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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/05/01

ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣

論文タイトル
Regulatory mimicry of cyclin-dependent kinases by a conserved herpesvirus protein kinase
論文タイトル(訳)
ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣
DOI
10.1073/pnas.2500264122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスが宿主タンパク質の多面的な機能を巧妙に模倣することで、宿主細胞をハイジャックし、自らの生存戦略を遂行していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有すると考えられます。ヘルペスウイルスが宿主に対して終生感染を成立させるという特性を踏まえると、本ウイルスのさらなる宿主共存戦略を解明することは、今後の抗ウイルス剤やワクチンの開発において極めて重要であると考えられます。

抄訳

これまで、単純ヘルペスウイルス(HSV)の特異的なキナーゼであるUL13は、宿主キナーゼであるサイクリン依存キナーゼ(CDK1, CDK2)の機能を模倣することが知られていた。本研究において、HSV-2 UL13のCDK1,CDK2活性制御部位に相当するUL13 Tyr-162が感染細胞内でリン酸化されることが明らかとなった。Tyr-162のリン酸化は、UL13による基質リン酸化を抑制し、CDKの自己制御機構を模倣していると考えられた。このリン酸化はマウス脳内での致死的なウイルス感染の抑制に加え、モルモットにおける効率的な回帰発症にも関与することが示唆された。これらの結果は、UL13がCDKの調節機構を模倣することで、ウイルスが宿主細胞をハイジャックし、それによって生存戦略を巧に遂行していることを示している。

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2025/05/01

マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
 

論文タイトル
MOB1 deletion in murine mature adipocytes ameliorates obesity and diabetes
論文タイトル(訳)
マウス成熟脂肪細胞におけるMOB1欠失は食事性肥満や糖尿病発症を改善する
DOI
10.1073/pnas.2424741122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS 122 (117) e2424741122  April 21, 2025
著者名(敬称略)
西尾 美希、山口 慶子、 大谷 淳二、前濱 朝彦、鈴木 聡 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 生化学・分子生物学講座 分子細胞生物学分野
日本バプテスト病院
著者からのひと言
成熟脂肪細胞におけるYAPの活性化が食事性肥満抵抗性・糖尿病発症抑制に作用することを解明し、またFGF21がYAPの直接の転写標的となって、YAPの作用を発揮することを示しました。

抄訳

肥満関連疾患が世界的に増加している。YAP1/TAZはマウス未熟脂肪細胞においてPPARγ活性を阻害して細胞分化を抑制することから、潜在的な治療標的として注目されていた。しかし、成熟脂肪細胞におけるYAP1活性化の役割は不明であった。肥満で発現が増加するMOB1は、YAP1/TAZ活性化を負に制御する。そこで、成熟脂肪細胞特異的にMOB1が欠損するマウス(aMob1DKOマウス)を作製した。高脂肪食を与えたaMob1DKOマウスは、基礎脂肪分解亢進、白色脂肪細胞の褐色化、エネルギー消費の増加、活性酸素産生や炎症の抑制を示し、食事誘発性肥満抵抗性、インスリン感受性や耐糖能の改善、異所性脂肪蓄積の減少をみた。これらの変化のほとんどは、YAP1の活性化に依存していた。また脂質代謝を改善するFGF21は、YAP1の活性化を介して直接アップレギュレートされ、aMob1DKOマウスの表現型の多くは、増加したFGF21に依存していた。われわれの研究は、YAPが新たなFGF21制御因子であることを示し、YAP1-FGF21軸が肥満の治療標的となる可能性を示唆した。

 

 

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2025/04/21

バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良

論文タイトル
Specific nucleotide substitutions in the burst sequence enhance polyhedrin expression in alphabaculoviruses: improvement of baculovirus expression vectors
論文タイトル(訳)
バースト配列における塩基置換によって、アルファバキュロウイルスのポリヘドリンの発現が増大する:バキュロウイルス発現ベクターの改良
DOI
10.1128/aem.00144-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
勝間 進 他
所属
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 昆虫遺伝研究室
著者からのひと言
バキュロウイルスベクターシステム(BEVS)はワクチンや動物用医薬品、実験用試薬の製造に汎用されています。このシステムは約40年前に開発され、改良が進められてきましたが、まだその高発現メカニズムについて不明な点が多い状況です。本研究では、現在使われているほぼ全てのBEVSに適用できる高発現化手法に関する知見を提供するもので、本内容に関しては特許を申請中です。

