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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2012/05/28

黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する

論文タイトル
Crystal structure of the enzyme CapF of Staphylococcus aureus reveals a unique architecture composed of two functional domains 
論文タイトル(訳)
黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する
DOI
10.1042/BJ20112049
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
May 2012 | Vol.443 | Issue 3| 671-680
著者名(敬称略)
宮房 孝光、津本浩平 他
所属
東京大学医科学研究所疾患プロテオミクスラボラトリー 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻疾患蛋白質工学分野 工学系研究科化学生命工学専攻

抄訳

莢膜は細胞壁の外側に発現される多糖類であり、黄色ブドウ球菌の重要な病原因子の一つである。CapFはこの莢膜の合成に必須な酵素であり、創薬標的と見なしうる。本論文では、CapFのX線結晶構造解析、酵素機能解析を行い、また補酵素であるNADPHとの特異的な相互作用を等温滴定型熱量測定により観察した。
 X線結晶構造解析の結果、CapFは2つの独立したドメイン(N末端ドメイン、C末端ドメイン)を有していることが明らかとなった。これらのドメインを分割した変異体を作成し、酵素機能解析を進めたところ、C末端ドメインがC3-エピマー化反応に必須であること、N末端ドメインがC4-還元反応を触媒していることが示された。後者はNADPHの還元力を要するが、このNADPHはCapFに包摂されておらず1反応毎に1分子が消費されていた。等温滴定型熱量測定の結果はNADPHとCapFの親和性はNADPHが反応後にNADP+へと酸化されることにより40倍程度低下することを示しており、この親和性の変化によりNADPHの結合/放出、還元反応が加速しているものと考察される。このような活性制御機構の報告は今までになく、CapFに特有のメカニズムである可能性がある。

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2012/05/11

シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達

論文タイトル
Maturation of a PKG-Dependent Retrograde Mechanism for Exoendocytic Coupling of Synaptic Vesicles 
論文タイトル(訳)
シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.028
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Volume 74, Issue 3, 517-529, 10 May 2012
著者名(敬称略)
江口工学、高橋智幸 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 細胞分子シナプス機能ユニット
同志社大学大学院 脳科学研究科
JST-CREST

抄訳

神経細胞間のつなぎ目「シナプス」では電気信号が一旦、化学信号に変換されてから再び電気信号に変換され、これが神経回路を伝わることにより、脳が働くことになります。したがって脳の働きを持続させるためには、シナプスにおける信号変換プロセスが滞りなく作動することが必要です。そのための仕組みとして、化学信号を担う伝達物質を細胞内膜「小胞」に蓄えておき、電気信号によって伝達物質を開口放出させ、空になった小胞を回収・再利用する「小胞リサイクリング」が知られています。この仕組みを有効に作動させるために、小胞の開口数に応じて回収速度を調節するメカニズムがあると考えられていましたが、その実体は不明でした。今回、私たちは、伝達物質の放出量に応じてNOが産生され、これが酵素"PKG"を活性化して、小胞の回収を加速することを突き止めました。また、この仕組みは、生誕後、PKGの発現の上昇に伴って構築されることが分かりました。実際、PKGの活性阻害薬を神経細胞の軸索の先端に注入すると、シナプス伝達が脱落し、電気信号入力の出力変換率が著しく低下しました。今回明らかになったシナプス小胞開口・回収連関メカニズムは、脳神経疾患や向精神薬の標的となっている可能性があります。

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2012/04/26

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討

論文タイトル
Safety and Optimal Management of Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy After Pancreatectomy for Pancreatobiliary Cancer 
論文タイトル(訳)
膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討
DOI
10.2214/AJR.11.6751
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012 vol. 198 no. 4 923-930
著者名(敬称略)
西尾福英之、田中利洋、橋本彩、庄雅之、中島祥之、穴井洋、吉川公彦 他
所属
奈良県立医科大学 放射線医学教室

