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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/10/03

パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか

論文タイトル
How palytoxin transforms the Na+,K+ pump into a cation channel
論文タイトル(訳)
パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか
DOI
10.1073/pnas.2506450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.38
著者名(敬称略)
金井 隆太 豊島 近 他
所属
東京大学 定量生命科学研究所 膜蛋白質解析研究分野
著者からのひと言
パリトキシンが結合しただけではチャネル化は起こらない。反応サイクルをある程度回れる柔軟性があるから可能なのである。Na+,K+ポンプは本質的にNa+ポンプだが、それを反映してイオン通路の構成も細胞内側、外側で大きく異なっている。本論文は「チャネルとポンプの本質的違い」や「ポンプ蛋白質は何を見て次のステップに進む(構造変化を起こす)のか」にも答える深い論文になった。海産毒物や蛋白質はあまりにも良く出来ていることに圧倒されるのは著者だけではあるまい。

抄訳

パリトキシンは生物界で最も強力な非ペプチド性毒物の一つであり、非常に複雑な構造を持つ。その標的はNa+,K+ポンプ(Na+,K+-ATPase、Na+,K+依存性ATP水解酵素)である。Na+,K+ポンプは細胞内から細胞外へATP1分子当たり3個のNa+を厳密に選択して運搬し逆方向には2個のK+(Na+でも可)を濃度勾配に逆らって輸送する膜蛋白質である。パリトキシンはNa,K+ポンプを非選択的陽イオンチャネルに変えてしまう。このことは「ポンプはチャネルにゲートがもう一つ付加されたものである」ことを示唆するようにも見える。しかし、クライオ電子顕微鏡を駆使して得られた構造は、本来の役割の違い(ポンプは濃度勾配を確立する、チャネルは濃度勾配に従って物質を通す)を反映して、本質的に違うものであることを示していた。また、パリトキシンは役割を異にする3つの部分から成り、その柔軟性が膜貫通へリックス間の連携の破壊によるポンプのチャネル化に必須であることも判明した。

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2025/09/24

世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術

論文タイトル
World’s First Real-Time Artificial Intelligence–Assisted Mechanical Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke
論文タイトル(訳)
世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術
DOI
10.3174/ajnr.A8704
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1647-1651
著者名(敬称略)
廣瀬 瑛介 松田 芳和 他
所属
昭和医科大学病院脳神経外科
著者からのひと言
本研究は、急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術において、世界で初めてリアルタイムAI支援を臨床応用した報告です。
時間との戦いである治療中に、術者の「目線の変わり」となるアシスト機能を提供し、安全性と治療効率の向上に寄与する可能性を示しました。

抄訳

急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術(MT)において、リアルタイム人工知能(AI)支援を用いた初の臨床経験を報告した。局所麻酔下で16例連続にAIソフト(Neuro-Vascular Assist, iMed Technologies)を使用し、ガイディングカテーテルが透視画像から外れた際にリアルタイム通知を行った。通知は全例で正常に作動し、1例あたり平均8.1回の通知が発生。精度97%、再現率99%と高い正確性を示し、126件の真陽性通知のうち25件(20%)では術者が10秒以内に再位置調整を実施した。手技遅延や有害事象は認めず、安全性も確認された。本研究はMTにおけるAIリアルタイム支援の有用性を示す初報の一つであり、今後は大規模検証により臨床的意義が期待される。

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2025/09/24

Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング

論文タイトル
Transcriptomic profiling of Pseudomonas migulae revealed gene regulatory properties during biodegradation of aromatic hydrocarbons under cold stress
論文タイトル(訳)
Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング
DOI
10.1099/mgen.0.001470
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Vol. 11, Issue 9 (2025)
著者名(敬称略)
柳田 將貴 守 次朗 他
所属
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 微生物生態学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas属細菌は様々な環境から見つかり、その優れた低温ストレス適応能力についても頻繁に報告されていますが、意外にも、低温に適応する詳細な機構については過去に報告がありませんでした。本学修士課程の学生が奮闘し、その一端を解き明かしました。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。

抄訳

Pseudomonas属細菌においては、芳香族の環境汚染物質の分解能力や、低温を含む多様な環境ストレスへの優れた適応能力を有するものがしばしば報告されている。本研究では、環境汚染物質のp-ヒドロキシ安息香酸(PHBA)を増殖の栄養源として利用でき、なおかつ低温条件下(10˚C)で活発に生育可能な新規の細菌株P. migulae HY-2株をモデルとして用いて、低温ストレス条件下での芳香族炭化水素の分解過程における遺伝子調節機構について調査を行った。HY-2株のトランスクリプトーム解析の結果、低温条件下では複数種のシャペロンの発現上昇によりタンパク質の恒常性が維持され、さらに外来ポリアミンの蓄積に伴うバイオフィルム形成が誘導される一方、PHBAの分解に関わる遺伝子群の発現はほとんど影響を受けないことがわかった。本成果は、細菌を用いた汚染環境の修復技術におけるPseudomonas属細菌の有用性について、新たな知見を与えるものである。

