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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2013/04/22

初期化を阻害する転写因子が分化を促進する

論文タイトル
Transcription factors interfering with dedifferentiation induce cell type-specific transcriptional profiles 
論文タイトル(訳)
初期化を阻害する転写因子が分化を促進する
DOI
10.1073/pnas.1220200110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (16) 6412-6417; published ahead of print April 2, 2013, doi:10.1073/pnas.1220200110
著者名(敬称略)
引地 貴亮、升井 伸治 他
所属
京都大学 iPS細胞研究所初期化機構研究部門

抄訳

転写因子は、遺伝子の発現を調節することで、細胞の初期化や分化を制御するが、そのメカニズムの理解は断片的である。本研究では、初期化と分化を転写制御で統合的に理解するモデルを報告する。 神経系細胞に特異的に発現する158転写因子をリストアップし、それらを過剰発現させたところ、初期化する効率を下げる(iPS細胞化に干渉する)因子が少数存在した。これらの因子を肝臓細胞などに導入したところ、神経系細胞を誘導できた。また、同様に肝臓の細胞でiPS細胞化に干渉する因子は、既に肝臓細胞へと誘導することが知られている転写因子だった。これらの結果から、細胞特異的発現プロファイルを強く維持するコア因子は、iPS細胞化に強く干渉すること、すなわち初期化には細胞特異的発現プロファイルの抑制が必要であることがわかった。今後は、干渉を指標に様々な分化細胞でコア因子同定が期待される。

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2013/01/28

転写因子Jdp2は骨恒常性と細菌感染防御を破骨細胞と好中球の分化を制御することで調節する

論文タイトル
The Transcription Factor Jdp2 Controls Bone Homeostasis and Antibacterial Immunity by Regulating Osteoclast and Neutrophil Differentiation 
論文タイトル(訳)
転写因子Jdp2は骨恒常性と細菌感染防御を破骨細胞と好中球の分化を制御することで調節する
DOI
10.1016/j.immuni.2012.08.022
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
Immunity Volume 37, Issue 6, 14 December 2012, Pages 1024-1036
著者名(敬称略)
丸山 健太、審良 静男 他
所属
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室

抄訳

Jdp2はAP-1ファミリーに属する転写因子であり、破骨細胞分化やヒストンアセチル化制御に関与することが知られている。しかし、血球分化におけるその機能や個体レベルでの生理的意義については謎に包まれていた。そこでJdp2ノックアウトマウスを作成し解析したところ、このマウスがin vivoにおける破骨細胞分化の障害により大理石骨病を発症することを発見した。さらに我々は、Jdp2ノックアウトマウスが黄色ブドウ球菌やカンジダに対し易感染であることを見出し、その原因が分化マーカーLy6Gの発現が減弱した機能異常を有する好中球にあることを明らかにした。好中球のJdp2はC/EBPaと結合しその転写活性を最終分化段階において抑制することで好中球機能(殺菌能、好中球細胞外トラップ形成や自発的なアポトーシス)を最適化させていた。また、好中球の分化マーカーLy6GはATF3によって抑制され、Jdp2はATF3のプロモーター領域に結合してヒストンを脱アセチル化することでATF3の発現を抑制し、適切な分化状態を作り出していた。以上より、Jdp2はin vivoにおける骨恒常性と細菌感染防御を、破骨細胞と好中球分化に特異的な遺伝子の発現調節を介して複雑に制御していることが明らかとなった。

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2013/01/28

シアノバクテリアの走光性光受容体であるシアノバクテリオクロムタンパク質AnPixJとTePixJの結晶構造から明らかになった光変換反応の普遍性と特異性

論文タイトル
Structures of cyanobacteriochromes from phototaxis regulators AnPixJ and TePixJ reveal general and specific photoconversion mechanism 
論文タイトル(訳)
シアノバクテリアの走光性光受容体であるシアノバクテリオクロムタンパク質AnPixJとTePixJの結晶構造から明らかになった光変換反応の普遍性と特異性
DOI
10.1073/pnas.1212098110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (3) 918-923; published ahead of print December 19, 2012, doi:10.1073/pnas.1212098110
著者名(敬称略)
成川 礼、池内 昌彦 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系(生物)

抄訳

シアノバクテリオクロムは、シアノバクテリアに広く分布するテトラピロール結合型光受容体で、フィトクロムのスーパーファミリーに属する色素結合型GAFドメインをもつ。シアノバクテリオクロムは多様な分光特性をもついくつものサブクラスに分かれる。そのなかで、糸状性アナベナAnabaena sp. PCC 7120と好熱性Thermosynechococcus elongatus BP-1の走光性光受容体(以下、AnPixJとTePixJ)はそれぞれ赤/緑型と青/緑型サブクラスの代表である。論文では、AnPixJのGAFドメインの赤色光吸収型(Pr)とTePixJのGAFドメインの緑色光吸収型(Pg)の結晶構造を決定した。その構造は、フィトクロムのGAFドメインとおおむね似ていたが、以下のような大きな特徴がみられた。(1) 発色団は、C5-Z,syn/C10-Z,syn/C15-Z/antiのフィコシアノビリン(AnPixJ Pr)とC10-Z,syn/C15-E,anti のフィコビオロビリン(TePixJ Pg)である。(2) ピロール環に配位する保存されたAsp残基は、AnPixJではA・B・C環に、TePixJ PgではD環に水素結合していた。これによって、光励起によるD環の異性化に続く構造変化の普遍性と特異性が明らかになった