抄訳

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法(HAIC)の安全性を検討した。対象は、51例(術式;PD(膵頭十二指腸切除術) 29、TP(膵全摘術) 2、DP(膵尾部切除術) 20)。肝動注の方法はリザーバーを経皮的に留置し、5-fluorouracilを毎週5時間かけて持続動注し、3投1休を1コースとして実施した。1コース毎にフローチェック(F/C)を行い、合併症の有無について評価した。留置は全例で成功。肝動脈閉塞を1例(2%)、無症候性の肝動脈狭窄を10例(19.6%)で認めた。狭窄例のうち3例(5.9%)で同時性に肝膿瘍(2例)、胆汁漏(1例)を認めた。いずれもPD後の症例でHAIC開始後3ヵ月以内に出現したが、保存的加療またはドレナージにより改善した。狭窄症例のうち4例は1ヵ月の休薬により治療を再開することができた。膵切除後のHAICは、F/Cを定期的に行うことで安全に施行可能であるが、PD後では合併症に留意する必要がある。

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2012/04/10

高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング

論文タイトル
Coupling of the fusion and budding of giant phospholipid vesicles containing macromolecules
論文タイトル(訳)
高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング
DOI
10.1073/pnas.1120327109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2012 ; published ahead of print April 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1120327109
著者名(敬称略)
鈴木宏明、四方 哲也 他
所属
大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 共生ネットワークデザイン学講座

抄訳

生命の起源に関する研究においては、現代の細胞でみられるタンパク質等の高度な制御がなくとも原始的細胞の自己増殖が起こったと考えられている。細胞膜は細胞を形づくるのに必須の要素であり、その成長と分裂を比較的シンプルな物理化学的過程から再現する実験が行われてきた。  本論文では、リン脂質から成るジャイアントリポソームを融合した後、自発的に分裂様の変形が誘起されることを報告した。この現象は、リポソームの内部にポリエチレングリコールやデキストランなど生体高分子を模した物質を内封した場合のみに、球形のリポソームが融合によって余剰の膜面積を得た後に起こることを示した。 リポソームの内部に高分子が含まれる場合、高分子の重心は自身の半径よりも膜に近づくことができないので、膜の内側には高分子が排除された領域が存在する(排除体積)。この領域は高分子が溶解した領域に比べて化学ポテンシャルが大きいので、排除体積が小さくなる方向に系の状態が変化する。その結果、膜の曲率が増大し、リポソームの分裂様の変形が起こる。この物理的効果は特定の物質の性質に依らないため、原始細胞の増殖の議論において広範に適用可能な一般性の高いものであることを示した。

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2012/04/09

エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討

論文タイトル
Preoperative Percutaneous Transhepatic Portal Vein Embolization With Ethanol Injection
論文タイトル(訳)
エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討
DOI
10.2214/AJR.11.6515
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
作原 祐介、他
所属
北海道大学大学院 医学研究科 医学専攻病態情報学講座 放射線医学分野

抄訳

エタノール注入による経皮経肝的門脈塞栓術(PTPE)の安全性、有効性を検討した。対象は当院でエタノールによる経皮的門脈塞栓術を施行した143例(男性96名、女性47名、平均年齢65.5歳)。標的門脈枝の完全塞栓を得たのは143例中124例(86.7%)だった。19例(13.3%)に再開通を認め、うち容積増大が不十分だった10例に門脈塞栓を追加施行した。平均残肝容積はPTPE前後で418mLから541mLに増大、平均増大率は33.6%だった。平均残肝容積率は34.7%から45.4%に増大、平均で10.6%の増大を得た。一過性の発熱、肝酵素上昇、 被膜下血腫、肝内動脈出血、気胸等の合併症を認めたが、術式に影響する重篤な合併症は認めなかった。予定した肝切除術は120例(83.9%)に施行、多臓器不全で死亡した2例を除き肝不全は無かった。 4例は縮小手術を施行、19例は肝切除を施行しなかった(手術不適応の肝外病変:15例、肝機能不良・残肝容積不足:各2例)。 エタノールによるPTPEは安全で有効な術前処置であると考える。

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2012/04/09

緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する

論文タイトル
Green tea polyphenol EGCG induces lipid-raft clustering and apoptotic cell death by activating protein kinase Cδ and acid sphingomyelinase through a 67 kDa laminin receptor in multiple myeloma cells
論文タイトル(訳)
緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する
DOI
10.1042/BJ20111837
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
April 2012 | Vol.443 | Issue 2 | 525-534
著者名(敬称略)
塚本俊太郎、立花宏文
所属
九州大学大学院農学研究院 生命機能科学部門

