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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2014/04/02

ヘリコバクター・ピロリCagAと胃がん:ヒット&ラン発がんのパラダイム

論文タイトル
Helicobacter pylori CagA and Gastric Cancer: A Paradigm for Hit-and-Run Carcinogenesis
論文タイトル(訳)
ヘリコバクター・ピロリCagAと胃がん:ヒット&ラン発がんのパラダイム
DOI
10.1016/j.chom.2014.02.008
ジャーナル名
Cell Host and Microbe Cell Press
巻号
Volume 15, Issue 3, 306-316, 12 March 2014
著者名(敬称略)
畠山 昌則
所属
東京大学大学院医学系研究科・医学部 病因・病理学専攻 微生物学講座 微生物学分野

抄訳

胃がんは全世界がん死亡の第二位を占め、毎年約70万人がこの悪性腫瘍で命を落としている。一部の例外を除き、胃がん発症にはCagAタンパク質を産生するヘリコバクター・ピロリの胃内持続感染が必須の役割を担う。ピロリ菌CagAはホ乳動物に悪性腫瘍を引き起こすことが証明されている唯一の細菌タンパク質であり、菌が保有するミクロの注射針(IV型分泌機構)を介して胃上皮細胞内に直接注入される。胃上皮細胞内に侵入したCagAは異常な足場タンパク質として機能し、複数の細胞内シグナル伝達系を並行して障害する。CagAにより生成された異常シグナルは細胞がん化を直接促すと同時に、遺伝的不安定性を増大させる。一方、胃がん発症過程において本質的な役割を担うにも関わらず、一旦生成された胃がん細胞の形質維持にCagAはもはや不要となる。この事実は、ピロリ菌CagAがかかわる胃発がんプロセスがヒット&ラン機構で進行することを示している。胃がん発症の初期段階においてCagAが担う発がん活性は、CagAが同時に誘導する遺伝的不安定性を基盤にゲノム内に蓄積するゲノム・エピゲノム変異に漸次置き換えられ「がん前駆細胞」内に固定されていくと考えられる。

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2014/03/26

ヤギにおいて生殖制御中枢を促進する嗅覚分子の同定

論文タイトル
Identification of an Olfactory Signal Molecule that Activates the Central Regulator of Reproduction in Goats
論文タイトル(訳)
ヤギにおいて生殖制御中枢を促進する嗅覚分子の同定
DOI
10.1016/j.cub.2014.01.073
ジャーナル名
Current Biology Cell Press
巻号
Volume 24, Issue 6, 681-686, 27 February 2014
著者名(敬称略)
村田健、武内ゆかり 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻

抄訳

フェロモンは、「ある個体が放出し、同種の他個体が受容したときに特定の行動や生理的変化を誘起する物質」と定義され、嗅覚系を介した同種間のコミュニケーションに重要な役割を果たしている。哺乳類では、攻撃行動や性行動などを誘起する「行動を制御するフェロモン」は同定されており、その作用機構も明らかにされてきたが、雌の性成熟を早めたり発情を誘起するなどの効果をもつ「内分泌系を制御するフェロモン」に関しては不明な点が少なくなかった。本研究では、ヤギにおいて非繁殖期の雌が、雄の匂いを感じることで排卵と発情が誘起される「雄効果」に着目し、生殖制御中枢に促進的に作用するフェロモンとして、4-ethyloctanalという新奇の揮発性化合物を同定した。この化合物は、雄ヤギの頭部より放出される多くの物質の中から、雌ヤギにおける脳の生殖制御中枢活動をリアルタイムで観測できるバイオアッセイ法によって同定された。雌における生殖制御中枢活動の促進を明瞭に示すフェロモンの同定は、哺乳類では本成果が初めてであり、今後は本知見をもとに、フェロモンを用いた家畜の繁殖制御方法の開発などへの展開が期待される。

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2014/03/26

PDI ファミリータンパク質ERp46の新規ドメイン構造と機能的役割の解明

論文タイトル
Radically Different Thioredoxin Domain Arrangement of Radically Different Thioredoxin Domain Arrangement of ERp46, an Efficient Disulfide Bond Introducer of the Mammalian PDI Family
論文タイトル(訳)
PDI ファミリータンパク質ERp46の新規ドメイン構造と機能的役割の解明
DOI
10.1016/j.str.2013.12.013
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Volume 22, Issue 3, 431-443, 23 January 2014
著者名(敬称略)
小島理恵子、奥村正樹、稲葉謙次
所属
九州大学生体防御医学研究所・東北大学多元物質科学研究所

