本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/10/29

Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する

論文タイトル
A steady-state pool of calcium-dependent actin is maintained by Homer and controls epithelial mechanosensation
論文タイトル(訳)
Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する
DOI
10.1073/pnas.2509784122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.43 e2509784122
著者名(敬称略)
松沢 健司 池ノ内 順一 他
所属
九州大学 大学院医学研究院 生化学分野

抄訳

私たちの体を構成する上皮細胞は、互いに引っ張り合う力のバランスをとることで、組織の形や安定性を保っています。本研究では、神経細胞のシナプス構成要素として知られるタンパク質 Homer が、上皮細胞にも発現しており、力の感知に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Homerは、細胞同士の接着部でカルシウムイオン(Ca²⁺)シグナルを介してアクチン骨格を安定的に保つことで、細胞が受ける力を感じ取り、その応答を調節していました。Homerを欠損させると、細胞間の張力が弱まり、上皮細胞シートの形態形成や協調的な動きが乱れました。さらに、カエル胚でHomerの機能を阻害すると神経管が正常に閉じなくなり、発生過程にも障害が生じました。これらの結果は、Homerが上皮細胞において、カルシウム依存的な力覚制御を担い、神経管閉鎖などの上皮細胞シートの形態形成に不可欠な分子であることを示しています。

論文掲載ページへ

2025/10/27

シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定

論文タイトル
Identification of CCR4C as a chloroplast-localized NADP(H) phosphatase regulating NAD(P)(H) balance in Arabidopsis
論文タイトル(訳)
シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定
DOI
10.1073/pnas.2504605122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.42 e2504605122
著者名(敬称略)
明石一樹 川合真紀 他
所属
埼玉大学・大学院理工学研究科
著者からのひと言
葉緑体補酵素のホスファターゼの正体を突き止めることは、長年の念願でした。本研究により、その実体がCCR4Cという新たな酵素であることを明らかにし、葉緑体の代謝バランス制御の理解が一歩進みました。今後、この知見が植物の環境応答や生産性向上の基盤研究へ発展し、持続的な農業や資源利用の一助となることを期待しています。

抄訳

NAD(P)(H)は生物のエネルギー代謝やストレス応答に関わる重要な補酵素である。植物の葉緑体局在型NADキナーゼ(NADK2)は、光合成に必要なNADP⁺を供給する酵素であり、NADK2欠損変異体(nadk2)は成長不良や葉の黄化を示す。本研究ではnadk2の表現型を回復する復帰変異体nkr1の原因遺伝子としてAt3g18500 (CCR4C)を同定した。CCR4Cは葉緑体に局在し、NADP(H)をNAD(H)に変換するホスファターゼ活性を持つことが組換えタンパク質を用いた実験より示された。さらに、ccr4c変異体はNAD(P)(H)バランスの変化と活性酸素ストレスへの耐性を示した。これらの結果から、CCR4C は葉緑体内のNAD(P)(H)バランスを制御する新たな因子であり、植物が光合成やストレス応答をどのように調節しているのかを理解するうえで、重要な知見を与える。

論文掲載ページへ

2025/10/21

HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する

論文タイトル
Hepatitis C virus NS3/4A protease cleaves SPG20, a key regulator of lipid droplet turnover, to promote lipid droplet formation
論文タイトル(訳)
HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する
DOI
10.1128/jvi.00890-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 2025 Sep23: e0089025
著者名(敬称略)
松井千絵子 勝二郁夫 
所属
神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター感染制御学分野
著者からのひと言
HCV は肝細胞内に脂肪滴を貯留させ、HCV複製の場を効率よく形成する。このことから、HCV は感染早期に脂肪滴を積極的に肥大化させて、ウイルス増殖に有利な環境を構築していると推察された。今回我々が、HCV 感染による脂肪滴肥大化機構の一端を解明したことにより、HCV増殖阻害、病態改善へとつながることが期待される。また、HCV感染による脂肪滴肥大化、肝脂肪化や肝発癌の分子機序の解明と制御法開発への発展が期待できる。

