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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2022/11/30

クッシング症候群のモデル動物

論文タイトル
Animal Models of Cushing's Syndrome
論文タイトル(訳)
クッシング症候群のモデル動物
DOI
10.1210/endocr/bqac173
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 163, Issue 12, December 2022, bqac173
著者名(敬称略)
西山 充 他
所属
高知大学 保健管理センター

抄訳

クッシング症候群は副腎グルココルチコイドの過剰により特徴的な症候や合併症を呈する病態である。内因性クッシング症候群は下垂体性と副腎性に大別されるが、近年これらの原因となる遺伝的背景が明らかにされてきた。一方で、グルココルチコイド治療に伴う外因性クッシング症候群もよく見られる。本論文では、クッシング症候群の病態解明や治療法開発を目的として作出されたモデル動物について概説する。外因性クッシング症候群の誘導は最も簡便な方法であり、飲水中へのコルチコステロン混入が広く行われているが、最近我々はコルチコステロン・ペレットをマウス皮下に埋め込む方法を考案した。発生工学的手法を用いて、Crh過剰発現およびPrkar1a欠損によるクッシング症候群モデルマウスも作出された。ヌードマウスへのAtT20細胞移植による方法も確立されており、下垂体性クッシング病に対する治療法開発の際に用いられる。本論文では、これらのモデル動物を用いて解明されたグルココルチコイド過剰に伴う病態(11beta HSD-1発現、肥満・過食、糖尿病、骨粗鬆症)の分子機構についても概説する。

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2022/11/29

複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失

論文タイトル
Loss of tolerance to multiple environmental stresses due to limitation of structural diversity of complex sphingolipids
論文タイトル(訳)
複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失
DOI
10.1091/mbc.E22-04-0117
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 12
著者名(敬称略)
古賀 綾乃, 谷 元洋 他
所属
九州大学大学院 理学研究院 化学部門

抄訳

 真核生物の生育に必須な膜脂質である複合スフィンゴ脂質は、複雑な構造バリエーションを持ち、この構造多様性は複合スフィンゴ脂質が多彩な生理機能を発揮するための重要な分子基盤であると考えられている。しかしながら、その全体像は殆ど不明である。我々は、出芽酵母を用いて様々な複合スフィンゴ脂質サブタイプが抜け落ちた複合スフィンゴ脂質構造多様性破綻ライブラリーを構築し、複合スフィンゴ脂質の構造多様性が限定されればされるほど、多面的な環境ストレス耐性能が低下することを見出した。また、複合スフィンゴ脂質が一種類のみとなった変異株では、Slt2 MAP kinaseや転写因子Msn2/4が、細胞壁および形質膜のインテグリティーの補填をすることで、複合スフィンゴ脂質多様性破綻によって引き起こされるストレス耐性能低下を抑制していることがわかった。これらの結果より、複合スフィンゴ脂質の多様性の限定は、細胞壁、形質膜といった細胞表面環境の異常を介して多面的ストレス高感受性をもたらすことが考えられた。 

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2022/11/21

小笠原におけるグリーンアノールの捕獲のための止まり木直径の選択性

論文タイトル
Selectivity of Perch Diameter by Green Anole (Anolis carolinensis) for Trapping in Ogasawara
論文タイトル(訳)
小笠原におけるグリーンアノールの捕獲のための止まり木直径の選択性
DOI
10.5358/hsj.41.172
ジャーナル名
Current Herpetology
巻号
Current Herpetology Volume 41, Issue 2
著者名(敬称略)
三谷 奈保
所属
日本大学 生物資源科学部 生物環境工学科

抄訳

 小笠原諸島における外来のグリーンアノールの防除対策は、主に粘着トラップである。アノールがよく利用する木の幹の特徴が特定されれば、そういった場所にトラップを集中させることにより捕獲効率が向上する可能性がある。幹の直径による選択性について分析するため、アノールが利用していた270本の木の幹と調査地域にある1,024本の木の幹の直径を測定した。その結果、トカゲは直径1cm以下の幹を避けることが明らかになった。一方、直径が2cm以上ある幹については、直径の大小にかかわらず、ランダムに利用されていた。地域や森林によって、樹木の直径分布は変化する。アノールがよく利用する木の幹の直径の範囲は場所によって変化することが推測される。様々な直径の幹や枝に有効な捕獲技術を開発することは有益であろう。

