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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/07/31

楽観的な人たちは“同じように”思い描く:エピソード的未来思考における共有された神経表象

論文タイトル
Optimistic people are all alike: Shared neural representations supporting episodic future thinking among optimistic individuals
論文タイトル(訳)
楽観的な人たちは“同じように”思い描く:エピソード的未来思考における共有された神経表象
DOI
10.1073/pnas.2511101122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
柳澤邦昭 他
所属
神戸大学大学院人文学研究科

抄訳

楽観主義とは、未来に対して肯定的な期待を抱く傾向であり、心身の健康や社会的つながりにポジティブな影響を与える心理的資源とされている。本研究では、2つのfMRI実験を通じて、楽観性の高さが未来を思い描く際の脳の働きにどのように関与するかを検討した。参加者に、感情価の異なる未来の出来事を、自分自身または配偶者の身に起こることとして想像してもらい、その際の脳活動を計測した。その結果、楽観性の高い人同士は内側前頭前野(MPFC)において類似した神経活動パターンを示す一方で、楽観性の低い人はより多様なパターンを示すことが明らかになった。さらに、MPFCの活動パターンに着目した分析から、楽観的な人ほどポジティブとネガティブな出来事を明確に区別して想像する傾向が示唆された。これらの結果は、楽観性の心理的・社会的適応の背景に、共通した認知構造が存在する可能性を示しており、楽観性の神経基盤に関する新たな理解につながる知見である。

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2025/07/31

サイトカラシンDによるアクチン重合阻害と切断の分子機構:TIRF顕微鏡と結晶構造解析による解明

論文タイトル
Microscopic and structural observations of actin filament capping and severing by cytochalasin D
論文タイトル(訳)
サイトカラシンDによるアクチン重合阻害と切断の分子機構:TIRF顕微鏡と結晶構造解析による解明
DOI
10.1073/pnas.2502164122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.29
著者名(敬称略)
三谷隆大 藤原郁子 武田修一 他
所属
長岡技術科学大学 大学院工学研究科 物質生物系
著者からのひと言
長年の疑問だった「サイトカラシンDがどうやってアクチンの伸び縮みを止めているのか」を、世界で初めて分子レベルで明らかにできました。1本のアクチン線維をリアルタイムに観察し、原子分解能で構造変化を捉えられたのは非常に感慨深く、今後の薬剤開発や基礎研究に役立つことを期待しています。

抄訳

サイトカラシンDはアクチンフィラメント(線維)の重合を阻害する薬剤として広く使われていますが、その作用機構は分子レベルでは未解明でした。本研究では、TIRF顕微鏡、結晶構造解析、分子動力学シミュレーションを組み合わせて、サイトカラシンDの濃度に応じた3段階の作用を明らかにしました。低濃度では線維中の2本のプロトフィラメントの一方に結合する“ゆるい”キャップとして作用します。中濃度では2分子が強固に結合して線維端を安定化させ、高濃度では線維を切断します。1.7Å分解能で捉えた構造変化は、アクチン制御における適切な薬剤使用への指針となる知見を提供します。

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2025/07/31

日本の臨床分離NAGビブリオ株のゲノム解析事例

論文タイトル
Genomic insights into clinical non-O1/non-O139 Vibrio cholerae isolates in Japan
論文タイトル(訳)
日本の臨床分離NAGビブリオ株のゲノム解析事例
DOI
10.1128/spectrum.00175-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum 2025 Jun 24:e0017525.
著者名(敬称略)
小林 洋平 鈴木 仁人 柴山 恵吾 柴田 伸一郎 他
所属
名古屋市衛生研究所微生物部
著者からのひと言
本研究では、日本国内で報告されたNAGビブリオ感染事例に対し、地方衛生研究所が主体となって起因株のゲノム解析を行い、感染源が複数存在する可能性を示唆するとともに、病原性関連遺伝子の特徴を明らかにしました。こうした事例について得られた知見を発信していくことは、公衆衛生の現場から社会への貢献につながる重要な取り組みです。

抄訳

Non-O1/O139型コレラ菌(NAGビブリオ)は、腸管感染症や敗血症などを引き起こす病原細菌であり、近年は地球温暖化などの影響によって環境中での増殖が促進され、感染拡大への懸念が高まっています。一方で、国内におけるNAGビブリオ感染症は感染症法に基づく病原体サーベイランスの対象外であり、臨床分離株の分子疫学情報は限られていました。本研究では、2020年に名古屋市で報告された3例のNAGビブリオ感染症に由来するコレラ菌株についてゲノム解析を行い、世界各地で過去に報告された臨床分離株との比較解析を実施しました。系統解析の結果、3株は遺伝的に多様であり、短期間に複数の汚染源から散発的に発生した可能性が示唆されました。さらに、細菌毒素、付着因子、III型およびVI型分泌機構関連遺伝子など病原性関連遺伝子の多様性などを明らかにしました。本研究は、日本におけるNAGビブリオ感染事例起因株の分子疫学的特徴を明らかにし、今後の感染症対策や監視体制の構築に資する重要な知見を提供するものです。

