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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/05/23

時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される

論文タイトル
The priming phosphorylation of KaiC is activated by the release of its autokinase autoinhibition
論文タイトル(訳)
時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf136
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 5, May 2025, pgaf136
著者名(敬称略)
古池 美彦 森 俊文 秋山 修志 他
所属
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門
著者からのひと言
細胞内環境を保つためには、各種酵素の活性制御が必須です。そのため、酵素と基質の出会いの確率の調節や、基質との親和性の制御など、複数のメカニズムが働いています。本研究では、概日リズムという「1日」の時間スケールのなかで、基質ATPを結合しながら、そのうえで活性部位の静電環境を調整することで活性制御する時計タンパク質KaiCの特異なメカニズムが明らかになりました。反応速度の変化が計時機能に直結するKaiCでは、夾雑系の影響が少ない分子内でのリン酸化制御が有用であったと考えられます。

抄訳

シアノバクテリアの概日リズムは、時計タンパク質KaiCのT432・S431における周期的な自己リン酸化・自己脱リン酸化によって生じ、とりわけリン酸化の進行にはKaiAの関与が必須であると考えられてきた。しかしながらKaiCのリン酸化がいかに活性化・不活性化されるのか、そのメカニズムは明らかになっていない。我々は、KaiA非存在下でもT432のリン酸化が起こるものの、その反応速度は非常に遅く、KaiC自身が活性を抑制していることを見出した。この自己阻害の仕組みに迫るため、KaiCの立体構造データを用いて計算機シミュレーションを行った。その結果、T432がアデノシン三リン酸の末端リン原子への求核攻撃に適した位置にあること、そして反応の進行に必要な一般塩基であるE318の触媒作用がR385によって静電的に抑制されていることが明らかになった。そこでKaiC変異体を用いてE318にかかる抑制の程度を検証したところ、KaiAの結合に伴ってR385が遊離することで自己阻害が解除されることが分かった。

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2025/05/22

単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性

論文タイトル
Direct relationship between protein expression and progeny yield of herpes simplex virus 1
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性
DOI
10.1128/mbio.00280-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
野邊 萌香 丸鶴 雄平 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ウイルス感染細胞のシングルセル解析では、ウイルス遺伝子発現量と子孫ウイルス産生量が細胞ごとに大きくばらつくことが複数の研究で報告されています。しかし、従来は両者を別々に評価していたため、直接的な関連性は不明でした。本研究では、レポーターウイルス感染細胞の蛍光強度に基づいてセルソーターで細胞集団を分画し、それぞれのサブポピュレーションを統合解析するという、”ありそうでなかった”新規手法を確立し、ウイルスタンパク質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的かつ定量的な関係を初めて明らかにした論文です。

抄訳

細胞内のウイルス蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量は、細胞毎に大きくばらつくことが示されてきたが、その両者を同時に評価した研究はこれまで行われていなかった。本研究では単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の後期蛋白質Us11に蛍光蛋白質Venusを融合したレポーターウイルスを作製し、感染細胞をVenusの蛍光強度(すなわち後期蛋白質発現量)に応じて複数のサブポピュレーションに分画した。それぞれのサブポピュレーションのウイルス力価と電子顕微鏡解析を行った結果、後期蛋白質の発現量が特定の閾値を超えた場合のみ、ヌクレオカプシドの成熟が誘導され、子孫ウイルスが産生されることが明らかになった。

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2025/05/22

概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する

論文タイトル
Circadian clock–gated cell renewal controls time-dependent changes in taste sensitivity
論文タイトル(訳)
概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する
DOI
10.1073/pnas.2421421122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.19
著者名(敬称略)
松浦 徹 他
所属
関西医科大学 病理学講座
著者からのひと言
哺乳類では、概日時計によって制御される細胞周期の進行が、全身の複数の組織や培養線維芽細胞で観察されている。本研究では、概日時計により制御される細胞分裂が、マウスの舌において、II型味細胞の集団に日内変動をもたらすことを示した。これらのII型味細胞数の変動は、苦味、甘味、うま味の知覚に影響を与える。我々の知見は、概日時計による細胞分裂制御が、生理機能の日内リズム的変化、特に高い代謝回転を有する細胞において重要であることを示唆している。