 

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2022/11/17

ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である

論文タイトル
Stratum is required for both apical and basolateral transport through stable expression of Rab10 and Rab35 in Drosophila photoreceptors
論文タイトル(訳)
ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である
DOI
10.1091/mbc.E21-12-0596
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 10
著者名(敬称略)
越智 優果, 佐藤 明子 他
所属
広島大学大学院 統合生命科学研究科 佐藤明子研究室

抄訳

 生体内で機能する細胞の多くは極性を持っている。各々の極 (細胞膜区画) へのポストゴルジ輸送、すなわち極性輸送は、細胞の極性構造の形成と維持に必須である。Mss4 のショウジョウバエオーソログである Stratum (Strat) は、ハエ濾胞細胞で基底膜タンパク質の側底面膜への輸送に必要であること、また、Rab8 が Strat の下流で機能することが報告されている。私達は Strat ヌル変異細胞と野生型細胞の両方を含むモザイク網膜を用いて、ハエ視細胞での Strat の機能を検討した。その結果、Strat 欠損により側底面膜と頂端面膜の一部である光受容膜への輸送の両方が阻害されることを見出した。また、私達は、Strat ヌル変異細胞だけから形成される網膜 (Strat ヌル網膜) を作成し、イミュノブロッティング法 により Rab タンパク質量を検討した結果、Strat ヌル網膜では Rab10 と Rab35 が著しく減少すること、一方 Rab11 は減少しないことを見出した。さらに、私達は、Rab35 は光受容膜に局在し、その欠損が Rh 1ロドプシンの光受容膜への輸送を阻害することを発見した。これらの結果は、Strat が Rab10 と Rab35 の安定発現に必要であり、また、これらの Rab が各々側底面膜、光受容膜への輸送を調節していることを示している。

 

 

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2022/11/16

ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo–electron microscopy structure of the H3-H4 octasome: A nucleosome-like particle without histones H2A and H2B
論文タイトル(訳)
ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1073/pnas.2206542119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS2022 Vol. 119 No. 45 e2206542119
著者名(敬称略)
野澤 佳世 胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻

抄訳

真核生物のゲノムDNAの情報は、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造の中に保存されており、通常ヌクレオソームは、H2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなる8量体にDNAが巻き付いた円盤状の構造をとっている。一方、筆者らはヒト由来タンパク質を用いたクライオ電子顕微鏡解析によって、ヒストンH3、H4の2種類のみでもヌクレオソーム様構造体(H3-H4オクタソーム)が形成されることを明らかにした。H3-H4オクタソームは、ヌクレオソームよりも可動性が高く、クロマチン結合因子の足場となる特徴的な酸性表面を持たないユニークな構造体である。筆者らは、H3-H4オクタソーム特異的な構造を出芽酵母内で検出することにも成功し、H3-H4オクタソームが生体内に存在することを初めて実証した。本研究成果は、ヒストンの変異や修飾だけでなく、ヒストンの含有率もヌクレオソームにアイデンティティを与えることを提唱し、今後のクロマチン研究に新しい観点を加えると考えられる。

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2022/11/14

新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である

論文タイトル
Pseudomonas aegrilactucae sp. nov. and Pseudomonas morbosilactucae sp. nov., pathogens causing bacterial rot of lettuce in Japan
論文タイトル(訳)
新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である
DOI
10.1099/ijsem.0.005599
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 72, Issue 11
著者名(敬称略)
澤田 宏之 他
所属
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源研究センター