抄訳

C型肝炎ウイルス(HCV)は感染すると肝細胞内に脂肪滴の蓄積と肥大化を引き起こし、肝脂肪化の原因となる。また、HCVは脂肪滴近傍の膜で複製することから、HCV増殖および病原性に肝細胞の脂肪滴形成が重要である。しかしながら、HCVによる脂肪滴形成および肥大化の分子機構の詳細は不明な点が多い。本研究では、HCV感染が誘導する脂肪滴肥大化の分子機序を解明するため、脂肪滴調節因子SPG20に着目した。HCV NS3/4AプロテアーゼはSPG20を特異的に切断し、E3リガーゼItchが脂肪滴結合蛋白質アディポフィリン(ADRP)へリクルートされるのを阻害することを見出した。ADRPはItchによるユビキチン依存性蛋白分解を回避し、脂肪滴周囲にとどまることで、細胞内のリパーゼによる脂肪滴分解が回避され、脂肪滴の肥大化が維持されることが示唆された。本研究により、これまで未解明であったHCV 感染による肝細胞の脂肪滴肥大化の分子機構が解明され、HCV増殖抑制、治療薬開発への端緒となることが期待された。

論文掲載ページへ

2025/10/20

Ehg1/May24は高水圧環境下でアミノ酸輸送体の脂質ラフト局在を促進し、その安定化を担う

論文タイトル
Ehg1/May24 stabilizes yeast amino acid permease by facilitating its localization to lipid rafts under high hydrostatic pressure
論文タイトル(訳)
Ehg1/May24は高水圧環境下でアミノ酸輸送体の脂質ラフト局在を促進し、その安定化を担う
DOI
10.1091/mbc.E25-02-0067
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the CellVol. 36, No. 8
著者名(敬称略)
加藤 祐介 阿部 文快 他
所属
青山学院大学理工学部 化学・生命科学科
著者からのひと言
高圧は深海に普遍的に存在する熱力学的な要因ですが、実はヒトの運動時にも、膝や股関節には数百気圧(数十MPa)に達する圧力がかかっています。このような大きな外圧に対して、細胞が分子レベルでどのように応答しているのかについては、いまだ十分に解明されていません。本研究では出芽酵母をモデルとして、小胞体膜タンパク質Ehg1が高圧下でアミノ酸輸送体の機能を維持し、栄養の取り込みと生育を可能にする仕組みを明らかにしました。Ehg1のホモログはヒトにも存在していることから、本研究は細胞が力学的負荷に適応する分子メカニズムの理解を深めるうえで、医学的にも重要な手がかりとなることが期待されます。

抄訳

圧力は化学平衡や反応速度に影響を与える重要な熱力学的パラメータであるが、複雑な細胞内メカニズムへの影響については未だ十分に解明されていない。本研究では、出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae の新規小胞体(ER)膜タンパク質Ehg1(別名May24)が、高水圧(約25 MPa)下でトリプトファン輸送体Tat2を安定化させ、細胞増殖を維持する役割を果たすことを明らかにした。Ehg1は表層ER(cER)に局在し、細胞膜上のTat2とin transで物理的に相互作用していた。さらに、Ehg1はTat2を細胞膜のマイクロドメインである脂質ラフトへ効率的に分配させることで、その膜局在を維持する中心的な役割を担っていた。この安定化は、cERと細胞膜の接触に依存しており、高水圧下での栄養源輸送の効率化に不可欠である。実際、こうした接触を欠くΔtether株およびΔ-super-tether株では、Tat2の顕著な不安定化が認められた。これらの知見は、高圧環境下における微生物の栄養輸送体の維持機構を新たに示すものであり、極限環境への微生物適応の理解を深める手がかりとなる。

論文掲載ページへ

2025/10/20

マウス体細胞核移植胚におけるmTORC1によるオートファジーの抑制

論文タイトル
mTORC1-dependent suppression of autophagic activity in somatic cell nuclear transfer mouse embryos
論文タイトル(訳)
マウス体細胞核移植胚におけるmTORC1によるオートファジーの抑制
DOI
10.1530/REP-25-0338
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0338
著者名(敬称略)
建部 貴輝、井上 貴美子 他
所属
理化学研究所 バイオリソース研究センター(BRC)統合発生工学研究開発室
著者からのひと言
SCNT胚の研究は主に移植核のリプログラミング異常に着目したものが多く、細胞内タンパク質や細胞小器官などの細胞質因子が低発生率に関与しているのかは不明でした。本研究は、SCNT胚のオートファジー活性動態が受精胚を模倣できているのか、発生異常と関連性があるのか明らかにすることを目的としました。この研究では、4細胞期のオートファジー活性がSCNT胚の胚盤胞発生と関連していることが示されました。胚移植の前に良質な胚を選別することで、クローン作出効率の向上が期待されます。