抄訳

概日時計による細胞周期の制御により、臓器や組織で失われた細胞が日内リズムに応じて補充される。本研究では、マウス舌上皮における細胞集団の時間依存的変化をシングルセルRNAシーケンスで解析し、幹細胞/前駆細胞や分化細胞、特にII型味細胞の細胞数の変動を確認した。味蕾幹細胞除去により新規細胞産生を抑制するとこれらの変動は消失した。時計遺伝子Bmal1遺伝子のノックダウンで味蕾オルガノイドでの24時間周期の細胞分裂が消失することは概日周期による制御を示唆する。舌上皮ではアポトーシスのリズムも観察されたが、幹細胞除去で失われ、新生細胞供給が細胞死リズムに必要であることが示唆された。味覚テストでは時間帯によりII型味細胞由来の感受性に変化が見られ、概日時計が日内の細胞数変化を調節することで舌の機能を調節していることが示唆された。

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2025/05/15

腸内細菌共通抗原フリッパーゼWzxEは酸性環境、低温環境、高浸透圧環境における大腸菌の増殖に必要である

論文タイトル
Enterobacterial common antigen repeat-unit flippase WzxE is required for Escherichia coli growth under acidic conditions, low temperature, and high osmotic stress conditions
論文タイトル(訳)
腸内細菌共通抗原フリッパーゼWzxEは酸性環境、低温環境、高浸透圧環境における大腸菌の増殖に必要である
DOI
10.1128/aem.02595-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
山口 咲季 垣内 力 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・分子生物学分野
著者からのひと言
腸内細菌共通抗原(ECA)の生理的な役割は、十分には明らかになっていません。本研究では、ECAの合成過程が大腸菌のストレス耐性に重要な役割を果たすことを見出しました。

抄訳

腸内細菌に保存されている多糖類である腸内細菌共通抗原(ECA)のストレス耐性における役割は不明である。脂質結合型 ECA 繰り返し単位はECAフリッパーゼWzxEによって内膜を透過させられた後、ECAとなる。本研究では、ECAフリッパーゼWzxEの欠損株が酸性環境、低温環境、高浸透圧環境に対してコラン酸依存的に感受性を示すことを明らかにした。この結果は、脂質結合型 ECA 繰り返し単位が、コラン酸依存的に大腸菌の酸性環境、低温環境、高浸透圧環境に対する感受性を引き起こすことを示唆している。脂質結合型 ECA 繰り返し単位が WzxE と脂質結合型コラン酸繰り返し単位のフリッパーゼの両方によって内膜を透過させられる知見を考慮すると、WzxE欠損株の表現型のコラン酸依存性は、ストレス条件下で大量に産生されたコラン酸が脂質結合型コラン酸繰り返し単位のフリッパーゼを占有し、その結果、内膜上に脂質結合型 ECA 繰り返し単位が蓄積するモデルを提示している。

 

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2025/05/14

麻黄と桂皮はウイルスの侵入および複製阻害という多機序的な抗インフルエンザウイルス作用を持つ

論文タイトル
Multiple antiviral mechanisms of Ephedrae Herba and Cinnamomi Cortex against influenza: inhibition of entry and replication
論文タイトル(訳)
麻黄と桂皮はウイルスの侵入および複製阻害という多機序的な抗インフルエンザウイルス作用を持つ
DOI
10.1128/spectrum.00371-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
藤兼 亜耶 他
所属
福岡大学医学部総合診療学
著者からのひと言
この研究は、麻黄湯のインフルエンザに対する二重の抗ウイルス作用機構(侵入阻害+複製阻害)を初めて明らかにし、その効果がA型・B型インフルエンザに広く及ぶことを示しました。主要構成生薬の特定により、麻黄湯は多標的・広範囲に対応可能な治療薬候補として、パンデミック対策における薬剤再開発の新たな選択肢となり得ます。