抄訳

アルファバキュロウイルスは、宿主となるチョウ目昆虫の核内に大量の封入体を形成する。この封入体の主構成成分はウイルスの遺伝子産物であるポリヘドリン(POLH)であり、polh遺伝子の高発現のシステムを用いたベクターとしてバキュロウイルスベクター(BEVS)が開発された。polhの高発現には転写開始点と翻訳開始点の間のバースト配列が重要であることが判明している。本研究では、このバースト配列内に存在するA-rich領域に特定の変異を入れることでpolhのmRNA量が増大し、BEVSにおける発現量も増加することがわかった。バースト配列は現在汎用されているBEVSで共通している配列であるため、本発見は応用上すぐに適用できる発見であると言える。

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2025/04/21

原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術

論文タイトル
Exploration and analytical techniques for membrane curvature-sensing proteins in bacteria
論文タイトル(訳)
原核生物における生体膜曲率認識タンパク質の探索・分析技術
DOI
10.1128/jb.00482-24
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 207, No. 4
著者名(敬称略)
児美川 拓実 田中 祐圭 他
所属
東京科学大学物質理工学院生体分子化学研究室
著者からのひと言
曲率認識タンパク質は、生体膜の曲面構造を認識することで様々な細胞機能と密接に関与するタンパク質で、近年原核生物においても曲率認識タンパク質の存在が明らかになってきました。本総説は、原核生物の既知の曲率認識タンパク質を整理するとともに、in vitroや細胞での評価法に加えて、新規の曲率認識タンパク質を網羅的に探索する手法を紹介しています。これにより、原核生物においても新たな曲率認識タンパク質の発見と膜形態制御機構の解明が進むのではないかと期待しています。

抄訳

細胞内におけるタンパク質の局在性を制御するメカニズムは微生物学において重要なトピックの一つである。そのうち、生体膜の曲面形状(曲率)が細胞内においてタンパク質の局在を決める空間的な手がかりとなることが示されている。このような特定の曲率をもった生体膜と相互作用する「曲率認識タンパク質」は、細胞分裂や膜で囲まれたオルガネラ様構造の形成に関与している。本総説では、人工的に形状制御した生体膜と精製タンパク質を用いた曲率認識能のin vitro評価や生細胞を用いた評価法についての最近の研究を紹介する。しかし、これらの曲率認識能の評価は労力がかかることから、同定された曲率認識タンパク質の数は限られている。そこで、曲率認識能に基づく網羅的な探索法についても紹介する。加えて、既に細菌において明らかになっている曲率認識タンパク質とその分析法について整理するとともに、本研究領域の今後の展望について議論した。

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2025/04/18

細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった

論文タイトル
Uniform elementary fibrils in diverse plant cell walls
論文タイトル(訳)
細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった
DOI
10.1073/pnas.2426467122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.15
著者名(敬称略)
大長一帆 他
所属
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構

抄訳

セルロースナノファイバー(CNF)の断面寸法は、産業上の主原料である針葉樹に限らず、草本類の麻や、木本と草本の中間的な分類とされる綿であっても、ほぼ同一の2~3nmであり、CNF1本(植物組織学上のミクロフィブリル、または天然セルロースの結晶子)は、セルロース分子鎖18本で構成されるモデルが合致することを明らかにしました。これまでのセルロース結晶学では、樹木と麻・綿のCNFは、断面寸法が明瞭に異なり、別種の生合成機構が想定されてきました。この従来の理解は、これまでCNFを単離(孤立分散)させる技術がなく、複数の結晶子が合一したCNF凝集体を評価していたことに由来します。本成果により、高等植物であれば、木本と草本に差はなく、同様の機構で生合成していることが新たに想定されます。また、産業上も、樹木だけでなく、麻やエリアンサス、農業廃棄物等からも、均質なCNFを生産できることを本成果は示しています。

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2025/04/18

MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった

論文タイトル
Lipid fingerprinting by MALDI Biotyper Sirius instrument fails to differentiate the three subspecies of the Mycobacterium abscessus complex
論文タイトル(訳)
MALDI Biotyper Siriusによる脂質解析では、Mycobacterium abscessus complexに属する3亜種を識別できなかった
DOI
10.1128/jcm.01484-24
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Vol. 63, No. 4
著者名(敬称略)
吉田 光範 星野 仁彦 他
所属
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター
著者からのひと言
抗酸菌細胞壁は脂質に富んでいるため、他の病原体で成功事例のある脂質プロファイリングによる識別を試みた。しかしながら、Siriusシステム付属の解析ソフトウェアや代表的な機械学習法をもちいた分類モデルでは亜種の正確な識別は困難だった。臨床現場における簡易かつ迅速なMABC鑑別には、我々の開発したKANEKA DNA Chromatography MABC/erm(41)が有用である(EBioMedicine 2021;64:103187)。本法はすでに体外診断薬として承認されており、保険適応申請中である。