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2025/07/28

子宮腺筋症における体細胞変異プロファイルと染色体異常

論文タイトル
Mutation profile and chromosomal abnormality in adenomyosis
論文タイトル(訳)
子宮腺筋症における体細胞変異プロファイルと染色体異常
DOI
10.1530/REP-25-0132
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 170: Issue 2
著者名(敬称略)
須田 一暁 中岡 博史 他
所属
新潟大学医学部産科婦人科
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 医療情報解析学講座 データサイエンス分野
著者からのひと言
私たちの研究グループはヒト子宮内膜の基底層付近に網目状構造を呈する上皮組織が存在することを発見し、その形態から地下茎構造と名付けました。また、一見正常な子宮内膜組織において、がん関連遺伝子に体細胞変異を獲得した細胞が子宮内膜の三次元空間において増殖するメカニズムに地下茎構造が関与していることを明らかにしました。本研究で同一変異クローンに由来する子宮腺筋症病変が子宮の広範な領域に観察されることを示しました。この背景に、私たちが発見した地下茎構造が関与している可能性があります。研究をさらに進め、子宮腺筋症の発症機序解明につなげたいと考えています。

抄訳

レーザーマイクロダイセクションを用いた選択的組織採取と次世代シーケンシング技術を用いたゲノム解析によって、子宮腺筋症上皮において、KRAS、PIK3CA、ARID1A、FBXW7などのがん関連遺伝子の体細胞変異や一番染色体長腕のコピー数増加が高頻度に存在することが分かった。これらのゲノム異常が子宮腺筋症の発生および進展に関連すると考えられる。また、複数の腺筋症病変および正常子宮内膜の間で変異クローンの関係を精査した。同一症例の子宮腺筋症と正常子宮内膜上皮で体細胞変異の共有が認められたことから、子宮腺筋症は子宮内膜上皮を起源として発生することが分かった。同一変異クローンに由来する腺筋症病変が子宮の広範な領域に増殖しているケースも観察された。さらに、同一症例において複数の異なる変異クローンに由来する腺筋症病変が認められたことから、腺筋症はオリゴクローン性に増殖するユニークな特徴を有する疾患であることが分かった。

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2025/07/25

ニューロメジンU欠損によりラットのテストステロンの日内リズムが乱れ、輪まわし活動が減少する

論文タイトル
Neuromedin U Deficiency Disrupts Daily Testosterone Fluctuation and Reduces Wheel-Running Activity in Rats
論文タイトル(訳)
ニューロメジンU欠損によりラットのテストステロンの日内リズムが乱れ、輪まわし活動が減少する
DOI
10.1210/endocr/bqaf102
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 166, Issue 8, August 2025, bqaf102
著者名(敬称略)
大塚 舞 相澤 清香 他
所属
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科(理学部生物学科)分子内分泌学研究室
著者からのひと言
本研究は、ペプチドホルモン「ニューロメジンU」がオスのテストステロン日内リズムと運動意欲を制御することを世界で初めて示しました。ホルモンとモチベーション行動の関係を解明する新しい知見であり、やる気や意欲の低下に関わる精神疾患研究にも新たな展望を与える成果です。

抄訳

本研究では、ニューロメジンU(NMU)の生理的役割を明らかにするため、NMUノックアウト(KO)ラットを解析した。オスのNMU KOラットでは、野生型(WT)と比較して回し車を走る「輪まわし活動」が有意に減少していた。一方で、飼育ケージ内での全体的な活動量には変化はなかった。WTラットのオスでは血中テストステロン濃度が日内で変動し、朝に高く夜に低下していたのに対し、NMU KOラットでは1日のピークがみられず、日内リズムが消失していた。NMU KOラットにテストステロンを慢性的に投与すると、輪まわし活動はWTと同程度に回復した。また、NMU KOラットでは下垂体における黄体形成ホルモンの発現や、LH産生細胞の大きさが低下していた。脳において、NMUは下垂体隆起部に高発現し、その受容体は第三脳室上衣細胞層のタニサイトに強く発現していた。以上より、NMUはテストステロンのリズム調節を介して、自発的な運動行動、モチベーション行動の制御に関与する新規機能が明らかになった。

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2025/07/24

中性子構造解析と時分割X線構造解析を用いてNudix加水分解酵素ヒトMTH1の基質結合および反応機構を詳細に解明した

論文タイトル
Neutron and time-resolved X-ray crystallography reveal the substrate recognition and catalytic mechanism of human Nudix hydrolase MTH1
論文タイトル(訳)
中性子構造解析と時分割X線構造解析を用いてNudix加水分解酵素ヒトMTH1の基質結合および反応機構を詳細に解明した
DOI
10.1073/pnas.2510085122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.29
著者名(敬称略)
平田 啓介、藤宮 佳菜、中村 照也 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)機能分子構造解析学講座
著者からのひと言
これまでに合成されてきたほとんどのMTH1阻害剤は、MTH1のAsp119とAsp120に結合するため、本研究で決定した高精度なMTH1構造を基にした新たな抗がん剤の創出につながることが期待されます。また、Nudixファミリーにおいては、金属イオンの関与する酵素反応機構が長年議論されていますが、今回の研究により、MTH1 は3 つの金属イオンが関与して反応を触媒することが明らかになりました。