抄訳

麻黄湯は、インフルエンザウイルス感染症に対する有効性がすでに知られている漢方薬であるが、その詳細な作用機序は未解明であった。本研究では、麻黄湯およびその構成生薬による抗インフルエンザウイルス作用のメカニズムを明らかにした。麻黄湯はウイルス表面のヘマグルチニン(HA)に結合し、A型(H1N1およびH3N2)およびB型を含む複数の株において、ウイルスの細胞侵入を阻害することが判明した。さらに、ウイルスとともに細胞内に取り込まれた麻黄湯は、ウイルス複製に必須なPAエンドヌクレアーゼにも結合し、その酵素活性を抑制した。構成生薬の中でも、麻黄および桂皮がHAおよびPAの双方に作用し、麻黄湯の抗ウイルス効果の中核を担っていることが示唆された。麻黄湯は、ウイルスの侵入と複製という複数の段階を標的とする多機序的な抗ウイルス作用を有しており、インフルエンザウイルスの変異にも柔軟に対応可能な新たな治療選択肢として期待される。

 

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2025/05/12

シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する

論文タイトル
Cleavage cascade of the sigma regulator FecR orchestrates TonB-dependent signal transduction
論文タイトル(訳)
シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する
DOI
10.1073/pnas.2500366122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
横山達彦 久堀智子 秋山芳展 他
所属
岐阜大学 大学院 医学系研究科 病原体制御学分野
著者からのひと言
私たちは,膜タンパク質を膜中で切断する特殊なプロテアーゼの切断基質を探索する過程で,FecRタンパク質が細胞内で連続的な切断を受けることを見出し,2021年に報告しました(Yokoyama et al., J. Biol. Chem., 2021).本研究ではこの発見を出発点として,FecRを介した鉄シグナル伝達機構の全体像を明らかにしました.今後,同様のタイプのシグナル伝達機構を理解する上で,本研究が重要な礎となることを願っています.最後に,本研究の土台となった膨大な研究を推進し,本研究領域の発展にご貢献されてきた,Max Planck Institute for Biology(ドイツ)のVolkmar Braun博士に心から敬意を表します.(横山達彦)

抄訳

生命にとって鉄は不可欠な元素であるが,環境中には微量しか存在しない.そのため,生命は外界の鉄を細胞内に取り込むシステムを高度に進化させて来た.細菌は外界環境の鉄を感知し,それに応じて鉄取り込みに関わる因子の発現を活性化するが,鉄を感知する分子メカニズムの全容は,長年にわたり明らかにされてこなかった.
グラム陰性細菌は外界の鉄を取り込む際に,分子モーターであるTonB-ExbBD複合体が生み出す機械的な力を利用することが知られている.本研究ではこの機械的な力が,シグナル伝達を担う膜タンパク質FecRにも伝わり,FecRの連続的な切断を引き起こすことを突き止めた.そして,この切断によって生じたFecR断片が,鉄の取り込みに必要な遺伝子群の発現を誘導することを明らかにした.本研究は,タンパク質切断を介したシグナル伝達の新たなメカニズムを提示し,生体機能制御の基盤となる仕組みの一端を明らかにしたものである.

内容の詳細は下記よりご覧ください.
プレスリリース:https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2025/04/entry18-14282.html

 

 

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2025/05/12

ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of Psychrobacter sp. GTC18467 isolated from snake in Japan
論文タイトル(訳)
ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00340-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
林 将大 他
所属
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 嫌気性菌研究分野
岐阜大学 高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)
著者からのひと言
ペット動物を取り巻く細菌について把握することは、病原性のメカニズムおよび人獣共通感染症のリスクを理解する上で重要である。本報は動物から分離された未知の細菌における病原性の解明に資する一報と考える。本株は岐阜大学微生物遺伝資源保存センター(https://gcmr.guias.gifu-u.ac.jp)にて入手が可能である。

抄訳

Psychrobacter 属は、Moraxellaceae 科に属する好気性のグラム陰性菌である。本菌群は環境中に広く存在し、一部の菌種はヒトへの病原性についても報告されている。
本論文では、2024年に岐阜県内で飼育されているニシキヘビの体表から分離された後、種レベルでの同定不能株として保存されていたPsychrobacter sp. GTC18467株について完全長ゲノムを決定した。ロングリードおよびショートリードを組み合わせて解析した結果、Psychrobacter sp. GTC18467株のゲノムは2,642,444 bp の環状染色体および3個のプラスミドで構成されていた。16S rRNA遺伝子配列を用いた系統解析の結果、最も近縁な菌種はPsychrobacter ciconiae であり、97.4 %の類似度を示していた。全ゲノム配列に基づく類縁菌種との比較解析の結果、本株はPsychrobacter の新種である可能性が示唆された。