抄訳

哺乳動物細胞の小胞体には20種類以上のProtein Disulfide Isomerase (PDI)ファミリータンパク質が存在するが、個々の因子の生理的機能はほとんど解明されていない。2013年に我々は、新たに見つかったPDI酸化酵素Peroxiredoxin-4 (Prx4) がPDIファミリータンパク質の中でもERp46に対して特に高い酸化活性を有することを報告した (Sato et al., Sci. Rep. 2013)。本研究ではERp46の構造とPrx4とERp46を介した基質へのジスルフィド導入経路の分子機構を解明するに至った。ERp46は3つのチオレドキシンドメイン(Trx)から成るが、この内Trx1, Trx2のX線結晶構造をそれぞれ2.5Å,0.95Åの分解能で決定し、さらにTrx2とPrx4のC末端領域の複合体の結晶構造を0.92Åの分解能で決定することにより、ERp46-Prx4間の特異的な結合様式を明らかした。さらに、X線小角散乱法によりERp46の全長構造のモデリングを行った結果、ERp46は他のPDIファミリータンパク質にはみられない新規な「開いたV字構造」をとることが明らかになった。さらに系統的な生化学機能解析により、ERp46は開いたV字構造上で活性部位を溶媒に露出させ、アンフォールドした基質にランダムかつ迅速にジスルフィド結合を導入するのに対し、PDIはU字構造内部の疎水性ポケットにフォールディング中間体を取り込み、互いに向き合った活性部位が協調的にはたらくことで効率よくジスルフィド結合の組換えを行うことを提唱した。本研究により、ERp46が他のPDIファミリータンパク質では例にみない新規のドメイン構造をもち、タンパク質の酸化的フォールディングの初期過程においてジスルフィド結合導入に特化した機能を有することが明らかとなった。

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2014/03/19

下垂体腺腫の腫瘍性状の予測:3T-MRIを使用した造影FIESTA法による評価

論文タイトル
Tumor Consistency of Pituitary Macroadenomas: Predictive Analysis on the Basis of Imaging Features with Contrast-Enhanced 3D FIESTA at 3T
論文タイトル(訳)
下垂体腺腫の腫瘍性状の予測:3T-MRIを使用した造影FIESTA法による評価
DOI
10.3174/ajnr.A3667
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 35, No. 2 (297-303)
著者名(敬称略)
山本 淳考 他
所属
産業医科大学 医学部 脳神経外科

抄訳

手術の際に視野が限られる下垂体腺腫の外科的治療において、その腫瘍性状(硬さ)を術前に予測することが重要である。本研究では、腫瘍性状予測の観点から、造影FIESTA法の有用性について検討を行った。29症例の下垂体腺腫の患者に対して通常の頭部MRシーケンスに加えて造影FIESTA法を使用し術前に全例撮影を施行。2名の放射線科医が、造影FIESTA、造影T1強調画像およびT2強調画像について評価を行った。また、手術所見から、脳神経外科医が下垂体腺腫の性状について2群(やわらかい、硬い)に分類した。最後に、MR画像所見と下垂体腺腫の硬さ、コラーゲン含有量および術後の残存腫瘍サイズとの関係について統計学的解析を行った。下垂体腺腫のMR画像所見として、比較的均一な信号を呈する場合 (solid type) と、腫瘍内部に複数の点状の高信号を含む場合 (mosaic type) の2群に分類された。この分類において、造影FIESTA法は、他のシーケンスと比較し、有意に腫瘍性状との相関を認めた。Mosaic typeと比較し、solid typeでは、腫瘍が硬く、コラーゲン含有量が多く、術後残存腫瘍が大きい傾向にあった。下垂体腺腫において、造影FIESTA法は、コラーゲン含有量を反映した腫瘍性状(硬さ)に関する付加情報を術前に提供できる可能性が示唆された。

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2014/03/19

グリオーマ患者を対象とした62Cu-ATSM-PETイメージング; FDG-, MET-PETとの比較検討

論文タイトル
62Cu-Diacetyl-Bis (N4-Methylthiosemicarbazone) PET in Human Gliomas: Comparative Study with [18F] Fluorodeoxyglucose and L-Methyl-[11C]Methionine PET
論文タイトル(訳)
グリオーマ患者を対象とした62Cu-ATSM-PETイメージング; FDG-, MET-PETとの比較検討
DOI
10.3174/ajnr.A3679
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 35, No. 2 (278-284)
著者名(敬称略)
立石健祐 川原信隆 他
所属
横浜市立大学附属病院脳神経外科

