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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2026/02/02

mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である

論文タイトル
mGluR1 signaling is necessary for strengthening winner climbing fiber inputs in the developing mouse cerebellum
論文タイトル(訳)
mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である
DOI
10.1073/pnas.2425460123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.4 e2425460123
著者名(敬称略)
山崎 美和子 他
所属
北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室
著者からのひと言
mGluR1シグナル伝達経路はこれまで「敗者」の除去に必須とされてきましたが、実は「勝者」を強く育て上げる役割も併せ持つことがわかりました。つまり、脳は同一の分子シグナルを「ハサミ(除去)」と「肥料(育成)」として使い分け、「勝者」と「敗者」の格差を拡大させていたのです。本成果は、必要なシナプスの強化不全という、小脳失調症や発達障害の新たな病態メカニズムの理解につながると期待されます。

抄訳

運動の制御や学習に重要な小脳プルキンエ細胞の発達過程では、初期に接続していた多数の登上線維から一本の「勝者」が選ばれ、残りは「敗者」として除去されます。これまで「敗者」の除去については研究が進んでいましたが、「勝者」がどのように強化され、支配領域を広げるのかは未解明でした。本研究では、mGluR1シグナル伝達経路に着目し、遺伝子改変マウスを用いて多角的な解析を行いました。電気生理学解析では、本経路の欠損により、勝者シナプスの機能が弱く、長期増強(LTP)も生じないことが判明しました。さらに、連続電子顕微鏡法による立体再構築や、免疫組織化学法による発現解析から、未発達なシナプス構造や受容体の発現低下、樹状突起への配線拡大の失敗が明らかになりました。以上の結果は、mGluR1シグナル伝達経路が、「勝者」のシナプス構造と機能を強化し、樹状突起への配線拡大に必須であることを示すものです。

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2026/01/30

基底側からの静水圧はがん細胞の増殖促進、運動亢進、細胞極性の変化を引き起こすー腫瘍微小環境の間質圧亢進モデルー

論文タイトル
Hydrostatic pressure from basal side promotes cancer proliferation, enhances migration, and alters cell polarity: A model of the effects of interstitial fluid pressure in tumor microenvironment
論文タイトル(訳)
基底側からの静水圧はがん細胞の増殖促進、運動亢進、細胞極性の変化を引き起こすー腫瘍微小環境の間質圧亢進モデルー
DOI
10.1091/mbc.E25-05-0261
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 37, No. 1
著者名(敬称略)
尾ノ井 恵佑 徳田 深作 他
所属
京都府立医科大学大学院医学研究科呼吸器内科学
著者からのひと言
本研究ではがん細胞に基底側から圧力を加えるために数mmの培地の水面の差による静水圧を利用しており、このわずかな圧力が細胞の様々な形質を劇的に変化させることが分かりました。特に細胞運動は圧力を加えた直後から変化が認められ、上皮シート内で細胞が活発に動き回る様子(Movie S10など)には著者らも驚かされました。今後メカニズムの解明が進めば将来的にがんの新しい治療につながる可能性もあると考えています。

抄訳

腫瘍微小環境は腫瘍の発生や進行を促進することが知られている。腫瘍微小環境内の間質の圧力はほとんどすべての固形腫瘍で上昇しており、物理的な圧力は細胞増殖など様々ながん細胞の機能に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、これまでの研究では圧力の方向性は考慮されておらず、腫瘍微小環境における物理的な圧力が果たす役割は未だによく分かっていなかった。そこで我々はトランスウェル膜上に培養した肺癌細胞に基底側から静水圧を加える間質圧亢進モデルを考案し、圧力が及ぼす影響を検討した。その結果、基底側からの圧力は細胞運動、極性、増殖、細胞死など様々な形質を変化させ、上皮の重層化を引き起こすことが明らかになった。腫瘍微小環境内の物理的な圧力はがんの進行に有利となる様々な形質をがん細胞に与え、がん細胞生物学おいて重要な役割を果たしていると考えられた。

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2026/01/29

Period1遺伝子の特異的誘導化合物はマウスの概日時計を前進させる

論文タイトル
A Period1 inducer specifically advances circadian clock in mice
論文タイトル(訳)
Period1遺伝子の特異的誘導化合物はマウスの概日時計を前進させる
DOI
10.1073/pnas.2509943123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.4 e2509943123
著者名(敬称略)
高畑 佳史 程  肇 他
所属
金沢大学 理工研究域 生命理工学系
著者からのひと言
「朝起きるのがつらい」「海外旅行の時差ぼけを早く治したい」―そんな課題を、体内時計の針を“前に進める”ことで解決する革新的な化合物がMic-628です。その精密な作用は、時計遺伝子Per1の特異な発現制御を巧みに利用する分子機構に基づいています。本研究は、概日時計の発振原理とその生理的意義の理解を大きく前進させるとともに、時差ぼけやシフトワーク障害など、現代社会におけるリズム破綻に挑む時間生物学の新たな地平を切り拓くものです。

