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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2025/08/28

RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。

論文タイトル
RyR1-mediated Ca2+-induced Ca2+ release plays a negligible role in excitation–contraction coupling of normal skeletal muscle
論文タイトル(訳)
RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。
DOI
10.1073/pnas.2500449122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
小林 琢也 山澤 徳志子 呉林 なごみ 村山 尚 他
所属
順天堂大学大学院医学研究科 細胞・分子薬理学

抄訳

骨格筋収縮に必要なカルシウムイオン(Ca2+)は細胞内貯蔵部位の筋小胞体から1型リアノジン受容体(RyR1)チャネルを介して遊離される。RyR1は、T管膜のジヒドロピリジン受容体と共役した脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR)と、Ca2+が直接結合して開くCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)の二つの開口機構を持つ。生理的な筋収縮においてはDICRが主な開口機構であるが、CICRがCa2+シグナルの増幅を起こすか否かという議論が半世紀にわたって続いてきた。われわれはRyR1のCa2+結合部位を改変してCICRだけを抑制したマウスを作出した。変異マウスは筋収縮や運動能力に影響は見られなかったが、RyR1の異常活性化が原因で起こる悪性高熱症に対して抵抗性を示した。以上の結果から、CICRは生理的な筋収縮には関与しておらず、むしろ過剰になると筋疾患の原因となることが示唆された。

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2025/08/26

初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見

論文タイトル
First isolation of a methanotrophic Mycobacterium reveals ammonia- and pH-tolerant methane oxidation
論文タイトル(訳)
初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見
DOI
10.1128/aem.00796-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
蒲原 宏実 大橋 晶良 他
所属
広島大学大学院 先進理工系科学研究科(工学系) 社会基盤環境工学プログラム 環境保全工学研究室
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオものづくり研究センター 微生物生態工学研究チーム
著者からのひと言
メタン酸化細菌は、限られた系統群に属すると認識されてきましたが、ゲノム情報からは、その多様性が広がっていることが見えてきています。今回、第三の門としてActinomycetota門のMycobacterium属細菌MM-1株を分離培養し、これまで知られていなかったメタン酸化細菌の姿を明らかにしました。本研究は、メタン酸化細菌の世界を拡張し、新たな可能性を切り拓きます。

抄訳

メタン酸化細菌は、自然由来および人為由来のメタンを酸化することで地球規模の炭素循環において重要な役割を担っている。これまでの研究では、主にPseudomonadota門、Verrucomicrobiota門の好気性メタン酸化細菌に焦点が当てられてきた。実は、40年前にメタン酸化能を有するグラム陽性のActinomycetota門に属する細菌もメタン酸化能を有すると報告されていたが、分離株も保存されておらず、続報もないことから、メタン酸化細菌群として認識されてこなかった。本研究では、ActinomycetotaMycobacterium属に属するメタン酸化細菌MM-1株を分離培養し、初めてその特徴を明らかにした。これは第三の好気性メタン酸化細菌の門の確立を意味する。MM-1株は従来のメタン酸化細菌に比べて広いpH耐性と高いアンモニア耐性を示し、新たなアンモニア耐性機構の存在を示唆する。さらに、16S rRNA遺伝子解析により、MM-1株と近縁な配列が、飲料水システムを含む多様な環境で検出されており、既知のメタン酸化細菌が生存困難な環境において重要なメタンシンクとして機能する可能性が示された。

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2025/08/25

Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性

論文タイトル
Genomic epidemiology and antimicrobial resistance of Corynebacterium macclintockiae, the predominant species of human pathogens within the Corynebacterium jeikeium complex
論文タイトル(訳)
Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性
DOI
10.1128/jcm.00500-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology 2025 Aug 13;63(8):e0050025
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
Corynebacterium属菌は一般的には病原性が低いと考えられていますが、C. jeikeiumは免疫不全者の感染症の起因微生物となり、多剤耐性を示すことが知られています。本研究では病院の検査室でC. jeikeiumと同定された臨床分離株のほとんどが、全ゲノム解析では2023年に報告された新種であるC. macclintockiaeと同定されました。公共データーベースを用いた解析からは本菌種が日本国外にも広く分布していることが示唆されましたが、疫学的背景や臨床的特徴については未解明な点が多く、今後の検討が待たれます。

