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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/03/07

tRNAのキューオシン修飾およびその糖付加体の生合成とヒトの健康・疾患における役割

論文タイトル
Biogenesis and roles of tRNA queuosine modification and its glycosylated derivatives in human health and diseases
論文タイトル(訳)
tRNAのキューオシン修飾およびその糖付加体の生合成とヒトの健康・疾患における役割
DOI
10.1016/j.chembiol.2024.11.004
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Volume 32, Issue 2
著者名(敬称略)
鈴木 勉 他
所属
東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻
著者からのひと言
本総説で題材に取り上げたtRNA修飾は1970年代に故西村暹先生のグループが見つけました。修飾酵素の探索には海外のグループも参戦し、厳しい競争がありましたが、同じ日本人である私たちがその酵素を見つけたのは何かの縁であり、とても誇らしく感じております。

抄訳

tRNAには多様な転写後修飾を持ち、タンパク質合成において重要な役割を果たしています。キューオシン(Queuosine,
Q)は、7-デアザグアノシン(7-deazaguanosine)をコア構造とし、シクロペンテン基を含むかさ高い側鎖を持つ特徴的なtRNA修飾です。Qおよびその誘導体は、細菌と真核生物の特定のtRNAのアンチコドンに存在します。また、後生動物のtRNAにおいては、Qはさらにガラクトースまたはマンノースによって糖付加されます。これらの糖付加Qの機能は、その発見以来約半世紀にわたり不明のままでした。しかし最近、私たちの研究グループは、これらの糖付加Q修飾を担う2種類の糖転移酵素を同定し、その生物学的役割を解明しました。本総説では、Qおよびその糖付加Qの生化学的・生理学的機能について概説し、さらにがん、炎症性疾患、神経疾患などのヒト疾患との関連についても考察します。

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2025/03/07

KAI2のシグナル伝達を活性化するリガンド分子の構造要求性の解明

論文タイトル
Structural requirements of KAI2 ligands for activation of signal transduction
論文タイトル(訳)
KAI2のシグナル伝達を活性化するリガンド分子の構造要求性の解明
DOI
10.1073/pnas.2414779122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.8
著者名(敬称略)
櫛原 立冬 竹内 純 他
所属
静岡大学農学部応用生命科学科植物化学研究室
著者からのひと言
本成果は,10年以上にわたって未発見なKAI2の植物内生リガンド(KL)の構造的特徴に関する新たな知見を提供するものであり,KLの探索研究を大きく前進させるものと期待されます。

抄訳

 KARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)は山火事などで植物が燃焼した際の煙に含まれる発芽誘導物質カリキンと結合するタンパク質として同定されたが,未だ植物内生リガンド(KAI2 ligand; KL)は発見されていない。最近,KAI2のシグナル伝達機構に関してはその概要が明らかになってきたが,リガンド認識機構については未解明な点が残されている。本研究では,KAI2リガンドの構造要求性およびKAI2活性化機構の解明を目的として,KAI2アゴニスト(dMGer)を構造改変することで,KAI2によって加水分解されない分子構造としたdMGerアナログ(1'-carba-dMGerと6'-carba-dMGer)を設計した。合成したdMGerアナログのKAI2結合活性および植物に対する生理活性を詳細に解析した結果,KAI2のシグナル伝達には,リガンドがKAI2と結合するだけでは不十分であり,リガンドのブテノライド環が加水分解され,その後KAI2の触媒残基と共有結合を形成することが重要であると明らかにした。本知見は,KLもKAI2によって加水分解・切断されるブテノライド環を有していることを示唆している。

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2025/03/07

マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに

論文タイトル
Multiomics analysis unveils the cellular ecosystem with clinical relevance in aldosterone-producing adenomas with KCNJ5 mutations
論文タイトル(訳)
マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに
DOI
10.1073/pnas.2421489122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Vol.122 No.9
著者名(敬称略)
馬越 真希、藤田 政道、馬越 洋宜、小川 佳宏 他
所属
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野
(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)
著者からのひと言
本研究では、最先端の単一細胞解析技術と空間トランスクリプトーム解析を組み合わせることで、アルドステロン産生腺腫の内部に存在する複雑な細胞社会を可視化することに成功しました。特に、腫瘍内でのコルチゾール産生が血中コルチゾール濃度上昇や椎体骨折に関連するという発見は、これまで説明が困難だった臨床症状の分子メカニズムを解明するものです。この知見は、より効果的な内科的治療法の開発につながる可能性があり、患者さんのQOL向上に貢献できると期待しています。

