヒトで共通しており、高度な遺伝学的解析を可能にするショウジョウバエを用いた研究によって、種を超えた脂肪組織による組織修復の遠隔制御機構の解明が期待される。

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2016/02/16

クロマチン結合を介した新規のRCC1核内局在機構

論文タイトル
Chromatin binding of RCC1 during mitosis is important for its nuclear localization in interphase
論文タイトル(訳)
クロマチン結合を介した新規のRCC1核内局在機構
DOI
10.1091/mbc.E15-07-0497
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell January 15, 2016 vol. 27 no. 2 371-381
著者名(敬称略)
古田満衣子, 深川 竜郎 他
所属
大阪大学大学院生命機能研究科

抄訳

小分子GTPaseであるRanと関連するRCC1は、細胞周期の各時期において多様な機能を持つと考えられている。RCC1は、機能に関連した各種ドメインを持つが、それらの生物学的な役割については不明な点も多い。我々は、各ドメインの生物学的な役割を解明する目的で、RCC1のノックアウト細胞を樹立して、その細胞へ各種RCC1変異体を導入することで各ドメインの生物機能を解析した。その結果、RCC1のクロマチン結合ドメインも核内局在シグナルもRCC1の持つ核膜形成能には必須でないことが判明した。しかしながら、その両ドメインを欠失させるとRCC1の核膜形成能は失われた。両ドメインを欠失したRCC1に人工的な核局在シグナルを付加させることで、核膜形成能が復帰したことから、我々は、「RCC1の核膜形成能には、RCC1自身の核内局在が必須である」ことを証明した。ところが、RCC1自身の核内局在シグナルを欠損させても、RCC1自身は核内に局在して核膜を形成できることから、クロマチン結合ドメインが核内局在にも関与していると考えた。そこで、核内局在シグナルを欠いたRCC1を細胞へ導入し、その過程を詳細に解析すると、導入直後、RCC1は細胞核には局在しないが、細胞分裂期にクロマチンと結合した後、核内へ移行することが判明した。これらの結果は、クロマチン結合を介した新規のRCC1核内局在機構の発見を意味している。

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2016/02/10

生細胞と無細胞反応系を統合した新生鎖観察により明らかとなった翻訳一時停止の一般性

論文タイトル
Integrated in vivo and in vitro nascent chain profiling reveals widespread translational pausing
論文タイトル(訳)
生細胞と無細胞反応系を統合した新生鎖観察により明らかとなった翻訳一時停止の一般性
DOI
10.1073/pnas.1520560113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print February 1, 2016
著者名(敬称略)
茶谷 悠平、丹羽 達也、千葉 志信、田口 英樹、伊藤 維昭
所属
京都産業大学・総合生命科学部 , 東京工業大学・大学院生命理工学研究科

抄訳

タンパク質の合成(遺伝情報の翻訳)においては、アミノ酸が遺伝子によって指定された順番で、一つ一つ連結されていく。この反応はリボソームの内部で起こり、新たに作られたポリペプチド鎖(新生鎖)の一端はtRNAを介してリボソームに繋がれ、他端は通り道(トンネル)を通ってリボソームの外に向かう。このポリペプチドの伸長過程が緩急の制御を受けることが知られるようになったが、翻訳の一時停止(pausing)がどの程度一般的におこるのかは不明であった。本研究では、この問題を解決するため、リボソームプロファイリング法という強力ではあるが間接的な方法によらず、翻訳の中間体であるペプチジルtRNAを直接的に検出する手法(iNP = integrated in vivo and in vitro nascent chain profiling)を用いた。大腸菌の1038個の遺伝子の翻訳過程の詳細像を網羅解析した結果、大部分の遺伝子が、1回~複数回の停滞を伴って翻訳されることが明らかになった。一時停止は、in vitro のみで起こるもの、in vivoのみで起こるもの、両方で起こるものに大別され、膜タンパク質と細胞質タンパク質で異なる性質の停滞が起こる傾向や、自発的フォールディングの能力との相関が観察された。翻訳の過程では、広範かつ多様な様式の一時停止が起こることがわかり、機能的タンパク質の形成は翻訳の緩急によっても支えられているものと考えられる。

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2016/02/09

2種類の擬似液体層は氷結晶上で動力学的に生成する

論文タイトル
Two types of quasi-liquid layers on ice crystals are formed kinetically
論文タイトル(訳)
2種類の擬似液体層は氷結晶上で動力学的に生成する
DOI
10.1073/pnas.1521607113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print February 1, 2016
著者名(敬称略)
麻川 明俊 、佐崎 元 他
所属
北海道大学 低温科学研究所

