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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2012/09/24

染色体高次構造とS期チェックポイントを減数分裂期組換えの開始と連係させる中心的な因子

論文タイトル
A Central Coupler for Recombination Initiation Linking Chromosome Architecture to S Phase Checkpoint 
論文タイトル(訳)
染色体高次構造とS期チェックポイントを減数分裂期組換えの開始と連係させる中心的な因子
DOI
10.1016/j.molcel.2012.06.023
ジャーナル名
Molecular Cell Cell Press
巻号
Molecular Cell, Volume 47, Issue 5, 722-733, 26 July 2012
著者名(敬称略)
三好知一郎、伊藤将、太田邦史 他
所属
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

真核生物は、減数分裂期において両親由来のゲノムDNAを組換え、子孫に遺伝的多様性をもたらす。減数分裂期に入るとDNAが複製され、次いで染色体に「軸」と「ループ」と呼ばれる高次構造が形成される。ループ部には「組換えホットスポット」という領域が含まれ、この領域でDNAの複製後に、DNA二本鎖切断 (DSB: DNA double-strand break) が導入されることで、組換えが開始される。DSB形成に関わる因子は数多く単離されてきたが、その時空間的な制御メカニズムについては不明な点が多く残されていた。
 今回の分裂酵母を用いた解析から、DSB形成に関わるタンパク質群は、「DSBC (DSB core)複合体」と「SFT (seven, fifteen, twenty-four)複合体」の2種の複合体を形成することが分かった。DSBC複合体の中核をなすSpo11という種間で保存されたタンパク質は、基本的にループ部のホットスポットでDSBを導入する。一方、SFT複合体は軸部およびループ部のホットスポットにも結合し、両者を連係させることが示唆された。減数分裂期前DNA複製が完了すると、S期チェックポイントが解除され、Mde2という第3グループのDSB形成因子が発現する。Mde2は、SFT複合体の安定化を介して、軸−ループ間の相互作用を促進することが分かった。さらにMde2は、DSBC複合体構成因子と結合し、Spo11をホットスポット上に呼び込むことも分かった。すなわち、Mde2が、DNA複製、染色体高次構造の構築、DSB形成因子の集合を統合的に制御する、中心的な因子であることが、今回初めて明らかになった。

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2012/09/21

ヒト多能性幹細胞からの高機能性褐色脂肪細胞の作製

論文タイトル
Production of Functional Classical Brown Adipocytes from Human Pluripotent Stem Cells using Specific Hemopoietin Cocktail without Gene Transfer 
論文タイトル(訳)
ヒト多能性幹細胞からの高機能性褐色脂肪細胞の作製
DOI
10.1016/j.cmet.2012.08.001
ジャーナル名
Cell Metabolism Cell Press
巻号
Cell Metabolism, Volume 16, Issue 3, 394-406, 5 September 2012
著者名(敬称略)
西尾美和子、佐伯久美子 他
所属
独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所 疾患制御研究部

抄訳

褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼して体熱産生を行う「痩せる脂肪細胞」として知られ、メタボリックシンドローム(以下メタボ)の治療開発に向けて世界中から注目されている。しかしヒト検体の入手は困難であり研究は遅れている。今回、ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から熱産生能を有する褐色脂肪細胞を高純度に作製する技術が開発された。遺伝子操作を行わず、異種動物細胞や異種動物血清を用いないクリーンな環境下で、独自に開発した「造血性サイトカインカクテル」を用いた2段階培養により約10日間でほぼ純粋な褐色脂肪細胞が得られる。これをマウスに移植すると「耐脂能」と「耐糖能」が向上することが確認された。一方、白色脂肪細胞(いわゆる脂肪細胞)を移植したマウスは、耐脂能は向上したが耐糖能は悪化した。驚くべきことに、ヒト多能性幹細胞由来褐色脂肪細胞の同時移植により白色脂肪細胞移植に伴う耐糖能障害は正常化され、メタボ治療開発に向けた大きな一歩となった。さらにヒト多能性幹細胞由来褐色脂肪細胞が造血支持能を発揮するという意外な一面も示され、ヒト褐色脂肪細胞研究の新たな可能性が提示された。

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2012/08/30

間質性肺炎に合併する肺癌の形態的・局在性の特徴:その初期像について

論文タイトル
Lung Cancer in Chronic Interstitial Pneumonia: Early Manifestation From Serial CT Observations 
論文タイトル(訳)
間質性肺炎に合併する肺癌の形態的・局在性の特徴:その初期像について
DOI
10.2214/AJR.11.7516
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
AJR July 2012 vol. 199 no. 1 85-90
著者名(敬称略)
吉田理佳、荒川浩明 他
所属
獨協医科大学放射線科

