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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2017/06/13

アンドロゲンが雌ラットのキスペプチンニューロン及び黄体形成ホルモン分泌に与える影響

論文タイトル
Effect of androgen on Kiss1 expression and luteinizing hormone release in female rats
論文タイトル(訳)
アンドロゲンが雌ラットのキスペプチンニューロン及び黄体形成ホルモン分泌に与える影響
DOI
10.1530/JOE-16-0568
ジャーナル名
Journal of Endocrinology Bioscientifica
巻号
J of Endocrinology Vol.233 No.3 (2017) 281-292
著者名(敬称略)
岩田 衣世、小澤 一史 他
所属
日本医科大学 大学院医学研究科 解剖学・神経生物学

抄訳

高アンドロゲン血症を示す女性では不妊など生殖機能に異常がみられる。本研究ではアンドロゲンが雌の生殖機能にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。
 長期アンドロゲン投与により卵胞発育を促す黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌は抑制され、LHパルス分泌に関わる弓状核のキスペプチンニューロンの発現も抑制されていた。排卵を誘起するLHのサージ状分泌に関わっている前腹側室周囲核(AVPV)のキスペプチンニューロンの発現は、対照群と比べて差はなかったが、LHサージは抑制されていた。キスペプチンは性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を介してLHを分泌するが、長期アンドロゲン投与ラットでは、GnRH投与によるLH分泌が低下していた。雌ラットにおいて弓状核のキスペプチンの多くはアンドロゲン受容体を発現していたが、AVPVのキスペプチンは、アンドロゲン受容体をほとんど発現していなかった。
 以上の結果から、雌において高アンドロゲン血症は、弓状核のキスペプチンニューロンの抑制と下垂体レベルで機能不全を起こし、その結果、卵胞発育と排卵機構が抑制され、月経不順や不妊を引き起こす可能性が示唆された。

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2017/05/09

リンカ‐DNAとヒストンテールを介したヌクレオソーム間の相互作用が細胞核の硬さを制御する

論文タイトル
Nucleosome‐nucleosome interactions via histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity
論文タイトル(訳)
リンカ‐DNAとヒストンテールを介したヌクレオソーム間の相互作用が細胞核の硬さを制御する
DOI
10.1091/mbc.E16-11-0783
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society of Cell Biology
巻号
42845
著者名(敬称略)
島本 勇太、前島 一博
所属
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 定量メカノバイオロジー研究室、同研究所 生体高分子研究室

抄訳

細胞は、収縮・遊走・接着などに伴って生体内でさまざまな力を発生し、また外から与えられた力に応答しながら上手く機能している。これらの力は細胞の核にも伝わり、核を歪め、内部に収納されたDNAの機能を阻害すると考えられている。
核に生じる変形は細胞死やがん化とも関連する重要な形質であるが、これまで核の硬さや弾性を直接計測することは難しく、従って核が力のストレスにいかに対抗するかのメカニズムはほとんど分かっていなかった。
本研究では、微小ガラスニードルを用いた物理計測とクロマチン生化学の解析手法を組み合わせることで、細胞核の硬さと弾性が核内のDNAによって生み出されていることを明らかにした。
さらにこの弾性が、ヌクレオソーム構造を取ったDNAが伸びたり切断されたりすることで弱くなることを発見した。
これまで、細胞核の硬さは核ラミナと呼ばれる核膜の裏打ち構造によって支えられているという考えが主流であった。
また、DNAは遺伝情報をコードするメモリデバイスであると考えられてきた。
本成果は、DNAが弾性バネとして機能することで核の硬さを制御するという、DNAの新たな役割を示唆するものである。

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2017/04/25

前立腺癌におけるNF-κBを介したプロテインキナーゼCによるTwist1の発現制御

論文タイトル
Protein kinase C regulates Twist1 expression via NF-κB in prostate cancer
論文タイトル(訳)
前立腺癌におけるNF-κBを介したプロテインキナーゼCによるTwist1の発現制御
DOI
10.1530/ERC-16-0384
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer Bioscientifica
巻号
Endocrine-Related Cancer Vol.24 No.4 (171-180)
著者名(敬称略)
塩田 真己、他
所属
九州大学大学院医学研究院泌尿器科分野