抄訳

緑茶カテキンEGCGは多発性骨髄腫に対して特異的にアポトーシスを誘導することが報告されたが、その詳細な作用機序は不明であった。そこで本研究では、EGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導機構の解明を試みた。
 我々はこれまでにEGCGの細胞膜受容体として67-kDa laminin receptor(67LR)を発見している。そこで、EGCGのアポトーシス誘導作用における67LRの関与について検討した結果、多発性骨髄腫において高発現している67LRを介してEGCGが脂質ラフトの会合を誘導することで細胞死を引き起こすことを見出した。さらに、この作用はProtein kinase C delta (PKCδ) および acid sphingomyelinase (aSMase) の活性化により仲介されることを明らかにした。多発性骨髄腫を移植したマウス腫瘍モデルにおいてもEGCG誘導性のPKCδ/aSMase経路の活性化が観察された。以上より、67LRを介したPKCδ/aSMase/脂質ラフト会合は、EGCG誘導性の多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導経路として示された。

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2012/04/06

内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術

論文タイトル
Ultraselective Arterial Embolization of Vasa Recta Using 1.7-French Microcatheter With Small-Sized Detachable Coils in Acute Colonic Hemorrhage After Failed Endoscopic Treatment
論文タイトル(訳)
内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術
DOI
10.2214/AJR.11.7295
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
小金丸 雅道、他
所属
久留米大学医学部 放射線医学教室

抄訳

 急性大腸出血に対する動脈塞栓術は、腸管虚血のような合併症を回避するため超選択的catheter挿入を必要とする。我々はsmall-sized microcatheter system(1.7-F microcatheter, 0.010-inch detachable coil)を用いて超選択的catheter挿入による動脈塞栓術を行い、技術的実行可能性および臨床的有用性を評価した。
 対象は内視鏡的止血困難であった急性大腸出血4例。血管造影にて出血血管を同定後、前述のsystemを用いて大腸の末梢栄養動脈であるvasa rectaの長枝のみを塞栓した。塞栓術は全例成功。塞栓血管平均径は0.5mmであった。塞栓後再出血認めず、経過観察の大腸内視鏡検査にて大腸虚血や梗塞は認めなかった。
 下部消化管出血に対する動脈塞栓術は、保存的加療または内視鏡的止血困難例が適応である。近年はvasa rectaまで選択的catheter挿入による塞栓術が行われる。Vasa rectaは複数の長枝と短枝を分岐し、これらは豊富な吻合が存在する。我々の経験では長枝のみの塞栓が可能であった。これは過去報告例のない超選択的塞栓術である。短枝と塞栓されなかった長枝により塞栓後の腸管虚血や壊死を回避できた可能性が高い。この新たな塞栓術はvasa rectaの長枝のみの限局性塞栓を可能とし、急性大腸出血例に対し安全かつ有用な方法と考える。

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2012/04/04

3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価

論文タイトル
Evaluation of Brain and Head and Neck Tumors with 4D Contrast-Enhanced MR Angiography at 3T
論文タイトル(訳)
3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価
DOI
10.3174/ajnr.A2819
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 33, No. 3 (445-448)
著者名(敬称略)
平井 俊範 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野

抄訳

本研究の目的は富血管性脳・頭頸部腫瘍においてインターベンションを計画する際に栄養血管や腫瘍濃染を同定するのに3テスラ4次元造影MR血管撮影がDSAを置き換えられるかを検証することである。脳・頭頸部腫瘍を有する連続15症例に対して3テスラ4次元造影MR血管撮影とDSAを施行した。4次元造影MR血管撮影は0.9×0.9×1.5 mmの空間分解能、1.9秒の時間分解能で、30ダイナミック撮像を行った。2名の独立した観察者が主な栄養血管、腫瘍濃染について4次元造影MR血管撮影像を評価した。観察者間、各モダリティー間の一致率をκ統計で検定した。4次元造影MR血管撮影において、主な栄養血管、腫瘍濃染の観察者間一致率はそれぞれfair (κ = 0.28)、very good (κ = 0.87)であった。各モダリティー間の一致率は主な栄養血管がmoderate (κ= 0.45)、腫瘍濃染がgood (κ = 0.74)であった。3テスラ4次元造影MR血管撮影は富血管性脳・頭頸部腫瘍の腫瘍濃染の評価に有用であるかもしれないが、インターベンションを計画する際にDSAを置き換えることはできない。

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2012/03/07

Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである

論文タイトル
Galectin-9 and T Cell Immunoglobulin Mucin-3 Pathway Is a Therapeutic Target for Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである
DOI
10.1210/en.2011-1579
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
February 2012 |Vol. 153 |Issue 2 |612-620
著者名(敬称略)
神崎 資子、和田 淳 他
所属
岡山大学大学院 医歯薬総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学