抄訳

目的;間質性肺炎(IP)に合併する肺癌の初期像の特徴を明らかにする。
方法;間質性肺炎経過観察中の患者のうち1999年から2010年に肺癌と診断され、初回CTで癌が無いことが確認されている22名(23病変)を対象とした。2名の放射線専門医が独立して後ろ向きにCT画像を参照した。
結果;経過観察期間は4.1年、CT撮影回数は8回、腫瘍径は陰影出現時11mm、生検診断時22mm、陰影出現から臨床的診断日までは409日であった(いずれも中央値)。発生部位は、15病変 (65.2%) は線維性嚢包(蜂巣肺や傍隔壁肺気腫)と正常肺の境界に生じ、4病変はすりガラス影内、1病変は蜂巣肺内に生じた。形状は12病変round or oval, 8病変ill-defined stellate shape、2病変band-like、1病変は境界不明瞭な肺野濃度上昇であった。
結論; IP合併肺癌の初期像は、約2分の1の病変はstellate shapeやband-likeで初期は腫瘍として認識することが難しい。大部分の腫瘍は蜂巣肺と正常肺の境界に生じ、蜂巣肺内に生ずることは稀である。

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2012/08/16

福島第一原子力発電所職員へのメンタルヘルスサポートの立ち上げ

論文タイトル
Launch of Mental Health Support to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Workers 
論文タイトル(訳)
福島第一原子力発電所職員へのメンタルヘルスサポートの立ち上げ
DOI
10.1176/appi.ajp.2012.12030387
ジャーナル名
American Journal of Psychiatry American Psychiatric Publishing
巻号
American Journal of Psychiatry, August 01, 2012 VOL. 169, No. 8, 784-784
著者名(敬称略)
重村淳(筆頭筆者)、谷川武(連絡筆者) 他
所属
防衛医科大学校 精神科学講座愛媛大学大学院医学系研究科 医療環境情報解析学講座 公衆衛生・健康医学分野

抄訳

福島第一原子力発電所事故は、発電所の爆発、原子炉のメルトダウン、放射性物質の放出などで、1986年のチェルノブイリ事故以来最悪の原子力災害となり、医療者もしばらく警戒区域内に入れなかった。谷川武医師は第一原発および隣接する第二原発の非常勤産業医を長年務めていたが、警戒区域に立ち入りを許可されたのは4月半ばだった。職員たちの壮絶な体験を知り、谷川氏はメディアを通じてメンタルヘルス支援を訴え、筆者と協働することとなった。
 この写真は2011年5月6日午後8時16分、筆者が精神科医師として事故後はじめて現地入りした際に、第一原発職員が寝泊りする第二原発体育館で撮影したものである。再体験、回避、過覚醒、解離、被曝への恐怖など多彩なストレス反応が見られ、同僚・身内の死亡への悲嘆と罪責感も顕著だった。職員のアパートに「ここから出て行け」と張り紙がされるなど激しい差別体験により、職員一人ひとりが事故の責任をすべて負っているかのような加害者意識に苛まれていた。何千人もの職員の個別対応は不可能な状態のなか、重症度のトリアージを行わざるをえなかった。ストレス対処などのカウンセリングより真っ先に行ったのは、彼らに最大限の敬意を表すことだった。
 この支援は後に政府の支援を経て、現在も続けているが、現地では常勤精神科医師が不在な状態である。廃炉までには数十年かかると予想され、悲嘆反応を持つ者、高線量被曝者、死の危険性にさらされた者など、リスクの高い者を中心に、継続的なケアが求められる。しかし、このような英雄たちへのケアを継続するためには、高い使命感を持つ専門家、資金、組織的システムが喫緊の課題となっている。

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2012/07/30

肥満に伴う高レプチン血症が,肝において少量のエンドトキシンに過剰反応をきたし,非アルコール性脂肪肝炎の進展に関与する

論文タイトル
Hyperresponsivity to Low-Dose Endotoxin during Progression to Nonalcoholic Steatohepatitis Is Regulated by Leptin-Mediated Signaling 
論文タイトル(訳)
肥満に伴う高レプチン血症が,肝において少量のエンドトキシンに過剰反応をきたし,非アルコール性脂肪肝炎の進展に関与する
DOI
10.1016/j.cmet.2012.05.012
ジャーナル名
Cell Metabolism Cell Press
巻号
Cell Metabolism, Volume 16, Issue 1, 44-54, 3 July 2012
著者名(敬称略)
今城健人、中島淳 他
所属
横浜市立大学消化器内科学教室