抄訳

前立腺癌において、去勢抵抗性前立腺癌への進展は致命的なステップとなる。我々は、プロテインキナーゼCの活性化によるTwist1とアンドロゲン受容体の誘導が去勢抵抗性獲得において重要な役割を果たしていることを示したが、その詳細な分子メカニズムは明らかでない。本研究では、NF-κBに焦点を当て、それらと関連するメカニズムを解明することを目指した。
その結果、プロテインキナーゼC阻害によりRelAの活性が低下し、NF-κB阻害によりTwist1とアンドロゲン受容体の発現が低下した。反対に、アンドロゲン受容体阻害によりプロテインキナーゼCとRelAが活性化され、転写レベルでTwist1とアンドロゲン受容体の発現が誘導された。さらに、NF-κB阻害により新規抗アンドロゲン剤であるエンザルタミドによるTwist1とアンドロゲン受容体の誘導が阻害され、去勢抵抗性およびエンザルタミド耐性細胞においてNF-κB活性が増強していることが確認された。
以上より、NF-κBがアンドロゲン受容体阻害によるPKCによるTwist1、アンドロゲン受容体の誘導を担っており、NF-κBは去勢抵抗性およびエンザルタミド耐性の促進において重要な役割を果たしていると考えられた。

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2017/04/18

視交叉上核における概日時計のPer1とBmal1リズムの乖離と行動リズム出力。

論文タイトル
Dissociation of Per1 and Bmal1 circadian rhythms in the suprachiasmatic nucleus in parallel with behavioral outputs
論文タイトル(訳)
視交叉上核における概日時計のPer1とBmal1リズムの乖離と行動リズム出力。
DOI
10.1073/pnas.1511513113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America National Academy of Sciences
巻号
Published online before print April 17, 2017
著者名(敬称略)
小野 大輔
所属
名古屋大学環境医学研究所 神経系分野II

抄訳

 睡眠・覚醒をはじめ,ヒトの体の機能は約24時間周期のリズムを示す.このリズムは「概日リズム」と呼ばれ,複数の時計遺伝子の分子フィードバックループにより制御されていると考えられており,時計遺伝子Per1とBmal1発現はいずれも同一のリズム周期を示すと考えられてきた.
 しかしながら今回我々は光ファイバーを用い,自由行動下マウス脳内の概日時計中枢である「視交叉上核」のPer1と Bmal1の2つの遺伝子発現の長期計測を行い,光刺激によってリズム位相が変化する際に両遺伝子のリズムが乖離すること,また培養視交叉上核で両遺伝子が異なるリズム周期を示すことを発見した.さらにマウスの行動リズムにおける活動開始はPer1リズムと,休息開始はBmal1リズムと一致して変動することを明らかにし,Per1は生物時計を構成する夕時計(活動開始を制御),Bmal1は朝時計(休息開始を制御)の構成要素であることを示した.本研究は,自由行動中のマウス脳内の遺伝子計測と,発光・蛍光イメージングと電気活動計測を組み合わせた多機能同時計測システムの開発も行い,哺乳類の概日時計に関わる2つの時計遺伝子が独自の振動機構を持つことを明らかにした世界で初めての研究成果である.

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2017/04/17

複数のpostlabeling delayによるarterial spin-labeling MRI (ASL)を用いたもやもや病患者の無侵襲な脳血流・循環遅延評価:15O gas PET, DSC-MRIとの比較

論文タイトル
Noninvasive Evaluation of CBF and Perfusion Delay of Moyamoya Disease Using Arterial Spin-Labeling MRI with Multiple Postlabeling Delays:Comparison with 15O-Gas PET and DSC-MRI
論文タイトル(訳)
複数のpostlabeling delayによるarterial spin-labeling MRI (ASL)を用いたもやもや病患者の無侵襲な脳血流・循環遅延評価:15O gas PET, DSC-MRIとの比較
DOI
https://doi.org/10.3174/ajnr.A5068
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 38, No. 4 (696-702)
著者名(敬称略)
原 祥子、田中 洋次
所属
東京医科歯科大学 脳神経外科

抄訳

 Arterial spin-labeling MRI (ASL) は造影剤を必要とせず被曝もない無侵襲な脳血流評価法であるが,脳血流定量値が循環遅延やpostlabeling delay(PLD)に影響をうけることも報告されている。
 我々はASLを2つのPLDで撮影し,ASL-CBFとgold standardである15O-gas PET の脳血流定量値(cerebral blood flow: CBF)および循環遅延の程度(DSCのTmaxなど)との関係を検討した。
 18名のもやもや病患者の大脳半球10領域の定量値を検討したところ,ASL-CBF(PLD=1525ms)はCBFと有意な相関を示し(r=0.63; p=0.01),循環遅延の強い領域(Tmax>6.0sなど)ではCBFを過小評価する傾向があった。
 一方でASL-CBF(PLD=2525ms)は血流遅延の程度によらずCBFを過大評価する傾向にあった。 このPLDの異なる2つのASL-CBFの比は,血流遅延の程度と有意な相関を示した(PLD=2525ms/PLD=1525msのASL-CBF比 vs. Tmax: rho=0.71; p<0.0001)。
   以上より,ASLのCBF定量性は血流遅延・PLDに影響されるものの,それを理解した上で使用すれば,無侵襲に脳血流と循環遅延の情報を得られる有用な検査である可能性が示唆された。

