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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2024/12/16

環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類

論文タイトル
A complete classification of evolutionary games with environmental feedback
論文タイトル(訳)
環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae455
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
伊東 啓、山道 真人
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 国際保健学分野
所属
国立遺伝学研究所
著者からのひと言
環境保全や天然資源の持続可能な管理、抗菌薬の過剰使用と病原体の薬剤耐性化、感染症の拡散とワクチン接種行動など、個々人の行動によって人々を取り巻く環境が変化し、環境の変化によって個人の行動がさらに影響されるような環境フィードバックが、今まさに起こっています。この研究が、環境と人間の行動が相互に影響を与え合う状況の理解に役立ち、両者を望ましい方向へ導くための土台となると期待しています。

抄訳

個人が自身の利益を追求する合理的な行動によって共有資源が枯渇する現象は「コモンズの悲劇」と呼ばれ、ゲーム理論における重要な研究テーマとなっている。コモンズの悲劇を理解するために、個人の行動が環境中の資源量を変え、その資源量の変化が個人の利益に影響する「フィードバック進化ゲーム」の枠組みが最近提唱されたが、資源が豊富な状況において、非協力者が常に増加する「囚人のジレンマ」ゲームにのみ焦点が当てられていた。本研究では、囚人のジレンマ以外の3つのゲーム(チキン・スタッグハント・トリビアル)を含む動態を解析し、完全な分類を行った。さらに、ジレンマ位相平面を用いてゲーム構造の変化を明らかにした。その結果、多様な初期値依存性(双安定性)が生じること、チキン・スタッグハントゲームが周期的な振動を引き起こすことを明らかにした。本研究は、環境フィードバックを含むゲーム理論をさらに拡張していく上で重要なステップとなる。

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2024/12/16

UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構

論文タイトル
Substrate binding and catalytic mechanism of UDP-α-D-galactofuranose: β-galactofuranoside β-(1→5)-galactofuranosyltransferase GfsA
論文タイトル(訳)
UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae482
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
岡 拓二、角田 佳充 他
所属
崇城大学 生物生命学部 生物生命学科
著者からのひと言
GfsAの立体構造は、真核生物由来のガラクトフラノース転移酵素として世界で初めて解明されました。GfsAの触媒部位を選択的に阻害する化合物は、細胞壁を弱体化させることで、新規の作用機序を持つ抗真菌薬として利用できる可能性があります。さらに、GfsAは糸状菌に広く保存された酵素であり、肺アスペルギルス症だけでなく、その他の真菌感染症の治療薬や植物病に対する農薬の開発にも繋がることが期待できます。

抄訳

糖転移酵素は複雑な糖鎖を合成する酵素であり、細胞において重要な役割を果たしています。糸状菌はガラクトフラノースという珍しい糖を含む糖鎖を合成し、それを細胞壁に組み込んでいます。GfsAは、糖鎖の非還元末端側のβ-ガラクトフラノース残基の5位の水酸基にUDP-α-D-ガラクトフラノースからβ-ガラクトフラノースを転移する酵素です。本研究では、肺アスペルギルス症を引き起こすAspergillus fumigatus由来のGfsAの基質結合構造と触媒機構を解明しました。マンガンイオン (Mn²⁺)、糖供与基質の生成物 (UDP)、および受容基質 (β-ガラクトフラノース) を含む複合体構造を明らかにしました。GfsAは、糖転移酵素に典型的なGT-Aフォールドドメインに加え、N末端およびC末端によって形成される独自のドメインを持っていました。N末端は他のGfsAのGT-Aドメインと相互作用し、二量体を形成していました。Mn²⁺、UDP、およびβ-ガラクトフラノースを含む活性中心は溝状の構造を形成しており、この構造は他の真菌類由来のGfsAにおいて高度に保存されていました。本研究は、ガラクトフラノース糖鎖合成の理解に必要な基礎的知見を提供し、将来的な新規抗真菌薬の開発に貢献する可能性があります。

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2024/12/13

全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価

論文タイトル
Rapid Glyco-Qualitative Assessment of Recombinant Proteins Using a Fully Automated System
論文タイトル(訳)
全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価
DOI
10.3791/66571
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (208), e66571
著者名(敬称略)
布施谷 清香 久野 敦 他
所属
産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 分子細胞マルチオミクス研究グループ
著者からのひと言
従来、糖鎖分析は多くの時間と手間を要し、基本的に手作業で行われていました。しかし、新しいシステムの導入により、全自動での分析が可能となり、糖鎖の構造や修飾を効率的に識別し、短時間でタンパク質の質的特徴を評価できるようになりました。このシステムは、組換えタンパク質の製造過程における品質管理の向上や、製造プロセスの最適化に大きく貢献することが期待されます。