抄訳

Corynebacterium jeikeiumのゲノム的特徴や治療法は未解明な点が多い。本研究では、まず単施設のC. jeikeium感染症6例(MALDI-TOF MSにより同定)の原因菌株の全ゲノム解析を行い、これらが全て遺伝学的にはCorynebacterium macclintockiaeと同定されることを確認した。さらに全国8施設から収集した血流感染症由来のC. jeikeium 33株についても全ゲノム解析を行ったところ、うち32株はC. macclintockiaeと同定された。C. macclintockiaeは多剤耐性を示したが、テイコプラニンを含めた抗MRSA薬の感受性は良好であり、全体の約60%を占めるtet(W)非保有株ではテトラサイクリン系にも感性を示した。世界各国から公共データーベースに登録されたC. jeikeiumおよび近縁菌(C. jeikeium complex)の27株の全ゲノム解析データを加えた解析でも、遺伝学的には約77%がC. macclintockiaeと同定された。

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2025/08/25

マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成 

論文タイトル
Murine Nasal Lavage Fluid Collection without Blood Contamination
論文タイトル(訳)
マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成
DOI
10.3791/68451-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68451
著者名(敬称略)
Ijaz Ahmad*(イジャーズ・エフマド)佐藤 文孝* 角田 郁生 他
所属
近畿大学医学部微生物学講座
著者からのひと言
鼻腔洗浄液(NLF)は、新型コロナウイルスを含む呼吸器ウイルス感染時に、ウイルスとIgAの定量に使用されます。ヒトNLF採取においては、血液混入は問題となりませんが、マウス・ラットでは血液混入を最小限にするために経気管支法が使用されてきましたが、NLF収量が低いことが問題です。そこで本論文では、NLFを大量に採取できる経咽頭法を改良することで、血液混入を最小限にし、かつ高いNLF収量が達成できる新手法を紹介しています。また、血液の混入をルミノール反応で高感度かつ安価に検出する手法も紹介しています。

抄訳

鼻腔洗浄液(nasal lavage fluid,NLF) には、鼻粘膜のIgA抗体やウイルス・細菌が含まれており、ワクチンや感染症の際に、粘膜免疫測定や病原体同定に使用される。マウスとラットからNLFを採取するルートとして、後鼻孔にカテーテルを挿入しNLFを鼻孔から回収する経咽頭法が、回収量が多いため有用であるが血液の混入が問題である。例として、IgA濃度はNLFより血液で高いため、NLF採取においては、血液の混入を避けることが必須となる。本論文では、経咽頭法を施行する際に、動物の口腔内に綿球を挿入し血液を吸収させることで、NLFへの血液混入を最小限にする新規のNLF採取法を紹介する。この新規NLF採取法が、従来の手法に比べ、血液混入が最小限であることを以下の二つの方法で明らかにした。1)法医学に頻用されるルミノール反応により、簡便かつ高感度でヘモグロビン濃度を測定。2)ELISA法によりIgA濃度を、NLFと血清で定量。

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2025/08/25

老化血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の取り込みと炎症反応は、BSG/VEGFR2経路によって調節される

論文タイトル
SARS-CoV-2 uptake and inflammatory response in senescent endothelial cells are regulated by the BSG/VEGFR2 pathway
論文タイトル(訳)
老化血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の取り込みと炎症反応は、BSG/VEGFR2経路によって調節される
DOI
10.1073/pnas.2502724122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.31
著者名(敬称略)
桜井優弥 樋田京子 他
所属
北海道大学大学院歯学研究院 口腔病態学分野 血管生物分子病理学教室
著者からのひと言
本研究は、長らく議論されてきた血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の感染機構を、老化の視点から明らかにした点に独自性があります。ACE2発現が乏しい内皮において、Basigin/VEGFR2経路を介したACE2非依存的なウイルス取り込みと炎症応答の促進を実証し、COVID-19重症化の分子基盤の一端を解明しました。これにより「なぜ高齢者が重症化するのか」という問いに応え、新たな治療標的の可能性を提示する成果となりました。

抄訳

本研究は、高齢者で重症化するCOVID-19において血管内皮細胞の老化が果たす役割を明らかにしたものである。従来、SARS-CoV-2の侵入受容体ACE2の血管内皮細胞における発現は極めて低いとされ、血管内皮細胞への感染には議論があった。本研究では、老化血管内皮細胞がACE2非依存的にウイルスを取り込み、NF-κB経路を介した炎症応答を強く誘導することを示した。特に、老化により上昇するBasigin(BSG)とVEGFR2シグナル活性化が、血管内皮細胞のエンドサイトーシス能を亢進させることでウイルス取り込みを促進する分子機構を解明した。さらに、ヒトCOVID-19剖検肺においても老化ECでBSG発現が高いことを確認した。これらの結果は、血管内皮細胞の老化がCOVID-19重症化の基盤である血管障害を惹起することを示すとともに、抗BSG抗体や抗VEGF療法などによる新たな治療戦略の可能性を示唆する。以上より、本研究は高齢者におけるCOVID-19重症化の分子基盤を明らかにし、血管老化を標的とした治療開発に重要な知見を提供する。

