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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2022/11/17

ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である

論文タイトル
Stratum is required for both apical and basolateral transport through stable expression of Rab10 and Rab35 in Drosophila photoreceptors
論文タイトル(訳)
ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である
DOI
10.1091/mbc.E21-12-0596
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 10
著者名(敬称略)
越智 優果, 佐藤 明子 他
所属
広島大学大学院 統合生命科学研究科 佐藤明子研究室

抄訳

 生体内で機能する細胞の多くは極性を持っている。各々の極 (細胞膜区画) へのポストゴルジ輸送、すなわち極性輸送は、細胞の極性構造の形成と維持に必須である。Mss4 のショウジョウバエオーソログである Stratum (Strat) は、ハエ濾胞細胞で基底膜タンパク質の側底面膜への輸送に必要であること、また、Rab8 が Strat の下流で機能することが報告されている。私達は Strat ヌル変異細胞と野生型細胞の両方を含むモザイク網膜を用いて、ハエ視細胞での Strat の機能を検討した。その結果、Strat 欠損により側底面膜と頂端面膜の一部である光受容膜への輸送の両方が阻害されることを見出した。また、私達は、Strat ヌル変異細胞だけから形成される網膜 (Strat ヌル網膜) を作成し、イミュノブロッティング法 により Rab タンパク質量を検討した結果、Strat ヌル網膜では Rab10 と Rab35 が著しく減少すること、一方 Rab11 は減少しないことを見出した。さらに、私達は、Rab35 は光受容膜に局在し、その欠損が Rh 1ロドプシンの光受容膜への輸送を阻害することを発見した。これらの結果は、Strat が Rab10 と Rab35 の安定発現に必要であり、また、これらの Rab が各々側底面膜、光受容膜への輸送を調節していることを示している。

 

 

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2022/11/16

ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo–electron microscopy structure of the H3-H4 octasome: A nucleosome-like particle without histones H2A and H2B
論文タイトル(訳)
ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1073/pnas.2206542119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS2022 Vol. 119 No. 45 e2206542119
著者名(敬称略)
野澤 佳世 胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻

抄訳

真核生物のゲノムDNAの情報は、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造の中に保存されており、通常ヌクレオソームは、H2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなる8量体にDNAが巻き付いた円盤状の構造をとっている。一方、筆者らはヒト由来タンパク質を用いたクライオ電子顕微鏡解析によって、ヒストンH3、H4の2種類のみでもヌクレオソーム様構造体(H3-H4オクタソーム)が形成されることを明らかにした。H3-H4オクタソームは、ヌクレオソームよりも可動性が高く、クロマチン結合因子の足場となる特徴的な酸性表面を持たないユニークな構造体である。筆者らは、H3-H4オクタソーム特異的な構造を出芽酵母内で検出することにも成功し、H3-H4オクタソームが生体内に存在することを初めて実証した。本研究成果は、ヒストンの変異や修飾だけでなく、ヒストンの含有率もヌクレオソームにアイデンティティを与えることを提唱し、今後のクロマチン研究に新しい観点を加えると考えられる。

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2022/11/14

新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である

論文タイトル
Pseudomonas aegrilactucae sp. nov. and Pseudomonas morbosilactucae sp. nov., pathogens causing bacterial rot of lettuce in Japan
論文タイトル(訳)
新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である
DOI
10.1099/ijsem.0.005599
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 72, Issue 11
著者名(敬称略)
澤田 宏之 他
所属
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源研究センター

