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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2020/07/22

SARS-CoV-2とインフルエンザA型ウィルスの重複感染

論文タイトル
Coinfection with SARS-CoV-2 and influenza A virus
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2とインフルエンザA型ウィルスの重複感染
DOI
10.1136/bcr-2020-236812
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 13, Issue 7
著者名(敬称略)
近藤 友喜 , 宮崎 晋一 他
所属
市立四日市病院 呼吸器内科

抄訳

 症例は57歳、日本人男性で、インフルエンザ罹患後の遷延する発熱にて当科入院となった。入院6日前、発熱、乾性咳嗽にて近医受診し、インフルエンザ迅速検査キットはA型が陽性であった。 抗インフルエンザ薬投与にも関わらず自覚症状の改善に乏しく、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)PCR検査が陽性であったため入院対応となった。既往歴には異形狭心症、糖尿病があり、海外渡航歴、 濃厚接触歴はなかった。入院時、発熱、呼吸苦、味覚・嗅覚障害を認め、酸素飽和度は91%(室内気であった。採血上、白血球増多はなく、肝機能障害、CRP・フェリチン高値を認め、プロカルシトニン は陰性であった。胸部CTでは両肺野胸膜直下にスリガラス影を認め、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に矛盾しなかった。シクレソニド、ファビピラビルなどを投与し、自覚症状は軽快し、 入院1か月後、外来管理となった。
 SARS-CoV-2はインフルエンザウィルスと重複感染することは稀であり、単独感染と比較して、その臨床的特徴に差異は認められない。SARS-CoV-2の流行期では、他の病原体が検出されても、COVID-19の 可能性を常に考慮する必要がある。

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2020/07/09

転写因子NRF3はがん抑制因子をユビキチン非依存的に分解することでがん増悪を促進する

論文タイトル
NRF3-POMP-20S Proteasome Assembly Axis Promotes Cancer Development via Ubiquitin-Independent Proteolysis of p53 and Retinoblastoma Protein
論文タイトル(訳)
転写因子NRF3はがん抑制因子をユビキチン非依存的に分解することでがん増悪を促進する
DOI
10.1128/MCB.00597-19
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology  Volume 40, Issue 10
著者名(敬称略)
和久 剛、小林 聡 他
所属
同志社大学大学院生命医科学研究科 遺伝情報研究室

抄訳

がん抑制因子の働きが失われる場合の多くはDNAに傷が入る遺伝子変異に起因すると考えられてきたが、近年ではがん抑制因子が遺伝子変異していない癌患者も数多く報告されてきている。しかし、そのような遺伝子変異を伴わないがん増悪メカニズムには不明な点が多く残されていた。本研究では、がん抑制因子の働きを阻害する新たながん遺伝子として転写因子NRF3(NFE2L3)を発見した。NRF3は大腸癌をはじめとする様々なヒト腫瘍組織で発現が上昇していた。またNRF3過剰発現によって腫瘍が大きくなり転移しやすくなることをマウス解析によって確認した。興味深いことに、NRF3はタンパク質分解酵素であるプロテアソームの活性を上昇させ、p53やRetinoblastomaなどのがん抑制因子のタンパク質をユビキチン非依存的に分解することを見出した。このように本研究では、NRF3は遺伝子変異ではなく、タンパク質分解活性を異常に高めることでがん抑制因子の機能を阻害することを明らかにした。

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2020/07/09

転写因子NFE2L1とNFE2L3は翻訳制御を介して癌細胞のプロテアソーム活性を補完的に維持する

論文タイトル
NFE2L1 and NFE2L3 Complementarily Maintain Basal Proteasome Activity in Cancer Cells through CPEB3-Mediated Translational Repression
論文タイトル(訳)
転写因子NFE2L1とNFE2L3は翻訳制御を介して癌細胞のプロテアソーム活性を補完的に維持する
DOI
10.1128/MCB.00010-20
ジャーナル名
Molecular and Cellular Biology
巻号
Molecular and Cellular Biology  Volume 40, Issue 14
著者名(敬称略)
和久 剛、小林 聡 他
所属
同志社大学大学院生命医科学研究科 遺伝情報研究室