抄訳

ヒトMTH1は、活性酸素種によって生じた酸化ヌクレオチドを広い基質特異性により加水分解して除去する酵素であり、抗がん剤の標的としても注目されている。これまでの研究から、MTH1の基質・阻害剤の結合には、基質結合ポケット内のアミノ酸残基のプロトン(水素原子)の付加や脱離、すなわちプロトン化/脱プロトン化状態が重要であると示唆されていたが、水素原子を直接観察することの難しさから、その状態を実験的に証明するには至っていなかった。本研究では、水素原子の位置を高感度で検出可能な中性子構造解析を用いることでMTH1の基質結合ポケット内の水素原子を可視化し、Asp119とAsp120のプロトン化状態の変化が広範な基質・阻害剤結合を可能にしていることを実験的に初めて実証した。さらに、時分割X線構造解析によりMTH1の加水分解反応過程を動的に観察し、MTH1が属する大規模な加水分解酵素群であるNudixファミリーに共通すると考えられる反応機構を提案した。

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2025/07/23

グルココルチコイド療法を新規に開始する患者における、ロモソズマブ、デノスマブ、リセドロネートの治療効果の比較

論文タイトル
Comparison of Efficacy of Romosozumab With Denosumab and Risedronate in Patients Newly Initiating Glucocorticoid Therapy
論文タイトル(訳)
グルココルチコイド療法を新規に開始する患者における、ロモソズマブ、デノスマブ、リセドロネートの治療効果の比較
DOI
10.1210/clinem/dgae810
ジャーナル名
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Volume 110, Issue 8, e2778-e2786
著者名(敬称略)
川添 麻衣, 南木 敏宏 他
所属
東邦大学 医学部 内科学講座膠原病学分野(大森)
著者からのひと言
これまでに我々は、グルココルチコイド開始後早期にWntシグナル抑制因子であるsclerostinが増加することを報告し、ROMOがGIOPに有効であると期待していました。本研究では、GIOP におけるROMOの有効性を、既存治療薬2剤とのランダム化比較試験で明らかにしました。本研究結果は、ROMOが今後のGIOPに対する治療選択肢の一つとなるエビデンスになると考えています。

抄訳

近年、骨形成および骨吸収におけるWntシグナルの関与が解明され、Wntシグナルの抑制因子であるsclerostinに対する抗体製剤(ロモソズマブ; ROMO)が上市されたが、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)に対する有効性は明らかではない。そこで、プレドニゾロン(PSL)換算15mg/日以上を新規に開始する膠原病患者を対象とし、骨粗鬆症治療薬をROMO、デノスマブ(DMAb)、リセドロネート(BP)に無作為に割り付け、有効性を比較した(ROMO群11例、DMAb群14例、BP群14例)。平均年齢はいずれも70歳台で、男女比や一日PSL投与量は3群に有意差はなかった。主要評価項目である12ヵ月後の腰椎骨密度のベースラインからの変化率(中央値)はROMO群で最大であった(ROMO群、DMAb群、BP群:8.6%、3.3%、−0.4%)。骨形成マーカーの低下はROMO群で最も小さく、ROMOがグルココルチコイドによる骨形成抑制に対し保護的に作用する可能性が示唆された。新規骨折の累計発生頻度はROMO群で低い傾向であった。これらの結果から、GIOPにおいてもROMOは有効であることが示された。

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2025/07/22

膀胱感染の重要因子である尿路病原性大腸菌イノシン-5’一リン酸デヒドロゲナーゼGuaBの役割

論文タイトル
Role of GuaB, the inosine-5′-monophosphate dehydrogenase of uropathogenic Escherichia coli pathogenicity: a key factor for bladder infection
論文タイトル(訳)
膀胱感染の重要因子である尿路病原性大腸菌イノシン-5’一リン酸デヒドロゲナーゼGuaBの役割
DOI
10.1128/spectrum.00221-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
下川 瑞起、平川 秀忠 他
所属
国立大学法人群馬大学 医学部医学科
著者からのひと言
尿路感染症(UTI)は、私たちにとって身近な感染症であり、全世界で年間1億人以上が罹患している。UTIの主な原因菌である尿路病原性大腸菌(UPEC)は、再発しやすく、抗菌薬の繰り返し使用によって2000年以降、薬剤耐性菌の増加が急速に進んでいます。そのため、UPECに対する新たな治療法の開発が求められています。本研究では、UPECの新たな病原因子「GuaB」を同定しました。既存の抗菌薬とは異なる作用機序を持つ新規治療標的として、薬剤耐性菌への対策に期待されます。