抄訳

哺乳類の概日時計中枢である脳視交叉上核における時計遺伝子Period1 (Per1)の周期的発現と光誘導は、行動リズムの周期維持と光同調に必須である。本研究では、Per1の転写を選択的に誘導し、全身の体内時計を強力に前進させる新規化合物Mic-628を同定した。Mic-628をマウスに経口投与すると、視交叉上核および末梢組織の時計と行動リズムの位相が、投与時刻に依存せず約2時間前進した。Mic-628は転写抑制因子CRY1と結合し、転写因子CLOCK–BMAL1複合体の多量体化を促すことで、Per1プロモーター上のタンデムE-box配列依存的な転写誘導を引き起こした。翻訳により生成されたPER1タンパク質は、Mic-628依存的な転写活性を自律的に抑制した。数理モデル解析により、実験で得られたPER1による負のフィードバック抑制とCRY1依存的転写促進が、Mic-628に特有の安定した位相前進を生み出す分子基盤であることを示した。Mic-628の発見は、時差ぼけや交代制勤務に伴う概日リズム障害への薬理学的介入を可能にする新たな方向性を提示している。

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2026/01/27

心筋細胞非神経性アセチルコリン産生能が障害を受けると、ミトコンドリア機能障害が起こり、その膜上に局在するニコチン受容体を介したカルシウムハンドリング能も低下し、最終的には心不全を引き起こす

論文タイトル
Impaired cardiac non-neuronal acetylcholine synthesis triggers mitochondrial dysfunction with the loss of nicotinic receptor-mediated calcium handling, causing the failing heart
論文タイトル(訳)
心筋細胞非神経性アセチルコリン産生能が障害を受けると、ミトコンドリア機能障害が起こり、その膜上に局在するニコチン受容体を介したカルシウムハンドリング能も低下し、最終的には心不全を引き起こす
DOI
10.1042/CS20257026
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Clin Sci (Lond) (2025) 139 (22): 1543–1570
著者名(敬称略)
曽野部 崇 柿沼 由彦 他
所属
学校法人日本医科大学 大学院医学研究科 生体統御科学分野
著者からのひと言
AChというと副交感神経系由来の神経伝達物質が想起されるが、実は心筋細胞自身ACh産生能を持つこと、そのAChは世界で初めて、Mit膜上にあるニコチン受容体を介してその情報を伝達し、Mitカルシウム取り込みを制御してMitそのものの機能保持をすること、そして最終的には心筋細胞質内カルシウムレベルの安定化に大きく寄与することが解明されたことは重要な発見である。

抄訳

我々を筆頭にこれまで、心筋細胞による非神経性アセチルコリン産生系(NNCCS)が心筋細胞の生理機能維持に必須であること、虚血耐性能・抗心肥大効果・抗交感神経亢進機能を有すること等が報告されてきた。しかしその機序、特にNNCCSの標的分子は不明であった。そこで心臓特異的ChATコンディショナルノックアウトマウスを解析し、不全心症状を伴う心機能低下、心臓ATP産生能低下、形態・膜電位異常を伴うミトコンドリア(Mit)異常が確認された。さらにその膜上に局在する7ニコチン受容体およびMItカルシウム輸送体両蛋白ともその発現レベルは低下し、心筋細胞でのMitカルシウムハンドリング機能は低下した。その結果全身性炎症応答の惹起や血液脳関門蛋白claudin-5発現低下によるうつ・ストレス応答亢進等中枢への影響も認められた。以上よりNNCCSの標的の一つはMitであり、そのカルシウムハンドリグを介した機能形態維持には、ニコチン受容体を介する心筋細胞内AChが不可欠であることが解明された。

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2026/01/23

メトホルミンは MEN1 関連膵および下垂体神経内分泌腫瘍を抑制する― マウスモデルおよび臨床データの解析―

論文タイトル
Metformin Suppresses MEN1-Associated Pancreatic and Pituitary Neuroendocrine Tumors: Evidence from Mouse Models and Clinical Data
論文タイトル(訳)
メトホルミンは MEN1 関連膵および下垂体神経内分泌腫瘍を抑制する― マウスモデルおよび臨床データの解析―
DOI
10.1530/ERC-25-0518
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Accepted Manuscripts ERC-25-0518
著者名(敬称略)
中野 愛里 大木 理恵子 他
所属
国立がん研究センター研究所 基礎腫瘍学ユニット
著者からのひと言
私たちの研究グループは、ケトン食による食事介入(Cell Death & Disease, 2023)および本研究におけるメトホルミンを用いた薬理学的介入という二つの異なる手法を通じて、血糖およびインスリンシグナル制御が膵・下垂体神経内分泌腫瘍の発症・進展を規定する重要な因子であることを明らかにしました。これらの成果は、全身代謝制御を治療標的とする新たな神経内分泌腫瘍治療概念を提示するものです。