抄訳

 1型糖尿病のモデル動物であるnon-obese diabetic(NOD)マウスは、糖尿病発症に先行してラ氏島炎が認められ、TH1サイトカイン優位で 細胞傷害に働くと考えられている。我々が同定したGalectin-9 (Gal-9)は36kDaのβ-galactoside binding proteinで、TH1細胞の膜蛋白であるT-cell immunoglobulin and mucin-3 (Tim-3)のリガンドとして作用する。組織に浸潤した活性化TH1細胞上のTim-3を介してGal-9がアポトーシスを誘導する。一方、Tim-3は樹状細胞にも発現し、Gal-9がTNF-α分泌を促進することが報告された。そこでGal-9蛋白および抗Tim-3抗体の糖尿病発症に対する効果とその機序について検討した。NODマウス(メス) にリコンビナントGal-9 蛋白(1mg/kg/週)、モノクローナル抗Tim-3抗体(RMT3-23, 0.25mg/3.5日)を計40週間投与した。PBS投与群と比較し、Gal-9投与群、抗Tim-3抗体投与群いずれも有意差をもって糖尿病発症抑制作用を認め、抗Tim-3抗体投与群で最も効果が強力であった(p<0.0001)。培養CD4+Tim-3+TH1細胞の検討では、Gal-9によるTH1細胞のアポトーシス誘導が認められたが、抗Tim-3抗体ではアポトーシスは誘導されなかった。一方tsDCにおいては、抗Tim-3抗体はGal-9によるTNF-αの分泌を用量依存性に抑制した。Gal-9は、TH1細胞のアポトーシスを介してNODマウスの糖尿病発症を抑制すると考えられた。また抗Tim-3抗体は、樹状細胞でTNF-αの分泌を抑制し、TH1細胞ではGal-9のアポトーシス作用を増強することから新しい1型糖尿病の治療ターゲットであると考えられた。

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2012/03/07

局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する

論文タイトル
Regional Neural Activation Defines a Gateway for Autoreactive T Cells to Cross the Blood-Brain Barrier
論文タイトル(訳)
局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する
DOI
10.1016/j.cell.2012.01.022
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
February 2012 |Vol. 148 |Issue 3 |447-457
著者名(敬称略)
有馬 康伸、村上 正晃 他
所属
大阪大学大学院生命機能研究科、医学系研究科、免疫学フロンティア研究センター、JST-CREST、免疫発生学

抄訳

中枢神経系である脳や脊髄の血管は、細菌やウイルスなどの影響を防ぐために特殊な関所として血液脳関門を形成しています。血液脳関門は、免疫細胞はもとより、大きなたんぱく質なども通過できません。しかし、中枢神経系にも細菌やウイルスが感染し、がんや炎症などに起因する難病が発症します。こうした背景から、病原体や免疫細胞などが中枢神経系に入るゲートがある可能性が考えられてきました。しかし、そのゲートがどこにあり、またどのように形成されるのかなど、実体は不明でした。私たちは、中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデルを用いて、血液脳関門のゲートの部位とその形成機構を調べ、第5腰椎の背側の血管がそのゲートであることを突き止めました。また、地球からの重力による日常的な刺激が第5腰椎付近の神経を活性化させ、それが慢性炎症の誘導機構"IL−6アンプ"を活性化することによってこのゲートが形成されることを突き止めました。今回の成果により、精神的ストレスでさまざまな病気が増悪する仕組み、あるいは、適度な運動が病気を改善するメカニズム、さらに、なぜ針治療で多くの病気が改善するのかなど、今まで不明であった神経や精神と免疫系の相互作用の分子基盤が解明されることが期待されます。

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2012/03/07

相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動

論文タイトル
Chimpanzees’ flexible targeted helping based on an understanding of conspecifics’ goals
論文タイトル(訳)
相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動
DOI
10.1073/pnas.1108517109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Februay 2012 |publish ahead of print
著者名(敬称略)
山本 真也
所属
京都大学 霊長類研究所 ヒト科3種比較研究プロジェクト

