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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2024/06/26

SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する

論文タイトル
Solo regulates the localization and activity of PDZ-RhoGEF for actin cytoskeletal remodeling in response to substrate stiffness
論文タイトル(訳)
SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する
DOI
10.1091/mbc.E23-11-0421
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 6
著者名(敬称略)
國富 葵 大橋 一正 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 分子細胞生物分野 大橋研究室

抄訳

細胞は機械刺激を感知すると、アクチン骨格を適切に再構築することで多様な力学的環境に適応する。我々はこれまで、機械刺激応答に関与するRhoGEF(低分子量Gタンパク質Rhoの活性化因子)としてSoloを見出し、その機能解析を進めてきた。今回、Soloの相互作用タンパク質を網羅的に探索し、同じRhoAのGEFであるPDZ-RhoGEF(PRG)を特定し、PRGがSoloの下流で働くことを明らかにした。PRGは、Solo依存的に細胞基底部のSolo集積箇所に局在が誘導され、Soloとの結合で直接GEF活性が活性化し、その結果、Solo集積箇所のアクチン重合が促進することが示された。さらに、この相互作用は細胞が接着する基質の硬さに応じたストレスファイバー形成を行うために必要であることを明らかにした。本研究により、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する新規のRhoGEFカスケードの存在が明らかになった。

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2024/06/25

前立腺摘除術または腎部分摘除術を受けた患者におけるセファゾリンの総濃度および遊離型濃度を用いた母集団薬物動態解析および至適投与方法の探索

論文タイトル
Population pharmacokinetics and pharmacodynamic target attainment analysis of cefazolin using total and unbound serum concentration in patients with prostatectomy or nephrectomy
論文タイトル(訳)
前立腺摘除術または腎部分摘除術を受けた患者におけるセファゾリンの総濃度および遊離型濃度を用いた母集団薬物動態解析および至適投与方法の探索
DOI
10.1128/aac.00267-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
小松 敏彰 他
所属
北里大学病院  薬剤部

抄訳

本研究は、周術期におけるセファゾリン(CEZ)の最適な投与方法を探ることを目的として、CEZの総濃度および遊離型濃度を用いて母集団薬物動態解析を行った。対象は、前立腺摘除術または腎部分摘除術を受け、CEZが投与された152名の患者とした。解析は、Langmuir型を仮定し、CEZの血中蛋白質との結合定数(Kd)および最大結合部位数(Bmax)を用いたprotein binding siteを含む2コンパートメントモデルで行った。至適投与方法の検討には、モンテカルロシミュレーション法を使用し、CEZの黄色ブドウ球菌に対するMIC90(0.5mg/L)および大腸菌に対するMIC50(1mg/L)を超える投与量とした。母集団薬物動態解析の結果、クリアランス(CL)の因子としてCLcrが、Bmaxの因子としてアルブミンが挙げられた。至適投与方法の検討の結果、腎機能が正常な患者では3時間毎、中程度の腎機能低下患者(CLcr:20-45mL/min)では6時間毎、高度の腎機能低下患者(CLcr≦20mL/min)では12時間毎の投与が望ましいことが明らかとなった。

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2024/06/24

3D-FIESTAを用いた嗅球測定のパーキンソン病と非典型パーキンソン症候群の鑑別における有用性

論文タイトル
Usefulness of Olfactory Bulb Measurement in 3D-FIESTA in Differentiating Parkinson Disease from Atypical Parkinsonism
論文タイトル(訳)
3D-FIESTAを用いた嗅球測定のパーキンソン病と非典型パーキンソン症候群の鑑別における有用性
DOI
10.3174/ajnr.A8275
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology June 2024
著者名(敬称略)
井手 智 他
所属
産業医科大学 放射線科学講座
著者からのひと言
この論文の新規性は、嗅球の面積計測が日常診療で遭遇するさまざまなパーキンソン症候群とパーキンソン病の鑑別に有用であること、さらに病初期においても鑑別が可能であることを示した点にある。嗅球面積測定は簡便な手法であり、3D-FIESTAは約2分で撮像が可能であるため、パーキンソニズムの精査におけるMRI検査に組み入れることができる。臨床的あるいは通常の画像診断でパーキンソン症候群との鑑別が難しい症例において、診断の一助となることが期待される。