抄訳

体細胞核移植 (SCNT) 技術は移植核と同一のゲノム情報を持つ個体を作出する手法だが、SCNT胚の出生率は5 %未満と非常に低い。本研究ではSCNT胚の低発生効率の原因を明らかにするために、着床前胚発生期に重要な細胞質因子の1つであるオートファジーに着目して研究を行った。蛍光ライブイメージングによるオートファジー活性測定によって、SCNT胚は受精胚と比べ後期2細胞期以降のオートファジー活性が低いことが明らかとなった。さらに、RNA-seq解析によってSCNT胚ではオートファジーを抑制的に制御するmTORC1の異常な活性化が起こっていることが示唆され、mTORC1を阻害することによってSCNT胚のオートファジーを活性化させることに成功した。本研究によって、SCNT胚はエピゲノムだけでなく細胞質因子についても受精胚とは異なる状態にあることが明らかとなり、非ゲノム経路の調節がSCNT研究の新たなアプローチになり得ることが示された。

論文掲載ページへ

2025/10/20

シュードモナス属菌におけるプラスミド分類の現状と課題

論文タイトル
Enhancing plasmid typing with MOB-typer: resolving IncP and other incompatibility group misclassifications in Pseudomonas
論文タイトル(訳)
シュードモナス属菌におけるプラスミド分類の現状と課題
DOI
10.1099/mgen.0.001491
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Volume 11 Issue 9
著者名(敬称略)
鈴木 仁人、鈴木 治夫、西村 陽介、野尻 秀昭、新谷 政己
所属
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター

抄訳

MOB-typerは、プラスミドの複製遺伝子(rep遺伝子)、接合関連遺伝子(mob遺伝子)、および接合形成装置(mpf遺伝子)に基づいて型別を行うツールであり、細菌のゲノム解析で広く利用されている。本論文は、プラスミドの分類手法の歴史的経緯を整理した上で、MOB-typerによるシュードモナス属菌プラスミドのrep分類に誤りがあり、系統的に異なるグループ(IncP-1、IncP-2、IncP-6、IncP-7、IncP-9など)が全て「IncP」と分類され、その誤情報が各種データベースなどを介して拡散している懸念を指摘した。

論文掲載ページへ

2025/10/16

麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する

論文タイトル
Contribution of UbrA, a ubiquitin ligase essential for Arg/N-degron pathway, to peptidase gene expression in Aspergillus oryzae
論文タイトル(訳)
麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する
DOI
10.1128/aem.00813-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
室町 和花 田中 瑞己 他
所属
東京農工大学大学院 農学研究院 応用生命化学部門
著者からのひと言
麹菌は120個以上のペプチダーゼ遺伝子を有しており、多くのペプチダーゼが発酵産業や食品産業をはじめとする様々な産業分野で利用されています。しかし、その遺伝子発現制御機構は非常に複雑であり、ほとんど解明されていません。本研究では、糸状菌において初めて Arg/N-degron 経路を詳細に解析し、Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼがペプチダーゼ遺伝子の発現制御に関与していることを明らかにしました。本研究をきっかけに、糸状菌ではこれまで注目されてこなかった Arg/N-degron 経路の代謝や細胞機能の制御における重要性が明らかになると期待されます。

抄訳

細胞内のタンパク質は N 末端アミノ酸に依存して N-degron(N-end rule)経路によって分解される。出芽酵母では、 N-degron 経路の一つである Arg/N-degron 経路が転写抑制因子の分解を介してジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子の発現を制御している。しかし、糸状菌における N-degron 経路についての情報はほとんどなく、真菌の窒素代謝における N-degron 経路の役割は明らかになっていない。本論文では、Arg/N-degron 経路に必須な E3 ユビキチンリガーゼ(UbrA)が麹菌のペプチダーゼ遺伝子発現を制御していることを示した。まず、ユビキチン融合 GFP をレポーターとして用いて、Arg/N-degron 経路が麹菌と出芽酵母で類似していることを明らかにした。麹菌の ubrA を破壊するとジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、主要なペプチダーゼ遺伝子やジペプチドおよびトリペプチドを切り出すペプチダーゼ遺伝子の発現量も減少した。このことから、UbrA がジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、その取り込み基質の生成に関与するペプチダーゼ遺伝子の発現も同時に制御していることが示された。

論文掲載ページへ

2025/10/16

エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性

論文タイトル
Molecular insights into nucleocapsid assembly and transport in Marburg and Ebola viruses
論文タイトル(訳)
エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性
DOI
10.1128/mbio.01557-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
高松 由基 他
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 ウイルス学分野
著者からのひと言
先進のライブセルイメージング顕微鏡解析により、エボラウイルスとマールブルクウイルスの共通するヌクレオカプシド形成メカニズムの一端を解明しました。特に、両ウイルスのヌクレオカプシドに会合するウイルスタンパク質VP30の共通モチーフを明らかにしたことで、このモチーフを標的とした新たな治療薬の開発が期待されます。