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2012/12/05

オートファジー必須因子・Atg16L1はPC12細胞においてオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌を制御する

論文タイトル
Atg16L1, an essential factor for canonical autophagy, participates in hormone secretion from PC12 cells independently of autophagic activity 
論文タイトル(訳)
オートファジー必須因子・Atg16L1はPC12細胞においてオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌を制御する
DOI
10.1091/mbc.E12-01-0010
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 15, 2012 vol. 23 no. 16 3193-3202
著者名(敬称略)
石橋弘太郎、福田 光則 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 膜輸送機構解析分野

抄訳

オートファジーは、あらゆる真核細胞に保存された細胞内分解機構であり、様々な生命現象において重要な役割を担うことが明らかになっている。近年、オートファジーと分泌との関連性を示す研究が幾つか報告されているが、両者を結び付ける分子メカニズムはこれまで全く明らかになっていない。そこで本論文では、分泌研究のモデル細胞株である副腎髄質クロマフィン細胞由来のPC12細胞を用いて解析を行ったところ、オートファジー必須因子の1つであるAtg16L1が低分子量G蛋白質Rab33A依存的にホルモン顆粒上に局在することを見出した。興味深いことに、このAtg16L1のホルモン顆粒への局在はオートファジー阻害の影響を全く受けなかった。また、RNA干渉法を用いた内在性のAtg16L1(あるいは足場となるRab33A)分子のノックダウンの結果、ホルモン分泌量が顕著に減少することが明らかになった。以上の結果から、Atg16L1はホルモン顆粒上のRab33Aと協調してオートファジーとは独立にホルモン顆粒の分泌過程を制御することが示唆された。

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2012/12/05

心筋L型カルシウムチャネルが結合膜構造に局在化するためには,α1CサブユニットのC末端近位側が必要である。

論文タイトル
The proximal C-terminus of α1C subunits is necessary for junctional membrane targeting of cardiac L-type calcium channels 
論文タイトル(訳)
心筋L型カルシウムチャネルが結合膜構造に局在化するためには,α1CサブユニットのC末端近位側が必要である。
DOI
10.1042/BJ20120773
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
Biochem.J (2012) 448, 221-231
著者名(敬称略)
中田勉、山田充彦 他
所属
信州大学医学部 分子薬理学講座

抄訳

心筋におけるL型カルシウムチャネル(LTCC)は,形質膜・筋小胞体膜結合膜構造でリアノジン受容体と機能的複合体を形成している。心筋のLTCCが結合膜構造に局在することは効率的な興奮収縮連関に不可欠であるが,その分子機構は明らかでない。本研究ではα1Cサブユニット(骨格筋型LTCCのポアサブユニット)を欠損したdysgenicマウス由来の骨格筋細胞株GLTを用いた研究を行った。α1Cサブユニット(心筋型LTCCのポアサブユニット)の種々の変異体を作成しGLT細胞に発現させ,免疫染色法を行った結果,C末端近位側に存在するL1681QAGLRTL1688とP1693EIRRAIS1700の部位に変異が導入されるとチャネルの結合膜構造への集積が強く抑制された。また,この部位の変異体を導入したGLT細胞は,野生型の遺伝子を導入したものと比べて,電気刺激によるカルシウムトランジェントを起こす確率が減少していた。この結果から,今回同定したモチーフがLTCCの結合膜への局在と機能に重要な意味を持つことが示唆された。

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2012/12/05

Rab27エフェクター・Slp2-aはMDCK II細胞においてシグナル分子podocalyxinのapical輸送とclaudin-2の発現調節を行う

論文タイトル
Rab27 effector Slp2-a transports the apical signaling molecule podocalyxin to the apical surface of MDCK II cells and regulates claudin-2 expression 
論文タイトル(訳)
Rab27エフェクター・Slp2-aはMDCK II細胞においてシグナル分子podocalyxinのapical輸送とclaudin-2の発現調節を行う
DOI
10.1091/mbc.E12-02-0104
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 15, 2012 vol. 23 no. 16 3229-3239
著者名(敬称略)
安田貴雄、福田 光則 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 膜輸送機構解析分野

