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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2026/01/21

脳オルガノイドを用いたミトコンドリア病MELAS病態モデルの構築

論文タイトル
Modeling Mitochondrial Disease Using Brain Organoids: A Focus on Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like Episodes
論文タイトル(訳)
脳オルガノイドを用いたミトコンドリア病MELAS病態モデルの構築
DOI
10.3791/69303-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (224), e69303
著者名(敬称略)
川野 史帆里 藤岡 正人 他
所属
北里大学医学部 分子遺伝学
著者からのひと言
本研究では、患者由来iPS細胞から作製した脳オルガノイドを用い、ミトコンドリア病MELASの病態を再現・解析する手法を確立しました。脳内で進行する神経機能障害を三次元的、二次元的に捉えることで、従来モデルでは困難であった病態理解を可能にしています。本成果は、MELASの病態解明を加速させ、次世代の創薬プラットフォームとして大きく貢献することが期待されます。

抄訳

MELASは、ミトコンドリアDNA変異(特にm.3243A>G)によって引き起こされる代表的なミトコンドリア病である。本研究ではMELASの病態生理を解明するため、患者由来iPS細胞から脳オルガノイドを作製した。患者脳オルガノイドは、m.3243A>G変異のヘテロプラスミー率に依存して、大きさや形態、神経誘導効率に明確な差異を示した。さらに、オルガノイドから解離したニューロンをハイスループットな薬剤スクリーニングに適した二次元培養系へと展開したところ、神経ネットワーク形成においてもヘテロプラスミー依存的な顕著な違いが認められた。 これらの結果は、患者由来iPS細胞を用いたオルガノイドモデルが、MELASの発症機構の解明および創薬研究に有用なプラットフォームであることを示している。

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2026/01/19

ドロップレット培養法により水生植物ヨシの根圏から分離されたDongia属細菌のドラフトゲノム配列

論文タイトル
Draft genome sequence of Dongia sp. strain agr-C8, isolated from the rhizosphere of Phragmites australis using a droplet-based cultivation method
論文タイトル(訳)
ドロップレット培養法により水生植物ヨシの根圏から分離されたDongia属細菌のドラフトゲノム配列
DOI
10.1128/mra.01011-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
岩下 智貴 玉木 秀幸 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオものづくり研究センター 生物資源情報基盤研究チーム

抄訳

本報告は、水生植物ヨシ(Phragmites australis)の根圏から、微小液滴であるwater-in-oil dropletを用いたドロップレット培養法により分離された Dongia 属細菌 agr-C8 株のドラフトゲノム配列を提示する。霞ヶ浦に生息するヨシの根圏試料からドロップレット培養法により単離された菌株について、DNBSEQ-T7 (MGI Tech)を用いて全ゲノムシーケンスを行い、SPAdesによりアセンブルを実施した。その結果、ゲノムサイズは約559万bp、G+C含量は66.0%と同定され、3個のrRNA遺伝子と53個のtRNA遺伝子を保有することが予測された。また、本菌株の16S rRNA遺伝子配列は、最近縁種である Dongia mobilis との相同性が95.63%と低いことから、新規系統である可能性が示唆された。さらに、本菌株は硫黄代謝に関連する複数の遺伝子を保有しており、硫黄含有汚染物質等の分解への関与が期待される。

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2026/01/15

Atrial cardiomyopathyの関与が考えられた脳主観動脈閉塞の症例報告

論文タイトル
Atrial cardiomyopathy as a potential embolic source in large vessel occlusion
論文タイトル(訳)
Atrial cardiomyopathyの関与が考えられた脳主観動脈閉塞の症例報告
DOI
10.1136/bcr-2025-269207
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 19, Issue 1
著者名(敬称略)
森山 拓也 岡﨑 周平 他
所属
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 脳神経内科
著者からのひと言
心房心筋症は概念として注目される一方で、診断基準や定義はまだ発展途上です。心房細動が確認できなくても、背景に“隠れた心房心筋症”が潜んでおり、脳塞栓症の原因となることがあります。脳梗塞における塞栓源検索では、心房細動の有無のみにこだわらず、心房心筋症の存在も念頭に置いて評価することが重要だと思います。ただし、心房心筋症に対する適切な抗血栓療法はまだ確立しておらず、今後の臨床研究の進展が待たれます。

抄訳

原因不明の塞栓性脳梗塞では、心房細動(AF)が確認できなくても、心房の線維化や機能障害を背景とする心房心筋症(atrial cardiomyopathy)が血栓形成・塞栓の原因となることがある。本症例は高齢男性の主幹動脈閉塞で、機械的血栓回収療法により再開通を得たが、植込み型心電図計では発症前の3年間にAFを認めず、脳梗塞後の入院中に一度だけ発作性AFを記録したのみであった。生前検査では明確な塞栓源を同定できなかったが、頻回な上室性期外収縮、PTFV1高値、BNPの軽度上昇など心房負荷を示す所見がみられ、さらに回収血栓で得られた血栓病理所見も心原性を示唆していた。剖検では左房の広範な線維化と軽微なアミロイド沈着を認め、心房心筋症の存在が病理学的に裏付けられた。AFが明確でない症例でも心房心筋症によって塞栓症を生じることを、臨床経過と病理所見の両面から支持する症例であった。

