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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2011/08/02

線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である

論文タイトル
Caenorhabditis elegans SNAP-29 is required for organellar integrity of the endomembrane system and general exocytosis in intestinal epithelial cells
論文タイトル(訳)
線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である
DOI
10.1091/mbc.E11-04-0279
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
July 2011 |Vol. 22 |Issue 14 |2579-2587
著者名(敬称略)
佐藤 美由紀、2佐藤 健、他
所属
群馬大学 生体調節研究所 細胞構造分野

抄訳

SNAP-29(synaptosomal-associated protein 29)は細胞内物質輸送において小胞膜と標的膜の融合に働くSNARE(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)分子の1つであり、その遺伝子異常は皮膚表皮角化細胞において層板顆粒分子が蓄積するCEDNIK syndrome(cerebral disgenesis、neuropathy、ichthyosis、keratoderma)の原因となることが報告されている。本研究では、線虫C. elegans の腸上皮細胞におけるSNAP-29ホモログの役割に注目し、解析を行った。その結果、SNAP-29の機能阻害をすると、腸細胞からの卵黄成分(リポタンパク質)の分泌や膜タンパク質の細胞膜への輸送に異常を示し、また違う組織である卵母細胞においても細胞膜への物質輸送に異常を示した。また、SNAP-29はゴルジ体、細胞膜、エンドソームに局在し、この遺伝子の機能阻害によってゴルジ体やエンドソームに局在する膜タンパク質が小型の膜小胞へと分散してしまうことが明らかとなった。これらのことから、SNAP-29は小胞輸送経路における様々なオルガネラに局在し、細胞膜への物質輸送を制御するとともに、ダイナミックに変化するこれらのオルガネラの機能と恒常性維持に働くことが明らかとなった。

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2011/06/13

祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース

論文タイトル
Tracing Protein Evolution through Ancestral Structures of Fish Galectin
論文タイトル(訳)
祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース
DOI
10.1016/j.str.2011.02.014
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
May 2011 |Vol. 19 |Issue 5 |711-721
著者名(敬称略)
1今野 歩、2白井 剛、他
所属
1東北大学大学院生命科学研究科
2長浜バイオ大学 コンピュータバイオサイエンス学科

抄訳

生命体を化石から復活することは不可能だが、遺伝子については現存DNA配列から計算により祖先配列を求め、分子生物学的に復元することが可能である。魚類の生体防御タンパク質であるコンジェリンには、加速進化しつつあるConIとConIIのアイソフォームが存在する。本研究では最尤法によりアイソフォームの共通祖先Con-anc'の配列を決定し、立体構造をX線結晶構造解析で求めることに成功した。ConIとIIではフォールドが変化しているが、Con-anc'は予想通り祖系フォールドであった。しかし、構造の詳細はConIとII の中間的性質を示し、Con-anc'が祖先型であることを裏付けていた。Con-anc'の細胞毒性活性は現存タンパク質より低く、生体防御機能に選択圧がかかっている事が示された。また、耐熱性はConI のみで強化され、糖鎖特異性はConIとIIで変化しており、両タンパク質が分化しつつある事が実験的に裏付けられた。

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2011/04/27

結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する

論文タイトル
Silica Crystals and Aluminum Salts Regulate the Production of Prostaglandin in Macrophages via NALP3 Inflammasome-Independent Mechanisms
論文タイトル(訳)
結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2011.03.019
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
April 2011 |Vol. 34 |Issue 4 |514-526
著者名(敬称略)
黒田 悦史、他
所属
産業医科大学 医学部免疫学寄生虫学講座

抄訳

結晶シリカやアルミニウム塩(アラム)などの粒子状物質の多くはアジュバント活性を有していることが知られており、特にIgE産生促進をはじめとするII型免疫反応を誘導する特徴がある。これらの粒子状物質は細胞内パターン認識レセプターの一つであるインフラマソームを活性化し、炎症性サイトカインを誘導することが知られている。我々はさらに脂質メディエータであるプロスタグランジンE2(PGE2)を介した免疫制御機構を見いだした。  シリカやアラムはマクロファージを刺激してインフラマソーム依存性にインターロイキン1を、インフラマソーム非依存性にPGE2産生を誘導した。PGE2のin vivoにおける役割を検討したところ、PGE2を産生しないPGE合成酵素欠損マウスでは野生型マウスに比べて粒子状物質により誘導される血清IgEの産生が有意に低下していた。粒子状物質によるPGE2産生の分子メカニズムについて解析したところ、p38 MAPキナーゼとspleen tyrosine kinase(Syk)の活性化が関与していることが明らかになった。  これらの結果は粒子状物質によって誘導される脂質メディエータがin vivoにおける免疫反応を制御するという新しいメカニズムを提唱するものである。

