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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/05/12

シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する

論文タイトル
Cleavage cascade of the sigma regulator FecR orchestrates TonB-dependent signal transduction
論文タイトル(訳)
シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する
DOI
10.1073/pnas.2500366122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
横山達彦 久堀智子 秋山芳展 他
所属
岐阜大学 大学院 医学系研究科 病原体制御学分野
著者からのひと言
私たちは,膜タンパク質を膜中で切断する特殊なプロテアーゼの切断基質を探索する過程で,FecRタンパク質が細胞内で連続的な切断を受けることを見出し,2021年に報告しました(Yokoyama et al., J. Biol. Chem., 2021).本研究ではこの発見を出発点として,FecRを介した鉄シグナル伝達機構の全体像を明らかにしました.今後,同様のタイプのシグナル伝達機構を理解する上で,本研究が重要な礎となることを願っています.最後に,本研究の土台となった膨大な研究を推進し,本研究領域の発展にご貢献されてきた,Max Planck Institute for Biology(ドイツ)のVolkmar Braun博士に心から敬意を表します.(横山達彦)

抄訳

生命にとって鉄は不可欠な元素であるが,環境中には微量しか存在しない.そのため,生命は外界の鉄を細胞内に取り込むシステムを高度に進化させて来た.細菌は外界環境の鉄を感知し,それに応じて鉄取り込みに関わる因子の発現を活性化するが,鉄を感知する分子メカニズムの全容は,長年にわたり明らかにされてこなかった.
グラム陰性細菌は外界の鉄を取り込む際に,分子モーターであるTonB-ExbBD複合体が生み出す機械的な力を利用することが知られている.本研究ではこの機械的な力が,シグナル伝達を担う膜タンパク質FecRにも伝わり,FecRの連続的な切断を引き起こすことを突き止めた.そして,この切断によって生じたFecR断片が,鉄の取り込みに必要な遺伝子群の発現を誘導することを明らかにした.本研究は,タンパク質切断を介したシグナル伝達の新たなメカニズムを提示し,生体機能制御の基盤となる仕組みの一端を明らかにしたものである.

内容の詳細は下記よりご覧ください.
プレスリリース:https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2025/04/entry18-14282.html

 

 

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2025/05/12

ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of Psychrobacter sp. GTC18467 isolated from snake in Japan
論文タイトル(訳)
ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00340-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
林 将大 他
所属
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 嫌気性菌研究分野
岐阜大学 高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)
著者からのひと言
ペット動物を取り巻く細菌について把握することは、病原性のメカニズムおよび人獣共通感染症のリスクを理解する上で重要である。本報は動物から分離された未知の細菌における病原性の解明に資する一報と考える。本株は岐阜大学微生物遺伝資源保存センター(https://gcmr.guias.gifu-u.ac.jp)にて入手が可能である。

抄訳

Psychrobacter 属は、Moraxellaceae 科に属する好気性のグラム陰性菌である。本菌群は環境中に広く存在し、一部の菌種はヒトへの病原性についても報告されている。
本論文では、2024年に岐阜県内で飼育されているニシキヘビの体表から分離された後、種レベルでの同定不能株として保存されていたPsychrobacter sp. GTC18467株について完全長ゲノムを決定した。ロングリードおよびショートリードを組み合わせて解析した結果、Psychrobacter sp. GTC18467株のゲノムは2,642,444 bp の環状染色体および3個のプラスミドで構成されていた。16S rRNA遺伝子配列を用いた系統解析の結果、最も近縁な菌種はPsychrobacter ciconiae であり、97.4 %の類似度を示していた。全ゲノム配列に基づく類縁菌種との比較解析の結果、本株はPsychrobacter の新種である可能性が示唆された。

 

 

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2025/05/09

アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立

論文タイトル
Xenopus laevis as an infection model for human pathogenic bacteria
論文タイトル(訳)
アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立
DOI
10.1128/iai.00126-25
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Ahead of Print
著者名(敬称略)
栗生 綾乃 垣内 力 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・分子生物学分野