抄訳

タンパク質分解酵素であるプロテアソームは、正常な細胞だけでなく癌細胞の生存や増殖にも必須である。我々はこれまでに、NFE2L1(NRF1)がプロテアソーム構成遺伝子を発現誘導する転写因子であることを報告してきた、また最近になり、そのホモログであるNFE2L3(NRF3)が腫瘍増大や転移促進に寄与することを発見し、NFE2L1とNFE2L3がプロテアソーム制御を介してがん増悪に関与する可能性を見出しつつあったが、その詳細は不明なままだった。本研究では、NFE2L3が翻訳調節因子CPEB3を直接転写することでNFE2L1の翻訳を制御し、癌細胞のプロテアソーム構成遺伝子の発現を補完的に維持していることを明らかにした。またNFE2L3-CPEB3-NFE2L1軸の異常が、プロテアソーム阻害作用を有する抗がん剤ボルテゾミブへの薬剤抵抗性や大腸癌患者の予後不良にも影響を及ぼすことを確認した。以上の本研究成果は、NFE2L3を標的とした新たな抗がん剤開発につながると期待できる。

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2020/07/09

芳香族化合物生産菌の育種に利用可能なプラスミド非依存型のフェニルアラニンおよびチロシン高生産大腸菌を作製するための染色体工学的手法

論文タイトル
Chromosome Engineering To Generate Plasmid-Free Phenylalanine- and Tyrosine-Overproducing Escherichia coli Strains That Can Be Applied in the Generation of Aromatic-Compound-Producing Bacteria
論文タイトル(訳)
芳香族化合物生産菌の育種に利用可能なプラスミド非依存型のフェニルアラニンおよびチロシン高生産大腸菌を作製するための染色体工学的手法
DOI
10.1128/AEM.00525-20
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Volume 86, Issue 14
著者名(敬称略)
駒 大輔 他
所属
地方独立行政法人大阪産業技術研究所 環境技術研究部

抄訳

 フェニルアラニンおよびチロシン生産菌の開発では、合成経路の遺伝子発現にプラスミドが用いられるのが一般的である。一方、プラスミド非依存型の生産菌は培養コストと安全性の点で優れているが、目的物の収量や収率が低い。そこで本研究では、大腸菌の染色体DNAを改変し、プラスミド非依存型にもかかわらず優れた収量や収率を示す生産菌の作製を試みた。
 中央代謝経路とシキミ酸経路の10種類の遺伝子(aroAaroBaroCaroDaroEaroGfbraroLpheAfbrppsA、およびtktA)をT7lacプロモーターに連結して大腸菌の染色体へ導入したところ、当該菌株は非常に高い収量と収率でフェニルアラニンを生産した。導入したPheAfbr遺伝子をtyrAfbr遺伝子に変更することで、優れたチロシン生産菌を作製することにも成功した。さらに導入した10種類の遺伝子のうち、aroDaroE、およびaroLを除いた7種類が優れた菌株を作製するために必要な最小遺伝子セットであることを明らかにした。育種した生産菌は、チロソールやフェニル乳酸などを高生産するための有用な宿主として利用できることを実証した。

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2020/07/08

ラットにおけるStreptococcus mutans誘発性重度う蝕が及ぼす感染性心内膜炎に対する病原性の検討

論文タイトル
Contribution of Severe Dental Caries Induced by Streptococcus mutans to the Pathogenicity of Infective Endocarditis
論文タイトル(訳)
ラットにおけるStreptococcus mutans誘発性重度う蝕が及ぼす感染性心内膜炎に対する病原性の検討
DOI
10.1128/IAI.00897-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Volume 88, Issue 7
著者名(敬称略)
野村 良太、又吉 紗綾、仲野 和彦 他
所属
大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子感染制御学講座(小児歯科学教室)

抄訳

 う蝕の主要な病原細菌であるStreptococcus mutansは、感染性心内膜炎(Infective endocarditis; IE)の起炎菌でもある。心疾患患者では心内膜や弁膜に内皮傷害を生じやすく、侵襲的な歯科処置で生じる菌血症によって、IE発症リスクが高まることが知られている。S. mutansの菌体表層には、コラーゲン結合タンパク(Collagen-binding protein; CBP)を発現している株が存在し、内皮傷害部位に付着しやすいことからIEに対する病原性への関与が取りざたされている。本研究では、重度う蝕病変部に存在するCBP 陽性S. mutansが、歯冠の崩壊により露出した毛細血管を介して傷害を受けた心臓弁に到達し、IEを発症する可能性について検討した。
  18日齢のラットの口腔内にCBP陽性S. mutansを5日間連続して投与するとともに、スクロース56%配合う蝕誘発性飼料を常時与えることによりう蝕を誘発させた。その後、90日齢になったラットの右頸動脈より全身麻酔下にてカテーテルを挿入して大動脈弁に傷害を与えた。これらのラットでは長期的な飼育を行うほどう蝕が重症化し、心臓検体からS. mutansが分離される割合が増加した。特に、う蝕の進行により約半数の歯の歯冠が崩壊した場合に、心臓弁からS. mutansが分離されるリスクが有意に増加することが明らかになった。本研究結果から、心疾患患者において重度のう蝕病変を放置することは、IEの発症リスクを高めることが示唆された。