抄訳

本研究はパーキンソン病(PD)で病初期から嗅覚障害を生じることに注目し、MRIによる嗅球萎縮の評価が非典型パーキンソン症候群(AP)との鑑別において有用であることを示した研究である。108名のPD、13名の皮質基底核症候群(CBS)、15名の多系統萎縮症(MSA)、17名の進行性核上性麻痺(PSP)、および39名の年齢を一致させた健常群を対象に、3D-FIESTAで嗅球面積の計測およびグループ間比較を行った。結果として、PDでは平均4.2 mm²で、健常群(6.6 mm²)、CBS(5.4 mm²)、MSA(6.5 mm²)、PSP(5.4 mm²)よりも有意に小さいことが判明した。さらに、本態性振戦などの非変性パーキンソン症候群との比較でも、PDでは嗅球面積が有意に小さかった。ROC解析で、嗅球面積の測定はPDとAPの鑑別において高い診断精度を示し、AUCは0.87、最適カットオフ値は5.1 mm²、偽陽性率は18%であった。発症から2年以内の症例でも、PDの嗅球面積はAPよりも有意に小さかった。本研究の結果から、3D-FIESTAによる嗅球面積の計測はPDとAPを区別するための有望な手法であることが示唆された。

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2024/06/24

CPRバクテリアにおけるrRNA遺伝子内挿入配列の網羅的解析と、これらの配列がコードするホーミングエンドヌクレアーゼの生化学的解析

論文タイトル
Comprehensive analysis of insertion sequences within rRNA genes of CPR bacteria and biochemical characterization of a homing endonuclease encoded by these sequences
論文タイトル(訳)
CPRバクテリアにおけるrRNA遺伝子内挿入配列の網羅的解析と、これらの配列がコードするホーミングエンドヌクレアーゼの生化学的解析
DOI
10.1128/jb.00074-24
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Ahead of Print
著者名(敬称略)
鶴巻 萌、金井 昭夫 他
所属
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 先端生命科学
著者からのひと言
CPR細菌はその細胞のサイズが極めて小さく、通常の細菌がトラップされる0.2 マイクロメートル孔のフィルターをすり抜けてしまうほどです。またゲノムサイズも、小さいものでは0.5 Mベースほどしかなく、おそらくは生きるための最小の遺伝子セットしか有していない種も多いと考えられます。この細菌群を解析することで、生命の起源に相応するような根源的な問題に何らかのヒントが得られるのではないかと期待しています。

抄訳

CPR (Candidate Phyla Radiation) は主に未培養の系統からなる細菌群である。この細菌のリボソームRNA (rRNA)遺伝子には多くの挿入配列 (IS)が存在することが知られていたが、ゲノム科学や進化上の理解は未だ限られている。本研究では、CPR細菌におけるrRNA ISの特徴を系統的に明らかにするために、まず、生命情報科学的なアプローチを用いた。65のCPR細菌の系統にわたる数百のrRNA遺伝子配列を解析した結果、ISは16S rRNA遺伝子の48%、23S rRNA遺伝子の82%に存在することを明らかにした。これは通常の細菌 (CPR以外の細菌)におけるISの頻度と比べて極めて高いことになる。ここで、CPR細菌が持つ半数以上のISはグループIイントロン様の構造を示したが、特定の16S rRNA遺伝子のISはグループIIイントロン様の特徴を示した。さらに、一部のISは、LAGLIDADGホーミングエンドヌクレアーゼをコードしており、我々は生化学実験を介して、そのエンドヌクレアーゼ活性がISの挿入部位のDNA配列を切断することを確認した。

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2024/06/21

チューブリングリシル化は外腕ダイニンに影響を与えることによって、繊毛の運動性を調節する

論文タイトル
Tubulin glycylation controls ciliary motility through modulation of outer-arm dyneins
論文タイトル(訳)
チューブリングリシル化は外腕ダイニンに影響を与えることによって、繊毛の運動性を調節する
DOI
10.1091/mbc.E24-04-0154
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 7
著者名(敬称略)
久保 智広 他
所属
山梨大学大学院 総合研究部 医学域基礎医学系 解剖学講座構造生物学教室
著者からのひと言
真核生物の微小管細胞骨格を構成するチューブリンは、様々な翻訳後修飾を受け多様性を獲得します。私たちは、クラミドモナスという2本の鞭毛(繊毛と同義)を持つ単細胞緑藻類を用い、チューブリン翻訳後修飾が鞭毛の運動にどのような意義を持つかをこれまで追究してきました。本研究はチューブリングリシル化が特に外腕ダイニンという軸糸ダイニンの一種に影響を及ぼし、鞭毛の運動性調節を担うことを明らかにしました。ご興味のある方は、ご一読頂けると幸いです。

