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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2008/12/18

ThバランスのTh1型優位への偏向により腫瘍内単核食細胞の成熟が抑制される

論文タイトル
Skewing the Th cell phenotype toward Th1 alters the maturation of tumor-infiltrating mononuclear phagocytes
論文タイトル(訳)
ThバランスのTh1型優位への偏向により腫瘍内単核食細胞の成熟が抑制される
DOI
10.1189/jlb.1107729
ジャーナル名
Journal of Leukocyte Biology 
巻号
September 1, 2008|Vol. 84|Issue 3|679-688
著者名(敬称略)
野中健一1、齊尾征直(連絡著者)2、他
所属
1 岐阜大学大学院医学研究科腫瘍制御学講座 腫瘍外科2          同                   免疫病理学

抄訳

【緒言】単核食細胞(MPC)は狭義には単球とマクロファージを含む概念である。他方、従来腫瘍内浸潤MPCは多くの場合腫瘍内浸潤マクロファージ(TIM)と呼ばれ、免疫抑制的に働くことが知られていた。ところが近年、担癌状態では骨髄球系(顆粒球・単球両系を含む)の分化と成熟が異常となり骨髄球由来抑制細胞(MDSC)が骨髄や脾などのリンパ器官内で形成され、単球系MDSCが腫瘍内へ浸潤し最終的には腫瘍内浸潤マクロファージ(TIM)へも分化する可能性が示唆された。

【研究目的】そこで、本研究では、単球系MDSC、TIMを個別に区分するのではなく腫瘍内浸潤MPC(腫瘍内MPC)として包括的に捉えるとともに、腫瘍内MPCの成熟分化を免疫治療により制御することができるか検討した。

【方法】マウス大腸癌細胞株MCA38腺癌細胞株にIL-2と可溶型TNF受容体II型(sTNFRII)cDNAを単独あるいは共導入することで免疫治療モデルを作製し、腫瘍内からMPCやT細胞を単離し解析に用いた。

【結果】対照群の腫瘍内ではMPCの70%以上が成熟マクロファージ(F4/80+Ly6C-)、残りは未熟な単球(F4/80+Ly6C+)であったが、IL-2とsTNFRII共導入腫瘍群においては腫瘍内MPCの成熟が抑制されるとともに、試験管内での性質も著しく変化し試験管内で生存できなくなった。その原因は少なくとも2つあり、1つはFas依存性のアポトーシスであり、もう1つはMPC表面のM-CSF受容体(M-CSFR)の発現消失であると考えられた。また、対照群において腫瘍内浸潤CD4 T細胞(CD4 TIL)はIL-13やIL-4といったTh2型のサイトカインを発現していたが、共導入群CD4 TILのIL-13発現は低下しており、IFN-γ発現は保たれTh1優位に偏向していた。

【考察】従来からマクロファージの成熟分化は、Th1優位であれば抗腫瘍性のM1型へ、Th2優位であれば免疫抑制性のM2型へ成熟することが知られ、腫瘍内はM2型優位であるといわれてきた。本研究では、免疫治療により腫瘍内のThバランスがTh1型優位に偏向すると腫瘍内MPCの成熟・分化は抑制され、 M2型免疫抑制性マクロファージへの成熟が抑制されることが示唆された。

【結語】腫瘍の微小環境を変化させることで腫瘍内MPCの成熟・分化を変化させることが可能であることが本研究では示され、今後の免疫治療において腫瘍内MPCの成熟・分化制御に着目することの重要性が明らかとなった。

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2008/11/13

重合酵素を利用した乳酸ポリマー合成ための微生物工場の開発

論文タイトル
A microbial factory for lactate-based polyesters using a lactate-polymerizing enzyme
論文タイトル(訳)
重合酵素を利用した乳酸ポリマー合成ための微生物工場の開発
DOI
10.1073/pnas.0805653105
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
November 11, 2008|Vol. 105|No. 45|17323-17327
著者名(敬称略)
田口精一、他
所属
海道大学大学院工学研究科生物機能高分子専攻生物工学講座バイオ分子工学研究室

抄訳

乳酸ポリマーは、石油原料ではなく再生可能バイオマスから作られるバイオプラスチックの一種で、水と二酸化炭素に分解されることから、地球環境に優しい持続循環型の産業素材であり、産業用途が拡大しているバイオプラスチックの一つである。今回、乳酸導入型ポリマーを微生物を用いて「ワンステップ合成」する基礎技術の開発に初めて成功いたしました。従来、乳酸ポリマーは発酵による乳酸合成、抽出及び化学重合を含む複数のステップで生産されていましたが、今回の方法は、人工的に創成した乳酸重合酵素を組み込んだ微生物(大腸菌)を用いてバイオマスからワンステップで乳酸ポリマーを生産するものです。また、従来の技術では、化学構造が同一ながら光学的性質の異なる2種類の乳酸(D体とL体の光学異性体)の一方のみを選択的に化学重合することは大変難しいものでしたが、今回の方法は、乳酸重合酵素を用いることで最近注目されているD体のみを温和な条件で選択的に重合することができる点も、特筆すべきことです。

