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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2014/11/18

代謝物分析における超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法

論文タイトル
Supercritical fluid chromatography/mass spectrometry in metabolite analysis
論文タイトル(訳)
代謝物分析における超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法
DOI
10.4155/bio.14.120
ジャーナル名
Bioanalysis Future Science Ltd
巻号
Vol.6, No.12, Pages 1679-1689
著者名(敬称略)
田口 歌織(筆頭著者),福崎 英一郎,馬場 健史(連絡著者)
所属
大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻

抄訳

高拡散,低粘性の超臨界流体二酸化炭素(SCCO2)を移動相として用いる超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)は,高分離,ハイスループットなど分離分析技術として多くの利点を有する.また,SFCはSCCO2が低極性であることから疎水性化合物の分離に好適であるとされてきたが,最近の研究で親水性化合物の分析にも利用できることが示され注目を集めている.代謝物の網羅的な解析を目的とするメタボロミクスにおいては,幅広い性質の化合物が対象となるだけなく,夾雑物が混在する試料において多成分の一斉分析が必要となる場面も少なくない.そのため,クロマトグラフィーによる分離の重要性は高く,また選択性及び感度の高い質量分析計(MS)による検出も必要となっている.そこで本稿では,SFCの分離技術としての基本的な特性を説明するとともに,SFC/MSを用いた代謝物分析手法の開発とその応用例について紹介する.

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2014/09/11

死後CTで異常所見を呈さない頚髄損傷:外傷死検出のための死後画像検査におけるピットフォール

論文タイトル
Spinal Cord Injuries With Normal Postmortem CT Findings: A Pitfall of Virtual Autopsy for Detecting Traumatic Death
論文タイトル(訳)
死後CTで異常所見を呈さない頚髄損傷:外傷死検出のための死後画像検査におけるピットフォール
DOI
10.2214/AJR.13.11775
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
August 2014 vol. 203 no. 2 240-244
著者名(敬称略)
槇野陽介 他
所属
千葉大学大学院医学研究院付属法医学研究教育センター

抄訳

【目的】死後多列検出器型CT検査(PMMDCT:post-mortem multidetector CT)において所見のない頚髄損傷(SCIWORA:spinal cord injuries without radiographic abnormalities)の頻度を調査し、その特徴を検討する。
【方法】解剖前PMMDCTが施行された894例の連続事例の剖検所見を検討し、頚髄損傷が死因であった30事例を集めた。死後画像読影経験4年以上の放射線科専門医2名がCT読影を行い、画像上頚髄・頚椎に外傷所見のないものをSCIWORAと定義した。
【結果・考察】30事例中6事例(20%、95%信頼区間 6-34%)がSCIWORAの定義を満たした。全SCIWORA事例で、CT前に外表所見などから外傷死であることは推定できなかった。また全SCIWORA事例がC3レベル以下の損傷であった。さらに全SCIWORA事例で、解剖所見において、頚椎骨折は認めない一方、CT陰性の頚椎椎間板損傷と椎体周囲出血が認められた。5事例(83%)のSCIWORAで頚髄以外の部位に致死的な外傷は見られなかった。
【結論】致死的な頚髄損傷事例の中には、かなりの割合でSCIWORA事例が見られた。PMMDCTで死亡を評価するとき、評価者はSCIWORAの存在を認識し、CT所見のみで頚髄損傷による死亡を除外してはならない。MRIを使わない限り、頚髄損傷の除外のためには、解剖を行わなければいけない。

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2014/08/06

鉄の膜輸送に関与するシャペロン蛋白質

論文タイトル
Chaperone protein involved in transmembrane transport of iron
論文タイトル(訳)
鉄の膜輸送に関与するシャペロン蛋白質
DOI
10.1042/BJ20140225
ジャーナル名
Biochemical Journal Biochemical Society
巻号
Vol.462 No.1 25?37
著者名(敬称略)
簗取 いずみ、岸 文雄 他
所属
川崎医科大学 分子生物学2(遺伝学)

抄訳

鉄は生命にとって必須の分子であり、様々な補酵素として機能する。一方、活性酸素の産生に深く関与している。そのため、細胞内鉄量を厳密に制御することが重要である。鉄を細胞内に取り込む主な分子は二価鉄膜輸送体DMT1である。鉄は酸化ストレスの原因になるにも関わらず、DMT1によって取り込まれた鉄は細胞質内の“鉄イオンプール”に送られると長く信じられてきた。我々は、DMT1が取り込んだ二価鉄イオンを細胞質側で受容し輸送する分子があるという仮説のもと、解析を進めた。その結果、DMT1にポリC結合蛋白質(PCBP2)が結合することを見出した。DMT1又はPCBP2をノックダウンすると、細胞質内への鉄の取り込みが抑制された。さらに、鉄負荷DMT1はPCBP2と結合するが、鉄除去DMT1にはPCBP2が結合しないことを示した。即ち1) DMT1に鉄が取り込まれる、2) DMT1にPCBP2が結合、3) PCBP2へと鉄が渡される、4) DMT1から鉄結合PCBP2が乖離する、さらに5) 鉄排出を担う膜輸送体フェロポルチンFPN1と鉄結合PCBP2の間にも同様な結合を確認した。このように、膜輸送分子と細胞質の間で鉄の受け渡し機構が存在していることを証明し、PCBP2は「鉄のシャペロン分子」として“Gateway keeper”の役割を果たしていることが明らかになった。