抄訳

上皮細胞は細胞間のバリアであるタイトジャンクションを仕切りに、頂端側(apical面)と側底側(basolateral面)という極性を持ち、それぞれに特異的な蛋白質や脂質を運ぶ極性輸送という仕組みを持つ。我々はこれまで、マウスの胃上皮細胞のapical面に特異的に局在する分子としてSlp2-a(synaptotagmin-like protein 2-a)を同定している。Slp2-aは膜輸送を制御する低分子量G蛋白質Rab27と結合することから、上皮細胞のapical面への極性輸送に関与することが示唆されていたが、その機能はこれまで明らかではなかった。本論文では、極性輸送のモデル細胞であるイヌの腎臓尿細管上皮細胞MDCK II細胞を用い、Slp2-aがRab27によって運ばれてきたシグナル分子podocalyxinを含む小胞をapical面に繋ぎ留め、podocalyxinのapical細胞膜への輸送を促進することを初めて明らかにした。さらに、apical面に輸送されたpodocalyxinは、その下流分子である細胞骨格関連蛋白質ezrinの活性調節およびMAPキナーゼカスケード(ERK1/2)の活性調節を行うことで、タイトジャンクションの構成因子claudin-2の発現調節に関与することを突き止めた。以上の結果から、Slp2-aを介した「apical面への極性輸送」と「細胞間相互作用」との間に新たな機能的関係が存在することが明らかになった。

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2012/10/04

卵丘細胞卵複合体の膨潤は、EGF like factor-Calpain活性を介した細胞遊走によって引き起こされる

論文タイトル
EGF-Like Factors Induce Expansion of the Cumulus Cell-Oocyte Complexes by Activating Calpain-Mediated Cell Movement 
論文タイトル(訳)
卵丘細胞卵複合体の膨潤は、EGF like factor-Calpain活性を介した細胞遊走によって引き起こされる
DOI
10.1210/en.2012-1059
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
Endocrinology August 1, 2012 vol. 153 no. 8 3949-3959
著者名(敬称略)
川島一公、島田昌之 他
所属
広島大学生物圏科学研究科 生物資源科学専攻

抄訳

哺乳類の卵は、多層の卵丘細胞に覆われ、卵丘細胞・卵複合体 (COC) を形成している。排卵過程において、COCは、EGF like factor刺激によりヒアルロン酸を主とした細胞外マトリックス (ECM) を卵丘細胞間に蓄積し、その複合体の体積が増大する(この現象を膨潤と呼ぶ)。しかし、ECMを蓄積するスペースを得るために、結合していた細胞が脱接着し、移動する必要があると推察されるが、これまで全く検討されていない。そこで、ガン細胞の脱接着・遊走を司るプロテアーゼであるCalpain1, 2に着目し、卵丘細胞での発現と活性化、その役割について検討した。その結果、卵丘細胞ではCalpain2が発現し、排卵刺激後にEGF-like factor-EGFRによるCa2+上昇とERK1/2の活性化依存的に酵素活性が上昇していた。標的タンパク質であるPaxillinやTalinの分解も、排卵刺激後に検出され、PaxillinとCalpain2においては細胞間結合部位と細胞突起 (Bleb) 形成の起点特異的に検出された。このBleb形成は、Calpain inhibitorで抑制され、その結果、Calpain inhibitor処理により卵丘細胞の脱接着と遊走が認められず、COC膨潤と排卵が有意に抑制された。以上の結果から、EGFR-Calpain2による卵丘細胞の脱接着・細胞遊走がCOC膨潤による排卵に必須であることが明らかとなった.

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2012/10/03

フォトン単位の隠れマルコフモデルに基づく1分子 FRET 軌跡の変分ベイズ解析

論文タイトル
Variational Bayes Analysis of a Photon-Based Hidden Markov Model for Single-Molecule FRET Trajectories 
論文タイトル(訳)
フォトン単位の隠れマルコフモデルに基づく1分子 FRET 軌跡の変分ベイズ解析
DOI
10.1016/j.bpj.2012.07.047
ジャーナル名
Biophysical Journal Cell Press
巻号
Biophysical JournalVolume 103, Issue 6, 1315-1324, 19 September 2012
著者名(敬称略)
岡本憲二
所属
独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 佐甲細胞情報研究室

抄訳

1分子 FRET 計測法は、生体分子の構造変化ダイナミクスの実時間での計測を可能とする有力な手法である。近年、タイムスタンプ (TS) フォトン検出方式を用いることで、高精度・高時間分解能で時系列信号を得ることが可能となった。一方、微弱な信号では揺らぎを無視できず、乱雑な信号から意味のある情報を取り出す信号解析が必要とされる。これまで、1分子ダイナミクスを状態遷移の繰り返しと見なし、隠れマルコフモデル (HMM) 等を用いて状態遷移軌跡を復元する方法論が提案されてきた。
 本論文では、TS-FRET 信号の HMM を変分ベイズ (VB) 法で取り扱うことにより、時系列信号から状態数を推定し、状態遷移軌跡を復元する新たなデータ解析法を紹介する。シミュレーションにより生成した信号に適用することで解析法の評価をおこない、従来法よりも優れた結果を得られることを示し、性能の限界についての評価をおこなった。また、Holliday junction DNA の1分子 FRET 計測実験をおこない、その実測データに新たな解析法を適用した例を示した。
 その結果、予想される状態数を正しく推定し、状態遷移軌跡を復元することに成功した。得られた結果は、branch migration の1ステップがたびたび複数塩基対のジャンプを含むことを示唆するものであった。