抄訳

レタス結球部が腐敗する病害(レタス腐敗病)は、日本をはじめとする世界各地で発生しており、深刻な被害が報告されている。Pseudomonas marginalisがその主要な原因菌の1つとされていたが、本菌は、表現形質では簡単に識別できないような複数の隠蔽種で構成された「種複合体」であることが明らかになりつつある。そして、このことが原因となって本菌の実態把握が妨げられ、本病の診断・防除技術を高度化する上での阻害要因になっている。そのため、本菌の実態を遺伝的・系統的に把握し、合理的な分類体系を構築することが喫緊の課題とされている。本研究では、微生物保存機関である農業生物資源ジーンバンクにおいて、P. marginalisとして保存されているレタス腐敗病菌を対象として、表現形質、化学分類学的性質、分子系統解析および比較ゲノム解析等に基づき、分類学的な検討を行った。その結果、Pseudomonas属の新種として扱うべきものが3菌株見出されたので、そのうちのMAFF 301350株をPseudomonas aegrilactucae、MAFF 302030株とMAFF 302046株をPseudomonas morbosilactucaeと命名することを提案した。

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2022/11/07

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立

論文タイトル
Establishment of a Cynomolgus Macaque Model of Human T-Cell Leukemia Virus Type 1 (HTLV-1) Infection by Direct Inoculation of Adult T-Cell Leukemia Patient-Derived Cell Lines for HTLV-1 Infection
論文タイトル(訳)
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立
DOI
10.1128/jvi.01339-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 31 October 2022 e01339-22
著者名(敬称略)
浦野 恵美子 保富 康宏 他
所属
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター

抄訳

HTLV-1感染により、感染者(キャリア)のおよそ5%が長い潜伏期間を経て難病である成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症するリスクを背負っているが、HTLV-1感染に対する予防法や効果的な治療法は開発されいない。本研究グループはこれらの開発を加速するため、HTLV-1感染霊長類モデルが必要であると考え、HTLV-1感染カニクイザルモデルの確立に成功した。ウイルス単体としてではなく感染細胞から新たな細胞へ伝搬するHTLV-1では、感染源として用いるHTLV-1産生細胞株が重要であると考え、ATL患者由来のHTLV-1高産生細胞株であるATL-040細胞をウイルス源としてカニクイザルに静脈接種したところ、100%の確率で感染が認められた。感染も長期にわたり維持され、慢性感染症であるHTLV-1感染を反映していた。また、ヒトにおいて高いウイルス量や宿主免疫環境と発症の関連が報告されていることから、免疫制御によるアプローチによりウイルス量の増加が観察され、宿主免疫によるHTLV-1制御が示唆された。

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2022/11/04

Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変

論文タイトル
Immunogenic Modification of Ligilactobacillus agilis by Specific Amino Acid Substitution of Flagellin
論文タイトル(訳)
Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変
DOI
10.1128/aem.01277-22
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology October 2022  Volume 88  Issue 20  e01277-22
著者名(敬称略)
梶川 揚申 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科

抄訳

有べん毛乳酸菌Ligilactobacillus agilisは運動性を示す腸内共生細菌である。細菌べん毛繊維構成タンパク質であるフラジェリンはToll-like receptor 5 (TLR5)のアゴニストとして知られるが、興味深いことにL. agilis由来のフラジェリンは、他と類似した構造を持つにも関わらず抗原性が低い。我々はこの理由がTLR5認識部位におけるわずかなアミノ酸残基の違いにあるという仮説に基づき、当該アミノ酸残基を置換した組換えフラジェリンタンパク質およびL. agilis変異株を作製してこれを検証した。結果として、低い抗原性に関わると予測された3か所のアミノ酸残基を置換することで、L. agilisのフラジェリンおよび変異株の抗原性が顕著に増強された。以上より、宿主免疫系が病原細菌と共生細菌を識別する上で、これらのアミノ酸残基の違いが重要であると結論付けられた。

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2022/11/04

Pre-mRNAから翻訳されたCDKインヒビターp27のトランケート型タンパク質はG2期停止を引き起こす

論文タイトル
A Truncated Form of the p27 Cyclin-Dependent Kinase Inhibitor Translated from Pre-mRNA Causes G2-Phase Arrest
論文タイトル(訳)
Pre-mRNAから翻訳されたCDKインヒビターp27のトランケート型タンパク質はG2期停止を引き起こす
DOI
10.1128/mcb.00217-22
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology 01 November 2022 e00217-22
著者名(敬称略)
甲斐田大輔 他
所属
富山大学 学術研究部医学系 遺伝子発現制御学講座