抄訳

チンパンジーは相手が何を必要としているかを理解し、それにあわせて利他行動を柔軟に変化させるのだろうか。本研究では、利他行動の文脈におけるチンパンジーの他者理解についてより詳細に検討した。隣接する2つのブースのうち、片方には道具使用場面(ステッキ使用場面あるいはストロー使用場面)を設定し、もう一方にはステッキ・ストローを含む7つの道具を与えた。ブース間パネルが透明な条件(「見える」条件)と不透明な条件(「見えない」条件)を48試行ずつ交互におこなったところ、どちらの条件でも道具使用場面の個体が穴から手を伸ばして道具を要求する行動がみられた。しかし、渡し手の道具選択には2条件間に違いがみられ、「見える」条件では相手の状況にあわせて渡す道具の割合を有意に変化させていたのに対し、「見えない」条件ではそのような適切な道具選択ができなかった。5個体中1個体は「見えない」条件でも適切な道具を選択できていたが、この個体は道具を渡す前に穴から相手ブースを覗き見したあとに道具を選択して渡していた。これらの結果から、チンパンジーが相手の置かれている状況を見て相手の欲求を理解し、それに応じて利他行動を柔軟に変化させていることが示唆された。本研究からは、要求行動そのものからではなく、相手の状況から相手の欲求を理解していることが示唆された。チンパンジーの利他行動の生起には状況の理解と要求の理解が別々かつ相補的に働いている可能性が考えられる。

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2011/08/02

線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である

論文タイトル
Caenorhabditis elegans SNAP-29 is required for organellar integrity of the endomembrane system and general exocytosis in intestinal epithelial cells
論文タイトル(訳)
線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である
DOI
10.1091/mbc.E11-04-0279
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
July 2011 |Vol. 22 |Issue 14 |2579-2587
著者名(敬称略)
佐藤 美由紀、2佐藤 健、他
所属
群馬大学 生体調節研究所 細胞構造分野

抄訳

SNAP-29(synaptosomal-associated protein 29)は細胞内物質輸送において小胞膜と標的膜の融合に働くSNARE(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)分子の1つであり、その遺伝子異常は皮膚表皮角化細胞において層板顆粒分子が蓄積するCEDNIK syndrome(cerebral disgenesis、neuropathy、ichthyosis、keratoderma)の原因となることが報告されている。本研究では、線虫C. elegans の腸上皮細胞におけるSNAP-29ホモログの役割に注目し、解析を行った。その結果、SNAP-29の機能阻害をすると、腸細胞からの卵黄成分(リポタンパク質)の分泌や膜タンパク質の細胞膜への輸送に異常を示し、また違う組織である卵母細胞においても細胞膜への物質輸送に異常を示した。また、SNAP-29はゴルジ体、細胞膜、エンドソームに局在し、この遺伝子の機能阻害によってゴルジ体やエンドソームに局在する膜タンパク質が小型の膜小胞へと分散してしまうことが明らかとなった。これらのことから、SNAP-29は小胞輸送経路における様々なオルガネラに局在し、細胞膜への物質輸送を制御するとともに、ダイナミックに変化するこれらのオルガネラの機能と恒常性維持に働くことが明らかとなった。

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2011/06/13

祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース

論文タイトル
Tracing Protein Evolution through Ancestral Structures of Fish Galectin
論文タイトル(訳)
祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース
DOI
10.1016/j.str.2011.02.014
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
May 2011 |Vol. 19 |Issue 5 |711-721
著者名(敬称略)
1今野 歩、2白井 剛、他
所属
1東北大学大学院生命科学研究科
2長浜バイオ大学 コンピュータバイオサイエンス学科

抄訳

生命体を化石から復活することは不可能だが、遺伝子については現存DNA配列から計算により祖先配列を求め、分子生物学的に復元することが可能である。魚類の生体防御タンパク質であるコンジェリンには、加速進化しつつあるConIとConIIのアイソフォームが存在する。本研究では最尤法によりアイソフォームの共通祖先Con-anc'の配列を決定し、立体構造をX線結晶構造解析で求めることに成功した。ConIとIIではフォールドが変化しているが、Con-anc'は予想通り祖系フォールドであった。しかし、構造の詳細はConIとII の中間的性質を示し、Con-anc'が祖先型であることを裏付けていた。Con-anc'の細胞毒性活性は現存タンパク質より低く、生体防御機能に選択圧がかかっている事が示された。また、耐熱性はConI のみで強化され、糖鎖特異性はConIとIIで変化しており、両タンパク質が分化しつつある事が実験的に裏付けられた。