抄訳

レタス結球部が腐敗する病害(レタス腐敗病)は、日本をはじめとする世界各地で発生しており、深刻な被害が報告されている。Pseudomonas marginalisがその主要な原因菌の1つとされていたが、本菌は、表現形質では簡単に識別できないような複数の隠蔽種で構成された「種複合体」であることが明らかになりつつある。そして、このことが原因となって本菌の実態把握が妨げられ、本病の診断・防除技術を高度化する上での阻害要因になっている。そのため、本菌の実態を遺伝的・系統的に把握し、合理的な分類体系を構築することが喫緊の課題とされている。本研究では、微生物保存機関である農業生物資源ジーンバンクにおいて、P. marginalisとして保存されているレタス腐敗病菌を対象として、表現形質、化学分類学的性質、分子系統解析および比較ゲノム解析等に基づき、分類学的な検討を行った。その結果、Pseudomonas属の新種として扱うべきものが3菌株見出されたので、そのうちのMAFF 301350株をPseudomonas aegrilactucae、MAFF 302030株とMAFF 302046株をPseudomonas morbosilactucaeと命名することを提案した。

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2022/11/07

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立

論文タイトル
Establishment of a Cynomolgus Macaque Model of Human T-Cell Leukemia Virus Type 1 (HTLV-1) Infection by Direct Inoculation of Adult T-Cell Leukemia Patient-Derived Cell Lines for HTLV-1 Infection
論文タイトル(訳)
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立
DOI
10.1128/jvi.01339-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 31 October 2022 e01339-22
著者名(敬称略)
浦野 恵美子 保富 康宏 他
所属
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター

抄訳

HTLV-1感染により、感染者(キャリア)のおよそ5%が長い潜伏期間を経て難病である成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症するリスクを背負っているが、HTLV-1感染に対する予防法や効果的な治療法は開発されいない。本研究グループはこれらの開発を加速するため、HTLV-1感染霊長類モデルが必要であると考え、HTLV-1感染カニクイザルモデルの確立に成功した。ウイルス単体としてではなく感染細胞から新たな細胞へ伝搬するHTLV-1では、感染源として用いるHTLV-1産生細胞株が重要であると考え、ATL患者由来のHTLV-1高産生細胞株であるATL-040細胞をウイルス源としてカニクイザルに静脈接種したところ、100%の確率で感染が認められた。感染も長期にわたり維持され、慢性感染症であるHTLV-1感染を反映していた。また、ヒトにおいて高いウイルス量や宿主免疫環境と発症の関連が報告されていることから、免疫制御によるアプローチによりウイルス量の増加が観察され、宿主免疫によるHTLV-1制御が示唆された。

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2022/11/04

Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変

論文タイトル
Immunogenic Modification of Ligilactobacillus agilis by Specific Amino Acid Substitution of Flagellin
論文タイトル(訳)
Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変
DOI
10.1128/aem.01277-22
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology October 2022  Volume 88  Issue 20  e01277-22
著者名(敬称略)
梶川 揚申 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科

抄訳

有べん毛乳酸菌Ligilactobacillus agilisは運動性を示す腸内共生細菌である。細菌べん毛繊維構成タンパク質であるフラジェリンはToll-like receptor 5 (TLR5)のアゴニストとして知られるが、興味深いことにL. agilis由来のフラジェリンは、他と類似した構造を持つにも関わらず抗原性が低い。我々はこの理由がTLR5認識部位におけるわずかなアミノ酸残基の違いにあるという仮説に基づき、当該アミノ酸残基を置換した組換えフラジェリンタンパク質およびL. agilis変異株を作製してこれを検証した。結果として、低い抗原性に関わると予測された3か所のアミノ酸残基を置換することで、L. agilisのフラジェリンおよび変異株の抗原性が顕著に増強された。以上より、宿主免疫系が病原細菌と共生細菌を識別する上で、これらのアミノ酸残基の違いが重要であると結論付けられた。

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2022/11/04

Pre-mRNAから翻訳されたCDKインヒビターp27のトランケート型タンパク質はG2期停止を引き起こす

論文タイトル
A Truncated Form of the p27 Cyclin-Dependent Kinase Inhibitor Translated from Pre-mRNA Causes G2-Phase Arrest
論文タイトル(訳)
Pre-mRNAから翻訳されたCDKインヒビターp27のトランケート型タンパク質はG2期停止を引き起こす
DOI
10.1128/mcb.00217-22
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology 01 November 2022 e00217-22
著者名(敬称略)
甲斐田大輔 他
所属
富山大学 学術研究部医学系 遺伝子発現制御学講座