抄訳

タンパク質のグリコシル化は、重要な翻訳後修飾であり、バイオ医薬品を含む組換えタンパク質の安定性、有効性、免疫原性に影響を与える。糖鎖構造は、生産細胞の種類、培養条件、精製方法によって異なる大きな不均一性を示すため、組換えタンパク質の糖鎖構造のモニタリングと評価は非常に重要である。加えて、産業界で適応させるためには、自動化されたハイスループットな手段が必要である。そこで、「bead array in a single tip (BIST)」技術のコンセプトを活用して世界初の全自動レクチンベースの糖鎖プロファイリングシステムを開発した。本システムでは、糖鎖を認識するレクチン固定化ビーズをそれぞれ1,000個単位で調製・保存することができ、様々な目的に合わせてチップを作製、カスタマイズ可能である。システムの汎用性を高めるため、N型糖鎖やO型糖鎖を認識する15種類のレクチンを選択し、内包したチップを「標準GlycoBISTチップ」と名付けた。本システムの信頼性は再現性試験や長期保存試験を通じて確認され、さらにサンプルのラベリングプロセスを最適化し、全体の処理時間を30分短縮した。また、データの視認性向上のために、レクチン結合シグナルは機器モニターにドットコードとして表示される。このユーザーフレンドリーで迅速な糖鎖分析装置は、糖質科学に馴染みのない研究者による分析を容易にし、実用的な有用性を広げることが期待される。

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2024/12/09

覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測

論文タイトル
Electroencephalography Measurements in Awake Marmosets Listening to Conspecific Vocalizations
論文タイトル(訳)
覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測
DOI
10.3791/66869
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (209), e66869
著者名(敬称略)
鴻池 菜保 中村 克樹 他
所属
京都大学ヒト行動進化研究センター 高次脳機能分野/認知神経機構学分科 京都大学白眉センター
著者からのひと言
サルの頭皮上から脳波を計測して、主に聴覚情報処理にかかわる神経メカニズムを明らかにする一連の研究を開発者の新潟大学脳研究所の伊藤浩介先生とともに実施してきました。今回は、実際の計測手法を動画形式で示すことにより、興味をもった方に実際に試していただけるように工夫しました。是非、ご覧ください!

抄訳

我々は南米原産の小型霊長類であるコモンマーモセットを対象として、覚醒状態で頭皮上に設置した電極から脳活動を非侵襲的に記録する手法を開発した。本手法は、非侵襲的であり動物に負担をかけず、麻酔することなく、覚醒状態の動物から長期的な脳活動の計測が可能であるという利点がある。この手法を用いて、音声処理脳内メカニズムを理解することを目的として、9頭のマーモセットから脳波を計測し、マーモセット特有の鳴き声を聴かせている間の事象関連電位と時間周波数マップを得た。その結果、脳活動の周波数特性とその変化が年齢によって変化することが明らかになった。本手法を用いれば、音声コミュニケーションが豊富なマーモセットのデータとヒトの頭皮上脳波データの直接比較が可能となり、言語や音声処理の進化的視点に立った研究に取り組むことが可能となる。動画では、動物のハンドリング、事前の馴致訓練、脳波計測実験の各プロトコールを紹介している。

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2024/12/04

深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案

論文タイトル
Fidelibacter multiformis gen. nov., sp. nov., isolated from a deep subsurface aquifer and proposal of Fidelibacterota phyl. nov., formerly called Marine Group A, SAR406 or Candidatus Marinimicrobia
論文タイトル(訳)
深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案
DOI
10.1099/ijsem.0.006558
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74 Issue 10
著者名(敬称略)
片山 泰樹
所属
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ
著者からのひと言
原核生物の大多数は人工的な培地上で培養できず、性質も未解明である。我々は4年の歳月をかけて門レベルで新しいバクテリアIA91株を分離培養した。培養試験により、自身の増殖に不可欠な細胞壁の合成を他の細菌から放出される細胞壁断片に委ねるという教科書レベルの常識を覆す特徴と、微生物同士の新奇な相互作用が明らかとなった。未培養微生物の魅力と培養手法の重要性を端的に示している。

抄訳

グラム陰性、絶対嫌気性、化学従属栄養細菌IA91株が、日本の深部帯水層の堆積物と地層水から分離培養された。IA91株は、増殖する他の細菌から放出される細胞壁断片ムロペプチドを、自身の細胞壁ペプチドグリカン、エネルギー源、炭素源として利用し、細胞壁の形成、増殖、更には細胞の形状に至るまで他の細菌に依存した。 IA91株細胞は桿状であるが、他の細菌に由来するムロペプチドがない場合あるいは枯渇すると球状に変化し、やがて死滅した。IA91株は非常に限られた基質、酵母エキス、ムロペプチド、D-乳酸のみを利用し増殖した。酵母エキス分解の主な最終生成物は酢酸、水素、二酸化炭素であった。水素を除去するメタン生成古細菌との共培養はIA91株の増殖を強く促進した。16S rRNA遺伝子、及び、保存タンパク質配列に基づく分子系統解析の結果、IA91株は培養株の存在しない候補門Marine Group A(またはSAR406、Ca. Marinimicrobia)に属することが示された。表現型および系統学的特徴に基づき、IA91株を新属新種Fidelibacter multiformis、新科Fidelibacteraceae、新目Fidelibacterales、新綱Fidelibacteria、新門Fidelibacterotaとして提案した。