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2026/01/14

乳癌治療後の難治性心室頻拍に対するICD適応判断:未診断の髄膜癌腫症が示した課題

論文タイトル
Decision-making challenges for implantable cardioverter-defibrillator therapy in breast cancer with ventricular tachycardia and undiagnosed leptomeningeal carcinomatosis
論文タイトル(訳)
乳癌治療後の難治性心室頻拍に対するICD適応判断:未診断の髄膜癌腫症が示した課題
DOI
10.1136/bcr-2025-269679
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 19, Issue 1
著者名(敬称略)
渡邉悠斗 青山里恵
所属
船橋市立医療センター心臓血管センター循環器内科
著者からのひと言
がん患者における致死性不整脈へのICD適応は、腫瘍学的予後評価と密接に関連します。本症例は、化学療法後に反復する心室頻拍に対して治療選択を迫られる一方、画像所見に乏しい髄膜癌腫症が急速に顕在化し、方針決定が短期間で変容した経過を提示します。多職種連携と予後推定の重要性を再考する契機となる報告です。

抄訳

アントラサイクリン(エピルビシン+シクロホスファミド、累積600 mg/m²)による術前化学療法後、難治性心室頻拍(VT)を発症した50歳代前半のHER2陽性乳癌患者を報告した。失神発作で交通事故・外傷性くも膜下出血を契機にVTが判明し、アミオダロン等でも右室流出路起源VTを反復した。心エコーでは当初LVEF 55%と保たれていたため、原病は制御され予後1年以上と判断し多職種で協議の上ICD植込みを実施したが、直後から持続性洞性頻脈とLVEF 30%への低下を認めた。さらに神経症状が急速に進行し、画像所見に乏しいまま髄液細胞診で髄膜癌腫症と診断、数日で死亡した。剖検では原発巣は治療反応を示す一方、髄膜へのびまん浸潤を認め、心筋は肥大のみで明らかな壊死・線維化を欠いた。本症例は、アントラサイクリン投与中・後の継続的心臓モニタリング、進行癌におけるICD適応判断、神経・自律神経症状出現時の髄膜癌腫症の早期評価の重要性を示す。

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2026/01/14

γセクレターゼによるアミロイドβ産生に影響を与える遺伝子・変異・化合物を探索するための出芽酵母アルツハイマー病モデル

論文タイトル
Saccharomyces cerevisiae Models of Alzheimer’s Disease to Screen Genes, Mutations, and Chemicals Affecting Amyloid Beta Production by γ-Secretase
論文タイトル(訳)
γセクレターゼによるアミロイドβ産生に影響を与える遺伝子・変異・化合物を探索するための出芽酵母アルツハイマー病モデル
DOI
10.3791/67733-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (220), e67733
著者名(敬称略)
二井 勇人 小川 智久 他
所属
東北大学大学院農学研究科・農学部 酵素化学分野
著者からのひと言
アルツハイマー病研究において中心的な役割を担うγセクレターゼは、その反応が膜内で起こるため、解析が極めて困難な酵素です。本論文では、出芽酵母という単純かつ再現性の高いモデル系を用いて、γセクレターゼ活性とAβ産生を多角的に評価する手法を紹介しています。遺伝子変異解析から創薬スクリーニングまで応用可能な本手法が、基礎研究と治療法開発の架け橋となることを期待しています。

抄訳

γセクレターゼは、触媒サブユニットであるプレセニリンと、ニカストリン、Aph-1、Pen2からなる膜内切断プロテアーゼ複合体であり、アミロイド前駆体タンパク質(APP)やNotchなどのⅠ型膜貫通タンパク質を切断する。APPの切断によって生じるアミロイドβ(Aβ)は、アルツハイマー病患者で蓄積することが知られているが、脂質二重膜内で起こる特異なプロテオリシスの反応機構には未解明な点が多い。本研究では、APPまたはNotch断片をGal4と融合させた人工基質を用いる出芽酵母レポーター系を構築し、γセクレターゼ活性を酵母生育やβ-ガラクトシダーゼ活性で評価した。さらに、酵母ミクロソームを用いたin vitro系により、産生されるAβ分子種の解析を可能にした。本手法は、γセクレターゼ阻害剤(GSI)やモジュレーター(GSM)をはじめとした化合物、ならびに家族性アルツハイマー病関連変異の解析に有用なプラットフォームを提供する。本論文では、動画とともに、これらの遺伝学的・生化学的手法と重要なプロトコルを、詳述する。

