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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2025/09/08

ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性 New

論文タイトル
Potential for prolonged replication of common acute respiratory viruses in air-liquid interface cultures of primary human airway cells
論文タイトル(訳)
ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性
DOI
10.1128/msphere.00422-25
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Ahead of Print
著者名(敬称略)
川瀬 みゆき 白戸 憲也 他
所属
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所呼吸器系ウイルス研究部第2室
著者からのひと言
プライマリ呼吸器上皮細胞のALI培養系を含むオルガノイドは、呼吸器ウイルス研究における有用なツールです。本研究では、免疫細胞による排除がない環境では、呼吸器ウイルスが平均約100日間、感染性を保ちながら複製可能であることを示しました。従来の株化培養細胞では捉えられなかった呼吸器ウイルスの真の姿を明らかにできる可能性があり、オルガノイド培養系を用いた研究の発展が期待されます。

抄訳

これまでの先行研究において、小児における呼吸器ウイルスの長期検出が報告されているが、ウイルスのヒト組織内での生存期間は不明であった。本研究ではヒト初代呼吸器上皮細胞の気液界面(ALI)培養系で主要呼吸器ウイルスの複製能を評価した。その結果、多くのウイルスは平均約100日、長いものでは150~200日間の持続複製が可能であった。一方、インフルエンザウイルスやDNAウイルスは細胞死により短期間(18~66日)で複製が終了した。再感染実験でも一部で複製能が維持されていることが示された。また、IFNβの一過性分泌以外はI型IFN応答はほとんど見られず、免疫寛容的環境が長期複製を許容していることが示唆された。さらに50~60日を超える複製では、ウイルスゲノムに遺伝子変異が蓄積する可能性が生じることが示され、免疫不全宿主における長期複製が新規変異株出現の温床となりうることが示された。

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2025/09/08

右室中隔にリード留置後、遠隔期に左室流出路狭窄を生じた左室中隔基部肥厚症例 New

論文タイトル
Left ventricular outflow tract obstruction appearing in remote period of right ventricular septal pacing in patient with left ventricular septal bulge
論文タイトル(訳)
右室中隔にリード留置後、遠隔期に左室流出路狭窄を生じた左室中隔基部肥厚症例
DOI
10.1136/bcr-2024-262639
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 8
著者名(敬称略)
伊集院 駿 他
所属
独立行政法人 国立病院機構 鹿児島医療センター
著者からのひと言
右室リード留置の際、従来は、術者が右室の形態に合わせてシェイピングしたスタイレットを用いて留置場所を選択していた。近年では、ガイディングシースを用いることで容易かつ安全に中隔にリード留置できるようになり、デバイス治療を専門としない循環器内科医にとって有り難い時代となった。半面、本症例のように中隔ペーシング後に、左室流出路狭窄が進行するケースもあり、本論文が中隔基部肥厚患者のリード留置位置を選択する上での参考になれば嬉しい。

抄訳

本症例は70歳代女性で、完全房室ブロックに対し右室高位中隔にリードを留置したデュアルチャンバーペースメーカーを植え込み後、6年目に労作時の倦怠感と呼吸困難を主訴に来院した。植込み前は左室中隔基部肥厚を認めたが、左室流出路(LVOT)狭窄や僧帽弁収縮期前方運動(SAM)はなかった。経過中に心エコーで新たにSAMと左室流出路にモザイク血流を認め、バルサルバ負荷で116mmHgの圧較差が出現した。薬物療法は無効であり、電気生理学的検査では高位中隔ペーシング時のみ圧較差が増悪することが確認された。リード抜去は困難であったため、新たに右室心尖部にリードを追加しペーシング部位を変更したところ、LVOT狭窄とSAMは消失し症状も改善、9年間の追跡でも再発を認めなかった。高位中隔ペーシングは左室中隔基部肥厚症例でLVOT閉塞を惹起しうるため、リード留置部位の慎重な選択が必要であると示唆される。

