抄訳
近年、真菌症が、人類の脅威とまでいわれるようになり、若干センセーショナルな書かれ方もする(最も危険な「真菌類」、WHOが優先順位リストを発表, FORBES Japan)。しかし、病理現場などでも確かに診断にも治療にも難渋して死に至るケースは少なくない。さて、そのように重篤な転帰をもたらす深在性真菌症であるが、4大原因真菌には、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、ムコールがある。半世紀以上前から、これら真菌などを組織内で証明するには銀粒子を使った特殊染色が用いられ、現在でも汎用されているのはグロコット染色といわれる手技である。真菌に含まれる多糖をクロム酸で酸化し、遊離したアルデヒド基にメセナミン銀を反応させて菌体を染め出すのだが、菌壁が薄く隔壁を持たないムコール菌の場合、酸化力の強いクロム酸では他の真菌に比べてカルボキシル基にまで酸化が進みメセナミン銀との反応が不十分になり、判別が困難であった。そこで、比較的酸化力の弱い過ヨウ素酸処理を行ったところ、ムコール菌の染色を増強させることを可能にした。加えて、免疫組織化学染色で多用される熱処理を行うことで結合組織、血液細胞などへの共染反応が抑制され、菌体の判別が容易になった。一方、ムコール菌のRhizopus抗体による免疫染色での検出率は70%(7/10例)であり、しかも、その多くは弱陽性で判定は困難であった。このことからも、疑われる真菌に対応した染色手技(本例はグロコット染色の変法)を併用することが有用である。