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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2012/06/13

mVam2依存のエンドサイトーシス経路によってマウス初期胚の骨形成因子(BMP)シグナルのパターンが制御される

論文タイトル
Spatial Restriction of Bone Morphogenetic Protein Signaling in Mouse Gastrula through the mVam2-Dependent Endocytic Pathway 
論文タイトル(訳)
mVam2依存のエンドサイトーシス経路によってマウス初期胚の骨形成因子(BMP)シグナルのパターンが制御される
DOI
10.1016/j.devcel.2012.05.009
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
Volume 22, Issue 6, 1163-1175, 12 June 2012
著者名(敬称略)
和田洋 他
所属
大阪大学 産業科学研究所 生体機能科学研究分野

抄訳

細胞外のシグナルは細胞膜上の受容体によって受け取られ、活性化された受容体は細胞基質のメディエーターを活性化して、遺伝子発現の調節や細胞骨格のリモデリング、あるいは細胞死などの諸反応を引き起こす。受容体はエンドサイトーシスにより後期エンドソーム・リソソームに運搬されることによって細胞基質より隔離され、シグナル伝達がOFFになるとされる。さまざまなシグナル伝達が受精卵から前後左右背腹軸をもつ胎仔の発生を制御している。初期発生は比較的短時間で進行するため、シグナル伝達をOFFにする機構は重要なポイントであるが、後期エンドソーム・リソソームが果たす役割は不明であった。本研究では後期エンドソームの膜融合に機能するmVam2/mVps41遺伝子を欠損するマウスを作出し、初期胚臓側内胚葉のリソソームの形成にmVam2機能が必須であることを見出した。mVam2欠損細胞ではBMP・BMP受容体が後期エンドソーム様オルガネラに蓄積し、BMPシグナルをOFFにすることができない。これと良く対応して、mVam2欠損胚ではBMPシグナルが異所的に亢進し、胚体中胚葉の欠落・予定神経外胚葉領域での細胞死が起き、胚の形態形成が停止する。すなわち、mVam2によるエンドソームダイナミクスがBMPシグナル活性を適切に制御しており、マウス初期胚の空間パターン構築に必須な機能を果たしていることを明らかにした。

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2012/06/08

Hsp70を核に運搬する分子Hikeshiは熱ショックストレスによる核ダメージから細胞を守る

論文タイトル
Hikeshi, a Nuclear Import Carrier for Hsp70s, Protects Cells from Heat Shock-Induced Nuclear Damage 
論文タイトル(訳)
Hsp70を核に運搬する分子Hikeshiは熱ショックストレスによる核ダメージから細胞を守る
DOI
10.1016/j.cell.2012.02.058
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
Volume 149, Issue 3, 578-589, 27 April 2012
著者名(敬称略)
小瀬真吾 今本尚子
所属
理化学研究所 基幹研究所 今本細胞核機能研究室

抄訳

核-細胞質間分子流通は主にImportinβファミリーに属する運搬体分子によって行われる。しかし、ストレス応答時には、Importinβファミリー分子による輸送活性が顕著に低下する。本論文では、分子シャペロンHsc70/Hsp70のストレス応答性核局在化機構の解析を行った。その結果、熱ショック時にはImportinβファミリー分子とは全く異なる新しい輸送経路が機能していることを明らかにし、その運搬体分子をHikeshi(火消し)と命名した。Hikeshiは、ATP型Hsp70に強く結合し、熱ショック時にHsp70を細胞質から核に運搬する機能をもつ。さらに、siRNA処理によってHikeshiの輸送経路を抑制した細胞は、熱ストレス後の生存率が低下し、熱ショック応答からの回復が顕著に遅れることを明らかとなった。本研究によって、熱ストレス時のHikeshi輸送経路と分子シャペロンHsp70の核内機能の重要性を示された。

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2012/05/28

共生細菌による殺虫剤抵抗性

論文タイトル
Symbiont-mediated insecticide resistance 
論文タイトル(訳)
共生細菌による殺虫剤抵抗性
DOI
10.1073/pnas.1200231109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Published online before print April 23, 2012, doi: 10.1073/pnas.1200231109
著者名(敬称略)
菊池義智 他
所属
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 環境生物機能開発研究グループ