抄訳

エボラウイルス(EBOV)およびマールブルクウイルス(MARV)はフィロウイルス科に属し、ヒトを含む霊長類に致死的な出血熱を引き起こします。近年も中央アフリカや西アフリカでアウトブレイクを起こしていますが、これらウイルスに対する治療法は十分に整備されていません。
フィロウイルスのヌクレオカプシドは螺旋状のゲノムRNA-ウイルスタンパク質複合体で、ゲノムRNAの転写・複製を担います。本研究では、先進のライブセルイメージング技術を用いて、EBOVとMARVのヌクレオカプシド形成に関わる分子機構を解明しました。転写制御因子として知られるウイルスタンパク質VP30は、両ウイルス間で入れ替えてもヌクレオカプシドとともに機能し、転写・複製活性を発揮することがわかりました。
また、両ウイルスのNPタンパク質のC末端に存在するPPxPxYモチーフが、NP-VP30間の相互作用に不可欠であること、さらにVP30のヌクレオカプシドへの会合にも重要であることを明らかにしました。このモチーフはフィロウイルスで保存されているため、新たな抗ウイルス薬開発の標的となることが示唆されます。
本研究成果は、フィロウイルスのヌクレオカプシド形成機構の理解を深める重要な知見となるとともに、フィロウイルス感染症の新たな治療戦略の開発に寄与するものとなります。

論文掲載ページへ

2025/10/16

日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析

論文タイトル
Draft genome sequences of two strains of Pseudomonas fluorescens sensu stricto isolated from strawberry in Japan
論文タイトル(訳)
日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析
DOI
10.1128/mra.00620-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 10
著者名(敬称略)
諸星 知広 他
所属
宇都宮大学工学部基盤工学科生物工学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas fluorescensは非常に有名な細菌ですが、これまでに報告されたP. fluorescens菌株をゲノムレベルで解析すると、真のP. fluorescensに分類される菌株は1割にも満たないという事実が明らかになりました。P. fluorescensは、環境中ではありふれた細菌と考えられてきましたが、実はかなりマイナーな存在であるということがこの研究から明らかになりました。

抄訳

Pseudomonas fluorescensは、世界中で様々な研究に利用されている細菌である。2025年6月現在、約200株のP. fluorescensのゲノム配列がRefSeqデータベースに登録されているが、平均ヌクレオチド同一性(ANI)で真のP. fluorescensP. fluorescens sensu stricto)と同定された株はわずか9株であり、世界中で利用されてきたP. fluorescensの大部分がP. fluorescens sensu strictoではないことを意味している。本研究では、日本産イチゴから単離されたP. fluorescens sensu stricto の候補であるMAFF 301597株及びMAFF 301598株のドラフトゲノム配列を取得し、P. fluorescens ATCC 13525基準株とのANIを計算したところ、同種と判断できる閾値(95%)を大幅に上回ったため、P. fluorescens sensu strictoに分類できることが実証された。

論文掲載ページへ

2025/10/16

結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化

論文タイトル
Visualization of spin–orbit-entangled 4f electrons in crystalline materials
論文タイトル(訳)
結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化
DOI
10.1073/pnas.2500251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2500251122
著者名(敬称略)
鬼頭 俊介 他
所属
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻物質系専攻 物性・光科学講座 有馬・徳永研究室
著者からのひと言
物質中における価電子の分布は物性を決める「設計図」のようなものです。今回の研究において、4f電子を直接観測できるようになったことは、磁石や蛍光体の高性能化、量子コンピュータやスピントロニクス素子の開発など、次世代技術の基盤に大きなインパクトを与える成果です。

抄訳

ランタノイドにおける4f電子の異方的な空間分布は、磁性から量子現象に至るまで、さまざまな材料特性を支配する上で重要な役割を担っている。しかし、その顕著な異方性と微弱な信号ゆえに、4f電子の可視化は長らく大きな課題とされてきた。本研究では、高エネルギーX線回折と独自に開発した価電子密度解析を組み合わせた革新的アプローチを導入することで、パイロクロア酸化物中における4f電子分布の直接観測を実現した。この成果は、4f電子の本質的な性質を明らかにするだけでなく、幅広い物質系における4f電子の役割を探求する新たな道を開き、材料科学の革新へとつながるものである。

論文掲載ページへ

2025/10/15

ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する

論文タイトル
Human herpesvirus 6B U65 binds to histone proteins and suppresses interferon production
論文タイトル(訳)
ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する
DOI
10.1128/jvi.00984-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
Haokun Li 本田 知之 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・医学部 病原ウイルス学
著者からのひと言
HHV-6Bが宿主免疫を回避する機構の一端を明らかにしました。U65タンパク質がヒストンと結合しIFNβ産生を抑制する仕組みは、HHV-6Bと免疫系の複雑な相互作用を理解する手がかりになると考えています。