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2012/10/02

エクト型酵素CD38の細胞表面における四量体形成は触媒活性と脂質ラフトへの局在化に必要である

論文タイトル
Tetrameric Interaction of the Ectoenzyme CD38 on the Cell Surface Enables Its Catalytic and Raft-Association Activities 
論文タイトル(訳)
エクト型酵素CD38の細胞表面における四量体形成は触媒活性と脂質ラフトへの局在化に必要である
DOI
10.1016/j.str.2012.06.017
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Structure, Volume 20, Issue 9, 1585-1595, 02 August 2012
著者名(敬称略)
横山三紀 他
所属
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 生体支持組織学系 生体硬組織再生学講座 硬組織病態生化学分野

抄訳

リンパ球表面抗原CD38は哺乳類細胞における主要なNAD分解酵素であり、サイクリックADPリボースの産生を介して細胞内カルシウム動員に関与する。また脂質ラフトに局在化して細胞増殖や細胞死のシグナルを制御する。CD38は細胞表面上で四量体を形成することが知られていたが四量体の構造と機能的な意義は不明だった。本論文では部位特異的架橋反応と結晶構造解析を組み合わせてマウスCD38の細胞表面での多量体化に関与する3種類の接触面 (I-III) を明らかにした。接触面 (I) により膜の直上で二量体化したCD38が、接触面 (II, III) によりさらに組み合わされて四量体が形成される。コアとなる二量体同士が結合することはCD38の触媒活性と脂質ラフトへの局在化のどちらにも必要であった。CD38の糖鎖付加は四量体の自己重合を抑制していることが示唆された。四量体形成はCD38の多彩な分子機能の構造基盤であると考えられる。

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2012/10/01

右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布:I-123 イオマゼニールSPECTの部分容積効果補正および統計画像解析

論文タイトル
Distribution of Cortical Benzodiazepine Receptor Binding in Right-Handed Healthy Humans: A Voxel-Based Statistical Analysis of Iodine 123 Iomazenil SPECT with Partial Volume Correction
論文タイトル(訳)
右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布:I-123 イオマゼニールSPECTの部分容積効果補正および統計画像解析
DOI
10.3174/ajnr.A3005
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 33, No. 8 (1458-1463)
著者名(敬称略)
加藤 弘樹
所属
大阪大学大学院医学系研究科 放射線統合医学講座 核医学講座

抄訳

中枢性ベンゾジアゼピン受容体リガンドであるイオマゼニールは薄い大脳灰白質に高い特異性をもって集積する。このためI-123 イオマゼニールSPECT画像は部分容積効果(PVE)を受けやすく、加齢性脳萎縮による見かけの信号低下を呈する。本研究ではI-123 イオマゼニールSPECTのPVE補正によって、中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合分布の加齢性変化を明らかにすることを目的とした。
 19例の右利き健常者(25 - 82 歳; 55 ± 21 歳)を対象としている。I-123 イオマゼニールSPECT をMRIを用いてPVE補正を行い、統計画像解析の方法に基づいて灰白質体積および補正前後のSPECT値と年齢との関連を調べた。
 その結果灰白質体積と補正前SPECT値の加齢性変化に強い正比例の相関が認められ、補正後SPECT値には有意な加齢性変化は検出されなかった。
 I-123 イオマゼニールSPECT のPVE補正によって、右利き健常人の中枢性ベンゾジアゼピン受容体分布に加齢性変化がないことが明らかになった。

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2012/10/01

ポリADPリボシル(PAR)化されたMiki蛋白質による中心体成熟現象促進メカニズム

論文タイトル
Poly-ADP Ribosylation of Miki by tankyrase-1 Promotes Centrosome Maturation 
論文タイトル(訳)
ポリADPリボシル(PAR)化されたMiki蛋白質による中心体成熟現象促進メカニズム
DOI
10.1016/j.molcel.2012.06.033
ジャーナル名
Molecular Cell Cell Press
巻号
Molecular Cell, Volume 47, Issue 5, 694-706, 02 August 2012
著者名(敬称略)
尾崎佑子、稲葉俊哉 他
所属
広島大学原爆放射線医科学研究所・がん分子病態研究分野 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域(研究領域提案型) 紹介サイト