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2011/04/19

種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態

論文タイトル
Fluorescence kinetics in HeLa cells after treatment with cell cycle arrest inducers visualized with Fucci (fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator) 
論文タイトル(訳)
種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態
DOI
10.1042/CBI20100643
ジャーナル名
Cell Biology International 
巻号
April 2011 |Vol. 35 |No. 4 |359-363
著者名(敬称略)
戒田 篤志、三浦 雅彦
所属
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 口腔放射線腫瘍学分野

抄訳

Fucciは、理研の宮脇らによって開発された生細胞における細胞周期動態を可視化するシステムである。Fucciを導入した細胞は、正常な細胞周期回転中において、G0/G1期に赤色、S/G2/M期には緑色の蛍光を発する。このシステムは、抗癌剤による細胞動態解析等、癌治療分野への応用が期待されるが、その蛍光動態に関する基本的特性は不明である。そこで我々は、Fucci導入HeLa細胞を用いて、G2/Mアレストを誘導するX線照射や、S期初期でのアレストを誘導するハイドロキシウレア(HU)、そしてM期アレストを誘導するノコダゾールによる処理を施し、それぞれの処理後の蛍光動態を、蛍光顕微鏡での観察とフローサイトメトリーにより解析した。X線照射後またはHU投与後20hには、ほとんどの細胞が緑色蛍光を発し、DNA量によって評価した細胞周期動態と蛍光動態が一致していたが、ノコダゾール投与後では、M期に同調しているにもかかわらず、異常な赤色蛍光の誘導が認められた。このように処理によっては、細胞周期動態と一致しない予期せぬ蛍光動態をもたらす場合があり、Fucciを応用する上で注意が必要であることが分かった。ノコダゾールは微小管重合阻害剤であり、この処理によって赤色蛍光を制御するCdt1のSCFSkp2によるユビキチン化がM期で抑制される知見は興味深い。

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2011/02/04

ユビキチンリガーゼのRiplet分子はウイルス感染時の分子に依存した自然免疫応答に必須である

論文タイトル
The Ubiquitin Ligase Riplet Is Essential for RIG-I-Dependent Innate Immune Responses to RNA Virus Infection
論文タイトル(訳)
ユビキチンリガーゼのRiplet分子はウイルス感染時の分子に依存した自然免疫応答に必須である
DOI
10.1016/j.chom.2010.11.008
ジャーナル名
Cell Host & Microbe Cell Press
巻号
December 2010|Vol. 8 |Issue 6 |496-509
著者名(敬称略)
押海裕之
所属
北海道大学大学院医学研究科免疫学分野

抄訳

 新型インフルエンザやC型肝炎ウイルス等はヒトの細胞に感染すると、そのウイルスRNAが細胞質内にあるウイルス認識センサーのRIG-I分子によって認識される。RIG-IはウイルスRNAを認識すると強い抗ウイルス作用をもつI型インターフェロンの産生を誘導する。我々はこれまでに、RIG-Iと結合する分子として新規ユビキチンリガーゼのRiplet分子を単離し、RipletがRIG-IのC末端領域をユビキチン化することでRIG-Iを活性化することを発見した。今回、さらにこのRiplet遺伝子のノックアウトマウスを作成しRipletの生体内での役割の解明を試みた。
 Ripletノックアウトマウスより単離した胎児繊維芽細胞や骨髄由来の樹状細胞とマクロファージでは牛水泡性口内炎ウイルスやインフルエンザウイルス感染時のI型インターフェロン産生が消失していた。また、C型肝炎ウイルスのRNAに対する応答も消失し、Ripletが必須の役割をすることが明らかとなった。またウイルス感染時の生存率もRipletノックアウトマウスで大きく低下したことから、Ripletが、ウイルス認識センサーのRIG-Iの活性化に必須であることが示された。

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2010/11/10

超分子ナノキャリアによる見えるドラッグデリバリー:単一プラットフォームを用いた膵臓がんの診断と治療

論文タイトル
Visible Drug Delivery by Supramolecular Nanocarriers Directing to Single-Platformed Diagnosis and Therapy of Pancreatic Tumor Model
論文タイトル(訳)
超分子ナノキャリアによる見えるドラッグデリバリー:単一プラットフォームを用いた膵臓がんの診断と治療
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-10-0303
ジャーナル名
Cancer Research(AACR Comprehensive Cancer Collection) 
巻号
September 2010|Vol. 70 |Issue 18 |7031-7041
著者名(敬称略)
貝田 佐知子、西山伸宏、片岡 一則、他
所属
東京大学 医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門