抄訳

ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は、突発性発疹の原因として知られ、神経炎症性疾患との関連も報告されています。本研究では、HHV-6Bのテグメントタンパク質「U65」が宿主の特定のヒストンバリアントタンパク質と相互作用し、ウイルス防御に重要なインターフェロンβ(IFNβ)の産生を抑制することを発見しました。本研究は、U65がウイルス感染中に免疫回避を助ける重要な因子であることを初めて示した報告であり、HHV-6Bが宿主免疫を巧妙に回避する新たなメカニズムはHHV-6Bの新たな治療標的となる可能性を秘めています。

論文掲載ページへ

2025/10/15

社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク

論文タイトル
A multilayered gap junction network is essential for social decision-making
論文タイトル(訳)
社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク
DOI
10.1073/pnas.2510579122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2510579122
著者名(敬称略)
中山 愛梨 中野 俊詩 他
所属
名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 生体機序論講座
著者からのひと言
従来、社会環境による神経回路制御には分泌性因子(ホルモン)の関与が中心と考えられていた。本研究から、非分泌型のギャップ結合ネットワークが意思決定の中枢で機能することが示唆された。今後、このネットワークにおける詳細な分子機構の解明が期待される。

抄訳

社会環境は、動物の行動選択に大きな影響を与える。たとえば採餌行動では、動物は既知の餌場に留まって資源を得ようとするが、競合個体が多数存在する状況では、新たな資源を求めて未知の環境へ移動する傾向が強まる。同種個体の存在や集団内での競合といった社会環境は、このような行動選択の方向性を大きく変化させる。こうした意思決定の仕組みは、動物の生存戦略を規定する根本的な原理である。
 この研究では、線虫の温度走性行動をモデルとして、社会環境に応じた意思決定の神経基盤を追究した。線虫は、個体密度が低い条件では餌と連合した温度域を好むが、個体密度が高い条件では集団の一部が異なる温度域を選好するようになる。この行動変容には複数の神経細胞を結ぶギャップ結合ネットワークが必須である。このネットワークは、個体密度を感知する感覚ニューロンから温度情報を処理する神経回路へと個体密度の情報を伝達し、その結果、餌と連合した温度に対する情動的価値(好嫌)が変容する。以上のことから、幼少期の社会経験に応じた行動変容を促す神経基盤として、ギャップ結合ネットワークが作動していることが示された。

 

論文掲載ページへ

2025/10/15

ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす

論文タイトル
Viral infection to the raphidophycean alga Heterosigma akashiwo affects both intracellular organic matter composition and dynamics of a coastal prokaryotic community
論文タイトル(訳)
ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす
DOI
10.1128/msystems.00816-25
ジャーナル名
mSystems
巻号
mSystems Ahead of Print
著者名(敬称略)
武部 紘明 吉田 天士 他
所属
京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻海洋分子微生物学分野

抄訳

海洋性微細藻類による一次生産と、原核生物による一次生産物の消費は、生物地球化学的循環に大きく貢献しています。微細藻類はしばしばウイルスに感染しており、感染細胞では、ウイルスは自身の複製や代謝産物の生成のため、宿主の代謝を制御します。しかし、微細藻類の感染細胞が原核生物群集に与える影響については、十分には解明されていませんでした。本研究では、世界的に分布し有害藻類ブルームを形成するラフィド藻類Heterosigma akashiwoの感染細胞の溶藻液(感染終盤に細胞が溶解するときに放出される液体画分)が、原核生物群集に及ぼす影響を調査しました。その結果、H. akashiwoの感染細胞内での生化学的特性の変化が、溶藻液中に含まれる、特定の有機化合物を代謝できる一部の細菌群の増殖を促進することが示唆されました。さらに、これらの細菌群には魚類の病原菌も含まれていたことから、H. akashiwoへのウイルス感染が、海洋生態系における高次消費者に対しても間接的に影響を与える可能性があると考えられました。

論文掲載ページへ

2025/10/14

肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究

論文タイトル
Molecular epidemiological surveillance for non-tuberculous mycobacterial pulmonary disease: a single-center prospective cohort study
論文タイトル(訳)
肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究
DOI
10.1128/spectrum.00436-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 10
著者名(敬称略)
橋本 和樹 福島 清春 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学
著者からのひと言
本研究では、肺非結核性抗酸菌症の菌株動態を迅速・簡便に解析するデジタルVNTR法を開発した。本手法は携帯型次世代シーケンサーMinIONに適用可能であり、従来は研究施設でしか行えなかった再感染と再燃の鑑別が、各病院の細菌検査室レベルで可能となる。臨床現場でも高精度かつ即時的な菌種・菌株同定が可能となり、個別化治療の発展につながることが期待される。