抄訳

分裂期は忙しい。例えば、15分程度しかない分裂前中期に、細胞にとっては「巨大な」染色体を引っ張れる、丈夫な紡錘糸を合成しなくてはならない。このため、中心体ではこの時期に、中心小体周辺物質 (PCM) が急速に増加し、中心体が肥大する。中心体成熟現象である。
 Miki (mitotic kinetics regulator) は、白血病抑制遺伝子の候補として、骨髄性白血病で高頻度に欠失する7番染色体長腕より筆者らが同定した遺伝子産物である。Mikiは間期ではゴルジ体に局在するが、分裂開始に伴うゴルジ体の崩壊とともに、PAR化酵素 (PARP) であるtankyrase-1により高度にPAR化され、分裂期中心体へと移動する。
 Mikiは紡錘糸合成装置である -TuRC(チュブリン・リング複合体)の構成成分である巨大な足場蛋白質CG-NAPを、未解明の機序で、分裂期中心体に局在させることにより、中心体成熟を促進する。Mikiの発現低下により、中心体成熟が起きなくなり、丈夫な紡錘糸が合成できず、染色体は赤道面に整列しにくくなる。その結果、前中期の延長や不均等分裂、分裂失敗によるアポトーシスが生じる。
 Mikiの欠失は、骨髄性白血病や骨髄異形成症候群 (MDS) でしばしば見られ、発現の程度と分裂異常や核形態の異常には密接な関連が見られた。がん細胞の染色体不安定性メカニズムの一因をなすものとして注目される。

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2012/09/26

インターフェロン-γ-誘導性p65 GTP分解酵素の一群は病原性原虫「トキソプラズマ」に対する感染防御応答に決定的な役割を果たす

論文タイトル
Cluster of Interferon-γ-Inducible p65 GTPases Plays a Critical Role in Host Defense against Toxoplasma gondii 
論文タイトル(訳)
インターフェロン-γ-誘導性p65 GTP分解酵素の一群は病原性原虫「トキソプラズマ」に対する感染防御応答に決定的な役割を果たす
DOI
10.1016/j.immuni.2012.06.009
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
Immunity, Volume 37, Issue 2, 302-313, 12 July 2012
著者名(敬称略)
山本雅裕, 竹田潔 他
所属
大阪大学大学院 医学系研究科 予防環境医学講座 免疫制御学研究室 大阪大学微生物病研究所 感染病態分野

抄訳

細胞内寄生性病原体に対する宿主応答では、インターフェロン-γ (IFN-γ) が最重要のサイトカインである。自然免疫担当細胞がIFN-γで刺激されると、約2000種類の遺伝子群が誘導され、その中に免疫関連65kD GTP分解酵素 (GBP) と呼ばれる一群が含まれている。マウスではGBPは非常に相同性の高い13個からなるファミリーを形成しており、6個と7個がそれぞれ3番と5番染色体に分かれて並んで存在している。3番染色体にあるGBP(GBPchr3)を染色体工学で欠損させたマウスを作製し、細胞内寄生性病原体の一つである原虫「トキソプラズマ」に対する宿主応答を解析した。GBPchr3欠損マウス及び細胞は野生型マウスと比較して、トキソプラズマ感染に対する感受性が高まっていた。このことから、IFN-γ依存的にGBPが誘導され、病原性原虫トキソプラズマに対する防御因子として機能することが明らかとなった。

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2012/09/24

染色体高次構造とS期チェックポイントを減数分裂期組換えの開始と連係させる中心的な因子

論文タイトル
A Central Coupler for Recombination Initiation Linking Chromosome Architecture to S Phase Checkpoint 
論文タイトル(訳)
染色体高次構造とS期チェックポイントを減数分裂期組換えの開始と連係させる中心的な因子
DOI
10.1016/j.molcel.2012.06.023
ジャーナル名
Molecular Cell Cell Press
巻号
Molecular Cell, Volume 47, Issue 5, 722-733, 26 July 2012
著者名(敬称略)
三好知一郎、伊藤将、太田邦史 他
所属
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

真核生物は、減数分裂期において両親由来のゲノムDNAを組換え、子孫に遺伝的多様性をもたらす。減数分裂期に入るとDNAが複製され、次いで染色体に「軸」と「ループ」と呼ばれる高次構造が形成される。ループ部には「組換えホットスポット」という領域が含まれ、この領域でDNAの複製後に、DNA二本鎖切断 (DSB: DNA double-strand break) が導入されることで、組換えが開始される。DSB形成に関わる因子は数多く単離されてきたが、その時空間的な制御メカニズムについては不明な点が多く残されていた。
 今回の分裂酵母を用いた解析から、DSB形成に関わるタンパク質群は、「DSBC (DSB core)複合体」と「SFT (seven, fifteen, twenty-four)複合体」の2種の複合体を形成することが分かった。DSBC複合体の中核をなすSpo11という種間で保存されたタンパク質は、基本的にループ部のホットスポットでDSBを導入する。一方、SFT複合体は軸部およびループ部のホットスポットにも結合し、両者を連係させることが示唆された。減数分裂期前DNA複製が完了すると、S期チェックポイントが解除され、Mde2という第3グループのDSB形成因子が発現する。Mde2は、SFT複合体の安定化を介して、軸−ループ間の相互作用を促進することが分かった。さらにMde2は、DSBC複合体構成因子と結合し、Spo11をホットスポット上に呼び込むことも分かった。すなわち、Mde2が、DNA複製、染色体高次構造の構築、DSB形成因子の集合を統合的に制御する、中心的な因子であることが、今回初めて明らかになった。

