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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2026/08/05

新規抗真菌化合物NPD2560はRho1を中心とするシグナルネットワークを攪乱し、細胞壁ストレス応答を誘導する

論文タイトル
The novel antifungal agent NPD2560 perturbs the Rho1-centered signaling network to induce a cell wall integrity response.
論文タイトル(訳)
新規抗真菌化合物NPD2560はRho1を中心とするシグナルネットワークを攪乱し、細胞壁ストレス応答を誘導する
DOI
10.1128/spectrum.03630-25
ジャーナル名
Microbiology spectrum
巻号
Microbiol Spectr 14:e03630-25
著者名(敬称略)
劉 薇、大矢 禎一 他
所属
長岡技術科学大学 技術科学イノベーション系
著者からのひと言
抗真菌剤の作用機序を明らかにすることは、薬剤開発だけでなく、真菌細胞の仕組みを理解する上でも重要です。この研究では、出芽酵母の優れた遺伝学的解析系を活用し、新規化合物NPD2560がRho1を中心とする細胞壁制御ネットワークを攪乱することを明らかにしました。既存のグルカン合成阻害剤とは異なる作用を示す点にも注目していただければと思います。

抄訳

真菌感染症の増加や薬剤耐性の出現により、新しい作用機序をもつ抗真菌剤の開発が求められています。本研究では、クマリン誘導体NPD2560が、治療の難しい病原真菌Candida kruseiに対して殺菌作用を示すことを見いだしました。出芽酵母を用いた網羅的な化学遺伝学解析から、NPD2560の作用には、細胞壁形成を制御する低分子量GTPase Rho1を中心としたネットワークが重要であることが明らかになりました。NPD2560処理により細胞壁のβ-(1,6)-グルカンが減少し、細胞壁ストレス応答が活性化されるとともに、キチンの蓄積を含む代償的な細胞壁再構築が誘導されました。その作用は、β-(1,3)-グルカン合成を標的とする既存の抗真菌剤や、既知のβ-(1,6)-グルカン合成阻害剤とは異なっており、本化合物は真菌細胞壁の制御機構を解析する新たな化学プローブとして、また新規抗真菌剤開発の候補化合物として期待されます。

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2026/08/04

腸炎ビブリオTsrAは核様体タンパク質H-NSの共調節因子としてⅢ型分泌装置2の発現を制御する

論文タイトル
TsrA modulates type III secretion system 2 expression as a co-regulator of H-NS in Vibrio parahaemolyticus.
論文タイトル(訳)
腸炎ビブリオTsrAは核様体タンパク質H-NSの共調節因子としてⅢ型分泌装置2の発現を制御する
DOI
10.1128/jb.00556-25
ジャーナル名
Journal of bacteriology
巻号
J Bacteriol 208:e00556-25
著者名(敬称略)
Tan Paramita Wibowo Sutanto, Andre Pratama, 松田 重輝 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 細菌感染分野
著者からのひと言
本論文では、腸炎ビブリオの病原性遺伝子発現に関わる因子として、ビブリオ属細菌に保存されるTsrAというタンパク質に着目しました。TsrAが核様体タンパク質H-NSと相互作用することを初めて実験的に示し、ビブリオ属細菌ではこれまで知られていなかったH-NS共調節因子として機能することを明らかにしました。

抄訳

核様体タンパク質は細菌の病原性遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている。代表的な核様体タンパク質であるH-NSは、しばしば共調節因子と協調して機能する。本研究では、ビブリオ属細菌に保存される小型タンパク質TsrAが、主要な食中毒原因細菌である腸炎ビブリオの病原因子であるⅢ型分泌装置2(T3SS2)の遺伝子発現を負に制御することを明らかにした。TsrAはC末端領域を介してH-NSと直接相互作用し、T3SS2遺伝子群のマスター転写因子であるVtrBの発現を転写レベルで抑制していた。さらに、TsrAのC末端領域の変異解析により、その調節活性に重要なアミノ酸残基を明らかにした。以上より、TsrAがH-NSの共調節因子として機能することを初めて明らかにするとともに、腸炎ビブリオにおける病原性遺伝子発現制御機構に関する新たな知見を提供した。