抄訳

現在、がん化学療法では、薬剤のがん集積性を迅速に判別する手段は無く、また、治療効果が判明するまで長い期間が必要となり、その結果「手遅れ」となる場合も多く見受けられる。本研究では、我々が開発した高分子ミセル型DDSに、MRI造影剤(Gd-DTPA)を搭載することによって、がんへの集積から治療効果までをイメージングにより追跡することができる「見えるDDS」を開発した。Gd-DTPA搭載ミセルは、Gd-DTPA単体の24倍の水プロトン緩和時間短縮効果を有しており、MRI造影剤として高い性能を有することが明らかになった。また、難治性の膵臓がんに対して見えるDDSの効果を評価するために、マウス膵臓がんモデルを用いたMRイメージングとMRIによるDDSの治療効果の追跡を行った。その結果、高分子ミセルは、膵臓がんモデルに効果的に集積し、優れた薬理効果を示すことが、MRイメージングによって明らかになった。
 本システムを利用すれば、がん治療が薬物の患部への到達を確認しながら行うことができ、さらに治療効果をリアルタイムで追跡できるようになるものと考えられ、「手遅れのない」確実ながん治療の実現が期待される。

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2010/09/27

多能性幹細胞の異種間胚盤胞注入によりマウス内にラットの膵臓を作製

論文タイトル
Generation of Rat Pancreas in Mouse by Interspecific Blastocyst Injection of Pluripotent Stem Cells
論文タイトル(訳)
多能性幹細胞の異種間胚盤胞注入によりマウス内にラットの膵臓を作製
DOI
10.1016/j.cell.2010.07.039
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
September 2010|Vol. 142|Issue 5|787 - 799
著者名(敬称略)
小林 俊寛*1, *2、中内 啓光*1, *2
所属
*1 東京大学 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野
*2 JST ERATO 中内幹細胞制御プロジェクト

抄訳

多能性幹細胞からin vitroで臓器を作製することは再生医療における究極的な目標であるが、構成細胞の多様性や3次元的な立体構造を再現する必要があるため非常に困難であるとされている。 そこで我々は膵臓欠損を示すPdx1ノックアウト(KO)マウスの胚盤胞にマウス多能性幹細胞を注入することで、発生段階における膵臓の空きを補完し、完全に多能性幹細胞由来の細胞から構成される膵臓をマウス生体内に作製することに成功した。 またこの“胚盤胞補完法”の原理が異種間でも成立するためには多能性幹細胞が異種の胚発生に寄与できなくてはならない。そこでマウスおよびラットの多能性幹細胞をお互いの胚盤胞に注入し、マウス-ラット異種間キメラの作製を試みた。 その結果、異種間キメラはどちらの方法でも成立し、全身に多能性幹細胞由来の細胞が存在していた。さらに以上の知見を組み合わせ、Pdx1 KOマウスの胚盤胞にラット多能性幹細胞を注入すると、機能的なラットの膵臓がマウス体内に作製できた。 これらの結果は異種生体内の環境を利用して多能性幹細胞由来の臓器を作製することが可能であることを示すものである。

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2010/07/22

アデノウイルスベクターを用いた副甲状腺細胞への遺伝子導入法の開発

論文タイトル
Development of a Technique for Introduction of an Expressed Complementary Deoxyribonucleic Acid into Parathyroid Cells by Direct Injection
論文タイトル(訳)
アデノウイルスベクターを用いた副甲状腺細胞への遺伝子導入法の開発
DOI
10.1210/en.2010-0012
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
August 2010|Vol. 151|No. 8|4031 - 4038
著者名(敬称略)
椎崎 和弘、他
所属
自治医科大学 内科学講座 腎臓内科学教室

抄訳

副甲状腺は非常に小さい臓器であり、またin vitro実験に適したcell lineが存在しないことなどにより、基礎的研究が難しく副甲状腺細胞の生理学的特徴や病理学的変化の解明が十分でない。 アデノウイルスベクターと副甲状腺内に薬剤などを直接注入する技術を用いて、副甲状腺細胞特異的な標的遺伝子の発現および機能の調節を試みた。本研究では副甲状腺細胞での発現部位や機能がよく知られているカルシウム感知受容体レセプター(CaSR) を標的遺伝子として用いた。腎機能低下により過形成とCaSR発現および機能の低下を誘発したラットの副甲状腺に確実に感染するアデノウイルス量および感染したアデノウイルスの経時的変化を確認し、CaSR cDNAを導入したアデノウイルスを直接注入した 副甲状腺細胞のCaSRの発現や、カルシウムに対する反応を検討した。免疫組織学的CaSR発現は著明に増加し、これはアデノウイルス感染部位と一致した。カルシウム−副甲状腺ホルモン反応曲線は左に変移し、カルシウムに対する副甲状腺細胞の感受性(CaSR機能) の改善が確認された。副甲状腺細胞特異的な標的遺伝子の発現や機能の調節法の確立により、副甲状腺細胞に関する基礎的研究の進歩と難治性副甲状腺疾患に対する遺伝子治療への進展の可能性が示唆された。