抄訳

Mycobacterium abscessus complex(MABC)による呼吸器感染症患者は増加傾向にある。マクロライド系薬剤に対する感受性が異なるため、MABC 3亜種の識別が臨床上重要とされている。本研究では、Bruker社製MALDI Biotyper Siriusシステムを用いた脂質プロファイリングを行いMABC亜種識別の有効性を評価した。全ゲノム解析済みの149株に対して、陰イオンモードによる質量分析を実施した。得られたデータに対して、Bruker社が提供するClinProToolsソフトウェアや、代表的な機械学習手法を用いて亜種分類モデルを構築した。本モデルによる分類と、ゲノムデータによる分類との一致率は56%、機械学習による分類精度も50%程度にとどまり、亜種間の正確な識別には至らなかった。したがって、脂質プロファイリング単独ではMABC亜種の識別は現状では困難であり、DNAクロマトグラフィーやGenotype NTM-DRなど、より正確な代替法の導入が臨床現場には必要である。

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2025/04/18

成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係

論文タイトル
Relationship between time-dependent epidermal ceramide composition changes and skin barrier function in adult mice
論文タイトル(訳)
成体マウスにおけるElovl1欠損後の時間依存的な表皮セラミド組成変化と皮膚バリア機能の関係
DOI
10.1091/mbc.E24-12-0551
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 36, No. 5
著者名(敬称略)
平沼大雅、佐々貴之、木原章雄
所属
北海道大学大学院薬学研究院 生化学研究室

抄訳

セラミドの中でもアシルセラミドと結合型セラミドは皮膚バリア形成に重要である。しかし、これらのセラミド産生に関与する遺伝子のノックアウト(KO)マウスは新生児致死であるため、成体マウスにおけるKOの影響は不明であった。本研究では、脂肪酸伸長酵素遺伝子Elovl1のタモキシフェン誘導性コンディショナルKOマウスを作成した。タモキシフェン投与後、アシルセラミド濃度は5日目から減少し始め、10日目には脂質ラメラ形成障害と表皮肥厚が観察された。15日目には結合型セラミドが減少し、経皮水分蒸散量が増加した。その他のセラミド量の変化や脂肪酸部位の短鎖化も観察されたが、それらの時間経過はセラミドの種類によって異なっていた。本研究では、アシルセラミドとタンパク質結合型セラミドが成体の皮膚バリア維持に重要であることを明らかにすると共に、遺伝子発現、表皮形態、セラミド組成の変化など、皮膚バリア機能の低下に対する代償機構を見出した。

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2025/04/15

Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化

論文タイトル
Adaptive evolution of sesquiterpene deoxyphomenone in mycoparasitism by Hansfordia pulvinata associated with horizontal gene transfer from Aspergillus species
論文タイトル(訳)
Aspergillus属菌からの遺伝子の水平伝播を伴ったHansfordia pulvinataの菌寄生性におけるデオキシホメノンの適応進化
DOI
10.1128/mbio.04007-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16  Issue 4  e04007-24
著者名(敬称略)
前田和弥 飯田祐一郎
所属
摂南大学農学部植物病理学研究室

抄訳

トマト葉かび病は、世界的にトマト生産に深刻な経済的損失をもたらしている。育種によって、Cf抵抗性遺伝子を持つ品種が開発されてきたが、葉かび病菌は新たな系統(レース)へと進化することで、これらの抵抗性品種を打破した。さらに、複数の化学殺菌剤に対する耐性を獲得していることから、持続可能な新たな防除法が求められている。葉かび病菌に寄生する菌寄生菌H. pulvinataは、生物防除剤として期待される。寄生性メカニズムの解明を目的に本研究では、菌寄生菌が産出する抗菌性セスキテルペンdeoxyphomenoneを解析した。我々は、菌寄生菌とAspergillus属の両方でdeoxyphomenone生合成遺伝子クラスター(DPH)を同定し、比較ゲノム解析によって菌寄生菌はDPH遺伝子クラスターをAspergillus属の祖先種から水平伝播によって獲得したことを明らかにした。またAspergillus属では内因性の胞子形成制御因子として機能していたdeoxyphomenone が、菌寄生菌では寄生性に有利な外因性の抗菌性物質として利用するように適用進化したと考えられた。以上のことから、菌寄生は、菌類における水平伝播を促進するメカニズムの一つである可能性が示唆された。

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2025/04/15

クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Nardonella sp.” Pin-AIST from the black hard weevil Pachyrhynchus infernalis
論文タイトル(訳)
クロカタゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01083-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