抄訳

Pre-mRNAスプライシングは、真核生物の遺伝子発現にとって必須の機構である。我々は、スプライシング阻害が細胞周期停止を引き起こすことや、細胞周期停止がスプライシング阻害剤の抗がん活性の原因であることを明らかとしてきた。しかしながら、細胞周期停止の詳細な分子メカニズムは明らかではなかった。今回我々は、スプライシング阻害によりG2期で停止した細胞で、pre-mRNAから翻訳されたp27タンパク質のトランケート型(以下p27*)が蓄積していることを明らかとした。p27*の過剰発現はG2期停止を引き起こし、逆に、p27*のノックダウンによりG2/M期からG1期への移行が促進された。また、p27*はM期サイクリンと結合し、そのリン酸化活性を阻害した。さらに、全長のp27はG2/M期においてプロテアソームにより分解されるものの、p27*はプロテアソームによる分解を受けないことも明らかとなった。これらのことから、スプライシング異常時には、pre-mRNA由来のトランケート型タンパク質であるp27*が蓄積し、M期サイクリンを阻害することでG2期停止を引き起こしていると考えられる。

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2022/10/27

新型コロナウイルス変異株でスパイク蛋白質のL452部位に特定のアミノ酸が繰り返し選択される機序を探る

論文タイトル
Dissecting Naturally Arising Amino Acid Substitutions at Position L452 of SARS-CoV-2 Spike
論文タイトル(訳)
新型コロナウイルス変異株でスパイク蛋白質のL452部位に特定のアミノ酸が繰り返し選択される機序を探る
DOI
10.1128/jvi.01162-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology October 2022  Volume 96  Issue 20  e01162-22
著者名(敬称略)
Toong Seng Tan 上野 貴将 他
所属
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター感染免疫学分野

抄訳

新型コロナウイルスのパンデミック宣言から3年足らずの間に、SARS-CoV-2の懸念される変異株が世界各地で出現し、感染者数の増加につながっています。また、こうした変異の蓄積が、ウイルスが複製する能力、感染性や免疫逃避性を高める方向へ進化しているのではないかと懸念されています。我々は、SARS-CoV-2スパイク蛋白質の中で、頻度が高く、繰り返して選択されるL452部位のアミノ酸置換に焦点を絞り、変異が選択される機序を解析しました。この部位にさまざまな変異を導入してウイルス学的、免疫学的な解析を行ったところ、新型コロナウイルスの変異獲得においては、ウイルス感染性や免疫逃避性のみならず、1つの塩基置換のみで、翻訳される蛋白質のアミノ酸が置換される変異が有意に選ばれていることを明らかにしました。

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2022/10/20

母体甲状腺機能低下症はM-オプシン発達遅延と関連する

論文タイトル
Maternal hypothyroidism is associated with M-opsin developmental delay
論文タイトル(訳)
母体甲状腺機能低下症はM-オプシン発達遅延と関連する
DOI
10.1530/JME-22-0114
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology Volume 69: Issue 3 391–399
著者名(敬称略)
齊藤千真 堀口和彦 他
所属
群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座内分泌代謝内科学

抄訳

甲状腺ホルモンは、色覚に関わるオプシンの発達に重要であり、甲状腺機能低下モデルマウスでは、M-オプシンの発達が遅れ、S-オプシンの網膜上での分布が拡大する。しかし、母体甲状腺機能低下症がオプシンの発達に及ぼす影響については不明であった。本研究では、中枢性甲状腺機能低下モデルマウスである甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンノックアウトマウス(TRH-/-)を用い、TRH+/-の血清T4値が野生型と同様であるが、TRH-/-の血清T4が約60%低くなる特性を生かし、母体甲状腺機能低下症がオプシン発達に及ぼす影響について検討した。その結果、甲状腺機能が低下した母体TRH-/-から生まれたTRH+/-では、甲状腺機能がほとんど低下していない母体TRH+/-から生まれたTRH+/-に比べて、生後12日目のM-オプシン発現が低かった。これらの結果は、母体甲状腺機能低下症が新生児マウスの発育初期にM-オプシン発達遅延を引き起こす可能性を示唆するものであった。