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2010/06/21

肺サルコイドーシスにおける血清マーカーの比較検討

論文タイトル
Comparative Evaluation of Serum Markers in Pulmonary Sarcoidosis
論文タイトル(訳)
肺サルコイドーシスにおける血清マーカーの比較検討
DOI
10.1378/chest.09-1975
ジャーナル名
CHEST 
巻号
June 2010|Vol. 137|No. 6|1391-1397
著者名(敬称略)
三好 誠吾、濱田 泰伸、他
所属
愛媛大学大学院 病態情報内科学

抄訳

背景:いくつかの血清マーカーが肺サルコイドーシスの胞隔炎や疾患の進行を反映することが報告されているが、それらを比較検討した報告はない。 目的と方法:43例の肺サルコイドーシス患者を対象として、血清マーカーが胞隔炎を反映するか、診断時の血清マーカーが2年後の肺野陰影の増加の予測因子となるかについて検討した。血清マーカーは血清アミロイド蛋白A、可溶性interleukin-2受容体(sIL-2R)、リゾチーム、アンジオテンシン変換酵素およびKL-6を用いた。解析には気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞分画や胸部単純X線写真などを用いた。 結果:肺野に陰影を有する患者では、有さない患者と比較して血中のsIL-2R、リゾチーム、KL-6、BALF中の総細胞数、リンパ球数が有意に高値を示した。さらに、血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6は BALF中の総細胞数、リンパ球数、CD4リンパ球数と正の相関を示した。肺野陰影の増加の予測因子に関する検討においては、単変量解析では診断時の血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6およびBALF中リンパ球数が陰影の増加と関連していたが、多変量解析では診断時のKL-6のみが陰影の増加と関連していた。 結語:血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6は肺サルコイドーシスの胞隔炎を反映することが示唆された。診断時のKL-6は肺サルコイドーシスの肺野陰影の増加の予測因子となることが示唆された。

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2010/05/06

大脳皮質神経細胞局在化におけるセプチン(Sept14とSept4)の重要性

論文タイトル
Septin 14 Is Involved in Cortical Neuronal Migration via Interaction with Septin 4
論文タイトル(訳)
大脳皮質神経細胞局在化におけるセプチン(Sept14とSept4)の重要性
DOI
10.1091/mbc.E09-10-0869
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
April 2010|Vol. 21|Issue 8|1324-1334
著者名(敬称略)
篠田 友靖、永田 浩一、他
所属
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所・神経制御学部

抄訳

Septinは、酵母から哺乳類まで保存された細胞骨格関連のGTP/GDP結合蛋白質である。哺乳類には14種類のホモログ(Sept1~Sept14)が存在し、分子ファミリーを形成する。著者らは、大脳皮質形成におけるSept14の機能を検証するため、子宮内胎仔脳遺伝子導入法を用いて、胎生期マウスの脳室帯細胞でSept14の発現を抑制した。その結果、Sept14発現抑制細胞は局在異常(細胞移動の異常)を示した。ついで、この現象の分子基盤を解明する目的で相互作用分子の探索を行い、Sept4を同定した。免疫沈降実験の結果、Sept14とSept4が相互作用すること、およびSept14のC末側に存在するcoiled-coil領域がSept4との相互作用に必要であった。さらに、Sept4の発現抑制やSept14とSep4の結合阻害も、大脳皮質神経細胞の局在異常を生じた。一方、神経細胞の形態に着目したところ、Sept14およびSept4の発現抑制細胞では先導突起の長さが短縮していた。Sept14やSept4の発現抑制により、海馬培養神経細胞でも軸索および樹状突起の伸張が抑制された。これらの結果から、Sept14およびSept4は神経細胞の形態制御に関与し、それによって神経細胞の移動・局在に機能的に関与することが示唆された。

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2010/04/08

3T領域別灌流画像を用いた富血管性脳実質外腫瘍の血管供給の評価

論文タイトル
Assessment of Vascular Supply of Hypervascular Extra-Axial Brain Tumors with 3T MR Regional Perfusion Imaging
論文タイトル(訳)
3T領域別灌流画像を用いた富血管性脳実質外腫瘍の血管供給の評価
DOI
10.3174/ajnr.A1847
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 31, No. 3 (554-558)
著者名(敬称略)
笹尾 明、平井 俊範 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部 放射線診断学分野