抄訳

氷の表面は、融点(0°C)以下の温度においても、擬似液体層と呼ばれる薄い水膜で覆われる。この現象は表面融解と呼ばれ、スケートの滑りやすさから雷の発生まで、様々な自然現象を支配する。我々は近年、形状が異なる2種類の擬似液体層(液滴状と薄い層状)が生成することを見出した。しかし、これらの擬似液体層の熱力学的安定性はまだ明らかになってはいなかった。我々は今回、2種類の擬似液体層が、水蒸気圧がある臨界の過飽和度よりも高い条件でのみ生成することを見出した。我々は、水1分子高さの段差を検出することができる光学顕微鏡を用いて、氷結晶表面上で擬似液体層を直接可視化した。その結果、ある一定の温度下では、水蒸気圧が減少するにつれて、まず薄い層状の擬似液体層が消滅し、続いて液滴状の擬似液体層が消滅する様子が観察された。しかし、2種類の擬似液体層が消滅した後も、氷結晶上では単位ステップが成長していた。これらの結果は、2種類の擬似液体層が、氷表面が融解するのではなく、過飽和な水蒸気が氷表面に析出することで、動的に生成することを示している。本成果は,これまて?長らく「表面融解」と呼は?れて来た現象の描像を根底から覆すものて?あり、擬似液体層が重要な役割を果たす幅広い現象の機構解明に役立つと共に,半導体結晶や有機物結晶なと?,様々な材料て?見られる融点直下て?の超高温表面・界面現象の解明に役立つと期待されます。

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2016/02/09

ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来ヒドロキシニトリルリアーゼの発見、分子生物学的および触媒的特性

論文タイトル
Discovery and molecular and biocatalytic properties of hydroxynitrile lyase from an invasive millipede、 Chamberlinius hualienensis[2]
論文タイトル(訳)
ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来ヒドロキシニトリルリアーゼの発見、分子生物学的および触媒的特性
DOI
10.1073/pnas.1508311112
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2015 112 (34) 10605-10610
著者名(敬称略)
Mohammad Dadashipour, 石田裕幸、山本和範、浅野泰久
所属
公立大学法人富山県立大学 国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO) 浅野酵素活性分子プロジェクト

抄訳

シアン産生生物の防御機構を構成するヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)は、立体選択的にシアノヒドリンを合成することができる。シアノヒドリンは、ファインケミカルや農薬、医薬品の合成におけるビルディングブロックとして利用価値が高く、HNLは重要な生物触媒として工業的に利用されている。ヤンバルトサカヤスデから新たに発見したHNLは、既知のタンパク質とは全く相同性はないが、青酸と様々な芳香族アルデヒドの縮合反応を触媒し、マンデロニトリル合成においては、同様の活性を示す酵素の中で最も高い比活性を示した。更に、本酵素は広い範囲の温度とpH領域で高い安定性を示し、有機溶媒の使用なしに、99%の鏡像体過剰率でベンズアルデヒドから(R)-マンデロニトリルを合成できた。陸上動物の80%を構成している節足動物相は、バイオテクノロジーにおいて、HNLのみならず様々な新奇酵素を探索する新たな生物資源となるに違いない。

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2015/10/15

授乳時の乳頭吸飲刺激によるラット視床下部Kiss1ニューロンの急速な発現調節

論文タイトル
Rapid modulation of hypothalamic Kiss1 levels by the suckling stimulus in the lactating rat
論文タイトル(訳)
授乳時の乳頭吸飲刺激によるラット視床下部Kiss1ニューロンの急速な発現調節
DOI
10.1530/JOE-15-0143
ジャーナル名
Journal of Endocrinology Bioscientifica
巻号
J Endocrinol Vol.227 No.2 (105-115)
著者名(敬称略)
肥後 心平(筆頭著者),小澤 一史(連絡著者) 他
所属
日本医科大学大学院医学研究科 解剖学・神経生物学分野

抄訳

授乳時には乳頭吸引刺激による急性的な視床下部GnRH分泌抑制, 引き続く下垂体LH分泌の減少が生じ, 一時的な不妊状態となるが, GnRH/LHの減少がなぜ誘導されるのかはよくわかっていない. 本研究では, 異なる授乳状態のラットをモデルに, GnRH分泌の上流制御因子であるKiss1が授乳時の急性的GnRH/LH減少に関わる可能性を調べた.

ラットの視床下部Kiss1発現は母仔分離・再哺乳により急性的な変動を示した. 神経投射解析により, 乳頭吸飲刺激が脊髄・中脳を介した直接投射により視床下部弓状核のKiss1ニューロンに伝達され, Kiss1発現の急性的抑制, GnRHの分泌低下を惹起する可能性を見出した. また, 授乳時の血中プロラクチンの上昇に対してもKiss1は急性的に抑制されることがわかった. 弓状核のKiss1ニューロンは背側弓状核Dopamineニューロンへの投射を介して下垂体からのプロラクチン分泌にも関わるため, この回路を介した再帰的なKiss1の発現抑制も授乳期におけるGnRH分泌の減少に関わる可能性を見出した.

これらの結果は, 授乳期の排卵抑制~一時的不妊状態の分子メカニズムを機能形態学的に明らかにするものである.

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