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2017/04/10

日本におけるヒトiPS細胞を用いた動物性集合胚研究に対する一般市民の態度

論文タイトル
Public attitudes in Japan towards human?animal chimeric embryo research using human induced pluripotent stem cells
論文タイトル(訳)
日本におけるヒトiPS細胞を用いた動物性集合胚研究に対する一般市民の態度
DOI
10.2217/rme-2016-0171
ジャーナル名
Regenerative Medicine Future Science Group
巻号
Ahead of Print Posted online on March 2, 2017
著者名(敬称略)
澤井 努 他
所属
京都大学iPS細胞研究所・上廣倫理研究部門

抄訳

 現在日本では、移植用臓器の作製に関する基礎研究のために、動物の胚にヒト細胞を注入し、「動物性集合胚」を作製することが認められている。しかし、当該胚をある一定期間を越えて発生させたり、動物の子宮に戻したりすることは認められていない。
このような中で我々は、2016年2月~4月の間に、動物性集合胚を用いた研究に関する質問紙調査を実施し、一般市民520名と京都大学iPS細胞研究所の研究者105名から回答を得た。本調査の特徴は、当該研究を三つの段階(1.動物の胚へのヒトiPS細胞の注入、2.人の臓器を持つ動物の作製、3.臓器を必要とする人への移植)に分け、さらに各段階の研究目的を示した上で、どの段階までであれば受け入れられるのかを尋ねた点にある。
本調査の結果、動物性集合胚の作製に関しては、80%以上の一般市民が、また90%以上の研究者が認められると回答し、現在、国内では認められていない人の臓器を持つ動物個体の作製に関しても、60%以上の一般市民が、また80%以上の研究者が認められると回答した。
本調査では、多くの一般市民、研究者が、現在日本で認められている以上の研究を認めるということが明らかになったが、この結果から直ちに当該研究を推進すべきだという主張につながるわけではない。質問紙の自由記載では、一般市民や研究者のいずれからも、期待だけではなく懸念も示された。
今後、当該研究が社会に広く受容されていくためには、一般市民および研究者の懸念を特定し、それを取り除くことが求められる。また、研究の情報発信のあり方として、研究の手順とともに、研究目的を具体的に説明することも大事になってくるであろう。

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2017/04/07

レポーターライブラリーシステムによるがん抑制microRNA-34aの標的遺伝子の同定

論文タイトル
Identification of targets of tumor suppressor microRNA-34a using a reporter library system
論文タイトル(訳)
レポーターライブラリーシステムによるがん抑制microRNA-34aの標的遺伝子の同定
DOI
10.1073/pnas.1620019114
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Published online before print March 29, 2017
著者名(敬称略)
伊藤 義晃 浅原 弘嗣 他
所属
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野

抄訳

microRNA (miRNA)は、標的となるmRNAの主に3’-untranslated region (3’UTR)に結合してその発現を抑制する機能を持つ小さなノンコーディングRNAで、様々な生命現象に重要な機能を有する。miRNAの機能を明らかにする上で重要な標的遺伝子の同定法は、トランスクリプトーム解析とターゲット予測ツールなどを組み合わせて従来行われるが、3’UTR以外を介して制御される標的遺伝子や翻訳制御された標的遺伝子を同定するのが難しいなどの問題点があった。我々はルシフェラーゼ遺伝子の3’UTRに、4891個の全長cDNAを挿入したレポーターライブラリーを用いた新たな標的遺伝子同定法を開発した。本レポーターライブラリーシステムを用いてがん抑制microRNA-34aの標的遺伝子のスクリーニングを行った結果、翻訳制御される遺伝子を含む既知および新規の標的遺伝子の同定に成功した。新規標的遺伝子のうち、GFRA3は乳がん細胞MDA-MB-231の増殖に重要で、乳がん患者の生存率に関連していた。またGFRA3はコーディング領域を介して制御されていることが明らかになった。これらの結果は本システムがmiRNAの機能を明らかにするのに有用であることを示している。

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2017/04/04

RNAシャペロンTDP-43による脊髄小脳失調症31型(SCA31)の変異RNAミスフォールディングとリピート関連翻訳に対する制御機構

論文タイトル
Regulatory Role of RNA Chaperone TDP-43 for RNA Misfolding and Repeat-Associated Translation in SCA31
論文タイトル(訳)
RNAシャペロンTDP-43による脊髄小脳失調症31型(SCA31)の変異RNAミスフォールディングとリピート関連翻訳に対する制御機構
DOI
10.1016/j.neuron.2017.02.046
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron Published online: March 23, 2017
著者名(敬称略)
石黒 太郎 永井 義隆 石川 欽也
所属
大阪大学大学院医学系研究科 神経難病認知症探索治療学寄附講座