クロカタゾウムシという昆虫の細胞内に共生する細菌Nardonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは226,287 bpと極小であり、既報のNardonellaゲノムと高い相同性を示しました。Nardonellaはクロカタゾウムシにチロシンを供給することで、その硬い外骨格の形成を助けることが知られており、今回のゲノム解読の結果においてもチロシン合成系遺伝子が高度に保存されていることが分かりました。

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2025/04/15

糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する

論文タイトル
RNA editing of genomic neighbors controls antiviral response in fungi
論文タイトル(訳)
糸状菌におけるゲノム上の隣接遺伝子のRNA編集が抗ウイルス応答を制御する
DOI
10.1016/j.chom.2025.02.016
ジャーナル名
Cell Host & Microbe
巻号
Cell Host & Microbe Volume 33, Issue 4
著者名(敬称略)
本田 信治 他
所属
福井大学 医学部 看護学科 基盤看護学分野 生命基礎科学研究室
著者からのひと言
糸状菌に保存された、後生動物とは異なる仕組みの新規RNA編集酵素を発見! 隣接遺伝子old-zaoは、カビ自身の"免疫暴走"とも言える過剰応答を引き起こして病気を誘導する、ユニークな抗ウイルス機構を制御します。この独自のRNA編集システムは、新たな遺伝子工学ツールとしての可能性を秘めるだけでなく、その仕組みを人為的に操作して病原糸状菌を弱毒化させる、新しい生物防除法への応用も期待されます。本号のPreviewでも紹介され、無料公開中です!

抄訳

アカパンカビをモデルに、糸状菌の抗ウイルス応答におけるRNA編集の役割を調査した。その結果、ゲノム上で隣接するA-to-I RNA編集酵素「old」とジンクフィンガー転写因子「zao」が、ウイルス感染応答を制御することを発見した。特にOLD酵素は、zao mRNA上の未成熟終止コドン(PSC)を標的に、タンパク質合成を中断するはずのシグナルをトリプトファンをコードするよう編集する。このPSC編集によって機能的な全長型ZAOタンパク質が合成され、その量が抗ウイルス応答の強弱を切り替える「分子スイッチ」として機能する。通常、このスイッチは適切に制御されて無症状感染を維持するが、主要な抗ウイルス防御機構であるRNAi(RNA干渉)経路が欠損すると、このシステムが過剰に活性化し、植物の過敏感反応にも似た重篤な症状(免疫暴走)を引き起こす。この「old-zao」遺伝子モジュールは、他の主要な糸状菌でも進化的に保存されていることが示唆された。

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2025/04/15

ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読

論文タイトル
Complete genome of the mutualistic symbiont “Candidatus Carsonella ruddii” from a Japanese island strain of the Asian citrus psyllid Diaphorina citri
論文タイトル(訳)
ミカンキジラミの共生細菌カルソネラ日本系統の全ゲノム解読
DOI
10.1128/mra.01082-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 4
著者名(敬称略)
水谷 雅希 柿澤 茂行 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門

抄訳

ミカンキジラミという昆虫の細胞内に共生する細菌Carsonellaのゲノム決定に関する報告です。ゲノムサイズは173,958 bpと極小であり、既報のゲノムと高い相同性を示しました。ミカンキジラミはカンキツグリーニング病(huanglongbing)という植物の重要病害の病原体を媒介するベクターとして知られており、Carsonellaはミカンキジラミにアミノ酸等を供給することでその生育をサポートしていると考えられています。

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2025/04/15

真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性

論文タイトル
Substrate specificities of two ketosynthases in eukaryotic microalgal and prokaryotic marine bacterial DHA synthases
論文タイトル(訳)
真核微細藻類および原核海洋細菌由来DHA合成酵素における2つのケト合成酵素ドメインの基質特異性
DOI
10.1073/pnas.2424450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.12
著者名(敬称略)
尾形 海斗, 仲間 陸, 小笠原 泰志, 大利 徹 他
所属
北海道大学 大学院工学研究院 応用生物化学研究室
著者からのひと言
 DHAなどのPUFAは魚に多く含まれ、脳や心臓の健康を支える成分として知られています。微細藻類や海洋細菌が真の生産者ですが、複数の機能ドメインからなる巨大酵素であるDHA合成酵素が、厳密に制御された2炭素鎖伸長反応と還元反応を繰り返すことで炭素数22のDHAを特異的に生合成します。我々はPUFA合成酵素の仕組みに興味を持って研究をしていますが、本論文ではDHA合成酵素において2つのKSドメインの協同が重要であることを示しました。PUFAの効率的な発酵生産につながる重要な成果です。