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2022/10/13

プレシジョン医療における前立腺癌のアンドロゲン受容体変異

論文タイトル
Androgen receptor mutations for precision medicine in prostate cancer
論文タイトル(訳)
プレシジョン医療における前立腺癌のアンドロゲン受容体変異
DOI
10.1530/ERC-22-0140
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer Volume 29: Issue 10 R143–R155
著者名(敬称略)
塩田 真己 他
所属
九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

抄訳

進行性前立腺癌の治療には、アンドロゲン遮断療法やアビラテロン、エンザルタミドなどのアンドロゲン受容体(AR)経路阻害剤などのホルモン療法が広く用いられている。しかし、ほとんどの前立腺癌においてホルモン療法後に治療抵抗性が出現し、その原因のひとつとしてAR変異が知られている。前立腺癌では様々なAR変異が報告されているが、とりわけAR変異(L702H、W742L/C、H875Y、F877L、T878A/S)は治療抵抗性となった後に頻繁にみられる。興味深いことに、これらのホットスポット変異は、ステロイドや抗アンドロゲンなどのリガンドの結合親和性を変化させ、AR経路阻害剤に対する反応を変化させる可能性がある。現在、前立腺癌の治療において、ゲノム情報を活用して患者に適した治療を選択するプレシジョン医療は、ますます重要な役割を果たすようになってきている。AR変異とAR経路阻害剤の効果に関する臨床データが蓄積されつつあることから、AR変異の状態をリキッドバイオプシーによりモニタリングすることは、前立腺癌のプレシジョン医療を提供するための有望なアプローチである。しかし、前立腺癌におけるARホットスポット変異の臨床的意義に関する総説はほとんどないため、本総説では、AR変異に関する報告をまとめ、臨床利用へ向けた展望について考察した。

 

 

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2022/10/11

糖尿病クラスター分類によるサルコペニア予測:日本人前向きコホート研究

論文タイトル
Detecting Sarcopenia Risk by Diabetes Clustering: A Japanese Prospective Cohort Study
論文タイトル(訳)
糖尿病クラスター分類によるサルコペニア予測:日本人前向きコホート研究
DOI
10.1210/clinem/dgac430
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 107, Issue 10, October 2022, Pages 2729–2736
著者名(敬称略)
田辺 隼人, 島袋 充生 他
所属
福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座

抄訳

糖尿病は、現在、1型、2型に分類する。2018年、北欧グループは人工知能解析で、成人発症糖尿病は5つのクラスター(群)にわかれることを報告し、福島医大グループは、日本人糖尿病も同様に5群にわかれることを確認した。糖尿病の臨床的特徴や合併症(腎症や冠動脈疾患)の割合が各群で違うことが様々な人種で報告されている。本研究は、糖尿病におけるサルコペニア発症率が各群で違うか検討した。対象は1型または2型糖尿病586名。観察開始時サルコペニアは38名(6.5%)。これを除外した548名を3年間前向きに観察し、55名がサルコペニア新規発症と診断された。1群(自己免疫型)と2群(重度インスリン欠乏型)が、サルコペニア発症の高リスク群と判明した。一方、従来の1型、2型糖尿病間でサルコペニアの発症頻度に差はなかった。本研究は、クラスター分類が、糖尿病患者のサルコペニアの予測や予防に有用である可能性を初めて示した。