抄訳

マイクロサテライト配列の伸長を原因とする疾患群において、RNA foci形成とリピート関連非AUG依存性翻訳(RAN翻訳)が認められるが、その病態メカニズムはこれまで不明であった。我々は脊髄小脳失調症31型(SCA31)の原因である伸長UGGAAリピート(UGGAA exp)を発現するショウジョウバエモデルを作製し、RNA fociとリピート関連翻訳によるPPR蛋白質の蓄積を伴って神経変性を起こすことを示した。そして、運動ニューロン疾患の原因となるRNA結合蛋白質TDP-43、FUS、hnRNPA2B1がUGGAA exp RNAと結合し、ミスフォールディングを抑制してPPR翻訳を調節するRNAシャペロンとして機能して、ショウジョウバエにおけるUGGAA expを介する毒性を抑制することを発見した。さらに、毒性のない短いUGGAAリピートRNAは、運動ニューロン疾患モデルショウジョウバエモデルにおける変異TDP-43などのRNA結合蛋白質の凝集、神経毒性を抑制した。以上の結果から、RNAとRNA結合蛋白質間の機能的なクロストークにより、両者のバランスが調整されており、マイクロサテライト伸長病とRNA結合蛋白質プロテインノパチーの両病態の関連性が示唆された。

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2017/03/22

視交叉上核における同期する膜電位リズムと非同期するカルシウムリズム

論文タイトル
Synchronous circadian voltage rhythms with asynchronous calcium rhythms in the suprachiasmatic nucleus
論文タイトル(訳)
視交叉上核における同期する膜電位リズムと非同期するカルシウムリズム
DOI
10.1073/pnas.1616815114
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Published online before print March 7, 2017
著者名(敬称略)
榎木 亮介 他
所属
北海道大学大学院医学研究科 光バイオイメージング部門

抄訳

 ほ乳類の概日リズムの中枢である脳の視交叉上核は、数万個の神経細胞からなるネットワークを形成している。神経細胞の活動は膜電位変化の情報となって出力されるため,生物時計がどのように生体機能の24時間リズムを調節しているかを調べるには,多数の視交叉上核神経細胞から膜電位変化を長期間(数日間)計測することが必要である。
 本研究では,蛍光膜電位センサーを多数の視交叉上核の神経細胞に発現させ,膜電位変化を数日間測定することを試みた。さらに,赤色カルシウムセンサーを同時に神経細胞特異的に発現させることで,数百~千個の神経細胞から膜電位と細胞内カルシウムの概日リズムを同時計測を行った。
 その結果,細胞内カルシウムの概日リズムは視交叉上核内で特徴的な時空間パターンを示し,個々の神経細胞間でリズムは同期していなかった。一方で,膜電位のリズムは神経細胞全体で同期していた。今回の研究で,神経ネットワークが特異的なリズム位相をもつ細胞種を統一して,同期した出力を作り出していることが分かった。

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2017/03/10

ゼブラフィッシュ原腸形成における協調的な組織拡張の物理的基盤

論文タイトル
The Physical Basis of Coordinated Tissue Spreading in Zebrafish Gastrulation
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ原腸形成における協調的な組織拡張の物理的基盤
DOI
10.1016/j.devcel.2017.01.010
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
volume 40, issue 4, page 354-366
著者名(敬称略)
森田 仁 他
所属
山梨大学医学部医学教育センター

抄訳

 原腸形成期は脊椎動物の初期発生に共通して見られる現象で、将来の器官形成のための基礎を作る重要な過程である。しかし、原腸形成の開始がどのように制御されているのかはよく分かっていなかった。本論文で私たちは、モデル脊椎動物のゼブラフィッシュの胚を用いて、生物学的手法と物理学的手法を組み合わせた学際的なアプローチによってその解明に取り組んだ。
 顕微鏡タイムラプス画像から定量化した胚の形態変化のデータと、私たちが考案した胚の形態を表す物理モデルのシミュレーションを用いて、原腸形成の開始に必要な細胞・組織の動きを定量的な観点から予想し、それを元に実験もしくはモデルでの検証を行うというプロセスを繰り返すことでその実体に迫っていった。その過程で、胚の表層細胞を移植する技術を新たに開発し、また不均一な胚の表層張力計測のためのモデルの考案と実験手法の確立を行った。その結果、原腸形成の開始には表層細胞層の張力低下と拡張が重要であることを解明するに至った。
 今後は表層細胞の拡張から原腸形成開始に至る過程の分子メカニズムを明らかにするとともに、他の生物種や組織における表層細胞による同様な形態形成運動の制御機構の有無を検証することが期待される。