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2011/04/27

結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する

論文タイトル
Silica Crystals and Aluminum Salts Regulate the Production of Prostaglandin in Macrophages via NALP3 Inflammasome-Independent Mechanisms
論文タイトル(訳)
結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2011.03.019
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
April 2011 |Vol. 34 |Issue 4 |514-526
著者名(敬称略)
黒田 悦史、他
所属
産業医科大学 医学部免疫学寄生虫学講座

抄訳

結晶シリカやアルミニウム塩(アラム)などの粒子状物質の多くはアジュバント活性を有していることが知られており、特にIgE産生促進をはじめとするII型免疫反応を誘導する特徴がある。これらの粒子状物質は細胞内パターン認識レセプターの一つであるインフラマソームを活性化し、炎症性サイトカインを誘導することが知られている。我々はさらに脂質メディエータであるプロスタグランジンE2(PGE2)を介した免疫制御機構を見いだした。  シリカやアラムはマクロファージを刺激してインフラマソーム依存性にインターロイキン1を、インフラマソーム非依存性にPGE2産生を誘導した。PGE2のin vivoにおける役割を検討したところ、PGE2を産生しないPGE合成酵素欠損マウスでは野生型マウスに比べて粒子状物質により誘導される血清IgEの産生が有意に低下していた。粒子状物質によるPGE2産生の分子メカニズムについて解析したところ、p38 MAPキナーゼとspleen tyrosine kinase(Syk)の活性化が関与していることが明らかになった。  これらの結果は粒子状物質によって誘導される脂質メディエータがin vivoにおける免疫反応を制御するという新しいメカニズムを提唱するものである。

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2011/04/19

種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態

論文タイトル
Fluorescence kinetics in HeLa cells after treatment with cell cycle arrest inducers visualized with Fucci (fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator) 
論文タイトル(訳)
種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態
DOI
10.1042/CBI20100643
ジャーナル名
Cell Biology International 
巻号
April 2011 |Vol. 35 |No. 4 |359-363
著者名(敬称略)
戒田 篤志、三浦 雅彦
所属
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 口腔放射線腫瘍学分野

抄訳

Fucciは、理研の宮脇らによって開発された生細胞における細胞周期動態を可視化するシステムである。Fucciを導入した細胞は、正常な細胞周期回転中において、G0/G1期に赤色、S/G2/M期には緑色の蛍光を発する。このシステムは、抗癌剤による細胞動態解析等、癌治療分野への応用が期待されるが、その蛍光動態に関する基本的特性は不明である。そこで我々は、Fucci導入HeLa細胞を用いて、G2/Mアレストを誘導するX線照射や、S期初期でのアレストを誘導するハイドロキシウレア(HU)、そしてM期アレストを誘導するノコダゾールによる処理を施し、それぞれの処理後の蛍光動態を、蛍光顕微鏡での観察とフローサイトメトリーにより解析した。X線照射後またはHU投与後20hには、ほとんどの細胞が緑色蛍光を発し、DNA量によって評価した細胞周期動態と蛍光動態が一致していたが、ノコダゾール投与後では、M期に同調しているにもかかわらず、異常な赤色蛍光の誘導が認められた。このように処理によっては、細胞周期動態と一致しない予期せぬ蛍光動態をもたらす場合があり、Fucciを応用する上で注意が必要であることが分かった。ノコダゾールは微小管重合阻害剤であり、この処理によって赤色蛍光を制御するCdt1のSCFSkp2によるユビキチン化がM期で抑制される知見は興味深い。

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2011/02/04

ユビキチンリガーゼのRiplet分子はウイルス感染時の分子に依存した自然免疫応答に必須である

論文タイトル
The Ubiquitin Ligase Riplet Is Essential for RIG-I-Dependent Innate Immune Responses to RNA Virus Infection
論文タイトル(訳)
ユビキチンリガーゼのRiplet分子はウイルス感染時の分子に依存した自然免疫応答に必須である
DOI
10.1016/j.chom.2010.11.008
ジャーナル名
Cell Host & Microbe Cell Press
巻号
December 2010|Vol. 8 |Issue 6 |496-509
著者名(敬称略)
押海裕之
所属
北海道大学大学院医学研究科免疫学分野