抄訳

 ドコサヘキサエン酸 (DHA) は健康成分として知られる炭素数22の多価不飽和脂肪酸 (PUFA) であり、その生合成にはDHA合成酵素が関与します。真核微細藻類や原核海洋細菌由来のDHA合成酵素中には炭素鎖を2つずつ反復して伸長するケト合成酵素 (KS) ドメインが2つ (KSAとKSB/C) 含まれています。本研究では、2つのKSドメインの基質特異性を、組換え酵素とほぼ全ての中間体を用いたin vitro実験で解析しました。その結果、KSAは炭素数6、12、18の中間体を、KSBは炭素数8、14、20の中間体を特異的に認識すること、また、炭素数2、4、10の中間体は両ドメインによって認識されて鎖伸長反応が起こることを明らかにしました。これらの結果は、2つのKSドメインが中間体基質のチオエステル近傍の構造によって巧妙に使い分けられていることを示唆します。本研究は、DHA合成酵素の基質選択メカニズムを詳細に解明した初の包括的解析であり、PUFA合成の分子機構の理解を深めるとともに、DHAの効率的な生産技術の開発に貢献する可能性があります。

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2025/04/14

蛍光顕微鏡観察に基づいたトリコスポロン酵母の種間多様性解析

論文タイトル
Analyses of hyphal diversity in Trichosporonales yeasts based on fluorescent microscopic observations
論文タイトル(訳)
蛍光顕微鏡観察に基づいたトリコスポロン酵母の種間多様性解析
DOI
10.1128/spectrum.03210-24
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 4
著者名(敬称略)
青木 敬太 他
所属
東京農業大学総合研究所酵母多様性生物学・分類学研究室
著者からのひと言
現在,酵母は世界中で2,000種程存在すると考えられていますが,私達が利用しているのは子嚢菌のパン酵母などごく僅かです.酵母の研究は歴史的に子嚢菌の酵母をモデルに進みましたが,担子菌にも面白い酵母がたくさんいます.今回の我々の研究でも,トリコスポロン目酵母の様々な性質が明らかになりました.今後,子嚢菌酵母にはないユニークな性質を見つけられるのではないかと期待しています.

抄訳

担子菌のトリコスポロン目には,酵母型と菌糸型を持つ二形性の酵母が多く分類されます.菌糸型は真菌症の原因となるため,二形性の機序や種の簡便な同定法は重要な課題になります。私達は今までに,重症化すると死ぬこともある深在性トリコスポロン症の原因菌の菌糸がマグネシウムを添加することにより過度に伸長することを見つけていました.本論文では,この効果がトリコスポロン目の二形性酵母の間で共通かどうかを調べると共に,酵母の分類指標の一つになるかどうかを検討しました.その結果,マグネシウムの菌糸伸長効果はトリコスポロン目の二形性酵母で共通なことがわかりました.一方,菌糸の伸長と共に現れる隔壁の多重化や液胞の増大といった特徴はトリコスポロン目の中でもトリコスポロン属に偏って現れることがわかりました.よって,本研究の成果は,菌糸の形成メカニズムや分類研究に役立つと期待されます.

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2025/04/11

皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物viomelleinの再発見とその生合成遺伝子クラスターの同定

論文タイトル
Rediscovery of viomellein as an antibacterial compound and identification of its biosynthetic gene cluster in dermatophytes
論文タイトル(訳)
皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物viomelleinの再発見とその生合成遺伝子クラスターの同定
DOI
10.1128/aem.02431-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
二宮 章洋 萩原 大祐 他
所属
筑波大学生命環境学群 生命地球科学研究群 生命環境系

抄訳

糸状菌は生物活性を有する多様な化合物を生産する。そのような化合物は、自然環境中の生存競争に寄与し、病原菌であれば宿主への感染にも貢献すると考えられる。世界中で多くの患者が罹患している皮膚病原糸状菌に関して、生物活性を持つ化合物に関する研究は限られている。本研究では、感染部位における皮膚微生物叢との相互作用の理解を目指し、Trichophyton rubrumにおいて抗バクテリア活性を示す化合物を探索した。赤色色素化合物として知られていたviomelleinが強い抗バクテリア活性を示すことを明らかにし、トランスクリプトーム解析や遺伝子破壊実験によりその生合成遺伝子クラスター(vioクラスター)を同定した。麹菌を宿主としたvioクラスター遺伝子の再構成実験により、nor-toralactoneからviomelleinに至る生合成経路を示した。また、vioクラスターは皮膚病原糸状菌に広く保存されており、多くの皮膚病原糸状菌株がviomelleinだけでなく構造類似体のxanthomegninやvioxanthinも産生することができた。本研究により、皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物の分子実体を明らかになり、皮膚微生物叢と病原菌の相互作用を理解する上での重要な知見が提供された。