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2008/10/20

視床下部領域における新たな神経核の同定

論文タイトル
A recently identified hypothalamic nucleus expressing estrogen receptor α
論文タイトル(訳)
視床下部領域における新たな神経核の同定
DOI
10.1073/pnas.0806503105
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
September 9, 2008|Vol. 105|No. 36|13632-13637
著者名(敬称略)
森 浩子、河田光博、他
所属
京都府立医科大学解剖学教室生体構造科学部門

抄訳

ラットの視床下部領域において、今までに報告されていない新たな神経核を発見した。新たに発見した神経核は弓状核と視床下部腹内側核との境に位置しており、その大きさには著しい性差があった。脳内における構造的な性差は新生児期におけるアンドロゲンの作用によって構築されることが分かっているが、本神経核における性差もまた新生児期におけるアンドロゲンの作用によって引き起こされることが明らかになった。本神経核はエストロゲンに対する受容体(ERα)を発現しており、神経核内におけるERα陽性細胞数およびその分布にも性差が認められた。さらに成熟した雌ラットにおいては性周期の変動に伴って本神経核内のERα陽性細胞数が増減するという現象をとらえた。本神経核が神経内分泌学上重要な脳領域に存在する事をあわせて考えると、本神経核は性特異的な機能および行動発現の制御に深く関与している可能性がある。

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2008/09/08

急性心筋梗塞症における冠動脈プラーク破綻部位でのToll様受容体4の発現について

論文タイトル
Local expression of Toll-like receptor 4 at the site of ruptured plaques in patients with acute myocardial infarction
論文タイトル(訳)
急性心筋梗塞症における冠動脈プラーク破綻部位でのToll様受容体4の発現について
DOI
10.1042/CS20070379
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
August 2008|Vol. 115|No. 4|133-140
著者名(敬称略)
石川 有、佐藤 衛、他
所属
岩手医科大学内科学第二講座

抄訳

急性心筋梗塞症(AMI)は、冠動脈プラークの破綻とそれに伴う血栓性閉塞により発症する。動脈プラークの破裂には、冠動脈の血管壁への単球/マクロファージなどの免疫担当細胞の浸潤およびこれらの細胞の活性化が関与していると考えられている。本研究では、62例のAMIを対象に、冠動脈カテ−テル治療に際し梗塞部位から冠動脈血サンプルを得て、単球を分離し、Toll様受容体4(TLR4)のRNA発現量および蛋白発現量を測定した。その結果、TLR4が末梢血サンプルに比較して明らかに亢進していた。また、梗塞部位から吸引により得られた血栓/プラ−クを免疫組織化学染色したところ、TLR4蛋白発現が陽性であった。さらに、対象例の予後を追跡したところ、再狭窄などの心事故発生群は非発生群に比較してTLR4が高値であった。以上の結果は、心筋梗塞部位でTLR4シグナルが活性化し、この活性亢進は冠動脈硬化促進に関与する因子である可能性を示すものであり、心筋梗塞症の発症機序を考案する上で重要な知見である。

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2008/08/19

Notchシグナルによって制御される血管内皮細胞の分節パターンに沿った分化と背側大動脈への移動

論文タイトル
Notch Mediates the Segmental Specification of Angioblasts in Somites and Their Directed Migration toward the Dorsal Aorta in Avian Embryos
論文タイトル(訳)
Notchシグナルによって制御される血管内皮細胞の分節パターンに沿った分化と背側大動脈への移動
DOI
10.1016/j.devcel.2008.03.024
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
June 10, 2008|Vol. 14|No. 6|890-901
著者名(敬称略)
佐藤有紀、高橋淑子、他
所属
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科分子発生生物学講座

抄訳

体内で血管の3次元パターンがどのようにできるかについては、これまでほとんどわかっていなかった。発生中の胚内で最初につくられる背測大動脈の形成過程では、まず側板由来の原始血管がつくられ、その後、体節に由来する細胞が原始血管内に侵入することが知られていた。今回我々は、体節内で出現した血管内皮前駆細胞が、分節パターンに沿ってダイナミックに移動し大動脈形成に寄与することを見いだした。このときNotchシグナルが血管内皮細胞の分化と細胞移動の両方に重要な役割をもつ。またこれらの細胞移動には、原始血管からの誘因作用が関わる。分節パターンに沿って移動した内皮細胞は、最終的には背測大動脈全体に分布するようになる。この論文で報告された知見は、発生過程における血管形成のみならず、成体内での血管新生や、ガン細胞の転移の仕組みの解明につながることが期待される。