 

 

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2025/05/09

アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立

論文タイトル
Xenopus laevis as an infection model for human pathogenic bacteria
論文タイトル(訳)
アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立
DOI
10.1128/iai.00126-25
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Ahead of Print
著者名(敬称略)
栗生 綾乃 垣内 力 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・分子生物学分野

抄訳

細菌の病原性とそれに対抗する宿主動物の免疫システムを理解するためには、感染モデル動物を使用した感染実験が必要不可欠である。感染実験に頻繁に利用されるマウスなどの哺乳動物は、倫理面とコスト面の問題から、多数の個体数を扱うことが困難である。本研究では、多数の個体数を扱うことが可能で、免疫システムがヒトと比較的近いアフリカツメガエルについて、ヒト病原性細菌の感染モデル動物として利用できるか検討を行った。
黄色ブドウ球菌、緑膿菌、リステリア・モノサイトゲネスの腹腔内注射により、菌量依存的にアフリカツメガエルの生存率が低下した。黄色ブドウ球菌および緑膿菌によるアフリカツメガエルの生存率の低下は、それぞれの細菌株に有効な抗菌薬を投与することで抑制された。さらに、黄色ブドウ球菌の病原性に関わるagr領域とcvfA遺伝子、ならびにリステリア・モノサイトゲネスの病原性に関わるLIPI-1領域の各欠損株は、アフリカツメガエルに対する病原性が低下していた。アフリカツメガエルにおける黄色ブドウ球菌の体内分布を検討したところ、腹腔内注射後30分の時点で、血液、肝臓、筋肉において黄色ブドウ球菌が検出され、死亡時刻までそれぞれの臓器における細菌数が維持されていた。
以上の結果から、アフリカツメガエルはヒト病原性細菌の病原性遺伝子の評価や抗菌薬の有効性評価に使用可能な感染モデル動物であると考えられる。本感染モデルは腹腔から全身へ細菌が移行する敗血症を模擬していると考えられ、敗血症における細菌と宿主の相互作用を研究する上で有用である。 

 

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2025/05/01

ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣

論文タイトル
Regulatory mimicry of cyclin-dependent kinases by a conserved herpesvirus protein kinase
論文タイトル(訳)
ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣
DOI
10.1073/pnas.2500264122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスが宿主タンパク質の多面的な機能を巧妙に模倣することで、宿主細胞をハイジャックし、自らの生存戦略を遂行していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有すると考えられます。ヘルペスウイルスが宿主に対して終生感染を成立させるという特性を踏まえると、本ウイルスのさらなる宿主共存戦略を解明することは、今後の抗ウイルス剤やワクチンの開発において極めて重要であると考えられます。

抄訳

これまで、単純ヘルペスウイルス(HSV)の特異的なキナーゼであるUL13は、宿主キナーゼであるサイクリン依存キナーゼ(CDK1, CDK2)の機能を模倣することが知られていた。本研究において、HSV-2 UL13のCDK1,CDK2活性制御部位に相当するUL13 Tyr-162が感染細胞内でリン酸化されることが明らかとなった。Tyr-162のリン酸化は、UL13による基質リン酸化を抑制し、CDKの自己制御機構を模倣していると考えられた。このリン酸化はマウス脳内での致死的なウイルス感染の抑制に加え、モルモットにおける効率的な回帰発症にも関与することが示唆された。これらの結果は、UL13がCDKの調節機構を模倣することで、ウイルスが宿主細胞をハイジャックし、それによって生存戦略を巧に遂行していることを示している。