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2025/04/09

原発性アルドステロン症に対する手術適応評価における副腎静脈サンプリングの最適なLateralization Indexの検討

論文タイトル
Assessing Lateralization Index of Adrenal Venous Sampling for Surgical Indication in Primary Aldosteronism
論文タイトル(訳)
原発性アルドステロン症に対する手術適応評価における副腎静脈サンプリングの最適なLateralization Indexの検討
DOI
10.1210/clinem/dgae336
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Volume 110, Issue 4, April 2025, Pages e1084–e1093
著者名(敬称略)
小林 洋輝 他
所属
日本大学医学部 内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野
著者からのひと言
本研究は、原発性アルドステロン症に対する外科的治療の適応判断に用いられる副腎静脈サンプリングのLateralization Index(LI)について、国際的な大規模コホートと患者意識調査を基に最適カットオフ値を提示した初の研究である。本研究結果により、手術の必要性を判断するための国際的に標準的な判定方法を確立したことでグローバルな視点からこの病気の診断、治療の標準化に貢献できる。

抄訳

原発性アルドステロン症(primary aldosteronism; PA)の外科的治療適応を判断する際には、副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling; AVS)によるアルドステロンの左右比(lateralization index; LI)が指標として推奨されている。しかし、どの程度のLIで手術による治癒が期待できるか、明確なカットオフ値はこれまで確立されていなかった。本国際多施設共同研究では、PA患者1,550例(11カ国・16施設)の後ろ向きコホートを対象に、AVS所見から手術で治癒しうるPA(片側性PA)を識別するための最適LIカットオフ値を検討した。 まず、外科手術に対する治癒期待に関する患者側の意向も考慮したカットオフ設定を行うため、日本人PA患者82名に対してアンケート調査を実施し、手術を決断するために必要と考える治癒率の中央値が80%であることを確認した。これを踏まえ、LIのカットオフ値は「治癒率80%の陽性的中率」を達成する水準として設定された。その結果、最適LIカットオフ値はACTH非刺激時で3.8、ACTH刺激時で3.4と算出された。さらに、CTでの副腎結節の存在、ならびに対側抑制(contralateral suppression: CR<0.4)が、外科的治療により治癒し得るPAの独立した予測因子であることが示され、これらの指標をLIと組み合わせることで予測精度は大幅に向上した。本研究により、AVSにおけるLIの最適カットオフ値が初めて明確化された。加えて、CT所見や対側抑制を併用することで、PAに対する外科的治療の適応をより精密に判断できる可能性が示唆された。

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2025/04/08

SARS-CoV-2感染が遷延しレムデシビル耐性を示した免疫不全患者の臨床的・分子生物学的背景

論文タイトル
Clinical and molecular landscape of prolonged SARS-CoV-2 infection with resistance to remdesivir in immunocompromised patients
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2感染が遷延しレムデシビル耐性を示した免疫不全患者の臨床的・分子生物学的背景
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf085
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus Volume 4, Issue 4
著者名(敬称略)
入山 智沙子 市川 貴也(執筆者) 他
所属
藤田医科大学医学部 血液内科学
北海道大学医学研究院 病原微生物学教室
著者からのひと言
免疫不全者にとっては、COVID-19は未だ脅威な感染症です。本症例のような持続感染は、血液内科医であれば一度は経験するであろう決して珍しくない事象ですが、その体内で何が起こっているのか未だ不明な点が多いです。本研究は、3例の持続感染者において、ウイルス遺伝子の時間的多様性を明らかにするともに、薬剤耐性ウイルスの性状を実験室内で解析した点でユニークであると言えます。「ベッドサイド(臨床)からベンチ(基礎)まで」を体現した研究であり、今後のCOVID-19診療の一助となることに期待します。

抄訳

血液悪性疾患などの免疫不全患者では、SARS-CoV-2感染が遷延(持続感染)し、難治性となる場合がある。我々は、持続感染を起こした悪性リンパ腫患者3例について、病理学的およびウイルス学的に詳細に解析した。全症例において抗ウイルス薬治療が奏功せず、ウイルスRNA量が1ヶ月以上高いレベルで維持された。2例が死亡し、病理解剖ではサイトメガロウイルスの再活性化や細菌/真菌の重複感染を認めた。ウイルス遺伝子を次世代シーケンサーにて解析したところ、様々な変異が蓄積し、それらの変異頻度が経時的に変化していることが明らかとなった。また、レムデシビルの標的分子であるNSP12にV792I・M794Iの変異が検出された。これらの変異を持つウイルスに対して薬剤感受性試験および病原性試験を行なった結果、V792I・M794I変異はともにレムデシビルに対して耐性化を示し、病原性は減弱していることが判明した。
【結語】薬剤耐性ウイルスの出現抑制を目的とした抗ウイルス薬の早期投与や併用療法など、生命予後の改善を目指した新たな治療戦略の考案が重要である。