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2020/07/07

AMPKはSRSF1のリン酸化を介して選択的スプライシングを制御する

論文タイトル
AMP-activated protein kinase regulates alternative pre-mRNA splicing by phosphorylation of SRSF1
論文タイトル(訳)
AMPKはSRSF1のリン酸化を介して選択的スプライシングを制御する
DOI
10.1042/BCJ20190894
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.477 No.12 (2237–2248)
著者名(敬称略)
松本 英里, 鈴木 司 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科

抄訳

 AMP-activated protein kinase (AMPK)は、細胞内のエネルギー恒常性に関与するセリン・スレオニンキナーゼである。近年、AMPKの活性化剤であるメトホルミンは選択的スプライシングに影響を与えることが報告されているものの、AMPKがどの基質を介して選択的スプライシングを制御するかに関しては不明であった。
 本論文では、AMPKの新たな基質としてスプライシング因子であるserine/arginine-rich splicing factor 1 (SRSF1)を同定した。AMPKはSRSF1のRNA認識モチーフ領域内に存在するSer133を直接リン酸化し、これによりRNA認識モチーフを介したSRSF1とRNAとの結合が抑制された。また、マクロファージ刺激タンパク質受容体をコードするRon遺伝子はSRSF1依存的に選択的スプライシング制御を受けるが、実際に、AMPKの活性状態の変化によってSRSF1を介したRon遺伝子のスプライシングパターンの変化も確認できた。
 これらの結果から、AMPKはSRSF1をリン酸化することでRNAとの結合を阻害し、選択的スプライシングを制御することが明らかとなった。

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2020/07/06

膵神経内分泌腫瘍において、オートファジー阻害剤クロロキンは小胞体ストレスを介してアポトーシスを誘導する

論文タイトル
Chloroquine induces apoptosis in pancreatic neuroendocrine neoplasms via endoplasmic reticulum stress
論文タイトル(訳)
膵神経内分泌腫瘍において、オートファジー阻害剤クロロキンは小胞体ストレスを介してアポトーシスを誘導する
DOI
10.1530/ERC-20-0028
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer Vol.27 No.7 (431–439)
著者名(敬称略)
仲野 健三, 増井 俊彦 他
所属
京都大学肝胆膵・移植外科/小児外科

抄訳

オートファジー阻害剤のクロロキン(CQ)が神経内分泌細胞株の増殖を抑制する報告はあるが、そのメカニズムと高分化膵神経内分泌腫瘍に対する効果は明らかとなっていない。本研究では低分化、高分化膵神経内分泌腫瘍(PanNEN)におけるCQの増殖抑制メカニズムを検討した。PanNEN細胞株のMIN6, QGP-1にCQを投与するとアポトーシスが誘導された。電子顕微鏡画像で小胞体の拡張を認め、小胞体ストレス応答の主要経路であるPERK-eIF2α-ATF4経路のATF4、その下流のCHOPの発現亢進を認め、この経路を介したアポトーシスが示唆された。MIN6, QGP-1は遺伝子変異を伴う低分化神経内分泌癌株であることから、高分化PanNENにおける効果を検討するため、Men1+/ΔN3-8マウスにCQの誘導体であるヒドロキシクロロキン(HCQ)を投与したところ、腫瘍の縮小効果を認めた。HCQ投与群の腫瘍部ではCHOP陽性細胞が大部分を占め、アポトーシスが誘導されていた。これらの結果から、CQ/HCQは低分化および高分化のPanNENいずれにおいて小胞体ストレスを介したアポトーシスを誘導し、有効な治療法となる可能性が示唆された。

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2020/06/29

組織懸濁液中のAST/LDH比測定によって、正確に機能亢進状態の副甲状腺を鑑別できる。

論文タイトル
Measurement of the AST to LD Ratio in Parathyroid Tissue Suspension Can Precisely Differentiate a
Hyperfunctioning Parathyroid
論文タイトル(訳)
組織懸濁液中のAST/LDH比測定によって、正確に機能亢進状態の副甲状腺を鑑別できる。
(英文タイトルではLDHをLDと表記してある。)
DOI
10.1210/clinem/dgaa264
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.105 No.8 (dgaa264)
著者名(敬称略)
菊森 豊根 他
所属
名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科

