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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/10/03

パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか New

論文タイトル
How palytoxin transforms the Na+,K+ pump into a cation channel
論文タイトル(訳)
パリトキシンはどのようにしてNa+,K+ポンプを陽イオンチャネルに変えるか
DOI
10.1073/pnas.2506450122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.38
著者名(敬称略)
金井 隆太 豊島 近 他
所属
東京大学 定量生命科学研究所 膜蛋白質解析研究分野
著者からのひと言
パリトキシンが結合しただけではチャネル化は起こらない。反応サイクルをある程度回れる柔軟性があるから可能なのである。Na+,K+ポンプは本質的にNa+ポンプだが、それを反映してイオン通路の構成も細胞内側、外側で大きく異なっている。本論文は「チャネルとポンプの本質的違い」や「ポンプ蛋白質は何を見て次のステップに進む(構造変化を起こす)のか」にも答える深い論文になった。海産毒物や蛋白質はあまりにも良く出来ていることに圧倒されるのは著者だけではあるまい。

抄訳

パリトキシンは生物界で最も強力な非ペプチド性毒物の一つであり、非常に複雑な構造を持つ。その標的はNa+,K+ポンプ(Na+,K+-ATPase、Na+,K+依存性ATP水解酵素)である。Na+,K+ポンプは細胞内から細胞外へATP1分子当たり3個のNa+を厳密に選択して運搬し逆方向には2個のK+(Na+でも可)を濃度勾配に逆らって輸送する膜蛋白質である。パリトキシンはNa,K+ポンプを非選択的陽イオンチャネルに変えてしまう。このことは「ポンプはチャネルにゲートがもう一つ付加されたものである」ことを示唆するようにも見える。しかし、クライオ電子顕微鏡を駆使して得られた構造は、本来の役割の違い(ポンプは濃度勾配を確立する、チャネルは濃度勾配に従って物質を通す)を反映して、本質的に違うものであることを示していた。また、パリトキシンは役割を異にする3つの部分から成り、その柔軟性が膜貫通へリックス間の連携の破壊によるポンプのチャネル化に必須であることも判明した。

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2025/09/24

世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術

論文タイトル
World’s First Real-Time Artificial Intelligence–Assisted Mechanical Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke
論文タイトル(訳)
世界初:急性期脳梗塞に対するリアルタイムAI支援下機械的血栓回収術
DOI
10.3174/ajnr.A8704
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1647-1651
著者名(敬称略)
廣瀬 瑛介 松田 芳和 他
所属
昭和医科大学病院脳神経外科
著者からのひと言
本研究は、急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術において、世界で初めてリアルタイムAI支援を臨床応用した報告です。
時間との戦いである治療中に、術者の「目線の変わり」となるアシスト機能を提供し、安全性と治療効率の向上に寄与する可能性を示しました。

抄訳

急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収術(MT)において、リアルタイム人工知能(AI)支援を用いた初の臨床経験を報告した。局所麻酔下で16例連続にAIソフト(Neuro-Vascular Assist, iMed Technologies)を使用し、ガイディングカテーテルが透視画像から外れた際にリアルタイム通知を行った。通知は全例で正常に作動し、1例あたり平均8.1回の通知が発生。精度97%、再現率99%と高い正確性を示し、126件の真陽性通知のうち25件(20%)では術者が10秒以内に再位置調整を実施した。手技遅延や有害事象は認めず、安全性も確認された。本研究はMTにおけるAIリアルタイム支援の有用性を示す初報の一つであり、今後は大規模検証により臨床的意義が期待される。

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2025/09/24

Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング

論文タイトル
Transcriptomic profiling of Pseudomonas migulae revealed gene regulatory properties during biodegradation of aromatic hydrocarbons under cold stress
論文タイトル(訳)
Pseudomonas migulaeの低温ストレス条件下での芳香族化合物分解過程における遺伝子発現挙動のプロファイリング
DOI
10.1099/mgen.0.001470
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Vol. 11, Issue 9 (2025)
著者名(敬称略)
柳田 將貴 守 次朗 他
所属
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 微生物生態学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas属細菌は様々な環境から見つかり、その優れた低温ストレス適応能力についても頻繁に報告されていますが、意外にも、低温に適応する詳細な機構については過去に報告がありませんでした。本学修士課程の学生が奮闘し、その一端を解き明かしました。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。