抄訳

62Cu-Diacetyl-Bis (N4-Methylthiosemicarbazone) (62Cu-ATSM)はPETにおける低酸素イメージング剤として開発された。本研究ではグリオーマ患者を対象に62Cu-ATSM-PETを施行し、MRI、 [18F]Fluorodeoxyglucose (FDG-), 及びL-Methyl-[11C]Methionine (MET-PET)との比較検討を行うことにより62Cu-ATSM-PETの意義付けを図ることを目的とした。対象及び方法;10例の神経膠芽腫を含む23例のグリオーマ患者に対し62Cu-ATSM, FDG-PETを施行した。19例ではMET-PETを追加した。全症例で直後に手術を施行し、得られた病理診断とPET所見との対比を図った。また各PETトレーサー及びMRI所見との比較の為に半定量的解析と共に、集積亢進領域の定性的解析かつ体積での評価を行った。 結果;神経膠芽腫において62Cu-ATSM及びMETは有意な集積亢進を認めた。神経膠芽腫に対する陽性反応的中度はMET-PET, 陰性反応的中度は62Cu-ATSM-PETが最も高かった。神経膠芽腫における62Cu-ATSM集積亢進は体積による検討ではFDG, METと有意に相関したものの、集積亢進領域はFDGの半数、METでは全例において不均一性を示した。結論; 低酸素イメージング剤62Cu-ATSMは術前に神経膠芽腫を予測しうる有用なトレーサーと考えられた。更に62Cu-ATSM-PETを従来のMRI, PET検査と併用することで低酸素領域を同定し、その結果治療抵抗領域への治療につながる可能性が示唆された。

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2014/02/27

プロリン水酸化酵素の阻害は炎症と細胞外マトリックスの破壊を抑制し、腹部動脈瘤の形成を抑制する。

論文タイトル
Suppression of abdominal aortic aneurysm formation by inhibition of prolyl hydroxylase domain protein through attenuation of inflammation and extracellular matrix disruption
論文タイトル(訳)
プロリン水酸化酵素の阻害は炎症と細胞外マトリックスの破壊を抑制し、腹部動脈瘤の形成を抑制する。
DOI
10.1042/CS20130435
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
Vol.126 No.9 671-678
著者名(敬称略)
渡邉 亜矢、市来 俊弘 他
所属
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学

抄訳

プロリン水酸化酵素タンパク(PHD)の阻害剤である塩化コバルト(以下CoCl2)が、腹部大動脈瘤(AAA)の進展に及ぼす効果について検討した。腹部大動脈瘤はC57BL6/Jマウスの腹部大動脈に塩化カルシウム(CaCl2)を塗布し作成した(AAA群)。0.9%塩化ナトリウム溶液を用いてsham対照群(SHAM群)を作成した。また、CoCl2は0.05%溶液を飲水投与した(AAA/CoCl2群)。手術後1週間及び6週間後に腹部大動脈を摘出し、解析した。CaCl2塗布後6週後のマウスでは、SHAM群と比較しAAA群では大動脈径の拡大とマクロファージの浸潤の増加を認めた。AAA/CoCl2群ではAAA群と比較し、瘤径の拡大とマクロファージの浸潤は抑制されていた。炎症性サイトカインの発現や、マトリクスメタロプロテイナーゼ9及び2の活性はAAA群で上昇し、AAA/CoCl2群で抑制されていた。サイトカインの発現やMMPの活性は術後1週間目のAAA群でも増加していた。AAA/CoCl2群でその増加が抑制されており、核内因子κB(NF-κB)のリン酸化の抑制を伴っていた。CaCl2塗布によって誘導されるマウス腹部大動脈瘤の形成において、CoCl2による治療は、炎症と細胞外マトリクスの破壊を抑制し、AAAの進展を抑制した。この結果は、PHDがAAAの進展において重要な役割を果たしていることを示唆し、PHD阻害剤がAAAの進展予防を目的とする治療おいて有用である可能性があると考えられる。

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2013/09/07

細胞核内のDNAの濃度が染色体の凝縮に影響する

論文タイトル
Intranuclear DNA density affects chromosome condensation in metazoans
論文タイトル(訳)
細胞核内のDNAの濃度が染色体の凝縮に影響する
DOI
10.1091/mbc.E13-01-0043
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 1 2013 vol. 24 no. 15 2442-2453
著者名(敬称略)
原 裕貴、木村 暁 他
所属
大学共同利用機関法人 国立遺伝学研究所 細胞建築研究室

抄訳

遺伝情報を担う染色体は、細胞が分裂する際には凝縮し、一本一本の染色体が「分裂期染色体」と呼ばれる棒状の構造を形成します。同じ個体の中でも、DNAの塩基配列の長さは変わらないのに、分裂期染色体の長さは変わることが知られています。本論文では、染色体凝縮が「細胞核内のDNAの濃度」により制御されるとする新しいメカニズムが提唱されました。まず、線虫C. elegansを用いて、初期胚発生過程において、細胞核が徐々に小さくなる過程で、分裂期染色体の長さも徐々に短くなることを見いだしました。遺伝子操作により細胞核のサイズを変化させると、それに相関して分裂期染色体の長さも変化しました。分裂期染色体の長さは細胞核内のDNAの量にも相関しました。このことは、間期核内で染色体一本あたりの核の大きさが大きいほど分裂期染色体は長くなることを示しています。さらに、カエル卵の無細胞系を利用して細胞核のサイズを小さくしてから分裂期染色体を形成させると、やはり分裂期染色体は通常よりも短くなることを見いだしました。以上の観察は、染色体の凝縮が核の大きさやDNAの量といった物理的な制約をうけることを示す新たな知見です。