抄訳

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)発症には腸管由来エンドトキシンの関与が示唆されているが詳細なメカニズムは不明である。我々は野生型マウスを用いて,健常肝では炎症や線維化を来さない少量のエンドトキシンに対しても,高脂肪食誘導下脂肪肝ではエンドトキシンの共受容体であるCD14の発現がクッパー細胞で亢進することによりその反応性を亢進させ,著明な炎症及び線維化を惹起することを示した。また,レプチン欠損肥満マウス(ob/ob)では著明な脂肪肝を呈するにも関わらず肝におけるCD14発現が著明に低下することから,レプチンが肝クッパー細胞におけるCD14発現に関与することが示唆された。ヒトにおける検討でもNASHでは血清レプチン値及び肝CD14発現が増加しており,かつ両者には有意な正の相関を認めていた。これらの結果から,肥満に伴う高レプチン血症が少量エンドトキシンに対する肝クッパー細胞の反応性を亢進し,炎症性サイトカインなどを介してNASH病態を進展させる可能性を示唆した。

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2012/07/24

昆虫変態抑制因子Krppel homolog 1の幼若ホルモンによる誘導の転写制御

論文タイトル
Transcriptional regulation of juvenile hormone-mediated induction of Krppel homolog 1, a repressor of insect metamorphosis 
論文タイトル(訳)
昆虫変態抑制因子Krppel homolog 1の幼若ホルモンによる誘導の転写制御
DOI
10.1073/pnas.1204951109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2012 109 (29) 11729-11734; published ahead of print July 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1204951109
著者名(敬称略)
粥川琢巳、篠田徹郎 他
所属
独立行政法人 農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 昆虫成長制御研究ユニット

抄訳

Krppel homolog 1(kr-h1)は昆虫変態抑制の鍵となる役割を果たしている。Kr-h1は、幼若ホルモン(JH)により、JH受容体methoprene tolerant(Met)を介して誘導されると推定されているが、その機構は不明である。JHによるKr-h1の誘導機構を解明するために、カイコからKr-h1(BmKr-h1)と2種類のMet(BmMet1, BmMet2)をクローニングした。カイコ培養細胞において、BmKr-h1はナノモル以下の濃度の天然JHによって速やかに誘導された。レポーターアッセイによって、BmKr-h1転写開始点の約2キロ上流に141塩基からなるJH応等配列(kJHRE)を特定した。kJHREのコア配列(GGCCTCCACGTG)には、bHLH-PAS転写因子が結合する可能性がある標準的なE-box配列が含まれていた。内在性のJH受容体を欠く哺乳類培養細胞HEK293において、GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現すると、JH依存的にUASレポーターが誘導された。一方、kJHREレポーターは、HEK293細胞において、BmMet2とbHLH-PASファミリーの一因であるBmSRCを共発現させた時のみ、JH依存的に誘導された。また、BmMet2とBmSRCはJH依存的に相互作用することがわかった。以上のことから、JHによるBmKr-h1の誘導機構仮説を提唱した。すなわち、BmMet2がJHを受容すると、BmMet2はBmSRCと相互作用し、JH/BmMet2/BmSRCの複合体がkJHREと相互作用することで、BmKr-h1を活性化する。

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2012/06/29

複製開始前複合体(pre-RC)はXEco2を染色体に呼び込みコヒーシンのアセチル化を促進する

論文タイトル
The Prereplication Complex Recruits XEco2 to Chromatin to Promote Cohesin Acetylation in Xenopus Egg Extracts 
論文タイトル(訳)
複製開始前複合体(pre-RC)はXEco2を染色体に呼び込みコヒーシンのアセチル化を促進する
DOI
10.1016/j.cub.2012.04.013
ジャーナル名
Current Biology Cell Press
巻号
Current Biology Volume 22, Issue 11, 977-988, 03 May 2012
著者名(敬称略)
東寅彦、高橋達郎 他
所属
大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 分子遺伝学研究室

抄訳

コヒーシンはDNA複製時に姉妹染色体を接着することにより、M期での正確な染色体分配に機能する。S期での姉妹染色体の接着には、コヒーシンアセチル基転移酵素(CoAT)によるコヒーシンSmc3サブユニットのアセチル化が必須である。一方、CoATの機能と局在が、どのようにDNA複製と協調して制御されるのかはよく分かっていなかった。  我々はツメガエル卵抽出液を脊椎動物のモデル系に用い、Smc3のアセチル化がDNA複製開始の準備反応である複製開始前複合体(pre-RC)形成に依存することを見いだした。ツメガエルが持つ二つのCoAT、XEco1とXEco2のうち、初期胚ではXEco2が優先的に発現し、染色体接着に必須であった。XEco2はpre-RCに依存して染色体に結合し、その結合にはXEco2のN末端領域に存在する二つの領域(PBM-A/B)が必要であった。PBM-A/Bの欠失変異はSmc3のアセチル化と染色体接着の成立に欠損を示した。一方でコヒーシンのDNA結合の安定化には、pre-RC形成だけでなくDNA複製が必要であった。これらの結果はpre-RCがXEco2の染色体結合を介してSmc3のアセチル化を制御すること、及びDNA複製はSmc3のアセチル化以外の経路で接着成立に寄与することを示唆する。

