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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/10/16

結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化

論文タイトル
Visualization of spin–orbit-entangled 4f electrons in crystalline materials
論文タイトル(訳)
結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化
DOI
10.1073/pnas.2500251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2500251122
著者名(敬称略)
鬼頭 俊介 他
所属
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻物質系専攻 物性・光科学講座 有馬・徳永研究室
著者からのひと言
物質中における価電子の分布は物性を決める「設計図」のようなものです。今回の研究において、4f電子を直接観測できるようになったことは、磁石や蛍光体の高性能化、量子コンピュータやスピントロニクス素子の開発など、次世代技術の基盤に大きなインパクトを与える成果です。

抄訳

ランタノイドにおける4f電子の異方的な空間分布は、磁性から量子現象に至るまで、さまざまな材料特性を支配する上で重要な役割を担っている。しかし、その顕著な異方性と微弱な信号ゆえに、4f電子の可視化は長らく大きな課題とされてきた。本研究では、高エネルギーX線回折と独自に開発した価電子密度解析を組み合わせた革新的アプローチを導入することで、パイロクロア酸化物中における4f電子分布の直接観測を実現した。この成果は、4f電子の本質的な性質を明らかにするだけでなく、幅広い物質系における4f電子の役割を探求する新たな道を開き、材料科学の革新へとつながるものである。

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2025/10/15

ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する

論文タイトル
Human herpesvirus 6B U65 binds to histone proteins and suppresses interferon production
論文タイトル(訳)
ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する
DOI
10.1128/jvi.00984-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
Haokun Li 本田 知之 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・医学部 病原ウイルス学
著者からのひと言
HHV-6Bが宿主免疫を回避する機構の一端を明らかにしました。U65タンパク質がヒストンと結合しIFNβ産生を抑制する仕組みは、HHV-6Bと免疫系の複雑な相互作用を理解する手がかりになると考えています。

抄訳

ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は、突発性発疹の原因として知られ、神経炎症性疾患との関連も報告されています。本研究では、HHV-6Bのテグメントタンパク質「U65」が宿主の特定のヒストンバリアントタンパク質と相互作用し、ウイルス防御に重要なインターフェロンβ(IFNβ)の産生を抑制することを発見しました。本研究は、U65がウイルス感染中に免疫回避を助ける重要な因子であることを初めて示した報告であり、HHV-6Bが宿主免疫を巧妙に回避する新たなメカニズムはHHV-6Bの新たな治療標的となる可能性を秘めています。

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2025/10/15

社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク

論文タイトル
A multilayered gap junction network is essential for social decision-making
論文タイトル(訳)
社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク
DOI
10.1073/pnas.2510579122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2510579122
著者名(敬称略)
中山 愛梨 中野 俊詩 他
所属
名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 生体機序論講座
著者からのひと言
従来、社会環境による神経回路制御には分泌性因子(ホルモン)の関与が中心と考えられていた。本研究から、非分泌型のギャップ結合ネットワークが意思決定の中枢で機能することが示唆された。今後、このネットワークにおける詳細な分子機構の解明が期待される。

抄訳

社会環境は、動物の行動選択に大きな影響を与える。たとえば採餌行動では、動物は既知の餌場に留まって資源を得ようとするが、競合個体が多数存在する状況では、新たな資源を求めて未知の環境へ移動する傾向が強まる。同種個体の存在や集団内での競合といった社会環境は、このような行動選択の方向性を大きく変化させる。こうした意思決定の仕組みは、動物の生存戦略を規定する根本的な原理である。
 この研究では、線虫の温度走性行動をモデルとして、社会環境に応じた意思決定の神経基盤を追究した。線虫は、個体密度が低い条件では餌と連合した温度域を好むが、個体密度が高い条件では集団の一部が異なる温度域を選好するようになる。この行動変容には複数の神経細胞を結ぶギャップ結合ネットワークが必須である。このネットワークは、個体密度を感知する感覚ニューロンから温度情報を処理する神経回路へと個体密度の情報を伝達し、その結果、餌と連合した温度に対する情動的価値(好嫌)が変容する。以上のことから、幼少期の社会経験に応じた行動変容を促す神経基盤として、ギャップ結合ネットワークが作動していることが示された。

 