抄訳

害虫の殺虫剤抵抗性は世界中で大きな問題となっている。抵抗性のメカニズムとしては解毒機構の活性化や標的タンパクの構造変化などが知られるが、いずれも昆虫自身の遺伝子によって決まる性質だと考えられてきた。本研究では、害虫が殺虫剤分解菌を体内に共生させることで殺虫剤抵抗性になるという、これまでまったく知られていなかった抵抗性の発達メカニズムを発見したので報告する。ダイズの害虫であるホソヘリカメムシは消化管に「盲嚢」と呼ばれる袋状の組織を多数発達させており、その中にBurkholderia属細菌を保持している。このカメムシは共生細菌を母子間伝達せず、毎世代環境土壌中から共生細菌を獲得する。我々は野外調査と操作実験により、農耕地土壌中には殺虫剤であるフェニトロチオンを分解できるBurkholderiaが生息しており、ホソヘリカメムシがこれを取り込むことで殺虫剤抵抗性になることを実証した。さらに、農耕地土壌にフェニトロチオンを連続散布したところ、フェニトロチオン分解菌の土壌中密度が上昇し、これに伴いフェニトロチオン分解菌を取り込むカメムシの頻度も増大することを明らかにした。このことは、殺虫剤の散布が土壌微生物叢に影響を及ぼし、これが害虫の殺虫剤抵抗性化を引き起こす可能性を示している。

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2012/05/28

ユビキチン結合モチーフUIMをもつAnkrd13ファミリータンパク質による増殖因子受容体のエンドサイトーシス制御

論文タイトル
The Ankrd 13 family of UIM-bearing proteins regulates EGF receptor endocytosis from the plasma membrane 
論文タイトル(訳)
ユビキチン結合モチーフUIMをもつAnkrd13ファミリータンパク質による増殖因子受容体のエンドサイトーシス制御
DOI
10.1091/mbc.E11-09-0817
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
April 1, 2012 vol. 23 no. 7 1343-1353
著者名(敬称略)
丹野秀崇、駒田雅之 他
所属
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生体システム専攻 細胞生物学分野 駒田研究室

抄訳

増殖因子により細胞膜上で活性化された増殖因子受容体は、エンドサイトーシスされてリソソームに運ばれ分解される。この受容体ダウンレギュレーションは、細胞の過増殖・癌化を防ぐ重要な調節機構である。活性化された受容体はリジン(K)63連結型のポリユビキチン化を受け、これが受容体のエンドサイトーシスを始動するシグナルとなる。本論文では、ユビキチン結合モチーフUIMをもつ新規タンパク質ファミリーAnkrd13 A, B, Dの細胞機能の解析を行った。ヒト培養細胞を上皮細胞増殖因子EGFで刺激すると、細胞膜上でAnkrd13がUIMを介してEGF受容体に結合した。また、Ankrd13はエンドサイトーシス・シグナルとして働くK63ポリユビキチン鎖と選択的に結合した。そして、Ankrd13やそのドメイン欠失変異体の過剰発現はEGF受容体のエンドサイトーシスを阻害した。以上から、Ankrd13はUIMを介して細胞膜上でK63ポリユビキチン化された増殖因子受容体を認識し、そのエンドサイトーシスを制御することが示された。

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2012/05/28

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は血管新生を抑制する

論文タイトル
Acetylcholinesterase inhibitors attenuate angiogenesis 
論文タイトル(訳)
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は血管新生を抑制する
DOI
10.1042/CS20110633
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
August 2012 | Vol.123 No.4 | 241-249
著者名(敬称略)
宮崎良平、市來俊弘 他
所属
九州大学 医学研究院 先端心血管治療学講座

抄訳

ドネペジルはアルツハイマー病患者の治療に用いられる可逆性のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である。近年、ドネペジルの投与が炎症性サイトカインの産生を抑制すること、また炎症は血管新生に重要な役割を果たす事が報告されている。そこでドネペジルが血管新生に及ぼす影響を検討した。ドネペジル投与はマウス下肢虚血モデルにおいて血流の回復を抑制し、虚血下肢の毛細血管密度を減少させた。構造の異なるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるフィゾスチグミンでも同様の結果が得られた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢ではインターロイキン(IL)-1βとvascular endothelial growth factor (VEGF)の発現が低下していた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢にIL-1βを投与すると,VEGFの発現が増加し、血流低下や毛細血管密度低下が回復した。またドネペジルを投与したマウスの虚血下肢では対照群と比べてAktのリン酸化が低下していた。これらのデータより、ドネペジルによるアセチルコリンの増加が、Akt活性化を抑制し、IL-1βの産生/VEGF誘導を抑制するため血管新生が抑制されると考えられた。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が新規の血管新生抑制薬となる可能性が示唆された。