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2012/06/27

長期記憶学習に応じたCREB依存性長期記憶関連遺伝子発現誘導のNMDA受容体Mg2+ブロックによる制御

論文タイトル
Mg2+ Block of Drosophila NMDA Receptors Is Required for Long-Term Memory Formation and CREB-Dependent Gene Expression 
論文タイトル(訳)
長期記憶学習に応じたCREB依存性長期記憶関連遺伝子発現誘導のNMDA受容体Mg2+ブロックによる制御
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.039
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron Volume 74, Issue 5, 887-898, 7 June 2012
著者名(敬称略)
宮下知之、齊藤実 他
所属
東京都医学総合研究所 学習記憶とその障害の分子機構の解明プロジェクト

抄訳

NMDA受容体ではMg2+ブロック特性によりシナプス後細胞の非興奮時NMDA受容体を介したCa2+流入が抑制される。NMDA受容体が連合学習(記憶情報の獲得)や長期記憶形成に必要なことが示されてきたが、Mg2+ブロックがこうした過程にどのような役割を果たすかは不明であった。我々はMg2+ブロックが欠失した変異NMDA受容体を発現するトランスジェニックフライを作成し、Mg2+ブロックが連合学習の成立には不要だが、長期記憶形成には必須であること、また長期記憶学習に応じて転写因子CREB依存性に長期記憶・長期シナプス可塑性関連遺伝子の発現が上昇するために必要なことなどが分かった。興味深いことにMg2+ブロック変異体脳では抑制型CREBの発現が顕著に増加していた。抑制型CREBの発現量と長期記憶形成の障害には顕著な正の相関があり、Mg2+ブロック変異体でみられた長期記憶形成障害の一因は抑制型CREBの発現上昇であることが示唆された。こうした結果からMg2+ブロックの生理的役割は非学習時(定常状態)にNMDA受容体を介したCa2+流入を阻止して抑制型CREBの発現を抑えることであり、これにより長期記憶学習時のCREB依存性の遺伝子発現が可能となることが示唆された。

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2012/06/21

Fruitlessタンパク質は拮抗的な作用を持った二つのクロマチン因子を動員することによって個々のニューロンに性的二型を作り出す

論文タイトル
Fruitless Recruits Two Antagonistic Chromatin Factors to Establish Single-Neuron Sexual Dimorphism 
論文タイトル(訳)
Fruitlessタンパク質は拮抗的な作用を持った二つのクロマチン因子を動員することによって個々のニューロンに性的二型を作り出す
DOI
10.1016/j.cell.2012.04.025
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
Volume 149, Issue 6, 1327-1338, 8 June 2012
著者名(敬称略)
伊藤弘樹、山元大輔 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科 生命機能科学専攻 脳機能解析構築学講座 脳機能遺伝分野

抄訳

ショウジョウバエのfruitless(fru)遺伝子は推定転写因子をコードし、神経回路に性的二型を生み出すことを通じて雄の性行動の生成に寄与する。今回、Fruが転写補助因子のBonus (Bon, 哺乳類TIF1相同分子)と複合体を形成し、Bonはさらにクロマチン制御因子のHDAC1(Histone deacetylase 1)またはHP1a(Heterochromatin protein 1a)を動員することが明らかとなった。HDAC1は形態の性的二型を示すmALニューロン群の雄化を促進し、HP1aはそれに拮抗する。すなわち野生型雄でHDAC1をノックダウンすると、fruの機能低下型変異体と同様、mALニューロン群中に雌型の細胞が出現し、一方fru変異体でHP1aをノックダウンすると雄型の細胞が増加した。雌雄中間型の細胞はいずれの場合も出現しなかった。つまりこれらのタンパク質は、個々のニューロンの性的特徴を全か無か式に切り換えるスイッチとして働く。

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2012/06/21

補体分子C1qはWntシグナル活性化を通じて老化の表現型を誘導する

論文タイトル
Complement C1q Activates Canonical Wnt Signaling and Promotes Aging-Related Phenotypes 
論文タイトル(訳)
補体分子C1qはWntシグナル活性化を通じて老化の表現型を誘導する
DOI
10.1016/j.cell.2012.03.047
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
Volume 149, Issue 6, 1298-1313, 8 June 2012
著者名(敬称略)
内藤篤彦、小室一成 他
所属
大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学
大阪大学 大学院医学系研究科 心血管再生医学