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2025/09/08

エチレン-α-オレフィン共重合体を用いて単離されたHalopseudomonas aestusnigriの完全ゲノム配列 New

論文タイトル
Complete genome sequence of the first Halopseudomonas aestusnigri strain isolated using an ethylene-α-olefin co-oligomer
論文タイトル(訳)
エチレン-α-オレフィン共重合体を用いて単離されたHalopseudomonas aestusnigriの完全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00589-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
飯塚 怜、上村 想太郎
所属
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 光計測生命学講座
著者からのひと言
本研究では海洋細菌によるプラスチックのアップサイクルの可能性を示しました。同様のアプローチで海洋細菌の単離・ゲノム解析も行っており(doi: 10.1128/mra.00584-25, 10.1128/mra.00785-25)、多様な微生物によるプラスチック分解メカニズムの解明を進めています。将来的には、これらの微生物を活用した実用的な環境浄化技術へと発展させたいと考えています。

抄訳

海洋環境におけるプラスチック汚染は深刻な環境問題となっており、プラスチック分解能を持つ微生物の探索と応用が注目されている。本研究では、神奈川県津久井浜海岸の表層海水から、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)のモデル化合物であるエチレン-α-オレフィン共重合体を用いてHalopseudomonas aestusnigri T1L2株を単離し、完全ゲノムを決定した。
T1L2株のゲノムは約391万塩基対の環状染色体からなり、ポリオレフィンの断片化に関与する可能性のある多銅酸化酵素や、断片化ポリオレフィンの代謝に関わる酵素の遺伝子をコードしていた。また、ポリオレフィン分解産物を生分解性プラスチック(ポリヒドロキシアルカン酸)に変換する酵素遺伝子も見出された。本研究は、海洋細菌を用いたプラスチックから生分解性プラスチックへの変換という革新的な環境技術の基盤を提供するものである。

 

 

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2025/09/05

Streptomyces yogyakartensis、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisの再分類に伴うStreptomyces javensisとStreptomyces rhizosphaericusの記載変更

論文タイトル
Emended descriptions of Streptomyces javensis and Streptomyces rhizosphaericus based on reclassifications of Streptomyces yogyakartensis, Streptomyces cangkringensis, and Streptomyces indonesiensis
論文タイトル(訳)
Streptomyces yogyakartensis、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisの再分類に伴うStreptomyces javensisとStreptomyces rhizosphaericusの記載変更
DOI
10.1099/ijsem.0.006881
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Vol.75 Issue 8 (2025)
著者名(敬称略)
小牧 久幸
所属
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)
著者からのひと言
放線菌が生産する抗生物質等の二次代謝産物の種類は株に特異的であって、分類学的な種とは無関係だと信じられていました。しかし、この論文では、最新の基準に従った適切な分類によって、同種であれば株が違ってもポリケチドや非リボソームペプチドに代表される二次代謝産物の生合成遺伝子群がゲノム中に良く保存されていることを示しました。これによりPKSやNRPS遺伝子群の種類が分類や同定の指標になる可能性があります。

抄訳

Streptomyces javensis、Streptomyces yogyakartensis及びStreptomyces violaceusnigerは基準株の16S rRNA遺伝子塩基配列が一致する。これら3種の関係を調べた。全ゲノム配列を用いたDNA-DNA交雑試験でS. javensis JCM 11446TとS. yogyakartensis JCM 11448Tの相同性は89.4%だったが、これら2株に対するS. violaceusniger NBRC 13459Tの相同性は70%に満たなかった。表現性状やゲノム中のⅠ型ポリケチド合成酵素(PKS)及び非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)遺伝子群も類似したので、S. yogyakartensisをS. javensisに再分類した。また、本研究の過程でStreptomyces rhizosphaericus、Streptomyces cangkringensis及びStreptomyces indonesiensisが同種である可能性が示唆された。これらの基準株間ではDNA-DNA相同性が97%を超え、表現性状も類似し、殆どのPKS及びNRPS遺伝子群が保存されていたので、S. cangkringensisとS. indonesiensisをS. rhizosphaericusに再分類した。以上の再分類に伴いS. javensisとS. rhizosphaericusの記載を変更した。