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2017/02/13

ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立

論文タイトル
Entirely plasmid-based reverse genetics system for rotaviruses
論文タイトル(訳)
ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立
DOI
10.1073/pnas.1618424114
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America National Academy of Sciences
巻号
Published online before print January 30, 2017
著者名(敬称略)
金井 祐太 小林 剛 他
所属
大阪大学微生物病研究所

抄訳

 ロタウイルスは乳幼児に下痢や嘔吐を引き起こすウイルスで、医療の発展が遅れている開発途上国では、ロタウイルス感染によって死亡する乳幼児が多く存在する。ロタウイルスについては、これまでウイルス遺伝子を人工的に操作できる技術の開発が遅れていたことから、ロタウイルスの基礎・応用研究を進める上で大きな障壁となっていた。我々は、ロタウイルスの11分節のRNAゲノムを発現するプラスミドに加えて、組換えウイルスの合成を促進する因子として、細胞融合性タンパク質FASTとワクシニアウイルス由来のRNAキャッピング酵素を利用することで、組換えロタウイルスの人工合成に成功した。さらに、この技術を応用し、抗インターフェロン作用を示すウイルスタンパク質に変異を加えることで増殖能が低下したウイルスや、レポーター遺伝子を発現するウイルスの作製に成功した。本研究成果により、ロタウイルス遺伝子の任意の改変が可能となり、ウイルス増殖機構の解明や、新規ロタウイルスワクチンの開発研究などが飛躍的に進展すると期待される。

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2017/02/06

大豆および納豆摂取と循環器疾患死亡リスクについて:高山スタディから

論文タイトル
Dietary soy and natto intake and cardiovascular disease mortality in Japanese adults: the Takayama study
論文タイトル(訳)
大豆および納豆摂取と循環器疾患死亡リスクについて:高山スタディから
DOI
10.3945/?ajcn.116.137281
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition American Society for Nutrition
巻号
AJCN Online December 7, 2016
著者名(敬称略)
永田 知里 他
所属
岐阜大学大学院医学系研究科 疫学・予防医学分野

抄訳

1992年、高山市住民約3万人からなる前向きコホート研究が開始した。開始時には、アンケート調査にて、食習慣を含む生活習慣、既往歴等の情報を得た。食習慣の評価には食物摂取頻度調査票が用い、大豆蛋白、大豆イソフラボン、納豆等の摂取量を推定した。このコホート(29,079名)の16年間の追跡により、脳卒中、虚血性心疾患を含む計1,678の循環器疾患死亡が把握された。納豆高摂取群(摂取量が全集団の上位25%)では、低摂取群(下位25%)に比べ、全循環器疾患死亡のリスクが25%有意に低下しており、脳卒中、特に脳梗塞のリスクもそれぞれ32%、33%と低下していた。大豆蛋白、大豆イソフラボン、納豆以外の大豆製品の摂取は全循環器疾患死亡リスクと有意な関連性は示さなかったが、大豆蛋白高摂取群では、脳卒中死亡リスクが25%と有意に低下していた。納豆摂取が循環器疾患死亡リスクを下げることが示唆されたが、大豆蛋白に関する結果から、他の大豆製品もリスク低下の可能性がある。

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2017/01/25

緑豆タンパク (Mung bean protein isolate / MPI) の非アルコール性脂肪性肝疾患の予防・治療における有用性

論文タイトル
Dietary Mung Bean Protein Reduces Hepatic Steatosis,Fibrosis,and Inflammation in Male Mice with Diet-Induced,Nonalcoholic Fatty Liver Disease
論文タイトル(訳)
緑豆タンパク (Mung bean protein isolate / MPI) の非アルコール性脂肪性肝疾患の予防・治療における有用性
DOI
10.3945/?jn.116.231662
ジャーナル名
Journal of Nutrition American Society for Nutrition
巻号
Vol. 147 No. 1
著者名(敬称略)
渡邉 一史,井上 啓 他
所属
金沢大学新学術創生研究機構革新的統合バイオ研究コア栄養・代謝研究ユニット

