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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/06/16

犬モデルにおける3種類の細菌外膜小胞を用いた歯周炎ワクチンの評価

論文タイトル
Assessment of periodontitis vaccine using three different bacterial outer membrane vesicles in canine model
論文タイトル(訳)
犬モデルにおける3種類の細菌外膜小胞を用いた歯周炎ワクチンの評価
DOI
10.1128/msphere.01033-24
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Volume 10 • Number 4 • 29 April 2025
著者名(敬称略)
中尾龍馬、中川(中村)知世、井上智 他
所属
国立健康危機管理研究機構

抄訳

 歯周病とは、歯周組織の慢性炎症から最終的に歯牙喪失の転帰をとる口腔感染症である。また、歯周病を起点に様々な非感染性疾患を誘発、増悪させる可能性が指摘されていることから、歯周病の病態解明と新たな制御手段の開発が強く望まれる。本研究では、実験用ビーグルを用い、3種類の細菌由来外膜小胞カクテル歯周病ワクチン(OMVs)による液性免疫および細菌叢への影響等につき約9ヶ月間観察、調査した。OMVsを3回経鼻投与後に皮下ブースター投与を行ったところ、歯周病原細菌に特異的な口腔のSIgA、血中のIgG等の抗体産生が強く誘導された。この短期間の観察において歯周病原細菌の明白な排除効果は確認されなかったが、当該ワクチン投与により口腔細菌叢を変化させること、ワクチンを投与されたビーグル血清中には、歯周病原細菌に対する阻害抗体が誘導されることが判明した。以上、非げっ歯類ヒト歯周病モデルとして有用なビーグル研究により導かれたこれらの重要な知見は、将来の合理的な歯周病ワクチン法の確立に寄与するものである。

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2025/06/16

Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する

論文タイトル
Epithelial Regnase-1 inhibits colorectal tumor growth by regulating IL-17 signaling via degradation of NFKBIZ mRNA
論文タイトル(訳)
Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する
DOI
10.1073/pnas.2500820122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.23
著者名(敬称略)
井口恵里子 髙井淳 他
所属
京都大学大学院医学研究科・医学部消化器内科学
著者からのひと言
RNA分解酵素であるRegnase-1は主に免疫細胞に発現し、炎症を制御する分子として知られています。本研究では、Regnase-1が大腸上皮細胞にも生理的に発現し、IL-17 signalingの重要な分子であるNfkbiz mRNAを分解することで、腫瘍抑制的な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。本研究成果は、すでに米国で認可されているDMFを含め、Regnase-1を標的とした新たな治療薬の開発につながる可能性があると考えています。

抄訳

Regnase-1 (Reg1)は、免疫細胞においてIL6などサイトカインのmRNAを分解することで炎症を制御するRNA分解酵素であるが、腸管上皮細胞にも生理的に発現しており、その意義は不明である。本研究では、大腸腫瘍においてReg1が果たす役割を明らかにすることを目的とした。大腸腫瘍モデルであるApcMin/+マウスで腸管上皮特異的にReg1を欠損させると(Reg1KO-Min)、大腸腫瘍が有意に増加・増大した。網羅的な遺伝子発現解析では、Reg1KO-Min の腫瘍組織でIL-17 signalingのkey mediatorであるNfkbizとその下流の分子の発現が上昇しており、さらに、Reg1KO-MinでNfkbizを欠損させると腫瘍が著明に減少・縮小することから、NfkbizがReg1の標的分子と考えられた。Reg1発現安定作用を有するDimethyl Fumarate (DMF)を投与すると、Reg1発現を有するApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)では大腸腫瘍がリン酸化ERKの発現低下を伴って有意に減少・縮小するものの、Reg1KO-MinではDMFの抗腫瘍効果が認められないことから、DMFはReg1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられた。ヒト大腸腫瘍組織を用いた検討でも、Reg1とNFKBIZの発現は逆相関することや、Reg1低発現症例群の予後が不良であることが分かった。以上より、Reg1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなった。Reg1は大腸腫瘍の新たな治療標的になりうると考えられる。

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2025/06/13

SARS-CoV-2への感染を規定するマウスACE2の因子の同定

論文タイトル
Determinants of susceptibility to SARS-CoV-2 infection in murine ACE2
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2への感染を規定するマウスACE2の因子の同定
DOI
10.1128/jvi.00543-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
福原 崇介 他
所属
九州大学大学院医学研究院 ウイルス学分野
著者からのひと言
 本論文は新型コロナウイルスの種指向性に関する論文です。新型コロナウイルスが出現した頃、マウスには感染性がなく、ハムスターが動物モデルとして広く用いられましたが、新型コロナウイルスがマウスに感染性を持たなかったことが偶然で、むしろ幅広い動物に感染性を示すということを明らかにしました。新型コロナウイルスに関するウイルス学的性状にはまだ不明な点は多く、今後も基礎ウイルス学的研究を推進してまいります。