抄訳

近年、血中のWntシグナル活性化物質が老化を誘導することが報告されたが、その分子の正体は不明であった。
 血清のWntシグナル活性化能は加齢マウスだけでなく、心不全モデルマウスでも亢進していたことから、心不全モデルマウスの血清から新規Wntシグナル活性化物質として補体分子C1qを同定した。C1qはWnt受容体であるFrizzledに結合後、C1r, C1sの活性化を介してWnt共受容体であるLRP5/6を切断することでWntシグナルを活性化した。C1q欠損マウスでは全身でWnt標的遺伝子の発現低下が認められ、老化に伴う全身のWntシグナル活性化も認められなかった。
 加齢に伴い、骨格筋障害後の再生能が低下する。若齢マウスにC1qを投与すると同様に再生能低下が認められる一方、C1sに対する中和抗体を投与することで、加齢に伴う再生能低下が改善され、C1q欠損マウスでは加齢に伴う再生能低下が軽度であった。これらの結果はC1qがWntシグナル活性化を介し老化の表現型の一つである骨格筋障害後の再生能低下を引き起こすことを示している。

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2012/06/21

3.0-T MRIと1.5-T MRIによるマンモグラフィで認められたスピクラ腫瘤の描出能の比較

論文タイトル
Comparison of 3- and 1.5-T Dynamic Breast MRI for Visualization of Spiculated Masses Previously Identified Using Mammography 
論文タイトル(訳)
3.0-T MRIと1.5-T MRIによるマンモグラフィで認められたスピクラ腫瘤の描出能の比較
DOI
10.2214/AJR.11.7463
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
June 2012 vol. 198 no. 6 W611-W617
著者名(敬称略)
植松孝悦 他
所属
静岡県立静岡がんセンター 生理検査科

抄訳

スピクラという乳癌画像診断において重要な微細構造について16ch breast coil併用 3.0-T MRIと4ch breast coil併用1.5-T MRIにおいて、その描出能について比較検討した。対象はマンモグラフィで明らかなスピクラ腫瘤を示して乳腺MRIを施行された乳癌120症例(3.0-T MRI71症例、1.5T- MRI49症例)。乳腺MRI読影経験豊富な3人の放射線専門医が判定した。3.0-T MRIは両側横断像と片側矢状断像、1.5T- MRIは両側横断像について、各々スピクラの描出能について視覚的に比較した。結果はスピクラの描出能においてultrathin slice撮像法を用いた3.0-T MRIの片側矢状断像が3.0-T MRIの両側横断像と1.5-T MRIの両側横断像に比し統計学的に有意に優れていた(p = 0.009 and p = 0.004)。1cm未満の小病変のスピクラ描出能においても、ultrathin slice撮像法を用いた3.0-T MRIの片側矢状断像が、1.5T -MRIの両側横断像に比し統計学的に有意に優れていた(p = 0.029)。以上より、脂肪抑制併用両側乳房撮像法を用いて高い時間分解能を保持したままin-planeとthrough-plane において高分解能撮像が容易にできる3.0-T MRIはスピクラという乳癌画像診断において重要な微細構造の描出において1.5-T MRIより優れることが証明された。よって3.0-T MRIから得られる超高分解能画像は乳腺MRIの質的診断能の向上に寄与すると考えられるが、3.0-T MRIの能力を十分に生かすためには我々の用いた撮像プロトコルのように創意工夫が必要である。

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2012/06/18

光化学系II蛋白質(Thermosynechococcus vulcanus由来)においてアミノ酸軸配位子がクロロフィル二量体の正電荷状態に与える影響

論文タイトル
Influence of the Axial Ligand on the Cationic Properties of the Chlorophyll Pair in hotosystem II from Thermosynechococcus vulcanus 
論文タイトル(訳)
光化学系II蛋白質(Thermosynechococcus vulcanus由来)においてアミノ酸軸配位子がクロロフィル二量体の正電荷状態に与える影響
DOI
10.1016/j.bpj.2012.04.016
ジャーナル名
Biophysical Journal Cell Press
巻号
Volume 102, Issue 11, 2634-2640, 6 June 2012
著者名(敬称略)
斉藤圭亮、石北 央 他
所属
京都大学 生命科学系キャリアパス形成ユニット 石北グループ

抄訳

光化学系II蛋白質にはPD1, PD2クロロフィルから構成されるクロロフィル二量体が存在する。Thermosynechococcus vulcanus由来の光化学系II結晶構造に理論計算を適応し、PD1のアミノ酸軸配位子(D1-His198)が1)PD1、PD2の酸化還元電位に及ぼす影響、2)正電荷分布比(PD1+ : PD2+)に及ぼす影響を解析した。D1-H198Qアミノ酸変異体では、両クロロフィルの電位と正電荷分布比は野生型に比べ、変化しなかった。しかし、D1-H198A変異体ではPD1側の酸化還元電位は上昇し、結果として正電荷はPD1、PD2上により均等に分布した。Ala変異体で空いたPD1の配位部位に水分子を軸配位子として挿入して計算を行うと、電位・正電荷分布比共に野生型と同じ値に戻った。実験では電位・正電荷分布比共に野生型とほぼ同じであることが既知なので、今回の結果は、「D1-H198A変異体における水分子の配位」の存在を立証するものである。