抄訳

非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) は、肝細胞への中性脂肪蓄積に伴い、肝細胞障害を来す疾患の総称であり、人口の20-30%が罹患している。非アルコール性脂肪肝の一部の症例では、炎症や線維化を伴う脂肪肝炎へと進展することが知られ、食事療法を含めたNAFLDの予防・治療法の開発が進められている。今回、我々は、NAFLD予防作用をもつタンパク食品として緑豆タンパク (Mung bean protein isolate / MPI)を見出した。マウスでの摂餌実験から、MPIは、体重およびインスリン感受性に関しては、対照と明らかな作用の差を示さなかったが、通常食飼育・高脂肪食飼育の両条件において、肝脂肪合成関連遺伝子の発現を抑制し、肝中性脂肪含量を減少させた。肝臓炎症・繊維化を来す高脂肪高コレステロール食負荷NASH誘導モデルにおいて、MPI摂取群では、対照群と比して、脂肪肝と線維化の改善、肝臓炎症性サイトカインの発現減少を呈した。これらの知見は、緑豆タンパクが、強力な肝臓脂肪蓄積軽減作用を有し、肝臓の炎症・繊維化の抑制を期待しうるNAFLD進展予防食品として有用であることを示唆している。

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2017/01/23

シアル酸模倣ペプチドを修飾したダイヤモンド電極によるインフルエンザウイルスの高感度検出

論文タイトル
Highly sensitive detection of influenza virus by boron-doped diamond electrode terminated with sialic acid-mimic peptide
論文タイトル(訳)
シアル酸模倣ペプチドを修飾したダイヤモンド電極によるインフルエンザウイルスの高感度検出
DOI
10.1073/pnas.1603609113
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS Published online before print July 25, 2016
著者名(敬称略)
松原 輝彦、佐藤 智典 他
所属
慶應義塾大学理工学部バイオ分子化学研究室

抄訳

 インフルエンザの早期治療を開始して重症化を防ぐためには、感染初期における迅速な診断が必要です。しかし現在、臨床現場で使われている迅速診断キットは感度が低く、発症直後の少ないウイルス量でも利用できる高感度に検出するデバイスの開発が望まれています。
 ウイルスがヒトに感染するときに使われる糖鎖受容体は亜型に関係なく共通しています。本論文では、この受容体を機能的に模倣するペプチドをダイヤモンド電極に修飾したデバイスを開発し、季節性インフルエンザウイルスの検出に成功しました。ここで用いる電極はホウ素をドープしたダイヤモンド(boron-doped diamond, BDD)であり、生体分子の吸着が少ないなどの優れた特徴を有しています。電極デバイスの感度はとても高く、発症直後で採取される程度の少ないウイルス量(20 pfu程度:pfuはプラーク形成単位)を検出することが可能でした。
 今後、季節性ウイルスのみならず新型ウイルスの迅速診断や、携帯が可能な小型の電気化学デバイスでの実用化が期待できます。

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2016/11/28

JRAB/MICAL-L2の1分子構造変化が制御する集団的細胞運動

論文タイトル
Conformational plasticity of JRAB/MICAL-L2 provides ”law and order” in collective cell migration
論文タイトル(訳)
JRAB/MICAL-L2の1分子構造変化が制御する集団的細胞運動
DOI
10.1091/mbc.E16-05-0332
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol.Biol.Cell October 15, 2016 vol.27 no.20 (3095-3108)
著者名(敬称略)
坂根 亜由子、佐々木 卓也 他
所属
徳島大学大学院医歯薬学研究部 医科学部門 生化学分野

抄訳

複数の細胞からなる細胞集団の運動(集団的細胞運動)は、胎生期の組織・器官形成の過程だけでなく、創傷治癒やがん転移などでも広く認められる。本研究では、低分子量Gタンパク質Rab13の標的タンパク質であるJRABというたった1分子の構造変化に着目して、生化学、細胞生物学、コンピュータサイエンス、バイオインフォマティクス、バイオメカニクスといった異分野領域の融合研究によって複雑・高次な集団的細胞運動の制御機構の解明を試みた。
まず、バイオインフォマティクスと生化学的実験を組み合わせた手法でJRABのRab13との結合による構造変化モデルを示した。さらに、JRABの野生型や構造変異体(open formとclosed form)を発現させた3種類の細胞集団の動きの異なった特徴をライブイメージング像の時空間ボリュームレンダリングによる解析で抽出・可視化に成功するとともに、オプティカルフローと主成分分析を組み合わせた画像の輝度変化に強い手法を開発し、従来法では困難だった細胞集団の動きの計算と膨大な情報の定量的な解析を実現した。また、開発したバイオメカニクスの手法を用いた解析では、closed form のJRABが細胞集団の先頭の一部で集団を引っ張るのに必要な力を生み出していることが明らかになった。
以上の研究成果により、構造を自由に変化できる野生型のJRABは、open formやclosed form変異体と比較して最も効率の良い細胞集団の動きを可能にすることを証明できた。