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2022/10/03

Pseudoxanthomonas japonensisに由来するサブクラスB3メタロβラクタマーゼの特徴

論文タイトル
Biochemical Characterization of the Subclass B3 Metallo-β-Lactamase PJM-1 from Pseudoxanthomonas japonensis
論文タイトル(訳)
Pseudoxanthomonas japonensisに由来するサブクラスB3メタロβラクタマーゼの特徴
DOI
10.1128/aac.00691-22
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy September 2022  Volume 66  Issue 9  e00691-22
著者名(敬称略)
山田 景土 
所属
東邦大学 医学部微生物・感染症学講座

抄訳

 メタロβラクタマーゼ(MBL)は3つのサブクラス(B1, B2およびB3)に分類され、活性中心に亜鉛を有する高域スペクトラムなβラクタマーゼである。Pseudoxanthomonas japonensisは環境中に生息するブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌であり、環状ゲノム上(染色体性)にB3のMBL遺伝子(blaPJMと命名)を有する。本酵素遺伝子は、配列多様性を認めるものの、Pseudoxanthomonas属の中で、周辺配列を含めて高い保存性が認められた。また、これらの一部が確率は低いながら外来性に緑膿菌に運ばれたという事実も報告されており、Pseudoxanthomonasは薬剤耐性因子のプールになっている可能性も示唆されている。本研究では、blaPJMの遺伝的特徴に加え、pETシステムを用いたPJM大量発現系からPJMの精製、酵素学的機能解析を行なっている。

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2022/09/29

TIA-1プリオン様ドメインのALS変異は高度に凝縮した病原体構造を誘起する

論文タイトル
ALS mutations in the TIA-1 prion-like domain trigger highly condensed pathogenic structures
論文タイトル(訳)
TIA-1プリオン様ドメインのALS変異は高度に凝縮した病原体構造を誘起する
DOI
10.1073/pnas.2122523119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS2022 Vol. 119 No. 38 e2122523119
著者名(敬称略)
関山 直孝 他
所属
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻生物物理学教室構造生理学分科

抄訳

T-cell intracellular antigen-1(TIA-1)は、プリオン様ドメイン(PLD)の自己組織化を介してストレス顆粒の形成に関与している。TIA-1のPLDには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やウェランダー遠位型ミオパチー(WDM)といった神経変性疾患に関連するアミノ酸変異が同定されていたが、これらの変異がPLDの自己組織化特性にどのような影響を及ぼすのかは不明であった。本研究ではこれらの変異が引き起こす微細な構造変化を明らかにした。NMR解析では、PLDの動的構造が5アミノ酸残基の物理化学的性質の協調により決定されることを示した。分子動力学シミュレーション、3次元電子線結晶構造解析、生化学的アッセイにより、ALS変異のP362LとA381Tはそれぞれ、ベータシート相互作用と高密度凝縮を誘導することにより、液滴形成を促進することが明らかとなった。これらの結果は、ALS変異が液滴形成とそれに続くアミロイド線維化を促進することを示唆しており、我々はこの凝縮過程が病原性を生み出しているのではないかと考えている。

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2022/09/22

PD-1/PD-L1抗体で治療された肺がん患者の帯状疱疹

論文タイトル
Herpes zoster in patients with lung cancer treated with PD-1/PD-L1 antibodies
論文タイトル(訳)
PD-1/PD-L1抗体で治療された肺がん患者の帯状疱疹
DOI
10.2217/imt-2021-0318
ジャーナル名
Immunotherapy
巻号
Immunotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
長井 良昭、萩原 弘一 他
所属
自治医科大学 呼吸器内科学部門

抄訳

【背景】帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされ、免疫力の低下または悪性腫瘍と関連している。また、免疫システムが低下した状態から回復する際に見られる免疫再構築症候群として発生することも知られている。免疫チェックポイント阻害薬と帯状疱疹のリスクに関する臨床データは報告されていない。我々は、PD-1/PD-L1抗体またはEGFR-TKIのいずれかで治療された肺癌患者における帯状疱疹の発症を比較した。
【方法】149例のEGFR-TKIで治療されたEGFR-TKI治療群と136例のPD-1/PD-L1抗体で治療されたPD-1/PD-L1抗体治療群にてカプラン・マイヤー法を使用して帯状疱疹の発症を比較した。
【結果】帯状疱疹の発症は、PD-1/PD-L1抗体治療群で、EGFR-TKI治療群よりも有意に多かった(P=0.016、ハザード比=0.20) 、95% 信頼区間 = 0.048–0.84)。
【結論】PD-1/PD-L1抗体治療は帯状疱疹の発症に関与していた。臨床医は免疫チェックポイント阻害薬による帯状疱疹の発症に注意する必要がある。