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2025/08/29

α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製

論文タイトル
Discovery and development of an oral analgesic targeting the α2B adrenoceptor
論文タイトル(訳)
α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製
DOI
10.1073/pnas.2500006122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
(筆頭著者)豊本雅靖 (連絡著者)萩原正敏
所属
京都大学大学院医学研究科創薬医学講座
著者からのひと言
麻薬性鎮痛薬(オピオイド)の過剰使用による死者は北米では数万に達し、いまやオピオイド危機と言われる世界的な社会問題となっています。私たちが見出したADRIANAは、アドレナリン受容体α2Bに結合してノルアドレナリン分泌を促すことで鎮痛作用を発揮するため、オピオイド投与で惹起される重篤な副作用や依存性が見られません。臨床試験でも安全性が確かめられており、オピオイドに代わる鎮痛薬として、様々な痛みに苦しむ患者様を救うこと出来ればと思います。

抄訳

疼痛管理は、身体的苦痛が患者の生活の質に大きく影響することから、世界的な医療課題である。広く使用される麻薬性鎮痛薬(オピオイド)は強力な鎮痛効果を示す一方で、依存性や呼吸抑制といった副作用が問題となっており、安全で有効な代替薬の開発が強く求められている。本研究では、ノルアドレナリン(NA)がα2Aアドレナリン受容体を介して鎮痛をもたらす生理的機構に着目し、脳脊髄内でNA分泌を促進するα2Bアドレナリン受容体選択的阻害剤「ADRIANA(Adrenergic Inducer of Analgesia)」を同定した。マウスへの投与では脊髄後角でのNA増加に基づくα2A依存的鎮痛効果が確認され、霊長類を含む複数の疼痛モデルでも、モルヒネに匹敵する鎮痛効果を示しながら重篤な副作用は認められなかった。加えて、標的であるα2Bを欠損したマウスでは鎮痛効果が消失し、薬理作用の標的特異性が実証された。これらの結果から、α2B受容体は脳脊髄内でのNA分泌を誘導し、α2A依存的下行性抑制系を活性化する、新規鎮痛メカニズムの標的として有望であることが示された。現在、ADRIANAは非オピオイド鎮痛薬候補として、術後疼痛患者を対象とした第I/II相臨床試験が進行中である。

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2025/08/28

説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測

論文タイトル
Prediction of Insulin Requirements by Explainable Machine Learning for Individuals With Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測
DOI
10.1210/clinem/dgae863
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 9, September 2025, Pages e3093–e3100, https://doi.org/10.1210/clinem/dgae863
著者名(敬称略)
芳村 魁 廣田 勇士 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
著者からのひと言
機械学習を用いて1型糖尿病患者の最適インスリン量の予測を試みた研究です。実臨床において最適なインスリン量は各個人で異なり、1型糖尿病患者ではしばしば治療困難な場合がありますが、インスリン量の差異を予測するために重要な情報の探索も試みています。 研究に用いたインスリン量が最適量であったことは、CGMデータを用いて担保しており、今後の臨床応用へ向けた発展性のある研究であると考えています。

抄訳

目的

インスリン投与量の最適化は、インスリン療法における有害事象の発生頻度を減らし、糖尿病合併症を予防するうえで重要である。本研究では、日常診療で得られるデータに基づき1日総インスリン投与量(TDD)を予測する機械学習モデルを開発し、その性能を評価することを目的とした。

方法

単施設後ろ向き観察研究。神戸大学医学部附属病院において持続皮下インスリン注入療法(CSII)と連続皮下ブドウ糖濃度測定器(CGM)を併用した1型糖尿病患者を対象とした。Random Forest、SVM等の機械学習を用いたTDD予測モデルを作成、平均絶対パーセント誤差(MAPE)で性能を評価した。モデルの解釈性を高めるため、説明可能な人工知能のフレームワークを用いた。