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2025/08/18

計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査

論文タイトル
Exploring glycoform-dependent dynamic modulations in human immunoglobulin G via computational and experimental approaches
論文タイトル(訳)
計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査
DOI
10.1073/pnas.2505473122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
谷中 冴子 加藤 晃一 他
所属
自然科学研究機構 生命創成探究センター
著者からのひと言
抗体は医薬品として広く使われており、そのはたらきを左右する糖鎖の役割が注目されています。本研究では、糖鎖の端に生じるわずかな変化が、まるで人体の“経絡”のように抗体分子の内部を伝わり、離れた部位の構造や結合性に影響を及ぼす様子を可視化しました。こうした遠隔的な制御機構の理解は、抗体医薬の設計に新たな視点をもたらします。

抄訳

ヒトIgG1抗体のFc領域に結合する糖鎖は、抗体の構造と機能に深く関与しています。本研究では、糖鎖構造の違い(ガラクトース付加とフコース除去)がFc領域の動的構造に与える影響を、安定同位体標識NMR分光法と分子動力学シミュレーションを組み合わせて解析しました。ガラクトースは糖鎖をCH2ドメインに固定する「錨」として、またドメインの動きを制限する「楔」として働き、Fc全体の柔軟性を低下させることで、Fcγ受容体(FcγR)や補体C1qとの結合を促進することが示されました。一方、フコースの除去はFcγRIIIaとの結合部位に局所的な動的構造変化をもたらします。これらの糖鎖修飾は異なる機構でありながら相乗的に抗体のエフェクター機能を高めることが明らかとなり、抗体医薬品の合理的設計に向けた重要な知見を提供します。

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2025/08/18

基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する

論文タイトル
Nonsubstrate PI(4,5)P2 interacts with the interdomain linker to control electrochemical coupling in voltage-sensing phosphatase (VSP)
論文タイトル(訳)
基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する
DOI
10.1073/pnas.2500651122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.31
著者名(敬称略)
水谷夏希 岡村 康司 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科統合生理学教室
著者からのひと言
VSPは海産無脊椎動物のホヤのゲノム情報を契機に2005年に発見された分子で、精子における生理機能は明らかにされてきたものの、およそ1週間を要する精子の成熟過程を通して適切な強さの酵素機能をどのように持続させているのかは大きな謎のままでした。今回見つかったVSPの制御機構は長年解けなかった謎の答えであり、これによって精子の動態の理解が進むことや男性不妊の治療法開発に貢献できることが期待されます。

抄訳

古くから、全ての生物は電気信号(細胞膜の電位変化)を巧みに利用して複雑な生命現象を実現させていることが知られてきました。電位依存性ホスファターゼVSPはこの電気信号を膜リン脂質PI(4,5)P2の脱リン酸化酵素反応に変換するユニークな分子であり、マウスを用いた研究から精子の運動制御に重要な役割を果たしていることが報告されてきましたが、VSPの機能を適切に調節するメカニズムは未解明でした。本研究では、蛍光を発する人工アミノ酸の一種であるAnapを用いたvoltage clamp fluorometry実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせ、PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用によってVSPの機能が制御されることを明らかにしました。さらに、VSPが脱リン酸化する「基質の」PI(4,5)P2の影響を排除できる変異体においても同様の相互作用が観察されたことから、「基質とは別の」PI(4,5)P2による機能制御メカニズムの存在が示されました。

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2025/08/12

宿主真菌集団における持続的RNAウイルスのプラスミド様動態

論文タイトル
Plasmid-like dynamics of persistent RNA viruses in the host fungal population
論文タイトル(訳)
宿主真菌集団における持続的RNAウイルスのプラスミド様動態
DOI
10.1128/jvi.00582-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
千葉 悠斗 浦山 俊一 他
所属
国立大学法人 筑波大学 微生物サステイナビリティ研究センター[MiCS]
著者からのひと言
プラスミドのような生き方をしているRNAウイルスの話をすると、「それはRNAウイルスなの?」という質問をよく頂きます。この問いを持つと、「RNAウイルスって何だっけ?」という、それまで“当然”と思っていたものに意識が向きます。世界観の変質をお楽しみいただける論文です。