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2025/09/24

悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播

論文タイトル
Corynebacterium striatum infections in oncologic patients: clinical spectrum, resistance profiles, and evidence of nosocomial transmission
論文タイトル(訳)
悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播
DOI
10.1128/jcm.00829-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
湯川 堅也, 原田 壮平, 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
これまでのCorynebacterium striatum感染症研究は、血流感染症や呼吸器感染症を対象としたものが大半であったが、本研究ではそれ以外の感染症も解析の対象としました。その結果、悪性腫瘍患者において本菌が多様な感染症に関与し、しばしば長期の抗菌薬投与を要することが明らかとなりました。Corynebacterium属菌は従来、病原性の低い細菌と考えられてきましたが、多剤耐性を有することや院内伝播例が確認された点も考慮すると、C. striatumは院内感染症の重要な起因菌として認識すべきであるかもしれません。

抄訳

単施設で10年間に診断された悪性腫瘍患者患者のCorynebacterium striatum感染症51例について、臨床情報の収集および起因菌株の薬剤感受性試験と全ゲノム解析を実施した。症例のほとんどは固形腫瘍患者であり、術後腹腔内感染症、術後頭頚部軟部組織感染症、骨関節感染症が多かった。抗菌薬投与期間の中央値は25日で、経口ステップダウン治療を要する例も多かった。起因菌株は多剤耐性傾向があったが、テトラサイクリン系(92.5%)やST合剤(79.2%)の感受性は良好であり、テトラサイクリン系耐性はtet(W)遺伝子保有と関連していた。また、ダプトマイシン耐性が2例(3.9%)ありいずれもpsgA2遺伝子変異を伴っていた。コアゲノムSNP解析と入院歴調査により、7例は院内伝播の関与が示唆された。本研究は、悪性腫瘍患者においてC. striatumが多様な感染症の起因となり得る多剤耐性菌であり、抗菌薬適正使用の観点から注視すべき病原体であることを示している。

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2025/09/19

ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く

論文タイトル
Centrosomes regulate pronuclear apposition ensuring parental genome unification in cattle
論文タイトル(訳)
ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く
DOI
10.1530/REP-25-0067
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0067
著者名(敬称略)
高田 裕貴 橋本 周 森本 義晴
所属
大阪公立大学大学院 医学研究科リプロダクティブサイエンス研究所
著者からのひと言
正常な受精卵の約25%で異常な染色体分配が発生します。本研究では異常な染色体分配が発生する機構の一つを明らかにしました。
本研究で示されたウシ受精卵の前核移動のメカニズムとそれに異常が生じる原因に関する知見は、生殖医療ならびに体外受精による動物生産の発展に大きく貢献します。

抄訳

新しい生命は、受精卵の中で両親のゲノムを包んだ二つの前核(雌性前核と雄性前核)が互いに接近し、両親のゲノムを一つの紡錘体に統合することで始まる。しかし、ヒトやウシなどの哺乳類では、一部の受精卵が雌雄前核を接近させることができず、両親ゲノムを統合することに失敗して発生が停止する。本研究は、ウシ受精卵における雌雄前核の移動メカニズムを明らかにし、前核接近に異常が生じる原因を解明した。
前核移動には、精子由来の細胞小器官「中心体」を中心として形成される微小管が必須であった。雌雄前核の核膜に集積したダイニンモータータンパク質が微小管上を中心体の方向に移動する力で、両前核が接近することが示された。蛍光標識した中心体と前核のライブイメージング解析により、複製された二つの中心体のうち、少なくとも一つの中心体が雌雄前核の間に位置することが、二つの前核の近接と両親ゲノムの統合に重要であることが明らかになった。

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2025/09/19

腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す

論文タイトル
Intestinal luminal polyamines support the gut colonization of enteric bacterial pathogens by modulating flagellar motility and nitrate respiration
論文タイトル(訳)
腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す
DOI
10.1128/mbio.01786-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16 Issue 9 e01786-25
著者名(敬称略)
三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部・大学院薬学研究科
著者からのひと言
腸内細菌の代謝産物は、腸の健康に大きく影響を及ぼし、また、病原体の感染にも関わります。よく知られた例は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸であり、私たちの健康に良い影響を及ぼし、感染を防ぐことが知られています。一方で、本研究では、腸内細菌の代謝産物である腸内のポリアミンが、腸管病原菌の感染を促してしまうリスクファクターである可能性を示しました。腸内ポリアミンレベルの制御は腸管病原菌による消化管感染に対する新たな治療ターゲットになるかもしれません。

