本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2026/08/07

 インフルエンザウイルス感染が引き起こす上気道常在細菌叢の病原性転化

論文タイトル
Influenza A virus infection induces initial proliferation of commensal Streptococcus pneumoniae in the larynx leading to dissemination into the lower respiratory tract
論文タイトル(訳)
インフルエンザウイルス感染が引き起こす上気道常在細菌叢の病原性転化
DOI
10.1128/jvi.00555-26
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Vol. 100, No. 7
著者名(敬称略)
加藤 広介 川口 敦史 他
所属
筑波大学医学医療系・分子ウイルス学研究室
著者からのひと言
 二次性細菌性肺炎はインフルエンザウイルス感染症による死亡例の多くを占める重要な合併症です。
その多くは、外環境からの病原性細菌による感染ではなく、体内常在菌の病原性転化(ディスバイオーシス)によるものです。
本研究で開発した動物モデルによって、詳細な分子機構を明らかにしていくことをめざしております。

抄訳

普段は病原性を示さず上気道に定着している常在菌が、インフルエンザウイルス感染をきっかけに病原性を発揮し、重篤な二次性細菌性肺炎を引き起こすことがあります。しかし、常在菌が上気道の「どこで」増殖を開始し、どのように下気道へ拡大するのかは明らかになっていませんでした。
本研究では、マウス上気道に定着できる肺炎球菌株を選定し、対数増殖期にのみ近赤外発光を示す組換え株を構築しました。これをマウスに定着させ、感染後の増殖動態をin vivoイメージングで解析しました。
その結果、菌増殖が顕著となる主要部位は鼻腔や肺ではなく、声帯周囲の喉頭であり、増殖能が活性して気管や肺へ拡大することが明らかになりました。
本研究は喉頭が常在菌の増殖が活性化する重要部位であることを示しています。今後、喉頭の微小環境変化を解明することで、二次性細菌性肺炎の早期予防や新たな局所介入法の開発につながると期待されます。

 

 

論文掲載ページへ

2026/08/07

グアニル酸キナーゼ1は、イノシン三リン酸分解酵素が欠損した哺乳動物細胞のRNAにおいて、イノシンが蓄積する原因となる酵素である。

論文タイトル
Guanylate kinase 1 is an enzyme responsible for inosine accumulation in RNA of mammalian cells deficient in inosine triphosphatase
論文タイトル(訳)
グアニル酸キナーゼ1は、イノシン三リン酸分解酵素が欠損した哺乳動物細胞のRNAにおいて、イノシンが蓄積する原因となる酵素である。
DOI
10.1073/pnas.2606968123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (31) e2606968123
著者名(敬称略)
土本 大介 他
所属
九州大学 生体防御医学研究所 研究推進ユニット 先端研究開発室
著者からのひと言
 稀少な難病である発達性およびてんかん性脳症35の治療を目指して原因物質ITPの生体内生成経路の解明を試み、成功しました。治療標的となりそうなGUK1は、強く抑制されると別の疾患の原因となることが最近報告されたことからまだまだ治療法開発までは遠いようですが、今後も研究を続けて治療に結び付けたいと考えています。

抄訳

 イノシン三リン酸(ITP)分解酵素欠損は、発達性およびてんかん性脳症35 (DEE35)の原因となる。しかし原因物質ITPの生体内生成経路は不明であった。我々はITP分解酵素欠損培養細胞と組換えタンパク質を用いた研究により、グアニル酸キナーゼ1(GUK1)が細胞中に存在しているイノシン一リン酸を間違ってリン酸化し、生じたイノシン二リン酸が更にリン酸化されてITPが生成されることを明らかにした。続いてDEE35モデルマウスでGUK1を半分欠損させると寿命が延長し、大脳皮質におけるRNA中のイノシンが減少した。RNA中イノシンはRNA合成中にITPが取り込まれたと考えられる。本研究の結果は、ほ乳動物における主なITP生成経路がGUK1に依存したイノシン一リン酸からの二段階リン酸化であることを示している。

論文掲載ページへ

2026/08/07

液-液相分離(LLPS)依存性および非依存性機構によるC型肝炎ウイルス感染細胞における脂肪滴関連リング構造の形成

論文タイトル
Assembly of lipid droplet-associated ring structures in hepatitis C virus-infected cells via liquid–liquid phase separation (LLPS) and non-LLPS mechanisms
論文タイトル(訳)
液-液相分離(LLPS)依存性および非依存性機構によるC型肝炎ウイルス感染細胞における脂肪滴関連リング構造の形成
DOI
10.1128/jvi.00780-26
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
J Virol 100:e00780-26
著者名(敬称略)
Mengyu Jiao、紺野 在、鈴木 哲朗 他
所属
浜松医科大学医学部 微生物学・免疫学講座