抄訳

ウイルスは感染を拡大させる侵略者としてのイメージが強いが、全てのウイルスがそのような戦略を取っているわけではない。本研究でモデルとして利用したRNAウイルスは、宿主微生物(糸状菌)と共存し続ける戦略を有している。つまり、宿主の細胞内で大人しく暮らしており、細胞を食い破って外に出てまた新しい細胞に感染することを止めた生き方をしている。このようなRNAウイルスが、どのようなメカニズムで長きにわたり宿主集団中で維持されてきたのか、本研究ではそのメカニズムに実験的に迫った。結果、以前から想定されていた通り、ウイルスの伝播・脱離+宿主の適応度変化の総和が重要であることが明らかとなった。面白いことに、このメカニズムはプラスミドが細菌集団内で維持されてきた機構と類似しており、そのRNAウイルスの存在意義を考えるうえで重要な知見になると期待される。

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2025/08/08

日本の農地土壌から分離したKitasatospora sp. CMC57とStreptomyces sp. CMC78の全ゲノム配列

論文タイトル
Whole-genome sequences of Kitasatospora sp. CMC57 and Streptomyces sp. CMC78 isolated from Japanese agricultural soil
論文タイトル(訳)
日本の農地土壌から分離したKitasatospora sp. CMC57とStreptomyces sp. CMC78の全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00900-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
橋本 知義, 正田 岳志, 西澤 智康 他
所属
茨城大学農学部
片倉コープアグリ株式会社

抄訳

日本の農地(灰色低地土)から分離培養したキタサトスポラ(Kitasatospora)属放線菌CMC57株とストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌CMC78株の各ゲノムをロングリード用のOxford Nanopore Technologies(PromethION)とショートリード用のMGI Tech(DNBSEQ-G400)を用いてシーケンシングした。得られたショートリードとロングリードの遺伝情報を用いたハイブリッドアセンブリ法でほぼ完全なゲノム配列を決定し、それぞれのゲノム配列情報を報告した。 

 

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2025/08/07

サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ

論文タイトル
Sharks and rays have the oldest vertebrate sex chromosome with unique sex determination mechanisms
論文タイトル(訳)
サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ
DOI
10.1073/pnas.2513676122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
丹羽 大樹 工樂 樹洋 他
所属
国立遺伝学研究所分子生命史研究室
著者からのひと言
胚試料の組織学的観察に基づく性決定時期の見極めや、染色体構成に迫るエピゲノム情報解析、そしてY染色体の同定に繋がる細胞遺伝学的実験技術等を結集することにより、分子の研究が大きく遅れがちな軟骨魚類について、ゲノム配列の取得を超えて性決定のメカニズムの理解に近づくことができた。

抄訳

性は多くの生物が持っていますが、それを決める仕組みは同じではありません。私たちヒトを含む脊椎動物は遺伝的要因や胚発生時の温度など環境要因に頼った多様な性決定の仕組みを持っていますが、それがどのように進化してきたのかは大きな謎の一つです。サメやエイを含む軟骨魚類は、脊椎動物の他の系統とは深く隔たれ独自の進化を遂げてきた仲間ですが、他の系統とは対照的に軟骨魚類の性を決める仕組みはほとんど調べられていませんでした。総合研究大学院大学 大学院生の丹羽大樹、国立遺伝学研究所 分子生命史研究室の工樂樹洋教授(理化学研究所生命機能科学研究センター 客員研究員)、徳島大学大学院社会産業理工学研究部の宇野好宣准教授、沖縄美ら島財団総合研究センターの中村將参与、東京大学大気海洋研究所の髙木亙助教、および複数の水族館から成る研究グループは、軟骨魚類のゲノム配列の比較により、サメ・エイ類のX染色体が共通の遺伝子セットを保持し、Y染色体が大半の遺伝子を失っていること、そして、それらの性染色体が約3億年もの長い間保持されてきた可能性が高いことを明らかにしました。X染色体には雌雄での本数の差を埋め合わせる遺伝子量補償の仕組みが働いておらず、それこそがサメ・エイ類の性の決定に重要である可能性が示されました。本研究は、サメ・エイ類では他の脊椎動物とは異なる仕組みで性が決まっていることを示すものであり、性の成り立ちについてのこれまでの研究に一石を投じる成果です。

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