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2025/10/15

ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす

論文タイトル
Viral infection to the raphidophycean alga Heterosigma akashiwo affects both intracellular organic matter composition and dynamics of a coastal prokaryotic community
論文タイトル(訳)
ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす
DOI
10.1128/msystems.00816-25
ジャーナル名
mSystems
巻号
mSystems Ahead of Print
著者名(敬称略)
武部 紘明 吉田 天士 他
所属
京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻海洋分子微生物学分野

抄訳

海洋性微細藻類による一次生産と、原核生物による一次生産物の消費は、生物地球化学的循環に大きく貢献しています。微細藻類はしばしばウイルスに感染しており、感染細胞では、ウイルスは自身の複製や代謝産物の生成のため、宿主の代謝を制御します。しかし、微細藻類の感染細胞が原核生物群集に与える影響については、十分には解明されていませんでした。本研究では、世界的に分布し有害藻類ブルームを形成するラフィド藻類Heterosigma akashiwoの感染細胞の溶藻液(感染終盤に細胞が溶解するときに放出される液体画分)が、原核生物群集に及ぼす影響を調査しました。その結果、H. akashiwoの感染細胞内での生化学的特性の変化が、溶藻液中に含まれる、特定の有機化合物を代謝できる一部の細菌群の増殖を促進することが示唆されました。さらに、これらの細菌群には魚類の病原菌も含まれていたことから、H. akashiwoへのウイルス感染が、海洋生態系における高次消費者に対しても間接的に影響を与える可能性があると考えられました。

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2025/10/14

肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究

論文タイトル
Molecular epidemiological surveillance for non-tuberculous mycobacterial pulmonary disease: a single-center prospective cohort study
論文タイトル(訳)
肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究
DOI
10.1128/spectrum.00436-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 10
著者名(敬称略)
橋本 和樹 福島 清春 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学
著者からのひと言
本研究では、肺非結核性抗酸菌症の菌株動態を迅速・簡便に解析するデジタルVNTR法を開発した。本手法は携帯型次世代シーケンサーMinIONに適用可能であり、従来は研究施設でしか行えなかった再感染と再燃の鑑別が、各病院の細菌検査室レベルで可能となる。臨床現場でも高精度かつ即時的な菌種・菌株同定が可能となり、個別化治療の発展につながることが期待される。

抄訳

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)では、治療や経過観察中に喀痰から検出される菌種が変化することが知られるが、菌株レベルでの変化は十分に解明されていない。可変数タンデムリピート(VNTR)解析は菌株同定の標準手法であるものの、手作業が多く時間を要するため、日常診療への応用は限られている。本研究では、全ゲノムシーケンスを基盤とした簡便かつ迅速なデジタルVNTR法を開発し、菌種・菌株動態および薬剤感受性の変化を検討した。肺NTM症112例を前向きに解析した結果、1.5年間で13例(11.6%)で菌種・亜種、16例(14.3%)で菌株の変化を認めた。マクロライドおよびアミカシン感受性の変化は両群で観察され、耐性は菌株変化のない群で高頻度であった。デジタルVNTRは従来法と一致し、各病院の細菌検査室で迅速に菌株同定が可能な新たな分子タイピング法として、臨床現場でのNTM管理に貢献しうる。

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2025/10/14

細胞増殖法則における大域的制約原理

論文タイトル
Global constraint principle for microbial growth laws
論文タイトル(訳)
細胞増殖法則における大域的制約原理
DOI
10.1073/pnas.2515031122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.40
著者名(敬称略)
山岸 純平 畠山 哲央
所属
東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所
著者からのひと言
細胞の増殖速度がどのようにして決まるのかというのは、非常に古くからある問題です。この論文で議論しているMonod則とLiebigの最小律は、それぞれ約80年前と約180年前に提唱された経験則です。我々の論文では、これらの古くからの経験則を統一する新たな原理を理論的に発見しました。古くから知られ、当たり前のように思われている経験則の中にこそ、研究のフロンティアがあると、我々は考えています。

抄訳

生物の複雑な挙動を理解するには、種や分子の詳細に依存しない普遍的な法則を見出す必要がある。細胞増殖の古典的法則であるMonod則は、単一基質に対する飽和的成長を記述する経験則だが、実際の細胞成長は多数の代謝反応と資源制約の協調によって決まる。本研究では、細胞内資源配分の一般的理論に基づき、細胞成長を支配する普遍原理として「大域的制約原理」を提唱した。この原理は、ある栄養素を増やすと他の資源が成長を制約する要因となり、その制約の数が段階的に増えるため、栄養濃度に対する増殖曲線が単調増加かつ凹関数となることを示すものである。さらに、この枠組みは複数の栄養素に対する増殖依存性を統一的に扱い、Monod則とLiebig最小律という二つの古典的法則を統合する。加えて、その概念を視覚的に表すものとして、Terraced Liebig’s barrel(リービッヒの段々樽)という新たなモデルを提示した。