抄訳

Pseudomonas属細菌においては、芳香族の環境汚染物質の分解能力や、低温を含む多様な環境ストレスへの優れた適応能力を有するものがしばしば報告されている。本研究では、環境汚染物質のp-ヒドロキシ安息香酸(PHBA)を増殖の栄養源として利用でき、なおかつ低温条件下(10˚C)で活発に生育可能な新規の細菌株P. migulae HY-2株をモデルとして用いて、低温ストレス条件下での芳香族炭化水素の分解過程における遺伝子調節機構について調査を行った。HY-2株のトランスクリプトーム解析の結果、低温条件下では複数種のシャペロンの発現上昇によりタンパク質の恒常性が維持され、さらに外来ポリアミンの蓄積に伴うバイオフィルム形成が誘導される一方、PHBAの分解に関わる遺伝子群の発現はほとんど影響を受けないことがわかった。本成果は、細菌を用いた汚染環境の修復技術におけるPseudomonas属細菌の有用性について、新たな知見を与えるものである。

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2025/09/24

悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播

論文タイトル
Corynebacterium striatum infections in oncologic patients: clinical spectrum, resistance profiles, and evidence of nosocomial transmission
論文タイトル(訳)
悪性腫瘍患者におけるCorynebacterium striatum感染症:臨床像, 抗菌薬耐性および院内伝播
DOI
10.1128/jcm.00829-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
湯川 堅也, 原田 壮平, 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
これまでのCorynebacterium striatum感染症研究は、血流感染症や呼吸器感染症を対象としたものが大半であったが、本研究ではそれ以外の感染症も解析の対象としました。その結果、悪性腫瘍患者において本菌が多様な感染症に関与し、しばしば長期の抗菌薬投与を要することが明らかとなりました。Corynebacterium属菌は従来、病原性の低い細菌と考えられてきましたが、多剤耐性を有することや院内伝播例が確認された点も考慮すると、C. striatumは院内感染症の重要な起因菌として認識すべきであるかもしれません。

抄訳

単施設で10年間に診断された悪性腫瘍患者患者のCorynebacterium striatum感染症51例について、臨床情報の収集および起因菌株の薬剤感受性試験と全ゲノム解析を実施した。症例のほとんどは固形腫瘍患者であり、術後腹腔内感染症、術後頭頚部軟部組織感染症、骨関節感染症が多かった。抗菌薬投与期間の中央値は25日で、経口ステップダウン治療を要する例も多かった。起因菌株は多剤耐性傾向があったが、テトラサイクリン系(92.5%)やST合剤(79.2%)の感受性は良好であり、テトラサイクリン系耐性はtet(W)遺伝子保有と関連していた。また、ダプトマイシン耐性が2例(3.9%)ありいずれもpsgA2遺伝子変異を伴っていた。コアゲノムSNP解析と入院歴調査により、7例は院内伝播の関与が示唆された。本研究は、悪性腫瘍患者においてC. striatumが多様な感染症の起因となり得る多剤耐性菌であり、抗菌薬適正使用の観点から注視すべき病原体であることを示している。

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2025/09/19

ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く

論文タイトル
Centrosomes regulate pronuclear apposition ensuring parental genome unification in cattle
論文タイトル(訳)
ウシ受精卵において中心体は前核の細胞中心部への移動を制御し、親ゲノムの統合を成功に導く
DOI
10.1530/REP-25-0067
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0067
著者名(敬称略)
高田 裕貴 橋本 周 森本 義晴
所属
大阪公立大学大学院 医学研究科リプロダクティブサイエンス研究所
著者からのひと言
正常な受精卵の約25%で異常な染色体分配が発生します。本研究では異常な染色体分配が発生する機構の一つを明らかにしました。
本研究で示されたウシ受精卵の前核移動のメカニズムとそれに異常が生じる原因に関する知見は、生殖医療ならびに体外受精による動物生産の発展に大きく貢献します。

抄訳

新しい生命は、受精卵の中で両親のゲノムを包んだ二つの前核(雌性前核と雄性前核)が互いに接近し、両親のゲノムを一つの紡錘体に統合することで始まる。しかし、ヒトやウシなどの哺乳類では、一部の受精卵が雌雄前核を接近させることができず、両親ゲノムを統合することに失敗して発生が停止する。本研究は、ウシ受精卵における雌雄前核の移動メカニズムを明らかにし、前核接近に異常が生じる原因を解明した。
前核移動には、精子由来の細胞小器官「中心体」を中心として形成される微小管が必須であった。雌雄前核の核膜に集積したダイニンモータータンパク質が微小管上を中心体の方向に移動する力で、両前核が接近することが示された。蛍光標識した中心体と前核のライブイメージング解析により、複製された二つの中心体のうち、少なくとも一つの中心体が雌雄前核の間に位置することが、二つの前核の近接と両親ゲノムの統合に重要であることが明らかになった。