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2013/07/09

グリア細胞が脳傷害から神経を守るカルシウム機構の解明

論文タイトル
Calcium-dependent N-cadherin up-regulation mediates reactive astrogliosis and neuroprotection after brain injury 
論文タイトル(訳)
グリア細胞が脳傷害から神経を守るカルシウム機構の解明
DOI
10.1073/pnas.1300378110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (28) 11612-11617; published ahead of print June 24, 2013, doi:10.1073/pnas.1300378110
著者名(敬称略)
金丸和典、飯野 正光 他
所属
東京大学大学院医学系研究科 細胞分子薬理学教室

抄訳

脳内において神経細胞を取り囲むように存在するグリア細胞は、その数が神経細胞を凌ぎます。通常、グリア細胞は神経細胞の信号伝達をサポートすると考えられています。しかし、てんかんや脳梗塞などの脳疾患、あるいは脳挫傷などの外傷により脳がダメージを受けると、グリア細胞は「通常型」から「病態型」へと姿を変えて神経細胞を保護する機能を獲得します。このような変化が起こるメカニズムには不明な点が多く残されていますが、私たちは、そのメカニズムの一端を明らかにしました。グリア細胞内のカルシウム濃度の変化が、通常型から病態型への変化と神経細胞を保護する作用を獲得するために重要であることが分かりました。

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2013/04/22

初期化を阻害する転写因子が分化を促進する

論文タイトル
Transcription factors interfering with dedifferentiation induce cell type-specific transcriptional profiles 
論文タイトル(訳)
初期化を阻害する転写因子が分化を促進する
DOI
10.1073/pnas.1220200110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (16) 6412-6417; published ahead of print April 2, 2013, doi:10.1073/pnas.1220200110
著者名(敬称略)
引地 貴亮、升井 伸治 他
所属
京都大学 iPS細胞研究所初期化機構研究部門

抄訳

転写因子は、遺伝子の発現を調節することで、細胞の初期化や分化を制御するが、そのメカニズムの理解は断片的である。本研究では、初期化と分化を転写制御で統合的に理解するモデルを報告する。 神経系細胞に特異的に発現する158転写因子をリストアップし、それらを過剰発現させたところ、初期化する効率を下げる(iPS細胞化に干渉する)因子が少数存在した。これらの因子を肝臓細胞などに導入したところ、神経系細胞を誘導できた。また、同様に肝臓の細胞でiPS細胞化に干渉する因子は、既に肝臓細胞へと誘導することが知られている転写因子だった。これらの結果から、細胞特異的発現プロファイルを強く維持するコア因子は、iPS細胞化に強く干渉すること、すなわち初期化には細胞特異的発現プロファイルの抑制が必要であることがわかった。今後は、干渉を指標に様々な分化細胞でコア因子同定が期待される。

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2013/01/28

転写因子Jdp2は骨恒常性と細菌感染防御を破骨細胞と好中球の分化を制御することで調節する

論文タイトル
The Transcription Factor Jdp2 Controls Bone Homeostasis and Antibacterial Immunity by Regulating Osteoclast and Neutrophil Differentiation 
論文タイトル(訳)
転写因子Jdp2は骨恒常性と細菌感染防御を破骨細胞と好中球の分化を制御することで調節する
DOI
10.1016/j.immuni.2012.08.022
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
Immunity Volume 37, Issue 6, 14 December 2012, Pages 1024-1036
著者名(敬称略)
丸山 健太、審良 静男 他
所属
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室

抄訳

Jdp2はAP-1ファミリーに属する転写因子であり、破骨細胞分化やヒストンアセチル化制御に関与することが知られている。しかし、血球分化におけるその機能や個体レベルでの生理的意義については謎に包まれていた。そこでJdp2ノックアウトマウスを作成し解析したところ、このマウスがin vivoにおける破骨細胞分化の障害により大理石骨病を発症することを発見した。さらに我々は、Jdp2ノックアウトマウスが黄色ブドウ球菌やカンジダに対し易感染であることを見出し、その原因が分化マーカーLy6Gの発現が減弱した機能異常を有する好中球にあることを明らかにした。好中球のJdp2はC/EBPaと結合しその転写活性を最終分化段階において抑制することで好中球機能(殺菌能、好中球細胞外トラップ形成や自発的なアポトーシス)を最適化させていた。また、好中球の分化マーカーLy6GはATF3によって抑制され、Jdp2はATF3のプロモーター領域に結合してヒストンを脱アセチル化することでATF3の発現を抑制し、適切な分化状態を作り出していた。以上より、Jdp2はin vivoにおける骨恒常性と細菌感染防御を、破骨細胞と好中球分化に特異的な遺伝子の発現調節を介して複雑に制御していることが明らかとなった。