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2012/06/13

mVam2依存のエンドサイトーシス経路によってマウス初期胚の骨形成因子(BMP)シグナルのパターンが制御される

論文タイトル
Spatial Restriction of Bone Morphogenetic Protein Signaling in Mouse Gastrula through the mVam2-Dependent Endocytic Pathway 
論文タイトル(訳)
mVam2依存のエンドサイトーシス経路によってマウス初期胚の骨形成因子(BMP)シグナルのパターンが制御される
DOI
10.1016/j.devcel.2012.05.009
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
Volume 22, Issue 6, 1163-1175, 12 June 2012
著者名(敬称略)
和田洋 他
所属
大阪大学 産業科学研究所 生体機能科学研究分野

抄訳

細胞外のシグナルは細胞膜上の受容体によって受け取られ、活性化された受容体は細胞基質のメディエーターを活性化して、遺伝子発現の調節や細胞骨格のリモデリング、あるいは細胞死などの諸反応を引き起こす。受容体はエンドサイトーシスにより後期エンドソーム・リソソームに運搬されることによって細胞基質より隔離され、シグナル伝達がOFFになるとされる。さまざまなシグナル伝達が受精卵から前後左右背腹軸をもつ胎仔の発生を制御している。初期発生は比較的短時間で進行するため、シグナル伝達をOFFにする機構は重要なポイントであるが、後期エンドソーム・リソソームが果たす役割は不明であった。本研究では後期エンドソームの膜融合に機能するmVam2/mVps41遺伝子を欠損するマウスを作出し、初期胚臓側内胚葉のリソソームの形成にmVam2機能が必須であることを見出した。mVam2欠損細胞ではBMP・BMP受容体が後期エンドソーム様オルガネラに蓄積し、BMPシグナルをOFFにすることができない。これと良く対応して、mVam2欠損胚ではBMPシグナルが異所的に亢進し、胚体中胚葉の欠落・予定神経外胚葉領域での細胞死が起き、胚の形態形成が停止する。すなわち、mVam2によるエンドソームダイナミクスがBMPシグナル活性を適切に制御しており、マウス初期胚の空間パターン構築に必須な機能を果たしていることを明らかにした。

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2012/06/08

Hsp70を核に運搬する分子Hikeshiは熱ショックストレスによる核ダメージから細胞を守る

論文タイトル
Hikeshi, a Nuclear Import Carrier for Hsp70s, Protects Cells from Heat Shock-Induced Nuclear Damage 
論文タイトル(訳)
Hsp70を核に運搬する分子Hikeshiは熱ショックストレスによる核ダメージから細胞を守る
DOI
10.1016/j.cell.2012.02.058
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
Volume 149, Issue 3, 578-589, 27 April 2012
著者名(敬称略)
小瀬真吾 今本尚子
所属
理化学研究所 基幹研究所 今本細胞核機能研究室

抄訳

核-細胞質間分子流通は主にImportinβファミリーに属する運搬体分子によって行われる。しかし、ストレス応答時には、Importinβファミリー分子による輸送活性が顕著に低下する。本論文では、分子シャペロンHsc70/Hsp70のストレス応答性核局在化機構の解析を行った。その結果、熱ショック時にはImportinβファミリー分子とは全く異なる新しい輸送経路が機能していることを明らかにし、その運搬体分子をHikeshi(火消し)と命名した。Hikeshiは、ATP型Hsp70に強く結合し、熱ショック時にHsp70を細胞質から核に運搬する機能をもつ。さらに、siRNA処理によってHikeshiの輸送経路を抑制した細胞は、熱ストレス後の生存率が低下し、熱ショック応答からの回復が顕著に遅れることを明らかとなった。本研究によって、熱ストレス時のHikeshi輸送経路と分子シャペロンHsp70の核内機能の重要性を示された。

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2012/05/28

共生細菌による殺虫剤抵抗性

論文タイトル
Symbiont-mediated insecticide resistance 
論文タイトル(訳)
共生細菌による殺虫剤抵抗性
DOI
10.1073/pnas.1200231109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Published online before print April 23, 2012, doi: 10.1073/pnas.1200231109
著者名(敬称略)
菊池義智 他
所属
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 環境生物機能開発研究グループ