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2025/10/09

大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性

論文タイトル
From phenotype to receptor: validating physiological clustering of Escherichia coli phages through comprehensive receptor analysis
論文タイトル(訳)
大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性
DOI
10.1128/jvi.01061-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
金子知義 常田聡 他
所属
早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科
早稲田大学 総合研究機構 ファージセラピー研究所
著者からのひと言
薬剤耐性菌に対する新たな治療法として注目されるファージ療法では、異なる受容体を標的とするファージを組み合わせたカクテルが投与されますが、受容体同定は労力を要します。本研究は、生理学的特性、ゲノム配列、尾部繊維系統という独立した分類法がいずれも受容体特異性と高度に相関することを実証しました。この基礎的知見は、ファージの理解を深めるとともに、ファージ療法において、異なる受容体を標的とする多様なファージカクテルを効率的に設計する実用的な指針を提供します。

抄訳

細菌に感染するウイルスであり次世代の抗菌薬として着目されるバクテリオファージ(ファージ)の分類と標的受容体との関係を理解することは、ファージ生態学および応用研究において重要である。本研究では、13種の大腸菌ファージを生理学的特性、全ゲノム配列、尾部繊維タンパク質系統に基づいて比較した。生理学的特性に基づく分類では、宿主域評価のための細菌パネルの最適化、および量質混合データ型に適した距離指標の実装によって既報の手法を改良し、各分類法にシルエット係数解析による最適分割数の客観的評価を採り入れた。ファージ耐性株のゲノム解析と相補実験、およびリポ多糖(LPS)構造解析などによるファージ標的受容体の同定の結果、本研究のファージはLPS R-coreの異なる部位、膜タンパク質、あるいは鞭毛を標的とすることが明らかとなった。特に、LPSのヘプトースリン酸化などの微細な化学修飾がファージ認識において重要であることが示された。さらに、これら分類法による結果は極めて類似しており、新たなファージを追加すると類似度が増加したことから、各手法に互換性と一般性があることが示された。

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2025/10/09

卵巣顆粒膜細胞の2型FGF受容体はメスマウスの正常な妊孕性に必要である

論文タイトル
FGF receptor 2 signaling in granulosa cells is required for normal female fertility in mice
論文タイトル(訳)
卵巣顆粒膜細胞の2型FGF受容体はメスマウスの正常な妊孕性に必要である
DOI
10.1530/REP-25-0219
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0219
著者名(敬称略)
菅家 卓哉 杉浦 幸二 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科・応用動物科学専攻 応用遺伝学研究室
著者からのひと言
本研究では、哺乳類の卵巣において、線維芽細胞増殖因子(FGF)が代謝的支援を介して卵母細胞の「質」を制御している可能性を示しました。これらの知見が、人や家畜における不妊の原因解明や治療法の開発に貢献することを期待しています。

抄訳

線維芽細胞増殖因子(FGF)は、哺乳類の卵巣機能制御に関与することが知られている。しかし、その欠損が雌の生殖能力に与える具体的な影響については明らかでない。本研究では、卵巣卵胞を構成する顆粒膜細胞において2型FGF受容体(FGFR2)を欠損させたマウスを作製し、その影響を解析した。その結果、これらのマウスは卵胞発育や排卵は正常であるにもかかわらず、著しく低い繁殖能力を示した。さらに、卵母細胞の代謝的支援に重要な役割を果たす卵母細胞周囲の顆粒膜細胞(卵丘細胞)において、解糖系酵素の発現が低下していた。その結果、卵母細胞は見かけ上正常に発育するものの、受精後に出生まで至る能力が低下していた。以上の結果から、FGFR2を介したFGFシグナルは卵丘細胞の代謝機能を制御し、卵母細胞の発達を促進することで、正常な雌の生殖能力を支える重要な役割を果たしていることが示唆された。