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2024/11/08

生体内CRISPRスクリーンがトキソプラズマ原虫の病原性に必須の遺伝子を同定した

論文タイトル
CRISPR screens identify genes essential for in vivo virulence among proteins of hyperLOPIT-unassigned subcellular localization in Toxoplasma
論文タイトル(訳)
生体内CRISPRスクリーンがトキソプラズマ原虫の病原性に必須の遺伝子を同定した
DOI
10.1128/mbio.01728-24
ジャーナル名
mBio
巻号
Volume 15, Issue 9 (2024)
著者名(敬称略)
橘 優汰 山本 雅裕 他
所属
大阪大学微生物病研究所 感染病態分野
著者からのひと言
トキソプラズマ症やマラリアといったアピコンプレクサに属する寄生虫による感染症は依然として人類の脅威です。トキソプラズマ原虫は実験がしやすいことからアピコンプレクサのモデル生物と言われています。今後もCRISPRを基盤技術としたトキソプラズマの研究を通じてアピコンプレクサ全体に保存された知見を得ていき、最終的には病原体のサイエンスを通じて、感染症領域において臨床に還元できる研究成果を発信したいと思っています。

抄訳

寄生虫の一種であるトキソプラズマ原虫は免疫不全患者や新生児に重篤な感染症を引き起こす。トキソプラズマ原虫がコードする8000個以上のタンパク質の多くは細胞内の局在および機能が不明であり、病原性への関与も未知数な状態であった。我々が樹立した生体内CRISPRスクリーニング技術を駆使することで、約600個のトキソプラズマ遺伝子の必須性をマウスの生体内で網羅的にスクリーニングした。その結果、トキソプラズマ原虫の病原性に必須の因子を多数同定することに成功した。その中でも医学的に最も重要な寄生虫の集団である『アピコンプレクサ』に保存されているRimM遺伝子に着目した。RimMは寄生虫の葉緑体類似器官であるアピコプラストに局在し、寄生虫の生存に必須であることを証明した。本研究成果によりアピコンプレクサが引き起こすトキソプラズマ症やマラリアの病態解明、ひいては新規治療薬やワクチン開発につながることが期待される。

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2024/10/31

動物界の排卵:全動物の排卵に共通の細胞メカニズムを求めて(総説)

論文タイトル
An attempt to search for the common cellular mechanism of ovulation across all metazoans: A review
論文タイトル(訳)
動物界の排卵:全動物の排卵に共通の細胞メカニズムを求めて(総説)
DOI
10.1530/REP-24-0184
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Accepted Manuscripts REP-24-0184
著者名(敬称略)
高橋 孝行 荻原 克益
所属
北海道大学 大学院理学研究院 生殖発生生物学研究室 荻原グループ
著者からのひと言
これまで様々な動物種を用いて行われてきた排卵研究の知識を整理し,動物界の排卵に共通するメカニズムの追究を試みた初めての総説論文で,reviewersによりherculean effortにより仕上げられたencyclopedic reviewと評された。著者らが永年に亘り従事してきた排卵研究の経験を基に,5年の歳月をかけて2024年までの排卵研究の情報をまとめている。現在,排卵研究に携わっている研究者,これから排卵研究に参入しようとしている若い研究者,さらには動物の卵巣においてどのように卵が成長し排卵に至るのかについて知りたい大学院生のみならず生殖生物学とは無縁の研究者など,排卵研究の現状の把握や基本知識の習得に本総説論文は役立つものと信じる。

抄訳

排卵は卵巣から受精可能な卵が放出される現象を指し,有性生殖により子孫を残すすべての動物にとって不可欠な過程である。10動物門に属する11種の動物の排卵について文献調査から,多くの動物では濾胞破裂という様式によって排卵すること,さらに濾胞破裂による排卵する動物の濾胞においては,2つの重要な細胞学的イベントが共通して誘起されることを提唱した。1)卵を取り囲む濾胞細胞の細胞結合システム(Cell-Cell junctions およびcell-ECM junctions)に変化が起こり,それによって濾胞細胞内の細胞骨格タンパク質の再配置が誘導され,同時に,2)濾胞細胞間を埋めるECMタンパク質の分解が起こることによって,濾胞細胞が変形および移動性を獲得し,濾胞壁の一部に卵を濾胞外に送り出すための通路が形成される。哺乳類や魚類などの脊椎動物の濾胞においては多量のECMタンパク質が濾胞壁に蓄積しており,これらの動物の排卵ではECMタンパク質の分解がより一層重要性を増す。本論文では,動物の排卵の進化および今後の排卵研究の課題についても論じている