抄訳

 C型肝炎ウイルス(HCV)は感染性粒子形成の場として脂肪滴(lipid droplet: LD)を利用することが知られているが、粒子形成に関与する因子がLDへ集積する分子機構は十分解明されていなかった。本研究では、HCV感染後にウイルスカプシド(Core)タンパク質がLDへ局在した後、ストレス顆粒(stress granule: SG)の中核的な分子スイッチとして働くRNA結合因子G3BP1が時間差をもってLD周囲へ集積することを見いだした。液-液相分離(liquid–liquid phase separation: LLPS)阻害剤処理により、G3BP1およびG3BP1とともにストレス顆粒形成を担うTIA-1のLD局在は消失した一方、HCVタンパク質CoreおよびNS5Aの局在には影響を認めなかった。また、Core単独ではG3BP1をLDへ誘導できないが、HCV RNAとの共発現によりG3BP1がLD周囲へ集積することを明らかにした。
以上より、HCV感染細胞ではLD上のCoreに新生ウイルスRNAが加わることでLLPS依存的な生体分子凝縮体が形成され、G3BP1をはじめとするSG関連因子がLDへ集積する新たな機構を提唱する。本研究はHCV粒子形成およびゲノムパッケージング機構の理解を深め、新たな抗ウイルス戦略の基盤となる知見を提供する。

 

 

論文掲載ページへ

2026/08/07

高精度な古代人ゲノムが明らかにする日本列島の先史集団史とでんぷん食への適応進化

論文タイトル
High-coverage ancient genomes reveal divergent population histories and prehistoric starch-related genetic variation in Japan
論文タイトル(訳)
高精度な古代人ゲノムが明らかにする日本列島の先史集団史とでんぷん食への適応進化
DOI
10.1073/pnas.2606162123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2606162123
著者名(敬称略)
石谷 孔司 他
所属
金沢大学 サピエンス進化医学研究センター
著者からのひと言
本研究では、考古学・人類学・進化学の知見を高精度な古代人ゲノム解析によって結びつけ、日本列島における人々の移動、集団の変化、食への適応進化の可能性を総合的に議論しています。今回得られた縄文人と弥生人の高精度ゲノムは、祖先集団の起源や近隣集団との関係性、日本本土における先史時代の集団史にさまざまな知見をもたらしました。日本列島の古代人ゲノム研究における重要なマイルストーンになったと考えています。

抄訳

本研究では、群馬県・居家以岩陰遺跡から出土した縄文時代早期の人骨と、山口県・土井ヶ浜遺跡から出土した弥生時代中期の人骨から、従来の水準を大きく上回る高精度な全ゲノム配列が構築された。これにより、低被覆度データでは困難だった人口動態の推定や遺伝子コピー数の解析が可能となった。解析の結果、両者の祖先集団はいずれも最終氷期に集団サイズを減少させたが、その後、縄文人の祖先集団は比較的安定した規模を維持した一方、弥生人の祖先集団は大陸側で段階的に増加し、新石器時代以降の複数の大陸系集団との交流を経て形成された可能性が示された。また、両個体は唾液アミラーゼ遺伝子のコピー数が比較的高く、稲作が広く普及する以前の縄文時代にも、でんぷん質の植物資源利用と関連しうる遺伝的多様性が存在したことが示唆された。本研究によって先史時代の集団移動や生業の変化が日本列島の人々の遺伝的特徴をどのように形作ってきたのかが明らかになった。

論文掲載ページへ

2026/08/06

カンピロバクターの相変異型安定化ライブラリーを用いた相変異遺伝子機能の包括的解析

論文タイトル
Genome-scale dissection of phase-variable gene function in Campylobacter jejuni using a stabilized phasotype library.
論文タイトル(訳)
カンピロバクターの相変異型安定化ライブラリーを用いた相変異遺伝子機能の包括的解析
DOI
10.1128/msphere.00064-26
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere 11:e00064-26
著者名(敬称略)
山本 章治 他
所属
国立感染症研究所 細菌第一部
著者からのひと言
カンピロバクターが相変異を介して免疫や宿主環境に適応する仕組みを、再現性高く解析できる独自技術「PV-GenShift」を確立した。多様な相変異型を安定に維持し、宿主環境で選択される相変異型を捉えることで、これまで困難であった相変異と病原性・宿主適応の関係を体系的に解明できる。本技術は、病原性の理解を深めるとともに、感染予防・診断・治療につながる新たな標的探索を加速する。

抄訳

食中毒の主要起因菌であるカンピロバクターは、単純反復配列の伸縮によって表層構造関連遺伝子の発現をON/OFFに切り替える「相変異」を起こす。相変異は免疫回避や宿主環境への適応に関与すると考えられているが、多数の相変異遺伝子のON/OFF組合せ(相変異型)が病原性や宿主適応に及ぼす影響については解明されていない。本菌には18~36個の相変異遺伝子が存在し、その組合せは理論上218~236通りに及ぶ。そこで本研究では、相変異遺伝子の発現状態を固定した多様かつ安定な相変異型ライブラリーを構築し、その動態を網羅的に追跡できる独自技術「PV-GenShift」を確立した。本技術を用いた選択実験から、ヒト血清やマウス腸管では特定の相変異型が選択される一方、ニワトリでは個体ごとに異なる相変異型が優勢となることを明らかにした。これらの成果は、相変異が病原性や宿主適応に重要な役割を果たすことを示すとともに、ワクチンや診断・治療法の開発への貢献が期待される。