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2014/07/25

コフィリン分子のアクチン線維への協同的結合の超解像イメージング

論文タイトル
Single-molecule imaging and kinetic analysis of cooperative cofilin?actin filament interactions
論文タイトル(訳)
コフィリン分子のアクチン線維への協同的結合の超解像イメージング
DOI
10.1073/pnas.1321451111
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
2014 111(27) 9953-9958; published ahead of print June 23, 2014
著者名(敬称略)
早川 公英、榊原 正太郎、曽我部 正博、辰巳 仁史
所属
名古屋大学大学院 医学系研究科 細胞情報医学専攻 細胞生物物理学・イメージング生理学、 メカノバイオロジーラボ

抄訳

ヘモグロビンは4つのサブユニットからなり、各サブユニットに1分子の酸素が結合する。一つの酸素分子が結合すると別(アロ)のサブユニットの構造変化を引き起こして、さらなる酸素分子の結合が容易になる。このような促進反応はアロステリック効果として知られ、その仕組みを知るために膨大な研究が行われてきた。しかしアロステリック効果はタンパク質のサブユニットスケールの微小空間で起きる現象なので、その反応過程を溶液中で直接観察した例はない。タンパク質アクチンの重合により形成されるアクチン線維にアクチン調節タンパク質コフィリンが結合する。このコフィリンの結合には正の協同性があり、コフィリンの結合によるアクチン線維の構造変化がこの協同性を生むと考えられている。この研究では超高解像蛍光顕微鏡を用いてアクチン線維へのコフィリン分子の結合が更なるコフィリン分子の結合を促進することを示し、それらの結合位置を超解像測定してコフィリンの結合で結合促進が生じる距離、すなわちアロステリック効果が到達する距離を世界に先駆けて明らかにした。また、コフィリン結合部位でのアクチン線維の揺らぎを分析し、コフィリンの結合による協同的結合促進(アロステリック効果)の分子メカニズムの一端を明らかにした。

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2014/07/25

昆虫とボルバキアの栄養相利共生関係の進化的起源

論文タイトル
Evolutionary origin of insect?Wolbachia nutritional mutualism
論文タイトル(訳)
昆虫とボルバキアの栄養相利共生関係の進化的起源
DOI
10.1073/pnas.1409284111
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
2014 111 (28) 10257-10262; published ahead of print June 30, 2014
著者名(敬称略)
二河 成男 深津武馬 他
所属
独立行政法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ

抄訳

昆虫と細菌の栄養相利共生は、あらゆる共生関係のうちで最も高度なものの1つであり、しばしば宿主と共生者はまるで一つの生命体のように統合され、お互いなしでは生きていけない。しかしこのような必須共生細菌も、もとをたどれば自由生活性の細菌に由来するはずである。どのようにして高度な必須相利共生が、より一般的な関係から生じたのかは進化的に興味深い。本研究では、昆虫類における共生細菌ボルバキアとの栄養相利共生に着目してこの問題に取り組んだ。ボルバキアは多様な昆虫類に普遍的にみられ、一般には宿主昆虫にとって必須でない寄生的な共生細菌であるが、トコジラミ(=南京虫)に共生するボルバキア系統wCleは例外で、宿主の成長および繁殖に必須である。このボルバキアwCleの1,250,060塩基対の全ゲノム配列を決定したところ、全般的なゲノム構造は他の寄生的なボルバキア系統とそっくりであったが、例外的な特徴として完全なビオチン(=ビタミンB7)合成経路を含むオペロンが存在していた。このビオチンオペロンは過去に共感染していた他の共生細菌から遺伝子水平転移により獲得したものと推定された。栄養生理学的実験により、ボルバキアwCleは確かに宿主体内でビオチンを合成しており、そのビオチンが宿主の適応度に有意に寄与していることが示された。これらの知見は、ビオチン合成遺伝子クラスターの獲得がボルバキアとトコジラミの栄養相利共生関係の基盤となったことを強く示唆しており、任意共生から必須共生への進化が遺伝子水平転移により促進されたことが明らかになった。