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2024/10/29

特定の宿主昆虫に対して自然に進化した共生細菌および人工的に進化させた共生細菌の宿主範囲比較

論文タイトル
Host range of naturally and artificially evolved symbiotic bacteria for a specific host insect
論文タイトル(訳)
特定の宿主昆虫に対して自然に進化した共生細菌および人工的に進化させた共生細菌の宿主範囲比較
DOI
10.1128/mbio.01342-24
ジャーナル名
mBio
巻号
Volume 15, Issue 9 (2024)
著者名(敬称略)
杉山 隆雅  深津 武馬 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門

抄訳

共生が始まった当初、宿主と共生生物の特異性はどのように生じるのだろうか?一般に共生が始まる瞬間を直接観察することは難しい。しかし近年、共生に関する実験的進化学的アプローチがブレークスルーをもたらしつつある。本研究では、チャバネアオカメムシを宿主に実験室で作成した共生大腸菌と、チャバネアオカメムシの天然の共生細菌を用いてこの進化的問題に取り組んだ。我々は、多様なカメムシの必須共生細菌を、チャバネアオカメムシの人工共生細菌と天然共生細菌に置き換える実験を行い、特定の宿主のために進化した共生細菌が、異種宿主に感染を確立し、成長と生存を支持できるかを評価した。予想外なことに、人工共生細菌はチャバネアオカメムシのみに厳密な宿主特異性を示したのに対し、天然共生細菌は多様なカメムシと共生可能であった。この知見は、宿主と共生細菌の特異性が共生の進化初期段階でどのように確立されるのかについて洞察を与えるものである。

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2024/10/22

沖縄県のベンガルヤハズカズラおよび土壌から見つかった新種酵母Yamadazyma thunbergiae sp. nov.

論文タイトル
Yamadazyma thunbergiae sp. nov., a novel yeast species associated with Bengal clock vines and soil in
Okinawa, Japan
論文タイトル(訳)
沖縄県のベンガルヤハズカズラおよび土壌から見つかった新種酵母Yamadazyma thunbergiae sp. nov.
DOI
10.1099/ijsem.0.006537
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74 Issue 10
著者名(敬称略)
清家 泰介
所属
大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報計測学講座
著者からのひと言
この新種の酵母は、2022年夏に沖縄の美ら海水族館前で咲いていたベンガルヤハズカズラと、翌年の冬に琉球大学キャンパスの土壌から単離されました。特に注目すべきは、Yamadazyma属の中でもラフィノースやメリビオースなど、幅広い糖を利用できる点です。この多様な糖利用能力は、産業利用への大きな可能性を秘めています。世界中で数千種以上の酵母が発見されていますが、まだまだ身近な場所にも新種が潜んでいるかもしれません。さらなる酵母の発見を通じ、その可能性を広げていきたいと考えています。

抄訳

沖縄県のベンガルヤハズカズラ(Thunbergia grandiflora)および土壌からそれぞれ単離された酵母2株、JCM 36746TおよびJCM 36749が新たに発見された。rRNA遺伝子のITS領域およびD1/D2ドメインの配列解析により、両株は同一の配列を持ち、同種に属することが確認された。配列解析および生理学的特徴から、これらの株はYamadazyma属の新種であると判明した。ITSおよびD1/D2の配列類似性から、JCM 36746TおよびJCM 36749は、Candida dendronema、C. diddensiae、C. germanica、C. kanchanaburiensis、C. naeodendra、C. vaughaniae、Y. akitaensis、Y. koratensis、Y. nakazawae、Y. philogaea、Y. phyllophila、Y. siamensis、Y. ubonensis、未記載の3種(Candida aff. naeodendra/diddensiae Y151、Candida sp. GE19S08、Yamadazyma sp.株 NYNU 22830)を含むYamadazymaクレードに属することが示唆された。新種のD1/D2ドメインおよびITS領域の配列は、これらの関連種と比較して、それぞれ1.51%および2.57%以上のヌクレオチド置換の違いが見られた。また、生理学的特徴もこれら近縁種とは異なっていた。これらの結果に基づき、この種をYamadazyma属に分類し、Yamadazyma thunbergiae sp. nov.という名称を提案した。

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2024/10/16

ラットの繁殖効率の違いは生殖フェロモンの産生と関連している

論文タイトル
Fecundity difference is related to the production of reproductive pheromones in rats
論文タイトル(訳)
ラットの繁殖効率の違いは生殖フェロモンの産生と関連している
DOI
10.1530/REP-24-0104
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Accepted Manuscripts REP-24-0104
著者名(敬称略)
山田 俊幸、佐古 兼一、土田 成紀、山本 博之 他
所属
日本薬科大学 薬学科 生命科学薬学分野
著者からのひと言
弘前ヘアレスラット(HHR)は、筆頭著者(山田)が以前在籍していた弘前大学医学研究科においてSDラット(SDR)より自然発生した乏毛ラットであり、毛のケラチン遺伝子をいくつか欠失しています。HHRがSDRに比べて「よく増える」ことはかねてより気付かれていましたが、その機序は不明でした。今回、オスの眼窩外涙腺由来の生殖フェロモンの関与が示唆され、その原因解明に一歩近づきました。今後は、ケラチン遺伝子の欠失と生殖フェロモンの産生との関連性の解明に興味がもたれます。