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2012/05/28

黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する

論文タイトル
Crystal structure of the enzyme CapF of Staphylococcus aureus reveals a unique architecture composed of two functional domains 
論文タイトル(訳)
黄色ブドウ球菌由来莢膜合成酵素CapFは2つの機能ドメインからなるユニークな構造を有する
DOI
10.1042/BJ20112049
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
May 2012 | Vol.443 | Issue 3| 671-680
著者名(敬称略)
宮房 孝光、津本浩平 他
所属
東京大学医科学研究所疾患プロテオミクスラボラトリー 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻疾患蛋白質工学分野 工学系研究科化学生命工学専攻

抄訳

莢膜は細胞壁の外側に発現される多糖類であり、黄色ブドウ球菌の重要な病原因子の一つである。CapFはこの莢膜の合成に必須な酵素であり、創薬標的と見なしうる。本論文では、CapFのX線結晶構造解析、酵素機能解析を行い、また補酵素であるNADPHとの特異的な相互作用を等温滴定型熱量測定により観察した。
 X線結晶構造解析の結果、CapFは2つの独立したドメイン(N末端ドメイン、C末端ドメイン)を有していることが明らかとなった。これらのドメインを分割した変異体を作成し、酵素機能解析を進めたところ、C末端ドメインがC3-エピマー化反応に必須であること、N末端ドメインがC4-還元反応を触媒していることが示された。後者はNADPHの還元力を要するが、このNADPHはCapFに包摂されておらず1反応毎に1分子が消費されていた。等温滴定型熱量測定の結果はNADPHとCapFの親和性はNADPHが反応後にNADP+へと酸化されることにより40倍程度低下することを示しており、この親和性の変化によりNADPHの結合/放出、還元反応が加速しているものと考察される。このような活性制御機構の報告は今までになく、CapFに特有のメカニズムである可能性がある。

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2012/05/11

シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達

論文タイトル
Maturation of a PKG-Dependent Retrograde Mechanism for Exoendocytic Coupling of Synaptic Vesicles 
論文タイトル(訳)
シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.028
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Volume 74, Issue 3, 517-529, 10 May 2012
著者名(敬称略)
江口工学、高橋智幸 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 細胞分子シナプス機能ユニット
同志社大学大学院 脳科学研究科
JST-CREST

抄訳

神経細胞間のつなぎ目「シナプス」では電気信号が一旦、化学信号に変換されてから再び電気信号に変換され、これが神経回路を伝わることにより、脳が働くことになります。したがって脳の働きを持続させるためには、シナプスにおける信号変換プロセスが滞りなく作動することが必要です。そのための仕組みとして、化学信号を担う伝達物質を細胞内膜「小胞」に蓄えておき、電気信号によって伝達物質を開口放出させ、空になった小胞を回収・再利用する「小胞リサイクリング」が知られています。この仕組みを有効に作動させるために、小胞の開口数に応じて回収速度を調節するメカニズムがあると考えられていましたが、その実体は不明でした。今回、私たちは、伝達物質の放出量に応じてNOが産生され、これが酵素"PKG"を活性化して、小胞の回収を加速することを突き止めました。また、この仕組みは、生誕後、PKGの発現の上昇に伴って構築されることが分かりました。実際、PKGの活性阻害薬を神経細胞の軸索の先端に注入すると、シナプス伝達が脱落し、電気信号入力の出力変換率が著しく低下しました。今回明らかになったシナプス小胞開口・回収連関メカニズムは、脳神経疾患や向精神薬の標的となっている可能性があります。

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2012/04/26

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討

論文タイトル
Safety and Optimal Management of Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy After Pancreatectomy for Pancreatobiliary Cancer 
論文タイトル(訳)
膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討
DOI
10.2214/AJR.11.6751
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012 vol. 198 no. 4 923-930
著者名(敬称略)
西尾福英之、田中利洋、橋本彩、庄雅之、中島祥之、穴井洋、吉川公彦 他
所属
奈良県立医科大学 放射線医学教室