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2008/06/11

マラリア原虫オス配偶子の受精能は、植物の受精に必須な分子であるGCS1相同分子によって決定づけられている

論文タイトル
Male Fertility of Malaria Parasites Is Determined by GCS1, a Plant-Type Reproduction Factor
論文タイトル(訳)
マラリア原虫オス配偶子の受精能は、植物の受精に必須な分子であるGCS1相同分子によって決定づけられている
DOI
10.1016/j.cub.2008.03.045
ジャーナル名
Current Biology Cell Press
巻号
April 22, 2008|Vol. 18|No. 8|607-613
著者名(敬称略)
平井 誠、他
所属
自治医科大学感染・免疫学講座医動物学部門

抄訳

マラリアはハマダラカによって媒介される病気です。マラリア原虫に感染した血液を蚊が吸血すると、蚊の消化管内腔で原虫の雌雄配偶子が受精し、一個の接合体から数千個もの原虫が蚊の体内で増殖します。マラリア原虫の受精はマラリア伝搬阻止のターゲットとして考えられていますが、この現象がいかなる分子基盤の上に成り立っているのかは全く不明でした。著者らは、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)のGENERATIVE CELL SPECIFIC1(PbGCS1)という分子がオス配偶子のみに発現していることを発見しました。PbGCS1の機能を調べるため、PbGCS1遺伝子欠損株を作成し蚊に取り込ませたところ、欠損株は蚊の中で増殖することができず、受精のステップで発育が完全にストップしていることを見つけました。さらに、PbGCS1欠損オス配偶子のみが受精不能であることを突き止めました。オス配偶子に特異的なGCS1の機能は被子植物の受精においてすでに発見されています。つまりマラリア原虫と植物の受精現象は、GCS1という共通因子がオス特異的に機能することで営まれていることを初めて発見しました。今回の発見により、GCS1を基盤とした受精メカニズムの解明と、マラリア原虫の受精過程を攻撃するワクチン開発に新しい光が注がれました。

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2008/05/07

日本人集団における肝細胞癌のリスク因子:コホート内症例対照研究

論文タイトル
Risk Factors for Hepatocellular Carcinoma in a Japanese Population: A Nested Case-Control Study
論文タイトル(訳)
日本人集団における肝細胞癌のリスク因子:コホート内症例対照研究
DOI
10.1158/1055-9965.EPI-07-2806
ジャーナル名
Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention 
巻号
April 1, 2008|Vol. 17|No. 4|846-854
著者名(敬称略)
大石和佳1、藤原佐枝子1、John B Cologne 2、他
所属
放射線影響研究所 臨床研究部1同            統計部2

抄訳

肝細胞癌(HCC)のリスクにおいて生活習慣の影響は重要であるが、B型(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)感染を厳密かつ詳細に考慮に入れて、それらの因子間の相乗作用を調査したコホート研究は少ない。我々は、長期追跡を行っている成人健康調査コホートにおいて、HCC診断前の保存血清を用いてコホート内症例対照研究を行った。対象は、224 HCC症例と、その症例に性、年齢、都市、血清保存の時期と方法を一致させ、放射線量に基づくカウンターマッチング法によって選択した644対照例である。HCCの多変量相対リスクは、HBV感染者が45.8、HCV感染者が101、HBVとHCVの重感染者が70.7、エタノール換算40 g/日以上の飲酒者が4.36、HCC診断10年前のBMI>25.0 kg/m2の肥満者が4.57で、いずれも有意であった。さらに肝線維化の程度を調整しても、HBVおよびHCV感染と肥満は、独立したリスク要因として残った。また、HCV感染とBMI増加の間に、HCCリスクにおける有意な相乗的交互作用が認められた。HCCの発症予防のために、過剰体重のコントロールは、慢性肝疾患、特にC型慢性肝炎の人において重要であると思われる。

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2008/03/24

卵巣子宮内膜症性嚢胞に蓄積される赤血球由来の高濃度の鉄とそれに起因する酸化ストレスは卵巣子宮内膜症の癌化を誘導する可能性がある

論文タイトル
Contents of Endometriotic Cysts, Especially the High Concentration of Free Iron, Are a Possible Cause of Carcinogenesis in the Cysts through the Iron-Induced Persistent Oxidative Stress
論文タイトル(訳)
卵巣子宮内膜症性嚢胞に蓄積される赤血球由来の高濃度の鉄とそれに起因する酸化ストレスは卵巣子宮内膜症の癌化を誘導する可能性がある
DOI
10.1158/1078-0432.CCR-07-1614
ジャーナル名
Clinical Cancer Research 
巻号
January 1, 2008|Vol. 14|No. 1|32-40
著者名(敬称略)
山口 建、藤井信吾、他
所属
京都大学大学院医学研究科器官外科学講座(婦人科学産科学)

