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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/06/09

マルチプレックス・アンプリコンシークエンスによる肺炎マイコプラズマの包括的ジェノタイピング New

論文タイトル
Multiplex amplicon sequencing for the comprehensive genotyping of Mycoplasma pneumoniae
論文タイトル(訳)
マルチプレックス・アンプリコンシークエンスによる肺炎マイコプラズマの包括的ジェノタイピング
DOI
10.1128/spectrum.02719-24
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
久保田 寛顕 他
所属
東京都健康安全研究センター 微生物部

抄訳

主として用いられている肺炎マイコプラズマのジェノタイピング法はそれぞれが異なる実験的アプローチにもとづくため、各株に対して別々に実施する必要があった。本研究では、次世代シークエンサーを用いたアンプリコンシークエンスにもとづく包括的なワークフローを開発した。本ワークフローでは7本のチューブでPCR反応を行った後、1本にまとめ、ショットガンシークエンスを行って得たデータに対してde novoアセンブリを行う。各対象領域はcontigに分けられ、in silicoでジェノタイピングが行われる。これにより、p1、orf6、MLSTのタイプに加えてマクロライド耐性と関連した23S rRNA遺伝子の変異とp1-1型の系統を区別する一塩基多型が同時に得られる。ジェノタイピングの正確性は東京で収集された40株の全ゲノム解析との比較により確認された。本法はハイスループットなデータ取得だけでなく、一塩基分解能による新規ジェノタイプの検出を可能とする。

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2025/06/09

グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索 New

論文タイトル
Exploring protein N-glycosylation in ammonia-oxidizing Nitrososphaerota archaea through glycoproteomic analysis
論文タイトル(訳)
グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索
DOI
10.1128/mbio.03859-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
中川 聡 他
所属
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 海洋環境微生物学分野
著者からのひと言
難培養微生物を対象とした糖鎖研究は、まだ始まったばかりの分野です。今後も、従来の常識にとらわれない微生物糖鎖の存在を明らかにすることで、微生物の生理生態や進化の理解に新たな視点を提供していきたいと考えています。

抄訳

アンモニア酸化アーキア(古細菌)は地球上に広く分布し、炭素や窒素循環、さらには地球温暖化などにおいて重要な役割を担っているが、培養困難であるため、研究は大きく遅れている。本微生物群は極めて低濃度のアンモニアに適応していることから、利用可能なアンモニアをすべてエネルギー源として効率よく利用し、亜硝酸へと変換していると考えられてきた。しかし本研究では、最先端の液体クロマトグラフィー‐タンデム質量分析法および核磁気共鳴法を用いた解析により、これらのアーキアの一種が、これまでに知られている中で最も窒素に富む糖鎖で細胞表面タンパク質を修飾していることを突き止めた。これは、糖鎖が窒素を貯蔵するという新たな機能を持つ可能性を示唆している。また、この糖鎖は、全真核生物や一部のアーキアと同様のコア構造を有していた。本研究は、アーキアおよび真核生物の進化の理解を深めるだけでなく、これらのアーキアにおける環境適応機構の理解にも貢献するものである。

 

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2025/06/05

季節性哺乳類シリアンハムスターにおけるアラルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)遺伝子の特異的破壊 New

論文タイトル
Targeted disruption of the aralkylamine N-acetyltransferase gene in a seasonal mammal, Mesocricetus auratus
論文タイトル(訳)
季節性哺乳類シリアンハムスターにおけるアラルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)遺伝子の特異的破壊
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf159
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 6, June 2025, pgaf159
著者名(敬称略)
川邉 順子 明石 真 他
所属
山口大学 時間学研究所
著者からのひと言
私たちが知る限り、哺乳類の季節適応に関する逆遺伝学的な研究報告は存在していません。したがって、本研究成果はその先駆けであると思っています。

抄訳

自然環境は年周変動しており、この周期性へ高度に適応できる生物は生存競争において有利です。とりわけ、冬の到来を予測して備えることは生物の生存に不可欠です。
この予測のために多くの生物は光周性を獲得しています。すなわち、この機能によって日長変化を感知し、季節に先んじて備えることができます。薬理学的および解剖学的実験により、日長感知は松果体ホルモン「メラトニン」が司ると考えられてきました。しかし、これらの手法には解釈上の限界があり、決定的な証拠が欠けたままでした。
そこで、私たちは、メラトニン合成律速酵素をコードするAANAT遺伝子を季節性哺乳類シリアンハムスターにおいてノックアウトしました。このハムスターを人工的な冬季環境(短日かつ寒冷)へ暴露すると、体温維持能力と冬眠成功率の低下が検出されました。また、これらの原因は褐色脂肪組織のリモデリング不全にあることが示唆され、さらに、光周性中枢の下垂体隆起部において日長応答性の低下が確認されました。
以上から、日長応答性が低下して生体リモデリングが遅れてしまった結果、寒冷適応に問題が生じたと結論付けられました。