抄訳

げっ歯類においてはフェロモンが生殖に重要な役割を果たしている。弘前ヘアレスラット(HHR)はSDラット(SDR)に由来する変異ラットである。HHR同志、SDR同志の交配では、HHRはSDRより高い繁殖効率を示した。HHRオスとSDRメスあるいはその逆の交配実験から、この繁殖効率の違いはオスに起因することが示された。一方で、すべての交配において産児数に有意差はなく、オスの精巣上体中の精子の数、形態、運動性、さらに血清テストステロン濃度に差はなかった。また、HHRオス、SDRオスそれぞれ1匹とメス1匹の計3匹を同居させたところ、常にHHRオスの子供が生まれた。これらのことから、HHRとSDRの繁殖効率の違いは交尾の成功率の違いによると考え、次に、メスに生殖行動を起こさせるオス由来のフェロモンの関与について検討した。肝臓由来のフェロモンであるDarcin (MUP20)の遺伝子発現はHHRオスとSDRオスの間で差はなかったが、眼窩外涙腺の重量はHHRオスの方が大きく、そこで産生されるフェロモンであるESP1とCRP1の量も多かった。以上の結果から、これらラットの繁殖効率の違いにはオスの眼窩外涙腺での生殖フェロモンの産生量の違いが関与しているものと考えられた。

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2024/10/11

高病原性肺炎桿菌を検出するためのストリングテストに最適な寒天培地の評価

論文タイトル
Evaluation of an optimal agar medium for detecting hypervirulent Klebsiella pneumoniae using string test
論文タイトル(訳)
高病原性肺炎桿菌を検出するためのストリングテストに最適な寒天培地の評価
DOI
10.1099/acmi.0.000834.v3
ジャーナル名
Access Microbiology
巻号
Volume 6, Issue 9 (2024)
著者名(敬称略)
渡辺 直樹
所属
亀田総合病院 臨床検査部
著者からのひと言
肺炎桿菌が寒天培地の種類によって異なる性状を示す場合があることに気づいたことが、本研究につながりました。高い病原性を有する肺炎桿菌は世界的に注目されており、迅速で正確なスクリーニング方法が必要とされています。ストリングテストは、簡便かつ低コストで実施できるため、臨床現場での応用が期待される方法です。今回の研究結果が、ストリングテストの診断精度を向上させる一助となれば幸いです。

抄訳

ストリングテストは、高い病原性を有する肺炎桿菌を検出するためのスクリーニング方法です。本研究では、寒天培地の種類がストリングテストの結果に与える影響を評価し、テストに最適な寒天培地とカットオフ値を決定しました。99株の肺炎桿菌を用い、4種類の寒天培地(ヒツジ血液、チョコレート、ドリガルスキー、マッコンキー寒天培地)でストリングテストを実施しました。各培地におけるテスト結果と、肺炎桿菌の病原性に関連する遺伝子(rmpA、rmpA2、iucA)の保有との一致率を計算し、診断精度を評価しました。その結果、最も高い診断精度を示した培地はヒツジ血液寒天培地で、5 mmのカットオフ値が最適であることが分かりました。これらの結果により、高い病原性を有する肺炎桿菌を効果的にスクリーニングするためには、寒天培地の選択と適切なカットオフ値の設定が重要であることが明らかとなりました。

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2024/10/01

Znrf3エクソン2欠失マウスは先天性副腎低形成症を再現しない

論文タイトル
Znrf3 exon 2 deletion mice do not recapitulate congenital adrenal hypoplasia
論文タイトル(訳)
Znrf3エクソン2欠失マウスは先天性副腎低形成症を再現しない
DOI
10.1530/JME-24-0015
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JME-24-0015
著者名(敬称略)
内田登、長谷川奉延 他
所属
慶應義塾大学医学部 小児科学教室

抄訳

ZNRF3エクソン2欠失は先天性副腎低形成症の病因となる。本研究では遺伝子改変マウスを作成し、Znrf3エクソン2欠失(Δ2)が副腎皮質発生に及ぼす影響を検討した。ホモ接合性Znrf3エクソン2欠失(Znrf3Δ2/Δ2)マウスと同胞の野生型マウスを比較した。Znrf3Δ2/Δ2マウスの副腎は低形成を示さず、成長とともに腫大した。6週齢では、活性型β-カテニン陽性細胞数およびWnt/β-カテニン標的遺伝子Axin2 陽性細胞数が減少していた。血中ACTHおよびコルチコステロン濃度は変化していなかった。活性型β-カテニンおよびAxin2陽性細胞数の減少は、エクソン2を欠失したZnrf3がWnt/β-カテニンシグナル伝達を不活化することを示唆するが、Znrf3Δ2/Δ2マウスは先天性副腎低形成症を再現しなかった。ZNER3/Znrf3エクソン2欠失の副腎皮質発生に関する影響には種差があると考える。