抄訳

アルドステロン産生腺腫(APA)は、副腎の良性腫瘍であり、アルドステロンの過剰産生による二次性高血圧を引き起こします。APAの多くはKCNJ5遺伝子に変異を持ち、通常の高血圧と比べて様々な臓器の合併症が起こりやすい特徴がありますが、詳しい分子メカニズムは不明でした。本研究では、最新のマルチオミクス解析技術を用い、APAには4つの異なる腫瘍細胞集団(①ストレス応答性細胞、②アルドステロン産生細胞、③コルチゾール産生細胞、④間質様細胞)が存在することを発見しました。腫瘍細胞はストレス応答性細胞から、アルドステロン産生細胞あるいはコルチゾール産生細胞へと分化し、後者は増殖能力の高い間質様細胞に進展することを明らかにしました。腫瘍内には脂質関連マクロファージが多く存在し、コルチゾール産生細胞や間質様細胞との相互作用により、腫瘍のコルチゾール産生の増加や腫瘍増大に関連することが示唆されました。さらに、腫瘍内のコルチゾール産生が、血中コルチゾール濃度を上昇させ、それが椎体骨折の発症に関連することが明らかになりました。本研究により、複雑な細胞間相互作用を特徴とするAPAの多様な細胞生態系の分子メカニズムと臨床的意義が明らかになりました。

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2025/03/06

Candida aurisにおいてTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、manogepixへの感受性を低下させる

論文タイトル
TAC1b mutation in Candida auris decreases manogepix susceptibility owing to increased CDR1 expression
論文タイトル(訳)
Candida aurisにおいてTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、manogepixへの感受性を低下させる
DOI
10.1128/aac.01508-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Vol.69 No.2
著者名(敬称略)
平山 達朗 他
所属
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 薬物治療学

抄訳

Candida aurisは、既存の抗真菌薬に対して高い耐性を示す新興の病原真菌である。一方、manogepix (MGX)はGPIアンカーの生合成を阻害することにより抗真菌活性を発揮する新規抗真菌薬であり、臨床応用が期待されている。C. aurisのMGX耐性機構を解析するため、C. aurisの臨床分離株をMGXに曝露し感受性株を作製した。低感受性株では薬剤排出ポンプCDR1の転写因子であるTAC1bのD865Nアミノ酸変異が確認された。CRISPR-Cas9システムを用いて、このアミノ酸変異を導入すると、D865N変異株は親株に比べて明らかにMGX感受性が低下し、CDR1の発現が上昇していた。さらに、CDR1欠損株を作製し、MGXに対する感受性が有意に上昇することを確認した。これらの結果より、C. aurisのTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、MGXに対する感受性を低下させることが明らかとなった。

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2025/03/05

小口径眼内レンズ(IC8)挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離に対し眼内視鏡併用硝子体手術を施行した一例

論文タイトル
Endoscope-assisted vitreous surgery for rhegmatogenous retinal detachment in a patient with a small-aperture IC-8 intraocular lens
論文タイトル(訳)
小口径眼内レンズ(IC8)挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離に対し眼内視鏡併用硝子体手術を施行した一例
DOI
10.1136/bcr-2024-260476
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol. 17, No. 12 (2024)
著者名(敬称略)
吉岡 和樹 横山 翔 他
所属
独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院 眼科    飯田市立病院 眼科
著者からのひと言
近年、眼内レンズの改良に伴い、白内障手術により老視の改善が期待できるようになっています。様々なレンズが挿入されていますが、網膜剥離のように後眼部の手術が必要となった際、個々のレンズを通してどのように後眼部が透見できるかの知見は十分に得られていません。今回、IC8眼内レンズ挿入眼の後眼部手術において、広角眼底観察システム下、内視鏡下での手術についての知見と、内視鏡下では眼内レンズの影響を受けず硝子体手術を完遂できる可能性が示唆されました。

抄訳

IC-8 眼内レンズが挿入された眼における裂孔原性網膜剥離の症例を報告する。IC-8はレンズ中央に3.23 mmの黒い不透明部と1.36 mmの開口部を備え、ピンホール技術により焦点深度を拡張している。老視の矯正効果を示す一方で、不透明なリングは後眼部の視覚化を妨げる可能性がある。最初に、Constellation Vision SystemとResight 700広視野角システムを使用して25ゲージ 3ポートの経毛様体扁平部硝子体切除術が行われた。しかし、レンズの不透明部の影響により網膜周辺部の視認性が低いため、その後の処置では眼内視鏡を使用した。眼内視鏡下で、網膜裂孔周囲の硝子体切除、周辺硝子体切除、網膜下液の排出、網膜光凝固術を完遂した。IC-8の不透明なリングは内視鏡観察を妨げなかった。この症例は、IC-8眼内レンズを使用した眼の硝子体手術の安全性と適応性の向上を強調し、困難な眼科手術における広角視野システムと内視鏡システムの両方の有効性を実証しています。