抄訳

細菌の病原性とそれに対抗する宿主動物の免疫システムを理解するためには、感染モデル動物を使用した感染実験が必要不可欠である。感染実験に頻繁に利用されるマウスなどの哺乳動物は、倫理面とコスト面の問題から、多数の個体数を扱うことが困難である。本研究では、多数の個体数を扱うことが可能で、免疫システムがヒトと比較的近いアフリカツメガエルについて、ヒト病原性細菌の感染モデル動物として利用できるか検討を行った。
黄色ブドウ球菌、緑膿菌、リステリア・モノサイトゲネスの腹腔内注射により、菌量依存的にアフリカツメガエルの生存率が低下した。黄色ブドウ球菌および緑膿菌によるアフリカツメガエルの生存率の低下は、それぞれの細菌株に有効な抗菌薬を投与することで抑制された。さらに、黄色ブドウ球菌の病原性に関わるagr領域とcvfA遺伝子、ならびにリステリア・モノサイトゲネスの病原性に関わるLIPI-1領域の各欠損株は、アフリカツメガエルに対する病原性が低下していた。アフリカツメガエルにおける黄色ブドウ球菌の体内分布を検討したところ、腹腔内注射後30分の時点で、血液、肝臓、筋肉において黄色ブドウ球菌が検出され、死亡時刻までそれぞれの臓器における細菌数が維持されていた。
以上の結果から、アフリカツメガエルはヒト病原性細菌の病原性遺伝子の評価や抗菌薬の有効性評価に使用可能な感染モデル動物であると考えられる。本感染モデルは腹腔から全身へ細菌が移行する敗血症を模擬していると考えられ、敗血症における細菌と宿主の相互作用を研究する上で有用である。 

 

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2025/05/01

ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣

論文タイトル
Regulatory mimicry of cyclin-dependent kinases by a conserved herpesvirus protein kinase
論文タイトル(訳)
ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣
DOI
10.1073/pnas.2500264122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスが宿主タンパク質の多面的な機能を巧妙に模倣することで、宿主細胞をハイジャックし、自らの生存戦略を遂行していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有すると考えられます。ヘルペスウイルスが宿主に対して終生感染を成立させるという特性を踏まえると、本ウイルスのさらなる宿主共存戦略を解明することは、今後の抗ウイルス剤やワクチンの開発において極めて重要であると考えられます。

抄訳

これまで、単純ヘルペスウイルス(HSV)の特異的なキナーゼであるUL13は、宿主キナーゼであるサイクリン依存キナーゼ(CDK1, CDK2)の機能を模倣することが知られていた。本研究において、HSV-2 UL13のCDK1,CDK2活性制御部位に相当するUL13 Tyr-162が感染細胞内でリン酸化されることが明らかとなった。Tyr-162のリン酸化は、UL13による基質リン酸化を抑制し、CDKの自己制御機構を模倣していると考えられた。このリン酸化はマウス脳内での致死的なウイルス感染の抑制に加え、モルモットにおける効率的な回帰発症にも関与することが示唆された。これらの結果は、UL13がCDKの調節機構を模倣することで、ウイルスが宿主細胞をハイジャックし、それによって生存戦略を巧に遂行していることを示している。

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2025/05/01

マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
 

論文タイトル
MOB1 deletion in murine mature adipocytes ameliorates obesity and diabetes
論文タイトル(訳)
マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
DOI
10.1073/pnas.2424741122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS 122 (117) e2424741122  April 21, 2025
著者名(敬称略)
西尾 美希、山口 慶子、 大谷 淳二、前濱 朝彦、鈴木 聡 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 生化学・分子生物学講座 分子細胞生物学分野
日本バプテスト病院
著者からのひと言
成熟脂肪細胞におけるYAPの活性化が食事性肥満抵抗性・糖尿病発症抑制に作用することを解明し、またFGF21がYAPの直接の転写標的となって、YAPの作用を発揮することを示しました。

抄訳

肥満関連疾患が世界的に増加している。YAP1/TAZはマウス未熟脂肪細胞においてPPARγ活性を阻害して細胞分化を抑制することから、潜在的な治療標的として注目されていた。しかし、成熟脂肪細胞におけるYAP1活性化の役割は不明であった。肥満で発現が増加するMOB1は、YAP1/TAZ活性化を負に制御する。そこで、成熟脂肪細胞特異的にMOB1が欠損するマウス(aMob1DKOマウス)を作製した。高脂肪食を与えたaMob1DKOマウスは、基礎脂肪分解亢進、白色脂肪細胞の褐色化、エネルギー消費の増加、活性酸素産生や炎症の抑制を示し、食事誘発性肥満抵抗性、インスリン感受性や耐糖能の改善、異所性脂肪蓄積の減少をみた。これらの変化のほとんどは、YAP1の活性化に依存していた。また脂質代謝を改善するFGF21は、YAP1の活性化を介して直接アップレギュレートされ、aMob1DKOマウスの表現型の多くは、増加したFGF21に依存していた。われわれの研究は、YAPが新たなFGF21制御因子であることを示し、YAP1-FGF21軸が肥満の治療標的となる可能性を示唆した。