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2014/07/16

日本で分離されたネコモルビリウイルスの遺伝的多様性

論文タイトル
Genetic diversity of feline morbilliviruses isolated in Japan
論文タイトル(訳)
日本で分離されたネコモルビリウイルスの遺伝的多様性
DOI
10.1099/vir.0.065029-0
ジャーナル名
Journal of General Virology Society for General Microbiology
巻号
July 2014 vol. 95 no. Pt 7 1464-1468
著者名(敬称略)
坂口 翔一、宮沢 孝幸 他
所属
京都大学ウイルス研究所 細胞生物学研究部門 信号伝達学研究分野

抄訳

ネコモルビリウイルス(feline morbillivirus:FmoPV)感染症は、ネコの新興ウイルス感染症であり、尿細管間質性腎炎との関連が疑われている。FmoPVは中国で2012年に初めて報告されたが、他の国におけるウイルス分離の報告はなかった。我々は日本で初めてFmoPVの分離に成功し、その性状を調べたので報告する。日本国内の動物病院を受診したイエネコ13頭の尿をRT-PCR検査したところ、3頭が陽性と判定された。これらの陽性個体からFmoPVを3株分離した。FmoPVに感染したCRFK細胞では融合を伴うCPEが観察され、間接蛍光抗体法によりFmoPVのN蛋白質が検出された。また電子顕微鏡による観察では、多形性のウイルス粒子のエンベロープ上に明瞭な糖蛋白質のスパイクがみられた。HおよびL遺伝子の系統樹解析ではFmoPVの遺伝的多様性が見られたが、正の選択は受けていないことがわかった。

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2014/07/10

DAPK3は平滑筋細胞の増殖・遊走を刺激することで血管壁リモデリングを促進する

論文タイトル
Death-associated protein kinase 3 mediates vascular structural remodelling via stimulating smooth muscle cell proliferation and migration
論文タイトル(訳)
DAPK3は平滑筋細胞の増殖・遊走を刺激することで血管壁リモデリングを促進する
DOI
10.1042/CS20130591
ジャーナル名
Clinical Science Biochemical Society
巻号
Vol.127 No.8 539?548
著者名(敬称略)
臼井 達哉、山脇 英之 他
所属
北里大学 獣医学部 獣医学科 獣医薬理学

抄訳

Death-associated protein kinase 3 (DAPK3)は別名zipper-interacting kinase (ZIPK)としても知られるセリン・スレオニンキナーゼで、その主たる機能は細胞死や平滑筋収縮の調節であることが報告されている。加えて、我々のグループはこれまでにDAPK3の蛋白質発現が自然発症高血圧ラット(SHR)の血管組織で増加し、血管の炎症性反応を促進することで高血圧症の進展に関わることを報告してきた。本研究では、高血圧進展に関わる他の重要な病態プロセスである血管平滑筋の増殖・遊走に及ぼすDAPK3の影響をin vitro, ex vivo, in vivoにおいて検討した。その結果、DAPK3は血小板由来増殖因子PDGF-BBによるp38/HSP27シグナルの活性化を介して平滑筋細胞の増殖・遊走と新生血管内膜の形成を促進することを明らかにした。本研究結果からDAPK3は高血圧症治療に対する新たな分子標的となる可能性が示唆された。

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2014/06/30

日本で分離されたアシネトバクター属菌の流行型・非流行型の遺伝子型別とカルバペネム耐性遺伝子

論文タイトル
Distribution of carbapenem resistance determinants among epidemic and non-epidemic types of Acinetobacter species in Japan
論文タイトル(訳)
日本で分離されたアシネトバクター属菌の流行型・非流行型の遺伝子型別とカルバペネム耐性遺伝子
DOI
10.1099/jmm.0.069138-0
ジャーナル名
Journal of Medical Microbiology Society for General Microbiology
巻号
June 2014 vol.63 no. Pt 6 870-877
著者名(敬称略)
松井 真理 他
所属
国立感染症研究所 細菌第二部

抄訳

アシネトバクター属菌(Acinetobacter spp.)の薬剤耐性化・院内感染事例の増加は、Acinetobacter baumannii流行型(epidemic ST-AB)と呼ばれる特定の遺伝型株の広がりと関連があると言われている。一方で、A. baumannii非流行型(non-epidemic ST-AB)に関する報告は少ない。我々は、日本の臨床分離アシネトバクター属菌87株をepidemic-ST AB(31株)、non-epidemic ST-AB(15株)、他のアシネトバクター属菌(non-baumannii Acinetobacter spp.;41株)の3群に分類し、カルバペネム耐性遺伝子と薬剤感受性を比較した。カルバペネム耐性遺伝子に関して、epidemic ST-ABはOXA-23型、OXA-51型β-ラクタマーゼ遺伝子を保有したのに対し、non-epidemic ST-ABとnon-baumannii Acinetobacter spp.は、OXA-58型β-ラクタマーゼ遺伝子、メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子を保有していた。解析したepidemic ST-ABのうち48%が多剤耐性であり、non-epidemic ST-ABやnon-baumannii Acinetobacter spp.に比べ多剤耐性株の割合は有意に高かった。特にepidemic ST-ABのフルオロキノロン耐性率は、極めて高かった。今回の結果から、カルバペネム耐性遺伝子や薬剤感受性において、non-epidemic ST-ABは、non-baumannii Acinetobacter spp.と同様の特徴を示し、同じ種であるepidemic ST-ABとは異なる特徴を持つことが明らかとなった。