論文掲載ページへ

2026/08/06

Bacillus subtilis DB9011が産生するC17 Fengycin Bの腸管毒素原性大腸菌抑制における役割

論文タイトル
Role of C17 fengycin B from Bacillus subtilis DB9011 in enterotoxigenic Escherichia coli inhibition
論文タイトル(訳)
Bacillus subtilis DB9011が産生するC17 Fengycin Bの腸管毒素原性大腸菌抑制における役割
DOI
10.1128/aem.00276-26
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 92, No. 7
著者名(敬称略)
犬童 優樹、西山 啓太、北澤 春樹 他
所属
東北大学大学院農学研究科動物食品機能学分野
著者からのひと言
 薬剤耐性の拡大を背景に、養豚現場では抗菌薬に代わるETEC制御法の開発が求められています。本論文は、Bacillus subtilis DB9011の培養上清を、抗菌活性を指標として分画し、C17 Fengycin Bに富む画分がETECの増殖を濃度依存的に抑制すること、さらにコリスチンとの併用によりその抗菌効果が増強されることを示しました。プロバイオティクス候補株の抗菌機構を代謝産物レベルで明らかにし、子豚の離乳後下痢に対する新たな制御戦略の構築につながる知見を提供しました。

抄訳

 腸管毒素原性大腸菌(ETEC)は離乳後の子豚における下痢の主要な原因であり、薬剤耐性の拡大に伴い、抗菌薬に代わる防除法の開発が求められている。本研究では、Bacillus subtilis DB9011が産生する細胞外代謝産物のうち、抗ETEC活性に関与する物質を探索した。DB9011の培養上清は、ETECおよびSalmonella Typhimuriumなどの腸管病原細菌に対して強い増殖抑制作用を示した。培養上清を生物活性に基づいて分画し、液体クロマトグラフィー四重極飛行時間型質量分析に供した。その結果、増殖抑制画分に濃縮され、抑制活性を示さない基準株NBRC13719ᵀでは検出されない主要代謝産物として、C17 Fengycin Bが同定された。C17 Fengycin Bを含む画分はETECに対して濃度依存的な抗菌活性を示し、コリスチンとの併用で増殖抑制作用が増強された。一方、培養上清中の濃度に相当する条件では完全な増殖抑制には至らず、他の代謝産物の関与も示唆された。以上より、C17 Fengycin Bは、DB9011によるETECの増殖抑制に大きく寄与する主要な代謝産物であると考えられた。

論文掲載ページへ

2026/08/06

SGLT2阻害薬が人の老化に及ぼす“思わぬ力”

論文タイトル
Dissecting out the unexpected effects of SGLT2 inhibitors on human aging.
論文タイトル(訳)
SGLT2阻害薬が人の老化に及ぼす“思わぬ力”
DOI
10.1210/clinem/dgag207
ジャーナル名
The Journal of clinical endocrinology and metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 111, Issue 8, August 2026, Pages 2154–2165
著者名(敬称略)
勝海 悟郎 南野 徹
所属
順天堂大学医学部内科学教室 循環器内科学講座
著者からのひと言

抄訳

SGLT2阻害薬は腎近位尿細管でのグルコース再吸収を抑制し、尿中排泄を促進することで血糖を低下させる糖尿病治療薬として開発された。だが、大規模試験により心血管・腎イベントを減少させることが示され、心不全や慢性腎臓病に対しても心腎保護効果を示すことが確立された。近年、本剤が潜在的に老化抑制に寄与する可能性が注目されている。カロリー制限やケトジェニック状態に類似した代謝適応を誘導し、炎症抑制、ミトコンドリア機能改善、細胞老化への耐性向上をもたらす。さらには前臨床試験において老化細胞負荷の減少やSASP調節作用、そして寿命延長や加齢関連機能低下の改善が報告されており、本剤のセノセラピーあるいはセノリティックとしての潜在性が期待されている。本レビューは、SGLT2阻害薬が心腎代謝疾患のみならず老化に作用しうる分子機序と生理的効果を考察し、抗老化薬・健康寿命延伸薬としての新たな展望を論じる。

論文掲載ページへ

2026/08/05

プロヒビチンを標的とする宿主指向型抗ウイルス戦略:Mel56によるインフルエンザAウイルスおよびSARS-CoV-2感染抑制とその作用機序

論文タイトル
Host-directed antiviral strategy targeting prohibitins: Mel56 suppresses influenza A virus and severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 via modulation of antioxidant pathways and mitochondrial function.
論文タイトル(訳)
プロヒビチンを標的とする宿主指向型抗ウイルス戦略:Mel56によるインフルエンザAウイルスおよびSARS-CoV-2感染抑制とその作用機序
DOI
10.1128/spectrum.03093-25
ジャーナル名
Microbiology spectrum
巻号
Microbiol Spectr 14:e03093-25
著者名(敬称略)
筆頭著者および連絡著者:庄司 正樹
連絡著者:葛原 隆
所属
徳島文理大学 薬学部 生化学講座
著者からのひと言