 

 

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2025/04/21

バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良

論文タイトル
Specific nucleotide substitutions in the burst sequence enhance polyhedrin expression in alphabaculoviruses: improvement of baculovirus expression vectors
論文タイトル(訳)
バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良
DOI
10.1128/aem.00144-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
勝間 進 他
所属
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 昆虫遺伝研究室
著者からのひと言
バキュロウイルスベクターシステム(BEVS)はワクチンや動物用医薬品、実験用試薬の製造に汎用されています。このシステムは約40年前に開発され、改良が進められてきましたが、まだその高発現メカニズムについて不明な点が多い状況です。本研究では、現在使われているほぼ全てのBEVSに適用できる高発現化手法に関する知見を提供するもので、本内容に関しては特許を申請中です。

抄訳

アルファバキュロウイルスは、宿主となるチョウ目昆虫の核内に大量の封入体を形成する。この封入体の主構成成分はウイルスの遺伝子産物であるポリヘドリン(POLH)であり、polh遺伝子の高発現のシステムを用いたベクターとしてバキュロウイルスベクター(BEVS)が開発された。polhの高発現には転写開始点と翻訳開始点の間のバースト配列が重要であることが判明している。本研究では、このバースト配列内に存在するA-rich領域に特定の変異を入れることでpolhのmRNA量が増大し、BEVSにおける発現量も増加することがわかった。バースト配列は現在汎用されているBEVSで共通している配列であるため、本発見は応用上すぐに適用できる発見であると言える。

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2025/04/21

原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術

論文タイトル
Exploration and analytical techniques for membrane curvature-sensing proteins in bacteria
論文タイトル(訳)
原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術
DOI
10.1128/jb.00482-24
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 207, No. 4
著者名(敬称略)
児美川 拓実 田中 祐圭 他
所属
東京科学大学物質理工学院生体分子化学研究室
著者からのひと言
曲率認識タンパク質は、生体膜の曲面構造を認識することで様々な細胞機能と密接に関与するタンパク質で、近年原核生物においても曲率認識タンパク質の存在が明らかになってきました。本総説は、原核生物の既知の曲率認識タンパク質を整理するとともに、in vitroや細胞での評価法に加えて、新規の曲率認識タンパク質を網羅的に探索する手法を紹介しています。これにより、原核生物においても新たな曲率認識タンパク質の発見と膜形態制御機構の解明が進むのではないかと期待しています。

抄訳

細胞内におけるタンパク質の局在性を制御するメカニズムは微生物学において重要なトピックの一つである。そのうち、生体膜の曲面形状(曲率)が細胞内においてタンパク質の局在を決める空間的な手がかりとなることが示されている。このような特定の曲率をもった生体膜と相互作用する「曲率認識タンパク質」は、細胞分裂や膜で囲まれたオルガネラ様構造の形成に関与している。本総説では、人工的に形状制御した生体膜と精製タンパク質を用いた曲率認識能のin vitro評価や生細胞を用いた評価法についての最近の研究を紹介する。しかし、これらの曲率認識能の評価は労力がかかることから、同定された曲率認識タンパク質の数は限られている。そこで、曲率認識能に基づく網羅的な探索法についても紹介する。加えて、既に細菌において明らかになっている曲率認識タンパク質とその分析法について整理するとともに、本研究領域の今後の展望について議論した。

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2025/04/18

細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった

論文タイトル
Uniform elementary fibrils in diverse plant cell walls
論文タイトル(訳)
細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった
DOI
10.1073/pnas.2426467122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.15
著者名(敬称略)
大長一帆 他
所属
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構