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2025/10/08

HSV-2 UL13プロテインキナーゼを活性化するウイルス因子の同定

論文タイトル
Identification of viral activators of the HSV-2 UL13 protein kinase
論文タイトル(訳)
HSV-2 UL13プロテインキナーゼを活性化するウイルス因子の同定
DOI
10.1128/jvi.01165-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  (Online ahead of print.)
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスプロテインキナーゼの活性化を介してウイルス増殖を制御する補因子を同定したものである。ウイルスキナーゼが宿主キナーゼと同様に、自身のウイルスタンパク質を補因子として利用し、その活性を制御する仕組みを獲得していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有する。本研究の成果は、今後のウイルスキナーゼ基質の同定やリン酸化の生物学的意義の解明につながることが期待される。

抄訳

これまでの研究で、HSV-2のUL13プロテインキナーゼがウイルス感染細胞内で宿主因子EF-1δをリン酸化することが報告されていたが、本研究において、UL13の単独発現では培養細胞中でEF-1δのリン酸化が誘導されないことを見出した。これにより、UL13キナーゼの活性化にはウイルス由来の補因子が必要であると仮定し、その同定を試みた。その結果、UL13とUL55またはUs10を共発現すると、UL13単独に比べてEF-1δリン酸化が著しく増強された。UL13はUL55またはUs10と相互作用し、in vitroキナーゼアッセイでも活性が上昇した。また、UL55欠損株ではEF-1δリン酸化が著しく減少し、Us10欠損株では影響が小さいが、UL55とUs10の二重欠損株ではUL55欠損株よりさらに減少した。さらに、UL55欠損株はUL13キナーゼ活性消失株と同程度にウイルス増殖性とプラーク形成能を低下させたが、Us10欠損株ではほとんど影響は認められなかった。これらの結果から、UL55は主要な活性化因子、Us10は補助的因子としてUL13キナーゼ活性を制御することが示唆された。

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2025/10/07

複数のCyp51アイソザイムを持つ真菌に対するアイソザイム特異的アゾール系抗真菌薬剤の相乗効果

論文タイトル
Synergistic effects of Cyp51 isozyme-specific azole antifungal agents on fungi with multiple cyp51 isozyme genes
論文タイトル(訳)
複数のCyp51アイソザイムを持つ真菌に対するアイソザイム特異的アゾール系抗真菌薬剤の相乗効果
DOI
10.1128/aac.00598-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
石井 雅樹(筆頭著者と連絡著者)、大畑 慎也(連絡著者)
所属
武蔵野大学 薬学部・薬学研究所
著者からのひと言
Aspergillus属菌などによる全身性真菌症は世界で年間375万人の死者を出します。また、白癬菌による水虫などの表在性真菌症は世界人口の10%以上が罹患しており、いずれも深刻な問題です。真菌は我々人間と同じ真核生物であり、選択的に作用する薬剤の開発は困難であるため、既存薬の有効活用が今後の治療における鍵となります。本研究は、アイソザイム選択性という視点から、難治性真菌症に対して同系統薬の併用療法という新たな扉を開き、薬剤耐性菌への新規対抗策を提供すると期待されます。

抄訳

本研究では、白癬菌Trichophyton rubrumにおいて、エルゴステロール生合成経路の律速酵素であり、アゾール系抗真菌薬の標的であるCyp51の2つのアイソザイム(Cyp51AとCyp51B)の機能を解析した。遺伝子欠損株の解析から、Cyp51Bは白癬菌の正常な成長に必須である一方で、Cyp51Aはアゾール系薬剤への自然抵抗性に関わる誘導型アイソザイムであることが判明した。28種類のアゾール系薬剤の感受性試験から、フルコナゾールやスルコナゾールがCyp51Bを、プロクロラズはCyp51Aを選択的に阻害することが明らかになった。さらに、これらのアイソザイム選択的薬剤を併用することで、白癬菌だけでなくAspergillus welwitschiaeの生育が相乗的に阻害された。本研究は、異なるCyp51アイソザイム選択性を持つアゾール系抗真菌薬の併用が、病原性真菌に対する新たな治療戦略となることを示唆している。

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2025/10/07

Stenotrophomonas maltophilia 臨床分離株に対するアズトレオナム–ナキュバクタムおよびセフェピム–ナキュバクタムのin vitro 効果の評価