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2016/09/20

ネクチンスポット:ネクチン依存性の新規細胞間接着装置

論文タイトル
Nectin spot:a novel type of nectinーmediated cell adhesion apparatus
論文タイトル(訳)
ネクチンスポット:ネクチン依存性の新規細胞間接着装置
DOI
10.1042/BCJ20160235
ジャーナル名
Biochemical Journal Biochemical Society
巻号
Biochemical Journal Vol.473 No.18 (2691-2715)
著者名(敬称略)
水谷 清人,高井 義美
所属
神戸大学大学院医学研究科 生化学・分子生物学講座 シグナル統合学分野 病態シグナル学部門

抄訳

ネクチンは4つのメンバーからなるファミリーを構成するCa2+非依存性の細胞間接着分子で、様々な細胞間接着装置の形成を担っている。このような接着装置には少なくとも3種類存在することが分かっており、(1)アファディン依存性かつカドヘリン依存性、(2)アファディン依存性でカドヘリン非依存性、(3)アファディン非依存性かつカドヘリン非依存性のものに分けられる。ネクチンは、ネクチンやネクチン様分子(Necls)、他の免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子とトランスに相互作用する。さらに、ネクチンやNeclsは同一細胞膜上で膜受容体やインテグリンとシスに相互作用する。これらの相互作用を介して、ネクチンやNeclsは細胞の極性形成、運動、増殖、分化、生存などの細胞機能を制御している。また、ネクチン依存性の細胞間接着は遺伝性疾患、精神神経疾患、がんなどの病態と関与している。ネクチン依存性の細胞間接着のうち、アファディン依存性かつカドヘリン依存性の接着装置に関する研究が最も進められていたが、近年、アファディン非依存性かつカドヘリン非依存性の接着装置の存在が明らかになり、その形態学的特性や機能的特性が分かりつつある。本総説では、私どもがネクチンスポットと名付けたこの新規ネクチン依存性細胞間接着に関する最新の知見を紹介する。

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2016/09/20

精嚢分泌タンパク質SVS3とSVS4は精子受精能獲得におけるSVS2の働きを促進する

論文タイトル
Seminal vesicle proteins SVS3 and SVS4 facilitate SVS2 effect on sperm capacitation
論文タイトル(訳)
精嚢分泌タンパク質SVS3とSVS4は精子受精能獲得におけるSVS2の働きを促進する
DOI
10.1530/REP-15-0551
ジャーナル名
Reproduction Bioscientifica
巻号
Reproduction Vol.152 No.4 (313-321)
著者名(敬称略)
荒木 直也,吉田 学 他
所属
東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所

抄訳

雄性性腺付属器官の1つである精嚢から分泌されるタンパク質SVSs(Seminal Vesicle Secretions)は、精漿の主要成分として交尾や受精において重要な機能を有している。マウスでは主要なSVSsとして7種類のタンパク質が知られ(SVS1~7)、そのうちSVS2が、子宮における精子の生存と受精能の調節に必須であることを報告してきた。本研究では、SVS2以外のSVSsの受精能獲得に対する影響を調べるために、SVS3とSVS4の作用を評価した。
まず、SVS4はSVS2と同様に単独で精子の受精能獲得を抑制した。SVS3は単独では受精能獲得を抑制しなかったが、SVS2と共処理することでSVS2単独よりも強い抑制作用を示した。一方、SVS3とSVS4は既に獲得した受精能を破棄させる作用は示さなかった。SVS2と同様に、SVS3とSVS4はどちらもガングリオシドGM1に対する結合性を有していた。さらに、SVS3はSVS2と高い親和性を持つことが明らかとなった。
以上より、in vivoにおける精子受精能の調節には、SVS2が中心となって働く他に、SVS3およびSVS4が補完的に働くと考えられる。

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2016/09/15

日常生活の光曝露と肥満リスク:平城京コホートスタディ縦断分析

論文タイトル
Ambient Light Exposure and Changes in Obesity Parameters: A Longitudinal Study of the HEIJO-KYO Cohort
論文タイトル(訳)
日常生活の光曝露と肥満リスク:平城京コホートスタディ縦断分析
DOI
10.1210/jc.2015-4123
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Endocrine Society
巻号
JCEM Vol.101 No.9 (2016) pp.3539?3547
著者名(敬称略)
大林 賢史 他
所属
奈良県立医科大学 地域健康医学講座