抄訳

 新型インフルエンザやC型肝炎ウイルス等はヒトの細胞に感染すると、そのウイルスRNAが細胞質内にあるウイルス認識センサーのRIG-I分子によって認識される。RIG-IはウイルスRNAを認識すると強い抗ウイルス作用をもつI型インターフェロンの産生を誘導する。我々はこれまでに、RIG-Iと結合する分子として新規ユビキチンリガーゼのRiplet分子を単離し、RipletがRIG-IのC末端領域をユビキチン化することでRIG-Iを活性化することを発見した。今回、さらにこのRiplet遺伝子のノックアウトマウスを作成しRipletの生体内での役割の解明を試みた。
 Ripletノックアウトマウスより単離した胎児繊維芽細胞や骨髄由来の樹状細胞とマクロファージでは牛水泡性口内炎ウイルスやインフルエンザウイルス感染時のI型インターフェロン産生が消失していた。また、C型肝炎ウイルスのRNAに対する応答も消失し、Ripletが必須の役割をすることが明らかとなった。またウイルス感染時の生存率もRipletノックアウトマウスで大きく低下したことから、Ripletが、ウイルス認識センサーのRIG-Iの活性化に必須であることが示された。

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2010/11/10

超分子ナノキャリアによる見えるドラッグデリバリー:単一プラットフォームを用いた膵臓がんの診断と治療

論文タイトル
Visible Drug Delivery by Supramolecular Nanocarriers Directing to Single-Platformed Diagnosis and Therapy of Pancreatic Tumor Model
論文タイトル(訳)
超分子ナノキャリアによる見えるドラッグデリバリー:単一プラットフォームを用いた膵臓がんの診断と治療
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-10-0303
ジャーナル名
Cancer Research(AACR Comprehensive Cancer Collection) 
巻号
September 2010|Vol. 70 |Issue 18 |7031-7041
著者名(敬称略)
貝田 佐知子、西山伸宏、片岡 一則、他
所属
東京大学 医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門

抄訳

現在、がん化学療法では、薬剤のがん集積性を迅速に判別する手段は無く、また、治療効果が判明するまで長い期間が必要となり、その結果「手遅れ」となる場合も多く見受けられる。本研究では、我々が開発した高分子ミセル型DDSに、MRI造影剤(Gd-DTPA)を搭載することによって、がんへの集積から治療効果までをイメージングにより追跡することができる「見えるDDS」を開発した。Gd-DTPA搭載ミセルは、Gd-DTPA単体の24倍の水プロトン緩和時間短縮効果を有しており、MRI造影剤として高い性能を有することが明らかになった。また、難治性の膵臓がんに対して見えるDDSの効果を評価するために、マウス膵臓がんモデルを用いたMRイメージングとMRIによるDDSの治療効果の追跡を行った。その結果、高分子ミセルは、膵臓がんモデルに効果的に集積し、優れた薬理効果を示すことが、MRイメージングによって明らかになった。
 本システムを利用すれば、がん治療が薬物の患部への到達を確認しながら行うことができ、さらに治療効果をリアルタイムで追跡できるようになるものと考えられ、「手遅れのない」確実ながん治療の実現が期待される。

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2010/09/27

多能性幹細胞の異種間胚盤胞注入によりマウス内にラットの膵臓を作製

論文タイトル
Generation of Rat Pancreas in Mouse by Interspecific Blastocyst Injection of Pluripotent Stem Cells
論文タイトル(訳)
多能性幹細胞の異種間胚盤胞注入によりマウス内にラットの膵臓を作製
DOI
10.1016/j.cell.2010.07.039
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
September 2010|Vol. 142|Issue 5|787 - 799
著者名(敬称略)
小林 俊寛*1, *2、中内 啓光*1, *2
所属
*1 東京大学 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野
*2 JST ERATO 中内幹細胞制御プロジェクト

抄訳

多能性幹細胞からin vitroで臓器を作製することは再生医療における究極的な目標であるが、構成細胞の多様性や3次元的な立体構造を再現する必要があるため非常に困難であるとされている。 そこで我々は膵臓欠損を示すPdx1ノックアウト(KO)マウスの胚盤胞にマウス多能性幹細胞を注入することで、発生段階における膵臓の空きを補完し、完全に多能性幹細胞由来の細胞から構成される膵臓をマウス生体内に作製することに成功した。 またこの“胚盤胞補完法”の原理が異種間でも成立するためには多能性幹細胞が異種の胚発生に寄与できなくてはならない。そこでマウスおよびラットの多能性幹細胞をお互いの胚盤胞に注入し、マウス-ラット異種間キメラの作製を試みた。 その結果、異種間キメラはどちらの方法でも成立し、全身に多能性幹細胞由来の細胞が存在していた。さらに以上の知見を組み合わせ、Pdx1 KOマウスの胚盤胞にラット多能性幹細胞を注入すると、機能的なラットの膵臓がマウス体内に作製できた。 これらの結果は異種生体内の環境を利用して多能性幹細胞由来の臓器を作製することが可能であることを示すものである。