抄訳

本研究は、尿路感染症(UTI)の主要な原因菌である尿路病原性大腸菌(UPEC)の膀胱感染における新規病原因子の探索を目的とした。近年、様々な抗菌薬に対する耐性菌が増加しており、本菌に対する治療法の改善が求められている。本研究では、UTIマウスモデルを用いて感染時に有意に発現する蛋白質をプロテオーム解析により同定を行った。その結果、グアニル酸合成に関与するGuaB(イノシン-5′一リン酸デヒドロゲナーゼ)が膀胱感染に重要であることを発見した。GuaB欠損株は尿中での増殖と膀胱定着能が著しく低下し、尿の主要成分である尿素によってGuaB発現が促進することも明らかにした。以上の結果は、GuaBがUPEC感染の新たな治療標的となりうる可能性を示唆しており、UPEC病原性のさらなる理解と治療薬開発に貢献するものである。

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2025/07/18

D-アラニン合成系と外因性アラニンは黄色ブドウ球菌の薬剤感受性に影響する

論文タイトル
D-alanine synthesis and exogenous alanine affect the antimicrobial susceptibility of Staphylococcus aureus
論文タイトル(訳)
D-アラニン合成系と外因性アラニンは黄色ブドウ球菌の薬剤感受性に影響する
DOI
10.1128/aac.01936-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Vol. 69, No. 7
著者名(敬称略)
鈴木 優仁, 松尾 美樹, 坂口 剛正 他
所属
広島大学大学院医系科学研究科細菌学研究室
著者からのひと言
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は現状もっとも拡散している薬剤耐性菌であり、臨床で高頻度に使用されるβラクタム系抗菌剤への耐性を獲得している点から、厄介な存在として知られています。本研究では、MRSAに対してアラニンの供給を制限すると各種抗菌剤への感受性が高まるということを発見しました。この知見から、アラニンの供給阻害と既存の抗菌剤との併用などによる新規治療戦略に応用できる可能性があります。

抄訳

グラム陽性菌において、D-アラニンは、細胞壁ペプチドグリカンの架橋形成やタイコ酸の修飾に不可欠である。その合成はアラニンラセマーゼ(Alr)およびD-アミノ酸トランスアミナーゼ(Dat)に依存し、D/L-アラニンの取り込みはトランスポーターCycAにより行われる。本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のalrdatcycA遺伝子を不活化した変異株を用いて感受性を評価した。その結果、特にalr欠損株およびcycA欠損株においてβ-ラクタム系、アミノグリコシド系、ダプトマイシンなど複数の抗菌薬に対する感受性が上昇し、菌体表層の陰性電荷が増加していた。さらに、アラニンを除去した培地では、MRSA株のβ-ラクタム系抗菌薬への感受性が著しく高まった。これらの結果は、D-アラニンの欠乏がペプチドグリカンの低架橋化および表層電荷の変化を引き起こし、抗菌薬感受性を上昇させることを示唆している。

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2025/07/17

発達中および成熟したシロイヌナズナ種子における胚乳細胞層の顕微鏡解析のための無傷組織の調整法

論文タイトル
Preparation of Intact Tissue for Microscopic Analysis of the Endosperm Cell Layer in Developing and Mature Arabidopsis Seeds
論文タイトル(訳)
発達中および成熟したシロイヌナズナ種子における胚乳細胞層の顕微鏡解析のための無傷組織の調整法
DOI
10.3791/68217-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (219), e68217
著者名(敬称略)
瀬田 京介 吉本 光希 他
所属
明治大学 農学部生命科学科 環境応答生物学研究室
著者からのひと言
これまで困難とされてきたシロイヌナズナ種子の胚乳細胞層の高解像度ライブイメージングに成功しました。種子の発芽メカニズムを理解するには、胚だけでなく、胚乳細胞層の生理機能にも注目することが重要です。本論文で報告した手法により、種子発芽制御の理解が一層深まると考えられます。本手法は、種子発芽研究における基礎的な科学技術の一つとして広く普及することが期待されます。さらに将来的には、本手法が種子発芽促進技術の開発に貢献し、飢餓のない持続可能な社会の実現に寄与することが期待されます。

抄訳

モデル植物シロイヌナズナの種子において、胚と種皮の間に位置する胚乳細胞層は、種子の成熟や発芽の制御に重要な役割を担っています。その生理機能を分子・細胞レベルで理解するには、顕微鏡による高解像度観察が不可欠です。しかし、胚乳細胞層は種皮の内側に存在し、種子自体も非常に小さいため、組織や細胞を傷つけることなく観察可能な状態で調製するのは困難でした。本論文では、発達中および成熟種子における胚乳細胞層を顕微鏡で観察するためのサンプル調整法を詳述しています。この手法では、固定や切片作製を必要とせず、標準的な実験器具(注射針、精密ピンセット、実体顕微鏡など)を用いるだけで、生きた胚乳細胞を多数観察することが可能です。本手法により、胚乳細胞層の細胞および分子レベルでの研究が一層進展し、その新たな機能の解明に寄与することが期待されます。