抄訳

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法(HAIC)の安全性を検討した。対象は、51例(術式;PD(膵頭十二指腸切除術) 29、TP(膵全摘術) 2、DP(膵尾部切除術) 20)。肝動注の方法はリザーバーを経皮的に留置し、5-fluorouracilを毎週5時間かけて持続動注し、3投1休を1コースとして実施した。1コース毎にフローチェック(F/C)を行い、合併症の有無について評価した。留置は全例で成功。肝動脈閉塞を1例(2%)、無症候性の肝動脈狭窄を10例(19.6%)で認めた。狭窄例のうち3例(5.9%)で同時性に肝膿瘍(2例)、胆汁漏(1例)を認めた。いずれもPD後の症例でHAIC開始後3ヵ月以内に出現したが、保存的加療またはドレナージにより改善した。狭窄症例のうち4例は1ヵ月の休薬により治療を再開することができた。膵切除後のHAICは、F/Cを定期的に行うことで安全に施行可能であるが、PD後では合併症に留意する必要がある。

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2012/04/10

高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング

論文タイトル
Coupling of the fusion and budding of giant phospholipid vesicles containing macromolecules
論文タイトル(訳)
高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング
DOI
10.1073/pnas.1120327109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2012 ; published ahead of print April 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1120327109
著者名(敬称略)
鈴木宏明、四方 哲也 他
所属
大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 共生ネットワークデザイン学講座

抄訳

生命の起源に関する研究においては、現代の細胞でみられるタンパク質等の高度な制御がなくとも原始的細胞の自己増殖が起こったと考えられている。細胞膜は細胞を形づくるのに必須の要素であり、その成長と分裂を比較的シンプルな物理化学的過程から再現する実験が行われてきた。  本論文では、リン脂質から成るジャイアントリポソームを融合した後、自発的に分裂様の変形が誘起されることを報告した。この現象は、リポソームの内部にポリエチレングリコールやデキストランなど生体高分子を模した物質を内封した場合のみに、球形のリポソームが融合によって余剰の膜面積を得た後に起こることを示した。 リポソームの内部に高分子が含まれる場合、高分子の重心は自身の半径よりも膜に近づくことができないので、膜の内側には高分子が排除された領域が存在する(排除体積)。この領域は高分子が溶解した領域に比べて化学ポテンシャルが大きいので、排除体積が小さくなる方向に系の状態が変化する。その結果、膜の曲率が増大し、リポソームの分裂様の変形が起こる。この物理的効果は特定の物質の性質に依らないため、原始細胞の増殖の議論において広範に適用可能な一般性の高いものであることを示した。

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2012/04/09

エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討

論文タイトル
Preoperative Percutaneous Transhepatic Portal Vein Embolization With Ethanol Injection
論文タイトル(訳)
エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討
DOI
10.2214/AJR.11.6515
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
作原 祐介、他
所属
北海道大学大学院 医学研究科 医学専攻病態情報学講座 放射線医学分野

抄訳

エタノール注入による経皮経肝的門脈塞栓術(PTPE)の安全性、有効性を検討した。対象は当院でエタノールによる経皮的門脈塞栓術を施行した143例(男性96名、女性47名、平均年齢65.5歳)。標的門脈枝の完全塞栓を得たのは143例中124例(86.7%)だった。19例(13.3%)に再開通を認め、うち容積増大が不十分だった10例に門脈塞栓を追加施行した。平均残肝容積はPTPE前後で418mLから541mLに増大、平均増大率は33.6%だった。平均残肝容積率は34.7%から45.4%に増大、平均で10.6%の増大を得た。一過性の発熱、肝酵素上昇、 被膜下血腫、肝内動脈出血、気胸等の合併症を認めたが、術式に影響する重篤な合併症は認めなかった。予定した肝切除術は120例(83.9%)に施行、多臓器不全で死亡した2例を除き肝不全は無かった。 4例は縮小手術を施行、19例は肝切除を施行しなかった(手術不適応の肝外病変:15例、肝機能不良・残肝容積不足:各2例)。 エタノールによるPTPEは安全で有効な術前処置であると考える。

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2012/04/09

緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する

論文タイトル
Green tea polyphenol EGCG induces lipid-raft clustering and apoptotic cell death by activating protein kinase Cδ and acid sphingomyelinase through a 67 kDa laminin receptor in multiple myeloma cells
論文タイトル(訳)
緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する
DOI
10.1042/BJ20111837
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
April 2012 | Vol.443 | Issue 2 | 525-534
著者名(敬称略)
塚本俊太郎、立花宏文
所属
九州大学大学院農学研究院 生命機能科学部門