抄訳

SARS-CoV-2は動物由来のウイルスであり、多様な動物種に感染します。そのため、動物に感染したウイルスが変異を蓄積し、新たなパンデミックを引き起こす可能性が懸念されます。しかし、SARS-CoV-2がどの動物に感染するか、宿主への感染性を規定する因子は詳しく明らかにされていません。本研究では、10種の動物の受容体と10種のSARS-CoV-2変異株を用いて、多くの動物がSARS-CoV-2感染を許容する一方、マウスだけが変異株によって感染感受性が異なることを明らかにしました。また、マウスの感染性を規定する宿主受容体とウイルススパイクタンパク質のアミノ酸を同定しました。これらを応用し、SARS-CoV-2がマウス近縁種に感染することを発見し、げっ歯類に広く感染する可能性を見出しました。本研究はSARS-CoV-2の宿主指向性の理解に繋がり、動物由来の変異株の監視に知見をもたらすことが期待されます。

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2025/06/12

イネの節間伸長におけるジベレリンの段階的不活性化

論文タイトル
Stepwise deactivation of gibberellins during rice internode elongation
論文タイトル(訳)
イネの節間伸長におけるジベレリンの段階的不活性化
DOI
10.1073/pnas.2415835122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.23
著者名(敬称略)
石田俊晃 増口潔 山口信次郎 他
所属
京都大学化学研究所農学研究科・応用生命科学専攻
著者からのひと言
イネにおいて成長ホルモンの「ジベレリン」は、2段階で働きが弱められることが分かりました。つまり、働きが弱いホルモンがまずできて、次にほとんど働かないホルモンに変換されます。働きが弱いホルモンは成長を微調整するために重要な役割を果たしていると考えられます。今回、ジベレリンの働きを弱める酵素の発見の起点となった草丈の高いイネは、病気に強く収量が多い「雑種のイネ」を作るために利用されています。ジベレリンによる草丈の調節は農業に重要なのです。

抄訳

植物ホルモンの一つであるジベレリン(GA)は、葉や茎の伸長や種子の発芽を促進するといった働きを持ち、「緑の革命」と呼ばれる農業革命に利用されるなど、農業にも非常に重要な植物ホルモンである。本研究では、イネにおいて最上位節間が徒長するeui2変異体の原因遺伝子がコードするEUI2タンパク質が、これまで不活性型GAだと考えられていたエポキシ型GAをさらに加水分解して、ジヒドロキシ型GAへと変換することを示した。また、イネの穂を用いた生理活性試験やGID1受容体との結合試験の結果から、ジヒドロキシ型GAはエポキシ型GAよりも、さらに活性が弱いGAであることが明らかとなった。すなわち、イネの最上位節間伸長の厳密な制御には、活性型GAからエポキシ型GAまでの不活性化では不十分であり、EUI2によるエポキシ型GAからジヒドロキシ型GAへのさらなる不活性化が重要な役割を果たしていることが示された。

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2025/06/10

Oxr1とNcoa7はV-ATPaseを制御することにより、ゴルジ体及びトランスゴルジネットワーク内腔のpHを維持し、タンパク質への糖鎖修飾の最適化に寄与する。

論文タイトル
Oxr1 and Ncoa7 regulate V-ATPase to achieve optimal pH for glycosylation within the Golgi apparatus and trans-Golgi network
論文タイトル(訳)
Oxr1とNcoa7はV-ATPaseを制御することにより、ゴルジ体及びトランスゴルジネットワーク内腔のpHを維持し、タンパク質への糖鎖修飾の最適化に寄与する。
DOI
10.1073/pnas.2505975122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.22
著者名(敬称略)
吉村 信一郎 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科細胞生物学

抄訳

 細胞内の様々な小器官(オルガネラ)内腔は、固有のpH 環境に維持されており、それが各オルガネラの機能に密接に関わる。本研究は、Oxr1とその相同分子であるNcoa7の同定と解析により、オルガネラ毎に異なるpH調節のメカニズムの一端を明らかにした。Oxr1とNcoa7は、活性型 Rab タンパク質によって、主にゴルジ体およびトランスゴルジネットワーク(TGN) 膜上にリクルートされる。精製タンパク質を用いた生化学実験では、Oxr1とNcoa7が液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)の触媒サブユニットに直接作用し、V-ATPaseの活性を阻害することが示された。Oxr1とNcoa7タンパク質の発現が低下した細胞では、ゴルジ体/TGN内腔が酸性化し、さらにそこでの主要な翻訳後修飾であるタンパク質への糖鎖付加が、部分的に阻害されていた。本結果はOxr1とNcoa7が、ゴルジ体/TGN 膜上のV-ATPase活性を抑制することでゴルジ体/TGN内腔の過度の酸性化を防ぎ、ゴルジ体/TGNでの酵素活性に最適な環境を提供することを示している。