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2025/07/17

フロリゲンの細胞間移行は低温環境下においてアブシシン酸シグナリングを介して抑制される

論文タイトル
Cell-to-cell translocation of florigen is inhibited by low ambient temperature through abscisic acid signaling in Arabidopsis thaliana
論文タイトル(訳)
フロリゲンの細胞間移行は低温環境下においてアブシシン酸シグナリングを介して抑制される
DOI
10.1073/pnas.2507987122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.28
著者名(敬称略)
村田 裕介 阿部 光知 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻

抄訳

花成ホルモン“フロリゲン”は植物の花芽形成を促す鍵分子であり、シロイヌナズナではFLOWERING LOCUS T(FT)タンパク質がその分子実体である。FTは、花芽形成に適した環境下において葉で産生された後、葉から茎の先端部(茎頂分裂組織)へと輸送され、茎頂分裂組織内部で機能発揮する。これまでに、葉におけるFTの産生に関する多くの知見が報告されてきたが、FT輸送に関する知見は乏しく、特に茎頂分裂組織周辺におけるFT輸送機構はほとんど明らかにされていない。本論文では、シロイヌナズナ体内においてFTの局在を可視化し、茎頂分裂組織におけるFT輸送機構について詳細な解析を行なった。その結果、FTは原形質連絡(隣接した細胞間をつなぐ植物に特有の微細なトンネル構造)を介して細胞間を移行すること、並びに、低温などの環境要因に応じた原形質連絡透過性の変化がFTの細胞間移行制御に関与することが明らかとなった。

 

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2025/07/17

EDNRB2は鳥類蝸牛感覚上皮の有毛細胞再生過程において前駆細胞の運命決定、移動、分化を制御する

論文タイトル
EDNRB2 regulates fate, migration, and maturation of hair cell precursors in regenerating avian auditory epithelium explants
論文タイトル(訳)
EDNRB2は鳥類蝸牛感覚上皮の有毛細胞再生過程において前駆細胞の運命決定、移動、分化を制御する
DOI
10.1073/pnas.2502713122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.28
著者名(敬称略)
竹内 万理恵 松永 麻美 中川 隆之 他
所属
京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
著者からのひと言
鳥類の再生メカニズムの解明は、哺乳類における聴覚再生の手がかりになりますが、その仕組みの多くはわかっていません。本研究では、有毛細胞再生時においてこれまで不明であった「どの支持細胞が有毛細胞になるのか」のメカニズムの一端を明らかにしました。鳥類の再生機構を哺乳類へ応用することで、これまで実現していない哺乳類での有毛細胞再生医療の確立に寄与することが期待されます。

抄訳

哺乳類では、聴覚を担う有毛細胞が一度傷害されると再生せず、感音難聴は回復しません。一方、鳥類では有毛細胞が傷害を受けると、支持細胞を起源に新たな有毛細胞が再生し、難聴が治ります。しかし、その再生機構の詳細は解明されていません。これまでの研究で、鳥類の有毛細胞再生過程では、支持細胞がリプログラミングされた後、有毛細胞へと分化すること、この過程でエンドセリン受容体B2(EDNRB2)が特異的に発現することが解っていましたが、その具体的な機能は不明でした。本研究により、EDNRB2が発生期の鶏蝸牛において、前駆細胞から有毛細胞あるいは支持細胞への分化の方向性が決定する時期に限って発現していることが明らかになりました。さらに、再生過程では、EDNRB2が前駆細胞の有毛細胞への運命決定、移動、分化成熟を制御していることが解明されました。本成果は、支持細胞から有毛細胞への再生時における細胞運命決定機構と分化過程の理解を深め、哺乳類での有毛細胞再生に貢献することが期待されます。

 

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2025/07/14

単純ヘルペスウイルス1型プロテインキナーゼUs3の基質特異性の変化がin vitroおよびin vivoにおけるウイルス感染に及ぼす影響

論文タイトル
Impact of the changes in substrate specificity of herpes simplex virus 1 protein kinase Us3 on viral infection in vitro and in vivo
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型プロテインキナーゼUs3の基質特異性の変化がin vitroおよびin vivoにおけるウイルス感染に及ぼす影響
DOI
10.1128/jvi.00400-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
塩さおり 加藤哲久 川口寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ウイルスプロテインキナーゼ(vPK)は、多くの標的タンパク質をリン酸化することが知られていますが、それらのリン酸化をどのように精密に制御しているのか、またその制御がウイルス感染過程においてどのような意味を持つのかは、これまで明らかにされていませんでした。本研究では、vPKによるリン酸化の“fine-tuning”機構に着目し、構造予測と比較解析に基づいてこの制御機構を部分的に撹乱した変異ウイルスを設計・解析するという新たなアプローチに挑戦しました。