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2025/05/01

マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
 

論文タイトル
MOB1 deletion in murine mature adipocytes ameliorates obesity and diabetes
論文タイトル(訳)
マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
DOI
10.1073/pnas.2424741122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS 122 (117) e2424741122  April 21, 2025
著者名(敬称略)
西尾 美希、山口 慶子、 大谷 淳二、前濱 朝彦、鈴木 聡 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 生化学・分子生物学講座 分子細胞生物学分野
日本バプテスト病院
著者からのひと言
成熟脂肪細胞におけるYAPの活性化が食事性肥満抵抗性・糖尿病発症抑制に作用することを解明し、またFGF21がYAPの直接の転写標的となって、YAPの作用を発揮することを示しました。

抄訳

肥満関連疾患が世界的に増加している。YAP1/TAZはマウス未熟脂肪細胞においてPPARγ活性を阻害して細胞分化を抑制することから、潜在的な治療標的として注目されていた。しかし、成熟脂肪細胞におけるYAP1活性化の役割は不明であった。肥満で発現が増加するMOB1は、YAP1/TAZ活性化を負に制御する。そこで、成熟脂肪細胞特異的にMOB1が欠損するマウス(aMob1DKOマウス)を作製した。高脂肪食を与えたaMob1DKOマウスは、基礎脂肪分解亢進、白色脂肪細胞の褐色化、エネルギー消費の増加、活性酸素産生や炎症の抑制を示し、食事誘発性肥満抵抗性、インスリン感受性や耐糖能の改善、異所性脂肪蓄積の減少をみた。これらの変化のほとんどは、YAP1の活性化に依存していた。また脂質代謝を改善するFGF21は、YAP1の活性化を介して直接アップレギュレートされ、aMob1DKOマウスの表現型の多くは、増加したFGF21に依存していた。われわれの研究は、YAPが新たなFGF21制御因子であることを示し、YAP1-FGF21軸が肥満の治療標的となる可能性を示唆した。

 

 

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2025/04/21

バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良

論文タイトル
Specific nucleotide substitutions in the burst sequence enhance polyhedrin expression in alphabaculoviruses: improvement of baculovirus expression vectors
論文タイトル(訳)
バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良
DOI
10.1128/aem.00144-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
勝間 進 他
所属
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 昆虫遺伝研究室
著者からのひと言
バキュロウイルスベクターシステム(BEVS)はワクチンや動物用医薬品、実験用試薬の製造に汎用されています。このシステムは約40年前に開発され、改良が進められてきましたが、まだその高発現メカニズムについて不明な点が多い状況です。本研究では、現在使われているほぼ全てのBEVSに適用できる高発現化手法に関する知見を提供するもので、本内容に関しては特許を申請中です。

抄訳

アルファバキュロウイルスは、宿主となるチョウ目昆虫の核内に大量の封入体を形成する。この封入体の主構成成分はウイルスの遺伝子産物であるポリヘドリン(POLH)であり、polh遺伝子の高発現のシステムを用いたベクターとしてバキュロウイルスベクター(BEVS)が開発された。polhの高発現には転写開始点と翻訳開始点の間のバースト配列が重要であることが判明している。本研究では、このバースト配列内に存在するA-rich領域に特定の変異を入れることでpolhのmRNA量が増大し、BEVSにおける発現量も増加することがわかった。バースト配列は現在汎用されているBEVSで共通している配列であるため、本発見は応用上すぐに適用できる発見であると言える。

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2025/04/21

原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術

論文タイトル
Exploration and analytical techniques for membrane curvature-sensing proteins in bacteria
論文タイトル(訳)
原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術
DOI
10.1128/jb.00482-24
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 207, No. 4
著者名(敬称略)
児美川 拓実 田中 祐圭 他
所属
東京科学大学物質理工学院生体分子化学研究室
著者からのひと言
曲率認識タンパク質は、生体膜の曲面構造を認識することで様々な細胞機能と密接に関与するタンパク質で、近年原核生物においても曲率認識タンパク質の存在が明らかになってきました。本総説は、原核生物の既知の曲率認識タンパク質を整理するとともに、in vitroや細胞での評価法に加えて、新規の曲率認識タンパク質を網羅的に探索する手法を紹介しています。これにより、原核生物においても新たな曲率認識タンパク質の発見と膜形態制御機構の解明が進むのではないかと期待しています。