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2014/06/16

ミズナラ(Quercus crispula)の樹皮から分離した新種 Paenibacillus shirakamiensis

論文タイトル
Paenibacillus shirakamiensis sp. nov., isolated from the trunk surface of a Japanese oak (Quercus crispula)
論文タイトル(訳)
ミズナラ(Quercus crispula)の樹皮から分離した新種 Paenibacillus shirakamiensis
DOI
10.1099/ijs.0.055772-0
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology  Society for General Microbiology
巻号
IJSEM May 2014 vol. 64 no. Pt 5 1763-1769
著者名(敬称略)
殿内 暁夫 他
所属
弘前大学 農学生命科学部 分子生命科学科

抄訳

日本の白神山地に生育するミズナラ(Quercus crispula)の樹皮から細菌株P-1Tを分離した。P-1T株はグラム染色陰性で、楕円形の内生胞子を形成する好気的な、わずかに好酸性の、幅0.8 µm長さ2–5 µmの桿状細菌で、周鞭毛によって運動した。P-1T株は種々の炭水化物を増殖基質として利用したが、増殖試験に用いた有機酸は利用しなかった。主要な細胞脂肪酸はanteiso-C15?:?0で、全細胞脂肪酸の64.2%を占めていた。主要な呼吸鎖キノンはメナキノン7 (MK-7)であった。P-1T株の細胞膜には極性脂質として、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、未同定アミノ脂質が4種、未同定リン脂質が1種、未同定極性脂質が2種含まれていた。P-1T株はPaenibacillus pini S22T (96.6?%), Paenibacillus chibensis JCM 9905T (96.1?%)およびPaenibacillus anaericanus MH21T (95.9?%)に高い16S rRNA遺伝子配列類似性を示した(カッコ内は類似度)。DNAのG+C含量は43.9 mol%であった。これらのデータはP-1T株がPaenibacillus属内の新規種を代表することを示しており、筆者らは本種の名称として新種Paenibacillus shirakamiensisを提案する。本種の基準株はP-1T (NBRC 109471T?=?DSM 26806T?=?KCTC 33126T?=?CIP 110571T)である。

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2014/06/11

転写因子C/EBPβはSF-1と協調してプロゲステロン産生を転写レベルで調節する

論文タイトル
C/EBPβ (CCAAT/enhancer-binding protein β) mediates progesterone production through transcriptional regulation in co-operation with SF-1 (steroidogenic factor-1)
論文タイトル(訳)
転写因子C/EBPβはSF-1と協調してプロゲステロン産生を転写レベルで調節する
DOI
10.1042/BJ20131522
ジャーナル名
Biochemical Journal Biochemical Society
巻号
Biochemical Journal Vol.460 No.3 459?471
著者名(敬称略)
水谷 哲也 他
所属
福井大学 医学部 医学科 生命情報医科学講座 分子生体情報学領域

抄訳

転写因子SF-1は性腺や副腎のマスター因子として、その発生・分化およびステロイドホルモン産生に必須の因子である。本研究では、核内で形成するSF-1複合体構成因子を同定することでSF-1の作用機序の解明を試みた。免疫沈降とMALDI-TOF MS/MS解析よりSF-1複合体構成因子の同定を試みたところ、約20のSF-1複合体構成因子を同定した。その中から排卵・黄体化に必須な転写因子C/EBPβに着目し、プロゲステロン産生に対する影響を検討した。その結果、プロゲステロン産生に関連するSTAR、CYP11A1およびHSD3B2の遺伝子発現にC/EBPβが関与することが示された。さらにその転写調節メカニズムを検討したところ、すべての遺伝子上流域にSF-1とC/EBPβの結合領域が近接して存在し、SF-1とC/EBPβが協調することで転写調節していることが示された。以上の結果から、C/EBPβはSF-1と共に転写レベルでプロゲステロン産生を調節する重要な転写因子であることが示された。

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2014/04/16

術前放射線化学療法および食道切除術を施行した食道腺癌の局所再発率とサルベージ治療の予後に関する検討

論文タイトル
Locoregional Failure Rate After Preoperative Chemoradiation of Esophageal Adenocarcinoma and the Outcomes of Salvage Strategies
論文タイトル(訳)
術前放射線化学療法および食道切除術を施行した食道腺癌の局所再発率とサルベージ治療の予後に関する検討
DOI
10.1200/JCO.2013.51.7250
ジャーナル名
Journal of Clinical Oncology American Society of Clinical Oncology
巻号
JCO Dec 1, 2013:4306-4310; published online on October 21, 2013
著者名(敬称略)
須藤一起、Jaffer A. Ajani 他
所属
The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Gastrointestinal Medical Oncology