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2025/04/07

センサーヒスチジンキナーゼPhcSは、Ralstonia pseudosolanacearum  OE1-1株のクオラムセンシングに依存した病原力遺伝子の制御に関わる

論文タイトル
The sensor histidine kinase PhcS participates in the regulation of quorum sensing-dependent virulence genes in Ralstonia pseudosolanacearum strain OE1-1
論文タイトル(訳)
センサーヒスチジンキナーゼPhcSは、Ralstonia pseudosolanacearum  OE1-1株のクオラムセンシングに依存した病原力遺伝子の制御に関わる
DOI
10.1128/spectrum.00059-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 4
著者名(敬称略)
瀬沼 和香奈1・都筑 正行1・竹村 知夏1・寺澤 夕貴1・木場 章範1・大西 浩平1・甲斐 建次2・曵地 康史1
所属
1高知大学農林海洋科学部
2大阪公立大学大学院農学研究科

抄訳

Ralstonia pseudosolanacearum  (青枯病菌)OE1-1株は、クオラムセンシングシグナルとして、自ら分泌するmethyl 3-hydroxymyristate (3-OH MAME)を、センサーヒスチジンキナーゼPhcSを介して受容する。そして、3-OH MAME受容によるPhcSの230番目のアミノ酸残基ヒスチジン (H230-PhcS)の自己リン酸化が、LysR型転写因子PhcAの活性化をもたらす。活性化PhcAにより、多くの病原力関連遺伝子を含むQS依存遺伝子の発現が制御される。さらに、センサーヒスチジンキナーゼPhcKが、3-OH MAMEの受容に独立して関わるphcA遺伝子 (phcA)の発現制御に、PhcSも関与する。本研究では、PhcSとPhcKによるphcAの発現制御機構の解明を目指した。PhcKの自己リン酸化部位と想定される205番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換したところ、phcAの発現に有意な変化が認められなかった。一方、H230-PhcSのグルタミン酸への置換により、phcK遺伝子あるいはphcAの欠損と同様に、QS依存遺伝子の発現が有意に変化し、病原力が喪失した。すなわち、H230-PhcS230の自己リン酸化が、3-OH MAME受容に依存したPhcAの活性化とともに、3-OH MAME受容に独立したPhcKによるphcA発現制御に関わる。これらの結果から、PhcSが関わる複数の二成分制御系が、青枯病菌の病原力を司るクオラムセンシングに不可欠であることが示唆された。

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2025/04/07

放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスにおいて二成分制御系のオーファン応答制御因子が生理的に成熟した胞子嚢の形成に関与している

論文タイトル
Involvement of an orphan response regulator of the two-component regulatory system in the formation of physiologically mature sporangia in Actinoplanes missouriensis
論文タイトル(訳)
放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスにおいて二成分制御系のオーファン応答制御因子が生理的に成熟した胞子嚢の形成に関与している
DOI
10.1128/spectrum.03272-24
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 4
著者名(敬称略)
安久都 卓哉 手塚 武揚 大西 康夫 他
所属
東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室
著者からのひと言
胞子嚢はカビではよく知られていますが、バクテリアでは極めて珍しい存在です。我々が研究対象としている放線菌は、胞子嚢の中にべん毛を有する胞子を形成し、胞子嚢開裂によって放出された胞子は遊走子となって、水中を高速で運動します。進化の方向が単純から複雑だとすると、この放線菌はもっとも進化したバクテリアの1つだと言っても過言ではありません。我々はこの複雑な形態分化の分子機構に興味をもち、長年研究していますが、本論文は一連の研究の1つです。微生物細胞の不思議に迫ることを目指しています。

抄訳

放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスは、休眠胞子が詰まった胞子嚢を形成します。胞子嚢は水がかかると胞子嚢膜が破れ、胞子が放出されます(胞子嚢開裂)。以前の解析では、胞子嚢形成時に転写が増大する136の遺伝子を同定していましたが、今回、そのうちの1つであるasfRの機能解析を行いました。asfRは、バクテリアの環境応答のためによく用いられる二成分制御系の応答制御因子の制御ドメインをコードしていますが、通常と違って、その周辺には、センサーヒスチジンキナーゼはコードされていませんでした。asfR遺伝子の破壊株では、形態的には正常な胞子嚢が形成されましたが、この胞子嚢は開裂条件でも胞子を放出しませんでした。また、AsfRの機能には、リン酸化を受けるアスパラギン酸残基が必要であることがわかりました。これまで、胞子嚢開裂の初期段階に関わるタンパク質は全くわかっていなかったため、開裂の準備ができた(=生理的に成熟した)胞子嚢の形成に必須な制御因子としてAsfRを同定できたことの意義は大きいと考えています。