抄訳

膵神経内分泌腫瘍(PanNET)は膵がん全体の約1–2%を占める希少がんであり、その大半を占める非機能性PanNET(NF-PanNET)はホルモン症状を示さないため発見が遅れ、治療が困難である。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)はMEN1遺伝子の生殖細胞系列変異により発症し、PanNETや下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)を高頻度に合併する。本研究では、NF-PanNETとPitNETの両方を発症するMen1f/f-RipCre+マウスを用い、糖尿病治療薬メトホルミンの長期投与効果を検討した。その結果、メトホルミンは血糖上昇を抑制し、インスリン分泌を正常化するとともに、PI3K/Akt/mTOR経路を抑制してPanNETおよびPitNETの発症を抑制した。さらに臨床解析において、メトホルミン使用歴のあるNF-PanNET患者は予後良好であった。以上より、メトホルミンによる血糖制御はNF-PanNETおよびMEN1関連神経内分泌腫瘍に対する有望な予防・治療戦略となり得る。

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2026/01/23

変異の組み合わせを最適化した大腸菌を利用する、新手法に依るYarrowia lipolytica由来のシステインスルフィン酸脱炭酸酵素遺伝子の同定

論文タイトル
Identification of the Yarrowia lipolytica cysteine sulfinic acid decarboxylase gene using a newly developed method with optimized Escherichia coli combinations of mutant alleles
論文タイトル(訳)
変異の組み合わせを最適化した大腸菌を利用する、新手法に依るYarrowia lipolytica由来のシステインスルフィン酸脱炭酸酵素遺伝子の同定
DOI
10.1099/mic.0.001620
ジャーナル名
Microbiology
巻号
Microbiology Volume 171, Issue 11
著者名(敬称略)
西川 正信
所属
岡山県農林水産総合センター 生物科学研究所
著者からのひと言
養殖向け代替飼料の開発は食糧問題の解決に有望です。必須ながらも、大豆粕等に含まれないタウリンをいかに補うかは重要な課題の一つです。化学合成品の添加ではなく、特定の微生物を大豆粕等に混ぜるだけで、発酵が進み、必要量のタウリンを賄う事が出来たら良いな、という発想です。タウリン合成が著しい微生物は、その存在を含め、十分に検討されていません。本目的に供する微生物を探索・創生する研究開発の端緒になればと思います。

抄訳

海水魚の持続可能な養殖に向けて、大豆粕などを使った代替飼料が開発中である。補充を要する栄養素の一つ、タウリンは、化学合成品と比べて低コストで環境に優しい発酵生産物が好適かもしれない。タウリン発酵に供する微生物について、生合成経路の鍵となるシステインスルフィン酸脱炭酸酵素(CSAD)の研究は不可欠であろう。今般、合成生物学的に、タウリンの前駆体であるL-システイン酸の脱炭酸後の硫黄を同化する大腸菌の増殖を指標に、CSAD遺伝子の探索法を考案した。使用する大腸菌には、cysA(硫酸/チオ硫酸ABCトランスポーター)とssuD(FMNH2依存性アルカンスルホン酸モノオキシゲナーゼ)の両遺伝子、その他の遺伝子に多重欠損変異を導入した。本手法をYarrowia lipolytica由来のグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子に適用し、コードされる酵素がL-システイン酸やL-システインスルフィン酸をも脱炭酸することを示した。

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2026/01/23

ミジンコにおける幼若ホルモン誘導性遺伝子の流用による環境依存型性決定の進化

論文タイトル
Evolution of environmental sex determination via juvenile hormone–induced gene co-option in Daphnia
論文タイトル(訳)
ミジンコにおける幼若ホルモン誘導性遺伝子の流用による環境依存型性決定の進化
DOI
10.1073/pnas.2525480123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.3 e2525480123
著者名(敬称略)
高畑 佑伍 宮川 一志 他
所属
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター 環境生理学研究室

抄訳

昆虫において幼若ホルモン(JH)は、変態や生殖だけでなく、カースト分化、形態形成、休眠など多岐にわたる作用を示す。こうした多様な機能が、祖先的なJHの役割からどのように進化してきたかは十分に解明されていない。淡水性甲殻類ミジンコでは、JHがオス産生を誘導することで環境依存型性決定を制御するが、その分子経路は不明であった。本研究では、概日時計遺伝子vrilleDpvri)がJHシグナルの直接標的であることを明らかにした。レポーター解析により、Dpvriは新たに獲得された9塩基のJH応答配列を介して受容体複合体(Met/SRC)により転写活性化される一方、コクヌストモドキvriには同様の配列が存在せずJH応答性も示さないことが分かった。さらに、CRISPR/Cas9により単一のJH応答配列を欠損させると、JH依存的なDpvri発現が低下し、オス誘導の閾値が上昇した。比較解析から、この配列はミジンコ目で保存される一方、アルテミアには存在しないことが判明し、その出現が環境依存型性決定の起源と一致する可能性が示唆された。これらの結果は、vriが新規JH応答配列の獲得を通じてJH経路に取り込まれたことを示し、節足動物におけるJH機能多様化の仕組みを説明するものである。