抄訳

食道腺癌に対する局所治療後サーベイランスの一番の目的は、治癒的治療の対象となりうる局所再発を発見することである。しかし、術前放射線化学療法および食道切除術後サーベイランスのベネフィットに関する研究報告はない。 対象及び方法;食道および胃食道接合部腺癌に対して、米国の標準治療である術前放射線化学療法および食道切除術を当院で施行した518人の患者を対象とした。治療後の局所再発頻度とタイミングを後ろ向きに検討した。また、局所再発後の治療成績に関しても検討した。 結果;遠隔転移なしの局所再発を認めた患者は27人(5%)であった。27人のうち89%は術後3年以内の再発であった。局所再発後の生存期間中央値は17ヶ月で、局所再発後2年以上生存した患者は10人(サーベイランスをうけた全518人の2%)であった。 結論;我々は多くの施設で行われているような治療後の定期的サーベイランスを行った。本研究はそのようなサーベイランス戦略に対して疑問を投げかけた。治療後の局所再発率が低いことは良い結果であったが、たとえ局所再発を発見してもその予後は不良であると判明した。本研究はエビデンスに基づいたサーベイランス戦略の構築に貢献できる。

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2014/04/16

シアノバクテリア概日時計蛋白質KaiCの自己リン酸化は、CIIドメインのATPase活性部位におけるADP-ATP交換反応によって促進される。

論文タイトル
Exchange of ADP with ATP in the CII ATPase domain promotes autophosphorylation of cyanobacterial clock protein KaiC
論文タイトル(訳)
シアノバクテリア概日時計蛋白質KaiCの自己リン酸化は、CIIドメインのATPase活性部位におけるADP-ATP交換反応によって促進される。
DOI
10.1073/pnas.1319353111
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
111 (12) 4455-4460; published ahead of print March 10, 2014
著者名(敬称略)
大川(西脇)妙子
所属
名古屋大学 大学院理学研究科 生命理学専攻

抄訳

シアノバクテリアの概日リズムは、KaiA、KaiB、KaiCとATPによりin vitroで再構成でき、KaiCのリン酸化状態は約24時間周期で振動する。KaiCは2つのATPaseドメインCI、CIIから成り、CIIは自己リン酸化、自己脱リン酸化活性を併せ持つ。KaiCの脱リン酸化はリン酸化の逆反応を介して起こる。KaiC上のリン酸基はまずADPに転移しATPが合成される。次にATP加水分解により反応が終結する。このことからリン酸化リズムは、自己リン酸化の正、逆両反応の繰り返しにより生じると考えられる。本研究では、KaiAとKaiBはKaiC結合ヌクレオチドを制御することを明らかにした。KaiCは主にADP結合型として存在するが、KaiA はADPの放出とATPの取り込みを促進し、KaiCをATP結合型に変換する。KaiA、KaiB共存下では、KaiBは周期的にKaiAを阻害し、KaiCのヌクレオチド結合状態は概日リズムを示す。これらの結果は、KaiA、KaiBが正、逆両反応を基質供給のレベルで制御していることを示唆する。

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2014/04/02

ヘリコバクター・ピロリCagAと胃がん:ヒット&ラン発がんのパラダイム

論文タイトル
Helicobacter pylori CagA and Gastric Cancer: A Paradigm for Hit-and-Run Carcinogenesis
論文タイトル(訳)
ヘリコバクター・ピロリCagAと胃がん:ヒット&ラン発がんのパラダイム
DOI
10.1016/j.chom.2014.02.008
ジャーナル名
Cell Host and Microbe Cell Press
巻号
Volume 15, Issue 3, 306-316, 12 March 2014
著者名(敬称略)
畠山 昌則
所属
東京大学大学院医学系研究科・医学部 病因・病理学専攻 微生物学講座 微生物学分野

抄訳

胃がんは全世界がん死亡の第二位を占め、毎年約70万人がこの悪性腫瘍で命を落としている。一部の例外を除き、胃がん発症にはCagAタンパク質を産生するヘリコバクター・ピロリの胃内持続感染が必須の役割を担う。ピロリ菌CagAはホ乳動物に悪性腫瘍を引き起こすことが証明されている唯一の細菌タンパク質であり、菌が保有するミクロの注射針(IV型分泌機構)を介して胃上皮細胞内に直接注入される。胃上皮細胞内に侵入したCagAは異常な足場タンパク質として機能し、複数の細胞内シグナル伝達系を並行して障害する。CagAにより生成された異常シグナルは細胞がん化を直接促すと同時に、遺伝的不安定性を増大させる。一方、胃がん発症過程において本質的な役割を担うにも関わらず、一旦生成された胃がん細胞の形質維持にCagAはもはや不要となる。この事実は、ピロリ菌CagAがかかわる胃発がんプロセスがヒット&ラン機構で進行することを示している。胃がん発症の初期段階においてCagAが担う発がん活性は、CagAが同時に誘導する遺伝的不安定性を基盤にゲノム内に蓄積するゲノム・エピゲノム変異に漸次置き換えられ「がん前駆細胞」内に固定されていくと考えられる。