抄訳

サルモネラ属ネズミチフス菌の消化管感染では、腸管の炎症が誘導され、その炎症反応を利用することによって、本菌は腸管内に定着する。プトレシンやスペルミジンに代表されるポリアミンは、腸恒常性に関わる分子の一つであり、腸内のポリアミンの多くは腸内細菌に由来する。本研究では、ネズミチフス菌の消化管感染における腸内ポリアミンの役割を明らかにした。腸管内に感染したネズミチフス菌は、腸内のポリアミンを取り込み、その取り込まれたポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸に関わる遺伝子群の発現活性に必要であった。すなわち、合成および取り込み系の機能が減弱したポリアミンの恒常性を失ったネズチフス菌変異株は著しく、マウス腸管内の定着活性が低下した。一方で、スペルミジンを含む水を自由に飲水したマウスでは、本変異株の定着活性は回復した。さらに、同様のスペルミジン供与を施したマウスでは、ネズミチフス菌野生株や共生大腸菌の腸管内定着レベルが上昇した。以上、本研究より、腸内のポリアミンは腸管病原菌の腸管内定着を活性化することが明らかになった。

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2025/09/16

頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値

論文タイトル
Distinguishing Intracranial Solitary Fibrous Tumors from Meningiomas: The Diagnostic Value of T1-Weighted MRI Signal Intensity and ADC Values
論文タイトル(訳)
頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値
DOI
10.3174/ajnr.A8703
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1652-1659
著者名(敬称略)
張 申逸 黒川 遼 他
所属
東京大学医学部附属病院 放射線科

抄訳

本研究は、頭蓋内孤立性線維性腫瘍(SFT)と髄膜腫の鑑別診断におけるMRI画像所見の有用性を評価した後ろ向き研究である。病理学的に確認されたSFT患者13例と髄膜腫患者27例を対象とし、造影前T1強調画像での信号強度、ADC値、その他の画像所見を比較検討した。
主要な結果として、大脳皮質と比較したT1強調画像での高信号はSFTで有意に高頻度であった(76.9% vs 18.5%、P=0.0010)。また、標準化T1強調画像値とADC値は、ともにSFTで髄膜腫より有意に高値を示した。SFTにおいてのみ、T1強調画像値とADC値の間に有意な逆相関が認められた。二項ロジスティック回帰分析により、これらの画像パラメータの組み合わせは中等度の診断精度(交差検証スコア0.83)を示した。
本研究により、造影前T1強調画像での高信号が頭蓋内SFTと髄膜腫の鑑別における有用な特徴であることが明らかになり、正規化T1強調画像値とADC値の組み合わせが術前診断に役立つ可能性が示された。

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2025/09/16

超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出

論文タイトル
Real-Time Metabolic Detection in Living Cells Using Hyperpolarized 13C NMR
論文タイトル(訳)
超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出
DOI
10.3791/68539-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68539
著者名(敬称略)
浦 朋人 高草木 洋一 他
所属
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 量子生命スピングループ 量子超偏極 MRI 研究チーム
著者からのひと言
超偏極とは、NMR/MRI信号を飛躍的に高感度化する技術で、生体内における代謝物濃度や環境の変化の計測に応用されています。今回の論文では、生細胞を安定に培養しながらNMRを計測できるシステムを構築し、複数回にわたる酵素反応測定を実現しました。この手法によって、細胞の動的な代謝変化や代謝適応機構に迫ることが期待され、今後は薬剤応答や疾患研究にも展開できると考えられます。

抄訳

本研究では、超偏極13C NMRを用いて生細胞内の代謝変化をリアルタイムに検出する方法を確立した。従来のNMR測定は感度の制約から生細胞での応用が困難であったが、超偏極化技術を組み合わせることで、代謝基質や生成物の濃度変化を非破壊的に時系列で追跡できるようになった。本論文では、超偏極13C標識基質を細胞に導入し、その代謝産物をNMRで測定するプロトコールを詳細に解説している。本手法は、がんや代謝疾患研究に加え、薬剤応答やストレス応答といった動的な代謝変化の評価にも応用が期待される。生細胞を対象とした本測定系は、基礎研究から臨床応用に至るまで幅広い発展に寄与する新たな代謝解析手法を提供するものである。