抄訳

原発性副甲状腺機能亢進症に対する外科的治療の際に、責任病変の摘出の確認は主に凍結切片の術中迅速病理検査により行われている。しかし、病理医不足は発展途上国で深刻であり、責任病変摘出の確認が容易に行えない。我々のグループは最近、正常副甲状腺の可能性がある組織の懸濁液中のAST/LDH(ともに一般生化学的検査項目であり、日常的に測定されている。)比が0.27より高い場合、その組織が副甲状腺であることを明らかにした(Kikumori et al. Surgery, 2020, p385-9)。
今回の研究では、副甲状腺機能亢進症を来す副甲状腺過形成や腺腫組織が懸濁液中のAST/LDH比により、副甲状腺組織と判別可能かを検討した。22名の原発性副甲状腺機能亢進症の症例で得られた副甲状腺過形成または腺腫を対象とした。他の組織のデータは以前の我々の報告を用いた(上記引用文献)。
この検討により、機能亢進状態の副甲状腺は懸濁液中のAST/LDH比が0.36より高い場合、100%の精度で他の組織と判別できることが示された。
この研究により、組織懸濁液中のAST/LDH比が迅速病理検査の代替として原発性副甲状腺機能亢進症に対する外科治療の際の新たな責任病変確認手段となりうることが示された。

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2020/06/24

2017年に北海道道央地域でマダニから分離されたダニ媒介性脳炎ウイルスの性状解析

論文タイトル
Characterization of tick-borne encephalitis virus isolated from a tick in central Hokkaido in 2017
論文タイトル(訳)
2017年に北海道道央地域でマダニから分離されたダニ媒介性脳炎ウイルスの性状解析
DOI
10.1099/jgv.0.001400
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Journal of General Virology Volume 101, Issue 5
著者名(敬称略)
髙橋 侑嗣、好井 健太朗 他
所属
長崎大学 感染症共同研究拠点 研究部門

抄訳

 ダニ媒介性脳炎はユーラシア大陸の広域で発生しているダニ媒介性の重要な人獣共通感染症です。日本では北海道において重症脳炎患者が発生し、疫学調査によって北海道を含む日本の各地で原因となるダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)が分布している可能性が示唆されていますが、北海道南部の一部地域以外からはウイルスは分離されていませんでした。
 今回、我々は札幌市付近の道央地域でマダニの捕集を行い、マダニからのTBEV分離を試みた所、札幌市内で捕集されたマダニからTBEVが分離されました。分離されたウイルス株の解析を行った所、以前に北海道南部で分離されたウイルス株とは異なる遺伝子グループに属する事が分かり、国内に複数回ウイルスが侵入している可能性が示されました。また病原性について解析した所、ウイルスの非構造蛋白領域の遺伝子の相違によって、脳内での病原性が影響を受ける事が明らかになりました。
 今回の研究成果は日本におけるTBEVの疫学的危険度を評価する上での重要な知見となるとともに、ウイルスの性状解析による予防・治療法開発の進展へとつながるものと考えられます。

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2020/06/22

ペプチドグリカンアミダーゼの活性化因子はサルモネラの腸感染に影響を及ぼす

論文タイトル
A Peptidoglycan Amidase Activator Impacts Salmonella enterica Serovar Typhimurium Gut Infection
論文タイトル(訳)
ペプチドグリカンアミダーゼの活性化因子はサルモネラの腸感染に影響を及ぼす
DOI
10.1128/IAI.00187-20
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Volume 88, Issue 6
著者名(敬称略)
中村 奈央、三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部 微生物学教室