抄訳

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)では、治療や経過観察中に喀痰から検出される菌種が変化することが知られるが、菌株レベルでの変化は十分に解明されていない。可変数タンデムリピート(VNTR)解析は菌株同定の標準手法であるものの、手作業が多く時間を要するため、日常診療への応用は限られている。本研究では、全ゲノムシーケンスを基盤とした簡便かつ迅速なデジタルVNTR法を開発し、菌種・菌株動態および薬剤感受性の変化を検討した。肺NTM症112例を前向きに解析した結果、1.5年間で13例(11.6%)で菌種・亜種、16例(14.3%)で菌株の変化を認めた。マクロライドおよびアミカシン感受性の変化は両群で観察され、耐性は菌株変化のない群で高頻度であった。デジタルVNTRは従来法と一致し、各病院の細菌検査室で迅速に菌株同定が可能な新たな分子タイピング法として、臨床現場でのNTM管理に貢献しうる。

論文掲載ページへ

2025/10/14

細胞増殖法則における大域的制約原理

論文タイトル
Global constraint principle for microbial growth laws
論文タイトル(訳)
細胞増殖法則における大域的制約原理
DOI
10.1073/pnas.2515031122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.40
著者名(敬称略)
山岸 純平 畠山 哲央
所属
東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所
著者からのひと言
細胞の増殖速度がどのようにして決まるのかというのは、非常に古くからある問題です。この論文で議論しているMonod則とLiebigの最小律は、それぞれ約80年前と約180年前に提唱された経験則です。我々の論文では、これらの古くからの経験則を統一する新たな原理を理論的に発見しました。古くから知られ、当たり前のように思われている経験則の中にこそ、研究のフロンティアがあると、我々は考えています。

抄訳

生物の複雑な挙動を理解するには、種や分子の詳細に依存しない普遍的な法則を見出す必要がある。細胞増殖の古典的法則であるMonod則は、単一基質に対する飽和的成長を記述する経験則だが、実際の細胞成長は多数の代謝反応と資源制約の協調によって決まる。本研究では、細胞内資源配分の一般的理論に基づき、細胞成長を支配する普遍原理として「大域的制約原理」を提唱した。この原理は、ある栄養素を増やすと他の資源が成長を制約する要因となり、その制約の数が段階的に増えるため、栄養濃度に対する増殖曲線が単調増加かつ凹関数となることを示すものである。さらに、この枠組みは複数の栄養素に対する増殖依存性を統一的に扱い、Monod則とLiebig最小律という二つの古典的法則を統合する。加えて、その概念を視覚的に表すものとして、Terraced Liebig’s barrel(リービッヒの段々樽)という新たなモデルを提示した。

論文掲載ページへ

2025/10/09

大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性

論文タイトル
From phenotype to receptor: validating physiological clustering of Escherichia coli phages through comprehensive receptor analysis
論文タイトル(訳)
大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性
DOI
10.1128/jvi.01061-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
金子知義 常田聡 他
所属
早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科
早稲田大学 総合研究機構 ファージセラピー研究所
著者からのひと言
薬剤耐性菌に対する新たな治療法として注目されるファージ療法では、異なる受容体を標的とするファージを組み合わせたカクテルが投与されますが、受容体同定は労力を要します。本研究は、生理学的特性、ゲノム配列、尾部繊維系統という独立した分類法がいずれも受容体特異性と高度に相関することを実証しました。この基礎的知見は、ファージの理解を深めるとともに、ファージ療法において、異なる受容体を標的とする多様なファージカクテルを効率的に設計する実用的な指針を提供します。

抄訳

細菌に感染するウイルスであり次世代の抗菌薬として着目されるバクテリオファージ(ファージ)の分類と標的受容体との関係を理解することは、ファージ生態学および応用研究において重要である。本研究では、13種の大腸菌ファージを生理学的特性、全ゲノム配列、尾部繊維タンパク質系統に基づいて比較した。生理学的特性に基づく分類では、宿主域評価のための細菌パネルの最適化、および量質混合データ型に適した距離指標の実装によって既報の手法を改良し、各分類法にシルエット係数解析による最適分割数の客観的評価を採り入れた。ファージ耐性株のゲノム解析と相補実験、およびリポ多糖(LPS)構造解析などによるファージ標的受容体の同定の結果、本研究のファージはLPS R-coreの異なる部位、膜タンパク質、あるいは鞭毛を標的とすることが明らかとなった。特に、LPSのヘプトースリン酸化などの微細な化学修飾がファージ認識において重要であることが示された。さらに、これら分類法による結果は極めて類似しており、新たなファージを追加すると類似度が増加したことから、各手法に互換性と一般性があることが示された。