抄訳

セルロースナノファイバー(CNF)の断面寸法は、産業上の主原料である針葉樹に限らず、草本類の麻や、木本と草本の中間的な分類とされる綿であっても、ほぼ同一の2~3nmであり、CNF1本(植物組織学上のミクロフィブリル、または天然セルロースの結晶子)は、セルロース分子鎖18本で構成されるモデルが合致することを明らかにしました。これまでのセルロース結晶学では、樹木と麻・綿のCNFは、断面寸法が明瞭に異なり、別種の生合成機構が想定されてきました。この従来の理解は、これまでCNFを単離(孤立分散)させる技術がなく、複数の結晶子が合一したCNF凝集体を評価していたことに由来します。本成果により、高等植物であれば、木本と草本に差はなく、同様の機構で生合成していることが新たに想定されます。また、産業上も、樹木だけでなく、麻やエリアンサス、農業廃棄物等からも、均質なCNFを生産できることを本成果は示しています。

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2025/04/18

MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった

論文タイトル
Lipid fingerprinting by MALDI Biotyper Sirius instrument fails to differentiate the three subspecies of the Mycobacterium abscessus complex
論文タイトル(訳)
MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった
DOI
10.1128/jcm.01484-24
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Vol. 63, No. 4
著者名(敬称略)
吉田 光範 星野 仁彦 他
所属
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター
著者からのひと言
抗酸菌細胞壁は脂質に富んでいるため、他の病原体で成功事例のある脂質プロファイリングによる識別を試みた。しかしながら、Siriusシステム付属の解析ソフトウェアや代表的な機械学習法をもちいた分類モデルでは亜種の正確な識別は困難だった。臨床現場における簡易かつ迅速なMABC鑑別には、我々の開発したKANEKA DNA Chromatography MABC/erm(41)が有用である(EBioMedicine 2021;64:103187)。本法はすでに体外診断薬として承認されており、保険適応申請中である。

抄訳

Mycobacterium abscessus complex(MABC)による呼吸器感染症患者は増加傾向にある。マクロライド系薬剤に対する感受性が異なるため、MABC 3亜種の識別が臨床上重要とされている。本研究では、Bruker社製MALDI Biotyper Siriusシステムを用いた脂質プロファイリングを行いMABC亜種識別の有効性を評価した。全ゲノム解析済みの149株に対して、陰イオンモードによる質量分析を実施した。得られたデータに対して、Bruker社が提供するClinProToolsソフトウェアや、代表的な機械学習手法を用いて亜種分類モデルを構築した。本モデルによる分類と、ゲノムデータによる分類との一致率は56%、機械学習による分類精度も50%程度にとどまり、亜種間の正確な識別には至らなかった。したがって、脂質プロファイリング単独ではMABC亜種の識別は現状では困難であり、DNAクロマトグラフィーやGenotype NTM-DRなど、より正確な代替法の導入が臨床現場には必要である。

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2025/04/18

成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係

論文タイトル
Relationship between time-dependent epidermal ceramide composition changes and skin barrier function in adult mice
論文タイトル(訳)
成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係
DOI
10.1091/mbc.E24-12-0551
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 36, No. 5
著者名(敬称略)
平沼大雅、佐々貴之、木原章雄
所属
北海道大学大学院薬学研究院 生化学研究室

抄訳

セラミドの中でもアシルセラミドと結合型セラミドは皮膚バリア形成に重要である。しかし、これらのセラミド産生に関与する遺伝子のノックアウト(KO)マウスは新生児致死であるため、成体マウスにおけるKOの影響は不明であった。本研究では、脂肪酸伸長酵素遺伝子Elovl1のタモキシフェン誘導性コンディショナルKOマウスを作成した。タモキシフェン投与後、アシルセラミド濃度は5日目から減少し始め、10日目には脂質ラメラ形成障害と表皮肥厚が観察された。15日目には結合型セラミドが減少し、経皮水分蒸散量が増加した。その他のセラミド量の変化や脂肪酸部位の短鎖化も観察されたが、それらの時間経過はセラミドの種類によって異なっていた。本研究では、アシルセラミドとタンパク質結合型セラミドが成体の皮膚バリア維持に重要であることを明らかにすると共に、遺伝子発現、表皮形態、セラミド組成の変化など、皮膚バリア機能の低下に対する代償機構を見出した。

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2025/04/15

Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化

論文タイトル
Adaptive evolution of sesquiterpene deoxyphomenone in mycoparasitism by Hansfordia pulvinata associated with horizontal gene transfer from Aspergillus species
論文タイトル(訳)
Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化
DOI
10.1128/mbio.04007-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16  Issue 4  e04007-24
著者名(敬称略)
前田和弥 飯田祐一郎
所属
摂南大学農学部植物病理学研究室