抄訳

目的:外頸動脈から栄養される脳実質外腫瘍の血管供給は領域別灌流画像で検討されていない。本研究の目的は領域別灌流画像にて富血管性脳実質外腫瘍の血管供給の評価ができるかどうか、また、情報が得られるかどうかを明らかにすることである。 方法:対象は連続する8例の髄膜腫症例において3T MRIで通常のASLと領域別灌流画像を施行した。MRAの結果に基づき、外頸動脈に選択的ラベリングスラブを置いて領域別灌流画像を施行した。5例は外科手術前にDSAを行った。2名の神経放射線科医が独立して、画質、腫瘍灌流の程度、腫瘍血管領域の範囲を通常のASLと領域別灌流画像で評価した。 結果:通常のASLと領域別灌流画像の画質において読影に影響するものはなかった。通常のASLと領域別灌流画像によって同定された腫瘍血管領域の範囲の比較において、3例で一致、4例で部分的に異なり、1例で完全に不一致であった。観察者間の一致率は大変良好であった(κ=0.82)。DSAを施行した5例において、主要な血管供給が外頸動脈であった4例は一致もしくは部分的に不一致として評価された。血管供給が内頸動脈のみであった1例は完全に不一致と評価された。 結語:外頸動脈の選択的ラベリングによる領域別灌流画像は施行可能であり、富血管性脳実質外腫瘍の血管供給についての情報を提供する。

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2010/02/24

新規2型糖尿病感受性遺伝子KCNJ15の同定 ―肥満のない2型糖尿病で関連―

論文タイトル
Identification of KCNJ15 as a Susceptibility Gene in Asian Patients with Type 2 Diabetes Mellitus
論文タイトル(訳)
新規2型糖尿病感受性遺伝子KCNJ15の同定 ―肥満のない2型糖尿病で関連―
DOI
10.1016/j.ajhg.2009.12.009
ジャーナル名
American Journal of Human Genetics Cell Press
巻号
2010|Vol. 86|Issue 1|54-64
著者名(敬称略)
岡本好司※1、岩直子※2、他
所属
※1 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 先端腎疾患病態研究グループ
※2 東京女子医科大学大学院 医学研究科 第三内科学(糖尿病センター)

抄訳

アジア人に多い肥満を伴わない2型糖尿病の遺伝素因を解明するために、ゲノム全域を探索し、新規の糖尿病感受性遺伝子としてKCNJ15遺伝子を同定した。本遺伝子エクソン4に位置するSNP(rs3746876, C566T)のリスクアレルTを有する集団では2型糖尿病発症リスクが1.76倍となり、さらに肥満のない患者に限ると1.93~2.54倍に増加した。従来の報告においては2型糖尿病感受性SNPのリスクは2未満であることから、本遺伝子の発症リスクは大きいと考えられる。
 我々は罹患同胞対解析の結果から得られた染色体21番領域上の遺伝子を検討し、最終的に1568人の2型糖尿病患者と1700人の健常対照者を用いた解析によりKCNJ15遺伝子をつきとめた。また、デンマークとの共同研究の結果、本遺伝子の2型糖尿病との関連が極めて小さいことを見出し、遺伝背景における人種差を明らかにした。
 KCNJ15遺伝子は膵臓のインスリン分泌細胞で発現するチャネルをコードしており、培養インスリン分泌細胞に過剰発現させるとインスリン分泌が減少することも明らかにした。リスク型をもつ人では遺伝子のmRNAおよび蛋白の発現レベルが高く、本遺伝子は発症促進遺伝子と考えられる。今後、新しい糖尿病発症機構の解明とともに、新たな治療法や予防法の開発につながると期待される。

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2010/02/01

無尾両生類における水適応戦略 -アクアポリン分子の多様性-

論文タイトル
Water Adaptation Strategy in Anuran Amphibians: Molecular Diversity of Aquaporin
論文タイトル(訳)
無尾両生類における水適応戦略 -アクアポリン分子の多様性-
DOI
10.1210/en.2009-0841
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
2010|Vol. 151|No. 1|165-173
著者名(敬称略)
尾串雄次、田中滋康、他
所属
静岡大学創造科学技術大学院統合バイオサイエンス部門