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2026/01/13

周波数領域サーモリフレクタンス法による熱物性測定

論文タイトル
The Frequency Domain Thermoreflectance Technique for Thermal Property Measurements
論文タイトル(訳)
周波数領域サーモリフレクタンス法による熱物性測定
DOI
10.3791/68908-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (226), e68908
著者名(敬称略)
Alesanmi R. Odufisan(Northwestern University)、 塩見 淳一郎(東京大学) 他
所属
東京大学 工学系研究科 総合研究機構/機械工学専攻 熱エネルギー工学研究室/塩見・李・浅野研究室
著者からのひと言
FDTR法は,レーザー光を用いて材料に触れることなく,非常に小さな領域で熱の伝わり方を調べることができる計測手法です.サーモリフレクタンス法は近年,広く用いられるようになっていますが,本論文ではFDTR法を実際に運用するための基本的な測定手順や注意点を整理し,材料の境界部分において熱の流れがどのように変化するかを具体例とともに紹介しています.FDTR装置の新規導入や測定条件の検討を行う際の参考資料としてご活用いただければ幸いです.

抄訳

周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法は,材料の熱物性を非破壊かつマイクロスケールの空間分解能で評価できる光学的計測手法である.本手法では,周波数変調したポンプレーザーによって試料表面に周期的な温度変化を与え,プローブレーザーを用いてその局所的な熱応答を検出する.得られた信号を熱輸送モデルに基づいて解析することで,試料の熱伝導率などの熱物性を評価できる.本論文では,FDTR法の実装方法や局所熱伝導率測定の具体的な手順を体系的に解説するとともに,レーザー条件が測定結果に与える影響や誤差要因,不確かさの評価について詳述する.さらに,具体例として単結晶シリコン基板間の界面近傍を対象とした熱伝導率イメージングを行い,界面が局所的な熱輸送特性に影響を与える様子を可視化する.FDTR法は,熱電材料などにおける界面熱抵抗の理解や,材料・デバイス設計の高度化に貢献するものである.

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2026/01/07

カルバペネム耐性非発酵グラム陰性桿菌による人工呼吸器関連肺炎マウスモデルにおけるセフィデロコルの有効性と薬物動態学的評価

論文タイトル
Efficacy of cefiderocol in murine models of ventilator-associated pneumonia caused by carbapenem-resistant non-fermenting Gram-negative bacilli, with pharmacokinetic evaluation
論文タイトル(訳)
カルバペネム耐性非発酵グラム陰性桿菌による人工呼吸器関連肺炎マウスモデルにおけるセフィデロコルの有効性と薬物動態学的評価
DOI
10.1128/spectrum.02568-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
太田 賢治 賀来 敬仁 他
所属
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病態解析・診断学
著者からのひと言
人工呼吸器関連肺炎(VAP)は重症度および死亡率が高く、迅速かつ適切な抗菌薬治療が重要な病態です。しかし、カルバペネム耐性緑膿菌やアシネトバクター属菌が原因菌となる場合、有効な治療選択肢は極めて限られます。本研究では、カルバペネム耐性菌にも有効なセフィデロコルの有効性を薬物動態の観点を含めて検証し、原因菌により必要な投与量が異なる可能性を示しました。動物実験ではありますが、本研究成果が治療困難な薬剤耐性菌感染症に対する治療戦略構築において活用されることを期待しています。

抄訳

本研究では、カルバペネム耐性Pseudomonas aeruginosa(CR-Pa)および Acinetobacter baumannii(CR-Ab)を用いて人工呼吸器関連肺炎(VAP)マウスモデルを構築し、新規抗菌薬であるセフィデロコルの有効性を評価した。セフィデロコルの投与設計は薬物動態解析に基づき、血中遊離薬物濃度が各菌の最小発育阻止濃度(MIC)を上回る時間(fT>MIC)を指標とした。fT>MIC 70%で投与量を設定した場合、CR-Ab感染VAPモデルでは生存率の改善および肺内菌量の有意な減少が認められた。一方、CR-Pa感染VAPモデルでは同条件で十分な殺菌効果は得られず、fT>MIC 90%以上で明確な菌量減少が確認された。本研究は、原因菌によって必要なセフィデロコル投与量が異なる可能性を示し、PK/PDに基づく合理的な治療戦略構築に重要な知見を提供する。

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2026/01/06

2023~2025年における日本・東京での二系統薬剤耐性Mycoplasma genitaliumの拡大

論文タイトル
Spread of dual-class drug-resistant Mycoplasma genitalium in Tokyo, Japan, 2023–2025
論文タイトル(訳)
2023~2025年における日本・東京での二系統薬剤耐性Mycoplasma genitaliumの拡大
DOI
10.1128/aac.01367-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
大町竜羽 今井一男 他
所属
埼玉医科大学病院 臨床検査医学 (中央検査部)
著者からのひと言
Mycoplasma genitaliumは性感染症の1種で、近年は不妊や早産との関連が報告されており、公衆衛生上の重要性が高まっています。薬剤耐性、とりわけキノロン系薬剤に対する高度耐性を有するクローンが拡大した場合、治療は極めて困難となります。本研究の結果は、薬剤耐性率の動向把握に加え、遺伝子型解析を含めた継続的な監視体制の構築の必要性、ならびに性感染症領域におけるさらなる抗菌薬適正使用推進が早急に求められていることを示しました。

