抄訳
【背景】多くの臨床ガイドラインにおいて、甲状腺クリーゼの初期治療として抗甲状腺薬、β遮断薬、ステロイドに加えてヨウ素の使用が推奨されている。しかし、甲状腺クリーゼに対するヨウ素の臨床効果を検証した研究は乏しい。【方法】厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班のデータベースを利用した後ろ向きコホート研究を実施した。2010年7月から2022年3月までに甲状腺クリーゼにより入院した患者を同定し、入院2日以内にヨウ素を投与された患者(ヨウ素投与群)と投与されなかった患者(ヨウ素非投与群)の院内死亡を、ロジスティック回帰分析により比較した。また、背景疾患としてのバセドウ病の診断の有無で層別化したサブグループ解析も実施した。【結果】3,188人(ヨウ素投与群 2,350人、ヨウ素非投与群 838人)の甲状腺クリーゼ患者が対象となり、粗院内死亡率はそれぞれ6.1%と7.8%であった。ヨウ素非投与群を対照とするヨウ素投与群の院内死亡の調整後オッズ比は0.91(95%信頼区間 0.62–1.34)で有意差を認めなかった。バセドウ病患者では調整後オッズ比 0.46(95%信頼区間 0.25–0.88)とヨウ素投与群で院内死亡率が有意に低く、非バセドウ病患者では調整後オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.67–1.85)と有意差を認めなかった。【結論】バセドウ病による甲状腺クリーゼ患者では、ヨウ素の投与により院内死亡率が低下する可能性が示唆される。