抄訳

 サルモネラ属のネズミチフス菌は感染性胃腸炎の原因菌である。本菌は腸管内に定着することにより、感染を成立させるが、その定着メカニズムの全貌は明らかになっていない。これまでに、私たちはネズミチフス菌のペプチドグリカン(PG)アミダーゼに依存した細胞分裂が腸管内定着に寄与することを明らかにした。PGアミダーゼは特異的な活性化因子により制御されていることから、本研究では、ネズミチフス菌が保持するPGアミダーゼの活性化因子であるNlpDおよびEnvCがサルモネラの腸感染にどのような影響を及ぼすか否かを明らかにした。
 マウスを用いた感染実験より、EnvCを発現しないネズミチフス菌株(envC変異株)では野生株と比較して、腸管内定着レベルが減弱した。また、誘導される腸炎レベルも減弱していた。PGアミダーゼを発現しないネズミチフス菌株における腸管内定着レベルの減弱は、胆汁酸に対する抵抗能の減弱が原因であったが、驚いたことに、envC変異株では走化性運動の減弱が主な要因であった。
 本研究により、ネズミチフス菌の腸感染におけるPGアミダーゼ活性化因子の新たな役割が明らかになり、EnvCは本菌の腸感染を制御するためのターゲットとなる可能性が示唆された。

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2020/06/02

ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―

論文タイトル
Key Male Glandular Odorants Attracting Female Ring-Tailed Lemurs
論文タイトル(訳)
ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―
DOI
10.1016/j.cub.2020.03.037
ジャーナル名
Current Biology
巻号
Current Biology April 16,2020
著者名(敬称略)
白須未香、伊藤聡美(以上筆頭著者)、今井啓雄、東原 和成(以上連絡著者)
所属
東京大学農学生命科学研究科 生物化学研究室(白須・東原) 京都大学霊長類研究所 ゲノム細胞研究部門(伊藤・今井)

抄訳

 多くの動物において、配偶者選択や同性間の縄張りあらそいなど、種の繁殖のために必須な行動には、体臭を介した嗅覚コニュニケーションが重要な役割を果たしています。我々は、特徴的な嗅覚コミュニケーションを行うワオキツネザルに注目し、ヒトを含む霊長類で初めて、異性を惹き付けるフェロモン様効果のある匂い物質の同定に成功しました。
 ワオキツネザルのオスは、手首の内側にある臭腺を自身の長い尻尾にこすりつけてその尻尾を大きくゆらし、メスへのアピールや他オス個体への威嚇を行います。我々は、行動観察により、メス個体が、繁殖期のオスの前腕腺分泌液の匂いをより長く、より注意深く嗅ぐ一方で、非繁殖期の分泌液にはあまり興味を示さないことを明らかにしました。
 次に、分泌液の成分分析を行い、繁殖期の分泌液中には、体内の男性ホルモン(テストステロン)の増加に伴い、フローラル・フルーティー様の香りを持つ三種類の長鎖アルデヒド群が増加していることを見出しました。さらに、これらの成分のみを染み込ませた綿球に対しては、繁殖期のメスのみが興味を示し、非繁殖期のメスは興味を示さないことが分かりました。すなわち、今回同定されたオスの繁殖期を特徴づける匂い成分が、メスを誘引するフェロモン様の匂いシグナルとして機能していることがわかりました。
 本成果は、未だ謎の多い霊長類の嗅覚コミュニケーションの実態を物質レベルで裏付ける最初の知見であると同時に、野生での絶滅が危惧されるワオキツネザルの繁殖管理や保全に役立つと考えられます。

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2020/05/27

静脈グラフトを用いた血行再建手術における動脈圧負荷での内膜肥厚に関する研究のためのウサギ頚静脈置換モデル

論文タイトル
A Rabbit Venous Interposition Model Mimicking Revascularization Surgery using Vein Grafts to Assess Intimal Hyperplasia under Arterial Blood Pressure
論文タイトル(訳)
静脈グラフトを用いた血行再建手術における動脈圧負荷での内膜肥厚に関する研究のためのウサギ頚静脈置換モデル
DOI
10.3791/60931
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (159), e60931, doi:10.3791/60931 (2020)
著者名(敬称略)
西尾 博臣、升本 英利 他
所属
京都大学大学院医学研究科 心臓血管外科学

抄訳

 静脈グラフト(移植片)は、虚血性疾患の血行再建手術における自家血管グラフトとして一般的に使用されていますが、静脈に対する動脈圧負荷による内膜肥厚のため、長期開存性は依然として低いままです。本プロトコルは、ウサギ頚静脈を同側頚動脈に移植することにより、実験的に静脈内膜肥厚を再現するものです。このプロトコルは体表・皮下脂肪層までの深さの外科的処置のみで完結でき、切開の範囲も限られているため、動物にとって侵襲が低く、移植後の長期観察が可能です。このプロトコルにより、研究者は移植された静脈グラフトの内膜肥厚の進行を抑制する方法に関する研究を行うことができます。例えばこのプロトコルを使用して、我々はこれまでに、血管平滑筋細胞の表現型を増殖型から分化型(非増殖型)に制御することが知られているmicroRNA-145による静脈グラフトの内膜肥厚抑制効果を示すことが出来ました。