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2026/08/04

原子間力顕微鏡と弾性シェル理論による接着動物細胞の硬さと内部圧力の同時評価

論文タイトル
Simultaneous quantification of cell elasticity and internal pressure in adherent animal cells
論文タイトル(訳)
原子間力顕微鏡と弾性シェル理論による接着動物細胞の硬さと内部圧力の同時評価
DOI
10.1016/j.bpj.2026.06.009
ジャーナル名
Biophysical Journal
巻号
Biophysical Journal Volume 125, Issue 14 p3653-3662
著者名(敬称略)
Emi Kurnia Sari、釣 優香、細川 陽一郎 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究領域生体プロセス工学研究室
著者からのひと言
動物細胞のミクロな構造に、建築学のマクロな理論を適用し、細胞の力学を明らかにする奇抜な発想の論文です。

抄訳

本研究では、複数の動物細胞について、細胞の形状と力学応答を詳細に解析しました。その結果、動物細胞では、細胞膜とその内側を支える細胞骨格が一体となり、薄い殻(シェル)のように細胞全体を支える構造を形成していることを明らかにしました。この構造に、建築学において薄い屋根やタンクの力学解析に用いられるシェル理論を適用することで、これまで区別して評価することが難しかった「細胞膜とその裏打ち構造を合わせた表層部分の硬さ」と「細胞内部から細胞を押し広げる力(内部圧力)」を同時に評価することに成功しました。これにより、細胞の力学特性を単なる硬さとして捉えるだけでなく、その背景にある力学状態を考えることが可能になりました。今後、より多様な細胞種に本手法を適用することで、細胞骨格構造と力学特性との関係の解明が進むことが期待されます。

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2026/08/03

成人型びまん性神経膠腫の1H-MR spectroscopyによるシスタチオニンの定量的評価

論文タイトル
The Utility of Cystathionine Assessment Using Proton MRS for the Preoperative Differential Diagnosis of Adult-Type Diffuse Gliomas.
論文タイトル(訳)
成人型びまん性神経膠腫の1H-MR spectroscopyによるシスタチオニンの定量的評価
DOI
10.3174/ajnr.A9192
ジャーナル名
AJNR. American journal of neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology July 2026, 47 (7) 1869-1878
著者名(敬称略)
菊地 一史
所属
九州大学病院 放射線科
著者からのひと言

抄訳

【目的/背景】
本研究の目的は、シスタチオニンの定量的評価が成人型びまん性神経膠腫の術前鑑別に有用か検討することである。
【方法】
2019年から2025年に当院で手術前にMRIおよび1H-MRSを施行し、病理学的に成人型びまん性神経膠腫と診断された83例を後方視的に選択し、乏突起膠腫25例、星細胞腫28例、膠芽腫30例が対象となった。LCModelを用いてシスタチオニン濃度を定量し、群間比較にはボンフェロニ補正したunpaired t-test、3群全体の統計解析にKruskal–Wallis検定を用い、ROC解析により診断能を評価した。
【結果】
星細胞腫 (0.437±0.403 mM) と比較して、乏突起膠腫 (1.040±0.908 mM) ではシスタチオニン濃度が有意に高値 (P=0.0025) であった。膠芽腫 (0.538±0.796) も星細胞腫より高値を示したが、有意差はなかった。乏突起膠腫と膠芽腫の間にも有意差は認めなかった。ROC解析では、乏突起膠腫と星細胞腫の鑑別において中等度の診断能を示した (AUC 0.69、感度56%、特異度86%)。
【考察】
シスタチオニンは乏突起膠腫において、特異的に高値を示す代謝マーカーとして有用であるが、一部の膠芽腫においても増加とする報告がある。本研究でも同様の傾向が確認された。膠芽腫では壊死や微小出血によるコンタミネーションや代謝経路の変化が影響する可能性が考えられる。したがって、シスタチオニンは、成人びまん性神経膠腫において補助的な診断ツールと考えられた。
【結論】
1H-MRSによるシスタチオニン評価は、乏突起膠腫および膠芽腫と星細胞腫の鑑別に有用であり、術前診断の精度向上に寄与し得る。ただし乏突起膠腫と膠芽腫の区別には限界があり、臨床的特徴や他の画像所見と併用することが望ましい。