抄訳

細胞内におけるタンパク質の局在性を制御するメカニズムは微生物学において重要なトピックの一つである。そのうち、生体膜の曲面形状(曲率)が細胞内においてタンパク質の局在を決める空間的な手がかりとなることが示されている。このような特定の曲率をもった生体膜と相互作用する「曲率認識タンパク質」は、細胞分裂や膜で囲まれたオルガネラ様構造の形成に関与している。本総説では、人工的に形状制御した生体膜と精製タンパク質を用いた曲率認識能のin vitro評価や生細胞を用いた評価法についての最近の研究を紹介する。しかし、これらの曲率認識能の評価は労力がかかることから、同定された曲率認識タンパク質の数は限られている。そこで、曲率認識能に基づく網羅的な探索法についても紹介する。加えて、既に細菌において明らかになっている曲率認識タンパク質とその分析法について整理するとともに、本研究領域の今後の展望について議論した。

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2025/04/18

細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった

論文タイトル
Uniform elementary fibrils in diverse plant cell walls
論文タイトル(訳)
細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった
DOI
10.1073/pnas.2426467122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.15
著者名(敬称略)
大長一帆 他
所属
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構

抄訳

セルロースナノファイバー(CNF)の断面寸法は、産業上の主原料である針葉樹に限らず、草本類の麻や、木本と草本の中間的な分類とされる綿であっても、ほぼ同一の2~3nmであり、CNF1本(植物組織学上のミクロフィブリル、または天然セルロースの結晶子)は、セルロース分子鎖18本で構成されるモデルが合致することを明らかにしました。これまでのセルロース結晶学では、樹木と麻・綿のCNFは、断面寸法が明瞭に異なり、別種の生合成機構が想定されてきました。この従来の理解は、これまでCNFを単離(孤立分散)させる技術がなく、複数の結晶子が合一したCNF凝集体を評価していたことに由来します。本成果により、高等植物であれば、木本と草本に差はなく、同様の機構で生合成していることが新たに想定されます。また、産業上も、樹木だけでなく、麻やエリアンサス、農業廃棄物等からも、均質なCNFを生産できることを本成果は示しています。

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2025/04/18

MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった

論文タイトル
Lipid fingerprinting by MALDI Biotyper Sirius instrument fails to differentiate the three subspecies of the Mycobacterium abscessus complex
論文タイトル(訳)
MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった
DOI
10.1128/jcm.01484-24
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Vol. 63, No. 4
著者名(敬称略)
吉田 光範 星野 仁彦 他
所属
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター
著者からのひと言
抗酸菌細胞壁は脂質に富んでいるため、他の病原体で成功事例のある脂質プロファイリングによる識別を試みた。しかしながら、Siriusシステム付属の解析ソフトウェアや代表的な機械学習法をもちいた分類モデルでは亜種の正確な識別は困難だった。臨床現場における簡易かつ迅速なMABC鑑別には、我々の開発したKANEKA DNA Chromatography MABC/erm(41)が有用である(EBioMedicine 2021;64:103187)。本法はすでに体外診断薬として承認されており、保険適応申請中である。

抄訳

Mycobacterium abscessus complex(MABC)による呼吸器感染症患者は増加傾向にある。マクロライド系薬剤に対する感受性が異なるため、MABC 3亜種の識別が臨床上重要とされている。本研究では、Bruker社製MALDI Biotyper Siriusシステムを用いた脂質プロファイリングを行いMABC亜種識別の有効性を評価した。全ゲノム解析済みの149株に対して、陰イオンモードによる質量分析を実施した。得られたデータに対して、Bruker社が提供するClinProToolsソフトウェアや、代表的な機械学習手法を用いて亜種分類モデルを構築した。本モデルによる分類と、ゲノムデータによる分類との一致率は56%、機械学習による分類精度も50%程度にとどまり、亜種間の正確な識別には至らなかった。したがって、脂質プロファイリング単独ではMABC亜種の識別は現状では困難であり、DNAクロマトグラフィーやGenotype NTM-DRなど、より正確な代替法の導入が臨床現場には必要である。