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2026/01/22

Piezo1は赤血球と腎臓においてユビキチンリガーゼKelch-like 3を協調的に制御することでカリウム恒常性を司る

論文タイトル
Piezo1 dictates K+ homeostasis through coordinated regulation of the ubiquitin ligase Kelch-like 3 in RBCs and the kidney
論文タイトル(訳)
Piezo1は赤血球と腎臓においてユビキチンリガーゼKelch-like 3を協調的に制御することでカリウム恒常性を司る
DOI
10.1073/pnas.2513222123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.3 e2513222123
著者名(敬称略)
石澤 健一、柴田 茂 他
所属
帝京大学医学部附属病院 腎臓内科
著者からのひと言
循環血液中のカリウムの大部分は赤血球の中に存在しており、対照的に血漿中のカリウム濃度は非常に低いレベルに保たれています。本研究では、赤血球と腎臓が連携して血漿中のカリウム濃度を制御するという、これまで見過ごされてきた臓器間シグナルの存在を明らかにしました。腎臓が他の組織の細胞内カリウムの変化を感知し、体外への排泄を調節する新しい仕組みを提示しています。高血圧や電解質異常の理解を一段深め、将来の治療戦略につながる知見として、幅広い分野の研究者に読んでいただきたい研究です。

抄訳

カリウム(K⁺)は心筋や神経系細胞などの機能制御に不可欠なミネラルであり、十分なカリウム摂取は日本人の国民病である高血圧を予防し、心血管疾患リスクを低減させる。その一方で、血液中カリウム濃度の異常(高カリウム血症・低カリウム血症)は重篤な不整脈の原因となり得るため、カリウムの調節機構を正しく理解することは、電解質異常の病態解明や予防・治療戦略の確立に直結する重要な課題である。
体内カリウムの大部分は肝臓や骨格筋、赤血球などの細胞内に貯蔵されているが、腎臓がどのようにこれらの臓器と連携し、血液中カリウム濃度を極めて狭い範囲で厳密に制御しているのかについては、十分に明らかとなっていない。本研究では、機械刺激センサーPiezo1がユビキチンリガーゼKLHL3の活性を制御することで、赤血球から細胞外へのカリウム輸送と腎臓におけるカリウム排泄とが機能的に連動していることを明らかにした。赤血球においては、Piezo1がKLHL3およびその基質であるWNK1を介して細胞内カリウム量を調節し、腎臓では同じ経路によって集合管におけるROMKチャネルを通じた尿中カリウム排泄が制御されると考えられる。本研究により、臓器間シグナルに基づく新たなカリウム調節機構が明らかとなり、カリウム代謝異常に対する新たな治療標的の可能性が示された。

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2026/01/22

FGF21–視床下部室傍核オキシトシン–腹側被蓋野ドーパミン系によるアルコール摂取の負のフィードバック制御

論文タイトル
Negative feedback regulation of alcohol ingestion through the FGF21-PVH oxytocin-VTA dopamine system
論文タイトル(訳)
FGF21–視床下部室傍核オキシトシン–腹側被蓋野ドーパミン系によるアルコール摂取の負のフィードバック制御
DOI
10.1073/pnas.2525172122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.3 e2525172122
著者名(敬称略)
松居 翔 他
所属
京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻 栄養化学分野
著者からのひと言
「ドーパミン=快楽物質」という定説を覆し、飲酒後に生じるドーパミン活性化が、過剰な飲酒を抑制する「充足」のブレーキとして機能することを世界で初めて解明しました。さらに、食品である希少糖D-alluloseがこの脳内回路を強力に活性化し、依存症行動を改善することを実証しました。本研究は、脳科学の常識を塗り替えるとともに、副作用のない「食による治療」への道を拓く画期的な成果です。

抄訳

アルコール摂取により肝臓から分泌されるホルモン「FGF21」は、脳内の視床下部室傍核(PVH)のオキシトシン(OXT)神経に作用し、腹側被蓋野(VTA)へのOXT放出を促す。このOXTがVTAのドーパミン(DA)神経を持続的に活性化し、飲酒直後の快楽ではなく数時間後の「満たされた」という充足シグナルを生み、次の飲酒までの間隔を延ばすことで過剰摂取を防ぐ負のフィードバック機構として働く。アルコール依存症モデルマウスでは、このFGF21-PVHOXT-VTADA軸の反応性が低下し、飲酒抑制が十分に機能しないことが示された。一方、FGF21分泌を強力に誘導する希少糖D-alluloseを摂取させると、低下した回路が再活性化され、飲酒欲求や依存行動が顕著に抑制された。この効果は投与終了後も持続することから、D-alluloseがアルコール依存症の新たな予防・治療の選択肢となることが期待される。

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2026/01/21

細菌によるグリコサミノグリカンの代謝に関わる異性化酵素/還元酵素の遺伝子クラスターの分子進化と多様性

論文タイトル
Molecular evolution and diversity of isomerase–reductase clusters involved in the bacterial metabolism of glycosaminoglycans
論文タイトル(訳)
細菌によるグリコサミノグリカンの代謝に関わる異性化酵素/還元酵素の遺伝子クラスターの分子進化と多様性
DOI
10.1128/msphere.00817-25
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Ahead of Print
著者名(敬称略)
西村 優 橋本 渉 他
所属
京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻生物機能変換学分野
著者からのひと言
同一の活性を示すが配列同一性の低い二種類の酵素(KduI・DhuIとKduD・DhuD)の各アイソザイム遺伝子が細菌ゲノム上に並んで存在する遺伝子クラスターについて、配列同一性が低いにもかかわらず、なぜゲノム上にそれぞれ並ぶことができたのかに興味をもちました。さらに、kdudhuが混在したハイブリッド型の遺伝子クラスターの発見を契機に、網羅的な細菌ゲノムを解析し、これらのアイソザイム遺伝子クラスターの細菌における分布を調べることにより、その分子進化と多様性に関する新たな知見を得ることができました。