抄訳

インフルエンザAウイルス(IAV)およびSARS-CoV-2に対する新たな宿主標的型抗ウイルス戦略として、プロヒビチン(PHB)結合性化合物Mel56の抗ウイルス活性を評価した。Mel56はIAV感染MDCK細胞およびA549細胞において細胞生存率を改善し、ウイルスタンパク質およびウイルス遺伝子の発現を有意に抑制した。さらに、Mel56はミトコンドリアATP産生および電子伝達を阻害してミトコンドリア機能を制御するとともに、NRF2を活性化して抗酸化応答関連遺伝子の発現を誘導することが明らかとなった。一方、ヒトiPS細胞由来肺オルガノイドにおいても抗SARS-CoV-2活性が認められたが、NRF2標的遺伝子の誘導は観察されなかった。以上より、Mel56はPHBを標的とする広域抗ウイルス化合物であり、新たな宿主標的型抗ウイルス薬開発の有望なシード候補として考えられる。

論文掲載ページへ

2026/08/05

新規抗真菌化合物NPD2560はRho1を中心とするシグナルネットワークを攪乱し、細胞壁ストレス応答を誘導する

論文タイトル
The novel antifungal agent NPD2560 perturbs the Rho1-centered signaling network to induce a cell wall integrity response.
論文タイトル(訳)
新規抗真菌化合物NPD2560はRho1を中心とするシグナルネットワークを攪乱し、細胞壁ストレス応答を誘導する
DOI
10.1128/spectrum.03630-25
ジャーナル名
Microbiology spectrum
巻号
Microbiol Spectr 14:e03630-25
著者名(敬称略)
劉 薇、大矢 禎一 他
所属
長岡技術科学大学 技術科学イノベーション系
著者からのひと言
抗真菌剤の作用機序を明らかにすることは、薬剤開発だけでなく、真菌細胞の仕組みを理解する上でも重要です。この研究では、出芽酵母の優れた遺伝学的解析系を活用し、新規化合物NPD2560がRho1を中心とする細胞壁制御ネットワークを攪乱することを明らかにしました。既存のグルカン合成阻害剤とは異なる作用を示す点にも注目していただければと思います。

抄訳

真菌感染症の増加や薬剤耐性の出現により、新しい作用機序をもつ抗真菌剤の開発が求められています。本研究では、クマリン誘導体NPD2560が、治療の難しい病原真菌Candida kruseiに対して殺菌作用を示すことを見いだしました。出芽酵母を用いた網羅的な化学遺伝学解析から、NPD2560の作用には、細胞壁形成を制御する低分子量GTPase Rho1を中心としたネットワークが重要であることが明らかになりました。NPD2560処理により細胞壁のβ-(1,6)-グルカンが減少し、細胞壁ストレス応答が活性化されるとともに、キチンの蓄積を含む代償的な細胞壁再構築が誘導されました。その作用は、β-(1,3)-グルカン合成を標的とする既存の抗真菌剤や、既知のβ-(1,6)-グルカン合成阻害剤とは異なっており、本化合物は真菌細胞壁の制御機構を解析する新たな化学プローブとして、また新規抗真菌剤開発の候補化合物として期待されます。

論文掲載ページへ

2026/08/04

腸炎ビブリオTsrAは核様体タンパク質H-NSの共調節因子としてⅢ型分泌装置2の発現を制御する

論文タイトル
TsrA modulates type III secretion system 2 expression as a co-regulator of H-NS in Vibrio parahaemolyticus.
論文タイトル(訳)
腸炎ビブリオTsrAは核様体タンパク質H-NSの共調節因子としてⅢ型分泌装置2の発現を制御する
DOI
10.1128/jb.00556-25
ジャーナル名
Journal of bacteriology
巻号
J Bacteriol 208:e00556-25
著者名(敬称略)
Tan Paramita Wibowo Sutanto, Andre Pratama, 松田 重輝 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 細菌感染分野
著者からのひと言
本論文では、腸炎ビブリオの病原性遺伝子発現に関わる因子として、ビブリオ属細菌に保存されるTsrAというタンパク質に着目しました。TsrAが核様体タンパク質H-NSと相互作用することを初めて実験的に示し、ビブリオ属細菌ではこれまで知られていなかったH-NS共調節因子として機能することを明らかにしました。

抄訳

核様体タンパク質は細菌の病原性遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている。代表的な核様体タンパク質であるH-NSは、しばしば共調節因子と協調して機能する。本研究では、ビブリオ属細菌に保存される小型タンパク質TsrAが、主要な食中毒原因細菌である腸炎ビブリオの病原因子であるⅢ型分泌装置2(T3SS2)の遺伝子発現を負に制御することを明らかにした。TsrAはC末端領域を介してH-NSと直接相互作用し、T3SS2遺伝子群のマスター転写因子であるVtrBの発現を転写レベルで抑制していた。さらに、TsrAのC末端領域の変異解析により、その調節活性に重要なアミノ酸残基を明らかにした。以上より、TsrAがH-NSの共調節因子として機能することを初めて明らかにするとともに、腸炎ビブリオにおける病原性遺伝子発現制御機構に関する新たな知見を提供した。