論文タイトル
Evaluation of in vitro efficacy of aztreonam-nacubactam and cefepime-nacubactam against clinical isolates of Stenotrophomonas maltophilia
論文タイトル(訳)
Stenotrophomonas maltophilia 臨床分離株に対するアズトレオナム–ナキュバクタムおよびセフェピム–ナキュバクタムのin vitro 効果の評価
DOI
10.1128/aac.00755-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
青木 渉 上蓑 義典 他
所属
慶應義塾大学医学部臨床検査医学教室
著者からのひと言
なかなか治療選択肢の少ないS. maltophiliaに対して、臨床分離株を使ってさまざまな新規抗菌薬の薬剤感受性を調べていくうちに、我が国発の新規βラクタマーゼ阻害剤であるナキュバクタムとセフェピムまたはアズトレオナムの組み合わせがある程度効果を示すことを発見しました。
病院検査室発の小さな研究ですが、臨床医を悩ませるS. maltophiliaに対する新しい治療選択肢が近い将来1つでも増えるような開発につながればと思っています。

抄訳

Stenotrophomonas maltophilia はL1βラクタマーゼ(メタロβラクタマーゼ)およびL2βラクタマーゼ(クラスA βラクタマーゼ)を産生するため、多くのβラクタム系抗菌薬に自然耐性を示し、治療選択肢が限られている。従来はST合剤やレボフロキサシンが主に用いられてきたが、近年はセフィデロコルやアズトレオナム–アビバクタムなど新規薬剤が注目されている。ナキュバクタム(NAC)はDBO系の新規βラクタマーゼ阻害剤でありβラクタマーゼ阻害作用に加え、PBP2への結合などによる抗菌活性増強効果(エンハンサー効果)を示すことが報告されている。本研究では、2012〜2024年に慶應義塾大学病院で血液培養から分離された53株を対象に、アズトレオナム(ATM)およびセフェピム(FEP)との併用効果を検討した。結果、ATM–NACおよびFEP–NACはいずれも単剤に比して有意にMICを低下させ(P<0.001)、MIC50/90はそれぞれ8/16 µg/mLおよび4/16 µg/mLであった。FEPはL1βラクタマーゼの基質であるが、FEP–NACでは活性が認められたことから、NACのエンハンサー効果が示唆される。これらの結果は、FEPやATMとNACの併用療法がS. maltophilia感染症に対する新たな治療選択肢と今後なりうる可能性を示し、さらなる研究が求められる。

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2025/10/03

パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか

論文タイトル
How palytoxin transforms the Na+,K+ pump into a cation channel
論文タイトル(訳)
パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか
DOI
10.1073/pnas.2506450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.38
著者名(敬称略)
金井 隆太 豊島 近 他
所属
東京大学 定量生命科学研究所 膜蛋白質解析研究分野
著者からのひと言
パリトキシンが結合しただけではチャネル化は起こらない。反応サイクルをある程度回れる柔軟性があるから可能なのである。Na+,K+ポンプは本質的にNa+ポンプだが、それを反映してイオン通路の構成も細胞内側、外側で大きく異なっている。本論文は「チャネルとポンプの本質的違い」や「ポンプ蛋白質は何を見て次のステップに進む(構造変化を起こす)のか」にも答える深い論文になった。海産毒物や蛋白質はあまりにも良く出来ていることに圧倒されるのは著者だけではあるまい。

抄訳

パリトキシンは生物界で最も強力な非ペプチド性毒物の一つであり、非常に複雑な構造を持つ。その標的はNa+,K+ポンプ(Na+,K+-ATPase、Na+,K+依存性ATP水解酵素)である。Na+,K+ポンプは細胞内から細胞外へATP1分子当たり3個のNa+を厳密に選択して運搬し逆方向には2個のK+(Na+でも可)を濃度勾配に逆らって輸送する膜蛋白質である。パリトキシンはNa,K+ポンプを非選択的陽イオンチャネルに変えてしまう。このことは「ポンプはチャネルにゲートがもう一つ付加されたものである」ことを示唆するようにも見える。しかし、クライオ電子顕微鏡を駆使して得られた構造は、本来の役割の違い(ポンプは濃度勾配を確立する、チャネルは濃度勾配に従って物質を通す)を反映して、本質的に違うものであることを示していた。また、パリトキシンは役割を異にする3つの部分から成り、その柔軟性が膜貫通へリックス間の連携の破壊によるポンプのチャネル化に必須であることも判明した。