論文掲載ページへ

2025/10/09

卵巣顆粒膜細胞の2型FGF受容体はメスマウスの正常な妊孕性に必要である

論文タイトル
FGF receptor 2 signaling in granulosa cells is required for normal female fertility in mice
論文タイトル(訳)
卵巣顆粒膜細胞の2型FGF受容体はメスマウスの正常な妊孕性に必要である
DOI
10.1530/REP-25-0219
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0219
著者名(敬称略)
菅家 卓哉 杉浦 幸二 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科・応用動物科学専攻 応用遺伝学研究室
著者からのひと言
本研究では、哺乳類の卵巣において、線維芽細胞増殖因子(FGF)が代謝的支援を介して卵母細胞の「質」を制御している可能性を示しました。これらの知見が、人や家畜における不妊の原因解明や治療法の開発に貢献することを期待しています。

抄訳

線維芽細胞増殖因子(FGF)は、哺乳類の卵巣機能制御に関与することが知られている。しかし、その欠損が雌の生殖能力に与える具体的な影響については明らかでない。本研究では、卵巣卵胞を構成する顆粒膜細胞において2型FGF受容体(FGFR2)を欠損させたマウスを作製し、その影響を解析した。その結果、これらのマウスは卵胞発育や排卵は正常であるにもかかわらず、著しく低い繁殖能力を示した。さらに、卵母細胞の代謝的支援に重要な役割を果たす卵母細胞周囲の顆粒膜細胞(卵丘細胞)において、解糖系酵素の発現が低下していた。その結果、卵母細胞は見かけ上正常に発育するものの、受精後に出生まで至る能力が低下していた。以上の結果から、FGFR2を介したFGFシグナルは卵丘細胞の代謝機能を制御し、卵母細胞の発達を促進することで、正常な雌の生殖能力を支える重要な役割を果たしていることが示唆された。

論文掲載ページへ

2025/10/08

HSV-2 UL13プロテインキナーゼを活性化するウイルス因子の同定

論文タイトル
Identification of viral activators of the HSV-2 UL13 protein kinase
論文タイトル(訳)
HSV-2 UL13プロテインキナーゼを活性化するウイルス因子の同定
DOI
10.1128/jvi.01165-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  (Online ahead of print.)
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスプロテインキナーゼの活性化を介してウイルス増殖を制御する補因子を同定したものである。ウイルスキナーゼが宿主キナーゼと同様に、自身のウイルスタンパク質を補因子として利用し、その活性を制御する仕組みを獲得していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有する。本研究の成果は、今後のウイルスキナーゼ基質の同定やリン酸化の生物学的意義の解明につながることが期待される。

抄訳

これまでの研究で、HSV-2のUL13プロテインキナーゼがウイルス感染細胞内で宿主因子EF-1δをリン酸化することが報告されていたが、本研究において、UL13の単独発現では培養細胞中でEF-1δのリン酸化が誘導されないことを見出した。これにより、UL13キナーゼの活性化にはウイルス由来の補因子が必要であると仮定し、その同定を試みた。その結果、UL13とUL55またはUs10を共発現すると、UL13単独に比べてEF-1δリン酸化が著しく増強された。UL13はUL55またはUs10と相互作用し、in vitroキナーゼアッセイでも活性が上昇した。また、UL55欠損株ではEF-1δリン酸化が著しく減少し、Us10欠損株では影響が小さいが、UL55とUs10の二重欠損株ではUL55欠損株よりさらに減少した。さらに、UL55欠損株はUL13キナーゼ活性消失株と同程度にウイルス増殖性とプラーク形成能を低下させたが、Us10欠損株ではほとんど影響は認められなかった。これらの結果から、UL55は主要な活性化因子、Us10は補助的因子としてUL13キナーゼ活性を制御することが示唆された。