抄訳

真核生物の微小管細胞骨格を構成するチューブリンは、グルタミン酸化やグリシル化などの翻訳後修飾を受ける。これらの翻訳後修飾が繊毛の機能に与える影響に関して、まだ多くのことが謎に包まれている。本研究では、クラミドモナスという単細胞緑藻類の変異株を用いて、チューブリングリシル化の意義を追究した。グリシル化はTubulin tyrosine ligase-like 3 (TTLL3)という酵素が担う。ゲノム編集によって、TTLL3をコードする遺伝子に変異を導入したttll3変異株を作製し、表現型を解析した。その結果、ttll3は完全にチューブリングリシル化を欠損し、その結果、遊泳速度が有意に低下することが分かった。また、ttll3変異を複数の軸糸ダイニン欠損変異と組み合わせ、遊泳速度と軸糸微小管の滑り速度を比較したところ、意外なことに、外腕ダイニン欠損株の運動性はグリシル化欠損の影響を受けないことが判明した。このことは、チューブリングリシル化が外腕ダイニンに影響を与え、鞭毛の運動性を調節していることを示唆する。

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2024/06/19

ハムスター精子はTauTを介してヒポタウリンを取り込むことにより、自身を保護する。

論文タイトル
Hamster spermatozoa incorporate hypotaurine via TauT for self-protection
論文タイトル(訳)
ハムスター精子はTauTを介してヒポタウリンを取り込むことにより、自身を保護する。
DOI
10.1530/REP-24-0022
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Accepted Manuscripts REP-24-0022
著者名(敬称略)
竹井 元 他
所属
獨協医科大学 医学部 薬理学講座
著者からのひと言
本研究結果では、ヒポタウリンは精子を保護したのに対しヒポタウリンよりも抗酸化力が高いアスコルビン酸は精子を保護しませんでした。これはアスコルビン酸を細胞内に取り込むトランスポーターを精子が持たないためだと考えられます。また近年の研究よりヒトの精子もTauTを保持していることが明らかとなっています。これらのことから、ヒポタウリンは新規不妊治療法の開発を考える上で有力なターゲットと成ると期待しています。

抄訳

ヒトも含めた哺乳類の精子は受精能獲得と総称される様々な生理学・生化学的な変化を経なければ卵と受精することができない。受精能獲得プロセス中の精子は自発的に活性酸素種(ROS)を産生する。精子は遺伝子を運ぶ細胞であり、遺伝子を損傷するROSから自らを保護する必要がある。本研究ではハムスターを用いて、卵管内に豊富に含まれる抗酸化物質ヒポタウリンとそのトランスポーターTauTに着目し、精子がROSから自身を保護する仕組みについて研究を行った。ヒポタウリンはハムスター精子の鞭毛運動を保護し、細胞内酸化ストレスを軽減した。またハムスター精子はTauTを保持し、ヒポタウリンを細胞内に取り込んでいた。さらにTauTを阻害すると細胞内へのヒポタウリンの取り込みが阻害され、細胞内酸化ストレスが上昇し鞭毛運動が阻害された。これらの結果から、ハムスター精子はTauTを介してヒポタウリンを取り込むことで自身を保護していることが明らかとなった。

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2024/06/14

ヒト胎盤JEG3細胞でのアロマターゼ遺伝子の転写はAP-2γのmRNA安定性によって調節される

論文タイトル
CYP19A1 Expression Is Controlled by mRNA Stability of the Upstream Transcription Factor AP-2ɤ in Placental JEG3 Cells
論文タイトル(訳)
ヒト胎盤JEG3細胞でのアロマターゼ遺伝子の転写はAP-2γのmRNA安定性によって調節される
DOI
10.1210/endocr/bqae055
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 165, Issue 6, June 2024, bqae055
著者名(敬称略)
琴村 直恵 石原 悟 他
所属
藤田医科大学 医学部 生化学講座