抄訳

卵巣子宮内膜症性嚢胞(以下、内膜症性嚢胞)から発生する卵巣癌は明細胞腺癌や類内膜腺癌が多く、他の卵巣癌とは発癌機序が異なると考えられる。我々は内膜症性嚢胞内で出血を繰り返すことで蓄積される赤血球由来の鉄に着目し、鉄による酸化ストレスが発癌に与える影響を解析した。内膜症性嚢胞内容液の平均鉄濃度は、他の良性嚢胞内容液より有意に高く、酸化ストレスやそのDNA損傷の指標である過酸化脂質、8-OHdG、抗酸化能の指標であるPAOは有意に高値であった(p<0.01)。組織染色では内膜症性嚢胞は良性卵巣嚢胞よりも有意に鉄沈着を認め(p<0.01)、内膜症合併卵巣癌では非合併卵巣癌よりも有意に8-OHdGを認めた(p<0.01)。In vitroにおいて、内膜症性嚢胞内容液を与えた細胞は他の良性嚢胞内容液を加えた細胞に比べて、有意に活性酸素種を多く含み、DNA突然変異の頻度も高かった(p<0.05)。鉄を高濃度含む内膜症性嚢胞を長期間保持すると、鉄に起因する酸化ストレスが卵巣子宮内膜症の癌化に寄与している可能性が示唆され、臨床的には嚢胞内容液の取り扱いが重要であると考えられた。

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2008/02/27

Short interfering RNAの電気的導入による標的分子のin vivo発現抑制:腫瘍の血管密度はその導入効率と正の相関を示す

論文タイトル
In vivo silencing of a molecular target by short interfering RNA electroporation: tumor vascularization correlates to delivery efficiency
論文タイトル(訳)
Short interfering RNAの電気的導入による標的分子のin vivo発現抑制:腫瘍の血管密度はその導入効率と正の相関を示す
DOI
10.1158/1535-7163.MCT-07-0319
ジャーナル名
Molecular Cancer Therapeutics 
巻号
January 1, 2008|Vol. 7|No. 1|211-221
著者名(敬称略)
武井佳史、他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科  生物化学講座 分子生物学

抄訳

癌治療に有益な標的分子のスクリーニングには、多段階の作業を要する。その中でも、動物腫瘍モデルにおける標的遺伝子の発現抑制効果を評価する部分の作業が最も肝要である。しかし、short interfering RNA(siRNA)などに代表される標的遺伝子抑制薬の腫瘍への投与法は、現状その簡便性と効果において、まだ開発の余地が残る。本論文で、我々は『プレート&フォーク型』電極を用いた電気導入法によってsiRNAの腫瘍へのdeliveryに成功した。その導入効率は腫瘍内に流れた実効電流値と正の相関を示し、さらにその実効電流値は腫瘍内の微小血管密度と血管内皮増殖因子(VEGF)の発現量と相関した。siRNAを導入可能な実効電流値には閾値が存在した。腫瘍内血管密度とVEGF発現量がsiRNAの導入効率を決定すると結論した。以上の基礎検討をもとに、VEGFを標的分子とした治療法を検討した。VEGFに対するsiRNAを腫瘍に電気的に導入することにより、コントロール群と比べて腫瘍増殖を90%抑制した。さらに、長い投与間隔(20日)でのsiRNAの導入(治療)で十分な腫瘍増殖抑制効果が認められた。全身性に投与したsiRNAにおいても同法による治療効果を得た。我々の知見はsiRNAのin vivo電気導入における技術的基盤を提供するとともに、同法による簡便で、かつ効果の高いsiRNA導入技術は標的分子のin vivoスクリーニングに応用可能である。

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2008/01/22

胃がんの罹患リスクと抗炎症作用のあるドコサヘキサエン酸の赤血球膜中濃度との関連

論文タイトル
Gastric Cancer Risk and Erythrocyte Composition of Docosahexaenoic Acid with Anti-inflammatory Effects
論文タイトル(訳)
胃がんの罹患リスクと抗炎症作用のあるドコサヘキサエン酸の赤血球膜中濃度との関連
DOI
10.1158/1055-9965.EPI-07-0655
ジャーナル名
Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention 
巻号
November 1, 2007|Vol. 16|No. 11|2406-2415
著者名(敬称略)
栗木清典、若井建志、松尾恵太郎、平木章夫、鈴木勇史、山村義孝、山雄健次、中村常哉、立松正衛、田島和雄
所属
愛知県がんセンター研究所疫学・予防部

抄訳

胃がんの発生機構の仮説として、Helicobacter pyloriに感染すると、胃の正常粘膜は炎症を惹起されて慢性炎症をきたし、萎縮性胃炎を経てがん化すると提唱されている。ドコサヘキサエン酸(DHA)には抗炎症作用があり、赤血球膜中のDHA濃度は、3ヶ月程度のDHA摂取量を反映する生体指標として適用されている。そこで、我々は、このDHA濃度を簡便で安価に測定できる方法を独自に開発し、胃がんの罹患リスクとの関連を検討した。DHA濃度の高値群は、低値群と比較して、胃がんリスクが約50%低かった。さらに、低分化型腺がんの場合と比較すると、DHA濃度の高値群における高分化型腺がんのリスクは顕著に低かった。以上の結果から、抗炎症作用のあるDHAの赤血球膜中の濃度は、胃がんの罹患リスクを検討する有用な生体指標であることが示唆された。そして、赤血球膜中のDHA濃度を高めることにより、胃がんに罹患するリスクの低減が期待される。