 

 

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2025/06/04

ゼブラフィッシュ仔魚の神経筋接合部標本におけるシナプス小胞再利用過程のライブイメージング New

論文タイトル
Live Imaging of Synaptic Vesicle Recycling in the Neuromuscular Junction of Dissected Larval Zebrafish
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ仔魚の神経筋接合部標本におけるシナプス小胞再利用過程のライブイメージング
DOI
10.3791/67633-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (216), e67633
著者名(敬称略)
江頭 良明 小野 富三人
所属
大阪医科薬科大学 医学部 生命科学講座 生理学教室
著者からのひと言
ゼブラフィッシュの仔魚は、様々な生理現象を生きた個体の中でリアルタイムに可視化する目的に適したモデル生物だと言えます。例えば、脳全体の神経細胞の活動を生体のまま観察することはすでに可能となっています。今回報告した手法は、より微小なシナプスの活動をとらえる技術です。論文では、魚の体幹部分を切り出した組織標本を使いましたが、将来的には、生きた魚のシナプス活動をリアルタイムにモニターすることができると考えています。

抄訳

神経細胞間のコミュニケーションであるシナプス伝達は、神経伝達物質を含むシナプス小胞が継続的に再利用される過程に依存している。この過程の解析法として、酸性環境にあるシナプス小胞内にpH感受性の蛍光タンパク質を遺伝学的に導入しイメージングする手法が広く利用されている。しかし、遺伝子の導入と光学的イメージングを必要とする技術的制約から、培養神経細胞での実験が多く、生体内や組織標本での利用はまだ限られている。ゼブラフィッシュは、遺伝学的操作が容易なうえ、仔魚は組織が透明であるため蛍光イメージングに適している。私たちのグループでは、シナプス伝達を可視化できる蛍光プローブを運動神経特異的に発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを作成している。本論文では、この魚の神経筋接合部標本を用いて、シナプス伝達をライブイメージングする方法を説明している。

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2025/06/02

腸管免疫シグナル伝達におけるプロバイオティクス由来の細胞外膜小胞の役割に関する最近の進展

論文タイトル
Recent advances in understanding the role of extracellular vesicles from probiotics in intestinal immunity signaling
論文タイトル(訳)
腸管免疫シグナル伝達におけるプロバイオティクス由来の細胞外膜小胞の役割に関する最近の進展
DOI
10.1042/BST20240150
ジャーナル名
Biochemical Society Transactions
巻号
Biochem Soc Trans (2025) 53 (02): 419–429
著者名(敬称略)
倉田淳志、上垣浩一
所属
近畿大学 農学部 応用生命化学科
著者からのひと言
本総説では、腸内細菌の中でもプロバイオティクスが放出する細胞外の膜小胞を対象に、その特徴と機能、宿主への影響と作用機序を整理して、これらの膜小胞の応用における課題を説明しました。プロバイオティクス由来の膜小胞について総合的に理解を深めることは、ポストバイオティクスとしてこれらの膜小胞を活用する、生体機能の新たな調節技術の開発につながります。

抄訳

一部の腸内細菌は、約20〜400 nmの膜小胞を細胞外に放出する。これらの膜小胞は、細菌の構成成分を受け手の宿主細胞へ運搬しており、多様な細胞応答を惹起する。近年、発酵食品で活用されている乳酸菌、ビフィズス菌、酢酸菌、納豆菌、酪酸産生菌などのプロバイオティクスが細胞外に放出する膜小胞について、物理化学的・生化学的な特性が報告されている。宿主に対する膜小胞の機能や作用機序の解明が、動物・組織・細胞・遺伝子・タンパク質・物質の各レベルで著しく進んでいる。さらにこれらの膜小胞の社会実装を目指して、ヒトや家畜での疾患の改善や既存の治療技術に対する膜小胞の活用について研究報告が増加している。一方、これらの膜小胞をポストバイオティクスとして応用することに関して懸念も提起されている。本総説では、腸管の免疫シグナル伝達を対象にプロバイオティクス由来の膜小胞が担う役割と、これらの膜小胞の応用に関連する課題について議論した。