抄訳

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)がコードする Us3 は、セリン・スレオニンキナーゼとして多様なウイルスおよび宿主タンパク質をリン酸化するが、これらのリン酸化がどのように精密に制御され、感染に如何に関与しているかは不明であった。本研究では、相同性検索と AlphaFold 解析を組み合わせ、キナーゼの活性調節部位とされる活性化ループ(A-loop)を推定し、A-loop 内の進化的に保存された Ala-326 を Val または Ile に置換することで、326 位における疎水性および側鎖の大きさを変化させた変異ウイルスを作製・解析した。その結果、両変異は基質ごとのリン酸化状態に選択的な変化を与え、細胞間伝播効率やマウスにおける病原性に影響を及ぼした。一連の知見から、Us3 による基質特異的リン酸化の fine-tuning が HSV-1 感染制御に重要であること、ならびにウイルスキナーゼの A-loop がその調節に関与する可能性が示された。

 

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2025/07/14

脳内のダニ媒介性脳炎ウイルスを中和する血液脳関門透過型抗体の開発

論文タイトル
Development of blood-brain barrier-penetrating antibodies for neutralizing tick-borne encephalitis virus in the brain
論文タイトル(訳)
脳内のダニ媒介性脳炎ウイルスを中和する血液脳関門透過型抗体の開発
DOI
10.1128/msphere.00184-25
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Ahead of Print
著者名(敬称略)
福田 美津紀 好井 健太朗 他
所属
長崎大学 高度感染症研究センター 研究部門 ウイルス生態研究分野
著者からのひと言
中枢神経系に感染するウイルスに対して、いかにして抗ウイルス薬を脳内に届け、有効に作用させるかは、治療法開発における大きな課題でした。本研究では、血液脳関門(BBB)を通過する分子に着目し、それを抗ウイルス抗体と融合させることで、脳内に侵入したウイルスを中和できることを初めて実証しました。これは、感染症治療にとどまらず、今後、さまざまな神経変性疾患への応用が期待されるものです。

抄訳

ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)は重篤な中枢神経症状を引き起こすフラビウイルスの一種で、現在有効な治療法は存在しません。本研究では、中枢神経系に侵入したTBEVを排除することを目的に、血液脳関門(BBB)を通過可能な抗体の開発を行いました。BBBを透過する性質を持つ狂犬病ウイルス由来のペプチドを融合させた中和抗体は、in vitroおよびin vivoのモデルにおいてBBBを通過し、脳内のTBEVに対して中和活性を示しました。特に、ウイルスが脳に侵入した後に末梢から投与しても治療効果が認められた点は、TBE治療法開発における重要な知見です。本研究は、脳標的型抗ウイルス抗体療法の可能性を初めて示したものであり、今後の中枢神経感染症治療の発展が期待されます。

 

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2025/07/04

呼吸筋表面筋電図の取得と半自動解析

論文タイトル
Acquisition and Semi-Automated Analysis of Respiratory Muscle Surface Electromyography
論文タイトル(訳)
呼吸筋表面筋電図の取得と半自動解析
DOI
10.3791/67157-v7
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (215), e67157
著者名(敬称略)
Antenor Rodrigues 松村 海 他
所属
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
社会福祉法人致遠会 サンハイツ
著者からのひと言
呼吸筋EMGの強さ,タイミングの評価においてEMG信号の取得・計測から信号解析まで,簡便に行う手法を概説している.本法は人為的な解析に比べて,60倍以上の速さで呼吸筋EMGの信号処理ができ,評価者の主観ではなく客観的な指標を提唱する.本法は臨床において吸気負荷と呼吸筋の働きに関するメカニズムに関しての洞察を深めることに有用であると考える.

抄訳

呼吸困難等の呼吸器症状の病態を理解するために,呼吸駆動(呼吸中枢からの指令によって,呼吸運動)を評価することが望ましい.呼吸駆動の評価法の1つに,呼吸筋の筋電図(electromyography: EMG)があげられる.呼吸筋EMGの強度は筋収縮の強さや動員される筋線維数を反映し,EMGのタイミングは吸気流の生成に対しての筋活動の開始や収束を示す.EMGの強度やタイミングは,呼吸負荷がかかるような呼吸器疾患の病態を把握する上で,呼吸筋の協調運動や呼吸中枢からの抑制信号を理解する上で重要となる.本論文では,4つの呼吸筋EMGの計測(皮膚処理,EMG電極貼付)と解析(EMG信号のフィルタリングと変換,吸気流量に対しての筋活動の開始や収束の同定法)について述べる.健常男性を対象に,漸増吸気閾値負荷試験を行い,本法を検証した結果,吸気負荷が高いほど横隔膜以外の呼吸筋活動の開始が早く,活動持続時間は長かった.また,吸気負荷がかかった状態における呼吸筋EMGのタイミングの変化は,EMG振幅の増加と相関が見られた.本法は臨床において呼吸筋活動を定量化し,正常状態および吸気負荷がかかった状態における呼吸筋の運動制御戦略に関する知見を提唱する.