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2008/01/07

カテプシンEは癌細胞膜上から可溶型TRAILを産生することで腫瘍増殖および転移を抑制する

論文タイトル
Cathepsin E Prevents Tumor Growth and Metastasis by Catalyzing the Proteolytic Release of Soluble TRAIL from Tumor Cell Surface
論文タイトル(訳)
カテプシンEは癌細胞膜上から可溶型TRAILを産生することで腫瘍増殖および転移を抑制する
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-07-2048
ジャーナル名
Cancer Research 
巻号
November 15, 2007|Vol. 67|No. 22|10869-10878
著者名(敬称略)
川久保友世、山本健二*、他
所属
*九州大学大学院歯学研究院口腔常態制御学講座口腔機能分子科学

抄訳

カテプシンEは細胞内アスパラギン酸プロテアーゼであり、主に免疫系細胞等に限局的に発現している。本酵素は免疫細胞や癌細胞から細胞外に分泌されているが、その癌における役割については不明であった。本論文では、カテプシンEがin vitroおよびin vivoにおいて正常細胞に影響を及ぼさずに癌細胞特異的アポトーシスを引き起こすこと、またそれは本酵素が癌細胞特異的アポトーシス誘導因子として知られるTRAIL(TNF-related apoptosis inducing ligand)を癌細胞膜上から切断・遊離することで引き起こされるものと判明した。さらに、カテプシンE欠損マウスおよびカテプシンE過剰発現マウスを用いた実験において、宿主側カテプシンEの発現量が多いほど腫瘍増殖・転移は抑制され、リンパ球やマクロファージ等の免疫系細胞の浸潤・活性化が著しいことが示された。これらの結果から、カテプシンEは癌細胞表面からのTRAILの切断遊離、および免疫系細胞の活性化を通じて癌の増殖・転移を抑制していることがわかった。

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2007/12/05

日本人新生児糖尿病の分子基盤

論文タイトル
Molecular Basis of Neonatal Diabetes in Japanese Patients
論文タイトル(訳)
日本人新生児糖尿病の分子基盤
DOI
10.1210/jc.2007-0486
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Endocrine Society
巻号
October 2007|Vol. 92|No. 10|3979-3985
著者名(敬称略)
鈴木 滋、藤枝憲二、他
所属
旭川医科大学小児科学

抄訳

新生児糖尿病は臨床的に一過性糖尿病と永続型糖尿病に大別されてきたが、近年種々の原因遺伝子が同定されている。我々は、日本人患者31例の解析を行い、インプリンティングにより父由来アレルのみが発現する遺伝子領域である染色体6q24のコピー数異常を11例、KCNJ11遺伝子ヘテロ接合性変異を9例、ABCC8遺伝子ヘテロ接合性変異を2例、FOXP3遺伝子ヘミ接合性変異を1例に認めた。一過性糖尿病の中で6q24異常の全ての症例とKCNJ11遺伝子変異の2例が一過性糖尿病に見いだされ、その他の遺伝子異常は永続型糖尿病を呈した。2つのKCNJ11遺伝子変異(R50G、A174G)、2つのABCC8遺伝子変異(A90V、N1122D)、FOXP3遺伝子変異(P367L)が新規変異であった。6q24異常群とKCNJ11遺伝子異常群での臨床像を比較すると、6q24異常は、糖尿病発症は有意に早く、発症時の血糖値は有意に低く、糖尿病性ケトアシドーシスの頻度も有意に少なかった。随伴症状として、6q24異常では発症時巨舌を呈する割合が高く、2例のKCNJ11遺伝子変異はてんかん、発達遅滞を示した。日本人新生児糖尿病では6q24異常、KCNJ11遺伝子異常が主たる原因であり、これらの臨床像の違いを明らかにしたことは、発症時にどの遺伝子解析を第一に行えばよいかの指標となり得ると考えられた。

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2007/11/02

フコガングリオシドα-fucosyl(α-galactosyl)-GM1:新規に同定されたPC12細胞の神経突起発生を誘導する脂質膜ラフト成分

論文タイトル
Fucoganglioside α-fucosyl(α-galactosyl)-GM1: a novel member of lipid membrane microdomain components involved in PC12 cell neuritogenesis
論文タイトル(訳)
フコガングリオシドα-fucosyl(α-galactosyl)-GM1:新規に同定されたPC12細胞の神経突起発生を誘導する脂質膜ラフト成分
DOI
10.1042/BJ20070090
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
October 2007|vol. 407|part 1|31-40
著者名(敬称略)
山崎泰広、端川 勉、他
所属
独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター神経構築技術開発チーム