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2024/10/01

頸部腫瘤の甲状腺癌転移スクリーニングにおける穿刺針洗浄液中サイログロブリンのカットオフ値について

論文タイトル
Cutoff value of thyroglobulin in needle aspirates for screening neck masses of thyroid carcinoma
論文タイトル(訳)
頸部腫瘤の甲状腺癌転移スクリーニングにおける穿刺針洗浄液中サイログロブリンのカットオフ値について
DOI
10.1530/ERC-24-0067
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Accepted Manuscripts ERC-24-0067
著者名(敬称略)
坂本 耕二 他
所属
日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科学教室

抄訳

穿刺吸引細胞診で用いた針の洗浄液中サイログロブリン測定(FNA-Tg)は甲状腺癌リンパ節転移の診断に有用であるが、そのカットオフ値は特に頸部腫瘤のスクリーニング検査において定まっていない。そのため当院で術前FNAC、FNA-Tg施行後病理検査を行った甲状腺外の頸部腫瘤病変を対象に後方視的研究を行った。210病変中57病変が甲状腺由来で、甲状腺由来病変ではFNA-Tg値が有意に高く(p:0.001)、ROC曲線で特異度100%となる最小のFNA-Tg値をカットオフとすると32.2ng/mlであった。甲状腺乳頭癌症例では、FNACよりもFNA-Tgの感度が高かった。今回のFNA-Tgのカットオフ値は、リンパ節以外の病変や甲状腺以外の転移リンパ節が比較的高値だったため、過去の報告より高くなった。FNA-Tgを頸部腫瘤のスクリーニング検査として用いるのであれば、より高いカットオフ値を設定する必要がある。

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2024/09/12

間質流の再現による多層化した小腸組織モデルの開発

論文タイトル
Construction of multilayered small intestine-like tissue by reproducing interstitial flow
論文タイトル(訳)
間質流の再現による多層化した小腸組織モデルの開発
DOI
10.1016/j.stem.2024.06.012
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Volume 31, Issue 9
著者名(敬称略)
出口 清香、高山 和雄 他
所属
京都大学 iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 高山研究室
著者からのひと言
本研究によって、間質流という力学刺激の臓器形成における重要性を見出すことができました。今後も、間質流のみならず、臓器構築に寄与する様々な力学刺激を探索したいと考えています。

抄訳

胎児期の小腸組織は、小腸の側底側に接続した血管から染み出す体液が形成する間質流に晒されている。そのため、発生を模倣しながらヒトES/iPS細胞から小腸組織を構築するためには、間質流を考慮した培養系が望ましい。本研究では、マイクロ流体デバイスを用いて間質流を再現した条件で、ヒトES/iPS細胞から小腸組織(マイクロ小腸システム)の構築を試みた。マイクロ小腸システムの小腸上皮細胞は、間質流に晒されることで発達した柔毛様構造を有する上皮層を構築し、その直下には間質層が整列していた。さらに、間質流を作用したマイクロ小腸システムは、小腸上皮細胞から分泌された粘液層を有していた。これらの結果から、マイクロ小腸システムは粘液層および上皮層、間質層から構成される、生体小腸に類似した多層構造を有することが分かった。また、マイクロ小腸システムは、薬物動態研究や腸管感染症研究に応用できることを確認した。今後、マイクロ小腸システムを普及させ、各種腸管疾患研究を加速したい。

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2024/09/12

転写因子Ikzf1はFoxp3と結合して制御性T細胞の遺伝子発現を抑制し、自己免疫応答および抗腫瘍免疫応答を制限する

論文タイトル
Transcription factor Ikzf1 associates with Foxp3 to repress gene expression in Treg cells and limit autoimmunity and anti-tumor immunity
論文タイトル(訳)
転写因子Ikzf1はFoxp3と結合して制御性T細胞の遺伝子発現を抑制し、自己免疫応答および抗腫瘍免疫応答を制限する
DOI
10.1016/j.immuni.2024.07.010
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 57, Issue 9
著者名(敬称略)
市山 健司 他
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター

抄訳

制御性T細胞(Treg)は免疫自己寛容の確立において中心的な役割を担う細胞である。Tregのマスター転写因子Foxp3は、他の転写因子や修飾酵素と相互作用することで複合体を形成し、特定の遺伝子発現を制御することが知られている。しかしながら、これら相互作用のTregにおける生理的意義はこれまで不明であった。今回我々は、転写因子Ikzf1が自身のexon 5領域(IkE5)を介してFoxp3と相互作用することを見出した。さらに、Treg特異的にIkE5を欠損させることでFoxp3とIkzf1の相互作用を阻害すると、TregはIFN-yの過剰産生を介した機能障害を示し、その結果として、致死性の自己免疫疾患の発症および強力な抗腫瘍免疫応答が引き起こされることが明らかとなった。以上の結果から、Ikzf1とFoxp3の相互作用はTregの機能維持に必須であり、今後、この相互作用を標的とした自己免疫疾患や癌に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待される。