抄訳

トマト葉かび病は、世界的にトマト生産に深刻な経済的損失をもたらしている。育種によって、Cf抵抗性遺伝子を持つ品種が開発されてきたが、葉かび病菌は新たな系統(レース)へと進化することで、これらの抵抗性品種を打破した。さらに、複数の化学殺菌剤に対する耐性を獲得していることから、持続可能な新たな防除法が求められている。葉かび病菌に寄生する菌寄生菌H. pulvinataは、生物防除剤として期待される。寄生性メカニズムの解明を目的に本研究では、菌寄生菌が産出する抗菌性セスキテルペンdeoxyphomenoneを解析した。我々は、菌寄生菌とAspergillus属の両方でdeoxyphomenone生合成遺伝子クラスター(DPH)を同定し、比較ゲノム解析によって菌寄生菌はDPH遺伝子クラスターをAspergillus属の祖先種から水平伝播によって獲得したことを明らかにした。またAspergillus属では内因性の胞子形成制御因子として機能していたdeoxyphomenone が、菌寄生菌では寄生性に有利な外因性の抗菌性物質として利用するように適用進化したと考えられた。以上のことから、菌寄生は、菌類における水平伝播を促進するメカニズムの一つである可能性が示唆された。

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2025/04/15

クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Nardonella sp.” Pin-AIST from the black hard weevil Pachyrhynchus infernalis
論文タイトル(訳)
クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01083-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

クロカタゾウムシという昆虫の細胞内に共生する細菌Nardonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは226,287 bpと極小であり、既報のNardonellaゲノムと高い相同性を示しました。Nardonellaはクロカタゾウムシにチロシンを供給することで、その硬い外骨格の形成を助けることが知られており、今回のゲノム解読の結果においてもチロシン合成系遺伝子が高度に保存されていることが分かりました。

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2025/04/15

糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する

論文タイトル
RNA editing of genomic neighbors controls antiviral response in fungi
論文タイトル(訳)
糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する
DOI
10.1016/j.chom.2025.02.016
ジャーナル名
Cell Host & Microbe
巻号
Cell Host & Microbe Volume 33, Issue 4
著者名(敬称略)
本田 信治 他
所属
福井大学 医学部 看護学科 基盤看護学分野 生命基礎科学研究室
著者からのひと言
糸状菌に保存された、後生動物とは異なる仕組みの新規RNA編集酵素を発見! 隣接遺伝子old-zaoは、カビ自身の"免疫暴走"とも言える過剰応答を引き起こして病気を誘導する、ユニークな抗ウイルス機構を制御します。この独自のRNA編集システムは、新たな遺伝子工学ツールとしての可能性を秘めるだけでなく、その仕組みを人為的に操作して病原糸状菌を弱毒化させる、新しい生物防除法への応用も期待されます。本号のPreviewでも紹介され、無料公開中です!

抄訳

アカパンカビをモデルに、糸状菌の抗ウイルス応答におけるRNA編集の役割を調査した。その結果、ゲノム上で隣接するA-to-I RNA編集酵素「old」とジンクフィンガー転写因子「zao」が、ウイルス感染応答を制御することを発見した。特にOLD酵素は、zao mRNA上の未成熟終止コドン(PSC)を標的に、タンパク質合成を中断するはずのシグナルをトリプトファンをコードするよう編集する。このPSC編集によって機能的な全長型ZAOタンパク質が合成され、その量が抗ウイルス応答の強弱を切り替える「分子スイッチ」として機能する。通常、このスイッチは適切に制御されて無症状感染を維持するが、主要な抗ウイルス防御機構であるRNAi(RNA干渉)経路が欠損すると、このシステムが過剰に活性化し、植物の過敏感反応にも似た重篤な症状(免疫暴走)を引き起こす。この「old-zao」遺伝子モジュールは、他の主要な糸状菌でも進化的に保存されていることが示唆された。

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2025/04/15

ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Carsonella ruddii” from a Japanese island strain of the Asian citrus psyllid Diaphorina citri
論文タイトル(訳)
ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01082-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

ミカンキジラミという昆虫の細胞内に共生する細菌Carsonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは173,958 bpと極小であり、既報のゲノムと高い相同性を示しました。ミカンキジラミはカンキツグリーニング病(huanglongbing)という植物の重要病害の病原体を媒介するベクターとして知られており、Carsonellaはミカンキジラミにアミノ酸等を供給することでその生育をサポートしていると考えられています。