抄訳

真核細胞の形質膜の脂質外層板には、コレステロール成分の多い脂質ラフトとよばれるクラスター状の微小区画が形成されている。脂質ラフトにはガングリオシド(シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質の総称)が集積していることが知られているが、ラフトのガングリオシドの分子構成やそれらの生物機能の発現機構についての詳細は不明である。本研究では著者によって作製されたラフトに対するモノクローン抗体(PR#1)を用い、ラフトの新たなガングリオシド成分としてフコガングリオシドFuc(Gal)-GM1 {α-fucosyl(α-galactosyl)-GM1}を同定した。PC12細胞膜上のFuc(Gal)-GM1はPR#1抗体によって刺激されるとPC12細胞に細胞質突起の発生をうながし、神経成長因子(NGF)と共役的にはたらいて、PC12細胞の神経細胞への分化を促進した。細胞内シグナル伝達にはSrc族キナーゼのFynとYesが関与していた。この機構は相同のガングリオシドの伝達機構(Trk AとERKSキナーゼが関与する)とはまったく異なっていた。形質膜脂質ラフトはガングリオシドの構成の違いによって、機能的に分化したプラットホームを細胞内シグナル伝達機構に提供していることを示唆している。

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2007/10/09

女性ホルモンによる骨量維持作用は破骨細胞内の核内受容体と細胞死誘導因子を介する

論文タイトル
Estrogen Prevents Bone Loss via Estrogen Receptor α and Induction of Fas Ligand in Osteoclasts
論文タイトル(訳)
女性ホルモンによる骨量維持作用は破骨細胞内の核内受容体と細胞死誘導因子を介する
DOI
10.1016/j.cell.2007.07.025
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
October 2007|vol. 130|issue 5|811-823
著者名(敬称略)
中村 貴、加藤茂明、他
所属
東京大学分子細胞生物学研究所核内情報研究分野

抄訳

高齢化社会に伴い、老年期における骨粗鬆症による生活レベルの低下、特に女性の閉経後骨粗鬆症は大きな社会問題であります。しかしながら、閉経に伴って減少する女性ホルモンの骨組織に対する効果は不明でした。
本論文では、女性ホルモン欠乏によって引き起こされる骨吸収促進による骨減少に着目し、骨組織、特に破骨細胞における核内女性ホルモン受容体(ERα)の機能を、遺伝子改変マウスを用い解析しました。その結果、女性ホルモンが破骨細胞内のERαに結合することによって、Fas Ligandの遺伝子発現が亢進し、アポトーシスを引き起こし、破骨細胞寿命を短縮することで骨吸収を抑制することが、初めて明らかになりました。
本研究の成果は、女性ホルモンの骨組織における重要な作用点が、骨吸収をつかさどる破骨細胞であることを、脊椎動物の生体内で初めて発見したことです。今後の骨粗鬆症治療開発の一助となることが期待されます。

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2007/07/19

マイクロアレイ解析によるホルモン不応性前立腺癌の分子的特徴

論文タイトル
Molecular Features of Hormone-Refractory Prostate Cancer Cells by Genome-Wide Gene Expression Profiles
論文タイトル(訳)
マイクロアレイ解析によるホルモン不応性前立腺癌の分子的特徴
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-06-4040
ジャーナル名
Cancer Research 
巻号
June 1 2007|vol. 67 | No. 11 | 5117-5125
著者名(敬称略)
中川 英刀
所属
東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター

抄訳

前立腺癌の臨床において最も大きな問題は、ホルモン療法に抵抗性となった前立腺癌の出現である。通常、前立腺癌の増殖は男性ホルモンに強く依存しており、男性ホルモンの分泌を抑制する内科的/外科的去勢によって、前立腺癌の増殖は抑制される。しかし、その約20-30%は最終的にホルモン不応性となり、より癌としての悪性度が増し、化学療法にも抵抗性で、患者を死に至らしめる。我々は、このホルモン不応性前立腺癌の分子的特徴を解明するため、採取困難な臨床のホルモン不応性前立腺癌25検体より癌細胞のみをマイクロダイセクションを行い、cDNAマイクロアレルにてゲノムワイドでの遺伝子発現プロファイルを作製した。同時に10検体の通常の前立腺癌においても、同様にゲノムワイドでの遺伝子発現プロファイルを作製し、比較を行った。その結果、遺伝子発現パターンにおいて、ホルモン不応性前立腺癌は、通常の前立腺癌と明らかに異なっており、ホルモン不応性前立腺癌において、発現変化がある遺伝子を106個同定した。その中には、アンドロゲン受容体やHLA等がふくまれ、これらの遺伝子発現変化は、ホルモン不応性前立腺癌のおけるホルモン療法耐性や、より悪性度の高い表現系に強く関与するものと考えられる。これらの遺伝子発現プロファイルは、前立腺癌の発生や進展機構の解明のみならず、新規の分子標的薬の開発に有用と考える。