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2026/08/03

日本人健康被験者におけるナキュバクタムとβ-ラクタム系抗菌薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、またはピペラシリン)との薬物相互作用の評価

論文タイトル
Evaluation of drug-drug interaction between nacubactam and β-lactam antibiotic (cefepime, aztreonam, meropenem, or piperacillin) in Japanese healthy participants.
論文タイトル(訳)
日本人健康被験者におけるナキュバクタムとβ-ラクタム系抗菌薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、またはピペラシリン)との薬物相互作用の評価
DOI
10.1128/aac.00282-26
ジャーナル名
Antimicrobial agents and chemotherapy
巻号
Antimicrob Agents Chemother 70:e00282-26
著者名(敬称略)
森田 順
所属
Meiji Seika ファルマ株式会社
著者からのひと言

抄訳

日本人健康成人を対象に、ナキュバクタムと各併用薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、ピペラシリン)の薬物相互作用を評価する単施設、非盲検、3期クロスオーバー単回投与試験を実施した。各期でナキュバクタムと各併用薬を60分静脈内注射し、Cmax、AUC0–t、AUC0–∞の幾何平均比と90%信頼区間で相互作用を評価した。セフェピム及びアズトレオナム併用時を含め、いずれの併用薬でもナキュバクタムおよび各併用薬の曝露は単独投与と同等で、幾何平均比の90%信頼区間はすべて0.80–1.25内で尿中排泄も同等であった。ナキュバクタム代謝物(M1/M2)はナキュバクタムに比べ低値で、併用による変動は小さかった。各β-ラクタム系抗菌薬との併用時においても安全性・忍容性は良好で、新たな安全性上の懸念は認められなかった。以上より、セフェピムおよびアズトレオナムを含めいずれのβ-ラクタム系抗菌薬との併用時に薬物相互作用は認められなかった。

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2026/08/03

エゾヤチネズミを宿主とするオルソハンタウイルスであるHokkaidoウイルスの自然環境下における感染維持機構

論文タイトル
Maintenance of Hokkaido virus, a genotype of Orthohantavirus puumalaense, in the rodent host Myodes rufocanus bedfordiae under natural conditions
論文タイトル(訳)
エゾヤチネズミを宿主とするオルソハンタウイルスであるHokkaidoウイルスの自然環境下における感染維持機構
DOI
10.1128/jvi.00321-26
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Vol. 100, No. 7
著者名(敬称略)
Thi Ngoc Thuy Duong 苅和 宏明 他
所属
北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野 公衆衛生学教室
著者からのひと言
 オルソハンタウイルスは、宿主となるげっ歯類から人に感染してハンタウイルス感染症を引き起こす。オルソハンタウイルスに属するHokkaido virus(HOKV)は、宿主のエゾヤチネズミにおいて、急性感染期と持続感染期のいずれの時期にも重大な病理学的変化を引き起こすことなく、多臓器にウイルスが分布し、唾液、尿、および糞便から感染性ウイルスが排出されることが明らかになった。これらの知見は、宿主におけるオルソハンタウイルスの持続感染、および伝播機序に関する理解を深めるものとして重要である。

抄訳

自然条件下におけるオルソハンタウイルスの維持および伝播のメカニズムは依然として明らかになっていない。そこで本研究では、オルソハンタウイルスの一つであるHokkaido virus(HOKV)の自然宿主となっているエゾヤチネズミを2022年から2025年にかけて北海道当別町の森林において捕獲し、HOKVの宿主体内での分布と排出について調べた。捕獲された199匹のげっ歯類のうち、23匹がHOKVに感染していた。これらの個体についてウイルスRNAと抗体の保有状況を調べたところ、5個体は急性感染期であり、18個体は持続感染期あると考えられた。Realtime PCRおよび免疫組織化学染色により、HOKVは感染の急性感染期と持続感染期のいずれの個体においても、肺、腎臓、脾臓から高レベルのウイルスRNAおよび抗原が一貫して検出された。また、感染個体の口腔スワブ、尿、糞便からも感染性のあるHOKVが回収された。これらの知見は、オルソハンタウイルスが宿主の臓器内で高いウイルス量を維持して持続感染し、感染期間を通じて排出され得ることを示している。