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2025/09/24

世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術

論文タイトル
World’s First Real-Time Artificial Intelligence–Assisted Mechanical Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke
論文タイトル(訳)
世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術
DOI
10.3174/ajnr.A8704
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1647-1651
著者名(敬称略)
廣瀬 瑛介 松田 芳和 他
所属
昭和医科大学病院脳神経外科
著者からのひと言
本研究は、急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術において、世界で初めてリアルタイムAI支援を臨床応用した報告です。
時間との戦いである治療中に、術者の「目線の変わり」となるアシスト機能を提供し、安全性と治療効率の向上に寄与する可能性を示しました。

抄訳

急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術(MT)において、リアルタイム人工知能(AI)支援を用いた初の臨床経験を報告した。局所麻酔下で16例連続にAIソフト(Neuro-Vascular Assist, iMed Technologies)を使用し、ガイディングカテーテルが透視画像から外れた際にリアルタイム通知を行った。通知は全例で正常に作動し、1例あたり平均8.1回の通知が発生。精度97%、再現率99%と高い正確性を示し、126件の真陽性通知のうち25件(20%)では術者が10秒以内に再位置調整を実施した。手技遅延や有害事象は認めず、安全性も確認された。本研究はMTにおけるAIリアルタイム支援の有用性を示す初報の一つであり、今後は大規模検証により臨床的意義が期待される。

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2025/09/24

Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング

論文タイトル
Transcriptomic profiling of Pseudomonas migulae revealed gene regulatory properties during biodegradation of aromatic hydrocarbons under cold stress
論文タイトル(訳)
Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング
DOI
10.1099/mgen.0.001470
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Vol. 11, Issue 9 (2025)
著者名(敬称略)
柳田 將貴 守 次朗 他
所属
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 微生物生態学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas属細菌は様々な環境から見つかり、その優れた低温ストレス適応能力についても頻繁に報告されていますが、意外にも、低温に適応する詳細な機構については過去に報告がありませんでした。本学修士課程の学生が奮闘し、その一端を解き明かしました。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。

抄訳

Pseudomonas属細菌においては、芳香族の環境汚染物質の分解能力や、低温を含む多様な環境ストレスへの優れた適応能力を有するものがしばしば報告されている。本研究では、環境汚染物質のp-ヒドロキシ安息香酸(PHBA)を増殖の栄養源として利用でき、なおかつ低温条件下(10˚C)で活発に生育可能な新規の細菌株P. migulae HY-2株をモデルとして用いて、低温ストレス条件下での芳香族炭化水素の分解過程における遺伝子調節機構について調査を行った。HY-2株のトランスクリプトーム解析の結果、低温条件下では複数種のシャペロンの発現上昇によりタンパク質の恒常性が維持され、さらに外来ポリアミンの蓄積に伴うバイオフィルム形成が誘導される一方、PHBAの分解に関わる遺伝子群の発現はほとんど影響を受けないことがわかった。本成果は、細菌を用いた汚染環境の修復技術におけるPseudomonas属細菌の有用性について、新たな知見を与えるものである。

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2025/09/24

悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播

論文タイトル
Corynebacterium striatum infections in oncologic patients: clinical spectrum, resistance profiles, and evidence of nosocomial transmission
論文タイトル(訳)
悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播
DOI
10.1128/jcm.00829-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
湯川 堅也, 原田 壮平, 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
これまでのCorynebacterium striatum感染症研究は、血流感染症や呼吸器感染症を対象としたものが大半であったが、本研究ではそれ以外の感染症も解析の対象としました。その結果、悪性腫瘍患者において本菌が多様な感染症に関与し、しばしば長期の抗菌薬投与を要することが明らかとなりました。Corynebacterium属菌は従来、病原性の低い細菌と考えられてきましたが、多剤耐性を有することや院内伝播例が確認された点も考慮すると、C. striatumは院内感染症の重要な起因菌として認識すべきであるかもしれません。

抄訳

単施設で10年間に診断された悪性腫瘍患者患者のCorynebacterium striatum感染症51例について、臨床情報の収集および起因菌株の薬剤感受性試験と全ゲノム解析を実施した。症例のほとんどは固形腫瘍患者であり、術後腹腔内感染症、術後頭頚部軟部組織感染症、骨関節感染症が多かった。抗菌薬投与期間の中央値は25日で、経口ステップダウン治療を要する例も多かった。起因菌株は多剤耐性傾向があったが、テトラサイクリン系(92.5%)やST合剤(79.2%)の感受性は良好であり、テトラサイクリン系耐性はtet(W)遺伝子保有と関連していた。また、ダプトマイシン耐性が2例(3.9%)ありいずれもpsgA2遺伝子変異を伴っていた。コアゲノムSNP解析と入院歴調査により、7例は院内伝播の関与が示唆された。本研究は、悪性腫瘍患者においてC. striatumが多様な感染症の起因となり得る多剤耐性菌であり、抗菌薬適正使用の観点から注視すべき病原体であることを示している。