抄訳

水棲種を除く多くの無尾両生類は、下腹部皮膚から水を吸収し、膀胱に貯蔵した尿から水を再吸収することで、生体の水バランスを維持している。本研究により、生息域の異なる無尾類のアクアポリン(AQP)を解析・比較した結果、無尾類には基本的に、下腹部皮膚と膀胱にそれぞれ固有の抗利尿ホルモン依存性AQP(下腹部皮膚型と膀胱型)が発現していることが判明した。さらに、これらのAQPの発現様式の変化が、無尾類の多様な水環境への適応能と深く関連していることが示唆された。陸棲や樹上棲のカエルでは、生理学的な研究から、抗利尿ホルモンに応答して下腹部皮膚から効率よく水を吸収することが知られていたが、これらの種では、膀胱型AQPが下腹部皮膚型AQPとともに下腹部皮膚に発現していた。対照的に、水中棲のツメガエルでは、下腹部皮膚は抗利尿ホルモンに応答せず、水透過性も極めて低いことが知られていたが、この種では、下腹部皮膚型AQP(AQP-x3)mRNAからの翻訳が認められなかった。AQP-x3のアミノ酸配列を他種と比較すると、C末端側にCys273を基点として11アミノ酸残基長い配列 (CT tail) が認められた。このCysをSerや終始コドンに変えた変異体(C273SまたはC273Stop)をツメガエル卵発現系で調べると、野生型AQP-x3のcRNAではタンパク質発現は見られないが、C273SおよびC273StopのcRNAではタンパク質発現が見られ、これらのAQPタンパク質により水透過能が亢進した。また、アマガエルの腎臓型AQPであるAQP-h2Kでは、cRNAからタンパク質が発現するが、AQP-h2KにCT tailを付加したキメラ分子のcRNAでは、タンパク質が発現しなかった。これらの結果から、ツメガエルでは、AQP-x3のCT tailをコードする33個のヌクレオチドに、タンパク質発現を抑制する機能があり、これにより下腹部皮膚からの過剰な水透過が抑制され、ツメガエルの水中生活への適応が保証されていると考えられる。本研究により、1790年代のR. Townson博士の発見以来蓄積されてきた無尾類の水吸収特性や生息域に応じた相違に関する研究成果が、分子レベルで理解できるようになった。

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2009/12/22

視床下部オレキシンは交感神経を活性化することによって摂食に伴う骨格筋でのグルコース利用を亢進する

論文タイトル
Hypothalamic Orexin Stimulates Feeding-Associated Glucose Utilization in Skeletal Muscle via Sympathetic Nervous System
論文タイトル(訳)
視床下部オレキシンは交感神経を活性化することによって摂食に伴う骨格筋でのグルコース利用を亢進する
DOI
10.1016/j.cmet.2009.09.013
ジャーナル名
Cell Metabolism Cell Press
巻号
2009|Vol. 10|Issue 6|466-480
著者名(敬称略)
志内哲也、箕越靖彦、他
所属
自然科学研究機構生理学研究所発達生理学研究系 生殖・内分泌系発達機構研究部門 総合研究大学院大学生命科学研究科 生理科学専攻

抄訳

オレキシンニューロンは睡眠・覚醒レベルや動機付け行動を制御する。我々は、マウス、ラットの視床下部腹内側核(VMH)にオレキシンを投与するとVMHニューロンを直接興奮させ、骨格筋を支配する交感神経活動を選択的に上昇させることによって骨格筋のグルコースの取込みが亢進することを見いだした。さらに、インスリンによるグルコース取込みおよびグリコーゲン合成促進作用が増加した。白色脂肪組織ではこのような作用は見られなかった。オレキシンによる作用はβアドレナリン受容体遺伝子欠損マウスでは認められず、このマウスの骨格筋、および血管など骨格筋周辺細胞にβ2 受容体遺伝子を発現させるとオレキシンによるグルコース代謝促進作用が回復した。さらに我々は、自発的にサッカリン溶液を摂取するよう動機付けしたマウスにサッカリンを摂取させると、オレキシンニューロンが活性化し、これにより、インスリンによるグルコース代謝が骨格筋において選択的に増強することを見いだした。以上より、オレキシンおよびVMHにおけるオレキシン受容体は、強い動機付けによる摂食行動と味覚刺激によって活性化し、筋交感神経−β2 受容体経路を介して骨格筋でのグルコース代謝調節作用を促進すると考えられる。

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2009/11/10

EDAR の多型はシャベル型切歯の遺伝的決定因子のひとつである

論文タイトル
A Common Variation in EDAR Is a Genetic Determinant of Shovel-Shaped Incisors
論文タイトル(訳)
EDAR の多型はシャベル型切歯の遺伝的決定因子のひとつである
DOI
10.1016/j.ajhg.2009.09.006
ジャーナル名
American Journal of Human Genetics Cell Press
巻号
2009|Vol. 85|Issue 4|528-535
著者名(敬称略)
木村亮介、他
所属
琉球大学亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構