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2024/09/11

膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する

論文タイトル
CREB activates the MafA promoter through proximal E-boxes and a CCAAT motif in pancreatic β-cells
論文タイトル(訳)
膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する
DOI
10.1530/JME-24-0023
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JME-24-0023
著者名(敬称略)
會田 侑希 片岡 浩介
所属
横浜市立大学 生命医科学研究科 生体機能医科学研究室
著者からのひと言
本論文では、MafA遺伝子の転写制御を調べる中で、転写因子CREBが本来の結合配列CREに依存せずに転写を活性化することを見出し、報告しました。β細胞では、CREBはCREに加えてNF-Yにも依存するようで、そのような遺伝子としてIslet1やNkx6.1を見出しました。これらもβ細胞で重要な転写因子で、それらの発現がインクレチンによって制御される仕組みにアプローチできたと考えています。

抄訳

InsulinやGlut2遺伝子を標的とする転写因子MafAは、β細胞の機能に必須である。二型糖尿病に伴うβ細胞の機能不全は、MafAの発現低下によって起きると考えられている。一方、二型糖尿病の治療薬でもあるインクレチンは、転写因子CREBを活性化してMafAの発現上昇を促すが、その詳細は不明であった。ChIP-seqによるとCREBはMafA遺伝子の遠位β細胞エンハンサーとプロモーターの両方に結合していた。エンハンサーにはCREBの結合配列CREがあり、活性化に必須なことをレポーターアッセイで示した。一方でプロモーターにはCRE配列がなく、β細胞転写因子NeuroD1の結合配列E-boxとユビキタスな転写因子NF-Yの結合配列CCAATの両方が活性化に必要であった。ゲノム全体でもCREBはCCAAT配列の近傍に結合しており、NF-Yを介したDNAへのアクセスも重要なことが示唆された。

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2024/09/10

医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例

論文タイトル
Discrepant serum creatinine concentrations caused by paraprotein interference preceding diagnosis of monoclonal gammopathy of undetermined significance
論文タイトル(訳)
医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例
DOI
10.1136/bcr-2023-256242
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol.17 Iss.4 (2024)
著者名(敬称略)
小原 幸、稲葉 亨、中田 徹男、的場 聖明
所属
京都薬科大学 病態薬科学系 - 臨床薬理学分野
著者からのひと言
クレアチニン値に乖離を認めたことより、精査の結果MGUSが診断された症例を経験しました。本ケースは自動検体測定装置からのアラート発出も無く、偽検査結果も極端な基準値からの逸脱でなかったことより、偽結果がそのまま患者本人に返却されました。臨床医は、血液検査結果に乖離を認めた際、本症例の様なパラプロテイン干渉による偽結果も念頭に置き、診療に携わる必要があると考えられました。

抄訳

かかりつけ医療機関と他医での健康診断の際の血清クレアチニン値に乖離が生じており、精査の結果パラプロテイン干渉による検査値異常が見いだされ、MGUSの診断に至った一例を経験した。 症例は70歳代男性。労作性狭心症等で内服薬による加療を受けていた。健康診断を別医療機関で受診し、クレアチニン高値 (1.75 mg/dL)により、腎機能障害を指摘された。かかりつけ医療機関でのクレアチニン値(0.87 mg/dL)と乖離が見られたため、臨床検査部、検査試薬企業検査部とともに精査をすすめた。患者同一検体を用いて、2医療機関で使用されたクレアチニン測定キットを含む複数のキットでの測定結果を、リファレンスとして測定した液体クロマトグラフィーによる結果と検証した。クレアチニン値の測定キットは全て酵素法であったが、検診時の採用キットのみ測定の第一過程で検査試薬添加時に検体の混濁が認められ、最終検査結果に影響を与えたと考えられた。パラプロテイン干渉が疑われ、Mタンパク血漿(monoclonal γgl 0.3 g/dL, IgG-λ)が認められ、MGUSと診断された。検査機関により、血液検査結果に乖離がある場合、パラプロテイン血症による偽結果も念頭におき診療する必要があると考えられる。

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2024/09/06

脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価

論文タイトル
Image Quality Evaluation for Brain Soft Tissue in Neuro -endovascular Treatment by Dose-reduction Mode of Dual-axis “Butterfly” Scan
論文タイトル(訳)
脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価
DOI
10.3174/ajnr.A8472
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
Accepted Manuscripts
著者名(敬称略)
細尾 久幸 他
所属
筑波大学附属病院 脳卒中科/筑波大学 医学医療系 脳卒中予防治療学講座
著者からのひと言
同一平面上のみならず垂直方向の振り子状の動きも加わった撮像法Butterfly CBCTは、従来のCBCTと比較し画質が向上した。本撮像法は、若干高線量であったため、今回線量低減モードを用いた。結果、線量が減ってもアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト改善がみられた。これら結果から、例えば早期脳虚血性変化検出には通常モード、出血性合併症検出には70%線量、複数回治療や小児では50%線量を選択するなど、目的に応じた使い分けを提案する。