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2025/03/05

クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす

論文タイトル
Deletion of the chloroquine resistance transporter gene confers reduced piperaquine susceptibility to the rodent malaria parasite Plasmodium berghei
論文タイトル(訳)
クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす
DOI
10.1128/aac.01589-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
平井 誠 他
所属
順天堂大学 医学部 熱帯医学・寄生虫病学講座
著者からのひと言
マラリア原虫は、生存に必須な遺伝子に非同義変異が生じることで薬剤耐性を獲得することが知られています。一方、本研究では、従来の常識とは異なり、必須ではない遺伝子の機能を完全に破壊することで原虫が薬剤耐性を獲得することを証明しました。この結果は、これまで知られていなかった新規の薬剤耐性機構の存在を示唆します。さらに研究を進めることで、耐性が生じにくい、より効果的なマラリア新薬の開発につながることが期待されます。

抄訳

マラリア原虫は遺伝的変化を通じて薬剤耐性を獲得するが、そのメカニズムは完全には解明されていない。薬剤耐性のメカニズムを解明するには、新たな遺伝学的ツールの開発が必要である。私たちは先行研究において、突然変異率が増加したマウスマラリア原虫 Plasmodium berghei mutator(PbMut)を開発し、抗マラリア薬ピペラキン(PPQ)耐性を示す変異体を単離した。そして、その原因としてクロロキン耐性トランスポーター(PbCRT)の N331I 変異を同定した。本研究では、新たに作成した PbMut から再び PPQ 耐性変異体を単離し、原因遺伝子変異としてPbCRTのアミノ酸119番にナンセンス変異を見出した。ヒト熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum の PbCRT オルソログである PfCRT は、P. falciparum の生存に必須である。そこで、PbCRT の必須性を検討するため、野生型原虫から PbCRT 遺伝子を完全に欠失 [PbCRT(-)] させることに成功した。この結果から、PbCRT は P. berghei の生存に必須ではないことを初めて明らかにした。さらに、PbCRT(-) 原虫は PPQ 耐性を示すと同時に、マウスおよび蚊体内での生存適応度が低下することが確認された。本研究は、PbCRT の機能を完全に失うことによって P. berghei が PPQ 耐性を獲得し得ることを初めて証明したものである。

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2025/02/26

CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化

論文タイトル
Trisomic rescue via allele-specific multiple chromosome cleavage using CRISPR-Cas9 in trisomy 21 cells
論文タイトル(訳)
CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf022
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
橋詰 令太郎 他
所属
三重大学大学院医学系研究科修復再生病理学・三重大学病院ゲノム医療部

抄訳

ダウン症候群は、21番染色体の3番目のコピーが存在することによって引き起こされ、700出生に1人の割合で発症する。過剰染色体そのものを消去する治療法は現在ない。本研究では、CRISPR-Cas9システムを使用して、トリソミーのiPS細胞と皮膚線維芽細胞の両方において、過剰染色体を切断することにより標的染色体を細胞から消去できることを示した。染色体のDNA修復能力を抑制すると、標的染色体の除去率が上昇した。また、染色体の消去により遺伝子発現と細胞の表現型が可逆的に回復した。しかし、この技術では、標的染色体が消去されなかった場合、当該染色体に変異が導入される可能性がある。したがって、このアプローチをそのまま臨床応用することはできない。本研究は、あくまでも体外の細胞レベルでの概念実証研究である。一方で、過剰染色体を取り除くという発想と、その原理を提案できた意義があると思われる。

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2025/02/26

急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測

論文タイトル
Stratifying and predicting progression to acute liver failure during the early phase of acute liver injury
論文タイトル(訳)
急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf004
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
吉村 雷輝1, 田中 正剛2,3, 黒川 美穂2,3, 岩見 真吾1,4,5,6, 小川 佳宏2,3 他
所属
名古屋大学大学院 理学研究科理学専攻 異分野融合生物学研究室1
九州大学大学院 医学研究院 病態制御内科学2
九州大学病院 肝臓・膵臓・胆道内科3
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所4
理化学研究所 数理創造プログラム5
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点6

著者からのひと言
急性肝障害・急性肝不全の成因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など多岐にわたりますが、同じ成因でも臨床経過はまちまちです。従来の臨床研究的手法では既知の因子に基づいて分類するため、このような不均一な集団を未知の病態に基づいて分類することが困難でした。本研究では人工知能技術を用いた機械学習的アプローチにより、データ駆動型に後方視的解析を行うことにより治療反応性、ひいては病態を反映する分類を実現しました。このような臨床医学と数理科学の異分野融合的アプローチは、他の急性疾患の病態解明にも応用できる可能性があります。