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2025/09/19

ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く

論文タイトル
Centrosomes regulate pronuclear apposition ensuring parental genome unification in cattle
論文タイトル(訳)
ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く
DOI
10.1530/REP-25-0067
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0067
著者名(敬称略)
高田 裕貴 橋本 周 森本 義晴
所属
大阪公立大学大学院 医学研究科リプロダクティブサイエンス研究所
著者からのひと言
正常な受精卵の約25%で異常な染色体分配が発生します。本研究では異常な染色体分配が発生する機構の一つを明らかにしました。
本研究で示されたウシ受精卵の前核移動のメカニズムとそれに異常が生じる原因に関する知見は、生殖医療ならびに体外受精による動物生産の発展に大きく貢献します。

抄訳

新しい生命は、受精卵の中で両親のゲノムを包んだ二つの前核(雌性前核と雄性前核)が互いに接近し、両親のゲノムを一つの紡錘体に統合することで始まる。しかし、ヒトやウシなどの哺乳類では、一部の受精卵が雌雄前核を接近させることができず、両親ゲノムを統合することに失敗して発生が停止する。本研究は、ウシ受精卵における雌雄前核の移動メカニズムを明らかにし、前核接近に異常が生じる原因を解明した。
前核移動には、精子由来の細胞小器官「中心体」を中心として形成される微小管が必須であった。雌雄前核の核膜に集積したダイニンモータータンパク質が微小管上を中心体の方向に移動する力で、両前核が接近することが示された。蛍光標識した中心体と前核のライブイメージング解析により、複製された二つの中心体のうち、少なくとも一つの中心体が雌雄前核の間に位置することが、二つの前核の近接と両親ゲノムの統合に重要であることが明らかになった。

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2025/09/19

腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す

論文タイトル
Intestinal luminal polyamines support the gut colonization of enteric bacterial pathogens by modulating flagellar motility and nitrate respiration
論文タイトル(訳)
腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す
DOI
10.1128/mbio.01786-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16 Issue 9 e01786-25
著者名(敬称略)
三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部・大学院薬学研究科
著者からのひと言
腸内細菌の代謝産物は、腸の健康に大きく影響を及ぼし、また、病原体の感染にも関わります。よく知られた例は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸であり、私たちの健康に良い影響を及ぼし、感染を防ぐことが知られています。一方で、本研究では、腸内細菌の代謝産物である腸内のポリアミンが、腸管病原菌の感染を促してしまうリスクファクターである可能性を示しました。腸内ポリアミンレベルの制御は腸管病原菌による消化管感染に対する新たな治療ターゲットになるかもしれません。

抄訳

サルモネラ属ネズミチフス菌の消化管感染では、腸管の炎症が誘導され、その炎症反応を利用することによって、本菌は腸管内に定着する。プトレシンやスペルミジンに代表されるポリアミンは、腸恒常性に関わる分子の一つであり、腸内のポリアミンの多くは腸内細菌に由来する。本研究では、ネズミチフス菌の消化管感染における腸内ポリアミンの役割を明らかにした。腸管内に感染したネズミチフス菌は、腸内のポリアミンを取り込み、その取り込まれたポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸に関わる遺伝子群の発現活性に必要であった。すなわち、合成および取り込み系の機能が減弱したポリアミンの恒常性を失ったネズチフス菌変異株は著しく、マウス腸管内の定着活性が低下した。一方で、スペルミジンを含む水を自由に飲水したマウスでは、本変異株の定着活性は回復した。さらに、同様のスペルミジン供与を施したマウスでは、ネズミチフス菌野生株や共生大腸菌の腸管内定着レベルが上昇した。以上、本研究より、腸内のポリアミンは腸管病原菌の腸管内定着を活性化することが明らかになった。