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2026/07/31

難治性末梢性T細胞リンパ腫非特定型に対し、ゲムシタビン単剤が同種造血幹細胞移植への橋渡しとなった1例

論文タイトル
Single-agent gemcitabine enabling successful bridging to allogeneic haematopoietic stem-cell transplantation in refractory peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified
論文タイトル(訳)
難治性末梢性T細胞リンパ腫非特定型に対し、ゲムシタビン単剤が同種造血幹細胞移植への橋渡しとなった1例
DOI
10.1136/bcr-2025-268692
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Volume 19, Issue 6
著者名(敬称略)
北川 智也 他
所属
関西電力病院 血液内科

抄訳

末梢性T細胞リンパ腫非特定型(PTCL-NOS)は不均一性が高く、再発・難治例の予後は不良です。本症例は20歳代男性で、brentuximab vedotin併用CHP療法、SMILE療法、pralatrexate療法のいずれにも抵抗性を示しました。その後、ゲムシタビン単剤療法により不確定な完全寛解(CRu)が得られ、骨髄非破壊的処置による同種造血幹細胞移植へ移行することができました。移植後36か月時点でも再発なく経過しています。また、治療経過を通じて白血球/リンパ球比(LLR)が病勢と概ね並行して推移しており、簡便な補助的指標となる可能性が示唆されました。本症例は、難治性PTCL-NOSにおいて、ゲムシタビン単剤が毒性を抑えつつ移植への橋渡し治療となり得る可能性を示すものです

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2026/07/31

光合成酸素発生系における脂肪族アミノ酸からカルボキシレート配位子の翻訳後生成

論文タイトル
Posttranslational generation of carboxylate ligands from aliphatic side chains in the photosynthetic oxygen-evolving complex
論文タイトル(訳)
光合成酸素発生系における脂肪族アミノ酸からカルボキシレート配位子の翻訳後生成
DOI
10.1073/pnas.2610028123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2610028123
著者名(敬称略)
水江 初音 野口 巧 他
所属
名古屋大学大学院理学研究科物理科学領域
著者からのひと言
光合成による酸素発生は、太古の地球環境を大きく変え、生命の進化に大きな影響を与えました。この酸素発生を担う光化学系Ⅱにおける酸素発生系が、脂肪族アミノ酸をはじめとする様々なアミノ酸から、触媒中心であるマンガンクラスターのカルボキシレート配位子を翻訳後修飾によってタンパク質レベルで生成する能力を有することが明らかとなりました。この能力は、24億年以前に起こった光合成酸素発生の起源と進化に重要な役割を果たしたと考えられます。

抄訳

光合成酸素発生は、光化学系Ⅱの酸素発生系に存在するMn4CaO5クラスターによって触媒される。この反応は約24億年前の大酸化イベント以前に始まったと考えられるが、光化学系Ⅱの進化の過程で酸素発生系がどのように形成されたかは未だ不明である。我々は以前、シアノバクテリアにおけるMn4CaO5クラスターのアスパラギン酸/グルタミン酸配位子をヒスチジンやアスパラギン/グルタミンに改変した変異体において、これらのアミノ酸残基が翻訳後に本来のカルボキシレート残基に変換されることを見出した。本研究では、反応性置換基を持たない脂肪族アミノ酸が同様なアミノ酸変換を起こすか否かを調べた。その結果、アスパラギン酸配位子D1-Asp170をバリン/ロイシン/イソロイシンに、またグルタミン酸配位子D1-Glu189をロイシン/イソロイシンに改変した変異体では、これらの脂肪族アミノ酸がアスパラギン酸/グルタミン酸またはそれらの誘導体に翻訳後変換され、酸素発生活性を回復することが示された。これらの結果は、翻訳後アミノ酸変換による配位子形成が、光合成酸素発生系に本来備わっている一般的な特性であることを示している。このことは、翻訳後アミノ酸変換が光合成酸素発生の起源と進化に重要な役割を果たしたという我々の仮説を支持するものである。