結果

研究参加者は110名であり、最も高い性能を示したモデルはRandom Forest(MAPE 19.8%)であった。TDD予測において最も重要な項目は体重であり、次いで腹囲、炭水化物摂取量であった。

結論

本研究では、臨床情報からTDDを予測する機械学習モデルを開発した。インスリン投与量を最適化する方法の確立は、多くの糖尿病患者の治療に貢献する可能性があり、さらなる発展が望まれる。

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2025/08/28

細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造

論文タイトル
A β-cap on the FliPQR protein-export channel acts as the cap for initial flagellar rod assembly
論文タイトル(訳)
細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造
DOI
10.1073/pnas.2507221122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
筆頭著者:木下 実紀、連絡著者:南野 徹
所属
大阪大学大学院生命機能研究科日本電子YOKOGUSHI協働研究所
著者からのひと言
病原細菌のべん毛運動は病原性の発現やバイオフィルム形成に深く関与します。べん毛輸送装置は細菌に特有の分子機構であり、しかも細菌の生存には必須ではないため、その機能のみを選択的に阻害できる薬剤が開発できれば、病原細菌のべん毛運動性や感染力を効果的に抑制できる可能性があります。今後、FliPQR複合体に結合してその機能を阻害する化合物を同定することで、新興細菌感染症の制御に資する新たな治療薬の開発が大きく前進すると期待されます。

抄訳

細菌の運動器官であるべん毛は約30種類のタンパク質が段階的に組み上がることで形成される。その根本に存在する専用のタンパク質輸送装置が細胞内で合成されたべん毛の部品たんぱく質を順に細胞外へ送り出す。FliP、FliQ、FliRはこの輸送装置のチャネルを構成し、べん毛軸構造構築の基部としての役割も果たす。しかし、最初に輸送される軸構造タンパク質FliEがどのようにFliPQR複合体の先端結合部位に配置されてべん毛形成が開始されるのか未解明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いたFliPQR複合体の構造解析により、その先端にβキャップと名づけた出口ゲート構造を発見した。このβキャップは輸送開始前にこの出口ゲートを閉じた状態に保つだけでなく、FliEをべん毛形成の開始点に誘導する機能を持つことが明らかとなった。FliE6分子が次々輸送されるとβキャップは花が咲くように開き、べん毛形成が開始すると考えられる。べん毛運動は病原性にも深く関わるため、この発見は新たな抗菌剤標的探索への貢献も期待される。

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2025/08/28

RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。

論文タイトル
RyR1-mediated Ca2+-induced Ca2+ release plays a negligible role in excitation–contraction coupling of normal skeletal muscle
論文タイトル(訳)
RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。
DOI
10.1073/pnas.2500449122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
小林 琢也 山澤 徳志子 呉林 なごみ 村山 尚 他
所属
順天堂大学大学院医学研究科 細胞・分子薬理学

抄訳

骨格筋収縮に必要なカルシウムイオン(Ca2+)は細胞内貯蔵部位の筋小胞体から1型リアノジン受容体(RyR1)チャネルを介して遊離される。RyR1は、T管膜のジヒドロピリジン受容体と共役した脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR)と、Ca2+が直接結合して開くCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)の二つの開口機構を持つ。生理的な筋収縮においてはDICRが主な開口機構であるが、CICRがCa2+シグナルの増幅を起こすか否かという議論が半世紀にわたって続いてきた。われわれはRyR1のCa2+結合部位を改変してCICRだけを抑制したマウスを作出した。変異マウスは筋収縮や運動能力に影響は見られなかったが、RyR1の異常活性化が原因で起こる悪性高熱症に対して抵抗性を示した。以上の結果から、CICRは生理的な筋収縮には関与しておらず、むしろ過剰になると筋疾患の原因となることが示唆された。