抄訳

マクロライド耐性関連変異(MRMs)およびフルオロキノロン耐性関連変異(QRMs)を有する Mycoplasma genitalium(MG)の増加は世界的な問題であるが、日本における耐性状況や遺伝的多様性に関する情報は限られている。本研究では、2023~2025年に東京で採取されたMG陽性患者162例188検体を対象に、耐性変異解析、mgpBおよびMG309による分子疫学解析、ならびに治療成績との関連を検討した。その結果、MRMsは94.4%、QRMsであるparC変異は93.7%、gyrA変異は22.5%に認められ、MRMsとQRMsを併せ持つ二系統薬剤耐性株は89.4%を占めた。parCおよびgyrA変異を有する高度キノロン耐性株に対するキノロン治療失敗率は52.4%と高率であった。さらに、mgpBアリル79、140、161、184を有する耐性クローンの出現が確認された。以上より、東京における二系統薬剤耐性株の拡大が示され、継続的な分子監視と抗菌薬適正使用の重要性が示唆された。

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2026/01/06

免疫不全状態の日本人患者から分離された新規 Mycobacterium 属(新種)の完全ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of a new Mycobacterium sp. nov. from a compromised Japanese individual
論文タイトル(訳)
免疫不全状態の日本人患者から分離された新規 Mycobacterium 属(新種)の完全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00421-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
浅井信博 三鴨廣繁 他
所属
愛知医科大学医学部 臨床感染症学講座

抄訳

本報告は、血液悪性腫瘍を有する免疫不全の日本人患者から分離された新規Mycobacterium(strain AMU20-3851;“Mycobacterium nagakutense”として言及)の完全ゲノム配列を提示するアナウンスメントである。菌は血液培養(約90時間)で検出され、Ogawa培地で培養後、フェノール/クロロホルム法でDNA抽出し、PacBio Sequel II(HiFi/CCS)でシーケンスを実施した。得られたHiFiリードをhifiasmでアセンブルし、dnaA開始に調整、NCBI PGAPで注釈付けした。染色体は6,056,820 bp、G+C 68%で、5,822遺伝子を予測し、平均311×の深度で決定された。ANI解析では近縁種(M. diernhoferi 90.5%など)と種境界以下であり、新種の比較ゲノム・系統解析の基盤データとなる。データはGenBank(GCF_043974665.1)等に登録済みである。

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2026/01/05

放射線治療晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に発生したchronic expanding hematomaの一例

論文タイトル
Chronic expanding haematoma caused by rib fractures after radiation therapy
論文タイトル(訳)
放射線治療晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に発生したchronic expanding hematomaの一例
DOI
10.1136/bcr-2025-268331
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 12
著者名(敬称略)
永田宗大 他
所属
東京大学医学部附属病院 心臓外科・呼吸器外科
著者からのひと言
chronic expanding hematomaは完全切除が望ましいとされるが、手術侵襲は大きく周囲臓器の損傷などの合併症の懸念もある。放射線由来のCEHの手術方法の選択には、原疾患に対して放射線治療を選択した経緯や耐術能も念頭に置く必要がある。本症例では神経症状の改善を目的としたアプローチにより良好な経過を得ることができた。今後の治療選択の一助となることを期待する。

抄訳

chronic expanding hematoma(CEH)は緩徐に増大する血腫と定義され、多くは慢性感染症や外科手術を契機に発生する。今回、放射線治療後の晩期障害として生じた肋骨骨折を契機に、左胸郭出口部に発生したCEHの手術症例を経験した。血腫による腕神経叢の圧排に伴う手指尺側の痺れ症状を呈しており、画像精査及び生検を行いCEHと診断された。三次元CTでのシミュレーションをもとに、左鎖骨上窩に小切開をおき、鏡視下併用で血腫を確認し被膜を含め可及的に除去しえた。術直後より神経症状は改善し現在、術後1年経過も血腫の再発は認めていない。

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2026/01/05

短腸症候群を有する小児に生じた症候性ビタミンA欠乏症

論文タイトル
Symptomatic vitamin A deficiency in a paediatric patient with short bowel syndrome
論文タイトル(訳)
短腸症候群を有する小児に生じた症候性ビタミンA欠乏症
DOI
10.1136/bcr-2025-268985
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 12
著者名(敬称略)
髙橋 達也 他
所属
国立成育医療研究センター神経内科
著者からのひと言
先進国ではまれと考えられがちなビタミンA欠乏症が、短腸症候群の小児では実臨床で失明リスクを伴う現実的な問題となり得ることを示した重要な症例です。とくに「TPNやSPNをしていれば安全」という思い込みへの警鐘として、夜盲や結膜乾燥といった初期眼症状を見逃さず、即座に血清レチノールを測定する実践的メッセージが臨床医に強く響く論文です。