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2025/06/09

グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索

論文タイトル
Exploring protein N-glycosylation in ammonia-oxidizing Nitrososphaerota archaea through glycoproteomic analysis
論文タイトル(訳)
グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索
DOI
10.1128/mbio.03859-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
中川 聡 他
所属
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 海洋環境微生物学分野
著者からのひと言
難培養微生物を対象とした糖鎖研究は、まだ始まったばかりの分野です。今後も、従来の常識にとらわれない微生物糖鎖の存在を明らかにすることで、微生物の生理生態や進化の理解に新たな視点を提供していきたいと考えています。

抄訳

アンモニア酸化アーキア(古細菌)は地球上に広く分布し、炭素や窒素循環、さらには地球温暖化などにおいて重要な役割を担っているが、培養困難であるため、研究は大きく遅れている。本微生物群は極めて低濃度のアンモニアに適応していることから、利用可能なアンモニアをすべてエネルギー源として効率よく利用し、亜硝酸へと変換していると考えられてきた。しかし本研究では、最先端の液体クロマトグラフィー‐タンデム質量分析法および核磁気共鳴法を用いた解析により、これらのアーキアの一種が、これまでに知られている中で最も窒素に富む糖鎖で細胞表面タンパク質を修飾していることを突き止めた。これは、糖鎖が窒素を貯蔵するという新たな機能を持つ可能性を示唆している。また、この糖鎖は、全真核生物や一部のアーキアと同様のコア構造を有していた。本研究は、アーキアおよび真核生物の進化の理解を深めるだけでなく、これらのアーキアにおける環境適応機構の理解にも貢献するものである。

 

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2025/06/05

季節性哺乳類シリアンハムスターにおけるアラルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)遺伝子の特異的破壊

論文タイトル
Targeted disruption of the aralkylamine N-acetyltransferase gene in a seasonal mammal, Mesocricetus auratus
論文タイトル(訳)
季節性哺乳類シリアンハムスターにおけるアラルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)遺伝子の特異的破壊
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf159
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 6, June 2025, pgaf159
著者名(敬称略)
川邉 順子 明石 真 他
所属
山口大学 時間学研究所
著者からのひと言
私たちが知る限り、哺乳類の季節適応に関する逆遺伝学的な研究報告は存在していません。したがって、本研究成果はその先駆けであると思っています。

抄訳

自然環境は年周変動しており、この周期性へ高度に適応できる生物は生存競争において有利です。とりわけ、冬の到来を予測して備えることは生物の生存に不可欠です。
この予測のために多くの生物は光周性を獲得しています。すなわち、この機能によって日長変化を感知し、季節に先んじて備えることができます。薬理学的および解剖学的実験により、日長感知は松果体ホルモン「メラトニン」が司ると考えられてきました。しかし、これらの手法には解釈上の限界があり、決定的な証拠が欠けたままでした。
そこで、私たちは、メラトニン合成律速酵素をコードするAANAT遺伝子を季節性哺乳類シリアンハムスターにおいてノックアウトしました。このハムスターを人工的な冬季環境(短日かつ寒冷)へ暴露すると、体温維持能力と冬眠成功率の低下が検出されました。また、これらの原因は褐色脂肪組織のリモデリング不全にあることが示唆され、さらに、光周性中枢の下垂体隆起部において日長応答性の低下が確認されました。
以上から、日長応答性が低下して生体リモデリングが遅れてしまった結果、寒冷適応に問題が生じたと結論付けられました。

 

 

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2025/06/04

ゼブラフィッシュ仔魚の神経筋接合部標本におけるシナプス小胞再利用過程のライブイメージング

論文タイトル
Live Imaging of Synaptic Vesicle Recycling in the Neuromuscular Junction of Dissected Larval Zebrafish
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ仔魚の神経筋接合部標本におけるシナプス小胞再利用過程のライブイメージング
DOI
10.3791/67633-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (216), e67633
著者名(敬称略)
江頭 良明 小野 富三人
所属
大阪医科薬科大学 医学部 生命科学講座 生理学教室
著者からのひと言
ゼブラフィッシュの仔魚は、様々な生理現象を生きた個体の中でリアルタイムに可視化する目的に適したモデル生物だと言えます。例えば、脳全体の神経細胞の活動を生体のまま観察することはすでに可能となっています。今回報告した手法は、より微小なシナプスの活動をとらえる技術です。論文では、魚の体幹部分を切り出した組織標本を使いましたが、将来的には、生きた魚のシナプス活動をリアルタイムにモニターすることができると考えています。