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2014/03/26

ヤギにおいて生殖制御中枢を促進する嗅覚分子の同定

論文タイトル
Identification of an Olfactory Signal Molecule that Activates the Central Regulator of Reproduction in Goats
論文タイトル(訳)
ヤギにおいて生殖制御中枢を促進する嗅覚分子の同定
DOI
10.1016/j.cub.2014.01.073
ジャーナル名
Current Biology Cell Press
巻号
Volume 24, Issue 6, 681-686, 27 February 2014
著者名(敬称略)
村田健、武内ゆかり 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻

抄訳

フェロモンは、「ある個体が放出し、同種の他個体が受容したときに特定の行動や生理的変化を誘起する物質」と定義され、嗅覚系を介した同種間のコミュニケーションに重要な役割を果たしている。哺乳類では、攻撃行動や性行動などを誘起する「行動を制御するフェロモン」は同定されており、その作用機構も明らかにされてきたが、雌の性成熟を早めたり発情を誘起するなどの効果をもつ「内分泌系を制御するフェロモン」に関しては不明な点が少なくなかった。本研究では、ヤギにおいて非繁殖期の雌が、雄の匂いを感じることで排卵と発情が誘起される「雄効果」に着目し、生殖制御中枢に促進的に作用するフェロモンとして、4-ethyloctanalという新奇の揮発性化合物を同定した。この化合物は、雄ヤギの頭部より放出される多くの物質の中から、雌ヤギにおける脳の生殖制御中枢活動をリアルタイムで観測できるバイオアッセイ法によって同定された。雌における生殖制御中枢活動の促進を明瞭に示すフェロモンの同定は、哺乳類では本成果が初めてであり、今後は本知見をもとに、フェロモンを用いた家畜の繁殖制御方法の開発などへの展開が期待される。

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2014/03/26

PDI ファミリータンパク質ERp46の新規ドメイン構造と機能的役割の解明

論文タイトル
Radically Different Thioredoxin Domain Arrangement of Radically Different Thioredoxin Domain Arrangement of ERp46, an Efficient Disulfide Bond Introducer of the Mammalian PDI Family
論文タイトル(訳)
PDI ファミリータンパク質ERp46の新規ドメイン構造と機能的役割の解明
DOI
10.1016/j.str.2013.12.013
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Volume 22, Issue 3, 431-443, 23 January 2014
著者名(敬称略)
小島理恵子、奥村正樹、稲葉謙次
所属
九州大学生体防御医学研究所・東北大学多元物質科学研究所

抄訳

哺乳動物細胞の小胞体には20種類以上のProtein Disulfide Isomerase (PDI)ファミリータンパク質が存在するが、個々の因子の生理的機能はほとんど解明されていない。2013年に我々は、新たに見つかったPDI酸化酵素Peroxiredoxin-4 (Prx4) がPDIファミリータンパク質の中でもERp46に対して特に高い酸化活性を有することを報告した (Sato et al., Sci. Rep. 2013)。本研究ではERp46の構造とPrx4とERp46を介した基質へのジスルフィド導入経路の分子機構を解明するに至った。ERp46は3つのチオレドキシンドメイン(Trx)から成るが、この内Trx1, Trx2のX線結晶構造をそれぞれ2.5Å,0.95Åの分解能で決定し、さらにTrx2とPrx4のC末端領域の複合体の結晶構造を0.92Åの分解能で決定することにより、ERp46-Prx4間の特異的な結合様式を明らかした。さらに、X線小角散乱法によりERp46の全長構造のモデリングを行った結果、ERp46は他のPDIファミリータンパク質にはみられない新規な「開いたV字構造」をとることが明らかになった。さらに系統的な生化学機能解析により、ERp46は開いたV字構造上で活性部位を溶媒に露出させ、アンフォールドした基質にランダムかつ迅速にジスルフィド結合を導入するのに対し、PDIはU字構造内部の疎水性ポケットにフォールディング中間体を取り込み、互いに向き合った活性部位が協調的にはたらくことで効率よくジスルフィド結合の組換えを行うことを提唱した。本研究により、ERp46が他のPDIファミリータンパク質では例にみない新規のドメイン構造をもち、タンパク質の酸化的フォールディングの初期過程においてジスルフィド結合導入に特化した機能を有することが明らかとなった。