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2025/06/25

糖負荷試験負荷後1時間値は正常耐糖能者において心血管疾患や悪性腫瘍による死亡を予測する

論文タイトル
One-hour postload glucose levels predict mortality from cardiovascular diseases and malignant neoplasms in healthy subjects
論文タイトル(訳)
糖負荷試験負荷後1時間値は正常耐糖能者において心血管疾患や悪性腫瘍による死亡を予測する
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf179
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 6, June 2025, pgaf179
著者名(敬称略)
佐藤 大樹、今井 淳太、片桐 秀樹 他
所属
東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野
著者からのひと言
本研究の結果から、糖尿病になる前の段階から食後の血糖上昇に対処することで、心血管疾患や悪性腫瘍の発症を予防し寿命を延ばすことにつながる可能性が示されました。また現在、糖負荷後1時間血糖値は糖尿病の診断基準に含まれていません。病気の発症を抑えて寿命を延ばす、つまり健康長寿を促進するためには、今後、糖尿病の診断の際に糖負荷後1時間血糖値を考慮していく必要があることも示唆されます。

抄訳

本研究では岩手県で行われている大迫研究のデータを用い、ブドウ糖負荷試験の結果を含むさまざまな検査結果の中で死亡リスクと相関するものの探索を行った。その結果、さまざまな検査結果の中で、糖負荷試験での糖負荷後1時間血糖値が死亡と強く相関することを見出した。そこで、糖負荷試験の結果を元に正常と診断された方だけを抽出して糖負荷後1時間血糖値をどの値で区切った時に死亡と最も関連するのかを調べたところ、糖負荷後1時間血糖値を170 mg/dlで区切った際に、死亡と最も強く相関することがわかった。この結果を元に糖負荷試験負荷後1時間血糖値が170 mg/dl未満群と170 mg/dl以上群で生存の経過を解析したところ、生存に顕著な差が認められ、さらに、糖負荷後1時間血糖値が170 mg/dl以上群では心血管疾患や悪性腫瘍による死亡が顕著に多いことが示された。本研究の結果から、糖負荷試験負荷後1時間値は正常耐糖能者において心血管疾患や悪性腫瘍による死亡を予測することが明らかになった。

 

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2025/06/23

安全性と抗菌治療効果を兼ね備えた非増殖性ファージの開発

論文タイトル
Development of a nonreplicative phage-based DNA delivery system and its application to antimicrobial therapies
論文タイトル(訳)
安全性と抗菌治療効果を兼ね備えた非増殖性ファージの開発
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf176
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 6, June 2025, pgaf176
著者名(敬称略)
氣駕 恒太朗、崔 龍洙 他
所属
自治医科大学医学部感染・免疫講座細菌学部門
著者からのひと言
これまで、私たちは非増殖性ファージでは十分な抗菌効果を得るのは難しいと考えてきました。しかし本研究では、殺菌作用を持つタンパク質(バクテリオシン)を組み込むことで、非増殖性ファージによる細菌の除去効果が大きく向上することを初めて明らかにしました。今後、この新しい治療法が感染症治療への応用につながることが期待されます。

抄訳

薬剤耐性の問題が深刻化する中、安全かつ効果的な新たな抗菌戦略の開発が求められている。本研究では、安全性と治療効果を両立する新たな抗菌アプローチとして、非増殖性ファージにバクテリオシンを搭載した製剤を開発した。まず、ファージ療法の課題である制御不能なファージ増殖や体内動態の不確実性を克服するため、非増殖性ファージを基盤とするDNA導入システム「B-CAP(Bacteria-targeting Capsid Particle)」を構築した。B-CAPは、ファージのカプシドに部分的なファージゲノムを内包することで自己増殖能を持たず、野生型ファージと同様に標的細菌への遺伝子注入が可能である。T7ファージをベースとしたB-CAPでは、最大18 kbの外来DNAを搭載でき、標的細菌に長鎖DNAを導入することができる。
B-CAP単体では一細胞ごとの殺菌にとどまるため、我々は周囲の細菌も殺菌できるように、殺菌性タンパク質コリシンE1のオペロンを搭載したB-CAP_ColE1を作製した。このB-CAP_ColE1は、カルバペネム耐性大腸菌に対して、in vitroおよびin vivoの両条件で顕著な殺菌効果を示し、マウス感染モデルにおいても生存率の有意な改善が認められた。

 
ファージ製剤(B-CAP ColE1)の殺菌様式

 

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2025/06/23

父親(王)の年齢が子の将来を決める:精子のエピジェネティック変化がシロアリの社会的役割に影響

論文タイトル
Transgenerational epigenetic effect of kings’ aging on offspring’s caste fate mediated by sperm DNA methylation in termites
論文タイトル(訳)
父親(王)の年齢が子の将来を決める:精子のエピジェネティック変化がシロアリの社会的役割に影響
DOI
10.1073/pnas.2509506122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.24
著者名(敬称略)
高田 守 松浦 健二 他
所属
京都大学昆虫生態学研究室
著者からのひと言
本研究は、精子のエピジェネティック修飾が次世代の運命を決めるという新しい視点を提示しています。