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2012/09/21

ヒト多能性幹細胞からの高機能性褐色脂肪細胞の作製

論文タイトル
Production of Functional Classical Brown Adipocytes from Human Pluripotent Stem Cells using Specific Hemopoietin Cocktail without Gene Transfer 
論文タイトル(訳)
ヒト多能性幹細胞からの高機能性褐色脂肪細胞の作製
DOI
10.1016/j.cmet.2012.08.001
ジャーナル名
Cell Metabolism Cell Press
巻号
Cell Metabolism, Volume 16, Issue 3, 394-406, 5 September 2012
著者名(敬称略)
西尾美和子、佐伯久美子 他
所属
独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所 疾患制御研究部

抄訳

褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼して体熱産生を行う「痩せる脂肪細胞」として知られ、メタボリックシンドローム(以下メタボ)の治療開発に向けて世界中から注目されている。しかしヒト検体の入手は困難であり研究は遅れている。今回、ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から熱産生能を有する褐色脂肪細胞を高純度に作製する技術が開発された。遺伝子操作を行わず、異種動物細胞や異種動物血清を用いないクリーンな環境下で、独自に開発した「造血性サイトカインカクテル」を用いた2段階培養により約10日間でほぼ純粋な褐色脂肪細胞が得られる。これをマウスに移植すると「耐脂能」と「耐糖能」が向上することが確認された。一方、白色脂肪細胞(いわゆる脂肪細胞)を移植したマウスは、耐脂能は向上したが耐糖能は悪化した。驚くべきことに、ヒト多能性幹細胞由来褐色脂肪細胞の同時移植により白色脂肪細胞移植に伴う耐糖能障害は正常化され、メタボ治療開発に向けた大きな一歩となった。さらにヒト多能性幹細胞由来褐色脂肪細胞が造血支持能を発揮するという意外な一面も示され、ヒト褐色脂肪細胞研究の新たな可能性が提示された。

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2012/08/30

間質性肺炎に合併する肺癌の形態的・局在性の特徴:その初期像について

論文タイトル
Lung Cancer in Chronic Interstitial Pneumonia: Early Manifestation From Serial CT Observations 
論文タイトル(訳)
間質性肺炎に合併する肺癌の形態的・局在性の特徴:その初期像について
DOI
10.2214/AJR.11.7516
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
AJR July 2012 vol. 199 no. 1 85-90
著者名(敬称略)
吉田理佳、荒川浩明 他
所属
獨協医科大学放射線科

抄訳

目的;間質性肺炎(IP)に合併する肺癌の初期像の特徴を明らかにする。
方法;間質性肺炎経過観察中の患者のうち1999年から2010年に肺癌と診断され、初回CTで癌が無いことが確認されている22名(23病変)を対象とした。2名の放射線専門医が独立して後ろ向きにCT画像を参照した。
結果;経過観察期間は4.1年、CT撮影回数は8回、腫瘍径は陰影出現時11mm、生検診断時22mm、陰影出現から臨床的診断日までは409日であった(いずれも中央値)。発生部位は、15病変 (65.2%) は線維性嚢包(蜂巣肺や傍隔壁肺気腫)と正常肺の境界に生じ、4病変はすりガラス影内、1病変は蜂巣肺内に生じた。形状は12病変round or oval, 8病変ill-defined stellate shape、2病変band-like、1病変は境界不明瞭な肺野濃度上昇であった。
結論; IP合併肺癌の初期像は、約2分の1の病変はstellate shapeやband-likeで初期は腫瘍として認識することが難しい。大部分の腫瘍は蜂巣肺と正常肺の境界に生じ、蜂巣肺内に生ずることは稀である。

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2012/08/16

福島第一原子力発電所職員へのメンタルヘルスサポートの立ち上げ

論文タイトル
Launch of Mental Health Support to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Workers 
論文タイトル(訳)
福島第一原子力発電所職員へのメンタルヘルスサポートの立ち上げ
DOI
10.1176/appi.ajp.2012.12030387
ジャーナル名
American Journal of Psychiatry American Psychiatric Publishing
巻号
American Journal of Psychiatry, August 01, 2012 VOL. 169, No. 8, 784-784
著者名(敬称略)
重村淳(筆頭筆者)、谷川武(連絡筆者) 他
所属
防衛医科大学校 精神科学講座愛媛大学大学院医学系研究科 医療環境情報解析学講座 公衆衛生・健康医学分野