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2014/03/19

下垂体腺腫の腫瘍性状の予測:3T-MRIを使用した造影FIESTA法による評価

論文タイトル
Tumor Consistency of Pituitary Macroadenomas: Predictive Analysis on the Basis of Imaging Features with Contrast-Enhanced 3D FIESTA at 3T
論文タイトル(訳)
下垂体腺腫の腫瘍性状の予測:3T-MRIを使用した造影FIESTA法による評価
DOI
10.3174/ajnr.A3667
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 35, No. 2 (297-303)
著者名(敬称略)
山本 淳考 他
所属
産業医科大学 医学部 脳神経外科

抄訳

手術の際に視野が限られる下垂体腺腫の外科的治療において、その腫瘍性状(硬さ)を術前に予測することが重要である。本研究では、腫瘍性状予測の観点から、造影FIESTA法の有用性について検討を行った。29症例の下垂体腺腫の患者に対して通常の頭部MRシーケンスに加えて造影FIESTA法を使用し術前に全例撮影を施行。2名の放射線科医が、造影FIESTA、造影T1強調画像およびT2強調画像について評価を行った。また、手術所見から、脳神経外科医が下垂体腺腫の性状について2群(やわらかい、硬い)に分類した。最後に、MR画像所見と下垂体腺腫の硬さ、コラーゲン含有量および術後の残存腫瘍サイズとの関係について統計学的解析を行った。下垂体腺腫のMR画像所見として、比較的均一な信号を呈する場合 (solid type) と、腫瘍内部に複数の点状の高信号を含む場合 (mosaic type) の2群に分類された。この分類において、造影FIESTA法は、他のシーケンスと比較し、有意に腫瘍性状との相関を認めた。Mosaic typeと比較し、solid typeでは、腫瘍が硬く、コラーゲン含有量が多く、術後残存腫瘍が大きい傾向にあった。下垂体腺腫において、造影FIESTA法は、コラーゲン含有量を反映した腫瘍性状(硬さ)に関する付加情報を術前に提供できる可能性が示唆された。

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2014/03/19

グリオーマ患者を対象とした62Cu-ATSM-PETイメージング; FDG-, MET-PETとの比較検討

論文タイトル
62Cu-Diacetyl-Bis (N4-Methylthiosemicarbazone) PET in Human Gliomas: Comparative Study with [18F] Fluorodeoxyglucose and L-Methyl-[11C]Methionine PET
論文タイトル(訳)
グリオーマ患者を対象とした62Cu-ATSM-PETイメージング; FDG-, MET-PETとの比較検討
DOI
10.3174/ajnr.A3679
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 35, No. 2 (278-284)
著者名(敬称略)
立石健祐 川原信隆 他
所属
横浜市立大学附属病院脳神経外科

抄訳

62Cu-Diacetyl-Bis (N4-Methylthiosemicarbazone) (62Cu-ATSM)はPETにおける低酸素イメージング剤として開発された。本研究ではグリオーマ患者を対象に62Cu-ATSM-PETを施行し、MRI、 [18F]Fluorodeoxyglucose (FDG-), 及びL-Methyl-[11C]Methionine (MET-PET)との比較検討を行うことにより62Cu-ATSM-PETの意義付けを図ることを目的とした。対象及び方法;10例の神経膠芽腫を含む23例のグリオーマ患者に対し62Cu-ATSM, FDG-PETを施行した。19例ではMET-PETを追加した。全症例で直後に手術を施行し、得られた病理診断とPET所見との対比を図った。また各PETトレーサー及びMRI所見との比較の為に半定量的解析と共に、集積亢進領域の定性的解析かつ体積での評価を行った。 結果;神経膠芽腫において62Cu-ATSM及びMETは有意な集積亢進を認めた。神経膠芽腫に対する陽性反応的中度はMET-PET, 陰性反応的中度は62Cu-ATSM-PETが最も高かった。神経膠芽腫における62Cu-ATSM集積亢進は体積による検討ではFDG, METと有意に相関したものの、集積亢進領域はFDGの半数、METでは全例において不均一性を示した。結論; 低酸素イメージング剤62Cu-ATSMは術前に神経膠芽腫を予測しうる有用なトレーサーと考えられた。更に62Cu-ATSM-PETを従来のMRI, PET検査と併用することで低酸素領域を同定し、その結果治療抵抗領域への治療につながる可能性が示唆された。

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2014/02/27

プロリン水酸化酵素の阻害は炎症と細胞外マトリックスの破壊を抑制し、腹部動脈瘤の形成を抑制する。

論文タイトル
Suppression of abdominal aortic aneurysm formation by inhibition of prolyl hydroxylase domain protein through attenuation of inflammation and extracellular matrix disruption
論文タイトル(訳)
プロリン水酸化酵素の阻害は炎症と細胞外マトリックスの破壊を抑制し、腹部動脈瘤の形成を抑制する。
DOI
10.1042/CS20130435
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
Vol.126 No.9 671-678
著者名(敬称略)
渡邉 亜矢、市来 俊弘 他
所属
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学