抄訳

害虫の殺虫剤抵抗性は世界中で大きな問題となっている。抵抗性のメカニズムとしては解毒機構の活性化や標的タンパクの構造変化などが知られるが、いずれも昆虫自身の遺伝子によって決まる性質だと考えられてきた。本研究では、害虫が殺虫剤分解菌を体内に共生させることで殺虫剤抵抗性になるという、これまでまったく知られていなかった抵抗性の発達メカニズムを発見したので報告する。ダイズの害虫であるホソヘリカメムシは消化管に「盲嚢」と呼ばれる袋状の組織を多数発達させており、その中にBurkholderia属細菌を保持している。このカメムシは共生細菌を母子間伝達せず、毎世代環境土壌中から共生細菌を獲得する。我々は野外調査と操作実験により、農耕地土壌中には殺虫剤であるフェニトロチオンを分解できるBurkholderiaが生息しており、ホソヘリカメムシがこれを取り込むことで殺虫剤抵抗性になることを実証した。さらに、農耕地土壌にフェニトロチオンを連続散布したところ、フェニトロチオン分解菌の土壌中密度が上昇し、これに伴いフェニトロチオン分解菌を取り込むカメムシの頻度も増大することを明らかにした。このことは、殺虫剤の散布が土壌微生物叢に影響を及ぼし、これが害虫の殺虫剤抵抗性化を引き起こす可能性を示している。

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2012/05/28

ユビキチン結合モチーフUIMをもつAnkrd13ファミリータンパク質による増殖因子受容体のエンドサイトーシス制御

論文タイトル
The Ankrd 13 family of UIM-bearing proteins regulates EGF receptor endocytosis from the plasma membrane 
論文タイトル(訳)
ユビキチン結合モチーフUIMをもつAnkrd13ファミリータンパク質による増殖因子受容体のエンドサイトーシス制御
DOI
10.1091/mbc.E11-09-0817
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
April 1, 2012 vol. 23 no. 7 1343-1353
著者名(敬称略)
丹野秀崇、駒田雅之 他
所属
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生体システム専攻 細胞生物学分野 駒田研究室

抄訳

増殖因子により細胞膜上で活性化された増殖因子受容体は、エンドサイトーシスされてリソソームに運ばれ分解される。この受容体ダウンレギュレーションは、細胞の過増殖・癌化を防ぐ重要な調節機構である。活性化された受容体はリジン(K)63連結型のポリユビキチン化を受け、これが受容体のエンドサイトーシスを始動するシグナルとなる。本論文では、ユビキチン結合モチーフUIMをもつ新規タンパク質ファミリーAnkrd13 A, B, Dの細胞機能の解析を行った。ヒト培養細胞を上皮細胞増殖因子EGFで刺激すると、細胞膜上でAnkrd13がUIMを介してEGF受容体に結合した。また、Ankrd13はエンドサイトーシス・シグナルとして働くK63ポリユビキチン鎖と選択的に結合した。そして、Ankrd13やそのドメイン欠失変異体の過剰発現はEGF受容体のエンドサイトーシスを阻害した。以上から、Ankrd13はUIMを介して細胞膜上でK63ポリユビキチン化された増殖因子受容体を認識し、そのエンドサイトーシスを制御することが示された。

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2012/05/28

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は血管新生を抑制する

論文タイトル
Acetylcholinesterase inhibitors attenuate angiogenesis 
論文タイトル(訳)
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は血管新生を抑制する
DOI
10.1042/CS20110633
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
August 2012 | Vol.123 No.4 | 241-249
著者名(敬称略)
宮崎良平、市來俊弘 他
所属
九州大学 医学研究院 先端心血管治療学講座

抄訳

ドネペジルはアルツハイマー病患者の治療に用いられる可逆性のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である。近年、ドネペジルの投与が炎症性サイトカインの産生を抑制すること、また炎症は血管新生に重要な役割を果たす事が報告されている。そこでドネペジルが血管新生に及ぼす影響を検討した。ドネペジル投与はマウス下肢虚血モデルにおいて血流の回復を抑制し、虚血下肢の毛細血管密度を減少させた。構造の異なるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるフィゾスチグミンでも同様の結果が得られた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢ではインターロイキン(IL)-1βとvascular endothelial growth factor (VEGF)の発現が低下していた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢にIL-1βを投与すると,VEGFの発現が増加し、血流低下や毛細血管密度低下が回復した。またドネペジルを投与したマウスの虚血下肢では対照群と比べてAktのリン酸化が低下していた。これらのデータより、ドネペジルによるアセチルコリンの増加が、Akt活性化を抑制し、IL-1βの産生/VEGF誘導を抑制するため血管新生が抑制されると考えられた。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が新規の血管新生抑制薬となる可能性が示唆された。