論文掲載ページへ

2026/08/04

原子間力顕微鏡と弾性シェル理論による接着動物細胞の硬さと内部圧力の同時評価

論文タイトル
Simultaneous quantification of cell elasticity and internal pressure in adherent animal cells
論文タイトル(訳)
原子間力顕微鏡と弾性シェル理論による接着動物細胞の硬さと内部圧力の同時評価
DOI
10.1016/j.bpj.2026.06.009
ジャーナル名
Biophysical Journal
巻号
Biophysical Journal Volume 125, Issue 14 p3653-3662
著者名(敬称略)
Emi Kurnia Sari、釣 優香、細川 陽一郎 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究領域生体プロセス工学研究室
著者からのひと言
動物細胞のミクロな構造に、建築学のマクロな理論を適用し、細胞の力学を明らかにする奇抜な発想の論文です。

抄訳

本研究では、複数の動物細胞について、細胞の形状と力学応答を詳細に解析しました。その結果、動物細胞では、細胞膜とその内側を支える細胞骨格が一体となり、薄い殻(シェル)のように細胞全体を支える構造を形成していることを明らかにしました。この構造に、建築学において薄い屋根やタンクの力学解析に用いられるシェル理論を適用することで、これまで区別して評価することが難しかった「細胞膜とその裏打ち構造を合わせた表層部分の硬さ」と「細胞内部から細胞を押し広げる力(内部圧力)」を同時に評価することに成功しました。これにより、細胞の力学特性を単なる硬さとして捉えるだけでなく、その背景にある力学状態を考えることが可能になりました。今後、より多様な細胞種に本手法を適用することで、細胞骨格構造と力学特性との関係の解明が進むことが期待されます。

論文掲載ページへ

2026/08/03

成人型びまん性神経膠腫の1H-MR spectroscopyによるシスタチオニンの定量的評価

論文タイトル
The Utility of Cystathionine Assessment Using Proton MRS for the Preoperative Differential Diagnosis of Adult-Type Diffuse Gliomas.
論文タイトル(訳)
成人型びまん性神経膠腫の1H-MR spectroscopyによるシスタチオニンの定量的評価
DOI
10.3174/ajnr.A9192
ジャーナル名
AJNR. American journal of neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology July 2026, 47 (7) 1869-1878
著者名(敬称略)
菊地 一史
所属
九州大学病院 放射線科
著者からのひと言

抄訳

【目的/背景】
本研究の目的は、シスタチオニンの定量的評価が成人型びまん性神経膠腫の術前鑑別に有用か検討することである。
【方法】
2019年から2025年に当院で手術前にMRIおよび1H-MRSを施行し、病理学的に成人型びまん性神経膠腫と診断された83例を後方視的に選択し、乏突起膠腫25例、星細胞腫28例、膠芽腫30例が対象となった。LCModelを用いてシスタチオニン濃度を定量し、群間比較にはボンフェロニ補正したunpaired t-test、3群全体の統計解析にKruskal–Wallis検定を用い、ROC解析により診断能を評価した。
【結果】
星細胞腫 (0.437±0.403 mM) と比較して、乏突起膠腫 (1.040±0.908 mM) ではシスタチオニン濃度が有意に高値 (P=0.0025) であった。膠芽腫 (0.538±0.796) も星細胞腫より高値を示したが、有意差はなかった。乏突起膠腫と膠芽腫の間にも有意差は認めなかった。ROC解析では、乏突起膠腫と星細胞腫の鑑別において中等度の診断能を示した (AUC 0.69、感度56%、特異度86%)。
【考察】
シスタチオニンは乏突起膠腫において、特異的に高値を示す代謝マーカーとして有用であるが、一部の膠芽腫においても増加とする報告がある。本研究でも同様の傾向が確認された。膠芽腫では壊死や微小出血によるコンタミネーションや代謝経路の変化が影響する可能性が考えられる。したがって、シスタチオニンは、成人びまん性神経膠腫において補助的な診断ツールと考えられた。
【結論】
1H-MRSによるシスタチオニン評価は、乏突起膠腫および膠芽腫と星細胞腫の鑑別に有用であり、術前診断の精度向上に寄与し得る。ただし乏突起膠腫と膠芽腫の区別には限界があり、臨床的特徴や他の画像所見と併用することが望ましい。

論文掲載ページへ

2026/08/03

日本人健康被験者におけるナキュバクタムとβ-ラクタム系抗菌薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、またはピペラシリン)との薬物相互作用の評価

論文タイトル
Evaluation of drug-drug interaction between nacubactam and β-lactam antibiotic (cefepime, aztreonam, meropenem, or piperacillin) in Japanese healthy participants.
論文タイトル(訳)
日本人健康被験者におけるナキュバクタムとβ-ラクタム系抗菌薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、またはピペラシリン)との薬物相互作用の評価
DOI
10.1128/aac.00282-26
ジャーナル名
Antimicrobial agents and chemotherapy
巻号
Antimicrob Agents Chemother 70:e00282-26
著者名(敬称略)
森田 順
所属
Meiji Seika ファルマ株式会社
著者からのひと言