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2025/09/16

恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性

論文タイトル
Potential of a constitutive-UPR and histone deacetylase A-deficient Saccharomyces cerevisiae strain for biomolecule production
論文タイトル(訳)
恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性
DOI
10.1128/aem.00644-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
木俣 有紀 木俣 行雄 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

抄訳

酵母細胞を用いた異種性分泌蛋白質や脂質類の生産は、コスト面などの優位性から、高い将来性が見込まれるバイオテクノロジーである。小胞体は分泌蛋白質や脂質の生合成を司るオルガネラであり、その機能不全は小胞体ストレスと総称され、折り畳み不全蛋白質の小胞体への蓄積を伴う。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む酵母類の多くでは、小胞体ストレスに応じて転写因子Hac1の発現が誘導され、Hac1依存的なトランスクリプトーム変動によって小胞体の機能が活発化し、小胞体ストレスは解消される。これが酵母類におけるUnfolded Protein Response (UPR)である。Hac1を非制御的に発現するよう遺伝子改変を加えたS. cerevisiae株(Hac1強制発現株)は、常にUPRが惹起されて小胞体の機能が高まり、異種性分泌蛋白質や脂質類の生産能が向上するが、著しく増殖能が低下する。この論文では、ヒストンを脱アセチル化してトランスクリプトームを変動するHistone deacetylase A複合体の欠損により、Hac1強制発現株は高い小胞体機能を保ったまま、増殖能が回復することを示す。

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2025/09/08

ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性

論文タイトル
Potential for prolonged replication of common acute respiratory viruses in air-liquid interface cultures of primary human airway cells
論文タイトル(訳)
ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性
DOI
10.1128/msphere.00422-25
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Ahead of Print
著者名(敬称略)
川瀬 みゆき 白戸 憲也 他
所属
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所呼吸器系ウイルス研究部第2室
著者からのひと言
プライマリ呼吸器上皮細胞のALI培養系を含むオルガノイドは、呼吸器ウイルス研究における有用なツールです。本研究では、免疫細胞による排除がない環境では、呼吸器ウイルスが平均約100日間、感染性を保ちながら複製可能であることを示しました。従来の株化培養細胞では捉えられなかった呼吸器ウイルスの真の姿を明らかにできる可能性があり、オルガノイド培養系を用いた研究の発展が期待されます。

抄訳

これまでの先行研究において、小児における呼吸器ウイルスの長期検出が報告されているが、ウイルスのヒト組織内での生存期間は不明であった。本研究ではヒト初代呼吸器上皮細胞の気液界面(ALI)培養系で主要呼吸器ウイルスの複製能を評価した。その結果、多くのウイルスは平均約100日、長いものでは150~200日間の持続複製が可能であった。一方、インフルエンザウイルスやDNAウイルスは細胞死により短期間(18~66日)で複製が終了した。再感染実験でも一部で複製能が維持されていることが示された。また、IFNβの一過性分泌以外はI型IFN応答はほとんど見られず、免疫寛容的環境が長期複製を許容していることが示唆された。さらに50~60日を超える複製では、ウイルスゲノムに遺伝子変異が蓄積する可能性が生じることが示され、免疫不全宿主における長期複製が新規変異株出現の温床となりうることが示された。

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2025/09/08

右室中隔にリード留置後、遠隔期に左室流出路狭窄を生じた左室中隔基部肥厚症例

論文タイトル
Left ventricular outflow tract obstruction appearing in remote period of right ventricular septal pacing in patient with left ventricular septal bulge
論文タイトル(訳)
右室中隔にリード留置後、遠隔期に左室流出路狭窄を生じた左室中隔基部肥厚症例
DOI
10.1136/bcr-2024-262639
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 8
著者名(敬称略)
伊集院 駿 他
所属
独立行政法人 国立病院機構 鹿児島医療センター
著者からのひと言
右室リード留置の際、従来は、術者が右室の形態に合わせてシェイピングしたスタイレットを用いて留置場所を選択していた。近年では、ガイディングシースを用いることで容易かつ安全に中隔にリード留置できるようになり、デバイス治療を専門としない循環器内科医にとって有り難い時代となった。半面、本症例のように中隔ペーシング後に、左室流出路狭窄が進行するケースもあり、本論文が中隔基部肥厚患者のリード留置位置を選択する上での参考になれば嬉しい。