抄訳

緑茶カテキンEGCGは多発性骨髄腫に対して特異的にアポトーシスを誘導することが報告されたが、その詳細な作用機序は不明であった。そこで本研究では、EGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導機構の解明を試みた。
 我々はこれまでにEGCGの細胞膜受容体として67-kDa laminin receptor(67LR)を発見している。そこで、EGCGのアポトーシス誘導作用における67LRの関与について検討した結果、多発性骨髄腫において高発現している67LRを介してEGCGが脂質ラフトの会合を誘導することで細胞死を引き起こすことを見出した。さらに、この作用はProtein kinase C delta (PKCδ) および acid sphingomyelinase (aSMase) の活性化により仲介されることを明らかにした。多発性骨髄腫を移植したマウス腫瘍モデルにおいてもEGCG誘導性のPKCδ/aSMase経路の活性化が観察された。以上より、67LRを介したPKCδ/aSMase/脂質ラフト会合は、EGCG誘導性の多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導経路として示された。

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2012/04/06

内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術

論文タイトル
Ultraselective Arterial Embolization of Vasa Recta Using 1.7-French Microcatheter With Small-Sized Detachable Coils in Acute Colonic Hemorrhage After Failed Endoscopic Treatment
論文タイトル(訳)
内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術
DOI
10.2214/AJR.11.7295
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
小金丸 雅道、他
所属
久留米大学医学部 放射線医学教室

抄訳

 急性大腸出血に対する動脈塞栓術は、腸管虚血のような合併症を回避するため超選択的catheter挿入を必要とする。我々はsmall-sized microcatheter system(1.7-F microcatheter, 0.010-inch detachable coil)を用いて超選択的catheter挿入による動脈塞栓術を行い、技術的実行可能性および臨床的有用性を評価した。
 対象は内視鏡的止血困難であった急性大腸出血4例。血管造影にて出血血管を同定後、前述のsystemを用いて大腸の末梢栄養動脈であるvasa rectaの長枝のみを塞栓した。塞栓術は全例成功。塞栓血管平均径は0.5mmであった。塞栓後再出血認めず、経過観察の大腸内視鏡検査にて大腸虚血や梗塞は認めなかった。
 下部消化管出血に対する動脈塞栓術は、保存的加療または内視鏡的止血困難例が適応である。近年はvasa rectaまで選択的catheter挿入による塞栓術が行われる。Vasa rectaは複数の長枝と短枝を分岐し、これらは豊富な吻合が存在する。我々の経験では長枝のみの塞栓が可能であった。これは過去報告例のない超選択的塞栓術である。短枝と塞栓されなかった長枝により塞栓後の腸管虚血や壊死を回避できた可能性が高い。この新たな塞栓術はvasa rectaの長枝のみの限局性塞栓を可能とし、急性大腸出血例に対し安全かつ有用な方法と考える。

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2012/04/04

3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価

論文タイトル
Evaluation of Brain and Head and Neck Tumors with 4D Contrast-Enhanced MR Angiography at 3T
論文タイトル(訳)
3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価
DOI
10.3174/ajnr.A2819
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 33, No. 3 (445-448)
著者名(敬称略)
平井 俊範 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野

抄訳

本研究の目的は富血管性脳・頭頸部腫瘍においてインターベンションを計画する際に栄養血管や腫瘍濃染を同定するのに3テスラ4次元造影MR血管撮影がDSAを置き換えられるかを検証することである。脳・頭頸部腫瘍を有する連続15症例に対して3テスラ4次元造影MR血管撮影とDSAを施行した。4次元造影MR血管撮影は0.9×0.9×1.5 mmの空間分解能、1.9秒の時間分解能で、30ダイナミック撮像を行った。2名の独立した観察者が主な栄養血管、腫瘍濃染について4次元造影MR血管撮影像を評価した。観察者間、各モダリティー間の一致率をκ統計で検定した。4次元造影MR血管撮影において、主な栄養血管、腫瘍濃染の観察者間一致率はそれぞれfair (κ = 0.28)、very good (κ = 0.87)であった。各モダリティー間の一致率は主な栄養血管がmoderate (κ= 0.45)、腫瘍濃染がgood (κ = 0.74)であった。3テスラ4次元造影MR血管撮影は富血管性脳・頭頸部腫瘍の腫瘍濃染の評価に有用であるかもしれないが、インターベンションを計画する際にDSAを置き換えることはできない。