抄訳

【背景】短腸症候群(short bowel syndrome: SBS)では脂溶性ビタミンの欠乏が生じやすいが、先進国において症候性ビタミンA欠乏症はまれである。
【症例】思春期早期の男児。ヒルシュスプルング病類縁疾患であるHypoganglionosis(腸管神経節細胞僅少症)に対する手術後に重症SBSとなり、乳児期より在宅補助的静脈栄養(SPN)を継続していた。夜盲を主訴に受診し、結膜乾燥およびビトー斑を認めた。血清レチノール値は4.2 µg/dLと著明低値であったが、ビタミンD・E・Kは正常範囲内であった。
【治療と経過】吸収障害を考慮し、ビタミンA 10万IUを筋注で1・2日目および2週後に投与したところ、夜盲および眼所見は速やかに改善した。
【考察】SBSでは胆汁酸依存性が最も高いビタミンAが選択的に欠乏しやすく、SPN施行中であっても症候性欠乏を来す可能性がある。眼症状を契機とした早期診断と迅速な補充療法が失明予防に重要である。

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2026/01/05

標準的リガンド結合ドメイン内のEGF特異的O-グルコース糖鎖伸長構造の違いはDLL1/4 - NOTCH1シグナル伝達を制御する

論文タイトル
Differential O -glucose elongation on a specific EGF repeat within the canonical ligand–binding domain regulates DLL1/4-NOTCH1 signaling
論文タイトル(訳)
標準的リガンド結合ドメイン内のEGF特異的O-グルコース糖鎖伸長構造の違いはDLL1/4 - NOTCH1シグナル伝達を制御する
DOI
10.1073/pnas.2504827122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.43 e2504827122
著者名(敬称略)
塚本 庸平 竹内 英之 他
所属
静岡県立大学薬学部 生化学分野
著者からのひと言
糖鎖生物学の観点で見ると、タンパク質上の糖鎖構造として本論文で報告したNeu5Ac-Galactose-Glucoseという構造は、我々の知る限り、これまでに知られていなかったものである。さらにこの構造を合成するのはラクトース合成酵素のB4GALT1であることが明らかになったが、一般的にその際に必要となるラクトアルブミンの非存在下でも、この構造は合成されることも明らかになった。Notch受容体研究の観点では、たった一か所の糖鎖修飾の変化がNotchシグナルを大きく変化させることを報告している。このように糖鎖生物学、Notch受容体研究の両面で興味深い発見を報告している。

抄訳

Notchは多細胞生物の発生、分化、恒常性に重要なシグナル伝達受容体である。Notchは細胞外に多数の上皮増殖因子 (EGF) 様リピートと呼ばれる構造を持つ。このNotchの機能はEGFに存在する複数の翻訳後修飾に制御されていることが知られている。その一つであるO-グルコース糖鎖はこれまでキシロース二残基により伸長されることが知られていた。しかし、筆者らは、精密な質量分析法を用いて、O-グルコースがガラクトースとN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)によっても伸長されうることを発見した。この新たに発見した構造はNOTCH1とNOTCH3の特定のEGFのみに付加する。さらに、EGF内の糖鎖修飾部位ではない特定のアミノ酸に強く依存して存在していることが明らかになった。この構造の機能として、NotchとNotchリガンドであるDLL1およびDLL4との結合を抑制し、Notchシグナルを抑制していることが明らかになった。さらに、リンパ球前駆体細胞においては、DLL1およびDLL4によるNotchシグナル依存的なT細胞への分化を抑制することも明らかになった。これらの発見はO-結合型糖鎖修飾による複雑なNotch受容体制御機構の理解に貢献する。

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2025/12/22

生体イメージングで捉える関節内白血球の動態解明

論文タイトル
In Vivo Imaging Uncovers the Migratory Behavior of Leukocytes within the Joints
論文タイトル(訳)
生体イメージングで捉える関節内白血球の動態解明
DOI
10.3791/68091-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (226), e68091
著者名(敬称略)
宮部 千恵 宮部 斉重 他
所属
聖マリアンナ医科大学 免疫学・病害動物学 宮部研究室
著者からのひと言
本動画論文の最大の魅力は、「論文を読むだけでは分からない細胞の動き」を実際に目で見て理解できる点にあります。関節という観察が難しい臓器での免疫細胞挙動を、手技・セットアップ・解析まで含めて動画で学べるため、研究室への導入や再現性の高い実験系構築に直結します。インビボイメージングに興味をもち、関節炎研究、免疫学、創薬評価に携わる研究者にとって、実践的なコンテンツです。

抄訳

関節炎研究において、免疫細胞が関節へどのように遊走・浸潤し、炎症を形成するのかを「生きたまま」観察することは長年の課題であった。本論文では、独自に確立した関節内インビボイメージング技術を用い、マウス関節内における白血球の動態をリアルタイムかつ高解像度で可視化する手法を詳細に紹介している。本動画を通じて、白血球の血管外遊走、関節組織内での遊走様式、炎症環境に応じた挙動変化を視覚的に理解することが可能である。本手法は、関節炎の病態解明のみならず、抗炎症薬や免疫調節薬の作用評価、創薬研究における新たな評価基盤として高い汎用性を有しており、基礎研究者から臨床研究者まで幅広い分野での活用が期待される。