抄訳

Ectodysplasin A receptor (EDAR )は、歯、毛髪、汗腺など外胚葉由来器官の発生に関わる遺伝子であり、近年、非同義多型であるEDAR T1540C(V370A)が毛髪の太さと関連することが示された。また、1540Cの分布は、モンゴロイド特有の形態形質であるシャベル型切歯の分布ともよく一致する。本研究では、東京および先島諸島(宮古島および石垣島)における202人を対象に、シャベル型切歯を中心とした歯形態とEDAR 遺伝子型との関連を、調整した歯列模型およびDNA試料を用いて解析した。その結果、個体の1540Cアリルの保有数は、シャベル型のグレードと非常に強く相関していることが観察された(7.7×10−10)。また、歯全体の大きさや近遠心径の大きさとも有意な正の相関が見られた。したがって、このアジア人特異的な非同義多型は、歯や毛髪といった複数の可視的形質と関連することが示されたことになり、その他にも関連する形質が存在するかもしれない。この多型には東アジアにおいて自然選択が働いてきたことが示唆されているが、選択圧および選択の対象となった形質に関しては未だ謎である。

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2009/10/27

Wnt5タンパク質はマボヤ胚の脊索のインターカレーションに必要である

論文タイトル
Wnt5 is required for notochord cell intercalation in the ascidian Halocynthia roretzi
論文タイトル(訳)
Wnt5タンパク質はマボヤ胚の脊索のインターカレーションに必要である
DOI
10.1042/BC20090042
ジャーナル名
Biology of the Cell 
巻号
2009|Vol. 101|part 11|645-659
著者名(敬称略)
庭野智子、高鳥直士、熊野 岳、西田宏記
所属
大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻発生生物学研究室

抄訳

多くの動物の胚は発生中に体が前後に長くなっていく。これは、胚細胞が左右から正中面に向けて移動し、互いの間に入り込んでいく収斂と伸張運動 によっている。Wntタンパク質はこの細胞運動に 深く関わっていることが示されてきた。ホヤ胚を使ってWntタンパク質を欠如させたり過剰に産生させたりした結果、尾の中心を貫いている脊索の収斂運動に異常が見られ、細胞が互いの間に入り込ん でいくことができなくなった。また、一部の脊索細胞のみでWntタンパク質を欠如させたり過剰に産生させたりしたモザイク解析の結果は、Wntタンパク質が脊索細胞自体で必要とされ、その作用機構が 細胞自律的であることが示唆された。Wntタンパク質は脊索細胞でオートクライン的に働いているようである。

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2009/10/02

外科的に切除された肝細胞癌(HCC)における拡散強調画像(DWI)―画像上の特徴、見かけの拡散係数(ADC)計測と病理組織学的分化度の比較

論文タイトル
Diffusion-Weighted Imaging of Surgically Resected Hepatocellular Carcinoma: Imaging Characteristics and Relationship Among Signal Intensity, Apparent Diffusion Coefficient, and Histopathologic Grade
論文タイトル(訳)
外科的に切除された肝細胞癌(HCC)における拡散強調画像(DWI)―画像上の特徴、見かけの拡散係数(ADC)計測と病理組織学的分化度の比較
DOI
10.2214/AJR.08.1424
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
2009|Vol. 193|Issue 2|438-444
著者名(敬称略)
那須克宏、他
所属
筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻応用放射線医学分野

抄訳

目的:DWIにおけるHCCの信号強度とADCを病理組織学的分化度(以下分化度)と比較すること。
対象と方法:外科的に切除されたHCC 125結節に対してDWIおよびT2WIにおける信号強度を視覚的に3段階に分類し分化度と比較した。ADCと分化度の相関についても検討した。
結果:DWIにおいて周囲肝実質よりも高信号を示したHCCは114結節であった。これはT2WIにおいて同様の高信号を示した結節が90結節であったことに比べて有意に高い頻度であった。分化度が低下するに従ってDWIでの信号が高くなる傾向が見られたが、この傾向はT2WIでは指摘できなかった。HCCの平均ADCは1.43±0.32×10-3 mm2/secであり過去の報告とほぼ同様であった。ADCと分化度との間には有意な相関は指摘できなかった。
結論:HCCの分化度とADCとの間には明らかな相関はないが、DWIにおける信号強度は分化度が低下するほど高くなる傾向が見られた。しかしながらDWIにおける信号強度から分化度を類推するのはオーバーラップの大きさから困難と思われた。

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2009/07/29

DNAマーカーによる栽培イチゴのジェノタイピング法:研究室間共同試験による妥当性確認

論文タイトル
Genotyping of Strawberry (Fragaria × ananassa Duch.) Cultivars by DNA Markers: Interlaboratory Study
論文タイトル(訳)
DNAマーカーによる栽培イチゴのジェノタイピング法:研究室間共同試験による妥当性確認
DOI
0
ジャーナル名
Journal of AOAC INTERNATIONAL 
巻号
2009|Vol. 92|Issue 3|896-906
著者名(敬称略)
國久美由紀、他
所属
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所業務用野菜研究チーム