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2025/09/16

頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値

論文タイトル
Distinguishing Intracranial Solitary Fibrous Tumors from Meningiomas: The Diagnostic Value of T1-Weighted MRI Signal Intensity and ADC Values
論文タイトル(訳)
頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値
DOI
10.3174/ajnr.A8703
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1652-1659
著者名(敬称略)
張 申逸 黒川 遼 他
所属
東京大学医学部附属病院 放射線科

抄訳

本研究は、頭蓋内孤立性線維性腫瘍(SFT)と髄膜腫の鑑別診断におけるMRI画像所見の有用性を評価した後ろ向き研究である。病理学的に確認されたSFT患者13例と髄膜腫患者27例を対象とし、造影前T1強調画像での信号強度、ADC値、その他の画像所見を比較検討した。
主要な結果として、大脳皮質と比較したT1強調画像での高信号はSFTで有意に高頻度であった(76.9% vs 18.5%、P=0.0010)。また、標準化T1強調画像値とADC値は、ともにSFTで髄膜腫より有意に高値を示した。SFTにおいてのみ、T1強調画像値とADC値の間に有意な逆相関が認められた。二項ロジスティック回帰分析により、これらの画像パラメータの組み合わせは中等度の診断精度(交差検証スコア0.83)を示した。
本研究により、造影前T1強調画像での高信号が頭蓋内SFTと髄膜腫の鑑別における有用な特徴であることが明らかになり、正規化T1強調画像値とADC値の組み合わせが術前診断に役立つ可能性が示された。

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2025/09/16

超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出

論文タイトル
Real-Time Metabolic Detection in Living Cells Using Hyperpolarized 13C NMR
論文タイトル(訳)
超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出
DOI
10.3791/68539-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68539
著者名(敬称略)
浦 朋人 高草木 洋一 他
所属
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 量子生命スピングループ 量子超偏極 MRI 研究チーム
著者からのひと言
超偏極とは、NMR/MRI信号を飛躍的に高感度化する技術で、生体内における代謝物濃度や環境の変化の計測に応用されています。今回の論文では、生細胞を安定に培養しながらNMRを計測できるシステムを構築し、複数回にわたる酵素反応測定を実現しました。この手法によって、細胞の動的な代謝変化や代謝適応機構に迫ることが期待され、今後は薬剤応答や疾患研究にも展開できると考えられます。

抄訳

本研究では、超偏極13C NMRを用いて生細胞内の代謝変化をリアルタイムに検出する方法を確立した。従来のNMR測定は感度の制約から生細胞での応用が困難であったが、超偏極化技術を組み合わせることで、代謝基質や生成物の濃度変化を非破壊的に時系列で追跡できるようになった。本論文では、超偏極13C標識基質を細胞に導入し、その代謝産物をNMRで測定するプロトコールを詳細に解説している。本手法は、がんや代謝疾患研究に加え、薬剤応答やストレス応答といった動的な代謝変化の評価にも応用が期待される。生細胞を対象とした本測定系は、基礎研究から臨床応用に至るまで幅広い発展に寄与する新たな代謝解析手法を提供するものである。

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2025/09/16

恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性

論文タイトル
Potential of a constitutive-UPR and histone deacetylase A-deficient Saccharomyces cerevisiae strain for biomolecule production
論文タイトル(訳)
恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性
DOI
10.1128/aem.00644-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
木俣 有紀 木俣 行雄 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

抄訳

酵母細胞を用いた異種性分泌蛋白質や脂質類の生産は、コスト面などの優位性から、高い将来性が見込まれるバイオテクノロジーである。小胞体は分泌蛋白質や脂質の生合成を司るオルガネラであり、その機能不全は小胞体ストレスと総称され、折り畳み不全蛋白質の小胞体への蓄積を伴う。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む酵母類の多くでは、小胞体ストレスに応じて転写因子Hac1の発現が誘導され、Hac1依存的なトランスクリプトーム変動によって小胞体の機能が活発化し、小胞体ストレスは解消される。これが酵母類におけるUnfolded Protein Response (UPR)である。Hac1を非制御的に発現するよう遺伝子改変を加えたS. cerevisiae株(Hac1強制発現株)は、常にUPRが惹起されて小胞体の機能が高まり、異種性分泌蛋白質や脂質類の生産能が向上するが、著しく増殖能が低下する。この論文では、ヒストンを脱アセチル化してトランスクリプトームを変動するHistone deacetylase A複合体の欠損により、Hac1強制発現株は高い小胞体機能を保ったまま、増殖能が回復することを示す。

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