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2025/12/18

ゼブラフィッシュ胚を用いた組換えヒトノロウイルスの作出

論文タイトル
Recovery of infectious recombinant human norovirus using zebrafish embryos
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ胚を用いた組換えヒトノロウイルスの作出
DOI
10.1073/pnas.2526726122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2526726122
著者名(敬称略)
小瀧 将裕 小林 剛 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 ウイルス免疫分野
著者からのひと言
私たちの研究グループは、これまでノロウイルスと同様に急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスなど、いくつかのRNAウイルスで人工合成系を開発してきました。本研究では、これまでに培ってきたウイルス人工合成技術に加え、ノロウイルスが安定的に増殖できるゼブラフィッシュに着目することで、感染性ノロウイルスの人工合成に世界で初めて成功しました。今後は、本研究成果をさらに発展させることで、ノロウイルスのワクチンや治療薬の開発へとつなげていきたいと考えています。

抄訳

ヒトノロウイルス(ノロウイルス)は急性胃腸炎を引き起こし、感染者数や社会的損失の大きさから、最も重要な腸管感染症病原体の一つである。しかし、ワクチンや治療薬の開発は依然として遅れている。その主な要因として、実用的なノロウイルスの人工合成系が確立されていないことが挙げられる。
本研究では、ゼブラフィッシュを用いたノロウイルス培養系を活用し、感染性を有するノロウイルスの人工合成系を確立した。まず、ノロウイルスゲノム由来cDNAを培養細胞に導入し、培養上清をゼブラフィッシュ胚へ注入することで、組換えノロウイルスの作製に成功した。作製した組換えウイルスは、ヒト腸管オルガノイドにおいても増殖能を示し、感染性が確認された。さらに、培養細胞を介さずに、ノロウイルスゲノム由来cDNAをゼブラフィッシュ胚に直接注入することで、より効率的な人工合成系の開発に成功した。加えて、本技術を用いることで、レポーター遺伝子挿入ウイルスや異なる遺伝子型間のキメラウイルスの作製が可能であることも実証した。
本研究成果により、ウイルス複製機構の解析やノロウイルスワクチンおよび治療薬の開発が飛躍的に進展すると期待される。

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2025/12/18

Tppp3は細胞内の微小管構造形成とスフィンゴ脂質恒常性を介して呼吸器繊毛における基底小体の配置と繊毛膜の独立性を制御する

論文タイトル
Tppp3 determines basal body positioning and identity of respiratory cilia via microtubule assembly and sphingolipid homeostasis
論文タイトル(訳)
Tppp3は細胞内の微小管構造形成とスフィンゴ脂質恒常性を介して呼吸器繊毛における基底小体の配置と繊毛膜の独立性を制御する
DOI
10.1073/pnas.2503931122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2503931122
著者名(敬称略)
酒井 敬史 篠原 恭介 他
所属
東京農工大学大学院工学府生命工学専攻
著者からのひと言
私たちの身体を守るうえで欠かせない気管の繊毛は、絶えず外界からの異物を運び出す「流れ」をつくっています。この流れが乱れないためには、繊毛が細胞内で正しく配置され、個々が独立した構造を保つ必要があります。本研究では、これまで注目されてこなかった Tppp3 というタンパク質が、繊毛の配置や膜構造に関与していることを発見しました。繊毛の機能を支える細胞内メカニズムを理解することで、さまざまな呼吸器疾患の背景にある問題に新しい視点から迫れると期待しています。

抄訳

気管の内側には、繊毛と呼ばれる毛様構造が密に並び、外から侵入する細菌やウイルスを粘液とともに排出しています。気管の繊毛は1つの細胞から数百本も生えていますが、それらが同じ方向へ揃い、さらに各繊毛膜が互いに融合せず独立して存在する仕組みは、十分に理解されていませんでした。本研究では、細胞骨格の一つである微小管に関連するタンパク質 Tppp3 のマウス呼吸器繊毛細胞における役割を解析しました。その結果、Tppp3が細胞内微小管構造を制御することによって、繊毛の根元にある基底小体の向きと配置を決定づけていることを明らかにしました。さらに、Tppp3は繊毛膜に存在するセラミドの量を調節し、繊毛膜同士の融合を防いでいることを示しました。加えて、Tppp3は嗅覚を担う嗅覚神経細胞でも微小管構造の形成に関与し、ニオイの感知に必須な繊毛形成を支えていることが分かりました。これらの成果は、呼吸器疾患や嗅覚障害の背景にある細胞レベルのメカニズムを理解に新たな視点を提示しています。