抄訳

栽培イチゴ(Fragaria × ananassa Duch.)の品種識別を目的として開発された25のDNAマーカー(Cleavage Amplified Polymorphic Sequence[CAPS]マーカー)について、14研究機関の参画によるブラインド試験を行い、開発技術のジェノタイピング(遺伝子型決定)能力の妥当性を確認した。その結果、12マーカーの感度および特異性は100%、別の12マーカーでは95%以上、残りの1マーカーでは90%以上であることが確認された。このことから、開発されたジェノタイピング法は高い再現性があり、実際に栽培イチゴの品種特定を行う際には有用なツールとなることが示された。本論文は、DNAマーカーによる作物のジェノタイピング法について統計的に妥当性を確認した初めての報告である。

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2009/07/01

毛乳頭細胞によるケラチノサイト増殖に対するWntとandrogenの作用機構

論文タイトル
Keratinocyte Growth Inhibition through the Modification of Wnt Signaling by Androgen in Balding Dermal Papilla Cells
論文タイトル(訳)
毛乳頭細胞によるケラチノサイト増殖に対するWntとandrogenの作用機構
DOI
10.1210/jc.2008-1053
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Endocrine Society
巻号
April 2009|Vol. 94|Issue 4|1288-1294
著者名(敬称略)
北川朋子、他
所属
京都府立医科大学大学院医学研究科皮膚科学

抄訳

Wntは形態形成や細胞分化に関与する細胞間シグナル伝達因子の1つであり、毛包形成を促進する。男性ホルモンであるandrogenは部位特異的に毛の成長を退行させることが知られている。そこで、我々はandrogenが発毛促進因子Wntのシグナルを調節し、発毛・脱毛に影響を与えているとの仮説を立てた。毛乳頭細胞とKeratinocyte(KC)の共培養系を確立し、Wnt3aとandrogenの付加によるKC増殖効果を調べた。男性型脱毛症患者由来毛乳頭細胞では、Wnt3aによるKCの増殖促進効果はandrogenによって有意に抑制された。またandrogenは細胞内でのアンドロゲン受容体とWntの下流因子の共核移行を亢進させ、Wntシグナルの下流の転写因子の転写活性を抑制した。また男性型脱毛症患者由来毛乳頭細胞におけるアンドロゲン受容体のたんぱく量は健常者と比べて有意に高値であった。以上より、男性型脱毛症患者由来毛乳頭細胞においては、アンドロゲン受容体の量的・質的な差異が、Wntシグナルの抑制に関与していると示唆された。

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2009/05/18

PHドメインのみから構成されるタンパク質PHLDA3はp53によって制御を受ける新規Akt抑制因子である

論文タイトル
PH Domain-Only Protein PHLDA3 Is a p53-Regulated Repressor of Akt
論文タイトル(訳)
PHドメインのみから構成されるタンパク質PHLDA3はp53によって制御を受ける新規Akt抑制因子である
DOI
10.1016/j.cell.2008.12.002
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
February 2009|Vol. 136|Issue 3|535-550
著者名(敬称略)
川瀬竜也、大木理恵子、他
所属
国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部

抄訳

多くのがんにおいて、がん遺伝子Aktが活性化していることが知られており、Akt活性化はがん化を強く促進する要因の一つであると考えられている。Aktは正常細胞ではがん抑制遺伝子p53によって、活性化が抑制されている。ところが、がんのほとんどのものではp53の機能不全が認められており、がん細胞ではAktが抑制されなくなっている。
我々は、これまで機能未知であったPHLDA3遺伝子が、p53によって誘導される遺伝子であることを見いだし、PHLDA3がp53によるAkt抑制を担う重要な遺伝子であることを初めて明らかにした。PHLDA3タンパク質は、Aktタンパク質の活性化に必須な細胞膜移行のステップを抑制する機能がある。
がん抑制において、非常に強いがん化能を持つAktの活性を制御することはとても重要である。実際に、PHLDA3の発現を抑制した細胞ではAktの異常な活性化が認められるとともに細胞ががん化していることが示された。さらに、ヒト肺がん(LCNEC)においてPHLDA3遺伝子の高頻度な欠損が認められた。これらのがん組織では正常組織と比較してPHLDA3の発現低下とAkt活性の上昇が認められ、PHLDA3の異常ががん化の原因となっている可能性が考えられた。肺がんを始めとして、ほとんどのがんでAktは異常に活性化している。PHLDA3はAktを直接抑制することができるため、今回得られた知見がこれらのがんの治療や診断法の開発につながることが期待される。

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