抄訳

福島第一原子力発電所事故は、発電所の爆発、原子炉のメルトダウン、放射性物質の放出などで、1986年のチェルノブイリ事故以来最悪の原子力災害となり、医療者もしばらく警戒区域内に入れなかった。谷川武医師は第一原発および隣接する第二原発の非常勤産業医を長年務めていたが、警戒区域に立ち入りを許可されたのは4月半ばだった。職員たちの壮絶な体験を知り、谷川氏はメディアを通じてメンタルヘルス支援を訴え、筆者と協働することとなった。
 この写真は2011年5月6日午後8時16分、筆者が精神科医師として事故後はじめて現地入りした際に、第一原発職員が寝泊りする第二原発体育館で撮影したものである。再体験、回避、過覚醒、解離、被曝への恐怖など多彩なストレス反応が見られ、同僚・身内の死亡への悲嘆と罪責感も顕著だった。職員のアパートに「ここから出て行け」と張り紙がされるなど激しい差別体験により、職員一人ひとりが事故の責任をすべて負っているかのような加害者意識に苛まれていた。何千人もの職員の個別対応は不可能な状態のなか、重症度のトリアージを行わざるをえなかった。ストレス対処などのカウンセリングより真っ先に行ったのは、彼らに最大限の敬意を表すことだった。
 この支援は後に政府の支援を経て、現在も続けているが、現地では常勤精神科医師が不在な状態である。廃炉までには数十年かかると予想され、悲嘆反応を持つ者、高線量被曝者、死の危険性にさらされた者など、リスクの高い者を中心に、継続的なケアが求められる。しかし、このような英雄たちへのケアを継続するためには、高い使命感を持つ専門家、資金、組織的システムが喫緊の課題となっている。

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2012/07/30

肥満に伴う高レプチン血症が,肝において少量のエンドトキシンに過剰反応をきたし,非アルコール性脂肪肝炎の進展に関与する

論文タイトル
Hyperresponsivity to Low-Dose Endotoxin during Progression to Nonalcoholic Steatohepatitis Is Regulated by Leptin-Mediated Signaling 
論文タイトル(訳)
肥満に伴う高レプチン血症が,肝において少量のエンドトキシンに過剰反応をきたし,非アルコール性脂肪肝炎の進展に関与する
DOI
10.1016/j.cmet.2012.05.012
ジャーナル名
Cell Metabolism Cell Press
巻号
Cell Metabolism, Volume 16, Issue 1, 44-54, 3 July 2012
著者名(敬称略)
今城健人、中島淳 他
所属
横浜市立大学消化器内科学教室

抄訳

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)発症には腸管由来エンドトキシンの関与が示唆されているが詳細なメカニズムは不明である。我々は野生型マウスを用いて,健常肝では炎症や線維化を来さない少量のエンドトキシンに対しても,高脂肪食誘導下脂肪肝ではエンドトキシンの共受容体であるCD14の発現がクッパー細胞で亢進することによりその反応性を亢進させ,著明な炎症及び線維化を惹起することを示した。また,レプチン欠損肥満マウス(ob/ob)では著明な脂肪肝を呈するにも関わらず肝におけるCD14発現が著明に低下することから,レプチンが肝クッパー細胞におけるCD14発現に関与することが示唆された。ヒトにおける検討でもNASHでは血清レプチン値及び肝CD14発現が増加しており,かつ両者には有意な正の相関を認めていた。これらの結果から,肥満に伴う高レプチン血症が少量エンドトキシンに対する肝クッパー細胞の反応性を亢進し,炎症性サイトカインなどを介してNASH病態を進展させる可能性を示唆した。

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2012/07/24

昆虫変態抑制因子Krppel homolog 1の幼若ホルモンによる誘導の転写制御

論文タイトル
Transcriptional regulation of juvenile hormone-mediated induction of Krppel homolog 1, a repressor of insect metamorphosis 
論文タイトル(訳)
昆虫変態抑制因子Krppel homolog 1の幼若ホルモンによる誘導の転写制御
DOI
10.1073/pnas.1204951109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2012 109 (29) 11729-11734; published ahead of print July 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1204951109
著者名(敬称略)
粥川琢巳、篠田徹郎 他
所属
独立行政法人 農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 昆虫成長制御研究ユニット