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2025/12/15

視床-皮質相互作用は、ヒト多能性幹細胞由来アセンブロイドにおける細胞種特異的な大脳皮質の発生を駆動する

論文タイトル
Thalamus–cortex interactions drive cell type–specific cortical development in human pluripotent stem cell–derived assembloids
論文タイトル(訳)
視床-皮質相互作用は、ヒト多能性幹細胞由来アセンブロイドにおける細胞種特異的な大脳皮質の発生を駆動する
DOI
10.1073/pnas.2506573122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.47 e2506573122
著者名(敬称略)
筆頭著者:西村 優利
連絡著者:小坂田 文隆
所属
名古屋大学 大学院創薬科学研究科 細胞薬効解析学分野
著者からのひと言
私たちは「脳を作って理解する」アプローチで、ヒト脳の視床と大脳皮質の相互作用を試験管内で再現し、視床入力が細胞種レベルで大脳皮質の神経回路の形成を制御することを示しました。この成果は、ヒト脳の発生・発達の理解を深めるとともに、神経発達症の原因解明と創薬開発へ繋がると期待しています。

抄訳

本研究では、ヒト多能性幹細胞由来の大脳皮質オルガノイドと視床オルガノイドを融合した視床皮質アセンブロイド(hThCA)を用い、視床–皮質相互作用がヒト大脳皮質の発達をどのように制御するかを明らかにした。hThCAでは双方向の軸索投射とシナプスが再構成され、視床入力により軸索形成・皮質板関連・活動依存的遺伝子の発現上昇を伴う大脳皮質の成熟が加速した。組織解析では、神経前駆細胞プールの拡大と深層ニューロンの増加が認められた。さらに、hThCAにおいて、神経活動が視床から大脳皮質へ波状に伝播し、大脳皮質側では錐体路(PT)ニューロンと皮質視床(CT)ニューロンにのみ同期活動が出現し、大脳内(IT)ニューロンは非同期のままであった。以上より、視床由来の拡散性因子が前駆細胞の増殖を、長距離シナプス入力が細胞種特異的な同期ネットワークの形成を担うことが示唆される。hThCAは視床皮質連関の破綻が関与する神経発達症の分子・細胞・回路レベルでの解析を可能にする有効なヒト脳モデルとなる。

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2025/12/10

プロスタグランジン E2-EP2/EP4受容体経路は、腫瘍増殖のための腫瘍浸潤Tregに特徴的な表現型を獲得させる。

論文タイトル
Prostaglandin E2-EP2/EP4 signaling induces the tumor-infiltrating Treg phenotype for tumor growth
論文タイトル(訳)
プロスタグランジン E2-EP2/EP4受容体経路は、腫瘍増殖のための腫瘍浸潤Tregに特徴的な表現型を獲得させる。
DOI
10.1073/pnas.2424251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2424251122
著者名(敬称略)
松浦 竜真 成宮 周 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 創薬医学講座
著者からのひと言
EP4阻害薬は、固形癌に対する治験が幾つか進行中で、最近では、その一つで、胃がんを対象とする第2相治験で有効性を示したと報告されました。また、抗CCR8抗体をはじめとするTI-Treg選択的除去型のがん免疫治療薬の臨床試験も近年続々と進められています。本研究で得られた知見は、これら薬物の臨床開発戦略の構築、例えば、免疫学的特徴に基づく適応がん患者の層別化など、を推進するための科学的基盤を形成すると期待されます。

抄訳

制御性T細胞 (Treg) は、自己免疫疾患などの過剰な免疫反応を抑制し免疫系のバランスを維持するものですが、一方、がんでは、腫瘍組織に強く集積し、がん免疫を抑制してがんの進展を促進します。この腫瘍に浸潤したTreg (TI-Treg) は、活性化を起こす分子を多様に発現し免疫を強く抑制するのが特徴です。この腫瘍に浸潤したTregに特徴的な表現型 (TI-Treg Phenotype) は、ヒトの様々な癌でステージによらず見られ、マウスなどの実験的腫瘍でも観察されることから、腫瘍微小環境には癌の種類を超えて共通のTreg活性化メカニズムが存在すると考えられていましたが、その本体は不明なままでした。本研究は、生理活性脂質のプロスタグランジン(PG) E2 が、腫瘍内の環境因子の一つであり、Treg自身のPGE受容体EP2/EP4サブタイプに作用してTI-Tregに特徴的な表現型を獲得させ、抗腫瘍免疫をより強く抑制して腫瘍の進展を助長していることを見出しました。

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2025/12/10

HCV IRES 依存的翻訳における eIF3 の役割の構造基盤

論文タイトル
Structural insights into the role of eIF3 in translation mediated by the HCV IRES
論文タイトル(訳)
HCV IRES 依存的翻訳における eIF3 の役割の構造基盤
DOI
10.1073/pnas.2505538122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2505538122
著者名(敬称略)
岩崎 わかな 伊藤 拓宏 他
所属
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター 翻訳構造解析研究チーム