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2013/01/28

シアノバクテリアの走光性光受容体であるシアノバクテリオクロムタンパク質AnPixJとTePixJの結晶構造から明らかになった光変換反応の普遍性と特異性

論文タイトル
Structures of cyanobacteriochromes from phototaxis regulators AnPixJ and TePixJ reveal general and specific photoconversion mechanism 
論文タイトル(訳)
シアノバクテリアの走光性光受容体であるシアノバクテリオクロムタンパク質AnPixJとTePixJの結晶構造から明らかになった光変換反応の普遍性と特異性
DOI
10.1073/pnas.1212098110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (3) 918-923; published ahead of print December 19, 2012, doi:10.1073/pnas.1212098110
著者名(敬称略)
成川 礼、池内 昌彦 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系(生物)

抄訳

シアノバクテリオクロムは、シアノバクテリアに広く分布するテトラピロール結合型光受容体で、フィトクロムのスーパーファミリーに属する色素結合型GAFドメインをもつ。シアノバクテリオクロムは多様な分光特性をもついくつものサブクラスに分かれる。そのなかで、糸状性アナベナAnabaena sp. PCC 7120と好熱性Thermosynechococcus elongatus BP-1の走光性光受容体(以下、AnPixJとTePixJ)はそれぞれ赤/緑型と青/緑型サブクラスの代表である。論文では、AnPixJのGAFドメインの赤色光吸収型(Pr)とTePixJのGAFドメインの緑色光吸収型(Pg)の結晶構造を決定した。その構造は、フィトクロムのGAFドメインとおおむね似ていたが、以下のような大きな特徴がみられた。(1) 発色団は、C5-Z,syn/C10-Z,syn/C15-Z/antiのフィコシアノビリン(AnPixJ Pr)とC10-Z,syn/C15-E,anti のフィコビオロビリン(TePixJ Pg)である。(2) ピロール環に配位する保存されたAsp残基は、AnPixJではA・B・C環に、TePixJ PgではD環に水素結合していた。これによって、光励起によるD環の異性化に続く構造変化の普遍性と特異性が明らかになった

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2012/12/05

オートファジー必須因子・Atg16L1はPC12細胞においてオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌を制御する

論文タイトル
Atg16L1, an essential factor for canonical autophagy, participates in hormone secretion from PC12 cells independently of autophagic activity 
論文タイトル(訳)
オートファジー必須因子・Atg16L1はPC12細胞においてオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌を制御する
DOI
10.1091/mbc.E12-01-0010
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 15, 2012 vol. 23 no. 16 3193-3202
著者名(敬称略)
石橋弘太郎、福田 光則 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 膜輸送機構解析分野

抄訳

オートファジーは、あらゆる真核細胞に保存された細胞内分解機構であり、様々な生命現象において重要な役割を担うことが明らかになっている。近年、オートファジーと分泌との関連性を示す研究が幾つか報告されているが、両者を結び付ける分子メカニズムはこれまで全く明らかになっていない。そこで本論文では、分泌研究のモデル細胞株である副腎髄質クロマフィン細胞由来のPC12細胞を用いて解析を行ったところ、オートファジー必須因子の1つであるAtg16L1が低分子量G蛋白質Rab33A依存的にホルモン顆粒上に局在することを見出した。興味深いことに、このAtg16L1のホルモン顆粒への局在はオートファジー阻害の影響を全く受けなかった。また、RNA干渉法を用いた内在性のAtg16L1(あるいは足場となるRab33A)分子のノックダウンの結果、ホルモン分泌量が顕著に減少することが明らかになった。以上の結果から、Atg16L1はホルモン顆粒上のRab33Aと協調してオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌過程を制御することが示唆された。

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2012/12/05

心筋L型カルシウムチャネルが結合膜構造に局在化するためには,α1CサブユニットのC末端近位側が必要である。

論文タイトル
The proximal C-terminus of α1C subunits is necessary for junctional membrane targeting of cardiac L-type calcium channels 
論文タイトル(訳)
心筋L型カルシウムチャネルが結合膜構造に局在化するためには,α1CサブユニットのC末端近位側が必要である。
DOI
10.1042/BJ20120773
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
Biochem.J (2012) 448, 221-231
著者名(敬称略)
中田勉、山田充彦 他
所属
信州大学医学部 分子薬理学講座