抄訳

神経細胞間のコミュニケーションであるシナプス伝達は、神経伝達物質を含むシナプス小胞が継続的に再利用される過程に依存している。この過程の解析法として、酸性環境にあるシナプス小胞内にpH感受性の蛍光タンパク質を遺伝学的に導入しイメージングする手法が広く利用されている。しかし、遺伝子の導入と光学的イメージングを必要とする技術的制約から、培養神経細胞での実験が多く、生体内や組織標本での利用はまだ限られている。ゼブラフィッシュは、遺伝学的操作が容易なうえ、仔魚は組織が透明であるため蛍光イメージングに適している。私たちのグループでは、シナプス伝達を可視化できる蛍光プローブを運動神経特異的に発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを作成している。本論文では、この魚の神経筋接合部標本を用いて、シナプス伝達をライブイメージングする方法を説明している。

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2025/06/02

腸管免疫シグナル伝達におけるプロバイオティクス由来の細胞外膜小胞の役割に関する最近の進展

論文タイトル
Recent advances in understanding the role of extracellular vesicles from probiotics in intestinal immunity signaling
論文タイトル(訳)
腸管免疫シグナル伝達におけるプロバイオティクス由来の細胞外膜小胞の役割に関する最近の進展
DOI
10.1042/BST20240150
ジャーナル名
Biochemical Society Transactions
巻号
Biochem Soc Trans (2025) 53 (02): 419–429
著者名(敬称略)
倉田淳志、上垣浩一
所属
近畿大学 農学部 応用生命化学科
著者からのひと言
本総説では、腸内細菌の中でもプロバイオティクスが放出する細胞外の膜小胞を対象に、その特徴と機能、宿主への影響と作用機序を整理して、これらの膜小胞の応用における課題を説明しました。プロバイオティクス由来の膜小胞について総合的に理解を深めることは、ポストバイオティクスとしてこれらの膜小胞を活用する、生体機能の新たな調節技術の開発につながります。

抄訳

一部の腸内細菌は、約20〜400 nmの膜小胞を細胞外に放出する。これらの膜小胞は、細菌の構成成分を受け手の宿主細胞へ運搬しており、多様な細胞応答を惹起する。近年、発酵食品で活用されている乳酸菌、ビフィズス菌、酢酸菌、納豆菌、酪酸産生菌などのプロバイオティクスが細胞外に放出する膜小胞について、物理化学的・生化学的な特性が報告されている。宿主に対する膜小胞の機能や作用機序の解明が、動物・組織・細胞・遺伝子・タンパク質・物質の各レベルで著しく進んでいる。さらにこれらの膜小胞の社会実装を目指して、ヒトや家畜での疾患の改善や既存の治療技術に対する膜小胞の活用について研究報告が増加している。一方、これらの膜小胞をポストバイオティクスとして応用することに関して懸念も提起されている。本総説では、腸管の免疫シグナル伝達を対象にプロバイオティクス由来の膜小胞が担う役割と、これらの膜小胞の応用に関連する課題について議論した。

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2025/05/29

植物根の内生菌は転写因子の発現により葉に感染する「炭疽病菌」となる
 

論文タイトル
A fungal transcription factor converts a beneficial root endophyte into an anthracnose leaf pathogen
論文タイトル(訳)
植物根の内生菌は転写因子の発現により葉に感染する「炭疽病菌」となる
DOI
10.1016/j.cub.2025.03.026
ジャーナル名
Current Biology
巻号
Current Biology Volume 35, Issue 9
著者名(敬称略)
氏松 蓮 晝間 敬 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

植物内生菌は宿主植物の生長を助けたり(共生)、あるいは病気を引き起こしたり(病原)と様々な生活様式を示します。しかしそうした生活様式がどのように制御されているかについてはほとんどわかっていません。今回、植物根に内生して多くの場合共生的にふるまう真菌Colletotrichum tofieldiaeが、「CtBOT6」遺伝子の発現レベルに依存して、共生性から強い病原性まで幅広い生活様式を連続的に示すことを発見しました。論文では、CtBOT6は転写制御因子として菌の二次代謝物生合成遺伝子クラスター「ABA-BOT」を正に制御すること、ABA-BOT由来代謝物の蓄積がゲノムワイドな遺伝子発現調節に関わることで本菌の病原性が発現する可能性が示されました。また、菌感染中の植物側の遺伝子発現解析から、菌の病原性の強さに依存して植物の応答が変化しており、こうした応答が最終的な生活様式に寄与していることが示唆されました。本研究で得られた知見は植物-微生物相互作用における共生性・病原性の連続的な制御機構の理解につながり、さらに、農業現場で共生菌を効果的に利活用する上で基礎的な知見となります。

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