抄訳

ヒト胎盤細胞株JEG3細胞を、メチル化反応の汎用阻害薬3-デアザネプラノシン(DZNep)存在下で培養したところ、エストロゲン合成酵素アロマターゼをコードするCYP19A1遺伝子の転写上昇を見出した。同時に転写因子AP-2γのCYP19A1プロモーター領域への結合増加が観察されたので、胎盤でのCYP19A1遺伝子はAP-2γによって制御されることが明らかになった。興味深いことに、DZNepを添加しない培養下では、AP-2γをコードするTFAP2C遺伝子のプロモーター領域のクロマチン構造がオープン状態であるにもかかわらず、検出されるmRNA量は微量でそのmRNAにはN6-メチルアデノシンが多く見られた。そして、DZNep添加によってメチル化されていないmRNAが多量に観察されたことから、メチル化でTFAP2C mRNAの安定性が負に調節されることが示唆された。つまり、脱メチル化によるmRNA安定化がAP-2γ量を増加させ、CYP19A1遺伝子の転写量上昇を誘起したと考えられる。

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2024/06/06

注意欠如多動症と自閉スペクトラム症における共有と疾患特異的な神経基盤:243のfMRI研究のメタ解析

論文タイトル
Shared and Specific Neural Correlates of Attention Deficit Hyperactivity Disorder and Autism Spectrum Disorder: A Meta-Analysis of 243 Task-Based Functional MRI Studies
論文タイトル(訳)
注意欠如多動症と自閉スペクトラム症における共有と疾患特異的な神経基盤:243のfMRI研究のメタ解析
DOI
10.1176/appi.ajp.20230270
ジャーナル名
American Journal of Psychiatry
巻号
American Journal of Psychiatry VOL. 181 No. 6 (June 2024)
著者名(敬称略)
多門 裕貴 青木 悠太 他
所属
あおきクリニック
著者からのひと言
ASDとADHDはしばしば併存します。診断基準はASDとADHDでは全く異なるのですが、実臨床では当事者の方の困りがASDから来るのかADHDからくるのか判断がつかないこともしばしばあります。そのためASDとADHDが本当は同じ症候群なのか、あるいは全く別なものが偶然併発しやすいのかわかっていません。この論文はこのようなASD/ADHDの診断に関する議論を深めるものです。この論文に関するEditorialも出版されておりこの議論についてはeditorialにも詳しく書かれていますので併せて読んでいただけると幸いです。

抄訳

目的:
診断による心理課題の選択バイアスを回避した状況で、注意欠陥多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)に共通する脳活動および疾患特異的な脳活動を検討する。
方法:
発達障害当事者群と定型発達者の間で心理課題中の脳活動に有意差がある脳座標を抽出した。心理課題は研究領域基準に従ってグループ化され、認知コンポーネントのプロファイルが診断間でマッチするように層化抽出を行った。
結果:
ASDとADHDは、舌状回などで共通して高い脳活動を示し、中前頭回や島などの領域では共通して低い脳活動を示した。対照的に、左中側頭回と左中前頭回を含む領域ではそれぞれASDに特異的な高活動と低活動があり、扁桃体と淡蒼球ではそれぞれADHDに特異的な高活動と低活動が存在した。
結論:
疾患特異的な脳活動は共通の脳活動よりもより広範囲に及んだ。 ADHDとASD の脳活動の違いは、診断による心理課題の選択バイアスよりも、診断に関連した病態生理学を反映していると考えられた。

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2024/05/27

Acinetobacter baumannii の二成分制御系 PmrAB の環境応答因子および薬剤耐性化機構の解明

論文タイトル
PmrAB, the two-component system of Acinetobacter baumannii, controls the phosphoethanolamine modification of lipooligosaccharide in response to metal ions
論文タイトル(訳)
Acinetobacter baumannii の二成分制御系 PmrAB の環境応答因子および薬剤耐性化機構の解明
DOI
10.1128/jb.00435-23
ジャーナル名
Journal of Bacteriology
巻号
Journal of Bacteriology Vol. 206, No. 5
著者名(敬称略)
山田 倫暉 鴨志田 剛 他
所属
明治薬科大学 薬学部 感染制御学研究室
著者からのひと言
薬剤耐性 (AMR) 問題は,我々人類が直面している緊急の課題である.そのため,薬剤耐性に関する研究が盛んに行われており,多くの薬剤耐性因子が明らかになってきた.しかし,それら分子の本来の機能に関しては未解明な点が多い.本研究では,薬剤耐性を皮切りに,Acinetobacter baumannii の二成分制御系 PmrAB の本来の環境応答因子としての働きを明らかにすることに成功した.AMR 問題の根本的な解決には,これら分子の詳細な機能を分子生物学的に理解することが重要であると考えている.