抄訳

グリコサミノグリカン(GAG)はウロン酸とアミノ糖からなる多糖であり、腸管などヒトの各組織に分布する。GAGを資化することにより定着・常在する細菌がいる。GAGの分解により生じる不飽和ウロン酸は遺伝子クラスターを構成する異性化酵素(KduIまたはDhuI)と還元酵素(KduDまたはDhuD)の逐次反応により代謝されるが、Kdu・Dhuの配列同一性はいずれの酵素間でも低い。本研究では、3,000種以上の細菌ゲノムを対象として、それらの分子系統を解析し、クラスターの多様性に関する以下の知見を得た。クラスター保有種の系統樹上での分布に大きな偏りは見られず、特にkduI-kduDクラスター保有種は広く分布する。一方、Bacteroidota門はkdudhuが混在したkduI-dhuDクラスターを有し、Bacillota門はdhuD-dhuIクラスターをもつ。ヒト腸内細菌叢ではkduI-dhuDおよびdhuD-dhuIクラスターの出現頻度が高いことから、これらのクラスターが腸内での生存に有利に働き、進化的に保存されていることが示唆される。

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2026/01/21

脳オルガノイドを用いたミトコンドリア病MELAS病態モデルの構築

論文タイトル
Modeling Mitochondrial Disease Using Brain Organoids: A Focus on Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like Episodes
論文タイトル(訳)
脳オルガノイドを用いたミトコンドリア病MELAS病態モデルの構築
DOI
10.3791/69303-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (224), e69303
著者名(敬称略)
川野 史帆里 藤岡 正人 他
所属
北里大学医学部 分子遺伝学
著者からのひと言
本研究では、患者由来iPS細胞から作製した脳オルガノイドを用い、ミトコンドリア病MELASの病態を再現・解析する手法を確立しました。脳内で進行する神経機能障害を三次元的、二次元的に捉えることで、従来モデルでは困難であった病態理解を可能にしています。本成果は、MELASの病態解明を加速させ、次世代の創薬プラットフォームとして大きく貢献することが期待されます。

抄訳

MELASは、ミトコンドリアDNA変異(特にm.3243A>G)によって引き起こされる代表的なミトコンドリア病である。本研究ではMELASの病態生理を解明するため、患者由来iPS細胞から脳オルガノイドを作製した。患者脳オルガノイドは、m.3243A>G変異のヘテロプラスミー率に依存して、大きさや形態、神経誘導効率に明確な差異を示した。さらに、オルガノイドから解離したニューロンをハイスループットな薬剤スクリーニングに適した二次元培養系へと展開したところ、神経ネットワーク形成においてもヘテロプラスミー依存的な顕著な違いが認められた。 これらの結果は、患者由来iPS細胞を用いたオルガノイドモデルが、MELASの発症機構の解明および創薬研究に有用なプラットフォームであることを示している。

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2026/01/19

ドロップレット培養法により水生植物ヨシの根圏から分離されたDongia属細菌のドラフトゲノム配列

論文タイトル
Draft genome sequence of Dongia sp. strain agr-C8, isolated from the rhizosphere of Phragmites australis using a droplet-based cultivation method
論文タイトル(訳)
ドロップレット培養法により水生植物ヨシの根圏から分離されたDongia属細菌のドラフトゲノム配列
DOI
10.1128/mra.01011-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
岩下 智貴 玉木 秀幸 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオものづくり研究センター 生物資源情報基盤研究チーム

抄訳

本報告は、水生植物ヨシ(Phragmites australis)の根圏から、微小液滴であるwater-in-oil dropletを用いたドロップレット培養法により分離された Dongia 属細菌 agr-C8 株のドラフトゲノム配列を提示する。霞ヶ浦に生息するヨシの根圏試料からドロップレット培養法により単離された菌株について、DNBSEQ-T7 (MGI Tech)を用いて全ゲノムシーケンスを行い、SPAdesによりアセンブルを実施した。その結果、ゲノムサイズは約559万bp、G+C含量は66.0%と同定され、3個のrRNA遺伝子と53個のtRNA遺伝子を保有することが予測された。また、本菌株の16S rRNA遺伝子配列は、最近縁種である Dongia mobilis との相同性が95.63%と低いことから、新規系統である可能性が示唆された。さらに、本菌株は硫黄代謝に関連する複数の遺伝子を保有しており、硫黄含有汚染物質等の分解への関与が期待される。