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2026/07/31

液胞リパーゼAtg15の膜認識と活性化を支える構造・分子機構

論文タイトル
Structural and mechanistic basis for membrane recognition and activation of the vacuolar lipase Atg15
論文タイトル(訳)
液胞リパーゼAtg15の膜認識と活性化を支える構造・分子機構
DOI
10.1073/pnas.2601290123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2601290123
著者名(敬称略)
堀江 (川俣)朋子1 境 祐二2
所属
1 東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター
2 横浜市立大学 理学部 理学科 生命ナノシステム科学研究科
著者からのひと言
細胞の中では、不要な膜を分解しながら、液胞膜などの大切な膜は守らなければなりません。本研究では、分子動力学シミュレーションと酵母・試験管内での実験を組み合わせ、脂質分解酵素Atg15が活性化され、分解対象の膜に優先的に働く仕組みを明らかにしました。計算による予測を実験で確かめることで、切断、膜結合、膜曲率認識という多段階の制御が見えてきました。細胞が膜を「安全に壊す」巧妙な仕組みを、ぜひご覧ください。

抄訳

オートファジーでは、細胞質成分を取り込んだオートファゴソームが液胞へ融合し、液胞内のオートファジックボディーなどの膜が分解される。しかし、脂質分解酵素Atg15が、周囲の液胞膜を傷つけることなく標的となる内腔膜に作用する仕組みは不明であった。
本研究では、酵母を用いた細胞内解析と試験管内実験に、全原子・粗視化分子動力学シミュレーションを組み合わせ、Atg15の活性化と膜認識機構を明らかにした。ジスルフィド結合は触媒コアの構造を安定化し、切断前のC末端領域は活性中心を閉じた状態に固定していた。C末端の切断後、膜への結合によって活性中心が開き、脂質が触媒部位へ到達できるようになった。さらにAtg15は、平坦な膜よりも小胞に相当する正の曲率をもつ膜に優先的に結合した。これらの結果から、Atg15は構造安定化、切断、膜結合、膜曲率認識という多段階の制御により、分解対象となる内腔膜を安全かつ優先的に分解すると考えられる。

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2026/07/31

ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の小サブユニットM20は、自己脱リン酸化の抑制によりMYPT1の抑制性リン酸化を増強する

論文タイトル
Small subunit M20 augments inhibitory phosphorylation of MYPT1 in myosin light chain phosphatase by inhibiting autodephosphorylation
論文タイトル(訳)
 ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の小サブユニットM20は、自己脱リン酸化の抑制によりMYPT1の抑制性リン酸化を増強する
DOI
10.1073/pnas.2534343123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2534343123
著者名(敬称略)
山下哲生1、平野勝也1,2
所属
1香川大学医学部自律機能生理学
2現・福岡歯科大学
著者からのひと言
本研究の特筆すべき成果は、出芽酵母発現系を用いて長大な天然変性領域をもつ完全長MYPT1を含むMLCP複合体を高純度で再構成し、発見以来30年にわたり機能不明であったM20の機能を明らかにしたことです。本成果は、MLCPの新たな調節原理を示すものであり、高血圧や血管疾患、がんなど、MLCPが関与する病態の解明や治療法開発の基盤となることが期待されます。

抄訳

 ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(MLCP)は、ミオシン軽鎖を脱リン酸化し、平滑筋の弛緩やさまざまな細胞機能を調節します。MLCPを構成する三つのサブユニット(PP1c, MYPT1, M20)のうち、M20が酵素機能にどのように関与するかは明らかではありませんでした。本研究では、M20の有無で再構成したMLCPを生化学的に比較するとともに、高速原子間力顕微鏡を用いてその分子動態を観察しました。M20を欠くMLCPでは、MYPT1を介した複合体間の会合によってスーパー二量体が形成され、MYPT1の自己脱リン酸化が促進されました。これに対し、M20はMYPT1のC末端領域に結合して複合体間の会合を妨げ、Thr696およびThr853のリン酸化状態を維持しました。以上から、M20はMLCPの高次構造を変化させることにより自己脱リン酸化を制御し、酵素の抑制状態を調節することが示されました。本研究は、平滑筋収縮や細胞運動に関わるMLCPの新たな調節原理を提示するものです。

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