 

 

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2022/09/22

(S)-エクオールは(R)-エクオールよりも破骨細胞形成抑制およびアポトーシス促進効果が高く、エストロゲン欠乏によるマウスの骨量減少を抑制する

論文タイトル
(S)-Equol is More Effective than (R)-Equol in Inhibiting Osteoclast Formation and Enhancing Osteoclast Apoptosis, and Reduces Estrogen Deficiency–Induced Bone Loss in Mice
論文タイトル(訳)
(S)-エクオールは(R)-エクオールよりも破骨細胞形成抑制およびアポトーシス促進効果が高く、エストロゲン欠乏によるマウスの骨量減少を抑制する
DOI
10.1093/jn/nxac130
ジャーナル名
Journal of Nutrition
巻号
Journal of Nutrition, Volume 152, Issue 8, August 2022, Pages 1831–1842
著者名(敬称略)
田中 未央里, 上原 万里子 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科 健康機能科学分野 生理機能学研究室

抄訳

エクオールは大豆イソフラボンのダイゼイン代謝産物であり、鏡像異性体のS体とR体が存在する。我々はこれまでにS体がラセミ体よりも高い骨量減少抑制効果を有することを報告したが、R体の効果は明らかでない。本研究では、エクオール鏡像異性体が骨代謝に及ぼす影響と詳細な作用機序について、破骨細胞及び骨粗鬆症モデルである卵巣摘出(OVX)マウスを用いて比較検討を行った。その結果、R体と比較してS体で強い破骨細胞分化抑制がみられたが、骨吸収シグナル経路(MAPK/NFκB)に対する影響に有意な差はなかった。一方で、S体のみが成熟破骨細胞のアポトーシスを促進し、この作用が両鏡像異性体の破骨細胞形成抑制効果の差に寄与していると考えられた。さらにS体及びR体を皮下投与したOVXマウスでは、S体のみ大腿骨の骨密度低下を抑制し、血中及び骨中のエクオール濃度はR体よりもS体で高値を示した。以上より、(S)-エクオールは(R)-エクオールと比較して高い骨吸収抑制作用を有し、骨疾患リスク低減の一助となる可能性が示唆された。

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2022/09/22

全身性エリテマトーデスの発症と増悪に関わる遺伝子発現異常の解明

論文タイトル
Distinct transcriptome architectures underlying lupus establishment and exacerbation
論文タイトル(訳)
全身性エリテマトーデスの発症と増悪に関わる遺伝子発現異常の解明
DOI
10.1016/j.cell.2022.07.021
ジャーナル名
Cell
巻号
Cell Vol 185, Issue 18
著者名(敬称略)
中野正博、石垣和慶、 藤尾圭志 他
所属
理化学研究所 生命医科学研究センター 東京大学 大学院医学系研究科 内科学専攻 アレルギー・リウマチ学

抄訳

 全身性エリテマトーデス(SLE)は、多臓器に及ぶ自己免疫疾患で、病態と免疫経路の関連は不明である。本研究ではSLE患者136例と健常対照者89例から27種に及ぶ免疫細胞6,386サンプルのトランスクリプトームからなる大規模機能ゲノムデータベースを構築した。このデータベースにおいて、それぞれ非活動性SLEと健常対照者、および高活動性SLEと非活動性SLEにおける遺伝子発現を比較することで、疾患の発症を反映する「疾患状態シグネチャー」と疾患の増悪を反映する「疾患活動性シグネチャー」が同定された。疾患活動性シグネチャーが臓器病変や治療反応性と強く関連することが示された一方、GWASによって以前に同定されたSLEのリスクアレルとより密接に関連したのは、疾患活動性ではなく疾患状態シグネチャーであった。これらの知見は、SLEのバイオマーカーや治療標的を特定するために、疾患状態ではなく疾患活動性の遺伝子シグネチャーに今後注目することの重要性を示唆するものである。