抄訳

RNAウイルスや一部のヒト遺伝子は、キャップ非依存的に翻訳を開始する内部リボソーム侵入部位IRESを持つ。本研究では、C型肝炎ウイルス(HCV)のIRESがリボソームと翻訳開始因子eIF3に同時結合した開始から伸長の段階の複数のクライオ電子顕微鏡構造を決定した。eIF3コアはIRESのIIIbに強く結合してリボソーム上から押し出される一方、架橋質量分析によりeIF3の非コアサブユニットはキャップ依存開始複合体と同様のリボソーム上の部位に留まり得ることが分かった。このeIF3の配置は、宿主mRNAとの競合を克服しウイルスの翻訳を促進する機構を説明するものである。さらに、翻訳伸長中にeIF3c のN末端ドメインが60Sに結合することを明らかにした。これは、eIF3がIRES依存的な翻訳開始だけでなく伸長や再開始にも関与する可能性や、通常のキャップ依存的な翻訳においても60Sとの結合や伸長リボソーム上でのeIF3の安定化に寄与する可能性を示すものである。

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2025/12/09

わが国の伝統食・奈良漬の発酵を担う好エタノール性乳酸菌 Fructilactobacillus fructivorans

論文タイトル
Ethanolphilic lactic acid bacterium Fructilactobacillus fructivorans as the key microorganism for fermentation of narazuke, a traditional Japanese preserved food
論文タイトル(訳)
わが国の伝統食・奈良漬の発酵を担う好エタノール性乳酸菌 Fructilactobacillus fructivorans
DOI
10.1128/aem.01730-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
吉岡 求 赤坂 直紀 渡辺 大輔 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域微生物インタラクション研究室
著者からのひと言
奈良漬は、酒粕に漬ける漬物というイメージが強い一方、発酵の実態は意外に未解明でした。本研究では、微生物叢解析と再現試験により奈良漬発酵の鍵微生物を特定し、さらに好エタノール性という新しい環境適応戦略を提示しました。伝統的発酵食品には、いまだ解明されていない微生物の世界が広がっています。今回の発見を起点に、様々な発酵食品の品質向上や地域産業の発展につながる研究へと展開していきたいと考えています。

抄訳

奈良漬とは、酒粕に塩漬野菜を繰り返し漬け込んで作る日本の伝統的保存食である。その原型は8世紀に遡るとされ長く日本人に親しまれてきた一方で、微生物による発酵が起こっているかどうかは不明であった。本研究における微生物叢解析の結果、製造工程が進むにつれて最終的に乳酸菌Fructilactobacillus fructivoransが単独優占することを見出した。ラボスケールでの製造試験でも同菌が優占し、2か月の熟成に伴う乳酸増加が確認されたことから、F. fructivoransが奈良漬発酵の主担当菌であることを示した。奈良漬環境はエタノールを含有し微生物にとって過酷なものである。奈良漬由来F. fructivoransは、エタノール存在下で無添加条件より速く増殖する好エタノール性を示し、比較トランスクリプトーム解析により脂肪酸代謝の改変がその原因となっている可能性が示唆された。

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2025/12/09

非侵襲性乳酸菌(Lactococcus lactis)ベクターを用いた粘膜DNAワクチンの免疫原性とプラスミド送達経路

論文タイトル
Immunogenicity and plasmid delivery pathways of non-invasive Lactococcus lactis-vectored mucosal DNA vaccination
論文タイトル(訳)
非侵襲性乳酸菌(Lactococcus lactis)ベクターを用いた粘膜DNAワクチンの免疫原性とプラスミド送達経路
DOI
10.1128/iai.00460-25
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Ahead of Print
著者名(敬称略)
川嶋 更奈 髙橋 圭太 他
所属
岐阜薬科大学感染制御学研究室
著者からのひと言
非侵襲性の細菌が、どのように宿主細胞へ遺伝子を届けるのか?この疑問に対し、本研究では「貪食作用」が主要ルートであることを細胞レベルで実証しました。単にワクチン効果を見るだけでなく、細菌と宿主免疫系の相互作用を理解する上でも興味深い結果だと考えています。安全性が高い乳酸菌ベクターの改良や、新たな経鼻ワクチン戦略の設計に資する基礎的知見として、ぜひご一読いただければ幸いです。

抄訳

粘膜DNAワクチンは、病原体の侵入部位である粘膜面において免疫を誘導できる有望な手法です。中でも食品微生物として安全性が確立されている非侵襲性の乳酸菌をベクターとして利用する試みは、従来の侵襲性細菌ベクターに代わる安全なプラットフォームとして期待されています。しかし、非侵襲性乳酸菌がどのようにしてプラスミドDNAを宿主細胞へ届け、免疫を誘導するのか、その詳細なメカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした。本研究では、モデル抗原発現プラスミドを保持した乳酸菌をマウスに経鼻投与し、その免疫原性と体内での挙動を解析しました。その結果、経口投与と比較して経鼻投与では高い免疫応答が得られ、抗原特異的な血清IgGおよび粘膜IgAの誘導が確認されました。さらに、プラスミド送達メカニズムを検証したところ、プラスミドの主要な受取手は粘膜上皮細胞ではなく、マクロファージなどの貪食細胞である可能性が示されました。本研究成果は、貪食細胞を標的とした非侵襲性乳酸菌ベクターによる新たな経鼻DNAワクチン開発の基盤となる重要な知見です。

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