抄訳

社会性昆虫では、なぜ同じ親から生まれた子の一部が羽アリになり、他は働きアリになるのか、その仕組みには多くの謎が残っていました。本研究では、シロアリにおいて「父親(王)の年齢」が子の将来のカースト運命を左右することを初めて明らかにしました。若い王から生まれた子は羽アリになりやすく、年老いた王の子はワーカーになりやすいことが分かりました。この違いはDNA配列の変化ではなく、精子に蓄積されたDNAメチル化というエピジェネティックな化学修飾によって引き起こされていました。本研究は、昆虫における父親の年齢が次世代の社会的運命にまで影響を及ぼすことを示した、初の直接的な証拠です。

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2025/06/23

ショウジョウバエGTSF1ホモログTppによる大量のpiRNA産生は、Aubergineの局在と生殖質の形成を保証する

論文タイトル
Abundant piRNA production mediated by the Drosophila GTSF1 homolog Tpp ensures Aubergine localization and germ plasm assembly
論文タイトル(訳)
ショウジョウバエGTSF1ホモログTppによる大量のpiRNA産生は、Aubergineの局在と生殖質の形成を保証する
DOI
10.1073/pnas.2419375122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.24
著者名(敬称略)
喜納 寛野 中村 輝 他
所属
熊本大学発生医学研究所
著者からのひと言
本研究では、スクリーニングにより同定した新規母性因子Tppの解析を通じて、生殖細胞の形成とゲノム防御をつなぐ新たな仕組みを明らかにしました。Tpp(Tiny pole plasm)という名前は、変異体で生殖質(pole plasm)が小さくなる表現型にちなんで命名しました。

抄訳

生殖細胞は、卵や精子など配偶子を作る細胞種であり、世代を超えて種のゲノムを維持する必要がある。PIWI相互作用RNA(piRNA)は、過去にゲノムに侵入したトランスポゾンの情報を利用してトランスポゾンを抑制し、それによってゲノムの維持に貢献している。ショウジョウバエの卵巣では、PIWIタンパク質の1つであるAubergine (Aub) は、生殖細胞におけるトランスポゾンの抑制だけでなく、生殖質の形成と、それに続く子孫の生殖細胞系列へのpiRNAの分配にも関わる。今回我々が同定した新規母性因子Tppは、piRNA産生を促進する因子であり、Tppを欠く卵巣では、piRNAの産生が減少してしまう。piRNA減少により、Aubの生殖質への局在が著しく低下し、その結果生殖細胞の形成が不全となった。一方、Tppを各卵巣においても、ほとんどのトランスポゾンは抑制されたままであった。すなわち、生殖細胞は、トランスポゾンの抑制に必要なレベルを超える量のpiRNAが産生されたときにのみ形成される。このような巧妙なメカニズムにより、生殖質にはトランスポゾン情報を包括的にカバーするのに十分なpiRNAが集積し、子孫の生殖細胞におけるゲノムの完全性が保証される。
プレスリリースに用いたeyechtch figure

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2025/06/23

遺伝子ターゲティング効率がMsh2欠損の影響を受けるかどうかはドナーDNA中の相同領域の長さに依存する

論文タイトル
Homology-arm length of donor DNA affects the impact of Msh2 loss on homologous recombination–mediated gene targeting
論文タイトル(訳)
遺伝子ターゲティング効率がMsh2欠損の影響を受けるかどうかはドナーDNA中の相同領域の長さに依存する
DOI
10.1073/pnas.2508507122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.24
著者名(敬称略)
斎藤 慎太 足立 典隆 他
所属
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 分子生物学研究室
著者からのひと言
細胞のDNAを自在に改変できるゲノム編集技術はさまざまな分野で注目されており、その科学的重要性と社会的ニーズの高さは2020年のノーベル化学賞(CRISPR/Cas9)や2007年のノーベル医学生理学賞(遺伝子ターゲティングとノックアウトマウス)からも明らかです。今回の成果は、ゲノム編集やDNA修復の研究に重要な示唆を与えると考えられます。

抄訳

正確なゲノム編集(相同組換えに依存した遺伝子ターゲティング)に及ぼすミスマッチ修復の影響は40年以上明らかにされていなかった。そこで、さまざまな長さのドナーDNAベクターとさまざまな種類のヒト細胞変異株を駆使して遺伝子ターゲティング効率を調べたところ、ベクター中の相同領域が短くなるにつれミスマッチ修復タンパク質Msh2の影響を強く受けることがわかった。この現象は相同組換えを介した反応でのみ観察され、相同組換えを介さない反応(著者らが昨年発見したメカニズム;Nat. Commun., 2024)では相同領域の長さとは無関係に弱い影響を受けることもわかった。以上の結果から、遺伝子ターゲティングによる正確なゲノム編集において相同領域の短いドナーDNAベクターを使用すると、ベクター中の非相同領域の存在によって相同組換えを介した遺伝子ターゲティングの効率が低下することが明らかになった。

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