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2012/03/07

Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである

論文タイトル
Galectin-9 and T Cell Immunoglobulin Mucin-3 Pathway Is a Therapeutic Target for Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである
DOI
10.1210/en.2011-1579
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
February 2012 |Vol. 153 |Issue 2 |612-620
著者名(敬称略)
神崎 資子、和田 淳 他
所属
岡山大学大学院 医歯薬総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学

抄訳

 1型糖尿病のモデル動物であるnon-obese diabetic(NOD)マウスは、糖尿病発症に先行してラ氏島炎が認められ、TH1サイトカイン優位で 細胞傷害に働くと考えられている。我々が同定したGalectin-9 (Gal-9)は36kDaのβ-galactoside binding proteinで、TH1細胞の膜蛋白であるT-cell immunoglobulin and mucin-3 (Tim-3)のリガンドとして作用する。組織に浸潤した活性化TH1細胞上のTim-3を介してGal-9がアポトーシスを誘導する。一方、Tim-3は樹状細胞にも発現し、Gal-9がTNF-α分泌を促進することが報告された。そこでGal-9蛋白および抗Tim-3抗体の糖尿病発症に対する効果とその機序について検討した。NODマウス(メス) にリコンビナントGal-9 蛋白(1mg/kg/週)、モノクローナル抗Tim-3抗体(RMT3-23, 0.25mg/3.5日)を計40週間投与した。PBS投与群と比較し、Gal-9投与群、抗Tim-3抗体投与群いずれも有意差をもって糖尿病発症抑制作用を認め、抗Tim-3抗体投与群で最も効果が強力であった(p<0.0001)。培養CD4+Tim-3+TH1細胞の検討では、Gal-9によるTH1細胞のアポトーシス誘導が認められたが、抗Tim-3抗体ではアポトーシスは誘導されなかった。一方tsDCにおいては、抗Tim-3抗体はGal-9によるTNF-αの分泌を用量依存性に抑制した。Gal-9は、TH1細胞のアポトーシスを介してNODマウスの糖尿病発症を抑制すると考えられた。また抗Tim-3抗体は、樹状細胞でTNF-αの分泌を抑制し、TH1細胞ではGal-9のアポトーシス作用を増強することから新しい1型糖尿病の治療ターゲットであると考えられた。

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2012/03/07

局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する

論文タイトル
Regional Neural Activation Defines a Gateway for Autoreactive T Cells to Cross the Blood-Brain Barrier
論文タイトル(訳)
局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する
DOI
10.1016/j.cell.2012.01.022
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
February 2012 |Vol. 148 |Issue 3 |447-457
著者名(敬称略)
有馬 康伸、村上 正晃 他
所属
大阪大学大学院生命機能研究科、医学系研究科、免疫学フロンティア研究センター、JST-CREST、免疫発生学

抄訳

中枢神経系である脳や脊髄の血管は、細菌やウイルスなどの影響を防ぐために特殊な関所として血液脳関門を形成しています。血液脳関門は、免疫細胞はもとより、大きなたんぱく質なども通過できません。しかし、中枢神経系にも細菌やウイルスが感染し、がんや炎症などに起因する難病が発症します。こうした背景から、病原体や免疫細胞などが中枢神経系に入るゲートがある可能性が考えられてきました。しかし、そのゲートがどこにあり、またどのように形成されるのかなど、実体は不明でした。私たちは、中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデルを用いて、血液脳関門のゲートの部位とその形成機構を調べ、第5腰椎の背側の血管がそのゲートであることを突き止めました。また、地球からの重力による日常的な刺激が第5腰椎付近の神経を活性化させ、それが慢性炎症の誘導機構"IL−6アンプ"を活性化することによってこのゲートが形成されることを突き止めました。今回の成果により、精神的ストレスでさまざまな病気が増悪する仕組み、あるいは、適度な運動が病気を改善するメカニズム、さらに、なぜ針治療で多くの病気が改善するのかなど、今まで不明であった神経や精神と免疫系の相互作用の分子基盤が解明されることが期待されます。

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2012/03/07

相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動

論文タイトル
Chimpanzees’ flexible targeted helping based on an understanding of conspecifics’ goals
論文タイトル(訳)
相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動
DOI
10.1073/pnas.1108517109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Februay 2012 |publish ahead of print
著者名(敬称略)
山本 真也
所属
京都大学 霊長類研究所 ヒト科3種比較研究プロジェクト