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2025/09/19

腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す

論文タイトル
Intestinal luminal polyamines support the gut colonization of enteric bacterial pathogens by modulating flagellar motility and nitrate respiration
論文タイトル(訳)
腸内のポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸を介して、腸管病原菌の腸管内定着を促す
DOI
10.1128/mbio.01786-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Volume 16 Issue 9 e01786-25
著者名(敬称略)
三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部・大学院薬学研究科
著者からのひと言
腸内細菌の代謝産物は、腸の健康に大きく影響を及ぼし、また、病原体の感染にも関わります。よく知られた例は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸であり、私たちの健康に良い影響を及ぼし、感染を防ぐことが知られています。一方で、本研究では、腸内細菌の代謝産物である腸内のポリアミンが、腸管病原菌の感染を促してしまうリスクファクターである可能性を示しました。腸内ポリアミンレベルの制御は腸管病原菌による消化管感染に対する新たな治療ターゲットになるかもしれません。

抄訳

サルモネラ属ネズミチフス菌の消化管感染では、腸管の炎症が誘導され、その炎症反応を利用することによって、本菌は腸管内に定着する。プトレシンやスペルミジンに代表されるポリアミンは、腸恒常性に関わる分子の一つであり、腸内のポリアミンの多くは腸内細菌に由来する。本研究では、ネズミチフス菌の消化管感染における腸内ポリアミンの役割を明らかにした。腸管内に感染したネズミチフス菌は、腸内のポリアミンを取り込み、その取り込まれたポリアミンは鞭毛運動や硝酸呼吸に関わる遺伝子群の発現活性に必要であった。すなわち、合成および取り込み系の機能が減弱したポリアミンの恒常性を失ったネズチフス菌変異株は著しく、マウス腸管内の定着活性が低下した。一方で、スペルミジンを含む水を自由に飲水したマウスでは、本変異株の定着活性は回復した。さらに、同様のスペルミジン供与を施したマウスでは、ネズミチフス菌野生株や共生大腸菌の腸管内定着レベルが上昇した。以上、本研究より、腸内のポリアミンは腸管病原菌の腸管内定着を活性化することが明らかになった。

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2025/09/16

頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値

論文タイトル
Distinguishing Intracranial Solitary Fibrous Tumors from Meningiomas: The Diagnostic Value of T1-Weighted MRI Signal Intensity and ADC Values
論文タイトル(訳)
頭蓋内孤立性線維性腫瘍と髄膜腫の鑑別:T1強調MRI信号強度とADC値の診断的価値
DOI
10.3174/ajnr.A8703
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology August 2025, 46 (8) 1652-1659
著者名(敬称略)
張 申逸 黒川 遼 他
所属
東京大学医学部附属病院 放射線科

抄訳

本研究は、頭蓋内孤立性線維性腫瘍(SFT)と髄膜腫の鑑別診断におけるMRI画像所見の有用性を評価した後ろ向き研究である。病理学的に確認されたSFT患者13例と髄膜腫患者27例を対象とし、造影前T1強調画像での信号強度、ADC値、その他の画像所見を比較検討した。
主要な結果として、大脳皮質と比較したT1強調画像での高信号はSFTで有意に高頻度であった(76.9% vs 18.5%、P=0.0010)。また、標準化T1強調画像値とADC値は、ともにSFTで髄膜腫より有意に高値を示した。SFTにおいてのみ、T1強調画像値とADC値の間に有意な逆相関が認められた。二項ロジスティック回帰分析により、これらの画像パラメータの組み合わせは中等度の診断精度(交差検証スコア0.83)を示した。
本研究により、造影前T1強調画像での高信号が頭蓋内SFTと髄膜腫の鑑別における有用な特徴であることが明らかになり、正規化T1強調画像値とADC値の組み合わせが術前診断に役立つ可能性が示された。

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2025/09/16

超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出

論文タイトル
Real-Time Metabolic Detection in Living Cells Using Hyperpolarized 13C NMR
論文タイトル(訳)
超偏極13C NMRによる生細胞内代謝のリアルタイム検出
DOI
10.3791/68539-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68539
著者名(敬称略)
浦 朋人 高草木 洋一 他
所属
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 量子生命スピングループ 量子超偏極 MRI 研究チーム
著者からのひと言
超偏極とは、NMR/MRI信号を飛躍的に高感度化する技術で、生体内における代謝物濃度や環境の変化の計測に応用されています。今回の論文では、生細胞を安定に培養しながらNMRを計測できるシステムを構築し、複数回にわたる酵素反応測定を実現しました。この手法によって、細胞の動的な代謝変化や代謝適応機構に迫ることが期待され、今後は薬剤応答や疾患研究にも展開できると考えられます。