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2020/05/18

日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴

論文タイトル
Characterization of blaCTX-M-27/F1:A2:B20 Plasmids Harbored by Escherichia coli Sequence Type 131 Sublineage C1/H30R Isolates Spreading among Elderly Japanese in Nonacute-Care Settings
論文タイトル(訳)
日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴
DOI
10.1128/AAC.00202-20
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 3
著者名(敬称略)
松尾 奈緒、野々垣里奈、川村 久美子 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻 病態解析学講座

抄訳

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌においては、CTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rクローンの世界的蔓延が問題視されているが、そのプラスミドの特徴や拡散プロセスについては未だ不明な点が多い。
 本研究では高齢者介護施設入所者由来のCTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するプラスミドの全塩基配列を特定し、健常人由来のそれと比較することで、blaCTX-M-27保有プラスミドの特徴を明らかにすることを目的とした。
 高齢者由来プラスミドのMLSTは多くがF1:A2:B20に属しており、その特徴から3つのグループに分類することができた。1つめは耐性遺伝子としてblaCTX-M-27のみを有し、senB遺伝子を含む約30kbpの領域を欠くもの、2つめはblaCTX-M-27以外にテトラサイクリンやストレプトマイシンなど数種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、タイで分離されたプラスミドに類似するもの、3つめはさらにアミノグリコシド耐性遺伝子など9種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、ドイツで報告された臨床分離株由来のプラスミドと高い類似性(100% query coverage, >98% nucleotide identity)を示すものであった。
 このように、我が国の介護施設で生活する高齢者の間にも、すでに海外で広まっているblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドと基本構造が類似する複数のプラスミドが広まっていることが明らかとなった。さらなる研究として、blaCTX-M-27保有プラスミド拡散プロセスを明らかにすることが必要であると考える。

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2020/04/27

ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である

論文タイトル
TGFβ receptor endocytosis and Smad signaling require synaptojanin1, PI3K–C2α-, and INPP4B-mediated phosphoinositide conversions
論文タイトル(訳)
ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である
DOI
10.1091/mbc.E19-11-0662
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 5(319-396)
著者名(敬称略)
安藝 翔, 多久和 陽
所属
金沢大学医薬保健研究域 医学系 血管分子生理学分野

抄訳

 膜動現象の作動には形質膜や細胞内小器官膜の適所におけるグリセロリン脂質ホスホイノシタイド (PPI)の産生と分解が必要である。3’リン酸化PPIの合成酵素PI3KにはI〜III型の3クラスが存在し、最も研究の進んでいるI型PI3KはPI(3,4,5)P3を産生して細胞遊走や細胞増殖に関与し、III型PI3K-Vps34はPI(3)Pを産生してオートファジーを制御する。
 一方、主としてPI(3,4)P2を産生するII型PI3Kの機能は、著者らがPI3K-C2α KOマウスの致死性血管新生障害の表現型を報告するまで不明の点が多かった。血管内皮細胞において血管新生因子TGFβは形質膜でPI3K-C2α依存的にPI(3,4)P2産生を誘導し、Smadシグナル活性化した。
 TGFβによるSmadシグナル活性化はクラスリン依存的なTGFβ受容体エンドサイトーシスに依存し、エンドサイトーシスには、PI3K-C2αの他に5’-ホスファターゼsynaptojanin1 (Synj1) および4’-ホスファターゼINPP4Bが必要であった。TGFβはTGFβ受容体I型サブユニットALK5活性化を介してSynj1による形質膜PI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換を引き起こし、次いで産生されたPI(4)PはPI3K-C2αによりPI(3,4)P2に変換され、さらにPI(3,4)P2はINPP4BによってPI(3)Pに変換された。TGFβ受容体エンドサイトーシスとSmad活性化には、Synj1、PI3K-C2α、INPP4Bのすべてが必要であった。TGFβはALK5を介してSynj1の形質膜への移行をひきおこしたが、興味深いことにSynj1の形質膜移行およびPI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換にはPI3K-C2αが必要であり、形質膜でSynj1とPI3K-C2αは共局在した。
 以上から、PI3K-C2αはSynj1、INPP4Bと共同してPPIカスケードを賦活し、このカスケードはTGFβ受容体エンドサイトーシスとその後のエンドソームでのシグナリングに必須であった。また、TGFβはALK5を介したPI3K-C2α依存的な機構によって、Synj1の形質膜移行とPPIカスケード活性化を惹起することが明らかとなった。