抄訳

チンパンジーは相手が何を必要としているかを理解し、それにあわせて利他行動を柔軟に変化させるのだろうか。本研究では、利他行動の文脈におけるチンパンジーの他者理解についてより詳細に検討した。隣接する2つのブースのうち、片方には道具使用場面(ステッキ使用場面あるいはストロー使用場面)を設定し、もう一方にはステッキ・ストローを含む7つの道具を与えた。ブース間パネルが透明な条件(「見える」条件)と不透明な条件(「見えない」条件)を48試行ずつ交互におこなったところ、どちらの条件でも道具使用場面の個体が穴から手を伸ばして道具を要求する行動がみられた。しかし、渡し手の道具選択には2条件間に違いがみられ、「見える」条件では相手の状況にあわせて渡す道具の割合を有意に変化させていたのに対し、「見えない」条件ではそのような適切な道具選択ができなかった。5個体中1個体は「見えない」条件でも適切な道具を選択できていたが、この個体は道具を渡す前に穴から相手ブースを覗き見したあとに道具を選択して渡していた。これらの結果から、チンパンジーが相手の置かれている状況を見て相手の欲求を理解し、それに応じて利他行動を柔軟に変化させていることが示唆された。本研究からは、要求行動そのものからではなく、相手の状況から相手の欲求を理解していることが示唆された。チンパンジーの利他行動の生起には状況の理解と要求の理解が別々かつ相補的に働いている可能性が考えられる。

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2011/08/02

線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である

論文タイトル
Caenorhabditis elegans SNAP-29 is required for organellar integrity of the endomembrane system and general exocytosis in intestinal epithelial cells
論文タイトル(訳)
線虫Caenorhabditis elegansのSNAP-29は腸上皮細胞における小胞輸送経路のオルガネラの構造維持とエキソサイトーシスに重要である
DOI
10.1091/mbc.E11-04-0279
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell American Society for Cell Biology
巻号
July 2011 |Vol. 22 |Issue 14 |2579-2587
著者名(敬称略)
佐藤 美由紀、2佐藤 健、他
所属
群馬大学 生体調節研究所 細胞構造分野

抄訳

SNAP-29(synaptosomal-associated protein 29)は細胞内物質輸送において小胞膜と標的膜の融合に働くSNARE(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)分子の1つであり、その遺伝子異常は皮膚表皮角化細胞において層板顆粒分子が蓄積するCEDNIK syndrome(cerebral disgenesis、neuropathy、ichthyosis、keratoderma)の原因となることが報告されている。本研究では、線虫C. elegans の腸上皮細胞におけるSNAP-29ホモログの役割に注目し、解析を行った。その結果、SNAP-29の機能阻害をすると、腸細胞からの卵黄成分(リポタンパク質)の分泌や膜タンパク質の細胞膜への輸送に異常を示し、また違う組織である卵母細胞においても細胞膜への物質輸送に異常を示した。また、SNAP-29はゴルジ体、細胞膜、エンドソームに局在し、この遺伝子の機能阻害によってゴルジ体やエンドソームに局在する膜タンパク質が小型の膜小胞へと分散してしまうことが明らかとなった。これらのことから、SNAP-29は小胞輸送経路における様々なオルガネラに局在し、細胞膜への物質輸送を制御するとともに、ダイナミックに変化するこれらのオルガネラの機能と恒常性維持に働くことが明らかとなった。

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2011/06/13

祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース

論文タイトル
Tracing Protein Evolution through Ancestral Structures of Fish Galectin
論文タイトル(訳)
祖先型タンパク質の立体構造解析による魚類ガレクチンの進化トレース
DOI
10.1016/j.str.2011.02.014
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
May 2011 |Vol. 19 |Issue 5 |711-721
著者名(敬称略)
1今野 歩、2白井 剛、他
所属
1東北大学大学院生命科学研究科
2長浜バイオ大学 コンピュータバイオサイエンス学科