抄訳

心筋におけるL型カルシウムチャネル(LTCC)は,形質膜・筋小胞体膜結合膜構造でリアノジン受容体と機能的複合体を形成している。心筋のLTCCが結合膜構造に局在することは効率的な興奮収縮連関に不可欠であるが,その分子機構は明らかでない。本研究ではα1Cサブユニット(骨格筋型LTCCのポアサブユニット)を欠損したdysgenicマウス由来の骨格筋細胞株GLTを用いた研究を行った。α1Cサブユニット(心筋型LTCCのポアサブユニット)の種々の変異体を作成しGLT細胞に発現させ,免疫染色法を行った結果,C末端近位側に存在するL1681QAGLRTL1688とP1693EIRRAIS1700の部位に変異が導入されるとチャネルの結合膜構造への集積が強く抑制された。また,この部位の変異体を導入したGLT細胞は,野生型の遺伝子を導入したものと比べて,電気刺激によるカルシウムトランジェントを起こす確率が減少していた。この結果から,今回同定したモチーフがLTCCの結合膜への局在と機能に重要な意味を持つことが示唆された。

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2012/12/05

Rab27エフェクター・Slp2-aはMDCK II細胞においてシグナル分子podocalyxinのapical輸送とclaudin-2の発現調節を行う

論文タイトル
Rab27 effector Slp2-a transports the apical signaling molecule podocalyxin to the apical surface of MDCK II cells and regulates claudin-2 expression 
論文タイトル(訳)
Rab27エフェクター・Slp2-aはMDCK II細胞においてシグナル分子podocalyxinのapical輸送とclaudin-2の発現調節を行う
DOI
10.1091/mbc.E12-02-0104
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 15, 2012 vol. 23 no. 16 3229-3239
著者名(敬称略)
安田貴雄、福田 光則 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 膜輸送機構解析分野

抄訳

上皮細胞は細胞間のバリアであるタイトジャンクションを仕切りに、頂端側(apical面)と側底側(basolateral面)という極性を持ち、それぞれに特異的な蛋白質や脂質を運ぶ極性輸送という仕組みを持つ。我々はこれまで、マウスの胃上皮細胞のapical面に特異的に局在する分子としてSlp2-a(synaptotagmin-like protein 2-a)を同定している。Slp2-aは膜輸送を制御する低分子量G蛋白質Rab27と結合することから、上皮細胞のapical面への極性輸送に関与することが示唆されていたが、その機能はこれまで明らかではなかった。本論文では、極性輸送のモデル細胞であるイヌの腎臓尿細管上皮細胞MDCK II細胞を用い、Slp2-aがRab27によって運ばれてきたシグナル分子podocalyxinを含む小胞をapical面に繋ぎ留め、podocalyxinのapical細胞膜への輸送を促進することを初めて明らかにした。さらに、apical面に輸送されたpodocalyxinは、その下流分子である細胞骨格関連蛋白質ezrinの活性調節およびMAPキナーゼカスケード(ERK1/2)の活性調節を行うことで、タイトジャンクションの構成因子claudin-2の発現調節に関与することを突き止めた。以上の結果から、Slp2-aを介した「apical面への極性輸送」と「細胞間相互作用」との間に新たな機能的関係が存在することが明らかになった。

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2012/10/04

卵丘細胞卵複合体の膨潤は、EGF like factor-Calpain活性を介した細胞遊走によって引き起こされる

論文タイトル
EGF-Like Factors Induce Expansion of the Cumulus Cell-Oocyte Complexes by Activating Calpain-Mediated Cell Movement 
論文タイトル(訳)
卵丘細胞卵複合体の膨潤は、EGF like factor-Calpain活性を介した細胞遊走によって引き起こされる
DOI
10.1210/en.2012-1059
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
Endocrinology August 1, 2012 vol. 153 no. 8 3949-3959
著者名(敬称略)
川島一公、島田昌之 他
所属
広島大学生物圏科学研究科 生物資源科学専攻

抄訳

哺乳類の卵は、多層の卵丘細胞に覆われ、卵丘細胞・卵複合体 (COC) を形成している。排卵過程において、COCは、EGF like factor刺激によりヒアルロン酸を主とした細胞外マトリックス (ECM) を卵丘細胞間に蓄積し、その複合体の体積が増大する(この現象を膨潤と呼ぶ)。しかし、ECMを蓄積するスペースを得るために、結合していた細胞が脱接着し、移動する必要があると推察されるが、これまで全く検討されていない。そこで、ガン細胞の脱接着・遊走を司るプロテアーゼであるCalpain1, 2に着目し、卵丘細胞での発現と活性化、その役割について検討した。その結果、卵丘細胞ではCalpain2が発現し、排卵刺激後にEGF-like factor-EGFRによるCa2+上昇とERK1/2の活性化依存的に酵素活性が上昇していた。標的タンパク質であるPaxillinやTalinの分解も、排卵刺激後に検出され、PaxillinとCalpain2においては細胞間結合部位と細胞突起 (Bleb) 形成の起点特異的に検出された。このBleb形成は、Calpain inhibitorで抑制され、その結果、Calpain inhibitor処理により卵丘細胞の脱接着と遊走が認められず、COC膨潤と排卵が有意に抑制された。以上の結果から、EGFR-Calpain2による卵丘細胞の脱接着・細胞遊走がCOC膨潤による排卵に必須であることが明らかとなった.