論文掲載ページへ

2025/10/07

複数のCyp51アイソザイムを持つ真菌に対するアイソザイム特異的アゾール系抗真菌薬剤の相乗効果

論文タイトル
Synergistic effects of Cyp51 isozyme-specific azole antifungal agents on fungi with multiple cyp51 isozyme genes
論文タイトル(訳)
複数のCyp51アイソザイムを持つ真菌に対するアイソザイム特異的アゾール系抗真菌薬剤の相乗効果
DOI
10.1128/aac.00598-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
石井 雅樹(筆頭著者と連絡著者)、大畑 慎也(連絡著者)
所属
武蔵野大学 薬学部・薬学研究所
著者からのひと言
Aspergillus属菌などによる全身性真菌症は世界で年間375万人の死者を出します。また、白癬菌による水虫などの表在性真菌症は世界人口の10%以上が罹患しており、いずれも深刻な問題です。真菌は我々人間と同じ真核生物であり、選択的に作用する薬剤の開発は困難であるため、既存薬の有効活用が今後の治療における鍵となります。本研究は、アイソザイム選択性という視点から、難治性真菌症に対して同系統薬の併用療法という新たな扉を開き、薬剤耐性菌への新規対抗策を提供すると期待されます。

抄訳

本研究では、白癬菌Trichophyton rubrumにおいて、エルゴステロール生合成経路の律速酵素であり、アゾール系抗真菌薬の標的であるCyp51の2つのアイソザイム(Cyp51AとCyp51B)の機能を解析した。遺伝子欠損株の解析から、Cyp51Bは白癬菌の正常な成長に必須である一方で、Cyp51Aはアゾール系薬剤への自然抵抗性に関わる誘導型アイソザイムであることが判明した。28種類のアゾール系薬剤の感受性試験から、フルコナゾールやスルコナゾールがCyp51Bを、プロクロラズはCyp51Aを選択的に阻害することが明らかになった。さらに、これらのアイソザイム選択的薬剤を併用することで、白癬菌だけでなくAspergillus welwitschiaeの生育が相乗的に阻害された。本研究は、異なるCyp51アイソザイム選択性を持つアゾール系抗真菌薬の併用が、病原性真菌に対する新たな治療戦略となることを示唆している。

論文掲載ページへ

2025/10/07

Stenotrophomonas maltophilia 臨床分離株に対するアズトレオナム–ナキュバクタムおよびセフェピム–ナキュバクタムのin vitro 効果の評価

論文タイトル
Evaluation of in vitro efficacy of aztreonam-nacubactam and cefepime-nacubactam against clinical isolates of Stenotrophomonas maltophilia
論文タイトル(訳)
Stenotrophomonas maltophilia 臨床分離株に対するアズトレオナム–ナキュバクタムおよびセフェピム–ナキュバクタムのin vitro 効果の評価
DOI
10.1128/aac.00755-25
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
青木 渉 上蓑 義典 他
所属
慶應義塾大学医学部臨床検査医学教室
著者からのひと言
なかなか治療選択肢の少ないS. maltophiliaに対して、臨床分離株を使ってさまざまな新規抗菌薬の薬剤感受性を調べていくうちに、我が国発の新規βラクタマーゼ阻害剤であるナキュバクタムとセフェピムまたはアズトレオナムの組み合わせがある程度効果を示すことを発見しました。
病院検査室発の小さな研究ですが、臨床医を悩ませるS. maltophiliaに対する新しい治療選択肢が近い将来1つでも増えるような開発につながればと思っています。

抄訳

Stenotrophomonas maltophilia はL1βラクタマーゼ(メタロβラクタマーゼ)およびL2βラクタマーゼ(クラスA βラクタマーゼ)を産生するため、多くのβラクタム系抗菌薬に自然耐性を示し、治療選択肢が限られている。従来はST合剤やレボフロキサシンが主に用いられてきたが、近年はセフィデロコルやアズトレオナム–アビバクタムなど新規薬剤が注目されている。ナキュバクタム(NAC)はDBO系の新規βラクタマーゼ阻害剤でありβラクタマーゼ阻害作用に加え、PBP2への結合などによる抗菌活性増強効果(エンハンサー効果)を示すことが報告されている。本研究では、2012〜2024年に慶應義塾大学病院で血液培養から分離された53株を対象に、アズトレオナム(ATM)およびセフェピム(FEP)との併用効果を検討した。結果、ATM–NACおよびFEP–NACはいずれも単剤に比して有意にMICを低下させ(P<0.001)、MIC50/90はそれぞれ8/16 µg/mLおよび4/16 µg/mLであった。FEPはL1βラクタマーゼの基質であるが、FEP–NACでは活性が認められたことから、NACのエンハンサー効果が示唆される。これらの結果は、FEPやATMとNACの併用療法がS. maltophilia感染症に対する新たな治療選択肢と今後なりうる可能性を示し、さらなる研究が求められる。

論文掲載ページへ