抄訳

日本人健康成人を対象に、ナキュバクタムと各併用薬(セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、ピペラシリン)の薬物相互作用を評価する単施設、非盲検、3期クロスオーバー単回投与試験を実施した。各期でナキュバクタムと各併用薬を60分静脈内注射し、Cmax、AUC0–t、AUC0–∞の幾何平均比と90%信頼区間で相互作用を評価した。セフェピム及びアズトレオナム併用時を含め、いずれの併用薬でもナキュバクタムおよび各併用薬の曝露は単独投与と同等で、幾何平均比の90%信頼区間はすべて0.80–1.25内で尿中排泄も同等であった。ナキュバクタム代謝物(M1/M2)はナキュバクタムに比べ低値で、併用による変動は小さかった。各β-ラクタム系抗菌薬との併用時においても安全性・忍容性は良好で、新たな安全性上の懸念は認められなかった。以上より、セフェピムおよびアズトレオナムを含めいずれのβ-ラクタム系抗菌薬との併用時に薬物相互作用は認められなかった。

論文掲載ページへ

2026/08/03

エゾヤチネズミを宿主とするオルソハンタウイルスであるHokkaidoウイルスの自然環境下における感染維持機構

論文タイトル
Maintenance of Hokkaido virus, a genotype of Orthohantavirus puumalaense, in the rodent host Myodes rufocanus bedfordiae under natural conditions
論文タイトル(訳)
エゾヤチネズミを宿主とするオルソハンタウイルスであるHokkaidoウイルスの自然環境下における感染維持機構
DOI
10.1128/jvi.00321-26
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Vol. 100, No. 7
著者名(敬称略)
Thi Ngoc Thuy Duong 苅和 宏明 他
所属
北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野 公衆衛生学教室
著者からのひと言
 オルソハンタウイルスは、宿主となるげっ歯類から人に感染してハンタウイルス感染症を引き起こす。オルソハンタウイルスに属するHokkaido virus(HOKV)は、宿主のエゾヤチネズミにおいて、急性感染期と持続感染期のいずれの時期にも重大な病理学的変化を引き起こすことなく、多臓器にウイルスが分布し、唾液、尿、および糞便から感染性ウイルスが排出されることが明らかになった。これらの知見は、宿主におけるオルソハンタウイルスの持続感染、および伝播機序に関する理解を深めるものとして重要である。

抄訳

自然条件下におけるオルソハンタウイルスの維持および伝播のメカニズムは依然として明らかになっていない。そこで本研究では、オルソハンタウイルスの一つであるHokkaido virus(HOKV)の自然宿主となっているエゾヤチネズミを2022年から2025年にかけて北海道当別町の森林において捕獲し、HOKVの宿主体内での分布と排出について調べた。捕獲された199匹のげっ歯類のうち、23匹がHOKVに感染していた。これらの個体についてウイルスRNAと抗体の保有状況を調べたところ、5個体は急性感染期であり、18個体は持続感染期あると考えられた。Realtime PCRおよび免疫組織化学染色により、HOKVは感染の急性感染期と持続感染期のいずれの個体においても、肺、腎臓、脾臓から高レベルのウイルスRNAおよび抗原が一貫して検出された。また、感染個体の口腔スワブ、尿、糞便からも感染性のあるHOKVが回収された。これらの知見は、オルソハンタウイルスが宿主の臓器内で高いウイルス量を維持して持続感染し、感染期間を通じて排出され得ることを示している。

論文掲載ページへ

2026/07/31

難治性末梢性T細胞リンパ腫非特定型に対し、ゲムシタビン単剤が同種造血幹細胞移植への橋渡しとなった1例

論文タイトル
Single-agent gemcitabine enabling successful bridging to allogeneic haematopoietic stem-cell transplantation in refractory peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified
論文タイトル(訳)
難治性末梢性T細胞リンパ腫非特定型に対し、ゲムシタビン単剤が同種造血幹細胞移植への橋渡しとなった1例
DOI
10.1136/bcr-2025-268692
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Volume 19, Issue 6
著者名(敬称略)
北川 智也 他
所属
関西電力病院 血液内科

抄訳

末梢性T細胞リンパ腫非特定型(PTCL-NOS)は不均一性が高く、再発・難治例の予後は不良です。本症例は20歳代男性で、brentuximab vedotin併用CHP療法、SMILE療法、pralatrexate療法のいずれにも抵抗性を示しました。その後、ゲムシタビン単剤療法により不確定な完全寛解(CRu)が得られ、骨髄非破壊的処置による同種造血幹細胞移植へ移行することができました。移植後36か月時点でも再発なく経過しています。また、治療経過を通じて白血球/リンパ球比(LLR)が病勢と概ね並行して推移しており、簡便な補助的指標となる可能性が示唆されました。本症例は、難治性PTCL-NOSにおいて、ゲムシタビン単剤が毒性を抑えつつ移植への橋渡し治療となり得る可能性を示すものです

論文掲載ページへ

2026/07/31

光合成酸素発生系における脂肪族アミノ酸からカルボキシレート配位子の翻訳後生成

論文タイトル
Posttranslational generation of carboxylate ligands from aliphatic side chains in the photosynthetic oxygen-evolving complex
論文タイトル(訳)
光合成酸素発生系における脂肪族アミノ酸からカルボキシレート配位子の翻訳後生成
DOI
10.1073/pnas.2610028123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2610028123
著者名(敬称略)
水江 初音 野口 巧 他
所属
名古屋大学大学院理学研究科物理科学領域
著者からのひと言
光合成による酸素発生は、太古の地球環境を大きく変え、生命の進化に大きな影響を与えました。この酸素発生を担う光化学系Ⅱにおける酸素発生系が、脂肪族アミノ酸をはじめとする様々なアミノ酸から、触媒中心であるマンガンクラスターのカルボキシレート配位子を翻訳後修飾によってタンパク質レベルで生成する能力を有することが明らかとなりました。この能力は、24億年以前に起こった光合成酸素発生の起源と進化に重要な役割を果たしたと考えられます。