抄訳

本研究では、超偏極13C NMRを用いて生細胞内の代謝変化をリアルタイムに検出する方法を確立した。従来のNMR測定は感度の制約から生細胞での応用が困難であったが、超偏極化技術を組み合わせることで、代謝基質や生成物の濃度変化を非破壊的に時系列で追跡できるようになった。本論文では、超偏極13C標識基質を細胞に導入し、その代謝産物をNMRで測定するプロトコールを詳細に解説している。本手法は、がんや代謝疾患研究に加え、薬剤応答やストレス応答といった動的な代謝変化の評価にも応用が期待される。生細胞を対象とした本測定系は、基礎研究から臨床応用に至るまで幅広い発展に寄与する新たな代謝解析手法を提供するものである。

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2025/09/16

恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性

論文タイトル
Potential of a constitutive-UPR and histone deacetylase A-deficient Saccharomyces cerevisiae strain for biomolecule production
論文タイトル(訳)
恒常的UPR惹起およびヒストン脱アセチル化酵素欠損変異を有する出芽酵母株の有用物資生産への可能性
DOI
10.1128/aem.00644-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
木俣 有紀 木俣 行雄 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

抄訳

酵母細胞を用いた異種性分泌蛋白質や脂質類の生産は、コスト面などの優位性から、高い将来性が見込まれるバイオテクノロジーである。小胞体は分泌蛋白質や脂質の生合成を司るオルガネラであり、その機能不全は小胞体ストレスと総称され、折り畳み不全蛋白質の小胞体への蓄積を伴う。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む酵母類の多くでは、小胞体ストレスに応じて転写因子Hac1の発現が誘導され、Hac1依存的なトランスクリプトーム変動によって小胞体の機能が活発化し、小胞体ストレスは解消される。これが酵母類におけるUnfolded Protein Response (UPR)である。Hac1を非制御的に発現するよう遺伝子改変を加えたS. cerevisiae株(Hac1強制発現株)は、常にUPRが惹起されて小胞体の機能が高まり、異種性分泌蛋白質や脂質類の生産能が向上するが、著しく増殖能が低下する。この論文では、ヒストンを脱アセチル化してトランスクリプトームを変動するHistone deacetylase A複合体の欠損により、Hac1強制発現株は高い小胞体機能を保ったまま、増殖能が回復することを示す。

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2025/09/08

ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性

論文タイトル
Potential for prolonged replication of common acute respiratory viruses in air-liquid interface cultures of primary human airway cells
論文タイトル(訳)
ヒト初代気道上皮細胞の気液界面培養系における一般的急性呼吸器ウイルスの持続的複製の可能性
DOI
10.1128/msphere.00422-25
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Ahead of Print
著者名(敬称略)
川瀬 みゆき 白戸 憲也 他
所属
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所呼吸器系ウイルス研究部第2室
著者からのひと言
プライマリ呼吸器上皮細胞のALI培養系を含むオルガノイドは、呼吸器ウイルス研究における有用なツールです。本研究では、免疫細胞による排除がない環境では、呼吸器ウイルスが平均約100日間、感染性を保ちながら複製可能であることを示しました。従来の株化培養細胞では捉えられなかった呼吸器ウイルスの真の姿を明らかにできる可能性があり、オルガノイド培養系を用いた研究の発展が期待されます。

抄訳

これまでの先行研究において、小児における呼吸器ウイルスの長期検出が報告されているが、ウイルスのヒト組織内での生存期間は不明であった。本研究ではヒト初代呼吸器上皮細胞の気液界面(ALI)培養系で主要呼吸器ウイルスの複製能を評価した。その結果、多くのウイルスは平均約100日、長いものでは150~200日間の持続複製が可能であった。一方、インフルエンザウイルスやDNAウイルスは細胞死により短期間(18~66日)で複製が終了した。再感染実験でも一部で複製能が維持されていることが示された。また、IFNβの一過性分泌以外はI型IFN応答はほとんど見られず、免疫寛容的環境が長期複製を許容していることが示唆された。さらに50~60日を超える複製では、ウイルスゲノムに遺伝子変異が蓄積する可能性が生じることが示され、免疫不全宿主における長期複製が新規変異株出現の温床となりうることが示された。

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