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2012/05/28

黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する

論文タイトル
Crystal structure of the enzyme CapF of Staphylococcus aureus reveals a unique architecture composed of two functional domains 
論文タイトル(訳)
黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する
DOI
10.1042/BJ20112049
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
May 2012 | Vol.443 | Issue 3| 671-680
著者名(敬称略)
宮房 孝光、津本浩平 他
所属
東京大学医科学研究所疾患プロテオミクスラボラトリー 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻疾患蛋白質工学分野 工学系研究科化学生命工学専攻

抄訳

莢膜は細胞壁の外側に発現される多糖類であり、黄色ブドウ球菌の重要な病原因子の一つである。CapFはこの莢膜の合成に必須な酵素であり、創薬標的と見なしうる。本論文では、CapFのX線結晶構造解析、酵素機能解析を行い、また補酵素であるNADPHとの特異的な相互作用を等温滴定型熱量測定により観察した。
 X線結晶構造解析の結果、CapFは2つの独立したドメイン(N末端ドメイン、C末端ドメイン)を有していることが明らかとなった。これらのドメインを分割した変異体を作成し、酵素機能解析を進めたところ、C末端ドメインがC3-エピマー化反応に必須であること、N末端ドメインがC4-還元反応を触媒していることが示された。後者はNADPHの還元力を要するが、このNADPHはCapFに包摂されておらず1反応毎に1分子が消費されていた。等温滴定型熱量測定の結果はNADPHとCapFの親和性はNADPHが反応後にNADP+へと酸化されることにより40倍程度低下することを示しており、この親和性の変化によりNADPHの結合/放出、還元反応が加速しているものと考察される。このような活性制御機構の報告は今までになく、CapFに特有のメカニズムである可能性がある。

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2012/05/11

シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達

論文タイトル
Maturation of a PKG-Dependent Retrograde Mechanism for Exoendocytic Coupling of Synaptic Vesicles 
論文タイトル(訳)
シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.028
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Volume 74, Issue 3, 517-529, 10 May 2012
著者名(敬称略)
江口工学、高橋智幸 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 細胞分子シナプス機能ユニット
同志社大学大学院 脳科学研究科
JST-CREST

抄訳

神経細胞間のつなぎ目「シナプス」では電気信号が一旦、化学信号に変換されてから再び電気信号に変換され、これが神経回路を伝わることにより、脳が働くことになります。したがって脳の働きを持続させるためには、シナプスにおける信号変換プロセスが滞りなく作動することが必要です。そのための仕組みとして、化学信号を担う伝達物質を細胞内膜「小胞」に蓄えておき、電気信号によって伝達物質を開口放出させ、空になった小胞を回収・再利用する「小胞リサイクリング」が知られています。この仕組みを有効に作動させるために、小胞の開口数に応じて回収速度を調節するメカニズムがあると考えられていましたが、その実体は不明でした。今回、私たちは、伝達物質の放出量に応じてNOが産生され、これが酵素"PKG"を活性化して、小胞の回収を加速することを突き止めました。また、この仕組みは、生誕後、PKGの発現の上昇に伴って構築されることが分かりました。実際、PKGの活性阻害薬を神経細胞の軸索の先端に注入すると、シナプス伝達が脱落し、電気信号入力の出力変換率が著しく低下しました。今回明らかになったシナプス小胞開口・回収連関メカニズムは、脳神経疾患や向精神薬の標的となっている可能性があります。

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2012/04/26

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討

論文タイトル
Safety and Optimal Management of Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy After Pancreatectomy for Pancreatobiliary Cancer 
論文タイトル(訳)
膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討
DOI
10.2214/AJR.11.6751
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012 vol. 198 no. 4 923-930
著者名(敬称略)
西尾福英之、田中利洋、橋本彩、庄雅之、中島祥之、穴井洋、吉川公彦 他
所属
奈良県立医科大学 放射線医学教室

抄訳

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法(HAIC)の安全性を検討した。対象は、51例(術式;PD(膵頭十二指腸切除術) 29、TP(膵全摘術) 2、DP(膵尾部切除術) 20)。肝動注の方法はリザーバーを経皮的に留置し、5-fluorouracilを毎週5時間かけて持続動注し、3投1休を1コースとして実施した。1コース毎にフローチェック(F/C)を行い、合併症の有無について評価した。留置は全例で成功。肝動脈閉塞を1例(2%)、無症候性の肝動脈狭窄を10例(19.6%)で認めた。狭窄例のうち3例(5.9%)で同時性に肝膿瘍(2例)、胆汁漏(1例)を認めた。いずれもPD後の症例でHAIC開始後3ヵ月以内に出現したが、保存的加療またはドレナージにより改善した。狭窄症例のうち4例は1ヵ月の休薬により治療を再開することができた。膵切除後のHAICは、F/Cを定期的に行うことで安全に施行可能であるが、PD後では合併症に留意する必要がある。

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