抄訳

本症例は70歳代女性で、完全房室ブロックに対し右室高位中隔にリードを留置したデュアルチャンバーペースメーカーを植え込み後、6年目に労作時の倦怠感と呼吸困難を主訴に来院した。植込み前は左室中隔基部肥厚を認めたが、左室流出路(LVOT)狭窄や僧帽弁収縮期前方運動(SAM)はなかった。経過中に心エコーで新たにSAMと左室流出路にモザイク血流を認め、バルサルバ負荷で116mmHgの圧較差が出現した。薬物療法は無効であり、電気生理学的検査では高位中隔ペーシング時のみ圧較差が増悪することが確認された。リード抜去は困難であったため、新たに右室心尖部にリードを追加しペーシング部位を変更したところ、LVOT狭窄とSAMは消失し症状も改善、9年間の追跡でも再発を認めなかった。高位中隔ペーシングは左室中隔基部肥厚症例でLVOT閉塞を惹起しうるため、リード留置部位の慎重な選択が必要であると示唆される。

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2025/09/08

エチレン-α-オレフィン共重合体を用いて単離されたHalopseudomonas aestusnigriの完全ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of the first Halopseudomonas aestusnigri strain isolated using an ethylene-α-olefin co-oligomer
論文タイトル(訳)
エチレン-α-オレフィン共重合体を用いて単離されたHalopseudomonas aestusnigriの完全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00589-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 9
著者名(敬称略)
飯塚 怜、上村 想太郎
所属
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 光計測生命学講座
著者からのひと言
本研究では海洋細菌によるプラスチックのアップサイクルの可能性を示しました。同様のアプローチで海洋細菌の単離・ゲノム解析も行っており(doi: 10.1128/mra.00584-25, 10.1128/mra.00785-25)、多様な微生物によるプラスチック分解メカニズムの解明を進めています。将来的には、これらの微生物を活用した実用的な環境浄化技術へと発展させたいと考えています。

抄訳

海洋環境におけるプラスチック汚染は深刻な環境問題となっており、プラスチック分解能を持つ微生物の探索と応用が注目されている。本研究では、神奈川県津久井浜海岸の表層海水から、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)のモデル化合物であるエチレン-α-オレフィン共重合体を用いてHalopseudomonas aestusnigri T1L2株を単離し、完全ゲノムを決定した。
T1L2株のゲノムは約391万塩基対の環状染色体からなり、ポリオレフィンの断片化に関与する可能性のある多銅酸化酵素や、断片化ポリオレフィンの代謝に関わる酵素の遺伝子をコードしていた。また、ポリオレフィン分解産物を生分解性プラスチック(ポリヒドロキシアルカン酸)に変換する酵素遺伝子も見出された。本研究は、海洋細菌を用いたプラスチックから生分解性プラスチックへの変換という革新的な環境技術の基盤を提供するものである。

 

 

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2025/09/05

Streptomyces yogyakartensis、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisの再分類に伴うStreptomyces javensisとStreptomyces rhizosphaericusの記載変更

論文タイトル
Emended descriptions of Streptomyces javensis and Streptomyces rhizosphaericus based on reclassifications of Streptomyces yogyakartensis, Streptomyces cangkringensis, and Streptomyces indonesiensis
論文タイトル(訳)
Streptomyces yogyakartensis、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisの再分類に伴うStreptomyces javensisとStreptomyces rhizosphaericusの記載変更
DOI
10.1099/ijsem.0.006881
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Vol.75 Issue 8 (2025)
著者名(敬称略)
小牧 久幸
所属
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)
著者からのひと言
放線菌が生産する抗生物質等の二次代謝産物の種類は株に特異的であって、分類学的な種とは無関係だと信じられていました。しかし、この論文では、最新の基準に従った適切な分類によって、同種であれば株が違ってもポリケチドや非リボソームペプチドに代表される二次代謝産物の生合成遺伝子群がゲノム中に良く保存されていることを示しました。これによりPKSやNRPS遺伝子群の種類が分類や同定の指標になる可能性があります。

抄訳

Streptomyces javensis、Streptomyces yogyakartensis及びStreptomyces violaceusnigerは基準株の16S rRNA遺伝子塩基配列が一致する。これら3種の関係を調べた。全ゲノム配列を用いたDNA-DNA交雑試験でS. javensis JCM 11446TとS. yogyakartensis JCM 11448Tの相同性は89.4%だったが、これら2株に対するS. violaceusniger NBRC 13459Tの相同性は70%に満たなかった。表現性状やゲノム中のⅠ型ポリケチド合成酵素(PKS)及び非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)遺伝子群も類似したので、S. yogyakartensisをS. javensisに再分類した。また、本研究の過程でStreptomyces rhizosphaericus、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisが同種である可能性が示唆された。これらの基準株間ではDNA-DNA相同性が97%を超え、表現性状も類似し、殆どのPKS及びNRPS遺伝子群が保存されていたので、S. cangkringensisとS. indonesiensisをS. rhizosphaericusに再分類した。以上の再分類に伴いS. javensisとS. rhizosphaericusの記載を変更した。