 

 

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2022/09/08

乳がん細胞における低酸素応答性遺伝子の大規模な核内配置の決定

論文タイトル
Large-scale mapping of positional changes of hypoxia-responsive genes upon activation
論文タイトル(訳)
乳がん細胞における低酸素応答性遺伝子の大規模な核内配置の決定
DOI
10.1091/mbc.E21-11-0593
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 8
著者名(敬称略)
中山 恒 他
所属
旭川医科大学 医学部 薬理学講座

抄訳

 私たちの体内の臓器や細胞は、活動状態の変化や疾患に伴い、低酸素環境に曝される。このような状況下で、細胞の生理機能を調節して、適応に働くのが低酸素応答である。低酸素応答時には多数の遺伝子の発現が誘導される。遺伝子の発現に重要な働きをする要素として、転写因子やクロマチン構造があるが、低酸素下におけるクロマチン構造の知見はほとんどなかった。本研究では、乳がん細胞を低酸素環境で培養した後、新しい実験手法HIPMap法を用いて、遺伝子の核内配置をイメージングで解析し、低酸素に応答して多数の低酸素応答性遺伝子が核内でポジションを変化させていることを明らかにした。さらに、ポジションの変化は、核の内側・外側に向かって移動するものの2タイプに分けられ、その移動度は遺伝子よって異なっていた。一方で、核内で遺伝子が移動する方向と遺伝子発現の間には有意な相関は認められなかった。
低酸素環境が、がんの進展を促すことは、これまでに多数報告されている。その根本的なメカニズムは、低酸素に応答した遺伝子発現である。核内の遺伝子のポジションはクロマチン構造と密接に関わっており、遺伝子発現のON/OFFを担う要素である。本研究成果は、低酸素下でのがんの遺伝子発現を担う分子メカニズムの一端を明らかにしたもので、核内での遺伝子配置の変化を制御できれば、がんの遺伝子発現様式を書き換えて、がん進展を抑制する手法につながることが期待される。

 

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2022/09/06

トリプトファン蛍光プローブによるシアノバクテリア時計タンパク質KaiCのリズミックな構造変化の検出

論文タイトル
Highly sensitive tryptophan fluorescence probe for detecting rhythmic conformational changes of KaiC in the cyanobacterial circadian clock system
論文タイトル(訳)
トリプトファン蛍光プローブによるシアノバクテリア時計タンパク質KaiCのリズミックな構造変化の検出
DOI
10.1042/BCJ20210544
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.14 (1505–1515)
著者名(敬称略)
向山 厚 古池 美彦  山下 栄樹 秋山 修志
所属
分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門

抄訳

シアノバクテリア概日時計の中核を担う時計タンパク質KaiCはN末端側のCIドメインとC末端側のCIIドメインから構成され、ATPと結合することでリングが積み重なった6量体構造をとる。KaiCは他の時計タンパク質であるKaiA、KaiBとの離合集散を介して、24時間周期でCIIドメインの2カ所のアミノ酸残基(S431、T432)をリズミカルに自己リン酸化・自己脱リン酸化を繰り返す。本論文では、概日時計の源振動といえるKaiCのリズミックな構造変化を高感度に検出するためのトリプトファン(Trp)蛍光プローブ挿入部位を探索した。その結果、リン酸化部位近傍にTrpを挿入したKaiC変異体ではリズムの安定性や周期長を保ちつつ、Trp蛍光を指標としたリズムの振幅が10倍以上増加することを見出した。KaiCのリン酸部位周辺の構造転移は結晶構造解析による先行研究において報告されていたが、今回の結果は溶液中における実際の反応サイクル中においてもリン酸化部位周辺が位相依存的に大規模に変化することを実証した成果である。

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