抄訳

Pre-mRNAスプライシングは、真核生物の遺伝子発現にとって必須の機構である。我々は、スプライシング阻害が細胞周期停止を引き起こすことや、細胞周期停止がスプライシング阻害剤の抗がん活性の原因であることを明らかとしてきた。しかしながら、細胞周期停止の詳細な分子メカニズムは明らかではなかった。今回我々は、スプライシング阻害によりG2期で停止した細胞で、pre-mRNAから翻訳されたp27タンパク質のトランケート型(以下p27*)が蓄積していることを明らかとした。p27*の過剰発現はG2期停止を引き起こし、逆に、p27*のノックダウンによりG2/M期からG1期への移行が促進された。また、p27*はM期サイクリンと結合し、そのリン酸化活性を阻害した。さらに、全長のp27はG2/M期においてプロテアソームにより分解されるものの、p27*はプロテアソームによる分解を受けないことも明らかとなった。これらのことから、スプライシング異常時には、pre-mRNA由来のトランケート型タンパク質であるp27*が蓄積し、M期サイクリンを阻害することでG2期停止を引き起こしていると考えられる。

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2022/10/27

新型コロナウイルス変異株でスパイク蛋白質のL452部位に特定のアミノ酸が繰り返し選択される機序を探る

論文タイトル
Dissecting Naturally Arising Amino Acid Substitutions at Position L452 of SARS-CoV-2 Spike
論文タイトル(訳)
新型コロナウイルス変異株でスパイク蛋白質のL452部位に特定のアミノ酸が繰り返し選択される機序を探る
DOI
10.1128/jvi.01162-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology October 2022  Volume 96  Issue 20  e01162-22
著者名(敬称略)
Toong Seng Tan 上野 貴将 他
所属
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター感染免疫学分野

抄訳

新型コロナウイルスのパンデミック宣言から3年足らずの間に、SARS-CoV-2の懸念される変異株が世界各地で出現し、感染者数の増加につながっています。また、こうした変異の蓄積が、ウイルスが複製する能力、感染性や免疫逃避性を高める方向へ進化しているのではないかと懸念されています。我々は、SARS-CoV-2スパイク蛋白質の中で、頻度が高く、繰り返して選択されるL452部位のアミノ酸置換に焦点を絞り、変異が選択される機序を解析しました。この部位にさまざまな変異を導入してウイルス学的、免疫学的な解析を行ったところ、新型コロナウイルスの変異獲得においては、ウイルス感染性や免疫逃避性のみならず、1つの塩基置換のみで、翻訳される蛋白質のアミノ酸が置換される変異が有意に選ばれていることを明らかにしました。

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2022/10/20

母体甲状腺機能低下症はM-オプシン発達遅延と関連する

論文タイトル
Maternal hypothyroidism is associated with M-opsin developmental delay
論文タイトル(訳)
母体甲状腺機能低下症はM-オプシン発達遅延と関連する
DOI
10.1530/JME-22-0114
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology Volume 69: Issue 3 391–399
著者名(敬称略)
齊藤千真 堀口和彦 他
所属
群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座内分泌代謝内科学