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2025/08/29

α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製

論文タイトル
Discovery and development of an oral analgesic targeting the α2B adrenoceptor
論文タイトル(訳)
α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製
DOI
10.1073/pnas.2500006122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
(筆頭著者)豊本雅靖 (連絡著者)萩原正敏
所属
京都大学大学院医学研究科創薬医学講座
著者からのひと言
麻薬性鎮痛薬(オピオイド)の過剰使用による死者は北米では数万に達し、いまやオピオイド危機と言われる世界的な社会問題となっています。私たちが見出したADRIANAは、アドレナリン受容体α2Bに結合してノルアドレナリン分泌を促すことで鎮痛作用を発揮するため、オピオイド投与で惹起される重篤な副作用や依存性が見られません。臨床試験でも安全性が確かめられており、オピオイドに代わる鎮痛薬として、様々な痛みに苦しむ患者様を救うこと出来ればと思います。

抄訳

疼痛管理は、身体的苦痛が患者の生活の質に大きく影響することから、世界的な医療課題である。広く使用される麻薬性鎮痛薬(オピオイド)は強力な鎮痛効果を示す一方で、依存性や呼吸抑制といった副作用が問題となっており、安全で有効な代替薬の開発が強く求められている。本研究では、ノルアドレナリン(NA)がα2Aアドレナリン受容体を介して鎮痛をもたらす生理的機構に着目し、脳脊髄内でNA分泌を促進するα2Bアドレナリン受容体選択的阻害剤「ADRIANA(Adrenergic Inducer of Analgesia)」を同定した。マウスへの投与では脊髄後角でのNA増加に基づくα2A依存的鎮痛効果が確認され、霊長類を含む複数の疼痛モデルでも、モルヒネに匹敵する鎮痛効果を示しながら重篤な副作用は認められなかった。加えて、標的であるα2Bを欠損したマウスでは鎮痛効果が消失し、薬理作用の標的特異性が実証された。これらの結果から、α2B受容体は脳脊髄内でのNA分泌を誘導し、α2A依存的下行性抑制系を活性化する、新規鎮痛メカニズムの標的として有望であることが示された。現在、ADRIANAは非オピオイド鎮痛薬候補として、術後疼痛患者を対象とした第I/II相臨床試験が進行中である。

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2025/08/28

説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測

論文タイトル
Prediction of Insulin Requirements by Explainable Machine Learning for Individuals With Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測
DOI
10.1210/clinem/dgae863
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 9, September 2025, Pages e3093–e3100, https://doi.org/10.1210/clinem/dgae863
著者名(敬称略)
芳村 魁 廣田 勇士 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
著者からのひと言
機械学習を用いて1型糖尿病患者の最適インスリン量の予測を試みた研究です。実臨床において最適なインスリン量は各個人で異なり、1型糖尿病患者ではしばしば治療困難な場合がありますが、インスリン量の差異を予測するために重要な情報の探索も試みています。 研究に用いたインスリン量が最適量であったことは、CGMデータを用いて担保しており、今後の臨床応用へ向けた発展性のある研究であると考えています。

抄訳

目的

インスリン投与量の最適化は、インスリン療法における有害事象の発生頻度を減らし、糖尿病合併症を予防するうえで重要である。本研究では、日常診療で得られるデータに基づき1日総インスリン投与量(TDD)を予測する機械学習モデルを開発し、その性能を評価することを目的とした。

方法

単施設後ろ向き観察研究。神戸大学医学部附属病院において持続皮下インスリン注入療法(CSII)と連続皮下ブドウ糖濃度測定器(CGM)を併用した1型糖尿病患者を対象とした。Random Forest、SVM等の機械学習を用いたTDD予測モデルを作成、平均絶対パーセント誤差(MAPE)で性能を評価した。モデルの解釈性を高めるため、説明可能な人工知能のフレームワークを用いた。

結果

研究参加者は110名であり、最も高い性能を示したモデルはRandom Forest(MAPE 19.8%)であった。TDD予測において最も重要な項目は体重であり、次いで腹囲、炭水化物摂取量であった。

結論

本研究では、臨床情報からTDDを予測する機械学習モデルを開発した。インスリン投与量を最適化する方法の確立は、多くの糖尿病患者の治療に貢献する可能性があり、さらなる発展が望まれる。