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2025/04/15

真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性

論文タイトル
Substrate specificities of two ketosynthases in eukaryotic microalgal and prokaryotic marine bacterial DHA synthases
論文タイトル(訳)
真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性
DOI
10.1073/pnas.2424450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.12
著者名(敬称略)
尾形 海斗, 仲間 陸, 小笠原 泰志, 大利 徹 他
所属
北海道大学 大学院工学研究院 応用生物化学研究室
著者からのひと言
 DHAなどのPUFAは魚に多く含まれ、脳や心臓の健康を支える成分として知られています。微細藻類や海洋細菌が真の生産者ですが、複数の機能ドメインからなる巨大酵素であるDHA合成酵素が、厳密に制御された2炭素鎖伸長反応と還元反応を繰り返すことで炭素数22のDHAを特異的に生合成します。我々はPUFA合成酵素の仕組みに興味を持って研究をしていますが、本論文ではDHA合成酵素において2つのKSドメインの協同が重要であることを示しました。PUFAの効率的な発酵生産につながる重要な成果です。

抄訳

 ドコサヘキサエン酸 (DHA) は健康成分として知られる炭素数22の多価不飽和脂肪酸 (PUFA) であり、その生合成にはDHA合成酵素が関与します。真核微細藻類や原核海洋細菌由来のDHA合成酵素中には炭素鎖を2つずつ反復して伸長するケト合成酵素 (KS) ドメインが2つ (KSAとKSB/C) 含まれています。本研究では、2つのKSドメインの基質特異性を、組換え酵素とほぼ全ての中間体を用いたin vitro実験で解析しました。その結果、KSAは炭素数6、12、18の中間体を、KSBは炭素数8、14、20の中間体を特異的に認識すること、また、炭素数2、4、10の中間体は両ドメインによって認識されて鎖伸長反応が起こることを明らかにしました。これらの結果は、2つのKSドメインが中間体基質のチオエステル近傍の構造によって巧妙に使い分けられていることを示唆します。本研究は、DHA合成酵素の基質選択メカニズムを詳細に解明した初の包括的解析であり、PUFA合成の分子機構の理解を深めるとともに、DHAの効率的な生産技術の開発に貢献する可能性があります。

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2025/04/14

蛍光顕微鏡観察に基づいたトリコスポロン酵母の種間多様性解析

論文タイトル
Analyses of hyphal diversity in Trichosporonales yeasts based on fluorescent microscopic observations
論文タイトル(訳)
蛍光顕微鏡観察に基づいたトリコスポロン酵母の種間多様性解析
DOI
10.1128/spectrum.03210-24
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 4
著者名(敬称略)
青木 敬太 他
所属
東京農業大学総合研究所酵母多様性生物学・分類学研究室
著者からのひと言
現在,酵母は世界中で2,000種程存在すると考えられていますが,私達が利用しているのは子嚢菌のパン酵母などごく僅かです.酵母の研究は歴史的に子嚢菌の酵母をモデルに進みましたが,担子菌にも面白い酵母がたくさんいます.今回の我々の研究でも,トリコスポロン目酵母の様々な性質が明らかになりました.今後,子嚢菌酵母にはないユニークな性質を見つけられるのではないかと期待しています.

抄訳

担子菌のトリコスポロン目には,酵母型と菌糸型を持つ二形性の酵母が多く分類されます.菌糸型は真菌症の原因となるため,二形性の機序や種の簡便な同定法は重要な課題になります。私達は今までに,重症化すると死ぬこともある深在性トリコスポロン症の原因菌の菌糸がマグネシウムを添加することにより過度に伸長することを見つけていました.本論文では,この効果がトリコスポロン目の二形性酵母の間で共通かどうかを調べると共に,酵母の分類指標の一つになるかどうかを検討しました.その結果,マグネシウムの菌糸伸長効果はトリコスポロン目の二形性酵母で共通なことがわかりました.一方,菌糸の伸長と共に現れる隔壁の多重化や液胞の増大といった特徴はトリコスポロン目の中でもトリコスポロン属に偏って現れることがわかりました.よって,本研究の成果は,菌糸の形成メカニズムや分類研究に役立つと期待されます.