抄訳

急性肝不全(ALF)は、急性肝障害(ALI)から進行する重篤な疾患であり、多くは多臓器不全から最終的には死に至る。現在、ALFの予後を改善できる治療は肝移植しかないが、ALIは非常に不均一な疾患であるため、どのALI患者がALFに進行し、肝移植を要するかを予測する定量的な指標が存在しなかった。本研究では、ALI 319例のデータを機械学習的アプローチにより後方視的に解析し、ALIの状態を反映するバイオマーカーとしてプロトロンビン時間活性率(PT%)を同定した。ALF患者における肝移植の必要性を予測する先行研究とは異なり、本研究ではPT%の動態に注目することにより、非常に不均一なALI患者を、臨床経過と予後が異なる6つのグループ、すなわち、自己終息群、内科集中治療反応群、内科集中治療不応群に層別化することができた。驚くべきことに、これらのグループは入院時に得られる臨床データによって高精度に予測可能であった。さらに、数理モデリングと機械学習により、個々のPT%動態が予測できる可能性が示された。この知見により、医療資源配分の最適化、個別化治療の早期導入が可能となり、ALF予後の改善が期待できる。

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2025/02/26

子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である

論文タイトル
Endometrial zinc transporter Slc39a10/Zip10 is indispensable for progesterone responsiveness and successful pregnancy in mice
論文タイトル(訳)
子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf047
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
川田 由以, 寺川 純平, 伊藤 潤哉 他
所属
麻布大学 獣医学部
著者からのひと言
今回、必須微量元素である亜鉛がマウス・ヒトに共通して子宮内膜の機能に必須な役割を持つことを明らかにすることができました。今後さらに研究を進め、ヒトの不妊症や不育症の予防・治療に役立てていきたいと考えています。

抄訳

亜鉛は、雌雄の生殖器系を含むさまざまな生物学的機能に重要な微量元素ですが、根底にある分子メカニズムは明らかにされていませんでした。今回我々は、子宮で亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスを解析し、このマウスでは胚着床の初期反応は認められるものの、胚が子宮内膜に浸潤できず、結果として胎盤の形成が不完全となり、不妊(不育)を引き起こすことを明らかにしました。その原因として、子宮内膜細胞でZIP10が欠損すると、細胞内に亜鉛イオンが取り込まれず、妊娠の成立と維持に重要なプロゲステロンのシグナル伝達に異常をきたすことを明らかにしました。特に、亜鉛イオンはZinc Finger転写因子(GLI1)の核―細胞質間輸送を制御しており、そのメカニズムはマウスのみならずヒト子宮内膜細胞でも同様であることを確認しました。本研究の結果は、妊娠を望む女性での「亜鉛」の摂取が、妊娠しやすい体づくりに重要であることを分子レベルで示したものです。また、成人女性の多くは潜在的な亜鉛欠乏であるとする研究報告もあり、本研究は妊娠における亜鉛の重要性を改めて示しました。

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2025/02/14

力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて

論文タイトル
Magnetic Bead Grafting in the Zebrafish Cardiac Lumen for Controlled Force Amplification: Unraveling Mechanotransduction in Heart Valve Development
論文タイトル(訳)
力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて
DOI
10.3791/202562-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (215), e67604
著者名(敬称略)
Christina Vagena-Pantoula, 福井 一 他
所属
徳島大学先端酵素学研究所 生体力学シグナル分野
著者からのひと言
本手法は筆者らが2021年に報告した論文(Fukui et al., Science:374, 351-354)で開発した手技について詳しく説明したものになります。私たちはゼブラフィッシュ心臓管腔に力学刺激を入力しましたが、本手法は他の動物種、組織、細胞など、さまざまな研究に応用できる可能性をもちます。ご不明点・ご相談などありましたら、ホームページよりお問い合わせ頂ければと思います。

抄訳

心臓の管腔では血流や血圧、拍動による伸展収縮といった力学刺激が継続的に生じる。これらの力学刺激は心臓弁や肉柱といった心臓管腔の機能的構造形成に必須の役割を果たす。しかしながら、力学刺激がどのように生体応答機構を調節するのか、直接的な関係性を示す知見は乏しい。我々はゼブラフィッシュ胚の心臓管腔内部に磁気ビーズを生きたまま留置し、心臓管腔に異所性の力学刺激を与える新たな手法を開発した。本論文では、実際の手順を記述し、動画をふまえて紹介する。この手法を施すことで、磁気ビーズは拍動・血流に応じて心臓管腔表面に触れ、離れ、管腔内の力学環境が異所的に変化する。また管腔内の磁気ビーズは、磁力によって胚外部から人為的に操作できる。これらから、力学刺激とそれに直接的に応じる生体応答(メカノトランスダクション)機構の解析、さらには心臓弁を含む心臓管腔の組織形成機構の理解をすすめることができる。

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