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2007/06/20

NELFはCBCと結合し,複製依存的ヒストンmRNAの3’末端プロセシングに関与する

論文タイトル
NELF Interacts with CBC and Participates in 3′ End Processing of Replication-Dependent Histone mRNAs
論文タイトル(訳)
NELFはCBCと結合し,複製依存的ヒストンmRNAの3’末端プロセシングに関与する
DOI
10.1016/j.molcel.2007.04.011
ジャーナル名
Molecular Cell 
巻号
May 2007|vol. 26 | No. 3 | 349-365
著者名(敬称略)
成田央,Tetsu M.C. Yung,山本淳一,坪井靖典,田辺秀之,田中亀代次,山口雄輝,半田宏
所属
東京工業大学 大学院生命理工学研究科

抄訳

負の転写伸長因子NELFは4つのサブユニットからなり,神経疾患や癌といった様々な疾病と関連している.我々は,NELFが核のキャップ結合因子CBCと相互作用し,両因子がさらにヒストンのステムループ結合因子SLBPと相互作用することで,複製依存的ヒストンmRNAの3’末端プロセシングを制御していることをここに報告する.驚くべきことに,NELFとCBCのいずれかが欠損すると,ポリA付加された異常なヒストンmRNAが蓄積する.さらにNELFは核内でヒストンの遺伝子座と相互作用し,我々がNELF bodiesと名付けた独自の核内構造を形成する.NELF bodiesはしばしばCajal bodiesやcleavage bodiesと空間的に重なる.以上の結果から,NELFのヒストンmRNAプロセシングにおける驚くべき役割が明らかとなり,NELFが転写の過程で様々なmRNAプロセシングの過程をコーディネートする因子の1つであることが示された

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2007/05/19

コンドロイチン硫酸合成酵素-3 (コンドロイチン合成酵素-2)はコンドロイチン合成酵素-1あるいはコンドロイチン重合化因子と相互作用してコンドロイチン鎖の重合に関与している

論文タイトル
Involvement of chondroitin sulfate synthase-3 (chondroitin synthase-2) in chondroitin polymerization through its interaction with chondroitin synthase-1 or chondroitin polymerizing factor
論文タイトル(訳)
コンドロイチン硫酸合成酵素-3 (コンドロイチン合成酵素-2)はコンドロイチン合成酵素-1あるいはコンドロイチン重合化因子と相互作用してコンドロイチン鎖の重合に関与している
DOI
10.1042/BJ20061876
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
April 2007|vol. 403 | 545-552
著者名(敬称略)
泉川 友美、宇山 徹、奥浦 由佳、菅原 一幸、北川 裕之
所属
神戸薬科大学生化学研究室

抄訳

コンドロイチン硫酸 (CS) は細胞表面や細胞外マトリックスに存在する直鎖状の硫酸化糖鎖で、コアタンパク質に結合したプロテオグリカン(PG)として存在し、様々な分子と相互作用することにより、細胞増殖・分化や形態形成などの生理作用を担っていることが知られている。CS鎖は、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)とグルクロン酸(GlcA)の二糖が数十回繰り返し重合した構造からなる。以前我々は、CS鎖の重合化がコンドロイチン合成酵素-1(ChSy-1) とCS鎖の重合化に必須の因子であるコンドロイチン重合化因子 (ChPF)の複合体により担われていることを報告した。最近、他のグループによってChSy-1との相同性によりコンドロイチン硫酸合成酵素-3 (CSS3)がクローニングされた。そこで、我々はCSS3がChSy-1と同様にChPFと複合体を形成して、CS鎖の重合化に関与しているかを検討した。さらに、HeLa細胞でCSS3を過剰発現あるいはその発現をRNAi法によりノックダウンし、細胞が産生するCS鎖の量を分析した。その結果、CSS3はChPFばかりでなく、ChSy-1とも相互作用し、それらの複合体は共にCS鎖の重合活性を示した。しかしながら、それらの複合体が合成するコンドロイチンの長さには違いが見られた。また、CSS3の発現量とHeLa細胞が産生するCS鎖の量は相関していた。これらの結果より、CSS3もCS鎖の重合化に関与していることが明らかとなり、CSS3をコンドロイチン合成酵素-2 (ChSy-2)と新たに名付けた。さらに本研究により、CS鎖の重合化は、ChSy-1、CSS3およびChPFの様々な組み合わせの複合体に担われていることが示唆された。

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2007/04/19

DYRK2はDNA損傷によって核に移行しp53セリン46をリン酸化してアポトーシスを誘導する

論文タイトル
DYRK2 Is Targeted to the Nucleus and Controls p53 via Ser46 Phosphorylation in the Apoptotic Response to DNA Damage
論文タイトル(訳)
DYRK2はDNA損傷によって核に移行しp53セリン46をリン酸化してアポトーシスを誘導する
DOI
10.1016/j.molcel.2007.02.007
ジャーナル名
Molecular Cell 
巻号
March 2007|vol. 25 | no. 5 | 725-738
著者名(敬称略)
吉田清嗣、他
所属
東京医科歯科大学 難治疾患研究所ゲノム応用医学研究部門 分子遺伝分野