抄訳

甲状腺ホルモンは、色覚に関わるオプシンの発達に重要であり、甲状腺機能低下モデルマウスでは、M-オプシンの発達が遅れ、S-オプシンの網膜上での分布が拡大する。しかし、母体甲状腺機能低下症がオプシンの発達に及ぼす影響については不明であった。本研究では、中枢性甲状腺機能低下モデルマウスである甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンノックアウトマウス(TRH-/-)を用い、TRH+/-の血清T4値が野生型と同様であるが、TRH-/-の血清T4が約60%低くなる特性を生かし、母体甲状腺機能低下症がオプシン発達に及ぼす影響について検討した。その結果、甲状腺機能が低下した母体TRH-/-から生まれたTRH+/-では、甲状腺機能がほとんど低下していない母体TRH+/-から生まれたTRH+/-に比べて、生後12日目のM-オプシン発現が低かった。これらの結果は、母体甲状腺機能低下症が新生児マウスの発育初期にM-オプシン発達遅延を引き起こす可能性を示唆するものであった。

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2022/10/13

プレシジョン医療における前立腺癌のアンドロゲン受容体変異

論文タイトル
Androgen receptor mutations for precision medicine in prostate cancer
論文タイトル(訳)
プレシジョン医療における前立腺癌のアンドロゲン受容体変異
DOI
10.1530/ERC-22-0140
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer Volume 29: Issue 10 R143–R155
著者名(敬称略)
塩田 真己 他
所属
九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

抄訳

進行性前立腺癌の治療には、アンドロゲン遮断療法やアビラテロン、エンザルタミドなどのアンドロゲン受容体(AR)経路阻害剤などのホルモン療法が広く用いられている。しかし、ほとんどの前立腺癌においてホルモン療法後に治療抵抗性が出現し、その原因のひとつとしてAR変異が知られている。前立腺癌では様々なAR変異が報告されているが、とりわけAR変異(L702H、W742L/C、H875Y、F877L、T878A/S)は治療抵抗性となった後に頻繁にみられる。興味深いことに、これらのホットスポット変異は、ステロイドや抗アンドロゲンなどのリガンドの結合親和性を変化させ、AR経路阻害剤に対する反応を変化させる可能性がある。現在、前立腺癌の治療において、ゲノム情報を活用して患者に適した治療を選択するプレシジョン医療は、ますます重要な役割を果たすようになってきている。AR変異とAR経路阻害剤の効果に関する臨床データが蓄積されつつあることから、AR変異の状態をリキッドバイオプシーによりモニタリングすることは、前立腺癌のプレシジョン医療を提供するための有望なアプローチである。しかし、前立腺癌におけるARホットスポット変異の臨床的意義に関する総説はほとんどないため、本総説では、AR変異に関する報告をまとめ、臨床利用へ向けた展望について考察した。

 

 

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2022/10/11

糖尿病クラスター分類によるサルコペニア予測:日本人前向きコホート研究

論文タイトル
Detecting Sarcopenia Risk by Diabetes Clustering: A Japanese Prospective Cohort Study
論文タイトル(訳)
糖尿病クラスター分類によるサルコペニア予測:日本人前向きコホート研究
DOI
10.1210/clinem/dgac430
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 107, Issue 10, October 2022, Pages 2729–2736
著者名(敬称略)
田辺 隼人, 島袋 充生 他
所属
福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座

抄訳

糖尿病は、現在、1型、2型に分類する。2018年、北欧グループは人工知能解析で、成人発症糖尿病は5つのクラスター(群)にわかれることを報告し、福島医大グループは、日本人糖尿病も同様に5群にわかれることを確認した。糖尿病の臨床的特徴や合併症(腎症や冠動脈疾患)の割合が各群で違うことが様々な人種で報告されている。本研究は、糖尿病におけるサルコペニア発症率が各群で違うか検討した。対象は1型または2型糖尿病586名。観察開始時サルコペニアは38名(6.5%)。これを除外した548名を3年間前向きに観察し、55名がサルコペニア新規発症と診断された。1群(自己免疫型)と2群(重度インスリン欠乏型)が、サルコペニア発症の高リスク群と判明した。一方、従来の1型、2型糖尿病間でサルコペニアの発症頻度に差はなかった。本研究は、クラスター分類が、糖尿病患者のサルコペニアの予測や予防に有用である可能性を初めて示した。

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