抄訳

プロリン水酸化酵素タンパク(PHD)の阻害剤である塩化コバルト(以下CoCl2)が、腹部大動脈瘤(AAA)の進展に及ぼす効果について検討した。腹部大動脈瘤はC57BL6/Jマウスの腹部大動脈に塩化カルシウム(CaCl2)を塗布し作成した(AAA群)。0.9%塩化ナトリウム溶液を用いてsham対照群(SHAM群)を作成した。また、CoCl2は0.05%溶液を飲水投与した(AAA/CoCl2群)。手術後1週間及び6週間後に腹部大動脈を摘出し、解析した。CaCl2塗布後6週後のマウスでは、SHAM群と比較しAAA群では大動脈径の拡大とマクロファージの浸潤の増加を認めた。AAA/CoCl2群ではAAA群と比較し、瘤径の拡大とマクロファージの浸潤は抑制されていた。炎症性サイトカインの発現や、マトリクスメタロプロテイナーゼ9及び2の活性はAAA群で上昇し、AAA/CoCl2群で抑制されていた。サイトカインの発現やMMPの活性は術後1週間目のAAA群でも増加していた。AAA/CoCl2群でその増加が抑制されており、核内因子κB(NF-κB)のリン酸化の抑制を伴っていた。CaCl2塗布によって誘導されるマウス腹部大動脈瘤の形成において、CoCl2による治療は、炎症と細胞外マトリクスの破壊を抑制し、AAAの進展を抑制した。この結果は、PHDがAAAの進展において重要な役割を果たしていることを示唆し、PHD阻害剤がAAAの進展予防を目的とする治療おいて有用である可能性があると考えられる。

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2013/09/07

細胞核内のDNAの濃度が染色体の凝縮に影響する

論文タイトル
Intranuclear DNA density affects chromosome condensation in metazoans
論文タイトル(訳)
細胞核内のDNAの濃度が染色体の凝縮に影響する
DOI
10.1091/mbc.E13-01-0043
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
Mol. Biol. Cell August 1 2013 vol. 24 no. 15 2442-2453
著者名(敬称略)
原 裕貴、木村 暁 他
所属
大学共同利用機関法人 国立遺伝学研究所 細胞建築研究室

抄訳

遺伝情報を担う染色体は、細胞が分裂する際には凝縮し、一本一本の染色体が「分裂期染色体」と呼ばれる棒状の構造を形成します。同じ個体の中でも、DNAの塩基配列の長さは変わらないのに、分裂期染色体の長さは変わることが知られています。本論文では、染色体凝縮が「細胞核内のDNAの濃度」により制御されるとする新しいメカニズムが提唱されました。まず、線虫C. elegansを用いて、初期胚発生過程において、細胞核が徐々に小さくなる過程で、分裂期染色体の長さも徐々に短くなることを見いだしました。遺伝子操作により細胞核のサイズを変化させると、それに相関して分裂期染色体の長さも変化しました。分裂期染色体の長さは細胞核内のDNAの量にも相関しました。このことは、間期核内で染色体一本あたりの核の大きさが大きいほど分裂期染色体は長くなることを示しています。さらに、カエル卵の無細胞系を利用して細胞核のサイズを小さくしてから分裂期染色体を形成させると、やはり分裂期染色体は通常よりも短くなることを見いだしました。以上の観察は、染色体の凝縮が核の大きさやDNAの量といった物理的な制約をうけることを示す新たな知見です。

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2013/07/09

グリア細胞が脳傷害から神経を守るカルシウム機構の解明

論文タイトル
Calcium-dependent N-cadherin up-regulation mediates reactive astrogliosis and neuroprotection after brain injury 
論文タイトル(訳)
グリア細胞が脳傷害から神経を守るカルシウム機構の解明
DOI
10.1073/pnas.1300378110
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2013 110 (28) 11612-11617; published ahead of print June 24, 2013, doi:10.1073/pnas.1300378110
著者名(敬称略)
金丸和典、飯野 正光 他
所属
東京大学大学院医学系研究科 細胞分子薬理学教室

抄訳

脳内において神経細胞を取り囲むように存在するグリア細胞は、その数が神経細胞を凌ぎます。通常、グリア細胞は神経細胞の信号伝達をサポートすると考えられています。しかし、てんかんや脳梗塞などの脳疾患、あるいは脳挫傷などの外傷により脳がダメージを受けると、グリア細胞は「通常型」から「病態型」へと姿を変えて神経細胞を保護する機能を獲得します。このような変化が起こるメカニズムには不明な点が多く残されていますが、私たちは、そのメカニズムの一端を明らかにしました。グリア細胞内のカルシウム濃度の変化が、通常型から病態型への変化と神経細胞を保護する作用を獲得するために重要であることが分かりました。

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