抄訳

薬剤耐性 (AMR) 問題が,人類全体の問題になっている.コリスチンは,薬剤耐性グラム陰性菌に対する治療の最終手段として使用されている.しかし,薬剤耐性が問題となる Acinetobacter baumannii のコリスチン耐性株の出現が増加している.本菌のコリスチン耐性化は,主に二成分制御系 PmrAB の活性化変異によるリポ多糖 (LOS) の修飾である.本研究では,pmrAB 遺伝子の活性化型変異株を用いたトランスクリプトーム解析から,PmrAB の制御遺伝子群を特定した.さらに本菌の PmrAB が Fe2+,Zn2+,Al3+ の金属イオンに応答すること,センサーである PmrB の環境応答に必須な新たなアミノ酸領域を明らかにした.また,PmrAB は Al3+ などの金属イオンに反応し,LOS をホスホエタノールアミン修飾することで Al3+ 毒性の減少に寄与することも明らかにした.本研究では,A. baumanniiのPmrAB による薬剤耐性の詳細なメカニズムとその生物学的機能を包括的に解明することで,PmrAB の薬剤耐性因子としての機能のみならず,細菌の環境認識に関する機能を明らかにできた.

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2024/05/20

頭蓋底腫瘍に対するdistal balloon protection techniqueを用いた内頸動脈由来栄養動脈の塞栓術について

論文タイトル
Tumor Embolization via the Meningohypophyseal and Inferolateral Trunk in Patients with Skull Base Tumors Using the Distal Balloon Protection Technique
論文タイトル(訳)
頭蓋底腫瘍に対するdistal balloon protection techniqueを用いた内頸動脈由来栄養動脈の塞栓術について
DOI
10.3174/ajnr.A8169
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology May 2024, 45 (5) 618-625
著者名(敬称略)
山城 慧 他
所属
福岡大学 医学部 脳神経外科
(研究時所属:藤田医科大学 岡崎医療センター 脳神経外科)
著者からのひと言
頭蓋底腫瘍の多くは腫瘍摘出によって治療されますが、血流豊富な腫瘍では腫瘍摘出前に栄養動脈を塞栓することがあります。本論文では頭蓋底腫瘍に対する腫瘍塞栓術の中でも、特に塞栓が難しく合併症リスクの高い内頸動脈由来腫瘍栄養動脈の塞栓術に関する新しい手術方法について論じています。本論文の方法を用いることで、頭蓋底腫瘍における術前塞栓の適応が広がることが期待されます。

抄訳

【目的】頭蓋底腫瘍はしばしばmeningohypophyseal trunk (MHT)やinfelolateral trunk (ILT)由来の栄養血管を有しているが、通常これらの血管は強く蛇行しており、マイクロカテーテルの挿入が難しい。我々は以前より、MHTやILTに対してカテーテル挿入ができない場合でも対応できるようdistal balloon protection techniqueを用いて腫瘍塞栓術を行ってきた。本研究ではその有効性と合併症リスクについて報告する。
【方法】2010年から2023年の間に藤田医科大学で頭蓋底腫瘍に対してdistal balloon protection techniqueを用いてMHTまたはILTの術前塞栓術を行った患者を対象とした。この手技では、眼動脈分岐部でバルーンを用いて内頸動脈を一時的に閉塞させた上でマイクロカテーテルをMHTまたはILT近傍まで誘導して塞栓粒子を対象血管に向けて注入し、内頸動脈に逆流した塞栓粒子を吸引した後に内頸動脈遮断を解除した。
【結果】21回の手術で合計25本のMHTとILTが塞栓された。これら25本の動脈のうちマイクロカテーテルが挿入できたのは9本(36.0%)のみであったが、全例(100%)で効果的な塞栓が確認された。永続的合併症は1例(4.8%)のみで、ILT塞栓例で網膜中心動脈が閉塞し視野欠損が生じた。塞栓性脳梗塞に起因する永続的合併症は観察されなかった。
【結論】Distal balloon protection techniqueを用いることで対象血管にカテーテルを挿入しなくても十分な塞栓効果が得られ、本法はMHTやILTにカテーテルが挿入できない場合のsalvage techniqueとして有用と考えられる。 

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