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2025/08/26

初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見

論文タイトル
First isolation of a methanotrophic Mycobacterium reveals ammonia- and pH-tolerant methane oxidation
論文タイトル(訳)
初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見
DOI
10.1128/aem.00796-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
蒲原 宏実 大橋 晶良 他
所属
広島大学大学院 先進理工系科学研究科(工学系) 社会基盤環境工学プログラム 環境保全工学研究室
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオものづくり研究センター 微生物生態工学研究チーム
著者からのひと言
メタン酸化細菌は、限られた系統群に属すると認識されてきましたが、ゲノム情報からは、その多様性が広がっていることが見えてきています。今回、第三の門としてActinomycetota門のMycobacterium属細菌MM-1株を分離培養し、これまで知られていなかったメタン酸化細菌の姿を明らかにしました。本研究は、メタン酸化細菌の世界を拡張し、新たな可能性を切り拓きます。

抄訳

メタン酸化細菌は、自然由来および人為由来のメタンを酸化することで地球規模の炭素循環において重要な役割を担っている。これまでの研究では、主にPseudomonadota門、Verrucomicrobiota門の好気性メタン酸化細菌に焦点が当てられてきた。実は、40年前にメタン酸化能を有するグラム陽性のActinomycetota門に属する細菌もメタン酸化能を有すると報告されていたが、分離株も保存されておらず、続報もないことから、メタン酸化細菌群として認識されてこなかった。本研究では、ActinomycetotaMycobacterium属に属するメタン酸化細菌MM-1株を分離培養し、初めてその特徴を明らかにした。これは第三の好気性メタン酸化細菌の門の確立を意味する。MM-1株は従来のメタン酸化細菌に比べて広いpH耐性と高いアンモニア耐性を示し、新たなアンモニア耐性機構の存在を示唆する。さらに、16S rRNA遺伝子解析により、MM-1株と近縁な配列が、飲料水システムを含む多様な環境で検出されており、既知のメタン酸化細菌が生存困難な環境において重要なメタンシンクとして機能する可能性が示された。

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2025/08/25

Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性

論文タイトル
Genomic epidemiology and antimicrobial resistance of Corynebacterium macclintockiae, the predominant species of human pathogens within the Corynebacterium jeikeium complex
論文タイトル(訳)
Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性
DOI
10.1128/jcm.00500-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology 2025 Aug 13;63(8):e0050025
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
Corynebacterium属菌は一般的には病原性が低いと考えられていますが、C. jeikeiumは免疫不全者の感染症の起因微生物となり、多剤耐性を示すことが知られています。本研究では病院の検査室でC. jeikeiumと同定された臨床分離株のほとんどが、全ゲノム解析では2023年に報告された新種であるC. macclintockiaeと同定されました。公共データーベースを用いた解析からは本菌種が日本国外にも広く分布していることが示唆されましたが、疫学的背景や臨床的特徴については未解明な点が多く、今後の検討が待たれます。

抄訳

Corynebacterium jeikeiumのゲノム的特徴や治療法は未解明な点が多い。本研究では、まず単施設のC. jeikeium感染症6例(MALDI-TOF MSにより同定)の原因菌株の全ゲノム解析を行い、これらが全て遺伝学的にはCorynebacterium macclintockiaeと同定されることを確認した。さらに全国8施設から収集した血流感染症由来のC. jeikeium 33株についても全ゲノム解析を行ったところ、うち32株はC. macclintockiaeと同定された。C. macclintockiaeは多剤耐性を示したが、テイコプラニンを含めた抗MRSA薬の感受性は良好であり、全体の約60%を占めるtet(W)非保有株ではテトラサイクリン系にも感性を示した。世界各国から公共データーベースに登録されたC. jeikeiumおよび近縁菌(C. jeikeium complex)の27株の全ゲノム解析データを加えた解析でも、遺伝学的には約77%がC. macclintockiaeと同定された。

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