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2025/04/11

皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物viomelleinの再発見とその生合成遺伝子クラスターの同定

論文タイトル
Rediscovery of viomellein as an antibacterial compound and identification of its biosynthetic gene cluster in dermatophytes
論文タイトル(訳)
皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物viomelleinの再発見とその生合成遺伝子クラスターの同定
DOI
10.1128/aem.02431-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
二宮 章洋 萩原 大祐 他
所属
筑波大学生命環境学群 生命地球科学研究群 生命環境系

抄訳

糸状菌は生物活性を有する多様な化合物を生産する。そのような化合物は、自然環境中の生存競争に寄与し、病原菌であれば宿主への感染にも貢献すると考えられる。世界中で多くの患者が罹患している皮膚病原糸状菌に関して、生物活性を持つ化合物に関する研究は限られている。本研究では、感染部位における皮膚微生物叢との相互作用の理解を目指し、Trichophyton rubrumにおいて抗バクテリア活性を示す化合物を探索した。赤色色素化合物として知られていたviomelleinが強い抗バクテリア活性を示すことを明らかにし、トランスクリプトーム解析や遺伝子破壊実験によりその生合成遺伝子クラスター(vioクラスター)を同定した。麹菌を宿主としたvioクラスター遺伝子の再構成実験により、nor-toralactoneからviomelleinに至る生合成経路を示した。また、vioクラスターは皮膚病原糸状菌に広く保存されており、多くの皮膚病原糸状菌株がviomelleinだけでなく構造類似体のxanthomegninやvioxanthinも産生することができた。本研究により、皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物の分子実体を明らかになり、皮膚微生物叢と病原菌の相互作用を理解する上での重要な知見が提供された。

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2025/04/09

原発性アルドステロン症に対する手術適応評価における副腎静脈サンプリングの最適なLateralization Indexの検討

論文タイトル
Assessing Lateralization Index of Adrenal Venous Sampling for Surgical Indication in Primary Aldosteronism
論文タイトル(訳)
原発性アルドステロン症に対する手術適応評価における副腎静脈サンプリングの最適なLateralization Indexの検討
DOI
10.1210/clinem/dgae336
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Volume 110, Issue 4, April 2025, Pages e1084–e1093
著者名(敬称略)
小林 洋輝 他
所属
日本大学医学部 内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野
著者からのひと言
本研究は、原発性アルドステロン症に対する外科的治療の適応判断に用いられる副腎静脈サンプリングのLateralization Index(LI)について、国際的な大規模コホートと患者意識調査を基に最適カットオフ値を提示した初の研究である。本研究結果により、手術の必要性を判断するための国際的に標準的な判定方法を確立したことでグローバルな視点からこの病気の診断、治療の標準化に貢献できる。

抄訳

原発性アルドステロン症(primary aldosteronism; PA)の外科的治療適応を判断する際には、副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling; AVS)によるアルドステロンの左右比(lateralization index; LI)が指標として推奨されている。しかし、どの程度のLIで手術による治癒が期待できるか、明確なカットオフ値はこれまで確立されていなかった。本国際多施設共同研究では、PA患者1,550例(11カ国・16施設)の後ろ向きコホートを対象に、AVS所見から手術で治癒しうるPA(片側性PA)を識別するための最適LIカットオフ値を検討した。 まず、外科手術に対する治癒期待に関する患者側の意向も考慮したカットオフ設定を行うため、日本人PA患者82名に対してアンケート調査を実施し、手術を決断するために必要と考える治癒率の中央値が80%であることを確認した。これを踏まえ、LIのカットオフ値は「治癒率80%の陽性的中率」を達成する水準として設定された。その結果、最適LIカットオフ値はACTH非刺激時で3.8、ACTH刺激時で3.4と算出された。さらに、CTでの副腎結節の存在、ならびに対側抑制(contralateral suppression: CR<0.4)が、外科的治療により治癒し得るPAの独立した予測因子であることが示され、これらの指標をLIと組み合わせることで予測精度は大幅に向上した。本研究により、AVSにおけるLIの最適カットオフ値が初めて明確化された。加えて、CT所見や対側抑制を併用することで、PAに対する外科的治療の適応をより精密に判断できる可能性が示唆された。