抄訳

生命体を化石から復活することは不可能だが、遺伝子については現存DNA配列から計算により祖先配列を求め、分子生物学的に復元することが可能である。魚類の生体防御タンパク質であるコンジェリンには、加速進化しつつあるConIとConIIのアイソフォームが存在する。本研究では最尤法によりアイソフォームの共通祖先Con-anc'の配列を決定し、立体構造をX線結晶構造解析で求めることに成功した。ConIとIIではフォールドが変化しているが、Con-anc'は予想通り祖系フォールドであった。しかし、構造の詳細はConIとII の中間的性質を示し、Con-anc'が祖先型であることを裏付けていた。Con-anc'の細胞毒性活性は現存タンパク質より低く、生体防御機能に選択圧がかかっている事が示された。また、耐熱性はConI のみで強化され、糖鎖特異性はConIとIIで変化しており、両タンパク質が分化しつつある事が実験的に裏付けられた。

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2011/04/27

結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する

論文タイトル
Silica Crystals and Aluminum Salts Regulate the Production of Prostaglandin in Macrophages via NALP3 Inflammasome-Independent Mechanisms
論文タイトル(訳)
結晶シリカやアルミニウム塩はNALP3インフラマソーム非依存性のメカニズムでマクロファージからのプロスタグランジン産生を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2011.03.019
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
April 2011 |Vol. 34 |Issue 4 |514-526
著者名(敬称略)
黒田 悦史、他
所属
産業医科大学 医学部免疫学寄生虫学講座

抄訳

結晶シリカやアルミニウム塩(アラム)などの粒子状物質の多くはアジュバント活性を有していることが知られており、特にIgE産生促進をはじめとするII型免疫反応を誘導する特徴がある。これらの粒子状物質は細胞内パターン認識レセプターの一つであるインフラマソームを活性化し、炎症性サイトカインを誘導することが知られている。我々はさらに脂質メディエータであるプロスタグランジンE2(PGE2)を介した免疫制御機構を見いだした。  シリカやアラムはマクロファージを刺激してインフラマソーム依存性にインターロイキン1を、インフラマソーム非依存性にPGE2産生を誘導した。PGE2のin vivoにおける役割を検討したところ、PGE2を産生しないPGE合成酵素欠損マウスでは野生型マウスに比べて粒子状物質により誘導される血清IgEの産生が有意に低下していた。粒子状物質によるPGE2産生の分子メカニズムについて解析したところ、p38 MAPキナーゼとspleen tyrosine kinase(Syk)の活性化が関与していることが明らかになった。  これらの結果は粒子状物質によって誘導される脂質メディエータがin vivoにおける免疫反応を制御するという新しいメカニズムを提唱するものである。

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2011/04/19

種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態

論文タイトル
Fluorescence kinetics in HeLa cells after treatment with cell cycle arrest inducers visualized with Fucci (fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator) 
論文タイトル(訳)
種々の細胞周期停止誘導体処理後Fucciによって可視化されるHeLa細胞での蛍光動態
DOI
10.1042/CBI20100643
ジャーナル名
Cell Biology International 
巻号
April 2011 |Vol. 35 |No. 4 |359-363
著者名(敬称略)
戒田 篤志、三浦 雅彦
所属
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 口腔放射線腫瘍学分野

抄訳

Fucciは、理研の宮脇らによって開発された生細胞における細胞周期動態を可視化するシステムである。Fucciを導入した細胞は、正常な細胞周期回転中において、G0/G1期に赤色、S/G2/M期には緑色の蛍光を発する。このシステムは、抗癌剤による細胞動態解析等、癌治療分野への応用が期待されるが、その蛍光動態に関する基本的特性は不明である。そこで我々は、Fucci導入HeLa細胞を用いて、G2/Mアレストを誘導するX線照射や、S期初期でのアレストを誘導するハイドロキシウレア(HU)、そしてM期アレストを誘導するノコダゾールによる処理を施し、それぞれの処理後の蛍光動態を、蛍光顕微鏡での観察とフローサイトメトリーにより解析した。X線照射後またはHU投与後20hには、ほとんどの細胞が緑色蛍光を発し、DNA量によって評価した細胞周期動態と蛍光動態が一致していたが、ノコダゾール投与後では、M期に同調しているにもかかわらず、異常な赤色蛍光の誘導が認められた。このように処理によっては、細胞周期動態と一致しない予期せぬ蛍光動態をもたらす場合があり、Fucciを応用する上で注意が必要であることが分かった。ノコダゾールは微小管重合阻害剤であり、この処理によって赤色蛍光を制御するCdt1のSCFSkp2によるユビキチン化がM期で抑制される知見は興味深い。

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