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2012/10/03

フォトン単位の隠れマルコフモデルに基づく1分子 FRET 軌跡の変分ベイズ解析

論文タイトル
Variational Bayes Analysis of a Photon-Based Hidden Markov Model for Single-Molecule FRET Trajectories 
論文タイトル(訳)
フォトン単位の隠れマルコフモデルに基づく1分子 FRET 軌跡の変分ベイズ解析
DOI
10.1016/j.bpj.2012.07.047
ジャーナル名
Biophysical Journal Cell Press
巻号
Biophysical JournalVolume 103, Issue 6, 1315-1324, 19 September 2012
著者名(敬称略)
岡本憲二
所属
独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 佐甲細胞情報研究室

抄訳

1分子 FRET 計測法は、生体分子の構造変化ダイナミクスの実時間での計測を可能とする有力な手法である。近年、タイムスタンプ (TS) フォトン検出方式を用いることで、高精度・高時間分解能で時系列信号を得ることが可能となった。一方、微弱な信号では揺らぎを無視できず、乱雑な信号から意味のある情報を取り出す信号解析が必要とされる。これまで、1分子ダイナミクスを状態遷移の繰り返しと見なし、隠れマルコフモデル (HMM) 等を用いて状態遷移軌跡を復元する方法論が提案されてきた。
 本論文では、TS-FRET 信号の HMM を変分ベイズ (VB) 法で取り扱うことにより、時系列信号から状態数を推定し、状態遷移軌跡を復元する新たなデータ解析法を紹介する。シミュレーションにより生成した信号に適用することで解析法の評価をおこない、従来法よりも優れた結果を得られることを示し、性能の限界についての評価をおこなった。また、Holliday junction DNA の1分子 FRET 計測実験をおこない、その実測データに新たな解析法を適用した例を示した。
 その結果、予想される状態数を正しく推定し、状態遷移軌跡を復元することに成功した。得られた結果は、branch migration の1ステップがたびたび複数塩基対のジャンプを含むことを示唆するものであった。

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2012/10/02

エクト型酵素CD38の細胞表面における四量体形成は触媒活性と脂質ラフトへの局在化に必要である

論文タイトル
Tetrameric Interaction of the Ectoenzyme CD38 on the Cell Surface Enables Its Catalytic and Raft-Association Activities 
論文タイトル(訳)
エクト型酵素CD38の細胞表面における四量体形成は触媒活性と脂質ラフトへの局在化に必要である
DOI
10.1016/j.str.2012.06.017
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Structure, Volume 20, Issue 9, 1585-1595, 02 August 2012
著者名(敬称略)
横山三紀 他
所属
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 生体支持組織学系 生体硬組織再生学講座 硬組織病態生化学分野

抄訳

リンパ球表面抗原CD38は哺乳類細胞における主要なNAD分解酵素であり、サイクリックADPリボースの産生を介して細胞内カルシウム動員に関与する。また脂質ラフトに局在化して細胞増殖や細胞死のシグナルを制御する。CD38は細胞表面上で四量体を形成することが知られていたが四量体の構造と機能的な意義は不明だった。本論文では部位特異的架橋反応と結晶構造解析を組み合わせてマウスCD38の細胞表面での多量体化に関与する3種類の接触面 (I-III) を明らかにした。接触面 (I) により膜の直上で二量体化したCD38が、接触面 (II, III) によりさらに組み合わされて四量体が形成される。コアとなる二量体同士が結合することはCD38の触媒活性と脂質ラフトへの局在化のどちらにも必要であった。CD38の糖鎖付加は四量体の自己重合を抑制していることが示唆された。四量体形成はCD38の多彩な分子機能の構造基盤であると考えられる。

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2012/10/01

右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布:I-123 イオマゼニールSPECTの部分容積効果補正および統計画像解析

論文タイトル
Distribution of Cortical Benzodiazepine Receptor Binding in Right-Handed Healthy Humans: A Voxel-Based Statistical Analysis of Iodine 123 Iomazenil SPECT with Partial Volume Correction
論文タイトル(訳)
右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布:I-123 イオマゼニールSPECTの部分容積効果補正および統計画像解析
DOI
10.3174/ajnr.A3005
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 33, No. 8 (1458-1463)
著者名(敬称略)
加藤 弘樹
所属
大阪大学大学院医学系研究科 放射線統合医学講座 核医学講座