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2026/01/15

Atrial cardiomyopathyの関与が考えられた脳主観動脈閉塞の症例報告

論文タイトル
Atrial cardiomyopathy as a potential embolic source in large vessel occlusion
論文タイトル(訳)
Atrial cardiomyopathyの関与が考えられた脳主観動脈閉塞の症例報告
DOI
10.1136/bcr-2025-269207
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 19, Issue 1
著者名(敬称略)
森山 拓也 岡﨑 周平 他
所属
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 脳神経内科
著者からのひと言
心房心筋症は概念として注目される一方で、診断基準や定義はまだ発展途上です。心房細動が確認できなくても、背景に“隠れた心房心筋症”が潜んでおり、脳塞栓症の原因となることがあります。脳梗塞における塞栓源検索では、心房細動の有無のみにこだわらず、心房心筋症の存在も念頭に置いて評価することが重要だと思います。ただし、心房心筋症に対する適切な抗血栓療法はまだ確立しておらず、今後の臨床研究の進展が待たれます。

抄訳

原因不明の塞栓性脳梗塞では、心房細動(AF)が確認できなくても、心房の線維化や機能障害を背景とする心房心筋症(atrial cardiomyopathy)が血栓形成・塞栓の原因となることがある。本症例は高齢男性の主幹動脈閉塞で、機械的血栓回収療法により再開通を得たが、植込み型心電図計では発症前の3年間にAFを認めず、脳梗塞後の入院中に一度だけ発作性AFを記録したのみであった。生前検査では明確な塞栓源を同定できなかったが、頻回な上室性期外収縮、PTFV1高値、BNPの軽度上昇など心房負荷を示す所見がみられ、さらに回収血栓で得られた血栓病理所見も心原性を示唆していた。剖検では左房の広範な線維化と軽微なアミロイド沈着を認め、心房心筋症の存在が病理学的に裏付けられた。AFが明確でない症例でも心房心筋症によって塞栓症を生じることを、臨床経過と病理所見の両面から支持する症例であった。

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2026/01/14

乳癌治療後の難治性心室頻拍に対するICD適応判断:未診断の髄膜癌腫症が示した課題

論文タイトル
Decision-making challenges for implantable cardioverter-defibrillator therapy in breast cancer with ventricular tachycardia and undiagnosed leptomeningeal carcinomatosis
論文タイトル(訳)
乳癌治療後の難治性心室頻拍に対するICD適応判断:未診断の髄膜癌腫症が示した課題
DOI
10.1136/bcr-2025-269679
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 19, Issue 1
著者名(敬称略)
渡邉悠斗 青山里恵
所属
船橋市立医療センター心臓血管センター循環器内科
著者からのひと言
がん患者における致死性不整脈へのICD適応は、腫瘍学的予後評価と密接に関連します。本症例は、化学療法後に反復する心室頻拍に対して治療選択を迫られる一方、画像所見に乏しい髄膜癌腫症が急速に顕在化し、方針決定が短期間で変容した経過を提示します。多職種連携と予後推定の重要性を再考する契機となる報告です。

抄訳

アントラサイクリン(エピルビシン+シクロホスファミド、累積600 mg/m²)による術前化学療法後、難治性心室頻拍(VT)を発症した50歳代前半のHER2陽性乳癌患者を報告した。失神発作で交通事故・外傷性くも膜下出血を契機にVTが判明し、アミオダロン等でも右室流出路起源VTを反復した。心エコーでは当初LVEF 55%と保たれていたため、原病は制御され予後1年以上と判断し多職種で協議の上ICD植込みを実施したが、直後から持続性洞性頻脈とLVEF 30%への低下を認めた。さらに神経症状が急速に進行し、画像所見に乏しいまま髄液細胞診で髄膜癌腫症と診断、数日で死亡した。剖検では原発巣は治療反応を示す一方、髄膜へのびまん浸潤を認め、心筋は肥大のみで明らかな壊死・線維化を欠いた。本症例は、アントラサイクリン投与中・後の継続的心臓モニタリング、進行癌におけるICD適応判断、神経・自律神経症状出現時の髄膜癌腫症の早期評価の重要性を示す。

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2026/01/14

γセクレターゼによるアミロイドβ産生に影響を与える遺伝子・変異・化合物を探索するための出芽酵母アルツハイマー病モデル

論文タイトル
Saccharomyces cerevisiae Models of Alzheimer’s Disease to Screen Genes, Mutations, and Chemicals Affecting Amyloid Beta Production by γ-Secretase
論文タイトル(訳)
γセクレターゼによるアミロイドβ産生に影響を与える遺伝子・変異・化合物を探索するための出芽酵母アルツハイマー病モデル
DOI
10.3791/67733-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (220), e67733
著者名(敬称略)
二井 勇人 小川 智久 他
所属
東北大学大学院農学研究科・農学部 酵素化学分野
著者からのひと言
アルツハイマー病研究において中心的な役割を担うγセクレターゼは、その反応が膜内で起こるため、解析が極めて困難な酵素です。本論文では、出芽酵母という単純かつ再現性の高いモデル系を用いて、γセクレターゼ活性とAβ産生を多角的に評価する手法を紹介しています。遺伝子変異解析から創薬スクリーニングまで応用可能な本手法が、基礎研究と治療法開発の架け橋となることを期待しています。