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2025/05/29

植物根の内生菌は転写因子の発現により葉に感染する「炭疽病菌」となる
 

論文タイトル
A fungal transcription factor converts a beneficial root endophyte into an anthracnose leaf pathogen
論文タイトル(訳)
植物根の内生菌は転写因子の発現により葉に感染する「炭疽病菌」となる
DOI
10.1016/j.cub.2025.03.026
ジャーナル名
Current Biology
巻号
Current Biology Volume 35, Issue 9
著者名(敬称略)
氏松 蓮 晝間 敬 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

植物内生菌は宿主植物の生長を助けたり(共生)、あるいは病気を引き起こしたり(病原)と様々な生活様式を示します。しかしそうした生活様式がどのように制御されているかについてはほとんどわかっていません。今回、植物根に内生して多くの場合共生的にふるまう真菌Colletotrichum tofieldiaeが、「CtBOT6」遺伝子の発現レベルに依存して、共生性から強い病原性まで幅広い生活様式を連続的に示すことを発見しました。論文では、CtBOT6は転写制御因子として菌の二次代謝物生合成遺伝子クラスター「ABA-BOT」を正に制御すること、ABA-BOT由来代謝物の蓄積がゲノムワイドな遺伝子発現調節に関わることで本菌の病原性が発現する可能性が示されました。また、菌感染中の植物側の遺伝子発現解析から、菌の病原性の強さに依存して植物の応答が変化しており、こうした応答が最終的な生活様式に寄与していることが示唆されました。本研究で得られた知見は植物-微生物相互作用における共生性・病原性の連続的な制御機構の理解につながり、さらに、農業現場で共生菌を効果的に利活用する上で基礎的な知見となります。

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2025/05/23

CKDにおける新規の末期腎不全予測モデルの開発:血清ビリルビン値の有用性

論文タイトル
A Novel Kidney Failure Prediction Model in Individuals With CKD: Impact of Serum Bilirubin Levels
論文タイトル(訳)
CKDにおける新規の末期腎不全予測モデルの開発:血清ビリルビン値の有用性
DOI
10.1210/clinem/dgae430
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 5, May 2025, Pages 1375–1383
著者名(敬称略)
井口 登與志 他
所属
福岡市医師会 福岡市健康づくりサポートセンター
著者からのひと言
データ駆動型アプローチによりCKDにおける簡易でかつ精度の高い新規末期腎不全予測モデルを開発・検証した論文であり、この予測モデルの臨床現場でのリスク評価や治療判断における有用性も期待される(web上でも使用可能となっているhttps://carna-hs.co.jp/simulation2)。また、内因性抗酸化因子である血清ビリルビン値の予測寄与度が極めて高いことにも注目してほしい。

抄訳

本研究は、慢性腎臓病(CKD)から末期腎不全(ESKD)への進行予測における血清ビリルビン値の有用性を明らかにし、これを取り入れた新たな予測モデルを開発・検証した。2008〜2018年に九州大学病院でフォローされたCKD患者4103名を開発コホートとし、Cox比例ハザードモデルにより20項目の候補因子から予測寄与度の高い順にeGFR、ビリルビン、蛋白尿、年齢、糖尿病、高血圧、性別、アルブミン、ヘモグロビンの9項目を選定。これらを用いた予測モデルは、時間依存AUC(2年:0.943、5年:0.935)において高い識別能と優れたキャリブレーション性能(予測確率と観察確率の一致度)を示し、外部検証コホート(n=2799)においても良好な結果を示した。結論として、血清ビリルビン値はCKDの進行に対する独立した強力な予測因子であり、血清ビリルビン値を含んだ今回の新規予測モデルは、簡易でかつ精度高くESKD進行を予測可能であり、臨床現場でのリスク評価や治療判断に貢献する可能性が示唆された。

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2025/05/23

時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される

論文タイトル
The priming phosphorylation of KaiC is activated by the release of its autokinase autoinhibition
論文タイトル(訳)
時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf136
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 5, May 2025, pgaf136
著者名(敬称略)
古池 美彦 森 俊文 秋山 修志 他
所属
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門
著者からのひと言
細胞内環境を保つためには、各種酵素の活性制御が必須です。そのため、酵素と基質の出会いの確率の調節や、基質との親和性の制御など、複数のメカニズムが働いています。本研究では、概日リズムという「1日」の時間スケールのなかで、基質ATPを結合しながら、そのうえで活性部位の静電環境を調整することで活性制御する時計タンパク質KaiCの特異なメカニズムが明らかになりました。反応速度の変化が計時機能に直結するKaiCでは、夾雑系の影響が少ない分子内でのリン酸化制御が有用であったと考えられます。