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2025/04/04

生きた細胞内の呼吸酵素を解析:ラベルフリーin situ電気化学の活用

論文タイトル
Decoding in-cell respiratory enzyme dynamics by label-free in situ electrochemistry
論文タイトル(訳)
生きた細胞内の呼吸酵素を解析:ラベルフリーin situ電気化学の活用
DOI
10.1073/pnas.2418926122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.12
著者名(敬称略)
徳納 吉秀 他
所属
筑波大学 エネルギー微生物学研究室
著者からのひと言
私たちの細胞内では多くの酵素が電子をやり取りしながら協力して働いていますが、酵素の働きを直接観察することは難しい課題でした。本研究では、電極から電子を注入することで複雑に相互作用する呼吸関連の酵素を駆動し、その機能を詳しく分析する新技術を開発しました。

抄訳

 私たちが呼吸する際には、特定の酵素間で電子のやり取りが起こり、酸化や還元といった重要な化学反応がとても効率的に進行します。このような複雑な細胞内の酵素の働きを理解することは、科学の発展や新薬の開発などの幅広い分野で重要です。これまで、細胞内で単独で機能する限られた酵素の研究はなされてきましたが、呼吸に関わる酵素のように複雑に相互作用する酵素の働きを詳しく調べることはできませんでした。
 本研究では、微生物細胞内に電極を使って高速に電子を注入することで呼吸酵素を駆動し、その働きを電流で測定、解析する新しい手法を開発しました。この手法により、酵素反応を電流として測定・解析することが可能になります。さらに、多数のサンプルの同時測定ができる独自開発した電気化学装置と組み合わせ、細胞内の酵素の働きを効率的に分析する技術の開発にも成功しました。この技術を使えば、呼吸に関連したさまざまな酵素の細胞内での働きを明らかにできる可能性があり、今後、複雑な細胞内の酵素間の相互作用を理解するための基盤技術としての活用が見込まれます。また、酵素をターゲットとする新規薬剤の開発などにも役立つと考えられるため、病原性細菌の殺菌剤の開発や酵素に関連する疾患の治療法開発など医療分野への展開も期待されます。

 

 

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2025/04/03

緑藻クラミドモナスのFBB18タンパク質は、繊毛ダイニンの細胞質前集合に必須な新規ユビキチン様タンパク質である

論文タイトル
Chlamydomonas FBB18 is a ubiquitin-like protein essential for the cytoplasmic preassembly of various ciliary dyneins
論文タイトル(訳)
緑藻クラミドモナスのFBB18タンパク質は、繊毛ダイニンの細胞質前集合に必須な新規ユビキチン様タンパク質である
DOI
10.1073/pnas.2423948122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.12
著者名(敬称略)
山本 遼介 昆 隆英 他
所属
大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻細胞構築学研究室
著者からのひと言
本研究は、繊毛ダイニンの構築因子 (前集合因子) であるFBB18が新規のユビキチン様タンパク質であるという、予想外の事実を明らかにしたものです。この発見は、FBB18のヒトオーソログの異常により引き起こされる原発性繊毛運動不全症の発症機構の理解や、繊毛ダイニン前集合機構の更に詳細な分子基盤解明の一助になると期待されます。

抄訳

「繊毛ダイニン」は、細胞小器官「運動性繊毛」を駆動するモータータンパク質複合体である。繊毛ダイニンは、繊毛内に運び込まれてモーターとして機能する前に、細胞質内で前集合と呼ばれる機構により各サブユニット (重鎖/中間鎖/軽鎖) から組み立てられるが、前集合機構の分子基盤には不明な点が多い。我々は、緑藻クラミドモナスを用い、FBB18と呼ばれるタンパク質が繊毛ダイニン前集合に必須であり、恐らくは繊毛ダイニン重鎖の正確な折り畳みに関与していることを示した。また、FBB18が両端に球状ドメインを持つダンベル様の構造を持つことを明らかにした。興味深いことに、片方の球状ドメインはユビキチン (タンパク質分解のマーカーとなる小分子) と高度な類似性を示した。本研究は、繊毛ダイニン前集合因子であるFBB18が新規のユビキチン様タンパク質であることを初めて示したものであり、前集合機構の生物進化における起源や分子進化に重要な示唆を与えると共に、ユビキチン様タンパク質の全く新しい細胞内機能を提示したものである。

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