抄訳

細胞ではDNA損傷が生じると、それに応答して多くの分子が活性化されることが知られている。なかでもp53はDNA傷害によって細胞周期を止めたり、アポトーシスを誘導するが、どのような仕組みでこれらの機能を使い分けているのか、不明だった。近年、p53のセリン46のリン酸化がp53AIP1の発現を誘導し、アポトーシスによる細胞死が惹起されることが明らかにされた。すなわちこのセリン46をリン酸化する酵素(キナーゼ)は、p53を介したアポトーシス誘導に必須である。にもかかわらず、そのキナーゼは同定されていない。本研究で我々はそのセリン46キナーゼとしてDYRK2を同定した。DNA 損傷によりDYRK2は細胞質から核に移動し、p53のセリン46をリン酸化する。このリン酸化によりp53AIP1の発現とアポトーシス誘導が認められた。一方、細胞内でのDYRK2の発現をRNA干渉により消失させると、p53セリン46のリン酸化が起きなくなり、アポトーシス誘導も有意に抑えられた。これらの結果から、DYRK2はセリン46のリン酸化によりp53のアポトーシス誘導機能を制御していることが明らかとなった。

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2007/03/19

弾性線維形成におけるトロポエラスチンのドメイン16と17

論文タイトル
Domains 16 and 17 of tropoelastin in elastic fiber formation
論文タイトル(訳)
弾性線維形成におけるトロポエラスチンのドメイン16と17
DOI
10.1042/BJ20061145
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
February 2007|vol. 402 | no. 1 | 63-70
著者名(敬称略)
輪千 浩史、里 史明、中澤 順次、野中 里紗、Szabo Zoltan、Urban Zsolt、安永 卓男、前田 衣織、岡元 孝二、Starcher Barry、Li Dean、Mecham Robert、瀬山 義幸
所属
星薬科大学臨床化学教室

抄訳

先天的な突然変異はタンパク機能にとって重要な領域を同定するのに役立つ。私たちは、大動脈弁狭窄症(SVAS)で見られるエラスチン遺伝子の800-3G>C変異について検討した。家族性SVAS患者から得た初代皮膚線維芽細胞のmRNAからトロポエラスチンのエクソン16と17の欠損体を検出した。このエクソン16-17を欠損したトロポラスチン(Δ16-17)を網膜色素上皮細胞に遺伝子導入したところタンパク合成および分泌は認められたが、蛍光免疫染色およびデスモシン測定によるΔ16-17のエラスチン線維形成は正常に比べ低かった。固相結合実験において、Δ16-17はfibrillin-1やfibulin-5との結合に変化は認められず、Δ16-17の自己集合が低下することがわかった。さらに、ネガティブ染色による電子顕微鏡観察は、Δ16-17が線維性の重合体形成が低下することを認めた。ドメイン16は、線維形成するために必要なβシート構造を構築できるドメイン30と高い相同性を有している。以上のことから、私たちは、ドメイン16と17はトロポエラスチンの自己集合とエラスチン線維形成に重要であると結論づけた。本研究は、相同分子の相互作用によるエラスチン分子内ドメインがエラスチン線維形成 に必須な役割を担っていることを最初に報告するものである。

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2007/02/14

ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はグリコデリンの発現誘導を介してヒト子宮内膜腺癌細胞の運動能を亢進する

論文タイトル
Histone deacetylase inhibitors stimulate cell migration in human endometrial adenocarcinoma cells through up-regulation of glycodelin
論文タイトル(訳)
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はグリコデリンの発現誘導を介してヒト子宮内膜腺癌細胞の運動能を亢進する
DOI
10.1210/en.2006-0896
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
February 2007|vol. 148 | no. 2 | 896-902
著者名(敬称略)
内田 浩、丸山哲夫、小野政徳、太田邦明、梶谷 宇、 升田博隆、長島 隆、荒瀬 透、浅田弘法、吉村泰典
所属
慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 生殖内分泌研究室

抄訳

ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)は細胞分化・増殖に影響を及ぼし、新しい抗腫瘍薬として注目されている。これまでに我々は、ヒト子宮内膜腺癌細胞株Ishikawaを用いた研究で、HDACIの添加が子宮内膜分泌期優位タンパク質であるグリコデリンの発現誘導を介して形態的・機能的分化を引き起こすことを報告した。卵巣ホルモンに依存せずに子宮内膜の分化誘導が期待できるHDACIは、分化誘導能のみでなく運動亢進能もあわせ持っており、その促進効果はともにグリコデリンの発現誘導を介していることが本研究の結果から明らかとなった。グリコデリンが子宮内膜上皮の運動能を亢進することは、発現時期である分泌期に、腺細胞が移動して複雑な腺管構造を構築するためには合目的である。一方で、今後HDACIが抗腫瘍薬として使用された際に、分化誘導・増殖抑制効果を以ても抗腫瘍効果に乏しい場合、子宮内膜癌などではグリコデリンの発現増加を介して腫瘍細胞の浸潤・転移をも亢進してしまう可能性も懸念される。

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