抄訳

シアノバクテリアの概日リズムは、時計タンパク質KaiCのT432・S431における周期的な自己リン酸化・自己脱リン酸化によって生じ、とりわけリン酸化の進行にはKaiAの関与が必須であると考えられてきた。しかしながらKaiCのリン酸化がいかに活性化・不活性化されるのか、そのメカニズムは明らかになっていない。我々は、KaiA非存在下でもT432のリン酸化が起こるものの、その反応速度は非常に遅く、KaiC自身が活性を抑制していることを見出した。この自己阻害の仕組みに迫るため、KaiCの立体構造データを用いて計算機シミュレーションを行った。その結果、T432がアデノシン三リン酸の末端リン原子への求核攻撃に適した位置にあること、そして反応の進行に必要な一般塩基であるE318の触媒作用がR385によって静電的に抑制されていることが明らかになった。そこでKaiC変異体を用いてE318にかかる抑制の程度を検証したところ、KaiAの結合に伴ってR385が遊離することで自己阻害が解除されることが分かった。

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2025/05/22

単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性

論文タイトル
Direct relationship between protein expression and progeny yield of herpes simplex virus 1
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性
DOI
10.1128/mbio.00280-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
野邊 萌香 丸鶴 雄平 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ウイルス感染細胞のシングルセル解析では、ウイルス遺伝子発現量と子孫ウイルス産生量が細胞ごとに大きくばらつくことが複数の研究で報告されています。しかし、従来は両者を別々に評価していたため、直接的な関連性は不明でした。本研究では、レポーターウイルス感染細胞の蛍光強度に基づいてセルソーターで細胞集団を分画し、それぞれのサブポピュレーションを統合解析するという、”ありそうでなかった”新規手法を確立し、ウイルスタンパク質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的かつ定量的な関係を初めて明らかにした論文です。

抄訳

細胞内のウイルス蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量は、細胞毎に大きくばらつくことが示されてきたが、その両者を同時に評価した研究はこれまで行われていなかった。本研究では単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の後期蛋白質Us11に蛍光蛋白質Venusを融合したレポーターウイルスを作製し、感染細胞をVenusの蛍光強度(すなわち後期蛋白質発現量)に応じて複数のサブポピュレーションに分画した。それぞれのサブポピュレーションのウイルス力価と電子顕微鏡解析を行った結果、後期蛋白質の発現量が特定の閾値を超えた場合のみ、ヌクレオカプシドの成熟が誘導され、子孫ウイルスが産生されることが明らかになった。

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2025/05/22

概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する

論文タイトル
Circadian clock–gated cell renewal controls time-dependent changes in taste sensitivity
論文タイトル(訳)
概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する
DOI
10.1073/pnas.2421421122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.19
著者名(敬称略)
松浦 徹 他
所属
関西医科大学 病理学講座
著者からのひと言
哺乳類では、概日時計によって制御される細胞周期の進行が、全身の複数の組織や培養線維芽細胞で観察されている。本研究では、概日時計により制御される細胞分裂が、マウスの舌において、II型味細胞の集団に日内変動をもたらすことを示した。これらのII型味細胞数の変動は、苦味、甘味、うま味の知覚に影響を与える。我々の知見は、概日時計による細胞分裂制御が、生理機能の日内リズム的変化、特に高い代謝回転を有する細胞において重要であることを示唆している。

抄訳

概日時計による細胞周期の制御により、臓器や組織で失われた細胞が日内リズムに応じて補充される。本研究では、マウス舌上皮における細胞集団の時間依存的変化をシングルセルRNAシーケンスで解析し、幹細胞/前駆細胞や分化細胞、特にII型味細胞の細胞数の変動を確認した。味蕾幹細胞除去により新規細胞産生を抑制するとこれらの変動は消失した。時計遺伝子Bmal1遺伝子のノックダウンで味蕾オルガノイドでの24時間周期の細胞分裂が消失することは概日周期による制御を示唆する。舌上皮ではアポトーシスのリズムも観察されたが、幹細胞除去で失われ、新生細胞供給が細胞死リズムに必要であることが示唆された。味覚テストでは時間帯によりII型味細胞由来の感受性に変化が見られ、概日時計が日内の細胞数変化を調節することで舌の機能を調節していることが示唆された。

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