抄訳

光合成酸素発生は、光化学系Ⅱの酸素発生系に存在するMn4CaO5クラスターによって触媒される。この反応は約24億年前の大酸化イベント以前に始まったと考えられるが、光化学系Ⅱの進化の過程で酸素発生系がどのように形成されたかは未だ不明である。我々は以前、シアノバクテリアにおけるMn4CaO5クラスターのアスパラギン酸/グルタミン酸配位子をヒスチジンやアスパラギン/グルタミンに改変した変異体において、これらのアミノ酸残基が翻訳後に本来のカルボキシレート残基に変換されることを見出した。本研究では、反応性置換基を持たない脂肪族アミノ酸が同様なアミノ酸変換を起こすか否かを調べた。その結果、アスパラギン酸配位子D1-Asp170をバリン/ロイシン/イソロイシンに、またグルタミン酸配位子D1-Glu189をロイシン/イソロイシンに改変した変異体では、これらの脂肪族アミノ酸がアスパラギン酸/グルタミン酸またはそれらの誘導体に翻訳後変換され、酸素発生活性を回復することが示された。これらの結果は、翻訳後アミノ酸変換による配位子形成が、光合成酸素発生系に本来備わっている一般的な特性であることを示している。このことは、翻訳後アミノ酸変換が光合成酸素発生の起源と進化に重要な役割を果たしたという我々の仮説を支持するものである。

論文掲載ページへ

2026/07/31

液胞リパーゼAtg15の膜認識と活性化を支える構造・分子機構

論文タイトル
Structural and mechanistic basis for membrane recognition and activation of the vacuolar lipase Atg15
論文タイトル(訳)
液胞リパーゼAtg15の膜認識と活性化を支える構造・分子機構
DOI
10.1073/pnas.2601290123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2601290123
著者名(敬称略)
堀江 (川俣)朋子1 境 祐二2
所属
1 東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター
2 横浜市立大学 理学部 理学科 生命ナノシステム科学研究科
著者からのひと言
細胞の中では、不要な膜を分解しながら、液胞膜などの大切な膜は守らなければなりません。本研究では、分子動力学シミュレーションと酵母・試験管内での実験を組み合わせ、脂質分解酵素Atg15が活性化され、分解対象の膜に優先的に働く仕組みを明らかにしました。計算による予測を実験で確かめることで、切断、膜結合、膜曲率認識という多段階の制御が見えてきました。細胞が膜を「安全に壊す」巧妙な仕組みを、ぜひご覧ください。

抄訳

オートファジーでは、細胞質成分を取り込んだオートファゴソームが液胞へ融合し、液胞内のオートファジックボディーなどの膜が分解される。しかし、脂質分解酵素Atg15が、周囲の液胞膜を傷つけることなく標的となる内腔膜に作用する仕組みは不明であった。
本研究では、酵母を用いた細胞内解析と試験管内実験に、全原子・粗視化分子動力学シミュレーションを組み合わせ、Atg15の活性化と膜認識機構を明らかにした。ジスルフィド結合は触媒コアの構造を安定化し、切断前のC末端領域は活性中心を閉じた状態に固定していた。C末端の切断後、膜への結合によって活性中心が開き、脂質が触媒部位へ到達できるようになった。さらにAtg15は、平坦な膜よりも小胞に相当する正の曲率をもつ膜に優先的に結合した。これらの結果から、Atg15は構造安定化、切断、膜結合、膜曲率認識という多段階の制御により、分解対象となる内腔膜を安全かつ優先的に分解すると考えられる。

論文掲載ページへ

2026/07/31

ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の小サブユニットM20は、自己脱リン酸化の抑制によりMYPT1の抑制性リン酸化を増強する

論文タイトル
Small subunit M20 augments inhibitory phosphorylation of MYPT1 in myosin light chain phosphatase by inhibiting autodephosphorylation
論文タイトル(訳)
 ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の小サブユニットM20は、自己脱リン酸化の抑制によりMYPT1の抑制性リン酸化を増強する
DOI
10.1073/pnas.2534343123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (30) e2534343123
著者名(敬称略)
山下哲生1、平野勝也1,2
所属
1香川大学医学部自律機能生理学
2現・福岡歯科大学
著者からのひと言
本研究の特筆すべき成果は、出芽酵母発現系を用いて長大な天然変性領域をもつ完全長MYPT1を含むMLCP複合体を高純度で再構成し、発見以来30年にわたり機能不明であったM20の機能を明らかにしたことです。本成果は、MLCPの新たな調節原理を示すものであり、高血圧や血管疾患、がんなど、MLCPが関与する病態の解明や治療法開発の基盤となることが期待されます。