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2025/08/28

細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造

論文タイトル
A β-cap on the FliPQR protein-export channel acts as the cap for initial flagellar rod assembly
論文タイトル(訳)
細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造
DOI
10.1073/pnas.2507221122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
筆頭著者:木下 実紀、連絡著者:南野 徹
所属
大阪大学大学院生命機能研究科日本電子YOKOGUSHI協働研究所
著者からのひと言
病原細菌のべん毛運動は病原性の発現やバイオフィルム形成に深く関与します。べん毛輸送装置は細菌に特有の分子機構であり、しかも細菌の生存には必須ではないため、その機能のみを選択的に阻害できる薬剤が開発できれば、病原細菌のべん毛運動性や感染力を効果的に抑制できる可能性があります。今後、FliPQR複合体に結合してその機能を阻害する化合物を同定することで、新興細菌感染症の制御に資する新たな治療薬の開発が大きく前進すると期待されます。

抄訳

細菌の運動器官であるべん毛は約30種類のタンパク質が段階的に組み上がることで形成される。その根本に存在する専用のタンパク質輸送装置が細胞内で合成されたべん毛の部品たんぱく質を順に細胞外へ送り出す。FliP、FliQ、FliRはこの輸送装置のチャネルを構成し、べん毛軸構造構築の基部としての役割も果たす。しかし、最初に輸送される軸構造タンパク質FliEがどのようにFliPQR複合体の先端結合部位に配置されてべん毛形成が開始されるのか未解明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いたFliPQR複合体の構造解析により、その先端にβキャップと名づけた出口ゲート構造を発見した。このβキャップは輸送開始前にこの出口ゲートを閉じた状態に保つだけでなく、FliEをべん毛形成の開始点に誘導する機能を持つことが明らかとなった。FliE6分子が次々輸送されるとβキャップは花が咲くように開き、べん毛形成が開始すると考えられる。べん毛運動は病原性にも深く関わるため、この発見は新たな抗菌剤標的探索への貢献も期待される。

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2025/08/28

RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。

論文タイトル
RyR1-mediated Ca2+-induced Ca2+ release plays a negligible role in excitation–contraction coupling of normal skeletal muscle
論文タイトル(訳)
RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。
DOI
10.1073/pnas.2500449122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
小林 琢也 山澤 徳志子 呉林 なごみ 村山 尚 他
所属
順天堂大学大学院医学研究科 細胞・分子薬理学

抄訳

骨格筋収縮に必要なカルシウムイオン(Ca2+)は細胞内貯蔵部位の筋小胞体から1型リアノジン受容体(RyR1)チャネルを介して遊離される。RyR1は、T管膜のジヒドロピリジン受容体と共役した脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR)と、Ca2+が直接結合して開くCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)の二つの開口機構を持つ。生理的な筋収縮においてはDICRが主な開口機構であるが、CICRがCa2+シグナルの増幅を起こすか否かという議論が半世紀にわたって続いてきた。われわれはRyR1のCa2+結合部位を改変してCICRだけを抑制したマウスを作出した。変異マウスは筋収縮や運動能力に影響は見られなかったが、RyR1の異常活性化が原因で起こる悪性高熱症に対して抵抗性を示した。以上の結果から、CICRは生理的な筋収縮には関与しておらず、むしろ過剰になると筋疾患の原因となることが示唆された。

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2025/08/26

初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見

論文タイトル
First isolation of a methanotrophic Mycobacterium reveals ammonia- and pH-tolerant methane oxidation
論文タイトル(訳)
初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見
DOI
10.1128/aem.00796-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
蒲原 宏実 大橋 晶良 他
所属
広島大学大学院 先進理工系科学研究科(工学系) 社会基盤環境工学プログラム 環境保全工学研究室
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオものづくり研究センター 微生物生態工学研究チーム
著者からのひと言
メタン酸化細菌は、限られた系統群に属すると認識されてきましたが、ゲノム情報からは、その多様性が広がっていることが見えてきています。今回、第三の門としてActinomycetota門のMycobacterium属細菌MM-1株を分離培養し、これまで知られていなかったメタン酸化細菌の姿を明らかにしました。本研究は、メタン酸化細菌の世界を拡張し、新たな可能性を切り拓きます。