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2010/07/22

アデノウイルスベクターを用いた副甲状腺細胞への遺伝子導入法の開発

論文タイトル
Development of a Technique for Introduction of an Expressed Complementary Deoxyribonucleic Acid into Parathyroid Cells by Direct Injection
論文タイトル(訳)
アデノウイルスベクターを用いた副甲状腺細胞への遺伝子導入法の開発
DOI
10.1210/en.2010-0012
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
August 2010|Vol. 151|No. 8|4031 - 4038
著者名(敬称略)
椎崎 和弘、他
所属
自治医科大学 内科学講座 腎臓内科学教室

抄訳

副甲状腺は非常に小さい臓器であり、またin vitro実験に適したcell lineが存在しないことなどにより、基礎的研究が難しく副甲状腺細胞の生理学的特徴や病理学的変化の解明が十分でない。 アデノウイルスベクターと副甲状腺内に薬剤などを直接注入する技術を用いて、副甲状腺細胞特異的な標的遺伝子の発現および機能の調節を試みた。本研究では副甲状腺細胞での発現部位や機能がよく知られているカルシウム感知受容体レセプター(CaSR) を標的遺伝子として用いた。腎機能低下により過形成とCaSR発現および機能の低下を誘発したラットの副甲状腺に確実に感染するアデノウイルス量および感染したアデノウイルスの経時的変化を確認し、CaSR cDNAを導入したアデノウイルスを直接注入した 副甲状腺細胞のCaSRの発現や、カルシウムに対する反応を検討した。免疫組織学的CaSR発現は著明に増加し、これはアデノウイルス感染部位と一致した。カルシウム−副甲状腺ホルモン反応曲線は左に変移し、カルシウムに対する副甲状腺細胞の感受性(CaSR機能) の改善が確認された。副甲状腺細胞特異的な標的遺伝子の発現や機能の調節法の確立により、副甲状腺細胞に関する基礎的研究の進歩と難治性副甲状腺疾患に対する遺伝子治療への進展の可能性が示唆された。

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2010/06/21

肺サルコイドーシスにおける血清マーカーの比較検討

論文タイトル
Comparative Evaluation of Serum Markers in Pulmonary Sarcoidosis
論文タイトル(訳)
肺サルコイドーシスにおける血清マーカーの比較検討
DOI
10.1378/chest.09-1975
ジャーナル名
CHEST 
巻号
June 2010|Vol. 137|No. 6|1391-1397
著者名(敬称略)
三好 誠吾、濱田 泰伸、他
所属
愛媛大学大学院 病態情報内科学

抄訳

背景:いくつかの血清マーカーが肺サルコイドーシスの胞隔炎や疾患の進行を反映することが報告されているが、それらを比較検討した報告はない。 目的と方法:43例の肺サルコイドーシス患者を対象として、血清マーカーが胞隔炎を反映するか、診断時の血清マーカーが2年後の肺野陰影の増加の予測因子となるかについて検討した。血清マーカーは血清アミロイド蛋白A、可溶性interleukin-2受容体(sIL-2R)、リゾチーム、アンジオテンシン変換酵素およびKL-6を用いた。解析には気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞分画や胸部単純X線写真などを用いた。 結果:肺野に陰影を有する患者では、有さない患者と比較して血中のsIL-2R、リゾチーム、KL-6、BALF中の総細胞数、リンパ球数が有意に高値を示した。さらに、血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6は BALF中の総細胞数、リンパ球数、CD4リンパ球数と正の相関を示した。肺野陰影の増加の予測因子に関する検討においては、単変量解析では診断時の血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6およびBALF中リンパ球数が陰影の増加と関連していたが、多変量解析では診断時のKL-6のみが陰影の増加と関連していた。 結語:血中sIL-2R、リゾチーム、KL-6は肺サルコイドーシスの胞隔炎を反映することが示唆された。診断時のKL-6は肺サルコイドーシスの肺野陰影の増加の予測因子となることが示唆された。

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