抄訳

γセクレターゼは、触媒サブユニットであるプレセニリンと、ニカストリン、Aph-1、Pen2からなる膜内切断プロテアーゼ複合体であり、アミロイド前駆体タンパク質(APP)やNotchなどのⅠ型膜貫通タンパク質を切断する。APPの切断によって生じるアミロイドβ(Aβ)は、アルツハイマー病患者で蓄積することが知られているが、脂質二重膜内で起こる特異なプロテオリシスの反応機構には未解明な点が多い。本研究では、APPまたはNotch断片をGal4と融合させた人工基質を用いる出芽酵母レポーター系を構築し、γセクレターゼ活性を酵母生育やβ-ガラクトシダーゼ活性で評価した。さらに、酵母ミクロソームを用いたin vitro系により、産生されるAβ分子種の解析を可能にした。本手法は、γセクレターゼ阻害剤(GSI)やモジュレーター(GSM)をはじめとした化合物、ならびに家族性アルツハイマー病関連変異の解析に有用なプラットフォームを提供する。本論文では、動画とともに、これらの遺伝学的・生化学的手法と重要なプロトコルを、詳述する。

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2026/01/13

周波数領域サーモリフレクタンス法による熱物性測定

論文タイトル
The Frequency Domain Thermoreflectance Technique for Thermal Property Measurements
論文タイトル(訳)
周波数領域サーモリフレクタンス法による熱物性測定
DOI
10.3791/68908-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (226), e68908
著者名(敬称略)
Alesanmi R. Odufisan(Northwestern University)、 塩見 淳一郎(東京大学) 他
所属
東京大学 工学系研究科 総合研究機構/機械工学専攻 熱エネルギー工学研究室/塩見・李・浅野研究室
著者からのひと言
FDTR法は,レーザー光を用いて材料に触れることなく,非常に小さな領域で熱の伝わり方を調べることができる計測手法です.サーモリフレクタンス法は近年,広く用いられるようになっていますが,本論文ではFDTR法を実際に運用するための基本的な測定手順や注意点を整理し,材料の境界部分において熱の流れがどのように変化するかを具体例とともに紹介しています.FDTR装置の新規導入や測定条件の検討を行う際の参考資料としてご活用いただければ幸いです.

抄訳

周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法は,材料の熱物性を非破壊かつマイクロスケールの空間分解能で評価できる光学的計測手法である.本手法では,周波数変調したポンプレーザーによって試料表面に周期的な温度変化を与え,プローブレーザーを用いてその局所的な熱応答を検出する.得られた信号を熱輸送モデルに基づいて解析することで,試料の熱伝導率などの熱物性を評価できる.本論文では,FDTR法の実装方法や局所熱伝導率測定の具体的な手順を体系的に解説するとともに,レーザー条件が測定結果に与える影響や誤差要因,不確かさの評価について詳述する.さらに,具体例として単結晶シリコン基板間の界面近傍を対象とした熱伝導率イメージングを行い,界面が局所的な熱輸送特性に影響を与える様子を可視化する.FDTR法は,熱電材料などにおける界面熱抵抗の理解や,材料・デバイス設計の高度化に貢献するものである.

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2026/01/07

カルバペネム耐性非発酵グラム陰性桿菌による人工呼吸器関連肺炎マウスモデルにおけるセフィデロコルの有効性と薬物動態学的評価

論文タイトル
Efficacy of cefiderocol in murine models of ventilator-associated pneumonia caused by carbapenem-resistant non-fermenting Gram-negative bacilli, with pharmacokinetic evaluation
論文タイトル(訳)
カルバペネム耐性非発酵グラム陰性桿菌による人工呼吸器関連肺炎マウスモデルにおけるセフィデロコルの有効性と薬物動態学的評価
DOI
10.1128/spectrum.02568-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
太田 賢治 賀来 敬仁 他
所属
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病態解析・診断学
著者からのひと言
人工呼吸器関連肺炎(VAP)は重症度および死亡率が高く、迅速かつ適切な抗菌薬治療が重要な病態です。しかし、カルバペネム耐性緑膿菌やアシネトバクター属菌が原因菌となる場合、有効な治療選択肢は極めて限られます。本研究では、カルバペネム耐性菌にも有効なセフィデロコルの有効性を薬物動態の観点を含めて検証し、原因菌により必要な投与量が異なる可能性を示しました。動物実験ではありますが、本研究成果が治療困難な薬剤耐性菌感染症に対する治療戦略構築において活用されることを期待しています。

抄訳

本研究では、カルバペネム耐性Pseudomonas aeruginosa(CR-Pa)および Acinetobacter baumannii(CR-Ab)を用いて人工呼吸器関連肺炎(VAP)マウスモデルを構築し、新規抗菌薬であるセフィデロコルの有効性を評価した。セフィデロコルの投与設計は薬物動態解析に基づき、血中遊離薬物濃度が各菌の最小発育阻止濃度(MIC)を上回る時間(fT>MIC)を指標とした。fT>MIC 70%で投与量を設定した場合、CR-Ab感染VAPモデルでは生存率の改善および肺内菌量の有意な減少が認められた。一方、CR-Pa感染VAPモデルでは同条件で十分な殺菌効果は得られず、fT>MIC 90%以上で明確な菌量減少が確認された。本研究は、原因菌によって必要なセフィデロコル投与量が異なる可能性を示し、PK/PDに基づく合理的な治療戦略構築に重要な知見を提供する。