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2025/04/18

成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係

論文タイトル
Relationship between time-dependent epidermal ceramide composition changes and skin barrier function in adult mice
論文タイトル(訳)
成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係
DOI
10.1091/mbc.E24-12-0551
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 36, No. 5
著者名(敬称略)
平沼大雅、佐々貴之、木原章雄
所属
北海道大学大学院薬学研究院 生化学研究室

抄訳

セラミドの中でもアシルセラミドと結合型セラミドは皮膚バリア形成に重要である。しかし、これらのセラミド産生に関与する遺伝子のノックアウト(KO)マウスは新生児致死であるため、成体マウスにおけるKOの影響は不明であった。本研究では、脂肪酸伸長酵素遺伝子Elovl1のタモキシフェン誘導性コンディショナルKOマウスを作成した。タモキシフェン投与後、アシルセラミド濃度は5日目から減少し始め、10日目には脂質ラメラ形成障害と表皮肥厚が観察された。15日目には結合型セラミドが減少し、経皮水分蒸散量が増加した。その他のセラミド量の変化や脂肪酸部位の短鎖化も観察されたが、それらの時間経過はセラミドの種類によって異なっていた。本研究では、アシルセラミドとタンパク質結合型セラミドが成体の皮膚バリア維持に重要であることを明らかにすると共に、遺伝子発現、表皮形態、セラミド組成の変化など、皮膚バリア機能の低下に対する代償機構を見出した。

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2025/04/15

Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化

論文タイトル
Adaptive evolution of sesquiterpene deoxyphomenone in mycoparasitism by Hansfordia pulvinata associated with horizontal gene transfer from Aspergillus species
論文タイトル(訳)
Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化
DOI
10.1128/mbio.04007-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16  Issue 4  e04007-24
著者名(敬称略)
前田和弥 飯田祐一郎
所属
摂南大学農学部植物病理学研究室

抄訳

トマト葉かび病は、世界的にトマト生産に深刻な経済的損失をもたらしている。育種によって、Cf抵抗性遺伝子を持つ品種が開発されてきたが、葉かび病菌は新たな系統(レース)へと進化することで、これらの抵抗性品種を打破した。さらに、複数の化学殺菌剤に対する耐性を獲得していることから、持続可能な新たな防除法が求められている。葉かび病菌に寄生する菌寄生菌H. pulvinataは、生物防除剤として期待される。寄生性メカニズムの解明を目的に本研究では、菌寄生菌が産出する抗菌性セスキテルペンdeoxyphomenoneを解析した。我々は、菌寄生菌とAspergillus属の両方でdeoxyphomenone生合成遺伝子クラスター(DPH)を同定し、比較ゲノム解析によって菌寄生菌はDPH遺伝子クラスターをAspergillus属の祖先種から水平伝播によって獲得したことを明らかにした。またAspergillus属では内因性の胞子形成制御因子として機能していたdeoxyphomenone が、菌寄生菌では寄生性に有利な外因性の抗菌性物質として利用するように適用進化したと考えられた。以上のことから、菌寄生は、菌類における水平伝播を促進するメカニズムの一つである可能性が示唆された。

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2025/04/15

クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Nardonella sp.” Pin-AIST from the black hard weevil Pachyrhynchus infernalis
論文タイトル(訳)
クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01083-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

クロカタゾウムシという昆虫の細胞内に共生する細菌Nardonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは226,287 bpと極小であり、既報のNardonellaゲノムと高い相同性を示しました。Nardonellaはクロカタゾウムシにチロシンを供給することで、その硬い外骨格の形成を助けることが知られており、今回のゲノム解読の結果においてもチロシン合成系遺伝子が高度に保存されていることが分かりました。

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2025/04/15

糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する

論文タイトル
RNA editing of genomic neighbors controls antiviral response in fungi
論文タイトル(訳)
糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する
DOI
10.1016/j.chom.2025.02.016
ジャーナル名
Cell Host & Microbe
巻号
Cell Host & Microbe Volume 33, Issue 4
著者名(敬称略)
本田 信治 他
所属
福井大学 医学部 看護学科 基盤看護学分野 生命基礎科学研究室
著者からのひと言
糸状菌に保存された、後生動物とは異なる仕組みの新規RNA編集酵素を発見! 隣接遺伝子old-zaoは、カビ自身の"免疫暴走"とも言える過剰応答を引き起こして病気を誘導する、ユニークな抗ウイルス機構を制御します。この独自のRNA編集システムは、新たな遺伝子工学ツールとしての可能性を秘めるだけでなく、その仕組みを人為的に操作して病原糸状菌を弱毒化させる、新しい生物防除法への応用も期待されます。本号のPreviewでも紹介され、無料公開中です!