抄訳

【背景】脳血管内治療において出血性合併症を検出のため、Flat panel CBCTによるCT like imageの撮像は必須である。従来のCBCTと比較し、1軸平面に加え、垂直方向の振り子様の動きも加わったButterfly CBCTでは、画質が向上したが若干高線量だった。本研究では、線量を低減したButterfly CBCTの画質を評価した。【方法】予定脳血管内治療症例で、70%線量と50%線量Butterfly CBCTに振り分け、従来のCBCTと画質を比較した。【結果】20例ずつ計40例。従来のCBCTと比較し70%線量Butterflyではアーティファクト軽減、コントラストおよび皮髄境界識別能改善がみられた。50%線量ではアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト軽減は認めたが、皮髄境界識別能は改善なかった。【結論】線量を低減しても、Butterfly CBCTの軌道により、アーチファクト軽減、コントラスト向上、皮髄境界識別能の改善を認めた。しかし、特に骨の干渉のある後頭部においては、コントラストや皮髄境界識別能に、線量低減の影響がみられた。

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2024/08/20

加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する

論文タイトル
SDHAF1 confers metabolic resilience to aging hematopoietic stem cells by promoting mitochondrial ATP production
論文タイトル(訳)
加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する
DOI
10.1016/j.stem.2024.04.023
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Cell Stem Cell Volume 31 Issue 8
著者名(敬称略)
綿貫慎太郎、小林 央、田久保圭誉 他
所属
東北大学大学院医学系研究科、国立国際医療研究センター研究所
著者からのひと言
この論文の最初の着想は、加齢造血幹細胞が解糖系を欠失した状況でも生存可能という現象の発見でした。そこから足かけ6年以上かかりましたが、単一細胞ATP測定技術や少数細胞の同位体トレーサー解析など総力を結集して、当初のきっかけであった解糖系に留まらない加齢造血幹細胞の生存を優位にさせる代謝プログラムを明らかにし、幹細胞の老化の新たな一面を明らかにできたと考えています。

抄訳

幹細胞は加齢に伴って数と機能が低下すると一般に考えられていますが、血液を産生する造血幹細胞(HSC)は、加齢により数が増加するという一見矛盾する挙動を示します。本研究では、加齢マウスを用いた実験で、HSCが老化に伴い、通常であれば細胞死を招くような様々な代謝ストレスに対して耐性を持ち、生存優位性を獲得することを発見しました。さらに、加齢HSCでは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体の活性を上昇させるSDHAF1が蓄積し、その結果、酸化的リン酸化によるATPの産生が増強され、代謝ストレスに対する耐性が向上することが判明しました。実際に、若齢HSCにSDHAF1を過剰発現させると、加齢HSCと同様の代謝特性や細胞死耐性が見られました。これらの研究結果から、加齢HSCは単なる機能低下した細胞ではなく、エネルギー代謝の観点から見ると“強い”HSCであることが明らかになりました。この知見に基づき、加齢に関連する血液異常を改善する新たな治療法の開発が期待されます。

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2024/08/16

細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する

論文タイトル
Lipid-orchestrated paracrine circuit coordinates mast cell maturation and anaphylaxis through functional interaction with fibroblasts
論文タイトル(訳)
細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2024.06.012
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 57 Issue 8
著者名(敬称略)
武富 芳隆, 村上 誠 他
所属
東京大学 大学院医学系研究科

抄訳

マスト細胞の成熟はアレルギー感受性と関連する。線維芽細胞のSCFとマスト細胞のSCF受容体(Kit)のシグナル伝達に加え、接着因子やIL-33などがマスト細胞成熟に関わることが示唆されてきたが、その分子機序は不明であった。脂質関連分子の欠損マウスの表現型スクリーニングを通じ、リン脂質分解酵素PLA2G3、PGD₂の合成酵素L-PGDSと受容体DP1、リゾリン脂質LPAの受容体LPA₁がマスト細胞成熟不全とアナフィラキシー低応答性を示すことを見出した。PLA2G3はマスト細胞から分泌され、細胞外小胞のリン脂質を分解し、線維芽細胞由来のLPA産生酵素ATXと協調してLPAを動員した。LPAは線維芽細胞のLPA₁受容体を活性化し、インテグリンによる細胞接着、IL-33シグナル、PGD₂-DP1受容体シグナル、ATX-LPA₁の発現を統括することにより、マスト細胞成熟を誘導した。このことから、本経路を標的とした創薬はマスト細胞が関連するアレルギー疾患の予防治療に有効であることが期待される。

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