抄訳

中枢性ベンゾジアゼピン受容体リガンドであるイオマゼニールは薄い大脳灰白質に高い特異性をもって集積する。このためI-123 イオマゼニールSPECT画像は部分容積効果(PVE)を受けやすく、加齢性脳萎縮による見かけの信号低下を呈する。本研究ではI-123 イオマゼニールSPECTのPVE補正によって、中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合分布の加齢性変化を明らかにすることを目的とした。
 19例の右利き健常者(25 - 82 歳; 55 ± 21 歳)を対象としている。I-123 イオマゼニールSPECT をMRIを用いてPVE補正を行い、統計画像解析の方法に基づいて灰白質体積および補正前後のSPECT値と年齢との関連を調べた。
 その結果灰白質体積と補正前SPECT値の加齢性変化に強い正比例の相関が認められ、補正後SPECT値には有意な加齢性変化は検出されなかった。
 I-123 イオマゼニールSPECT のPVE補正によって、右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布に加齢性変化がないことが明らかになった。

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2012/10/01

ポリADPリボシル(PAR)化されたMiki蛋白質による中心体成熟現象促進メカニズム

論文タイトル
Poly-ADP Ribosylation of Miki by tankyrase-1 Promotes Centrosome Maturation 
論文タイトル(訳)
ポリADPリボシル(PAR)化されたMiki蛋白質による中心体成熟現象促進メカニズム
DOI
10.1016/j.molcel.2012.06.033
ジャーナル名
Molecular Cell Cell Press
巻号
Molecular Cell, Volume 47, Issue 5, 694-706, 02 August 2012
著者名(敬称略)
尾崎佑子、稲葉俊哉 他
所属
広島大学原爆放射線医科学研究所・がん分子病態研究分野 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域(研究領域提案型) 紹介サイト

抄訳

分裂期は忙しい。例えば、15分程度しかない分裂前中期に、細胞にとっては「巨大な」染色体を引っ張れる、丈夫な紡錘糸を合成しなくてはならない。このため、中心体ではこの時期に、中心小体周辺物質 (PCM) が急速に増加し、中心体が肥大する。中心体成熟現象である。
 Miki (mitotic kinetics regulator) は、白血病抑制遺伝子の候補として、骨髄性白血病で高頻度に欠失する7番染色体長腕より筆者らが同定した遺伝子産物である。Mikiは間期ではゴルジ体に局在するが、分裂開始に伴うゴルジ体の崩壊とともに、PAR化酵素 (PARP) であるtankyrase-1により高度にPAR化され、分裂期中心体へと移動する。
 Mikiは紡錘糸合成装置である -TuRC(チュブリン・リング複合体)の構成成分である巨大な足場蛋白質CG-NAPを、未解明の機序で、分裂期中心体に局在させることにより、中心体成熟を促進する。Mikiの発現低下により、中心体成熟が起きなくなり、丈夫な紡錘糸が合成できず、染色体は赤道面に整列しにくくなる。その結果、前中期の延長や不均等分裂、分裂失敗によるアポトーシスが生じる。
 Mikiの欠失は、骨髄性白血病や骨髄異形成症候群 (MDS) でしばしば見られ、発現の程度と分裂異常や核形態の異常には密接な関連が見られた。がん細胞の染色体不安定性メカニズムの一因をなすものとして注目される。

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2012/09/26

インターフェロン-γ-誘導性p65 GTP分解酵素の一群は病原性原虫「トキソプラズマ」に対する感染防御応答に決定的な役割を果たす

論文タイトル
Cluster of Interferon-γ-Inducible p65 GTPases Plays a Critical Role in Host Defense against Toxoplasma gondii 
論文タイトル(訳)
インターフェロン-γ-誘導性p65 GTP分解酵素の一群は病原性原虫「トキソプラズマ」に対する感染防御応答に決定的な役割を果たす
DOI
10.1016/j.immuni.2012.06.009
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
Immunity, Volume 37, Issue 2, 302-313, 12 July 2012
著者名(敬称略)
山本雅裕, 竹田潔 他
所属
大阪大学大学院 医学系研究科 予防環境医学講座 免疫制御学研究室 大阪大学微生物病研究所 感染病態分野

抄訳

細胞内寄生性病原体に対する宿主応答では、インターフェロン-γ (IFN-γ) が最重要のサイトカインである。自然免疫担当細胞がIFN-γで刺激されると、約2000種類の遺伝子群が誘導され、その中に免疫関連65kD GTP分解酵素 (GBP) と呼ばれる一群が含まれている。マウスではGBPは非常に相同性の高い13個からなるファミリーを形成しており、6個と7個がそれぞれ3番と5番染色体に分かれて並んで存在している。3番染色体にあるGBP(GBPchr3)を染色体工学で欠損させたマウスを作製し、細胞内寄生性病原体の一つである原虫「トキソプラズマ」に対する宿主応答を解析した。GBPchr3欠損マウス及び細胞は野生型マウスと比較して、トキソプラズマ感染に対する感受性が高まっていた。このことから、IFN-γ依存的にGBPが誘導され、病原性原虫トキソプラズマに対する防御因子として機能することが明らかとなった。

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