抄訳

アカパンカビをモデルに、糸状菌の抗ウイルス応答におけるRNA編集の役割を調査した。その結果、ゲノム上で隣接するA-to-I RNA編集酵素「old」とジンクフィンガー転写因子「zao」が、ウイルス感染応答を制御することを発見した。特にOLD酵素は、zao mRNA上の未成熟終止コドン(PSC)を標的に、タンパク質合成を中断するはずのシグナルをトリプトファンをコードするよう編集する。このPSC編集によって機能的な全長型ZAOタンパク質が合成され、その量が抗ウイルス応答の強弱を切り替える「分子スイッチ」として機能する。通常、このスイッチは適切に制御されて無症状感染を維持するが、主要な抗ウイルス防御機構であるRNAi(RNA干渉)経路が欠損すると、このシステムが過剰に活性化し、植物の過敏感反応にも似た重篤な症状(免疫暴走)を引き起こす。この「old-zao」遺伝子モジュールは、他の主要な糸状菌でも進化的に保存されていることが示唆された。

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2025/04/15

ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Carsonella ruddii” from a Japanese island strain of the Asian citrus psyllid Diaphorina citri
論文タイトル(訳)
ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01082-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

ミカンキジラミという昆虫の細胞内に共生する細菌Carsonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは173,958 bpと極小であり、既報のゲノムと高い相同性を示しました。ミカンキジラミはカンキツグリーニング病(huanglongbing)という植物の重要病害の病原体を媒介するベクターとして知られており、Carsonellaはミカンキジラミにアミノ酸等を供給することでその生育をサポートしていると考えられています。

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2025/04/15

真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性

論文タイトル
Substrate specificities of two ketosynthases in eukaryotic microalgal and prokaryotic marine bacterial DHA synthases
論文タイトル(訳)
真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性
DOI
10.1073/pnas.2424450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.12
著者名(敬称略)
尾形 海斗, 仲間 陸, 小笠原 泰志, 大利 徹 他
所属
北海道大学 大学院工学研究院 応用生物化学研究室
著者からのひと言
 DHAなどのPUFAは魚に多く含まれ、脳や心臓の健康を支える成分として知られています。微細藻類や海洋細菌が真の生産者ですが、複数の機能ドメインからなる巨大酵素であるDHA合成酵素が、厳密に制御された2炭素鎖伸長反応と還元反応を繰り返すことで炭素数22のDHAを特異的に生合成します。我々はPUFA合成酵素の仕組みに興味を持って研究をしていますが、本論文ではDHA合成酵素において2つのKSドメインの協同が重要であることを示しました。PUFAの効率的な発酵生産につながる重要な成果です。

抄訳

 ドコサヘキサエン酸 (DHA) は健康成分として知られる炭素数22の多価不飽和脂肪酸 (PUFA) であり、その生合成にはDHA合成酵素が関与します。真核微細藻類や原核海洋細菌由来のDHA合成酵素中には炭素鎖を2つずつ反復して伸長するケト合成酵素 (KS) ドメインが2つ (KSAとKSB/C) 含まれています。本研究では、2つのKSドメインの基質特異性を、組換え酵素とほぼ全ての中間体を用いたin vitro実験で解析しました。その結果、KSAは炭素数6、12、18の中間体を、KSBは炭素数8、14、20の中間体を特異的に認識すること、また、炭素数2、4、10の中間体は両ドメインによって認識されて鎖伸長反応が起こることを明らかにしました。これらの結果は、2つのKSドメインが中間体基質のチオエステル近傍の構造によって巧妙に使い分けられていることを示唆します。本研究は、DHA合成酵素の基質選択メカニズムを詳細に解明した初の包括的解析であり、PUFA合成の分子機構の理解を深めるとともに、DHAの効率的な生産技術の開発に貢献する可能性があります。

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