抄訳

メタン酸化細菌は、自然由来および人為由来のメタンを酸化することで地球規模の炭素循環において重要な役割を担っている。これまでの研究では、主にPseudomonadota門、Verrucomicrobiota門の好気性メタン酸化細菌に焦点が当てられてきた。実は、40年前にメタン酸化能を有するグラム陽性のActinomycetota門に属する細菌もメタン酸化能を有すると報告されていたが、分離株も保存されておらず、続報もないことから、メタン酸化細菌群として認識されてこなかった。本研究では、ActinomycetotaMycobacterium属に属するメタン酸化細菌MM-1株を分離培養し、初めてその特徴を明らかにした。これは第三の好気性メタン酸化細菌の門の確立を意味する。MM-1株は従来のメタン酸化細菌に比べて広いpH耐性と高いアンモニア耐性を示し、新たなアンモニア耐性機構の存在を示唆する。さらに、16S rRNA遺伝子解析により、MM-1株と近縁な配列が、飲料水システムを含む多様な環境で検出されており、既知のメタン酸化細菌が生存困難な環境において重要なメタンシンクとして機能する可能性が示された。

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2025/08/25

Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性

論文タイトル
Genomic epidemiology and antimicrobial resistance of Corynebacterium macclintockiae, the predominant species of human pathogens within the Corynebacterium jeikeium complex
論文タイトル(訳)
Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性
DOI
10.1128/jcm.00500-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology 2025 Aug 13;63(8):e0050025
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
Corynebacterium属菌は一般的には病原性が低いと考えられていますが、C. jeikeiumは免疫不全者の感染症の起因微生物となり、多剤耐性を示すことが知られています。本研究では病院の検査室でC. jeikeiumと同定された臨床分離株のほとんどが、全ゲノム解析では2023年に報告された新種であるC. macclintockiaeと同定されました。公共データーベースを用いた解析からは本菌種が日本国外にも広く分布していることが示唆されましたが、疫学的背景や臨床的特徴については未解明な点が多く、今後の検討が待たれます。

抄訳

Corynebacterium jeikeiumのゲノム的特徴や治療法は未解明な点が多い。本研究では、まず単施設のC. jeikeium感染症6例(MALDI-TOF MSにより同定)の原因菌株の全ゲノム解析を行い、これらが全て遺伝学的にはCorynebacterium macclintockiaeと同定されることを確認した。さらに全国8施設から収集した血流感染症由来のC. jeikeium 33株についても全ゲノム解析を行ったところ、うち32株はC. macclintockiaeと同定された。C. macclintockiaeは多剤耐性を示したが、テイコプラニンを含めた抗MRSA薬の感受性は良好であり、全体の約60%を占めるtet(W)非保有株ではテトラサイクリン系にも感性を示した。世界各国から公共データーベースに登録されたC. jeikeiumおよび近縁菌(C. jeikeium complex)の27株の全ゲノム解析データを加えた解析でも、遺伝学的には約77%がC. macclintockiaeと同定された。

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2025/08/25

マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成 

論文タイトル
Murine Nasal Lavage Fluid Collection without Blood Contamination
論文タイトル(訳)
マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成
DOI
10.3791/68451-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68451
著者名(敬称略)
Ijaz Ahmad*(イジャーズ・エフマド)佐藤 文孝* 角田 郁生 他
所属
近畿大学医学部微生物学講座
著者からのひと言
鼻腔洗浄液(NLF)は、新型コロナウイルスを含む呼吸器ウイルス感染時に、ウイルスとIgAの定量に使用されます。ヒトNLF採取においては、血液混入は問題となりませんが、マウス・ラットでは血液混入を最小限にするために経気管支法が使用されてきましたが、NLF収量が低いことが問題です。そこで本論文では、NLFを大量に採取できる経咽頭法を改良することで、血液混入を最小限にし、かつ高いNLF収量が達成できる新手法を紹介しています。また、血液の混入をルミノール反応で高感度かつ安価に検出する手法も紹介しています。

抄訳

鼻腔洗浄液(nasal lavage fluid,NLF) には、鼻粘膜のIgA抗体やウイルス・細菌が含まれており、ワクチンや感染症の際に、粘膜免疫測定や病原体同定に使用される。マウスとラットからNLFを採取するルートとして、後鼻孔にカテーテルを挿入しNLFを鼻孔から回収する経咽頭法が、回収量が多いため有用であるが血液の混入が問題である。例として、IgA濃度はNLFより血液で高いため、NLF採取においては、血液の混入を避けることが必須となる。本論文では、経咽頭法を施行する際に、動物の口腔内に綿球を挿入し血液を吸収させることで、NLFへの血液混入を最小限にする新規のNLF採取法を紹介する。この新規NLF採取法が、従来の手法に比べ、血液混入が最小限であることを以下の二つの方法で明らかにした。1)法医学に頻用されるルミノール反応により、簡便かつ高感度でヘモグロビン濃度を測定。2)ELISA法によりIgA濃度を、NLFと血清で定量。

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