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2025/04/08

SARS-CoV-2感染が遷延しレムデシビル耐性を示した免疫不全患者の臨床的・分子生物学的背景

論文タイトル
Clinical and molecular landscape of prolonged SARS-CoV-2 infection with resistance to remdesivir in immunocompromised patients
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2感染が遷延しレムデシビル耐性を示した免疫不全患者の臨床的・分子生物学的背景
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf085
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus Volume 4, Issue 4
著者名(敬称略)
入山 智沙子 市川 貴也(執筆者) 他
所属
藤田医科大学医学部 血液内科学
北海道大学医学研究院 病原微生物学教室
著者からのひと言
免疫不全者にとっては、COVID-19は未だ脅威な感染症です。本症例のような持続感染は、血液内科医であれば一度は経験するであろう決して珍しくない事象ですが、その体内で何が起こっているのか未だ不明な点が多いです。本研究は、3例の持続感染者において、ウイルス遺伝子の時間的多様性を明らかにするともに、薬剤耐性ウイルスの性状を実験室内で解析した点でユニークであると言えます。「ベッドサイド(臨床)からベンチ(基礎)まで」を体現した研究であり、今後のCOVID-19診療の一助となることに期待します。

抄訳

血液悪性疾患などの免疫不全患者では、SARS-CoV-2感染が遷延(持続感染)し、難治性となる場合がある。我々は、持続感染を起こした悪性リンパ腫患者3例について、病理学的およびウイルス学的に詳細に解析した。全症例において抗ウイルス薬治療が奏功せず、ウイルスRNA量が1ヶ月以上高いレベルで維持された。2例が死亡し、病理解剖ではサイトメガロウイルスの再活性化や細菌/真菌の重複感染を認めた。ウイルス遺伝子を次世代シーケンサーにて解析したところ、様々な変異が蓄積し、それらの変異頻度が経時的に変化していることが明らかとなった。また、レムデシビルの標的分子であるNSP12にV792I・M794Iの変異が検出された。これらの変異を持つウイルスに対して薬剤感受性試験および病原性試験を行なった結果、V792I・M794I変異はともにレムデシビルに対して耐性化を示し、病原性は減弱していることが判明した。
【結語】薬剤耐性ウイルスの出現抑制を目的とした抗ウイルス薬の早期投与や併用療法など、生命予後の改善を目指した新たな治療戦略の考案が重要である。

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2025/04/07

センサーヒスチジンキナーゼPhcSは、Ralstonia pseudosolanacearum  OE1-1株のクオラムセンシングに依存した病原力遺伝子の制御に関わる

論文タイトル
The sensor histidine kinase PhcS participates in the regulation of quorum sensing-dependent virulence genes in Ralstonia pseudosolanacearum strain OE1-1
論文タイトル(訳)
センサーヒスチジンキナーゼPhcSは、Ralstonia pseudosolanacearum  OE1-1株のクオラムセンシングに依存した病原力遺伝子の制御に関わる
DOI
10.1128/spectrum.00059-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 4
著者名(敬称略)
瀬沼 和香奈1・都筑 正行1・竹村 知夏1・寺澤 夕貴1・木場 章範1・大西 浩平1・甲斐 建次2・曵地 康史1
所属
1高知大学農林海洋科学部
2大阪公立大学大学院農学研究科

抄訳

Ralstonia pseudosolanacearum  (青枯病菌)OE1-1株は、クオラムセンシングシグナルとして、自ら分泌するmethyl 3-hydroxymyristate (3-OH MAME)を、センサーヒスチジンキナーゼPhcSを介して受容する。そして、3-OH MAME受容によるPhcSの230番目のアミノ酸残基ヒスチジン (H230-PhcS)の自己リン酸化が、LysR型転写因子PhcAの活性化をもたらす。活性化PhcAにより、多くの病原力関連遺伝子を含むQS依存遺伝子の発現が制御される。さらに、センサーヒスチジンキナーゼPhcKが、3-OH MAMEの受容に独立して関わるphcA遺伝子 (phcA)の発現制御に、PhcSも関与する。本研究では、PhcSとPhcKによるphcAの発現制御機構の解明を目指した。PhcKの自己リン酸化部位と想定される205番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換したところ、phcAの発現に有意な変化が認められなかった。一方、H230-PhcSのグルタミン酸への置換により、phcK遺伝子あるいはphcAの欠損と同様に、QS依存遺伝子の発現が有意に変化し、病原力が喪失した。すなわち、H230-PhcS230の自己リン酸化が、3-OH MAME受容に依存したPhcAの活性化とともに、3-OH MAME受容に独立したPhcKによるphcA発現制御に関わる。これらの結果から、PhcSが関わる複数の二成分制御系が、青枯病菌の病原力を司るクオラムセンシングに不可欠であることが示唆された。

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