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2020/04/22

Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法

論文タイトル
A Simple Method To Detect Point Mutations in Aspergillus fumigatus cyp51A Gene Using a Surveyor Nuclease Assay
論文タイトル(訳)
Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法
DOI
10.1128/AAC.02271-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 4
著者名(敬称略)
新居 鉄平、渡辺 哲 他
所属
千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野

抄訳

深在性真菌症、とくにアスペルギルス症は増加傾向にある。本症は極めて重篤で致死率も高く、医療上の問題となっている。主要な原因菌はAspergillus fumigatusであり、治療の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬である。一方、近年アゾール耐性A. fumigatusの増加が世界的に深刻化している。耐性の主要なメカニズムは、アゾール標的分子Cyp51Aのhot spotアミノ酸変異による薬物親和性の低下であると考えられている。この研究では、2本鎖DNA内のミスマッチ箇所を特異的に切断するendonuclease であるSurveyor Nucleaseを用い、cyp51Aの変異検出方法の開発を試みた。cyp51Aに点変異を有するアゾール耐性株(変異株)17株と同遺伝子に変異を持たないアゾール感性株(野生株)31株とを使用して、検出法の性能を検証した。Surveyor Nuclease assayによって、cyp51A変異株と野生株とは明確に区別可能で、単一のプライマーセットで複数の変異を検出できた。Surveyor Nuclease assayは、cyp51Aの変異を簡便迅速に検出でき、アスペルギルス症の適切な治療薬の選択に寄与しうる検査法である。

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2020/04/22

地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証

論文タイトル
Screening tool for identifying adults with excessive salt intake among community-dwelling adults: a population-based cohort study
論文タイトル(訳)
地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証
DOI
10.1093/ajcn/nqaa003
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.111 No.4 (814–820)
著者名(敬称略)
佐々木 彰 福間 真悟 他
所属
飯塚病院 腎臓内科/臨床研究支援室
京都大学大学院 社会健康医学系専攻 医療疫学分野

抄訳

塩分過剰摂取は、高血圧や血管イベントなどの原因となりうるため重要な因子であることが広く知られている。一方で、地域住民レベルでの減塩は未だ十分ではない。減塩を推進するためには、塩分摂取量を測定し塩分過剰摂取の対象を抽出するのが効率的であり、尿からの1日塩分摂取量の測定が一般的に実施されている。しかし、尿検査には、検査機器および尿検体が必須であり、コストも要するため、検査を広く実施するには制約が多いのが問題であった。今回、我々は、Delphi法を用いて作成した質問紙を用い、福島県の棚倉町で住民を対象とした調査を経て、塩分過剰の可能性の高い対象を抽出するための簡便なスクリーニングツールを開発し妥当性を検証した。質問紙の内容は、国や地域で変わりうるが、本スクリーニングツール作成のプロセスは、他地域でも比較的容易に実装可能と考えられる。

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2020/04/10

RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する

論文タイトル
The Rho-guanine nucleotide exchange factor Solo decelerates collective cell
migration by modulating the Rho-ROCK pathway and keratin networks
論文タイトル(訳)
RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する
DOI
10.1091/mbc.E19-07-0357
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 8
著者名(敬称略)
磯崎友亮、大橋 一正 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科

抄訳

細胞の集団移動は組織形態形成や創傷治癒、癌の浸潤などに重要な働きをする細胞の振る舞いであるが、その分子機構は不明な点が多い。私たちは、これまで、RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSolo (別名ARHGEF40)が、細胞への張力負荷によるRhoAの活性化とケラチン8/18(K8/K18)繊維の細胞質における正常な配置に必要であることを明らかにしていた。本論文では、上皮細胞の集団移動に注目しSoloの機能解析を行った。腎上皮由来MDCK細胞においてSoloを発現抑制した場合、集団移動の速度が有意に加速し、一方、ばらばらな状態では個々の細胞の移動速度に影響しないことを発見した。また、Soloは、集団移動時の細胞の前後の細胞間接着部位に集積し、K8/K18繊維束の細胞前方への集積に必要であった。さらに、ROCKの阻害、K18やデスモソーム蛋白質のプラコグロビンの発現抑制によっても集団移動速度が上昇した。これらの結果から、Soloは、デスモソームを含む細胞間接着部位において、ケラチン繊維とRho-ROCK経路を介して前方の細胞を引っ張り返す力の発生に寄与し、集団移動のブレーキとして機能すると考えられる。