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2026/01/06

2023~2025年における日本・東京での二系統薬剤耐性Mycoplasma genitaliumの拡大

論文タイトル
Spread of dual-class drug-resistant Mycoplasma genitalium in Tokyo, Japan, 2023–2025
論文タイトル(訳)
2023~2025年における日本・東京での二系統薬剤耐性Mycoplasma genitaliumの拡大
DOI
10.1128/aac.01367-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
大町竜羽 今井一男 他
所属
埼玉医科大学病院 臨床検査医学 (中央検査部)
著者からのひと言
Mycoplasma genitaliumは性感染症の1種で、近年は不妊や早産との関連が報告されており、公衆衛生上の重要性が高まっています。薬剤耐性、とりわけキノロン系薬剤に対する高度耐性を有するクローンが拡大した場合、治療は極めて困難となります。本研究の結果は、薬剤耐性率の動向把握に加え、遺伝子型解析を含めた継続的な監視体制の構築の必要性、ならびに性感染症領域におけるさらなる抗菌薬適正使用推進が早急に求められていることを示しました。

抄訳

マクロライド耐性関連変異(MRMs)およびフルオロキノロン耐性関連変異(QRMs)を有する Mycoplasma genitalium(MG)の増加は世界的な問題であるが、日本における耐性状況や遺伝的多様性に関する情報は限られている。本研究では、2023~2025年に東京で採取されたMG陽性患者162例188検体を対象に、耐性変異解析、mgpBおよびMG309による分子疫学解析、ならびに治療成績との関連を検討した。その結果、MRMsは94.4%、QRMsであるparC変異は93.7%、gyrA変異は22.5%に認められ、MRMsとQRMsを併せ持つ二系統薬剤耐性株は89.4%を占めた。parCおよびgyrA変異を有する高度キノロン耐性株に対するキノロン治療失敗率は52.4%と高率であった。さらに、mgpBアリル79、140、161、184を有する耐性クローンの出現が確認された。以上より、東京における二系統薬剤耐性株の拡大が示され、継続的な分子監視と抗菌薬適正使用の重要性が示唆された。

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2026/01/06

免疫不全状態の日本人患者から分離された新規 Mycobacterium 属(新種)の完全ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of a new Mycobacterium sp. nov. from a compromised Japanese individual
論文タイトル(訳)
免疫不全状態の日本人患者から分離された新規 Mycobacterium 属(新種)の完全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00421-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
浅井信博 三鴨廣繁 他
所属
愛知医科大学医学部 臨床感染症学講座

抄訳

本報告は、血液悪性腫瘍を有する免疫不全の日本人患者から分離された新規Mycobacterium(strain AMU20-3851;“Mycobacterium nagakutense”として言及)の完全ゲノム配列を提示するアナウンスメントである。菌は血液培養(約90時間)で検出され、Ogawa培地で培養後、フェノール/クロロホルム法でDNA抽出し、PacBio Sequel II(HiFi/CCS)でシーケンスを実施した。得られたHiFiリードをhifiasmでアセンブルし、dnaA開始に調整、NCBI PGAPで注釈付けした。染色体は6,056,820 bp、G+C 68%で、5,822遺伝子を予測し、平均311×の深度で決定された。ANI解析では近縁種(M. diernhoferi 90.5%など)と種境界以下であり、新種の比較ゲノム・系統解析の基盤データとなる。データはGenBank(GCF_043974665.1)等に登録済みである。

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2026/01/05

放射線治療晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に発生したchronic expanding hematomaの一例

論文タイトル
Chronic expanding haematoma caused by rib fractures after radiation therapy
論文タイトル(訳)
放射線治療晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に発生したchronic expanding hematomaの一例
DOI
10.1136/bcr-2025-268331
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 12
著者名(敬称略)
永田宗大 他
所属
東京大学医学部附属病院 心臓外科・呼吸器外科
著者からのひと言
chronic expanding hematomaは完全切除が望ましいとされるが、手術侵襲は大きく周囲臓器の損傷などの合併症の懸念もある。放射線由来のCEHの手術方法の選択には、原疾患に対して放射線治療を選択した経緯や耐術能も念頭に置く必要がある。本症例では神経症状の改善を目的としたアプローチにより良好な経過を得ることができた。今後の治療選択の一助となることを期待する。

抄訳

chronic expanding hematoma(CEH)は緩徐に増大する血腫と定義され、多くは慢性感染症や外科手術を契機に発生する。今回、放射線治療後の晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に、左胸郭出口部に発生したCEHの手術症例を経験した。血腫による腕神経叢の圧排に伴う手指尺側の痺れ症状を呈しており、画像精査及び生検を行いCEHと診断された。三次元CTでのシミュレーションをもとに、左鎖骨上窩に小切開をおき、鏡視下併用で血腫を確認し被膜を含め可及的に除去しえた。術直後より神経症状は改善し現在、術後1年経過も血腫の再発は認めていない。

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