抄訳

先行疫学研究で夜間光曝露と肥満の関連が示唆されているが、これまでの結果は横断分析に限られていた。本研究の目的は日常生活の光曝露とその後の肥満指標の変化の関連を縦断的に明らかにすることである。対象者は平城京コホートスタディのベースライン調査参加者1110人(平均年齢71.9歳)と追跡調査参加者766人(追跡期間中央値 21ヵ月)である。ベースライン調査で日常生活の光曝露を客観的に2日間持続測定し、ベースライン時と追跡時の腹囲身長比(WHtR)および体格指数(BMI)を計測した。年齢や性別、カロリー摂取量、身体活動量、睡眠覚醒指標などの潜在的交絡因子を調整した多変量混合線形回帰分析モデルで、就寝前4時間から夜間就寝中の光曝露量が多いことが、その後のWHtRの増加と有意に関連していた。また起床後4時間で500ルクス以上の光曝露時間が長いこと、夜間就寝中に3ルクス未満の時間が長いことが、その後のWHtRの減少と有意に関連していた。これらの結果はBMIを肥満指標とした場合でもほぼ同様であった。夜間就寝中の光曝露量が多い群(平均照度3ルクス以上)では、少ない群(3ルクス未満)に比べて、その後10年間でWHtRが10.2%、BMIが10.0%増加すると推定された。本研究の結果から、就寝前4時間から夜間就寝中の光曝露量は多いほど、起床後4時間の光曝露量が少ないほど、WHtRやBMIなどの肥満指標が増加することが明らかになった。肥満予防に最適な光環境を検討するために今後の介入研究が必要である。

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2016/08/12

先天性リポイド副腎過形成症における性腺へのマクロファージの浸潤

論文タイトル
Gonadal macrophage infiltration in congenital lipoid adrenal hyperplasia
論文タイトル(訳)
先天性リポイド副腎過形成症における性腺へのマクロファージの浸潤
DOI
10.1530/EJE-16-0194
ジャーナル名
European Journal of Endocrinology BioScientifica
巻号
Eur J Endocrinol Vol.175 No.2 (127-132)
著者名(敬称略)
石井 智弘 他
所属
慶應義塾大学医学部小児科学教室

抄訳

本研究は、先天性リポイド副腎過形成症症例の性腺を免疫組織化学染色およびオイルレッドO染色など組織学的に解析し、成人期卵巣において有意にマクロファージが浸潤していることを初めて示したものである。1歳時の精巣では有意なマクロファージ数の増加は見られなかったが、22歳および40歳の卵巣では脂肪滴で泡沫化した莢膜細胞周辺の卵胞上皮と周囲にステロイド産生細胞のない間質にマクロファージの集族が認められた。さらに、莢膜細胞のみならず、卵巣間質に集族したマクロファージの細胞質にも脂肪滴が著明に蓄積していることが明らかにされた。この結果はsteroidogenic acute regulatory protein (StAR)ノックアウトマウスの新生仔の副腎皮質で得られた所見と合致する。先天性リポイド副腎過形成症の性腺や副腎皮質では、肥満の脂肪組織と同様にマクロファージ浸潤によるリモデリングが生じている可能性が示唆される。

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2016/07/20

家族性偽性副甲状腺機能低下症1bを招くGNAS領域の複雑染色体再構成

論文タイトル
Complex Genomic Rearrangement Within the GNAS Region Associated With Familial Pseudohypoparathyroidism Type 1b
論文タイトル(訳)
家族性偽性副甲状腺機能低下症1bを招くGNAS領域の複雑染色体再構成
DOI
10.1210/jc.2016-1725
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Endocrine Society
巻号
JCEM Vol.101 No.7 (2016) pp.2623?2627
著者名(敬称略)
中村 明枝、深見 真紀 他
所属
国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部

抄訳

家族性偽性副甲状腺機能低下症(PHP)1bは、GNAS 領域のメチル化異常に起因する内分泌疾患である。2015年、PHP症例においてGNAS領域の重複を示唆する所見が報告されたが、ゲノム構造は決定されていない。
我々は、家族性PHP1b症例においてGNAS領域のゲノム再構成を同定し、全ゲノムシークエンス解析によってその構造と成立機序を解明した。PHP1bと診断された発端者、母、母方叔父のゲノムDNAを用いたメチル化解析で、GNAS A/B、NESP55の低メチル化、ASXLASの高メチル化を同定した。ゲノム再構成はNESP55ASXLASを包含するタンデムTriplicationおよびGNAS A/Bを包含するタンデムDuplicationで、GNAS翻訳領域のコピー数変化はなかった。母方祖母も同一のゲノム再構成を有したが、GNAS A/Bのメチル化は正常であった。本症例では、GNAS A/Bに対するシス因子のDNAメチル化制御機構の破綻によってGNAS発現調節異常が生じると推測される。ゲノム再構成は母由来アレルに存在する時にGNAS A/Bの低メチル化を招くが、母方祖母ではゲノム再構成が父由来であったためGNAS A/Bのメチル化は維持されたと推測される。以上の成績は、ヒト遺伝病の新たな発症機序を示唆するものである。

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