抄訳

Krppel homolog 1(kr-h1)は昆虫変態抑制の鍵となる役割を果たしている。Kr-h1は、幼若ホルモン(JH)により、JH受容体methoprene tolerant(Met)を介して誘導されると推定されているが、その機構は不明である。JHによるKr-h1の誘導機構を解明するために、カイコからKr-h1(BmKr-h1)と2種類のMet(BmMet1, BmMet2)をクローニングした。カイコ培養細胞において、BmKr-h1はナノモル以下の濃度の天然JHによって速やかに誘導された。レポーターアッセイによって、BmKr-h1転写開始点の約2キロ上流に141塩基からなるJH応等配列(kJHRE)を特定した。kJHREのコア配列(GGCCTCCACGTG)には、bHLH-PAS転写因子が結合する可能性がある標準的なE-box配列が含まれていた。内在性のJH受容体を欠く哺乳類培養細胞HEK293において、GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現すると、JH依存的にUASレポーターが誘導された。一方、kJHREレポーターは、HEK293細胞において、BmMet2とbHLH-PASファミリーの一因であるBmSRCを共発現させた時のみ、JH依存的に誘導された。また、BmMet2とBmSRCはJH依存的に相互作用することがわかった。以上のことから、JHによるBmKr-h1の誘導機構仮説を提唱した。すなわち、BmMet2がJHを受容すると、BmMet2はBmSRCと相互作用し、JH/BmMet2/BmSRCの複合体がkJHREと相互作用することで、BmKr-h1を活性化する。

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2012/06/29

複製開始前複合体(pre-RC)はXEco2を染色体に呼び込みコヒーシンのアセチル化を促進する

論文タイトル
The Prereplication Complex Recruits XEco2 to Chromatin to Promote Cohesin Acetylation in Xenopus Egg Extracts 
論文タイトル(訳)
複製開始前複合体(pre-RC)はXEco2を染色体に呼び込みコヒーシンのアセチル化を促進する
DOI
10.1016/j.cub.2012.04.013
ジャーナル名
Current Biology Cell Press
巻号
Current Biology Volume 22, Issue 11, 977-988, 03 May 2012
著者名(敬称略)
東寅彦、高橋達郎 他
所属
大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 分子遺伝学研究室

抄訳

コヒーシンはDNA複製時に姉妹染色体を接着することにより、M期での正確な染色体分配に機能する。S期での姉妹染色体の接着には、コヒーシンアセチル基転移酵素(CoAT)によるコヒーシンSmc3サブユニットのアセチル化が必須である。一方、CoATの機能と局在が、どのようにDNA複製と協調して制御されるのかはよく分かっていなかった。  我々はツメガエル卵抽出液を脊椎動物のモデル系に用い、Smc3のアセチル化がDNA複製開始の準備反応である複製開始前複合体(pre-RC)形成に依存することを見いだした。ツメガエルが持つ二つのCoAT、XEco1とXEco2のうち、初期胚ではXEco2が優先的に発現し、染色体接着に必須であった。XEco2はpre-RCに依存して染色体に結合し、その結合にはXEco2のN末端領域に存在する二つの領域(PBM-A/B)が必要であった。PBM-A/Bの欠失変異はSmc3のアセチル化と染色体接着の成立に欠損を示した。一方でコヒーシンのDNA結合の安定化には、pre-RC形成だけでなくDNA複製が必要であった。これらの結果はpre-RCがXEco2の染色体結合を介してSmc3のアセチル化を制御すること、及びDNA複製はSmc3のアセチル化以外の経路で接着成立に寄与することを示唆する。

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2012/06/27

長期記憶学習に応じたCREB依存性長期記憶関連遺伝子発現誘導のNMDA受容体Mg2+ブロックによる制御

論文タイトル
Mg2+ Block of Drosophila NMDA Receptors Is Required for Long-Term Memory Formation and CREB-Dependent Gene Expression 
論文タイトル(訳)
長期記憶学習に応じたCREB依存性長期記憶関連遺伝子発現誘導のNMDA受容体Mg2+ブロックによる制御
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.039
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron Volume 74, Issue 5, 887-898, 7 June 2012
著者名(敬称略)
宮下知之、齊藤実 他
所属
東京都医学総合研究所 学習記憶とその障害の分子機構の解明プロジェクト

抄訳

NMDA受容体ではMg2+ブロック特性によりシナプス後細胞の非興奮時NMDA受容体を介したCa2+流入が抑制される。NMDA受容体が連合学習(記憶情報の獲得)や長期記憶形成に必要なことが示されてきたが、Mg2+ブロックがこうした過程にどのような役割を果たすかは不明であった。我々はMg2+ブロックが欠失した変異NMDA受容体を発現するトランスジェニックフライを作成し、Mg2+ブロックが連合学習の成立には不要だが、長期記憶形成には必須であること、また長期記憶学習に応じて転写因子CREB依存性に長期記憶・長期シナプス可塑性関連遺伝子の発現が上昇するために必要なことなどが分かった。興味深いことにMg2+ブロック変異体脳では抑制型CREBの発現が顕著に増加していた。抑制型CREBの発現量と長期記憶形成の障害には顕著な正の相関があり、Mg2+ブロック変異体でみられた長期記憶形成障害の一因は抑制型CREBの発現上昇であることが示唆された。こうした結果からMg2+ブロックの生理的役割は非学習時(定常状態)にNMDA受容体を介したCa2+流入を阻止して抑制型CREBの発現を抑えることであり、これにより長期記憶学習時のCREB依存性の遺伝子発現が可能となることが示唆された。

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