抄訳

 ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(MLCP)は、ミオシン軽鎖を脱リン酸化し、平滑筋の弛緩やさまざまな細胞機能を調節します。MLCPを構成する三つのサブユニット(PP1c, MYPT1, M20)のうち、M20が酵素機能にどのように関与するかは明らかではありませんでした。本研究では、M20の有無で再構成したMLCPを生化学的に比較するとともに、高速原子間力顕微鏡を用いてその分子動態を観察しました。M20を欠くMLCPでは、MYPT1を介した複合体間の会合によってスーパー二量体が形成され、MYPT1の自己脱リン酸化が促進されました。これに対し、M20はMYPT1のC末端領域に結合して複合体間の会合を妨げ、Thr696およびThr853のリン酸化状態を維持しました。以上から、M20はMLCPの高次構造を変化させることにより自己脱リン酸化を制御し、酵素の抑制状態を調節することが示されました。本研究は、平滑筋収縮や細胞運動に関わるMLCPの新たな調節原理を提示するものです。

論文掲載ページへ

2026/07/29

大腸菌 ST131 のパンデミック動態に迫る地域(コミュニティ)基盤のワンヘルス・アプローチ

論文タイトル
A community-based One Health approach to the pandemic dynamics of Escherichia coli ST131
論文タイトル(訳)
大腸菌 ST131 のパンデミック動態に迫る地域(コミュニティ)基盤のワンヘルス・アプローチ
DOI
10.1128/aac.00007-26
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
前田 愛子 佐藤 豊孝 他
所属
北海道大学大学院獣医学研究院 衛生学分野 獣医衛生学教室
著者からのひと言

抄訳

薬剤耐性菌の世界的拡散はゲノム研究で解明が進むが、採取期間や地域の不均一さから、パンデミック確立の詳細過程は不明であった。本研究では国際的高リスククローンであるフルオロキノロン耐性(FQ-R)大腸菌 ST131 に着目し、札幌圏を対象に統一期間(2021–2022年)でヒト・伴侶動物・下水・家畜を統合し、世帯レベルまで捉えるワンヘルス枠組みを構築した。大腸菌2,358株のうち FQ-R 235株(ST131 88株を含む)をゲノム解析した結果、ST131 は高いクローン多様性の中に明確な集団構造をもち、ヒトと伴侶動物で共有されるサブクラスターが認められた。コアゲノム SNP 解析からは、健常人の保菌、無症候のヒト間伝播、世帯内のヒト–伴侶動物間伝播が示唆された。これら保菌株は多様な耐性遺伝子・病原因子を保有し臨床株と酷似しており、院内へ拡散が示唆された。国際ゲノムとの統合解析では、札幌の伝播が ST131 の世界的拡大の一部であることが示された。本研究は地域社会から世界規模への耐性菌拡散を解明する拡張可能なモデルであり、地域・世帯レベルでの介入の必要性を示す。

論文掲載ページへ

2026/07/17

トランスポゾンシーケンシングとパンゲノムの統合解析による、Mycobacterium avium subsp. hominissuisにおける共通および系統特異的必須遺伝子の同定

論文タイトル
Integrated analysis of transposon insertion sequencing and pangenome reveals core and lineage-specific essential genes in Mycobacterium avium subsp. hominissuis
論文タイトル(訳)
トランスポゾンシーケンシングとパンゲノムの統合解析による、Mycobacterium avium subsp. hominissuisにおける共通および系統特異的必須遺伝子の同定
DOI
10.1099/mgen.0.001753
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Volume 12, Issue 6
著者名(敬称略)
澤井 宏太郎  港 雄介 他
所属
藤田医科大学 感染症研究センター 感染症創薬創薬研究部門
著者からのひと言
これまでMAHの研究では、日本の臨床で問題となっているEA系統株とは異なる遺伝系統の株が用いられることが多く、EA系統株の性質は十分に理解されていませんでした。本研究では、EA系統株と他系統株の比較解析を行い、MAHでは菌株によって必須遺伝子の構成が大きく異なることを明らかにしました。特に、当初の予想よりも共通必須遺伝子や系統内で保存される必須遺伝子が少なかった点は、MAHの多様性を理解するうえで重要な知見です。

抄訳

結核菌の類縁菌である非結核性抗酸菌(NTM)に起因する肺疾患(NTM-PD)が近年増加しており、世界的に問題となっている。NTMの一種である Mycobacterium avium subsp. hominissuis (MAH)は、NTM-PDの主要な原因菌である。MAHは結核菌と同様に複数の遺伝系統が存在し、系統ごとに特有の地理的分布と宿主適応性を示す。本研究では、日本の患者環境由来のMAH 3株を対象にゲノム解析を実施した。その結果、これら3株は日本および韓国の患者由来株で多く見られる東アジア(EA)系統に属することが明らかとなった。次に、公開済みMAH 23株の全ゲノム配列を含めたパンゲノム解析を実施し、異なるMAH系統間で保存されている3,313個のコア遺伝子を同定した。さらに、トランスポゾンシーケンシングによって3株の必須遺伝子を網羅的に同定し、既報のSC3系統株であるMAC109の必須遺伝子と比較した。多くの必須遺伝子はコア遺伝子に由来していた一方で、EA系統とSC3系統に共通する必須遺伝子に加え、系統特異的な必須遺伝子も同定された。

論文掲載ページへ