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2020/03/30

Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制

論文タイトル
Immunosuppression in Cows following Intramammary Infusion of Mycoplasma bovis
論文タイトル(訳)
Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制
DOI
10.1128/IAI.00521-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
権平 智、樋口豪紀 他
所属
酪農学園大学 獣医学類 獣医衛生学ユニット

抄訳

Mycoplasma bovisはウシに甚大な経済的損失を招来する病原体である。M. bovis感染症における病態形成過程での免疫応答には不明な点が多く、その詳細は明らかとなっていない。本研究ではM. bovisによる代表的な疾患である乳房炎に着目し、M. bovis乳房炎に対する免疫応答の解明を目的として、ウシ乳腺腔内にM. bovisを注入することで乳房炎モデルを作出しその免疫応答性を評価した。M. bovis注入により乳汁中の体細胞数は顕著に増加し、乳腺腔内で免疫応答が発動することが認められた。しかしながら、M. bovis再刺激による末梢血および乳房リンパ節における単核球の増殖反応は認められなかった。末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析から、自然免疫応答に関連する因子の減少が認められ、また、末梢血および乳汁の単核球においてM. bovis感染により免疫疲弊化因子が増加することが明らかとなった。M. bovisはウシ単核球に対して免疫応答の抑制および免疫抑制因子を増加させることが示唆され、M. bovis感染症におけるウシの病態形成には免疫抑制が要因となることが考えられた。

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2020/03/30

シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割

論文タイトル
Twin-Arginine Translocation System Is Involved in Citrobacter rodentium Fitness in the Intestinal Tract
論文タイトル(訳)
シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割
DOI
10.1128/IAI.00892-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
大竹 剛史、三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部 微生物学教室

抄訳

タンパク質分泌システムのTat(twin-arginine translocation)は細菌に特有であり、病原細菌の病原性発現に関与することから、Tatは感染症治療の新たなターゲットとして期待される。我々は腸管出血性大腸菌(EHEC)や腸管病原性大腸菌(EPEC)感染症のマウスモデル病原菌であるシトロバクターロデンティウムの腸感染におけるTatの役割を明らかにした。Tatが機能不全であるシトロバクターロデンティウム株(Tat変異株)は野生株と比較して、持続的に腸管内に定着した。これは、Tat変異株により誘導される炎症レベルの低下が原因であり、Tat変異株の感染マウスでは腸管内からの本菌の排除に重要な役割を担う好中球の腸粘膜上皮への遊走量が減少した。さらに、Tat変異株は胆汁酸に対する抵抗能が減弱し、また、腸管内胆汁酸レベルの調節によりシトロバクターロデンティウムの腸管内定着量が制御されることを見出した。本研究の結果より、EHECやEPEC感染症に対する新たな感染制御法として、Tatや胆汁酸レベルの制御が期待される。

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2020/03/27

小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路

論文タイトル
Glutamine-induced signaling pathways via amino acid receptors in enteroendocrine L cell lines
論文タイトル(訳)
小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路
DOI
10.1530/JME-19-0260
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Vol.64 No.3 (133–143)
著者名(敬称略)
中村 匠, 原田 一貴, 神谷泰智, 坪井 貴司 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

 小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1: GLP-1)は、膵β細胞からのグルコース依存的に起こるインスリン分泌を増強し、グルコース代謝の重要な役割を担う。GLP-1分泌は、消化管管腔内のグルコースや脂質、そしてアミノ酸などの栄養素により誘導される。この分泌には、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)とcAMP濃度([cAMP]i)上昇が重要であるが、アミノ酸によるGLP-1分泌制御機構は不明である。
 本研究では、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株内での、L-グルタミンによる[Ca2+]iと[cAMP]i上昇機構について解析した。細胞外Na+濃度を低下させ、ナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による[Ca2+]i上昇は観察されなかった。一方、taste receptor type 1 member 3(TAS1R3)の阻害剤投与は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を抑制した。CRISPR/Cas9を用いて、TAS1R3と、それとヘテロ二量体を形成するTAS1R1の変異GLUTag細胞株を樹立した。TAS1R1変異GLUTag細胞株は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を示した。一方、一部のTAS1R3変異GLUTag細胞株では、[cAMP]i上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、TAS1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。

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